添付一覧
○「感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンの開発に関するガイドライン」について
(令和6年3月27日)
(医薬薬審発0327第7号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンの品質、有効性及び安全性について、別添のとおり考え方や留意点をガイドラインとしてとりまとめましたので、貴管内関係業者に対し周知方ご配慮願います。
なお、本ガイドラインは、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであり、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。
(別添)
感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンの開発に関するガイドライン
目次
第1章 総則
1.はじめに
2.目的
3.適用範囲
4.定義
5.開発の考え方
第2章 組換えウイルスワクチンの概要及び開発の経緯等
1.組換えウイルスの作製の経緯
2.組換えウイルスの性質
第3章 製造方法の開発及び品質評価
1.組換えウイルス及び製造用細胞
2.特性解析
3.規格試験及び管理方法
4.安定性試験
第4章 非臨床試験
1.動物種/モデルの選択
2.薬理試験(効力を裏付けるための試験)
3.非臨床安全性試験
4.生体内分布試験
5.生殖細胞への組込みリスクの評価(遺伝子組込み評価)
6.組換えウイルスの排出の評価
第5章 臨床試験
1.有効性評価の考え方
2.安全性評価の考え方
3.排出及び第三者への伝播に係る評価の考え方
4.避妊期間の設定の必要性と基本的考え方
5.生殖細胞への組込みリスクの評価(遺伝子組込み評価)
第6章 製造販売後
第1章 総則
1.はじめに
遺伝子組換え技術やバイオテクノロジーの進歩により、感染症の予防を目的とした遺伝子組換えウイルスワクチン(以下「組換えウイルスワクチン」という。)の開発が進められている。組換えウイルスワクチンには、本来はそのウイルスが保有していない抗原をコードする遺伝子を組み込み、ヒト細胞内で抗原を発現させることにより、ウイルス感染時のような免疫反応が期待されるものがある。また、病原性が強いために従来の技術では弱毒生ウイルスワクチンの開発が困難なウイルスについて、増殖性や細胞・組織指向性等に関する特性を改変して病原性を低下させることにより、さらに高い安全性が期待されるものもある。このように、組換えウイルスワクチンは、有効性及び安全性上の利点が期待されるワクチンとして開発が進められている。
ワクチンによる予防が期待される感染症にあっては、多くの場合、人類はその感染症の野生型ウイルスに曝露した経験があり、その感染症に関する知見を臨床的及び学術的に蓄積してきた。従来の弱毒生ウイルスワクチンの開発では、そのワクチン株の由来となった野生型ウイルスの知見を活用し、弱毒化したワクチン株の増殖性や細胞・組織指向性等の特性評価を相対的に行ってきた。一方、組換えウイルスワクチンの開発では、起源となった野生型ウイルスの遺伝子を人工的に改変することから、改変前のウイルスとは異なる細胞・組織への分布や異なる安全性プロファイル等を示す可能性がある。また、現時点では組換えウイルスワクチンの臨床使用経験は限られており、今後実施される臨床試験等において組換えウイルスワクチンの新たな知見が明らかになる可能性がある。これらを踏まえると、従来の弱毒生ウイルスワクチンとは異なる視点で組換えウイルスワクチンの品質、有効性及び安全性を慎重に検討することが重要であると考えられる。
2.目的
本ガイドラインは、組換えウイルスワクチンの円滑な開発促進を目的に、品質、有効性及び安全性の考え方・留意点をまとめたものであり、「「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドライン」について(改訂)」(令和6年3月27日付け医薬薬審発0327第1号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)、「「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」について(改訂)」(令和6年3月27日付け医薬薬審発0327第4号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)及び「「トラベラーズワクチン等の臨床評価に関するガイダンス」について」(平成28年4月7日付け薬生審査発0407第1号厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課長通知)を補完するものである。なお、本ガイドラインは新規感染症の世界的大流行に対応するために迅速な開発が求められるパンデミックワクチンを想定して作成されたものではないが、組換えウイルスを用いたパンデミックワクチン開発においては、「「パンデミックインフルエンザに備えたプロトタイプワクチンの開発等に関するガイドライン」について(平成23年10月31日付け薬食審査1031第1号医薬食品局審査管理課長通知)」、「新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)ワクチンの評価に関する考え方(令和2年9月2日付け医薬品医療機器総合機構ワクチン等審査部)」等が参考となる。
また、本ガイドラインの内容は現時点での科学水準に基づき検討されたものであって、今後新たに得られる知見や科学の進歩等により変更される可能性があることに留意されたい。
3.適用範囲
本ガイドラインは、抗原性、増殖性又は細胞・組織指向性等の特性を改変することを目的に、遺伝子組換え技術を用いて作製したウイルス(以下「組換えウイルス」という。)を有効成分とし、感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンに適用される。
なお、遺伝子組換え工程を経て作製されたウイルスであっても、ホルマリン等の化学的手法により不活化したものを有効成分とするワクチンには適用されない。また、遺伝子組換え工程を経て作製されたウイルスが自然界に存在するウイルスと同等の特性及び遺伝子構成とみなせるもの(ナチュラルオカレンス)を有効成分とするものには適用されない。
4.定義
(1) 「組換えウイルス」とは、抗原性、増殖性、細胞・組織指向性等を改変することを目的に、遺伝子組換え技術を用いて作製したウイルスをいう。
(2) 「組換えウイルスワクチン」とは、組換えウイルスを有効成分とするワクチンをいう。組換えウイルスワクチンには、目的の抗原遺伝子をウイルスベクターへ挿入したいわゆるウイルスベクターワクチンも含まれる。
(3) 「起源ウイルス」とは、組換えウイルスの由来となったウイルスをいう。野生型のウイルス、野生型のウイルスを継代して得られたウイルス、目的の遺伝子を挿入する前のウイルスベクター等のウイルスが含まれ、組換えウイルスワクチンの有効成分の特性を評価するための比較対象となりうる。
(4) 「増殖」とは、ウイルスが細胞に侵入し、ウイルスタンパク質が合成され、ウイルスゲノムが複製され、ウイルス粒子が形成された結果、子孫ウイルスが増えることをいう。
(5) 「非増殖型組換えウイルス」とは、増殖に係る遺伝子を遺伝子組換え技術により欠失させたウイルスをいう。非増殖型組換えウイルスが増殖するためには、当該ウイルスの増殖に必要な遺伝子、タンパク質等が他のヘルパーウイルス、細胞等から供給される必要がある。
(6) 「増殖型組換えウイルス」とは、非増殖型組換えウイルス以外の組換えウイルスをいう。
(7) 「増殖型組換えウイルスワクチン」とは、増殖型組換えウイルスを有効成分とするワクチンをいう。
(8) 「目的遺伝子等」とは、製品の効能又は効果の本質となるもの又は起源ウイルスの特性を改変させる遺伝子をいう。抗原タンパク質をコードする塩基配列の他、抗原とはならないがウイルスの特性を変化させることに関与する塩基配列を含む。
(9) 「マスター・ウイルス・シード」(以下「MVS」という。)とは、特定の組換えウイルスを一定の方法で培養して得られた均一な浮遊液を分注したもので、適切な条件下で保存したものをいう。
(10) 「ワーキング・ウイルス・シード」(以下「WVS」という。)とは、MVSから一定の方法で培養して得られた均一な浮遊液を分注したもので、適切な条件下で保存したものをいう。
(11) 「シードロットシステム」とは、均一な製剤を製造するために、MVSやWVSのウイルス・シードを管理するシステムをいう。ウイルス・シードは定められた培養法、継代数、保存方法及び規格により管理され、製造される製剤を一定の品質で長期間にわたり供給できるようにするものである。
(12) 「製造用細胞」とは、組換えウイルスが増殖可能な細胞で、組換えウイルスワクチンの製造時に用いる細胞をいう。
5.開発の考え方
感染症の予防を目的とした組換えウイルスワクチンは、現時点では従来の不活化ワクチン等と比べて臨床における使用経験は少なく、今後の臨床使用の中でヒトにおける新たな知見が蓄積していくものと考えられる。また、組換えウイルスは、起源ウイルスでは報告されていない特性を有している可能性も考えられること、組換えウイルスが接種された人から排出される場合には、排出された組換えウイルスが第三者へ伝播する可能性が考えられることから、組換えウイルスの特性を十分に把握し、被接種者のみならず近親者をはじめ近接した距離又は接触等による感染の可能性等を踏まえた第三者の安全性を確保しながら慎重に開発を行うことが求められる。
組換えウイルスの特徴も踏まえ、その想定される使用状況に応じたリスク/ベネフィットを分析しつつ、開発の初期段階より規制当局の意見を確認しながら、本邦における実用化を進めていくことが望ましいため、開発者は必要に応じて独立行政法人医薬品医療機器総合機構が行う治験相談等を活用されたい。
第2章 組換えウイルスワクチンの概要及び開発の経緯等
組換えウイルスワクチンの概要及び開発の経緯等に関する情報は、品質、非臨床及び臨床の評価を計画する上で重要な情報である。組換えウイルスワクチンの特徴を十分に理解し、期待される有用性や予測されるリスクを踏まえ、評価すべき事項の充足性や評価方針等の開発計画が検討されるものであることから、組換えウイルスワクチンの特徴に応じた評価方針については、可能な限り開発の早い段階から規制当局との相談を開始し、本邦における実用化を進めていくことが望ましい。
また、本邦で臨床試験を開始する前に、治験薬概要書等の臨床試験に関する各種文書において、対象とする感染症における現行の予防法又は治療法の概要、開発しようとする組換えウイルスワクチンの特徴から期待される有用性及び予測されるリスクの概要を説明すること。組換えウイルスワクチンの特徴については、以下の「1.組換えウイルスの作製の経緯」及び「2.組換えウイルスの性質」を踏まえて説明すること。
なお、開発しようとする組換えウイルスワクチンと起源ウイルスが共通の別の組換えウイルスワクチンの開発が先行している場合には、可能な限りその開発情報を収集し、臨床試験開始時に、当該組換えウイルスワクチンの有効性及び安全性の説明の補足情報として治験薬概要書等で説明すること。
1.組換えウイルスの作製の経緯
(1) 組換えウイルス及び起源ウイルスの特徴及び選択理由
組換えウイルスには、病原性の低い非増殖型ウイルスが用いられることが想定される一方、増殖型ウイルス、幅広い細胞・組織指向性を示すウイルスが用いられることも考えられる。また、起源ウイルスとして、培養中に変異を起こしやすいウイルス、自然界で遺伝子再集合等の組換え事象が報告されているウイルス、潜伏感染性を有するウイルス、非臨床試験に用いられる動物種に対して免疫反応が確認されていないウイルスが用いられる場合も考えられる。組換えウイルス及び起源ウイルスの特徴から予測されるリスクを示した上で、期待される有用性を説明し、選択したウイルスを利用して組換えウイルスワクチンを開発することの妥当性を説明すること。
(2) 目的遺伝子等の選択理由
組み換える目的遺伝子等の選択理由及び目的、並びにその機能について説明すること。免疫反応を活性化する遺伝子を導入している場合には、有効性のみならず、意図しない免疫反応のリスクについても説明すること。
(3) 組換えウイルス作製に係る遺伝子改変操作に関する情報
組換えウイルスを作製する過程で行った遺伝子改変操作について、その目的を明らかにし、フロー図等を用いて各操作手順の意図を説明すること。
2.組換えウイルスの性質
組換えウイルスの構造、物理化学的性質及び生物学的性質を理解することは、薬理学的及び毒性学的な評価並びに臨床試験の計画において重要である。
以下の組換えウイルスの解析や起源ウイルスの文献情報等により組換えウイルスの性質を説明すること。
(1) 組換えウイルスの構造
1) 組換えウイルス粒子の構造
組換えウイルス粒子の構造は品質を評価するための重要な情報である。起源ウイルスとの相違点について説明すること。特に意図して組換えウイルス粒子の構造に改変を加えた場合には、その理由及び妥当性を説明すること。
2) 遺伝子配列
組換えウイルスを作製する際に行った遺伝子改変の目的及びその方法は品質を評価するための重要な情報である。目的遺伝子等について遺伝子改変による変異を導入している場合は、変異の目的を説明すること。
原則として、組換えウイルスの全塩基配列を解析し、意図したとおりの遺伝子発現構成体が構築できていることを確認すること。
(2) 組換えウイルスの物理化学的性質
組換えウイルスの物理化学的性質は、組換えウイルスワクチンを臨床で使用するにあたっての取扱いを検討するための重要な情報である。把握すべき物理化学的特性には以下のものが含まれる。
1) 偶発的な漏出等を想定した安定性
2) 不活化条件(組換えウイルスを不活化させるための加熱方法、消毒薬の使用方法等の条件)
(3) 組換えウイルスの生物学的性質
組換えウイルスの生物学的性質は、組換えウイルスワクチンの有効性、安全性、伝播性等を把握するための重要な情報である。把握すべき生物学的性質には以下のものが含まれる。
1) 細胞・組織指向性
組換えウイルスの細胞・組織指向性に関連する遺伝子を改変した場合には、意図した特性が得られていることを確認すること。適切なヒト由来細胞を複数用いて、組換えウイルスの増殖性及び細胞内における遺伝子発現の有無を評価することは、組換えウイルスのヒトにおける細胞・組織指向性に関する情報として有用である。
2) 種特異性
試験に用いる動物や動物由来細胞における起源ウイルスの増殖性に関して文献等を用いて説明すること。試験に用いる動物や動物由来細胞において、増殖型組換えウイルスの場合は組換えウイルスの増殖性、非増殖型組換えウイルスの場合は細胞内における目的遺伝子の発現の有無を確認することは、非臨床試験における動物種の選択の適切性を説明するために有用である。
3) 培養細胞内におけるタンパク質の発現
培養細胞内における組換えウイルス抗原の発現を確認すること。また、発現させた目的抗原タンパク質の局在や細胞外への分泌に関する特性を改変した場合は、改変した特性が得られていることを確認すること。
抗原以外の特定の目的を持った遺伝子(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM―CSF)遺伝子等)を組換えウイルスに導入している場合には、組換えウイルスが発現する目的タンパク質の生物活性及び発現量を確認し、生体への影響について説明すること。
4) 細胞毒性
組換えウイルスの細胞毒性に関連する遺伝子を改変した場合には、意図した改変ができていることを確認すること。適切なヒト由来細胞を複数選択し、組換えウイルスを用いて細胞毒性を評価することは、改変の妥当性評価として有用な情報が得られることがある。
5) 病原性
起源ウイルスについて、ヒト及び動物へ感染した場合の病原性に関して文献等を用いて説明すること。組換えウイルスについて、病原性に関連する遺伝子の改変を行っている場合は、病原性が復帰する可能性も含めて遺伝子改変の影響について説明すること。本邦で開発する組換えウイルスが海外の臨床試験でヒトへの接種実績がある場合は、当該試験結果も踏まえて、ヒトにおける組換えウイルスの病原性について説明すること。
6) 変異ウイルス出現の可能性
起源ウイルスが、他のウイルスとの間で相同組換え又は遺伝子再集合(以下「相同組換え等」という。)を起こす可能性がないか文献等を用いて説明すること。増殖型組換えウイルス及び非増殖型組換えウイルスが、想定される臨床での使用方法において、他のウイルスとの間で相同組換え等により変異する可能性について評価すること。評価には、組換えウイルスと他のウイルスとの遺伝子配列の相同性、組換えウイルスと他のウイルスの生体内分布の関係等が参考となる。
起源ウイルスが、ヒトの体内において増殖する際に遺伝子変異を起こす可能性がないか文献等を用いて説明すること。増殖型組換えウイルスが、被接種者の体内において増殖する際に遺伝子変異し、抗原性、増殖性、細胞・組織指向性等の特性が変化する可能性について評価すること。
評価の結果、変異したウイルスが出現する可能性が懸念される場合は、変異ウイルスの出現頻度、増殖性、病原性等の評価が必要となることを踏まえて、非臨床試験又は臨床試験を検討する必要がある。
7) 起源ウイルスの望ましくない性質への対応
染色体への組込み能、潜伏感染等の望ましくない性質を有するウイルスを起源ウイルスとして利用することは、基本的には避けるべきものと考えられるが、これらの性質を遺伝子改変によって欠損させた組換えウイルスが有用な場合も想定される。組換えウイルスにおいてこれらの性質が欠損していることを実験的に確認し、起源ウイルスの望ましくない性質に係るリスクを慎重に評価すること。
第3章 製造方法の開発及び品質評価
品質の評価に際して、従来のワクチンと同様に製造方法、特性解析、規格及び試験方法、安定性の評価等が必要となるが、それに加えて、以下の事項に留意すること。
1.ウイルス・シード及び製造用細胞
ウイルス・シード及び製造用細胞(セルバンク)の調製方法は、製造販売承認申請時点までに確立しておくこと。調製方法を確立する前に製造した治験薬等を用いた非臨床試験結果及び臨床試験結果を利用する場合は、調製方法の確立後に製造した製剤との同等性/同質性を説明する必要がある。なお、ウイルス・シード及び製造用細胞の調製に用いた原料等を含め、組換えウイルスワクチン製造に使用されるヒト又はその他の生物(植物を除く。)に由来する原料等については、生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)に適合するものを使用しなければならない。
組換えウイルスワクチンの製造では、一般的に、組換えウイルスの調製方法にシードロットシステムが利用されることが多い。構築した組換えウイルスの特性に基づき、MVS及びWVSそれぞれについて、妥当な品質管理の項目(同一性、純度(外来性感染性物質の否定等)、感染価等)を設定し、保存方法、保存中の安定性を踏まえた保存期間、更新方法等を規定すること。MVSから最終的な製剤に至るまでの間の組換えウイルスの遺伝的安定性の評価は重要である。製造で想定される最大の継代数又はそれを超えた継代数における遺伝的変異の発生、病原性の復帰、増殖能の変化等について評価すること。遺伝的安定性の評価においては、「組換えDNA技術を応用したタンパク質生産に用いる細胞中の遺伝子発現構成体の分析について」(平成10年1月6日付け医薬審第3号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)が参考となる。
なお、シードロットシステム以外の方法を用いる場合は、品質の恒常性をどのように担保するのか、採用した生産システムによる管理方法を含めた説明が必要である。
製造用細胞の調製及び特性解析については、「「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析」について」(平成12年7月14日付け医薬審第873号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)が参考となる。
2.特性解析
特性解析については、組換えウイルスの増殖性等の特性に応じてそれぞれの特性に対して必要な評価項目を検討する。「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日付け医薬審発第571号厚生労働省医薬局審査管理課長通知)が適用できる事項については、これを参考として、組換えウイルスの特性に応じて構造、物理的化学的性質、生物学的性質等に関する特性解析を実施すること。
実生産の製法における不純物等の特性を明らかにし、規格試験の設定の必要性を検討すること。組換えウイルスワクチンで想定される不純物には、通常のバイオテクノロジー応用医薬品で想定される培地由来成分、細胞由来成分等の工程由来不純物に加え、ウイルス構築に用いたプラスミドの残存、目的の免疫反応を惹起できない不完全な組換えウイルス、非増殖型組換えウイルスワクチンにおける増殖性が復帰したウイルス等の製造工程中に遺伝子が変異したウイルス等が考えられる。製造工程中に生じる遺伝子変異体については、規格試験の設定の必要性を検討すること。
3.規格試験及び管理方法
組換えウイルスワクチンのロットごとの品質及びその恒常性を確保するために、特性解析の結果に基づいて原薬及び製剤の規格及び試験方法を設定する他、重要中間体の管理を行うこと。治験薬については、組換えウイルスの特性を踏まえて、被験者の安全に配慮した暫定規格を設定すること。製造販売承認申請においては、臨床試験の結果や最新の科学的知見も踏まえた上で、実生産の規格の設定理由を説明すること。
組換えウイルスワクチンの原薬及び製剤に必要とされる規格試験は、一般的にワクチンで設定される規格試験(力価試験、確認試験、無菌試験等)が参考となる。また、日本薬局方で剤形に応じて求められる試験(注射剤における不溶性微粒子試験、製剤均一性試験等)が想定される。また、組換えウイルスの特徴に応じて、以下の管理試験の必要性について検討すること。
(1) ウイルス濃度
製剤中のウイルス粒子数、ウイルスゲノム量等を管理するための規格
(2) 力価
(ア) 感染価
感染性を有するウイルス量を管理するための規格
(イ) 比感染価(ウイルス濃度と感染価の比)
製剤のウイルス濃度に対する感染価の比を管理するための規格
(ウ) 導入遺伝子発現
目的とする導入遺伝子の発現能を確認するための規格
(3) 増殖性ウイルス否定試験
非増殖性ウイルスワクチンについて、増殖性を有するウイルスが存在しないことを確認するための規格
(4) 増殖性確認試験
増殖型組換えウイルスワクチンについては、製造工程において増殖性が変化していないこと(MVS及びWVSと同等の増殖性を有していること)を確認するための規格。
4.安定性試験
治験薬については、その使用が計画されている臨床試験で接種が終了するまでの期間において、ロットごとに品質の安定性を保証すること。製造販売承認申請における最終的な有効期間を設定するための安定性試験については「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起原由来製品)の安定性試験について」(平成10年1月6日付け医薬審第6号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)が参考となる。
第4章 非臨床試験
非臨床評価は、「「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドライン」について(改訂)」(令和6年3月27日付け医薬薬審発0327第1号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)を参考とし、適用される部分についてはそれに従った評価を行うこと。それに加えて、組換えウイルスワクチンの特有の評価として以下の事項に留意すること。
1.動物種/モデルの選択
非臨床試験において適切な動物種が必ずしも利用可能とは限らないが、原則として、組換えウイルスワクチンの生物学的作用に感受性がある動物種を選択すること。
具体的には、非増殖性ウイルスワクチンの場合、生体内で発現する目的の抗原に対して免疫反応を示す動物種を選択する。
増殖型組換えウイルスワクチンの場合、生体内で増殖した組換えウイルスから発現する目的の抗原に対して免疫反応を示す動物種を選択する。組換えウイルスが生体内で増殖可能な動物を利用できない場合、少なくとも生体内で発現する目的の抗原に対して免疫反応を示す動物種を選択する。
上記の動物種を利用できず、他の動物種を選択せざるを得ない場合、非臨床試験の計画について、事前に規制当局と相談を行うことが望ましい。
2.薬理試験(効力を裏付けるための試験)
免疫原性については、目的としている免疫反応だけではなく、組換えウイルスに含まれる他のウイルスタンパク質に対して体内で惹起される免疫反応についての評価が有用な場合がある。
組換えウイルスワクチンと既承認ワクチンの免疫原性が互いに影響することが想定される場合は、その影響評価について検討すること。
3.非臨床安全性試験
組換えウイルスワクチンの非臨床安全性評価については、従来のワクチンと同様に評価すること。
なお、製造販売承認申請時に添付すべき組換えウイルスワクチンの非臨床安全性試験に関する資料は、基本的に、「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第21号)に従って収集され、かつ、作成されたものでなくてはならない。
4.生体内分布試験
組換えウイルスの体内での分布及び持続性に関する特性を十分に理解することは、組換えウイルスワクチンの有効性及び安全性を評価するための基礎データとして重要である。原則として、本邦における初回治験開始前に生体内分布試験を実施すること。生体内分布の解析から、目的とする生体組織への分布だけでなく、目的としない生体組織や生殖組織等への分布を明らかにすることにより、ヒトでの安全性を評価する際に着目すべき器官や意図しない組込みリスクを評価すること等が可能となる。生殖組織等に分布が認められた場合にはその消失についても評価すること。また、生体内分布試験の結果は、組換えウイルスの分布、生体内での持続性に関する情報が得られることにより、ヒトでの有効性及び安全性の評価期間を検討するための有用な情報となる。さらに、生体内分布試験の結果は、毒性試験で組織特異的に検出された異常所見の毒性学的意義を考察する際に有用な場合がある。
生体内分布試験は、原則として開発品目を用いて実施すること。ただし、遺伝子発現構成体以外の遺伝子が同じ他の組換えウイルスワクチンで実施した生体内分布試験及び臨床試験の結果等に基づき、開発品目の生体内分布が説明できる場合には、開発品目を用いた生体内分布試験を省略できる場合がある。
5.生殖細胞への組込みリスクの評価(遺伝子組込み評価)
生体内分布試験において、組換えウイルスが生殖組織に分布する場合は、「ICH見解「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的な考え方」について」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)を参考として評価すること。
6.組換えウイルスの排出の評価
組換えウイルスの排出(分泌物や排泄物を介した伝播リスク)を把握することは、臨床試験を計画するにあたって重要な情報である。組換えウイルスワクチンの臨床試験は、開放された環境において実施されることが想定されることから、組換えウイルスの排出については、本邦における初回治験開始前に評価し、評価結果を踏まえて臨床試験における組換えウイルスの管理等を計画すること。組換えウイルスの排出の評価について、組換えウイルスの生体内分布試験等の他の試験の結果又は起源ウイルスの情報が利用可能な場合は、排出評価のための独立した試験を実施しなくても当該情報から評価できる場合がある。評価方法については、「ICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)が参考となる。
また、感染性を有する組換えウイルスの排出が認められる場合であって、臨床において第三者への伝播を管理できないものにあっては、第三者(新生児、妊婦及び免疫抑制状態の患者等を含む。)へ伝播した場合のリスクを評価すること。
第5章 臨床試験
臨床試験は、「「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」について(改訂)」(令和6年3月27日付け医薬薬審発0327第4号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)及び「「トラベラーズワクチン等の臨床評価に関するガイダンス」について」(平成28年4月7日付け薬生審査発0407第1号厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課長通知)を参考とし、適用される部分についてはそれに従った評価を行うこと。特にヒトに初めて接種する場合は、「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイドライン」(令和元年12月25日付け薬生薬審発1225第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)を参考に試験計画を検討すること。加えて、組換えウイルスワクチン特有の評価として以下の点に留意すること。
1.有効性評価の考え方
組換えウイルスワクチンの有効性は、従来のワクチンと同様に評価すること。ただし、有効性評価に際して、目的の抗原遺伝子を他のウイルスに挿入した組換えウイルスワクチンの場合、目的の抗原以外のウイルスタンパク質に対する抗体を保有する者においては、当該抗体が有効性に影響する可能性があることに留意すること。また、既承認ワクチンの接種により誘導される抗体により組換えウイルスが中和される場合等では、組換えウイルスワクチン又は既承認ワクチンの接種歴がもう一方の有効性に影響する可能性があることに留意すること。
2.安全性評価の考え方
組換えウイルスワクチンの安全性について、起源ウイルス及び組換えウイルスの特性、非臨床試験の結果、これまでに実施した臨床試験の結果等を踏まえ、適切な観察期間を設定した上で評価すること。
起源ウイルスの病原性の特性に関わる遺伝子等を改変して弱毒化を行っている組換えウイルスワクチンの場合、起源ウイルスの病原性に関連する可能性のある有害事象については、例えば、有効性評価において発症者の診断を行う際や、安全性評価において組換えウイルスの病原性復帰を強く疑う際に、被験者からのウイルス分離及び遺伝子解析等により病原性復帰の有無を評価するための追加の解析を行えるようにしておくことが重要となる。
また、起源ウイルスが特定の細胞・組織指向性を示す場合や、組換えウイルスが非臨床試験の生体内分布試験において特定の臓器・組織へ分布することが認められている場合は、当該臓器・組織に係る有害事象の収集及び評価が重要である。
観察期間については、ヒトの生体内から起源ウイルスが排除されるまでの期間、非臨床試験で得られた動物の組織中の組換えウイルスの残存期間及び排出期間、臨床試験で得られたヒトの血中等における組換えウイルスの残存期間及び排出期間等を考慮すること。また、非増殖型組換えウイルスに比べて増殖型組換えウイルスの場合、ヒトの生体内における増殖期間を踏まえた、より慎重な観察期間の検討が必要である。観察期間は、臨床試験の進行に伴い蓄積した安全性データを踏まえて適切性を確認し、変更の必要性を適宜検討すること。
3.排出及び第三者への伝播に係る評価の考え方
「ICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)を参考に、被験者に接種された組換えウイルスが、接種された被験者以外の第三者へ伝播するリスクを評価すること。
感染性を有する組換えウイルスの接種部位、尿、糞便、唾液等への排出が想定される場合、排出された組換えウイルスが第三者へ伝播するリスクが生じることから、排出物に含まれる組換えウイルスの量を経時的に測定し、ヒトの体内での持続性・排出期間を把握すること。血液中の組換えウイルス量を測定することは、ヒトの体内での持続性を把握することに加え、出血や献血等の血液を介した第三者への伝播リスク評価に必要である。
第三者への伝播リスクが認められた場合、第三者へ伝播した場合の安全性上のリスクを評価し、リスクを最小化するための方法について検討すること。特に、排出が認められた増殖型組換えウイルスワクチンの場合、ウイルスが伝播した第三者からの二次感染の可能性があることから、被接種者からの第三者への伝播を防止する方法の検討が必要である。
なお、組換えウイルスが排出されることによる環境への影響については、別途、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)(以下「カルタヘナ法」という。)に基づき評価しなければならない。
4.避妊期間の設定の必要性と基本的考え方
組換えウイルスの垂直感染性、非臨床の生体内分布試験、生殖発生毒性試験等の結果を踏まえて、避妊の必要性及び適切な避妊期間を検討すること。妊娠可能な女性を臨床試験に組み入れる場合では、先行する臨床試験で得られた、ヒトにおける組換えウイルスの血中での持続性、想定される体液への排出期間等が参考となる。
5.生殖細胞への組込みリスクの評価(遺伝子組込み評価)
非臨床の生体内分布試験において、組換えウイルスが生殖組織に分布する場合、「ICH見解「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的な考え方」について」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)を参考として評価すること。
第6章 製造販売後
カルタヘナ法に基づき承認された第一種使用規程を遵守して組換えウイルスワクチンを使用するよう、電子化された添付文書及び資材における使用規程の周知等、必要な措置を講ずること。
以上