戻る  前へ  次へ

3 現行制度に至る改革

 (1) 現行制度に至る改革前の問題点
 失業給付、公的扶助等の受給者の増加
 失業保険及び公的扶助制度等の整備は、多くの国において受給者の増加を招いた。アメリカでは、1984年から1994年までの10年間に、要扶養児童家庭扶助(貧困家庭一時扶助制度の前身の制度)の受給者数は29%増加していた。ドイツにおいても、東西統一による旧東ドイツ地域に対する支援の側面はあったにしても、1990年代には毎年10%の割合で公的扶助制度の歳出が増大していた。また、失業給付についても、例えばイギリスではサッチャー首相による市場重視の改革によって失業者数が増大し、1979年から1986年の間に受給者数が3倍近くに増加した。スウェーデンにおいても、景気の落ち込みによって失業給付受給者は1990年から1993年にかけて5倍近く増加した。
 その他の問題
 各国において高齢化が進展することが予測される中で、働ける人が働かないのは社会的にも経済的にも損失であるという問題が指摘されるようになってきた。

 (2) 失業保険、公的扶助制度等の改革
 趣旨
 各種の給付受給者の就労を促進するための改革が多くの国において行われた。これらの改革は、就労可能な者についてはできる限り早く就労が可能となるよう、職業訓練への参加を要請したり、求職活動を支援し、給付を真に必要な者に限定するという共通点がある。イギリスなどでは「福祉から就労へ(Welfare to Work)」政策と呼ばれている。
 改革の内容
 失業給付受給者の就労促進
 各国とも、失業給付受給者の就労促進施策を積極的に進めている。例えば、イギリスは、求職者手当受給者に職業訓練への参加等を義務づける等のニューディール政策によって、その就労促進を図っている。フランスにおいては、2001年の失業保険制度の改革によって、失業給付を受給するためには、雇用復帰援助プラン(就職斡旋及び職業訓練等を含む就労促進措置。失業者ごとに個別計画を策定)への参加が義務づけられるようになった。また、デンマークにおいては、失業給付の受給期間の短縮、2年以上受給する場合のその者に対する職業訓練への参加の義務付け等が行われた。
 公的扶助受給者の就労促進
 公的扶助受給者に対する就労促進施策も積極的に行われている。例えば、アメリカの貧困家庭一時扶助制度は、生涯の給付期間に上限を設けるとともに、給付開始から24ヵ月以内に就労活動(民間での就労、就労体験等)を行うことを受給者に求めている。ドイツの社会扶助においては、就労扶助という形で、就労能力のある受給者に対し、その就労困難性の度合いに応じて、就労準備活動(就労に慣れるためのプログラムへの参加等)から助成金付き就職までのいくつかの選択肢を用意し、受給者にいずれかの活動に参加することを要請し、一定の成果を挙げている。
 改革の特徴
 これらの改革は、必ずしも給付の削減という面のみを有しているわけではない。援助が必要な者に対してはこれを提供していく配慮もなされている。例えばアメリカにおいては、貧困家庭一時扶助の給付期間を生涯で最大5年間とする制度改正が行われたが、同時に連邦から州への補助金の基本額を、この制度の前身である要扶養児童家庭扶助に対する補助金の最も高かった額を基準に算定するなどの配慮を行っている。また、他の種々の公的扶助制度が活用されることを前提に制度改正が行われている。したがって、貧困家庭一時扶助の受給期間終了後も、他の公的扶助を受給することはできる。デンマークにおいても、将来現金援助金の支給水準を引き下げることとしているが、家族のある者については、引下げ幅に限度を設けることとしている。
 改革の成果と問題点
 成果
 改革は、一般的には良好な経済情勢も反映して、失業者の減少、公的扶助受給者の減少という観点から、一定の成功を収めたと考えられる。例えば、失業率についてみれば、イギリスではニューディール政策開始直前の1997年に6.5%であったものが2001年には5.1%に低下し、デンマークでは大規模な労働市場改革直前の1993年に10.2%であったものが2001年には4.3%に低下した。
 また、アメリカ、デンマークのように公的扶助受給者が減少した国もある。
 問題点
 一方、いくつかの疑問も指摘されている。例えば、改革により、真に給付が必要な者が排除されることにならないかという問題や真に必要な支援が行われているかという問題である。この点については、複数の国の担当者が以下のような指摘をしている。例えば、アメリカの貧困家庭一時扶助については、「連邦政府は、多くの対象者がまず基礎的な能力を向上させる必要があることを考慮していない。」との指摘があり、デンマークにおいては、「麻薬、アルコール中毒患者、低学力者、基本的生活習慣のできていない者等については、求職活動の前に、麻薬・アルコール中毒からの脱却、読み書き能力の向上、約束の時間を厳守する習慣を身につけさせる等なすべきことがある。就労を前提として国が画一的に定めた枠組での対応のみでうまく社会に統合していけるのか。」との指摘がある。
 また、失業給付の受給者と公的扶助の受給者の就労を効率的に促進するためには、公共職業安定機関と公的扶助実施機関の更なる連携が必要なのではないかという指摘がある。


トップへ
戻る  前へ  次へ