アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」について(改訂)

(令和6年3月27日)

(医薬薬審発0327第4号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

医薬品の承認申請の目的で実施される感染症予防ワクチンの臨床試験については、「「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」について」(平成22年5月27日付け薬食審査発0527第5号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知。以下「旧臨床ガイドライン通知」という。)のとおり示してきたところですが、近年の科学的知見を踏まえ、別添のとおりガイドラインを改訂しましたので、貴管内関係業者に対し周知方ご配慮願います。

なお、本ガイドラインは、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであり、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。

また、本通知の適用に伴って、旧臨床ガイドライン通知を廃止します。

(別添)

感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン

令和6年3月27日改訂

1.はじめに

ワクチンは、特定の抗原を標的として免疫を賦活化して薬効を発揮する医薬品である。多くは感染症の発症予防又は感染予防(以下「感染症の予防」という。)を目的とするが、被接種者のみならず、集団の一定割合以上が免疫を獲得することで当該集団において流行が回避される集団免疫の効果を期待できる場合もある。本ガイドラインは、感染症の予防を目的とするワクチン開発に適用され、「治療用ワクチン」すなわち、抗腫瘍ワクチン(癌ワクチン)、抗イディオタイプ抗体ワクチン(免疫原として使用するモノクロナール抗体を含む)等には適用されない。本ガイドラインが対象とする感染症の予防を目的とするワクチン(以下「ワクチン」という。)は、感染性病原体に対する特異的な免疫を誘導する以下のようなものである。

1) 免疫原性を保持したままで、化学的又は物理的に不活化された微生物を有効成分とするワクチン(日本脳炎ワクチン等)

2) ヒトに感染する病原性微生物と抗原が類似した微生物、又は適切な免疫原性を残したまま弱毒化された微生物を有効成分とするワクチン(麻しんワクチン、BCGワクチン等)

3) 病原性微生物から抽出された抗原、又は病原性微生物が産生するトキシンを不活化したトキソイドを有効成分とするワクチン(インフルエンザHAワクチン、百日せきワクチン、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイド等)

4) 遺伝子組換え技術によって得られた抗原、又はこれらを凝集化、重合化した抗原や、担体と結合させた抗原を有効成分とするワクチン(B型肝炎ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチン等)

5) ウイルスや細菌等の遺伝子を組み換えたワクチン

6) 発現プラスミド等の核酸を有効成分とするワクチン

なお、開発するワクチンに関連するガイドラインが他に発出されている場合は、それぞれのガイドラインにも対応する必要がある。

また、上記に記載されていないような新しいワクチンを開発するにあたっては、得られている知見をまとめたうえで、開発早期から規制当局への相談を開始することが望ましい。

ワクチンは、免疫を賦活化して薬効を発揮し、主に健康な人における感染症の予防を目的として接種されるために、一般的な治療薬とリスクベネフィットバランスが異なる等、他の医薬品とは異なる特徴も有する。ワクチンの臨床試験においても一般的な事項はICH(医薬品規制調和国際会議)ガイドライン等が参考となるが、前述のワクチンの有する特徴により、臨床開発において特別に考慮しなければならない事項がある。本ガイドラインは、ワクチンとして開発される医薬品について、有効性及び安全性を評価するために実施される臨床試験の計画、実施、評価方法等について、ワクチンにおける特殊性も考慮し、現時点における標準的方法を概説したものである。

2.被験者の保護

治験であれば医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づく「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(Good Clinical Practice:GCP)」に、製造販売後の臨床試験あるいは調査であれば「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令(Good Post‐marketing Study Practice:GPSP)」に従って行わなければならない。ヘルシンキ宣言の原則である「人権の保護、安全の保持及び福祉の向上」はGCP、GPSPの遵守により保証される。いかなる臨床試験も開始前に法令で定められた審査を受け、承認を得なければならない。また、臨床試験に参加する被験者からは適切なインフォームドコンセントを得ていなければならない。被験者となる者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難なときは、代諾者(被験者の親権を行う者、配偶者、後見人その他これらに準じる者をいう。)から文書でインフォームドコンセントを得ることにより、当該被験者となるべき者を治験に参加させることができる。乳幼児、小児、妊婦及び高齢者を対象とした臨床試験では、倫理的配慮に特別の注意を払うべきである。特に、小児試験におけるインフォームドアセント等に関しては、「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」(平成12年12月15日付医薬審第1334号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を参照すること。

3.臨床開発に関して考慮すべき点

3.1.臨床開発の段階

3.1.1.第Ⅰ相試験

第Ⅰ相試験は、一般に小規模試験であり、ワクチンの安全性と免疫原性に関する予備的な探索を目的としてデザインされる。第Ⅱ相試験以降に用いる接種量や接種方法は、それまでに実施された第Ⅰ相試験成績等の情報に基づいて検討される。ワクチン開発では、通常、薬物動態試験は必要とされない。ただし、新規のアジュバント等が含まれる場合は、その新規物質について薬物動態試験が必要になることがある。また、新規の弱毒生ワクチンや遺伝子組換え生ワクチンについては、排出の有無等を確認する試験の要否について、対象となる感染症やワクチンが由来するウイルス等に関する情報、及び非臨床試験成績等に基づき検討することが必要である。薬力学試験は、当該ワクチンに対する免疫応答の特性を評価する免疫原性試験が該当する。

通常、第Ⅰ相試験では、日本人健康成人を対象にし、被験者の安全性を確保し適切な臨床検査が可能な施設で、注意深く監視しながら実施するべきである。ただし、後述する海外臨床試験データを利用するための国内臨床試験を実施する場合や、小児や高齢者等の特定の集団を対象とするワクチンの開発において

適切な海外臨床試験成績がある場合等には、日本人健康成人を対象とした第Ⅰ相試験の実施は必要としないこともある。

有害事象とワクチンとの関連を把握するには第Ⅰ相試験においてもプラセボ又は既存の類薬等の適切な対照群を置くことが望ましい。最適な安全性評価を行うために、可能であれば他のワクチンや治療薬の同時使用は避けるべきである。ワクチンの安全性、有効性に関する基本的な情報を収集するために被験者の臨床検査を実施すべきである。ヒト初回投与試験を実施する場合には、「「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」の改訂等について」(令和元年12月25日付け薬生薬審発1225第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)を参照すること。

弱毒生ワクチンや遺伝子組換え生ワクチンの安全性の評価には、被験者からのワクチン株の排出、被験者に接触した第三者への伝播の可能性、ワクチン株の遺伝的安定性、強毒株への変異の可能性等も検討項目に含むべきである。弱毒生ワクチンや遺伝子組換え生ワクチンの臨床試験については、ワクチン株の排出による被験者以外への伝播のリスクに応じた適切な施設で実施されなければならない。被験者からワクチン株が排出されるものにあっては、「ICH見解:ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課、医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)が参考になる。

3.1.2.第Ⅱ相試験

第Ⅱ相試験は、免疫原性及び安全性を指標として第Ⅲ相試験に使用するワクチンの接種量や基本的な接種スケジュール等を明確にすることを目的とする。また、第Ⅱ相試験は、被験者の年齢、性別、移行抗体、接種前抗体価等といった免疫反応に関連した多様な変数を評価するために実施することもある。免疫反応への影響を評価するべき因子としては、1)ワクチンの接種量、2)ワクチンの接種間隔、3)ワクチンの接種回数、4)ワクチンの接種経路等がある。免疫の持続期間、追加免疫の必要性及び免疫反応の定量的側面についても調査することが望ましい。十分な情報を得るためには複数の試験が必要なこともある。

新規抗原等の場合は接種量及び接種スケジュールの設定は重要な検討項目であり、接種対象集団での用量反応データを得るべきである。海外で確立された用法・用量を参考にして本邦の臨床試験を実施する場合、臨床試験で設定された用法・用量が、日本人における用法・用量として適切であることを説明できる必要がある。発症予防を含む、疾患の特徴を踏まえた臨床的なイベントの予防効果(以下「発症予防効果等」という。)と関連する免疫反応が明らかにされていない場合には、抗原量を増加させても免疫反応の明らかな増大がみられない抗原レベルを把握することは重要である。

ワクチン接種に基づく免疫反応の解析も、第Ⅱ相試験における重要な項目であり、注意深く評価するべきである。特に発症予防効果等と、免疫反応との関連性が明確になっていないワクチンについては、可能な限り免疫学的特性を詳細に調査すべきである。

弱毒生ワクチンや増殖性のある遺伝子組換え生ワクチンの臨床試験の実施に際しては、ワクチン接種後4週又はそれ以上の継続した追跡期間を設定することが推奨される。第Ⅰ相試験でワクチン株の排出、被験者以外への伝播、ワクチン株の遺伝子変化の可能性等が確認されているのであれば、それらの確認された結果から、生ワクチン等の排出、伝播、遺伝子変化等のリスクを適切に観察できる追跡期間及び観察項目を検討する必要がある。

すでに国内で製造販売承認を得て、十分な使用実績があるワクチン同士の混合ワクチン等の開発では、第Ⅰ相試験で用法・用量に関する適切な情報が得られた場合は、第Ⅱ相試験は必要ではない場合もある。

3.1.3.第Ⅲ相試験

第Ⅲ相試験は、ワクチンの有効性と安全性のデータを得るために実際の使用条件を考慮してデザインされる臨床試験であり、通常は大規模な集団において実施される。

第Ⅲ相試験の臨床的有効性を確認する試験においては、実用化された際のワクチンの接種対象を適切に反映した被験者に対して、予定される用法・用量における接種経路で接種した際の発症予防効果等をエンドポイントとして有効性を検証することが基本的に望ましく、適切な対照群を設定した無作為化二重盲検比較試験を実施することが望ましい。なお、発症予防効果をエンドポイントとして試験を実施する場合には、実施地域や実施時期における感染症の流行状況が試験の実施可能性に影響を及ぼすことに留意が必要である。また、一般的に、発症予防効果を評価する場合には治癒や症状の改善を評価する場合に比べて多数の被験者の組入れが必要となること等から、3.3.に述べる国際共同治験の実施を考慮することが適切な場合がある。一方、4.3.1.で例示するように、疾患の発生頻度が非常に低い場合等は、発症予防効果等を有効性のエンドポイントとして検討することは困難であることも多い。このような場合には、発症予防効果等との関連性が確立されている抗体価等の代替指標を評価するような試験デザインが適切な場合もある等、疾患の性質により異なるアプローチを取ることが求められる。代替指標の測定は、再現性が実証された標準的な検査手法を用いることが求められる。第Ⅲ相試験においては、リスクベネフィットバランスを厳密に評価し、その有用性を示すことが重要である。

3.1.4.製造販売後

一般に医薬品の承認までに実施される臨床試験から得られる安全性及び有効性に関する情報は限られている。そのため、開発段階において十分に評価できなかった事項や開発段階で示唆されたリスクを考慮し、製造販売後に収集すべき情報の有無とその内容を明確にするとともに、適切な医薬品リスク管理計画を策定する必要がある。

医薬品安全性監視活動の検討にあたっては、臨床試験から得られた情報の他、ワクチンの特徴や接種対象者の特性を考慮して、安全性検討事項を特定する。その上で、各安全性検討事項について、製造販売後に明らかにすべき懸念事項を明確化し、懸念事項の特性に応じて、科学的に最も適切と考えられる対処方法を決定する。例えば、開発段階や海外における実臨床での使用で認められたワクチンとの因果関係が示唆されたリスクについて、ワクチンとの因果関係を明確にすること等を目的として、製造販売後調査等が実施される。

有効性に関する調査・試験については、臨床試験で十分に評価されなかった事項等(例えば以下の事項)を検討するために実施される。また、第Ⅲ相試験では感染症の発生頻度が低い等の理由で発症予防効果等を明確に評価することが困難であった場合等に重要となる場合もある。

1) 特定のリスクグループ(高齢者、免疫不全患者、特定の疾患のある患者等)での有効性の検討

2) ワクチンの有効性が持続する期間等の長期的な検討

3) 感染性病原体の特性(抗原性等)の変化した新たな変異株が出現して現行製剤の継続的な有効性について疑問が生じる場合等の検討

製造販売後調査等の実施計画の策定にあたっては、「医薬品の製造販売後調査等の実施計画の策定に関する検討の進め方について」(平成31年3月14日薬生薬審発0314第4号・薬生安発0314第4号 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長・医薬安全対策課長通知)も参考にすること。

3.2.海外臨床試験データを利用するための国内臨床試験

発症予防効果等との関連性が確立されている免疫学的エンドポイント等の代替指標が存在し、代替指標を用いた評価結果から有効性を説明することができるワクチンについては、国内で免疫原性等を評価する試験を実施することにより、海外で実施された大規模臨床試験等のデータの利用が可能になる場合がある。

海外臨床試験データを利用するための国内臨床試験の実施にあたっては、「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」(ICH E5ガイドライン)及び以下の点も踏まえた上で、海外臨床試験データを利用することの妥当性及び国内臨床試験の計画の妥当性について、十分に説明する必要がある。

1) 発症予防効果等を指標とする際、ワクチンの有効性、安全性等における日本人と海外臨床試験を実施した民族との間の民族的要因による違い。

2) 海外臨床試験と日本で実施される臨床試験の接種スケジュール、接種量、接種経路、対照薬あるいは同時に接種するワクチンの違い。

3) 国内外での対象とする感染症の流行状況、流行株又は血清型分布の違い。

なお、ワクチンでは、通常、薬物動態の評価を行わないことから、ICH E5ガイドラインに記載されている薬物動態データに基づくブリッジングの概念とは必ずしも一致しない。

発症予防効果等との関連性が確立されている抗体価等の代替指標が存在し、当該指標を用いた海外臨床試験データを利用する場合には、測定法に起因する相違を最小にするため、原則として国内臨床試験に用いる指標は海外臨床試験で用いられた指標と同一の測定法により測定されるべきである。また、測定においては国際標準物質及び標準試薬を用いることが望ましい。

3.3.国際共同治験

国際共同治験では、国内臨床試験とは異なり、様々な地域及び民族において臨床試験が実施されるため、臨床試験を計画する場合には、民族的要因を考慮して計画することが必要である。したがって、ICH E5ガイドラインで述べられている事項を検討することは、国際共同治験を計画する場合にも有用である。また、「国際共同治験に関する基本的考え方」(平成19年9月28日薬食審査発第0928010号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)、「海外で臨床開発が先行した医薬品の国際共同治験開始前の日本人での第Ⅰ相試験の実施に関する基本的考え方について」(令和5年12月25日医薬薬審発1225第2号厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)及び「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則に関するガイドラインについて」(ICH E17ガイドライン)(平成30年6月12日薬生薬審発0612第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)も併せて参照されたい。

更に、3.2.に記載されている3つの点についても考慮する必要がある。

国際共同治験に先立って国内臨床試験を実施する場合には、日本人集団における安全性評価に加え、免疫原性等による有効性の評価を行い、それまでに得られている海外臨床試験の情報と比較した上で、国際共同治験に日本が参加することが可能か否かの判断に資する情報を得ることが望ましい。

3.4.混合ワクチンの臨床試験に関する特別な考察

本ガイドラインにおける混合ワクチンとは、複数の感染症に対する抗原等を有効成分として含むワクチン(百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン、麻しん風しん混合ワクチン等)のことをいう。なお、同一の感染症に対する複数の血清型の抗原等を有効成分として含む多価ワクチン(肺炎球菌ワクチン等)についても、混合ワクチンに関する本稿の記載内容が適用可能な場合がある。

混合ワクチンの臨床試験は、各抗原の有効性、及び混合ワクチンとしての安全性を評価するために実施する。混合ワクチンではワクチンを構成する物質同士による干渉、抑制、相互反応、相乗反応等が起こる可能性がある。このため、臨床試験における有効性及び安全性は、適切な対照群を設定して比較する必要がある。例えば、混合ワクチンの各抗原について、国内で製造販売承認されている個々のワクチンがある場合には、原則として個々のワクチンの同時接種群を対照として比較する。なお、抗原間の干渉等に関する既存の情報が活用できる場合もあることから、臨床試験の計画段階において、検討すべき事項や試験デザインについて規制当局と合意を得ておくことが望ましい。

混合ワクチン接種後のいずれかの抗原に対する抗体価が、個々のワクチンを別々の時期に接種した場合や違う部位に同時接種した場合と比べて低かった場合、混合ワクチンを使用しても臨床的な発症予防効果に問題ないとする理由及びその根拠となるデータを示す必要がある。

既存の個々のワクチンから新規の混合ワクチンに切り替わることによって接種量や接種スケジュールが変更となる場合には、その妥当性を科学的な根拠に基づき説明する必要がある。

3.5.小児を対象としたワクチンの開発と同時接種に関する考察

小児を対象としたワクチンの開発においては、定期接種ワクチンの接種を受けている対象者を被験者としなければならない場合がある。定期接種ワクチンの有効性(免疫原性を含む)及び安全性に開発中のワクチンが及ぼす影響等、相互に及ぼす影響が明確となるような適切な試験デザインの設定を検討する必要がある。定期接種ワクチンと開発中のワクチンの同時接種時に、免疫学的干渉と安全性に係る相互作用が懸念される場合、定期接種ワクチン単独接種群と、定期接種ワクチン及び開発中のワクチンの同時接種群の有効性(免疫原性を含む)及び安全性を比較することも一案である。乳児への初回免疫に対しては、移行抗体による免疫干渉がおきる可能性等も留意すべきである。

3.6.免疫不全状態である者等の有効性や安全性の評価に留意を要する集団に対する適応の追加

主たる接種対象に加えて、免疫不全状態である者、妊婦等、有効性や安全性の評価に留意を要する集団に対して適応を追加する場合には、主たる接種対象に対して行った検証試験とこれらの集団に対して行った臨床試験における有効性(免疫原性を含む)及び安全性の成績を比較することで、適応の追加を検討することが可能である。なお、これらの集団を対象とした開発については、ワクチン開発の早期から接種ニーズを確認し、対応することが望ましい。

3.7.接種経路についての検討

ワクチンはその製剤の特徴によって、皮下接種、筋肉内接種、経口接種、経鼻接種、皮内接種等を用いることができる。原則として、製造販売承認申請する接種経路の妥当性については、国内臨床試験の成績より説明する必要がある。ただし、複数の接種経路での開発を行う場合には、必ずしも全ての接種経路で国内の検証試験を行う必要はない。検証試験を実施しない接種経路での有効性(免疫原性を含む)及び安全性については、当該接種経路の臨床試験成績と、検証試験を実施した接種経路での有効性(免疫原性を含む)及び安全性の成績とを比較した上で、両者で有効性(免疫原性を含む)及び安全性が大きく異ならないことを説明する必要がある。国内では、ワクチンの接種経路として皮下接種が多く用いられてきたが、海外では不活化ワクチンは筋肉内接種、生ワクチンは皮下接種が多く用いられている。近年では、不活化ワクチンについて海外と同様に筋肉内接種もできるよう要望があることを踏まえ、ワクチンの開発早期の段階から国内における接種経路を検討しておくことが望ましい。

3.8.ワクチン接種スケジュールに関する考察

ワクチンでは、基礎免疫効果を誘導するために初回免疫として複数回の接種が必要な場合がある。したがって、非臨床試験成績や類薬の接種スケジュールを参考に、適切な接種回数及び接種時期について事前に検討した上で、有効性(免疫原性を含む)及び安全性に関するデータを取得する必要がある。なお、適切な接種スケジュールの設定のためには、有効性及び安全性のみでなく、接種者及び被接種者にとって接種を受けやすいスケジュールであるか等についても考慮することが望ましい。また、効果を長期間持続させるための追加接種の必要性や、可能であれば免疫記憶賦与の有無についても検討すべきである。初回免疫によって免疫記憶が賦与されたか否かの検討については、例えば、初回免疫後、少なくとも6~18カ月の期間をおいて追加免疫を行い、有効性(免疫原性を含む)及び安全性を検討する等の方法が考えられる。

4.臨床試験に関して考慮すべき点

4.1.発症の定義

臨床的な発症予防効果によりワクチンの有効性を評価する場合、発症の定義が重要である。また、発症の定義を妥当とする根拠を示す必要がある。同様に発症の確認方法の感度及び特異度も重要である。定義された臨床的基準に基づいて診断する場合には、それらの基準が正しいとする理由及び評価が必要である。実験室内診断(抗体検出、抗原検出等)、臨床検査等に基づく診断は、発症の臨床的定義を裏付けるために可能な限り行う必要がある。

4.2.比較対照群に関する考察

臨床試験においては有害事象の発現頻度等を検討する上でも、比較対照群を設定することが望ましい。一般にプラセボ対照群は試験する抗原を含まない比較群を指す。開発するワクチンと同一の感染症の予防に用いられる既存のワクチンがある場合には当該ワクチンとの比較試験を考慮する。混合ワクチン及び多価ワクチンにおいて、既存のワクチンが利用できない場合、新たに加えた抗原以外の全ての抗原を含む既承認のワクチンとの比較試験を考慮する。比較対照群がある場合には、可能な限り盲検下で試験を実施すべきである。

4.3.有効性の評価

ワクチンの有効性は、原則として発症予防効果等を主要評価項目として評価する。発症予防効果等を臨床的エンドポイントとして用いた試験は、自然発生的な感染が一定程度あり、かつ比較試験が実施可能な地域及び時期に行わなければならない。一方、発症予防効果等と、ワクチンによって誘導される抗体(価)やその他の特定の生物学的マーカー等との間に関連性が確立されている場合、これらを代替の主要評価項目とすることができる。代替指標を用いる場合には、その妥当性を科学的に考察しなければならない。免疫原性は原則として全ての臨床試験において評価する。

また、複数の株又は血清型からなる多価ワクチンの場合、有効性の主要評価項目は、ワクチンに含まれる種々の株若しくは血清型に起因する個々の感染症の発症の予防又は症状の緩和であることが望ましいが、適切な代替指標がある場合には、代替指標を用いた評価も可能である。臨床試験は、試験の実施地域において流行している株や血清型ごとの有効性に関しても一定の評価ができるように計画することが望ましい。

4.3.1.発症予防効果等を評価する臨床試験に関する考察

ワクチンの臨床的有効性は、原則として、発症予防効果等をエンドポイントとして評価する。例えば、ワクチンの発症予防効果については、ワクチン非接種群における発症割合に対する接種群における発症割合の低下率で表される(用語解説、ワクチンの発症予防効果参照)。理想的には、新規ワクチンの発症予防効果等の評価は、製造販売承認申請前に終了すべきである。しかし、以下の例のように、製造販売承認前に実施不可能な状況が存在する場合がある。このような場合は、製造販売承認申請に必要となる臨床試験について規制当局と協議し、あらかじめ合意しておく必要がある。

1) 妥当な試験期間を設けても、その期間中に予防できる可能性のある感染症が発生しない場合(天然痘等)や、発生しても発生率が非常に低い場合(ブルセラ病、Q熱等)、発症予防効果の評価は実際上、不可能である。また、感染症の発生が予測不可能で、一時的に大流行する傾向があり、そのためワクチンの発症予防効果を評価できない場合(一部のウイルス性出血熱等)。

2) 発症予防効果等を評価する臨床試験の実施が不可能であって、発症予防効果等との関連性が確立されている免疫学的エンドポイントも存在しない場合。なお、この場合には、発症予防効果等が既に証明されている類似ワクチンの過去の試験で認められた免疫応答と比較することにより、当該ワクチンの発症予防効果等の可能性を評価することも、ときに妥当であると考えられる。

3) 発症予防効果等を評価する臨床試験の実施が不可能であって、発症予防効果等との関連性が確立されている免疫学的エンドポイントがなく、過去の試験で比較のための免疫学的データも示されていない場合(炭疽病等)。

4.3.2.発症予防効果等と関連する免疫学的エンドポイントに関する考察

既に製造販売されているワクチンによって広く免疫されて、対象となる疾患に関連する臨床的なイベントの発生が非常に減少しているような場合、ワクチンの有効性が臨床的なイベントの発生率の差では評価できないような状況もある。発症予防効果等との関連性が確立されている免疫学的エンドポイントがある場合には、当該免疫反応を評価する試験を行う。また、海外でワクチンの発症予防効果を評価した検証試験があり、本ガイドライン3.2.項に基づき、当該試験の利用が可能と考えられる場合、日本では適切な指標を用いた免疫原性に係る試験を実施し、海外臨床試験等を参照することが可能となる場合もある。既存のいくつかのワクチンにおいては、発症予防効果等と関連するワクチンに誘導される免疫反応が同定されており、これらの免疫反応を用いてワクチンの有効性を検証することは一般に認められている。

既存のワクチンでも発症予防効果等と科学的に関連性が認められた免疫反応が同定されていないものや新規の抗原を用いたワクチンでは、有効性を検証する臨床試験中に、可能な限り発症予防効果等に関連する免疫反応の特定を試みるべきである。そのため、発症予防効果等と関連する免疫反応を評価できるような臨床試験をデザインすべきである。しかし、感染症によってはワクチンの発症予防効果等と関連する免疫反応を評価することが困難な場合もある。その場合には製造販売承認取得後に、使用されたワクチンの発症予防効果等に有効な免疫学的反応を評価し、それらに基づいて免疫学的反応と短期又は長期の発症予防効果との関連性を明らかにしていくべきである。

また、動物感染モデルが確立されている場合には、攻撃試験を通してヒトにおける発症予防効果等と関連する免疫反応を推定することも有用である。トランスジェニック動物等の、感染性病原体に感受性を持ち、病原性発現の機序がヒトと類似の感染動物モデルの確立にも努力すべきである。

これら発症予防効果等と関連性を持つ免疫反応は、感染因子又はトキシン等に対する中和作用又は不活化作用等をもつ機能的抗体価(中和抗体価等)で表されることが一般であるが、機能的抗体価と、ELISA法(酵素免疫測定法)やHI法(赤血球凝集抑制試験)等の抗体測定法により表される抗体価との間に明確な関連性がある場合には、これらでの代用は可能である。抗体価は逆累積度数分布や幾何平均抗体価等で評価される。

細胞性免疫応答を誘発することが予測される特定の抗原において、細胞性免疫応答が抗原に対する全体的な免疫応答の重要な反応又は不可欠な反応であると予測される場合には、発症予防と細胞性免疫応答についてその関連性を検討できる臨床試験デザインが奨められる。

4.3.3.予防可能な期間及び追加免疫の考察

製造販売承認前にワクチンの効果の持続期間や追加免疫に関する評価が困難な場合がある。一般にワクチンの臨床的に有効な期間を検討する目的で臨床試験を延長することは不可能な場合が多い。製造販売後の調査等において、長期の発症予防効果等や追加免疫の必要性を検討することも考慮すべきである。新規に開発されたワクチンにおいては、抗体価の経時変化と発症予防効果の関連性、誘導される抗体の種類、免疫記憶の誘導等に関する情報が、ワクチン効果の持続期間や追加免疫の時期の妥当性を検討する上で重要である。

4.3.4.試験の規模に関する考察

ワクチンの有効性を評価する試験では、感染症の発生、臨床的エンドポイント、発症予防効果等に関連する免疫反応(存在する場合)等に基づいて、統計学的に適切に評価できる被験者数を設定すべきである。

4.4.安全性の評価

製造販売承認申請前の臨床開発における安全性の評価は、開発計画全体を通じてワクチンの安全性の特性を明らかにし、定量化するものであり、製造販売された場合の使用に則して行う。非臨床試験で検出された安全性に関する問題点があれば、臨床試験においては特に注意を払うべきである。

安全性評価は、臨床試験においてワクチンを接種された全登録被験者に対して行い、安全性データの収集は、ワクチン接種時から始める。安全性データは、少なくとも、毎回のワクチン接種後に収集する。ワクチンの予測される局所反応・全身反応の多くは接種後数日以内に発現する。予測できない有害事象の収集も重要である。有害事象を収集する期間は、不活化ワクチンの場合はワクチン接種から2週間、生ワクチンの場合はワクチン接種から4週間が目安となるが、新規モダリティや新規抗原のワクチンについてはワクチン接種から1年間の追跡調査を行う等、ワクチンの特性等に応じ、2週間から4週間以上の適切な期間を設定することが必要な場合もある。有害事象の収集にあたっては、日誌に記録された有害事象を電話により収集する、被接種者が次の接種のために受診した際に日誌を回収する、電子的に被験者の日誌を収集する等の方法が考えられる。場合によっては、設定した期間を越えて発現する有害事象も収集できるようにすることが必要となる。最終接種後の追跡調査期間を設定している場合、その設定根拠を説明できる必要がある。

抗原が類似する実対照薬(同一の感染症の予防に用いられるワクチン)等との比較データの収集も考慮すべきである。比較データを収集した際は、発生した有害事象を十分に検討し、製剤の特性による違いを探索する。さらに、他のワクチンや薬剤との臨床的に問題となる相互作用、年齢や疫学的な特性等の安全性に影響を与える因子について検討する。

4.4.1.有害事象と予測される局所反応・全身反応

有害事象は、治験薬(製造販売後調査等においては既承認の製剤)を投与された被験者に生じたあらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候、症状、又は病気のことであり、治験薬との因果関係を問わない。因果関係が否定できない有害事象を副作用として取り扱う。ワクチンは医薬品を接種し、発症予防のための免疫を惹起するという医薬品の特性上、期待される免疫原性と同時に接種部位の腫脹、発赤、疼痛等の望ましくない局所反応や発熱、リンパ節腫脹等の全身反応を惹起することが多く、これらの副作用は副反応と呼称される。予測される局所反応、全身反応の項目については、ワクチンのモダリティ、接種経路等によって異なるため、臨床開発の早い時期に特定し、重症度を規定すべきである。

また、ワクチン接種に伴って予防接種ストレス関連反応(Immunization Stress‐Related Response:ISRR)が生じうることにも留意して、治験を行う。

4.4.2.重篤な有害事象(Serious Adverse Event:SAE)

重篤な有害事象(SAE)とは、有害事象のうち、死に至るもの、生命を脅かすもの、治療のため入院又は入院期間の延長が必要となるもの、永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの、先天異常を来すもの、その他の重大な医学的事象をいう。

ワクチン接種後の観察期間中に発現した全てのSAEについては、詳細な報告書が作成されるべきである。ワクチン接種後の観察期間終了後にSAEが報告された場合でも十分にモニタリングすることが必要である。ワクチン接種後のSAEの中には、稀に発現するために治験中には見出されないものもあるため、製造販売後においても引き続き情報収集することが重要である。

5.統計的留意点

臨床試験における全般的な統計的留意点については、「臨床試験のための統計的原則」(ICH E9ガイドライン)(平成10年11月30日医薬審第1047号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を参照されたい。

用語解説

アジュバント

免疫応答を促す補助剤。抗原とともに生体に投与されたとき、その抗原に対する免疫応答を非特異的に増強させる物質。

幾何平均抗体価(geometric mean titer:GMT)

被験者数nに対して、全員の力価(Ⅹn)の積のn乗根を計算することによって得られる、被験者群の平均力価(n√Ⅹ1×Ⅹ2×・.・・×Ⅹn)。

初回免疫

事前に設定した期間内(通常、接種間隔は6カ月以内)に行われる1回目の一連のワクチン接種。免疫記憶を誘導する効果をプライミング効果という。一度基礎免疫を受け、免疫記憶細胞が誘導されていると、免疫記憶細胞は消失せず、1回の追加接種(ブースター)で短時間に効果的な免疫誘導が期待できる。

HI法(赤血球凝集抑制試験)

インフルエンザウイルス、麻しんウイルス、風しんウイルス、日本脳炎ウイルス等のウイルスは、赤血球と結合するタンパク質(HA:ヘムアグルチニン)を持っている。この性質を利用して抗体が測定されている。これらのウイルスに感染した人は、ウイルスヘムアグルチニンに対する抗体(HI抗体)を持っている。抗体測定の方法は、先ずウイルス抗原と血清を反応させた後、混合液に動物血球を加えると、抗体と反応せずに残っていたウイルス抗原は赤血球と反応し、赤血球が凝集する。赤血球の凝集を抑制する最大血清希釈倍数で抗体価を表示する。

中和抗体

ウイルスの感染力又は毒素の活性を中和する抗体。ウイルス感染症においては感染防御に直接働いている。抗体測定の方法は、ウイルスと血清を反応させ、その後、ウイルスと血清の混合液を培養細胞に感染させ、反応せずに(中和されずに)残っているウイルスの増殖で判定する。ウイルス増殖を抑制する最大血清希釈倍数で抗体価を表示する。

追加免疫

長期の発症予防を誘導するために、初回免疫後に一定の間隔をあけて(通常、6~18カ月)行うワクチン接種。

発症予防

病原性微生物の感染による病気の発症を防ぐこと。

免疫原性

ワクチンによる免疫反応(液性免疫、細胞性免疫、免疫記憶等)の誘導能。

免疫記憶

特定の病原体への初回応答から作られるもので、同じ特定の病原体への2回目の遭遇に対して、早期に免疫応答し、しかも強い免疫応答を示す(二次免疫応答)。

ワクチンの発症予防効果

ワクチンの発症予防効果は、ワクチン非接種群における発症割合に対する接種群における発症割合の低下率で表され、直接的な防御(即ち、ワクチン接種群中でのワクチン接種による防御)で評価される。ワクチンの発症予防効果(Vaccine(protective)Efficacy(VE))は、一般に以下の式で評価される。

VE=(ARU-ARV)/ARU×100%=(1-ARV/ARU)×100%=(1-RR)×100%

ARU=ワクチン非接種群における発症割合

ARV=ワクチン接種群における発症割合

RR=相対危険度=リスク比(RRは各群の観察期間で調整して求める)

(出典:WHOワクチンの臨床評価に関するガイドライン)