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○予防接種法施行令の一部を改正する政令等の施行について(施行通知)

(令和7年3月31日)

(感発0331第9号)

(各都道府県知事・各市町村長・各特別区長あて厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部長通知)

(公印省略)

予防接種法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第80号)、新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済に関する特別措置法施行令の一部を改正する政令(令和7年政令第81号)及び予防接種法施行規則及び予防接種実施規則の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第24号)については令和7年3月26日に、予防接種に関する基本的な計画の一部を改正する件(令和7年厚生労働省告示第109号)については同月31日に公布され、令和7年4月1日から施行されることとなったところである。

その改正の内容は下記のとおりであるので、十分了知の上、関係機関等に対する周知方お願いする。

第1 予防接種法施行令の一部改正について

1 帯状疱疹ほうしんを、予防接種法(昭和23年法律第68号。以下「法」という。)第2条第3項第3号の政令で定める疾病に位置づけるとともに、予防接種法施行令(昭和23年政令第197号。以下「施行令」という。)第3条においてその対象者を次の(1)及び(2)と定めること。

(1) 65歳以上の者

(2) 60歳以上65歳未満の者であって、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を有するものとして厚生労働省令で定めるもの

2 令和7年4月1日から令和8年3月31日までの間、ヒトパピローマウイルス感染症に係る定期の予防接種の対象者を次に掲げる者とすること。

1 12歳となる日の属する年度の初日から16歳となる日の属する年度の末日までの間にある女子

2 平成9年4月2日から平成21年4月1日までの間に生まれた女子であって、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間において、少なくとも1回以上ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種を受けたもの

3 医療手当等について

(1) 施行令第11条から第13条まで、第17条、第18条、第21条、第24条、第26条及び第28条に規定する給付の額は以下のとおりであること。

ア A類疾病に係る定期の予防接種及び臨時の予防接種(特定B類疾病(法第9条第1項に規定する「B類疾病のうち当該疾病にかかった場合の病状の程度を考慮して厚生労働大臣が定めるもの」をいう。以下同じ。)に係るものを除く。)

改正前の額

改正後の額

(ア) 医療手当


月8日以上の入院又は月3日以上の通院及び同一月の入通院


38,900円

39,900円

月8日未満の入院又は月3日未満の通院


36,900円

37,900円

(イ) 障害児養育年金


1級

1,669,200円

1,714,800円

2級

1,334,400円

1,371,600円

(ウ) 障害年金


1級

5,340,000円

5,481,600円

2級

4,272,000円

4,384,800円

3級

3,202,800円

3,289,200円

(エ) 障害児養育年金及び障害年金に係る介護加算


1級

854,400円

878,400円

2級

569,600円

585,600円

(オ) 死亡一時金

46,700,000円

48,000,000円

(カ) 葬祭料

215,000円

219,000円

イ B類疾病に係る定期の予防接種

改正前の額

改正後の額

(ア) 医療手当


月8日以上の入院又は月3日以上の通院及び同一月の入通院


38,900円

39,900円

月8日未満の入院又は月3日未満の通院


36,900円

37,900円

(イ) 障害年金


1級

2,966,400円

3,045,600円

2級

2,373,600円

2,436,000円

(ウ) 遺族年金

2,594,400円

2,664,000円

(エ) 遺族一時金

7,783,200円

7,992,000円

(オ) 葬祭料

215,000円

219,000円

ウ 特定B類疾病に係る臨時の予防接種

改正前の額

改正後の額

(ア) 医療手当


月8日以上の入院又は月3日以上の通院及び同一月の入通院


38,900円

39,900円

月8日未満の入院又は月3日未満の通院


36,900円

37,900円

(イ) 障害児養育年金


1級

1,298,400円

1,334,400円

2級

1,038,000円

1,066,800円

(ウ) 障害年金


1級

4,153,200円

4,263,600円

2級

3,322,800円

3,410,400円

3級

2,491,200円

2,558,400円

(エ) 死亡一時金


生計維持者である場合

36,300,000円

37,300,000円

生計維持者でない場合

27,200,000円

28,000,000円

(オ) 葬祭料

215,000円

219,000円

(2) 令和7年3月以前の月分の各種健康被害の救済給付並びに同月31日以前の死亡に係る死亡一時金、遺族一時金及び葬祭料の額については、なお従前の例によること。

第2 新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済に関する特別措置法施行令の一部改正について

1 新型インフルエンザ予防接種による健康被害の救済に関する特別措置法施行令(平成21年政令第277号)第3条から第5条まで、第8条、第10条及び第12条に規定する給付の額は以下のとおりであること。

改正前の額

改正後の額

(1) 医療手当


月8日以上の入院又は月3日以上の通院及び同一月の入通院


38,900円

39,900円

月8日未満の入院又は月3日未満の通院


36,900円

37,900円

(2) 障害児養育年金


1級

1,298,400円

1,334,400円

2級

1,038,000円

1,066,800円

(3) 障害年金


1級

4,153,200円

4,263,600円

2級

3,322,800円

3,410,400円

(4) 障害児養育年金及び障害年金に係る介護加算


1級

854,400円

878,400円

2級

569,600円

585,600円

(5) 遺族年金


生計維持者である場合

3,630,000円

3,730,000円

生計維持者でない場合

2,720,000円

2,800,000円

(6) 遺族一時金


生計維持者である場合

36,300,000円

37,300,000円

生計維持者でない場合

27,200,000円

28,000,000円

(7) 葬祭料

215,000円

219,000円

2 令和7年3月以前の月分の各種健康被害の救済給付並びに同月31日以前の死亡に係る葬祭料の額については、なお従前の例によること。

第3 予防接種法施行規則及び予防接種実施規則の一部改正について

1 帯状疱疹ほうしんに係る定期の予防接種について

(1) 施行令第3条第1項で定める対象者のうち、第1の1の(2)の者は、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者とすること。

なお、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害の程度としては、「予防接種法の一部を改正する法律等の施行について」(平成13年11月7日付け厚生労働省健康局長通知)の第二の1の(1)のエにおいてインフルエンザに係る定期の予防接種の対象者について示している障害の程度を参照されたい。

(2) 帯状疱疹ほうしんの定期の予防接種の接種方法については、次のいずれかの方法により行うものとすること。

・ 乾燥弱毒生水痘ワクチンを皮下に注射するものとし、接種量は、0.5ミリリットルとする方法

・ 乾燥組換え帯状疱疹ほうしんワクチンを2月以上の間隔をおいて2回筋肉内に注射するものとし、接種量は、毎回0.5ミリリットルとする方法(医師が医学的知見に基づき必要と認める場合にあっては、当該ワクチンを1月以上の間隔をおいて2回筋肉内に注射するものとし、接種量は、毎回0.5ミリリットルとする方法)

(3) 帯状疱疹ほうしんの定期の予防接種を受けたことによるものと疑われる症状の報告の基準については、水痘の定期の予防接種と同様とすること。具体的な症状及び発生までの期間はそれぞれ次のアからエまでのとおりであること。

ア アナフィラキシー 4時間

イ 血小板減少性紫斑病 28日

ウ 無菌性髄膜炎(帯状疱疹ほうしんを伴うものに限る。) 予防接種との関連性が高いと医師が認める期間

エ その他医師が予防接種との関連性が高いと認める症状であって、入院治療を必要とするもの、死亡、身体の機能の障害に至るもの又は死亡若しくは身体の機能の障害に至るおそれのあるもの 予防接種との関連性が高いと医師が認める期間

2 予防接種済証について

予防接種法施行規則(昭和23年厚生省令第36号。以下「施行規則」という。)第4条第2項に基づく予防接種済証に係る様式第1号及び第2号について、それぞれ「都道府県市区町村長氏名」、「都道府県知事又は市区町村長氏名」とされているところ、「都道府県市区町村長」、「都道府県知事又は市区町村長」と改正し、氏名の記載までは不要とすること。

また、施行規則第4条第2項に基づく予防接種済証に係る様式第3号について、新たに「接種国」及び「証明書発行年月日」の記載を追加すること。

第4 予防接種に関する基本的な計画の一部改正について

法第3条第1項に基づき予防接種に関する基本的な計画(平成26年厚生労働省告示第121号。以下「基本計画」という。)が定められているところ、基本計画制定時からの予防接種施策を取り巻く状況の変化を踏まえ、同条第3項に基づき、基本計画に再検討を行い、以下に関して、所要の改正を行うこと。なお、基本計画の改正後全文については別紙を参照すること。

1 予防接種のデジタル化の着実な推進

国が、個人番号カードによる対象者確認の仕組みを前提としたシステムを整備することによる、接種事務の効率化、利便性の向上、接種率の迅速な把握等を実施すること。

また、予防接種データベースの構築及び当該データベースと公的データベース(NDB等)を連結した解析を実施すること。

2 科学的知見に基づいた予防接種施策の推進

平時から予防接種データベース等を活用し、公的データベース(NDB等)と連結した解析を行うなど、有効性・安全性評価の観点で詳細な分析を実施すること。

3 コロナの経験を踏まえた予防接種施策の推進

コロナの経験を踏まえた予防接種健康被害救済制度について体制の強化や審査手続の迅速化を行うこと。

また、科学的に正確でない受け取り方がなされうる情報への対応も含めた、国民の理解の促進に資する情報発信を推進すること。

4 その他予防接種施策の推進

予防接種に要する接種費用について、ワクチンに関する価格調査等の実施による接種費用の見える化、透明化の確保及び接種費用の適正化を行うこと。

現に我が国に存在する疾患に対し、疾病負荷が高い感染症を対象とした公衆衛生上必要性の高いワクチンの開発を推進すること。

ワクチンの需給ひっ迫に対する平時からの備えを進め、需給の変動に備えた取組方針の整理すること。

以上

[別紙]

○ 予防接種に関する基本的な計画

【はじめに】

昭和二十三年の予防接種法(昭和二十三年法律第六十八号。以下「法」という。)の制定以来、予防接種が、感染症の発生及びまん延の予防、公衆衛生水準の向上並びに国民の健康の保持に著しい効果を上げ、かつて人類にとって脅威であった天然痘の根絶や西太平洋地域における野生株ポリオウイルスの根絶等、人類に多大な貢献を果たしてきたことは、歴史的にも証明されているところである。

一方、平成の時代に入ってから、感染症の患者数が減少する中で予防接種禍集団訴訟に対する被害救済の司法判断が相次いで示され、より安全な予防接種の実施体制の整備が求められた。これを受けて平成六年に法が改正され、定期の予防接種(法第二条第四項に規定する定期の予防接種をいう。以下同じ。)を受ける法的義務は努力義務とされるとともに、法の目的に健康被害の救済に関する内容が追加された。さらに、予防接種事業に従事する者に対する研修の実施及び個別接種の推進等、有効かつ安全な予防接種の実施のための措置が講じられることとなった。

しかしながら、同時期に麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(MMR)ワクチンのムンプスウイルス成分による無菌性髄膜炎の発生頻度等が社会的に大きな問題となり、国民の予防接種に対する懸念は解消されなかった。

その後、約二十年にわたり、かつては水痘ワクチン及び百日せきワクチンの開発等、世界を牽引していた国内のワクチンの開発が停滞するとともに、定期の予防接種の対象疾病の追加がほとんど行われない状態が続いた。

現在、MMRワクチンについては、より副反応の発生頻度が低いワクチンの開発が望ましいとの厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会等での結論に基づき、ワクチン製造販売企業に対して開発要請を行い、定期接種化に向けた課題の整理、検討を行っている。

また、この間、平成二十五年度に定期の予防接種に導入されたヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについては、広範な慢性のとう痛や運動障害を中心とする多様な症状が接種後に見られたことから、平成二十五年六月以来積極的勧奨を差し控えていたところであるが、最新の知見を踏まえて安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、また、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められたことを踏まえ、令和四年四月から接種対象者等への個別勧奨を再開している。

さらに、過去に公的に予防接種を受ける機会がなかった昭和三十七年四月二日から昭和五十四年四月一日生まれの男性のうち、抗体価の低い男性については、令和元年度から令和六年度までの間、風しんの追加的対策の一環として定期の予防接種を行うなど、必要な対策を行ってきたところである。

これらの経験を踏まえ、今後の我が国の予防接種施策においては、有効性及び安全性等に関する科学的知見を継続的に収集・評価する体制を拡充し、これらの評価に基づいて適切に、定期の予防接種に係る判断を行う体制を強化すること、さらに、安全性等に関して、国民の理解が醸成されるよう、適切で効果的なコミュニケーションを実施することが求められる。

【計画の方向性】

本計画は、予防接種施策の中期的なロードマップを描くために制定されているものであるが、本計画が制定された平成二十六年度当時、予防接種行政の大きな課題は世界保健機関(以下「WHO」という。)が推奨しているワクチンの一部が法の対象となっておらず、他の先進諸国と比べて公的に接種プログラムの対象となるワクチンの数が少ない等、いわゆる「ワクチン・ギャップ」が生じていたことであり、それに対する対応を掲げてきた。その後、水痘、高齢者に対する肺炎球菌感染症、B型肝炎やロタウイルス感染症、新型コロナウイルス感染症を定期の予防接種の対象疾病として追加するなど、「ワクチン・ギャップ」の解消に努め、概ね解消してきたところである。

他方で、令和二年一月に我が国で最初の感染者が確認された新型コロナウイルス感染症は予防接種行政においても未有の経験となった。感染拡大を防止し、国民の生命及び健康を守るため、世界各国とのワクチン確保競争の中で、国がワクチンの確保を行い、医療機関で行う接種のほか、都道府県等又は自衛隊等が行う大規模接種や、職域又は大学における接種も行った上で、大半の国民に短期間で接種を行うという、通常の定期の予防接種等とは異なるオペレーションが求められた。そのため、国から現場への供給システムの構築や接種記録のデジタルによる管理等により、臨時の予防接種が実施された。

また、こうした経験を踏まえ、令和四年度に法が改正され、個人番号カードによる接種対象者の確認の仕組みの導入や、予防接種における有効性及び安全性の向上を図るため、予防接種の実施状況及び副反応疑い報告に係る情報を含む予防接種データベースの整備が講じられることとなった。その他、関連法において、ワクチンを含む感染症対策物資等の緊急時の生産要請等、国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある感染症の発生及びまん延に備えるための措置が講じられた。

さらに、法改正以外にも、新型コロナウイルス感染症を巡る経験を踏まえ、感染症有事に迅速にワクチンの開発・生産等が可能となるよう平時から長期的に取り組む戦略を示した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和三年六月一日閣議決定)や、感染症危機への対策として政府等が行うべき平時、有事の取組等を整理した「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」(令和六年七月二日閣議決定)が整備されている。

また、国立健康危機管理研究機構法(令和五年法律第四十六号)に基づき、国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し、令和七年四月一日に国立健康危機管理研究機構(以下「JIHS」という。)が設立された。JIHSは、感染症の発生及びまん延に備え、情報収集・分析・リスク評価機能、研究・開発機能、臨床機能といった機能を有しており、ワクチンに関してもそうした役割を主導することが期待されている。

本計画は、このような予防接種行政の歴史や周辺部分における動きを十分に踏まえつつ、予防接種に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画として、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」や「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」と整合性をとりながら、今後の予防接種に関する中期的なビジョンを示すものである。

第一 予防接種に関する施策の総合的かつ計画的な推進に関する基本的な方向

一 予防接種に関する施策の基本的理念

予防接種は、法第二条第一項において「疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを、人体に注射し、又は接種すること」と定義されている。

予防接種は、疾病予防という公衆衛生の観点及び個人の健康保持の観点から、社会及び国民に大きな利益をもたらしてきた一方、極めてまれではあるが不可避的に生ずる予防接種の副反応による健康被害をもたらしてきた。

このような事実についての十分な認識を踏まえ、国民の予防接種及びワクチンに関する理解と認識を前提として、我が国の予防接種施策の基本的な理念は「予防接種・ワクチンで防げる疾病は予防すること」とし、また、国は、予防接種施策の推進に当たっては、感染症の発生及びまん延の予防の効果と副反応による健康被害のリスクについて、利用可能な疫学情報を含めた科学的根拠を基に比較衡量することとする。さらに、予防接種施策に係る検討に当たっては、諸外国の取組も踏まえ、前述の予防効果及び健康被害のリスクのみならず、予防接種施策によって得られる人々の生活の質の向上を含めた社会的な利益や費用を含め、費用対効果評価等の手法を用いて、公衆衛生上の意義についての透明性のある評価を行う。

二 科学的根拠に基づく予防接種に関する施策の推進

国は、予防接種施策の推進の科学的根拠として、ワクチンの有効性、安全性及び費用対効果に関するデータ並びに学術論文等について可能な限りJIHSと連携して収集を行い、客観的で信頼性の高い最新の科学的知見に基づき、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会及び同分科会に設置された三つの部会(以下「分科会等」という。)で審議を行い、意見を聴いた上で、標準化された透明性のあるプロセスにおいて、予防接種施策に関する評価及び検討を行う。

具体的には、既に医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)上の製造販売承認を得、定期の予防接種に位置付けられたワクチンについては、ワクチンの有効性、安全性及び費用対効果について、分科会等の意見を聴いた上で、法上の位置付けも含めて評価及び検討を行う。

また、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律上の製造販売承認は得ているが、定期の予防接種に位置付けられていないワクチンについても、分科会等の意見を聴いた上で、定期の予防接種に位置付けることについて評価及び検討を行う。

第二 国、地方公共団体その他関係者の予防接種に関する役割分担に関する事項

予防接種施策を実施するに当たり、関係者の役割分担については以下のとおりとする。

一 国の役割

定期の予防接種の対象疾病、接種対象者、使用ワクチン、接種回数及び接種方法等については、分科会等の意見を聴いた上で、国が決定する。

また、法第二十三条の規定に基づき、予防接種に関する啓発及び知識の普及、予防接種の研究開発の推進及びワクチンの供給の確保等必要な措置、予防接種事業に従事する者に対する研修の実施等必要な措置並びに予防接種の有効性及び安全性の向上を図るために必要な調査及び研究について着実な実施を図るとともに、予防接種に係る間違いの発生防止のための取組や、副反応疑い報告制度及び予防接種健康被害救済制度について、円滑な運用を行う。

さらに、予防接種に関する海外からの情報収集及び全国的な接種率の把握等、都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)での対応が難しいものについては、国の役割として行う必要がある。

加えて、定期の予防接種の実施主体である市町村が、住民への情報提供を含め、接種に関する一連の事務を円滑に実施できるよう、関係者と調整を図るとともに、定期の予防接種の対象疾病、使用ワクチン及び接種回数等の見直しの検討を含めて、必要な財源の捻出及び確保等に努める必要がある。

二 都道府県の役割

都道府県は、予防接種に関して、医師会等の関係団体との連携、管内の市町村間の広域的な連携の支援、国との連絡調整並びに保健所及び地方衛生研究所の機能の強化等に取り組む必要がある。

例えば、予防接種に関わる医療従事者等の研修、地域の予防接種を支援するための中核機能を担う医療機関の整備及び強化、広域的な連携について協議する場を設けるための支援、緊急時におけるワクチンの円滑な供給の確保及び連絡調整、市町村における健康被害の救済の支援、予防接種の安全性の向上のための副反応疑い報告制度の円滑な運用への協力並びに予防接種の有効性の評価に資する感染症発生動向調査の実施への協力等に取り組むよう努める必要がある。

三 市町村の役割

市町村は、定期の予防接種の実施主体として、医師会等の関係団体との連携の下に、適正かつ効率的な予防接種の実施、予防接種に係る間違いの発生防止のための取組、健康被害の救済及び住民への情報提供等を行う。

また、予防接種の安全性の向上のための副反応疑い報告制度の円滑な運用及び予防接種の有効性の評価に資する感染症発生動向調査の実施への協力や、例えば、広域的な連携について協議する場を設けるといった広域的な連携強化等に取り組むよう努める必要がある。

四 医療関係者の役割

医療関係者は、適正かつ効率的な予防接種の実施及び医学的管理、入念な予診、予防接種に係る間違いの発生防止のための取組、被接種者及びその保護者へのワクチンの有効性及び安全性等に関する情報提供、予防接種健康被害救済制度及び予防接種の安全性の向上のための副反応疑い報告制度の円滑な運用、予防接種の有効性の評価に資する感染症発生動向調査の実施への協力並びにワクチンの最新知見の習得等に努める必要がある。

五 ワクチンの製造販売業者及び卸売販売業者の役割

ワクチンの製造販売業者は、安全かつ有効なワクチンの研究開発を行うほか、卸売販売業者とともにワクチンの安定的な供給並びに副反応情報の収集及び報告等を行う。

六 被接種者及びその保護者の役割

被接種者及びその保護者は、予防接種の効果及び副反応のリスクの双方に関する正しい知識を持った上で自らの意思で接種することについて、十分に認識し、理解する必要がある。

七 その他関係者の役割

報道機関、教育関係者及び関係学会等は、広く国民が予防接種の効果及び副反応のリスク等の情報について正しい知識を得られるよう、普及啓発に努めることが期待される。

第三 予防接種に関する施策の総合的かつ計画的な推進に係る目標に関する事項

一 基本的考え方

国は、予防接種の効果的な推進のため、予防接種の現状及び課題について、予防接種に関わる多くの関係者と共通認識を持った上で、科学的根拠に基づいて目標を設定するとともに、国民及び関係者に対してその目標及び達成状況について周知する。

これらの方針に基づき、予防接種事務のデジタル化の推進による接種事務の効率化と有効性及び安全性に対する評価の充実、定期の予防接種の接種率の向上並びに普及啓発及び広報活動の充実を当面の目標とする。

なお、本計画は、今後の状況変化等に的確に対応する必要があることから、法第三条第三項に基づき、少なくとも五年ごとに再検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものである。ただし、予防接種施策の実施状況並びにその効果、意義及び成果については、工程表を策定した上で分科会等の場で一年ごとにPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)による定期的な検証を行い、当該検証の結果を踏まえ必要があると認めるときは、五年を待つことなく本計画を見直すよう努めることとする。

二 予防接種事務のデジタル化の推進

前述のとおり、新型コロナウイルス感染症に係る特例臨時接種に当たっては、国がワクチン確保を行い、短期間で多くの方に接種を行う必要があったことから、国から現場への供給システムの構築や接種記録のデジタルによる管理等の仕組みを導入して、自治体における接種体制の確保を支援してきた。

こうした経験も踏まえ、予防接種事務のデジタル化の取組を進め、接種事務の効率化や、接種対象者の利便性の向上、接種率の迅速な把握等を行う。

具体的には、国は、個人番号カードによる対象者確認の仕組みを前提としたシステムを整備することにより、各市町村における接種記録の管理を効率化するとともに、住民の転出入があった場合でも、他市町村における過去の接種記録を確認できるようにする。また、医療機関においては、過去の接種記録の閲覧や接種間隔等のシステムによるチェックを可能にするとともに、市町村への費用請求の事務を効率化する。さらに、被接種者においては、スマートフォン等のデジタルデバイスを活用して、接種勧奨の通知の受取や予診票の回答を行うとともに、過去の接種記録等の閲覧をできるようにする。

また、予防接種事務のデジタル化を踏まえて、予防接種の有効性及び安全性の向上に資する分析に活用できるよう、国は予防接種記録や副反応疑い報告等の情報を格納した予防接種データベースを構築するとともに、公的データベース(以下「NDB等」という。)と連結したデータの活用及び第三者提供ができる基盤等を整備する。

その上で、有事においても的確に分析できるよう、国はJIHS等の関係する専門家と連携して、平時からNDB等と連結して予防接種データベースを活用し、有効性及び安全性評価の観点で詳細な分析を行う等、一層の取組を行う。特に、安全性について、接種者と非接種者における副反応疑いとして報告される疾患等の発生率の比較を、副反応疑い報告制度に基づく評価の追加的評価として必要に応じ実施する方向性で、技術的検討を進める。

これらの取組に当たり必要な技術的事項について、関係する専門家と連携して検討することとなるが、特にJIHSの役割は重要である。具体的には、予防接種に関するデータの分析を充実するために、JIHSは予防接種データベースの構築段階から、有効性及び安全性に係る分析手法の検討を進め、予防接種データベースを用いた分析が可能となった後には、ワクチンの有効性及び安全性(前述の「接種者と非接種者における副反応疑いとして報告される疾患等の発生率の比較」を含む。)に係る科学的知見を国に提供する。さらに、JIHSは予防接種データベースの運用を行うとともに、第三者提供業務の一部を実施する。

三 定期の予防接種の接種率の向上

感染症の発生及びまん延の予防の観点から、集団予防を目的とする定期の予防接種について高い接種率が求められるため、国、市町村等の関係者は接種率の向上のための取組を進める。

国は、接種率の把握について、現在進められている予防接種事務のデジタル化の取組を進め、より迅速かつ詳細な接種率を把握できるよう検討を進める。また、目標とすべきワクチンごとの接種率については、各ワクチンが対象とする疾患の予防対策における、ワクチンの意義や位置付けを踏まえた検討を進める。

四 普及啓発の推進及び広報活動の充実

国は、被接種者及びその保護者等に対し、感染症に関する情報、予防接種の効果、ワクチンの有効性及び安全性、副反応のリスク及び副反応を防止するための注意事項について、科学的知見をベースに国民の理解促進に資する情報発信を推進する。

また、世の中に誤解を与えかねない、ミスリードする可能性のある情報、科学的根拠や信頼できる情報源に基づいていない情報について、信頼できる知見を積極的に発信することによって、被接種者及びその保護者等に対し、広く注意喚起を行う。

具体的には、ホームページやSNS等を用いた情報発信や、リーフレット等の作成、報道機関への丁寧な説明、報道機関等とも連携を図り積極的に発信を行うことにより、予防接種に対する国民の理解の醸成を進める。その際、関係者は、必要に応じて協力をするよう努める。

また、国は、被接種者及びその保護者等にとって分かりやすい情報提供の在り方並びに普及啓発及び広報活動の有効性の検討もあわせて行う。

第四 予防接種の適正な実施に関する施策を推進するための基本的事項

一 予防接種に要する費用

予防接種に要する費用については、その多くが公費により負担されていることから、ワクチン価格や委託費等の費用について、可能な限り少ない費用で望ましい効果を得るとともに、透明性の確保や適正化に向けて、国、地方公共団体その他関係者が連携しながら努力をすることが必要である。

例えば、定期の予防接種の導入時に、国は、有効性及び安全性とともに費用対効果の確認を行うこと。また、必要な財源の捻出及び確保に努めること。さらに、導入後についても、医療機関等へのワクチン費用や技術料も含めた委託費の「見える化」のため、ワクチンに関する価格調査や市町村の委託費等について定期的に調査を実施し、その結果について国、地方公共団体その他関係者間での情報共有を行うことが重要である。

二 予防接種健康被害救済制度

定期の予防接種は、感染症の発生及びまん延の予防のため、法に基づく公的な制度として実施している中で、極めてまれではあるが予防接種の副反応による健康被害が不可避的に発生するという特殊性に鑑み、国家補償の観点から、法的な救済措置として健康被害の救済を実施しているものである。

予防接種健康被害救済制度については、引き続き科学的知見に基づいた客観的かつ中立的な審査を行うとともに、新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、体制強化を図り、審査手続の迅速化に努める。また、国、地方公共団体その他関係者は、国民にとって分かりやすい形で制度の趣旨や手続等に係る情報提供をする必要がある。

さらに、定期の予防接種に係る予防接種健康被害救済制度及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)が実施する医薬品副作用被害救済制度(任意の予防接種の場合)について、制度の周知及び広報の充実に取り組む必要がある。

三 予防接種記録の整備

市町村における予防接種記録の整備については、未接種の者を把握した上で接種勧奨を行うことによる定期の予防接種の接種率の向上及び予防接種歴の確認による接種事故の防止の点から効果的であり、予防接種健康被害救済制度の運用の点からも効率的である。また、被接種者や保護者にとっては接種スケジュールの確認や過去の接種歴の確認の点から、医療機関にとっては予診時の接種歴の確認等の点から効率的であり、さらに、予防接種データベースによるワクチンの有効性及び安全性の評価のためにも有用である。

このため、個人番号カードによる対象者確認の仕組みを前提としたシステムを整備することにより、各市町村における接種記録の管理を効率化する。

また、過去の予防接種歴が長期にわたり他の予防接種の可否の判断等に影響を与える可能性があること等を踏まえ、個人情報の取扱いや他の医療情報の取扱いにも留意しつつ、予防接種歴の保存期間を現行の五年間から延長することとし、国民に不利益が生じないように、具体的な保存期間や運用ルールを定めていくこととする。

今後、電子版母子健康手帳の取組状況も踏まえつつ、市町村における予防接種記録の整備と合わせて、引き続き、成人後も本人が予防接種歴を確認できるよう検討を進める必要がある。

第五 予防接種の研究開発の推進及びワクチンの供給の確保に関する施策を推進するための基本的事項

一 基本的考え方

国は、国民の予防接種及びワクチンに関する理解と認識を前提として、国民の健康保持並びに感染症の発生及びまん延の予防のため、「予防接種・ワクチンで防げる疾病は予防すること」という基本的な理念の下、現に我が国に存在する疾病に対し、疾病負荷の軽減が図れる等、医療ニーズ及び疾病負荷等の情報を踏まえ、疫学情報等を基に定期接種化を目指した公衆衛生上必要なワクチンの研究開発を推進する。なお、国が定めた重点感染症に対するワクチンの研究開発の推進については、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に基づき行われており、引き続き、診断薬・治療薬と合わせ感染症危機対応医薬品等として、その適切な在り方について重点感染症の議論の中で対応するものとする。

二 開発優先度の高いワクチン

本基本計画においては、上記のとおり、定期の予防接種の対象とすることを目指し、現に我が国に存在し、疾病負荷が高い感染症を対象とした公衆衛生上必要性の高いワクチンについて、研究開発の推進を図る。

具体的には、開発優先度の高いワクチンについて、企業における開発状況や医療ニーズ及び定期接種化の検討に必要な疾病負荷の情報等について、学会や開発企業等からデータの提出も求めた上で、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会において、評価・検討の上、具体的に定めることとする。また、そのリストについて、定期的(五年に一度程度)に見直しを行うものとする。

開発優先度の高いワクチンについては、定期接種化に関する検討の迅速化を図るため、開発後、薬事承認前から必要な情報の収集や整理を開始し、薬事承認後速やかにファクトシートの作成依頼ができるよう検討する。この検討において、不足している知見を特定し、当該知見が創出されるよう、JIHSを含む、研究機関や学会等の専門家と連携する。また、早期実用化支援としてPMDA相談等の薬事上の対応を検討する。

三 研究開発を促進するための関係者による環境作り

ワクチンの研究開発には、基礎研究から臨床研究まで幅広い知見が必要とされるものであり、国の関係機関、関係団体及びワクチン製造販売業者との間において十分かつ適切な連携が図られることが重要である。

JIHSにおいては、ワクチン候補株の開発を始めとする基礎研究から臨床研究への橋渡し等を実施するとともに、品質管理手法の向上を図っているところである。また、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所においても、新規ワクチンの創出に必要な基盤的技術の研究開発を行っている。さらに、感染症有事に向けたワクチンの研究開発を促進するための取組は、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」に基づき必要な政策が進められており、今後もこれらを含めた研究開発を促進するための取組を継続して行っていく。

四 ワクチンの生産体制及び流通体制

ワクチンの生産体制については、危機管理の観点から、国は、感染症有事において世界的に供給が不足するおそれがあるワクチンを国内で製造できる体制を整備する必要がある。

その他のワクチンについても、危機管理の観点では、国内で製造できる体制を確保する必要がある。一方で、財政支出の観点では、基本的には国内外問わずより良いワクチンがより低価格で供給され、同種のワクチンが複数のワクチン製造販売業者による価格競争の下で供給されることが望ましい。また、ワクチンの供給が単一の要因によって著しく阻害されないよう、平時からの安定供給の確保に向けた体制が整備されることが望ましい。

ワクチンの流通体制については、一般的にワクチン製造販売業者から卸売販売業者等を介して医療機関へ納入されている。また、一部の市町村では、卸売販売業者から定期の予防接種に使用するワクチンを一括購入し、医療機関へ納入する事例も存在する。

また、感染症の流行時等、一時的にワクチンの需給がひっ迫することがあるが、ワクチンは一般的に製造開始から出荷までに要する期間が長く、需要の変動に合わせて短期間で生産調整することが困難であるため、国、都道府県及び市町村の関与が不可欠である。このため、国は、平時からワクチン製造販売業者と連携し、短期間の需要の増加等による供給への影響の低減に取り組むとともに、ワクチンの需給ひっ迫が想定される場合には、例えば、同種のワクチンの製造販売業者を含めた前倒し出荷等のワクチンの生産に関する調整を行い、医療機関等に対して在庫状況や出荷計画、予防接種事務のデジタル化の取組により把握した接種率等の状況の情報提供を行い需要の適正化を図ることや、国、都道府県及び市町村が医師会及び卸売販売業者等関係者と連携して、ワクチンが偏在しないよう取り組むことを通じ、ワクチンの安定供給に努める必要がある。さらに、緊急時には需給の見通しが不透明となることに起因して需要が変動するおそれがあるため、国が平時から上記の取組の方針を整理し、関係者に周知し需給状況の明確化を図る。

第六 予防接種の有効性及び安全性の向上に関する施策を推進するための基本的事項

一 基本的考え方

国は、科学的根拠に基づくデータを可能な限り収集し、感染症発生動向調査による疾病の発生状況及び重篤度の評価、感染症流行予測調査による抗体保有状況の調査、副反応疑い報告の収集及びその評価並びにワクチンの国家検定による適正管理等を通じて、予防接種の有効性及び安全性の向上を図る。

二 副反応疑い報告制度

定期の予防接種の副反応疑い報告については、予防接種法の一部を改正する法律(平成二十五年法律第八号)及び「定期の予防接種による副反応の報告等の取扱いについて」(平成二十五年三月三十日付け健発〇三三〇第三号・薬食発〇三三〇第一号厚生労働省健康局長及び医薬食品局長連名通知)により、診断した医師等から国への報告の義務化及び保護者から市町村への報告制度の周知等の取組が強化されたが、同制度に基づく副反応疑い報告の確実な実施について、国は、都道府県、市町村、医師会及び関係学会等の協力の下に一層の取組を行う。

また、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会において、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づく副作用等報告とあわせて定期的に評価、検討及び公表する取組を引き続き行うとともに、特に死亡、重篤な副反応及び副反応の異常集積が報告された場合は必要に応じて都道府県、市町村及び地方衛生研究所の協力を得つつ、JIHSにおいて必要な検査及び調査を行うとともに、PMDAにおいて必要な調査を行う等、副反応疑い報告制度の着実な実施を図る。

あわせて、国は、PMDAにおける副反応疑い報告の収集、調査及び整理について電子化の推進も含め迅速に処理できるよう支援する。

さらに、国は、電子化の推進により副反応疑い報告制度の精度向上を図るとともに、副反応疑い報告の活用のため、副反応疑い報告の情報を予防接種データベースに格納し、接種記録や国が保有するNDB等によるレセプトデータ等と連結した解析により、有効性及び安全性について詳細な分析を行う等、一層の取組を進める。

三 科学的データの収集及び解析

既定の定期の予防接種のワクチンの評価及び新たなワクチンの導入の検討を行う場合、ワクチン接種の有効性及び安全性に関する科学的データを随時評価することが重要であり、国は、感染症患者、病原体及び抗体保有状況等の情報に関し、感染症発生動向調査及び感染症流行予測調査等により、収集及び解析をした上で検討を重ねることが重要である。

具体的な取組として、接種率を把握するため、定期の予防接種の対象者のうち実際に定期の予防接種を受けた者の割合を算出するとともに、副反応として報告される症状の自然発生率を把握するため、国が保有するレセプトデータ並びにその他各種調査及び統計の活用を図るよう努める。

また、感染症流行予測調査及び予防接種後の健康状況調査の実施を通じ、ワクチン導入後の当該ワクチンの有効性及び安全性の評価並びに起因病原体の動向の把握に努めるとともに、これらの調査で得られた情報について、様々な手法で総合的に評価する仕組みについて検討する必要がある。

こうした取組の推進には、地方公共団体、医療機関、JIHS、保健所及び地方衛生研究所の協力が重要であることから、これらの連携体制の強化に努める必要がある。

予防接種データベースについては、NDB等との突合ができ、これらを通じて、有効性及び安全性の評価について一層の取組を進める。特に、副反応の分析においては、予防接種データベースとNDB等を連結することにより、接種者と非接種者における副反応として報告される症状の発生率の比較が可能となることを踏まえ、こういった比較を、副反応疑い報告制度に基づく評価の追加的評価として実施する。

四 予防接種関係者の資質向上

医療従事者は、被接種者及びその保護者に対して予防接種の効果及び副反応に関する丁寧な説明を行うこと、特に接種医は基礎疾患を有する者等に対する慎重な予診を行うことが重要である。

一方、近年、接種ワクチンの種類及び回数が増加していることに伴い、接種スケジュール等が複雑化しており、接種事故への懸念及びワクチンの最新知見を習得する必要性が高まっていることを踏まえ、厚生労働省は、文部科学省、都道府県及び市町村、医師会等の関係団体並びに関係学会等と連携し、医療従事者を対象とした予防接種に関する継続的な教育、研修の充実を図る。

例えば、都道府県が実施している予防接種センター機能推進事業や公益財団法人予防接種リサーチセンターが行う地方公共団体の予防接種行政担当者及び予防接種に従事する医療従事者向けの研修等を活用し、そうした予防接種従事者の人材の質・量ともの確保を目指す。

第七 予防接種に関する国際的な連携に関する事項

一 基本的考え方

予防接種を取り巻く環境は国内外とも急速に変化しており、国は、WHO、その他の国際機関及び海外の予防接種に関する情報を有する国内機関との連携を強化して情報収集及び情報交換を積極的に行う。特に、季節性インフルエンザを始めとする病原体の変異が頻繁に起こる感染症については、流行する変異株を適切に予測しワクチン製造株等の選定を行う必要があることから、国内外の病原体の動向の把握に努める必要がある。また、諸外国における予防接種制度や諮問機関の動向及び最先端の研究開発の把握に努めるよう、取組の強化を図る必要がある。

二 日本の国際化に向けた対応

我が国の国際化の進展に伴い、国は、海外に渡航する者及び帰国する者への対応として、海外の予防接種に関する情報の提供及び海外で予防接種を受けた者の取扱いに関する検討を行うとともに、増加する在日外国人への対応として、接種スケジュール及び接種記録に関する情報の複数の言語による提供等について検討を進める必要がある。

また、海外渡航者が予防接種を受けやすい環境の整備について検討する必要がある。

第八 その他予防接種に関する施策の総合的かつ計画的な推進に関する重要事項

一 同時接種、接種間隔等の検討

定期の予防接種に位置付けられるワクチンが増え、新たなワクチンも研究開発されている中、より効果的かつ効率的な予防接種を推進する観点から、同時接種、接種間隔、接種時期及び接種部位に関して一定の検討が進められてきたが、同時接種や接種部位については、添付文書の記載や国際的な動向等も踏まえつつ、引き続き検討する必要がある。

二 関係部局間における連携

予防接種施策の推進に当たり、医療関係者及び衛生部局以外の分野、具体的には都道府県労働局等との連携及び協力が重要であり、その強化に努める必要がある。

また、児童及び生徒に対する予防接種施策の推進に当たっては、学校保健との連携が不可欠であり、厚生労働省及び都道府県・市町村衛生部局は、文部科学省及び都道府県・市町村教育委員会等の文教部局との連携を進め、例えば、必要に応じて学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第十一条に規定する就学時の健康診断及び第十三条第一項に規定する児童生徒等の健康診断の機会を利用して、予防接種に関する情報の周知を依頼する等、予防接種施策の推進に資する取組に努める必要がある。

三 その他の検討課題

これまで、予防接種施策は小児と高齢者を中心に進められてきた。他方で、ワクチンの役割は、乳幼児期を超えて、思春期、成人期、妊娠期、高齢期に至るまで、ライフステージ全般にわたる健康の維持と疾病予防へと拡大している。予防接種施策を検討する上で、各自の健康状態やリスクに応じた予防接種を、公衆衛生上どのように実施するかについて、検討を進める必要がある。

また、予防接種事務の実施主体は市町村であるが、その進め方が市町村ごとに異なることで、住民からのアクセスに差違が生じ、住民が不利益を被ることのないよう留意が必要である。

さらに、医学の進歩とともに、予防接種と類似した目的で使用される抗体製剤が開発されるなど、予防接種を取り巻く状況の変化を踏まえた施策の在り方を検討していく必要がある。