○一般社団法人日本医療機器工業会の作成した「家庭用遠赤外線血行促進用衣自主基準」の改正について
(令和6年3月25日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬局医療機器審査管理課通知)
一般医療機器「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の製造販売届出を行う際には、一般社団法人日本医療機器工業会の作成した家庭用遠赤外線血行促進用衣自主基準を参考とするよう「一般社団法人日本医療機器工業会の作成した「家庭用遠赤外線血行促進用衣自主基準」について」(令和4年10月14日付け事務連絡)で周知したところです。
今般、同工業会より、家庭用遠赤外線血行促進用衣の自主基準を改正した旨の報告を受け確認したところ、当該改正自主基準の内容は適当であると判断いたしました。そこで、家庭用遠赤外線血行促進用衣の製造販売届出を行う際には本改正自主基準を参考とするよう、貴管下製造販売業者に対し、改めての周知方よろしくお願いいたします。
令和4年10月11日制定
令和6年3月11日改正
家庭用遠赤外線血行促進用衣 自主基準
一般社団法人 日本医療機器工業会
1.適用範囲
この基準は、令和4年厚生労働省告示第314号に基づく一般的名称「家庭用遠赤外線血行促進用衣」(別表第3の1218)に該当する品目に対して適用する。
2.引用規格
この基準は下記規格又は基準を引用する。
・ 医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方についての改正について(令和2年1月6日薬生機審発0106第1号)
・ ISO19618:2017ファインセラミックス(先進セラミックス,先進技術セラミックス)―FTIRスペクトロメータで黒体標準を使用する垂直分光放射率の測定方法
3.定義
3.1 本基準が対象とする「家庭用遠赤外線血行促進用衣」の定義:「遠赤外線の血行促進作用により疲労や筋肉のこり等の症状改善を行うことを目的とした、衣類形状の器具をいう。生地に鉱物等による特殊な加工が施されており、一定程度の遠赤外線を輻射する。上半身用及び下半身用があり、それぞれ少なくとも上腕部および大腿部を被覆する。ただし、パーツ形状は含まないものとする。」(令和4年10月11日薬生発1011第7号)
3.1.1 該当する製品の範囲
本基準が対象とする「家庭用遠赤外線血行促進用衣」は以下4項目を全て満たす製品とする。
① 血行促進作用が認められる製品であること(6.性能に関する要求事項を参照)
② 使用目的が「疲労の回復」や「筋肉のこり等の症状改善」であること
③ 一定程度の遠赤外線を輻射するものであること(5.3 赤外線放射特性を参照)
④ 衣類形状を有する製品のうち、長袖シャツ/長ズボン/半袖シャツ/半ズボンの形状を有するものだけが該当する
3.2 耐用期間
適正な使用環境と維持管理の下に、適切な取扱いで本来の用途に使用された場合、製品が製造された時に意図した機能及び性能を維持し、使用することができる標準的な使用期限あるいは着用回数をいう。
3.3 包装
製品本体を入れる包装をいう。
4.原材料
素地及び素地に機能を付与するために添加、塗布される物質について特定し、一般名及び配合比を届出書の原材料欄に明記すること。また、添加、塗布の方法についても記載すること。
なお、原材料の異なる製品、組成の異なる製品、加工方法(編み方等を含む)の異なる製品は、それぞれ別品目として取り扱う必要があることから、個々に試験等を実施するとともに、「製造販売届書」もそれぞれ別品目として提出すること。
【記載例】
項目 |
内容 |
1 主な材料名称 |
遠赤糸 75d/48 |
2 材料配合比 |
ナイロン 00% AA粉体 5% 酸化チタン粉体 0.5% |
3 加工方法等 |
遠赤外線効果に優れた○○を溶融紡糸によって繊維内に分散させている。本品は天竺編みである。 |
4 製品における組成 |
混紡率 遠赤糸 90% ポリエステル 10% |
5.物理的要求事項
本品は、次に掲げる事項に適合しなければならない。
5.1 外観
目視で検査するとき、破けやほつれがなく、異物の付着及び汚染がないこと。
5.2 形状
「家庭用遠赤外線血行促進用衣」に該当する製品は、長袖シャツ/長ズボン/半袖シャツ/半ズボンの形状を有することから、その形状については上半身用と下半身用を区分して規定することが望ましい。
5.3 赤外線放射特性
本試験については、原材料、組成、加工方法(編み方等を含む)が異なる場合には、別品目としてそれぞれ個別に試験を実施すること。 |
「ISO19618:2017 ファインセラミックス(先進セラミックス,先進技術セラミックス)―FTIRスペクトロメータで黒体標準を使用する垂直分光放射率の測定方法/Fine ceramics(advanced ceramics, advanced technical ceramics)‐Measurement method for normal spectral emissivity using blackbody reference with an FTIR spectrometer」を準用し、5~20μmの波長領域において、全放射率が遠赤外線加工を施していない同一形状の対照試料に比べ、5%以上上回ること。(なお、当該基準値の設定根拠については、末尾に添付する「補足資料:遠赤外線の性能評価・測定方法等における技術的背景について」を参照。)
附記:上記のISO19618に基づく試験は、本来、繊維製品に適用することを目的とした試験方法ではないことから、今後、公定規格等において遠赤外線衣類に適した赤外線放射特性に係る新たな評価方法が整備された場合には、本基準を改正し、当該試験方法として公定規格等に採用された新たな評価方法を追加するものとする。
【補足】赤外分光放射率による評価基準について
① この測定における未加工品とは、赤外線を放射させることを意図した加工を施した加工品に対して、当該加工を施していない対照品を指す。
② 未加工品は、当該加工を除き、組成、染色方法等が加工品と同等であること。なお、目付が同等とは、差が±10%以内であること。
③ 加工品と未加工品の比較評価は、同一の装置を用いて、同日に取得したデータで行う。
④ 試料を加温する試料台の設定温度は40℃以上とする。加工品と未加工品は同一の温度条件で測定する。
⑤ 肌に接する面を測定面とする。
6.性能に関する要求事項
血行改善に関する性能を発揮できることを「附属書1」の要領に従い試験すること。
7.化学的要求事項
鉱物および金属を機能発現のために使用する場合、機能発現材料がRoHS指令に記載される重金属のコンタミネーションが無いことを証明すること。
8.生物学的要求事項
皮膚に接触する材料を特定し、その生物学的安全性について「医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方」に基づいて、評価すること。なお、既存の医療機器に用いられる材料と比較し明らかに同等性が示せるもの、最終製品及び/又は製品からの溶出化学物質とその溶出量を分析し、毒性学的情報に基づいた摂取許容値との対比により生物学的安全性が確保できる場合には、必ずしも生物学的安全性試験による評価を実施する必要はない。
なお、生物学的要求事項については原材料や組成、加工方法(編み方等を含む)が異なる場合には個別の評価が求められることに留意すること。
細胞毒性試験 |
ISO 10993―5に従う |
刺激性試験 |
ISO 10993―10又はISO 10993―12に従う |
感作性試験 |
ISO 10993―10又はISO 10993―12に従う |
9.安定性に関する要求事項
本体の材料に新規性のある場合は、製品安定性試験を実施し、評価すること。
10.耐用期間に関する要求事項
事業者が自主的に定める耐用期間において、製品が製造された時に意図した機能及び性能を維持し、安定的に使用することができることを、5~8項を踏まえて評価すること。この場合、想定される使用状況、使用頻度、洗濯(洗剤・漂白剤等による影響を含む)など、製品を劣化させる各種の要因を具体的に特定した上で、ワーストケースを踏まえた評価を行うこと。
なお、耐用期間に関する要求事項については原材料、組成、加工方法(編み方等を含む)が異なる場合には個別の評価が求められることに留意すること。
11.包装
包装、通常の取扱い、輸送、保管中に内容製品を保護するためのものであること。
12.表示(包装への表示)
包装に次の情報を表示すること。
(1) 製造販売業者の氏名又は名称及び住所
(2) 販売名
(3) 数量(入り数)
(4) 製造番号又は製造記号
(5) 一般医療機器の旨
(6) 製品のタイプ【形状、サイズ】を記載すること。
(7) その他、衣類に求められる表示
13.添付文書
医療機器の添付文書の記載要領については、令和3年6月11日薬生発0611第9号通知及び平成26年10月2日薬食安発1002第1号(令和2年8月31日最終改正)通知を参照し添付文書を作成すること。添付文書には先の記載要領に示された内容に次の内容を追加して記載すること。
(1) 【警告】及び【禁止・禁忌】
下記事項は必ず添付文書の冒頭に記載すること。
【警告】に関して
【禁止・禁忌】に関して
(2) 形状・構造及び原理等
本品の全体的構造が容易に理解できるように、イラスト図などを用い、原材料、構成等を示すとともに、機能を発揮する原理・メカニズムを簡略に記載すること。
(3) 使用目的又は効果の表示
遠赤外線の血行促進作用により疲労や筋肉のこり等の症状を改善する。
(4) 使用方法等
使用方法は、文章やイラスト図などを用いて分かり易く記載すること。また、使用に際しては肌着等の上に重ねて着用することを意図するものか、あるいは素肌に直接接触させる形で着用することを意図するものか、その具体的な使用方法を明記すること。
なお、「6.性能に関する要求事項」に基づく評価試験(付属書)は、この使用方法欄に記載した着用方法を厳格に遵守した上で実施すること。(付属書「8.試験の実施」の第4項を参照。)
(5) 使用上の注意
機能を損なわず、かつ衛生的な使用方法を記載すること。洗濯・管理方法は各社で指定すること。
(6) 保管方法及び有効期間等
保管方法など当該項目を記載すること。
(7) 耐用期間
耐用期間を記載すること。
(8) 取扱い上の注意
繰り返し使用する上での注意を促す記載をすること。
附属書
家庭用遠赤外線血行促進用衣を用いた血流量の変化に係る評価試験方法
本試験については、原材料、組成、加工方法(編み方等を含む)が異なる場合には、別品目としてそれぞれ個別に試験を実施すること。 なお、当該試験は製品の仕様(形状等を含む)が異なる場合には別品目として新たな試験を実施することが原則であるが、たとえば原材料、組成、加工方法(編み方等を含む)が同一であって、半袖・長袖の別があるときは、半袖を用いた試験結果が基準を満たしている場合に限り、長袖の試験の一部を省略することができる場合もあると考えられるが、その妥当性を考察の中で説明すること。(ただし、長袖の試験結果をもって半袖の試験省略を行うことはできないことに留意すること。) |
[1.概要]
この試験は、遠赤外線を放出する衣類を用いることによって、被験者に生じる血行の変化を測定し、特定の症状に対する緩和・改善効果等について考察するための標準的な評価手順を定めるものである。
本試験は、人を対象として行うものであるため、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(令和4年3月10日一部改正 https://www.mhlw.go.jp/content/000909926.pdf)」並びに「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス(令和3年4月16日 https://www.mhlw.go.jp/content/000769923.pdf)」に準拠して実施することが望ましい。
ただし、本試験は新たな研究分野に属するものではなく、社会的に広く認知された遠赤外線の効果による血行の変化を測定するものであり、その限りにおいて倫理指針の3.適用範囲の1のウの①に該当する「既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、かつ、一般に入手可能な試料・情報」を用いて行う試験であること、また試験対象物が国際分類で「極低リスク」に該当するクラスⅠの医療機器(健常皮膚のみに接触する非侵襲の機器)であること等を踏まえ、当該倫理指針に厳格に対応する必要はないものと考えられる。
しかしながら、被験者の保護や評価データの信頼性を担保するためには、倫理指針で定める「倫理審査委員会の設置」「研究の適正な実施」「インフォームド・コンセント」「利益相反の管理」については十分な配慮を以て対応することが望ましい。
そのためには、倫理審査委員会を常設する医療機関等において専門医の関与の下で本試験を実施することが適切であり、また血流測定の正確さや測定値の信頼性等を担保するためにも、血流測定に熟練した医師もしくは医師の指示の下で臨床工学技士、臨床検査技士等が試験を担当することが妥当である。(補注1)
(補注1):試験に使用する血流計は、クラスⅡに該当する医家向け医療機器であり、その使用については資格を有する医師もしくは医師の指示下における臨床工学技士、臨床検査技士等に制限されている。また被験者を用いて血流測定を行うこと自体が「医行為」に該当する可能性もあることから、資格を持たない一般人が医療機器を使用して試験を行うことは、法令の適正な運用の観点からも厳に避けなければならない。
[2.目的]
本試験は、遠赤外線を放出する衣類を用いることによって、被験者に生じる血行の変化を測定し、併せて血行動態に影響を与える体温、血圧の変化も同時に記録することにより、当該衣類(試験対象物)の「使用目的及び効果」に対してどのような有効性があるかを考察・評価することを目的とする。
[3.試験対象物]
本試験には、「5.3 赤外線放射特性」で規定する「加工品」及び「未加工品」を使用する。
[4.被験者]
被験者は一般公募によって募集し、選定する。(補注2)
被験者数については、試験対象物の「使用目的及び効果」に応じて、年齢、性別、身長、体重、既往歴等を踏まえ、偏りがなく、また被験者個々の生理学的特性、年齢差、性差、体型差等も勘案した上で、適切な人数(サンプル数)を用いること。(被験者数の決定に当たっては、統計的根拠に基づく設定理由を文書化し、記録を維持すること。)(補注3)
なお、被験者は原則として健常な成人男女を対象とし、たとえば小児や、心疾患・高血圧その他の治療のために血行動態に影響を及ぼす薬剤を服用している患者などは被験者から除外する。
(補注2):臨床試験、臨床評価等に係る被験者募集業務を請け負う企業、団体等があるので活用されたい。
(補注3):試験対象物(遠赤外線を放出する衣類)が、使用者として特定の年齢層や性別等を限定して製造販売されるものではない場合、同数の男女を用いて最低でも16~20例程度のデータ収集を行うことが望ましいが、具体的には試験実施者が製品の特性等を考慮し、設定根拠を明示した上で適切な被験者数を定めること。
[5.試験に用いる測定器及び測定方法]
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体温測定に用いる機器:①中心温:「舌下温が測定できる体温計」及び②皮膚温:「サーミスタ表面温度計(7点測定)」(補注4)
(補注4):皮膚温の測定は、Hardy―DuBoisの7点部位法(前額部、腹部、前腕部、手背部、大腿前面部、下腿部、足背部)で行い、平均皮膚温を算出する。(平均皮膚温=0.07×額+0.35×腹+0.14×前腕+0.05×手背+0.19×大腿+0.13×下腿+0.07×足背)
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血圧測定に用いる機器:「電子血圧計」
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血流量の測定に用いる機器:①【第一法】レーザドップラー血流計、または②【第二法】超音波血流計
血流量の測定については、以下の【第一法】もしくは【第二法】のいずれかを選択する。
【第一法】
レーザドップラー血流計(接触型のプローブを有し、皮下の微小循環を連続的に測定できるもの)を用い、皮膚表面から約0.5mmの深さにある組織血流量(ml/min/100g)を測定する。測定部位については、試験対象物が被覆する皮膚表面もしくはその近傍にプローブを固定して測定する。(補注5)
(補注5):人体に対する試験対象物の被覆面積に応じて、測定部位を任意の複数箇所に設定し、その平均値をもって測定値とすることとしてもよい。
【第二法】
超音波血流計(体表から血流量/FV〈ml/min〉が測定できるものであって測定対象とする部位に適したプローブを有するもの)を用いて、上腕動脈、もしくは下肢動脈の血流量を測定する。(補注6)
(補注6):血流量の測定に当たっては、PSV(収縮期最高血流速度)とEDV(拡張末期血流速度)から算出されるRI(血管抵抗指数)も考慮する。また、FV(ml/min)=Vm―mean(cm/s)×area(cm2)×60(s)÷100であるが、areaは血管断面を正円と仮定したときの血管径より求められる断面積であり、血管径の計測誤差が血流量に与える影響が少ない上腕動脈もしくは下肢動脈を測定対象とすることが望ましい。
なお、上記の試験方法はあくまで標準的なモデルを示したものであり、試験対象物の特性等に照らして合理的な理由がある場合には、試験方法の一部を修正して実施することは差し支えない。(例えば【第二法】を採用する場合、上腕動脈、下肢動脈以外の血管を測定対象とすること等。)
ただし、上記の試験方法を修正して採用する場合には、その差分を明示するとともに、修正した理由、根拠、採用した方法の妥当性等について文書化し、試験記録の一部として適切に維持すること。
[6.計画及び実施]
本試験を実施するに当たっては、予め「試験計画書」及び「試験実施手順書」を作成し、これに基づいて試験を実施する。なお、計画及び実施については、倫理指針の第3章~第6章を参照すること。
「試験計画書」及び「試験実施手順書」は適切に文書化し、維持する。
なお、実施手順書には、用いる測定器を識別した上で、試験対象物の人体に対する被覆部位等を考慮し、血流測定を行うに適した対象血管もしくは皮膚の部位を特定する。すなわち測定の度に試験対象物たる衣類を着脱させる必要がない部位の動脈または皮膚表面を測定対象とすること。
[7.試験環境]
試験環境は「温度:20~25℃」、「相対湿度:50~70%」の範囲内とする。もし当試験環境を超える領域で試験を実施する時は、その妥当な理由を明記すること。
[8.試験の実施]
〈A.加工品の評価〉
1.被験者情報(年齢、性別、身長、体重、既往歴、常時服用している医薬品等があればその名称、試験日当日の健康状態、その他必要な事項)を記録するとともに、試験実施時の室温及び湿度を記録する。
2.被験者を寝台の上に仰臥位または半座位の姿勢にさせ、その安静な状態を15分以上維持する。その際の着衣については特に定めを置かないが、市販の検査着・患者衣・検診衣等から適切なものを選択する。
3.安静な状態を維持したまま15分以上経過したのち、被験者の体温(舌下温及び皮膚温7点)、(第一法もしくは第二法による)血流量、及び血圧を測定し、記録する。この場合、血流量の測定に影響を与えないよう、血圧の測定は血流量の測定を終えたあとに行うこと。なお、血流量の測定においては「5.試験に用いる測定器及び測定方法」を参照する。(補注7)
(補注7):多項目モニタ等を使用し、体温、血圧に加えて、呼吸、脈拍のバイタルサインを継続的にモニタリングすることとしてもよい。この場合、多項目モニタはクラスⅡの医科向け医療機器であることから、機器の操作は医師もしくは医師の指示の下で臨床工学技士、臨床検査技士等が行うこと。
4.続いて、試験対象物である衣類〈加工品〉を、その添付文書に記載された使用方法(補注8)に従って着用/装着させ、仰臥位または半座位の安静な状態を15分間維持する。この場合、被験者には加工品、未加工品の別を知らせないこと。
(補注8)肌着として皮膚に直接接触させた状態で使用することを意図して設計された製品の場合はそのように、また肌着等の上に重ねて着用することを意図して設計された製品の場合はそのように、意図した用途に応じた着用/装着方法を遵守すること。
5.15分が経過したのち、被験者の体温(舌下温及び皮膚温7点)、(第一法もしくは第二法による)血流量、血圧を測定し、記録する。(測定項目については補注7を参照する。以下、同じ。)
6.安静な仰臥位または半座位の姿勢を維持したまま、更に30分後、45分後、60分後、75分後、90分後、105分、120分後、同様に被験者の体温(舌下温及び皮膚温7点)、(第一法もしくは第二法による)血流量、血圧を測定し、記録する。(補注9)
(補注9):上記には15分ごとの測定としているが、血流量の測定に時間を要する場合など、試験実施者の判断で20分ごとの測定としてもよい。試験対象物の着衣/装着から120分間の推移を測定するものであり、頻度は試験実施者の判断による。また、短時間で安定した血流量の上昇が得られる製品(試験対象物)の場合には、必ずしも120分間の測定を求めるものではなく、試験実施者の判断により、短縮した試験モデルを採用することも可能である。
〈B.未加工品の評価〉
同一の被験者に対して、未加工品を用いた試験を行う。
手順は、上記Aの1~6と同一の条件で実施し、着用/装着から120分間の推移を測定し、記録する。Aの試験とBの試験は、同一の日に継続して行う。また、両試験の間に運動や食事の時間を置くことは好ましくない。
「4.被験者」で定めた全員の被験者に対してA及びBの試験を実施し、測定値を記録する。
[9.測定値の評価・判定]
加工品と未加工品に係る血流量の変化について、着用/装着前、時間推移ごとの測定値をグラフ化するとともに、被験者全員分の測定値を集計する。
着用/装着後の個々の測定結果について平均値を算出し、未加工品に対する加工品の血流量を対比し、その差が5%以上である場合には、遠赤外線の効果による十分な血流量の増加があったものと判定する。
[10.試験結果の考察]
医療機器としての有効性の評価は、当該医療機器の使用目的(改善しようとする症状等に対する期待される効果)を踏まえて検討する必要があることから、一定の血流量の増加をもって直ちに「医療機器としての有効性がある」という判断にはならない。
たとえば、製造販売しようとする家庭用遠赤外線血行促進用衣について、提出する製造販売届書の「使用目的及び効果」の欄に「血行不良による筋肉のこりの改善」を記載する場合には、本試験によって測定された血流量の変化、また同時に測定された体温や血圧の変化等に係る実測値をもとに、当該家庭用遠赤外線血行促進用衣が実際に「筋肉のこりの改善」に期待する効果をもたらすものであるかどうか、医学的な見地からの考察を加える必要がある。
「使用目的及び効果」の欄に複数の用途や期待する効果を列記する場合には、本試験結果を踏まえて、列記する個々の臨床的効果ごとに考察を行う必要があることは言うまでもない。
従って、試験結果の総括として、当該家庭用遠赤外線血行促進用衣に係る臨床上の有効性について、試験の実施者(医師等)、また可能であれば他の専門家等の意見も取り入れた「考察」を取りまとめ、それを文書化し、試験記録の一部として維持すること。
なお、家庭用遠赤外線血行促進用衣は一般医療機器(クラスⅠ)、すなわち、不具合等が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるものであり、血行促進及び血行促進に付随する効果(疲労や筋肉のこり等の症状改善)以外の効果(疾患名を含む)を謳う場合等は管理医療機器(クラスⅡ)以上に該当する場合があることに十分留意し、判断が難しい場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の全般相談等を利用すること。
併せて、本試験では「考察」までにとどめるものであるが、もとより対象とする症状に係る具体的な緩和・改善効果等について別の臨床評価計画を策定し、実際の患者を用いた臨床試験(評価)を通じて有効性を確認する活動を行うことを妨げるものではなく、むしろ品質、有効性及び安全性に対する製造販売業者の責任において、具体的な臨床上の有効性に係るデータを広く収集することは、大いに推奨されるべきものであることを敢えて附記する。
[11.文書及び記録の管理]
本試験の対象となる家庭用遠赤外線血行促進用衣は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「法」という。)」第2条第7項に規定される一般医療機器に該当するものであることから、法第41条第3項の規定により厚生労働大臣が定める医療機器及び体外診断用医薬品の基準(基本要件基準)に基づく有効性、安全性等への適合性を担保する必要があるとともに、「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)」のうち、限定第三種製造販売業者並びに限定一般医療機器に対して適用される要求事項への適合性を確保する必要があること等を踏まえ、本試験に係る文書及び記録の管理は、これらの要求事項に適合する体制のもとで適正に行うこと。
なお、本試験に係る一連の文書及び記録は、製造販売業者に対する都道府県による許可の更新調査、あるいは法第69条「立入検査等」に基づいて実施される薬事監視員による立入調査等の際、調査者の求めに応じて提示する必要があるものであることから、適切に管理・保管しておくこと。
【補足資料】遠赤外線の性能評価・測定方法等における技術的背景について
1.波長域について
遠赤外線を利用する医療機器の基準を策定するにあたり、参考となる基準・規格が二つ挙げられる。一つ目は、家庭用赤外線治療器の認証基準であり、性能について“さらに、家庭用赤外線治療器の場合には、分光放射率が5000~13000nmの波長域において60%以上でなければならない。”と定められている1)。二つ目は、社団法人遠赤外線協会の赤外線加工の認定制度における基準であり、波長域は4~20μmと定められている。後者については、「平成18年度 簡易型常温域遠赤外線放射エネルギー計測に係る調査研究報告書」2)で制定の経緯が記載されているものの、前者とあわせ、波長域を設定した明確な根拠は示されてない。
赤外線を生体への治療等に用いようとする研究は1980年代から行われており、概ね3~30μmという波長域の中で、in vitroでの細胞の応答性やin vivoでの生理学的影響を検証した文献が数多くある。Ishibashiらは、CO2インキュベーター内部にコーティングを施すことで、4~20μm(ピークは7~12μm)の赤外線を放射するように加工し、がん細胞を培養すると、グロースが阻害されることを示した3)。ある種のがん細胞では、HSP 70Aの基底発現が低いものがあり、赤外線放射によって本来あるべきHSP 70Aの誘導がない場合、グロースが抑制されることが示唆された。また、朴らは、座席カバーに使用する生地の生理学的影響を調べる際、3.0~14.0μmという波長域を定義している4)。これらの波長域は、いずれも輻射材の特性や測定装置の測定範囲に基づく数値であるので「どの波長域が人体に影響するか」という問いへの直接的な答えにはならない。そもそも、常温域の赤外線は、可視光域のように、特定波長を分光で切り出すなどができないのと、常温域で人体に実際に降り注ぐ遠赤外線を定量することが原理的に難しいため、遠赤外線が波長依存的に人体に与える影響を細かく検証することはできない。しかし、この領域の全体または少なくとも一部が生体に影響するということは間違いない。
下限域については、4μmまたは5μmからとなるが、いずれも赤外線加工による分光放射スペクトルへの影響がごくわずかであることから、5μmからとする。ただし、同じ理由で、4μmを含むデータであっても結果には影響しないことから、同様に扱うことで差し支えない。上限域については、現時点で波長範囲を絞り込むことが適当ではないため、20μmまでとする。
2.分光放射特性による遠赤外線繊維の評価基準について
文献2によれば、“4~20μmの波長領域において、全放射率が遠赤外線加工を施していない同一形状の対照試料に比べ、5%以上上回ること。または、上記波長領域の任意区間での全放射率が上記対照試料に比べ、10%以上上回ること。”とされている。この5%については、臨床評価の結果導きだされたことを示す文献は見当たらなかったため、各社に実績値の聞き取り調査を行った。その結果、5%以上、という数字については一定の妥当性が認められると判断した。一方で、「任意区間で10%以上」という基準の意味合いは依然として不明なため、当該基準には盛り込まないものとした。
以下、引用文献
1) JIS T 2001 家庭用光線治療器
2) 平成18年度 簡易型常温域遠赤外線放射エネルギー計測に係る調査研究報告書,発行者:社団法人日本機械工業連合会,編著:社団法人 遠赤外線協会(2007)
3) Ishibashi J et al., (2008) 25:229‐237 Med Oncol
4) 朴ら(2012)は3.0~14.0μm 人間と生活環境 19:45―53 2012