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○「遺伝子治療用製品の非臨床生体内分布の考え方」について

(令和5年10月23日)

(医薬機審発1023第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬局医療機器審査管理課長通知)

(公印省略)

優れた新医薬品の研究開発を地球規模で促進し、患者へ迅速に提供するため、近年、承認審査資料の国際的な調和の推進を図ることの必要性が指摘されています。当該要請に応えるため、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、承認審査資料の国際的な調和の推進を図るための活動が行われているところです。

別添の「遺伝子治療用製品の非臨床生体内分布の考え方」は、ICHにおける合意に基づき、遺伝子治療用製品の開発における非臨床生体内分布試験の実施について、国際的に調和されたガイドラインを提供することを目的としています。つきましては、貴管下関係業者等に対して周知方御配慮願います。

[別添]

遺伝子治療用製品の非臨床生体内分布の考え方

目次

1.はじめに

1.1.ICH S12ガイドラインの目的

1.2.背景

1.3.適用範囲

2.非臨床生体内分布の定義

3.非臨床生体内分布評価の実施時期

4.非臨床生体内分布試験のデザイン

4.1.一般的留意事項

4.2.被験物質

4.3.動物種又は動物モデル

4.4.動物の数と性別

4.5.投与経路及び用量の選択

4.6.試料採取

5.個別留意事項

5.1.分析法

5.2.発現産物の測定

5.3.免疫学的な留意事項

5.4.Ex vivo遺伝子改変細胞

5.5.生殖腺組織における生体内分布評価

5.6.追加の非臨床生体内分布試験の検討

5.7.代替アプローチに関する留意事項

6.非臨床生体内分布試験の適用

用語

参考文献

1.はじめに

1.1.ICH S12ガイドラインの目的

本ガイドラインの目的は、遺伝子治療用製品の開発における非臨床生体内分布試験の実施に関する調和された推奨事項を示すことである。本ガイドラインでは、非臨床生体内分布評価の全体的なデザインに関する推奨事項を示し、非臨床開発プログラム及び臨床試験のデザインを担保するための生体内分布データの解釈及び適用に関する留意事項も提示する。本ガイドラインの勧告は、3R(使用動物数の削減、動物の苦痛軽減、代替法の利用)の原則に従って動物の不必要な使用を回避しながら、遺伝子治療用製品の開発を促進することを目指している。

1.2.背景

生体に遺伝子治療用製品を投与した際の生体内分布プロファイルの理解は、非臨床開発プログラムの重要な要素である。生体内分布データは、対象集団での早期臨床試験を支持するために実施する非臨床薬理試験及び毒性試験の解釈と試験デザインの立案に有用である。生体内分布試験の推奨事項を含むガイドラインは様々な規制当局によって公表されているが、本ガイドラインは非臨床生体内分布の国際的に調和された定義を提示し、遺伝子治療用製品の生体内分布評価に関する全体的な留意事項を示す。遺伝子治療領域の継続的な科学的進歩に伴い、遺伝子治療用製品の非臨床プログラムに関する適切な規制当局との早期協議に本トピックを組み入れることも推奨される。

1.3.適用範囲

本ガイドラインの対象となる遺伝子治療用製品には、導入された遺伝物質の発現(転写又は翻訳)によってその効果を発揮する製品が含まれる。遺伝子治療用製品の例としては、精製された核酸(例:プラスミド、RNA)、導入遺伝子を発現するように遺伝子改変された微生物(例:ウイルス、細菌、真菌)(宿主ゲノム編集を行う製品を含む)及びex vivoで遺伝子改変されたヒト細胞などがある。特定の転写又は翻訳なしにin vivoで宿主細胞ゲノムを変化させることを目的とする製品(すなわち、ウイルスを用いない方法によるヌクレアーゼ及びガイドRNAの送達)も本ガイドラインの対象となる。現時点で遺伝子治療とはみなされていない地域もあるが、本ガイドラインに概説する原則は、導入遺伝子を発現するための遺伝子改変を行っていない腫瘍溶解性ウイルスにも適用される。

本ガイドラインは予防ワクチンには適用されない。化学的に合成されたオリゴヌクレオチド及びその類似物質は、バイオテクノロジーに基づく製造工程を用いて製造されたものではないため、本ガイドラインの適用範囲外である。

排泄物及び分泌物(糞便、尿、唾液、鼻咽頭液等)、あるいは皮膚(膿疱、びらん及び創傷)を介して遺伝子治療用製品が体外に放出されることを「排出(Shedding)」と呼ぶ。遺伝子治療用製品の非臨床排出プロファイルの評価は、本ガイドラインの適用範囲外である。遺伝子治療用製品のゲノムへの組み込み及び生殖系列細胞への組み込みに関する評価も本ガイドラインの適用範囲外である。非臨床データのこれらの側面に関する留意事項は、ICH見解文書(1及び2)に記載されている。

2.非臨床生体内分布の定義

生体内分布とは、投与部位及び体液(例:血液、脳脊髄液、硝子体液)を含む標的組織及び非標的組織における遺伝子治療用製品の体内での分布、持続性及び消失である。非臨床生体内分布評価では、採取した試料中の遺伝子治療用製品及び導入された遺伝物質を検出する分析法が必要であり、導入された遺伝物質からの発現産物を検出する方法を含めてもよい。

3.非臨床生体内分布評価の実施時期

非臨床薬理及び毒性所見を評価、解釈する際には、生体内分布データが用意されているべきである。非臨床生体内分布データからヒト初回投与試験のデザインに関する情報を与えることもできる(6章を参照)。臨床試験の開始前に非臨床生体内分布の評価を完了していることが重要である。

4.非臨床生体内分布試験のデザイン

4.1.全般的な留意事項

生体内分布評価に関する非臨床試験は、独立した生体内分布試験として、又は非臨床薬理試験や毒性試験と併せて実施することができる。したがって、本文書において「生体内分布試験」という用語はこのいずれか場合を表す。非臨床生体内分布試験は、生物学的に適切な動物種や動物モデル(4.3項を参照)において、予定されている臨床製品を代表する遺伝子治療用製品を投与して実施すべきである(考えうる代替案については4.2項を参照)。投与経路が臨床で予定している投与経路を可能な限り反映していること、及び検討した用量で生体内分布プロファイルの特性を十分評価できることが重要である(4.5項を参照)。

生体内分布評価のデータ品質、完全性、信頼性を担保することが重要である。原則として、非臨床生体内分布試験は、Good Laboratory Practice(以下「GLP」という。)に従って実施されていなくても許容される。しかしながら、GLPに準拠した毒性試験中の一部として生体内分布評価を実施する場合は、すべての生前パラメータ及び試料採取の手順がGLPに準拠していることが重要である。生体内分布の試料分析は、GLP非適用で実施することができる。

Ex vivo遺伝子改変細胞製品に特有の留意事項については、5.4項に記載する。

4.2.被験物質

非臨床生体内分布試験で投与する被験物質は、製造工程、重要な品質特性(例:力価)、及び最終臨床製剤を考慮して、臨床で使用予定の遺伝子治療用製品を代表するものとすべきである。場合によっては、臨床使用を予定したものと同じベクター、及び異なる治療用導入遺伝子又は発現マーカー遺伝子(例:発現させるのが蛍光マーカータンパク導入遺伝子で、血清型及びプロモーターが同一のアデノ随伴ウイルスベクター)から構成される遺伝子治療用製品を用いて得られた非臨床生体内分布データを、生体内分布プロファイルを裏付けるために利用することができる(5.7項を参照)。

4.3.動物種又は動物モデル

生体内分布評価は、遺伝物質の導入及び発現が可能な生物学的に適切な動物種又は動物モデルを用いて実施すべきである(注1)。動物種又は動物モデルの選択の際の考慮点には、遺伝子治療用製品の組織指向性、遺伝子導入効率、並びに標的及び非標的組織や細胞における導入遺伝子発現の種差が含まれる。複製能を有するウイルスベクターを用いる場合は、その動物種又は動物モデルでベクターが複製可能であることが重要である。

生体内分布プロファイルに対する種、性別、齢、生理学的条件(例:健康動物か疾患動物モデル)の影響も重要である。また、動物種において投与されたベクターや発現産物に対して免疫応答を生じる可能性も考慮すべきである(5.3項を参照)。

4.4.動物の数及び性別

包括的な生体内分布評価を裏付ける十分なデータを得るため、所定の各試料採取時点で、性別ごとに(該当する場合)適切な動物数を評価すべきである(注2を参照)。3Rの原則に従い、動物の総数は複数の試験から統合してもよい。該当する場合、各時点で評価した動物の数及び複数の試験から得られた統合データの使用について、その適切性を示すべきである。雌雄のうち、片性のみを評価する場合には、その適切性も示すべきである。

4.5.投与経路及び用量の選択

遺伝子治療用製品の投与経路は、導入する細胞の種類及び免疫応答を含め、生体内分布プロファイルに影響を及ぼす可能性がある。したがって遺伝子治療用製品は、実施可能な範囲内で、予定する臨床での投与経路にて投与すべきである(注3を参照)。投与する遺伝子治療用製品について選択する用量は、薬理及び毒性評価の解釈に役立つように、生体内分布プロファイルの特性を十分評価できるものとすべきである。評価する最高用量は、毒性試験で想定される最高用量とすべきである(通常、動物の大きさ、投与経路/解剖学的標的、あるいは遺伝子治療用製品の濃度によって制限される)。生体内分布評価の用量は、予想される最大臨床用量と同等かそれを超えていることが重要である。ただし、毒性試験で投与する最高用量を超えるべきではない。

4.6.試料採取

標的組織及び非標的組織や体液の試料採取手順については、コンタミネーションの可能性を最小限にするように設定すべきである。各動物(溶媒を投与した対照動物及び遺伝子治療用製品を投与した動物)から採取した試料を適切に保存すること及び試料採取の順序を記録することを含めた、事前に規定された手順に従うことが重要である。非臨床生体内分布試験における試料採取時点は、適切な時点にわたって遺伝子治療用製品レベルの経時変化を十分に特徴付けるように選択するべきである。定常状態の期間の長さを包括的に把握するため、又は持続性を推定するため、必要に応じて追加の時点を含めることができる。該当する場合には、反復投与後の遺伝子治療用製品レベルの評価が可能となる試料採取時点を含めることを検討すべきである。

複製能を有するベクターについては、適切な試料中において、ベクター複製及びその後の消失期からなる第2ピークも検出できるように試料採取時点を設定すべきである。

採取する試料には、以下の組織や体液のパネルを含めるべきである:注射部位、生殖腺、副腎、脳、脊髄(頸部、胸部、腰部)、肝臓、腎臓、肺、心臓、脾臓及び血液。このパネルは、ベクターの種類や組織指向性、発現産物、投与経路、疾患の病態生理並びに動物の性別及び齢などの追加の留意事項に応じて拡大することができる。例えば、追加の組織や体液としては、末梢神経、後根神経節、脳脊髄液、硝子体液、流入領域リンパ節、骨髄、あるいは眼球及び視神経が挙げられる。採取する試料パネルの最終的な決定は、遺伝子治療用製品、臨床での適用対象集団、投与経路及び既存の非臨床データの理解に基づいて行うべきである。

発現産物の有無について、採取した試料を分析することもできる。この評価に関する留意事項は5.2項に示す。

5.個別留意事項

5.1.分析法

生体内分布プロファイルを評価するためには、組織や体液中の遺伝子治療用製品の遺伝物質(DNA/RNA)の量、及び必要に応じて発現産物の量を測定する必要がある。現在、組織や体液中の遺伝子治療用製品を経時的に検出する場合、確立された核酸増幅法(例:qPCR、デジタルPCRなど)を用いて、インプットゲノムDNAに対するベクターゲノムや導入遺伝子のDNA/RNAを定量することが標準と考えられている。試料(例:体液)中の細胞含量が著しく変動する場合、DNA/RNA濃度(例:コピー数/μL)を使用することができる。分析法開発の一部とされる添加回収実験により、様々な組織や体液中で標的核酸配列の検出が可能であることを示すべきである。

非臨床試験では、ベクターや発現産物の生体内分布を確認するために、上記以外の手法を用いることができる。これらの手法としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫組織化学的検査(IHC)、ウェスタンブロット法、in situハイブリダイゼーション(ISH)、フローサイトメトリー、様々なin vivo及びex vivoイメージング技術、及びその他の進化しつつある技術等が挙げられるが、これらに限定するものではない。

試験法の包括的な説明を提示し、性能パラメータ(例:感度、再現性)を含め、用いられている技法の適切性を説明することが重要である。

5.2.発現産物の測定

遺伝子治療用製品の遺伝物質の定量が主要な生体内分布評価であるのに対し(5.1項を参照)、ベクターゲノム陽性組織や体液中の発現産物レベルを測定することは、遺伝子治療用製品投与後の安全性及び活性プロファイルの特性解析に役立つ。このような評価の実施に関する決定は、遺伝子治療用製品に必要な非臨床生体内分布解析の範囲に基づき、リスクに基づくアプローチ(Risk‐Based Approach)を用いて判断されるべきである。このアプローチには、組織や体液中の遺伝子治療用製品のレベル及び持続、臨床での適用対象集団、並びにベクター及び発現産物に関連する潜在的な安全性の懸念に関する検討が含まれる。

5.3.免疫学的な留意事項

動物、特にヒト以外の霊長類及びその他の非げっ歯類における遺伝子治療用製品に対する既存免疫は、生体内分布プロファイルに影響を及ぼす可能性がある。非臨床試験に組み入れる前に、ベクターに対する既存免疫について動物のスクリーニングを検討すべきである。そのような状況では、動物を試験群に無作為に割り付ける際に用いるバイアスをなくす方法の中に既存免疫に関する考慮を含めることが重要である。

遺伝子治療用製品の投与後、遺伝子治療用製品に対する細胞性免疫応答又は液性免疫応答が生じる可能性がある。この免疫応答により、有益な生体内分布プロファイルが得られない可能性がある。したがって、申請者は、生体内分布データの解釈を裏付けるために、免疫原性の可能性に関する解析のための試料採取を検討することができる。

生体内分布プロファイルの評価のみを目的として、動物の免疫抑制をすることは推奨されない。ただし、製品又は種に特異的な状況により免疫抑制が必要な場合には、その適切性を説明すべきである。

場合によっては、導入遺伝子の種特異的性質のために、動物で発現産物に対する細胞性免疫応答又は液性免疫応答を生じる可能性がある。これが生じた場合は、免疫応答の影響を回避するために、種特異的に相同な配列を有する標的分子の導入遺伝子(オーソログ)の使用を考慮することも可能である。

5.4.Ex vivo遺伝子改変細胞

Ex vivoで遺伝子改変された細胞(ex vivoで形質導入又は遺伝子導入した後、動物やヒト被験者に投与する細胞)から構成される遺伝子治療用製品の生体内分布評価の留意事項には、細胞の種類、投与経路及び発現産物や遺伝子改変により予想される体内での細胞の分布に影響する可能性(例:細胞接着分子の新規発現又は発現変化)等の要因を含めるべきである。さらに、動物における移植片対宿主病の発生により、遺伝子改変ヒトT細胞の生体内分布評価の解釈が難しくなる可能性がある。一般に、造血系由来のex vivo遺伝子改変細胞は、全身投与後に広範囲に分布することが予想されるため、生体内分布評価は重要ではない。標的器官又は組織への分布が予想される場合は、適切な動物種/動物モデルにおいて、選択組織の生体内分布評価を検討するべきである。

5.5.生殖腺組織における生体内分布評価

臨床での適用対象集団が男女いずれかに限定されている場合(例:前立腺癌又は子宮癌の治療)を除き、投与した遺伝子治療用製品の生体内分布評価を雌雄の動物の生殖腺で実施することが重要である。適切な分析法(4.6項及び5.1項を参照)で遺伝子治療用製品又はその遺伝物質が持続的に検出されない場合、さらなる評価は不要である可能性がある。

遺伝子治療用製品が生殖腺に持続的に存在する場合には、動物の生殖細胞(例:卵母細胞、精子)又は非生殖系列細胞における遺伝子治療用製品濃度を測定する追加試験が必要となりうる。これらのデータ及び他の因子(ベクターの種類、複製能、染色体組み込み能、用量、投与経路等)から、生殖系列細胞への意図しない組み込みリスク又は生殖系列細胞のゲノム改変についての情報が得られる場合がある。この問題に関するより包括的な考え方については、生殖系列細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みに関する2006年ICH見解文書(2)を参照すること。

遺伝子治療用製品が生殖腺組織中の非生殖系列細胞(例:白血球、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞)で持続的に検出され、特にこれらの細胞が生殖に重要である場合には、影響を受けた非生殖系列細胞の機能に対する潜在的な影響についてのさらなる検討が必要となりうる。

5.6.追加の非臨床生体内分布試験の検討

製品開発中は、様々な状況下で生体内分布評価のための追加試験の実施が必要となる場合がある。考えられる状況の例を以下に示す。

・ 臨床開発プログラムにおける以下のような重大な変更:投与経路の変更、遺伝子治療用製品の用量が非臨床試験で検討済みの最大用量を大幅に上回る場合、用法の変更、及び当初予定した片性から両性を含む臨床適応の追加など。追加で実施する生体内分布評価は、追加で実施される薬理試験や毒性試験に組み込むことができる。

・ ベクター構造又は血清型の重大な変更、又は分布や導入遺伝子の発現を変化させる可能性があるその他の変更。

・ 最終遺伝子治療用製品の処方(例:ベクターの組織指向性を変化させる可能性がある添加剤の添加)又は遺伝子治療用製品の品質特性(例:遺伝子導入活性、製品力価)に影響を及ぼす可能性がある製造工程の変更。製造工程の変更に関して考慮すべきその他の要因としては、ベクター粒子径、凝集状態、抗原性、及びその他の宿主成分(例:血清因子)との相互作用の可能性が挙げられる。

5.7.代替アプローチに関する留意事項

異なる臨床での適応を裏付けるために同一の遺伝子治療用製品で実施した非臨床試験から得られた既存の生体内分布データが十分である可能性がある。しかしながら、その判断には、用量、用法、投与経路、プロモーターの変更等を考慮に入れることになる。以前に特性解析済みの遺伝子治療用製品(ベクター構造及び組織指向性を決定する他の特性が同じもので、導入遺伝子が異なる場合)から得られた生体内分布データによっても、追加の非臨床生体内分布試験を免除できる可能性がある。その際には、このアプローチの適切性を説明すべきである。

臨床での適用対象集団の生体内分布プロファイルに関する情報が得られる生物学的に適切な動物種が存在しない場合がある。例えば、ベクターがヒト細胞上の標的分子に結合するが、動物細胞上にはこの標的がない場合が挙げられる。そのような状況では、当該問題の包括的な考察を示し、非臨床生体内分布評価についての代替アプローチを支持する適切性を説明することが重要である。

6.非臨床生体内分布試験の適用

動物に遺伝子治療用製品を投与した際の生体内分布プロファイルの特性評価は、非臨床開発プログラムの重要な要素である。非臨床生体内分布データは、様々な所見(望ましい所見及び望ましくない所見)と投与した遺伝子治療用製品との関係のより良い理解を可能にすることで、試験で認められた所見の全体的な解釈に寄与する。投与動物で認められた所見を遺伝物質(DNA/RNA)や発現産物に関連付けることは、ヒトへの投与前に遺伝子治療用製品の潜在的なリスク・ベネフィットプロファイルを確認するのに役立つ。

投与経路、用量、用法及び動物の免疫応答などの要因に基づき、生体内分布データの臨床での適用対象集団との関連性を考慮することが重要である。また、これらのデータから、ヒト初回投与試験及びその後の臨床試験の要素に関する情報、例えば、投与手順(被験者間の投与間隔)、モニタリング計画、及び長期追跡調査に関する情報を得られる。

1.生体内分布評価において、生物学的に適切な動物種又は動物モデルとは、ヒトと同様の用量依存的な遺伝子治療用製品の組織分布及び発現産物のプロファイルをもたらすと予測されるものである。組織指向性を決定する同じ要素(例:ベクターキャプシド)及び目的の導入遺伝子のプロモーターを含む、同じベクター構造で構成される遺伝子治療用製品を用いて実施した過去の非臨床生体内分布試験、臨床試験データ、又は査読付き論文から、裏付けデータを得ることができる。遺伝子治療用製品が類似の工程で製造されており、用量及び投与経路が申請者の予定する使用と類似している試験から、裏付けデータを得ること。実験動物における齢特異的な留意事項に関しては、種間の器官成熟に関する比較情報がICH S11ガイドラインの別紙Aに記載されている(3)。

2.一般的には、各性/群/時点あたり最低5匹のげっ歯類又は3匹の非げっ歯類で評価することが推奨される。雌雄の数を含む動物数の適切性を示すべきである。

3.投与に用いる機器等については、動物に投与した遺伝子治療用製品の容量及び用量を検証する根拠データを示すことが重要である。この情報は、結果として得られる生体内分布プロファイルの解釈に影響を及ぼす可能性がある。臨床試験で新規の投与機器等の使用を予定している場合は、当該機器等又は同等品を用いて実施する薬理試験や毒性試験において生体内分布データを収集することを検討する。

用語

発現産物:

導入された遺伝物質によって細胞内で産生されるRNAやタンパク質などの分子。

遺伝子治療用製品:

導入された遺伝物質の発現(転写又は翻訳)によって、あるいはヒト細胞の標的ゲノムを特異的に変化させることによって、その作用を発揮する治療用製品。この定義は本ガイドラインの範囲内でのものである。

遺伝子導入:

ベクターを用いた治療用遺伝物質の細胞内への導入(例:ウイルスベクターによる形質導入、プラスミドのトランスフェクション)。

持続性:

遺伝子配列の宿主ゲノムへの組み込み、欠失、挿入又はその他のゲノム編集後の修飾、導入遺伝子を有するウイルスベクターによる潜伏感染又はエピソーム型導入遺伝物質のいずれかに起因する、遺伝子治療用製品に急性曝露後の宿主における導入/改変遺伝子配列の継続的な存在。

組織指向性:

遺伝子治療用製品の場合、特定の組織(又は細胞)群に形質導入又はトランスフェクトする所与のベクターの傾向。

導入遺伝子:

細胞内での発現後に生物学的活性を付与することを目的としたベクターにより導入される転写活性又は翻訳活性を有する遺伝物質。

ベクター:

遺伝物質を細胞内に導入するために構築された、転写活性又は翻訳活性のある治療用遺伝物質又は宿主ゲノムを変化させる遺伝物質を含有する遺伝子治療導入担体又はキャリアー。ベクターには、アデノウイルスやアデノ随伴ウイルスなどの遺伝子組換えウイルスとプラスミドや遺伝子改変微生物などの非ウイルスベクターの両方が含まれる。また、遺伝物質やゲノム編集のための成分を細胞に導入する能力を持つ標的ナノ粒子を含めてもよい。

参考文献

1.ICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」(2009年6月)

2.ICH見解「生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的な考え方」(2006年10月)

3.ICH S11ガイドライン「小児用医薬品の開発の非臨床安全性試験」(2020年4月)