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○「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」の一部改正について

(令和6年6月4日)

(医政発0604第20号)

(各都道府県知事あて厚生労働省医政局長通知)

(公印省略)

ICTを利用した死亡診断等については、これまで「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」(平成29年9月12日付け医政発0912第1号の別紙。以下「ガイドライン」という。)において、その基本的な考え方や医師がICTを利用した死亡診断等を行う際に必要となる要件等をお示ししてきました。

今般、ICTを利用した死亡診断等の実施状況等を踏まえ、別添1のとおりガイドラインの一部を改正いたしましたので、貴職におかれましては、これを御了知の上、貴管下保健所設置市(特別区を含む。)、関係機関、関係団体等に対する周知徹底をお願いいたします。

なお、平成29年9月12日付けでお示ししたガイドラインからの修正点は別添2の新旧対照表を御参照ください。

情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン

平成29年9月

(令和6年6月一部改訂)

厚生労働省

第1章 ICTを利用した死亡診断等の基本的考え方

(1) 死亡診断等をとりまく課題

○ 我が国において、埋葬又は火葬を行おうとする者は、市町村長に死亡届を提出し埋葬又は火葬許可を得る必要がある(墓地、埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)第5条第1項及び第2項)。この際、死亡届に死亡診断書(又は死体検案書)を添付しなければならない(戸籍法(昭和22年法律第224号)第86条第2項)。

○ 医師は自ら診察しないで診断書を交付することが禁止されており、死亡診断書を交付する場合においても、医師は自ら診察することが義務付けられている(医師法(昭和23年法律第201号)第20条)。この趣旨は、死亡診断書に記載する内容(氏名、死亡時刻、死亡の原因等)の正確性を保障することにある。

○ また、医師が死亡に立ち会えなかった場合においては、医師が死亡後に診察(以下「死後診察」という。)を行い、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できる場合には、死亡診断書を交付することが認められる。

○ しかし、死亡時に、医師が遠方にいるなどして、死後診察を行うことが困難な場合には、円滑に死亡診断書を交付し、埋火葬をおこなうことができない。このため、住み慣れた場所を離れ医療施設に入院したり、死亡後に遺体を長時間保存・長距離搬送したりしているとの指摘がある。

(2) 本ガイドラインにおける用語の定義

○ 「死後診察」

死亡後に診察を行うことを指す。

○ 「死亡診断等」

死後診察、死亡診断及び死亡診断書の交付を指す。

○ 「医師」

第2章以降において、ICTを利用した死亡診断等を行う医師を指す。

○ 「看護師」

法医学等に関する一定の教育を受けた看護師であり、医師が行う遠隔からの死亡診断等に必要な情報を、ICTを利用して報告する看護師を指す。

(3) 法的整理

○ 医師法第20条等における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他の手段の如何を問わず、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のものをいう。情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)については、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない(平成9年12月24日付け健政発第1075号厚生省健康政策局長通知)。

○ このことは、死亡診断書を交付する場合にも適用される。すなわち、医師が死亡に立ち会えず、生前に診療にあたっていた医師が死後診察を行う場合であっても、直接対面による死後診察に代替し得る程度の情報が得られる場合には、ICTを用いて遠隔から死亡診断を行うことは法令上可能である。

○ しかし、通常の生体に対する診察と異なり、死後診察においては「どのような条件下であれば、直接対面による死後診察に代替し得る程度の情報が得られるか」が必ずしも明らかでなく、実質的に死後診察を遠隔で行うことができない状況にある。

○ このような状況を踏まえ、今般「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」を策定し、ICTを利用した死亡診断等を行うことができる条件について明らかにした。

(4) ICTを利用した死亡診断等を行うにあたっての留意点

○ 遺族にとっては、死後診察は、医師から死亡の事実のみならず、これまでの経過等に関する医学的説明を受ける機会であり、極めて重要な意義をもつ。また、死亡診断書は法律上、社会上の重要性が高く、その記載内容が正確でなかった場合、死因統計が不正確になる等社会に大きな影響を及ぼすことが懸念される。したがって、医師は、礼意と細心の注意をもって死後診察を行い、死亡診断書を交付しなければならない。

○ また、たとえ、早晩死亡することが予想され、積極的な治療を行わないとの方針の下で終末期の療養を行ってきた患者であっても、ベッドから転落した際の頭部打撲が原因で死亡したり、病気を苦に自殺したり、苦しむ姿を見かねた家族が殺害したりと、診療継続中の傷病以外の原因で死亡する例も存在する。医師法が、自ら診察することなく死亡診断書を交付することを禁じているのも、このような事例を見逃すことを防ぐ趣旨である。

○ したがって、ICTを利用した死亡診断等を行う場合においても、直接対面での死後診察と同程度に死亡診断書の内容の正確性が保障され、遺族と円滑にコミュニケーションを図ることができる等の条件が満たされていなければならない。

○ なお、ICTを利用した死亡診断等を試みたものの、直接対面での診察に代替しうる程度の診察を行うことが困難と認める場合には、ICTを利用した死亡診断等を中止し、直接対面による死後診察を行わなければならない。その上で、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判定できない場合等には、死体の検案がなされなければならない。さらに、異状があると認められる場合には、所轄警察署に届け出なければならない。

(5) 本ガイドラインの見直しについて

○ ICTを利用した死亡診断等については、厚生労働省において、原則として全例を把握し、適切に実施されているかを検証することとする。

○ 上記の検証結果等を踏まえ、本ガイドラインについて再検証し、必要に応じて見直すこととする。

第2章 ICTを利用した死亡診断等を行う際の要件

○ ICTを利用した死亡診断等を行うためには、次に示す(a)―(e)すべての要件を満たすことを要する(「規制改革実施計画」平成28年6月2日閣議決定)。

(a) 医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること

(b) 終末期の際の対応について事前の取決めがあるなど、医師と看護師と十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること

(c) 医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること

(d) 法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三徴候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること

(e) 看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること

○ 以下に(a)―(e)の要件の詳細について解説する。

(a) 要件

医師による直接対面での診療の経過から早晩死亡することが予測されていること

○ ICTを利用した死亡診断等を行うためには、医師が、対象となる患者に対し「生前に直接対面での診療」を行っていなければならない。

○ ここにいう「生前の直接対面での診療」は、死亡前14日以内に行われていることを要する。これは、死亡14日以内に直接対面での診療を行っていなければ、一般に、早晩死亡することを予測することが困難であると考えられるためである。

○ (a)要件にいう「早晩死亡することが予測される」とは、以下の①~④全ての要件を満たすことをいう。

① 死亡の原因となりうる疾患に罹患していること

② その疾患ないしその疾患に続発する合併症により死亡が予測されていること

③ 突然死(発症後24時間以内の病死)ではないこと

④ 生前の最終診察時に、医師が早晩死亡する可能性が高いと判断し、その事実を看護師、患者及び家族に説明していること

○ 「①死亡の原因となりうる疾患」の例としては、進行した悪性腫瘍、肝硬変、重症肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等があげられる。罹患している疾患が、一般に、死亡の原因となりえない場合は、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

○ また、たとえ「①死亡の原因となりうる疾患に罹患している」場合であっても、「②その疾患ないしその疾患に続発する合併症により死亡が予測されている」とはいえない場合は、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

(例A―1) 前立腺生検で偶発的に発見された被膜内に限局する前立腺がん

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 前立腺がんは進行すれば死亡の原因となる疾患であるが、被膜内に限局するような場合は、一般に死亡の原因となる状態とは考えられずICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

○ 上記①及び②の要件を満たす場合であっても、死亡にいたる経過が「③突然死」である場合は、一般に、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。これは、突然死の場合は、診療継続中の疾患と異なる疾患により死亡している可能性があり、直接対面での死亡診断等を行う必要があるためである。

(例A―2) 重度のCOPDで早晩呼吸不全で死亡することが予測される患者が、頭痛を訴えた後、突然死した場合。

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 重度のCOPDは「①死亡の原因となりうる疾患」であり、かつ重度な場合は「②死亡が予測される」といえるが、本例においては頭痛の発症から死亡までが24時間以内の「突然死」であるため、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

(b) 要件

終末期の際の対応について事前の取決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携が取れており、患者や家族の同意があること

○ (b)要件にいう「終末期の際の対応について事前の取決めがあるなど、医師と看護師の十分な連携が取れている」とは、次の①②の両方の要件を満たすことを指す。

① 終末期の際に積極的な治療・延命措置を行わないこと等について、ICTを利用した死亡診断等に関する同意書(様式1)を用いて医師―看護師―患者及び家族間で共通の認識が得られていること。

② 常時看護師から医師に電話連絡できる体制が整っていること。

○ ICTを利用した死亡診断等を行う趣旨は、看取りに際して、住み慣れた場所を離れ医療施設に入院したり、死亡後に遺体を長時間保存・長距離搬送したりすることを回避することにあるため、「①終末期の際に積極的な治療・延命措置を行わないこと」について確認されていることが必要である。

○ 具体的には、積極的な治療・延命措置(蘇生術の実施、人工呼吸器の装着、昇圧剤の投与及び輸血等)を希望しないことに関して、様式1を用いて書面で患者及び家族の同意を得なければならない。ただし、患者の意識レベルや認知機能が著しく低下していること等により、患者本人の同意を得ることが困難な場合には、家族の同意のみでも差し支えない。患者又は家族が積極的な治療・延命措置を希望している場合には、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

○ (b)要件にいう「患者や家族の同意がある」とは、医師が、報告を行う看護師の同席の下、ICTを利用した死亡診断等に関する同意書(様式1)を用いて、患者及び家族に対してICTを利用して死亡診断等を行うことについて説明し、その同意を得ることを指す。

(例B―1) 患者と家族が、死亡時にICTを利用した死亡診断等を行うことについて同意したものの、死亡後に家族が医師による直接対面での死後診察等を希望する場合。

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 家族によりICTを利用した死亡診断等に関する同意が取り消されたものと考えられるため、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

(c) 要件

医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況にあること

○ (c)要件にいう「医師間や医療機関・介護施設間の連携に努めたとしても、医師による速やかな対面での死後診察が困難な状況」とは、正当な理由のために、医師が直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況をさす。

○ 死亡後12時間を超えても死亡診断等がなされず埋火葬手続を行うことができない状態は望ましくないため、「正当な理由のために、直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる状況」を要件とした。

(例C―1) 旅客船が週2便(月曜日・水曜日に離島Iに接岸)しか航行していない離島Iにおいて、医師Aが訪問して診療している患者Bが木曜日に死亡した場合。

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 医師Aが患者B宅を訪問し死亡診断等を行いうるのは、最速でも翌週の月曜日であり、直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる。このため、ICTを利用した死亡診断等の対象となる。

(例C―2) 訪問診療クリニックに勤務する医師Aは、週末に関連病院の救急部で日当直勤務(土曜朝8時~日曜朝10時)に就いている。医師Aが訪問して診療する患者Bは、老人ホームにて最期を迎えることを希望している。このような状況下で、患者Bが土曜朝9時に死亡した場合。

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 医師Aが、患者Bが入居する老人ホームを訪問し、直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる。したがって、ICTを利用した死亡診断等の対象となる。

○ なお、ICTを利用した死亡診断等を行う医師は、直接対面での死亡診断等を行うまでに12時間以上を要することが見込まれる理由を、ICTを利用した死亡診断等の記録(様式2)に記載しなければならない。

(d) 要件

法医学等に関する一定の教育を受けた看護師が、死の三徴候の確認を含め医師とあらかじめ取り決めた事項など、医師の判断に必要な情報を速やかに報告できること

○ (d)要件にいう「法医学等に関する一定の教育」は、次に示す①~③のプログラムより構成されるものとする。必要に応じて①~③は単位制とし、分割して履修することを認める。

① 法医学等に関する講義

② 法医学に関する実地研修

③ 看護に関する講義・演習

○ 「① 法医学等に関する講義」の内容は、法医学に関する一般的事項(死因究明・死因統計制度、死因論、内因性急死、外因死(損傷・中毒・窒息論、異常環境死、虐待死))を含むものとする。

○ 「② 法医学に関する実地研修」の主な目的は、死体検案や解剖に参加することを通じ、死の三徴候や死後硬直をはじめとした、「① 法医学等に関する講義」で学ぶ内容を、実際に観察することにある。指導にあたる医師は、本ガイドラインの記載内容を十分に理解した上で、指導にあたるものとする。実地研修においては、2体以上の死体検案若しくは解剖(※)に立会うこと又は1体以上の死体検案若しくは解剖の立会い及び実地研修を代替する講義を受講することにより、様式2第6及び第7に記載する所見を遠隔にいる医師に報告できるよう修練を行うものとする。

※ ここでいう「解剖」とは、死体解剖保存法(昭和24年法律第204号)、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(平成24年法律第34号)、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)の規定に基づき行われる解剖を指す。ただし、死体解剖保存法の規定に基づき行われる解剖のうち、ホルマリン固定された遺体については、生体と状況が異なるため、ここでいう解剖から除外する。

○ 「③ 看護に関する講義・演習」の内容は、ICTを利用した死亡診断等を行うにあたり理解することが必要な関係法令及び制度、実際に利用する機器を用いたシミュレーション、死亡前から死亡後に至る患者・家族との接し方(患者の意向を尊重した意思決定支援を含む。)を含むものとする。

○ なお、(d)要件にいう「法医学等に関する一定の教育」については、一定の看護実務経験を有する看護師を対象に行うものとする。具体的には、看護師としての実務経験5年以上を有し、その間に患者の死亡に立ち会った経験3例以上があり、かつ、看護師としての実務経験のうち、訪問看護または介護保険施設等において3年以上の実務経験を有し、その間に患者5名に対しターミナルケアを行った(※)看護師とする。

※ ここでいう「ターミナルケアを行った」とは、訪問看護においては、患者の死亡日及び死亡前14日以内に、2回以上の訪問看護を実施し、ターミナルケアに係る支援体制について患者及びその家族等に対して説明した上でターミナルケアを行った場合をいう。また、介護保険施設等においては、当該施設の看取りに関する指針等に基づき、看護師が対象となる入居者に対するターミナルケアに関する計画の立案に関与し、当該計画に基づいてターミナルケアを行った場合をいう。

○ (d)要件にいう「死の三徴候の確認を含め医師とあらかじめ決めた事項」とは、様式2に規定する所定の事項のほか、ICTを利用した死亡診断等を行う医師が特に死後診察を要すると判断した事項を指す。

(e) 要件

看護師からの報告を受けた医師が、テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握することなどにより、死亡の事実の確認や異状がないと判断できること

○ (e)要件にいう「テレビ電話装置等のICTを活用した通信手段を組み合わせて患者の状況を把握」できるとは、以下に示す「①リアルタイムの双方向コミュニケーション」及び「②文書及び画像の送受信」が可能な体制が整備されていることを指す。

① リアルタイムの双方向コミュニケーション

・ LTE環境もしくはそれに相当する動作環境

・ 映像と音声によるリアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な端末

② 文書及び画像の送受信

・ 適切なセキュリティ下で文書及び画像を送受信できる体制

・ 文書や画像を送受信できる端末

○ (e)要件にいう「死亡の事実の確認」とは、以下の①~③の手順を、リアルタイムで医師に報告しつつ、5分以上の間隔をあけて2回実施することにより、死の三徴候を確認することを指す。

① 心停止

・ 聴診による心音消失の確認(看護師が聴診し、その所見を医師に報告する方法による。)

・ 心電図による心静止の確認(看護師が心電図を伝送するか、心電図を撮影した写真データを医師に送信する方法による。)

② 呼吸停止

・ 聴診による呼吸音消失の確認(看護師が聴診し、その所見を医師に報告する方法による。)

・ 呼吸筋、呼吸補助筋の収縮の消失を肉眼的に確認(看護師が確認し、医師に報告する方法による。)

③ 対光反射の消失:

・ 瞳孔の観察(看護師が瞳孔を観察し、左右瞳孔径を医師に報告する方法による。)

・ ペンライトによる対光反射の消失の確認(看護師が対光反射の消失を確認し、医師に報告する方法による。)

○ (e)要件にいう「異状がないと判断できる」とは、医師法第21条にいう「異状死体」に該当しないことを指す。

(参考)医師法第21条(異状死体の届出)

医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

(例E―1) 末期がんで療養中の患者Aが、ICTを利用した死亡診断等を行うことに同意した。その後、患者Aが首を吊った状態で発見された場合。

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 自殺の可能性があり、遠隔から異状がないと判断できないため、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

(例E―2) 末期がんで療養中の患者AがICTを利用した死亡診断等を行うことに同意した。数日後、容態急変の連絡をうけた看護師が駆けつけたところ、頭部に開放性損傷を認めた。看護師が家族に頭部の損傷について質問したところ、家族が「前日に階段から転落し頭部を打撲した」と述べていた場合。

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 死因が頭部外傷である可能性があり、遠隔から異状がないと判断できないため、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

(例E―3) アルツハイマー病で療養中の患者Aについて、息子BがICTを利用した死亡診断等を行うことに同意した。しかし、患者Aはるいそうを呈しており、爪が伸び、体表に大量の垢が付着した状態で死亡していた。

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 高齢者虐待にあたる可能性も否定できず、遠隔から異状がないと判断できないため、ICTを利用した死亡診断等の対象とはならない。

第3章 ICTを利用した死亡診断等の流れ

Step1 患者死亡前に準備すべきこと

○ ICTを利用した死亡診断等を行うにあたっては、本人及び家族にその意義を説明し、本人及び家族の理解を得た上で、死亡前にICTを利用した死亡診断等に関する同意書(様式1)による同意を得ておかなければならない。

○ ICTを利用して報告する看護師は、法医学等に関する一定の教育を受けるとともに、ICTを利用した死亡診断等を行うのに必要な機器・物品を、遠隔から死亡診断等を行う予定の医師と相談し準備しておく必要がある。以下に、ICTを利用した死亡診断等を行うのに必要な機器・物品の一覧を示す。

(参考)ICTを利用した死亡診断等に必要な機器・物品

・ 手袋

・ 聴診器

・ 携帯型を含む心電図

・ 体温計(アルコール温度計が望ましい)

・ ペンライト

・ 無鈎ピンセット

・ スケール(写真撮影をした際に所見の大きさを明らかにするための定規等)

・ デジタルカメラ等の写真撮影機器

・ リアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な環境

・ 文書及び画像の送受信が可能な体制

※ 必要に応じて、照明器具(電気スタンド等)を利用すること。

Step2 遺族とのコミュニケーション

○ ICTを利用した死亡診断等を行うに際しては、患者の生前の死生観・宗教観のほか、ご遺体への礼意、家族の心情等に配慮する必要がある。

○ 死亡診断等は、単に医学的に死亡の事実を確認し死因等を判定することのみならず、医師から患者の最期の状況について医学的に説明することも含まれる。このプロセスは遺された家族が死を受け止める上で、きわめて重要な意義をもつ。このため、医師は、ICTを利用した死亡診断等を行う場合であっても、直接対面での死亡診断等を行う場合と同様に医師―遺族間のコミュニケーションを図ることが必要となる。

○ また、看護師は、たとえばご遺体の観察や撮影に際しては、必要に応じて家族に別室で待機してもらう等、家族の心情等に十分な配慮をするとともに、医師と家族が円滑にコミュニケーションを図ることができるよう努める。

○ 以下に、看護師と遺族のコミュニケーションの一例を示す。

(例)

看護師A:B様の看護を担当して参りました看護師Aです。お亡くなりになったときの状況について、お聞きしてもよろしいでしょうか。

遺族C:Bは、ここ数日疲れやすく、うとうとしていましたが、昨夜8時ころから眠っていたようでした。深夜3時に心配になって確認したところ、だいぶゆっくりでしたが寝息をたてていました。しかし、今朝の午前7時に私が声をかけたところ返答がなく、息をしていなかったので、体を触ったところやや冷たかったため、ご連絡した次第です。

看護師A:わかりました。まずは私がB様の状態を確認致しますが、事前にお話したように、この後医師Dが遠隔から死亡診断等を行います。よろしいでしょうか。

遺族C:どうぞよろしくお願いします。

看護師A:それでは、遠隔での死亡診断等が終わり、ご家族のみなさまへのご説明の準備ができましたら、お呼び致しますので、一度お部屋から出ていただき、お待ちいただいてもよろしいでしょうか。

遺族C:よろしくお願いします。

Step3 所見記録と死亡診断等を行う医師への報告

○ 看護師は、リアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な端末を用いて、遠隔からの医師のリアルタイムの指示の下、遺体の観察や写真撮影を行い、様式2の全項目を記載する。

○ 次に、医師が死亡診断を行うにあたり必要な情報(様式2及び写真)を、電子メール等で医師に報告する。電子メール等の送受信は、適切なセキュリティ環境下で送受信する。

○ 医師は、看護師からの報告を踏まえ、遠隔において死亡診断を行う。その際、医師が死亡の事実の確認や異状がないと判断できない場合には、ICTを利用した死亡診断等を中止しなければならない。

Step4 医師の指示を受けての死亡診断書作成の補助

○ 看護師は、医師から死亡診断書に記載すべき内容についての説明を受け、死亡診断書を代筆する方法により、医師による死亡診断書作成を補助することができる。この際、ICTを利用した死亡診断等を行った旨及び代筆した看護師の氏名を、死亡診断書の「その他特に付言すべきことがら」の欄に記載する。

○ 死亡診断書最下部の死亡診断を行った医師に関する記載欄については、医師の氏名を看護師が記入する。その上で、看護師が医師から予め預かっていた印鑑(死亡診断等を行う医師の印鑑)を押印する(記名押印)。

○ 死亡診断書の内容を代筆するにあたっても、リアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な端末を用いて、医師が遠隔から指示を与える。看護師が代筆した死亡診断書については、看護師が医師に電子メール等で送付することにより、その記載内容に誤りがないことを医師が確認しなければならない。

Step5 遺族への説明と死亡診断書の交付

○ リアルタイムの双方向コミュニケーションが可能な端末を用い、医師から患者の死亡についてご遺族に説明後、看護師からご遺族に死亡診断書を手交する。

○ 死亡診断書については、正本をご家族に交付するとともに、写し3部以上を作成し、このうち1通をご遺族の控え、1通を診断した医師の控え(診療録に添付)、1通を看護師の控えとする。

○ 以下に、ICTを利用した遠隔からの医師の説明の一例を示す。

(例)

医師D:遠隔から失礼致します。このたびはB様がお亡くなりになられたこと、お悔やみ申し上げます。ただいまICTを利用してB様の死亡診断等を行いましたが、死因はこれまで診察してきた肺がんであると診断いたします。

遺族C:先生、これまで診察していただきありがとうございます。死亡時刻は何時ころだったでしょうか。

医師D:C様のお話やご遺体からの所見等を総合的に考えますと、おそらく午前4時頃にお亡くなりになったものと思います。

遺族C:最期は苦しんだでしょうか。

医師D:カメラでB様のお顔も拝見しましたが、とても穏やかな顔をされていました。C様をはじめとしたご家族に見守られ、B様も幸せな最期を迎えることができたと思います。

遺族C:ありがとうございます。

医師D:私が、看護師Aの代筆により作成した死亡診断書を、看護師Aからお渡し致します。お気を落とされず、またB様のことで何かご不明な点がございましたら何なりと私にお問い合わせください。

遺族C:ありがとうございます。

様式1 ICTを利用した死亡診断等に関する同意書(診療録に添付すること)

様式2 ICTを利用した死亡診断等の記録(看護師が記載し診療録に添付すること)

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(別添2)

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様式1 ICTを利用した死亡診断等に関する同意書(診療録に添付すること)

様式2 ICTを利用した死亡診断等の記録(看護師が記載し診療録に添付すること)

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