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○治療用放射性医薬品の非臨床試験と臨床試験デザインに関するガイドラインについて

(令和7年8月1日)

(医薬薬審発0801第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

今般、放射性医薬品評価推進事業(令和5~6年度)及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構における令和7年度医薬品等規制調和・評価研究事業「セラノスティクス対応放射性医薬品の試験要件についての評価研究」(研究代表者:国立医薬品食品衛生研究所 斎藤嘉朗 所長)において、医薬品の承認申請の目的で実施される治療用放射性医薬品の非臨床試験と臨床試験デザインについて、ガイドライン策定のための検討を行いました。その結果を踏まえて、今般、別添のとおりガイドラインを取りまとめましたので、貴管下関係業者等に対し周知方御配慮願います。

なお、本ガイドラインは、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであり、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。

また、本通知の写しについて、別記の団体等宛てに連絡するので、念のため申し添えます。

別記

日本製薬団体連合会

日本製薬工業協会

米国研究製薬工業協会在日執行委員会

一般社団法人欧州製薬団体連合会

日本放射性医薬品協会

一般社団法人日本核医学会

独立行政法人医薬品医療機器総合機構

国立医薬品食品衛生研究所

各地方厚生(支)局

[別添]

治療用放射性医薬品の非臨床試験と臨床試験デザインに関するガイドライン

2025年7月

目次

1.緒言

1.1 背景

1.2 目的

1.3 一般原則

1.4 適用範囲

2.非臨床評価試験及び項目

2.1 薬効薬理

2.2 安全性薬理

2.3 薬物動態

2.4 線量評価

2.5 毒性

2.5.1 一般毒性評価

2.5.2 遺伝毒性、生殖発生毒性及びがん原性評価

2.5.3 免疫毒性評価

2.5.4 光安全性評価

2.5.5 局所刺激性評価

2.5.6 代謝物の評価

2.5.7 不純物の評価

2.5.8 放射線遅発毒性評価

2.6 第Ⅰ相臨床試験の実施までに必要な非臨床安全性評価

2.7 製造販売承認申請までに必要な毒性評価

3.臨床試験デザイン

3.1 ヒトに初めて投与する際の初回投与量

3.1.1 放射線投与量

3.1.2 質量投与量

3.2 臨床試験での増量計画と最高投与量

3.3 医薬品の併用

4.他の考慮すべき事項

4.1 避妊

4.2 授乳

用語解説

引用文献

1.緒言

1.1 背景

このガイドラインにおける放射性医薬品とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条第1項に規定されている医薬品のうち、原子力基本法(昭和30年法律第186号)第3条第5号に規定される放射線を放出する放射性同位元素(放射性核種)を構造元素に持つ非密封の化合物及びそれらの製剤のことを言う。

放射性医薬品は、核医学において診断および治療の目的で使用され、以下のような特徴を有する。

●診断・治療ともに効能・効果は有効成分に含まれる放射性核種の核壊変又は核遷移により放出される放射線に基づいている。放射性核種標識化合物の非放射性核種部分は、標的部位に放射性核種を送達・集積させる役割を持ち、低分子化合物、ペプチド及び抗体等の標的部位に結合する分子が用いられる。放射性核種自身が特定の器官・組織への指向性を有する場合には、放射性核種単独で診断・治療に用いられる場合1もある。

●診断に用いられる放射性核種は、ガンマ線やX線などの透過性の高い光子を利用し、標的分子の発現、器官・組織の機能、及び血流状態などを可視化する目的で使用される。治療に用いられる放射性核種では、最も一般的に用いられる悪性腫瘍の治療に対しては、ベータ線やアルファ線などの高い細胞傷害能を有する放射線が利用される。標的部位への集積に要する時間など化合物の体内動態に影響されるものの、一般的には、診断に用いられる放射性核種は被ばく量低減の目的から物理的半減期の短いものが、治療に用いられる放射性核種では治療効果を見込める物理的半減期の長いものが選択される。

●一般に放射性医薬品の化合物としての投与量は微量であり、化合物自体が生体に影響を及ぼす可能性は低い場合が多い。

●診断に用いる放射性医薬品は主に単回投与で使用され、治療に用いる放射性医薬品は一定の間隔をあけて複数回の投与が実施される場合2が多い。

●診断用及び治療用放射性医薬品とも、臨床推奨用量は、有効性の他に標的臓器以外の放射線被ばく線量も考慮して決定する必要がある。特に細胞傷害性の高い放射性核種を用いる場合には、安全性の面から正常組織への被ばく線量を考慮する必要がある。

●近年、同一の標的部位への送達に機能する分子(リンカー等を含む場合がある)に異なる放射性核種を結合させ、放射線の性質の違いを利用した診断及び治療を融合したセラノスティクスという概念を利用した放射性医薬品の開発も行われている3

1.2 目的

放射性医薬品の非臨床及び臨床評価について、一般的な医薬品の製造販売承認申請に必要とされる非臨床・臨床試験のガイドライン等において適用条件が明確化されていないことを踏まえ、本ガイドラインでは、新規の治療用放射性医薬品の製造販売承認申請及び臨床試験開始に必要な非臨床試験、並びに臨床試験を実施する場合に考慮すべき基本的事項を提供する。治療用放射性医薬品は主に悪性腫瘍の治療に用いられる場合が多いが、その他、放射性医薬品が治療薬として用いられる疾患に対する開発も対象となり得る。

なお、本ガイドラインにおける治療用放射性医薬品とは、放射性核種を含み、その核壊変に伴い放出されるアルファ線、ベータ線等(以下、放射線)による疾病の治療を目的として、全身又は局所投与される医薬品である。

本ガイドラインは、3Rs(使用動物数の削減・動物の苦痛軽減・代替法の利用)の原則に従い動物及びその他の資源の不必要な使用を避けると共に、治療用放射性医薬品の開発を促進・加速し、かつ臨床試験の被験者を不必要な副作用から守ることを目的としている。

1.3 一般原則

治療用放射性医薬品の開発においては、有効性を期待する放射性核種及びそれ以外の非放射性成分(用語解説及び表1参照、標的部位への送達に機能する分子やリンカー分子等)の特性を考慮して非臨床及び臨床試験を実施する必要がある。なお、対象となる疾患及び非放射性成分の物理化学的特性を踏まえ、ICHガイドラインを適用して、非臨床及び臨床評価を実施することは可能である。

治療用放射性医薬品は、その放射性核種及び化合物形態が多様であるため、非臨床安全性試験について、ケースバイケースで柔軟な評価手法が必要な場合もある。また、開発中の治療用放射性医薬品の放射性核種及び/又は非放射性成分が、既に医薬品として承認されている場合には、それら成績を用いることで、新たな試験を実施しなくても良い場合がある。なお、類似構造を有する化合物の非臨床試験の成績を用いる場合には、化学構造等の違いが非臨床評価へ与える影響について、慎重な検討が必要である。

治療用放射性医薬品の非臨床安全性試験は、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準(以下、GLP)」に従って試験に関する資料を収集・作成する必要がある。しかしながら、放射性核種を用いる場合には、GLP適用下での試験実施が困難な場合も想定される。この場合には、GLP適用下で実施できない理由を示した上で、承認申請資料として十分な信頼性が確保可能な条件で、試験が実施される必要がある。

本ガイドラインは、現時点における科学的知見に基づく基本的な考え方をまとめたものである。従って、科学技術の進歩等を反映した科学的な合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしも本ガイドラインに示した方法での評価を求めるものではない。

1.4 適用範囲

本ガイドラインは腫瘍治療用放射性医薬品を始めとした治療用放射性医薬品を対象とする。なお、本ガイドラインの基本的な考え方は、診断用放射性医薬品の開発に対しても有用な場合がある。

2.非臨床評価試験及び項目

治療用放射性医薬品の非臨床評価は、放射性核種の壊変により生じる放射線の影響と非放射性成分の生体内への曝露により生じる影響に注目する必要がある。放射性核種の壊変により放出される放射線曝露に基づく影響については、放射線の種類と量を考慮して、非臨床安全性試験の項目の要否を検討することは可能である。放射線曝露による毒性に関しては、適切な文献情報等からの評価も可能である。一方、標識に用いた放射性核種の元素(非放射性核種を含む)及び/又は非放射性成分のうちの元素以外の部分について、ヒトへ医薬品としての投与経験が乏しい等、新規性の高い物質の場合には、非放射性成分(標識に用いた元素の安定同位体置換体、安定同位体がない場合は未標識体、用語解説及び表1参照)を用いて、医薬品の新規有効成分に準じた非臨床安全性評価が必要である。この場合、新規非放射性成分の非臨床安全性評価に必要な項目は、当該医薬品の物理化学的特性4及び適用疾患に応じて、ICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを参考とすることは可能である。

2.1 薬効薬理

第Ⅰ相臨床試験開始前に、臨床試験で用いる治療用放射性医薬品の対象疾患に対する薬理作用をin vitro及び/又はin vivo試験成績から評価する必要がある。また、疾患モデル等を用いたin vivo薬理試験の成績等から、治療用放射性医薬品の体内分布に関する情報、及び毒性試験に用いる適切な動物種選択に関する情報が得られる場合がある。in vivo薬理試験の結果から、動物における放射線の最大耐容線量を決定することも可能である。また、非放射性成分を用いて、受容体等の標的分子又は標的細胞への結合や取り込みに関して評価することも可能である。

2.2 安全性薬理

非放射性成分の生命維持に重要な器官の機能5に対する影響、及び標識に用いた放射性核種の元素(非放射性同位元素を含む)の生体影響が十分に評価されている場合には、治療用放射性医薬品を用いた安全性薬理試験を実施する意義は低い。一方、標識に用いた放射性核種の元素(非放射性同位元素を含む)及び/又は非放射性成分が医薬品としてヒトへの投与経験がない場合、医薬品の新規有効性成分と同様に、第Ⅰ相臨床試験開始前に、生命維持に重要な器官の機能5に対する影響を、主に非放射性成分を用いてICH S7A及びS7Bガイドラインに従って評価する必要がある。必要な試験項目については、治療用放射性医薬品の物理化学的特性及び適用疾患に応じて、ICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを参考に適宜選択する。

2.3 薬物動態

動物を用いた薬物動態試験の生体内分布及び線量評価の結果から、ヒト投与量を設定可能な場合がある。薬物動態試験は、ICH S3Aガイドライン、非臨床薬物動態試験ガイドライン、ICH S6ガイドラインに基づき、治療用放射性医薬品の物理化学的特性に応じて、吸収、分布、代謝及び排泄を評価することが有用と考える。分布は全身の器官・組織に関して評価を行う。投与に用いる物質は、治療用放射性医薬品、又は非放射性成分に適切な放射線標識した物質を用いて、その放射能により評価を行う。また、マスバランス評価に関しては、放射性核種を非放射性同位体に置き換えた物質で評価することも可能である。投与に用いる物質の選択の際には、化合物としての体内動態の評価の観点も考慮する。通常、単回投与が用いられるが、臨床使用で反復投与が実施される場合は、生体内における放射能の残留性や分布の変化を考慮して、反復投与試験が必要な場合もある。通常、一般毒性試験で使用する一種の動物を使用することでよい。また未標識体がヒトへの医薬品としての投与経験がない場合、未標識体の物理化学的特性に合わせて、新規有効成分医薬品と同様に薬物代謝への影響及び薬物相互作用に関して評価が必要な場合がある。

単回投与の場合、当該医薬品投与後十分なサンプリング期間を確保して(例:実効半減期の5倍)、時間放射能曲線を作成し、臓器中の放射能を経時的に評価する。サンプリング期間と頻度は、時間放射能曲線から信頼性ある薬物動態パラメータが算出できるよう、科学的な妥当性に基づき設定する。

動物を用いた薬物動態試験のデザインには、ヒトで予定されている臨床スケジュールのうち、放射性医薬品の薬物動態に影響を与え得る項目を取り入れる。例えば、計画された臨床試験において、甲状腺への放射性ヨウ素の取り込みを抑制させるために甲状腺保護剤での前処置が含まれる場合には、ヒトと同様な投与方法を動物へ適用した体内分布に関する試験を実施することが推奨される。

なお、子孫核種がある場合、治療用放射性医薬品の薬物動態試験およびそれに基づく線量評価には、有効成分に含まれる放射性核種だけでなく、その壊変により生成する放射性子孫核種も考慮する。従って、これらの試験をデザインするにあたっては、子孫核種の壊変及び半減期を考慮し、観察期間や測定方法を選択する必要がある。

2.4 線量評価

一般に有効成分を動物に単回投与し、原則として雌雄動物を用いて時間積分放射能を全身の器官・組織を対象に評価する。試験に使用する動物種は、少なくとも一種(薬理作用を示す動物が望ましい)で許容されうる。評価対象とする器官・組織を選択する場合は、その科学的妥当性を示す。ただし、標的への結合の有無に関わらず、一般に放射線の影響が大きいとされる骨髄、代謝排泄臓器である腎臓及び肝臓、並び雌雄生殖器は評価対象とすべきである。また、必要に応じて尿中及び糞中への排泄の評価も推奨される。

動物の器官・組織における時間放射能曲線から、ヒトの器官・組織における投与量に対する放射能集積率(%ID)、滞留時間、及び時間積分放射能を推定することが可能である。動物からヒトへの外挿方法については、用語解説(ヒトにおける線源臓器中の滞留時間及び放射能の推定)を参照のこと。他の方法を使用する場合には、計算方法の詳細及び妥当性を最終報告書中に示す必要がある。

2.5 毒性

2.5.1 一般毒性評価

治療用放射性医薬品の物理化学的特性及び適用疾患に応じて、投与期間、投与量、動物種選択等はICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを、試験方法については、ICH S4ガイドラインを参考に試験を実施する必要がある。なお、放射線曝露による細胞傷害性が期待される薬理効果であることを考慮すると、試験成績から無毒性量を求める意義は低く、新有効成分における非放射性成分の用量反応性の毒性が適切に評価可能な用量段階を設定し、例えばヒトで忍容可能な用量(STD10、HNSTD等)を求める観点から試験計画が立案されることも許容される。使用する放射性核種の壊変によるヒト器官・組織への影響、及び未標識体のヒトへの安全性が十分評価されている場合には、治療用放射性医薬品を用いた一般毒性試験を実施する意義は低いと考えられる。一方、未標識体のヒトへの安全性が十分評価されている場合でも放射性核種の壊変によるヒト器官・組織への安全性評価が十分でない場合には6、治療用放射性医薬品を用いた単回投与による一般毒性試験7で、全身毒性及びヒトへの忍容性を評価可能な場合がある。また、標識に用いた放射性核種の元素(非放射性同位元素を含む)及び/又は未標識体が医薬品としてヒトへの投与経験がない場合、医薬品の新規有効性成分と同じく、非放射性成分を用いた一般毒性試験の実施が必要なことに留意する必要がある。

2.5.2 遺伝毒性、生殖発生毒性及びがん原性評価

治療用放射性医薬品から放出される放射線は、デオキシリボ核酸(DNA)の損傷を生じることから、遺伝毒性及び発がん性を有し、男性及び女性の生殖細胞並びに胎児発育に対して潜在的な悪影響を及ぼす作用を有する。したがって、遺伝毒性、生殖発生毒性試験又はがん原性試験の実施は不要である。

2.5.3 免疫毒性評価

放射線曝露にともなう免疫系への悪影響はよく知られており、治療用放射性医薬品を用いた免疫毒性試験を実施する意義は低い。放射線曝露にともなう免疫系への毒性に加え、非放射性成分の作用が免疫系へ影響を与える可能性がある場合には、ICH S8ガイドラインに基づく評価が必要な場合がある。

2.5.4 光安全性評価

未標識体の光安全性が十分に評価されている場合には、治療用放射性医薬品を用いた光安全性評価を実施する意義は低い。一方、非放射性成分がヒトへ医薬品としての投与経験がない場合、非放射性成分を用いてICH S10ガイドラインに従って、外来患者を対象にした臨床試験実施前に光毒性の可能性に関する初期評価を、第Ⅲ相臨床試験前に必要に応じて実験的評価を行う。なお、未標識体のうちの標的部位への送達に機能する分子がバイオテクノロジー応用医薬品の場合には、ICH S6ガイドラインに従い評価する意義は低い。

2.5.5 局所刺激性評価

局所刺激性は、一般毒性試験の一部として、予定臨床適用経路により評価することが望ましく、独立した試験での評価は推奨されない。

2.5.6 代謝物の評価

治療用放射性医薬品の物理化学的特性及び適用疾患に応じて、ICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを参考に代謝物の特徴付けを行う。ただし、動物とヒトで異なる放射性代謝物(著しく異なる比率を含む)が生じる場合は、有効成分と異なる分布により安全性に影響を与える可能性があるため、有効成分と代謝物の放射線量及び分布を考慮したうえで安全性を評価し、放射線量曝露の観点から安全性が評価困難な場合は、非臨床試験での評価を行う。

2.5.7 不純物の評価

治療用放射性医薬品の物理化学的特性、及び適用疾患に応じて、ICH Q3A及びQ3Bガイドラインを参考に不純物の安全性を評価する。有効成分の合成過程で生じる不純物や製剤中の分解生成物等について当該ガイドラインに基づき安全性を評価する。なお、有効成分中に非放射性成分が含まれる場合において、非放射性成分の毒性試験で、十分な安全性評価が実施されている場合には、ICH Q3A及びQ3Bガイドラインに基づき改めて不純物として毒性試験を行う必要はない。治療用放射性医薬品の場合、放射線曝露は遺伝毒性を誘発することから、ICH Q3A及びQ3Bガイドラインに示されている遺伝毒性評価及びICH M7ガイドラインに従った変異原性不純物の安全性評価を実施する意義は低い。有効成分と異なる異核種不純物については、放射性核種の性質に基づき、放射線量について有効成分と比較した上で安全性を評価する。放射線量曝露の観点から安全性が評価困難な場合は、非臨床試験における評価を考慮する。

2.5.8 放射線遅発毒性評価

放射線遅発毒性は、治療用放射性医薬品が正常な器官・組織に高線量の電離放射線をもたらすことによって生じ、通常は不可逆的である。遅発性に起因する放射線毒性の評価は、患者の平均余命が長く放射線の遅発性有害作用の影響を受ける可能性がある場合に必要であり、放射線の分布(動物の体内分布及びヒトの線量評価から得られたもの)及び放射線の遅発毒性に関する文献に基づく考察、もしくは動物試験の実施により評価可能である。放射線遅発毒性の評価は、用量漸増臨床試験の開始前には完了するべきであるが、リスク・ベネフィットの観点に基づき、放射線遅発毒性試験の完了前に第Ⅰ相臨床試験を開始することは可能である。

動物試験で放射線遅発毒性を評価する場合は、「2.5.1 一般毒性試験」を参考とし、一般毒性試験で用いた一種の動物を用いて、放射線による急性(投与後数週間以内に発現)及び遅発性(長期潜伏期間後に発現)の影響を評価する。有効成分を用いて一般毒性試験を行う場合には、適切な回復期間を設定することにより、その回復性評価群における毒性発現状況にて評価することも可能である。一般的に、動物では放射線遅発毒性発現はヒトよりも短い期間で発生するとされているが、毒性発現の状況に応じて、長期間の観察が必要となる場合があることから、臨床試験計画を考慮した投与方法及び投与間隔、並びに投与終了後の適切な観察期間の設定が必要である。試験方法は、一般毒性評価に準じ、「2.5.1 一般毒性試験」が参考となる。標的臓器を選択した評価を行うことも許容されるが、標的臓器選択については、分布及び一般毒性試験等の成績から妥当性を示す必要がある。放射線遅発毒性を特定するために、関連するバイオマーカーを利用することも許容される。本試験の投与量設定は、線量に関連した放射線遅発毒性を特定可能な値を設定する必要がある。また遅発毒性の放射線又は非放射性成分の影響を正確に検討する方法として、溶媒対象の他に対照群として非放射性成分投与群を設定することも有用である。

2.6 第Ⅰ相臨床試験の実施までに必要な非臨床安全性評価

治療用放射性医薬品の物理化学的特性及び適用疾患等に応じて、本ガイドラインに加えてICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを参考として、必要な試験を実施する必要がある。通常、治療用放射性医薬品の場合、ヒトへの安全性又は忍容性、及び臨床評価を開始する妥当性が担保可能な安全性薬理、線量評価、一般毒性試験、及び薬効薬理が実施されれば、治験を開始することは可能である。

2.7 製造販売承認申請までに必要な毒性評価

治療用放射性医薬品の物理化学的特性及び適用疾患に応じて、本ガイドラインに加えてICH M3、ICH S6及びICH S9の各ガイドラインを参考として、必要な試験を実施する必要がある。治療用放射性医薬品の特性に応じた試験実施の要否については、当該ガイドライン項を参照されたい。

3.臨床試験デザイン

3.1 ヒトに初めて投与する際の初回投与量

治療用放射性医薬品の初回臨床試験における初回投与量は、有効成分の放射性物質投与量(放射線投与量)及び質量投与量に基づいて設定する必要がある。一般的に、治療用放射性医薬品の場合、放射線の影響が用量制限毒性となるため、主として非臨床試験における線量評価の結果に基づき、放射能曝露量を考慮して初回投与量を決定すべきである。

3.1.1 放射線投与量

ヒト初回投与量に関して、放射線投与量(体重又は体表面積当たりの放射能、あるいは固定投与放射能(Bq))は、動物における薬物動態データ及び線量評価データ、ヒト臓器における推定吸収線量、及び正常なヒト臓器の耐容線量に基づいて選択される必要がある。用語解説及び「2.3 薬物動態(体内分布)」、並びに「2.4 線量評価」に記載の通り、各線源臓器における経時的な放射能は、ヒト標的臓器中の推定吸収線量を求めるために動物からヒトへ外挿される。被験者への放射線投与量は、ヒト臓器における耐容線量に基づいて調整される。

治療用放射性医薬品の全身投与時の臓器耐容線量は、外部照射の耐容線量とは異なり得る。しかし、治療用放射性医薬品のヒトにおける内部被ばくによる臓器耐容線量の基準は現時点では存在しないため、まずは外部照射療法で得られた公表文献に記載されている耐容線量を治療用放射性医薬品に関しても使用することとなる。これらの値は外部照射療法用であるため、アルファ壊変における臓器の耐容線量へデータを外挿する場合には注意が必要である。なお、治療用放射性医薬品の臨床試験の結果より、外部照射療法の耐用線量が保守的である可能性を示唆する報告8もあり、世界的なコンセンサスが変化する可能性もある点にも注意が必要である。アルファ線放出核種を用いた治療用放射性医薬品の等価線量の推定においては、適切な生物学的効果比(RBE)を用いて吸収線量を算出する必要がある。外部照射によって得られた臓器耐容線量データを使用する場合のRBE値は、アルファ線に対しては当面5が推奨され、ベータ線及びガンマ線に対しては1が適用される。被験者の線量評価によって、合理的に治療時の安全な放射線投与量を導き出すことが可能となる。

投与量の設定にあたり、体内分布に関する試験における特定の臓器線量を評価する方法として、2つの関連する放射性医薬品のデータを用いる方法がある。片方の放射性医薬品の臨床試験データを基に、関連するもう片方の放射性医薬品のヒトにおける被ばく線量評価実施時の初期投与量を設定する方法などがある。

3.1.2 質量投与量

物質投与量に注目したヒト初回投与量について、非放射性成分の非臨床安全性試験成績を考慮する必要がある。非放射性成分を用いて一般毒性試験が実施されている場合には、「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」や進行がんを対象にした医薬品の場合はICH S9ガイドラインの考え方を参考に当該試験成績に基づき安全性の面から適切な用量が設定される必要がある。

3.2 臨床試験での増量計画と最高投与量

ICH E8ガイドラインや「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」のほか、進行がんを対象にした医薬品の場合はICH S9ガイドラインの考え方を参考にする。

3.3 医薬品の併用

ICH E8ガイドラインや「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」のほか、進行がんを対象にした医薬品の場合はICH S9ガイドラインの考え方を参考にする。

4.他の考慮すべき事項

4.1 避妊

治療用放射性医薬品による遺伝毒性、生殖発生毒性の悪影響を最小限に抑えるために、投与期間中及び投与終了後には一定期間の避妊が必要である。

「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス」に記載の通り、妊娠可能な女性被験者には、投与期間中及び投与終了後少なくとも実効半減期の5倍に相当する期間、さらに治療用放射性医薬品の最終投与後6カ月間の避妊が必要である。この場合、子孫核種についても半減期や放射線強度、生成量等を考慮して安全性を判断すべきである。また、妊娠可能な女性パートナーを有する男性被験者には、治験中及びその後少なくとも実効半減期の5倍に相当する期間、さらに治療用放射性医薬品の最終投与後3カ月間は避妊が必要である。

4.2 授乳

乳児は、成人と比較して放射線に対する感受性が高く、成人と比較して低い被ばく線量で有害性を示す場合がある。従って、乳児の治療用放射性医薬品に対する曝露を避ける又は最小限にするために、授乳中の女性は、治療用放射性医薬品による治療期間中、及び可能であれば最終投与後一定の期間は授乳しない等、措置が必要である。女性が授乳すべきでない期間については、乳児への放射線実効線量が1ミリシーベルト以下になるように設定する9。また、非放射性成分の乳汁を介した乳児への曝露リスクについては、通常の医療用医薬品における評価に準拠して行う。

――――――――――

1 甲状腺指向性のヨウ素製剤、骨指向性のラジウム製剤など

2 塩化ラジウム(223Ra)注射液:4週間間隔で最大6回、ルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)注射液:8週間間隔で最大4回、塩化ストロンチウム(89Sr)注射液:再投与する場合は3カ月以上の間隔等

3 Burkett BJ, et al., A Review of Theranostics:Perspectives on Emerging Approaches and Clinical Advancements. Radiol Imaging Cancer. 2023;5(4):e220157.

4 低分子化合物、合成ペプチド又はバイオテクノロジー応用医薬品等

5 心血管系、呼吸器系、中枢神経系

6 新規性の高い放射性核種を用いる場合に、その生体への影響が不明な場合を想定

7 試験方法は、拡張型単回投与毒性試験(ICH M3、7.3項 表3)を参照

8 Bergsma H, et al., Nephrotoxicity after PRRT with 177Lu‐DOTA‐octreotate. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2016;43(10):1802‐1811. Cremonesi M, et al., Correlation of dose with toxicity and tumour response to 90Y‐and 177Lu‐PRRT provides the basis for optimization through individualized treatment planning. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2018;45(13):2426‐2441.

9 ICRP Publication 60(ICRP 1990年勧告)において、公衆の被ばく線量限度は、実効線量1mSvを超えないよう防護すべきと勧告されている。

用語解説

放射能:一定量の放射性物質の放射能は、単位時間当たりの壊変数又は遷移数である。放射能のSI単位はBqであり、これは1秒当たりの壊変数である。

物質(表1参照)

有効成分:承認が予定される治療用放射性医薬品分子を指し、放射性核種が分子内に含まれる。表1の①。

安定同位体置換体:有効成分の放射性核種が安定同位体に置換した物質。表1の②。同位体交換反応、あるいは比放射能活性の低い放射性核種原料を用いて製造した場合に製剤中に共存する。

未標識体:有効成分の放射性核種が非放射性核種反応基に置換、または核種不在の物質。表1の③。通常、同位体交換反応以外の製法の場合に製剤中に共存する可能性がある。キレート剤で特定の金属が配位していない場合も核種不在となる。

非放射性成分:このガイドラインにおいては、安定同位体置換体(表1の②)及び未標識体(表1の③)の総称。

線量評価:本ガイドラインでは、治療用放射性医薬品投与後の臓器における放射線の影響を測定すること及び特徴づけることを意味する。ある臓器における放射能又は吸収線量とその生物学的効果を含む。

臓器

線源臓器:治療用放射性医薬品を取り込む臓器であり、そのため高レベルの放射能を含む。

標的臓器:線源臓器からのエネルギーが堆積する臓器。例えば、線源臓器近くの臓器。線源臓器は全て標的臓器でもある。

動物を用いた体内分布及び線量評価におけるパラメータ並びにヒトへの外挿

累積放射能又は時間積分放射能(画像1 (10KB)別ウィンドウが開きます
):各臓器における時間の関数としての放射能(MBq)を時間で積分したものである。時間放射能曲線は、経時的な放射能の測定によって得ることができる。累積放射能は初期放射能A0(Bq単位)と滞留時間τ(時間)との関数である。

ヒトにおける線源臓器中の滞留時間及び放射能の推定

ヒトにおける値は、動物から得られたデータに基づいて推定することができる。動物のデータをヒトに外挿するための手法の一つとして、動物とヒトの臓器/体重比を使用するものがあり、以下に示す。

τ(ヒト)=τ(動物)×臓器重量(ヒト)/臓器重量(動物)×体重(動物)/体重(ヒト)

%ID(ヒト)=%ID(動物)×臓器重量(ヒト)/臓器重量(動物)×体重(動物)/体重(ヒト)

ここで、

%ID(ヒト):ヒトの臓器における放射能の投与放射能に対する割合

%ID(動物):動物の臓器における放射能の投与放射能に対する割合

動物からヒトへ外挿した値は、ヒトの標的臓器における吸収線量を推定するため、及びヒトの線量評価を裏付けるために使用することができる。

投与量

質量投与用量(Mass Dose):体重当たり又は体表面積当たりで投与される非放射性化合物の投与量(質量単位)。

放射線投与量(Radiation Administered Dose):動物又は患者に投与される放射能であり、放射能の単位(MBqなど)で表される。

吸収線量(D):臓器又は組織の単位質量当たりの預託電離放射線エネルギー。吸収線量のSI単位はGyであり、1Gy=1J/kgである。

等価線量(H):放射線の吸収線量と生物学的効果の両方を考慮した、放射線量が生物学的に与える影響の尺度であり、放射線の種類に依存する。SI単位はシーベルト(Sv)である。

等価線量は生物学的効果比(RBE)に依存する。

H(Sv)=RBExD(Gy)

生物学的効果比(RBE):対象とする放射線と基準放射線とが生体に等しい変化を与えるときに、前者の吸収線量を後者の吸収線量で割って得られる値である。通常、基準の放射線としてはX線またはガンマ線が用いられる。これは、同じ吸収線量であっても、放射線の種類の違いにより生物に及ぼす効果に量的な差があることを示している。

治療用医薬品に関しては、アルファ線に対して当面RBE5を割り当てることができると考えられる。これは、同じ吸収線量(Gy)をもたらすガンマ線に比較して、アルファ線照射では毒性が5倍高いことを表している。

半減期

生物学的半減期:生体系における半減期。

物理的半減期:放射性核種自体の半減期。周囲条件の影響を受けず、生体系から独立している。

実効半減期:生体系における放射性核種の半減期であり、物理的半減期及び生物学的半減期を共に考慮する。

実効半減期は、下記のように計算により、又は実験的に得ることができる。物理的半減期Tp、生物学的半減期Tbから、実効半減期Teは次式のように算出される。

1/Te=1/Tp+1/Tb

表1 治療用放射性医薬品の非臨床試験に用いられる化合物の種類

本ガイドラインでの分類

有効成分

非放射性成分

化合物の種類

①有効成分

②安定同位体置換体

③未標識体

構造

●―◇―Ar

●―◇―As

●―◇―(Xs)

放射性核種

含む

不含

不含

製剤中の存在

ある

ない/ある

ある/ない

例:リンカーあり

●―◇―90Y

●―◇―89Y

●―◇―(Xs)

リンカーなし

●―131I

●―127I

●―(Xs)

無機物

◇―89Sr

◇―88Sr

●:標的部位への送達に機能する分子(ない場合も含む)

◇:リンカーまたは無機塩におけるイオン対(ない場合も含む)

Ar:元素Aの放射性核種

As:元素Aの安定核種

Xs:A以外の元素Xの安定核種又は反応基(ない場合も含む)

なお、本ガイドラインでは、リンカーに、必要に応じてキレート部位を含むものとする。

引用文献

・ICH Q3A:「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの改定について」の一部改定について、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発第1204001号、平成18年12月4日

・ICH Q3B:「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定について」の改定について、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発第0703004号、平成18年7月3日

・ICH S3A:トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンスについて、厚生省薬務局審査課長、薬審第443号、平成8年7月2日

・ICH S4:単回及び反復投与毒性試験ガイドラインの改正について、厚生省薬務局新医薬品課長、薬新薬第88号、平成5年8月10日、

・ICH S4:反復投与毒性試験に係るガイドラインの一部改正について、厚生省医薬安全局審査管理課長、医薬審第655号、平成11年4月5日

・ICH S6(R1):「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0323第1号、平成24年3月23日

・ICH S7A:安全性薬理試験ガイドラインについて、厚生労働省医薬局審査管理課長、医薬審発第902号、平成13年6月21日

・ICH S7B:ヒト用医薬品の心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性に関する非臨床的評価について、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発1023第4号、平成21年10月23日

・ICH S8:医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発第0418001号、平成18年4月18日

・ICH S9:抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0604第1号、平成22年6月4日

・ICH S10 医薬品の光安全性評価ガイドラインについて、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0521第1号、平成26年5月21日

・ICH E8(R1):「臨床試験の一般指針」の改正について、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、薬生薬審発1223第5号、令和4年12月23日

・ICH M3(R2):「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について、厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0219第4号、平成22年2月19日

・非臨床薬物動態試験ガイドラインについて、厚生省医薬安全局審査管理課長、医薬審第496号、平成10年6月26日

・「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」の改訂等について、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、薬生薬審発1225第1号、令和元年12月25日

・医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンスについて、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長、薬生薬審発0216第1号、薬生安発0216第1号、令和5年2月16日

各ICHガイドラインの改訂版が作成された場合は、改訂版も参照すること。

ガイダンス作成

放射性医薬品評価推進事業(令和5~6年度)

国立研究開発法人日本医療研究開発機構における令和7年度医薬品等規制調和・評価研究事業「セラノスティクス対応放射性医薬品の試験要件についての評価研究」(研究代表者:国立医薬品食品衛生研究所 斎藤嘉朗 所長)