○「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う年金の受給開始時期の柔軟化に係る事務の取扱いについて」の一部改正について
(令和5年3月20日)
(年管管発0320第1号)
(日本年金機構事業企画部門担当理事・年金給付事業部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知)
(公印省略)
老齢年金の繰下げに係る取扱いについては、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う年金の受給開始時期の柔軟化に係る事務の取扱いについて」(令和4年3月29日付年管管発0329第14号)等により取り扱ってきたところであるが、年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(令和2年法律第40号)の一部が令和5年4月1日に施行され、本来受給選択時の特例的な繰下げみなし増額が導入されることに伴い、同通知の一部を別添の新旧対照表のとおり改正し、同日から適用することとしたので、その適用に当たっては十分に留意の上、遺漏なきを期されたい。
【別添】
(参考)改正後全文
○年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う年金の受給開始時期の柔軟化に係る事務の取扱いについて
(令和4年3月29日)
(年管管発0329第14号)
(日本年金機構事業企画部門担当理事・年金給付事業部門担当理事あて厚生労働省年金局事業管理課長通知)
最終改正 令和5年3月20日年管管発0320第1号
(公印省略)
年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(令和2年法律第40号。以下「令和2年改正法」という。)により、老齢基礎年金の繰下げ受給の上限年齢を70歳から75歳とする改正が令和4年4月より施行されることに伴い、年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(令和3年政令第229号。以下「整備等政令」という。)が令和3年8月6日付けで公布され、年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(令和4年厚生労働省令第46号)が本日付けで公布された。
当該改正に伴う事務取扱の改正内容については、下記のとおりであるので、その実施に当たっては、遺漏のないよう取り扱われたい。
記
1 改正の概要
(1) 繰下げ上限年齢の引上げ
現行制度においては、繰下げ増額率の算出に用いる待機月数の上限が60月とされており、年金の受給を5年以上待機した場合であっても、増額率は5年分に限られる。すなわち、増額率が最大となる年齢(以下「繰下げ上限年齢」という。)は70歳となっている。高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給の開始時期を選択できるよう、繰下げ上限年齢を引き上げるため、以下の改正を行う(令和4年4月1日施行)。
① 繰下げ上限年齢を現行の70歳から75歳に引き上げ、繰下げ増額率の算出に用いる待機月数の上限を120月とする。(国民年金法施行令(昭和34年政令第184号。以下「国年令」という。)第4条の5第1項及び厚生年金保険法施行令(昭和29年政令第110号。以下「厚年令」という。)第3条の5の2第1項等)
※ 65歳に達した日後に受給権が発生した者については、受給権発生日から起算して10年を上限とする。
② ①に伴い、現行の繰下げみなしの規定(国民年金法(昭和34年法律第141号(以下「国年法」という。)第28条第2項及び厚生年金保険法(昭和29年法律第115号。以下「厚年法」という。)第44条の3第2項等)について、次のとおりとする。
ア 受給権者が66歳に達した日後、75歳に達する日前までの間に、他の年金給付の受給権を取得した場合には、その受給権を取得した日に申出があったものとみなす。
イ 75歳に達した日後に申出があった場合には、75歳に達した日において申出があったものとみなす。
③ 選択された受給開始時期にかかわらず、数理的に年金財政上中立となるよう、繰上げ受給を選択した場合の繰上げ減額率の算出に用いる係数について、0.5%を0.4%に改める。(国年令第12条第1項及び厚年令第6条の3第1項等)
(2) 本来受給選択時の特例的な繰下げみなし増額の導入
(1)の繰下げ上限年齢の引上げに伴い、70歳に達した日後も繰下げ待機を選択することが可能になる一方で、年金給付に係る支分権の消滅時効は5年間である。こうした中では、繰下げ上限年齢を引き上げたとしても、70歳に達した日後の繰下げ待機を選択しにくくなってしまう。このような阻害要因を緩和する観点から、70歳に達した日後に繰下げ待機していた者が、65歳時点からの本来受給を選択した場合に、増額された年金の支給(以下「特例増額」という。)が可能となるよう、以下の改正を行う(令和5年4月1日施行)。
① 繰下げ申出を行うことができる者が、70歳に達した日後(受給権発生日から起算して5年を経過した日後)に裁定請求を行い、かつ、繰下げ申出を行わなかった(=本来受給を選択した)場合には、裁定請求の5年前の日に繰下げ申出を行ったものとみなし、増額された年金が支給されることとする(国年法第28条第5項及び厚年法第44条の3第5項)。
この場合、繰下げ増額率は、受給権を取得した日の属する月から裁定請求をした日の5年前の日(以下「特例みなし日」という。)の属する月の前月までの月数に0.7%を乗じた率とし、特例みなし日の属する月の翌月分から増額された年金を支給することとする。
なお、繰下げ申出は、受給権発生日から起算して1年を経過した日以後でなければ行うことができないが、特例増額については、特例みなし日が受給権発生日から起算して1年を経過した日前となる場合においても適用することとする。
② 本来受給を選択した者が次のいずれかに該当する場合については、特例増額を適用しない(国年法第28条第5項ただし書及び厚年法第44条の3第5項ただし書)。このため、支分権が時効消滅していない過去5年分の年金を支給することとする。
ア 66歳に達した日(受給権発生日から起算して1年を経過した日)以前に他の年金たる給付の受給権者であったとき
イ 老齢基礎年金又は老齢厚生年金の受給権発生日から起算して1年を経過した日後、特例みなし日以前に他の年金たる給付の受給権者であったとき
ウ 80歳に達した日(受給権発生日から起算して15年を経過した日)以後にあるとき
③ 繰下げ待機中の受給権者が年金を請求せずに70歳に達した日後に死亡し、遺族が未支給年金を請求するときは、特例増額を適用せず、支分権が時効消滅していない過去5年分に限り支給することとする。
なお、特例増額が適用される本来請求をした日以後に受給権者が死亡した場合には、未支給年金にも特例増額が適用される。
④ 特例増額が適用される場合は、(1)②の繰下げみなしの規定を適用しない。(国年法第28条第2項及び厚年法第44条の3第2項)
(3) 経過措置等
(1)及び(2)の改正前後の規定の適用関係については、以下のとおりとする。
① (1)の改正について、施行日(令和4年4月1日)の前日において既に70歳に到達している者は、改正後の規定の適用対象とせず、改正前の規定を適用することとする。なお、65歳に達した日後に受給権が発生した者については、施行日の前日において受給権発生日から起算して5年を経過している場合に、改正後の規定の適用対象とせず、改正前の規定を適用することとする。
② (1)③の改正について、施行日(令和4年4月1日)の前日において既に60歳に到達している者は、改正後の規定の適用対象とせず、改正前の規定を適用することとする。
③ (2)の改正について、施行日(令和5年4月1日)の前日において既に71歳に到達している者は、改正後の規定の適用対象としないこととする(令和2年改正法附則第6条から第8条まで及び第11条)。なお、65歳に達した日後に受給権が発生した者については、施行日の前日において受給権発生日から起算して6年を経過している場合に、改正後の規定を適用しないこととする。
④ 施行日(令和5年4月1日)の前日において71歳未満(受給権発生日から起算して6年未満)である場合(③参照)には、特例みなし日が特例増額の施行日より前である場合についても適用する。
2 事務処理における留意事項
(1) 受給資格期間短縮(平成29年8月施行)等により平成29年4月1日以降に受給権が発生した昭和16年4月1日以前生まれの者に係る繰下げに関する取扱いについて
① 繰下げ上限年齢は現行の70歳から75歳に引き上げられ、繰下げ増額率の算出に用いる待機月数の上限は120月となる。(整備等政令第41条による改正後の公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置に関する政令(平成29年政令第28号)第3条)
② 老齢基礎年金に係る繰下げ増額率は年単位で算出し、最大で5年を超える期間の88%となり5年目以降は一定となる。(国民年金法施行令等の一部を改正する政令(平成12年政令第335号)による改正前の国年令第4条の5)
③ 当該者については②のとおり老齢基礎年金の増額率は年単位で算定されることから特例みなし日が受給権発生日から起算して1年以内となる場合は特例増額は適用されない。
④ 受給権発生日から起算して10年を経過した日以後、15年を経過した日前に本来請求を選択した場合は、特例みなし日が受給権発生日から起算して5年を経過した日以降となることから、増額率は一定となる。
(2) 繰下げ上限年齢の引上げに伴う年金裁定請求の遅延に関する申立書の取扱い
繰下げ上限年齢の引上げに伴う年金裁定請求の遅延に関する申立書の取扱いについては、令和4年3月29日付け年管管発0329第15号において通知したとおりである。
(3) 老齢厚生年金の繰下げ待機中に遺族厚生年金の受給権が発生した場合の取扱いについて
老齢厚生年金の繰下げ申出を行うことが可能な者が、老齢厚生年金の受給権発生日から起算して15年を経過した日前、かつ、遺族厚生年金の受給権発生日から起算して5年を経過する日までに本来請求を行った場合は、老齢厚生年金に特例増額が適用される。このため、老齢厚生年金の繰下げ待機中に遺族厚生年金の受給権が発生し、老齢厚生年金の裁定請求を求めたにもかかわらず、特例増額が適用される本来請求を希望して遺族厚生年金の裁定請求時点で老齢厚生年金の裁定請求が行われなかったときは、平成19年3月29日付庁保険発第0329009号「国民年金法等の一部を改正する法律等の施行に伴う実施事務の取扱いについて」第4の3で示した事務取扱にかかわらず、老齢厚生年金の裁定前に遺族厚生年金の裁定を行うこととする。
この場合、遺族厚生年金の裁定請求が行われた際に、以下の点について十分説明されたい。
・ 将来的に老齢厚生年金の裁定請求を行うに当たっては、それまでに支払われた遺族厚生年金が遡って厚年法第64条の2の規定に基づき支給停止となることに伴い、当該支給停止相当額が老齢厚生年金の請求時に遡って支給される老齢厚生年金と内払調整されること。ただし、遺族厚生年金の支給機関と老齢厚生年金の支給機関が異なるときは、内払調整が行えないことから、現金等による返納が必要となること。
・ 遺族厚生年金の受給権発生日から起算して5年を経過した日後に老齢厚生年金を請求した場合、特例増額が適用されず、老齢厚生年金の一部が時効により受け取れなくなる場合があること。
(4) 二以上の種別の被保険者であった期間を有する者に係る特例増額について
① 二以上の種別の被保険者であった期間を有する者に係る特例増額の取扱い
厚年法第2条の5第1項各号に規定する厚生年金被保険者(第1から第4号厚生年金被保険者)で二以上の種別の被保険者であった期間(以下「二以上の種別の被保険者であった期間」という。)のうち一の被保険者の種別にかかる被保険者であった期間に基づく老齢厚生年金(以下「一の期間に基づく老齢厚生年金」という。)について特例増額が適用される本来請求を行う際に、特例増額が適用される他の被保険者の種別にかかる被保険者であった期間に基づく老齢厚生年金(以下「他の期間に基づく老齢厚生年金」という。)の受給権を有する場合は、同時に本来請求(※)を行わなければならない(令和2年改正法による改正後の厚年法第78条の28第3項)。
ただし、老齢厚生年金の繰下げ申出があったとみなされる日(他の年金たる給付の受給権を取得した日等)から起算して5年を経過した日後に本来請求が行われたときは、老齢厚生年金に特例増額は適用されない。
※ なお、一の期間に基づく老齢厚生年金についてのみ特例増額の要件を満たす場合に、当該一の期間に基づく老齢厚生年金について他の期間に基づく老齢厚生年金と同時に本来請求が行われたときは、当該一の期間に基づく老齢厚生年金に対してのみ特例増額が適用され、当該他の期間に基づく老齢厚生年金については特例増額が適用されず本来額の老齢厚生年金が支給される。
② 二以上の種別の被保険者であった期間を有する者に係る特例増額の留意事項
一の期間に基づく老齢厚生年金の受給権発生日から起算して1年を経過した日における他の期間に基づく老齢厚生年金の請求の状況によって、以下のとおり当該一の期間に基づく老齢厚生年金に対する特例増額の適用の有無が異なる。
ア 一の期間に基づく老齢厚生年金を請求する日より前に他の期間に基づく老齢厚生年金を請求している場合は、一の期間に基づく老齢厚生年金の繰下げ申出を行うことができないため、当該一の期間に基づく老齢厚生年金に特例増額は適用されない。
イ 一の期間に基づく老齢厚生年金を請求する日以後に他の期間に基づく老齢厚生年金の請求が行われる場合は、当該一の期間に基づく老齢厚生年金に特例増額が適用される。
(5) 過去分の年金を一括して受給する場合の周知等
過去分の年金を一括して受給する場合には、過去に遡って医療保険・介護保険の自己負担額や保険料、税金等の調整の必要が生じる場合がある旨、従来より丁寧な説明・周知を行うこととしている。今般の本来受給選択時の特例増額の導入にあたっても、改めて周知・説明の徹底に努めること。