○「生体試料中薬物濃度分析法バリデーション及び実試料分析に関するガイドライン」について
(令和6年12月4日)
(医薬薬審発1204第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法が十分な信頼性を有することを保証するためのバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関して推奨される指針については、「「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」について」(平成25年7月11日付け薬食審査発0711第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)及び「「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン」について」(平成26年4月1日付け薬食審査発0401第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)(以下まとめて「旧通知」という。)において示してきたところです。
今般、化学薬品及び生物薬品の開発及び製造販売承認における生体試料中薬物濃度分析データの質と一貫性を保証するため、医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーション及びその分析法を用いた実試料分析に関して推奨される指針について、医薬品規制調和国際会議(ICH)における合意事項として、新たに「生体試料中薬物濃度分析法バリデーション及び実試料分析に関するガイドライン」を別添のとおり定めましたので、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。また、本通知の写しについて、別記の関係団体等宛てに発出するので、念のため申し添えます。
なお、本通知の適用に伴い、旧通知は廃止します。ただし、令和7年9月30日以前に開始された生体試料中薬物濃度分析は、旧通知に基づいた場合も医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき資料とすることができることとします。
(別記)
日本製薬団体連合会
日本製薬工業協会
米国研究製薬工業協会在日執行委員会
一般社団法人欧州製薬団体連合会
独立行政法人医薬品医療機器総合機構
(別添)
ICH M10
生体試料中薬物濃度分析法バリデーション及び実試料分析に関するガイドライン
目次
1.はじめに
1.1 目的
1.2 背景
1.3 適用範囲
2.一般的原則
2.1 分析法開発
2.2 分析法バリデーション
2.2.1 フルバリデーション
2.2.2 パーシャルバリデーション
2.2.3 クロスバリデーション
3.クロマトグラフィー
3.1 標準物質(標準品)
3.2 バリデーション
3.2.1 選択性
3.2.2 特異性
3.2.3 マトリックス効果
3.2.4 検量線及び定量範囲
3.2.5 真度及び精度
3.2.5.1 QC試料の調製
3.2.5.2 真度及び精度の評価
3.2.6 キャリーオーバー
3.2.7 希釈の妥当性
3.2.8 安定性
3.2.9 再注入再現性
3.3 実試料分析
3.3.1 分析単位
3.3.2 分析単位の判定基準
3.3.3 定量範囲
3.3.4 実試料の再分析
3.3.5 実試料の再注入
3.3.6 クロマトグラムの波形処理
4.リガンド結合法
4.1 主な試薬
4.1.1 標準物質(標準品)
4.1.2 重要試薬
4.2 バリデーション
4.2.1 特異性
4.2.2 選択性
4.2.3 検量線及び定量範囲
4.2.4 真度及び精度
4.2.4.1 QC試料の調製
4.2.4.2 真度及び精度の評価
4.2.5 キャリーオーバー
4.2.6 希釈直線性及びフック効果
4.2.7 安定性
4.3 実試料分析
4.3.1 分析単位
4.3.2 分析単位の判定基準
4.3.3 定量範囲
4.3.4 実試料の再分析
5.Incurred Sample Reanalysis(ISR)
6.パーシャルバリデーション及びクロスバリデーション
6.1 パーシャルバリデーション
6.2 クロスバリデーション
7.考慮すべき追加事項
7.1 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法
7.1.1 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法におけるQC試料
7.1.2 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における選択性、回収率及びマトリックス効果
7.1.3 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における平行性
7.1.4 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における真度及び精度
7.1.5 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における安定性
7.2 平行性
7.3 回収率
7.4 Minimum Required Dilution(MRD)
7.5 市販及び診断用キット
7.6 新技術又は代替技術
7.6.1 乾燥試料法
8.文書化
8.1 要約情報
8.2 バリデーション報告書及び生体試料中薬物濃度分析報告書のための文書項目
9.用語集
1.はじめに
1.1 目的
本ガイドラインは、化学薬品及び生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の定量に用いる生体試料中薬物濃度分析法のバリデーション及び実試料分析への適用のために推奨される指針を示したものである。本ガイドラインに示される原則を遵守することにより、化学薬品及び生物薬品の開発及び製造販売承認における生体試料中薬物濃度分析データの質と一貫性を保証することができる。
生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションの目的は、その分析法が使用目的に適していることを立証することにある。本ガイドラインの推奨事項からの変更は、適切な科学的根拠が示される場合には受け入れられる可能性がある。申請者が代替の方法を提示又は採用する場合には、分析法バリデーションの方法に関する重要な変更について規制当局と相談することが望ましい。
1.2 背景
生体マトリックス中に存在する化学薬品及び生物薬品、並びにその代謝物の濃度測定は、医薬品開発における重要な要素である。このような濃度測定によって得られる試験成績は、医薬品の安全性や有効性に関する規制当局の意思決定に寄与する。したがって、用いる生体試料中薬物濃度分析法は、規制当局による意思決定を支持するデータの信頼性を保証するため、その特性が十分に評価され、適切にバリデーションが行われ、その結果が文書化されることが極めて重要である。
本ガイドラインは、適切な場合、動物実験のための3Rの原則(動物使用数の削減、苦痛の軽減、代替法の活用)に従った医薬品の開発が促進されることを意図している。
1.3 適用範囲
本ガイドラインは、規制当局の意思決定の根拠として利用が想定される生体試料中薬物濃度分析法のバリデーション及び実試料分析について記述したものである。本ガイドラインは、規制当局に提出される、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施に関する基準(GLP)の原則に従って実施される非臨床トキシコキネティクス(TK)試験、臨床試験の代替として位置づけられる非臨床薬物動態(PK)試験、及び比較バイオアベイラビリティ/生物学的同等性(BA/BE)試験を含むすべての相の臨床試験において得られる生体試料(例えば、血液、血漿、血清、その他の体液、組織)中の化学薬品及び生物薬品とその代謝物の濃度測定に用いる生体試料中薬物濃度分析法に適用される。規制当局への提出を目的とする場合、主要なマトリックスについてはフルバリデーションを実施することが求められる。その他の付加的な位置づけのマトリックスについては、必要に応じ、バリデーションを実施する。
規制当局に提出しない試験、又は医薬品の安全性、有効性若しくは電子化された添付文書(以下、「電子添文」)への記載に関する規制当局の意思決定に用いられない試験(例えば、探索的に実施する試験)に関して、申請者は社内の意思決定に用いる分析法の適格性評価の水準を自身で決定してもよい。
本ガイドラインの内容は、リガンド結合法(LBA)、並びに通常、質量分析法(MS)との組み合わせで用いられる液体クロマトグラフィー(LC)又はガスクロマトグラフィー(GC)等のクロマトグラフィーによる定量分析に適用される。
GLP又は医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)に準拠して実施する試験の場合は、実試料の生体試料中薬物濃度分析においてもそれら基準の要件を満たすことが求められる。
バイオマーカーの分析や免疫原性の評価に用いる分析法は、本ガイドラインの適用範囲には含まれない。
2.一般的原則
2.1 分析法開発
生体試料中薬物濃度分析法開発の目的は、その意図する目的に適した、分析法のデザイン、操作条件、限界及び適合性を定めること、並びに分析法のバリデーションを実施する準備ができていることを確認することにある。
申請者は、生体試料中薬物濃度分析法の開発前又は開発中に、可能な範囲で、目的の分析対象物質を理解し(例えば、薬物の物理化学的特性、in vitro及びin vivoでの代謝、赤血球と血漿間の分布、タンパク結合)、適用可能なすべての既存の分析法の特徴を考慮することが推奨される。
分析法開発には、分析対象物質を定量する手順及び条件を特定することも含まれる。分析法開発には、標準物質、重要試薬、検量線、Quality Control(QC)試料、選択性及び特異性、感度、真度、精度、回収率、分析対象物質の安定性、Minimum Required Dilution(MRD)等の生体試料中薬物濃度分析の項目に関する特性評価を含めることができる。
生体試料中薬物濃度分析法開発においては、広範な記録の保管は必要としない。生体試料中薬物濃度分析法が開発された後、バリデーションを実施することで、分析法が実試料の分析に適していることが示される。
非臨床試験又は臨床試験の実試料を分析中に、分析の中止を必要とするような分析法の問題が発生した場合、分析法の変更点とその根拠を文書化する必要がある。
2.2 分析法バリデーション
2.2.1 フルバリデーション
生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションは、分析性能の許容度、及び分析結果の信頼性を保証するために必須である。生体試料中薬物濃度分析法とは、生体試料中の分析対象物質濃度を測定する一連の手順と定義される。臨床試験及び適用対象となる非臨床試験において分析対象物質を定量するための分析法を確立する場合には、生体試料中薬物濃度分析法のフルバリデーションを実施する。文献に公表された分析法を用いる場合、及び市販されているキットを医薬品の開発段階で生体試料中薬物濃度分析の目的に用いる場合にも、フルバリデーションを実施する。通常、分析は分析対象物質ごとに行われるが、場合により、複数の分析対象物質を同時に測定してもよい。例として、2種類の薬物、親化合物とその代謝物、又は薬物のエナンチオマー若しくはアイソマー等を同時に測定することが考えられる。このような場合、バリデーションと実試料分析に関する原則は、目的とするすべての分析対象物質に適用される。
フルバリデーションの項目として、クロマトグラフィーを用いた分析法では、特に正当な理由がない限り、選択性、特異性、マトリックス効果、検量線(応答関数)、定量範囲(定量下限から定量上限まで)、真度、精度、キャリーオーバー、希釈の妥当性、安定性、及び再注入再現性を含む必要がある。
リガンド結合法では、特に正当な理由がない限り、特異性、選択性、検量線(応答関数)、定量範囲(定量下限から定量上限まで)、真度、精度、キャリーオーバー、希釈直線性、及び安定性を評価する必要がある。必要な場合、平行性は適切な実試料を入手できた段階で、評価することができる。
バリデーションで実施される評価は、実試料分析の作業工程に則したものでなければならない。生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに用いるマトリックスには、抗凝固剤及び添加剤を含め、分析対象の実試料と同じマトリックスを用いる。状況によっては、実試料と同じマトリックスを得ることが困難な場合がある(例えば、組織、脳脊髄液、胆汁等の希少マトリックス、又は遊離型薬物を測定する場合)。そのような場合には、分析法バリデーションに代替マトリックスを使用してもよい。
代替マトリックスを選択する際には、科学的な妥当性を示すべきである。分析法のバリデーションの際に、例えば、年齢、民族、性別のような相違は、同一種内であれば、一般に異なるマトリックスとはみなされない。
生体試料中薬物濃度分析法及びバリデーション手順を、あらかじめ具体的かつ詳細に文書として作成しておく。その文書は、試験計画書、試験報告書、ノート又は標準操作(業務)手順書(SOP)の形式をとってもよい。
2.2.2 パーシャルバリデーション
フルバリデーションがなされた分析法の変更については、パーシャルバリデーションにより変更の影響を評価する場合がある。パーシャルバリデーションは、1回の真度及び精度測定からフルバリデーションに近い評価まで、様々な場合がある(6.1項を参照)。パーシャルバリデーションの評価項目は、分析法の変更の程度及びその性質に応じて設定する。
2.2.3 クロスバリデーション
クロスバリデーションは、複数の生体試料中薬物濃度分析法及び/又は複数の分析施設が関わる場合に、報告されたデータがどの程度相関しているかを示すために必要とされる(6.2項を参照)。
3.クロマトグラフィー
3.1 標準物質(標準品)
分析法バリデーション及び実試料分析では、目的の分析対象物質を含む標準物質の溶液をブランク生体マトリックスに添加して検量線用標準試料及びQC試料を調製する。検量線用標準試料及びQC試料は別々の標準原液から調製すべきである。ただし、標準原液の正確な調製及び安定性が検証されている場合は、同じ標準原液から検量線用標準試料及びQC試料を調製してもよい。
試料の前処理中に、適切な内標準物質(IS)をすべての検量線用標準試料、QC試料及び実試料に添加する。ISを添加しない場合はその妥当性を示す必要がある。
標準物質の品質は、分析結果に影響を与え、試験データにも影響を及ぼすことから、標準物質の特性が十分に解析され、その品質(例えば、純度、同一性)及びISの適格性が保証されることが重要である。バリデーション及び実試料分析に用いる標準物質は、信頼性があり追跡可能な入手先/製造元から調達すべきである。標準物質は分析対象物質と同一でなければならない。これが可能でない場合でも、品質が保証されている組成の明らかな化合物(例えば、塩、水和物)を用いるべきである。
使用に適していると判断される標準物質としては、局方標準品、市販の標準物質、又は自社内若しくは外部機関で製造され十分に特性が解析された標準物質が含まれる。これら標準物質については、その品質を保証し、純度、保存条件、リテスト日/有効期限及びロット番号を記載した分析証明書(CoA)又はそれに相当する文書が必要である。
使用するIS自身又は不純物が分析を妨害しないこと等、使用に適していることが示されれば、ISのCoAは必要とされない。
検出にMSを用いる場合は、可能な限り、安定同位体標識した分析対象物質をISとして用いることが推奨される。ただし、標識標準物質の同位体純度が高く、同位体交換反応が起こらないことが必須である。非標識の分析対象物質が存在していないかを確認し、もし検出された場合には、その潜在的な影響を分析法バリデーションにおいて評価すべきである。
標準原液及び標準溶液は、CoAに記載されている安定性の保証期間(有効期限又はリテスト日までの期間)内の標準物質を用いて調製すべきである。
3.2 バリデーション
3.2.1 選択性
選択性とは、ブランク生体マトリックス中に潜在的な妨害物質が存在する条件下で、分析対象物質を区別して定量することができる分析法の能力のことである。
選択性の評価には、少なくとも6個体/ロット(非溶血性及び非高脂質性)から得られたブランク試料(分析対象物質及びISを添加せず前処理したマトリックス試料)を用いる。希少マトリックスの場合は、個体数を減らすことができる場合がある。また、ISについても選択性を評価すべきである。
選択性の評価では、ブランク試料中の分析対象物質又はISの保持時間に、妨害成分による明らかなレスポンスが観察されないことを示すべきである。妨害成分に由来するレスポンスは、各マトリックスにおいて、定量下限の分析対象物質のレスポンスの20%以下、かつ定量下限試料におけるISのレスポンスの5%以下でなければならない。
高脂質性マトリックスにおける選択性の評価では、1個体以上のマトリックスを用いる。科学的に意味のあるものとするため、バリデーションに用いるマトリックスは、予測される実試料をできるだけ代表するものとすべきである。トリグリセリド濃度が異常に高いドナーから得た高脂質性マトリックスを使用する。ドナーから得た高脂質性マトリックスを使用することが推奨されるが、入手が困難な場合は、実試料を代表したものではないとしても、トリグリセリドをマトリックスに添加することが許容される。ただし、薬物が脂質代謝に対する作用を持っている場合、又は対象となる患者集団が高脂血症者である場合は、添加試料の使用は推奨されない。非臨床試験において、薬物が脂質代謝に影響を与える場合、又は高脂血症を有する特定の系統の動物に投与する場合以外は、高脂質性マトリックスにおける選択性の評価は必要とされない。
溶血性マトリックスにおける選択性の評価では、1個体以上のマトリックスを用いる。溶血性マトリックスは、溶血させた全血(少なくとも2%v/v)をマトリックスに添加して、目視で溶血を識別できる試料を調製する。
3.2.2 特異性
特異性とは、分析対象物質と類縁物質を含む他の物質(例えば、分析対象物質と構造的に類似した物質、代謝物、異性体、不純物、試料調製中に生成する分解物、又は目的とする適応症の治療に用いられることが想定される併用薬)を区別して検出する生体試料中薬物濃度分析法の能力のことである。
目的の生体マトリックス中に類縁物質の存在が想定される場合、分析法バリデーションにおいて、又は投与開始前に採取した実試料を用いて、その影響を評価すべきである。LC―MSを用いた分析法における類縁物質の影響の評価には、妨害が予想される類縁物質と分析対象物質の分子量の比較、及びクロマトグラム上での類縁物質と分析対象物質の分離が含まれ得る。
妨害成分に由来するレスポンスは、定量下限における分析対象物質のレスポンスの20%以下、かつ定量下限試料におけるISのレスポンスの5%以下でなければならない。
一連の分析段階(抽出操作又はMSイオン源を含む)において、代謝物が親化合物に逆変換する可能性(例えば、エステル結合を持つ分析対象物質でエステル体からエステル代謝物/酸性代謝物に変換する可能性がある不安定な代謝物、不安定なN―オキシド若しくはグルクロン酸抱合代謝物、又はラクトン環構造体)についても、該当する場合は評価すべきである。この評価は、代謝の評価が十分になされていない新規化合物の開発初期段階では不可能であろうと認識されている。しかし、この問題の検討は行うべきであり、必要に応じてパーシャルバリデーションを実施すべきであると考えられている。もし、逆変換が起こるのであれば、その程度を確認し、生体試料中薬物濃度分析報告書において試験結果に対する影響を考察する必要がある。
3.2.3 マトリックス効果
マトリックス効果とは、分析対象物質のレスポンスがマトリックス試料中の妨害成分、多くは未同定の成分により影響を受けることをいう。分析法バリデーションにおいて、異なる個体又はロット間のマトリックス効果を評価する必要がある。
マトリックス効果は、少なくとも6個体/ロットから得られたマトリックスを用いて、それぞれ調製した低濃度及び高濃度のQC試料を少なくとも3回繰り返し分析し評価する。評価した各マトリックスの個体/ロットについて、真度は理論値の±15%以内、かつ精度(%CV)は15%以下でなければならない。希少マトリックスの場合は、個体数又はロット数を減らすことが許容される場合がある。
対象患者集団又は特別な患者集団(例えば、肝機能障害患者、腎機能障害患者)からマトリックスが入手できる場合は、これらの集団においてもマトリックス効果を評価する必要がある。さらに、溶血性又は高脂質性マトリックス試料を用いたマトリックス効果については、ケースバイケースで評価し、特にこれらの条件が当該試験で起こると予測される場合には、分析法バリデーションにおいて追加で評価することが推奨される。
3.2.4 検量線及び定量範囲
検量線は、分析対象物質の濃度の理論値と分析対象物質に対する分析プラットフォームのレスポンスとの関係を示したものである。既知量の分析対象物質をマトリックスに添加して調製した検量線用標準試料により、定量範囲にわたって検量線を作成する。検量線用標準試料の調製には、実試料と同じ生体マトリックスを用いる。定量範囲は、最も濃度の低い検量線用標準試料である定量下限、及び最も濃度の高い検量線用標準試料である定量上限により定義される。分析法バリデーションで検討した分析対象物質ごと、及び分析単位ごとに検量線を作成する必要がある。
検量線は、ブランク試料、ゼロ試料(ISを添加したブランク試料)、並びに定量下限及び定量上限を含む6濃度以上の検量線用標準試料から構成される。
濃度とレスポンスの関係を適切に記述する単純な回帰モデルを使用すべきである。回帰モデルの選定は、文書化された手順に従う必要がある。回帰モデル、重み付け及びデータ変換に関しては、分析法バリデーションにおいて決定する必要がある。検量線の回帰式の算出には、ブランク試料及びゼロ試料を含めるべきではない。個々の検量線用標準試料を繰り返し分析してもよいが、その場合は基準を満たしたすべての繰り返し分析データを用いて回帰分析を行うべきである。
検量線パラメータ(例えば、線形モデルでは傾き及び切片)は報告書に記載すべきである。また、回帰式から求められた各検量線用標準試料の濃度を、平均真度及び精度と共に報告すべきである。バリデーションでは数日間に少なくとも3回の分析単位を繰り返し、採用された検量線をすべて報告する必要がある。各検量線用標準試料の濃度の真度は、定量下限において理論値の±20%以内、定量下限以外においては±15%以内でなければならない。検量線用標準試料の75%以上、かつ少なくとも6濃度の標準試料がこの基準を満たさなければならない。
各濃度の検量線用標準試料について繰り返し分析を行う場合は、濃度ごとに検量線用標準試料の少なくとも50%が判定基準(±15%以内又は定量下限においては±20%以内)を満たす必要がある。これらの基準を満たさない検量線用標準試料がある場合は、当該試料を棄却し、この試料を除いた検量線を回帰分析を含めて再評価すべきである。真度及び精度を評価する分析単位において、定量下限又は定量上限の検量線用標準試料の繰り返し分析の結果がすべて棄却された場合、その分析単位を棄却し、基準を満たせなかった原因を特定すべきであり、さらに、必要に応じて分析法の変更を行う。次のバリデーションの分析単位においても基準を満たせなかった場合、バリデーションの再開前に分析法を変更すべきである。
検量線は、少なくとも1回は使用時に新たに添加調製した検量線用標準試料を用いて作成すべきである。その後は、凍結保存した検量線用標準試料を、安定性の保証された期間内に用いることができる。
3.2.5 真度及び精度
3.2.5.1 QC試料の調製
QC試料は実試料を模すことを意図したものであり、マトリックスに既知量の分析対象物質を添加して調製する。調製したQC試料は、実試料で予想される条件下にて保存し、分析法の妥当性を評価するために分析する。
分析法の性能と関連しないバイアスを避けるため、検量線用標準試料及びQC試料は別々の標準原液から調製すべきである。検量線用標準試料とQC試料を同一の標準原液から調製する場合は、標準原液の真度及び安定性が検証されている必要がある。妨害又はマトリックス効果(3.2.3項)のない単一個体のブランクマトリックスを用いてもよい。
分析法バリデーションにおいては、真度及び精度を評価する分析単位に用いるQC試料は、検量線の範囲内の少なくとも4濃度で調製すべきである。4濃度とは、定量下限、定量下限の3倍以内(低濃度QC試料)、検量線の範囲の約30%~50%(中濃度QC試料)、及び定量上限の75%以上(高濃度QC試料)とする。
バリデーションにおける真度及び精度以外の分析単位では、低濃度QC試料、中濃度QC試料、及び高濃度QC試料を2回の繰り返し分析により分析してもよい。これらのQC試料は、検量線用標準試料とともに、分析単位の採用又は棄却の根拠となるものである。
3.2.5.2 真度及び精度の評価
真度及び精度は、各分析単位(分析単位内)、及び異なる分析単位(分析単位間)において、QC試料を分析して評価する。真度及び精度は、同一の分析単位のデータを用いて評価する。
分析単位内の真度及び精度は、分析単位ごとに各QC濃度あたり少なくとも5回の繰り返し分析をすることにより評価する。分析単位間の真度及び精度は、各濃度のQC試料を少なくとも2日をかけ3分析単位以上で分析し評価する必要がある。分析単位内での経時的な変化を評価するために、実試料分析で想定される分析単位と同等のサイズの分析単位を少なくとも1回は分析してQC試料の真度及び精度を示すことが推奨される。報告する分析法バリデーションのデータ、並びに真度及び精度の算出結果には、エラーが明白で記録が残されている場合を除き、判定基準を外れたQC試料の結果を含む、すべての結果を含めるべきである。分析単位内の真度及び精度のデータは、分析単位ごとに報告すべきである。分析単位内の真度又は精度の判定基準を満たすことができなかった分析単位がある場合でも、各QC試料濃度における分析単位内のすべての値を用いて真度及び精度を算出すべきである。分析単位間の真度及び精度は、すべての分析単位のQC試料の値を用いて算出すべきである。
これらの評価に用いる検量線は、少なくとも1回の分析単位において、新たに分析対象物質を添加して調製した検量線用標準試料を用いて作成すべきである。他の分析単位において検量線用標準試料を使用時に新たに添加調製しない場合は、検量線用標準試料の凍結保存安定性を示す必要がある。
各濃度における真度は、定量下限を除いて理論値の±15%以内、定量下限においては理論値の±20%以内でなければならない。各濃度で評価した精度(%CV)は、定量下限を除いて15%以下とし、定量下限では20%以下とする。バリデーションにおける真度及び精度以外の分析単位では、すべてのQC試料の少なくとも3分の2かつ各濃度のQC試料における少なくとも50%が、理論値の±15%以内でなければならない。
3.2.6 キャリーオーバー
キャリーオーバーとは、前に分析した試料中の分析対象物質が分析機器に残留することに起因する測定値の変化である。
キャリーオーバーは分析法開発の際に評価し、さらに最小化されるべきである。バリデーションでは、定量上限の検量線用標準試料を測定した後にブランク試料を測定し、キャリーオーバーの評価を行う。最高濃度の検量線用標準試料を測定した後のブランク試料におけるキャリーオーバーは、定量下限の分析対象物質のレスポンスの20%以下、かつISのレスポンスの5%以下でなければならない。キャリーオーバーの回避が困難な場合には、実試料を無作為の順で測定すべきではない。キャリーオーバーが真度及び精度に影響を及ぼさないように、具体的な方法を検討し、バリデートして、実試料の分析に適用する。対応策の1つとして、高濃度が予測される実試料の後、次の実試料の前に、ブランク試料を注入する方法がある。
3.2.7 希釈の妥当性
希釈の妥当性とは、希釈が必要な場合に、試料の希釈手順が分析対象物質の定量値の真度及び精度に影響を与えないことを確認することである。希釈には、QC試料の調製に用いたものと同じ種の同じマトリックスを用いる。
希釈QC試料は、定量上限よりも高い濃度で分析対象物質をマトリックスに添加して調製し、次にブランクマトリックスで希釈する。分析は、同一分析単位において、希釈倍率ごとに少なくとも5回繰り返し評価し、濃度が検量線範囲内で正確かつ精度良く測定できることを確認する。実試料分析に適用する希釈倍率及び濃度は、バリデーションにより評価した希釈倍率及び濃度の範囲内でなければならない。希釈QC試料の平均真度は理論値の±15%以内であり、精度(%CV)は15%以下とする。
希少なマトリックスの場合、希釈のために代替マトリックスの使用が許容される場合もある。その場合、代替マトリックスの使用が真度及び精度に影響を与えないことを実証すべきである。
3.2.8 安定性
安定性評価は、試料の調製、前処理から分析に至るまでの各手順や保存条件が、分析対象物質の濃度に影響を及ぼさないことを保証するために実施する。
安定性評価における保存及び分析の条件には、試料の保存期間及び温度、試料のマトリックス、抗凝固剤、並びに容器の材質等、実試料に用いられる条件を反映させるべきである。文献に公表されたデータを参照するだけでは十分でない。保存期間に関するバリデーションは、実試料の保存期間と同じかそれ以上の期間保存されたQC試料を用いて実施する。
マトリックス中の分析対象物質の安定性は、低濃度及び高濃度のQC試料を用いて評価する。低濃度及び高濃度のQC試料の一部を用いて、調製時と評価すべき所定の条件で保存後に評価を行う。バルクQC試料は、各濃度につき1つずつ調製する。試験する各濃度について、バルク試料を3つ以上に分注して保存し、所定の条件で処理した後に分析すべきである。
保存したQC試料は、各分析単位内で、使用時に新たに添加した検量線用標準試料、及び使用時に新たに添加したQC試料又は安定性が証明されたQC試料と共に分析を行うべきである。各QC濃度における平均濃度は、理論値の±15%以内でなければならない。実試料の濃度が検量線の定量範囲の定量上限よりも一貫して高い場合は、そうした高濃度を反映できるよう高濃度QC試料の濃度を調整すべきである。ただし、溶解度に限界があるため、このQC試料の調製は非臨床試験では実施できない可能性がある。
配合剤及び電子添文に記載されるような薬物レジメンの場合、マトリックス中の分析対象物質の凍結融解安定性試験、ベンチトップ安定性試験及び長期保存安定性試験は、マトリックスにすべての投与薬物を添加した状態で実施すべきである。
安定性試験は次に掲げる項目について実施すること。
1) マトリックス中の分析対象物質の安定性
マトリックス中の凍結融解安定性
凍結保存状態から試料を繰り返し出し入れすることによる影響を評価するため、凍結及び融解を複数回繰り返した後の分析対象物質の安定性を評価する。低濃度及び高濃度のQC試料について、実試料と同じ手順に従って融解及び分析を行う。QC試料は、融解サイクル間で、少なくとも12時間凍結状態を維持すべきである。
凍結融解安定性の評価に用いるQC試料は、使用時に新たに調製した検量線用標準試料及びQC試料又は安定性が証明されたQC試料を用いて評価すべきである。バリデートする凍結融解サイクル数は、実試料の凍結融解サイクル数と同じかそれ以上とする。ただし、少なくとも3サイクルは実施すべきである。
マトリックス中のベンチトップ(短期保存)安定性
マトリックス中のベンチトップ安定性試験は、施設における実試料の取り扱い条件を満たすように計画し、実施すべきである。
低濃度及び高濃度のQC試料は、実試料と同じ方法で融解し、実試料と同じ温度で少なくとも同じ時間ベンチトップに保存する必要がある。
ベンチトップの保存時間は、実際にベンチトップ条件下で試料を取り扱う時間とすべきであり、ベンチトップ条件に至るまでの時間を足すことは認められない(すなわち、凍結状態から融解する際に要する時間は加算すべきではない)。
マトリックス中の長期保存安定性
冷凍庫保存時におけるマトリックス中の分析対象物質の長期保存安定性を評価すべきである。低濃度及び高濃度のQC試料は、実試料と同じ保存条件下で少なくとも実試料と同じ期間、冷凍庫に保存する必要がある。
化学薬品については、ある温度(例えば、-20℃)での安定性試験の結果は、より低い温度(例えば、-70/-80℃)に外挿することができる。
生物薬品については、ブラケット法を適用することができる。例えば、-70/-80℃と-20℃での安定性が示されている場合には、実試料がこの温度の間で保存されるのであれば、その温度の間における安定性を検討する必要はない。
2) 前処理後試料中の分析対象物質の安定性
前処理後試料中の安定性は、分析が完了するまでの時間(オートサンプラー/機器内にある時間)を含め、検討すべきである。以下に例を示す。
・ 実試料分析で使用する保存条件下(抽出乾固物又は試料注入段階)における前処理後試料中の安定性
・ インジェクター又はオートサンプラーの設定温度における前処理後試料の機器内/オートサンプラー内安定性
前処理後試料の保存時間は、実際に所定の保存条件で前処理後試料を保存した時間としなければならない(すなわち、オートサンプラーの保存時間と他の保存時間を加算することはできない)。
3) 標準原液及び標準溶液中の分析対象物質及びISの安定性
分析対象物質及びISの標準原液及び標準溶液中の安定性は、最低濃度と最高濃度の溶液を用いて、実試料分析中に用いる保存条件下で評価する。安定性は検出器からのレスポンスに基づいて評価すべきである。標準原液及び標準溶液の安定性は、検出器の直線性と測定範囲を考慮して適切に希釈して評価すべきである。安定性が濃度により変化する場合は、すべての濃度の標準原液及び標準溶液について検討する必要がある。安定性が確認されている分析対象物質の保存条件下において同位体交換が起こらない安定同位体標識ISについては、さらなる安定性評価は必要としない。標準物質の有効期限が切れているか、リテスト日を過ぎている場合、当該ロットの標準物質を用いて調製済みの標準原液の安定性は、標準原液に対して設定された有効期限又はリテスト日により規定される。標準物質の有効期限延長のみを目的に、標準物質から標準原液及び標準溶液を調製することは許容されない。
さらに、該当する場合は、次の試験を実施する。
4) 全血中の分析対象物質の安定性
分析により得られた濃度が試料採取時の被験者/被験動物の血液中分析対象物質濃度を反映することを保証するため、被験者/被験動物より採取した直後から保存までのマトリックス(血液)中の分析対象物質の安定性に十分注意を払う必要がある。
使用するマトリックスが血漿である場合、血液中の分析対象物質の安定性を分析法開発(例えば、血液での探索的な分析法の使用)、又は分析法バリデーションの段階で評価すべきである。その結果はバリデーション報告書に記載する必要がある。
3.2.9 再注入再現性
分析法の再現性は、QC試料の繰り返し測定によって評価され、通常は、真度及び精度の評価に含まれる。しかし、試料が再注入される可能性がある場合(例えば、機器動作の中断、又は機器の故障のような理由)、再注入前の保存状況で前処理後試料が使用可能であることを示すために、再注入再現性を評価すべきである。
再注入再現性は、検量線用標準試料並びに低濃度、中濃度及び高濃度のQC試料の最低5回の繰り返しからなる分析単位を保存後に再注入することで評価される。再注入後のQC試料の真度及び精度により、前処理後試料が再注入可能であるかを確認する。
その結果は、バリデーション報告書に記載するか、再注入再現性評価を実施した試験の生体試料中薬物濃度分析報告書に記載すること。
3.3 実試料分析
実試料の分析は、バリデーションの完了後に実施することができる。しかし、一部のパラメータについては後の段階で評価が完了することもあると理解されている(例えば、長期保存安定性)。生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションは、規制当局にデータを提出するまでに完了しているべきである。実試料、QC試料及び検量線用標準試料は、バリデートされた分析法に従って前処理すべきである。システム適合性を評価する場合は、あらかじめ定められた試験計画書又はSOPに従って行う。装置の調整及び機器性能を含むシステム適合性は、分析単位用の検量線用標準試料及びQC試料とは別に試料を準備して評価すべきである。システム適合性の評価に被験者/被験動物からの試料は使用すべきではない。ISのレスポンスに系統的な変動があるかどうかを確認するため、実試料のISのレスポンスをモニタリングすべきである。文書化すべき項目については表1を参照。
3.3.1 分析単位
分析単位は、ブランク試料(分析対象物質及びISを含まないマトリックスを前処理した試料)、ゼロ試料(ISを添加して前処理したマトリックス)、少なくとも6濃度の検量線用標準試料、少なくとも3濃度のQC試料(低濃度、中濃度及び高濃度)の2セット(又は実試料数の少なくとも5%のいずれか多い方)、並びに分析対象である実試料から構成される。QC試料は、分析単位全体の真度及び精度が保証されるように、分析単位内に分散して配置すべきである。実試料は、常にQC試料により挟まれているべきである。
検量線用標準試料及びQC試料は、標準原液の真度と安定性が検証されていない限り、別々に調製した標準原液を個別に添加して調製する必要がある。すべての試料(検量線用標準試料、QC試料及び実試料)は、実際に分析する順序に従い、単一バッチとして前処理し抽出されるべきである。複数バッチに分けて前処理した試料を同一分析単位内で分析することは推奨されない。もし、そうしたアプローチが、例えば、ベンチトップの安定性による制限のために避けられない場合には、各バッチに低濃度、中濃度及び高濃度のQC試料を含めるべきである。
比較BA/BE試験では、ばらつきを減らすため、1つの分析単位で1人の被験者からのすべての試料を同時に分析することを推奨する。
実試料の分析中に発生するキャリーオーバーの影響を評価し報告する必要がある(3.2.6項を参照)。キャリーオーバーが検出された場合は、測定値への影響を低減するか(例えば、実試料を無作為の順で測定しない、又は高濃度が予測される試料の後にブランク試料を注入する)、報告された濃度の妥当性を生体試料中薬物濃度分析報告書で示すべきである。
3.3.2 分析単位の判定基準
分析単位の採用又は棄却の判定基準は、試験計画書又はSOPに定めておくこと。1つの分析単位に複数のバッチが含まれる場合、判定基準は分析単位全体及び個別のバッチの両方に適用されるべきである。分析単位中の1つのバッチが判定基準を満たさず棄却された場合においても、分析単位として判定基準を満たすことはありえる。棄却されたバッチの検量線用標準試料は、分析単位内の他のバッチを採用するために使用することはできない。
回帰式から求めた検量線用標準試料の濃度の真度は、定量下限では理論値の±20%以内、その他の濃度では理論値の±15%以内でなければならない。少なくとも6濃度を含む、検量線用標準試料の75%以上がこの基準を満たすものとする。6濃度を超える検量線用標準試料を用い、そのうち基準を満たさなかった試料があった場合、当該検量線用標準試料を棄却し、当該試料を含めず検量線を再評価して新たな回帰分析を実施する。
定量下限の検量線用標準試料が棄却された場合、当該分析単位における新たな定量下限は、検量線上で、その次に低い濃度で判定基準を満たす検量線用標準試料とする。この新たな定量下限の検量線用標準試料は、当初の判定基準(すなわち、±15%以内)を満たすものとする。最高濃度の検量線用標準試料が棄却された場合、当該分析単位における定量上限は、検量線上で、その次に高い濃度での判定基準を満たす検量線用標準試料とする。変更された定量範囲には少なくとも3つのQC試料濃度(低濃度、中濃度及び高濃度)が含まれなければならない。変更された定量範囲から外れた実試料については、再分析を実施すべきである。複数の検量線用標準試料を用いた場合に、定量下限又は定量上限の1つの試料のみが基準を満たさなかったとしても、定量範囲を変更する必要はない。
すべてのQC試料の少なくとも3分の2、かつ各濃度における少なくとも50%が理論値の±15%以内でなければならない。これらの基準を満たさない場合は、当該分析単位を棄却する必要がある。棄却された分析単位の測定を再度実施する場合には、当該分析単位内のすべての実試料を新たに調製する必要がある。特定し得る技術的な理由により棄却された場合、当該試料を再注入してもよい。
希釈して再分析される試料を含む分析単位には、実試料分析における希釈を含む方法の真度及び精度を検証するため、希釈QC試料を含めるべきである。希釈QC試料は、希釈される実試料の濃度(又は定量上限)以上とし、かつ実試料と同じ希釈倍率を用いて希釈すべきである。1回の分析単位で複数の希釈倍率を用いる場合、希釈QC試料は最高及び最低の希釈倍率で希釈することでよい。希釈QC試料に対する分析単位内の判定基準は、希釈した実試料の測定結果の採否判断にのみ適用し、分析単位の結果に適用するものではない。
複数の分析対象物質を同時に測定する場合は、測定する分析対象物質ごとに検量線を作成すべきである。ある分析単位において分析対象物質の1つが判定基準を満たすものの他の分析対象物質が判定基準を満たさなかった場合、判定基準を満たす分析対象物質のデータは採用されるべきである。棄却された分析対象物質の定量には、再分析する分析対象物質のみ、再抽出及び分析が必要である。この再分析された分析対象物質のデータについてのみ報告する必要がある。
基準を満たし採用された分析単位における回帰式から求められた検量線用標準試料の濃度、及びQC試料の各濃度を報告すべきである。判定基準を満たしたすべての分析単位におけるQC試料全体(分析単位間)の真度と精度を濃度ごとに算出し、生体試料中薬物濃度分析報告書で報告すべきである(8項「文書化」及び表1を参照)。全体の平均真度及び/又は精度が15%の基準を満たさない場合は、逸脱の原因を特定するための調査を実施すべきである。比較BA/BE試験では、この逸脱はデータの棄却につながることがある。
3.3.3 定量範囲
実試料分析の開始前に実試料中の分析対象物質の濃度範囲が狭いと判明又は想定される場合は、実試料の濃度を適切に反映させるために、検量線の範囲を狭くするか、QC試料の濃度を変更するか、又は適宜、異なる濃度のQC試料を新たに追加することが推奨される。
予定される臨床用量において、実試料分析の開始後に、予期せず実試料の測定値が検量線の一端に集まってしまった場合、分析を中止し、実試料分析を継続する前に、定量範囲を狭めるか(すなわち、パーシャルバリデーション)、QC試料濃度を変更するか、又は測定された値の範囲内で、設定している検量線に追加濃度のQC試料を加えるべきである。検量線の範囲又はQC試料濃度の最適化前に分析した実試料を再分析する必要はない。
実試料中の分析対象物質濃度の多くが定量上限を超えている場合も同様の対応を行う。すなわち、可能であれば検量線の範囲を変更するか、QC試料の追加又はその濃度を変更すべきである。検量線の範囲を変更できない場合、又は定量上限を超える濃度の試料数が多くない場合は、バリデートされている希釈方法に従い試料を希釈する必要がある。
少なくとも2つのQC試料濃度が、測定された実試料の濃度範囲内に入らなければならない。検量線の範囲が変更された場合は、応答関数を確認し、真度及び精度を保証するため、生体試料中薬物濃度分析法を再度バリデート(パーシャルバリデーション)すべきである。
3.3.4 実試料の再分析
実際の実試料分析の開始前に、想定される実試料の再分析の理由、再分析の回数、及び報告する定量値を選択する判断基準を試験計画書又はSOPに事前に定義すべきである。実試料中の複数の分析対象物質を分析する場合、1つの分析対象物質が判定基準を満たさなかったとしても、判定基準を満たしている他の分析対象物質の結果は棄却されるべきではない。
再分析した試料の数(及び試料総数に対する割合)は、生体試料中薬物濃度分析報告書に報告し考察すべきである。比較BA/BE試験の場合は、棄却された分析単位での値を別表で報告すること。
以下に、実試料を再分析する理由の具体例を示す。
・ 検量線用標準試料の真度及び/又はQC試料の真度と精度が判定基準を満たさなかったことにより、分析単位が棄却された場合
・ 実試料のISのレスポンスと、検量線用標準試料及びQC試料のISのレスポンスとの間に明らかな差異がある場合(事前に定めたSOPの定義に基づく)
・ 得られた濃度が定量上限を超えている場合
・ 最低濃度の検量線用標準試料が棄却され、変更後の定量下限が他の分析単位に比べて高くなった分析単位において、得られた濃度が変更後の定量下限よりも低い場合
・ 不適切な試料注入又は分析機器の不具合が生じた場合
・ 希釈して測定した実試料の濃度が定量下限よりも低い場合
・ 投与前試料、対照群又はプラセボ投与群の試料中に定量可能な量の分析対象物質が確認された場合
・ クロマトグラムに異常が認められた場合(事前に定めたSOPの定義に基づく)
比較BA/BE試験については、薬物動態学的な理由(例えば、試料の濃度が予測されるプロファイルと一致しない)による実試料の再分析は、試験結果に偏りを生じさせる可能性があるため許容されない。
再分析した試料はすべて生体試料中薬物濃度分析報告書において特定し、初回定量値、再分析の理由、再分析で得られた定量値、最終的に採用した定量値、及び採用の妥当性を記載すべきである。さらに、再分析の理由ごとに再分析した試料総数の要約表も作成すべきである。初回の分析で報告可能な結果が得られなかった場合(例えば、定量上限を超える濃度、又は分析機器の不具合)、1回の再分析で十分である。定量値を確認する必要がある場合(例えば、投与前試料が測定可能な濃度を示した場合)、使用可能な試料量があれば、複数回の分析を行う必要がある。
臨床試験においては、被験者の安全性が試験のいかなる状況よりも優先されるべきである。したがって、安全性調査目的のため、特定の実試料の再分析を必要とする状況が起こり得る。
3.3.5 実試料の再注入
再注入再現性が、バリデーションにより確立されている、又は以前に実施した生体試料中薬物濃度分析報告書に報告されている場合、機器の故障に対して前処理後試料を再注入することができる。分析上の原因を特定することなく、単に検量線用標準試料又はQC試料が基準を満たさなかったという理由から、分析単位の全体、又は個別の検量線用標準試料若しくはQC試料を再注入することは許容されない。
3.3.6 クロマトグラムの波形処理
クロマトグラムの波形処理及び再波形処理は、事前に試験計画書又はSOPに記載すべきである。あらかじめ記載した手順からのすべての逸脱は、生体試料中薬物濃度分析報告書において考察する必要がある。手動での波形処理を含む再波形処理を必要としたクロマトグラムの一覧及び再波形処理の理由を生体試料中薬物濃度分析報告書に記載すべきである。初回と再波形処理したクロマトグラム、及び初回と再波形処理した結果は、将来参照できるように保存するとともに、比較BA/BE試験では生体試料中薬物濃度分析報告書に含めて提出する。
4.リガンド結合法
4.1 主な試薬
4.1.1 標準物質(標準品)
標準物質は、その特性が十分に明らかにされ、文書に記録されているべきである(例えば、CoA、製造元/提供元)。生物薬品は極めて複雑な構造を有しており、生体試料中薬物濃度分析のための結合試薬との反応性が、原薬の製造プロセスの変更により影響されることもある。検量線用標準試料及びQC試料の調製に用いる標準物質の製造バッチは、可能な限り、非臨床試験及び臨床試験での投与に使用されるものと同じ原薬バッチ由来であることが推奨される。生体試料中薬物濃度分析に用いる標準物質のバッチが変更された場合は、分析法の性能に関するパラメータが判定基準内にあることを保証するため、新しい標準物質を使用する前に、元の標準物質から調製したQC試料と新しい標準物質から調製したQC試料を用いた生体試料中薬物濃度分析による評価を実施すべきである。
4.1.2 重要試薬
結合試薬(例えば、結合タンパク質、アプタマー、抗体、コンジュゲート抗体)や酵素標識された試薬等の重要試薬は、分析結果に直接的な影響を及ぼすため、その品質が保証されるべきである。重要試薬は分析対象物質と結合し、相互作用により、分析対象物質の濃度に応じた測定装置からのシグナルを生じる。重要試薬は、分析法の中で特定され、定義されるべきである。
重要試薬に関しては、社内製造品又は市販品に関わらず、信頼性のある入手先を分析法開発の早期から考慮すべきである。重要試薬のデータシートには、少なくとも、同一性、入手先、バッチ番号/ロット番号、純度(該当する場合)、濃度(該当する場合)、及び安定性/リテスト日/保存条件を含めるべきである(表1を参照)。その他の特性について追加が必要になる場合がある。
重要試薬の元のバッチと新しいバッチとの一貫性を保証するため、重要試薬のライフサイクルマネジメントの手順が必要である。試薬の性能は生体試料中薬物濃度分析法を用いて評価されるべきである。重要試薬に対する軽微な変更は分析法の性能に影響を与えないと考えられるが、大きな変更は分析法の性能に大きく影響を与える場合がある。軽微な変更(例えば、1つの試薬の入手先の変更)であれば、1回の真度及び精度の比較評価で特徴づけのためには十分である。しかし、大きな変更であれば、追加のバリデーション試験が必要となる。理想的には、新旧試薬を用いた方法の直接比較により、変更前後の評価を行う。大きな変更の例は、抗体の製造方法の変更、ポリクローナル抗体取得のための動物からの追加採血、及びモノクローナル抗体調製のための新規クローン取得又は新規の入手先等であるが、これらに限定されない。
重要試薬の有効期限延長又は変更の根拠として、リテスト日とバリデーションパラメータを文書に記録すべきである。試薬の安定性試験は、生体試料中薬物濃度分析法における性能及び試薬の保存条件に関する一般的なガイダンスに基づくべきである。有効期限は、供給元が定めたものから延長することができる。重要試薬の有効期限延長又は変更を裏付けるため、分析法の性能に関するパラメータを文書に記録すべきである。
4.2 バリデーション
ほとんどの場合、リガンド結合法にはマイクロタイタープレートが使用され、実試料は、1試料あたり1ウェル又は複数のウェルを用いて分析することができる。この分析条件は、試験計画書又はSOPに明記すべきである。分析法開発及び分析法バリデーションを1試料あたり1ウェル又は複数のウェルで行う場合は、実試料分析もそれぞれ1試料あたり1ウェル又は複数のウェルで行うべきである。1試料あたり複数ウェルを用いる場合は、複数ウェルからのレスポンスの平均値を算出するか、各レスポンスから算出された濃度を平均することにより、報告する試料濃度を決定すべきである。データの評価は、報告する試料濃度を基に行うべきである。
4.2.1 特異性
リガンド結合法における特異性は、交差反応性の概念に関連するものである。結合試薬が標的とする分析対象物質と特異的に結合し、共存する構造的に類似した物質(例えば、内因性物質、アイソフォーム、又は構造的に類似した併用薬)と交差反応しないことが重要である。特異性は、実試料中に存在することが予想される構造的に類似した物質を予測される最高濃度で添加したブランクマトリックス試料を用いて評価する。
実試料において予測される最高濃度で類似物質が存在する条件下において、定量下限及び定量上限における標的分析対象物質の真度を評価する。類似物質を添加したブランク試料のレスポンスは定量下限未満でなければならない。類似物質の存在下での標的分析対象物の真度は、理論値の±25%以内でなければならない。
非特異的な反応がみられた場合は、ブランクマトリックス中の妨害物質の濃度範囲を広げて、定量下限及び定量上限における分析対象物質の真度を測定することにより、分析法への影響を評価すべきである。妨害が認められる類似物質の最低濃度を確認することが必須である。実試料分析において定量下限又は定量上限を調整するか、新たな方法を検討する等、適切な対策を講じるべきである。
分析法開発及び分析法バリデーションの初期段階では、これらの「類似物質」を利用できないことがしばしばある。このような場合、最初のバリデーションが完了した後に、特異性に関する検討を追加で行うこともできる。
4.2.2 選択性
選択性とは、非特異的なマトリックス成分が存在する条件下で、目的の分析対象物質を識別して検出する分析法の能力である。マトリックスには、目的の分析対象物質の検出を妨害するかもしれない分解酵素、様々な特性を持つ抗体、リウマチ因子等の非特異的マトリックス成分が含まれる可能性がある。
選択性は、問題が生じる場合が多い定量下限で評価すべきであるが、高濃度領域においても評価することが推奨される。したがって、選択性は、少なくとも10個体から得た個別のブランク試料、並びに個別のブランクマトリックスに分析対象物質を定量下限及び高濃度QCの濃度で添加した試料を用いて評価する。希少マトリックスの場合は、個体数を減らすことが受け入れられるかもしれない。ブランク試料のレスポンスは、少なくとも評価した個体の80%において定量下限未満でなければならない。
真度は、少なくとも評価した個体の80%において、定量下限の場合は理論値の±25%以内、高濃度QCの濃度の場合は理論値の±20%以内でなければならない。
選択性は、高脂質性試料及び溶血性試料でも評価すべきである(3.2.1項を参照)。高脂質性試料及び溶血性試料の評価は、1個体のマトリックスを用いた1回の試験で可能である。選択性は、関連する患者集団(例えば、腎機能障害患者、肝機能障害患者、炎症疾患を有する患者、又はがん免疫療法を受けている患者(該当する場合))の検体でも評価すべきである。関連する患者集団の場合、少なくとも5人の患者の試料を用いるべきである。
4.2.3 検量線及び定量範囲
検量線は、分析対象物質の濃度の理論値と分析対象物質に対する分析プラットフォームのレスポンスとの関係を示したものである。既知量の分析対象物質をマトリックスに添加して調製した検量線用標準試料により、定量範囲にわたって検量線を作成する。検量線用標準試料の調製には、実試料と同じ生体マトリックスを用いる。定量範囲は、最も濃度の低い検量線用標準試料である定量下限、及び最も濃度の高い検量線用標準試料である定量上限により定義される。分析法バリデーションで検討した分析対象物質ごと、及び分析単位ごとに検量線を作成する必要がある。代替マトリックスの使用が必要な場合には、科学的な妥当性を示すべきである。
検量線は、定量下限及び定量上限を含む6濃度以上の検量線用標準試料、並びにブランク試料から構成される。ブランク試料は、検量線パラメータの計算には含めるべきではない。カーブフィッティングを向上させるため、検量線の定量下限未満の濃度、及び定量上限を超える濃度のアンカーポイント試料を用いてもよい。検量線作成のためのレスポンスと濃度の関係性は、上下漸近線の近くにデータポイントがある場合、一般的には4又は5―パラメータロジスティックモデルが当てはまる。他のモデルについては、その適切性を示すべきである。
検量線は、分析単位間にばらつきをもたらす要因を考慮して、少なくとも6回の分析単位を数日にわたり評価すべきである。
回帰式から求めた各検量線用標準試料の濃度の真度及び精度は、定量下限及び定量上限において理論値の±25%以内、それ以外の濃度では理論値の±20%以内でなければならない。アンカーポイントを除く検量線用標準試料の75%以上、かつ定量下限及び定量上限を含む少なくとも6濃度の標準試料がこの基準を満たすものとする。アンカーポイントについては、検量線の定量可能な範囲を超えているため、判定基準を必要としない。
検量線は、できるだけ使用時に新たに添加調製した検量線用標準試料を用いて作成すべきである。新たに添加調製した標準試料を用いない場合は、凍結保存した検量線用標準試料を、安定性の保証された期間内に用いることができる。
4.2.4 真度及び精度
4.2.4.1 QC試料の調製
QC試料は実試料を模すことを意図したものであり、マトリックスに既知量の分析対象物質を添加して調製する。調製したQC試料は、実試料で予想される条件下にて保存し、分析法の妥当性を評価するために分析する。
QC試料を調製するための希釈系列は、検量線用標準試料を調製する希釈系列とは完全に独立しているべきである。検量線用標準試料とQC試料を同じ標準原液(又は標準溶液)から調製する場合は、標準原液(又は標準溶液)の正確な調製と安定性が検証されている必要がある。検量線の範囲内の少なくとも5濃度でQC試料を調製すべきである。すなわち、定量下限、定量下限の3倍以内(低濃度QC試料)、検量線の範囲の幾何平均値付近(中濃度QC試料)、定量上限の75%以上(高濃度QC試料)、及び定量上限の分析対象物質を添加して調製する。
バリデーションにおける真度及び精度以外の分析単位では、低濃度QC試料、中濃度QC試料、及び高濃度QC試料を2回の繰り返し分析により分析してもよい。これらのQC試料は、検量線用標準試料とともに、分析単位の採用又は棄却の根拠となるものである。
4.2.4.2 真度及び精度の評価
真度及び精度は、各分析単位(分析単位内)、及び異なる分析単位(分析単位間)において、QC試料を分析して評価する。真度と精度は、同一の分析単位のデータを用いて評価する。
真度及び精度は、各濃度(定量下限、低濃度、中濃度、高濃度及び定量上限)のQC試料について、分析単位あたり少なくとも3回繰り返し分析し、少なくとも6分析単位の分析を2日又はそれ以上にわたって実施することにより評価する。報告する分析法バリデーションのデータ、並びに真度及び精度の算出結果には、エラーが明白で記録が残されている場合を除き、すべての結果を含めるべきである。分析単位内の真度及び精度のデータは、分析単位ごとに報告すべきである。分析単位内の真度又は精度の判定基準を満たすことができなかった分析単位があった場合でも、各QC試料濃度における分析単位内のすべての値を用いて真度及び精度を算出すべきである。分析単位間の真度及び精度は、すべての分析単位のQC試料の値を用いて算出すべきである。
分析単位内及び分析単位間の、各濃度における総合的な真度は、定量下限及び定量上限を除いて理論値の±20%以内、定量下限及び定量上限においては理論値の±25%以内でなければならない。各濃度のQC試料の分析単位内及び分析単位間の精度は、定量下限及び定量上限を除いて20%以下とし、定量下限及び定量上限においては25%以下とする。
バリデーションにおける真度及び精度以外の分析単位では、すべてのQC試料の少なくとも3分の2、かつ各濃度における少なくとも50%が、理論値の±20%以内でなければならない。
さらに、トータルエラー(すなわち、真度(%)及び精度(%)の誤差の絶対値の和)を評価する。トータルエラーは30%(定量下限及び定量上限では40%)以下とする。
4.2.5 キャリーオーバー
リガンド結合法を用いた分析では通常、キャリーオーバーは問題とはならない。しかし、キャリーオーバーを生じる可能性がある分析プラットフォームの場合は、定量上限の検量線用標準試料の後にブランク試料を配置することによりキャリーオーバーの可能性を検討すべきである。ブランク試料のレスポンスは定量下限未満でなければならない。
4.2.6 希釈直線性及びフック効果
多くのリガンド結合法による分析では定量範囲が狭いため、分析対象物質の濃度が検量線の定量範囲内となるよう実試料の希釈が必要となる場合がある。希釈直線性は、(i)測定値が定量範囲内での希釈により影響されないこと、及び(ii)検量線の定量上限を超えた実試料濃度が、間違った結果につながるフック効果(すなわち、高濃度の分析対象物質によるシグナルの抑制)の影響を受けないことを確認するために評価すべきである。
希釈QC試料の調製には、実試料と同じマトリックスを使用すべきである。
希釈直線性は、希釈QC試料、すなわち定量上限を超える濃度の分析対象物質をマトリックスに添加した試料を調製し、希釈をしない試料(フック効果の検討のため)、及び希釈QC試料をブランクマトリックスで定量範囲内の濃度に希釈した試料(少なくとも3種の希釈倍率)を用いて評価すべきである。試験するそれぞれの希釈倍率について、少なくとも3つの独立した希釈系列を調製し、実試料分析で使用する繰り返し回数で評価すべきである。希釈QC試料で応答性の低下(フック効果)の有無を確認し、応答性の低下が観察された場合で、合理的な対策により回避できない場合は、実試料分析中にこの影響を低減するための対策を講じるべきである。
希釈倍率で補正した後の各希釈試料の計算された平均濃度は理論濃度の±20%以内でなければならない。精度は20%以下とする。
実試料分析に適用する希釈倍率は、バリデーションにより評価した希釈倍率の範囲内でなければならない。
4.2.7 安定性
安定性評価は、試料の調製、前処理から分析に至るまでの各手順や保存条件が、分析対象物質の濃度に影響を及ぼさないことを保証するために実施する。
安定性評価における保存及び分析の条件には、試料の保存期間及び温度、試料のマトリックス、抗凝固剤、並びに容器の材質等、実試料に用いられる条件を反映させるべきである。文献に公表されたデータを参照するだけでは十分でない。保存期間に関するバリデーションは、実試料の保存期間と同じかそれ以上の期間保存されたQC試料を用いて実施する。
評価するマトリックス中の分析対象物質の安定性は、低濃度及び高濃度のQC試料を用いて評価すべきである。低濃度及び高濃度のQC試料の一部を用いて、調製時と評価すべき所定の条件で保存後に評価を行う。バルクQC試料は、各濃度につき1つずつ調製する。試験する各濃度について、バルク試料を3つ以上に分注して保存し、所定の条件で処理した後に分析すべきである。
保存したQC試料は、各分析単位内で、使用時に新たに添加した検量線用標準試料、及び使用時に新たに添加したQC試料又は安定性が証明されたQC試料と共に分析を行う。検量線用標準試料及びQC試料は新たに調製したものを使用することが望ましいが、高分子物質は一晩凍結しておく必要がある場合があると認識されている。凍結保存して融解したQC試料を用いる場合は、その妥当性を示すべきであり、凍結融解安定性を評価する必要がある。QC試料は、融解サイクル間で、少なくとも12時間凍結状態を維持すべきである。各QC濃度における平均濃度は、理論値の±20%以内でなければならない。
多くのリガンド結合法による分析では、定量範囲が狭いことにより実試料の希釈が必要となる可能性があり、実試料の濃度が検量線の定量上限よりも一貫して高い場合がある。そのような場合は、QC試料の濃度が実際の試料の濃度範囲を代表するよう、適用する希釈倍率を考慮し、QC試料の濃度を調整すべきである。
配合剤及び電子添文に記載されるような薬物レジメンの場合、マトリックス中の分析対象物質の凍結融解安定性試験、ベンチトップ安定性試験及び長期保存安定性試験は、ケースバイケースで、マトリックスにすべての投与薬物を添加した状態で実施すべきである。
3.2.8項で述べたとおり、安定性の検討には、室温又は試料前処理時の温度におけるベンチトップ(短期保存)安定性及び凍結融解安定性を含めるべきである。また、長期保存安定性も検討すべきである。
化学薬品については、ある温度(例えば、-20℃)での安定性試験の結果は、より低い温度(例えば、-70/-80℃)に外挿することができる。
生物薬品については、ブラケット法を適用することができる。例えば、-70/-80℃と-20℃での安定性が示されている場合には、実試料がこの温度の間で保存されているのであれば、この温度の間における安定性を検討する必要はない。
4.3 実試料分析
実試料の分析は、バリデーションの完了後に実施することができる。しかし、一部のパラメータについては後の段階で評価が完了することもあると理解されている(例えば、長期保存安定性)。生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションは、規制当局にデータを提出するまでに完了しているべきである。実試料、QC試料及び検量線用標準試料は、バリデートされた分析法に従って前処理すべきである。文書化すべき項目については表1を参照。
4.3.1 分析単位
分析単位は、ブランク試料、少なくとも6濃度の検量線用標準試料、少なくとも3濃度のQC試料(低濃度、中濃度及び高濃度)の2セット(又は実試料数の少なくとも5%のいずれか多い方)、並びに分析対象である実試料から構成される。ブランク試料は、検量線パラメータの計算には含めるべきではない。QC試料は、分析単位全体の真度及び精度が保証されるように、実試料が常にQC試料により挟まれるように考慮して、分析単位の中に配置すべきである。
リガンド結合法にはマイクロタイタープレートが最もよく用いられる。分析単位は、1つかそれ以上のプレートから構成される。典型的には、各プレートに検量線用標準試料及びQC試料のセットが個別に含まれる。各プレートに検量線用標準試料及びQC試料が含まれている場合には、各プレートごとに評価すべきである。しかし、分析プラットフォームによっては、測定試料数が制限される場合がある。その場合、検量線用標準試料のセットを最初と最後のプレートに配置してもよいが、QC試料は各プレートに配置すべきである。QC試料は少なくとも各プレートの実試料の始め(前)と終わり(後)に配置すべきである。各プレートのQC試料及び各検量線は、分析単位の判定基準を満たすべきである(4.3.2項を参照)。濃度計算では、検量線用標準試料を統合して1回の回帰分析を実施すべきである。統合した検量線が判定基準を満たさない場合、分析単位全体が棄却される。
4.3.2 分析単位の判定基準
分析単位の採用又は棄却の判定基準は、試験計画書又はSOPに定めておくこと。1つの分析単位に複数のバッチが含まれる場合、判定基準は分析単位全体及び個別のバッチの両方に適用されるべきである。分析単位中の1つのバッチが判定基準を満たさず棄却された場合においても、分析単位として判定基準を満たすことはありえる。棄却されたバッチの検量線用標準試料は、分析単位内の他のバッチを採用するために使用することはできない。
回帰式から求めた検量線用標準試料の濃度の真度は、定量下限及び定量上限では理論値の±25%以内、その他の濃度では理論値の±20%以内でなければならない。検量線用標準試料の75%以上、かつ少なくとも6濃度がこの基準を満たすものとする。この要件はアンカー検量線用標準試料には適用されない。6濃度を超える検量線用標準試料を用い、そのうち基準を満たさなかった試料があった場合、当該検量線用標準試料を棄却し、当該試料を含めずに検量線を再評価して新たな回帰分析を実施する。
定量下限の検量線用標準試料が棄却された場合、当該分析単位における新たな定量下限は、検量線上で、その次に低い濃度で判定基準を満たす検量線用標準試料とする。最高濃度の検量線用標準試料が棄却された場合、当該分析単位における新たな定量上限は、検量線上で、その次に高い濃度で判定基準を満たす検量線用標準試料とする。この新たな定量下限及び定量上限の検量線用標準試料は、当初の判定基準(すなわち、±20%以内)を満たすものとする。変更された定量範囲にはすべてのQC試料濃度(低濃度、中濃度及び高濃度)が含まれなければならない。変更された定量範囲から外れた実試料については、再分析を実施すべきである。
各分析単位には少なくとも3濃度のQC試料(低濃度、中濃度及び高濃度)を含むべきである。実試料分析において、試料ごとに用いるウェルの数に関して、検量線用標準試料及びQC試料は実試料での分析を反映したものとする。すべてのQC試料の少なくとも3分の2、かつ各濃度における少なくとも50%が理論値の±20%以内でなければならない。これらの基準を使用しない場合はその妥当性を示し、SOP又は試験計画書で事前に定義しておくべきである。
判定基準を満たしたすべての分析単位におけるQC試料全体の平均真度と精度を濃度ごとに算出し、生体試料中薬物濃度分析報告書に報告すべきである。全体の平均真度及び/又は精度が20%を超える場合は、逸脱の原因を特定するための追加調査を実施すべきである。比較BA/BE試験では、この逸脱はデータの棄却につながることがある。
4.3.3 定量範囲
少なくとも2つのQC試料濃度が、測定された実試料の濃度範囲内に入らなければならない。予定される臨床用量において、実試料分析の開始後に、予期せず実試料の測定値が検量線の一端に集まってしまった場合、分析を中止し、実試料分析を継続する前に、定量範囲を狭めるか(すなわち、パーシャルバリデーション)、QC試料濃度を変更するか、又は測定された値の範囲内で、設定している検量線に追加濃度のQC試料を加えるべきである。検量線の範囲又はQC試料濃度の最適化前に分析した実試料を再分析する必要はない。
4.3.4 実試料の再分析
実際の実試料分析の開始前に、想定される実試料の再分析の理由、再分析の回数、及び報告する定量値を選択する判断基準を試験計画書又はSOPに事前に定義すべきである。
再分析した試料の数(及び試料総数に対する割合)は、生体試料中薬物濃度分析報告書に報告し考察すべきである。比較BA/BE試験の場合は、棄却された分析単位での値を別表で報告すること。
以下に、実試料を再分析する理由の具体例を示す。
・ 検量線用標準試料の真度及び/又はQC試料の真度と精度が判定基準を満たさなかったことにより、分析単位が棄却された場合
・ 得られた濃度が定量上限を超えている場合
・ 最低濃度の検量線用標準試料が棄却され、変更後の定量下限が他の分析単位に比べて高くなった分析単位において、得られた濃度が変更後の定量下限よりも低い場合
・ 分析機器の不具合が生じた場合
・ 希釈して測定した実試料の濃度が定量下限よりも低い場合
・ 投与前試料、対照群又はプラセボ投与群の試料中に定量可能な量の分析対象物質が確認された場合
・ 試料分析を複数ウェルで実施した時、繰り返し分析の1つが事前に定めた判定基準を満たさないことにより報告可能な結果が得られなかった場合(例えば、ウェル間の極端な乖離、又は繰り返し分析の1つが定量上限を超えたか定量下限を下回った場合)
比較BA/BE試験については、薬物動態学的な理由(例えば、試料の濃度が予測されるプロファイルと一致しない)による実試料の再分析は、試験結果に偏りを生じさせる可能性があるため許容されない。
再分析した試料はすべて生体試料中薬物濃度分析報告書において特定し、初回定量値、再分析の理由、再分析で得られた定量値、最終的に採用した定量値、及び採用の妥当性を記載すべきである。さらに、再分析の理由ごとに再分析した試料総数の要約表も作成すべきである。初回の分析で報告可能な結果が得られなかった場合(例えば、定量上限を超える濃度、又はウェル間の極端な乖離)、1回の再分析で十分である。試料の分析は、試料ごとに初回の分析と同じウェルの数を用いて実施すべきである。定量値を確認する必要がある場合(例えば、投与前試料が測定可能な濃度を示した場合)、使用可能な試料量があれば、複数回の分析を行う必要がある。
臨床試験においては、被験者の安全性が試験のいかなる状況よりも優先されるべきである。したがって、調査目的のため、特定の実試料の再分析を必要とする状況が起こり得る。
5.Incurred Sample Reanalysis(ISR)
実試料の挙動は、分析法バリデーション時に用いられる、ブランクマトリックスに添加して調製した検量線用標準試料及びQC試料の挙動とは異なる場合がある。タンパク結合の違い、既知又は未知の代謝物の逆変換、試料の不均一性、併用薬又は実試料特有の生体成分等は、実試料分析における分析対象物質の測定値に影響する可能性がある。ISRは、報告された実試料中の分析対象物質濃度の信頼性を検証することを目的としている。
ISRは少なくとも以下の状況下において実施する。
・ 本ガイドラインが適用される非臨床試験については、一般に、ISRは少なくとも動物種ごとに1回実施されるべきである。
・ すべての主要な比較BA/BE試験
・ ヒトにおける最初の臨床試験
・ 患者を対象とした主要な初期の臨床試験、患者集団ごとに1回
・ 肝機能障害患者や腎機能障害患者を対象とした最初の試験又は主要な試験
ISRは、試験で得られた試料の一部を、別の分析単位(すなわち、初回の分析単位とは異なる分析単位)で、異なる日に、同じ生体試料中薬物濃度分析法を用いて再分析をすることにより実施される。
ISRを実施する範囲は、分析対象物質及び実試料に依存し、分析法及び分析対象物質に関する十分な理解に基づいて決定されるべきである。ただし、実試料総数が1000以下の場合は少なくとも試料数の10%、実試料総数が1000を超える場合は少なくとも1000試料の10%(100試料)に1000試料を超える試料数の5%を加えた試料数を再分析して評価する。ISRに供する実試料を選択するための客観的な基準は、試験計画書又はSOPにあらかじめ定義しておくべきである。被験者/被験動物は実薬投与群から可能な限り無作為に選択されるべきであるが、濃度プロファイルが適切に含まれるようにすることが重要である。したがって、ISRのための実試料は、最高濃度(Cmax)付近及び消失相の試料を選択することが推奨される。さらに、選択した実試料は、試験全体を代表しているべきである。
複数の試料をプールすることは、異常値の発見の妨げとなることがあるため行わないこと。ISR試料及びQC試料は、初回分析時と同じ方法で前処理し、分析されるべきである。ISRは分析対象物質の安定性が保証された期間内に実施する必要があるが、初回分析と同じ日に実施してはならない。
初回定量値と再分析定量値との乖離度(%)は、以下の計算式により、両者の平均値に対する値として算出する。
クロマトグラフィーでは、ISR試料数の少なくとも3分の2において、乖離度が±20%以内でなければならない。リガンド結合法では、ISR試料数の少なくとも3分の2において、乖離度が±30%以内でなければならない。
ISRの総合的な結果が判定基準を満たさなかった場合は、調査して原因を是正すべきである。調査がどのように開始され、実施されるかを示すSOPを作成すべきである。調査によってISR不成立の原因を特定できない場合、ISR不成立が試験の妥当性に与える潜在的な影響についても生体試料中薬物濃度分析報告書に記載すべきである。ISRが判定基準を満たしていても、複数の試料の結果間に大きな又は系統的な乖離がある場合には、分析上の問題を示唆している可能性があるため、さらに調査を実施することが望ましい。
留意すべき傾向として以下の事例を挙げることができる。
・ 1個体からのすべてのISR試料が判定基準を満たさない。
・ 1分析単位のすべてのISR試料が判定基準を満たさない。
試験とあらゆる調査を再構築できるよう、ISR評価のすべての側面を文書化する必要がある。個々の試料について、初回定量値から大きな乖離(例えば、50%を超えるような「外れ値」)を示す場合であっても、元の試料の再分析を始めるべきでなく、調査は必要としない。また、元の実試料データをISR試料のデータに置き換えるべきではない。
6.パーシャルバリデーション及びクロスバリデーション
6.1 パーシャルバリデーション
すでにフルバリデーションを実施した生体試料中薬物濃度分析法を変更する場合は、パーシャルバリデーションを実施して、変更の影響を評価する。パーシャルバリデーションは、1回の分析単位内の真度及び精度による評価から、フルバリデーションとほぼ同様の評価まで、様々な場合がある。ある施設において安定性が確立された場合、必ずしも他の施設で繰り返す必要はない。
以下に、クロマトグラフィーにおいて、パーシャルバリデーションの対象に分類される典型的な生体試料中薬物濃度分析法の変更の事例を示すが、これらに限定されるものではない。
・ 同じ分析法での分析施設の変更(すなわち、施設間の生体試料中薬物濃度分析法の移管)
・ 分析手法の変更(例えば、検出システム又はプラットフォームの変更)
・ 試料前処理手順の変更
・ 試料量の変更(例えば、小児由来試料における少量化)
・ 定量濃度範囲の変更
・ 生体試料中の抗凝固剤の変更(例えば、ヘパリンからエチレンジアミン四酢酸(EDTA)への変更)(ただしカウンターイオンの変更は含まない)
・ 同一の種における、あるマトリックスから別のマトリックスへの変更(例えば、ヒトの血漿から血清若しくは脳脊髄液への切り替え)、又は同じマトリックスにおける種の変更(例えば、ラットの血漿からマウスの血漿への切り替え)
・ 試料保存条件の変更
以下に、リガンド結合法において、パーシャルバリデーションの対象に分類される典型的な生体試料中薬物濃度分析法の変更の事例を示すが、これらに限定されるものではない。
・ リガンド結合法に使用する重要試薬の変更(例えば、ロット変更)
・ MRDの変更
・ 試料保存条件の変更
・ 定量濃度範囲の変更
・ 分析手法の変更(例えば、検出システム又はプラットフォームの変更)
・ 同じ分析法での分析施設の変更(すなわち、施設間の生体試料中薬物濃度分析法の移管)
・ 試料前処理手順の変更
・ 生体試料中の抗凝固剤の変更(例えば、ヘパリンからEDTAへの変更)(ただしカウンターイオンの変更は含まない)
パーシャルバリデーションのパラメータは、フルバリデーションの基準を満たさなければならない。基準が満たされない場合は、追加の検討とバリデーションが必要である。
6.2 クロスバリデーション
クロスバリデーションは、複数の生体試料中薬物濃度分析法及び/又は複数の分析施設が関与している場合に、報告されたデータがどのように相関しているかを示すために必要である。
以下の状況では、クロスバリデーションが必要となる。
・ 同一試験内で、それぞれフルバリデーションされた異なる分析法によりデータを取得する場合
・ 同一試験内で、同一の生体試料中薬物濃度分析法を用いて異なる分析施設からデータを取得する場合
・ 特定の用法用量又は安全性、有効性、電子添文の記載内容に関する規制当局による意思決定を支持するために統合又は比較される予定の複数の試験間において、それぞれフルバリデーションされた異なる分析法によりデータを取得する場合
フルバリデーションされた異なる方法から得られたデータが試験間で統合されない場合、一般にクロスバリデーションは必要ない。
可能であれば、クロスバリデーションは、実試料を分析する前に実施する。
クロスバリデーションは、同一QC試料(低濃度、中濃度及び高濃度)を少なくとも3回繰り返し分析し、更に(可能であれば)実試料の濃度範囲全体が含まれるような実試料(n≧30)を両方の分析法又は両方の施設において測定して評価すること。
バイアスは、Bland―Altmanプロット又はDeming回帰により評価することができる。その他に二つの分析法間の一致度を適切に評価できる方法(例えば、一致相関係数)を使用してもよい。あるいは、バイアスを評価するその他の方法として、各分析法を用いて測定した実試料の濃度を時間に対してプロットすることも可能であろう。
1つの比較BA/BE試験においては、同一の分析対象物質の測定に、複数の生体試料中薬物濃度分析法の使用を避けることが強く推奨される。
7.考慮すべき追加事項
7.1 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法
分析対象物質が内因性分子(補充療法等)であり、分析法が治療薬と内因性分子を識別することができない場合、分析対象物質の測定真度が問題となる。さらに、分析対象物質の内因性濃度は、年齢、性別、人種、日内変動、疾病又は薬物治療の副作用等により変動することがある。本項では、内因性分子でもある分析対象物質の濃度を評価するために使用される可能性のあるいくつかの方法について説明する。注意点として、バイオマーカーは本ガイドラインの適用範囲外である。
検量線用標準試料及びQC試料の調製に使用するための生体マトリックスは、入手可能であれば、実試料と同じもの(すなわち、真の生体マトリックス)とし、3項及び4項で述べたようにマトリックス効果及び妨害がないものとすべきである。選択した生体マトリックス中の分析対象物質の内因性濃度は、適切なシグナル/ノイズ比を得るため、十分に低い必要がある(例えば、定量下限の20%未満)。
妨害のないマトリックスが入手できない場合、以下の方法(代替マトリックス法、代替分析対象物質法、バックグラウンド減算法及び標準物質添加法)で実試料中の分析対象物質の濃度を算出することができる。
1) 代替マトリックス法
検量線用標準試料のマトリックスとして代替マトリックスを用いる。代替マトリックスは、単純な緩衝液や真の生体マトリックスを模した人工マトリックスから、内因性分子を除去したマトリックスや他の種のマトリックスまで多様なものがある。
2) 代替分析対象物質法
質量分析法において、安定同位体標識した分析対象物質を、内因性分析対象物質の定量のための検量線を作成する代替標準物質として用いる。この方法において、真の分析対象物質及び代替分析対象物質は、分子量を除く物理化学的特性が同じであると仮定されている。ただし、同位体の標準物質は保持時間とMS感度が異なる可能性があるため、この方法を適用する前提として、標識分析対象物質と非標識分析対象物質のMSレスポンスの比率(すなわち、レスポンス係数)が1に近く、検量線範囲全体において一定であるべきである。レスポンス係数がこの要件を満たしていない場合は、それを検量線の回帰式に組み込むべきである。
3) バックグラウンド減算法
プールしたマトリックス/代表的なマトリックスで測定された内因性分析対象物質の濃度を、標準物質を添加して測定された濃度から差し引き、その差分を用いて検量線を作成する。
標準物質の添加前にブランクマトリックスの希釈によりバックグラウンド濃度を低下させる場合(例えば、より低い定量下限が必要とされる場合)、実試料と検量線用標準試料のマトリックスの組成が異なるため、回収率及びマトリックス効果が異なる可能性がある。このような違いを考慮した上で、分析法の検証を行うべきである。
4) 標準物質添加法
標準物質添加法は、線形応答を有する分析プラットフォームにのみ適用される。一般的に標準物質添加法は、検量線用標準試料やQC試料の調製に使用する真のマトリックス中の内因性分析対象物質の濃度を定量するために使用される。しかし、この方法は、実試料の測定にも利用可能である。この方法では、すべての実試料を等量に分割する。分割した試料のうち1つの試料を除き、すべての試料に様々な既知の量の分析対象標準物質を添加し、真のブランクマトリックス又は実試料ごとに検量線を作成する(例えば、3~5ポイント)。次に、当該実試料について作成した、標準物質による検量線の負のx切片から、ブランクマトリックス中の内因性濃度又は実試料の濃度を求める。
内因性分子でもある分析対象物質の分析法バリデーションに関しては、3項及び4項に示したバリデーションに加え、以下の事項について考慮する必要がある。
7.1.1 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法におけるQC試料
QC試料を調製する前に、生体マトリックス中の分析対象物質の内因性濃度を評価すべきである。妨害性を有する内因性分析対象物質の濃度が可能な限り低いマトリックスを用いるべきである。QC試料の濃度は、真のマトリックス中の内因性濃度を考慮に入れ、予測される実試料の濃度を代表すべきである。
QC試料は、実試料に類似し、同じマトリックスで調製されるべきである。原則として、バリデーションに使用するすべての濃度のQC試料は、未添加の真の生体マトリックス(可能な場合、定量下限と低濃度QC試料との間の濃度の内因性QC試料を用いる)、及び真の生体マトリックスに既知量の真の分析対象物質を添加したもの(低濃度QC試料、中濃度QC試料及び高濃度QC試料)を分注したものとすべきである。
添加試料(例えば、定量下限、低濃度QC試料)においては、添加量は内因性濃度の3倍以上又は内因性濃度と統計学的に異なる濃度となる十分な量とする。複数ロット、代替ベンダー、低濃度の分析対象物質を含む可能性のある特別な集団のマトリックス等の選択肢を用いても、内因性濃度が非常に高く、真のマトリックスで低濃度QC試料を調製することができない場合は、希釈(代替)マトリックスを使用してもよい。
7.1.2 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における選択性、回収率及びマトリックス効果
選択性の評価は、妨害物質を含まないマトリックスを使えない場合、複雑なものとなる。クロマトグラフィーにおいては、分析法バリデーションの一部として、数人のドナー(少なくとも正常ブランク6個体、溶血性ブランク1個体、及び高脂質性ブランク1個体)から採取したマトリックスを、識別可能な検出システム(例えば、タンデム質量分析法(MS/MS))により分析して、ピーク純度を検討すべきである。科学的に妥当であれば他の方法を考慮してもよい。
標準物質添加法及びバックグラウンド減算法では、実試料及び検量線用標準試料で同じ生体マトリックス及び分析対象物質が用いられることから、実試料及び検量線用標準試料において同じ回収率とマトリックス効果が得られる。しかし、内因性成分が完全に同一でない場合(例えば、組換えタンパク質)、回収率の潜在的な差は、平行性試験で評価すべきである。代替マトリックス法及び代替分析対象物質法では、マトリックス効果及び回収率が検量線用標準試料と実試料との間で異なる可能性がある。主に定量下限濃度で、マトリックス効果が真度と精度に影響を与えないことを確認するため、マトリックス効果を評価すべきである。
・ 代替マトリックス法を用いる場合、代替マトリックスと真のマトリックスの双方におけるマトリックス効果及び回収率の違いの影響を評価すべきである。これは、代替検量線に対して、マトリックスに分析対象物質を添加したQC試料、内因性マトリックスのみ、代替マトリックスのみに分析対象物質を添加した試料を用いた実験で調べる。
・ クロマトグラフィー/質量分析法において代替分析対象物質法を用いる場合、代替分析対象物質と真の内因性分析対象物質の間のマトリックス効果や回収率の違いの影響を評価すべきである。これは、代替検量線に対して、マトリックスに分析対象物質を添加したQC試料、内因性マトリックスのみ、マトリックスに代替分析対象物質を添加した試料を用いた実験で調べる。
・ 特定の状況では、内因性濃度が高く、定量下限を変更する必要が生じ、代替マトリックスによるQC試料の希釈が必要な場合がある(例えば、バックグラウンド減算法)。このような場合、入手可能であれば、定量下限と低濃度QC試料の間の内因性濃度を有する真の生体マトリックスを用いて、回収率とマトリックス効果の実験を繰り返す。
クロマトグラフィー及びリガンド結合法の判定基準については、それぞれ3項及び4項を参照。
生体マトリックスの組成が分析法の性能に影響を与える可能性があるため、各試料がそれ自体の検量線で分析される標準物質添加法を除き、少なくとも6(クロマトグラフィー)/10(リガンド結合法)個体のドナーから得たマトリックスを用いて検討する必要がある。
7.1.3 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における平行性
平行性は、分析対象物質濃度の変化に対するレスポンスの変化が、分析法の範囲にわたって、代替マトリックスと真の生体マトリックス間で同等であることを保証するものである。リガンド結合法及びクロマトグラフィーでは平行性の評価が異なることを考慮して、代替マトリックス法及び代替分析対象物質法において平行性を評価すべきである。
7.1.4 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における真度及び精度
真度及び精度は、クロマトグラフィー及びリガンド結合法において、それぞれ3項及び4項で示された基準を満たす必要がある。
代替マトリックス法又は代替分析対象物質法を用いる場合の真度及び精度の評価は、代替検量線に対してQC試料を定量することにより実施する。
ブランクマトリックス中の内因性分子の濃度を定量し、これを添加試料中の総濃度から差し引く。真度は、内因性濃度の分析対象物質を含むマトリックスに真の分析対象物質を添加したQC試料を使用する場合、以下の式で計算することが推奨される。
添加されていない又は内因性QC試料の分析では、精度のみ算出できる。
7.1.5 内因性分子でもある分析対象物質のための分析法における安定性
実試料を可能な限り再現するために、安定性は、真の生体マトリックス中の真の分析対象物質、添加されていない/内因性QC試料(内因性分子を含むブランクマトリックス)、及び7.1.1項で定義されている添加された低濃度QC試料及び高濃度QC試料で評価すべきである。しかし、代替マトリックスを検量線用標準試料として用いる場合、代替マトリックス中の分析対象物質の安定性が真の生体マトリックス中の安定性とは異なる可能性もあるため、代替マトリックス中の安定性も示すべきである。
7.2 平行性
平行性とは、分析対象物質の測定に対する希釈の影響を検出するための、検量線と系列希釈した実試料との平行な関係と定義される。PK評価のための生体試料中薬物濃度分析法において平行性の欠如が認められることはまれであるが、リガンド結合法における平行性は、例えば、実試料の分析時にマトリックス成分による妨害(例えば、内因性結合タンパク質の存在)が疑われるような場合に、ケースバイケースで評価すべきである。平行性の検討結果、又は平行性を検討しないことの妥当性を、生体試料中薬物濃度分析報告書中に記載する必要がある。分析法によっては、ある患者集団で平行性が示されても、別の患者集団では平行性を欠くことがある。一般に、分析法開発中又はバリデーション中は実試料を入手できないため、平行性の評価は実試料の分析時に実施する。高濃度(Cmaxに近いものが望ましい)の実試料を、ブランクマトリックスで少なくとも3濃度に希釈する必要がある。希釈系列の試料間の逆算濃度の一致度は、30%CV以下とする。ただし、この30%という判定基準を適用し、これに適合した場合でも、非平行性を示す傾向が認められることがあるので、データを慎重にモニタリングすべきである。直線性を保持した試料の希釈ができない場合(すなわち、非平行性を有する場合)に結果を報告する手順について、あらかじめ定義しておく必要がある。
7.3 回収率
分析法に抽出操作が含まれている場合は、回収率(抽出効率)を評価する。回収率は、既知量の分析対象物質が、分析法における試料の抽出及び前処理過程を経て得られる割合(%)として報告される。回収率は、分析対象物質を生体試料に添加し前処理したときのレスポンスと、ブランク試料を前処理した後に分析対象物質を添加したときのレスポンスとを比較することにより算出される。分析対象物質の回収率は100%である必要はないが、分析対象物質及びIS(使用する場合)の回収率は一定である必要がある。回収率は、複数の濃度、通常は3濃度(低濃度、中濃度及び高濃度)の抽出試料の分析結果を比較して評価することが推奨される。
7.4 Minimum Required Dilution(MRD)
MRDとは、リガンド結合法を用いた分析において、バックグラウンドシグナルやマトリックスによる妨害を軽減するため、緩衝液で生体試料を希釈する際に適用される希釈倍率である。MRDは、検量線用標準試料及びQC試料を含むすべての試料で同一でなければならず、分析法開発の際に決定しなければならない。分析法を確立した後にMRDを変更する場合は、パーシャルバリデーションが必要となる。MRDは、分析法のバリデーション報告書において規定する必要がある。
7.5 市販及び診断用キット
市販又は診断用キット(以下、キットという。)は、医療現場における患者の診断用として、新しい化学薬品又は生物薬品と同時に開発されることがある。ガイドラインの本項における推奨事項は、医療現場での診断を目的としたキット(例えば、コンパニオン診断薬又はコンプリメンタリー診断薬キット)の開発には適用されない。これらキットの開発に関する規制上の要件については適切なガイドラインを参照すること。
新規医薬品の開発段階において、化学薬品又は生物薬品の濃度測定のために、あるキットを(新しい分析法を開発する代わりに)別の目的で使用する、又は、「研究目的用」キットを使用する場合、申請者は本ガイドラインに規定されている医薬品開発のための基準に適合することを保証するために、当該キットのバリデーションで評価する必要がある。
以下に、キットを用いた分析法のバリデーションに関連して考慮すべき事項を示すが、これらに限定されるものではない。
・ キット内の標準物質が実試料中の分析対象物質と異なる場合、キットに含まれる試薬を用いて分析性能の違いを評価すべきである。実試料を分析する施設での使用条件下で、キット分析法の特異性、真度、精度及び安定性を示す。キットの取扱説明書に記載されている前処理手順を変更する場合は、その内容を完全にバリデートすべきである。
・ 少数の検量線用標準試料を用いるキット(例えば、1~2点で構成される検量線)では、定量範囲全体にわたって十分な数の標準試料を用いて検量線を確立するため、試験実施施設でのバリデーションを実施すべきである。
・ 実際のQC試料濃度を把握しておくべきである。QC試料の濃度を範囲で表すことは定量目的で使用するには不十分である。範囲で示されている場合、キットに含まれるQC試料とは別に、既知濃度のQC試料を調製して用いる必要がある。
・ 検量線用標準試料及びQC試料は、実試料と同じマトリックスを用いて調製すべきである。実試料と異なるマトリックスを用いて調製された検量線用標準試料及びQC試料が使われているキットの場合は、その妥当性を検証し、適切な試験を実施すべきである。
・ 1試験中に複数ロットのキットを用いる場合は、キットに含まれるすべての重要試薬について、ロット間のばらつき及び同等性を調べておくべきである。
・ 複数のアッセイプレートを用いるキットの場合は、分析法の真度をモニターするためプレートごとに十分な繰り返し数のQC試料を用いるべきである。また、個別のプレート及び分析単位全体に対する判定基準を設定すべきである。
7.6 新技術又は代替技術
医薬品開発の開始時から、1つの新技術又は代替技術のみを生体試料中薬物濃度分析技術として用いる場合、既存技術とのクロスバリデーションは必要とされない。
一つの医薬品の開発に2種類の生体試料中薬物濃度分析技術を使用する場合、解釈困難なデータが生じる可能性がある。このことは、1つのプラットフォームから得られた薬物濃度が、他のプラットフォームからのものと異なる場合に起こり得る。したがって、医薬品開発において、新規又は代替の分析プラットフォームをそれまでに用いていたプラットフォームから変更するときは、潜在的な違いが十分に理解されていることが重要である。それまでのプラットフォーム/技術から得られたデータと、新規又は代替プラットフォーム/技術から得られたデータについて、クロスバリデートすべきである。医薬品開発の早期に規制当局からの助言を求めることが望ましい。比較BA/BE試験においては、二つの分析法又は技術の使用を避けることが強く推奨される。
規制下のバイオアナリシスに新技術を使用する場合は、あらかじめ分析法開発及びバリデーションで妥当性が示された判定基準により裏付けられるべきである。
7.6.1 乾燥試料法
乾燥試料法(Dried Matrix Methods、DMM)は、薬物分析用のマイクロサンプリング技術として少量血液試料の採取、保存及び輸送の容易さ等の利点を有する試料採取方法である。LC―MS又はリガンド結合法に対する一般的な分析法バリデーションに加え、DMMを規制当局への申請を目的とした試験に用いる場合は、その使用の前に以下のような項目についてさらなるバリデーションが必要である。
・ ヘマトクリット(特に、全血をカードにスポットする場合)
・ 試料の均一性(特に、カード/デバイス上の試料の一部を切り取る場合)
・ 乾燥マトリックスからの試料の抽出
・ ISR用のDMM試料採取
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ISR用として十分な試料の量又は繰り返し数を確保するよう注意する。
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試料を複数回パンチして評価するか、2測定分採取する。
同じ臨床試験又は非臨床試験において典型的な液体の試料(例えば、血漿試料)に加えてDMMを用いる場合、既述のとおり(6.2項を参照)これら2つの方法をクロスバリデートすべきである。非臨床TK試験については、「「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス」におけるマイクロサンプリング手法の利用に関する質疑応答集(Q&A)について」(平成31年3月15日付け厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課事務連絡)の4.1項を参照すること。医薬品開発の早期に規制当局からの助言を求めることが推奨される。
8.文書化
適切にバリデートされた分析法には、一般的内容及び具体的内容を記したSOP、並びに適切な記録の管理・保存が必須である。生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関連して得られたデータは、記録され、監査及び査察に利用可能とすべきである。表1は、規制当局に提出する資料として推奨される文書項目及び分析施設の査察時に利用可能とすべき文書項目を示している。これらの文書項目は、分析施設又は他の安全な場所に保管してもよい。この場合は、要求に応じて直ちに提示できる状態とすること。
試験が実施され、報告されたとおりに試験を再構築するために必要となるすべての試験関連文書は、安全な環境下で保持されるべきである。関連文書には、少なくとも原データ、試験計画書及び報告書、手順・操作・環境上の事項を裏付ける記録、並びにすべての関係者間の通信記録が含まれるが、これらに限定されない。
文書の形式(すなわち、紙又は電子)にかかわらず、記録はデータの発生と同時に行われるべきであり、その後の変更により元のデータが不明瞭になってはならない。データを変更又は再処理する場合の根拠を十分詳細に文書化する必要があり、また、初回の記録を保持すべきである。
8.1 要約情報
要約情報として、CTD(Common Technical Document)若しくはeCTD(electronic CTD)の2.6.4/2.7.1又は報告書に以下の項目を含めること。
・ 各試験において用いられた分析法の要約を含める。要約には、分析法のタイトル、分析法識別コード、分析法の種類、生体試料中薬物濃度分析報告書コード、分析法の発効日、及び関連するバリデーション報告書のコードを含める。
・ パーシャルバリデーション報告書及びクロスバリデーション報告書を含めて、関連するすべてのバリデーション報告書の要約表を分析対象物質ごとに作成する。この表には、分析法識別コード、分析法の種類、新しい分析法バリデーション又は追加バリデーションの理由(例えば、定量下限を下げるため)を含める。分析法に対し加えられた変更は明確に記載する。
・ 1つの分析法において、分析法、バリデーション報告書及び生体試料中薬物濃度分析報告書に異なるコードが使われている場合は、複数の識別コードを相互参照する要約表を作成する。
・ 分析法変更に関する考察(例えば、分析法の開発経緯、変更理由、特筆すべき事項)
・ 比較BA/BE試験については、過去3年間及び試験終了後1年間に規制当局の施設査察が実施された場合、各分析施設の施設査察の一覧(日付及び結果を含む)。
8.2 バリデーション報告書及び生体試料中薬物濃度分析報告書のための文書項目
表1にバリデーション報告書及び生体試料中薬物濃度分析報告書において推奨される項目を示した。
表1:文書項目及び報告項目