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○石綿の使用における安全に関する条約(第百六十二号)

(平成十七年八月十二日)

(条約第十一号)

石綿の使用における安全に関する条約(第百六十二号)をここに公布する。

石綿の使用における安全に関する条約(第百六十二号)

国際労働機関の総会は、

理事会によりジュネーブに招集されて、千九百八十六年六月四日にその第七十二回会期として会合し、

関係のある国際労働条約及び国際労働勧告、特に、国内政策及び国内的な措置の諸原則を確立している千九百七十四年の職業がん条約及び千九百七十四年の職業がん勧告、千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)条約及び千九百七十七年の作業環境(空気汚染、騒音及び振動)勧告、千九百八十一年の職業上の安全及び健康条約及び千九百八十一年の職業上の安全及び健康勧告、千九百八十五年の職業衛生機関条約及び千九百八十五年の職業衛生機関勧告、千九百六十四年の業務災害給付条約に附属する千九百八十年に改正された職業病の一覧表並びに千九百八十四年に国際労働事務局が公表した石綿の使用における安全に関する実施基準に留意し、

前記の会期の議事日程の第四議題である石綿の使用における安全に関する提案の採択を決定し、

その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、

次の条約(引用に際しては、千九百八十六年の石綿条約と称することができる。)を千九百八十六年六月二十四日に採択する。

第一部 適用範囲及び定義

第一条

1 この条約は、作業の過程において労働者の石綿へのばく露を伴うすべての業務について適用する。

2 この条約を批准する加盟国は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、健康に対する危険及び適用される安全措置の評価に基づいて適用が不必要であると認める場合には、この条約の一部の規定の適用を特定の経済活動部門又は特定の事業について除外することができる。

3 権限のある当局は、特定の経済活動部門又は特定の事業の除外を決定する場合には、ばく露の頻度、期間及び水準、作業の種類並びに作業場の状態を考慮する。

第二条

この条約の適用上、

(a) 「石綿」とは、蛇紋石族の造岩鉱物に属する繊維状のけい酸塩鉱物、すなわち、クリソタイル(白石綿)及び角せん石族の造岩鉱物に属する繊維状のけい酸塩鉱物、すなわち、アクチノライト、アモサイト(茶石綿又はカミングトン・グリューネルせん石)、アンソフィライト、クロシドライト(青石綿)、トレモライト又はこれらの一若しくは二以上を含有する混合物をいう。

(b) 「石綿粉じん」とは、作業環境において、浮遊する石綿の粒子又は浮遊しやすいたい積した石綿の粒子をいう。

(c) 「浮遊石綿粉じん」とは、測定上、重量による算定その他これに相当する方法により測定された粉じんの粒子をいう。

(d) 「吸入されやすい石綿繊維」とは、直径三ミクロン未満の石綿繊維であって長さと直径との比率が三対一を超えるものをいうものとし、測定上、長さが五ミクロンを超える繊維のみを考慮に入れる。

(e) 「石綿へのばく露」とは、石綿から生ずるか、又は石綿を含有する鉱物、材料若しくは製品から生ずるかを問わず、浮遊して吸入されやすい石綿繊維又は石綿粉じんに作業中にさらされることをいう。

(f) 「労働者」には、生産協同組合の構成員を含む。

(g) 「労働者代表」とは、千九百七十一年の労働者代表条約に従い、国内法又は国内慣行により認められた労働者代表をいう。

第二部 一般原則

第三条

1 業務上の石綿へのばく露による健康に対する危険を防止し、及び管理し、並びにこの危険から労働者を保護するためにとるべき措置については、国内法令において定める。

2 1の規定に従って制定される国内法令は、技術の進歩及び科学的知識の発展に照らして定期的に検討する。

3 権限のある当局は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で決定される条件に従い、かつ、そのように決定される期間内において、1の規定に従って定められた措置を一時的に緩和することを認めることができる。

4 権限のある当局は、3の規定に従って緩和を認める場合には、労働者の健康を保護するために必要な予防措置がとられることを確保する。

第四条

権限のある当局は、この条約を実施するためにとられる措置に関し、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議する。

第五条

1 第三条の規定に従って制定される法令の執行は、十分かつ適当な監督制度により確保する。

2 この条約の効果的な実施及び遵守を確保するために必要な措置(適当な制裁を含む。)については、国内法令において定める。

第六条

1 使用者は、所定の措置の遵守について責任を負う。

2 二以上の使用者が一の作業場において同時に業務を行う場合には、これらの使用者は、その使用する労働者の健康及び安全に関するそれぞれの責任の範囲内で、所定の措置を遵守するために協力する。権限のある当局は、必要な場合には、この協力のための一般的手続を定める。

3 使用者は、職業安全衛生機関と協力し、及び関係のある労働者代表と協議した上で、緊急事態に対処する手続を作成する。

第七条

労働者は、その責任の範囲内において、業務上の石綿へのばく露による健康に対する危険の防止及び管理並びにこの危険からの保護に関して定められた安全及び衛生についての手続に従わなければならない。

第八条

使用者及び労働者又は労働者代表は、この条約に従って定められた措置の適用に当たり、企業のあらゆる段階においてできる限り密接に協力する。

第三部 保護措置及び防止措置

第九条

石綿へのばく露を次の一以上の措置により防止し、又は管理することについては、第三条の規定に従って制定される国内法令において定める。

(a) 石綿へのばく露が生ずるおそれのある作業の実施を適切な工学的管理及び作業慣行(作業場の衛生に関するものを含む。)を定める規則に従うことを条件とすること。

(b) 石綿若しくは一定の種類の石綿若しくは石綿を含有する一定の種類の製品の使用又は一定の作業工程について特別の規則及び手続(許可を含む。)を定めること。

第十条

労働者の健康を保護するために必要であり、かつ、技術的に実行可能な場合には、次の一以上の措置について、国内法令で定める。

(a) 可能な場合には、石綿若しくは一定の種類の石綿又は石綿を含有する一定の種類の製品を権限のある当局が無害又は有害性がより低いと科学的に評価したその他の物質若しくは製品又は他の技術の利用により代替させること。

(b) 一定の作業工程において、石綿若しくは一定の種類の石綿又は石綿を含有する一定の種類の製品の使用を全面的に又は部分的に禁止すること。

第十一条

1 クロシドライト及びその繊維を含有する製品の使用は、禁止する。

2 権限のある当局は、合理的に判断して代替することが実行可能でない場合には、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、1に規定する禁止の緩和を認める権限を与えられる。ただし、労働者の健康が危険にさらされないことを確保する手段がとられることを条件とする。

第十二条

1 あらゆる形態の石綿の吹付け作業は、禁止する。

2 権限のある当局は、他の方法が合理的に判断して実行可能でない場合には、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、1に規定する禁止の緩和を認める権限を与えられる。ただし、労働者の健康が危険にさらされないことを確保する手段がとられることを条件とする。

第十三条

使用者が石綿へのばく露を伴う一定の種類の作業について権限のある当局の定める態様及び範囲で当該当局に対し通報を行うことについては、国内法令において定める。

第十四条

石綿の生産者及び供給者並びに石綿を含有する製品の製造者及び供給者は、権限のある当局の定めるところにより、容器に又は適当な場合には製品に、関係のある労働者及び利用者が容易に理解することのできる言語及び方法で適切な表示を行う責任を負う。

第十五条

1 権限のある当局は、労働者の石綿へのばく露限界又は作業環境を評価するための他のばく露の基準を定める。

2 ばく露限界又は他のばく露の基準は、技術の進歩並びに技術的及び科学的知識の発展に照らして、設定し、定期的に検討し、及び更新する。

3 使用者は、労働者が石綿にさらされるすべての作業場において、石綿粉じんの空気中への発散を防止し、又は管理するため、ばく露限界又は他のばく露の基準が遵守されることを確保するため、及び合理的に実行可能な限り低い水準にばく露の水準を減少させるためにすべての適当な措置をとる。

4 使用者は、3の規定に基づいてとられる措置により石綿へのばく露を1の規定に基づいて定められるばく露限界内に抑制することができない場合又は他のばく露の基準を遵守することができない場合には、労働者に費用を負担させることなく、適切な呼吸用保護具及び適当な場合には特別の保護衣を提供し、保持し、及び必要な場合には取り替える。呼吸用保護具は、権限のある当局が定める基準に適合し、及び補足的、一時的、緊急又は例外的措置としてのみ使用されるものとし、技術的管理に代わるものではない。

第十六条

使用者は、その使用する労働者の石綿へのばく露を防止し、及び管理し、並びに石綿による危険から労働者を保護するため、実際的な措置の確立及び実施について責任を負う。

第十七条

1 もろい石綿断熱材を含有する設備又は構造物を取り壊すこと及び石綿が浮遊しやすい建築物又は構造物から石綿を除去することは、この条約の定めるところに従って権限のある当局によりそのような作業を行う資格を有すると認められ、かつ、そのような作業を行うことを認められた使用者又は請負人によってのみ行われる。

2 使用者又は請負人は、取壊し作業を開始する前に、とるべき措置(次の措置を含む。)を明示した作業計画を作成しなければならない。

(a) 労働者に対しすべての必要な保護を与えること。

(b) 石綿粉じんの空気中への発散を抑制すること。

(c) 第十九条の規定に従い石綿を含有する廃棄物の処分を定めること。

3 労働者又は労働者代表は、2の作業計画について協議を受ける。

第十八条

1 使用者は、労働者の個人用衣類が石綿粉じんで汚染されるおそれのある場合には、国内法令に従い、労働者代表と協議した上で、適当な作業衣を提供する。作業衣は、作業場の外で着用してはならない。

2 使用された作業衣及び特別の保護衣の取扱い及び洗浄は、石綿粉じんの発散を防止するため、権限のある当局が定めるところに従い、管理された状態の下で行う。

3 作業衣及び特別の保護衣並びに個人用保護具を自宅に持ち帰ることについては、国内法令において禁止する。

4 使用者は、作業衣及び特別の保護衣並びに個人用保護具の洗浄、保持及び保管に責任を負う。

5 使用者は、適当な場合には、石綿にさらされた労働者が作業場で洗浄し、入浴し、又はシャワーを浴びるための施設を提供する。

第十九条

1 使用者は、国内法及び国内慣行に従い、関係する労働者(石綿の廃棄物を取り扱う者を含む。)又はその企業の付近の住民の健康に対する危険がない方法で石綿を含有する廃棄物を処分する。

2 権限のある当局及び使用者は、作業場から発散される石綿粉じんが一般の環境を汚染することを防止するために適当な措置をとる。

第四部 作業環境の監視及び労働者の健康状態の把握

第二十条

1 使用者は、労働者の健康の保護のために必要な場合には、作業場における浮遊石綿粉じんの濃度を測定し、並びに間隔を置き、及び権限のある当局が定める方法を用いて労働者の石綿へのばく露を監視する。

2 作業環境及び労働者の石綿へのばく露の監視の記録は、権限のある当局が定める期間、保存する。

3 関係する労働者、労働者代表及び監督機関は、2の記録を利用することができる。

4 労働者又は労働者代表は、作業環境の監視を要求する権利及び監視の結果に関して権限のある当局に不服を申し立てる権利を有する。

第二十一条

1 石綿にさらされ、又はさらされたことのある労働者については、国内法及び国内慣行に従い、業務上の危険に関する健康の管理及び石綿へのばく露による職業性疾病の診断のために必要な健康診断を実施する。

2 石綿の使用に関係する労働者の健康状態の把握は、労働者の賃金についてのいかなる喪失をも伴うものであってはならない。このような労働者の健康状態の把握は、無料で、かつ、可能な限り労働時間内に行う。

3 労働者は、十分かつ適当な方法により健康診断の結果の通知を受け、かつ、自己の健康であってその作業に関連を有するものについて個別の助言を受ける。

4 石綿へのばく露を伴う作業への継続的な従事が医学的に不適当とされる場合には、関係する労働者に対してその所得を維持する他の手段を与えるため、国内事情及び国内慣行に適合するあらゆる努力を払う。

5 権限のある当局は、石綿による職業性疾病を通報する制度を設ける。

第五部 情報及び教育

第二十二条

1 権限のある当局は、関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議し、及び協力した上で、石綿へのばく露による健康に対する危険並びにその防止及び管理の方法に関し、すべての関係者への情報の普及及び教育を促進するために適当な措置をとる。

2 権限のある当局は、石綿による危険並びにその防止及び管理の方法に関する労働者への教育及び定期的な訓練のための措置について使用者が書面により方針及び手続を作成することを確保する。

3 使用者は、石綿にさらされ、又はさらされるおそれのあるすべての労働者が作業に関連する健康に対する危険について知らされ、防止措置及び正しい作業慣行について指示を受け、並びにこれらの分野における継続的な訓練を受けることを確保する。

第六部 最終規定

第二十三条

この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知する。

第二十四条

1 この条約は、国際労働機関の加盟国であって自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。

2 この条約は、二の加盟国による批准が国際労働事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

3 この条約は、この条約が効力を生じた後は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

第二十五条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。

2 この条約を批准した加盟国であって1の十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

第二十六条

1 国際労働事務局長は、加盟国から通知を受けたすべての批准及び廃棄の登録についてすべての加盟国に通報する。

2 国際労働事務局長は、二番目の批准の登録について加盟国に通報する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

第二十七条

国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、第二十三条から前条までの規定に従って登録されたすべての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

第二十八条

理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

第二十九条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の定めがない限り、

(a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第二十五条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。

(b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。

2 この条約は、これを批准した加盟国であって1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

第三十条

この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

以上は、国際労働機関の総会が、ジュネーブで開催されて千九百八十六年六月二十五日に閉会を宣言されたその第七十二回会期において、正当に採択した条約の真正な本文である。

以上の証拠として、我々は、千九百八十六年六月二十六日に署名した。

総会議長

ヒューゴ・フェルナンデス・ファインゴールド

国際労働事務局長

フランシス・ブランシャール

(平成一七年八月一二日外務省告示第七七五号で平成一八年八月一一日に日本国について効力発生)