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まえがき

 「厚生労働省 海外情勢報告(厚生労働省・海外情勢白書)」は、諸外国の労働情勢及び社会保障の情勢全般に関する情報を整理・分析し、広く提供することを目的として、各国の(1)経済及び雇用失業情勢、(2)賃金・労働時間等の状況、(3)労使関係の動向、(4)社会保障の動向等について、厚生労働者においてとりまとめ公表するものとしたものです。
 本年の「2001〜2002年厚生労働省 海外情勢報告(厚生労働省・海外情勢白書)」では、主要諸国の2001年から2002年初頭にかけての労働及び社会保障情勢全般の情報を第1部においてとりまとめました。また、第2部では、アジア諸国の労使関係と労使紛争処理についてとりまとめました。

 主要諸国における2001年の雇用情勢は、2001年後半以降の世界経済の減速があったにもかかわらず、雇用政策の積極的な取り組みもあって、イギリス、ドイツ、フランス等では失業率が改善しました。アメリカでは2000年後半からの景気減速が2001年9月の同時多発テロにより、マイナス成長に転じ、雇用情勢も悪化しました。
 アジア諸国においては、世界経済が減速したことから全体的に景気は減速しましたが、シンガポール、マレイシア等で景気が後退局面に移行しました。雇用情勢も悪化した国が多かった一方、韓国については、景気の減速にもかかわらず、政府の景気対策の効果もあって失業率は改善しました。

 近年、中国、韓国をはじめとしたアジア諸国の発展はめざましいものがあります。韓国はOECDに加盟し、一方中国は毎年高い成長を続けており、WTOに加盟することになりました。東南アジア地域においては、アジア通貨危機により深刻な影響を受けたものの、なお経済は成長基調にあります。すなわち、シンガポールはその経済水準の高さにより東南アジアのセンターとなり、マレイシアは2020年までに先進国の仲間入りをすることを目指し着実に成長を続けています。また、同地域においてはASEAN自由貿易地域(AFTA)の構想が着実に進展しております。ASEAN自由貿易地域は、ASEANの競争力の強化及び域内経済の一層の活性化を目的として、域内の関税障壁及び非関税障壁の除去等による域内貿易の自由化を図るものでありますが、2002年中を目途として、シンガポール、マレイシア、タイ、インドネシア、フィリピン及びブルネイの6カ国の域内において、最終関税率を0〜5%とすることが予定されております。
 このようなアジアの成長及び一体化を背景に、日本企業のアジア各国への進出も進んでいます。特にここ数年この傾向は一層強まり、大企業のみならず、中小企業においても広く見られる動きとなっています。この際、最も重要なことは、労使が良好なパートナーシップを築くことであります。問題の発生を未然に防ぎ、良好な労使関係を築くことができれば、それは良いモデルとなり、独り日系企業のみならず、日本全体がアジア各国から信頼され、ひいては相互の大きな利益となります。
 また近年は、アジア各国の民主化や政権交代に伴う労使関係の変化並びにAFTA構想の具体化及び中国のWTO加盟を背景に、アジア諸国間又はこれを超えた日系企業の拠点の移転及び集約の動きもみられ、これに伴い労使紛争発生の危険性が高まることが懸念されます。
 このような観点から、今年は本報告第2部において、アジア各国の労使関係及び労使紛争調整関連制度について取り上げることとし、各国別に制度及び実態について、できうる限り共通のフレームワークを用いて、その概略について記述することとしました。(なお、各国の日系企業の労使関係の状況については、日本労働研究機構(JIL)の報告(「海外労働時報」2002年8月号)を参照下さい。)
 本報告が、発展著しいアジア各国における労使関係のあり方について有益な情報を提供し、もってアジア全般における日系企業での良好な労使関係の形成の一助となれば幸いであります。

厚生労働省大臣官房総括審議官
長谷川 真一


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