アクセシビリティ閲覧支援ツール

添付一覧

添付画像はありません

○静注用人免疫グロブリン製剤の品質特性の比較評価等に基づく、効能・効果の取得に関する考え方について

(令和5年6月30日)

(薬生薬審発0630第5号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

静注用人免疫グロブリン製剤の品質特性の比較評価等に基づく、効能・効果の取得に関する考え方について、今般、別添のとおりとりまとめられましたので、貴管内関係業者に対し周知方ご配慮願います。

(別添)

静注用人免疫グロブリン製剤の品質特性の比較評価等に基づく、効能・効果の取得に関する考え方について

1.はじめに

静注用人免疫グロブリン製剤(以下、「IVIg」)は、ヒト血漿より高度に精製された人免疫グロブリンG(以下、「IgG」)を有効成分とする医薬品である。

本邦では、本研究実施時点において、ヒト血漿中のIgGを完全長かつ修飾等の加工なく精製したインタクト型の5製剤と、IgGの鎖間ジスルフィド結合をスルホ化する加工を行った1製剤あわせて6製剤が承認されている。これらIVIgについては、いずれも有効成分がヒト血漿から高度に精製されたIgGである点は共通であるが、採血国の違い等による原料血漿の特性の相違や製造元、製造方法等の相違が品質特性の違いをもたらし、それが有効性・安全性に影響を与える可能性は否定できないとして、多くの場合で、製剤ごと効能ごとに臨床試験成績に基づき承認が取得されてきた。

一方で、欧州においては、IgG製剤共通でCore SmPCが作成されるとともに、IVIgの臨床開発及び効能取得に関するガイドライン1)が作成され、原発性免疫不全症(PID)及び特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の両方で有効性を認められたIVIgは、ギランバレー症候群(GBS)、川崎病、多巣性運動ニューロパチー(MMN)及び慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(CIDP)の効能については、有効性及び安全性の確認を目的とした臨床試験を実施せずとも外挿が可能とされている。この効能外挿に係る欧州の状況も勘案すると、国内での十分な臨床使用実績その他の根拠に基づき、取得対象の効能における有効性が期待でき、かつ安全性上の大きな問題が生じないことを説明できる場合において、引き続き個別の臨床試験を必須とするか、という点については検討の余地があるところである。

以上から、本研究班においては、国内外の規制状況や、IVIgの臨床使用や作用機序に係る公表文献情報等を踏まえ、他IVIgが取得済みの効能を、臨床試験を実施することなく、品質特性の比較評価等に基づき取得する場合の考え方について整理することとした。

本研究班は厚生労働行政推進調査事業費補助金により実施していることから、政策課題の解決に適宜ご活用いただけると幸いである。本邦ではIVIgを含む血液製剤に関しては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」)」及び「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(以下、「血液法」)」に則り、必要な措置が講じられることとなっている。したがって、本文書で示した考え方が薬機法下での効能の取得のほか、血液法の基本理念も踏まえた安全なIVIgの供給の確保に資することをあわせて期待するものである。

2.適用範囲(対象)

本文書での整理対象は、本邦で臨床試験成績に基づき初回承認され、かつ承認された効能に係る再審査が終了済みの、一定の使用実績を有する、ヒト血漿由来かつ高度に精製されたインタクト型のIgGを有効成分とするIVIgとする。一方、分子構造に影響が及ぶ加工が行われたIgGを有効成分とするIVIgについては、インタクト型のIgGと有効成分の構造上の差異があり品質特性の比較評価に限界があることから、本文書の対象外とする。本文書の整理対象のうち、本文書で示した考えを利用して新たに効能を取得しようとするIVIgを「後発側IVIg」といい、取得対象の効能を有するIVIgを「先発側IVIg」という。

3.IVIgが使用される効能

IVIgが使用される効能は、おおむね受動免疫、免疫調節の2つに分けられる。受動免疫とは、主として感染症の発症防止の目的でIVIg投与により血清中のIgG量を一定程度確保する使用方法である。また、免疫調節とは、作用機序には未解明の点が多いものの、Fab、Fc、細胞性免疫の制御等の多様なIgGの機能を期待してIVIgを投与するものである。本邦既承認の効能については表1に示すような情報が得られており、国内外のガイドラインにおいて、個々のIVIgの品質特性と作用機序の関係性に着目した推奨/非推奨の事例は確認されていない2)~11)

これまで、本邦ではIVIgにおいて新たな効能の承認を取得する場合には、多くの場合、臨床試験の実施が求められてきた。一方で、本邦で既承認のインタクト型の各IVIgは、有効成分の高い類似性が期待され品質特性の比較評価が可能と考えられること、また国内外のガイドラインでも個々のIVIgの品質特性等に着目した各製剤の使い分けの推奨等も基本的になく、本邦で共通に承認されている効能においては同様の臨床的位置付けかつ相互互換性があるものとして本邦での使用実績が蓄積されていること等を踏まえると、これらインタクト型の各IVIgは、製法等の違いに関連した製剤間の品質特性の差異は否定されないものの、いずれも前述の受動免疫や免疫調節に関連したIgGの多様な生物活性を共通して示すと想定される。そのため、品質特性の比較試験結果により先発側IVIgと後発側IVIgの高い類似性が示された場合には、効能取得に際して臨床試験の実施を求めない取扱いも可能となり得ると考える。

以上を踏まえ、臨床試験を実施せずに効能を取得する場合の品質特性の比較試験等の考え方を、次項で検討する。

4.比較試験を含む品質特性の評価

後発側IVIgについて先発側IVIgを対照として品質特性を比較評価することは、臨床試験の実施要否を判断するための重要なステップである。対象とする後発側IVIgの品質特性を、最先端の分析技術を用いて十分に解析するとともに、科学的に妥当かつ合理的な範囲で、先発側IVIgとの比較試験を含む品質特性の評価を行う必要がある。一方、各IVIgで実施されている出荷規格は、確立された製法に基づいて製造された製品の恒常性を確認する試験として実施されるものであり、このような品質の高い類似性を評価するための試験としては十分でない可能性が高い。

品質特性の評価項目については、IVIgやバイオ医薬品の特性解析や同等性/同質性評価に関連する国内外のガイドライン等で例示されている評価項目等も参考に適切に立案することが求められる。ただし、IVIgがヒト血漿から精製されたポリクローナルなIgG製剤であることを踏まえると、一般には構造・物理的化学的性質に係る比較には限界があり、品質特性の評価に当たっては、この点を留意して評価項目を選択することとなろう。また、取得しようとする効能によっては、有効性担保の観点から、必要に応じて関連する評価項目(例:麻しんウイルス等の微生物に対する抗体価、生物活性、IgGサブクラスごとの含量)の設定の検討が必要となる。さらに、IVIg間で採血国や製造元、製造方法が相違することを踏まえ、有効成分そのものの評価に加え、類縁物質や不純物のプロファイル等の品質特性の違いを勘案した評価の実施が求められる。なお、血液製剤を対象とするガイドラインではないため利用には限界があるものの、品質特性の類似性の評価計画の立案に際しては、ICH Q5E11)、バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針12)、IVIgの臨床開発及び効能取得に関するガイドライン1)などが参考となろう。

いずれの評価項目においても、試験の実施に当たっては、IVIgの品質特性の評価に十分な性能を持つ分析手法を用いる必要がある。また、設定した評価項目の妥当性についても、その感度を含めて説明できることが重要である。

また、設定した評価項目を比較試験として実施する場合には、類似性の判定基準の設定を検討すべきである。判定基準を設定する場合には、評価項目として実施する試験の特性、過去のIVIgの製造におけるトレンド評価結果、公表論文等も踏まえ、品質特性の差異があった際の有効性及び安全性への影響を勘案して適切に設定することが望ましい。

評価に当たっては、複数ロットの製剤を用いた品質特性の比較によって品質特性の類似性の程度を明らかにし、品質比較で先発側IVIgとの差異が認められた場合については、その内容に応じて、公表論文等の情報も踏まえ、有効性及び安全性への影響という観点から検討する必要がある。また比較試験において、先発側IVIgの処方が試験に影響するような場合には、検体を影響のない組成に調製する必要がある場合も想定される。調製する場合には調製法の妥当性を説明することが求められる。

なお、比較試験に用いる製剤は、本邦承認済みかつ市販製品用の製造方法で製造されたものを用いることが原則である。

5.品質特性の評価結果を踏まえた効能・効果の取得

生体由来成分を有効成分とする医薬品においては、品質特性の比較試験により先発側・後発側医薬品の品質特性の高い類似性が示された、又は比較試験で確認された差異が臨床的有効性・安全性に影響を及ぼす懸念がないことが十分に説明された場合であっても、後発側の医薬品が先発側の医薬品の効能を取得する場合には、非臨床試験や臨床試験の実施の必要性がないか検討することが一般に求められる。一方で、IVIgについては、前述のとおり、有効成分の類似性が期待され、またIVIgは本邦での使用実績が蓄積されており、さらに共通した効能では同様の位置付けで使用されていること等を踏まえると、品質特性の高い類似性が試験成績に基づき示されることを前提に、取得しようとする効能においても先発側IVIgと同様の受動免疫又は免疫調節に係る薬理学的な作用が期待できること、及び後発側IVIgの当該効能における安全性に係る大きな問題がないことを申請時に十分に説明できる場合には、臨床試験を実施することなく新たな効能を取得することが可能となりうると考える。

一方、品質特性の高い類似性が示された場合であっても、たとえば受動免疫に係る効能のみを有する後発側IVIgが免疫調節に係る効能を取得する(又はその逆)等、新たに取得しようとする効能と承認済みの効能における作用機序が大きく異なる場合や、新たに取得しようとする効能におけるIVIgの一定期間における投与量が、取得済みの効能における投与量を大きく超える場合、取得済みの効能では特定の背景を有する患者での安全性上の問題が生じる可能性がある場合には、効能の取得に際して、基本的には臨床試験の実施が求められる。

なお、臨床試験を実施していない効能の取得が可能となるのは、対照薬として用いた先発側IVIgの効能に限られる。別の先発側IVIgのみが有する効能を追加で取得しようとする場合は、別途、個別の検討が必要である。

6.参考文献

1) EUROPEAN MEDICINES AGENCY, Guideline on the clinical investigation of human normal immunoglobulin for intravenous administration (IVIg) (EMA/CHMP/BPWP/94033/2007 rev. 4) (https://www.ema.europa.eu/en/clinical-investigation-human-normal-immunoglobulin-intravenous-administration-ivig-scientific#current-effective-version-section)

2) U.S. Food and Drug Administration, Guidance for Industry Safety, Efficacy, and Pharmacokinetic Studies to Support Marketing of Immune Globulin Intravenous (Human) as Replacement Therapy for Primary Humoral Immunodeficiency (https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/safety-efficacy-and-pharmacokinetic-studies-support-marketing-immune-globulin-intravenous-human)

3) 日本集中医療学会,日本版敗血症診療ガイドライン2020 (https://www.jsicm.org/news/news210225.html)

4) British Committee for Standards in Haematology General Haematology Task Force. Guidelines for the investigation and management of idiopathic thrombocytopenic purpura in adults, children and in pregnancy. Br J Haematol. 2003 Feb;120(4):574‐96.doi:10.1046/j.1365‐2141.2003.04131.x. PMID:12588344.

5) 日本小児循環器学会,川崎病急性期治療のガイドライン(2020改訂版) (http://jpccs.jp/10.9794/jspccs.36.S1.1/index.html)

6) 慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン作成委員会,慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー,多巣性運動ニューロパチー診療ガイドライン2013 (https://www.neurology-jp.org/guidelinem/cidp.html)

7) 重症筋無力症診療ガイドライン作成委員会,重症筋無力症診療ガイドライン2014 (https://www.neurology-jp.org/guidelinem/mg.html)

8) 類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会,類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン (https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/bullous%20pemphigoid.pdf)

9) British Transplantation Society, Guidelines for Antibody Incompatible Transplantation (https://bts.org.uk/wp-content/uploads/2016/09/02_BTS_Antibody_Guidelines-1.pdf)

10) 重症多形滲出性紅斑ガイドライン作成委員会,重症多形滲出性紅斑 スティーヴンス・ジョンソン症候群・中毒性表皮壊死症 診療ガイドライン (https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=307&dispmid=909)

11) 平成17年4月26日付け薬食審査発第0426001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程の変更にともなう同等性/同質性評価について」(https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0045.html)

12) 令和2年2月4日付け薬生薬審発0204第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知「「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」について」(https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T20200206I0010.pdf)

以上

表1 本邦既承認各効能におけるIVIgの作用機序情報

効能

推定される作用機序

無又は低ガンマグロブリン血症2)

●IVIgには多くの病原体に対する抗体が含まれる。

●IgGトラフ値が高くなるほど、感染防御効果がより上昇する。

重症感染症における抗生物質との併用3)

●IVIgには種々の病原微生物や毒素に対する特異抗体が含まれ、抗原と結合するとオプソニン効果や補体の活性化の他、毒素・ウイルスの中和作用及び炎症性サイトカインの産生抑制作用を有する。

ITP4)

●マクロファージ等のFc受容体の阻害。

●抗イディオタイプ抗体による自己抗体の血小板への結合を阻害。

川崎病の急性期5)

●好中球・マクロファージの食作用亢進。

●細菌性毒素の中和。

●補体を介する障害作用及び免疫複合体を介する炎症の軽減。

●抗炎症性サイトカインの誘導。

●Matrix metalloproteinaseの調節。

●T細胞のサイトカイン、ケモカイン産生の調節及びT細胞スーパー抗原の中和。

●樹状細胞の分化・成熟阻害及び炎症性サイトカイン、ケモカイン産生の調節。

●血管内皮細胞の活性化抑制及び血管内皮細胞に対する自己抗体産生抑制。

●単球に発現する炎症関連遺伝子(S100)のmRNA抑制。

CIDP/MMNの筋力低下の改善(急性期治療及び維持治療)6)

●マクロファージのFc受容体の飽和。

●活性化補体の沈着抑制。

●抗イディオタイプ抗体活性による自己抗体の中和。

●T細胞の活性抑制及びサプレッサーT細胞活性の増強。

●B細胞による抗体産生の抑制。

●サイトカイン産生・放出の調整。

全身型重症筋無力症7)

●自己抗体との競合作用や補体カスケード反応の抑制。

●Fc受容体を介した作用。

●抗イディオタイプ抗体による抗体活性の中和。

●サイトカインの産生・放出の調節。

●T細胞機能の変化。

水疱性類天疱瘡8)

●免疫担当細胞に対して様々な作用点から自己抗体の産生を抑制する。

●Fcγ受容体に結合し血清中の病因性抗体のリサイクルを阻害し分解を促進する作用。

抗ドナー抗体陽性腎移植における術前脱感作9)

●ドナー特異的抗体の中和、補体活性の阻害及びFcγ受容体阻害を介した免疫活性の阻害。

SJS及び中毒性表皮壊死症10)

●抗Fas抗体によるアポトーシス抑制。