添付一覧
G00700
7.核磁気共鳴スペクトル測定法
核磁気共鳴(以下「NMR」という。)スペクトル測定法は、静磁場に置かれた物質の構成原子核が、その核に特有の周波数のラジオ波に共鳴し、低エネルギーの核スピン状態から高エネルギーの核スピン状態に遷移することに伴って、ラジオ波を吸収する現象を利用したスペクトル測定法である。NMRスペクトルは、有機化合物の化学構造の確認のための定性分析だけでなく、適切な測定条件下では、NMRシグナル面積強度がそれに関与する官能基の核スピンの数に直接比例することから定量分析が可能であり、確認試験、純度試験、定量法等に用いられる。測定対象とする核は1Hのほか、13C、15N、19F、31P等がある。
原子核の核スピン量子数Iは、0、1/2、1、3/2、・・・、n/2(ただし、nは整数)等の値(1H及び13CではI=1/2)をとる。核を磁場の中に置くと、核磁気モーメントは磁気量子数mIに従って2I+1(1H、13C等では2)個に配向する。配向したエネルギー準位間に遷移を起こさせるには次式の周波数νのラジオ波を与える必要がある。すなわち、磁気回転比γの核を外部磁場H0の中に置いたとき、これらのエネルギー準位間の遷移と照射する周波数νのラジオ波の関係は、次の式で表される。
ν=γH0/2π
ただし、
ν:ラジオ波の周波数
γ:磁気回転比
H0:外部磁場
共鳴(エネルギー準位間の遷移)を起こす周波数νのラジオ波の吸収がシグナルとしてNMRスペクトル上に観察される。パルスフーリエ変換NMR分光計(FT―NMR)では、熱平衡状態にある核スピンが、ラジオ波パルスにより一斉に励起(ラジオ波の吸収によるエネルギー準位間の遷移)され、一定時間後に再び熱平衡分布にもどる(緩和する)が、この際に放出されるラジオ波が自由誘導減衰(Free Induction Decay:FID)信号として検出される。このとき、励起された核スピンが熱平衡状態に戻る緩和過程の時定数を緩和時間という。時間の関数であるFIDはフーリエ変換により周波数の関数に変換され、FIDに含まれる多くの周波数成分が周波数軸に沿って強度分布しNMRスペクトルとして観察される。どのような環境の核に対しても吸収の係数(遷移の確率)は一定であるので、緩和時間を十分に確保した条件で測定することにより、NMRスペクトル上に観察されるシグナル面積強度は基本的に共鳴核の数に比例するようになる。
分子を磁場の中に置くと分子内の電子が核を外部磁場から遮蔽する。分子内での核の環境が異なるとその遮蔽の度合も異なるので、異なる環境の核の共鳴周波数も異なることになり、別々のシグナルとして観測される。このシグナルの位置は、共鳴周波数が磁場に比例して変化することから、磁場によらない量として、化学シフトδとして表現される。化学シフトδを次の式で定義する。
ただし、
νS:試料核の共鳴周波数
νR:基準核の共鳴周波数
δR:基準核の化学シフト(0でない場合)
化学シフトδは、通例、基準物質(基準核)のシグナルの位置を0としたppm単位で表すが、基準物質のシグナル位置を0とできない場合は、その基準物質のあらかじめ定められている化学シフトδを用いて補正する。
分子内の各核における磁場は、周囲の電子の寄与(核遮蔽)だけでなく、分子中のほかの核磁石(核スピンを持っている核は、それ自身が一つの磁石である)の影響下にもあるので、核磁石間の化学結合によるカップリングによってシグナルは分裂する。この分裂の間隔をスピン―スピン結合定数Jといい、ヘルツ(Hz)単位で表す。スピン―スピン結合定数Jは外部磁場の大きさに依存せず、分裂のパターンは相互作用する核の数が増すにつれ複雑になる。NMRスペクトルからは基本的に化学シフト、スピン―スピン結合定数、シグナル面積強度、緩和時間の4つのパラメータが得られる。さらに、デカップリング、核オーバーハウザー効果(Nuclear Overhauser Effect:NOE)、二次元NMR等の種々の構造解析の手法があり、化合物の定性分析に用いられる。
NMRスペクトルは定量分析にも用いられる。1H NMRでは、定量性を確保した条件で測定したとき、スペクトル上に観察される化合物の1H核の数の比がシグナル面積強度比に比例する特性を持つ。この原理を利用した測定法は1H核定量核磁気共鳴分光法(1H quantitative NMR:1H qNMR)と呼ばれる。
定量分析に最適化した測定条件下、すなわち、1H qNMRでは、シグナル面積強度(IA)は、そのシグナルに関与する核数(NA)に比例する。
IA=KS×NA
定数KSは、同一条件下で測定したとき等しいので、1H qNMRスペクトル上に観察される2つのシグナル面積強度を比較する場合は省略できる。よって、同一分子上の官能基AとBの観測核の核数(Ni)とシグナル面積強度(Ii)には直接的な関係が成り立つ。
IA/IB=NA/NB
この関係は、同じ測定系内の異なる成分に由来するシグナルにも適用することができる。すなわち、分子構造が既知の2つの成分A及びBが存在するとき、各成分のモル濃度比(nA/nB)は、1H qNMRスペクトル上に観察されるシグナル面積強度比から測定することができ、次式により表される。
nA/nB=IA/IB×NB/NA
nA=IA/IB×NB/NA×nB
このとき、成分Aの含量又は純度(%)(PA)は、シグナル面積強度の標準物質として添加した既知の含量又は純度(PB)(%)の成分Bの既知の質量(mB)及びモル質量(MB)、成分Aの既知の質量(mA)及びモル質量(MA)から求められる。
PA=IA/IB×NB/NA×MA/MB×mB/mA×PB
すなわち、成分Bに計量計測トレーサビリティが確保されたqNMR用基準物質を用いることで、成分Aの純度又は含有率について物質量(モル)に基づいた信頼性の高い値を間接的に求めることができる。
装置
通例、パルスフーリエ変換NMR(FT―NMR)スペクトル測定装置を用いる。FT―NMR装置は、超伝導磁石、NMRプローブ、高周波発生部、受信部、データ処理部等で構成され、強力なラジオ波パルスを試料に照射し、観測核を全観測周波数領域にわたって同時に励起する。パルス照射後のFIDを観測し、強度の時間関数であるFIDをフーリエ変換によって周波数関数に変換してスペクトルを得る。概略は、次の図による。
a) 超伝導磁石(Superconducting magnet) 核磁気共鳴を起こすための静磁場を作る。通例、ヘリウム冷却式超伝導磁石。
b) NMRプローブ(NMR probe) 試料にラジオ波(パルス)を照射し、試料から放出されるラジオ波(NMRシグナル)を検出する装置(NMR装置における検出器)。
c) 分光計(Spectrometer system) ラジオ波を発生し、信号を取得する等NMRを制御する装置。
d) 高周波発生部(High frequency generation section) 観測核の共鳴周波数に応じたラジオ波をパルス状に整形し、NMRプローブへ送る。
e) 受信部(Receiver section) NMRプローブで受信した微弱なFID信号を増幅し、信号をデジタル化後、データ処理部に転送する装置。
f) データ処理部(Data processing section) デジタル化されたFID信号をフーリエ変換によって、NMRスペクトルに変換し、表示、解析、記録媒体に保存するための処理装置。
操作法
1.溶液NMR(Solution―state NMR)
試料を測定溶媒に溶かした検液をNMR試料管に入れ、密閉し、NMR装置に導入し測定する。測定溶媒としては、通例、NMR測定用重水素化溶媒を用いる。測定溶媒は、試料が完全に溶解するものを用いることが望ましい。特に、固形の異物の混入があるとき、又は検液の粘度が高いとき、分解能が低下し良いスペクトルが得られないことがあるので注意する。また、測定溶媒の選択に当たっては、試料のシグナルと重なるシグナルを示さないこと、試料と反応しないこと等を考慮する必要がある。ただし、測定溶媒の種類、試料濃度、酸性度、温度等により化学シフトが変化することがある。定量に際しては、最適な条件を考慮する必要がある。
各条の操作法にしたがって検液を調製し、規定された測定条件にしたがって測定する。
2.固体NMR(Solid―state NMR)
固体試料をNMR試料管に均一に密に詰めて測定する。固体試料の測定には、固体測定用のNMRプローブ及びNMR試料管を用いる。NMR試料管は外径約0.7~10mmのものがあり、NMRプローブに指定された外径の試料管を用いる。特殊な試料管を用いてゲル状の試料を測定することもできる。測定できる核種は溶液NMRと同様である。ただし、溶液NMRでは平均化される異方性相互作用が固定NMRでは平均化されずシグナルの線幅が広がるため、固体NMRではシグナルの分離能及び検出感度を向上させるための技法が用いられる。固体試料を詰めたNMR試料管をB0磁場方向に対して54.7°の角度(マジック角)に傾けて4~120kHzで高速回転させる。この技法はMAS(Magic Angle Spinning)と呼ばれ、化学シフトの異方性と双極子―双極子相互作用を平均化する。また、MASで平均化しきれない双極子―双極子相互作用等を除くために高出力デカップリングが併用される。更に励起のためにDP(Direct Polarization)及びCP(Cross Polarization)という方法が組み合わされて用いられる。DP/MASではシグナル面積強度比から各成分の比率を算出することが可能だがCPと比べ感度が低く、長時間の測定が必要である。一方、CP/MASは磁気回転比の大きい核、すなわち、感度の高い核(1H、19F等)から磁気回転比の小さい核、すなわち、感度の低い核(13C等)への分極移動を利用して測定する手法である。CP/MASは分子運動性が低く、かつ、磁気回転比の高い核と低い核の距離が空間的に近い試料の場合、すなわち、分子運動性が低く、感度の高い核が隣接している試料の場合は高感度で測定できる。しかし、分子運動性が高く、かつ、磁気回転比の高い核と低い核の距離が空間的に遠い試料の場合は感度向上が期待できない。このため、CP/MASはDP/MASに比べて定量性が劣る。よって、試料中の各成分のシグナル面積強度比の定量性はDP/MASとCP/MASの両方を測定して確認し、最適な条件を考慮することが望ましい。
各条に規定する操作法にしたがって調製した固体NMR用試料管を、固体測定用NMRプローブを挿入したNMR装置に導入し、規定する測定条件にしたがって測定する。
測定法
1.溶液NMR(Solution―state NMR)
(1) 定性分析
溶液NMRでは、通例、1H核を測定対象とする。テトラメチルシラン(TMS)、3―トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム―d4(TSP―d4)、DSS―d6等を基準物質として添加した測定溶媒に試料を溶かし検液を調製する。通例、化学シフトは、基準物質(基準核)のシグナルの位置を0としたppm単位で表す。また、基準物質を入れずに、重水素化溶媒中の残留プロトンの化学シフトを用いることもできる。測定対象とする核が1H以外の核のとき、対応する基準物質の化学シフトを用いる。なお、基準物質のシグナル位置を0とできない場合には、その基準物質のあらかじめ定められている化学シフトを用いて補正する。
装置の感度及び分解能を至適条件に調整した後、各条に規定する測定条件でシグナルの化学シフト、面積強度又は面積強度比等を測定する。確認しようとする物質の化学シフト、多重度、各シグナルの面積強度比が各条で定められている場合、規定された全てのシグナルの化学シフト、多重度及び各シグナルの面積強度比が適合するとき、試料と確認しようとする物質の同一性が確認される。また、同一測定条件での試料と標準品のスペクトルを比較し、両者のスペクトルが同一化学シフトのところに同様の多重度のシグナルを与え、同様の各シグナルの面積強度比を与えるとき、試料と標準品の同一性が確認される。ただし、シグナルの多重度は、測定装置の磁場の大きさが異なるとき、機器の分解能の差、及びスピン―スピン結合の大きさとスピン―スピン結合した核どうしの共鳴周波数の差との相対的関係から、異なって観測される場合がある。したがって、シグナルの多重度は、測定装置の磁場の大きさを考慮して判断する。なお、窓関数やシグナル波形分離等のスペクトルの処理法が各条に規定されている場合はそれに従う。
(2) 定量分析
溶液NMRでは、試料及びqNMR用基準物質を精密に量り、測定溶媒に溶かして検液を調製する。qNMR用基準物質には、試料、不純物及び測定溶媒に由来するシグナルが観察されない領域にシグナルを与えるものを、慎重に選択する必要がある。測定溶媒には、試料及びqNMR用基準物質が完全に溶解するものを選択する。qNMR用基準物質には、試料、不純物及び測定溶媒に由来するシグナルが観察されない領域にシグナルを与えるものを選択する。通常、計量計測トレーサビリティが確保された標準物質をqNMR用基準物質として用いる。測定対象とする核が1Hのとき、qNMR用基準物質には、通例、1,4―BTMSB―d4、DSS―d6等を用いる。測定対象とする核が1H以外の核のとき、対応するqNMR用基準物質を用いる。
装置の感度及び分解能を至適条件に調整した後、各条に規定する測定条件で測定する。なお、窓関数やシグナル波形処理等の方法が規定されている場合はそれに従う。
a) 内標準法 試料及びqNMR用基準物質を精密に量り、適量の測定溶媒に溶かし、既知の量のqNMR用基準物質が含まれる検液を調製する。検液をNMR試料管に入れ、密閉し、NMR装置に導入し測定する。このため、完全に同一環境下で試料とqNMR用基準物質のシグナルが得られる。qNMRスペクトル上に観察される試料及びqNMR用基準物質のシグナル面積強度比を測定し、各条に規定されている方法で定量値を求める。
b) 外標準法 試料を精密に量り、測定溶媒を正確に加え、完全に溶かして検液を調製し、NMR試料管に入れ、密閉する。別にqNMR用基準物質を精密に量り、測定溶媒を正確に加え、完全に溶解して外標準液を調製し、検液と同じ規格のNMR試料管に入れ、密閉する。検液及び外標準液のNMR試料管をNMR装置に導入しそれぞれ測定する。検液及び外標準液のqNMRスペクトル上に観察される試料及びqNMR用基準物質のシグナル面積強度をそれぞれ測定し、面積強度比を求め、各条に規定されている方法で定量値を求める。外標準法では、試料とqNMR用基準物質の測定データは完全に同一の環境下で測定されたものではないことから、測定環境の差異による誤差要因を完全に排除することは容易ではない。よって、通常、外標準法の精度は内標準法に比べて若干劣る。外標準法を用いなければならないときには、別に濃度既知の物質を用いて外標準法で測定を行う等、試験の目的を達成するために必要な精度を備えていることを検証する。
c) 正規化法 試料を精密に量りとり、測定溶媒を正確に加え、完全に溶解し検液を調製し、NMR試料管に入れ、密閉する。NMR試料管をNMR装置に導入し、各条に規定されている条件で測定する。測定対象の試料の分子構造又は分子量がはっきりしない場合(乳化剤等)、既知の量の試料と同一の標準物質、又は定量用標準品を一定量添加し、濃度とシグナル面積強度の関係の検量線を作成し、それとの比較から測定対象の物質を定量する。スペクトル上に観察される共存シグナルの面積強度比から混合物中の成分の相対比率、高分子、ポリマー中の特定の官能基の数、又は不純物の量が求められる。
2.固体NMR(Solid―state NMR)
定性分析
固体NMRでは、通例、13C核を測定対象とする。アダマンタン等を基準物質とし、固体NMR用試料管に均一に密に詰めて測定し、シグナル位置をその基準物質のあらかじめ定められている化学シフトに設定する。次に、化学シフトが調整されたNMR装置に、別に試料を固体NMR用試料管に均一に密に詰めて測定し、試料のスペクトルを測定する。測定対象とする核が13C以外の核のとき、対応する基準物質の化学シフトを用いる。
装置の感度及び分解能を至適条件に調整した後、各条に規定する測定条件でシグナルの化学シフト、面積強度又は面積強度比等を測定する。確認しようとする物質の化学シフト、各シグナルの面積強度比が各条で定められている場合、規定された全てのシグナルの化学シフト、各シグナルの面積強度比等が適合するとき、試料と確認しようとする物質の同一性が確認される。また、同一測定条件での試料と標準品のスペクトルを比較し、両者のスペクトルが同一化学シフトのところに同様のシグナルを与え、同様の各シグナルの面積強度比を与えるとき、試料と標準品の同一性が確認される。ただし、測定装置の磁場の大きさが異なるとき、機器の分解能の差から、異なって観測される場合がある。したがって、測定装置の磁場の大きさを考慮して判断する必要がある。なお、窓関数やシグナル波形分離等のスペクトルの処理法のほか、計算法や判断基準等が各条に規定されている場合はそれに従う。
システム適合性
システム適合性は、添加物の試験に使用するシステムが、当該の試験を行うのに適切な性能で稼働していることを確かめることを目的としている。規定された適合要件を満たさない場合には、そのシステムを用いて行った試験の結果を採用してはならない。
(1) 検出の確認 対象とする物質に由来するシグナルが十分なSN比を持つことを確認する。定量法においては、1%以内の精度を目標としたとき、定量に用いるシグナルのSN比は100以上であることが望ましい。
(2) システムの性能 検液又は標準液を測定するとき、被検成分に対する特異性が担保されていることを確認することによって、使用するシステムが試験の目的を達成するために必要な性能を備えていることを検証する。
定量法では、原則として被検成分のシグナルとqNMR用基準物質のシグナルが完全に分離して観察され、且つ、それぞれが不純物のシグナルと分離していることを確認する。
(3) システムの再現性 検液又は標準液を繰り返し測定するとき、各シグナルの面積強度の比及び化学シフトが一定であることを確認することによって、使用するシステムが試験の目的を達成するために必要な性能を備えていることを検証する。
定量法では、定量に用いる各シグナルの面積強度比の相対標準偏差が目標とする定量精度を達成できる水準であることを確認する。
成分規格・保存基準各条の操作条件は、システム適合性の規定に適合する範囲内で一部変更することができる。測定に用いた装置名、装置の周波数、測定溶媒、測定温度、試料濃度、基準物質、測定手法等の操作条件を記載する。
用語
(1) シグナルのSN比(SNR):求めたいシグナル領域の最大強度をSとし、そのシグナルの近傍でシグナルが認められないベースラインのノイズ領域の強度の二乗平均平方根をNrmsとしたとき、SをNrmsで除したものである。SN比は積算回数の正の平方根に比例するため、10倍のSN比を得るためには100倍の積算が必要である。
次の式で定義する。
ただし、
S:求めたいシグナル領域の最大強度
Nrms:シグナルの近傍でシグナルの観測が認められないベースラインのノイズ領域の強度の二乗平均平方根
n:ノイズ領域のデータ数
xi:i番目のノイズの強度
(2) パルス:一定周波数のラジオ波が非常に短い時間継続したものである。この継続時間は、ラジオ波の照射時間に相当し、パルス幅と呼ばれる。通常、μ秒の長さである。
G00800
8.ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィーは、適当な固定相を用いて作られたカラムに、移動相として気体(キャリヤーガス)を流すことにより、カラムに注入された混合物を気体状態で展開させ、固定相に対する保持力の差を利用してそれぞれの成分に分離し、分析する方法であり、気体、液体又は気化できる試料に適用でき、確認試験、純度試験、定量法等に用いる。
装置
通例、キャリヤーガス流量制御部、試料導入部、カラム、カラム槽、検出器及びデータ処理部から成り、必要な場合には、燃焼ガス、助燃ガス、付加ガス等の流量制御部や、気体・液体試料導入部又はヘッドスペースサンプラー等を用いる。キャリヤーガス流量制御部は、キャリヤーガスを一定流量でカラムに送るもので、通例、調圧弁、流量調節弁、圧力計等で構成される。試料導入部は、試料をキャリヤーガス流路中に導入するための部分で、使用するカラムによって、キャピラリーカラム用と充填カラム用に大別される。なお、キャピラリーカラム用試料導入方法には、分割導入方式(スプリット)、非分割導入方式(スプリットレス)、コールドオンカラム注入方式等がある。カラム槽は、必要な長さのカラムを収容できる容積があり、カラムを必要な温度に保つための温度制御機構をもつものである。検出器には、通例、熱伝導度検出器、水素炎イオン化検出器、電子捕獲検出器、窒素リン検出器、炎光光度検出器、質量分析計等が用いられ、キャリヤーガスとは異なる性質の成分を検出するものである。データ処理部は、クロマトグラム、保持時間又は成分定量値等を記録し又は出力させることができる。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。
装置をあらかじめ調整した後、別に規定する操作条件に検出器、カラム、温度及びキャリヤーガス流量を設定し、別に規定する方法で調製した検液又は標準液若しくは比較液を試料導入部から導入する。分離された成分を検出器により検出し、データ処理部を用いてクロマトグラムを記録させる。物質の確認は、標準試料と保持時間が一致すること又は標準試料を添加しても保持時間が変化せずピークの幅も広がらないことにより行う。
定量は、ピーク面積又はピーク高さを用いて行い、通例、次のいずれかの方法による。
(1) 内標準法 別に規定する内標準物質の一定量に対して標準被検成分を段階的に加えた標準液を数種類調製する。標準液を一定量ずつ注入して得られたクロマトグラムから、内標準物質のピーク面積又はピーク高さに対する標準被検成分のピーク面積又はピーク高さの比を求める。この比を縦軸に、標準被検成分量又は内標準物質量に対する標準被検成分量の比を横軸にとり、検量線を作成する。この検量線は、通例、原点を通る直線となる。次に、別に規定する方法で同量の内標準物質を加えた検液を調製し、検量線を作成したときと同一条件でクロマトグラムを記録させ、その内標準物質のピーク面積又はピーク高さに対する被検成分のピーク面積又はピーク高さの比を求め、検量線を用いて被検成分量を求める。成分規格・保存基準各条では、通例、上記の検量線が直線となる濃度範囲に入る一つの標準液及びこれに近い濃度の検液を調製し、成分規格・保存基準各条で規定するそれぞれの量につき、同一条件でガスクロマトグラフィーを行い、被検成分量を求める。
(2) 絶対検量線法 標準被検成分を段階的にとり、標準液を調製し、一定量ずつ正確に、再現性よく注入する。得られたクロマトグラムから求めた標準被検成分のピーク面積又はピーク高さを縦軸に、標準被検成分量を横軸にとり、検量線を作成する。この検量線は、通例、原点を通る直線となる。次に、別に規定する方法で検液を調製し、検量線を作成したときと同一条件でクロマトグラムを記録させ、被検成分のピーク面積又はピーク高さを測定し、検量線を用いて被検成分量を求める。この方法は、注入操作等測定操作の全てを厳密に一定の条件に保って行う。
(3) 標準添加法 試料の溶液から4個以上の一定量の液を正確にとる。このうちの1個を除き、採取した液に被検成分の標準液を被検成分の濃度が段階的に異なるように正確に加える。これらの液及び先に除いた1個の液をそれぞれ正確に一定量に希釈し、それぞれ検液とする。検液をそれぞれ一定量ずつ正確に再現性よく注入して得られたクロマトグラムから、それぞれのピーク面積又はピーク高さを求める。それぞれの検液に加えられた被検成分の濃度を算出し、横軸に標準液の添加による被検成分の増加量、縦軸にピーク面積又は高さをとり、グラフにそれぞれの値をプロットし、関係線を作成する。関係線の横軸との交点と原点との距離から被検成分量を求める。なお、本法は、絶対検量線法で被検成分の検量線を作成するとき、検量線が原点を通る直線であるときに適用できる。また、全測定操作を厳密に一定の条件に保って行う。
(4) 相対モル感度法 別に規定する基準物質の規定量を正確にとり、別に規定する方法で定量用内標準物質として検液に加えるか、検液とは別に定量用外標準液を調製する。別に規定する操作条件で、検液又は検液及び定量用外標準液を一定量ずつ注入して分析を行う。なお、相対モル感度は一定の分析条件下において有効な係数であるため、通例、規定された分析条件下で行う必要がある。得られたクロマトグラムから、基準物質に対する被検成分のピーク面積又はピーク高さの比を求め、別に規定する相対モル感度を用いて、被検成分量を求める。
なお、いずれの方法の場合にもピーク面積又はピーク高さは、通例、次の方法を用いて測定する。
(1) ピーク面積による場合
次のいずれかの方法を用いる。
(i) 半値幅法 ピーク高さの中点におけるピーク幅にピーク高さを乗じる。
(ii) 自動積分法 検出器からの信号をデータ処理部を用いてピーク面積として測定する。
(2) ピーク高さによる場合
次のいずれかの方法を用いる。
(i) ピーク高さ法 ピークの頂点から記録紙の横軸へ下ろした垂線とピークの両すそを結ぶ接線との交点から頂点までの長さを測定する。
(ii) 自動ピーク高さ法 検出器からの信号をデータ処理部を用いてピーク高さとして測定する。なお、試験に用いる試薬及び試液は測定の妨げとなる物質を含まないものを用いる。
システム適合性
一般試験法の項3.液体クロマトグラフィーのシステム適合性の規定を準用する。
成分規格・保存基準各条の操作条件のうち、カラムの内径及び長さ、充填剤の粒径、固定相の濃度又は厚さ、カラム温度、昇温速度、キャリヤーガスの種類及び流量並びにスプリット比は、システム適合性の規定に適合する範囲内で一部変更することができる。また、ヘッドスペースサンプラー及びその操作条件は、規定の方法以上の真度及び精度が得られる範囲内で変更することができる。
用語
一般試験法の項3.液体クロマトグラフィーの用語の定義を準用する。
注意:試験に用いる試薬及び試液は、測定の妨げとなる物質を含まないものを用いる。
G00900
9.カルシウム塩定量法
カルシウム塩定量法は、カルシウム塩類の含量をエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムを用いて定量する方法であり、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液による直接滴定法(第1法)及び過量のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液を加えた後、酢酸亜鉛溶液で滴定する逆滴定法(第2法)がある。
操作法
別に規定するもののほか、次のいずれかの方法による。
第1法 別に規定する検液10mLを正確に量り、水50mLを加え、更に水酸化カリウム溶液(1→10)10mLを加えて約1分間放置した後、NN指示薬約0.1gを加え、直ちに0.05mol/Lエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液で滴定する。終点は、液の赤紫色が完全に消失して青色となるときとする。
第2法 別に規定する検液20mLを正確に量り、0.02mol/Lエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液25mLを正確に量って加え、更に水50mL及びアンモニウム緩衝液(pH10.7)5mLを加えて約1分間放置した後、エリオクロムブラックT・塩化ナトリウム指示薬25mgを加え、直ちに過量のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムを0.02mol/L酢酸亜鉛溶液で滴定する。終点は、液の青色が青紫色となるときとする。別に空試験を行う。
G01000
10.乾燥減量試験法
乾燥減量試験法は、試料を規定された条件で乾燥するときに失われる水分及び揮発性物質の量を測定する方法である。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「0.5%以下(105℃、3時間)」とあるのは、試料1~2gを精密に量り、105℃で3時間乾燥するとき、その減量が試料の採取量に対して0.5%以下であることを示し、また、「5.0%以下(減圧、24時間)」とあるのは、試料1~2gを精密に量り、シリカゲルを乾燥剤としたデシケーターに入れ、2.0kPa以下の減圧下で24時間乾燥するとき、その減量が試料の採取量に対して5.0%以下であることを示す。
操作法
あらかじめ秤量瓶を別に規定する乾燥条件に準じて30分間以上乾燥し、加熱した場合には、デシケーター中で放冷した後、その質量を精密に量る。試料が大きな結晶又は塊の場合には、速やかに粉砕して径約2mm以下の大きさとし、別に規定するもののほか、その1~2gを先の秤量瓶に入れ、厚さ5mm以下の層となるように広げた後、その質量を精密に量る。次に、乾燥温度を規定する場合には、秤量瓶を乾燥器に入れ、特に規定しない場合には、シリカゲルを乾燥剤としたデシケーターに入れ、栓をとってそばに置き、別に規定する条件で乾燥した後、栓をして乾燥器又はデシケーターから取り出し、加熱した場合には、別に規定するもののほか、デシケーター中で放冷した後、その質量を精密に量る。なお、試料が規定の乾燥温度より低い温度で融解する場合には、その融解温度より5~10℃低い温度で1~2時間乾燥した後、別に規定する乾燥条件で乾燥する。
G01100
11.凝固点測定法
凝固点は、次の方法で測定する。
装置
概略は、図1による。
A:ガラス製円筒(内外の壁に曇り止めのためシリコーン油を塗る。)
B:試料容器(硬質ガラス製試験管で、必要があれば壁に曇り止めのためシリコーン油を塗る。ただし、内壁の試料に接する部分には塗らない。A中に差し込み、コルク栓で固定する。)
C:標線
D:ガラス製又はプラスチック製冷却浴
E:ガラス製又はステンレス製かき混ぜ棒(径3mm、下端を外径18mmの輪状にしたもの)
F:浸線付温度計(棒状)
G:補助温度計
H:浸線
図1
操作法
Dに予想される凝固点よりも5℃低い温度の水をほぼ全満する。試料が常温で液体の場合は、Dの水を予想した凝固点より10~15℃低くする。試料をBのCまで入れる。試料が固体の場合には、予想される凝固点よりも20℃以上高くならないように注意して加温して溶かし、Bに入れる。BをA中に差し込み、FのHを試料のメニスカスに合わせた後、試料の温度が予想される凝固点よりも5℃高い温度まで冷却されたとき、Eを毎分60~80回の割合で上下に動かし、30秒間ごとに温度を読む。温度は、徐々に下がるが、結晶が析出し始めて温度が一定になったとき又はやや上がり始めたとき、かき混ぜをやめる。
通例、温度は、上昇の後にしばらく一定になる。この維持された最高温度(Fの示度)を読み取る(図2(a))。温度上昇が起こらない場合には、しばらく静止した温度を読み取る(図2(b))。連続4回以上の読み取り温度の範囲が±0.2℃以内のとき、その平均値をとり、凝固点とする。
なお、試料中に混在する不純物が多い場合には、凝固点曲線は、図2(a)のようにはならず、図2(b)、図2(c)又は図2(d)のようになる。図2(c)及び図2(d)の場合には、固相及び液相の延長線の交点をグラフから求めて凝固点とし、図2(b)の場合には、図2(a)に準ずる。
図2
注意:過冷の状態が予想される場合は、Bの内壁をこするか又は温度が予想される凝固点に近づいたときに固体試料の小片を投入して凝固を促進させる。
G01200
12.強熱減量試験法
強熱減量試験法は、試料を規定された条件で強熱するときに失われる水分及びその他の混在物の量を測定する方法である。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「18.0~24.0%」とあるのは、試料1~2gを精密に量り、450~550℃で3時間強熱するとき、その減量が試料の採取量に対して18.0~24.0%であることを示す。「10%以下(0.5g、1000℃、30分間)」とあるのは、試料約0.5gを精密に量り、1000℃で30分間強熱するとき、その減量が試料の採取量の10%以下であることを示す。また、成分規格・保存基準各条において乾燥物とある場合には、それぞれの成分規格・保存基準各条において規定する乾燥減量の条件で乾燥したものを試料として試験を行う。
操作法
あらかじめ白金製、石英製又は磁製のるつぼを別に規定する強熱条件に準じて30分間以上強熱し、デシケーター中で放冷した後、その質量を精密に量る。
試料が大きな結晶又は塊の場合には、速やかに粉砕して径約2mm以下の大きさとし、別に規定するもののほか、その1~2gを先のるつぼに入れ、その質量を精密に量る。これを電気炉に入れ、別に規定するもののほか、450~550℃で3時間強熱し、デシケーター中で放冷した後、その質量を精密に量る。
G01300
13.強熱残分試験法
強熱残分試験法は、試料に硫酸を加えて強熱するときに残留する物質の量を測定する方法である。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「0.5%以下」とあるのは、試料1~2gを精密に量り、次の操作法によるとき、その残分が試料の採取量に対して0.5%以下であることを示す。「7.0%以下(3g、800℃、15分間、乾燥物換算)」とあるのは、試料約3gを精密に量り、次の方法により操作し、800℃で15分間強熱するとき、その残分が乾燥物換算した試料の採取量に対して7.0%以下であることを示す。また、成分規格・保存基準各条において乾燥物とある場合には、それぞれの成分規格・保存基準各条において規定する乾燥減量の条件で乾燥したものを試料として試験を行う。
操作法
あらかじめ白金製、石英製又は磁製のるつぼを600±50℃又は別に規定する強熱条件に準じて30分間以上強熱し、デシケーター中で放冷した後、その質量を精密に量る。
試料が大きな結晶又は塊の場合には、速やかに粉砕して径約2mm以下の大きさとする。別に規定するもののほか、その1~2gを先のるつぼに入れ、その質量を精密に量り、硫酸少量、通例、1mLを加えて潤し、徐々に加熱してできるだけ低温でほとんど炭化した後、放冷する。さらに、硫酸1mLを加え、徐々に加熱して白煙が発生しなくなった後、電気炉に入れ、別に規定するもののほか、600±50℃で3時間強熱する。次に、るつぼをデシケーター中で放冷し、その質量を精密に量る。ただし、得られた値が規定値に適合していない場合には、別に規定するもののほか、更に上記と同様の硫酸による湿潤、加熱及び30分間の強熱操作を繰り返し、前後の秤量差が0.5mg以下になったとき又は規格値以下になったときに試験を終了する。
G01400
14.屈折率測定法
屈折率測定法は、空気中から試料中に光が進むときにその界面で生じる屈折現象における入射角iの正弦と屈折角rの正弦との比、すなわち屈折率を測定する方法である。空気中とは、大気圧の空気の存在する場所であり、測定用の光にはナトリウムスペクトルのD線を用いる。屈折率は、投射される光の波長と温度によって変化するので画像15 (1KB)
で表す。tは測定温度(℃)であり、DはD線を示す。等方性の物質の場合には、光の波長、温度及び圧力が一定のとき、屈折率は、物質に固有の定数である。したがって、物質の純度の試験に用いる。
屈折率の測定には、屈折率の測定範囲が1.300~1.700で、0.0001の桁まで読み取ることのできる屈折計、通例、アッベ屈折計を用い、規定温度の±0.2℃の範囲内で行う。
G01500
15.原子吸光光度法
原子吸光光度法は、光が原子蒸気層を通過するときに基底状態の原子が特有波長の光を吸収する現象を利用し、試料中の被検元素量(濃度)を測定する方法である。
装置
通例、光源部、試料原子化部、分光部、測光部及び表示記録部から成る。また、バックグラウンド補正部を備えたものもある。光源部には中空陰極ランプ、放電ランプ等を用いる。試料原子化部には、フレーム方式、電気加熱方式及び冷蒸気方式があり、冷蒸気方式は、試料中の水銀を原子蒸気化するためのもので、更に還元気化法及び加熱気化法に分けられる。フレーム方式は、バーナー及びガス流量調節器、電気加熱方式は、電気加熱炉及び電源部、冷蒸気方式は、還元気化器、加熱気化器等の水銀発生部及び吸収セルから成る。分光部には、回折格子又は干渉フィルターを用いる。測光部は、検出器及び信号処理系から成る。表示記録部は、ディスプレイ、記録装置等から成る。バックグラウンド補正部は、バックグラウンドを補正するためのもので、方式には連続スペクトル光源方式、ゼーマン方式、非共鳴近接線方式及び自己反転方式がある。
その他の特殊な装置として、水素化物発生装置及び加熱吸収セルがあり、ヒ素やセレン等の分析に用いることができる。水素化物発生装置には、貯留式及び連続式があり、加熱吸収セルには、フレームによる加熱用及び電気炉による加熱用のものがある。
操作法
別に規定するもののほか、次のいずれかの方法による。
(1) フレーム方式 別に規定する光源ランプを装填し、測光部に通電する。光源ランプを点灯し、分光器を別に規定する分析線波長に合わせた後、適当な電流値とスリット幅に設定する。次に、別に規定する支燃性ガス及び可燃性ガスを用い、これらの混合ガスに点火してガス流量及び圧力を調節し、溶媒をフレーム中に噴霧してゼロ合わせを行う。別に規定する方法で調製した検液又は標準液若しくは比較液をフレーム中に噴霧し、その吸光度を測定する。
(2) 電気加熱方式 別に規定する光源ランプを装填し、測光部に通電する。光源ランプを点灯し、分光器を別に規定する分析線波長に合わせた後、適当な電流値とスリット幅に設定する。次に、別に規定する方法で調製した検液又は標準液若しくは比較液の一定量を電気加熱炉に注入し、適当な流量のフローガスを流し、温度、時間、加熱モードを適当に設定して、乾燥、灰化及び原子化を行い、その吸光度を測定する。
(3) 冷蒸気方式 低圧水銀ランプを装填し、測光部に通電する。光源ランプを点灯し、分光器を別に規定する分析線波長に合わせた後、適当な電流値とスリット幅に設定する。次に、還元気化法では検液又は標準液若しくは比較液を密閉器にとり、適当な還元剤を加えて元素になるまで還元した後、気化させる。また、加熱気化法では試料を加熱して気化させる。これらの方法によって生じた原子蒸気の吸光度を測定する。
定量は、通例、次のいずれかの方法による。なお、定量に際しては、干渉及びバックグラウンドを考慮する必要がある。
(1) 検量線法 3種以上の濃度の異なる標準液を調製し、それぞれの標準液につき、その吸光度を測定し、得られた値から検量線を作成する。次に、測定可能な濃度範囲に調製した検液の吸光度を測定した後、検量線から被検元素量(濃度)を求める。
(2) 標準添加法 同量の検液3個以上をとり、それぞれに被検元素が段階的に含まれるように標準液を添加し、更に溶媒を加えて一定容量とする。それぞれの溶液につき、吸光度を測定し、横軸に添加した標準被検元素量(濃度)、縦軸に吸光度をとり、グラフにそれぞれの値をプロットする。プロットから得られた回帰線を延長し、横軸との交点と原点との距離から被検元素量(濃度)を求める。ただし、この方法は、(1)による検量線が原点を通る直線の場合のみに適用できる。
(3) 内標準法 内標準元素の一定量に対して既知量の標準被検元素をそれぞれ段階的に加え、標準液を調製する。それぞれの溶液につき、各元素の分析線波長で標準被検元素による吸光度及び内標準元素による吸光度を同一条件で測定し、標準被検元素による吸光度と内標準元素による吸光度との比を求める。横軸に標準被検元素量(濃度)、縦軸に吸光度の比をとり、検量線を作成する。次に、標準液の場合と同量の内標準元素を加えた検液を調製し、検量線を作成したときと同一条件で得た被検元素による吸光度と内標準元素による吸光度との比を求め、検量線から被検元素量(濃度)を求める。
注意:試験に用いる試薬、試液及びガスは、測定の妨げとなる物質を含まないものを用いる。
G01550
16.元素分析法
元素分析法は、試料を燃焼し、試料に含まれる元素から生成したガスを測定することにより、試料中の被検元素の構成比率又は量を求める。主に炭素、窒素、水素等の軽元素の定性分析及び定量分析に用いる。酸素気流下、有機物の試料を酸化炉で高温に加熱し、試料の構成元素のうち、炭素(C)を二酸化炭素(CO2)、窒素(N)を窒素酸化物(NOX)、水素(H)を水(H2O)に変換する。このガスを還元炉に移し、銅(Cu)等の金属還元剤の存在下加熱しNOXを還元しN2とする。得られたCO2、N2、H2Oを定量し、それぞれの元素の比率を算出する。燃焼して気化しない元素は灰分として残る。
装置
通例、燃焼部、還元部、分離部、検出部からなる。ヘリウム又はアルゴンをキャリヤーガスとし、燃焼部は、酸素ガスの存在下、試料を通常900℃以上の燃焼炉で完全燃焼させる。還元部は、NOXを還元銅等により還元し、N2に変換する。分離部は、得られたガスを適切に分離し検出器に導入する。分離方法にはH2Oのみ吸収管で除去した後、分離カラムを用いてN2とCO2を分離するガスクロマトグラフ法、あるいはCO2とH2Oは吸収管で除去しN2のみとする吸脱着法、等様々な方式がある。検出部は、熱伝導度の大きいヘリウムをキャリヤーガスとしたとき、試料が混入することで熱伝導度が低下する現象を利用した熱伝導度検出法(TCD)や、赤外光源から放射された赤外光がガス分子に吸収される現象を利用した非分散赤外線吸収法(NDIR)を原理とした方式がある。その他、一酸化窒素(NO)をオゾン(O3)と混和して二酸化窒素ラジカル(NO2・)とし、ラジカルが減衰するときに発する光を測定する方式等もある。また、炭酸ガスをキャリヤーガスとして用い、燃焼時に生成するCO2を除去することなく窒素の定量分析が可能な装置もある。なお、炭素、窒素、水素以外にも酸素、硫黄、ハロゲンを分析できるものもある。
操作法
装置に指示された方法を用いて、開放型の場合には、測定環境における気圧補正等を行った後、標準物質を用い、被検元素量と検出器の応答の関係を校正する。密閉型の場合には、標準物質を用い、被検元素量と検出器の応答の関係を校正する。なお、標準物質には、原則として、被検元素の元素率が明確であるものを用いる。次に別に規定する方法で装置が測定可能な範囲に調製した試料を導入し、検出器の応答から試料中の被検元素量を算出する。ただし、自動化された装置を用いる場合、その操作法はそれぞれの装置の指示に従って行う。
G01600
17.香料試験法
1.アルコール類含量
アルコール類含量とは、試料中に含まれるアルコール類の含量である。
操作法
試料10mLを正確に量り、100mLのフラスコに入れ、無水酢酸10mL及び酢酸ナトリウム1gを加え、空気冷却器を付けてホットプレートで1時間穏やかに煮沸する。次に、15分間放冷した後、水50mLを加え、時々振り混ぜながら水浴中で15分間加熱する。冷後、内容物を分液漏斗に移し、水層を分離する。油層は、炭酸ナトリウム溶液(1→8)で洗液がアルカリ性になるまで洗い、更に塩化ナトリウム溶液(1→10)で洗液が中性になるまで洗い、乾燥した容器に入れ、硫酸ナトリウム約2gを加えてよく振り混ぜ、30分間放置した後、ろ過する。ここに得たアセチル化油について別に規定する量を精密に量り、香料試験法中のエステル価の試験を行う。このエステル価をアセチル価と呼び、次式により求める。
ただし、
a:空試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
b:本試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
M:アセチル化油の採取量(g)
MW:アルコールの分子量
AV:アセチル価
2.アルデヒド類又はケトン類含量
アルデヒド類又はケトン類含量は、アルデヒド又はケトンがヒドロキシルアミン(NH2OH)と反応する性質を利用して求める。
操作法
別に規定するもののほか、次のいずれかの方法による。
第1法
別に規定する量の試料を精密に量り、0.5mol/L塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液50mLを正確に量って加え、よく振り混ぜた後、別に規定する時間放置し又は還流冷却器を付けて水浴中で別に規定する時間穏やかに加熱し、室温まで冷却する。次に、遊離した酸を0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液で滴定する。終点は、電位差計を用いて測定し又は液が緑黄色となるときとする。別に空試験を行い補正し、次式により含量を求める。
ただし、
MW:アルデヒド又はケトンの分子量
a:本試験における0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(mL)
b:空試験における0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(mL)
M:試料の採取量(g)
第2法
別に規定する量の試料を精密に量り、ヒドロキシルアミン試液75mLを正確に量って加え、よく振り混ぜた後、別に規定する時間放置し又は還流冷却器を付けて水浴中で別に規定する時間穏やかに加熱し、室温まで冷却する。次に、過量のヒドロキシルアミンを0.5mol/L塩酸で滴定する。終点は、電位差計を用いて測定し又は液の紫色が緑黄色となるときとする。別に空試験を行い、次式により含量を求める。
ただし、
MW:アルデヒド又はケトンの分子量
a:空試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
b:本試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
M:試料の採取量(g)
3.エステル価
エステル価とは、試料1g中に含まれるエステルのけん化に要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「3.0以下(5g、香料試験法)」とあるのは、本品約5gを量り、次の方法によるとき、エステル価が、3.0以下であることを示す。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。
別に規定する量の試料を精密に量り、200mLのフラスコに入れ、エタノール(95)10mL及びフェノールフタレイン試液3滴を加え、水酸化カリウム溶液(1→250)で中和し、0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液25mLを正確に量って加え、還流冷却器を付けて水浴中で1時間穏やかに加熱する。冷後、過量の水酸化カリウムを0.5mol/L塩酸で滴定する。終点の確認には、指示薬(フェノールフタレイン試液2~3滴)又は電位差計を用いる。別に空試験を行い、次式によりエステル価を求める。
ただし、
a:空試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
b:本試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
M:試料の採取量(g)
4.エステル含量
一塩基性酸のエステルの含量は、香料試験法中のエステル価の試験を行い、次式により求める。
ただし、
MW:エステルの分子量
M:試料の採取量(g)
EV:エステル価
a及びbは、エステル価のa及びbを用いる。
5.けん化価
けん化価とは、試料1g中に含まれるエステルのけん化及び遊離酸の中和に要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。
別に規定する量の試料を精密に量り、200mLのフラスコに入れ、0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液25mLを正確に量って加え、還流冷却器を付けて水浴中で1時間穏やかに加熱する。冷後、アルカリを0.5mol/L塩酸で滴定する。終点の確認には、指示薬(フェノールフタレイン試液1mL)又は電位差計を用いる。別に空試験を行い、次式によりけん化価を求める。
ただし、
a:空試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
b:本試験における0.5mol/L塩酸の消費量(mL)
M:試料の採取量(g)
6.酸価
酸価とは、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のmg数である。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「6.0以下(香料試験法)」とあるのは、次の方法によるとき、酸価が、6.0以下であることを示す。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。
試料約10gを精密に量り、エタノール(中和)約50mLを加え、必要な場合には、加温して溶かし、フェノールフタレイン試液数滴を加え、しばしば振り混ぜながら、ミクロビュレットを用い、0.1mol/L水酸化カリウム溶液で滴定する。終点の確認には、電位差計又は指示薬(フェノールフタレイン溶液3滴)を用いる。指示薬を用いる場合の終点は、液の淡赤色が約30秒間残るときとする。
ただし、
a:0.1mol/L水酸化カリウム溶液の消費量(mL)
M:試料の採取量(g)
7.香料のガスクロマトグラフィー
装置
一般試験法の項8.ガスクロマトグラフィーに準拠する。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。なお、試料が固体の場合、別に規定する溶媒に溶解した後、同様に操作する。
面積百分率法 この方法は、保存により不揮発成分等を生成せず、全ての成分が溶出し、かつ被検成分と不純物がクロマトグラム上で分離することが明らかな試料に用いる。検液注入後、測定時間内に現れる全ての成分のピーク面積の総和に対する被検成分のピーク面積百分率を求め、含量とする。ただし、試料が固体で溶媒に溶解する場合には、別に、溶媒で同様に試験を行い、溶媒由来のピークを確認後、溶媒由来のピークを除いたピーク面積の総和を100%とする。
操作条件(1)
沸点が150℃以上200℃未満の試料に適用する。
検出器 水素炎イオン化検出器又は熱伝導度検出器
カラム 内径0.25~0.53mm、長さ30~60mのフューズドシリカ管の内面に、ガスクロマトグラフィー用ジメチルポリシロキサン又はガスクロマトグラフィー用ポリエチレングリコールを0.25~1μmの厚さで被覆したもの
カラム温度 50℃で注入し、毎分5℃で230℃まで昇温し、230℃を4分間保持する。
注入口温度 225~275℃
検出器温度 250~300℃
キャリヤーガス ヘリウム又は窒素
流量 被検成分のピークが5~20分の間に現れるように調整する。
注入方式 スプリット
スプリット比 1:30~1:250(いずれの成分もカラムの許容範囲を超えないように設定する。)
測定時間 40分
操作条件(2)
沸点が150℃未満の試料に適用する。
検出器、カラム、注入口温度、検出器温度、キャリヤーガス、流量、注入方式、スプリット比及び測定時間は、操作条件(1)を準用する。
カラム温度 50℃で注入し、5分間保持した後、毎分5℃で230℃まで昇温する。
操作条件(3)
沸点が150℃未満で被検成分に比べ、想定される不純物の沸点が高い試料に適用する。
検出器、カラム、注入口温度、検出器温度、キャリヤーガス、注入方式及びスプリット比は、操作条件(1)を準用する。
カラム温度 50℃で注入し、5分間保持した後、毎分5℃で230℃まで昇温し、230℃を19分間保持する。
流量 被検成分のピークが5~10分の間に現れるように調整する。
測定時間 60分
操作条件(4)
沸点が200℃以上の試料に適用する。
検出器、カラム、注入口温度、検出器温度、キャリヤーガス、注入方式及びスプリット比は、操作条件(1)を準用する。
カラム温度 100℃以上で注入し、毎分5℃で230℃まで昇温し、230℃を分析時間終了まで保持する。なお、被検成分が5~20分の間に溶出するように初期温度と流量を設定する。
測定時間 60分
G01650
18.残留溶媒試験法
残留溶媒試験法は、食品添加物の製造工程で使用される揮発性有機化学物質の食品添加物中の残留量を測定する方法である。蒸留法、ヘッドスペース法又は限外ろ過法が用いられ、検液中の各揮発性有機化学物質はガスクロマトグラフィーにより測定される。
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「残留溶媒 2―プロパノールとメタノールの合計量0.10%以下(2g、第1法、装置A)」とあるのは、本品約2gを精密に量って試料とし、第1法により装置Aを用いて検液を調製し、試験を行うとき、2―プロパノールとメタノールの合計量0.10%以下であることを示す。
通例、蒸留装置を用いて蒸留し回収した液について、ガスクロマトグラフィーにより試験を行う。また、専用バイアル瓶に試料を精密に量り、溶媒を加えて密栓し、加温及び必要に応じてかくはん子を加えかくはんし、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより試験を行うことができる。加熱により分解物が生成する試料にあっては、試料に溶媒を加えて溶解し、遠心式限外ろ過ユニットを用いて、ろ液をガスクロマトグラフィーにより試験を行うこともできる。
第1法 蒸留法
別に規定するもののほか、以下の装置を用いる。
装置A
概略は、図1による。
A:ナス型フラスコ(300mL)
B:すり合わせ連結部
C:しぶき止め付き蒸留管
D:冷却器(冷却部長さ:200mm)
E:メスフラスコ(100mL)
装置B
概略は、図1による。
A:ナス型フラスコ(200mL)
B:すり合わせ連結部
C:しぶき止め付き蒸留管
D:冷却器(冷却部長さ:200mm)
E:メスフラスコ(50mL)
装置C
概略は、図1による。
A:ナス型フラスコ(100mL)
B:すり合わせ連結部
C:しぶき止め付き蒸留管
D:冷却器(冷却部長さ:300mm)
E:メスフラスコ(25mL)
図1
操作法
(1) 検液の調製
別に規定するもののほか、次の方法による。
(1) 装置Aを用いる方法
別に規定する量の試料をAに精密に量り、水200mLを加え、数個の沸騰石及びシリコーン樹脂約1mLを入れ、よく混和する。内標準液4mLを正確に量り、Eに入れ、装置を組み立て、Bを水で濡らす。Aを加熱し、泡がCに入らないように調整しながら1分間に2~3mLの留出速度で、留分が約90mLになるまで蒸留する。この留分に水を加えて100mLとし、検液とする。ただし、内標準液は、2―メチル―2―プロパノール溶液(1→1000)とする。
(2) 装置Bを用いる方法
別に規定する量の試料をAに精密に量り、ホウ酸・水酸化ナトリウム緩衝液100mLを入れ、よく混和し、沸騰石を加える。内標準液2mLを正確に量り、Eに入れ、装置を組み立て、Bを水で濡らす。Aを加熱し、1分間に2~3mLの留出速度で、留分が約45mLになるまで蒸留する。この留分に水を加えて正確に50mLとし、検液とする。ただし、内標準液は、2―メチル―2―プロパノール溶液(1→1000)とする。
(3) 装置Cを用いる方法
別に規定する量の試料をAに精密に量り、1―ブタノール10mLを入れ、よく混和し、沸騰石を加える。内標準液2mLを正確に量り、Eに入れ、装置を組み立て、Bを1―ブタノールで濡らす。Aを180℃に加熱して約1時間かけ、留分が約9mLになるまで蒸留する。留分を集めたEに1―ブタノールを加えて25mLとし、検液とする。ただし、内標準液は、2―ブタノール・1―ブタノール溶液(3→10000)とする。
(2) 試験
別に規定するもののほか、次の操作条件でガスクロマトグラフィーを行う。
操作条件
検出器 水素炎イオン化検出器
カラム 内径0.25mm、長さ60mのフューズドシリカ管の内面に、ガスクロマトグラフィー用25%ジフェニル75%ジメチルポリシロキサンを1.4μmの厚さで被覆したもの
カラム温度 40℃で注入し、6分間保持した後、毎分4℃で110℃まで昇温し、更に毎分25℃で250℃まで昇温し、250℃を10分間保持する。
注入口温度 200℃付近の一定温度
検出器温度 250℃
キャリヤーガス 窒素又はヘリウム
流量 被検成分のピークが4~20分の間に現れるように調整する。
スプリット比 1:30~1:250(いずれの成分もカラムの許容範囲を超えないように設定する。)
G01700
19.紫外可視吸光度測定法
紫外可視吸光度測定法は、通例、波長200nmから800nmまでの範囲の光が、物質により吸収される度合いを測定し、物質の確認、純度の試験、定量等を行う方法である。ただし、原子吸光光度計を用いる方法は、別に規定する方法による。物質の溶液の紫外・可視吸収スペクトルは、その物質の化学構造によって定まる。したがって、種々の波長における吸収を測定して物質を確認することができる。通例、吸収の極大波長(λmax)又は極小波長(λmin)における一定濃度の溶液の吸光度を測定して、確認試験、純度試験及び定量法に用いる。
単色光が、ある物質の溶液を通過するとき、透過光の強さ(I)の入射光の強さ(I0)に対する比率を透過度(t)といい、これを百分率で表したものを透過率Tという。また、透過度の逆数の常用対数を吸光度(A)という。
t=I/I0 T=I/I0×100=100t A=log(I0/I)
吸光度(A)は、液の濃度(c)及び層長(l)に比例する。なお、層長(測定した溶液層の長さ)は、光路長又はセル長という場合もある。
A=kcl(kは定数)
lを1cm、cを吸光物質の濃度1w/v%溶液に換算したときの吸光度を比吸光度(画像25 (2KB)
)、lを1cm、cを吸光物質の濃度1mol/L溶液に換算したときの吸光度をモル吸光係数(ε)という。吸収極大の波長における分子吸光係数は、εmaxで表す。
画像26 (2KB)
又はεを求める場合には、次式による。
ただし、
A:測定で得た吸光度
c:溶液の濃度(w/v%)
l:層長(cm)
ただし、
A:測定で得た吸光度
c:溶液の濃度(mol/L)
l:層長(cm)
以下、本試験法を用いる場合において、例えば、「画像29 (5KB)
」とあるのは、波長265nmにおいて別に規定する方法により、吸光度を測定するとき、画像30 (2KB)
が445~485であることを示す。
装置及び調整法
測定装置として分光光度計又は光電光度計を用いる。測光方式には単光束(シングルビーム)及び複光束(ダブルビーム)がある。単光束型の装置の場合、対照及び試料の順に測定を行う。複光束型の装置では、通例、対照及び試料を各々の光路に置き、同時に測定する。
あらかじめ分光光度計又は光電光度計に添付されている操作方法により装置を調整した後、波長及び透過率が以下の試験に適合することを確認する。
波長は、波長校正用光学フィルターを用い、それぞれのフィルターに添付された試験成績書の試験条件で試験成績書に示される基準値の波長付近における透過率を測定し、透過率が極小値を示す波長を読み取る試験を行うとき、その測定波長及び基準値の波長のずれは±0.5nm以内で、測定を3回繰り返して行うとき、測定値はいずれも平均値±0.2nm以内である。なお、重水素放電管の486.00nm若しくは656.10nm又は低圧水銀ランプの253.65nm、365.02nm、435.84nm若しくは546.07nmの輝線を用いて試験を行うことができる。このときの測定波長及び輝線の波長のずれは±0.3nm以内で、測定を3回繰り返して行うとき、測定値はいずれも平均値±0.2nm以内である。
透過率又は吸光度は、透過率校正用光学フィルターを用い、それぞれのフィルターに添付された試験成績書の試験条件で試験成績書に示される基準値の波長における透過率を読み取る試験を行うとき、その測定透過率と基準透過率のずれは試験成績書に示された相対精度の上限値及び下限値にそれぞれ1%を加えた値以内で、測定を3回繰り返して行うとき、吸光度の測定値(あるいは透過率の測定値を吸光度に換算した値)は、吸光度が0.500以下のとき、いずれも平均値±0.002以内にあり、吸光度が0.500を超えるとき、いずれも平均値±0.004以内にある。なお、同一波長において透過率の異なる透過率校正用光学フィルターの複数枚を用い、透過率の直線性の確認を行うことが望ましい。
操作法
あらかじめ装置及び調整法の項に規定する方法により調整した装置を用い、光源、検出器、装置の測定モード、測定波長又は測定波長範囲、スペクトル幅、波長走査速度等を選択し、設定する。装置を作動させて一定時間放置し、装置が安定に作動することを確認する。次に、通例、試料光路にシャッターを入れて光を遮り、測定波長又は測定波長範囲での透過率の指示値がゼロ%になるように調整する。さらに、シャッターを除き、測定波長又は測定波長範囲での透過率の指示値が100%(又は吸光度がゼロ)になるように調整する。
通例、試料測定に先立ってブランク(対照液を入れたセル等)を光路に置き、透過率の指示値を100%(又は吸光度を0)に調整する。対照液には、別に規定するもののほか、試験に用いた溶媒を用いる。
次に、測定しようとする溶液を入れたセルを光路に置き、目的とする測定波長における吸光度又は目的とする測定波長範囲における吸収スペクトルを測定する。
なお、セルは、通例、紫外部の吸収測定には石英製、可視部の吸収測定にはガラス製又は石英製のセルを用い、別に規定するもののほか、層長は、1cmとする。また、紫外部の吸収測定に用いる溶媒の吸収については特に考慮し、測定の妨げにならないものを用いる。
溶液の濃度は、単光束吸光光度法で測定を行う場合には、測定で得た吸光度が0.2~0.7の範囲、複光束吸光光度法で測定を行う場合には、0.4~1.4の範囲となるものが適当で、液の吸光度がこれより高い値を示す場合には、適当な濃度まで溶媒で薄めた後、測定する。
G01800
20.色価測定法
色価測定法は、紫外可視吸光度測定法により吸光度を測定し、着色料中の色素濃度(色価)を測定する方法である。通例、色価は、着色料溶液の可視部での吸収極大の波長における吸光度を測定し、10w/v%溶液の吸光度に換算した数値(画像31 (2KB)
)で表す。
操作法
別に規定するもののほか、次の方法による。
表示された色価により、表に示される試料の量を精密に量り、メスフラスコに入れ、別に規定する溶媒約10mLを加えて溶かし、更に溶媒を加えて正確に100mLとし、必要な場合には、遠心分離又はろ過し、試料液とする。この試料液を吸光度測定用の検液とする。ただし、吸光度の測定には、検液の吸光度が、単光束吸光光度法で測定を行う場合には0.2~0.7の範囲、複光束吸光光度法で測定を行う場合には0.4~1.4の範囲に入るように、必要な場合には、表に示される希釈倍率に従って試料液を正確に希釈し、検液とする。
検液を調製した溶媒を対照とし、別に規定する波長で層長1cmでの吸光度Aを測定し、次式により色価を求める。色価の測定は、調製後の退色による影響を避けるため、検液の調製後、速やかに行うものとする。
ただし、
D:測定吸光度が、適切な範囲に入るように調整するための希釈倍率
M:試料の採取量(g)
色価 |
測定濃度(%) |
吸光度 |
希釈方法 |
試料液全量を希釈したときの液量(mL) |
D |
20 |
0.25 |
0.5 |
0.25g→100mL |
100 |
1 |
50 |
0.10 |
0.5 |
0.1g→100mL |
100 |
1 |
100 |
0.05 |
0.5 |
0.5g→100mL→10mL→100mL |
1000 |
10 |
200 |
0.03 |
0.6 |
0.6g→100mL→5mL→100mL |
2000 |
20 |
400 |
0.015 |
0.6 |
0.3g→100mL→5mL→100mL |
2000 |
20 |
500 |
0.01 |
0.5 |
0.2g→100mL→5mL→100mL |
2000 |
20 |
700 |
0.01 |
0.7 |
0.2g→100mL→5mL→100mL |
2000 |
20 |
800 |
0.00625 |
0.5 |
0.25g→100mL→5mL→200mL |
4000 |
40 |
900 |
0.005 |
0.45 |
0.2g→100mL→5mL→200mL |
4000 |
40 |
1000 |
0.006 |
0.6 |
0.3g→100mL→5mL→250mL |
5000 |
50 |
1500 |
0.003 |
0.6 |
0.4g→100mL→5mL→50mL→5mL→50mL |
10000 |
100 |
2000 |
0.003 |
0.6 |
0.3g→100mL→5mL→50mL→5mL→50mL |
10000 |
100 |
2500 |
0.002 |
0.5 |
0.2g→100mL→5mL→50mL→5mL→50mL |
10000 |
100 |