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○妊産婦,乳児および幼児に対する歯科健康診査及び保健指導の実施について

(平成9年3月31日)

(/児発第231号/健政発第301号/)

(各都道府県知事・各保健所を設置する市の市長・各特別区区長あて厚生省児童家庭局長・厚生省健康政策局長通知)

地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律(平成6年法律第84号)の公布に伴う,母子保健法(昭和40年法律第141号)の一部改正にあわせ,今般,母性及び乳幼児を取り巻く環境の変化を勘案して,別添のとおり「母子歯科健康診査および保健指導に関する実施要領」を定め,平成9年4月1日より適用することとしたので,適切かつ効果的に歯科健康診査及び保健指導を推進されたく通知する。

なお,本通知の施行に伴い,昭和36年7月26日医発第595号医務局長通知「3歳児歯科保健指導要領」(平成2年8月14日一部改正:健政発第499号)及び昭和39年6月29日医発第792号医務局長通知「母子歯科保健指導の実施について」は,廃止するものとする。

母子歯科健康診査および保健指導に関する実施要領

Ⅰ 母子歯科保健の意義

近年,我が国においては少子化や核家族化の進行など母子をとりまく環境は,著しく変化しており,これに伴って,従来よりも多様な母子保健ニーズが生じており,健全な生活習慣の確立を図り,健やかな子育てを支援するなどのきめ細かな対応が求められている。

母子歯科保健の立場からは,すでに健康診査を通じてう蝕などの歯科疾患の早期発見,予防処置および保健指導等の個別対応とともに発症リスクの高い集団への継続的な管理や指導を行うなど母子の口腔の健康の保持増進を目指してきたところである。最近,口腔は単なる消化器官として食物摂取によるだけでなく,感覚器官の一つとして大きな役割を果していることが分かってきた。具体的には妊産婦の口腔内環境を整えることで心身の安定に,乳幼児にあっては乳歯等の口腔諸器官を健全に育成し,その機能を維持向上することで成長・発達にそれぞれ大きく寄与しているのである。以上のことから母子歯科保健活動は妊産婦・乳幼児の心身両面からの健康増進を図る上でも大きな意義を持つばかりか,8020運動推進の観点からも生涯を通じた歯の健康づくりを人生の出発点である胎児期および乳幼児期からスタートさせることは意義深く,かつ合理的である。

今般,地域保健対策強化のための関係法律の整備に関する法律の制定に伴う母子保健法の一部改正によって,1歳6か月児歯科健康診査に続き,3歳児歯科健康診査についても市町村で行われることとなり,母子歯科保健の主要事業が一貫して行われる体制が整ったことから,妊産婦・乳幼児歯科健康診査と相まって,新たな観点を踏まえた事業の一層の充実に期待するものである。

Ⅱ 歯科健康診査および保健指導要領

第1 総則

1 母子歯科保健は,乳児から学齢期前までの幼児に加え,成人たる妊産婦をも対象としていることから,母子保健以外の地域保健,学校保健,職域保健等の施策とも連携して推進すること。

2 乳幼児にあっては,歯の萌出から咀嚼機能の発達へとつながる重要な時期であり,母親を中心とした養育者が育児の一環として歯科保健の保持増進に継続的に努めることができるように配慮すること。

3 妊産婦にあっては,適切な栄養摂取が胎児期からの歯科保健の出発点であることを認識させ,乳幼児期への歯科保健向上につなげていくとともに,妊娠・産褥期を通じて妊産婦自ら歯科保健への意欲をもつこととなるよう配慮すること。

4 歯科保健向上のため,歯科医師,歯科衛生士だけでなく,広く母性や小児保健関係者と相互に連携した積極的な協力態勢がとれるように努め,各方面から総合的な取り組みが行われるよう配慮すること。

第2 妊産婦歯科健康診査

1 方針

(1) 妊娠自体が歯科保健にとって危険因子であるという認識を前提とする。

(2) 母性は身体的だけでなく,心理的,社会的にも少なからず変化していることを踏まえ,妊産婦の全般的な特性をよく理解する。

(3) 妊娠,産褥の各時期に変化する歯科保健状態を把握する。

2 健康診査

(1) 問診

調査票を作成し,自己記入あるいは聞き取り法によって調査を行い,妊産婦の自覚症状,日常の歯科保健行動を把握して歯科保健指導の参考とする。

(ア) 自覚症状(歯肉の赤味,腫れ,出血,口臭や歯痛など)

(イ) 歯科保健行動(歯みがきの回数・時間など)

(2) 口腔診査の実際

診査の姿勢は原則,座位を基本として個々に楽な姿勢を調整すること。

(3) 診査票の記入

母子健康手帳の「妊娠中と産後の歯の状態」の欄を活用すること。

(ア) 現在歯等の状況

(イ) 歯周疾患の状態

(ウ) 歯石の付着状態(口腔清掃状態)

(エ) その他(軟組織疾患,不正咬合等)

3 保健指導

(1) 妊娠,出産に伴う生活,心理上の変化に応じて,具体的な指導ができるようできるだけ個々の状態を把握してから行うこと。

(2) 妊産婦自身の歯口,食生活,歯口清掃等に関する情報だけでなく,胎児・乳児の歯の発育と母体の栄養等についての一般的な指導は集団指導やパンフレットなどを活用して行うこと。

(3) 妊娠各期および産褥期に適した内容を踏まえる。特に妊娠各期の指導の要点は以下のとおりである。

(ア) 初期(歯科健康診査の勧奨等)

(イ) 中期(必要な歯科治療の勧奨等)

(ウ) 後期(歯科健康診査の勧奨,治療後のフォロー等)

(4) 口腔保健についても基本的には自己管理が重要であることを理解させること。

(5) 母子健康手帳を有効に利用し,その後も母子の歯科保健状態を把握すること。

第3 乳幼児歯科健康診査

1 方針

(1) 妊産婦歯科健康診査との連携に留意して行うこと。

(2) 哺乳期から離乳食期への橋渡しを担う乳歯の萌出時期には個人差があるが,それを境に乳児の口腔の変化が著しくなることに留意すること。

2 健康診査

(1) 口腔診査の実際

診査に先立ってあらかじめ口腔内に触れられることに慣れさせておくため,乳前歯の萌出を機にガーゼで口腔内の清拭や乳幼児用歯ブラシなどを与えることも考慮すること。

(2) 診査票の記入

母子健康手帳の各歳健康診査の「歯の状態」等の欄を活用すること。

3 保健指導

(1) 口腔内に触れられることに慣れさせる目的から口腔内清拭から口腔清掃への移行は緩やかに行うこと。

(2) 乳前歯(乳犬歯を除く)が揃い始めたら歯ブラシを用いて清掃を始めること。

(3) 清掃時に併せて乳幼児の口腔内を点検することも養育者に認識させること。

第4 1歳6か月児歯科健康診査

1 方針

(1) 乳幼児歯科健康診査との連携に留意して行うこと。

(2) 3歳児歯科健康診査との連携に留意して行うこと。

2 健康診査

(1) 問診

問診項目については,以下の例以外にも,各々の地域の実状や特徴に応じた具体的な内容や方法を工夫すること。

例示

問診項目

 

→危険因子

①主な養育者

父母

その他(      )

②母乳の有無

与えていない

与えている

③哺乳ビン

使用していない

使用している

④よく飲むもの

牛乳

清涼飲料水等

⑤間食時刻

決めている

決めていない

⑥歯の清掃

行う

行わない

視診項目

 

→危険因子

歯垢付着状態

良好

不良

右に回答したものを危険因子と見なす。

(2) 口腔診査の実際

ア 幼児の心身発育の状態を考慮して,恐怖を起こさせないよう,次のような姿勢を取らせること。

(ア) 保護者がイスに腰掛けて,幼児の頭部を支えて検診者と対面する。

(イ) 仰向けにした幼児の頭部を検診者の膝の上で保持し保護者が幼児の脚とからだを支える。

イ 特に上顎前歯部の口蓋側は授乳が継続していたり,哺乳ビンでジュースなどを飲ませていた幼児では,う蝕があることが多いので注意すること。

(3) 診査票の記入

◆乳幼児健康診査◆票(別添1)の「歯科所見」欄を活用すること。

(ア) 歯の清掃(清掃不良の有無)

上顎両側の乳中切歯および乳側切歯(計4歯)の唇面の歯垢の付着を診査し,およそ半分以上に歯垢が付着している場合は清掃不良とする。

(イ) 生歯

歯種別に萌出状態を診査する。歯の一部でも萌出していれば,生歯とする。

なお,萌出歯数については,同一歴齢でも個人差があり,これに健診時の月齢幅が設けられていると格差はさらに広がるので注意が必要である。

(ウ) う歯

ガーゼなどで歯面を拭い,視診,触診によって各歯のう蝕の有無を確認する。う歯はエナメル質に明瞭な脱灰が認められる歯及びそれ以上に進行したものとする。

(エ) う蝕罹患型

O1型:う蝕もなく,かつ口腔環境が良い(危険因子が少ない)

O2型:う蝕はないが,口腔環境が悪い(危険因子が多い)ので近い将来,う蝕発生が予測される場合。

A型:上顎前歯部のみ,または臼歯部のみにう蝕がある。

B型:臼歯部及び上顎前歯部にう蝕がある。

C型:臼歯部及び前歯部すべてにう蝕がある。なお,下顎前歯部のみにう蝕を認める場合もこれに含まれるが,保健指導は注意を要する。

※O1,O2型の判定は,表の危険因子が多い場合をO2とするが,危険因子の数,組合せを検討することで各地域での基準を設定できる。

この時,相対的危険度等が有用となる。

(オ) 歯の異常等

う蝕以外の歯の異常を診査する。

(カ) 歯列咬合(咬合異常の有無)

歯列不正,咬合異常の有無を診査する。顕著な歯列不正や不正咬合で,将来,咬合異常が予測される場合は「有」とする。

(キ) 軟組織の疾病・異常(軟組織異常の有無)

歯肉,舌,口腔粘膜,小帯等口腔軟組織の疾病や異常等の有無を診査する。

(ク) その他

治療や定期的観察を必要とする疾病・異常があれば「有」とする。

(ケ) 断乳(完了・未完了),間食の時間

問診によって十分確認する。

(コ) 「問題なし,要指導,要観察,要治療」

う蝕罹患型等から総合的に判定する。

3 保健指導

(1) 口腔の成長・発達に応じて,う蝕予防と健全な永久歯列の育成を目指して速やかに個別指導を行う。

(2) 歯口等に関する知識の伝達,甘味制限,歯口清掃等の一般的な指導は集団指導やパンフレットなどを活用して行うこと。特に哺乳ビンの使用による問題点を理解させ,甘味飲食物では清涼飲料水等の摂取について注意すること。

(3) その幼児の持つ危険因子については改善するよう指導し,その成果を3歳児歯科健康診査時に評価すること。

なお,父母以外が養育者の場合は十分な理解を得ることを前提とすること。

(4) う蝕罹患型でA~C型の児は極めてう蝕易罹患性が高いことを保護者に伝え,歯科医療機関で処置・治療を受けた後も定期的な検診等が必要である旨指導すること。

(5) 指導の効果が現れると各地域における危険因子は変化するので,時期を見ながら保健所等のアドバイスを受け,各事項のう蝕発生に及ぼす影響の強さを見直す必要がある。

(6) 不正咬合については,治療の要否・時期についての判断が難しいことがあるので,小児歯科医や矯正歯科医に相談するよう保護者に伝えること。

第5 3歳児歯科健康診査

1 方針

(1) 1歳6か月児歯科健康診査との連携に留意して行うこと。

(2) う歯の増加する時期で,1歳6か月児時点で危険因子と判定されたものの改善状況及びその効果を確認すること。

2 健康診査

(1) 問診

1歳6か月児歯科健康診査の時点に加えて,必要な事項は次のようなものであるが,各地域の実状や特徴に応じて工夫すること。

*1日何回間食をしますか。

*保護者が仕上げみがきをしていますか。

(2) 口腔診査の実際

ア 姿勢については,幼児を立たせ保護者に頭部を固定させて検診者と対面する。

イ 通法の項目に加え,顎顔面の発育状態や口呼吸の有無等についても診査する。

(3) 診査票の記入

ア ◆乳幼児健康診査◆票(別添1)の「歯科所見」欄を活用すること。

(ア) 歯の清掃(清掃不良の有無)

全歯唇面の歯垢の付着を診査し,ほぼ全歯の唇面に歯垢が付着していて清掃指導を必要とする者は清掃不良とする。

(イ) 生歯

歯別に歯の萌出状態を診査する。歯の一部でも萌出していれば生歯とする。

(ウ) う歯

綿棒等を用いて歯面を拭い,視診,触診によって各歯のう蝕の有無を確認する。う歯はエナメル質に明瞭な脱灰が認められる歯及びそれ以上に進行したものとする。また,下顎前歯部にある歯石は脱灰性の白斑と間違えやすいので注意する。

(エ) う蝕罹患型

O型:う蝕がない

A型:上顎前歯部のみ,または臼歯部のみにう蝕がある

B型:臼歯部及び上顎前歯部にう蝕がある

C1型:下顎前歯部のみにう蝕がある

C2型:下顎前歯部を含む他の部位にう蝕がある

(オ) 歯の異常等

う蝕以外の歯の異常を診査する。

(カ) 歯列咬合(咬合異常の有無)

歯列不正,咬合異常の有無を診査する。顔貌並びに歯列,咬合の状態から明らかな歯列不正や不正咬合が認められる場合に「有」とする。なお,診査に当たっては必ず診査者が手を添えて咬合させる。

(キ) 軟組織の疾病・異常(軟組織異常の有無)

歯肉,舌,口腔粘膜,小帯等口腔軟組織について診査し,疾病や異常等があれば「有」とする。

(ク) 「問題なし,要指導,要観察,要治療」

う蝕罹患型等から判定する。

3 保健指導

(1) 口腔の発育発達に応じて,う蝕予防と健全な永久歯列の育成を目指して指導を行うこと。

(2) 歯口等に関する知識の伝達,食生活,歯口清掃等の一般的な指導は集団指導やパンフレットなどを活用して行うこと。

(3) 歯の清掃については,幼児が就学までに自分で磨く習慣を獲得することを目標に指導すること。

(4) 3歳以降は乳臼歯隣接面のう蝕の発生が多くなるので,特にう蝕罹患型でA~Cの児だけでなく,O型でも歯の清掃が悪く指導を必要とする幼児は3歳以降もかかりつけ歯科医や保健所等での継続的な保健指導や予防処置が必要であることを保護者に伝えること。

(5) 強度の指しゃぶりの習慣のある者では,正常な顎及び歯列の発育が妨げられることがあるので,背後にある心理的要因に配慮した上で中止の方向へ指導すること。

(6) 口呼吸のある場合は歯肉等軟組織の炎症が起こりやすいので,耳鼻咽喉科医の受診が必要な場合もあることを保護者に伝えること。

(7) 不正咬合については,治療の要否・時期についての判断が難しいことがあるので,小児歯科医や矯正歯科医に相談するよう保護者に伝えること。

(参考)

相対危険度

危険因子の高い群が,低い群に比べて何倍疾病の発生または死亡の危険率が高いかを示すもので,罹患率または死亡率の比で出される。なお,相対危険度の近似値として,オッズ比が用いられる。

敏感度と特異度

敏感度はスクリーニングで「異常あり」と判定した者のうち真の異常者の百分率である。特異度はスクリーニングで「異常なし」と判定した者のうち真に異常のない者の百分率である。したがって,異常者を正常と判断して見逃した率(偽陰性率)と正常者を異常と判断した率(偽陽性率)とともに検診結果の評価として算出しておく必要がある。

1歳6か月の時点で3歳のう蝕の発生を予測するには,敏感度,特異度の数値が共に比較的高いスクリーニングの方法を取り入れるとよい。

【別添1】◆乳幼児健康診査◆