アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○医療機関における院内感染対策について

(平成26年12月19日)

(医政地発1219第1号)

(各都道府県・各政令市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)

(公印省略)

院内感染対策については、「◆医療機関等における院内感染対策について◆」(平成23年6月17日医政指発0617第1号厚生労働省医政局指導課長通知。以下「0617第1号課長通知」という。)、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の一部の施行について」(平成19年3月30日医政発第0330010号厚生労働省医政局長通知)、「薬剤耐性菌による院内感染対策の徹底及び発生後の対応について」(平成19年10月30日医政総発第1030001号・医政指発第1030002号)等を参考に貴管下医療機関に対する指導方お願いしているところである。

医療機関内での感染症アウトブレイクへの対応については、平時からの感染予防、早期発見の体制整備及びアウトブレイクが生じた場合又はアウトブレイクを疑う場合の早期対応が重要となる。今般、第11回院内感染対策中央会議(平成26年8月28日開催)において、薬剤耐性遺伝子がプラスミドを介して複数の菌種間で伝播し、これらの共通する薬剤耐性遺伝子を持った細菌による院内感染のアウトブレイクが医療機関内で起こる事例が報告された。また、このような事例を把握するために医療機関が注意するべき点や、高度な検査を支援するための体制について議論された。これらの議論を踏まえ、医療機関における院内感染対策の留意事項を別記のとおり取りまとめた。この中では、アウトブレイクの定義を定めるとともに、各医療機関が個別のデータを基にアウトブレイクを把握し、対策を取ることを望ましいとしている。また、保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所及び中核医療機関の求められる役割についても定めている。貴職におかれては、別記の内容について御了知の上、貴管下医療機関に対する周知及び院内感染対策の徹底について指導方よろしくお願いする。

また、地方自治体等の管下医療機関による院内感染対策支援ネットワークの在り方等に関しては、「院内感染対策中央会議提言について」(平成23年2月8日厚生労働省医政局指導課事務連絡)を参考にされたい。

なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に規定する技術的助言であることを申し添える。

追って、0617第1号課長通知は廃止する。

(別記)

医療機関における院内感染対策に関する留意事項

はじめに

院内感染とは、①医療機関において患者が原疾患とは別に新たにり患した感染症、②医療従事者等が医療機関内において感染した感染症のことであり、昨今、関連学会においては、病院感染(hospital-acquired infection)や医療関連感染(healthcare-associated infection)という表現も広く使用されている。

院内感染は、人から人へ直接、又は医療従事者、医療機器、環境等を媒介して発生する。特に、免疫力の低下した患者、未熟児、高齢者等の易感染患者は、通常の病原微生物のみならず、感染力の弱い微生物によっても院内感染を起こす可能性がある。

このため、院内感染対策については、個々の医療従事者ごとの判断に委ねるのではなく、医療機関全体として対策に取り組むことが必要である。

また、地域の医療機関でネットワークを構築し、院内感染発生時にも各医療機関が適切に対応できるよう相互に支援する体制の構築も求められる。

1.院内感染対策の体制について

1―1.感染制御の組織化

(1) 病院長等の医療機関の管理者が積極的に感染制御にかかわるとともに、診療部門、看護部門、薬剤部門、臨床検査部門、洗浄・滅菌消毒部門、給食部門、事務部門等の各部門を代表する職員により構成される「院内感染対策委員会」を設け、院内感染に関する技術的事項等を検討するとともに、雇用形態にかかわらず全ての職員に対する組織的な対応方針の指示、教育等を行うこと。

(2) 医療機関内の各部署から院内感染に関する情報が院内感染対策委員会に報告され、院内感染対策委員会から状況に応じた対応策が現場に迅速に還元される体制を整備すること。

(3) 院内全体で活用できる総合的な院内感染対策マニュアルを整備し、また、必要に応じて部門ごとにそれぞれ特有の対策を盛り込んだマニュアルを整備すること。これらのマニュアルについては、最新の科学的根拠や院内体制の実態に基づき、適時見直しを行うこと。

(4) 検体からの薬剤耐性菌の検出情報、薬剤感受性情報など、院内感染対策に重要な情報が臨床検査部門から診療部門へ迅速に伝達されるよう、院内部門間の感染症情報の共有体制を確立すること。

(5) 1―2に定める感染制御チームを設置する場合には、医療機関の管理者は、感染制御チームが円滑に活動できるよう、感染制御チームの院内での位置付け及び役割を明確化し、医療機関内の全ての関係者の理解及び協力が得られる環境を整えること。

1―2.感染制御チーム Infection Control Team (ICT)

(1) 病床規模の大きい医療機関(目安として病床が300床以上)においては、医師、看護師、薬剤師及び検査技師からなる感染制御チームを設置し、定期的に病棟ラウンド(感染制御チームによって医療機関内全体をくまなく、又は必要な部署を巡回し、必要に応じてそれぞれの部署に対して指導・介入等を行うことをいう。)を行うこと。病棟ラウンドについては、可能な限り1週間に1度以上の頻度で感染制御チームのうち少なくとも2名以上の参加の上で行うことが望ましいこと。

病棟ラウンドに当たっては、臨床検査室からの報告等を活用して感染症患者の発生状況等を点検するとともに、各種の予防策の実施状況やその効果等を定期的に評価し、各病棟における感染制御担当者の活用等により臨床現場への適切な支援を行うこと。

複数の職種によるチームでの病棟ラウンドが困難な中小規模の医療機関(目安として病床が300床未満)については、必要に応じて地域の専門家等に相談できる体制を整備すること。

(2) 感染制御チームは、医療機関内の抗菌薬の使用状況を把握し、必要に応じて指導・介入を行うこと。

2.基本となる院内感染対策について

2―1.標準予防策及び感染経路別予防策

(1) 感染防止の基本として、例えば手袋・マスク・ガウン等の個人防護具を、感染性物質に接する可能性に応じて適切に配備し、医療従事者にその使用法を正しく周知した上で、標準予防策(全ての患者に対して感染予防策のために行う予防策のことを指し、手洗い、手袋・マスクの着用等が含まれる。)を実施するとともに、必要に応じて院内部門、対象患者、対象病原微生物等の特性に対応した感染経路別予防策(空気予防策、飛沫予防策及び接触予防策)を実施すること。また、易感染患者を防御する環境整備に努めること。

(2) 近年の知見によると、集中治療室などの清潔領域への入室に際して、履物交換と個人防護具着用を一律に常時実施することとしても、感染防止効果が認められないことから、院内感染防止を目的としては必ずしも実施する必要はないこと。

2―2.手指衛生

(1) 手洗い及び手指消毒のための設備・備品等を整備するとともに、患者処置の前後には必ず手指衛生を行うこと。

(2) 速乾性擦式消毒薬(アルコール製剤等)による手指衛生を実施していても、アルコールに抵抗性のある微生物も存在することから、必要に応じて石けん及び水道水による手洗いを実施すること。

(3) 手術時手洗い(手指衛生)の方法としては、①石けん及び水道水による素洗いの後、水分を十分に拭き取ってから、持続殺菌効果のある速乾性擦式消毒薬(アルコール製剤等)により擦式消毒を行う方法又は②手術時手洗い用の外用消毒薬(クロルヘキシジン・スクラブ製剤、ポビドンヨード・スクラブ製剤等)及び水道水により手洗いを行う方法を基本とすること。②の方法においても、最後にアルコール製剤等による擦式消毒を併用することが望ましいこと。

2―3.職業感染防止

(1) 注射針を使用する際、針刺しによる医療従事者等への感染を防止するため、使用済みの注射針に再びキャップするいわゆる「リキャップ」を原則として禁止し、注射針専用の廃棄容器等を適切に配置するとともに、診療の状況など必要に応じて針刺しの防止に配慮した安全器材の活用を検討するなど、医療従事者等を対象とした適切な感染予防対策を講じること。

2―4.環境整備及び環境微生物調査

(1) 空調設備、給湯設備など、院内感染対策に有用な設備を適切に整備するとともに、院内の清掃等を行い、院内の環境管理を適切に行うこと。

(2) 環境整備の基本は清掃であるが、その際、一律に広範囲の環境消毒を行わないこと。血液又は体液による汚染がある場合は、汚染局所の清拭除去及び消毒を基本とすること。

(3) ドアノブ、ベッド柵など、医療従事者、患者等が頻繁に接触する箇所については、定期的に清拭し、必要に応じてアルコール消毒等を行うこと。

(4) 多剤耐性菌感染患者が使用した病室等において消毒薬による環境消毒が必要となる場合には、生体に対する毒性等がないように配慮すること。消毒薬の噴霧、散布又は薫(くん)蒸、紫外線照射等については、効果及び作業者の安全に関する科学的根拠並びに想定される院内感染のリスクに応じて、慎重に判断すること。

(5) 近年の知見によると、粘着マット及び薬液浸漬マットについては、感染防止効果が認められないことから、原則として、院内感染防止の目的としては使用しないこと。

(6) 近年の知見によると、定期的な環境微生物検査については、必ずしも施設の清潔度の指標とは相関しないことから、一律に実施するのではなく、例えば院内感染経路を疫学的に把握する際に行うなど、必要な場合に限定して実施すること。

2―5.医療機器の洗浄、消毒又は滅菌

(1) 医療機器を安全に管理し、適切な洗浄、消毒又は滅菌を行うとともに、消毒薬や滅菌用ガスが生体に有害な影響を与えないよう十分に配慮すること。

(2) 医療機器を介した感染事例が報告されていることから、以下に定める手順を遵守できるよう、各医療機関の体制を整備すること。使用済みの医療機器は、消毒又は滅菌に先立ち、洗浄を十分行うことが必要であるが、その方法としては、現場での一次洗浄は極力行わずに、可能な限り中央部門で一括して十分な洗浄を行うこと。中央部門で行う際は、密閉搬送し、汚染拡散を防止すること。また、洗浄及び消毒又は滅菌の手順に関しては、少なくとも関連学会の策定するガイドライン、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則(平成10年省令第99号)第14条の規定に基づく方法による消毒の実施のために作成された『消毒と滅菌のガイドライン』等を可能な限り遵守すること。

2―6.手術及び感染防止

(1) 手術室については、空調設備により周辺の各室に対して陽圧を維持し、清浄な空気を供給するとともに、清掃が容易にできる構造とすること。

(2) 手術室内を清浄化することを目的とした、消毒薬を使用した広範囲の床消毒については、日常的に行う必要はないこと。

2―7.新生児集中治療部門での対応

(1) 保育器の日常的な消毒は必ずしも必要ではないが、消毒薬を使用した場合には、その残留毒性に十分注意を払うこと。患児の収容中は、決して保育器内の消毒を行わないこと。

(2) 新生児集中治療管理室においては、特に未熟児などの易感染状態の患児を取り扱うことが多いことから、カテーテル等の器材を介した院内感染防止に留意し、気道吸引や創傷処置においても適切な無菌操作に努めること。

2―8.感染性廃棄物の処理

(1) 感染性廃棄物の処理については、『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』(平成21年5月11日環廃産発第090511001号環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長通知による)に掲げられた基準を遵守し、適切な方法で取り扱うこと。

2―9.医療機関間の連携について

(1) 3―1に定めるアウトブレイク及び3―3に定める介入基準に該当する緊急時に地域の医療機関同士が連携し、各医療機関に対して支援がなされるよう、医療機関相互のネットワークを構築し、日常的な相互の協力関係を築くこと。

(2) 地域のネットワークの拠点医療機関として、大学病院、国立病院機構傘下の医療機関、公立病院などの地域における中核医療機関、又は学会指定医療機関が中心的な役割を担うことが望ましいこと。

2―10.地方自治体の役割

(1) 地方自治体はそれぞれの地域の実状に合わせて、保健所及び地方衛生研究所を含めた地域における院内感染対策のためのネットワークを整備し、積極的に支援すること。

(2) 地方衛生研究所等において適切に院内感染起因微生物を検査できるよう、体制を充実強化すること。

3.アウトブレイクの考え方と対応について

3―1.アウトブレイクの定義

(1) 院内感染のアウトブレイク(原因微生物が多剤耐性菌によるものを想定。以下同じ。)とは、一定期間内に、同一病棟や同一医療機関といった一定の場所で発生した院内感染の集積が通常よりも高い状態のことであること。各医療機関は、疫学的にアウトブレイクを把握できるよう、日常的に菌種ごと及び下記に述べるカルバペネム耐性などの特定の薬剤耐性を示す細菌科ごとのサーベイランスを実施することが望ましいこと。また、各医療機関は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)等の全国的なサーベイランスデータと比較し、自施設での多剤耐性菌の分離や多剤耐性菌による感染症の発生が特に他施設に比べて頻繁となっていないかを、日常的に把握するように努めることが望ましいこと。

3―2.アウトブレイク時の対応

(1) 同一医療機関内又は同一病棟内で同一菌種の細菌又は共通する薬剤耐性遺伝子を含有するプラスミドを有すると考えられる細菌による感染症の集積が見られ、疫学的にアウトブレイクと判断した場合には、当該医療機関は院内感染対策委員会又は感染制御チームによる会議を開催し、速やかに必要な疫学的調査を開始するとともに、厳重な感染対策を実施すること。この疫学的調査の開始及び感染対策の実施は、アウトブレイクの把握から1週間を超えないことが望ましいこと。

(2) プラスミドとは、染色体DNAとは別に菌体内に存在する環状DNAのことである。プラスミドは、しばしば薬剤耐性遺伝子を持っており、接合伝達により他の菌種を含む別の細菌に取り込まれて薬剤に感性だった細菌を耐性化させることがある。

3―3.介入基準の考え方及び対応

(1) アウトブレイクについては、各医療機関が3―1の定義に沿って独自に判断し、遅滞なく必要な対応を行うことが望ましいが、以下の基準を満たす場合には、アウトブレイクの判断にかかわらず、アウトブレイク時の対応に準じて院内感染対策を実施すること。この基準としては、1例目の発見から4週間以内に、同一病棟において新規に同一菌種による感染症の発病症例が計3例以上特定された場合又は同一医療機関内で同一菌株と思われる感染症の発病症例(抗菌薬感受性パターンが類似した症例等)が計3例以上特定された場合を基本とすること。ただし、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)及び多剤耐性アシネトバクター属の5種類の多剤耐性菌については、保菌も含めて1例目の発見をもって、アウトブレイクに準じて厳重な感染対策を実施すること。なお、CREの定義については、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)の定めに準拠するものとすること。

(2) アウトブレイクに対する感染対策を実施した後、新たな感染症の発病症例(上記の5種類の多剤耐性菌は保菌者を含む。)を認めた場合には、院内感染対策に不備がある可能性があると判断し、速やかに通常時から協力関係にある地域のネットワークに参加する医療機関の専門家に感染拡大の防止に向けた支援を依頼すること。

(3) 医療機関内での院内感染対策を実施した後、同一医療機関内で同一菌種の細菌又は共通する薬剤耐性遺伝子を含有するプラスミドを有すると考えられる細菌による感染症の発病症例(上記の5種類の多剤耐性菌は保菌者を含む。)が多数に上る場合(目安として1事例につき10名以上となった場合)又は当該院内感染事案との因果関係が否定できない死亡者が確認された場合には、管轄する保健所に速やかに報告すること。また、このような場合に至らない時点においても、医療機関の判断の下、必要に応じて保健所に報告又は相談することが望ましいこと。

(4) なお、腸内細菌科細菌では同一医療機関内でカルバペネム耐性遺伝子がプラスミドを介して複数の菌種に伝播することがある。しかし、薬剤耐性遺伝子検査を行うことが可能な医療機関は限られることから、各医療機関は、カルバペネム系薬剤又は広域β―ラクタム系薬剤に耐性の腸内細菌科細菌が複数分離されている場合には、菌種が異なっていてもCREの可能性を考慮することが望ましいこと。また、本通知に定める保健所への報告とは別に、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、薬剤耐性アシネトバクター感染症及びカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症については、感染症法の定めるところにより、届出を行わなければならないこと。

3―4.報告を受けた保健所等の対応

(1) 医療機関から院内感染事案に関する報告又は相談を受けた保健所は、当該医療機関の対応が、事案発生当初の計画どおりに実施されて効果を上げているか、また、地域のネットワークに参加する医療機関の専門家による支援が順調に進められているか、一定期間、定期的に確認し、必要に応じて指導及び助言を行うこと。その際、医療機関の専門家の判断も参考にすることが望ましいこと。

(2) 保健所は、医療機関からの報告又は相談を受けた後、都道府県、政令市等と緊密に連携をとること。とりわけ、院内感染の把握に当たり、薬剤耐性遺伝子に関する検査や複数の菌株の遺伝的同一性を確認するための検査が必要と考えられるものの、各医療機関が独自に行うことが技術的に困難である場合には、地方衛生研究所がこれらの検査において中心的な役割を担うことが望ましいこと。ただし、地方衛生研究所は、それぞれの地域の実状に合わせて、国立感染症研究所などの研究機関に相談することも含め、保健所の助言を得つつ調整することが望ましいこと。また、これらの検査においては、大学病院などの中核医療機関の役割は、保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所などの行政機関・研究所の役割に対して補完的なものであるが、それぞれの地域の実状に合わせて柔軟に判断されることが望ましいこと。