添付一覧
○「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」の一部改正について
(令和5年5月26日)
(医政地発0526第5号)
(各都道府県知事あて厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)
(公印省略)
医療計画(医療法(昭和23年法律第205号)第30条の4第1項に規定する医療計画をいう。以下同じ。)に5疾病・5事業及び在宅医療に係る医療連携体制に関する事項等を定めるに当たって参考とすべき指針については、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(令和5年3月31日付け医政地発0331第14号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知。以下「課長通知」という。)によりお示ししているところであるが、今般、追ってお示しすることとしていた「そのまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある感染症がまん延し、又はそのおそれがあるときにおける医療」の確保に必要な事業に関する事項に関し、社会保障審議会医療部会及び感染症部会等での議論を踏まえ、課長通知の一部を別紙新旧対照表のとおり改正し、本日から適用することとしたため通知する。
貴職におかれては、これを御了知の上、医療計画作成のための参考にしていただきたい。
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別添1
○疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について
(令和5年3月31日)
(医政地発0331第14号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)
最終改正 令和5年5月26日医政地発0526第5号
(公印省略)
医療法(昭和23年法律第205号。以下「法」という。)第30条の4の規定に基づき、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病及び精神疾患の5疾病並びに救急医療、災害時における医療、新興感染症発生・まん延時における医療、へき地の医療、周産期医療及び小児医療(小児救急医療を含む。以下同じ。)の6事業(以下あわせて「5疾病・6事業」という。)並びに居宅等における医療(以下「在宅医療」という。)について医療計画に記載することとされています。
各都道府県が医療提供体制を確保するに当たり、特に5疾病・6事業及び在宅医療については、①疾病又は事業ごとに必要となる医療機能を明確化した上で、②地域の医療機関がどのような役割を担うかを明らかにし、さらに③医療連携体制を推進していくことが求められています。
医療機能の明確化から連携体制の推進に至るこのような過程を、以下、医療体制の構築ということとします。
5疾病・6事業及び在宅医療の医療体制を構築するに当たっては、それぞれに求められる医療機能を具体的に把握し、その特性及び地域の実情に応じた方策を講ずる必要があることから、下記のとおり、それぞれの体制構築に係る指針を国において定めましたので、新たな医療計画作成のための参考としていただきますようお願いします。
なお、本通知は法第30条の8に基づく技術的助言であることを申し添えます。
また、「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」(平成29年3月31日付け医政地発0331第3号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)は廃止します。
記
1 法的根拠
法第30条の4第4項の規定に基づき、都道府県は、5疾病・6事業及び在宅医療に係る医療連携体制に関する事項等を医療計画に定めることとされている。
また、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれに係る医療体制を各都道府県が構築するに当たっては、法第30条の3第1項に基づき厚生労働大臣が定める医療提供体制の確保に関する基本方針(平成19年厚生労働省告示第70号。以下「基本方針」という。)第四の二及び三に示すとおり、地域の医療提供施設の医療機能を医療計画に明示することにより、患者や住民に対し、分かりやすい情報提供の推進を図る必要がある。
一方、基本方針第二の二に示すとおり、国は5疾病・6事業及び在宅医療について調査及び研究を行い、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれに求められる医療機能を明らかにすることとされており、本通知は、国として当該医療機能を明らかにすること等により、都道府県の医療体制構築を支援するものである。
なお、医療機能に関する情報の提供については、法第6条の3に基づく医療機能情報提供制度が別途実施されている。
5疾病・6事業及び在宅医療の医療体制構築に当たっては、当該制度により都道府県に報告された医療機能情報を活用できること、特に、患者や住民に情報を提供するためだけではなく、地域の医療関係者が互いに情報を共有することで信頼を醸成し、円滑な連携を推進するためにも活用すべきであることに留意されたい。
2 策定に当たっての留意点
別紙「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制構築に係る指針」は、国として、①5疾病・6事業及び在宅医療の医療機能の目安を明らかにした上で、②各医療機能を担う地域の医療機関が互いに信頼を醸成し、円滑な連携を推進するために、都道府県が取るべき手順を示したものである。
都道府県においては、地域において良質かつ適切な医療を切れ目なく効率的に提供するため、本指針を参考にしつつ、医療計画の策定に当たられたい。
なお策定に当たっては、次に掲げる点に留意されたい。
① 5疾病・6事業及び在宅医療の医療体制については、各都道府県が、患者動向、医療資源など地域の実情に応じて構築するものであること。
② したがって、本指針は医療体制の構築のための目安であり、必ずしもこれに縛られるものではないこと。
③ 5疾病・6事業ごと及び在宅医療の医療体制構築に当たっては、地域の実情に応じて必要性の高いものから優先的に取り組むべきものであること。
④ 医療計画の実効性を高めるよう、5疾病・6事業及び在宅医療ごとにPDCAサイクルを効果的に機能させ、政策循環の仕組みを強化するため、それぞれの指標を活用すること。
⑤ 本指針は国における現時点での知見に基づくものであり、今後も検討、調査及び研究を続けて適宜提示するものであること。
3 本指針の位置付け及び構成
5疾病・6事業及び在宅医療の医療体制を含めた、医療計画制度の全体像については、「医療計画について」(令和5年3月31日付け医政発0331第16号厚生労働省医政局長通知)の別紙「医療計画作成指針」により別途提示しているところである。
「医療計画作成指針」と「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制構築に係る指針」との関係は別表のとおりであり、各都道府県におかれては、新たな医療計画の作成に当たり、「医療計画作成指針」を参考に計画全体の構成、作成の手順等を検討した上で、本指針により5疾病・6事業及び在宅医療に係る具体的な医療体制の構築及び計画の作成を図られたい。
(別表)
(別紙)
疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制構築に係る指針
目次
第1 趣旨
第2 内容
第3 手順
第4 連携の推進等
第5 評価等
がんの医療体制構築に係る指針
第1 がんの現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
脳卒中の医療体制構築に係る指針
第1 脳卒中の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制構築に係る指針
第1 心筋梗塞等の心血管疾患の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
糖尿病の医療体制構築に係る指針
第1 糖尿病の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
精神疾患の医療体制構築に係る指針
第1 精神疾患の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
救急医療の体制構築に係る指針
第1 救急医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
災害時における医療体制の構築に係る指針
第1 災害医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
新興感染症発生・まん延時における医療体制の構築に係る指針
第1 新興感染症発生・まん延時における医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
へき地の医療体制構築に係る指針
第1 へき地の医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
周産期医療の体制構築に係る指針
第1 周産期医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
小児医療の体制構築に係る指針
第1 小児医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
在宅医療の体制構築に係る指針
第1 在宅医療の現状
第2 医療体制の構築に必要な事項
第3 構築の具体的な手順
疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制構築に係る指針
第1 趣旨
人口の減少及び高齢化が進む中、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病及び精神疾患の5疾病(以下「5疾病」という。)については、生活の質の向上を実現するため、これらに対応した医療体制の構築が求められている。
また、地域医療の確保において重要な課題となる救急医療、災害時における医療、新興感染症発生・まん延時における医療、へき地の医療、周産期医療及び小児医療の6事業(以下「6事業」という。)についても、これらに対応した医療体制の構築により、患者や住民が安心して医療を受けられるようにすることが求められている。
さらに、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、在宅医療に係る医療体制を整備し、地域包括ケアシステムを構築することが求められている。
疾病構造の変化や地域医療の確保等の課題に対応するためには、効率的で質の高い医療体制を構築することが求められる。
具体的には、各都道府県において、5疾病・6事業及び在宅医療について、それぞれに求められる医療機能を明確にした上で、地域の医療関係者等の協力の下に、医療機関が機能を分担及び連携することにより、切れ目なく医療を提供する体制を構築することが必要である。
加えて、こうした医療体制の構築に患者や住民が参加することを通じ、患者や住民が地域の医療機能を理解し、医療の必要性に応じた質の高い医療を受けられるようになることが期待される。
以下、第2「内容」、第3「手順」、第4「連携の推進等」及び第5「評価等」において、医療体制の構築に当たって5疾病・6事業及び在宅医療に共通する事項を示すとともに、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれの指針において、それぞれに特有の事項を示すので参考とされたい。
第2 内容
5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれについて、まず「1 医療体制の政策循環」を実現するため、「2 指標」を活用し、「3 必要となる医療機能」を明らかにした上で、「4 各医療機能を担う医療機関等の名称」及び「5 課題、数値目標及び施策の方向性」を記載する。
1 医療体制の政策循環
5疾病・6事業及び在宅医療の医療体制を構築するに当たっては、住民の健康状態や患者の状態といった成果(アウトカム)などを用いた評価を行うことが重要である。具体的には、施策や事業を実施したことにより生じた結果(アウトプット)が、成果(アウトカム)に対してどれだけの影響(インパクト)をもたらしたかという関連性を念頭に置きつつ、施策や事業の評価を1年ごとに行い、見直しを含めた改善を行うこと。都道府県は、この成果(アウトカム)に向けた評価及び改善の仕組み(PDCAサイクル等)を、政策循環の中に組み込んでいくことが重要である。施策の検討に当たっては、成果(アウトカム)と施策の結果(アウトプット)の関連性を明確にし、ロジックモデル等のツールの活用を積極的に検討すること。また、当該ロジックモデル等のツールを活用した評価を行い、必要に応じてその結果を施策に反映することによりPDCAサイクル等の実効性を確保すること。
(用語の定義)
・ 成果(アウトカム)
施策や事業が対象にもたらした変化
・ 結果(アウトプット)
施策や事業を実施したことにより生じる結果
・ 影響(インパクト)
施策や事業のアウトプットによるアウトカムへの寄与の程度
・ ロジックモデル
施策が目標とする成果を達成するに至るまでの論理的な関係を体系的に図式化したもの(別添)
2 指標
医療体制の構築に当たっては、現状の把握や課題の抽出の際に、多くの指標を活用することとなるが、ロジックモデル等のツールも活用し、各指標の関連性を意識し、地域の現状をできる限り構造化しながら整理する必要がある。その際には、指標をアウトカム、プロセス、ストラクチャーに分類し、活用すること1。
(用語の定義)
・ アウトカム指標
住民の健康状態や患者の状態を測る指標
・ プロセス指標
実際にサービスを提供する主体の活動や、他機関との連携体制を測る指標
・ ストラクチャー指標
医療サービスを提供する物的資源、人的資源及び組織体制、外部環境並びに対象となる母集団を測る指標
3 必要となる医療機能
例えば、脳卒中の場合に、急性期、回復期から維持期・生活期に至るまでの病期ごとの医療機能を明らかにするなど、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれについて明らかにすること。
4 各医療機能を担う医療機関等の名称
前記3の各医療機能を担う医療機関等については、後記第3の2に示すとおり、地域の医療提供者等が参加する作業部会等において検討し、検討結果を踏まえ、原則として、それらを担う医療機関等の名称を記載すること。なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うことも想定される。
また、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、別途当該医療機関等の名称を表示したホームページのURLを医療計画上に記載する等の方法をとることも差し支えない。
5 課題、数値目標及び施策の方向性
5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれの課題について、地域の実情に応じた数値目標を設定し、課題解決に向けた施策の方向性を記載すること。
数値目標の設定に当たっては、基本方針第十一に掲げる諸計画等に定められる目標を勘案すること。
第3 手順
1 情報の収集
都道府県は、医療体制を構築するに当たって、患者動向、医療資源及び医療連携等の医療体制に関する情報等を収集し、現状を把握する必要がある。
医療提供体制等に関する情報のうち、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)について、指標間相互の関連性を踏まえ、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握すること。
なお、重点指標及び参考指標については、厚生労働科学研究「地域の実情に応じた医療提供体制の構築を推進するための政策研究」2、厚生労働科学研究「糖尿病の実態把握と環境整備のための研究」3及び厚生労働科学研究「良質な精神保健医療福祉の提供体制構築を目指したモニタリング研究」4の令和4年度研究報告書を参考とすること。
また、既存の統計・調査等のみでは現状把握ができない場合、医療施設・関係団体等に対する調査や患者・住民に対するアンケート調査、ヒアリング等、積極的に新たな調査を行うことが重要である。
(既存の統計・調査等の例)
(1) 人口動態統計
(2) 国民生活基礎調査
(3) 患者調査
(4) 国民健康・栄養調査
(5) 衛生行政報告例
(6) 介護保険事業状況報告調査
(7) 病床機能報告
(8) レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)
(9) 診断群分類(DPC)データ
(10) 医療施設調査
(11) 病院報告
(12) 医師・歯科医師・薬剤師統計(旧:医師・歯科医師・薬剤師調査)
(13) 地域保健・健康増進事業報告
(14) 介護サービス施設・事業所調査
(15) 介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)
国においては、都道府県の課題解決に向けた評価及び改善の仕組みを効果的に機能させる取組を支援するため、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれの指標を提供することとしているが、各都道府県の取組等を踏まえ、各指標を用いた各都道府県の現状の把握、新たな指標の検討、医療計画の評価手順のあり方の検討等も随時行っていくこととしている。
都道府県においても、地域の実情に応じて、他の指標との関連性を踏まえた独自の指標を開発していくことが望ましい。独自に開発した指標が全国で参考になると考えられる場合は、厚生労働省に報告されたい。
2 作業部会及び圏域連携会議の設置
都道府県は、法第72条に規定する都道府県医療審議会又は法第30条の23第1項に規定する地域医療対策協議会の下に、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれに係る医療体制を構築するため、5疾病・6事業及び在宅医療のそれぞれについて協議する場(以下「作業部会」という。)を設置すること。また、必要に応じて圏域ごとに関係者が具体的な連携等について協議する場(以下「圏域連携会議」という。)を設置すること。
協議に際しては、数値目標の設定やそれを達成するための施策の実施により、地域格差が生じたり、患者・住民が不利益を被ったりすることのないよう配慮すること。
なお、作業部会と圏域連携会議は、緊密に連携しながら協議を進めることが重要である。
(1) 作業部会
① 構成
作業部会は、地域の実情に応じた医療体制を構築するため、例えば次に掲げる者を代表する者により構成すること。
ア 地域医師会等の医療関係団体
イ 医師、歯科医師、薬剤師、看護師など現に診療に従事する者
ウ 介護保険法(平成9年法律第123号)に規定するサービス事業者
エ 医療保険者
オ 医療・介護サービスを受ける患者・住民
カ 保健・医療・福祉サービスを担う都道府県・市町村
キ 学識経験者
ク その他、各疾病及び事業において重要な役割を担う者
② 内容
作業部会は、下記の事項について協議すること。
ア 地域の医療資源の把握と現行の医療計画の評価
「1 情報の収集」において把握した情報から、地域において各医療機能の要件を満たす医療機関を確認する。また、患者動向等も加味して、地域において不足している医療機能又は調整・整理が必要な医療機能を明確にすること。特に、5疾病については、まずは二次医療圏を基礎として医療資源を把握すること。
あわせて、現行の医療計画において設定された課題及びそれに対する施策に加え、施策の中で実施した事業について整理を行うこと。その際、課題解決につながっていない施策や事業については、見直しを含む改善を行うこと。
イ 圏域の設定
上記アに基づき、圏域を検討・設定すること。その際、5疾病・6事業及び在宅医療に特有の重要事項に基づき、従来の二次医療圏にこだわらず、地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。
ウ 課題の抽出
上記アにより把握した現状を分析し、求められる医療機能とその連携体制など、目指すべき方向を踏まえ、地域の医療提供体制の課題を抽出すること。その際、現状分析に用いたストラクチャー、プロセス、アウトカム指標の関連性を考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
以下に、課題の抽出に当たって想定される手順を示す。
(ア) まず、アウトカム指標を確認すること。例えば、アウトカム指標が全国平均と乖離している等の問題があればそれを課題とすること。
(イ) 次に、指標が示すデータから得られた課題について、データの留意点や限界を踏まえ、検討すること。さらに、当該地域を全国平均又は都道府県内平均と比較することにより、仮に対策を行った場合の影響(インパクト)を考慮した上で、課題として設定するとともに、その緊急度と重要度を検討すること。
(例:仮に全国平均値であった場合に、治療等の対応が可能であった患者数などを推計し、優先的に課題解決に向けた資源投入をするか否かを判断すること。)
エ 数値目標の設定
抽出した課題をもとに、事後に定量的な比較評価が行えるよう、地域の実情に応じた数値目標、目標達成に要する期間を定めること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画等に定められた目標等も勘案すること。なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
オ 施策
課題に対応した数値目標の達成のために行う具体的な施策を盛り込んだ計画を策定すること。
施策の検討に当たっては、ロジックモデル等のツールの活用を積極的に検討し、課題について原因分析を行い、検討された施策の結果(アウトプット)が課題に対してどれだけの影響(インパクト)をもたらしうるかという観点を踏まえること。
(2) 圏域連携会議
圏域連携会議は、各医療機能を担う関係者が、相互の信頼を醸成し、円滑な連携が推進されるよう実施するものである。
その際、保健所は、地域医師会等と連携して当会議を主催し、医療機関相互又は医療機関と介護サービス事業所との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
① 構成
各医療機能を担う全ての関係者
② 内容
以下のアからウについて、関係者全てが認識・情報を共有した上で、各医療機能を担う医療機関を決定すること。また、状況に応じて、地域連携クリティカルパス導入に関する検討を行うこと。
ア 医療連携の必要性について認識
イ 医療機関等に係る人員、施設設備及び診療機能に関する情報
ウ 当該疾病及び事業に関する最新の知識・診療技術に関する情報
3 患者・住民の意見の反映
都道府県は、患者・住民の作業部会への参加やタウンミーティングの開催、患者・住民へのヒアリングやアンケート調査、医療計画のパブリックコメントなどにより、患者・住民の意見を反映させた上で、医療計画の内容について分かりやすく公表し、周知すること。
4 医療計画への記載
都道府県は、前記第3の2に示すとおり、医療機能ごとに医療機関等に求められる事項、数値目標等について検討し、医療計画に記載すること。
また、前記第2の4に示すとおり、原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称も記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともあり得ること。
さらに、医療機関等の名称については、例えば圏域内に著しく多数の医療機関等が存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
5 変更が生じた場合の措置
医療計画の策定後に、医療機能を担う医療機関の変更が生じた場合は、可能な限り速やかに記載内容を変更する必要がある。
この場合、都道府県医療審議会の議をその都度経なくても済むよう、変更に伴う手続をあらかじめ定めておく必要がある。
第4 連携の推進等
計画の推進体制については、第3の2に定める作業部会等を設けるなど、関係者が互いに情報を共有することにより、信頼関係を醸成し、円滑な連携が推進されるような体制を構築することが望ましい。
第5 評価等
医療計画の実効性を上げるためには、具体的な数値目標の設定と評価を行い、その評価結果に基づき、計画の内容を見直すことが重要である。
都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策及び事業の進捗状況の評価については、1年ごとに行うこととし、課題に対する数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況については、3年ごとの中間評価も踏まえつつ、少なくとも6年ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
評価に当たっては、策定に関わった者以外の第三者による評価の仕組みを取り入れること等も有効である。さらに、施策及び事業の評価の際には、施策及び事業の結果(アウトプット)のみならず、地域住民の健康状態や患者の状態や地域の医療の質などの成果(アウトカム)にどのような影響(インパクト)を与えたかといった観点から、施策の検討時に用いたロジックモデル等のツールを再度活用することにより施策及び事業の評価を行い、必要に応じて計画の内容を改善することが重要である。
課題の評価に当たっては、次のような数値目標を設定した指標を活用することも重要である。また、最終的な成果(アウトカム)を達成するための過程を確認し、過程のどの段階に課題があるかといった観点からの評価も重要である。
(参考:評価指標の考え方1)
評価指標:最終的な成果(アウトカム)の達成に向け、施策や事業を進捗管理し、評価するために設定する指標。
良い評価指標は以下の頭文字を取り、SMARTな指標と言われている。
① 具体性、特異性(Specific)
具体的であるかどうか、施策や事業に特異的であるかどうか。
② 測定可能性(Measurable)
数値目標、達成期間、期待する達成度などが明示され、測定可能であるかどうか。
③ 達成可能性(Attainable)
達成可能であるかどうか。コスト、スケジュール、従事者の質と量、社会環境への適合性に問題はないか。関係者の反対はどうか。
④ 現実性(Realistic)
現実的かどうか。目標を達成するための手段は適切な因果関係となっているかどうか。
⑤ 期限明示(Time―bound)
実施時期、終期、期限などが明示されているか。
――――――――――
1 厚生労働科学研究「地域医療構想策定及び医療計画PDCAサイクルの推進に資する都道府県の人材育成等手法に関する研究」(研究代表者 熊川寿郎)(平成26年度)を参考に記載
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/23651
2 厚生労働科学研究「地域の実情に応じた医療提供体制の構築を推進するための政策研究」(研究代表者 今村知明)(令和4年度)
3 厚生労働科学研究「糖尿病の実態把握と環境整備のための研究」(研究代表者 山内敏正)(令和4年度)
4 厚生労働科学研究「良質な精神保健医療福祉の提供体制構築を目指したモニタリング研究」(研究代表者 西大輔)(令和4年度)
がんの医療体制構築に係る指針
がん検診等でがんの可能性が疑われた場合や症状を呈した場合、まず精密検査等が実施される。
そして、がんの確定診断等が行われた場合、更に詳細な検査により、がんの進行度の把握や治療方針の決定が行われる。
がんの治療は、がん診療連携拠点病院等(以下この指針において「拠点病院等」という。)やその他のがん診療に係る医療機関において、個々のがんの種類や進行度に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療等が実施される。
同時に、がんと診断された時から、身体的な苦痛及び精神心理的な苦痛等に対して、患者とその家族等への緩和ケアが必要である。
その後も再発予防のための術後補助化学療法や再発の早期発見のための定期的かつ専門的検査等、長期の管理が必要となる。
このように、がん患者に必要とされる医療は、患者の状態やがんの種類・病期等によって異なるため、それぞれの医療機関が相互に連携しながら、継続して実施されることが必要である。
また、がん対策について政府は、がん対策基本法(平成18年法律第98号)に基づき「がん対策推進基本計画」(令和5年3月閣議決定)を策定し、都道府県は、これを基本とし、各都道府県におけるがん医療の現状等を踏まえて、「都道府県がん対策推進計画」を策定し、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図っている。
本指針は、がん対策推進基本計画のうち医療計画に反映すべき事項等について、住民・患者の視点に立った計画を作成するという観点から、その考え方を示すものである。
具体的には、「第1 がんの現状」でがんの発症・転帰がどのようなものであるのか、どのような医療が行われているのかを概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析するとともに、各病期に求められる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれら医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 がんの現状
がんは、浸潤性に増殖し転移する悪性腫瘍であり、基本的にほぼ全ての臓器・組織で発生しうるものである。このため、がん医療は、その種類によって異なる部分があるが、本指針においてはがん医療全体に共通する事項を記載する。
1 がんの疫学
がんは、我が国において昭和56年(1981年)より死因の第1位であり、令和3年には年間約38万人以上の国民が亡くなっている1。
1年間に新たにがんに罹患する者は約99万人以上2であり、生涯のうちにがんに罹患する可能性はおよそ2人に1人と推計されている3。
さらに、今後、人口の高齢化とともにがんの罹患者数及び死亡者数は増加していくことが予想され、依然としてがんは国民の生命と健康にとって重要な課題である。一方で、がん患者・経験者の中にも長期生存し、社会で活躍している者も多い。
がんの年齢調整死亡率は近年減少傾向であるが、がんの種類によりその傾向に違いが見られる。また、全がんの5年相対生存率は67.5%である4が、原発巣による予後の差は大きく、乳がん、肺がん、膵がんの5年相対生存率はそれぞれ92.2%(女性のみ)、47.7%(非小細胞肺がん)、12.5%となっている5。
2 がんの予防、がんの早期発見
(1) がんの予防
がんの原因には、喫煙(受動喫煙を含む。)、食生活、運動等の生活習慣、ウイルスや細菌の感染など様々なものがある。
がんの予防には、これらの生活習慣の改善やがんと関連するウイルスの感染予防等が重要であり、バランスのとれた取組が求められる。
(2) がんの早期発見
がんの早期発見のために、胃がんでは胃部エックス線検査又は胃内視鏡検査、肺がんでは胸部エックス線検査及び喀痰細胞診、乳がんでは乳房エックス線検査、大腸がんでは便潜血検査、子宮頸がんでは細胞診等のがん検診が行われている。
これらのがん検診においてがんの可能性が疑われた場合、さらにCT・MRI検査等の精密検査が実施される。
3 がんの医療
(1) 診断
がん検診によりがんの可能性が疑われた場合や症状を呈した場合、確定診断のために精密検査が実施され、がんの種類やがんの進行度の把握、治療方針の決定等が行われる。
(2) がん治療
がんの治療については、がんの種類や病態に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療等が行われる。
また、学会等が様々ながんに対する診療ガイドラインを作成しており、各医療機関ではこれらの診療ガイドライン等に基づいてクリティカルパス(検査と治療等を含めた診療計画表をいう。)が作成されている。
(3) 緩和ケア
がんと診断された時から、身体的な苦痛及び精神心理的な苦痛等に対して、患者とその家族等への緩和ケアを、がんの治療と並行して実施するとともに、必要に応じて在宅においても適切に提供することが必要である。
がん疼痛の緩和については、医療用麻薬等の投与や、専門的疼痛治療としての神経ブロック等が行われる。また、疼痛以外の悪心や食欲不振、呼吸困難感といった身体的諸症状に対する治療やケアも行われる。
あわせて、患者とその家族等には、しばしば不安や抑うつ等の精神心理的な問題が生じることから、心のケアを含めた精神医学的な対応が行われる。
(4) リハビリテーション、定期的なフォローアップ、在宅療養
がんの治療後は、治療の影響や病状の進行により、患者の嚥下や呼吸運動などの日常生活動作に障害を来すことがあるため、リハビリテーションが行われる。また、再発したがんの早期発見などを目的として、定期的なフォローアップ等が行われる。さらに、在宅療養を希望する患者に対しては、患者やその家族等の意向に沿った継続的な医療が提供されるとともに、居宅等での生活に必要な介護サービスが提供される。さらに、人生の最終段階には、看取りまで含めた医療や介護サービスが行われる。
(5) 小児・AYA世代(思春期世代と若年成人世代)のがん
小児及びAYA世代のがんは、多種多様ながん種を含み、特徴あるライフステージで発症することから、成人のがんとは異なる対策が求められている。小児がん患者とその家族等が適切な医療や支援を受けられるように、小児がん拠点病院及び小児がん連携病院を中心とした地域のネットワークによる診療体制が構築されている。
(6) がんゲノム医療
ゲノム医療を必要とするがん患者が、全国どこにいても、がんゲノム医療を受けられる体制を国とともに段階的に構築し、患者・家族等の理解を促し、心情面でのサポートや治療法選択の意思決定支援を可能とする体制の整備が求められている。また、がんゲノム医療の推進とともに、がんゲノム情報の取扱いやがんゲノム医療に関する国民の理解を促進するため、教育や普及啓発に努めるとともに、安心してがんゲノム医療に参加できる環境の整備が求められている。がんゲノム医療提供体制として令和5年3月1日時点で、がんゲノム医療中核拠点病院が12施設、がんゲノム医療拠点病院が33施設、がんゲノム医療連携病院が198施設整備されている。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 がんの現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれらの医療機関相互の連携により、保健、医療及び介護サービスが連携・継続して実施される体制を構築すること。
(1) 手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療等が実施可能な体制
① 進行・再発といった様々ながんの病態に応じ、手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療の実施
② 患者とその家族等の意向に応じて、専門的な知識を有する第三者の立場にある医師に意見を求めることができるセカンドオピニオンを受けられる体制
③ 医療従事者間の連携と補完を重視した多職種でのチーム医療を受けられる体制
(2) がんと診断された時から緩和ケアを実施する体制
① がんと診断された時から患者とその家族等に対する全人的な緩和ケアの実施
② 外来、入院、在宅など様々な場面における切れ目のない緩和ケアの実施
(3) 地域連携・支援を通じたがん診療水準の向上
① 拠点病院等による各種研修会、カンファレンスなどを通じた地域連携・支援の実施
② がん診療機能や在宅療養支援機能を有する医療機関が相互に連携を強化し、急変時の対応等に関して在宅療養中の患者に対する支援の実施
(4) 新興感染症の発生・まん延時における体制
① 新興感染症の発生・まん延時の状況に応じた適切ながん検診の提供体制
② 必要ながん医療を提供するための診療機能の役割分担や各施設が協力した人材育成や応援体制の構築等、地域の実情に応じた連携体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、がんの医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(3)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) がんを予防する機能【予防・早期発見】
① 目標
・ 喫煙やがんと関連するウイルスの感染予防などがんのリスクを低減させること
・ 科学的根拠に基づくがん検診を実施し、がん検診の精度管理を実施することにより、がん検診受診率を向上させること
② 関係者に求められる事項
(医療機関)
・ がん検診の結果、要精密検査とされた者(以下「要精検者」という。)等に対して、がんに係る精密検査を実施すること
・ 精密検査の結果をフィードバックする等、がん検診の精度管理に協力すること
・ 都道府県や市町村(特別区を含む。以下同じ。)等が実施するたばこ対策に積極的に協力すること
(行政)
・ 市町村は科学的根拠に基づくがん検診を実施すること
・ がん登録の情報の利用等を通じてがんの現状把握に努めること
・ 要精検者が確実に医療機関を受診するように連携体制を構築すること
・ 都道府県は、生活習慣病検診等管理指導協議会の一層の活用を図る等により、検診の実施方法の改善や精度管理の向上等に向けた取組を検討すること
・ 都道府県は、市町村に対して、指針の内容を遵守し、科学的根拠に基づくがん検診を実施するよう、必要な助言・指導等を実施すること
・ 禁煙希望者に対する禁煙支援や受動喫煙の防止等のたばこ対策に取り組むこと
・ 感染に起因するがん対策を推進すること
(2) がん診療機能【治療】
① 目標
・ 精密検査や確定診断等を実施すること
・ 診療ガイドラインに準じた診療を実施すること
・ 患者の状態やがんの病態に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療等を実施すること
・ がんと診断された時から患者とその家族等に対して全人的な緩和ケアを実施すること
・ 治療の合併症予防や、その症状の軽減を図ること
・ 治療後のフォローアップを行うこと
・ 各職種の専門性を活かし、医療従事者間の連携と相互補完を重視した多職種でのチーム医療を実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 血液検査、画像検査(エックス線検査、CT、MRI、核医学検査、超音波検査、内視鏡)及び病理検査等の、診断・治療に必要な検査が実施可能であること
・ 画像診断や病理診断等が実施可能であること
・ 患者の状態やがんの病態に応じて、手術療法、放射線療法、薬物療法や、これらを組み合わせた集学的治療等が実施可能であること
・ がんと診断された時から患者とその家族等に対して全人的な緩和ケアを実施すること
さらに、拠点病院等としては以下の対応が求められる。なお、詳細については、「がん診療連携拠点病院等の整備について」(令和4年8月1日付け健発0801第16号厚生労働省健康局長通知)を参照すること。
・ 患者の病態に応じて、より適切ながん医療を提供できるよう、多職種によるカンファレンスを設置し、月1回以上、開催すること
・ がんゲノム医療等の高度かつ専門的な医療等については、地域における役割分担等を踏まえつつ、必要に応じて他の医療機関と連携し実施すること
・ 患者とその家族等の意向に応じて、専門的な知識を有する第三者の立場にある医師の意見を求めるためのセカンドオピニオンを提示する体制を整備し、患者やその家族等に分かりやすく公表すること
・ 相談支援の体制を確保し、情報の収集・発信、患者・家族等の交流の支援等を実施していること。その際、小児・AYA世代のがん、希少がん、難治性がん等に関する情報についても提供できるよう留意すること
・ 就職支援や、仕事と治療の両立に向けた就労継続支援を行えるよう、事業者・産業医等との連携を含めた体制を確保し、相談支援や情報の発信等を行うこと
・ がんと診断された時から患者とその家族等に対して全人的な緩和ケアを実施するために必要な緩和ケアチームや外来での緩和ケア提供体制等を整備すること
・ がんの治療の合併症予防や、その病状の軽減を図るため、治療中の口腔管理を実施する病院内の歯科や歯科医療機関との連携を図ること
・ 地域連携支援の体制を確保するため、病院間の役割分担を進めるとともに、研修、カンファレンス、診療支援等を活用し、急変時の対応や緩和ケア等について、他のがん診療機能や在宅療養支援機能を有している医療機関等と連携すること
・ 院内がん登録を実施すること
③ 医療機関の例
・ 拠点病院等
・ 病院又は診療所
(3) 在宅療養支援機能【療養支援】
① 目標
・ 患者やその家族等の意向を踏まえ、在宅等の生活の場での療養を選択できるようにすること
・ 在宅緩和ケアを実施すること
② 医療機関等に求められる事項
・ 24時間対応が可能な在宅医療を提供していること
・ がん疼痛等に対する緩和ケアが実施可能であること
・ 看取りを含めた人生の最終段階におけるケアを24時間体制で提供すること
・ がん診療機能を有する医療機関等と、診療情報や治療計画を共有するなどして連携が可能であること(地域連携クリティカルパスを含む。)
・ 医療用麻薬を提供できること
③ 医療機関等の例
・ 病院又は診療所
・ 薬局(専門医療機関連携薬局を含む。)
・ 訪問看護事業所
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、がんの医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。さらに、(3)に示す、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ がん検診受診率(国民生活基礎調査など)
・ 喫煙率(国民生活基礎調査)
・ 罹患者数及びその内訳(性・年齢階級別、部位別)(全国がん登録)
・ がん患者の在宅死亡割合(人口動態統計)
・ 年齢調整死亡率(都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
・ 都道府県の地域がん登録に基づく情報
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① がん診療機能
・ 手術、放射線療法や外来化学療法の実施状況
・ がん診療を専門的に行う医療従事者数
・ 緩和ケアの実施状況
緩和ケアに関する基本的な知識を習得した医師
緩和ケアチームや緩和ケア外来の設置状況 等
・ 診療ガイドライン等に基づき作成されたクリティカルパスの整備状況
・ 周術期口腔機能管理の取組状況
・ 院内がん登録の実施状況
・ がん診療に関する情報提供の状況
パンフレットの配布、ホームページでの情報提供 等
・ 相談支援センターの整備状況
相談員の研修状況 等
・ 小児がん拠点病院・小児がん連携病院の連携状況
・ がんゲノム医療中核拠点病院等と都道府県内のがん診療を行う病院との連携状況
② 在宅療養支援機能
・ 在宅療養における24時間対応の有無
・ 疼痛等に対する緩和ケアの実施状況(医療機関、薬局)
・ がん診療機能を有する病院等との連携状況
③ がんの予防・早期発見
(医療機関等)
・ 禁煙外来の実施状況
・ 敷地内禁煙の実施状況
・ 薬局の禁煙指導状況
(行政)
・ がん検診の受診状況
・ 市町村におけるがん検診の精度管理の状況
(3) 指標による現状把握
別表1に掲げるような指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、がんの医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、予防、治療、療養支援等に関する医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たっては、各医療機能の実施状況を勘案し、従来の二次医療圏にこだわらず、地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現にがん診療に従事する者、がん患者・家族等、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、がんの医療体制を構築するに当たって、予防から専門的治療、緩和ケア、再発予防や在宅療養まで継続して医療が行われるよう、また、関係機関・施設の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
さらに、医療機関、地域医師会等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(平成6年厚生省告示第374号)の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」(平成19年7月20日付け健総発第0720001号厚生労働省健康局総務課長通知)を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域のがんの医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、がんの良質かつ適切な医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表する。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
2 国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所「全国がん罹患モニタリング集計2019年罹患数・率報告」
3 国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所による推計値(2019年)
4 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所「院内がん登録5年生存率集計結果(2013―2014診断例)」(令和3年12月公表)
5 国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策研究所「院内がん登録5年生存率集計結果(2013―2014診断例)」(令和3年12月公表)
脳卒中の医療体制構築に係る指針
脳卒中を発症した場合、まず急性期医療において内科的・外科的治療が行われ、同時に機能回復のためのリハビリテーションが開始される。リハビリテーションを行ってもなお障害が残る場合、中長期の医療及び介護支援が必要となる。
このように一人の脳卒中患者に必要とされる医療・介護はその病期・転帰によって異なる。さらに、重篤な患者の一部には、急性期を乗り越えたものの、重度の後遺症等によって退院や転院が困難となる状況があることが指摘されており、それぞれの機関が相互に連携しながら、継続してその時々に必要な医療・介護・福祉を提供することが必要である。
平成30年12月に成立した、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法(平成30年法律第105号)に基づき、令和2年1月に設置された循環器病対策推進協議会では、脳卒中及び心血管疾患の医療に係るサービスの提供を含めた対策についての議論が行われ、同年10月に第1期循環器病対策推進基本計画が策定された。第1期循環器病対策推進基本計画の実行期間は3年を目安としていたため、令和5年3月には第2期循環器対策推進基本計画が策定され、関係する諸計画との調和の観点から、その実行期間は6年を目安とされた。都道府県は、この基本計画を基本とし、各都道府県における循環器病医療の現状等を踏まえて、「都道府県循環器病対策推進計画」を策定し、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図っている。
本指針は、循環器病対策推進基本計画のうち医療計画に反映すべき事項等について、住民・患者の視点に立った計画を作成するという観点から、その考え方を示すものである。
具体的には、「第1 脳卒中の現状」で脳卒中の発症・転帰がどのようなものであるのか、どのような医療が行われているのかを概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析するとともに、また各病期に求められる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれら医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 脳卒中の現状
脳卒中は、脳血管の閉塞や破綻によって脳機能に障害が起きる疾患であり、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に大別される。
脳梗塞は、さらに、アテローム硬化(動脈硬化)により血管の内腔が狭くなりそこに血栓ができて脳血管が閉塞するアテローム血栓性脳梗塞、脳の細い血管が主に高血圧を基盤とする変化により閉塞するラクナ梗塞、心臓等に生じた血栓が脳血管まで流れ血管を閉塞する心原性塞栓症の3種類に分けられる。
また、脳出血は脳の細い血管が破綻するものであり、くも膜下出血は脳動脈瘤が破綻し出血するものである。
脳卒中発症直後の医療(急性期の医療)は、脳梗塞、脳出血及びくも膜下出血によって異なるが、急性期を脱した後の医療は共通するものが多いことから、本指針においては一括して記載することとする。
1 脳卒中の疫学
1年間に救急車によって搬送される急病患者の約7.5%、約27.0万人が脳卒中(脳血管疾患)を含む脳疾患である1。さらに、年間約10.5万人が脳卒中を原因として死亡し、死亡数全体の7.3%を占め、死亡順位の第4位である2。
脳卒中は、死亡を免れても後遺症として片麻痺、嚥下障害、言語障害、高次脳機能障害、遷延性意識障害などの後遺症が残ることがある。
介護が必要になった者の16.1%は脳卒中が主な原因であり第1位である3。
これらの統計から、脳卒中は、発症後命が助かったとしても後遺症が残ることも多く、患者及びその家族の日常生活に与える影響は大きい。
2 脳卒中の医療
(1) 予防
脳卒中の最大の危険因子は高血圧であり、発症の予防には高血圧のコントロールが重要である。その他、糖尿病、脂質異常症、不整脈(特に心房細動)、喫煙、過度の飲酒なども危険因子であり、生活習慣の改善や適切な治療が重要である。
また、脳卒中の無症候性病変、危険因子となる画像異常等の発見にはMRI、MRアンギオグラフィ(以下「MRA」という。)、頸動脈超音波検査が行われている。
一過性脳虚血発作(TIA)直後は脳梗塞発症リスクが高く、これを疑えば、脳梗塞予防のための適切な治療を速やかに開始する。
同時に、住民に脳卒中の症状や発症時の緊急受診の必要性を周知させるように、啓発を進める必要がある。
(2) 発症直後の救護、搬送等
脳卒中を疑うような症状が出現した場合、本人や家族等周囲にいる者は、速やかに専門の医療施設を受診できるよう行動することが重要である。できるだけ早く治療を始めることでより高い効果が見込まれ、さらに後遺症も少なくなることから、診断や治療の開始を遅らせることにならないよう、速やかに救急隊を要請する等の対処を行うことが重要である。
救急救命士を含む救急隊員は、メディカルコントロール体制※の下で定められた、病院前における脳卒中患者の救護のためのプロトコール(活動基準)に則して、適切に観察・判断・救急救命処置等を行った上で、対応が可能な医療機関に搬送することが重要である。このため、病院到着前に脳卒中の重症度を点数化し、組織プラスミノゲン・アクチベータ(t―PA)の静脈内投与による血栓溶解療法の適応や血管内治療(機械的血栓回収療法、経動脈的血栓溶解療法等)など、超急性期の再開通治療の適応※※となる傷病者を抽出することなどを目的とした病院前脳卒中スケールを活用することが望ましい。
※ メディカルコントロール体制については、「救急医療の体制構築に係る指針」参照。
※※ 超急性期の再開通治療(t―PAなど)の適応:t―PA静注療法は、発症4.5時間以内の脳梗塞患者のうち、広範な早期脳虚血性変化や頭蓋内出血などの禁忌項目に該当しない患者が対象となる。また、脳梗塞を発症した時刻が不明であっても、MRIの画像所見に基づき、t―PA静注療法の適応となることがある。機械的血栓回収療法は、症状の重症度と画像所見に基づいた治療適応判定を行うことで、発症24時間以内の脳梗塞が対象となる。経動脈的血栓溶解療法は発症6時間以内の脳梗塞の一部が対象となる。
(3) 診断
問診や身体所見の診察等に加えて、画像検査(CT、MRI、MRA、超音波検査等)を行うことで正確な診断が可能になる。最近ではCTの画像解像度の向上、MRIの普及もあり、脳梗塞超急性期の診断が可能となり、超急性期の再開通治療の適応や転帰がある程度予測が可能になった。特に、機械的血栓回収療法の治療適応を検討する際には、CT又はMRIを用いた脳血流の灌流画像が有用である。
また、救急患者のCT、MRI画像を専門的な診断が可能な施設へネットワーク経由で伝送すること等により、専門的な医師がいない医療機関で早期診断を行うことも考えられる。
(4) 急性期の治療
脳卒中の急性期には、呼吸管理、循環管理等の全身管理とともに、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血等の個々の病態に応じた治療が行われる。
① 脳梗塞では、まず発症後4.5時間以内の超急性期血栓溶解療法(t―PA静注療法)の適応患者に対する適切な処置が取られる必要がある。また、脳梗塞を発症した時刻が不明であっても、MRIの画像所見に基づき、t―PA静注療法の適応となることがあるため、発症時刻が明確ではない脳梗塞患者に対しても適切な処置を行う必要がある。t―PA静注療法は、治療開始までの時間が短いほどその有効性は高いことから、来院後に少しでも早く治療を開始する(遅くとも来院後1時間以内に治療を開始することが望ましい。)。なお、国内の一部の地域においては、t―PA静注療法を行う際、日本脳卒中学会が定める「脳卒中診療における遠隔医療(Telestroke)ガイドライン」に沿って、情報通信機器を用いて他の医療機関と連携し、診療を行うことが可能である。また、脳梗塞に対する機械的血栓回収療法については、症状の重症度と画像所見に基づき、発症後24時間以内の脳梗塞に対して適応となる可能性がある。機械的血栓回収療法についても、治療開始までの時間が短いほどその有効性は高いため、機械的血栓回収療法の適応と考えられる脳梗塞患者については、速やかに治療を開始する必要がある。また、機械的血栓回収療法が実施できない施設においては、同療法を実施可能な医療機関への速やかな転院搬送を検討する必要がある。
また、超急性期の再開通治療の適応とならない患者も、できる限り早期に、脳梗塞の原因に応じた、抗凝固療法や抗血小板療法、脳保護療法などを行うことが重要である。
② 脳出血の治療は、血圧や脳浮腫の管理、凝固能異常時の是正が主体であり、出血部位(皮質・皮質下出血や小脳出血等)によって手術が行われることもある。
③ くも膜下出血の治療は、動脈瘤の再破裂の予防が重要であり、再破裂の防止を目的に開頭手術による外科的治療又は開頭を要しない血管内治療を行われることもある。
また、脳卒中の治療に際しては、専門チームによる診療や脳卒中の専用病室※等での入院管理により予後を改善できることが明らかになってきている。
※ 専門医療スタッフが急性期からの濃厚な治療とリハビリテーションを組織的かつ計画的に行う脳卒中専用の治療病室。例えば、診療報酬上で脳卒中の入院医療管理料が算定できる治療室である脳卒中ケアユニット等。
(5) リハビリテーション
脳卒中のリハビリテーションは、病期によって分けられるが、急性期から維持期・生活期まで一貫した流れで行われることが勧められる。
① 急性期に行うリハビリテーションは、廃用症候群や合併症の予防及びセルフケアの早期自立を目的として、可能であれば発症当日からベッドサイドで開始することが望ましい。
② 回復期に行うリハビリテーションは、機能回復や日常生活動作(ADL)の向上を目的として、訓練室での訓練が可能になった時期から集中して実施することが望ましい。
③ 維持期・生活期に行うリハビリテーションは、回復した機能や残存した機能を活用し、歩行能力等の生活機能の維持・向上を目的として実施することが望ましい。
(6) 急性期以後の医療・在宅療養
急性期を脱した後は、再発予防のための治療、基礎疾患や危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常症、不整脈(特に心房細動)、喫煙、過度の飲酒等)の継続的な管理、脳卒中に合併する種々の症状や病態に対する加療が行われる。
在宅療養では、上記治療に加えて、機能を維持するためのリハビリテーションを実施し、在宅生活に必要な介護サービスを受ける。脳卒中は再発することも多く、患者や患者の周囲にいる者に対し、適切な服薬や危険因子の管理の継続の必要性及び脳卒中の再発が疑われる場合の適切な対応について教育する等、再発に備えることが重要である。
なお、重篤な神経機能障害・精神機能障害等を生じた患者の一部では、急性期を脱しても重度の後遺症等により退院や転院が困難となっている状況が見受けられる。これらの患者は、急性期の医療機関において救命医療を受けたものの、重度の後遺症等のため、回復期の医療機関等への転院や退院が行えず、当該医療機関にとどまっていることが指摘されている。
この問題の改善には、急性期以後の医療機関における診療及び在宅医療を強化するとともに、これらの医療機関、介護・福祉施設等と、急性期の医療機関との連携を強化するなど、総合的かつ切れ目のない対応が必要である。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 脳卒中の現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれら医療機関相互の連携により、医療から介護サービスまでが連携し継続して実施される体制を構築すること。また、都道府県は、医療機関の協力を得て、脳卒中に関する市民への啓発を積極的に行うことが重要である。
(1) 発症後、速やかな搬送と専門的な診療が可能な体制
① 発症後、専門的な診療が可能な医療機関への迅速な救急搬送
② 医療機関到着後1時間以内の専門的な治療の開始
③ 専門的な治療を実施できない施設から、治療可能な施設への速やかな転院搬送
④ 脳卒中診療の地域格差を解消し、均てん化を進めるための、デジタル技術を活用した診療の拡充
(2) 病期に応じたリハビリテーションが一貫して実施可能な体制
① 廃用症候群や合併症の予防、セルフケアの早期自立のためのリハビリテーションの実施
② 機能回復及び日常生活動作向上のために専門的かつ集中的なリハビリテーションの実施
③ 生活機能を維持又は向上させるリハビリテーションの実施
(3) 急性期以後の医療機関における診療及び在宅医療の強化
① 急性期以後の医療機関においても、重度の後遺障害等を生じた患者の受入れが可能となるような、医療提供体制の強化
② 生活の場で療養できるよう、医療及び介護サービスが相互に連携した支援
(4) 新興感染症の発生・まん延時における体制
① 感染症発生・まん延時や災害時等の有事においても、循環器病患者を救急現場から急性期医療を提供できる医療機関に、迅速かつ適切に搬送可能な体制
② 感染症発生・まん延時や災害時等の有事においても、地域の医療資源を有効に活用するための体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、脳卒中の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(6)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 発症予防の機能【予防】
① 目標
・ 脳卒中の発症を予防すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、過度の飲酒等の基礎疾患及び危険因子の管理が可能であること
・ 突然の症状出現時における対応について、本人及び家族等患者の周囲にいる者に対する教育、啓発を実施すること
・ 突然の症状出現時に、急性期医療を担う医療機関への受診勧奨について指示すること
(2) 応急手当・病院前救護の機能【救護】
① 目標
・ 脳卒中の疑われる患者が、発症後迅速に専門的な診療が可能な医療機関に到着できること。また超急性期血栓溶解療法の適応時間を超える場合でも、脳梗塞の場合は機械的血栓回収療法や経動脈的血栓溶解術等の血管内治療、脳出血の場合は血腫除去術、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の場合は脳動脈瘤クリッピングやコイリング等の効果的な治療が行える可能性があるため、できるだけ早く、専門的な治療が可能な医療機関へ搬送することが望ましい。
② 関係者に求められる事項
(本人及び家族等周囲にいる者)
・ 発症後速やかに救急搬送の要請を行うこと
(救急救命士を含む救急隊員)
・ 地域メディカルコントロール協議会の定めた活動プロトコールに沿って、脳卒中患者に対する適切な観察・判断・処置を行うこと
・ 脳卒中が疑われる患者に対する病院前救護のスクリーニングに基づき、搬送先選定が可能な救護体制を構築すること
・ 急性期医療を担う医療機関へ迅速に搬送すること
(3) 救急医療の機能【急性期】
① 目標
・ t―PA静注療法の適応となる脳梗塞患者については、少しでも早く治療を開始すること
・ 脳梗塞患者については機械的血栓回収療法の実施についても検討し、治療の適応となる患者に対して、速やかに治療を開始すること
・ 専門的な治療を実施できない医療機関においては、画像伝送等の遠隔医療を利用して治療が実施可能な医療機関と連携をとり、転院搬送など適切な対応を検討すること
・ 誤嚥性肺炎等の合併症の予防及び治療を行うこと
・ 廃用症候群を予防し、早期にセルフケアについて自立できるためのリハビリテーションを実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに則した診療を実施していることが求められる。特に、急性期の診断及び治療については、24時間体制での実施が求められるが、単一の医療機関で24時間体制を確保することが困難な場合には、地域における複数の医療機関が連携して、24時間体制を確保する必要がある。
・ 血液検査や画像検査(エックス線検査、CT、MRI、超音波検査)等の必要な検査が実施可能であること
・ 脳卒中が疑われる患者に対して、専門的診療が実施可能であること(画像伝送等の遠隔診断に基づく治療を含む。)
・ 脳卒中評価スケールなどを用いた客観的な神経学的評価が実施可能であること(遠隔診療を用いた補助を含む。)
・ t―PA静注療法の適応がある脳梗塞患者に対し、来院後に少しでも早く治療を開始すること(遅くとも来院後1時間以内に治療を開始することが望ましい。)
・ 症状の重症度と画像所見に基づき、脳梗塞患者に対する機械的血栓回収療法の適応を検討し、適応がある患者に対しては速やかに治療を開始すること
・ t―PA静注療法や機械的血栓回収療法、外科手術等の治療を実施できない医療機関においては、日本脳卒中学会が提言している「脳卒中診療における遠隔医療(Telestroke)」など、デジタル技術を活用した診療を行うことで、治療が実施可能な医療機関と連携をとり、転院搬送など適切な対応を検討すること
・ 呼吸、循環、栄養等の全身管理及び感染症や深部静脈血栓症等の合併症に対する診療が可能であること
・ 合併症の中でも、特に誤嚥性肺炎の予防のために、口腔管理を実施する病院内の歯科や歯科医療機関等を含め、多職種間で連携して対策を図ること
・ リスク管理の下に早期座位・立位、関節可動域訓練、摂食・嚥下訓練、装具を用いた早期歩行訓練、セルフケア訓練等のリハビリテーションが実施可能であること
・ 個々の患者の神経症状等の程度に基づき、回復期リハビリテーションの適応を検討できること
・ 回復期(又は維持期・生活期)の医療機関等と診療情報やリハビリテーションを含む治療計画を共有するなどして連携していること
・ 回復期(又は維持期・生活期)に、重度の後遺症等により自宅への退院が容易でない患者を受け入れる医療施設や介護施設等と連携し、その調整を行うこと
・ 脳卒中疑いで救急搬送された患者について、その最終判断を救急隊に情報提供することが望ましい
③ 医療機関の例
・ 救命救急センターを有する病院
・ 脳卒中の専用病室を有する病院
・ 急性期の血管内治療が実施可能な病院
・ 脳卒中に対する急性期の専門的医療を担う病院又は有床診療所
(4) 身体機能を回復させるリハビリテーションを実施する機能【回復期】
① 目標
・ 身体機能の早期改善のための集中的なリハビリテーションを実施すること
・ 回復期の医療機関における医療提供体制を強化すること
・ 再発予防の治療や基礎疾患・危険因子の管理を実施すること
・ 誤嚥性肺炎等の合併症の予防を図ること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに則した診療を実施していることが求められる。
・ 再発予防の治療(抗血小板療法、抗凝固療法等)、基礎疾患・危険因子の管理及び抑うつ状態や認知症などの脳卒中後の様々な合併症への対応が可能であること
・ 重篤な神経機能障害・精神機能障害等を生じた患者であっても、急性期病院からの受入れが可能となるよう、回復期の医療提供体制を強化すること
・ 失語、高次脳機能障害(記憶障害、注意障害等)、嚥下障害、歩行障害などの機能障害の改善及びADLの向上を目的とした、理学療法、作業療法、言語聴覚療法等のリハビリテーションが専門医療スタッフにより集中的に実施可能であること
・ 合併症の中でも、特に誤嚥性肺炎の予防のために、口腔管理を実施する病院内の歯科や歯科医療機関等を含め、多職種間で連携して対策を図ること
・ 急性期の医療機関及び維持期・生活期の医療機関等と診療情報やリハビリテーションを含む治療計画を共有するなどして連携していること
・ 再発が疑われる場合には、急性期の医療機関と連携すること等により、患者の病態を適切に評価すること
③ 医療機関の例
・ リハビリテーションを専門とする病院又は診療所
・ 回復期リハビリテーション病棟を有する病院
(5) 日常生活への復帰及び日常生活維持のためのリハビリテーションを実施する機能
【維持期・生活期】
① 目標
・ 生活機能の維持・向上のためのリハビリテーションを実施し、在宅等への復帰及び就労支援並びに日常生活の継続を支援すること
・ 再発予防の治療や基礎疾患・危険因子の管理を実施すること
・ 誤嚥性肺炎等の合併症の予防を図ること
② 医療機関等に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 再発予防の治療、基礎疾患・危険因子の管理、抑うつ状態への対応等が可能であること
・ 生活機能の維持及び向上のためのリハビリテーション(訪問及び通所リハビリテーションを含む。)が実施可能であること
・ 合併症の中でも、特に誤嚥性肺炎の予防のために、口腔管理を実施する病院内の歯科や歯科医療機関等を含め、多職種間で連携して対策を図ること
・ 介護支援専門員が、自立生活又は在宅療養を支援するための居宅介護サービスを調整すること
・ 担当の両立支援コーディネーターを配置し、産業医などの治療と仕事の両立支援に係る人材と連携し、脳卒中患者の就労支援を推進させ、生活の質の向上を目指すこと
・ 回復期又は急性期の医療機関等と診療情報やリハビリテーションを含む治療計画を共有するなどして連携していること
・ 合併症発症時や脳卒中の再発時に、患者の状態に応じた適切な医療を提供できる医療機関と連携していること
③ 医療機関等の例
・ 介護老人保健施設
・ 介護保険によるリハビリテーションを行う病院又は診療所
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、脳卒中の医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ 年齢調整受療率(患者調査)
・ 特定健康診査・特定保健指導の実施率(特定健診・特定保健指導の実施状況)
・ 高血圧性疾患患者の年齢調整外来受療率(患者調査)
・ 脂質異常症患者の年齢調整外来受療率(患者調査)
・ 総患者数及びその内訳(性・年齢階級別、傷病小分類別)、患者流入割合、流出割合(患者調査)
・ 脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の各疾患別の新規発生患者数(初発/再発)
・ 退院患者平均在院日数(患者調査)
・ 患者の退院時mRSスコア、発症1年後におけるADLの状況
・ 在宅等生活の場に復帰した患者の割合(患者調査)
・ 脳卒中を主な原因とする要介護認定者数(要介護度別)
・ 年齢調整死亡率(都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
・ 脳血管疾患患者の在宅死亡割合(人口動態統計)
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① 救急搬送
・ 救急搬送件数(救急年報報告)
・ 搬送先医療機関
・ 脳卒中疑い患者に対して主幹動脈閉塞を予測する6項目(脈不整、共同偏視、半側空間無視(指4本法)、失語(眼鏡/時計の呼称)、顔面麻痺、上肢麻痺)の観察指標を利用している消防本部数
・ 発症から受診までに要した平均時間
・ 救急要請(覚知)から医療機関への収容までに要した平均時間(救急年報報告)
② 医療機関等
ア 救命救急センター、脳卒中の専用病室を有する医療機関
・ 検査、画像診断、治療体制(人員・施設設備、夜間休日の体制)
・ 実施可能な治療法(t―PA静注療法や機械的血栓回収療法、外科治療を含む。)、リハビリテーション
・ 連携の状況(他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況、医療連携室の稼働状況、転院前の待機日数等)
イ リハビリテーションを専門とする病院、回復期リハビリテーション病棟を有する病院
・ 検査、治療体制(人員・施設設備)
・ 実施可能な脳卒中の治療法、リハビリテーション
・ 連携の状況(他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況、医療連携室の稼働状況、入院中のケアプラン策定状況等)
ウ 介護老人保健施設、介護保険によるリハビリテーションを行う病院・診療所
・ 連携の状況(他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況)
・ 介護サービスの実施状況、介護サービス事業所との連携の状況
(3) 指標による現状把握
別表2に掲げるような、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、脳卒中の医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、各病期に求められる医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たっては、脳梗塞に対する超急性期の再開通治療の有用性が確認されている現状に鑑みて、それらの恩恵を住民ができる限り公平に享受できるよう、従来の二次医療圏にこだわらず、メディカルコントロール体制のもと実施されている搬送体制の状況等、地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に脳卒中医療に従事する者、消防機関、介護サービス事業者、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、脳卒中の医療体制を構築するに当たって、予防から救護、急性期、回復期、維持期まで継続して医療が行われるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
また、医療機関、地域医師会等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互又は医療機関と介護サービス事業所との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の脳卒中の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、脳卒中の良質かつ適切な医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
さらに、医療の質について客観的な評価を行うために、症例登録等を行うことが今後必要である。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 総務省消防庁「令和4年版 救急・救助の現況」(令和4年)
2 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
3 厚生労働省「国民生活基礎調査」(令和元年)
心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制構築に係る指針
心筋梗塞等の心血管疾患を発症した場合、まず急性期には内科的・外科的治療が行われ、同時に再発予防や在宅復帰を目指して、患者教育、運動療法、心血管疾患の危険因子の管理等を含む、疾病管理プログラム※としての心血管疾患リハビリテーションが開始される。その際、自覚症状が出現してから治療が開始されるまでの時間や、疾患によって治療法や予後が大きく変わる。
また、在宅復帰後は、基礎疾患や危険因子の管理に加えて、心血管疾患患者の急性期の生命予後改善等に伴い、増加している慢性心不全の管理など、継続した治療や長期の医療が必要となる。
心筋梗塞等の心血管疾患の医療提供体制を構築するに当たっては、それぞれの医療機関が相互に連携しながら、多方面から継続して、疾患に応じた医療を提供することが必要である。
平成30年12月に成立した、健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法に基づき、令和2年1月に設置された循環器病対策推進協議会では、脳卒中及び心血管疾患の医療に係るサービスの提供を含めた対策についての議論が行われ、令和2年10月に第1期循環器病対策推進基本計画が策定された。第1期循環器病対策推進基本計画の実行期間は3年を目安としていたため、令和5年3月には第2期循環器対策推進基本計画が策定され、関係する諸計画との調和の観点から、その実行期間は6年を目安とされた。都道府県は、この基本計画を基本とし、各都道府県における循環器病医療の現状等を踏まえて、「都道府県循環器病対策推進計画」を策定し、循環器病対策の総合的かつ計画的な推進を図っている。
本指針は、循環器病対策推進基本計画のうち医療計画に反映すべき事項等について、住民・患者の視点に立った計画を作成するという観点から、その考え方を示すものである。
具体的には、「第1 心筋梗塞等の心血管疾患の現状」で、心血管疾患の代表的な疾患である急性心筋梗塞、大動脈解離、慢性心不全の発症・転帰がどのようなものであるのか、どのような医療が行われているのかを概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また各疾患や各病期に求められる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれら医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
※ 疾患管理プログラムとは、多職種チームが退院前から退院後にわたり医学的評価・患者教育・生活指導を包括的かつ計画的に実施して再入院抑制を含む予後改善を目指す中~長期プログラムをいう1。
第1 心筋梗塞等の心血管疾患の現状
1 急性心筋梗塞の現状
急性心筋梗塞は、冠動脈の閉塞等によって心筋への血流が阻害され、心筋が壊死し心臓機能の低下が起きる疾患であり、心電図上の所見によりST上昇型心筋梗塞と非ST上昇型心筋梗塞に大別される。
急性心筋梗塞発症直後の医療(急性期の医療)は、ST上昇型心筋梗塞と非ST上昇型心筋梗塞で異なるところもあるが、求められる医療機能は共通するものが多いことから、本指針においては一括して記載することとする。
(1) 急性心筋梗塞の疫学
1年間に救急車で搬送される急病の約8.9%、約32.2万人が心疾患等である2。
さらに、年間約21万人が心疾患を原因として死亡し、死亡数全体の14.9%を占め、死亡順位の第2位である。このうち、急性心筋梗塞による死亡数は心疾患死亡数全体の約14.2%、約3.1万人である3。
急性心筋梗塞の救命率改善のためには、発症直後の救急要請、発症現場での心肺蘇生や自動体外式除細動器(AED)等による電気的除細動の実施、その後の医療機関での救命処置が迅速に連携して実施されることが重要である。また、急性心筋梗塞発症当日から数週間以内に発症する可能性のある不整脈、ポンプ失調、心破裂等の合併症に対する処置が適切に行われることも重要である。
(2) 急性心筋梗塞の医療
① 予防
急性心筋梗塞の危険因子は、高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病、メタボリックシンドローム、ストレスなどであり、発症の予防には生活習慣の改善や適切な治療が重要である。
② 発症直後の救護、搬送等
急性心筋梗塞を疑うような症状が出現した場合、本人や家族等周囲にいる者は速やかに救急要請を行う。
また、急性心筋梗塞発症直後に病院外で心肺停止状態となった場合、周囲にいる者や救急救命士等による心肺蘇生の実施及びAEDの使用により、救命率の改善が見込まれる。
住民による応急手当は心肺機能停止傷病者の約50.6%に実施されている2。
③ 診断
問診や身体所見の診察に加えて、心電図検査、血液生化学検査、エックス線検査や心エコー検査等の画像診断、冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)等を行うことで正確な診断が可能になる。
特にST上昇型心筋梗塞の場合、診断と治療とを一体的に実施できる冠動脈造影検査を、発症後速やかに実施することが重要である。
非ST上昇型心筋梗塞では至適な薬物療法を行いつつ必要に応じて早期に冠動脈造影を行うことが重要である。
また、診断の過程において、不整脈、ポンプ失調、心破裂等の生命予後に関わる合併症について確認することも重要である。
④ 急性期の治療
急性心筋梗塞の急性期には、循環管理、呼吸管理等の全身管理とともに、ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞等の個々の病態に応じた治療が行われる。
また、心臓の負荷を軽減させるために苦痛と不安の除去も行われる。
ア ST上昇型心筋梗塞の治療は、血栓溶解療法や冠動脈造影検査及びそれに続く経皮的冠動脈インターベンション(PCI)により、阻害された心筋への血流を再疎通させる療法が主体であり、発症から血行再建までの時間が短いほど有効性が高い。また、合併症等によっては冠動脈バイパス術(CABG)等の外科的治療が第一選択となることもある。
イ 非ST上昇型心筋梗塞の急性期の治療は、薬物治療に加えて、必要に応じて早期に冠動脈造影検査を行い、適応に応じてPCI、CABGを行うことが重要である。
⑤ 疾病管理プログラムとしての心血管疾患リハビリテーション
心筋梗塞患者に対する心血管疾患リハビリテーションは、合併症や再発の予防、早期の在宅復帰及び社会復帰を目的に、発症した日から患者の状態に応じ、運動療法、食事療法、患者教育等を実施する。
また、トレッドミルや自転車エルゴメーターを用いて運動耐容能を評価した上で、運動処方を作成し、徐々に負荷を掛けることで不整脈やポンプ失調等の合併症を防ぎつつ、身体的、精神・心理的、社会的に最も適切な状態に改善することを目的とする多面的・包括的なリハビリテーションを多職種(医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・理学療法士等)のチームにより実施する。
喪失機能(心機能)の回復だけではなく再発予防、リスク管理などの多要素の改善に焦点があてられ、患者教育、運動療法、危険因子の管理等を含む、疾病管理プログラムとして実施されている点が、脳卒中等のリハビリテーションとは異なる。
⑥ 急性期以後の医療
急性期を脱した後は、不整脈、ポンプ失調等の治療やそれらの合併症予防及び再発予防のための、基礎疾患や危険因子(高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病等)の管理、患者教育、運動療法等の疾病管理プログラムとしての心血管疾患リハビリテーションが、退院後も含めて継続的に行われる。
また、患者の周囲にいる者に対する再発時における適切な対応についての教育等も重要である。
2 大動脈解離の現状
大動脈解離は、大動脈壁が二層に剥離し、二腔(真腔・偽腔)になった状態であり、突然の急激な胸背部痛、解離に引き続く動脈の破裂による出血症状、解離による分枝動脈の狭窄・閉塞による臓器虚血症状等、様々な症状をきたす。また、解離部位の大動脈径が拡大し、瘤形成を認めた場合には、解離性大動脈瘤と呼ばれる。
病期としては、発症2週間以内が急性期、3か月以内が亜急性期、3か月以降が慢性期とされている。慢性大動脈解離は、多くの場合、症状を有する急性大動脈解離を経ているため、あらかじめ診断がついていることがほとんどである。そのため、本指針においては主に急性大動脈解離について記載することとする。
(1) 大動脈解離の疫学
大動脈瘤及び大動脈解離の継続的な医療を受けている患者数は約10.1万人と推計される4。また、年間約1.9万人が大動脈瘤及び大動脈解離を原因として死亡し、死亡数全体の1.3%を占める3。
急性大動脈解離は、死亡率が高く予後不良な疾患であり、発症後の死亡率は1時間毎に1~2%ずつ上昇するといわれている。そのため、急性大動脈解離の予後改善のためには、迅速な診断と治療が重要である。
(2) 大動脈解離の医療
① 急性大動脈解離の診断
問診や身体所見の診察に加えて、心電図検査、血液生化学検査、画像検査(エックス線検査、超音波検査、CT等)等を行うことで、大動脈解離の範囲を含めた、正確な診断が可能になる。
大動脈解離は、解離の範囲により、上行大動脈に解離が及んでいるStanford A型と上行大動脈に解離が及んでいないStanford B型に分類される。A型とB型では、基本的な治療方針が異なるため、解離の範囲の評価は、適切な治療方針を決定する上で重要である。
② 急性大動脈解離の治療
厳格な降圧を中心とした内科的治療と、大動脈人工血管置換術等の外科的治療のどちらを選択するかは、予後を左右する最も重要な判断となる。解離の部位、合併症の有無等に基づき、治療法が選択される。
ア Stanford A型急性大動脈解離は、内科的治療の予後が極めて不良であるため、緊急の外科的治療の適応となる事が多い。しかしながら、全身状態等によっては外科的治療非適応となることもある。
イ Stanford B型急性大動脈解離は、A型急性大動脈解離よりも自然予後が良いため、内科的治療が選択されることが多い。しかしながら、合併症を有する場合等には、外科的治療が必要となる。合併症を有するB型急性大動脈解離に対する、ステントグラフトを用いた血管内治療の有効性が示されており、血管内治療も標準治療の一つである。
③ 疾病管理プログラムとしての心血管疾患リハビリテーション
大動脈解離患者に対する心血管疾患リハビリテーションでは、術後の廃用性症候群の予防や、早期の退院と社会復帰を目指すことを目的に、運動療法、食事療法、患者教育等を含む、多職種による多面的・包括的なリハビリテーションを実施する。外科的治療の有無、解離の部位、合併症の状態等の患者の状態に応じた、適切な心血管疾患リハビリテーションを実施することが重要である。
④ 急性期以後の医療
発症から2週間以上経過した、大動脈解離の予後は良好であり、Stanford A型、B型ともに、再解離の予防を目標とした、降圧療法を中心とした内科的治療が行われる。しかしながら、大動脈径の拡大等を認める場合には、外科的治療が必要となることもある。
3 慢性心不全の現状
慢性心不全は、慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し、肺、体静脈系または両系のうっ血や、組織の低灌流を来たし日常生活に障害を生じた状態であり、労作時呼吸困難、息切れ、四肢浮腫、全身倦怠感、尿量低下等、様々な症状をきたす。
慢性心不全における心筋障害の原因疾患としては、高血圧、虚血性心疾患、心臓弁膜症、心筋症等がある。
(1) 慢性心不全の疫学
心不全の継続的な医療を受けている患者数は約55万人と推計され、そのうち約67%が75歳以上の高齢者である4。また、心不全による死亡数は心疾患死亡数全体の約41.9%、約9.0万人である3。
慢性心不全患者は、心不全増悪による再入院を繰り返しながら、身体機能が悪化することが特徴であり、今後の患者数増加が予想されている。慢性心不全患者の再入院率改善のためには、薬物療法、運動療法、患者教育等を含む患者に応じた多面的な介入を、地域における幅広い医療機関及び関係機関が連携しながら、入院中から退院後まで継続して行うことが重要である。
(2) 慢性心不全の医療
① 診断
問診や身体所見の診察に加えて、心電図検査、血液生化学検査、エックス線検査や心エコー検査等の画像診断を行うことで正確な診断が可能になる。同時に、心不全原因疾患の評価も重要であり、必要に応じて心臓カテーテル検査等を行う。
心不全は、高血圧や器質的心血管疾患を有するが、心不全症状のない心不全リスク状態から、心不全症状を有する症候性心不全へと進行するため、早期診断による早期介入が重要である。
② 慢性心不全の治療
慢性心不全患者の症状及び重症度に応じた薬物療法や運動療法が行われる。また、重症度や合併症等によっては、両室ペーシングによる心臓再同期療法(CRT)や植込み型除細動器(ICD)による治療が行われることもある。
心不全増悪時には、症状に対する治療に加えて、心不全の増悪要因に対する介入も重要である。心不全による症状が、急性に出現・悪化する急性増悪の状態では、内科的治療を中心とした、循環管理、呼吸管理等の全身管理が必要となる。また、心不全の増悪要因によっては、PCIや外科的治療が必要となることもある。
③ 心不全増悪予防
心不全の増悪要因には、虚血性心疾患等の心不全原因疾患の再発・悪化、感染症や不整脈の合併等の医学的要因に加えて、塩分・水分制限の不徹底や服薬中断等の患者要因、社会的支援の欠如等の社会的要因といった多面的な要因が含まれている。
心不全増悪予防には、ガイドラインに沿った薬物療法・運動療法、自己管理能力を高めるための患者教育、カウンセリング等の多面的な介入を、多職種(医師・薬剤師・看護師・管理栄養士・理学療法士等)によるチームで行うことが重要である。
④ 疾病管理プログラムとしての心血管疾患リハビリテーション
慢性心不全患者に対する心血管疾患リハビリテーションでは、自覚症状や運動耐容能の改善及び心不全増悪や再入院の防止を目的に、運動療法、患者教育、カウンセリング等を含む、多職種による多面的・包括的なリハビリテーションを、患者の状態に応じて実施する。
また、心不全増悪や再入院の防止には、心不全増悪による入院中より心血管疾患リハビリテーションを開始し、退院後も継続することが重要である。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 心筋梗塞等の心血管疾患の現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、それら医療機関相互の連携により、医療が継続して実施される体制を構築すること。
(1) 発症後、速やかな救命処置を実施し、疾患に応じた専門的治療につなげることが可能な体制
① 周囲の者による速やかな救急要請及び心肺蘇生法の実施
② 専門的な診療が可能な医療機関への迅速な搬送
③ 医療機関到着後30分以内の専門的な治療の開始
④ 専門的な診療が可能な医療機関間の円滑な連携
(2) デジタル技術を含む新たな技術の活用
① 効率的な医療機関間・地域間連携を推進
② 医療者の労務環境の改善や業務の効率化等に係る取組
(3) 合併症予防や在宅復帰を目的とした心血管疾患リハビリテーションが可能な体制
① 合併症や再発の予防、在宅復帰のための心血管疾患リハビリテーションの実施
② 運動耐容能などに基づいた運動処方により合併症を防ぎつつ、運動療法のみならず多面的・包括的なリハビリテーションを実施
(4) 急性期以後の医療機関における診療及び在宅医療の強化
① 急性期以後の転院先となる病院や在宅医療の医療提供体制の強化と、デジタル技術を活用した診療の拡充により、急性期病院からの円滑な診療の流れを実現
② 在宅療養における合併症や再発を予防するための治療、基礎疾患や危険因子の管理、緩和ケア等の実施
(5) 新興感染症の発生・まん延時における体制
① 感染症発生・まん延時や災害時等の有事においても、循環器病患者を救急現場から急性期医療を提供できる医療機関に、迅速かつ適切に搬送可能な体制
② 感染症発生・まん延時や災害時等の有事においても、地域の医療資源を有効に活用するための体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(5)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 発症予防の機能【予防】
① 目標
・ 心筋梗塞等の心血管疾患の発症を予防すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 高血圧、脂質異常症、喫煙、糖尿病等の危険因子の管理が可能であること
・ 初期症状出現時における対応について、本人及び家族等患者の周囲にいる者に対する教育、啓発を実施すること
・ 初期症状出現時に、急性期医療を担う医療機関への受診勧奨について指示すること
(2) 応急手当・病院前救護の機能【救護】
① 目標
・ 心筋梗塞等の心血管疾患の疑われる患者が、できるだけ早期に疾患に応じた専門的な診療が可能な医療機関に到着できること
② 関係者に求められる事項
(本人及び家族等周囲にいる者)
・ 発症後速やかに救急要請を行うこと
・ 心肺停止が疑われる者に対して、AEDの使用を含めた救急蘇生法等適切な処置を実施すること
(救急救命士を含む救急隊員)
・ 地域メディカルコントロール協議会によるプロトコール(活動基準)に則し、薬剤投与等の特定行為を含めた救急蘇生法等適切な観察・判断・処置を実施すること
・ 急性期医療を担う医療機関へ速やかに搬送すること
(3) 救急医療の機能【急性期】
① 目標
・ 患者の来院後速やかに初期治療を開始するとともに、30分以内に専門的な治療を開始すること
・ 合併症や再発の予防、在宅復帰のための心血管疾患リハビリテーションを実施すること
・ 再発予防の定期的専門的検査を実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 心電図検査、血液生化学検査、心臓超音波検査、エックス線検査、CT検査、心臓カテーテル検査、機械的補助循環装置等必要な検査及び処置が24時間対応可能であること
・ 心筋梗塞等の心血管疾患が疑われる患者について、専門的な診療を行う医師等が24時間対応可能であること
・ ST上昇型心筋梗塞の場合、冠動脈造影検査および適応があればPCIを行い、来院後90分以内の冠動脈再疎通が可能であること
・ 慢性心不全の急性増悪の場合、状態の安定化に必要な内科的治療が可能であること
・ 呼吸管理、疼痛管理等の全身管理や、ポンプ失調、心破裂等の合併症治療が可能であること
・ 虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス術や大動脈解離に対する大動脈人工血管置換術等の外科的治療が可能又は外科的治療が可能な施設との連携体制がとれていること
・ 電気的除細動、機械的補助循環装置、緊急ペーシングへの対応が可能であること
・ 運動耐容能などに基づいた運動処方により合併症を防ぎつつ、運動療法のみならず多面的・包括的なリハビリテーションを実施可能であること
・ 抑うつ状態等の対応が可能であること
・ 回復期(又は在宅医療)の医療機関と診療情報や治療計画を共有する等して連携していること、また、その一環として再発予防の定期的専門的検査を実施すること
③ 医療機関の例
・ 救命救急センターを有する病院
・ 心臓内科系集中治療室(CCU)等を有する病院
・ 心筋梗塞等の心血管疾患に対する急性期医療を担う病院又は有床診療所
(4) 疾病管理プログラムとしての心血管疾患リハビリテーションを実施する機能
【回復期】
① 目標
・ 再発予防の治療や基礎疾患・危険因子の管理を実施すること
・ 合併症や再発の予防、在宅復帰のための心血管疾患リハビリテーションを入院又は通院により実施すること
・ 在宅等生活及び就労の場への復帰を支援すること
・ 患者に対し、再発予防などに関し必要な知識を教えること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 再発予防の治療や基礎疾患・危険因子の管理、抑うつ状態等の対応等が可能であること
・ 心電図検査、電気的除細動等急性増悪時の対応が可能であること
・ 合併症併発時や再発時に緊急の内科的・外科的治療が可能な医療機関と連携していること
・ 運動耐容能を評価の上で、運動療法、食事療法、患者教育等の心血管疾患リハビリテーションが実施可能であること
・ 心筋梗塞等の心血管疾患の再発や重症不整脈などの発生時における対応法について、患者及び家族等への教育を行っていること
・ 急性期の医療機関及び二次予防の医療機関と診療情報や治療計画を共有する等して連携していること
・ 担当の両立支援コーディネーターを配置し、産業医などの治療と仕事の両立支援に係る人材と連携し、心血管疾患患者の就労支援を推進させ、生活の質の向上を目指すこと
③ 医療機関の例
・ 内科、循環器科又は心臓血管外科を有する病院又は診療所
(5) 再発予防の機能【再発予防】
① 目標
・ 再発予防の治療や基礎疾患・危険因子の管理を実施すること
・ 在宅療養を継続できるよう支援すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 再発予防のための治療や基礎疾患・危険因子の管理、抑うつ状態への対応が可能であること
・ 緊急時の除細動等急性増悪時への対応が可能であること
・ 合併症併発時や再発時に緊急の内科的・外科的治療が可能な医療機関と連携していること
・ 急性期の医療機関や介護保険サービス事業所等と再発予防の定期的専門的検査、合併症併発時や再発時の対応を含めた診療情報や治療計画を共有する等して連携していること
・ 在宅での運動療法、再発予防のための管理を医療機関と訪問看護事業所・かかりつけ薬剤師・薬局が連携し実施できること
③ 医療機関の例
・ 病院又は診療所
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ 年齢調整受療率(患者調査)
・ 特定健康診査・特定保健指導の実施率(特定健診・特定保健指導の実施状況)
・ 高血圧性疾患患者、脂質異常症患者、糖尿病患者の年齢調整外来受療率(患者調査)、喫煙率(国民生活基礎調査)
・ 総患者数及びその内訳(性・年齢階級別、傷病小分類別)、患者流入割合、流出割合(患者調査)
・ 退院患者平均在院日数(患者調査)
・ 在宅等生活の場に復帰した患者の割合(患者調査)
・ 年齢調整死亡率(都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① 救急搬送
・ 救急搬送件数(直接搬送割合、転院搬送割合)
・ 搬送先医療機関
・ 発症から受診までに要した平均時間
・ 救急要請(覚知)から医療機関への収容までに要した平均時間
・ 医療機関収容までに心停止していた患者の割合
・ 心肺停止が疑われる者に対して現場に居合わせた者により救急蘇生法を実施した割合
・ 心肺停止を目撃してから除細動(AED)までの時間
② 医療機関等
ア 救命救急センター、CCU等を有する病院
・ 検査、治療体制(人員・施設設備、夜間休日の体制)
・ 実施可能な治療法、リハビリテーション
・ 急性心筋梗塞患者来院後、血栓溶解療法または心臓カテーテル検査を開始するまでに要する時間
・ 急性心筋梗塞患者来院後90分以内に再疎通できた割合
・ 連携の状況(他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況、医療連携室の稼働状況等)
イ 回復期のリハビリテーションを行う病院・診療所
・ 検査、治療体制(人員・施設設備)
・ 実施可能な心筋梗塞等の心血管疾患の治療法、リハビリテーション
・ 連携の状況(他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況、医療連携室の稼働状況等)
(3) 指標による現状把握
別表3に掲げるような、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、各疾患及び各病期に求められる医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たって、心筋梗塞等の心血管疾患は、自覚症状が出現してから治療が開始されるまでの時間によって予後が大きく変わることを勘案し、住民が可能な限り公平に医療を享受できるよう、従来の二次医療圏にこだわらず、メディカルコントロール体制の下実施されている搬送体制の状況等、地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。また、疾患により主に必要とされる急性期の治療が異なることを勘案する必要もある。例えば、大動脈解離のような緊急の外科的治療が必要な疾患には、緊急の外科的治療に常時対応できる医療機関が限られているため、患者が適切な医療機関で受療可能な体制を構築する観点から、他の心血管疾患とは異なる、より広域の圏域の設定について検討する必要がある。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に心筋梗塞等の心血管疾患の診療に従事する者、消防機関、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制を構築するに当たって、予防から救護、急性期、回復期、再発予防まで継続して、疾患に応じた医療が行われるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
また、医療機関、消防機関、地域医師会等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する医療機関・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状分析に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、心筋梗塞等の心血管疾患の良質かつ適切な医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
さらに、医療の質について客観的な評価を行うために、症例登録等を行うことが今後必要である。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表する。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 日本循環器学会「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)」(平成27年1月14日更新版)
2 総務省消防庁「令和4年版 救急・救助の現況」(令和4年)
3 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
4 厚生労働省「患者調査」(令和2年)
糖尿病の医療体制構築に係る指針
糖尿病は、様々な遺伝素因に生活習慣等の種々の環境因子が作用して発症する疾患である。糖尿病が疑われる場合には食事療法・運動療法、生活習慣改善に向けての教育等が行われ、さらに糖尿病と診断された場合には必要に応じて薬物療法も含めた治療が行われる。
また、糖尿病は特有の細小血管症を引き起こすだけでなく、脳卒中、急性心筋梗塞等他疾患の危険因子にもなる慢性疾患であり、患者は様々な合併症により日常生活に支障を来たすリスクが高い。
予防・治療には、患者自身による生活習慣の管理に加えて、内科、眼科、小児科、産科、歯科等の各診療科が、糖尿病の知識を有する管理栄養士、薬剤師、保健師、看護師等の専門職種と連携して実施する医療サービスが必要となる。
さらに、糖尿病患者においては生涯を通じて治療継続が必要となるため、これらの医療サービスが連携し、継続して治療が実施されることが重要である。
本指針では、「第1 糖尿病の現状」で糖尿病の発症・転帰がどのようなものであるのか、どのような医療が行われているのかを概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また各医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれら医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 糖尿病の現状
糖尿病は、インスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主な特徴とする代謝疾患群である。
糖尿病は、主に、インスリンを合成・分泌する細胞の破壊・消失によるインスリン作用不足を主要因とする1型糖尿病と、インスリン分泌低下・抵抗性等をきたす遺伝因子に、過食、運動不足、肥満等の環境因子及び加齢が加わり発症する2型糖尿病に大別される。
インスリン作用不足により高血糖状態になると、口渇、多飲、多尿、体重減少等の症状がみられ、高血糖状態が持続することにより合併症を発症する。糖尿病合併症には、著しい高血糖によって起こる急性合併症と、長年にわたる慢性の高血糖の結果起こる慢性合併症がある。
① 急性合併症には、ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧昏睡といった糖尿病昏睡等がある。
② 慢性合併症は、全身の様々な臓器に起こるが、特に細小血管症に分類される糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害や、大血管症に分類される脳卒中、心筋梗塞・狭心症、末梢血管障害、また、神経障害と末梢血流障害を成因とする糖尿病足病変等がある。
糖尿病には根治的な治療方法がないものの、血糖コントロールを適切に行うことにより、合併症の発症を予防することが可能である。合併症の発症は、患者の生活の質(QOL)を低下させ、生命予後を左右することから、その予防が重要である。
糖尿病の医療は、1型糖尿病と2型糖尿病によって異なるが、適切な血糖コントロールを基本とした医療は共通であることから、本指針においては一括して記載することとする。
1 糖尿病の疫学
糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)は約1,000万人で、平成28年時点で増加傾向であり、糖尿病の可能性が否定できない者(糖尿病予備群)は約1,000万人である1。また、糖尿病を主な傷病として継続的に医療を受けている患者数は約579万人である2。
全糖尿病患者の11.8%が糖尿病性神経障害を、11.1%が糖尿病性腎症を、10.6%が糖尿病網膜症を、0.7%が糖尿病足病変を合併している3。新規の人工透析導入患者数(年齢と性別の記載が確認された導入患者数)は、約3万8千人であり、そのうち、糖尿病性腎症が原疾患である者は約1万5千人(40.2%)である4。
なお、年間約1万4千人が糖尿病が原因で死亡し、死亡数全体の1.0%を占めている5。
2 糖尿病の医療
糖尿病の診断、治療等に関する現状を参考として以下に示すが、詳細は日本糖尿病学会編によるガイドライン(「糖尿病診療ガイドライン2019」、「糖尿病治療ガイド2022―2023」)及び「糖尿病治療ガイド2022―2023」の要約版である日本糖尿病対策推進会議編「糖尿病治療のエッセンス2022」等の診療ガイドラインを参照されたい。
なお、以下、糖尿病における「診療ガイドライン」は上記を指すこととする。
(1) 予防・健診・保健指導
2型糖尿病の発症に関連がある生活習慣は、食習慣、運動習慣、喫煙、飲酒習慣等であり、発症予防には、適切な食習慣、適度な身体活動や運動習慣が重要である。不規則な生活習慣等が原因で、糖尿病の発症リスクが高まっている者については、生活習慣の改善により発症を予防することが期待できる。
個人の糖尿病のリスクを把握するためや糖尿病の早期発見・早期治療によって重症化を予防するために、特定健康診査等の定期的な健診を受診することが必要である。また、健診の結果を踏まえ、適切な生活習慣の改善や受診勧奨を行うことが重要となる。例えば、特定健康診査で高血糖等複数のリスクを有し特定保健指導の該当者となった場合には、特定保健指導にて生活習慣の改善を行うことが重要である。一方、リスクとして高血糖のみを有する者や、非肥満の者で特定保健指導の該当者とならない者についても対応を行うことが望ましく、これらの者の対応については「標準的な健診・保健指導プログラム」を参考とされたい。医療機関は、地域における糖尿病の予防の取組によって、日頃から糖尿病の発症リスクが高まっている者の生活習慣の改善が促進されるよう、保健指導等の予防・健康づくりの取組を行う保健師・管理栄養士や、保険者等と連携することが必要である。また、健診後、受診勧奨により対象者が実際に医療機関を受診したかどうか等についてフォローを行う等、糖尿病の発症予防と医療の連携に関する取組も重要である。
(2) 診断
人工透析を必要とする糖尿病性腎症や失明の原因となる糖尿病網膜症等の糖尿病合併症は、生活の質を低下させるため、糖尿病患者を的確に診断し、重症化予防の観点から、早期に治療を開始することが重要である。
初めて糖尿病と診断された患者においても、すでに糖尿病性腎症、糖尿病網膜症等を合併していることがあるため、尿検査や眼底検査等の糖尿病合併症の発見に必要な検査を行うとともに、糖尿病の診断時から各診療科が連携を図る必要がある。
(3) 治療・指導
糖尿病の治療は、1型糖尿病と2型糖尿病で異なる。
1型糖尿病の場合は、直ちにインスリン治療を行うことが多い。
一方で、2型糖尿病の場合は、2~3か月の食事療法、運動療法を行った上で、目標の血糖コントロールが達成できない場合に、経口血糖降下薬、GLP―1受動態作動薬又はインスリン製剤を用いた薬物療法を開始する。
薬物療法開始後でも、体重の減少や生活習慣の改善により、経口血糖降下薬やGLP―1受動態作動薬、インスリン製剤の服薬を減量又は中止できることがあるため、医師、薬剤師、保健師、看護師、管理栄養士等の専門職種が連携して、外来療養指導や外来食事栄養指導を行う等、食生活、運動習慣等に関する指導を継続する。
慢性合併症は、血糖コントロールの他、高血圧症、脂質異常症の治療や禁煙指導等、危険因子の包括的な管理を行うことによって、その発症を予防するとともに、発症後であっても病期の進展を阻止又は遅らせることが可能である。慢性合併症の予防の観点から、治療の中断者を減らすよう、継続的な治療の必要性を指導する必要がある。「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に基づく治療と仕事の両立支援の取組や、正しい知識の普及によるスティグマの払拭等により継続的に治療を受けられる環境を整えることも重要である。
血糖コントロールの指標として、患者の過去1~2か月の平均血糖値を反映する指標であるHbA1cが用いられる。血糖コントロールの目標は、年齢、罹病期間、合併症の状態、サポート体制等を考慮して、個別に設定することが望ましい。
また、糖尿病患者には、シックデイ(発熱、下痢、嘔吐をきたすときや、食欲不振のために食事ができないとき)の対応や、低血糖時の対応について事前に十分な指導を行う。
高齢者糖尿病に関しては、「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」6が作成されたことを踏まえ、年齢、認知機能、身体活動、フレイル、がんや心不全等の併発疾患、重症低血糖リスク等も考慮して、個別に血糖コントロール目標を設定することが重要である。
(4) 合併症の治療
① 急性合併症
糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群といった糖尿病昏睡等の急性合併症を発症した場合には、輸液、インスリン投与等の治療を実施する。
② 慢性合併症
内科、眼科等の診療科が連携し、糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害等の慢性合併症の早期発見に努める必要がある。慢性合併症の治療を行うに当たっては、眼科等の専門医を有する医療機関や人工透析の実施可能な医療機関等が連携する必要がある。
ア 糖尿病網膜症の治療は、増殖前網膜症又は早期の増殖網膜症に進行した時点で、失明予防の観点から光凝固療法を実施する。硝子体出血及び網膜剥離は手術療法を実施する。
イ 糖尿病性腎症の治療は、血糖及び血圧のコントロールが主体であり、そのために食事療法や薬物療法を実施し、腎不全に至った場合は透析療法を実施する。
ウ 糖尿病性神経障害の治療は、血糖コントロールや生活習慣の改善が主体であり、薬物療法を実施する。
(脳卒中及び心筋梗塞等の心血管疾患については、それぞれの医療体制構築に係る指針を参照)
(5) 他疾患で治療中の血糖管理
周術期や化学療法中、感染症治療中等に適切な血糖管理を行うことは予後の改善に繋がる。糖尿病を持つ患者が手術を受ける際や感染症等他疾患で入院する際、また糖尿病患者に限らず副腎皮質ステロイド等血糖値が上昇する可能性のある薬剤を用いた治療を行う際は、血糖値の推移を把握し適切な血糖コントロールを行う必要がある。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 糖尿病の現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、それら医療機関相互の連携により、保健及び医療サービスが連携して実施される体制を構築すること。
(1) 糖尿病の予防が可能な体制
① 適切な食習慣、適度な身体活動等の生活習慣の改善に関する取組を実施
② 特定健康診査・特定保健指導の実施
(2) 糖尿病の治療・重症化予防が可能な体制
① 糖尿病の診断及び生活習慣等の指導の実施
② 良好な血糖コントロールを目指した治療の実施
(3) 専門的治療を必要とする患者への対応や急性合併症の治療が可能な体制
① 教育入院等による、様々な職種の連携によるチーム医療の実施
② 1型糖尿病や妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠等に対する専門的な治療の実施
③ 急性合併症の治療の実施
(4) 慢性合併症の発症予防・治療・重症化予防が可能な体制
(5) 他疾患の治療のために入院中の患者の血糖管理を行う体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、糖尿病の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(8)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 糖尿病を予防する機能【予防】
① 目標
・ 生活習慣の改善等により糖尿病発症のリスクを低減させること
・ 特定健康診査・特定保健指導や健診後の受診勧奨を実施すること
② 関係者に求められる事項
(行政・保険者)
・ 適切な食生活、適度な身体活動をはじめとする生活習慣の改善等により糖尿病発症のリスクを低減させる取組を実施すること
・ 禁煙希望者に対する禁煙支援や受動喫煙の防止等のたばこ対策に取り組むこと
・ 国民や患者に対し、糖尿病や合併症に関する情報発信や、正しい知識の普及啓発を行うこと
・ 保険者は特定健康診査・特定保健指導を実施すること
・ 健診受診後に受診勧奨値を超える者が確実に医療機関を受診するよう連携体制を構築すること
・ 糖尿病対策推進会議等を活用し、関係団体等と連携して糖尿病対策を推進すること
(医療機関)
・ 健診受診後の受診勧奨等により医療機関を受診した対象者に対し、適切な検査や糖尿病発症予防のための指導を行うこと
③ 関係者の例
・ 都道府県・市区町村及び保険者等
・ 病院又は診療所
(2) 糖尿病の重症化予防のための初期・安定期治療を行う機能【初期・安定期治療】
① 目標
・ 糖尿病の診断及び生活習慣の指導を実施すること
・ 良好な血糖コントロールを目指した治療を実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 糖尿病の診断及び患者や家族等に対する専門的指導が可能であること
・ 75gOGTT、HbA1c等糖尿病の評価に必要な検査が実施可能であること
・ 食事療法、運動療法及び薬物療法による血糖コントロールが可能であること
・ 外来栄養食事指導や外来療養指導等の指導を行える体制があること
・ 食事療法、運動療法及び薬物療法による血糖コントロールが可能であること
・ 高血圧症、脂質異常症の治療や禁煙指導等、包括的な危険因子の管理を行うこと
・ 低血糖時及びシックデイの対応が可能であること
・ 糖尿病の発症初期から定期的に慢性合併症の検査を行うとともに、継続的な眼科受診、歯科受診を促すこと
・ 関連学会で整理された紹介基準等も踏まえて適切に専門医療機関を紹介すること
・ 専門的治療を行う医療機関及び急性・慢性合併症治療を行う医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
・ 健診受診後の受診勧奨により医療機関を受診した対象者に対する適切な対応等、糖尿病の発症予防の取組と連携した医療を行うこと
・ 高齢者糖尿病の管理に関しては、在宅医療や訪問看護、介護サービス等を行う事業者等との連携が可能であること
・ 糖尿病対策推進会議や糖尿病性腎症重症化予防プログラム等、保険者や関係団体等と連携した取組を実施していること
・ 糖尿病の動向や治療の実態を把握するための取組を行っていることが望ましい
③ 医療機関の例
・ 病院又は診療所
(3) 専門的治療を必要とする患者への対応を行う機能【専門的治療】
① 目標
・ 血糖コントロール指標を改善するために、教育入院等の集中的な治療を実施すること
・ 1型糖尿病や妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠に対する専門的な治療を実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 75gOGTT、HbA1c、インスリン分泌能、合併症の検査等糖尿病の評価に必要な検査が実施可能であること
・ 食事療法、運動療法を実施するための設備があること
・ 外来栄養食事指導や外来療養指導、糖尿病透析予防指導等の指導を行える体制があること
・ 各専門職種のチームによる、食事療法、運動療法、薬物療法等を組み合わせた教育入院等の集中的な治療(心理問題を含む。)が実施可能であること
・ 1型糖尿病に対する専門的な治療が可能であること
・ 糖尿病患者の妊娠に対応可能であること
・ 糖尿病の初期・安定期治療を行う医療機関及び急性・慢性合併症の治療を行う医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
・ 定期的に慢性合併症の検査を行うとともに、継続的な眼科受診、歯科受診を促すこと
・ 高齢者糖尿病の管理に関しては、在宅医療や訪問看護、介護サービス等を行う事業者等との連携が可能であること
・ 糖尿病対策推進会議や糖尿病性腎症重症化予防プログラム等、保険者や関係団体等と連携した取組を実施していること
・ 糖尿病の動向や治療の実態を把握するための取組を行っていることが望ましい
③ 医療機関の例
・ 糖尿病内科を有する病院又は診療所
(4) 急性合併症の治療を行う機能【急性合併症治療】
① 目標
・ 糖尿病昏睡等急性合併症の治療を実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 糖尿病昏睡等急性合併症の治療が24時間実施可能であること
・ 食事療法、運動療法を実施するための設備があること
・ 糖尿病の初期・安定期治療を行う医療機関、専門的治療を行う医療機関及び慢性合併症の治療を行う医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
③ 医療機関の例
・ 糖尿病内科を有する病院又は有床診療所
・ 糖尿病の急性合併症に対する医療を担う病院又は有床診療所
(5) 慢性合併症の発症予防・治療・重症化予防を行う機能【慢性合併症治療】
① 目標
・ 糖尿病の慢性合併症の専門的な治療を実施すること
・ 糖尿病の慢性合併症の発症予防・重症化予防のための検査・指導実施すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 糖尿病の慢性合併症(糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害等)について、それぞれ専門的な検査・治療が実施可能であること(単一医療機関で全ての合併症治療が可能である必要はない。)
・ 糖尿病網膜症治療の場合、蛍光眼底造影検査、光凝固療法、硝子体出血・網膜剥離の手術等が実施可能であること
・ 糖尿病性腎症の場合、尿一般検査、尿中アルブミン排泄量検査、腎生検、腎臓超音波検査、血液透析等が実施可能であること
・ 外来栄養食事指導や外来療養指導、糖尿病透析予防指導等の指導を行える体制があること
・ 糖尿病の初期・安定期治療を行う医療機関、専門的治療を行う医療機関及び急性合併症の治療を行う医療機関等と診療情報や治療計画を共有する等して連携していること
③ 医療機関の例
・ 糖尿病内科、腎臓内科、眼科等を有する病院又は診療所
(6) 他疾患の治療のために入院中の患者の血糖管理を行う機能【他疾患治療中の血糖管理】
① 目標
・ 周術期や感染症入院時等、他疾患の治療のために入院中の患者の血糖値を把握し適切な血糖値管理を行うための体制整備を行うこと
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じた診療を実施していることが求められる。
・ 75gOGTT、HbA1c等糖尿病の評価に必要な検査が実施可能であること
・ 専門的な経験を持つ医師を含め、各専門職種による、食事療法、運動療法、薬物療法等を組み合わせた集中的な血糖管理が実施可能であること
・ 食事療法、運動療法を実施するための設備があること
・ 糖尿病の初期・安定期治療を行う医療機関、専門的治療を行う医療機関及び急性・慢性合併症の治療を行う医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
・ 退院時に、在宅医療や訪問看護、介護サービス等を行う事業者等との連携が可能であること
③ 医療機関の例
・ 糖尿病内科を有する病院又は有床診療所
(7) 地域や職域と連携する機能【連携】
① 目標
・ 市町村や保険者、職域と連携すること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じて連携していることが求められる。
・ 市町村や保険者から保健指導を行う目的で情報提供等の協力の求めがある場合、患者の同意を得て、必要な協力を行っていること
・ 地域で予防・健康づくりの取組を行う保健師や管理栄養士等と連携・協力すること等により、糖尿病の発症予防とも連携した医療を行うこと
・ 健診受診後の受診勧奨により医療機関を受診した対象者に対し、検査、治療、指導等の適切な対応を行う等、糖尿病の発症予防の取組と連携した医療を行うこと
・ 糖尿病の発症予防・重症化予防を行う市町村及び保険者、薬局等の社会資源と情報共有や協力体制を構築するなどして連携していること
・ 糖尿病対策推進会議を活用して関連団体等と連携した対策を行うこと
・ 糖尿病性腎症重症化予防プログラム等、保険者等と連携して、糖尿病未治者・治療中断者減少のための取組を進めること
・ 治療と仕事の両立支援等、産業医等と連携した医療を行うこと
・ 高齢者糖尿病の管理に関しては、在宅医療や訪問看護、介護サービス等を行う事業者等との連携を図っていること
③ 医療機関の例
・ 病院又は診療所
(8) 感染症流行時等の非常時に対応する機能【感染症流行時等への対応】
① 目標
・ 感染症流行時等の非常時においても、切れ目なく適切な医療を受けられる体制整備を進めること
・ 多施設・他職種による発症予防・重症化予防のための介入を継続できる体制整備を進めること
② 医療機関に求められる事項
次に掲げる事項を含め、該当する医療機関は関係する診療ガイドラインに準じて連携していることが求められる。
・ 在宅医療や訪問看護を行う事業者等と連携できる体制があること
・ 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年医政発0330第46号厚生労働省医政局長通知別紙)に沿って、オンライン診療による診療継続が可能な体制があること
・ ICTの活用やPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の利活用が望ましい
③ 医療機関の例
・ 病院又は診療所
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、糖尿病の医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ 有病者数(糖尿病が強く疑われる者の数)・有病率
・ 糖尿病予備群の者の数(糖尿病が否定できない者の数)
・ 年齢調整受療率(患者調査)
・ 総患者数及びその内訳(性・年齢階級別、傷病小分類別)、患者流入割合、流出割合(患者調査)
・ 健康診断・健康診査の受診率(国民生活基礎調査)
・ 特定健康診査・特定保健指導の実施率(特定健診・特定保健指導の実施状況)
・ 特定健康診査受診後の受診勧奨により実際に医療機関を受診した糖尿病未治療患者の割合(NDB)
・ 高血圧性疾患患者の年齢調整外来受療率(患者調査)
・ 治療継続者の割合、治療中断率(医師の判断によらないものに限る。)
・ 糖尿病治療を主にした入院患者数(昏睡・アシドーシス・低血糖等)
・ 退院患者平均在院日数(患者調査)
・ 重症低血糖の発生状況
・ 治療が必要な糖尿病網膜症の発生状況
・ 糖尿病による失明の発生状況
・ 糖尿病性腎症による新規人工透析導入患者数
・ 糖尿病患者の下肢切断の発生状況
・ 糖尿病に合併する脳卒中、心筋梗塞の発症状況
・ 年齢調整死亡率(都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① 糖尿病の予防
・ 健康診断・健康診査の実施状況
・ 特定健康診査・特定保健指導の実施状況
② 糖尿病の治療・重症化予防:初期・安定期治療を行う病院・診療所
・ 検査、治療体制(人員・施設設備)
・ 糖尿病専門医7、糖尿病療養指導士の状況(人数、在籍する医療機関数)
・ HbA1cもしくはグリコアルブミン検査の実施状況
・ 糖尿病教室等患者教育の状況
・ 外来栄養食事指導の実施状況
・ インスリン治療の実施状況
・ 医療連携の状況(診療科間や他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況)
・ 地域連携の状況(市町村及び保険者、薬局等の社会資源との保健事業に係る情報共有や協力の状況)
・ 職域との連携の状況(治療と仕事の両立支援の状況)
③ 糖尿病の治療・重症化予防:専門的治療を必要とする患者への対応等を行う病院・診療所
・ 検査、治療体制(人員・施設設備)
・ 糖尿病専門医、糖尿病療養指導士の状況(人数、在籍する医療機関数)
・ 1型糖尿病に対する専門的治療を行う医療機関数
・ 妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠に対する専門的治療を行う医療機関数
・ HbA1cもしくはグリコアルブミン検査の実施状況
・ 糖尿病教室等患者教育の状況
・ 外来栄養食事指導の実施状況
・ インスリン治療の実施状況
・ 医療連携の状況(診療科間や他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況)
・ 地域連携の状況(市町村及び保険者、薬局等の社会資源との保健事業に係る情報共有や協力の状況)
・ 職域との連携の状況(治療と仕事の両立支援の状況)
④ 糖尿病合併症の発症予防・治療・重症化予防を行う病院・診療所
・ 検査、治療体制(人員・施設設備)
・ 糖尿病専門医、糖尿病療養指導士の状況(人数、在籍する医療機関数)
・ 腎臓専門医8、歯周病専門医9の状況(人数、在籍する医療機関数)
・ 糖尿病網膜症に対する専門的治療を行う医療機関数
・ 糖尿病性腎症に対する専門的治療を行う医療機関数
・ 糖尿病足病変に対する専門的治療を行う医療機関数
・ 眼底検査の実施状況
・ 尿中アルブミン・蛋白定量検査、クレアチニン検査の実施状況
・ 糖尿病透析予防指導、糖尿病合併症管理の実施状況
・ 実施可能な慢性合併症の治療法
・ 医療連携の状況(診療科間や他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況)
・ 地域連携の状況(市町村及び保険者、薬局等の社会資源との保健事業に係る情報共有や協力の状況)
・ 職域との連携の状況(治療と仕事の両立支援の状況)
(3) 指標による現状把握
別表4に掲げるような、病期・医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、糖尿病の医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、各病期に求められる医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たって、従来の二次医療圏にこだわらず、地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に糖尿病の診療に従事する者、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
また糖尿病対策推進会議(日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会が、糖尿病の発症予防等を目指して共同で設立した会議)を活用すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、糖尿病の医療体制を構築するに当たって、血糖コントロールを中心として、多種多様な合併症についても連携して治療を実施するため関係機関・施設の信頼関係を醸成するよう配慮すること。
また、医療機関、地域医師会等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
また都道府県は、関係団体等との連携、特に糖尿病対策推進会議の活用により、標準的な治療の普及、協力体制の構築を図ること。なお、糖尿病性腎症の重症化予防の取組については、糖尿病性腎症重症化予防プログラム10が策定されていること。都道府県に求められる取組の例示として、糖尿病対策推進会議等との情報共有、課題・対応策等の議論、本プログラムを参考にした都道府県レベルの糖尿病性腎症重症化予防プログラムの策定等が盛り込まれており、都道府県内の取組が円滑に行われるよう体制構築に取り組む際には参照されたい。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の糖尿病の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、糖尿病の良質かつ適切な医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載する。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
さらに、医療の質について客観的な評価を行うために、症例登録等を行うことが今後必要である。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成28年)
2 厚生労働省「患者調査」(令和2年)
3 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成19年)
4 (社)日本透析医学会「我が国の慢性透析療法の現況」(令和3年)
5 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
6 日本老年医学会・日本糖尿病学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」
7 日本糖尿病学会糖尿病専門医
8 日本腎臓学会腎臓専門医
9 日本歯周病学会歯周病専門医
10 「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」(平成31年4月25日改定)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/program.pdf
精神疾患の医療体制の構築に係る指針
精神疾患は症状が多様であるとともに、自覚しにくい場合があり、症状が比較的軽いうちには精神科医療機関を受診せず、症状が重くなり入院治療が必要な状態や状況になって初めて精神科医療機関を受診するという場合がある。また、重症化してから入院すると、治療が困難になるなど、長期の入院が必要となってしまう場合もある。発症してからできるだけ早期に必要な精神科医療が提供されれば、回復し、再び地域生活や社会生活を営むことができるようになる。
精神疾患は全ての人にとって身近な病気であり、精神障害の有無やその程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるような地域づくりを進める必要がある。また、長期間入院している精神障害者の地域移行を進めるに当たっては、精神科病院や地域援助事業者による努力のみでは限界があり、自治体を中心とした地域精神保健医療福祉の一体的な取組の推進に加えて、地域住民の協力を得ながら、差別や偏見のない、あらゆる人が共生できる包摂的(インクルーシブ)な社会(地域共生社会)を構築していく必要がある。このため、精神障害者が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を進める必要がある。
具体的には、
① 障害保健福祉圏域ごとの保健・医療・福祉関係者による協議の場を通じて、精神科医療機関、その他の医療機関、地域援助事業者、市町村などとの重層的な連携による支援体制を構築する必要がある。
② 長期間入院している精神障害者のうち一定数は、地域の精神保健医療福祉体制の基盤を整備することによって、地域生活への移行が可能であることから、精神病床における入院需要(患者数)を明確にした上で、医療計画、障害福祉計画、介護保険事業(支援)計画に基づき地域移行に伴う基盤整備を推し進める必要がある。また、第7期障害福祉計画(令和6~令和8年度)においても第6期障害福祉計画と同様に、包括的かつ継続的な地域生活支援連携体制整備を今後も計画的に推進する観点から、地域移行に伴う基盤整備量(利用者数)や、精神病床から退院後1年以内の地域における平均生活日数(地域平均生活日数)等が成果目標として検討されている。
さらに、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)に基づく良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針(平成26年厚生労働省告示第65号)を踏まえて、統合失調症、うつ病・躁うつ病、認知症、児童・思春期精神疾患、依存症などの多様な精神疾患等ごとに医療機関の役割分担を整理し、相互の連携を推進するとともに、患者本位の医療を実現していけるよう、医療計画に基づき、作業部会等を通じて、各医療機関の医療機能を明確化する必要がある。
本指針では、「第1 精神疾患の現状」で多様な精神疾患等ごとの現状・課題を概観し、それらを踏まえつつ、「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に即して、地域の現状を把握・分析した上で、地域の実情に応じて圏域(精神医療圏)を設定し、その圏域ごとに不足している医療機能又は調整・整理が必要な医療機能を明確にして、医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 精神疾患の現状
1 現状・課題
精神疾患は、近年その患者数が増加しており、令和2年には推定患者数約615万人となっている1。そのうち、入院患者数は約29万人、外来患者数は約586万人であり、1年以上の長期入院患者数は約17万人である1。我が国での調査結果では、国民の4人に1人(25%)が生涯でうつ病等の気分障害、不安障害及び物質関連障害のいずれかを経験していることが明らかとなっている2。
一般の方々を対象とした令和3年の調査では、3割から5割程度の方が様々な不安を感じており3、精神保健医療福祉上のニーズや精神疾患は住民に広く関わっている。令和3年3月にとりまとめられた「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書においては、精神保健医療福祉上のニーズを有する方が必要な保健医療サービス及び福祉サービスの提供を受け、地域の一員として安心して生活することができるよう、精神疾患や精神障害に関する普及啓発を推進することが重要であるとされている。国においては、こうした観点を踏まえつつ、令和3年度より、心のサポーター(精神疾患への正しい知識と理解を持ち、メンタルヘルスの問題を抱える家族や同僚等に対する傾聴を中心とした支援者)の養成に向けた研修を開始するなど、精神疾患に係る普及啓発を進めている。
また、令和4年6月にとりまとめられた「障害者総合支援法改正施行後3年の見直しについて」(社会保障審議会障害者部会報告書)においては、地域共生社会を実現するために、身近な市町村で精神保健に関する相談支援が受けられる体制を整備することが求められているほか、人権擁護の観点から、入院医療を必要最小限にするための取組や、不適切な隔離・身体的拘束をゼロとする取組についても求められている。
(1) 統合失調症
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療している統合失調症の総患者数は約88万人(うち入院患者数は約14万人であり、その中で1年以上長期入院患者数は約11万人)である1。長期入院患者(認知症を除く。)を対象とした全国調査では、1年以上の長期入院精神障害者(認知症を除く。)の多くは、地域の精神保健医療福祉体制の基盤を整備することによって、入院から地域生活への移行が可能であると示唆されている。また、治療法の普及や、精神科リハビリテーションをはじめとする予防的アプローチの充実などによって、入院から地域生活へのさらなる移行が期待されている4。
(政策動向)
厚生労働省は、難治性の重症な精神症状を有する患者が、どこに入院していても、治療抵抗性統合失調症治療薬や閉鎖循環式全身麻酔の精神科電気痙攣療法(mECT)等の専門的治療を受けることのできる地域連携体制を構築するために、平成26年度から平成29年度にかけて、難治性精神疾患地域連携体制整備事業(モデル事業)を実施した。大阪府、兵庫県、岡山県、沖縄県等が参加し、治療抵抗性統合失調症治療薬導入数の増加など一定の実績をあげながら、それぞれの地域の実情を踏まえた地域連携体制を構築している。また、令和3年度からは、治療抵抗性統合失調症治療薬の投与基準を緩和する等、病状を軽快させる治療法の普及を推進している。
さらに、主治医と相談しながら、症状に合わせ、必要な治療を地域で継続できる体制を整備していくため、令和4年度診療報酬改定において、精神科外来への通院及び重点的な支援を要する患者に対して、多職種による包括的支援マネジメントに基づいた相談・支援等を実施した場合についての評価として、療養生活継続支援加算を新設した。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、統合失調症に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、統合失調症に対応できる専門職を養成するとともに多職種連携・多施設連携を推進するために、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。加えて、治療抵抗性統合失調症治療薬やmECT等の専門的治療方法が必要な時に必要な場所で受けられるように、それぞれの地域の実情を踏まえた地域連携体制を構築する必要がある。
また、都道府県で統合失調症について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「治療抵抗性統合失調症治療薬を精神病床の入院で使用した病院数」、「治療抵抗性統合失調症治療薬を外来で使用した医療機関数」、「統合失調症を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「統合失調症を外来診療している医療機関数」、「閉鎖循環式全身麻酔の精神科電気痙攣療法を実施した医療機関数」、「治療抵抗性統合失調症治療薬を使用した入院患者数(精神病床)」、「治療抵抗性統合失調症治療薬を使用した外来患者数」、「統合失調症患者における治療抵抗性統合失調症治療薬の使用率」、「統合失調症の精神病床での入院患者数」、「統合失調症外来患者数」及び「閉鎖循環式全身麻酔の精神科電気痙攣療法を実施した患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(2) うつ病・躁うつ病
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療しているうつ病・躁うつ病の総患者数は約172万人(うち入院患者数は約3万人)である1。
(政策動向)
厚生労働省は、平成23年度より「認知行動療法研修事業」として、認知行動療法の普及を目的に、医師等を対象とした研修を実施している。また、平成20年度より「かかりつけ医等心の健康対応力向上研修事業」として、うつ病患者の早期発見・早期治療を目的に、一般内科医等かかりつけ医を対象に研修を実施している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、うつ病・躁うつ病の患者に認知行動療法やmECTが実施できる医療機関を明確にする必要がある。また、うつ病・躁うつ病に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「認知行動療法研修事業」や「かかりつけ医等心の健康対応力向上研修事業」を活用すること。
なお、都道府県でうつ病・躁うつ病について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「閉鎖循環式全身麻酔の精神科電気痙攣療法を実施した医療機関数」、「認知療法・認知行動療法を算定した医療機関数」、「うつ・躁うつ病を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「うつ・躁うつ病を外来診療している医療機関数」、「閉鎖循環式全身麻酔の精神科電気痙攣療法を実施した患者数」、「認知療法・認知行動療法を算定した患者数」、「うつ・躁うつ病の精神病床での入院患者数」及び「うつ・躁うつ病外来患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(3) 認知症
(患者動態)
我が国における認知症高齢者の数は、調査研究による推計では、平成24(2012)年で462万人と65歳以上高齢者の約7人に1人と推計されている。認知機能低下のある人(軽度認知障害(MCI))と推計される約400万人と合わせると、65歳以上高齢者の約4人に1人が認知症の人又はその予備軍とも言われている。また、高齢化の進展に伴い令和7(2025)年には、675万人~730万人、すなわち約700万人と約5人に1人に上昇すると見込まれている5。なお、令和2年に医療機関を継続的に受療している認知症の総患者数は100.5万人であり、うち入院患者数は7.6万人である1。
(政策動向)
認知症施策を政府全体で強力に推進するため、令和元年6月18日、認知症施策推進関係閣僚会議において、「認知症施策推進大綱(以下「大綱」という。)」がとりまとめられた。
大綱では、認知症の人や家族等の視点を重視しながら、「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進していくという基本的な考え方の下、5つの柱に沿ってKPIを設定し、施策を推進している。大綱においても、早期診断・早期対応を軸に、医療・介護等の有機的連携により、認知症の容態の変化に応じた適時・適切な医療・介護等が提供される循環型の仕組みを実現していくこととしている。
大綱は、令和7年までを対象期間としており、令和4年は策定後3年の中間年であることから、各種施策の進捗状況について確認し、一部のKPIを新たに設定するなど必要な対応を行った。
認知機能低下のある人や、認知症の人の早期発見・早期対応のためには、地域の関係機関の日頃からの有機的な連携が必要である。そのため、地域の高齢者等の保健医療・介護等に関する相談窓口である地域包括支援センター、地域支援体制づくりや認知症の人や家族等の相談対応等も行う認知症地域支援推進員及び認知症の人の日常診療・相談を担うかかりつけ医等の地域機関は、関係機関間のネットワークの中で、認知症疾患医療センター等の専門機関と連携し、認知症の疑いがある人に早期に気づいて本人が安心して暮らしていけるように適切に対応するとともに、認知症と診断された後の本人・家族等を支援に繋げるように努めること。また、本人自身が早く気づき、早期対応できるように情報提供や支援を行う視点も重要である。さらに日常的に連携機能を有する歯科医療機関や薬局等も、認知症の人の状況に応じた口腔機能の管理や服薬指導、高齢者のポリファーマシー対策を始めとした薬物療法の適正化のための取組を推進すること。
医療従事者の認知症対応力の向上のために、平成18年度より、認知症の早期発見・早期対応、医療の提供などのための地域のネットワークの中で重要な役割を担うかかりつけ医の認知症対応力向上研修を実施し、令和3年度末時点で受講者数は72,299人が受講した。さらに専門医療機関や地域包括支援センター等との連携の推進役となる医師として養成される認知症サポート医は、令和3年度末時点で12,370人が養成されている。認知症対応力向上研修については、徐々に受講対象職種を拡大し、令和3年度末時点で歯科医師21,824人、薬剤師42,564人、看護師等25,892人が受講し、看護師については病院勤務以外を対象に拡大したところであり、今後、病院勤務の医療従事者向け認知症対応力向上研修などにおけるその他の医療職も含め、さらに、認知症の人に関わる医療従事者の研修を進めていくこと。
(地域における医療介護体制の構築)
平成20年度より、認知症の発症初期から、状況に応じて医療と介護が一体となった認知症の人への支援体制の構築を図ることを目的に、認知症疾患医療センター運営事業を開始し、令和4年10月末時点において全国で499か所の認知症疾患医療センター(基幹型21か所、地域型382か所、連携型96か所)が都道府県及び指定都市により設置されている。
また、速やかに適切な医療・介護等が受けられる初期の対応体制が構築されるよう、認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族等を、複数の専門職が訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的に行い、自立支援のサポートを行う認知症初期集中支援チームを平成30年4月までに全市町村に設置した。
(医療提供体制に関する検討課題)
認知症医療・介護に携わる者は、認知症の人を個性、想い、人生の歴史などを持つ主体として尊重し、できる限り各々の意思や価値観に共感し、できないことではなく、できることやできる可能性のあることに目を向けて、本人が有する力を最大限に活かしながら、地域社会の中で本人のなじみの暮らし方やなじみの関係が継続できるよう、伴走者として支援していくことが重要である。
第8次医療計画においては、認知症は誰もがなりうるものであるという前提の下、本人主体の医療・介護の原則が、その提供に携わる全ての者にとって、認知症の人が置かれた環境の下で、認知症の類型や進行段階を十分理解し、容態の変化に応じた全ての期間を通じて共有すべき基本理念であることを改めて徹底し、医療・介護等の質の向上を図っていく必要がある。
そのためには、認知症施策推進大綱や介護保険事業(支援)計画との整合性を図りつつ、地域の実情に応じた医療提供体制の整備、具体的には、早期の診断・治療や行動・心理症状(BPSD)への対応等を含む更なる認知症対応力の向上、多職種連携・多施設連携の推進のための地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化等を図る必要がある。その際には、以下について留意されたい。
① 早期診断・早期対応のための体制整備
(かかりつけ医、歯科医師、薬剤師及び看護師等の認知症値応力向上と認知症サポート医養成)
認知症の症状や認知症の早期発見・早期対応、軽度認知障害に関する知識の普及啓発を進め、本人や家族等が小さな異変を感じたときに速やかに適切な機関に相談できるようにすること。
(認知症初期集中支援チームの取組の推進)
認知症初期集中支援チームの取組が円滑に行えるよう、医療関係団体との調整を図る等、市町村の支援を行うこと。
(認知症疾患医療センターの整備)
都道府県は、二次医療圏ごとに地域の医療計画との整合性を図り、認知症疾患医療センターを計画的に整備すること。また、基幹型、地域型、連携型の類型毎の認知症疾患医療センターの役割を踏まえた上で、相談及び診断後支援等の体制を含めた事業内容の充実を図るともに、さらに事業の評価を実施して事業の質の向上・維持を図っていくこと。
認知症疾患医療センターは、地域の認知症に関する医療提供体制の中核として、かかりつけ医や地域包括支援センター等の関係機関と連携し、地域の介護・医療資源等を有効に活用するためのネットワークづくりを進めるとともに、認知症の速やかな鑑別診断、診断後の本人・家族等のフォロー、連携病院での対応を含めた症状増悪期への対応、BPSDや身体合併症に対する急性期医療、BPSD・せん妄予防等のための継続した医療・ケア体制の整備などを行うこと。
② 医療従事者等の認知症対応力向上の促進
認知症の疑いがある人への早期の気づき、BPSDへの対応等、さらに本人の意思を尊重するために、意思決定支援ガイドラインを活用した認知症の適切な対応力の向上を図る必要があり、認知症の早期発見・早期対応、医療の提供などのための地域のネットワークの中で重要な役割を担う、かかりつけ医、歯科医師、薬剤師、看護師等に対する認知症対応力向上研修、かかりつけ医を適切に支援する認知症サポート医養成のための養成研修をさらに行うこと。
BPSDや身体合併症対応などを行う医療機関では、身体合併症への早期対応と認知症への適切な対応のバランスのとれた対応が求められている。そのため、病院勤務の医療従事者向け認知症対応力向上研修、看護職員認知症対応力向上研修、病院勤務以外(診療所、訪問看護ステーション、介護事業所等)の看護師等認知症対応力向上研修を関係団体の協力を得ながら実施し、認知症の人に関わる医療従事者の認知症の疑いがある人への早期の気づき、BPSDへの対応等、さらに認知症の適切な対応力の向上を図る必要がある。
③ 医療・介護等の有機的な連携の推進による適切な治療等の提供や在宅復帰のための支援体制の整備
認知症の人にBPSDや身体合併症等が見られた場合にも、医療機関等で適切な治療やリハビリテーションを実施されるとともに、退院後も認知症の人のそのときの容態にもっともふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築すること。さらに早期退院を阻害する要因を検討した上で、円滑な退院や在宅復帰のための支援体制を整備すること。
(認知症地域支援推進員の取組の推進)
認知症地域支援推進員が行う医療・介護等のネットワークの構築等の取組が円滑に進むよう、医療関係団体との調整を図る等、市町村の支援を行うこと。
(認知症ケアパスの活用)
地域で作成した認知症ケアパスについて、認知症の人やその家族等、医療・介護関係者等の間で共有され、サービスが切れ目なく提供されるよう、その活用を推進すること。
(若年性認知症の人やその家族等の支援)
若年性認知症の人が、発症初期の段階から、その症状・社会的立場や生活環境などの特徴を踏まえ、認知機能が低下してきてもできることを可能な限り続けながら適切な支援を受けられるよう、認知症疾患医療センター等の専門医療機関と若年性認知症支援コーディネーターとの連携等、若年性認知症の人やその家族等を支援する関係者のネットワークの構築を推進し、若年性認知症の人の就労・社会参加を進めること。
(4) 児童・思春期精神疾患及び発達障害
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療している20歳未満の精神疾患を有する総患者数は約60万人である1。
また、令和2年に医療機関を継続的に受療している発達障害者支援法(平成16年法律第167号)に規定する発達障害(F80―F89,F90―F98)の総患者数は約59万人1である。
(政策動向)
厚生労働省は、平成13年度より、児童思春期の心の問題に関する専門家を養成するために、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師等を対象に「思春期精神保健研修」を行っている。また、平成24年度より、様々な子どもの心の問題、被虐待児の心のケアや発達障害に対応するため、子どもの心の診療ネットワーク事業を実施しており、令和3年3月末時点で、21自治体で実施されている。
また、平成17年4月の発達障害者支援法施行により、国立精神・神経医療研究センターにおいて、都道府県・政令指定都市の発達障害診療の指導的役割を担う者に対する研修を実施している。平成28年8月の改正発達障害者支援法施行により、都道府県・政令指定都市が発達障害者の支援(診療等を含む。)に関する情報の共有や緊密な連携、体制の整備等について検討する発達障害者支援地域協議会の設置が位置付けられた。平成29年1月の総務省による「発達障害者支援に関する行政評価・監視」では、厚生労働省に対して、発達障害者の専門的医療機関の確保と公表を積極的に進めることを勧告している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、「児童・思春期精神科入院医療管理料」を算定した医療機関、20歳未満の精神疾患を有する患者への入院・外来診療を行っている医療機関等の児童・思春期精神疾患に対応できる医療機関や、発達障害に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、児童・思春期精神疾患や発達障害に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「思春期精神保健研修」や「かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」を活用すること。
なお、都道府県で児童・思春期精神疾患及び発達障害について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「児童・思春期精神科入院医療管理料を算定した医療機関数」、「20歳未満の精神疾患を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「20歳未満の精神疾患を外来診療している医療機関数」、「知的障害を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「知的障害を外来診療している医療機関数」、「発達障害を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「発達障害を外来診療している医療機関数」、「児童・思春期精神科入院医療管理料を算定した患者数」、「20歳未満の精神疾患の精神病床での入院患者数」、「20歳未満の精神疾患外来患者数」、「知的障害の精神病床での入院患者数」、「知的障害外来患者数」、「発達障害の精神病床での入院患者数」及び「発達障害外来患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(5) 依存症
① アルコール依存症
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療しているアルコール依存症の総患者数は約5万人である1。
(政策動向)
平成26年6月1日に施行されたアルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)に基づき、令和3年3月26日にアルコール健康障害対策推進基本計画(第2期(令和3年度から令和7年度まで))が閣議決定された。本計画で取り組む施策として、都道府県等において、アルコール健康障害に対応できる専門医療機関の質的・量的拡充に向けて、取組を進めると明記されている。
厚生労働省は、平成29年度より国立病院機構久里浜医療センターを全国拠点機関として指定し、地域において依存症の治療に当たる医療従事者や相談対応に当たる職員等を対象とした研修や、依存症に関する情報発信等を行う「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」を実施している。また、都道府県・政令指定都市等の自治体が、依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関等の選定のための体制構築等を行う「依存症対策地域支援事業」を実施している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、アルコール依存症に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、アルコール依存症に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「アルコール健康障害対策推進基本計画」を踏まえ、「依存症対策地域支援事業」の依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関を活用すること。
なお、都道府県でアルコール依存症について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「依存症専門医療等機関(依存症専門医療機関、依存症治療拠点機関)数」、「依存症入院医療管理加算(アルコール依存症)を算定した精神病床を持つ病院数」、「依存症集団療法(アルコール依存症)を外来で算定した医療機関数」、「アルコール依存症を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「アルコール依存症を外来診療している医療機関数」、「依存症入院医療管理加算(アルコール依存症)を算定した患者数」、「依存症集団療法(アルコール依存症)を外来で実施した患者数」、「アルコール依存症の精神病床での入院患者数」、「アルコール依存症外来患者数」及び「依存症専門医療機関のうち依存症治療拠点機関における紹介患者数及び逆紹介患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
② 薬物依存症
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療している薬物依存症の総患者数は約5千人である1。
(政策動向)
平成28年12月14日に施行された再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)に基づき、令和5年3月17日に第二次再犯防止推進計画が閣議決定された。本計画では、薬物依存症治療の専門医療機関の充実や、薬物依存症者の治療・支援等に知識を有する医療関係者の育成等が明記されている。
厚生労働省は、平成29年度より「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」を実施している。また、都道府県・政令指定都市等の自治体が、依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関等の選定のための体制構築等を行う「依存症対策地域支援事業」を実施している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、薬物依存症に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、薬物依存症に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、再犯防止推進計画を踏まえ、「依存症対策地域支援事業」の依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関を活用すること。
なお、都道府県で薬物依存症について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「依存症専門医療等機関(依存症専門医療機関、依存症治療拠点機関)数」、「依存症入院医療管理加算(薬物依存症)を算定した精神病床を持つ病院数」、「依存症集団療法(薬物依存症)を外来で算定した医療機関数」、「薬物依存症を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「薬物依存症を外来診療している医療機関数」、「依存症入院医療管理加算(薬物依存症)を算定した患者数」、「依存症集団療法(薬物依存症)を外来で実施した患者数」、「薬物依存症の精神病床での入院患者数」、「薬物依存症外来患者数」及び「依存症専門医療機関のうち依存症治療拠点機関における紹介患者数及び逆紹介患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
③ ギャンブル等依存症
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療しているギャンブル等依存症患者の総患者数は約3千人である1。
(政策動向)
平成30年10月に施行されたギャンブル等依存症対策基本法(平成30年法律第74号)に基づき、令和4年3月25日に閣議決定されたギャンブル等依存症対策推進基本計画(令和4年度から令和6年度まで)では、令和5年度までを目途に、全都道府県・政令指定都市において専門医療機関等の整備を目指すこととしている。
厚生労働省は、平成29年度より「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」を実施している。また、都道府県・政令指定都市等の自治体が、依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関等の選定のための体制構築等を行う「依存症対策地域支援事業」を実施している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、ギャンブル等依存症に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、ギャンブル等依存症に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、ギャンブル等依存症対策推進基本計画を踏まえ、「依存症対策地域支援事業」の依存症専門医療機関や依存症治療拠点機関を活用すること。
なお、都道府県でギャンブル等依存症について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「依存症専門医療等機関(依存症専門医療機関、依存症治療拠点機関)数」、「依存症集団療法(ギャンブル依存症)を外来で算定した医療機関数」、「ギャンブル等依存症を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「ギャンブル等依存症を外来診療している医療機関」、「依存症集団療法(ギャンブル依存症)を外来で実施した患者数」、「ギャンブル等依存症の精神病床での入院患者数」、「ギャンブル等依存症外来患者数」及び「依存症専門医療機関のうち依存症治療拠点機関における紹介患者数及び逆紹介患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(6) 外傷後ストレス障害(PTSD)
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療しているPTSDの総患者数は約7千人である1。
(政策動向)
厚生労働省は、平成8年より災害・事件・事故等によるPTSDへの心のケアの重要性を鑑みて、PTSDの専門家を養成するために「PTSD対策専門研修」を行っている。
令和3年3月に策定された第4次犯罪被害者等基本計画(令和3年3月30日閣議決定)では、被害者へ心のケアを提供することの重要性が明記されている。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、PTSDに対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、PTSDに対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。
なお、都道府県でPTSDについて検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「PTSDを入院診療している精神病床を持つ病院数」、「PTSDを外来診療している医療機関数」、「認知療法・認知行動療法を算定した医療機関数」、「PTSDの精神病床での入院患者数」、「PTSD外来患者数」及び「認知療法・認知行動療法を算定した患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(7) 高次脳機能障害
(患者動態)
平成13~平成17年度の高次脳機能障害支援モデル事業における調査では、高次脳機能障害者は、全国に約27万人いると推計されている6。
(政策動向)
厚生労働省は、平成18年度より高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業を地域生活支援事業において実施している。国立障害者リハビリテーションセンター内に「高次脳機能障害情報・支援センター」を設置する他、都道府県の支援拠点機関に支援コーディネーターを配置し、専門的な相談支援、関係機関との連携、調整を行っている。自治体職員、福祉事業者、医療関係者を対象に高次脳機能障害支援に関する研修を行い、地域における高次脳機能障害支援の普及を図っている。支援拠点機関は、令和4年4月時点で、全国に120か所整備している。また、令和5年度より、「高次脳機能障害及びその関連障害に対する地域支援ネットワーク構築促進事業」を地域生活支援促進事業として実施する。高次脳機能障害の当事者への専門的相談支援及び医療と福祉の一体的な支援を普及・定着させるため、高次脳機能障害の診断及びその特性に応じた支援サービスの提供を行う協力医療機関(医療機関、リハビリ機関等)及び専門支援機関(就労支援機関、教育機関等)を確保・明確化する。さらに、地域の関係機関が相互に連携・調整を図り、当事者やその家族等の支援に資する情報提供を行う地域支援ネットワークを構築し、切れ目のない充実した支援体制の促進を図る。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、高次脳機能障害に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、高次脳機能障害に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」の取組を参考にしつつ、「高次脳機能障害支援拠点機関」を活用すること。
なお、都道府県で高次脳機能障害について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「高次脳機能障害支援拠点機関数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(8) 摂食障害
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療している摂食障害の総患者数は約4万人である1。
(政策動向)
厚生労働省は、平成26年度より摂食障害患者が早期に適切な支援を受けられるように、摂食障害治療支援センター設置運営事業を実施している。この事業では令和4年度末において、宮城県、千葉県、石川県、静岡県、福岡県の5県が、地域の診療の拠点となる医療機関を「摂食障害支援拠点病院」として指定し、摂食障害支援拠点病院と県の協働によって、摂食障害に関する知識・技術の普及啓発、他医療機関への研修・技術的支援、患者・家族等への技術的支援、関係機関との地域連携支援体制構築のための調整を行っている。また、国立精神・神経医療研究センターを「摂食障害全国支援センター」として指定し、摂食障害支援拠点病院の指導・助言、摂食障害支援拠点病院で集積されたデータの分析・評価、全国の医療関係者や養護教諭を対象とした摂食障害患者の対応に関する研修を行っている。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、摂食障害に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、摂食障害に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「摂食障害治療支援センター設置運営事業」の取組を参考にしつつ、「摂食障害支援拠点病院」を活用すること。
なお、都道府県で摂食障害について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「摂食障害支援拠点病院数」、「摂食障害入院医療管理加算を算定した病院数」、「摂食障害を外来診療している医療機関数」、「摂食障害を入院診療している精神病床を持つ病院数」、「認知療法・認知行動療法を算定した医療機関数」、「摂食障害入院医療管理加算を算定した患者数」、「摂食障害の精神病床での入院患者数」、「摂食障害外来患者数」、「認知療法・認知行動療法を算定した患者数」及び「摂食障害支援拠点病院における紹介患者数及び逆紹介患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(9) てんかん
(患者動態)
令和2年に医療機関を継続的に受療しているてんかんの総患者数は約42万人である1。
(政策動向)
厚生労働省は、てんかん患者が早期に適切な支援を受けられるように、平成27年度よりてんかん地域診療連携体制整備事業を実施している。この事業では、令和4年度末において、25都道府県が、地域の診療の拠点となる医療機関を「てんかん支援拠点病院」として指定し、てんかん支援拠点病院と都道府県等との協働により、てんかんに関する知識の普及啓発、患者や家族の相談支援及び治療、地域の医療機関への助言・指導、医療従事者等への研修、関係機関等との地域連携支援体制の構築のための協議会の開催等の取組を行っている。また、それぞれのてんかん支援拠点病院に、てんかん診療コーディネーターを配置し、患者及び家族に対し相談援助を適切に実施するよう努めている。さらに、国立精神・神経医療研究センターを「てんかん全国支援センター」として指定し、各支援拠点病院の指導・助言、てんかん支援拠点病院で集積されたデータの分析・評価等を行っている。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、てんかんに対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、てんかんに対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。この際、「てんかん地域診療連携体制整備事業」の取組を参考にしつつ、「てんかん支援拠点病院」を活用すること。
なお、都道府県でてんかんについて検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「てんかん支援拠点病院数」、「てんかんを入院診療している精神病床を持つ病院数」、「てんかんを外来診療している医療機関数」、「てんかんの精神病床での入院患者数」、「てんかん外来患者数」及び「てんかん支援拠点病院における紹介患者数及び逆紹介患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(10) 精神科救急
(基本情報)
精神科救急医療体制整備事業報告に基づく令和2年度の夜間・休日の受診件数は約3.5万件(人口100万人あたり1日0.79件)、入院件数は約1.7万件(同0.38件)となっている7。また、消防庁の調査では、令和2年中の疾病分類別収容平均所要時間(入電から医師引継ぎまでの時間)において、全体の平均が40.6分であったのに対して、精神疾患を主な理由として搬送された傷病者の平均は44.2分と長かった8。
(政策動向)
都道府県は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条の11に基づき、緊急な医療を必要とする全ての精神障害者が、迅速かつ適正な医療を受けられるよう、精神科救急医療体制の確保に努める必要がある。都道府県又は政令指定都市は、精神科救急医療体制整備事業を活用して、精神科救急医療体制連絡調整委員会を設置し、精神科救急医療施設の確保及びその円滑な運営を図ってきている。また、精神科救急情報センターを整備し、救急医療情報センターや救急医療機関や消防機関等からの要請に対し、身体疾患を合併している者も含め、緊急な医療を必要とする精神障害者の搬送先医療機関の紹介に努めてきている。あわせて、厚生労働省は、精神科救急医療体制整備事業の実施要綱に基づき、精神科救急医療圏域単位での精神科救急医療体制及び身体合併症患者の医療提供体制の確保に向けた検討を実施するとともに、関係機関(警察、消防、一般救急等)との研修を通じた相互理解の推進を求めている。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、精神科救急に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、精神科救急に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。さらに、特定の医療機関に負担が集中しないように、例えば、夜間休日における精神科救急外来と精神科救急入院を区分して受入体制を構築する等、地域の実情を踏まえて連携体制を検討する必要がある。この際、「精神科救急医療体制整備事業」の精神科救急医療施設(病院群輪番型、常時対応型)、外来対応施設及び身体合併症対応施設を活用すること。
なお、都道府県で精神科救急について検討するに当たっては、別表5に示す指標に関連して、「精神科救急医療機関数」、「精神科救急急性期医療入院料を算定した医療機関数」、「精神科救急医療体制整備事業における入院件数」、「精神科救急医療体制整備事業における受診件数」及び「精神疾患の救急車平均搬送時間」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(11) 身体合併症
(基本情報)
身体合併症対応については、精神科救急医療を担う医療機関の多くは精神科単科の医療機関であり、受入れが困難である場合も少なくない。一方、精神科以外の診療科においては、患者が精神疾患を合併している場合の対応に苦慮していることが多い点も指摘されている。また、身体疾患と精神疾患ともに入院による治療を必要とする患者が発生する割合は人口1万人対年間2.5件と推計されており9、救命救急センターの入院患者のうち、12%の入院患者は何らかの精神科医療を必要とし、2.2%の入院患者は身体疾患と精神疾患ともに入院による治療を必要とするとされる10。
(政策動向)
厚生労働省は、精神科救急医療体制整備事業において、精神科救急医療圏域単位での身体合併症患者の医療提供体制の確保に向けた検討を都道府県に求めている。また、令和3年1月に取りまとめられた「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」報告書では、身体合併症対応の充実を図る観点から、一般の救急医療機関に搬送等された精神障害を有する方等及び地域住民の対応について、対診や訪問、電話等による助言等を行う取組が可能となるよう必要な体制整備を図る必要があるとともに、精神科救急医療体制整備に関わる関係団体、精神科病院や精神科診療所は、一般の救急医療体制における会議体へ参画し、身体合併症を有する方への対応に関する課題に係る検討に取り組む必要があるとしている。
(医療提供体制に関する検討課題)
精神障害を有する方等及び地域住民の負担に配慮したアクセスのしやすさを確保する観点から、精神症状と身体症状を一元的に対応できる医療機関の整備を今後、推進していくことが重要であり、このような医療機関として、公的な病院、総合病院の精神科や精神科を有する特定機能病院が役割を担うことが考えられる。
いずれの場合であっても、身体合併症対応については、地域の実情に応じ、精神科救急医療施設と他科の医療機関との連携により支援し合う仕組みの構築が求められる。
このような中で、第8次医療計画においては、精神障害者の身体合併症に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、精神障害者の身体合併症に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。
また、新型コロナウイルス感染症を含めた新興感染症について、定期的に外来を受診又は在宅医療を受けている精神疾患を有する患者が新興感染症に罹患した場合や、精神病床に入院した患者が新興感染症に罹患した場合等に対応が可能な医療機関を明確にする必要がある。
なお、都道府県で身体合併症について検討するに当たっては、別表5に示す指標例のうち、(10)精神科救急で挙げた指標例に加え、「救命救急入院料精神疾患診断治療初回加算を算定した医療機関数」、「精神科救急・合併症入院料又は精神科身体合併症管理加算を算定した医療機関数」、「精神疾患診療体制加算又は精神科疾患患者等受入加算を算定した医療機関数」、「精神科リエゾンチーム加算を算定した医療機関数」、「救命救急入院料精神疾患診断治療初回加算を算定した患者数」、「精神科救急・合併症入院料又は精神科身体合併症管理加算を算定した患者数」、「精神疾患診療体制加算又は精神科疾患患者等受入加算を算定した患者数」及び「精神科リエゾンチーム加算を算定した患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(12) 自殺対策
(基本情報)
警察庁の自殺統計原票を集計した結果によれば、我が国の自殺者数は平成22年以降は10年連続で減少していたが、新型コロナウイルス感染症の流行下で自殺の要因となる様々な状況等が悪化したことなどにより、令和2年に増加に転じた。令和4年の自殺者数は21,881人となり、対前年比では874人(約4.2%)の増加となった11。男女別にみると、男性は13年ぶりの増加、女性は3年連続の増加となり、小中高生は514人と過去最多となった11。また、日本の自殺死亡率は、主要国の中で高い水準にあり、依然として厳しい状況にある。特に、年代別の死因順位をみると、10~39歳の各年代の死因の第1位は自殺となっている12。
(政策動向)
平成18年6月に自殺対策基本法(平成18年法律第85号)が成立し、自殺対策基本法に基づき、政府が推進すべき自殺対策の指針として自殺総合対策大綱(平成19年6月8日閣議決定)を策定し、その下で自殺対策を総合的に推進してきた。また、地域レベルの実践的な取組による生きることの包括的な支援を行い、自殺対策を総合的かつ効果的に更に推進するため、平成28年3月に「自殺対策基本法の一部を改正する法律」(平成28年法律第11号。以下「改正法」という。)が成立し、同年4月1日に施行された。改正法においては、基本的施策が拡充され、良質かつ適切な精神医療が提供される体制の整備や多職種連携の推進等が新たに規定された。更に、自殺を巡る実態を踏まえ、第4次「自殺総合対策大綱」(令和4年10月14日閣議決定)が策定され、子ども・若者、女性の自殺対策の強化など総合的な自殺対策のさらなる推進等が新たに規定された。
厚生労働省は、平成20年度より「自殺未遂者ケア研修」として、知識及び技術の普及を目的に、医師等を対象とした研修を実施しており、さらに、平成30年度からは自殺未遂者等支援拠点医療機関整備事業を開始している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、自殺対策に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、自殺対策に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。加えて、以下の2点について留意されたい。
① 自殺の大きな危険因子であるうつ病について、早期発見、早期治療に結びつける取組に併せて、精神科医療提供体制の充実や、地域の精神科医療機関を含めた保健・医療・福祉・労働・教育・警察等の関係機関・関係団体のネットワークの構築を図ること。
② 精神科救急医療体制の充実を通じた自殺未遂者に対する良質かつ適切な治療の実施、かかりつけ医等の精神疾患の診断・治療技術の向上、かかりつけ医から専門医につなげる医療連携体制の整備を推進すること。
なお、都道府県で自殺対策について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「救急患者精神科継続支援料を算定した医療機関数」、「救命救急入院料精神疾患診断治療初回加算を算定した医療機関数」、「救急患者精神科継続支援料を算定した患者数」及び「救命救急入院料精神疾患診断治療初回加算を算定した患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
(13) 災害精神医療
① 災害派遣精神医療チーム(DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Team)
(基本情報)
令和5年1月時点で、全国46都道府県において災害派遣精神医療チーム(DPAT)先遣隊が整備されている。
(政策動向)
平成27年7月の防災基本計画の一部修正において、厚生労働省及び都道府県は、災害派遣精神医療チーム(DPAT)の整備に努めるものとされている。厚生労働省では、DPAT体制整備事業を通じて、DPATの平時の訓練と、自治体への技術的支援、災害発生時の迅速かつ適切な連絡調整等の体制整備を行っている。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、災害精神医療に対応できる医療機関を明確にする必要がある。また、災害精神医療に対応できる専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図る必要がある。その際、「DPAT体制整備事業」を参考にしつつ、「DPAT先遣隊登録機関」を活用すること。なお、検討に当たっては、DPATの業務として、令和4年12月に成立した「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(令和4年法律第96号。以下「令和4年改正法」という。)におけるDPATの法定化の施行に向け、新興感染症への対応が明確にされることも踏まえること。
また、都道府県で災害精神医療について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「DPAT先遣隊登録機関数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
② 災害拠点精神科病院
(基本情報)
令和5年1月時点で、全国22都府県において災害拠点精神科病院が整備されている。
(政策動向)
「災害拠点精神科病院の整備について」(令和元年6月20日付け医政発0620第8号厚生労働省医政局長・障発0620第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)により、災害拠点精神科病院については人口規模や地理的条件、都道府県における精神科医療の提供体制の実態などを考慮し、都道府県ごとに必要な数の整備を行っている。
(医療提供体制に関する検討課題)
令和5年1月時点で、25道府県において災害拠点精神科病院が未整備の状況であるため、第8次医療計画においては、人口規模や地理的条件、都道府県における精神科医療の提供体制の実態などを考慮しながら、県内において少なくとも1医療機関の指定を行うこと。
(14) 医療観察法における対象者への医療
(基本情報)
平成17年7月の心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(平成15年法律第110号。以下「医療観察法」という。)施行から令和2年12月末までの地方裁判所の当初審判における入院処遇決定は3,695件、通院処遇決定は678件となっている13。令和4年4月1日時点における入院者数は818名であり、その疾病別内訳は、統合失調症等(F2)が約83.4%、次いで精神作用物質使用による精神および行動の障害(F1)及び気分障害(F3)が約10.6%である14。
(政策動向)
指定入院医療機関は、予備病床を含めて全国で800床程度、指定通院医療機関は各都道府県の人口100万人当たり2~3か所程度、全国で382か所を目標として整備を進めてきた。令和4年4月1日時点における指定入院医療機関は全国で34か所、予備病床を含めて850床と目標を達成しているが、指定入院医療機関が近隣にない地域が存在している。また、令和4年4月1日時点における指定通院医療機関は全国で689か所(597病院、92診療所)あり、必要数を満たしているが、引き続き、対象者の住み慣れた地域からアクセスが容易な指定通院医療機関を確保していく必要がある。
平成24年度より、指定入院医療機関の医療の質の向上及び均てん化を図り、医療観察法対象者の早期の社会復帰を実現するため、指定入院医療機関に従事する多職種チームが相互に指定入院医療機関を訪問し、医療体制等の評価や、課題への助言等の技術交流を行う「心神喪失者等医療観察法指定入院医療機関医療評価・向上事業」を実施している。
(医療提供体制に関する検討課題)
第8次医療計画においては、医療観察制度に基づく通院医療に対応できる医療機関を明確にするとともに、入院医療において治療抵抗性統合失調症治療薬を使用している対象者が円滑に退院できるように、治療抵抗性統合失調症治療薬の使用可能な指定通院医療機関の一層の確保を図る必要がある。
なお、都道府県で医療観察法における対象者への医療について検討するに当たっては、別表5に示す指標例に関連して、「指定通院医療機関数」及び「指定通院医療機関の患者数」について現状を把握した上で課題を検討し、目標を設定することが望ましい。
2 精神疾患の医療体制
令和2年における精神病床を有する病院数は1,622病院であり、このうち精神病床のみを有する精神科病院数は1,059病院である15。令和2年における精神病床数は32万4,481床15であり、平成26年の33万8,174床16から減少している。
令和2年における精神科・神経科・心療内科を主たる診療科とする精神科等診療所数は4,399診療所15であり、平成26年の3,890診療所16から増加している。
令和2年における精神科及び心療内科を主たる診療科とする精神科等医師数は1万7,375人17であり、平成26年の1万6,090人18から増加している。平成26年と令和2年とを比較すると、病院に勤務する精神科等医師数の増加割合は約1.06倍であるのに対し、診療所で勤務する精神科等医師数の増加割合は約1.13倍と、診療所に勤務する精神科等医師数の方が増加している。
令和3年における精神科訪問看護を実施した施設は6,449施設19であり、平成29年の4,060施設20から増加している。令和3年における精神科訪問看護を実施した訪問看護ステーションの割合は38.6%19であり、平成29年の32.5%20から増加している。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 精神疾患の現状」を踏まえ、行政と医療、障害福祉サービス、介護サービス等の顔の見える連携を推進し、精神保健医療福祉上のニーズを有する方が、その意向やニーズに応じ、切れ目なくこれらのサービスを利用し、安心してその人らしい地域生活を送ることができるよう、地域における多職種・多機関が有機的に連携する体制の構築を進める必要がある。具体的には、以下のとおりである。
① 精神科医療の提供体制の充実には、精神保健に関する「本人の困りごと等」への支援を行う平時の対応を充実する観点と、精神科救急医療体制整備をはじめとする精神症状の急性増悪や精神疾患の急性発症等による患者の緊急のニーズへの対応を充実する観点が必要である。平時においては、かかりつけの医療機関に通院し、障害福祉・介護その他のサービスを利用しながら、本人の希望に応じた暮らしを支援するとともに、患者の緊急のニーズへの対応においては、入院治療(急性期)へのアクセスに加え、受診前相談や入院外医療(夜間・休日診療、電話対応、在宅での診療、訪問看護等)について、都道府県等が精神科病院、精神科訪問看護を行う訪問看護事業所等と連携しながら必要な体制整備に取り組むことが望ましい。
② また、精神障害の有無や程度にかかわらず、地域で暮らす全ての人が、必要な時に適切なサービスを受けられるよう、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を推進する観点から、医療計画、障害福祉計画、介護保険事業(支援)計画が相互に緊密に連携し、医療、障害福祉・介護、住まい、就労等の社会参加、地域の助け合い、教育・普及啓発が包括的に確保された体制を整備していくことが重要となる。
なお、精神病床における隔離・身体的拘束は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律上、精神科実務経験を有し法律等に関する研修を修了した精神保健指定医の専門的知見に基づき、代替方法によることは困難であり、医療・保護を図る上でやむを得ないと判断された場合に、必要最小限の範囲で行われるものであるが、隔離・身体的拘束の最小化に対する取組が求められていることから、医療計画においても、こうした観点を踏まえることは重要であり、別表5に示す指標例のうち、「隔離指示件数」、「身体的拘束指示件数」を参考にすることが望ましい。
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、精神疾患の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(3)に示す。
都道府県は、多様な精神疾患等ごとに各医療機能の内容(目標、医療機関に求められる事項)について、地域の実情に応じて柔軟に設定する。
(1) 地域精神科医療提供機能
① 目標
・ 患者本位の精神科医療を提供すること
・ ICF(国際生活機能分類 WHO2001年:International Classification of Functioning, Disability and Health)の基本的考え方を踏まえながら多職種協働による支援を提供すること
・ 地域の保健医療福祉介護の関係機関との連携・協力を行うこと
② 医療機関に求められる事項(例)
・ 患者の状況に応じて、適切な精神科医療(外来医療、訪問診療を含む。)を提供するとともに、精神症状悪化時等の緊急時の対応体制や連絡体制を確保すること
・ 精神科医、薬剤師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、公認心理師等の多職種によるチームによる支援体制を作ること
・ 医療機関(救急医療、周産期医療を含む。)、障害福祉サービス事業所、相談支援事業所、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等と連携し、生活の場で必要な支援を提供すること
(2) 地域連携拠点機能
① 目標
・ 患者本位の精神科医療を提供すること
・ ICFの基本的考え方を踏まえながら多職種協働による支援を提供すること
・ 地域の保健医療福祉介護の関係機関との連携・協力を行うこと
・ 医療連携の地域拠点の役割を果たすこと
・ 情報収集発信の地域拠点の役割を果たすこと
・ 人材育成の地域拠点の役割を果たすこと
・ 地域精神科医療提供機能を支援する役割を果たすこと
② 医療機関に求められる事項(例)
・ 患者の状況に応じて、適切な精神科医療(外来医療、訪問診療を含む。)を提供するとともに、精神症状悪化時等の緊急時の対応体制や連絡体制を確保すること
・ 精神科医、薬剤師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、公認心理師等の多職種によるチームによる支援体制を作ること
・ 医療機関(救急医療、周産期医療を含む。)、障害福祉サービス事業所、相談支援事業所、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等と連携し、生活の場で必要な支援を提供すること
・ 地域連携会議の運営支援を行うこと
・ 積極的な情報発信を行うこと
・ 多職種による研修を企画・実施すること
・ 地域精神科医療提供機能を担う医療機関からの個別相談への対応や、難治性精神疾患・処遇困難事例の受入対応を行うこと
(3) 都道府県連携拠点機能
① 目標
・ 患者本位の精神科医療を提供すること
・ ICFの基本的考え方を踏まえながら多職種協働による支援を提供すること
・ 地域の保健医療福祉介護の関係機関との連携・協力を行うこと
・ 医療連携の都道府県拠点の役割を果たすこと
・ 情報収集発信の都道府県拠点の役割を果たすこと
・ 人材育成の都道府県拠点の役割を果たすこと
・ 地域連携拠点機能を支援する役割を果たすこと
② 医療機関に求められる事項(例)
・ 患者の状況に応じて、適切な精神科医療(外来医療、訪問診療を含む。)を提供するとともに、精神症状悪化時等の緊急時の対応体制や連絡体制を確保すること
・ 精神科医、薬剤師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、公認心理師等の多職種によるチームによる支援体制を作ること
・ 医療機関(救急医療、周産期医療を含む。)、障害福祉サービス事業所、相談支援事業所、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等と連携し、生活の場で必要な支援を提供すること
・ 地域連携会議を運営すること
・ 積極的な情報発信を行うこと
・ 専門職に対する研修プログラムを提供すること
・ 地域連携拠点機能を担う医療機関からの個別相談への対応や、難治性精神疾患・処遇困難事例の受入対応を行うこと
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、ストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ こころの状態(国民生活基礎調査)
・ 精神疾患を有する総患者数の推移(入院外来別内訳、年齢階級別内訳、疾病別内訳)(患者調査、精神保健福祉資料21)
・ 精神病床における入院患者数の推移(年齢階級別内訳、疾患別内訳、在院期間別内訳、入院形態別内訳)(患者調査、精神保健福祉資料)
・ 精神病床における早期退院率(精神保健福祉資料)
・ 3か月以内再入院率(精神保健福祉資料)
・ 自殺死亡率(人口動態統計、都道府県別年齢調整死亡率(業務・加工統計))
(2) 医療資源・連携等に関する情報
・ 従事者数、医療機関数(病院報告、医療施設調査、医師・歯科医師・薬剤師統計、精神保健福祉資料)
・ 往診・訪問診療を提供する精神科病院・診療所数(医療施設調査、精神保健福祉資料)
・ 精神科訪問看護を提供する病院・診療所数(医療施設調査、精神保健福祉資料)
・ 精神科救急医療施設数(事業報告)
・ 精神医療相談窓口及び精神科救急情報センターの開設状況(事業報告)
・ 医療観察法指定通院医療機関数
・ かかりつけ医認知症対応力向上研修修了者数(事業報告)
・ 認知症サポート医養成研修修了者数(事業報告)
・ 認知症疾患医療センターの指定数(事業報告)
・ 認知症疾患医療センター鑑別診断件数(事業報告)
(3) 指標による現状把握
別表5に掲げるような、ストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、多様な精神疾患等ごとに求められる医療機能を明確にして、精神疾患患者の病期及び状態に応じて、求められる医療機能を明確にして、圏域(精神医療圏)を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、ひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。
(3) 圏域(精神医療圏)を設定するに当たっては、患者本位の医療を実現していけるよう、二次医療圏を基本としつつ、それぞれの医療機能及び地域の医療資源等の実情を勘案して弾力的に設定すること。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に精神疾患の診療に従事する者、消防防災主管部局、福祉関係団体、住民・患者及びその家族、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、精神疾患の医療体制を構築するに当たって、多様な精神疾患等ごとに、患者本位の医療を提供できるよう、精神科医療機関、その他の医療機関、保健・福祉等に関する機関、福祉・介護サービス施設及び事業所、ハローワーク、地域障害者職業センター、地域包括支援センター、認知症地域支援推進員、若年性認知症支援コーディネーター等の地域の関係機関の連携が醸成されるよう配慮すること。
また、精神科医療機関、その他の医療機関、消防機関、地域医師会、保健・福祉等に関する機関等の関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する医療機関・保健・福祉等に関する機関・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
さらに、都道府県は、多様な精神疾患等ごとに対応できる医療機関を明確にするとともに、専門職の養成や多職種連携・多施設連携の推進のため、地域連携拠点機能及び都道府県連携拠点機能の強化を図るように努めること。この際、多様な精神疾患等ごとに都道府県連携拠点機能を有する医療機関が1箇所以上あることが望ましい。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
また、精神保健福祉センターにおいては、「精神保健福祉センター運営要領について」(平成8年1月19日付け健医発第57号厚生労働省保健医療局長通知)を参考に、精神保健福祉関係諸機関と医療機関等との医療連携の円滑な実施のため、精神保健に関する専門的立場から、保健所及び市町村への技術指導や技術援助、関係諸機関と医療機関等との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、多様な精神疾患等ごとに各医療機能を担う関係機関(病院、診療所、訪問看護事業所等)の名称を記載すること。ひとつの関係機関が複数疾患の医療機能を担うこともある。可能な限り住民目線の分かりやすい形式でとりまとめ、周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、精神疾患に係る地域の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状分析に用いたストラクチャー、プロセス、アウトカム指標の関連性も考慮し、多様な精神疾患等ごとの医療機能も踏まえ、可能な限り精神医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、精神疾患に係る良質かつ適切な医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標時期について別表5を踏まえて設定し、医療計画に記載すること。
目標時期については、基準病床数の算定において令和8年を設定時期としていることに留意すること。
また、数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を反映するものとし、特に、別表5にアウトカムとして示す項目のうち、「精神病床における入院後3、6、12か月時点の退院率」、「精神障害者の精神病床から退院後1年以内の地域での平均生活日数」、「精神病床における慢性期(1年以上)入院患者数(65歳以上・65歳未満別)」については、障害福祉計画においても成果目標として設定されていることから、当該数値との整合に留意すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に精神医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策・事業を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策・事業について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載する。この際、少なくとも施策・事業の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも3年ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
――――――――――
1 厚生労働省「患者調査」(令和2年)
2 厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」(研究代表者 川上憲人)(平成18年度)
3 厚生労働省障害者総合福祉推進事業「新型コロナウイルス感染症流行下におけるメンタルヘルスに関する相談対応」(株式会社インテージリサーチ)(令和3年度)
4 厚生労働科学研究「精神障害者の重症度判定及び重症患者の治療体制等に関する研究」(研究代表者 安西信雄)(平成25~27年度)
5 厚生労働科学研究「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(研究代表者 二宮利治)(平成26年度)
6 「高次脳機能障害ハンドブック―診断・評価から自立支援まで」(編集 中嶋八十一、寺島彰)医学書院
7 厚生労働科学研究「精神科救急医療体制整備の均てん化に資する研究」(研究代表者 杉山直也)(令和3年度)
8 総務省消防庁「令和3年版 救急・救助の現況」(令和3年)
9 厚生労働科学研究「精神科医療、とくに身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(研究代表者 黒澤尚)(平成19年度)
10 厚生労働科学研究「精神科病棟における患者像と医療内容に関する研究」(研究代表者 保坂隆)(平成18年度)
11 厚生労働省自殺対策推進室、警察庁生活安全局生活安全企画課「令和4年中における自殺の状況」(令和5年3月14日)
12 厚生労働省「自殺対策白書」(令和4年度版)
13 法務省「犯罪白書」(令和3年度版)
14 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課調べ
15 厚生労働省「医療施設調査」(令和2年)
16 厚生労働省「医療施設調査」(平成26年)
17 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和2年)
18 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師調査」(平成26年)
19 厚生労働科学研究「持続可能で良質かつ適切な精神医療とモニタリング体制の確保に関する研究」(研究代表者 竹島正)(令和3年)
20 厚生労働科学研究「精神科医療提供体制の機能強化を推進する政策研究」(研究代表者 山之内芳雄)(平成29年)
21 国立精神・神経医療研究センターが公開している、厚生労働科学研究に基づくデータ
救急医療の体制構築に係る指針
我が国の救急医療の需要は増加傾向にある。救急搬送人数を例に取ると令和元年には過去最多の約598万人となった1。令和2年には、新型コロナウイルス感染症のまん延の影響により約529万人に減少したが、救急医療の需要が増加する傾向は今後も続くことが予想される2。救急医療資源に限りがある中で、この需要に対応しつつ、より質の高い救急医療を提供するためには、地域の救急医療機関が連携し、地域が一体として小児救急、周産期救急、精神科救急を含め、全ての救急患者に対応できる救急医療体制を構築することが重要である。
本指針では、「第1 救急医療の現状」で救急医療の需要及び供給体制について概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また必要となる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれらの医療機関間の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 救急医療の現状
1 救急医療をとりまく状況
わが国における救急医療の受療動向は、およそ以下のとおりになっている。
(1) 救急患者数
一日の救急患者※は、全国で約5万人であり、うち約1.3万人が入院していると推測される3。
※ 救急患者
救急車等によって救急搬送される患者や、休日・夜間等の通常の診療時間外に医療機関を受診する患者等を指す。
(2) 救急搬送人員数
救急搬送人員は、平成22年に約498万人であったが、令和2年には約529万人(31万人、6.2%増)を数えるなど、増加傾向にある1。その背景として、主に、高齢化の進展が挙げられている。
(3) 高齢者救急の増加
救急搬送された高齢者(満65歳以上)についてみると、平成22年には約254万人であったが、令和2年には、約330万人を数え、この10年間で約76万人増となっている。令和2年における救急搬送人員の約62%を65歳以上の高齢者が占めており、後も、高齢者の増加に伴い高齢者救急の件数は増加するものと見込まれる。
(4) 疾病構造の変化
昭和41年には、救急搬送全体のおよそ半数を交通事故等による外傷患者が占め、急病は39.9%(15.3万人)を占めるに過ぎなかった。ところが、平成22年には急病が61.8%(約308万人)、令和2年には、65.2%(約345万人)を占めるに至り1、この10年間で急病の救急搬送人員は37万人増加している。今後も急病の対応が増加し、特に、高齢者救急の増加に伴い、脳梗塞、肺炎、心不全、骨折などによる入院が増加するものと見込まれる。
(5) 救急患者の動向
令和2年における急病の救急搬送人員のうち、「重症」と「死亡」に分類された数をみると、「心疾患等」が最も多く約8.6万人、次いで「症状・徴候・診断名不明確の状態」が約7.6万人、「脳疾患」が約6.6万人となっている。急病のうち死亡が最も多いのは、「心疾患等」であり、「死亡」に占める割合は40.7%ある1。
したがって、重篤な患者の救命救急医療体制を構築するに当たって、重症外傷等の外因性疾患への対応に加えて、脳卒中、急性心筋梗塞等の生活習慣病に起因する急病への対応が重要であるほか、初診時に「症状・徴候・診断名不明確」の状態である患者への対応が必要である1。
また、救急搬送される傷病者で急病に分類されるもののうち、診療の結果として帰宅可能な「軽症」が46%程度を占める1。この中の一部には不要不急にもかかわらず安易に救急車を利用している例も散見される2。救急車の不要不急な利用は、救急搬送を実施する消防機関に負担をかけるのみならず、救急医療機関にも過重な負担をかけることになり、ひいては真に救急対応が必要な者への救急医療に支障を来す結果となる。このことについて、住民に理解を促すことが重要である。
このような状況に対して、総務省消防庁においては、「救急車利用マニュアル」や「救急受診ガイド」等の活用により国民の理解を求める等、救急車等のより適切な利用を促すための啓発活動が行われている他、緊急性の高い傷病者に確実に救急医療資源を提供するため、傷病の緊急度に応じた適切な救急対応について相談に応じる電話相談事業が進められている。
(6) 精神科救急医療の動向
各都道府県において、地域の実情に応じた精神科救急医療体制が整備されている。精神病床を有する総合病院における入院患者を対象とした厚生労働科学研究では、身体疾患と精神疾患ともに入院による治療を必要とする患者の発生する割合は人口1万人対年間2.5件と推計されている4。救命救急センターの入院患者を対象とした厚生労働科学研究では、12%の入院患者は何らかの精神科医療を必要とし、2.2%の入院患者は身体疾患と精神疾患ともに入院による治療を必要とするとの報告5がある。
また、総務省消防庁の調査では、令和2年中の疾病分類別収容平均所要時間(入電から医師引継ぎまでの時間)において、全体の平均が40.6分であったのに対して、事故種別が「急病」で、さらに精神疾患を主な理由として搬送された傷病者の平均は約44.2分と長かった1。このように精神疾患を主な理由として搬送された傷病者の搬送に時間を要している現状があり、適切なトリアージと精神科救急体制との連携が必要とされている。
(7) 新型コロナウイルス感染症まん延時の救急医療の動向
新型コロナウイルス感染症まん延等においては、新型コロナウイルス感染症患者受入専用の初療室を確保したことによる救急初療室の減少、新型コロナウイルス感染症疑い患者を救急外来内で隔離するために同時に受け入れが可能な救急患者数が減少したこと、入院が必要な患者に対する新型コロナウイルス感染症のスクリーニングによる待機時間の発生などが生じたことから、救急外来の機能が制限された。また、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病床を確保するために相対的に一般病床が減少したこと、医療従事者が濃厚接触や感染によって出勤できなくなるケースが増加したことによる人員不足、さらに、退院や転院が滞ることによる出口問題などが生じたことから、入院病床の機能も制限された。このように、救急外来や入院病床における複合的な要因によって、救急患者の受入れが困難になる事案が全国的に増加し、救急医療における様々な課題が顕在化した。
2 救急医療の提供体制
救急医療の提供体制は、およそ以下のとおりとなっている。
(1) 医療機関の受診や救急車の要請に迷う場合の相談機能
近年の救急搬送人員の増加に伴い、総務省消防庁においては、救急車等のより適切な利用を促すための啓発活動の一環として、「救急車利用マニュアル」や「救急受診ガイド」等を活用して国民の理解を求めるほか、傷病の緊急度に応じた適切な救急対応について相談に応じる「救急安心センター事業(#7119)」を実施しており、厚生労働省と連携し全国展開に向けた普及活動を進めている。
また、厚生労働省においては、休日・夜間の子どもの症状に対応するための電話相談窓口である「子ども電話医療相談事業(#8000)」を全都道府県で実施している。
(2) 病院前救護活動
① 市民への救急蘇生法の普及と自動体外式除細動器(AED)の設置
これまで様々な主体によって、救急蘇生法の講習が行われてきた。例えば、消防機関が主体となって実施する普通救命講習だけでも、令和2年中、37万人が受講している1。
この結果、令和2年中に救急隊員によって搬送された心肺機能停止傷病者のおよそ51.5%に対して家族等による人工呼吸や胸骨圧迫等の救急蘇生法が実施されており、その割合は毎年上昇している1。
平成16年より一般住民の使用が可能となったAEDについては市中(病院外)での設置が急速に広がり、全国で60万台(累積)が設置されるに至り6、地域住民の病院前救護活動への参加が今後さらに期待される。
② 消防機関による救急搬送と救急救命士及びメディカルコントロール体制
救急隊は、原則として、一定の応急処置に関する教育を受けた3名以上の救急隊員により構成されている。1隊につき1名以上の救急救命士が配置されることを目標に救急隊の質の向上が図られており、令和3年4月には99.5%の救急隊で救急救命士が同乗している1。
救急救命士については、メディカルコントロール体制の整備を条件として、救急救命処置の範囲が拡大され、平成26年4月からは心肺機能停止前の傷病者に対する輸液等が可能となった。また、令和3年10月に改正救急救命士法が施行され、「病院前」から延長して「救急外来※まで」においても、救急救命士が救急救命処置を実施することが可能となった。医療機関で働く救急救命士においても、業務の質を担保する仕組みとして、救急救命士に対する研修と、研修体制等を整備する委員会の設置が義務づけられた。
※ 救急外来
救急診療を要する傷病者が医療機関に来院してから入院に移行するまで(入院しない場合は、当該医療機関に滞在している間)に必要な診察・検査・処置等を提供される場のことを指す。
傷病者への対応については、救急救命士を含む救急隊員(以下「救急救命士等」という。)の標準的な活動内容を定めたプロトコール(活動基準)が策定され、全国に普及している。これによって、救急救命士等が傷病者に対してより適切に観察、判断、処置を行えるようになり、救急救命士等の資質が向上し、業務が標準化された。
これらプロトコールの作成、薬剤投与等を行う救急救命士への指示・助言及び救急救命士の行った活動の事後検証等を行うメディカルコントロール体制※については、各都道府県にメディカルコントロール協議会を設置するなど、全国的に整備されてきた。しかし、地域によっては、プロトコールの策定状況の見直しを定期的に行っていないところもあるなど、その活動実態には地域差があることが指摘されている7。医療機関に所属する救急救命士の活動も含めて、地域のメディカルコントロール体制の一層の充実強化が必要である。
※ メディカルコントロール体制
病院前救護におけるメディカルコントロール体制とは、①事前プロトコールの策定、②救急救命士に対する医師の指示体制及び救急活動に対する指導・助言、③救急救命士の再教育及び④救急活動の医学的観点からの事後検証を行う体制のことであり、これらの充実を図ることにより、病院前救護に関わる者の資質向上と地域における救命効果の更なる向上を目的とする。これらに加えて、メディカルコントロール協議会の役割として、⑤地域の救急搬送体制及び救急医療体制に係る検証、⑥傷病者の受入れに係る連絡体制の調整等の救急搬送体制及び救急医療体制に係る調整を行うこととしている。
平成13年以降、メディカルコントロール体制の整備が進められ、全都道府県と251地域にメディカルコントロール協議会が設置されている(令和2年1月現在)。適正な搬送先の選定や円滑な救急搬送受入体制の構築に向け、メディカルコントロール協議会等をさらに活用する必要がある。
③ 搬送手段の多様化とその選択
従来の救急車に加え、ドクターカーや救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)※、消防防災ヘリコプター等の活用が広まりつつある。
ヘリコプターによる救急搬送については、ドクターヘリが46都道府県56機(令和4年4月現在)で運用され、その出動件数は年間29千件(平成30年度)に上る。また、消防防災ヘリコプターについても全国で76機(令和3年11月現在)が運用され、救急搬送のために年間2.4千件近く出動している1。都道府県によっては、より効率的なドクターヘリの運航を行うため、近隣都道府県と協議し、ドクターヘリが都道府県境を越えて運航する広域連携が行われている。
今後も、緊急度が高く、患者の治療を行う医療機関への搬送が長距離におよぶ患者に対しては、ヘリコプター等の利用が期待される。
※ 救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)
救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)を用いた救急医療が傷病者の救命、後遺症の軽減等に果たす役割の重要性に鑑み、ドクターヘリを用いた救急医療の全国的な確保を図ることを目的に、救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(平成19年法律第103号)が、平成19年6月27日に施行された。
同法第5条に基づき、都道府県が医療計画を策定するに当たって、ドクターヘリを用いた救急医療の確保について定めるとき又は変更するときには、「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療を提供する病院に関する事項」について記載すること、並びに「都道府県において達成すべき救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に係る目標に関する事項」及び「病院の医師、消防機関、都道府県及び市町村の職員、診療に関する学識経験者その他の関係者の連携に関する事項」について記載することに努めることが求められる。
④ 傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準(実施基準)の策定と実施
平成18年から平成20年にかけて、搬送先の病院を探して複数の救急医療機関に電話等で問い合わせても受入医療機関が決まらない、いわゆる受入医療機関の選定困難事案が発生したことを契機として、平成21年5月に消防法(昭和23年法律第186号)が改正され、都道府県に、傷病者の搬送及び傷病者の受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)の策定及び実施基準に係る協議、調整等を行う協議会(以下「法定協議会」という。)の設置等が義務付けられている。現在、全ての都道府県において実施基準が策定済みとなっており、今後は、実施基準のより円滑な運用及び改善が必要なため、法定協議会(メディカルコントロール協議会等をこれに位置付けることも可能)において実施基準に基づく傷病者の搬送及び受入れの実施状況の調査及び検証を行い、必要があるときは実施基準の見直しを行うなどにより、傷病者の状況に応じた適切な搬送及び受入体制を構築することが期待される。
一方、受入医療機関の選定困難事案は依然存在しており、救急医療機関が搬送に応じられない原因として「手術中・患者対応中」、「処置困難」、「ベッド満床」、「専門外」、「医師不在」等が挙げられている8。特に、新型コロナウイルス感染症のまん延時においては、前述のように救急外来や入院病床の機能が制限されたことにより、救急患者の受入れが困難になる事案が増加した。(第1の1(7)参照)
この問題を解消するためには、受入困難の原因を詳細に把握分析し、それぞれの地域の実状に応じて消防機関と救急医療機関(小児救急、周産期救急、精神科救急を含む。)とが一体となり対応する必要がある。
これまで、各都道府県において、救急医療機関から情報を収集し、医療機関や消防機関等へ必要な情報提供を行い、救急医療に関わる関係者の円滑な連携を構築することを目的に、救急医療情報センターを整備し、診療科別医師の在否や、手術・処置の可否、病室の空床状況等の情報を共有してきた。こうした取組に加えて、新型コロナウイルス感染症のまん延時おいては、各医療機関の入院受入可能病床等について、都道府県内の関係者間で情報を共有し、いわゆる「医療の見える化」を進めるため、医療機関等情報支援システム(G―MIS:Gathering Medical Information System)が構築され、新型コロナウイルス感染症患者の入院調整等に活用された。実施基準の運用により受入医療機関の選定困難事案を解消していくためには、これらの取組が地域の実情に応じて、より実効的かつ有効的なものとなるよう改善していく必要がある。
また、近年、救急隊が心肺停止傷病者の心肺蘇生を望まないと伝えられる事案の対応について、多くの消防本部で課題として認識されている。総務省消防庁が全国の消防本部を対象に調査を行ったところ、心肺蘇生を望まない傷病者への対応方針を定めていると回答した本部は、399か所(55.0%)(令和2年度調査)から446か所(61.6%)(令和3年度調査)と増加しており、地域において対応方針の検討が進められている。
(3) 初期救急医療を担う医療機関(初期救急医療機関)
初期救急医療は、診療所及びそれを補完する休日夜間急患センターや在宅当番医制において、地域医師会等の協力により実施され、救急搬送を必要としない多くの救急患者の診療を担ってきた実績がある。
しかし、曜日、時間帯や初期救急を担う医療機関の診療科などが限定されていることにより、入院を要する救急医療を担う医療機関に、多くの軽症患者が直接受診することもあり、結果として、入院を要する救急医療を担う医療機関が本来担うべき救急医療に支障を来す可能性が指摘されている。今後も軽症患者の救急需要の増大が予想される中、地域の実情に応じた初期救急医療を構築する必要がある。
(4) 入院を要する救急医療を担う医療機関(第二次救急医療機関)
これまで、病院群輪番制病院や共同利用型病院等の整備が進められ、地域の入院機能を担う救急医療機関の確保が図られてきた。
多くの地域でこれらの体制が取られているが、その活動の実態は様々である。例えば、病院群輪番制において、輪番日であっても救急患者をほとんど受け入れない救急医療機関がある一方で、輪番日にかかわらず多くの救急患者を受け入れている救急医療機関があり、輪番制という実態を伴っていない地域もある9。
今後は、活動の実態に即して、救急医療機関としての役割を評価していく必要がある。
また、輪番制病院制度は、地域の救急医療を担う人材をはじめとする医療資源が限られている中で、医療資源を分散して整備する必要があることや、住民・消防機関にとってどの医療機関が当番を担っているか等が分かりにくいといった問題も踏まえ、一年を通じて、診療科にかかわらず広く救急医療を行う医療機関が参加するよう検討する必要がある。その際、今後の高齢化・人口減少に加え、医師の働き方改革への対応等により医療資源の効率的な活用がより重要となることも踏まえ、地域医療構想による医療機能の分化・連携の取組もあわせて検討する必要がある。
入院を要する救急医療を担う医療機関(第二次救急医療機関)は、脳卒中や急性心筋梗塞等に対する専門的な医療を要する患者を含め、救急搬送される患者の大部分を受け入れてきたが1、今後は、特に増加が見込まれる高齢者救急についても、主な受入れ先としての役割を担う必要があり、当該医療機関の更なる充実と救命救急医療機関(第三次救急医療機関)との役割分担の明確化が必要である。
(5) 救命救急医療機関(第三次救急医療機関)
① 救命救急センター・高度救命救急センター
救命救急医療を担う救命救急センターは、当初100万人に1か所を目途(全国100か所程度)に、このうち、特に高度な救急医療を提供する施設が高度救命救急センターとして整備してきたが、現在、全国に300か所(うち高度救命救急センター46か所)の施設が指定されている(令和4年7月現在)。
② 脳卒中や急性心筋梗塞等に対する救急医療
救命救急センターを有する病院においては、脳卒中や急性心筋梗塞等の専門的な医療のみならず、重症外傷やその他の複数診療科にまたがる重篤な患者への医療が提供されてきた。ただし、脳卒中や急性心筋梗塞の医療は、救命救急センターを有する病院以外の病院等においても行われている。
今後も、これらの医療機関を含めて、それぞれの疾患の特性に応じた救急医療体制を構築する必要がある。(脳卒中及び心筋梗塞等の心血管疾患については、それぞれの医療体制構築に係る指針を参照のこと。)
③ アクセス時間を考慮した体制の整備
救急医療(特に、脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の救命救急医療)においては、アクセス時間(発症から医療機関で診療を受けるまでの時間)の長短が、患者の予後を左右する重要な因子の一つである。
従って、特に救命救急医療の整備に当たっては、どこで患者が発生したとしても一定のアクセス時間内に、適切な医療機関に到着できる体制を整備する必要がある。
なお、アクセス時間は、単に医療機関までの搬送時間ではなく、発症から適切な医療機関で適切な治療が開始されるまでの時間として捉えるべきである。
一定の人口規模を目安にしつつも、地理的な配置を考慮して、地理情報システム(GIS※)等の結果を参考に、地理的空白地帯を埋める形で、適切な治療が可能な救命救急医療機関の整備を進める必要がある。
なお、救命救急医療を必要とする患者の発生がそれほど見込めない場合や、十分な診療体制を維持できない場合は、例えば、ドクターヘリや消防防災ヘリコプターで患者搬送を行うといった搬送手段の工夫によりアクセス時間を短縮する等して、どの地域で発生した患者についても、一定のアクセス時間内に、必要な救命救急医療を受けられる体制を構築する必要がある。
今後新たに救命救急医療施設等の整備を進める際には、前記視点に加え、救急医療に携わる医師の勤務環境への配慮や、一施設当たりの患者数を一定以上に維持する等して質の高い救急医療を提供することが重要である。
※ GIS(Geographic Information System)
地図に相当する地理情報のデータベースと、表示、案内、検索等の機能を一体とするコンピュータシステムのこと。当該システムの活用により、救急医療機関までのアクセス時間等を計算することが可能となる。
④ いわゆる「出口の問題」
前述の受入医療機関の選定困難事案の原因のひとつに、「ベッド満床」が挙げられている。
その背景として、救急医療機関(特に救命救急医療機関)に搬入された患者が救急医療用の病床を長期間使用することで、救急医療機関が新たな救急患者を受け入れることが困難になる、いわゆる救急医療機関の「出口の問題」が指摘されている。
具体的には、急性期を乗り越えたものの、重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症がある場合や、合併する精神疾患によって一般病棟では管理が困難である場合、さらには人工呼吸管理が必要である場合などに、自宅への退院や他の病院等への転院が困難とされている。
この問題を改善するには、高次の医療機関からの必要な転院搬送を促進することが求められる。例えば、急性期を脱した患者で、重度の後遺症等により在宅への復帰が容易でない患者を受け入れる医療機関や介護施設等と、救命救急医療機関との連携の強化が必要である。具体的には、受入れ先となる医療機関と患者を受け入れる際に必要な情報や受入可能な時間帯、搬送方法等についてあらかじめ共有しておくことが望ましい。緊急性の乏しい転院搬送については、本来、消防機関が実施するものではないため、医療機関が所有するいわゆる病院救急車、消防機関が認定する患者等搬送事業者等の民間救急の活用が求められている。また、地域医療構想による病床機能の分化・連携の取組により、救急医療機関における患者の重症度・緊急度に応じた役割分担と連携を進めることも重要である。
また、同様の問題として、救命救急センターを有する病院において、院内の連携が十分でない等の理由により、急性期を乗り越えた救命救急センターの患者が、一般病棟へ円滑に転床できずに、救命救急センターにとどまり、結果として救命救急センターでありながら新たな重症患者を受け入れることができないといった点も指摘されている。これについても、救命救急医療の機能は病院全体で担う責任があるという観点から、院内における連携体制を強化していく必要がある。
(6) 精神科救急医療体制と一般救急医療機関等との連携
都道府県は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条の11に基づき、緊急な医療を必要とする全ての精神障害者が、迅速かつ適正な医療を受けられるよう、精神科救急医療体制の確保に努める必要がある。都道府県又は政令指定都市は、精神科救急医療体制整備事業を活用して、精神科救急医療体制連絡調整委員会を設置し、精神科救急医療施設の確保や円滑な運営を図ってきている。また、精神科救急情報センターを整備し、救急医療情報センターや救急医療機関や消防機関等からの要請に対し、身体疾患を合併している者も含め、緊急な医療を必要とする精神障害者の搬送先医療機関の紹介に努めてきている。あわせて、厚生労働省は、精神科救急医療体制整備事業の実施要綱に基づき、精神科救急医療圏域単位での精神科救急医療体制及び身体合併症患者の医療体制の確保に向けた検討を実施するとともに、関係機関(警察、消防、一般救急等)との研修を通じた相互理解の推進を求めている。
さらに、自殺対策基本法に基づいて、第3次「自殺総合対策大綱」(平成29年7月25日閣議決定)を策定し、その下で自殺対策を総合的に推進してきた。直近では、第4次「自殺総合対策大綱」(令和4年10月14日閣議決定)が策定され自殺未遂者の再度の自殺を防ぐために、救急医療施設における精神科医や精神保健福祉士等の専門職からなるチームによる診療体制、精神科医療機関との診療協力体制等の充実を図る必要がある。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「1 救急医療の現状」を踏まえ、個々の役割と医療機能、それを満たす各関係機関、それら関係機関相互の連携により、病院前救護活動から社会復帰までの医療が連携し継続して実施される体制を構築すること。
(1) 医療機関の受診や救急要請の相談に対応することが可能な体制
① 全国共通番号の電話相談体制(#7119、#8000)の整備
② 地域住民等が電話相談等により、適切な医療機関の受診や救急車の要請ができる体制
(2) 適切な病院前救護活動が可能な体制
① 本人・周囲の者による必要に応じた速やかな救急要請及び救急蘇生法の実施
② メディカルコントロール体制の整備による救急救命士等による適切な活動(観察・判断・処置)の実施
③ 実施基準に基づく適切な傷病者の搬送及び医療機関の受入れ
④ 地域住民の救急医療への理解
(3) 重症度・緊急度に応じた医療が提供可能な体制
① 患者の状態に応じた適切な救急医療の提供
② 救急医療に係る資源の効率的な配置とアクセス時間を考慮した整備
③ 必要に応じて、より高度・専門的な救急医療機関へ速やかに紹介できる連携体制
④ 脳卒中・急性心筋梗塞・重症外傷等の、それぞれの疾患に応じた医療体制
⑤ 複数診療科の介入を要する症例や診断が難しい症例等、他の医療機関では治療の継続が困難な救急患者を受け入れる体制
⑥ 精神疾患を有する患者や障害者、小児、妊婦、透析患者等、特に配慮を要する患者を受け入れる体制
⑦ 急性期を乗り越えた救命救急センターの患者を、医療機能の分化・連携により地域の他の医療機関に転院させ、又は一般病棟へ円滑に転棟させることができる体制
(4) 増加する高齢者救急を受け入れる体制
① 増加する高齢者救急を主に受け入れる医療機関の位置づけ
② 特に高齢患者が受診後に安心して生活できるよう、生活上の留意点に関する指導を行い、必要な支援へつなぐ体制
(5) 救急医療機関等から療養の場へ円滑な移行が可能な体制
① 救命期を脱するも、重度の合併症、後遺症のある患者等について、高次の救急医療施設から適切な医療機関への必要な転院搬送ができる体制
② 重度の合併症、後遺症のある患者が、介護施設・在宅で療養を行う際に、医療及び介護サービスが相互に連携できる体制
③ 地域包括ケアシステムの構築に向け、救急医療機関の機能と役割を明確にし、地域で連携したきめ細やかな取組を行うことができる体制
(6) 新興感染症の発生・まん延時における救急医療
① 救急患者を受け入れるために必要な感染対策を講じることができる人材を平時から育成する体制
② 医療機関において、救急外来の需要が急増した際に外来機能を拡充する方法について平時から検討する体制
③ 救急外来を受診しなくても済むよう、電話等による相談体制(#7119、#8000等)及びオンライン診療を実施する体制を平時から充実させ、新興感染症のまん延により救急外来の需要が急増した際にも対応できる体制
④ 救急医療機関が、通常の救急患者に対しても適切な医療を提供できるよう、第二次救急医療機関や第三次救急医療機関及び地域全体において対応できる体制
⑤ いったん患者を幅広く受け入れ、必要な初療を行った上で、入院が必要な際には他の医療機関に転院させる外来機能に特化した医療機関の整備や、患者や医療人材を集めて対応する大規模な医療機関の整備、第二次救急医療機関や第三次救急医療機関に患者を分散して対応する体制等、地域の実情に応じて、精神疾患を有する患者、障害者、小児、妊婦、透析患者等、特に配慮を要する患者を含め患者等を受け入れる医療機関をあらかじめ検討し、新興感染症の発生・まん延時の患者の受入れに対応できる体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、救急の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(5)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定する。
(1) 医療機関の受診や救急車の要請の相談に対応する機能
① 目標
・ 患者又は周囲の者が、必要に応じて、居住している地域にかかわらず、速やかに電話相談窓口等への相談できること
・ 電話相談の実施により、適切かつ速やかな救急要請又は適切な医療機関への受診が行われること
② 関係者に求められる事項
ア 都道府県
・ 全ての地域の住民が、質の高い相談窓口のサービスを受けられるよう、電話相談窓口等の整備や周知を実施すること
(2) 病院前救護活動の機能【救護】
① 目標
・ 患者又は周囲の者が、必要に応じて、速やかに救急要請及び救急蘇生法を実施すること
・ メディカルコントロール体制の整備により、救急救命士等の活動が適切に実施されること
・ 実施基準の運用や、空床情報等のデータ共有による医療の見える化により、傷病者の搬送及び医療機関への受入れが適切に行われること
・ 地域住民の救急医療への理解を深める取組が行われること
② 関係者に求められる事項
ア 住民等
・ 講習会等の受講により、傷病者に対する応急手当、AEDの使用を含めた救急蘇生法が実施可能であること
・ 傷病者の救護のため、必要に応じて適切かつ速やかに救急要請を行うこと、又は適切な医療機関を受診すること
・ 日頃からかかりつけ医を持ち、また、電話による相談システムを用いて、適切な医療機関の受診、適切な救急車の要請、他の交通手段の利用等を判断すること
・ 人生の最終段階においてどのような医療・ケアを望むかについて日頃から話し合うこと
イ 消防機関の救急救命士等
・ 住民等に対し、応急手当、AEDの使用を含めた救急蘇生法等に関する講習会を実施すること
・ 脳卒中、急性心筋梗塞等、早期の救急要請が必要な疾患について関係機関と協力して住民教育の実施を図ること
・ 搬送先の医療機関の選定に当たっては、実施基準や医療機関とのデータ共有等により、事前に各救命救急医療機関の専門性や空床情報等を把握すること
・ 地域メディカルコントロール協議会により定められたプロトコールに則し、心肺機能停止、外傷、急病等の患者に対して、適切な観察・判断・処置を実施すること
・ 搬送手段を選定し、適切な急性期医療を担う医療機関を選定し、傷病者を速やかに搬送すること
・ 緊急な医療を必要とする精神疾患を有する患者等の搬送に当たっては、精神科救急情報センターを活用し、精神科救急医療体制と十分な連携を図ること
ウ メディカルコントロール協議会
・ 救急救命士等の行う処置や、疾患に応じた活動プロトコールを策定し、事後検証等によって随時改訂すること
・ 実施基準を踏まえ、搬送手段を選定し、適切な医療機関に搬送するためのプロトコールを策定し、事後検証等によって随時改訂すること
・ 医師から救急救命士に対する直接指示・助言する体制が確立されていること
・ 救急救命士等への再教育を実施すること
・ ドクターカーやドクターヘリ等の活用の適否について、地域において定期的に検討すること
・ ドクターヘリや消防防災ヘリコプター等の活用に際しては、関係者の連携について協議する場を設け、ドクターヘリが同時に要請された際や、都道府県境付近の患者からの要請時における都道府県境を越えた隣接都道府県との広域連携を含め、効率的な運用を図ること
・ ドクターカーについて、厚生労働省が実施する調査や、調査に基づき作成されたマニュアルを参考にしながら、救急医療提供体制の一部として、より効果的に活用すること
・ 地域包括ケアシステムの構築に向け、第二次救急医療機関等の救急医療機関、かかりつけ医や介護施設等の関係機関が連携・協議する体制を、メディカルコントロール協議会等を活用して構築し、より地域で連携したきめ細やかな取組を進めること
・ 必要に応じて年間複数回以上協議会を開催すること
エ 地域の救急医療関係者
・ 医療関係者、介護関係者は、地域包括ケアシステムやアドバンス・ケア・プランニング(以下「ACP」という。)に関する議論の場等において、患者の希望する医療・ケアについて必要な時に確認できる方法について検討すること
・ 自治体や医療従事者等は、患者や家族等が、人生の最終段階においてどのような医療・ケアを望むかについて日頃から話し合うよう促すこと
・ ACPに関する議論や救急現場における心肺蘇生を望まない心肺停止患者への対応方針等は、例えば、救急医療の関係者や地域包括ケアの医療・介護関係者、消防関係者等地域の関係者がそれぞれ実施する会議を合同で開催することなどにより、地域の実情に応じ地域の多様な関係者が協力して検討すること
(3) 初期救急医療を担う医療機関の機能【初期救急医療】
① 目標
・ 患者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
主に、独歩で来院する軽度の救急患者への夜間及び休日における外来診療を行う。
・ 救急医療の必要な患者に対し、外来診療を提供すること
・ 休日・夜間急患センターの設置や在宅当番医制などにより、地域で診療の空白時間が生じないように努めること
・ 病態に応じて速やかに患者を紹介できるよう、近隣の医療機関や精神科救急医療体制等と連携していること
・ 休日・夜間に対応できる薬局と連携していること
・ 自治体等との連携の上、診療可能時間や対応可能な診療科等について住民等に周知していること
③ 医療機関の例
・ 休日・夜間急患センター
・ 休日や夜間に対応できる診療所
・ 在宅当番医制に参加する診療所
(4) 入院を要する救急医療を担う医療機関(第二次救急医療)の機能【入院救急医療】
① 目標
・ 24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること
・ 患者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
高齢者救急をはじめ、地域で発生する救急患者の初期診療と入院治療を主に担う。医療機関によっては、脳卒中、急性心筋梗塞等に対する医療等、自施設で対応可能な範囲において高度な専門的診療を担う。また、自施設では対応困難な救急患者については、必要な救命処置を行った後、速やかに、救命救急医療を担う医療機関等へ紹介する。救急救命士等への教育機能も一部担う。
・ 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師・看護師が常時診療等に従事していること
・ その他、医療関係職種が必要に応じて診療の補助業務に対応できること
・ 救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること
・ 救急医療を要する傷病者のために優先的に使用される病床又は専用病床を有すること
・ 救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること
・ 急性期にある患者に対して、必要に応じて早期のリハビリテーションを実施すること
・ 初期救急医療機関や精神科救急医療体制等と連携していること
・ 当該病院では対応できない重症救急患者への対応に備え、近隣のより適切な医療機関と連携していること
・ 第三次救急医療機関や、回復期病床・慢性期病床を有する医療機関等と、患者を受け入れる際に必要な情報や受入可能な時間帯、搬送方法等についてあらかじめ共有しておくこと
・ 高次の医療機関からの転院搬送を行う場合には、医療機関が所有する搬送用車両等を活用すること
・ 救急医療情報センターを通じて、診療可能な日時や、診療機能を住民・救急搬送機関に周知していること
・ 医師、看護師、救急救命士等の医療従事者に対し、必要な研修を行うこと
・ 救急医療提供体制の機能向上のため、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士等、多職種へのタスク・シフト/シェアを含め、地域の実情に応じて、救急外来に携わる多職種の業務分担や効率化を進めること
・ 数年間、受入実績のない救急医療機関については、その位置付けについて見直しを検討すること
・ 救急病院等を定める省令(昭和39年厚生省令第8号)によって定められる救急病院であること
③ 医療機関の例
・ 病院群輪番制病院、共同利用型病院
・ 一年を通じて診療科にとらわれず救急医療を担う病院又は有床診療所
・ 地域医療支援病院(救命救急センターを有さないもの)
・ 脳卒中や急性心筋梗塞等に対する急性期の専門的医療を担う病院又は有床診療所
(5) 救命救急医療機関(第三次救急医療)の機能【救命医療】
① 目標
・ 24時間365日、救急搬送の受入れに応じること
・ 患者の状態に応じた適切な情報や救急医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
緊急性・専門性の高い脳卒中、急性心筋梗塞等や、重症外傷等の複数の診療科領域にわたる症例や診断が難しい症例等、他の医療機関では治療の継続が困難かつ幅広い疾患に対応して、高度な専門的医療を総合的に実施する。
その他の医療機関では対応できない重篤な患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。
また、救急救命士等へのメディカルコントロールや、救急医療従事者への教育を行う拠点となる。
なお、医療計画において救命救急医療機関として位置付けられたものを救命救急センターとする。さらに、救命救急センターの中でも、高度救命救急センターについては、特に高度な診療機能を有し、通常の救命救急センターでは対応困難な重症外傷等の診療を担う。
・ 脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、広域災害時を含めて24時間365日必ず受け入れることが可能であること
・ 集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと
・ 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師(日本救急医学会が認定する救急科専門医等)・看護師が常時診療等に従事していること
・ その他、医療関係職種が必要に応じて診療の補助業務に対応できること
・ 高度救命救急センター等の地域の基幹となる救急医療機関は、平時から、重症外傷等の特に高度で専門的な知識や技術を要する患者へ対応可能な医師・看護師等の人材の育成・配置、院内の体制整備を行い、地域における重篤患者を集中的に受け入れる役割を担う。また、厚生労働省が実施する外傷外科医等養成研修事業を活用して、テロ災害発生時等における銃創や爆傷等にも対応ができる体制を構築すること。
・ 必要に応じ、ドクターヘリ、ドクターカーを用いた救命救急医療を提供すること
・ 救命救急に係る病床の確保のため、一般病棟の病床を含め、医療機関全体としてベッド調整を行う等の院内の連携がとられていること
・ 急性期のリハビリテーションを実施すること
・ 急性期を経た後も、重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症がある患者、精神疾患を合併する患者、人工呼吸器による管理を必要とする患者等の、特別な管理が必要なため退院が困難な患者を転棟、転院できる体制にあること
・ 第二次救急医療機関や、回復期病床・慢性期病床を有する医療機関等と、患者を受け入れる際に必要な情報や受入れ可能な時間帯、搬送方法等についてあらかじめ共有しておくこと
・ 高次の医療機関からの転院搬送を行う場合には、医療機関が所有する搬送用車両等を活用すること
・ 実施基準の円滑な運用・改善及び都道府県又は地域メディカルコントロール体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと
・ DMAT※派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと
・ 災害時に備え、災害拠点病院と同様に自家発電機(備蓄する燃料を含む。)、受水槽(備蓄する飲料水を含む。)の保有が望ましい
・ 救急医療情報センターを通じて、診療機能を住民・救急搬送機関等に周知していること
・ 医師、看護師等の医療従事者に対し、必要な研修を行う体制を有し、研修等を通じ、地域の救命救急医療の充実強化に協力していること
・ 救急医療提供体制の機能向上のため、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士等、多職種へのタスク・シフト/シェアを含め、地域の実情に応じて、救急外来に携わる多職種の業務分担や効率化を進めること
・ 都道府県又は地域メディカルコントロール協議会に医師を参加させるとともに、救急救命士の気管挿管・薬剤投与等の病院実習や、就業前研修、再教育などに協力していること
・ 救急病院等を定める省令によって定められる救急病院であること
※ DMAT(災害派遣医療チーム)については、災害時における医療体制の構築に係る指針を参照のこと。
(6) 救命救急医療機関等からの転院を受け入れる機能【救命後の医療】
① 目標
・ 在宅等での療養を望む患者に対し医療機関からの退院を支援すること
・ 合併症、後遺症のある患者に対して慢性期の医療を提供すること
② 医療機関に求められる事項
・ 救急医療機関と連携し、人工呼吸器が必要な患者や、気管切開等のある患者を受け入れる体制を整備していること
・ 重度の脳機能障害(遷延性意識障害等)の後遺症を持つ患者を受け入れる体制を整備していること
・ 救急医療機関等の地域の医療機関と、患者を受け入れる際に必要な情報や受け入れ可能な時間帯、搬送方法等についてあらかじめ共有しておくこと
・ 高次の医療機関からの転院搬送を行う場合には、医療機関が所有する搬送用車両を活用すること
・ 救命期を脱した救急患者で、精神疾患と身体疾患を合併した患者を受け入れる体制を整備していること
・ 生活機能の維持及び向上のためのリハビリテーション(訪問及び通所リハビリテーションを含む。)が実施可能であること
・ 日常生活動作(ADL)の低下した患者に対し、在宅等での包括的な支援を行う体制を確保していること
・ 通院困難な患者の場合、薬局、訪問看護事業所等と連携して在宅医療を実施すること、また居宅介護サービスを調整すること
・ 救急医療機関及び在宅での療養を支援する医療機関等と診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
・ 診療所等の維持期における他の医療機関と、診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
③ 医療機関等の例
・ 療養病床を有する病院
・ 精神病床を有する病院
・ 回復期リハビリテーション病棟を有する病院
・ 地域包括ケア病棟を有する病院
・ 診療所(在宅医療等を行う診療所を含む。)
・ 訪問看護事業所
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、救急医療の体制を構築するに当たって、(1)~(3)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(4)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)~(3)の各項目について、参考として調査名や担当部局を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 救急患者動向に関する情報の収集
・ 救急搬送患者数(年齢別・性別・疾患別・重症度別)(消防防災主管部局)
・ 救急車により搬送された入院患者の流入割合、流出割合(患者調査)
・ 搬送先医療機関(年齢別・性別・疾患別・重症度別、応需率等)(消防防災主管部局、衛生主管部局)
(2) 救急医療の医療資源に関する情報の収集
・ 病院前救護活動(救急救命士の数等)(消防防災主管部局)
・ 搬送手段に係わる情報(救急車、ドクターカー、ドクターヘリ、消防防災ヘリコプター等の活用状況)(消防防災主管部局、衛生主管部局)
・ 救急医療に携わる施設とその位置(衛生主管部局)
・ 医療機関の機能(対応可能な疾患・診療科を含む。)と体制(衛生主管部局)
・ 救急医療機関の人員(衛生主管部局)
(3) 救急医療連携に関する情報の収集
① 救急搬送等
・ 地域メディカルコントロール協議会の活動状況(協議会の開催頻度、第二次救急医療機関等の救急医療機関、かかりつけ医や介護施設等の関係機関が参加した開催回数、事後検証の実施症例数、救急救命士の病院実習の実施状況等)
・ 救急車で搬送する病院が決定するまでに、要請開始から、例えば30分以上、又は4医療機関以上に要請を行った、一定期間における件数とその原因分析、全搬送件数に占める割合
・ 救急要請(覚知)から救急医療機関へ収容するまでに要した平均時間
・ 救急要請から救命救急センターへの搬送までに要した平均時間
・ 救命救急センター等の各救急医療機関において、消防機関からの救急搬送受入要請に対して実際に受け入れた人員の割合
・ 1時間以内に救命救急センターに搬送可能な地域の人口カバー率
② 救急医療に関連する施設の連携状況
・ 救急医療機関への搬送手段及び搬送元の分類(現場からの搬送、転院搬送)
・ 救急医療機関に搬送された救急患者の退院経路
・ 転棟・転院を調整する者を常時配置している救命救急センターの数
・ 休日・夜間に対応できる薬局の数
(4) 指標による現状把握
別表6に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、救急医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、重傷度・緊急度に応じた医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、圏域内に機能を担う施設が存在しない場合には、圏域の再設定を行うこともあり得る。
ただし救命救急医療について、一定のアクセス時間内に当該医療機関に搬送できるように圏域を設定することが望ましい。
(3) 検討を行う場合は、地域医師会等の医療関係団体、現に救急医療・救急搬送に従事する者、現に精神科救急に従事する者、消防防災主管部局、都道府県又は地域メディカルコントロール協議会、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、救急医療体制を構築するに当たって、患者の重症度・緊急度に応じて適切な医療が提供されるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
また、医療機関、消防機関、消防防災主管部局、地域医師会等の関係者は、診療情報(提供可能な救急医療等)の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互又は医療機関と消防機関との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の救急医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な救急医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する時間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療その他必要な事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 総務省消防庁「令和3年版 救急・救助の現況」(令和3年)
2 総務省消防庁「令和3年度 救急業務のあり方に関する検討会報告書」(令和4年3月)
3 厚生労働省「患者調査」表番号31(令和26年)
4 厚生労働科学研究「精神科医療、とくに身体疾患や認知症疾患合併症例の対応に関する研究」(主任研究者 黒澤尚)(平成19年)
5 厚生労働科学研究「精神科病棟における患者像と医療内容に関する研究」(主任研究者 保坂隆)(平成18年)
6 厚生労働科学研究「心臓突然死の生命予後・機能予後を改善させるための一般市民によるAEDの有効活用に関する研究(主任研究者 坂本哲也)(平成27年度)
7 消防庁「メディカルコントロール体制に関する実態調査結果(解説版)」(平成28年12月28日)
8 消防庁「平成27年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果」(平成26年12月)
9 厚生労働省「救急医療対策事業調査」(平成27年)
災害時における医療体制の構築に係る指針
災害時における医療(以下「災害医療」という。)については、災害発生時に、災害の種類や規模に応じて利用可能な医療資源を可能な限り有効に使う必要があるとともに、平時から、災害を念頭に置いた関係機関による連携体制をあらかじめ構築しておくことが必要不可欠である。
本指針では、「第1 災害医療の現状」で災害医療がどのようなものであるのかについて概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築するのかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また必要となる医療機能を明確に理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とさらにそれらの医療機関間の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価まで行えるようにすること。
第1 災害医療の現状
1 災害の現状
災害には、地震、風水害、火山災害、雪害等の自然災害から、海上災害、航空災害、鉄道災害、道路災害、大規模な事故による災害(事故災害)に至るまで様々な種類がある。また、同じ種類の災害であっても、発生場所、発生時刻や発生時期等によって被災・被害の程度は大きく異なる。
(1) 自然災害(地震に伴う津波や火事を含む。)
自然災害の代表的なものとして、地震、風水害、火山災害、雪害等がある。
① 地震
我が国においては、木造建築物の多い密集市街地が広い範囲で存在するため、地震によって大規模火災が発生したり建物が崩壊したりするなど、これまでも多大な被害が発生してきた。
昭和23年の福井地震の後、死者が一千名を超える地震災害としては、平成7年1月の阪神・淡路大震災(死者6,433名)、平成23年3月の東日本大震災(死者15,893名、行方不明者2,556名(平成28年12月9日現在))がある1。また、平成28年4月14日と16日に最大震度7の地震が熊本県を中心とした九州地方に発生し、その被害は死者49名、重傷者345名、軽傷者1,318名(平成28年5月31日時点)に上った2。さらに、平成30年9月6日に最大震度7の地震が北海道胆振地方で発生し、その被害は死者42名、重軽傷者762名に上った。また、日本で初めてとなるエリア全域に大規模停電(ブラックアウト)が発生し、道内全域において最大約295万戸が停電、概ね全域に供給できるまで45時間程度を要した3。
このため、遠くない時期に発生することが懸念されている東海地震、東南海・南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震はもちろんのこと、それ以外の地域でも大規模地震の発生する可能性を考慮し、全ての地域で地震に対する災害医療体制を構築する必要がある。
② 風水害等
近年、短時間強雨の年間発生回数が明瞭な増加傾向にあり、大河川の氾濫も相次いでいる。令和元年には、相次ぐ台風の接近・上陸により、関東地方や東北地方を中心に大きな被害が生じた。また、線状降水帯の発生により記録的な大雨となった令和2年7月大雨では、九州地方を中心に死者・行方不明者86名、負傷者77名、住家被害16,599棟の被害が生じた。さらに、令和3年7月の大雨では、静岡県熱海市の土砂災害を中心に死者・行方不明者28名、負傷者11名、住家被害3,626の被害が生じ、同年8月の大雨では、西日本から東日本の広い範囲で大雨となり、九州地方を中心に死者・行方不明者13名、負傷者17名、住家被害8,209の被害が生じた4。このように豪雨災害が毎年発生し、各地で甚大な被害をもたらしており、今後も、大雨の頻度や熱帯低気圧の強度の増加が予想されている。
<令和3年度における風水害等の状況>
災害名 |
死者行方不明者 |
住家被害 |
令和3年7月 令和3年7月1日からの大雨 |
28名 |
3,626棟 |
令和3年8月 令和3年8月の大雨 |
13名 |
8,209棟 |
内閣府「防災情報のページ 災害情報」
(2) 事故災害
事故災害として、鉄道災害、道路災害、大規模な火事災害、林野災害等の大規模な事故による災害等が挙げられる。
例として、昭和60年に発生した日航機墜落事故(搭乗員524名中520名死亡)や平成17年4月に発生したJR福知山線尼崎脱線転覆事故(死者107名、負傷者555名)等が挙げられる。
2 災害医療の提供
我が国の災害医療体制は、国や自治体が一部支援しつつ、関係機関(救急医療機関、日本赤十字社、地域医師会、地域歯科医師会、地域薬剤師会、都道府県看護協会等)において、地域の実情に応じた体制が整備されてきた。
さらに、平成7年に発生した阪神・淡路大震災を契機に、以下の体制が整備され、平成23年に発生した東日本大震災を踏まえて見直しが行われたところである。
なお、原子力災害、危険物等災害及びテロ等への対策については、関係する法律に基づき体制整備がなされるものであり、本指針では対象としない。
(1) 災害拠点病院
平成8年度以降、災害拠点病院(基幹災害拠点病院及び地域災害拠点病院)の整備が図られ、令和4年4月現在、全国で765病院が指定されている。
災害拠点病院は、災害による重篤患者の救命医療等の高度の診療機能を有し、被災地からの患者の受入れ、広域医療搬送に係る対応等を行う。
「災害発生時における医療体制の充実強化について」(平成24年3月21日付け医政発0321第2号厚生労働省医政局長通知。以下「災害医療通知」という。)に基づき、それぞれの災害拠点病院の機能強化を図ることとなっており、同時に指定した災害拠点病院が指定要件を充足しているか毎年確認することが重要である。
なお、地震等の災害時には、外傷、広範囲熱傷、挫滅症候群※等が多く発生するが、平時においてこれらの診療の多くは救命救急センターが担っていることから、原則として、災害拠点病院は救命救急センター又は第二次救急医療機関の機能を有する必要がある。
※ 挫滅症候群
身体の一部、特に四肢が瓦礫等により圧迫されると筋肉等が損傷を受け、壊死した筋細胞からカリウム等が漏出する。その後、圧迫が解除されると、血液中にそれらが大量に流れ込むことにより、不整脈や急性腎不全等を来し致死的になる疾患。
(2) 災害拠点精神科病院
災害拠点精神科病院は、災害時においても、医療保護入院、措置入院等の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく精神科医療を行うための診療機能を有し、被災地からの精神疾患を有する患者の受入れ、DPATの派遣に係る対応等を行う。平成23年の東日本大震災では被災した精神科病院から多数の患者搬送が行われた。また、平成28年の熊本地震でも被災した精神科病院から595人の患者搬送が行われており、今後想定される南海トラフ地震等の大規模災害においても、同様に多数の精神科患者の搬送が必要となる可能性がある。一方で、災害拠点病院の有する精神病床数は約1万床(全精神病床の約3%)であり、精神科病院からの患者の受入れや、精神症状の安定化等を、災害拠点病院のみで対応することは困難である。
このため、精神科病院においても、災害拠点病院と類似の機能を有する災害拠点精神科病院を整備することとし、「災害拠点精神科病院の整備について」(令和元年6月20日付け医政発0620第8号厚生労働省医政局長・障発0620第1号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)により、災害拠点精神科病院については人口規模や地理的条件、都道府県における精神科医療の提供体制の実態などを考慮し、都道府県ごとに必要な数を整備することを定めた。
令和元年度以降、災害拠点精神科病院の整備が図られ、令和5年1月現在、全国で38病院が指定されているが、25道府県においては、未だ県内において1医療機関も指定がされていない状況である。
(3) 災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)
平成17年度以降、災害急性期(概ね発災後48時間)にトレーニングを受けた医療チームが災害現場へできるだけ早期に出向いて救命医療を行うことが、予防できる被災者の死の回避につながるとの認識の下、「災害派遣医療チーム(DMAT)」の養成が開始された。令和4年4月1日現在、15,862名が養成されている。
DMATの果たす任務と役割は、大地震及び航空機・列車事故等の災害時や新興感染症等のまん延時において、都道府県の要請に基づき、都道府県庁、航空搬送拠点臨時医療施設(SCU:Staging Care Unit。以下「SCU」という。)、災害現場、医療施設等において、本部活動、搬送、医療活動等を行うことである。
一度に数名から十数名程度の患者が発生する災害では、必要に応じて近隣のDMATが災害現場へ入り、トリアージや救命処置等の医療支援を行う。
新潟県中越地震(平成16年)や尼崎列車事故(平成17年)等の規模で人的被害が発生するような災害では、近隣のDMATが、災害現場で医療支援を行うことに加えて、災害拠点病院等の負傷者の集まる被災地域の病院で医療支援を行い、場合によっては、患者を近隣地域の災害拠点病院へ搬送する際の医療支援を行う。
また、東日本大震災(平成23年)や平成28年熊本地震(平成28年)、今後発生が懸念される南海トラフ地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などによって甚大な人的被害が発生するような災害では、これらの対応に加えて、遠隔地域からもDMATが被災地域へ入り、被災地域では対応困難な患者を遠隔地域へ多数広域医療搬送する際の医療支援を行う。
これまでのDMATの活動実績としては、東日本大震災(平成23年)において47都道府県のDMATが出動し、被災県に約380チームが病院支援や域内搬送、広域医療搬送を実施した事例や、新潟県中越沖地震(平成19年)や岩手・宮城内陸地震(平成20年)において、近隣県からDMATが出動し、病院支援や現場活動等が行われた事例が挙げられる。
平成28年熊本地震では、4月14日の最大震度7の地震の発生時は、熊本県及び九州地域のDMATに派遣を要請し、4月16日の最大震度7の地震の発生時は、全国のDMATに派遣を要請し、計466チームが活動5(平成28年4月17日時点)した。
現地においてDMATは傷病者の応急処置を行うとともに、建物の倒壊リスクやライフライン途絶等により、転院搬送が必要となった10か所の病院から約1,500人の搬送を行うなど、災害急性期医療に対応した。
また、令和2年の新型コロナウイルス感染症において、DMAT資格を有する者が、災害医療の経験を活かして、感染症の専門家とともに、ダイヤモンド・プリンセス号での対応のほか、都道府県庁の患者受入れを調整する機能を持つ組織・部門での入院調整や、クラスターが発生した介護施設等での感染制御や業務継続の支援等を行った。これを踏まえ、令和4年改正法により、災害時の医療に加え、感染症発生・まん延時に都道府県知事の求めに応じて派遣される人材を国が養成・登録する仕組みが法に位置づけられ、令和6年4月1日より施行されることとされた。
都道府県は、改正後の法に基づき、医療機関との間であらかじめDMATの派遣に係る協定を締結するとともに、DMATの研修・訓練等の支援を行うことが必要である。
また、地域防災計画においてDMATの役割について明示することなどにより、DMAT活動が円滑に行われるよう配慮することも重要である。
(4) 災害派遣精神医療チーム(DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Team)
平成23年の東日本大震災における精神保健医療活動支援を通じて、指揮命令系統の改善、被災精神科医療機関への支援の強化等の課題が明らかとなり、平成24年度に「災害派遣精神医療チーム(DPAT)」の仕組みが創設され、平成25年よりその養成が開始されている。DPATは、都道府県が、被災地に継続して派遣する災害派遣精神医療チームであり、精神科医師、看護師、業務調整員等から構成される。DPATは、「被災地での精神科医療の提供」、「被災地での精神保健活動への専門的支援」、「被災した医療機関への専門的支援(患者避難への支援を含む。)」、「支援者(地域の医療従事者、救急隊員、自治体職員等)への専門的支援」等の役割を担う。DPATのうち、発災から概ね48時間以内に、被災した他都道府県においても活動できるチームを先遣隊と定義している。
平成28年の熊本地震においては、全国から被災地にDPATが派遣され、同年10月28日までに、41都道府県から延べ1,242隊が派遣された。
また、令和2年から新型コロナウイルス感染症において、DPAT隊員が、災害精神科医療の経験を活かして、感染症の専門家とともに、ダイヤモンド・プリンセス号での対応を行っているほか、令和3年度以降も都道府県DPAT調整本部等において入院搬送調整の支援や、クラスターが発生した医療機関等でのゾーニングや感染管理体制の確立支援、業務継続の支援等を行っている。
令和5年1月時点では、46都道府県において先遣隊が整備されている。今後の災害に備え、地域防災計画においてDPATの役割について明示することなどにより、DPAT活動が円滑に行われるよう配慮することも重要である。
都道府県は、令和4年改正法による改正後の法に基づき、医療機関との間であらかじめDPATの派遣に係る協定を締結するとともに、DPATの研修・訓練等の支援を行うことが必要である。
(5) 災害支援ナース
災害発生時における看護ニーズに迅速に対応できるよう、日本看護協会及び都道府県看護協会において、災害支援ナースの養成を行っている。災害支援ナースは、被災地域に派遣されて、被災した医療機関における看護業務、避難所の環境整備や感染症対策、避難所における心身の体調不良者に対する受診支援、医療チームへの患者の引継ぎ及び救急搬送等の活動を行う。
災害支援ナースの主な活動実績としては、平成23年3月の東日本大震災の際に、40都道府県から派遣された延べ3,770人が活動を行った実績や、平成28年4月の熊本地震の際に、15都道府県から派遣された延べ1,688人が活動した等の実績があり、災害発生時における看護ニーズへの迅速な対応に貢献している。
災害支援ナースの登録者数は、令和3年3月末現在で10,251人となっている。
災害支援ナースについては、今後、令和4年改正法による改正後の法に基づき、医療機関との間であらかじめ災害支援ナースの派遣に係る協定を締結するとともに、災害支援ナースの研修・訓練等の支援を行うこととすることを検討している。
今後の災害に備え、地域防災計画において災害支援ナースの役割について明示することなどにより、災害支援ナースの活動が円滑に行われるよう配慮することも重要である。
(6) 保健医療活動チーム
災害が沈静化した後においても、被災地の医療提供体制が復旧するまでの間、避難所や救護所等に避難した住民等に対する健康管理を中心とした医療が必要となるため、様々な保健医療活動チーム(日本医師会災害医療チーム(JMAT)、日本赤十字社の救護班、独立行政法人国立病院機構の医療班、全日本病院医療支援班(AMAT)、日本災害歯科支援チーム(JDAT)、薬剤師チーム、看護師チーム(被災都道府県以外の都道府県、市町村、日本看護協会等の関係団体や医療機関から派遣された看護職員を含む)、保健師チーム、管理栄養士チーム、日本栄養士会災害支援チーム(JDA―DAT)、日本災害リハビリテーション支援チーム(JRAT)、その他の災害医療に係る保健医療活動を行うチーム)が、DMAT、DPATとも連携しつつ、引き続いて活動を行っている。
特にJMATは、東日本大震災の際に初めて結成、派遣された医療チームであり、医師、看護師、事務職員を基本としながら、被災地のニーズに合わせて薬剤師等の多様な職種も構成員として派遣される。活動内容としては、主に災害急性期以降の医療・健康管理活動で、具体的には避難所・救護所等における被災者の健康管理、避難所の公衆衛生対策、在宅患者への診療、健康管理等である。
また、被災地における医療提供体制の回復を目的として、被災地の実情に応じた長期間の支援を行う事も特徴で、東日本大震災では1,834日間(平成23年3月15日~平成28年3月21日)で計2,763チーム(延12,628名)が、平成28年熊本地震では104日間(平成28年4月15日~平成28年7月26日)で計568チーム(延2,556名)が被災地において活動した。
今後、わが国の高齢化の進展とともに、どのような災害においても、高齢者等の災害時要配慮者の割合が増加することが見込まれ、健康管理を中心とした活動はより重要となる。
(7) 広域災害・救急医療情報システム(EMIS:Emergency Medical Information System)
災害時の迅速な対応が可能となるよう、医療機関の患者の受入れ可否等の情報、ライフラインの稼動状況やDMATの活動状況等の情報を、災害時において一元的に収集・提供し、関係者間で情報共有する広域災害・救急医療情報システム(EMIS)が全国的に整備され、平成26年に全都道府県において導入された。
EMISについては、過去の災害の経験を踏まえ機能を拡充してきたが、災害時において有効に活用するためには、平時から医療関係者、行政関係者等の災害医療関係者が、EMISについて理解し、日頃から入力訓練等を行う必要がある。
また、実際に災害が起きた際には、被災した医療機関に代わって都道府県や保健所等が、EMISへの代行入力を行うことが可能であり、地域全体として情報の提供と収集を行う体制を整備することが重要である。
(8) 保健医療福祉調整本部
平成28年熊本地震における対応に関して、内閣官房副長官(事務)を座長とする平成28年熊本地震に係る初動対応検証チームにより取りまとめられた「初動対応検証レポート」(平成28年7月20日)において、医療チーム、保健師チーム等の間における情報共有に関する課題が指摘され、今後、「被災地に派遣される医療チームや保健師チーム等を全体としてマネジメントする機能を構築する」べきこととされた。
こうした点を踏まえ、各都道府県における大規模災害時の保健医療活動に係る体制の整備に当たり、保健医療活動チームの派遣調整、保健医療活動に関する情報の連携、整理及び分析等の保健医療活動の総合調整を行う保健医療調整本部を設置することとした。
その後、令和3年防災基本計画及び厚生労働省防災業務計画に災害派遣福祉チーム等の整備が追加され、令和3年度厚生労働科学研究の「災害発生時の分野横断的かつ長期的ケアマネジメント体制構築に資する研究」において、保健医療のみでは福祉分野の対応ができず、保健・医療・福祉の連携が重要であるとされたことを踏まえ、保健医療調整本部を保健医療福祉調整本部に改めたところである。
なお、都道府県は様々な保健医療活動チームと協力することが必要であることから、災害時に円滑な連携体制を構築可能にするため、保健医療福祉調整本部の下、様々な保健医療活動チームとともに訓練を実施し、災害時におけるそれぞれの必要な役割を確認することが必要である。
(9) 災害医療コーディネーター
災害医療コーディネーターとは、災害時に、都道府県並びに保健所及び市町村が保健医療活動の総合調整等を適切かつ円滑に行えるよう、保健医療福祉調整本部並びに保健所及び市町村における保健医療活動の調整等を担う本部において、被災地の保健医療ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等に係る助言及び支援を行うことを目的として、都道府県に任命された者である。
都道府県は、災害時の保健医療提供体制を効率的に調整するため、都道府県の保健医療福祉調整本部に配置される都道府県災害医療コーディネーターと保健所又は市町村における保健医療活動の調整等を担う本部に配置される地域災害医療コーディネーターの両者を整備することが必要である。
また、都道府県は、災害医療コーディネーターの配置を進めるとともに、訓練への参加や研修の受講を推進することが重要である。
なお、厚生労働省では、平成26年度より都道府県災害医療コーディネーター及び地域災害医療コーディネーターの養成研修に必要な経費を補助し、災害医療コーディネーターの養成及びその能力向上に努めている。
災害医療コーディネーターの運用や活動内容については、「災害医療コーディネーター活動要領」(平成31年2月8日付け医政地発第0208第2号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)を参照されたい。
(10) 災害時小児周産期リエゾン
災害時小児周産期リエゾンとは、災害時に、都道府県が小児・周産期医療に係る保健医療福祉活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう、保健医療福祉調整本部において、被災地の保健医療福祉ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等に係る助言及び支援を行う都道府県災害医療コーディネーターをサポートすることを目的として、都道府県により任命された者である。
なお、厚生労働省は、平成28年度から災害時小児周産期リエゾン養成研修を実施し、災害時小児周産期リエゾンの養成に努めている。
災害時小児周産期リエゾンの運用や活動内容については、「災害時小児周産期リエゾン活動要領」(平成31年2月8日付け医政地発0208第2号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)を参照されたい。
(11) 災害薬事コーディネーター
災害薬事コーディネーターとは、災害時に、都道府県並びに保健所及び市町村が行う保健医療活動における薬事に関する課題解決のため、都道府県が設置する保健医療福祉調整本部並びに保健所及び市町村における保健医療活動の調整等を担う本部において、被災地の医薬品等や薬剤師及び薬事・衛生面に関する情報の把握やマッチング等を行うことを目的として、都道府県において任命された薬剤師である。
各都道府県において、災害薬事コーディネーターの研修事業等を実施し、災害薬事コーディネーターの養成及びその能力向上に努めている。
(12) 業務継続計画(BCP)
業務継続計画(BCP)とは、災害などの緊急時に低下する業務遂行能力(医療機関の場合は診療機能)について、その影響を最小限に抑え、早期復旧を可能とするための準備体制及び方策をまとめたものであり、平成23年に発生した東日本大震災を踏まえて、「災害発生時における医療体制の充実強化について」(平成24年3月21日付け医政発0321第2号厚生労働省医政局長通知)において、全ての医療機関に、災害対策マニュアル及び業務継続計画を策定することを求めている。
また、平成29年より、災害拠点病院の指定要件に、業務継続計画(BCP)を整備することを追加している。
業務継続計画(BCP)の策定は、地域における医療機関の役割やライフライン復旧対策など他機関(行政・消防・関連業者等)との連携・協力が必要な内容を含むため、地域防災計画など他のマニュアルとの整合性をとる必要があり、医療機関が独自に策定するのは困難である場合があることから、厚生労働省は、平成29年度からBCP策定研修事業等により、全ての医療機関における業務継続計画(BCP)の策定を支援している。なお、平成30年12月1日時点において、全病院のうちBCP策定済みの病院は、25%であった。(全病院総数8,372病院のうち回答病院数は7,294病院)6
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 災害医療の現状」を踏まえ、個々の役割と医療機能、それを満たす関係機関、それらの関係機関相互の連携により、災害時においても必要な医療が確保される体制を構築すること。
また、構築に当たっては、地域の防災計画と整合性を図る。
(1) 災害急性期(発災後48時間以内)において必要な医療が確保される体制
① 被災地の医療確保、被災した地域への医療支援が実施できる体制
② 必要に応じてDMAT及びDPATを直ちに派遣できる体制
(2) 急性期を脱した後も住民の健康が確保される体制
・ 救護所、避難所等における健康管理が実施される体制
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、災害医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(3)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 災害時に拠点となる病院
① 災害拠点病院
ア 目標
・ 被災した際に、被害状況、診療継続可否等の情報を、EMIS等を用いて都道府県災害対策本部等へ共有すること
・ 災害時においても、多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の重篤な救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能を有すること
・ 患者等の受入れ及び搬出を行う広域医療搬送に対応すること
・ 自己完結型の医療チーム(DMATを含む。)の派遣機能を有すること
・ 被災しても、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を含め、平時からの備えを行っていること
イ 医療機関に求められる事項
基幹災害拠点病院は、都道府県において災害医療を提供する上での中心的な役割を担う。地域災害拠点病院は、各地域において災害医療を提供する上での中心的な役割を担う。
・ 災害時に多発する重篤な救急患者の救命医療を行うために必要な施設・設備、医療従事者を確保していること
・ 多数の患者に対応可能な居室や簡易ベッド等を有していること
・ 基幹災害拠点病院は病院の機能を維持するために必要な全ての施設、地域災害拠点病院は診療に必要な施設が耐震構造であること
・ 被災時においても電気、水、ガス等の生活必需基盤が維持可能であること
・ 災害時において必要な医療機能を発揮できるよう、通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保していること
・ 災害時においても診療が継続できるよう、適切な容量の受水槽や井戸設備の整備、優先的な給水協定の締結等により、少なくとも3日分の水の確保に努めること
・ 浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)又は津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じること。
・ 飲料水・食料、医薬品、医療機材等は、流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、3日分程度を備蓄していること
・ 加えて、飲料水・食料、医薬品、医療機材、燃料等について、関係団体と協定を締結し、災害時に優先的に供給を受けられるようにしておくこと(ただし、医薬品等については、都道府県・関係団体間の協定等※において、災害拠点病院への対応が含まれている場合は除く。)
・ 基幹災害拠点病院においては、災害医療に精通した医療従事者の育成(都道府県医師会等とも連携した地域の医療従事者への研修を含む。)の役割を担うこと
・ 病院敷地内又は病院近接地にヘリコプターの離着陸場(ヘリポート)を有していること
・ EMISに加入しており、災害時にデータを入力する複数の担当者を事前に決めておき、訓練を行うことでその使用方法に精通していること
・ 複数の災害時の通信手段を確保するよう努めること
・ 被災後、早急に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を行うこと
・ 厚生労働省実施のBCP策定研修事業等を活用し、実効性の高い業務継続計画(BCP)を策定すること
・ 整備された業務継続計画に基づき、被災した状況を想定した研修・訓練を実施すること
・ 災害急性期を脱した後も継続的に必要な医療を提供できるよう、保健所、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、日本赤十字社救護班等の医療関係団体の医療チームと、定期的な訓練を実施するなど、適切な連携をとること
※ 医薬品等の供給確保については、厚生労働省防災業務計画により各都道府県において策定することとされている「医薬品等の供給、管理のための計画」に基づいて体制を整えておくこと
② 災害拠点精神科病院
ア 目標
・ 被災した際に、被害状況、診療継続可否等の情報を、EMIS等を用いて都道府県災害対策本部へ共有すること
・ 災害時においても、医療保護入院、措置入院等の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく精神科医療を行うための診療機能を有すること
・ 災害時においても、精神疾患を有する患者の受入れや、一時的避難場所としての機能を有すること
・ DPATの派遣機能を有すること
・ 被災しても、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を含め、平時からの備えを行っていること
イ 医療機関に求められる事項
災害拠点精神科病院は、都道府県において災害時における精神科医療を提供する上での中心的な役割を担う。
・ 災害時に精神疾患を有する患者の一時的避難に対応できる場所(体育館等)を確保していること
・ 重症の精神疾患を有する患者に対応可能な保護室等を有していること
・ 診療に必要な施設が耐震構造であること
・ 被災時においても電気、水、ガス等の生活必需基盤が維持可能であること
・ 災害時において必要な医療機能を発揮できるよう、自家発電機を保有していること
・ 災害時においても診療が継続できるよう、適切な容量の受水槽や井戸設備の整備、優先的な給水協定の締結等により、必要な水の確保に努めること
・ 浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)又は津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じること
・ 飲料水・食料、医薬品、医療機材等は、流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、3日分程度を備蓄していること
・ 加えて、飲料水・食料、医薬品、医療機材等について、関係団体と協定を締結し、災害時に優先的に供給を受けられるようにしておくこと(ただし、医薬品等については、都道府県・関係団体間の協定等※において、災害拠点精神科病院への対応が含まれている場合は除く。)
・ 災害時における精神科医療に精通した医療従事者の育成(都道府県精神科病院協会等とも連携した地域の医療従事者への研修を含む。)の役割を担うこと
・ EMISに加入しており、災害時にデータを入力する複数の担当者を事前に決めておき、訓練を行うことでその使用方法に精通していること
・ 複数の災害時の通信手段を確保するよう努めること
・ 被災後、早急に診療機能を回復できるよう、業務継続計画(BCP)の整備を行うこと
・ 厚生労働省実施のBCP策定研修事業等を活用し、実効性の高い業務継続計画(BCP)を策定すること
・ 整備された業務継続計画(BCP)に基づき、被災した状況を想定した研修・訓練を実施すること
・ 災害急性期を脱した後も継続的に必要な医療を提供できるよう、保健所、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、日本赤十字社救護班等の医療関係団体の医療チームと、定期的な訓練を実施するなど、適切な連携をとること
※ 医薬品等の供給確保については、厚生労働省防災業務計画により各都道府県において策定することとされている「医薬品等の供給、管理のための計画」に基づいて体制を整えておくこと
(2) 災害時に拠点となる病院以外の病院
① 目標
・ 被災した際に、被害状況、診療継続可否等の情報を、EMIS等を用いて都道府県災害対策本部等へ共有すること
・ 被災をしても、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画(BCP)の整備を含め、平時からの備えを行っていること
② 医療機関に求められる事項
・ 災害時には災害時に拠点となる病院とともに、その機能や地域における役割に応じた医療の提供に努めること
・ 被災後、早急に診療機能を回復できるよう、業務継続計画(BCP)の整備を行うよう努めること
・ 厚生労働省実施のBCP策定研修事業等を活用し、実効性の高い業務継続計画(BCP)を策定すること
・ 整備された業務継続計画(BCP)に基づき、被災した状況を想定した研修・訓練を実施すること
・ 診療に必要な施設の耐震化や、自家発電機の整備、燃料の備蓄等を含めた必要な防災対策を講じるよう努めること
・ EMISへ登録し、自らの被災情報を被災地内に発信することができるよう備えること。また、災害時にデータを入力する複数の担当者を事前に決めておき、訓練を行うことでその使用方法に精通していること
・ 災害急性期を脱した後も継続的に必要な医療を提供できるよう、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、日本赤十字社救護班等の医療関係団体の医療チームと連携をとること
・ 浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)又は津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じるよう努めること
(3) 都道府県等の自治体
① 目標
・ 消防、警察等の関係機関や公共輸送機関等が、実災害時において迅速に適切な対応がとれ、連携できること
・ 保健所管轄区域や市町村単位での保健所等を中心とした地域コーディネート体制を充実させることで、実災害時に救護所、避難所の被災者に対して感染症のまん延防止、衛生面のケア、災害時要支援者へのサポート、メンタルヘルスケア等に関してより質の高いサービスを提供すること
② 自治体に求められる事項
・ 平時から、災害支援を目的としたDMAT、DPATの養成と派遣体制の構築に努めること
・ 災害医療コーディネート体制の構築要員(都道府県災害医療コーディネーター、災害時小児周産期リエゾンを含む。)の育成に努めること
・ 都道府県は、精神疾患を有する患者、障害者、小児、妊婦、透析患者等、特に災害時においても配慮を有する被災者に対応できる体制構築について平時より検討すること
・ 都道府県によっては、災害時に多く発生が予想される中等症患者を積極的に受け入れるなど、災害時に拠点となる病院に協力する医療機関について、地域の救急医療機関を中心に指定し、その取組を促している例もあることから、これも参考に、地域の実情に応じた災害時の医療提供体制を検討すること
・ 都道府県は、平時より、都道府県防災会議や災害医療関連の協議会等において、災害医療コーディネーターや災害拠点病院を含む地域の医療機関の代表者、その他地域の災害医療に関する関係者とともに、関係機関の役割・医療機関間の連携について確認すること
・ 風水害も含め災害時に医療活動が真に機能するために、都道府県は地域防災会議や災害医療対策関連の協議会等への医療関係者の参画を促進すること
・ 都道府県間での相互応援協定の締結に努めること
・ 災害時の医療チーム等の受入れも想定した災害訓練を実施すること。訓練においては、被災時の関係機関・関係団体と連携の上、都道府県としての体制だけでなく、保健所管轄区域や市町村単位等での保健所等を中心としたコーディネート体制に関しても確認を行うこと
・ 災害急性期を脱した後も避難所等の被災者に対して感染症のまん延防止、衛生面のケア、災害時要支援者へのサポート、メンタルヘルスケア等に関して継続的で質の高いサービスを提供できるよう、保健所を中心とした体制整備に平時から取り組むこと。「大規模災害時におけるドクターヘリの運用体制構築に関わる指針について」(平成28年12月5日付け医政地発1205第1号厚生労働省医政局地域医療計画課長通知)を基に作成された災害時のドクターヘリの運用指針に則り、ドクターヘリの要請手順や自地域における参集拠点に関しても訓練等を通して確認を行うこと
・ 都道府県を超える広域医療搬送を想定した災害訓練の実施又は参加に努めること。その際には、航空搬送拠点臨時医療施設の設置場所及び協力を行う医療機関との連携確認を行うこと
・ 都道府県や医療機関は、災害時等において、医療コンテナ等を検査や治療に活用する。具体的には、災害時の医療提供体制を維持するために医療コンテナ等を活用し、例えば、仮設診療所の設置や被災した病院施設の補完等を行う。
・ 都道府県は、平成26年に改正された消防法施行令(昭和36年政令第37号)により新たにスプリンクラーの設置義務が生じた病院・有床診療所等について、設置状況を把握し、有床診療所等スプリンクラー等施設整備事業を活用しつつ設置義務の猶予期限である令和7年6月30日までに整備を完了すること。
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、災害時の医療体制を構築するに当たって、(1)に示す項目を参考に、人口、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(2)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
(1) 医療資源・連携等に関する情報
・ 地勢情報、地質情報
・ 人口分布(時間帯別人口の状況)
・ 過去の災害発生状況(種別、地域別、件数)
・ 地域防災計画、管内の各自治体の防災計画、地域のハザードマップ
・ 他の関係部局における体制(救助、搬送に係るシステム、インフラ)
・ 医療資源(医療機関、緊急医療チーム)
・ 医薬品、医療(衛生)材料等の備蓄、供給体制
(2) 指標による現状把握
別表7に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、災害時における医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、原則として都道府県全体を圏域として、災害拠点病院が災害時に担うべき役割を明確にするとともに、大規模災害を想定し、自らが被災した場合に医療チーム等を受け入れる受援体制や、都道府県をまたがる広域搬送等の支援体制からなる広域連携体制について定めること。
また、想定する災害の程度に応じ、災害拠点病院に加え、地域の実情に応じ、一般の医療機関(救命救急センターを有する病院、第二次救急医療機関、日本赤十字社の開設する病院等)の参画も得ること。
(2) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に災害医療に携わる者、消防防災主管部局、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、災害時における医療体制を構築するに当たって、受援又は応援派遣、救命医療及び健康管理の各機能が被災時においても確保されるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
また、医療機関、消防機関、消防防災主管部局、地域医師会等の関係者は、診療情報や、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して関係機関の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、各機能を担う医療機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
また記載に当たっては下記の点に留意すること。
① 災害時に拠点となる病院
災害拠点病院、災害拠点精神科病院については、地勢的・地質的状況、地理的バランス(分散により、同時に被災する危険性を低下させる場合がある。)、受入能力、広域医療搬送ルート等を考慮の上、医療計画に記載すること。また、対応するエリアも明記すること。
② 航空搬送拠点臨時医療施設(SCU)
広域医療搬送を想定し、SCUの設置場所及び協力を行う医療機関をあらかじめ定めること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の災害医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な災害時の医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表する。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 平成28年12月9日警察庁緊急災害警備本部調べ
2 厚生労働省「平成28年版 厚生労働白書」
3 内閣府「令和元年版 防災白書」
4 内閣府「防災情報のページ 災害情報」 https://www.bousai.go.jp/updates/index.html
5 平成28年度厚生労働省科学研究補助金 「首都直下型地震・南海トラフ地震等の大規模災害時に医療チームが効果的、効率的に活動するための今後の災害医療のあり方に関する研究」 平成28年熊本地震報告書
6 厚生労働省地域医療計画課調べ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06012.html
新興感染症発生・まん延時における医療体制の構築に係る指針
「そのまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある感染症」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第6条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症、同条第8項に規定する指定感染症及び同条第9項に規定する新感染症といい、以下「新興感染症」という。)がまん延し、又はそのおそれがあるときにおける医療(以下「新興感染症発生・まん延時における医療」という。)については、新型コロナウイルス感染症対応の教訓を踏まえ、当該対応を念頭に、まずはその最大規模の体制を目指す。感染症法に基づく都道府県と医療機関との協定締結等を通じ、平時から地域における役割分担を踏まえた新興感染症に対応する医療及び新興感染症以外の通常医療の提供体制の確保を図ることとする。
本指針では、「第1 新興感染症発生・まん延時における医療の現状」で新型コロナウイルス感染症の対応の振り返りを行い、次に、「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築するのかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に即して、地域の現状を把握・分析し、また各医療機関に求められる機能を理解した上で、機能を担う関係機関とさらにそれらの関係機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 新興感染症発生・まん延時における医療の現状
1 新型コロナウイルス感染症への対応
新型コロナウイルス感染症に対応する医療提供体制については、以下の(参照)に掲げる事務連絡等により、各都道府県において「保健・医療提供体制確保計画」(うち「病床確保計画」)等を策定し、病床確保や発熱外来の確保等を進めてきたところである。他方、行政による事前の準備が十分でなかったため、全国的な感染拡大による急速な医療ニーズの増大に直面し、それぞれの地域において、通常医療との両立を含め機能する保健医療提供体制を早急に構築することが求められる中で、平時から入院・外来・在宅にわたる医療機能の分化・強化と連携を図ることにより、地域医療全体を視野に入れて必要な医療を連携やネットワークにより提供していくことの重要性が改めて認識された。
このほか、「新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」(2022年6月15日新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議)において、例えば、以下の課題も指摘されていたところである。
・ 感染症患者の専用病床を有する感染症指定医療機関だけでは新型コロナウイルス感染症の入院患者を受けきれず、一般の病院ががん治療をはじめとする通常医療を制限してでも病床確保をする必要が生じたが、そうした事態を想定した入院調整、救急搬送、院内ゾーニングを含めた具体的な訓練は行われていなかったため、体制の立ち上げに時間がかかった。
・ 感染拡大初期において、感染症指定医療機関以外に新型コロナウイルス感染症の特性も明らかではない時期から対応する医療機関、ウイルスの特性が明らかになってきた後に対応する医療機関との役割が平時から明確ではなく、地域によって役割の調整が困難であった。
・ 感染拡大する中で、都道府県が病床等の確保計画を立案したが、新型コロナウイルス感染症の特性が明らかになった後においても、医療機関との認識のずれや医療人材の確保の困難さなどから、地域によっては病床確保や発熱外来等の医療体制が十分に確保できないことがあった。
・ 感染が急速に拡大した地域では、病床を確保するために、医療人材(特に看護師)をその医療機関の外部から確保する必要が生じる場合があったが、災害派遣の仕組みはあっても全国的に感染拡大した場合の人材派遣の仕組みがないために、知事会、自衛隊、厚生労働省、看護協会などが改めて、派遣元との調整を行うことがぎりぎりまで必要になった。
(参照)
・「今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(令和2年6月19日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
・「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」(令和2年9月4日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
・「今後の感染拡大に備えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(令和3年3月24日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
・「今夏の感染拡大を踏まえた今後の新型コロナウイルス感染症に対応する保健・医療提供体制の整備について」(令和3年10月1日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
・「オミクロン株の特性を踏まえた保健・医療提供体制の対策徹底を踏まえた取組状況及び更なる体制強化について」(令和4年4月28日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
・「季節性インフルエンザとの同時流行を想定した新型コロナウイルス感染症に対応する外来医療体制等の整備について(依頼)」(令和4年10月17日付け(令和4年11月4日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部等事務連絡)
・「オミクロン株による流行対応を踏まえた「保健・医療提供体制確保計画」の入院体制を中心とした点検・強化について」(令和4年11月21日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)
2 新興感染症医療の提供体制
通常医療よりも多くの医療人材を必要とする新興感染症医療を行うためには、医療資源を再配置する必要がある。特に、感染症法に基づく入院勧告・措置は、通常、医療機関と患者との間の合意により提供される医療に行政が介入する仕組みであり、病床の確保に加え、入院調整や移送なども必要となるため、次の感染症発生・まん延時を考えれば、平時から関係者間の情報共有やきめ細かい調整、役割分担・連携が必須となる。また、かかりつけ医等の地域で身近な医療機関等に相談・受診できる体制の整備や、地域医療連携の強化を図ることも重要である。
「1 新型コロナウイルス感染症への対応」で述べたような新型コロナウイルス感染症対応の教訓を踏まえ、限られた医療資源が適切に配分されるよう、各地域で平時より、医療機能の分化、感染症発生・まん延時の役割の明確化を図るとともに、健康危機管理を担当する医師及び看護師を養成してネットワーク化しておくことや実践的な訓練をはじめとした平時からの備えを確実に行うことにより、危機時に医療機関や医師、看護師等の行動がその役割に沿って確実に実行されるよう、都道府県と医療機関で平時に協定を締結する仕組み等を法定化したところであり、平時から地域における役割分担を踏まえた新興感染症に対応する医療及び新興感染症以外の通常医療の提供体制の確保を図ることとする。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 新興感染症発生・まん延時における医療の現状」を踏まえ、新型コロナウイルス感染症の対応を念頭に、まずは当該対応での最大規模の体制を目指すこと。
また、構築に当たっては、感染症法第10条第1項に規定する予防計画及び新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)第7条第1項に規定する都道府県行動計画との整合性を確保し、地域の実情に応じて、医療機関が地域の関係機関と連携して感染症への対応を行うことができるよう、必要に応じて感染症法第10条の2第1項に規定する連携協議会を活用することも重要である。
国は、新興感染症の発生後、改正感染症法に基づく発生の公表(※)前においても、都道府県と医療機関との間の調整や準備に資するよう、感染症指定医療機関等を通じ、当該医療機関の実際の対応に基づいた対応方法を含め、国内外の最新の知見を収集し、随時都道府県及び医療機関等に周知を行う。また、新興感染症の性状や、その対応方法を含めた最新の知見の取得状況、また、感染症対策物質の取得状況などが、事前の想定とは大きく異なる場合は、国がその判断を行い、機動的に対応する。なお、国は、当該知見について、随時更新の上、情報提供する。
(※) 全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある等の新興感染症が発生した旨の公表(新興感染症に位置付ける旨の公表)
2 各医療機能と連携
前記「第1 新興感染症発生・まん延時における医療の現状」を踏まえ、新興感染症発生・まん延時における医療提供体制に求められる医療機能を下記(1)から(5)までに示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 新興感染症患者を入院させ、必要な医療を提供する機能(病床確保)
① 目標
・ 新型コロナウイルス感染症対応で確保した最大規模の体制(確保病床数、重症者用確保病床数(※))を目指すこと
(※) 令和4年12月時点で、全国で約5.1万床(約3,000医療機関(うち重点医療機関は約2,000))
・ 流行初期から、新型コロナ発生から約1年後の2020年冬の新型コロナ入院患者(全国で約1.5万人、うち重症者数約1.5千人)の規模に対応すること。その際、新型コロナ対応においては、例えば総病床数400床以上の重点医療機関(約500機関)で約1.9万床の対応規模があったことを参考に、流行初期医療確保措置の対象となる協定を締結する医療機関については、このように一定規模の対応を行う医療機関から確保していくこと。
・ 新型コロナウイルス感染症対応での実績を参考に、地域の実情に応じて、精神疾患を有する患者、妊産婦、小児、透析患者、障害児者、認知症患者、がん患者、外国人等、特に配慮が必要な患者を受け入れる病床の確保を行うこと
・ 新興感染症の発生時からの対応として、まずは、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関の感染症病床を中心に対応する体制を構築すること
・ 感染症法第16条第2項に規定する新型インフルエンザ等感染症等に係る発生等の公表が行われた後の流行初期の一定期間(3か月を基本とした必要最小限の期間)には、特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関及び第二種感染症指定医療機関が流行初期医療確保措置の対象となる医療措置協定に基づく対応も含め、引き続き対応を行うとともに、当該感染症指定医療機関以外の流行初期医療確保措置の対象となる医療措置協定を締結した医療機関も中心に対応していく体制を構築すること
・ 当該一定期間の経過後は、流行初期医療確保措置の対象となる医療措置協定を締結した医療機関等の新興感染症の発生等の公表以降対応している医療機関に加え、当該医療機関以外の医療措置協定を締結した医療機関のうち、公的医療機関等(※)(公的医療機関等以外の医療機関のうち新興感染症に対応することができる医療機関を含む。)も中心となった対応とし、その後3か月程度を目途に、順次速やかに、医療措置協定を締結した全ての医療機関で対応していく体制を構築すること
(※) 公的医療機関等とは、医療法第7条の2第1項各号に掲げる者が開設する医療機関、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人労働者健康安全機構及び国その他の法人が開設する医療機関であって厚生労働省令で定めるもの並びに地域医療支援病院(同法第4条第1項の地域医療支援病院をいう)及び特定機能病院(同法第4条の2第1項の特定機能病院をいう。)のことをいう。
② 医療機関に求められる事項
・ 新型コロナウイルス感染症対応の重点医療機関の施設要件も参考に、確保している病床であって、酸素投与及び呼吸モニタリングが可能で、また、都道府県からの要請後速やかに(2週間以内を目途に)即応病床化する(この際、国は、随時収集した知見等について、都道府県及び医療機関に対して周知を行い、実質的な準備期間の確保に努める)ほか、関係学会等の最新の知見に基づくガイドライン等を参考に、院内感染対策(ゾーニング、換気、個人防護具の着脱等を含む研修・訓練等)を適切に実施し、入院医療を行うことを基本とすること
・ 流行初期医療確保措置の対象となる協定(入院に係るものに限る。)を締結する医療機関の基準は、
ア 感染症発生・まん延時に入院患者を受け入れる病床を一定数(例えば30床)以上確保し継続して対応できること
イ 新興感染症の発生の公表後、都道府県知事の要請後速やかに(1週間以内を目途に)即応病床化すること(この際、国は、発生の公表前においても、感染発生早期から、知見等を収集し、都道府県及び医療機関に対して周知を行い、実質的な準備期間の確保に努める。)
ウ 病床の確保に当たり影響が生じ得る一般患者への対応について、後方支援を行う医療機関との連携も含め、あらかじめ確認を行うこと
を基本とすること。ただし、実際に流行初期医療確保措置の対象とすべき協定に基づく措置を講じたかどうかを判断する都道府県において、これらを基本としつつも、地域の実情に応じて、通常医療の確保を図るためにも、柔軟に当該協定を締結すること
・ 確保病床を稼働(即応化)させるためには、医療従事者の確保も重要であり、協定締結医療機関は、自院の医療従事者への訓練・研修等を通じ、対応能力を高めること。例えば、新興感染症発生・まん延時に新興感染症患者の入院を受け入れる病床を確保するため、都道府県からの要請後、どのようにシフトを調整するか等の対応の流れを点検することなども考えられること
・ 新興感染症の発生時から中心となって対応する感染症指定医療機関は、新興感染症についての知見の収集及び分析を行うこと
・ 重症者用病床の確保に当たっては、重症の感染症患者に使用する人工呼吸器等の設備や、当該患者に対応する医療従事者(人工呼吸器に関する講習受講や、集中治療室当における勤務ローテーションによる治療の経験を有する医療従事者)の確保に留意すること
・ 重症者病床の確保に伴い、患者の生命に重大な影響が及ぶおそれのある通常医療(例えば、脳卒中や急性心筋梗塞、術後に集中治療が必要となる手術等)が制限される場合も考えられることから、後方支援を行う医療機関との連携体制も重要であること
・ 特に配慮が必要な患者の病床確保に当たっては、患者の特性に応じた受入れ医療機関の設定や、関係機関等との連携など、新型コロナウイルス感染症対応で周知してきた各特性に応じた体制確保等についての内容のほか、国や都道府県から周知等される必要となる配慮等を踏まえて確保すること
・ 新興感染症の疑い患者については、その他の患者と接触しないよう、独立した動線等を要することから、新型コロナウイルス感染症の対応に当たっての協力医療機関の個室等の施設要件も参考に、病床の確保を図ること
(2) 新興感染症の疑似症患者等の診療を行う機能(発熱外来)
① 目標
・ 新型コロナウイルス感染症対応で確保した最大規模の体制(診療・検査医療機関数(※))を目指すこと
(※) 令和4年12月時点で、全国で診療・検査医療機関:4.2万か所
・ 流行初期から新型コロナウイルス感染症発生後約1年の2020年冬の新型コロナウイルス感染症の患者(全国で約3.3万人)の規模に対応する体制とすること。その際、新型コロナ対応においては、例えば総病床数200床以上で新型コロナ患者が入院可能な診療・検査医療機関(約1500機関)で約3.3万人の対応規模があったことを参考に、流行初期医療確保措置の対象となる協定を締結する医療機関については、このように一定規模の対応を行う医療機関から確保していくことを目安とすること
② 医療機関に求められる事項
・ 新型コロナウイルス感染症対応の診療・検査医療機関の施設要件も参考に、発熱患者等専用の診察室(時間的・空間的分離を行い、プレハブ・簡易テント・駐車場等で診療する場合を含む。)を設けた上で、予め発熱患者等の対応時間帯を住民に周知し、又は地域の医療機関等と情報共有して、発熱患者等を受け入れる体制を有するほか、関係学会等の最新の知見に基づくガイドライン等を参考に、院内感染対策(ゾーニング、換気、個人防護具の着脱等を含む研修・訓練等)を適切に実施し、発熱外来を行うことを基本とすること
・ 発熱外来を行うに当たっては、地域の医師会等の関係者と協力した取組を行い、また、例えば地域の医師会等によるセンター方式による発熱外来の整備等に取り組むこと
・ 流行初期医療確保措置の対象となる協定(発熱外来に係るものに限る。)を締結する医療機関の基準は、
ア 流行初期から一定数(例えば20人/日)以上の発熱患者を診察できること
イ 発生の公表後、都道府県知事の要請後速やかに(1週間以内を目途に)発熱外来を開始すること(この際、国は、発生の公表前においても、感染発生早期から、知見等を収集し、都道府県及び医療機関に対して周知を行い、実質的な準備期間の確保に努める。)
を基本とすること。ただし、実際に流行初期医療確保措置の対象とすべき協定に基づく措置を講じたかどうかを判断する都道府県において、これらを基本としつつも、地域の実情に応じて、通常医療の確保を図るためにも、柔軟に当該協定を締結すること
・ 救急医療機関においては、入院が必要な疑い患者の救急搬送等が想定されることから、受入れ先が確保されるよう、都道府県において二次救急医療機関等との入院・発熱外来に係る協定締結について検討すること
・ 地域の診療所が新興感染症医療を行うことができる場合は、可能な限り協定を締結することとし、また、新興感染症医療以外の通常医療を担う診療所も含め、日頃から患者のことをよく知る医師、診療所等と、新興感染症医療を担う医療機関が連携することが重要であること
・ 地域の診療所が新興感染症医療以外の通常医療を担っている場合は、患者からの相談に応じ発熱外来等の適切な受診先の案内に努めること。その際は、当該患者に対して、自身の基礎疾患等や、受けている治療内容、当該診療所での受診歴などの情報を当該受診先に伝えることや、お薬手帳を活用することなど助言すること。また、当該受診先は、オンライン資格確認等システム等を活用して、マイナンバーカードを持参した患者の同意を得て、診療・薬剤情報等を確認することにより、より正確な情報に基づいた当該患者に合った医療を提供することが可能となること
(3) 居宅又は高齢者施設等で療養する新興感染症患者に対し医療を提供する機能(自宅療養者等への医療の提供)
① 目標
・ 新型コロナウイルス感染症対応で確保した最大規模の体制(※)を目指すこと(居宅等で療養する新興感染症患者とは、自宅・宿泊療養者・高齢者施設等での療養者等をいい、医療機関とは、病院及び診療所のほか、薬局及び訪問看護事業所を含む。)
・ 電話・オンライン診療、往診等、訪問看護の別に目標設定すること
(※) 令和4年12月時点で、全国で、健康観察・診療医療機関:約2.7万医療機関、自宅療養者等のフォローを行う薬局:約2.7万箇所、訪問看護ステーション:約2.8千箇所
② 医療機関に求められる事項
・ 新型コロナウイルス感染症対応と同様、病院・診療所は、地域医師会等の関係者と連携・協力した体制整備を行い、必要に応じ、薬局や訪問看護事業所と連携し、また、各機関間や事業所間でも連携しながら、往診やオンライン診療等、訪問看護や医薬品対応等を行うこと
・ 自宅療養者等が症状悪化した場合に入院医療機関等へ適切につなぐこと
・ 診療所等と救急医療機関との連携も重要であること
・ 関係学会等の最新の知見に基づくガイドライン等を参考に、感染対策(ゾーニング、換気、個人防護具の着脱等を含む研修・訓練等)を適切に実施し、医療の提供を行うことを基本とすること
・ 患者に身近な診療所等が自宅療養者への医療を行う際は、患者の容態の変化等の場合に迅速に医療につなげるためにも、あわせてできる限り健康観察の協力を行うこと
・ 高齢者施設・障害者施設等の入所者が施設内で療養する際、必要な場合に医師や看護師による往診・派遣等の医療を確保できる体制とすることは重要であり、医療従事者の施設への往診・派遣等の必要な対応を行うこと
(4) 新興感染症患者以外の患者に対し医療を提供する機能(後方支援)
① 目標
・ 新型コロナウイルス感染症対応で確保した最大規模の体制(後方支援医療機関機関数(※))を目指すこと
(※) 令和4年12月時点で、全国で約3.7千機関
・ 後方支援を行う協定締結医療機関数は、病床確保の協定締結医療機関の新興感染症対応能力の拡大のためにも、その数を上回ることを目指すこと
② 医療機関に求められる事項
・ 通常医療の確保のため、ア 特に流行初期の感染症患者以外の患者の受入やイ 感染症から回復後に入院が必要な患者の転院の受入を行うこと
・ 新型コロナウイルス感染症対応での実績を参考に、自治体や都道府県医師会、都道府県病院団体及び支部による協議会や、既存の関係団体間連携の枠組み等と連携した上で、感染症患者以外の受入を進めること
(5) 新興感染症に対応する医療従事者を確保し、医療機関その他の機関に派遣する機能(医療人材派遣)
① 目標
・ 新型コロナウイルス感染症対応で確保した最大規模の体制(※)を目指すこと
(※) 令和4年12月時点で、全国で約2.7千医療機関:医師約2.1千人、看護師約4千人
② 医療機関に求められる事項
・ 医療人材派遣の協定締結医療機関は、自機関の医療従事者への訓練・研修等を通じ、対応能力を高めること
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、新興感染症発生・まん延時における医療提供体制を構築するに当たって、(1)に示す項目を参考に、新型コロナウイルス感染症対応への対応の状況について振り返り、把握すること。
さらに、(2)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセスごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
(1) 新型コロナウイルス感染症への対応の状況
・ 新型コロナウイルス感染症の感染者数、外来受診者数、入院患者数等、重症患者数
・ 新型コロナウイルス感染症の「保健・医療提供体制確保計画」(令和4年12月時点ほか)
(2) 指標による現状把握
別表8に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセスごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、感染症法に基づく予防計画における数値目標となる項目と同一のもの(重点指標)については、把握の方法や、目標の立て方について、「課長通知」の別添「都道府県、保健所設置市及び特別区における予防計画作成のための手引き」(令和4年度厚生労働科学研究「公衆衛生体制の見直しと新たな体制構築のための政策研究」)を参照されたい。そのほか、国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)にも留意して、把握すること。なお、現状の把握において、令和5年度の時点では、都道府県が医療機関と協定を締結していないことから、新型コロナウイルス感染症に対応した医療機関等の取組の現状を把握し活用すること。
なお、別表8に記載のとおり、以下の項目については、今後把握が望ましいが現時点では把握が困難と指摘されており、中間見直しの際に把握・活用することを想定する。
・ 流行初期医療確保措置付きの病床確保協定を締結する医療機関における、後方支援についての協定締結医療機関と連携している医療機関数
・ 病床確保の協定を締結する医療機関における、院内清掃、寝具類洗濯、及び患者等給食の各業務(委託業者が実施する場合を含む)において、それぞれの担当者が1名以上新興感染症対応についての研修を修了している医療機関数
・ 派遣可能人材のうち新興感染症に関する研修を受講した人数(職種毎)
・ 自治体が実施する関係機関による新興感染症患者の移送・受入についての連携訓練の参加医療機関数
2 圏域の設定
各都道府県内のそれぞれの地域において必要な診療を受けられるよう、従来の二次医療圏にこだわらず、例えば、重症患者や特別な配慮が必要な患者への対応等については都道府県単位で確保するなど、地域の実情に応じて柔軟に体制を構築すること。
(参考) 新型コロナウイルス感染症対応においては、例えば、診療・検査医療機関の前身である帰国者・接触者外来については二次医療圏ごとに設置を求めており、発生初期段階から都道府県内のそれぞれの地域において必要な診療を受けられるように取り組まれてきた一方で、病床確保については、各都道府県内での確保を基本としつつ、各地域の実情に応じて柔軟に設定されてきた。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、新興感染症発生・まん延時における医療提供体制を構築するに当たって、新興感染症の発生動向に応じて各機能が確保され、患者の重症度・緊急度に応じて適切な医療が提供されるよう、また、新興感染症医療以外の通常医療提供体制もあわせて確保されるよう、さらに、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。
新型コロナウイルス感染症の対応の際の連携体制を参考に、入院体制の検討に当たっては、地域医師会や病院団体等とも連携し、また、発熱外来体制の検討に当たっては、地域医師会等とも連携して医療提供体制の確保の検討を行うこと。
(2) 新興感染症発生・まん延時において確保した病床に円滑に患者が入院できるようにするため、都道府県において、連携協議会等を活用し保健所や医療機関、消防機関、高齢者施設等との連携強化を図ること。また、都道府県は、保健所設置市等に対する平時からの体制整備等に係る総合調整権限や、感染症発生・まん延時の指示権限を適切に行使しながら、円滑な入院調整体制の構築、実施を図ること。
(3) 病床がひっ迫するおそれがある際には、新型コロナウイルス感染症対応での実績を参考に、国は、入院対象者の基本的な考え方(例えば、重症患者や、中等症以下の患者の中で特に重症化リスクの高い者など入院治療が必要な患者を優先的に入院させるなど)について示し、都道府県は、地域での感染拡大のフェーズなどの実情に応じ、地域の関係者間で、その考え方も参考に、入院対象者等の範囲を明確にしながら、患者の療養先の振り分けや入院調整を行う。この際、地域の関係者間でリアルタイムで受入可能病床情報の共有を行うWebシステムの構築等の取組も参考とする。
(4) 特に配慮が必要な患者の病床確保に当たっては、患者の特性に応じた受入れ医療機関の設定や、関係機関等との連携など、新型コロナウイルス感染症対応で周知してきた各特性に応じた体制確保等を踏まえて体制構築を図ること。
例えば、具体的には、
① 精神疾患を有する患者への対応において、新興感染症に罹患した場合の対応可能な医療機関をあらかじめ明確にしておく。その際、精神疾患及び新興感染症それぞれの重症度等も考慮した上で、連携医療機関の確保・調整を行っておく。特に、措置入院患者が感染した場合や入院患者が新興感染症により重症化した場合を想定して、感染症対応が可能な指定病院等の確保・調整を行っておく。精神科救急について、精神科救急医療体制整備事業における医療提供体制の整備において、新興感染症への対応を含めた体制整備を図る。
② 産科的緊急処置が必要な妊産婦の受入れにおいて、これを行う医療機関を確実に設定するとともに、当該医療機関に妊産婦が集中することの軽減策を講じることにより、必要な体制の確保を図る。あわせて、当該医療機関のリスト及び空き病床状況について、消防防災主管部局等を通じて各消防機関に共有する。
③ 小児への対応において、新興感染症により、地域によっては小児医療のひっ迫が生じることが想定されることから、関係者と小児医療体制について改めて確認する等により、医療需要が増加した場合も含め、確実な体制の確保を図る。
④ 透析患者への対応において、透析治療を行うことができる新興感染症の入院患者、重症患者受入医療機関の設定を行うなど病床の確保に努め、また、透析治療における専門家と連携した透析患者の搬送調整や搬送調整の運用ルール等を決めておく。
⑤ 障害児者への対応において、障害児者が新興感染症に感染し、入院が必要となる場合の入院調整が円滑に進むよう、都道府県の衛生部局と障害保健福祉部局が連携し、障害児者各々の障害特性と必要な配慮(例えば行動障害がある場合や医療的ケアが必要な場合、特別なコミュニケーション支援が必要な場合など)を考慮した受入れ医療機関の設定を進める。
これらの体制の構築においては、入院調整を行う部署に障害特性等に理解のある医師が参画するなど受入医療機関の調整に当たっての意見を聴取することも重要である。
また、「特別なコミュニケーション支援が必要な障害者の入院における支援について」(平成28年6月28日付け保医発0628第2号厚生労働省保険局医療課長通知)により、看護に当たり、コミュニケーションに特別な技術が必要な障害を有する患者の入院において、入院前から支援を行っている等、当該患者へのコミュニケーション支援に熟知している支援者が、当該患者の負担により、その入院中に付き添うことは可能となっている旨を示しているところであり、当該支援者の付添いについても、衛生部局と障害保健福祉部局が連携し、管内医療機関に対して、院内感染対策に十分留意しつつ、積極的に検討いただくよう促す。
⑥ 認知症患者への対応において、国及び都道府県は、かかりつけ医認知症対応力向上研修、認知症サポート医養成研修等の医療現場の対応力向上のための各種研修を進めている。この研修を通じ多職種連携の一層の推進を図る。
(参考) 介護施設等と医療機関との連携について促していくため、令和4年度に実施した介護老人福祉施設、介護老人保健施設、認知症対応型共同生活介護を対象に実施可能な感染防止・安全管理の工夫などを記載した手引き等の作成に向けた調査研究の成果の活用を検討していく。
⑦ がん患者への対応において、「がん診療連携拠点病院等の整備について」(令和4年8月1日付け健発0801第16号厚生労働省健康局長通知)では、都道府県がん診療連携協議会の主な役割の一つとして「感染症のまん延や災害等の状況においても必要ながん医療を提供する体制を確保するため、当該都道府県や各がん医療圏におけるBCPについて議論を行うこと」としている。各都道府県のがん診療連携拠点病院等を中心として、感染症発生・まん延時や災害時等の状況下においても、必要ながん医療を提供できるよう、診療機能の役割分担や各施設が協力した人材育成や応援体制の構築等、地域の実情に応じた連携体制を整備する取組を平時から推進する。
⑧ 循環器病患者への対応については、「第2期循環器病対策推進基本計画」(令和5年3月閣議決定)を踏まえ、平時のみならず感染症発生・まん延時や災害時等の有事においても、地域の医療資源を有効に活用できる仕組みづくりを推進する。
⑨ また、高齢の患者への対応において、そのケアを意識した適切な療養環境の確保の観点から、発症早期からの適切なリハビリテーションや栄養管理の提供のため、医師、歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、歯科衛生士等の多職種で連携する。
さらに、連携協議会等も活用した関係医療機関や高齢者施設等との連携による転院など、高齢の患者に対する必要な対応について国からの周知を踏まえて対応を行う。
(5) 自宅療養者等の症状が急変した場合の入院機能を補完する受け皿等として、新型コロナウイルス感染症対応において、臨時の医療施設・入院待機施設(※)を設置してきた実績を参考に、国は、必要に応じ、同様の対応を検討、周知する。都道府県は、新興感染症の感染が急拡大することに備え、平時から設置・運営の流れ等を確認しておくこと。
※入院待機患者や、症状が悪化した自宅・宿泊療養者等を一時的に受け入れて酸素投与等の必要な処置を行う施設をいう。
(6) 入所者の症状等に応じ、高齢者施設等で療養する場合もあり、新型コロナウイルス感染症対応での実績(※1)を参考に、都道府県は、高齢者施設等(※2)に対する医療支援体制について連携状況も含め確認すること。
(※1) 各都道府県で、高齢者施設等からの連絡等により、施設内での感染発生から24時間以内に感染制御・業務継続支援チームを派遣できる体制を整備。また、全ての施設で、医師や看護師による往診・派遣が可能な医療機関の事前の確保等を実施。
(※2) 介護老人福祉施設(地域密着型を含む)、介護老人保健施設、介護医療院、特定施設入居者生活介護(地域密着型を含む)、認知症対応型共同生活介護、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム及びサービス付き高齢者向け住宅を想定
また、障害者施設等の入所者が施設内で療養する際、必要な場合に医師や看護師による往診・派遣等の医療を確保できる体制とすることは重要であり、医療従事者の施設への往診・派遣等の必要な医療体制を確保できるよう取り組むこと。
さらに、高齢者施設等や障害者施設等で療養する者への対応体制として、都道府県において、高齢者施設等や障害者施設等に対して、国が提供する感染対策等に関するガイドライン等を参考に、感染症対応に必要となる情報・ノウハウ(PPEの着脱指導等)を提供するとともに、高齢者施設等や障害者施設等と協力医療機関をはじめとする地域の医療機関との連携について、実効性のあるものとするため、連携協議会等を活用し、高齢者施設等や障害者施設等と医療機関との連携の強化を図ること。(※)その際、高齢者施設等や障害者施設等の配置医師等の役割も重要であり、その点も踏まえて体制構築を図ること。
また、都道府県は、連携協議会等を通じ、医療機関(救急医療機関を含む。)のほか、消防機関等の役割及び連携を確認し、高齢者施設等や障害者施設等に対する救急医療を含めた医療支援体制等を確認しておくことが重要である。
※介護保険事業支援計画や障害福祉計画における感染症対策の内容とも整合性を確保することが重要
(7) 医療計画には、原則として、各機能を担う医療機関の名称を記載すること。なお、地域によっては、各医療機関の機能・役割に鑑み、ひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば後方支援の機能など、医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
また記載に当たっては以下の点に留意すること。
① 病床確保
・ 流行初期から対応する医療機関(流行初期医療確保措置の対象となる協定(病床確保に係るものに限る。)を締結する医療機関)が分かるように記載すること
・ 重症患者・要配慮患者の受入れの別も可能な限り記載すること
② 発熱外来
・ 流行初期から対応する医療機関(流行初期医療確保措置の対象となる協定(発熱外来に係るものに限る。)を締結する医療機関)が分かるように記載すること
・ 発熱外来における対応可能な患者(小児等)や普段から自院にかかっている患者(かかりつけ患者)のみ対応する場合にはその旨なども可能な限り分かるように記載すること
③ 自宅療養者等への医療の提供
・ 電話・オンライン診療や、医師・看護師による往診等にそれぞれ対応する病院・診療所、医薬品対応等を行う薬局又は訪問看護を行う訪問看護事業所がそれぞれ分かるように記載すること
・ 高齢者施設等や障害者施設等への対応についても分かるように記載すること
・ あわせて健康観察の対応が可能な医療機関が分かるように記載すること
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の新興感染症発生・まん延時における医療提供体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状把握に用いたストラクチャー・プロセス・アウトカム指標の関連性も考慮し、医療機能による分類・新興感染症の感染状況に応じた対応の段階も踏まえ、可能な限り課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な新興感染症発生・まん延時における医療を提供する体制について、新興感染症発生・まん延時に備え、計画策定の都度、定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する時間を設定し、医療計画に記載すること。
その際、感染症法に基づく予防計画における数値目標を中心とした内容及び新型インフルエンザ当対策特別措置法に基づく都道府県行動計画の内容と整合性を確保することに留意すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも3年ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること(なお、感染症法の予防計画の数値目標については、感染症法第10条第11項の規定に基づき、都道府県は、厚生労働大臣に対し、数値目標の達成の状況を、毎年度、報告しなければならないこととされているので、あわせて対応されることを想定している。)。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、協定を締結した医療機関名や協定の内容、予防計画の内容等とあわせて公表し、広く住民に周知を図るよう努めること。
へき地の医療体制構築に係る指針
へき地における医療の確保については、昭和31年度以来、11次に渡り国において「へき地保健医療計画」を策定し、第10次計画(平成18~22年度)からは国で示した指針を基に、都道府県が地域の実情に応じて計画を策定し、対策を講じてきた。「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第84号)により、医療計画において4疾病・6事業(現在は5疾病・6事業)に係る医療提供施設間の機能の分担及び業務の連携を確保するための体制に関する事項について記載することとなり、都道府県は第5次医療計画(平成20~24年度)より、医療計画にへき地の医療体制について定めている。
その後、平成30年度から、第7次医療計画策定時期に合わせ、「へき地保健医療計画」と「医療計画(へき地の医療体制)」を一体的に策定する方針とされた1。
さらに、平成30年7月に成立した「医療法及び医師法の一部を改正する法律」(平成30年法律第79号)により、令和2年度より、都道府県において医師確保計画を策定し、医師偏在指標に基づき三次医療圏及びに二次医療圏間の医師の偏在是正による医師確保対策を行うこととなった。へき地における医師の確保については、医療計画と医師確保計画を連動して進めることが必要である。
また、令和4年11月18日に成立した「離島振興法の一部を改正する法律」(令和4年法律第92号)により、国及び地方公共団体は、医師不足等の状況に鑑み、離島における医療の充実が図られるよう特別の配慮をすることとされ、住民負担の軽減に資する、遠隔医療について配慮規定に明記された。
本指針は、へき地保健医療対策のさらなる充実を目指して、人口減少・高齢化等に対応し、住民・患者の視点に立った計画を作成するという観点から、その考え方を示すものである。
具体的には、「第1 へき地医療の現状」でへき地医療の状況等について概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また各関係機関に求められる機能を理解した上で、機能を担う関係機関とさらにそれらの関係機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 へき地の医療の現状
1 へき地医療の現状
へき地※(離島におけるへき地を含む。)における医療の確保については、昭和31年度からへき地保健医療計画を策定し、各種対策を講じてきている。
※ 無医地区*、準無医地区**などのへき地保健医療対策を実施することが必要とされている地域
* 原則として医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点としておおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区
** 無医地区ではないが、これに準じて医療の確保が必要と都道府県知事が判断し、厚生労働大臣が適当と認めた地区
(1) 無医地区等の現状
無医地区については、昭和41年に2,920地区(人口119万人)存在したが、その後の11次にわたるへき地保健医療計画の実施により、その解消が継続的に図られ、その結果、令和元年10月末の無医地区は590地区(人口12.7万人)となっている2。
交通環境の整備等により無医地区は減少を続けているものの、解消には至っていないことを考慮すると、引き続きへき地保健医療対策を実施することが重要である。
(2) へき地医療に従事する医師の現状
医師免許取得後にへき地で勤務することを条件とした地域枠を設定しているのは22都道府県、へき地医療に従事することを条件とした奨学金制度があるのは24都道府県となっている3。また、自治医科大学卒業医師で9年間の義務年限終了後もへき地で勤務を続けている医師は29.7%となっている4。
地域枠等により都道府県がへき地医療に従事する医師を確保するとともに、へき地医療に動機付けするような取組や環境作りも必要である。
(3) へき地診療所の現状(施設数:1,108施設3)
へき地診療所は、無医地区等において整備しようとする場所を中心としておおむね半径4kmの区域内に他に医療機関がなく、その区域内の人口が原則として人口1,000人以上であり、かつ、当該診療所から最寄りの医療機関まで通常の交通機関を利用して30分以上要する等の診療所をいう。
へき地保健医療対策を実施している都道府県において、1都道府県あたりのへき地診療所数の平均は26か所であり、勤務する医師数の平均は、1診療所あたり0.78人となっている3。また、へき地診療所において研修医の受入れや医学生のへき地医療実習等を行っている施設は315施設(28.4%)となっている3。
へき地診療所のうち歯科を設置しているのは34都道府県(144施設、13.0%)であった3。なお、過疎地域等特定診療所※のうち歯科を設置しているのは13道県(70施設:90.9%)となっている3。
※ 過疎地域等に開設する眼科、耳鼻いんこう科又は歯科の診療所。
(4) へき地医療拠点病院の現状(施設数:341施設3)
へき地医療拠点病院は、無医地区等において、へき地医療支援機構の指導・調整の下に、巡回診療、へき地診療所等への医師派遣や代診医派遣等を実施した実績を有する又は当該年度に実施できると認められ、都道府県が指定する病院をいう。
ただし、へき地医療拠点病院の指定を受けてから一定の期間が経過した後においても、主たる3事業である巡回診療、医師派遣、代診医派遣について、一部の病院において実績が少ないという課題がある。
※ へき地医療拠点病院における支援事業の実施状況について、主要3事業の実施回数の合計が年間12回以上に達していない施設は115施設(34.2%)、上記3事業に遠隔医療による支援を加えた4事業(必須事業)のいずれの事業の実施もなかった施設は34施設(10.1%)となっている(実績については「現況調査」3から令和3年4月1日に指定されたへき地医療拠点病院を除いた数)。
(5) へき地を支援するシステム等の現状
へき地医療支援機構は、へき地保健医療政策の中心的機関として、へき地診療所等への代診医派遣調整等広域的なへき地医療支援事業の企画・調整等を行い、へき地医療政策の各種事業を円滑かつ効率的に実施することを目的として、都道府県等に設置される。
地域枠医師等の派遣を調整する地域医療支援センターとは、統合も視野に緊密な連携や一体化を進めることとしている。へき地を有する43都道府県のうち、へき地医療支援機構を設置しているのは40都道府県であり、うち29都道県が既に地域医療支援センターと一体化又は連携している3。へき地医療支援機構の調整により行われたへき地医療拠点病院からの医師・代診医派遣日数の平均は71.0日、へき地医療支援機構の担当官等の派遣によるへき地診療所への医師・代診医派遣日数の平均は108.7日となっている3。
へき地医療支援機構の専任担当官の活動状況は地域ごとに異なり、専任担当官が1週間のうちへき地医療支援業務に従事する日数は、4~5日が15都県ある一方、0~1日未満が6県、1~3日が19道府県となっている3。
2 へき地の医療提供体制
(1) 医療提供施設等
① へき地診療所
・ 無医地区、準無医地区等における地域住民への医療の提供
② へき地医療拠点病院
・ へき地医療支援機構の指導・調整の下に、巡回診療、へき地診療所等への代診医等の派遣(継続的な医師派遣も含む。)、へき地医療従事者に対する研修、遠隔医療支援等の診療支援事業等を行い、へき地における住民の医療を確保
③ へき地保健指導所
・ 無医地区、準無医地区等での保健指導の実施
④ 社会医療法人
・ へき地医療に関して一定の実績を有するものとして社会医療法人の認定を受け、へき地診療所やへき地医療拠点病院への医師派遣等を実施
(2) へき地医療を支援する機関等
① へき地医療支援機構
・ へき地保健医療政策の中心的機関として、へき地診療所等への代診医派遣調整等広域的なへき地医療支援事業の企画・調整等を行い、へき地医療政策の各種事業を円滑かつ効率的に実施する
・ へき地医療に従事する医師確保のためのドクタープールの運営や、へき地医療に従事する医師のキャリアデザインの作成等のキャリア形成支援も担う
② へき地保健医療対策に関する協議会
・ 医療計画等の作成のほか、へき地保健医療対策にかかる総合的な意見交換・調整等を実施することを目的とする
・ へき地保健医療対策に関する協議会は、へき地医療支援機構の専任担当官、へき地医療拠点病院の代表者、地域医師会・歯科医師会の代表者、関係市町村の実務者、大学医学部関係者等により構成する
・ へき地保健医療対策に関する協議会の設置と活用実績があったのは33都道府県(76.7%)となっている3
(3) 患者の搬送体制
① 内海離島(沿海域)
・ 島内での船舶の確保
・ 自家用船で移動する場合の陸上での搬送体制
・ ヘリコプターの着陸地点の指定
② 外海離島(沿海域以遠)
・ ヘリコプターの着陸地点の指定
③ 陸上
・ 夜間の搬送体制
・ 夜間等に対応する地域外の当番病院の指定
・ 移動困難時における医療チームの定期的な派遣
(4) へき地の医療提供体制に関係するその他の体制
① 情報通信技術(ICT)による診療支援体制
・ へき地における医療機関の抱える時間的・距離的制約に対応するためのツールとして、情報ネットワークの整備があり、へき地医療拠点病院を有する42都道府県のうち、34都道府県(81.0%)が遠隔医療を、12道県(28.6%)がオンライン診療をへき地医療拠点病院において実施している3
② ドクターヘリ等の活用について
・ へき地医療においても、ドクターヘリや消防防災ヘリなどを、各地域の実情に応じて活用している
③ へき地における歯科医療提供体制
・ へき地における歯科医療提供体制について、巡回診療や診療班の派遣などを、各地域の実情に応じて実施している
④ へき地で勤務する看護師等への支援体制
・ 平成27年より、離職時にナースセンターへ氏名等の届出を行い、復職に向けたコーディネートを行う制度が開始されている
⑤ へき地患者輸送車・艇による輸送等実施
・ へき地患者輸送車は30都道県(129か所)、へき地患者輸送艇は7県(7か所)にて整備されている3
・ 一部の都道府県において、患者輸送バスの運行や、通院のための交通費補助等を単独事業として実施している
⑥ へき地巡回診療車・船による巡回診療等実施
・ 巡回診療車は原則として無医地区等を有する二次医療圏単位に、巡回診療船は離島の地域等で無医地区等が所在する場合に都道府県を単位として整備し、巡回診療等を実施している。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 へき地医療の現状」を踏まえ、個々の役割とそれを満たす関係機関、さらにそれら関係機関相互の連携により、へき地に暮らす住民に対する医療サービスが継続して実施される体制を構築すること。
特に、へき地医療支援機構を中心とした、へき地医療拠点病院、へき地診療所等による医療提供体制の確保や、当該施設及び関係機関間の連携の強化も図ること。また、へき地医療支援機構ではへき地医療を担う医師の動機付け支援とキャリアパス構築についても取り組むこと。
なお、へき地が医師偏在指標において医師中程度・多数区域内にあり、医師少数スポットにも含まれない場合には、医師確保計画における重点的な医師確保対策の対象とはならないことになるが、引き続き巡回診療等でへき地に医療の確保がなされなければならないことを踏まえ、医師確保計画とへき地の医療計画を連携させ、整合性をとること。
(1) 医療を確保する体制
① へき地の医療及び歯科診療を支える総合診療・プライマリケアを実施する医療従事者(医師、歯科医師、薬剤師、看護師等)の確保
② へき地医療に従事する医療従事者の継続的な確保(ドクタープール等)
③ へき地医療に従事する医療従事者が安心して勤務・生活できるキャリア形成支援
④ 医療従事者の養成過程等における、へき地の医療への動機付け
(2) 診療を支援する体制
① へき地医療支援機構の役割の強化と機能の充実
② へき地保健医療対策に関する協議会における協議
③ へき地医療拠点病院からの代診医派遣等の機能強化
④ 情報通信技術(ICT)、ドクターヘリ等の活用
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、へき地医療体制に求められる医療機能及び体制を下記(1)から(4)に示す。都道府県は、各医療機能及び体制の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) へき地における保健指導の機能【保健指導】
① 目標
・ 無医地区等において、保健指導を提供すること
② 関係機関に求められる事項
・ 保健師等が実施し、必要な体制が確保できていること
・ 特定地域保健医療システム※を活用していること
・ 地区の保健衛生状態を十分把握し、保健所及び最寄りのへき地診療所等との緊密な連携の下に計画的に地区の実情に即した活動を行うこと
※ 「へき地保健医療対策事業について」(平成13年5月16日付け医政発第529号厚生労働省医政局長通知)の別添「へき地保健医療対策等実施要綱」(以下「へき地対策要綱」という。)に基づく事業。
特別豪雪地帯等の無医地区等に伝送装置による保健医療情報システム体制を整備し、当該地区住民の保健医療の確保を図るもの。
③ 関係機関の例
・ へき地保健指導所
・ へき地診療所
・ 保健所
(2) へき地における診療の機能【へき地診療】
① 目標
・ 無医地区等において、地域住民の医療を確保すること
・ 24時間365日対応できる体制を整備すること
・ 専門的な医療や高度な医療へ搬送する体制を整備すること
② 医療機関に求められる事項
・ プライマリケアの診療が可能な医師等がいること又は巡回診療を実施していること
・ 必要な診療部門、医療機器等があること
・ へき地診療所診療支援システム※を活用していること
・ 特定地域保健医療システムを活用していること
・ 緊急の内科的・外科的処置が可能なへき地医療拠点病院等と連携していること
・ へき地医療拠点病院等における職員研修等に計画的に参加していること
※ へき地対策要綱に基づく事業。へき地医療拠点病院とへき地診療所との間に伝送装置を設置し、へき地医療拠点病院がへき地診療所の診療活動等を援助するもの。
③ 医療機関等の例
・ へき地診療所及び過疎地域等特定診療所
・ 医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第50条に基づく医師配置標準の特例措置の許可を受けた病院
・ 巡回診療・離島歯科診療班
(3) へき地の診療を支援する医療の機能【へき地診療の支援医療】
① 目標
・ 診療支援機能の向上を図ること
② 医療機関に求められる事項
・ へき地医療拠点病院支援システム※を活用していること
・ へき地診療所支援システムを活用していること
・ 巡回診療等によりへき地住民の医療を確保すること
・ へき地診療所等への代診医等の派遣(継続的な医師派遣も含む。)及び技術指導、援助を行うこと
・ へき地の医療従事者に対する研修の実施及び研究施設を提供すること
・ 遠隔診療等の実施により各種の診療支援を行うこと
・ その他都道府県及び市町村がへき地における医療確保のため実施する事業に対して協力すること
・ 24時間365日、医療にアクセスできる体制を整備するため、地域の診療所を含めた当番制の診療体制を構築すること
・ 高度の診療機能を有し、へき地医療拠点病院の診療活動等を援助すること
・ へき地医療拠点病院については、その主たる事業である巡回診療、医師派遣、代診医派遣(主要3事業)を、いずれか月1回以上又は年12回以上実施することが望ましい(なお、巡回診療、代診医派遣については、オンライン診療を活用して行った場合にも、実績に含めることが可能である。ただし、全ての巡回診療等をオンライン診療に切り替えるものではなく、人員不足等地域の実情に応じて、オンライン診療で代用できるものとする。)。従って、都道府県は、一定期間継続して上記3事業の実施回数がいずれも月1回未満又は年12回未満であるへき地医療拠点病院については、その取組が向上されるよう、へき地保健医療対策に関する協議会の中でその在り方等について検討すること。特に、上記3事業に遠隔医療による支援を加えた4事業(必須事業)のいずれの事業の実施もなかったへき地医療拠点病院については、経年変化も考慮し、都道府県が当該年度の現状を確認すること。
※ へき地対策要綱に基づく事業。小規模なへき地医療拠点病院の機能を強化するため、高度の機能を有する病院等医療機関とへき地医療拠点病院との間に伝送装置を設置し、へき地医療拠点病院の診療活動等を援助するもの。
③ 医療機関の例
・ へき地医療拠点病院
・ 特定機能病院
・ 地域医療支援病院
・ 臨床研修病院
・ 救命救急センターを有する病院
(4) 行政機関等によるへき地医療の支援【行政機関等の支援】
都道府県は、医療計画の策定に当たり、地域や地区の状況に応じて、医療資源を有効に活用しながら都道府県の実情にあわせて、へき地医療支援機構の強化、へき地医療を担う医師の動機付けとキャリアパスの構築、へき地等の医療提供体制に対する支援、へき地等の歯科医療体制及びへき地等の医療機関に従事する医療スタッフへの支援など行政機関等が担うへき地医療の支援策を明示し、へき地の医療計画の策定に当たっては、医師確保計画と連携、整合性をとること。
また、へき地における医療人材の効率的な活用や有事対応の観点から、オンライン診療を含む遠隔医療の有用性が示唆されているが、医療機関が遠隔医療を実施するに当たっては、資金や機器等の整備を含む自治体からの支援が重要5であることから、医療機関が必要時に遠隔医療を活用したへき地医療を行えるよう、都道府県は必要な支援を行うこと。
① 都道府県
・ 医療計画の策定及びそれに基づく施策の実施
② へき地医療支援機構
・ 医療計画に基づく施策の実施
ア 目標
・ へき地保健医療政策の中心的機関として、へき地において継続的に医療サービスが提供されるよう、関係機関の調整等を行うこと
イ 関係機関に求められる事項
・ へき地診療所から代診医派遣、医師派遣の要請があった場合の調整と、へき地医療拠点病院等への派遣要請を行うこと
・ へき地医療に従事する医師を確保するためのドクタープール機能を持つこと
・ へき地医療に従事する医師のキャリア形成支援を行うこと
・ へき地における地域医療分析を行うこと
・ 専任担当官として地域医療への意識が高く、ある程度長く継続して努められる医師を配置し、へき地医療関連業務に専念できるような環境を整備すること
・ 医師確保計画とへき地の医療計画を連動させるため、地域医療支援センターとの統合も視野に、地域医療支援センターとのより緊密な連携や一体化を進め、へき地の医療体制について、総合的な企画・調整を行うこと
第3 構築の具体的な手順
医療計画の策定に当たっては、患者や住民の視点に立った対象地域ごとの情報となるよう、分かりやすく工夫する必要がある。
1 現状の把握
都道府県は、へき地の医療体制を構築するに当たって、(1)に示す項目を参考に、対象地域の地区ごとに、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(2)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
(1) 医療資源・連携等に関する情報
・ へき地医療支援機構からの支援策
・ へき地医療拠点病院からの支援策
・ 最寄りへき地診療所
・ 当該地区の解消策とその時期
・ 当該時点の支援策と解消までの支援策(解消策)
・ 類型(外海離島型、内海離島型等の別)
・ その他の問題点等
(2) 指標による現状把握
別表9に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 医療機能の明確化
(1) 都道府県は、へき地医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、対象地域において、個々の医療機関や体制に求められる医療機能を明確にすること。
(2) 検討を行う際には、へき地医療支援機構の専任担当官、へき地医療拠点病院の代表者、地域医師会・歯科医師会の代表者、関係市町村の実務者、大学医学部関係者、地域住民の代表等により構成される「へき地保健医療対策に関する協議会」の意見を聞き、その意見を十分踏まえつつ協議を行うこと。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、へき地の医療体制を構築するに当たって、保健指導、へき地診療及びへき地診療の支援医療が互いに連携するよう、また、関係機関や医療機関の信頼関係を醸成するよう配慮すること。
また、関係機関、地域医師会等の関係者は、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して関係機関の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には、原則として、対象地区及び各機能を担う関係機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともあり得る。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、へき地の医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切なへき地医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
また、良質かつ適切なへき地医療を提供する体制を構築するため、へき地医療拠点病院の中で主要3事業の年間実績が合算で12回以上の医療機関を増やして行くため、「へき地医療拠点病院の中で主要3事業の年間実績が合算で12回以上の医療機関の割合」を指標とした上で、本指標の値を100%にすることを数値目標とすることが望ましい。
さらに、少なくともへき地医療拠点病院の必須事業の実施回数が年間1回以上の医療機関を増やしていくため、「へき地医療拠点病院の中でへき地医療拠点病院の必須事業の実施回数が年間1回以上の医療機関の割合」を指標とした上で、本指標の値を100%にすることを数値目標とすることが望ましい。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 情報共有
各都道府県は、全国へき地医療支援機構等連絡会議において、へき地保健医療対策について意見交換等を行うこと。
9 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
――――――――――
1 へき地保健医療対策検討会報告書(第11次)(平成27年3月)
2 厚生労働省「無医地区等調査」(令和元年度)
3 厚生労働省「現況調査」(令和3年4月)
4 自治医科大学調べ(令和4年7月1日時点)
5 厚生労働科学研究「人口動態や地域の実情に対応するへき地医療の推進を図るための研究」(研究代表者 小谷和彦)(令和3年度)
周産期医療の体制構築に係る指針
周産期とは妊娠22週から出生後7日未満のことをいい、周産期医療とは妊娠、分娩に関わる母体・胎児管理と出生後の新生児管理を主に対象とする医療のことをいう。本指針では、周産期の医療体制を構築するに当たり、「第1 周産期医療の現状」で周産期医療をとりまく状況がどのようなものであるのかを概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」で都道府県の構築すべき医療体制について示している。なお、周産期医療体制については、二次医療圏を越えた圏域での整備が求められることが多いことから、本指針においては、二次医療圏と同一である場合も含め周産期医療の提供体制に係る圏域を「周産期医療圏」と呼称する。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、分娩のリスクに応じて必要となる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて周産期医療圏を設定し、その周産期医療圏ごとの医療機関とそれらの医療機関相互の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
周産期医療体制は、充実した周産期医療を提供するため、都道府県において、地域の実情に応じ、保健医療関係機関・団体の合意に基づきその基本的方向を定めた上で、周産期に係る保健医療の総合的なサービスを提供するものとして整備される必要がある。厚生労働省において周産期医療対策事業の充実を図るとともに、都道府県において、医療関係者等の協力の下に、限られた資源を有効に活かしながら、将来を見据えた周産期医療体制の整備を図ることにより、地域における周産期医療の適切な提供を図るものである。
第1 周産期医療の現状
1 周産期医療をとりまく状況
わが国における周産期医療の受療動向は、およそ以下のとおりとなっている。
(1) 分娩件数及び出生の場所1
分娩件数は、平成17年に約108万件であったが、令和3年には約81万件と約25%減少している。
出生場所は、昭和25年には「自宅・その他」で95.4%が出生していたが、昭和45年には3.9%となり、代わりに「病院・診療所」が85.4%、「助産所」が10.6%と増えている。
さらに令和3年には「自宅、その他」は0.2%となり、「病院・診療所」が99.3%、「助産所」が0.5%と推移している。
(2) 出生年齢の推移1
全出生中の35歳以上の割合は、昭和25年に15.6%(36.5万人)であったが、昭和45年に4.7%(9.1万人)、令和3年に30.0%(24.3万人)と推移している。また、第1子出生時の平均年齢の年次推移は、昭和25年に24.4歳であったが、昭和45年には25.6歳、平成12年は28.0歳、平成17年は29.1歳、令和3年には32.2歳と一貫して上昇が継続している。
(3) 複産の割合1
全分娩件数中の複産の割合は、平成12年に1.0%、平成17年に1.2%、平成22年に1.0%、令和3年に1.1%と推移している。
(4) 周産期死亡率及び死産率1
周産期死亡率(出産1,000対)は、昭和55年に20.2、平成12年に5.8、平成17年に4.8、平成27年に3.6、令和3年に3.4と減少している。
妊娠満22週以後の死産率(出産1000対)は、昭和55年に16.4、平成12年に4.5、平成17年に3.8、平成27年に3.0、令和3年に2.7と減少している。
(5) 帝王切開術の割合2
分娩における帝王切開術の割合は、平成2年に一般病院で11.2%、一般診療所で8.3%、全分娩に対しては9.8%であったが、令和2年にはそれぞれ27.4%、14.7%、21.6%と大幅に上昇している。
(6) 低出生体重児1
低出生体重児(2,500グラム未満)の出生割合は、平成2年に6.3%、平成12年に8.6%、平成22年に9.6%と増加している。その後は横ばいであり、平成27年は9.5%、令和3年は9.4%である。また、超低出生体重児(1,000グラム未満)についても、平成2年に0.19%、平成12年に0.24%、平成22年に0.30%、平成27年は0.31、令和3年に0.30%と同様の傾向である。
(7) 早産児1
早産児(在胎期間37週未満)の出生割合は、平成2年に4.5%、平成12年に5.4%、平成17年に5.7%、平成27年は5.6%、令和3年は5.7%であり、平成17年以降は横ばいである。
(8) 新生児死亡率1
新生児死亡率(出生1000対)は、平成2年に2.6、平成12年に1.8、平成22年に1.1、平成27年に0.9、令和3年に0.8と減少している。
(9) 妊産婦死亡率1
妊産婦死亡率(出産10万対)は、平成12年の6.3が、平成22年に4.1、平成27年に3.8、令和3年に2.5となっている。
(10) 産後うつ病の発生率
産後うつ病の発生率は、平成13年の13.4%が、平成21年に10.3%、平成25年に9.0%となっている3。
2 周産期医療の提供体制
(1) 周産期医療の提供体制
① 施設分娩のうち、病院及び診療所での出生がそれぞれ52.9%、46.4%を担い、助産所での出生は0.5%を担っている1。分娩取扱施設(病院、診療所)の数は、平成8年には病院1,720施設、診療所2,271施設であったが、令和3年は病院946施設、診療所999施設と、20年以上一貫して減少が続いている2。
分娩取扱診療所の平均常勤産婦人科医師数の推移は1.5人(平成20年)から1.9人(令和2年)と、1~2名の医師による診療体制には大きな変化はなく、全分娩の46.4%をこのような有床診療所が担っている。一方、分娩取扱病院の平均常勤産婦人科医数は4.3人(平成20年)から7.0人(令和2年)2と増加傾向であり、分娩取扱病院においては、勤務環境の整備や分娩体制の維持等のために一定程度の集約化が進んでいると考えられる。また、平成15年には新生児集中治療室(以下「NICU」という。)をもつ施設のうち、1施設当たりの病床が6床以下の施設数が最も多かった(日本周産期・新生児医学会調査)が、令和2年は6床以下の施設は20.5%(医政局地域医療計画課調査)と施設の規模も拡大傾向にある。
このように、わが国の周産期医療提供体制は、比較的小規模な多数の分娩施設が分散的に分娩を担うという特徴を有しているものの、近年は分娩取扱病院については重点化、集約化が徐々に進んでいる。
一方で、地域における周産期医療を確保する上で重要となる産科医師については、都道府県間、周産期医療圏間で偏在が生じ、産科医師や分娩取扱施設が存在しない周産期医療圏(以下「無産科周産期医療圏」という。)が存在しており、この問題の解消が課題となっている。
② NICUの病床数は、平成14年に265施設、2,122床であったが、平成26年に330施設、3,052床となっている。また、母体・胎児集中治療室(以下「MFICU」という。)は平成8年より設置が開始され、平成14年に42施設、381床であったが、平成26年に110施設、715床、令和2年に131施設、867床と増加している2。
③ このような状況の中で、これまで周産期医療に係る人的・物的資源を充実し、高度な医療を適切に供給する体制を整備するため、各都道府県において、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センター及び搬送体制等に関する周産期医療体制の整備が進められてきたところである。
④ 「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化の推進について」(平成17年12月22日付け医政発第1222007号・雇児発第1222007号・総財経第422号・17文科高第642号厚生労働省医政局長・厚生労働省雇用均等・児童家庭局長・総務省自治財政局長・文部科学省高等教育局長連名通知。以下「集約化推進通知」という。)において、小児科・産科の医師偏在問題については、医療資源の集約化・重点化の推進が当面の最も有効な方策であることを示した。
⑤ 続いて「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会報告書」(平成21年3月)を受け、周産期医療対策事業の実施要綱に基づく「周産期医療体制整備指針」(平成22年1月26日付け医政発0126第1号厚生労働省医政局長通知の別添2。以下「周産期整備指針」という。)の見直しを行うため、平成22年1月に「周産期医療の確保について」(平成22年1月26日付け医政発0126第1号厚生労働省医政局長通知)を発出した。
⑥ さらに「周産期医療体制のあり方に関する検討会」を平成27年度から開催し、平成23年度以降の周産期を取り巻く様々な課題についての議論を行い、周産期医療体制の新たな方針を示した。
⑦ その後、平成30年7月に「医療法及び医師法の一部を改正する法律」が公布され、令和2年度より医師偏在指標に基づいた医師偏在対策を行うこととなり、産科医師・小児科医師についても、各都道府県は、産科・小児科の医師偏在指標を活用し、医療圏の見直しや更なる集約化・重点化等の医療提供体制の見直しを含む産科・小児科の医師確保計画を策定し、令和2年度より、同計画に基づく医師偏在対策を行うこととしている。産科・小児科の医師確保計画の考え方や構造については「医師確保計画策定ガイドライン」(平成31年3月29日付け医政地発0329第3号・医政医発0329第6号厚生労働省医政局地域医療計画課長・医事課長通知別添)において示したところである。
⑧ また、妊産婦に対する健康管理の推進や、妊産婦が安心できる医療体制の充実などの課題について検討を行うため、平成31年2月より「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」を開催し、「議論の取りまとめ」(令和元年6月10日)においては、医療提供に関することとして、産科及び産婦人科以外の診療科と産科及び産婦人科の医療機関の連携、妊産婦に対する診療の質の向上等に取り組んでいく必要があるとされた。
⑨ 平成30年12月に成立した成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(平成30年法律第104号)に基づく成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針が令和3年2月9日に閣議決定され、成育医療の提供に当たっては、医療、保健、教育、福祉などの各分野の横断的な視点での総合的な推進を行うこととされた。
(2) 産婦人科医の実態
平成12年から平成26年までの間に医療施設に従事する医師総数が約5.4万人(22%)増加した一方、産婦人科医師数(産婦人科医、産科医及び婦人科医)は、平成12年の12,870人が、平成22年に12,369人、平成26年は12,888人、令和2年は13,673人と803人(6.2%)の増加である4。分娩取扱施設の常勤産婦人科医師数は、平成20年は7,390人、平成27年は8,576人、令和2年は8,932人で増加傾向となっている。(なお、女性医師の割合は39.8%と増加傾向である。)。しかし、産婦人科医師の勤務時間は長時間であり、さらに分娩を取り扱う医療機関の約7割が当直医の派遣により医療体制を維持している5。
(3) 新生児医療を担当する医師の実態
新生児医療を担当する小児科医等は、平成12年に2,640人、平成22年に3,173人と増加傾向であったが、平成26年は3,289人と、令和3年は2,523人と減少に転じている。産婦人科医師と同様に、新生児医療を担当する小児科医師の勤務時間も長時間にわたっている6。
(4) 助産師の実態
助産師数は平成8年には約2.4万人であったが、令和2年には3.8万人まで増加している7。
助産所の数(助産所の開設者である助産師数)は、平成8年に947施設であったものが、平成18年に683施設まで減少したが、平成26年に902施設、令和2年には1,319施設まで回復している。しかし、分娩取扱助産所数は、平成23年には474施設であったが平成27年には408施設、令和2年には341施設と漸減している7。一方、院内助産所数及び助産師外来は、平成23年にはそれぞれ160、894であったが、平成26年にはそれぞれ166、947、令和2年にはそれぞれ179、1025と増加傾向である2。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 都道府県における周産期医療体制の整備
(1) 周産期医療に関する協議会
① 周産期医療に関する協議会の設置
都道府県は、周産期医療体制の整備に関する協議を行うため、周産期整備指針に規定していた周産期医療協議会を継続させること等により、周産期医療に関する協議会を設置すること。構成員は、地域の周産期医療に携わる医師、助産師等看護職を含むことを基本とし、妊婦のメンタルヘルスケアに携わる人材や消防関係者の参画を検討すること。さらに、地域の実情に応じ歯科医師、薬剤師、保健師、保健医療関係機関・団体の代表、医育機関関係者、学識経験者、都道府県・市町村の代表、住民等必要な職種その他関係者の参画を検討すること。なお、周産期医療体制について協議するに当たり、適切な既存の協議の場が他にある場合にあっては、当該既存の協議の場を活用することで差し支えない。
② 協議事項
周産期医療に関する協議会は、少なくとも年1回、必要な場合は年に複数回、定期又は臨時で開催すること。また、必要に応じオンラインで開催すること。
協議事項は次のアからチまでに掲げるとおりであり、協議内容については、都道府県は住民に対して情報提供を行うこと。なお、周産期搬送、精神疾患を含む合併症を有する母体や新生児の受入れ、災害対策など、他事業・疾患との連携を要する事項については、周産期医療に関する協議会と、メディカルコントロール協議会、消防防災主管部局等の関連団体や各事業の行政担当者と連携し、地域の実情に応じて、実施に関する基準等を協議すること。また、将来的な医療の質の向上、安全性の確保のために、周産期医療の知識及び技術を指導する人材の育成等について検討すること。さらに、母子に対する切れ目のない支援を提供するため、保健福祉部局の担当者が参画し、市町村が行っている保健・福祉等の施策についての情報共有を図り、医療と母子保健等との連携を推進すること。
周産期医療については、出生後の児を円滑に小児医療につなげる観点から、小児医療と強く結びつく必要があるため、「周産期医療に関する協議会」と「小児医療に関する協議会」との合同開催等を通じ、互いの情報連携を進めること。
ア 周産期医療体制に係る調査分析に関する事項
イ 医療計画(周産期医療)の策定に関する事項(第7次医療計画までの周産期医療体制整備計画の内容を含む。)
ウ 母体及び新生児の搬送及び受入れ(圏域を越えた搬送及び受入れ(ドクターヘリ等の運用による場合を含む。)を含む。)、母体や新生児の死亡や重篤な症例に関する事項
エ 総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センターに関する事項
オ 分娩取扱施設(病院、診療所、助産所)間の連携に関する事項
カ 周産期医療情報センター(周産期救急情報システムを含む。)に関する事項
キ 搬送コーディネーターに関する事項
ク 他事業等との連携を要する事項(救急医療、災害医療、精神疾患、歯科疾患等の周産期に合併する疾患に関する医療等)
ケ 産前産後を通じた妊産婦に対するメンタルヘルスケアに関する事項
コ 都道府県の医療部門及び周産期医療関連施設と都道府県及び市町村の保健・福祉部門、並びにその他の成育過程にある者に対する医療、保健、福祉等の関係者との連携に関する事項(母子保健事業等の妊産婦を支援する施策や中長期のフォローを要する妊産婦・新生児に係る情報共有等を含む。)
サ 地域周産期医療関連施設等の周産期医療関係者に対する研修に関する事項
シ 周産期医療の知識及び技術を指導する人材の育成に関する事項
ス 産科・小児科の医師確保計画の策定に関する事項(新生児医療を担う医師の確保及び産科医師の負担軽減を目的とした院内助産や助産師外来の活用を含む。)
セ 産科及び産婦人科と産科及び産婦人科以外の診療科との連携体制に関する事項
ソ NICU長期入院児等の退院支援体制及び療養・療育に関わる保健医療機関との連携に関する事項
タ 新興感染症の発生・まん延時における医療体制に関する事項(妊産婦の受け入れ先等の救急搬送体制を含む。)
チ その他特に検討を要する事例や周産期医療体制の整備に関し必要な事項
③ 都道府県医療審議会等との連携
周産期医療に関する協議会については、都道府県医療審議会又は地域医療対策協議会の作業部会として位置付けるなど、都道府県医療審議会及び地域医療対策協議会と密接な連携を図ること。また、地域医療構想調整会議(法第30条の14第1項に規定する協議の場をいう。以下同じ。)等、連携を要する他事業に関する協議会との整合性に留意すること。
(2) 総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センター
① 指定及び認定
都道府県は、第2の2(2)④に定める機能、診療科目、設備等を有する医療施設を総合周産期母子医療センターとして指定すること。また、都道府県は、第2の2(2)③に定める機能、診療科目、設備等を有する医療施設を地域周産期母子医療センターとして認定すること。
② 支援及び指導
総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センターは、本指針の定める機能、診療科目、設備等を満たさなくなった場合は、その旨を速やかに都道府県に報告し、当該報告を受けた都道府県は、当該医療施設に対して適切な支援及び指導を行うこと。
③ 指定及び認定の取消し
②に定める都道府県による支援及び指導が実施された後も総合周産期母子医療センター又は地域周産期母子医療センターが改善しない場合は、都道府県は、当該医療施設の総合周産期母子医療センターの指定又は地域周産期母子医療センターの認定を取り消すことができること。
(3) 周産期医療情報センター
① 周産期医療情報センターの設置
都道府県は、総合周産期母子医療センター等に周産期医療情報センターを設置すること。
② 周産期救急情報システムの運営
ア 周産期医療情報センターは、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センター及び助産所を含む一次医療施設や地域周産期医療関連施設等と通信回線等を接続し、周産期救急情報システムを運営すること。
イ 周産期医療情報センターは、次に掲げる情報を収集し、関係者に提供すること。
(ア) 周産期医療に関する診療科別医師の存否及び勤務状況
(イ) 病床の空床状況
(ウ) 手術、検査及び処置の可否
(エ) 重症例の受入可能状況
(オ) 救急搬送に同行する医師の存否
(カ) その他地域の周産期医療の提供に関し必要な事項
ウ 情報収集・提供の方法
周産期医療情報センターは、電話、FAX、コンピューター等適切な方法により情報を収集し、関係者に提供すること。
エ 救急医療情報システムとの連携
周産期救急情報システムについては、救急医療情報システムとの一体的運用や相互の情報参照等により、救急医療情報システムと連携を図ること。また、周産期救急情報システムと救急医療情報システムを連携させることにより、総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センターその他の地域周産期医療関連施設、救命救急センター、消防機関等が情報を共有できる体制を整備することが望ましい。特に、新興感染症まん延時においては、感染妊産婦において迅速かつ円滑な医療機関の選定と救急搬送・移送が重要となるため、産科的緊急処置が必要な妊産婦の受入れを行う医療機関のリストを、各消防機関と共有すること。また、災害時等、通信手段が限られた場合の周産期救急情報システムの運用についても平時より関係者に周知すること。
(4) 搬送コーディネーター
都道府県は、周産期医療情報センター、救急医療情報センター等に、次に掲げる業務を行う搬送コーディネーターを配置することが望ましい。
① 医療施設又は消防機関から、母体又は新生児の受入医療施設の調整の要請を受け、受入医療施設の選定、確認及び回答を行うこと
② 医療施設から情報を積極的に収集し、情報を更新するなど、周産期救急情報システムの活用推進に努めること
③ 必要に応じて、住民に医療施設の情報提供を行うこと
④ その他母体及び新生児の搬送及び受入れに関し必要な業務を行うこと
(5) 周産期医療における災害対策
これまでの震災を踏まえた研究や検討から、現状の災害医療体制では小児・周産期医療に関して準備不足であることが指摘された。また、小児・周産期医療については平時から独自のネットワークが形成されていることが多く、災害時にも既存のネットワークを活用する必要性が指摘された8。そのため、都道府県は、災害時に、小児・周産期医療に係る保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう、保健医療福祉調整本部等において、被災地の保健医療ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等に係る助言及び支援を行う都道府県災害医療コーディネーターをサポートすることを目的として、「災害時小児周産期リエゾン」を任命すること。また、災害時小児周産期リエゾンに任命された者は、各都道府県において平時からの訓練や災害時の活動を通じて、地域のネットワークを災害時に有効に活用する仕組みを構築すること。なお、訓練の実施に当たっては、周産期母子医療センターをはじめ、地域の一次医療施設を含めて地域全体で行うこと。
(6) 周産期医療における新興感染症の発生・まん延への対策
新興感染症の発生・まん延時においても、地域で周産期医療を確保するため、感染症の罹患又は罹患が疑われる妊婦に対して産科的緊急症を含む産科診療を実施する医療機関について、地域の周産期医療に関する協議会等においてあらかじめ協議すること。また、適切に妊婦のトリアージや入院等に係るコーディネートを行う災害時小児周産期リエゾン等の人材を、災害時小児周産期リエゾン養成研修事業を活用し養成するとともに、その活用について平時から検討すること。
(7) 周産期医療関係者に対する研修
都道府県は、地域周産期医療関連施設等の医師、助産師、看護師、搬送コーディネーター、NICU入院児支援コーディネーター等に対し、地域の保健医療関係機関・団体等と連携し、総合周産期母子医療センター等において、必要な専門的・基礎的知識及び技術を習得させ、また地域における母子保健や福祉等の体制についての理解を深めるため、到達目標を定め、研修を行うとともに、必要な専門的・基礎的知識及び技術を指導する人材の育成等に取り組むこと。
① 到達目標の例
ア 周産期医療に必要とされる基本的な知識及び技術の習得
イ 緊急を要する母体及び新生児に対する的確な判断力及び高度な技術の習得
ウ NICU等高次医療施設を退院後、地域で医療的なケアを要する児や家族等のための環境整備や地域連携のために必要な手続等に関する基礎的な知識の習得
② 研修内容の例
ア 産科
(ア) 胎児及び母体の状況の適切な把握と迅速な対応
(イ) 産科ショックとその対策
(ウ) 妊産婦死亡とその防止対策
(エ) 帝王切開の問題点
イ 新生児医療
(ア) ハイリスク新生児の医療提供体制
(イ) 新生児関連統計・疫学データ
(ウ) 新生児搬送の適応
(エ) 新生児蘇生法
(オ) ハイリスク新生児の迅速な診断
(カ) 新生児管理の実際
(キ) 退院後の保健指導、フォローアップ実施方法等
ウ その他
(ア) 救急患者の緊急度の判断、救急患者の搬送及び受入ルール等
(イ) 他の診療科との合同の症例検討会等
(ウ) 周産期の医療安全
(エ) 地域の福祉施設、療育支援施設との連携会議等
(8) 妊産婦の診療に係る医療提供体制の整備
① 都道府県は、産科及び産婦人科以外の診療科の医師に対し、地域の保健医療関係機関・団体等と連携し、総合周産期母子医療センター等において、妊産婦の特性に応じた診療の知識及び技術を習得させるための研修を行うこと。
② 都道府県は、総合周産期母子医療センター等に妊産婦の診療について必要な情報を提供するための産科及び産婦人科の医師を配置し、地域の産科及び産婦人科以外の診療科の医師からの相談に応じる相談窓口を設置すること。
2 医療機関とその連携
(1) 目指すべき方向
前記「第1 周産期医療の現状」を踏まえ、個々の医療機能、それを満たす医療機関、さらにそれら医療機関相互の連携により、対応する分娩のリスクに応じた医療が提供される体制を構築すること。
構築に当たっては、医療機関間の連携、近隣都道府県等との連携(広域搬送・相互支援体制の構築等、圏域を越えた母体及び新生児の搬送及び受入れが円滑に行われるための措置)、輸血の確保(地域の関係機関との連携を図り、血漿製剤や赤血球製剤等の輸血用血液製剤が緊急時の大量使用の場合も含め安定的に供給されるよう努める)等を推進するとともに、これまでのハイリスク分娩等に対する取組以外にも、正常分娩等に対する安全な医療を提供するための体制の確保や、周産期医療関連施設を退院した障害児等が生活の場で療養・療育できる体制の確保についても取り組むこと。
① 正常分娩等に対し安全な医療を提供するための、周産期医療関連施設間の連携が可能な体制
ア 正常分娩(リスクの低い帝王切開術を含む。)や妊婦健診等を含めた分娩前後の診療を安全に実施可能な体制
イ ハイリスク分娩や急変時には地域周産期母子医療センター等へ迅速に搬送が可能な体制
② 周産期の救急対応が24時間可能な体制
総合周産期母子医療センター、地域周産期母子医療センター及びそれに準ずる施設を中心とした周産期医療体制による、24時間対応可能な周産期の救急対応が可能な体制を整備すること。
③ ハイリスク妊産婦に対する医療の提供が可能な体制
NICU・MFICUや周産期専門医9などの高度専門人材の集約化・重点化などを通じて、総合周産期母子医療センターを中心に、必要に応じて協力医療施設を定め、精神疾患を含めた合併症妊娠や胎児・新生児異常等、母体又は児のリスクが高い妊娠に対応する体制を整備すること。
総合周産期母子医療センターは、周産期医療関係者研修事業を活用し、地域の医療従事者への研修を含め、周産期医療に精通した指導的役割を持つ医療従事者育成の役割も担うこと。また、社会的ハイリスク妊産婦(特定妊婦等の妊娠中から家庭環境におけるハイリスク要因を有する妊婦)への対応として、周産期医療に関する協議会等を通じて、市町村が行っている保健、福祉等に係る施策等について情報共有を図り、支援につなげること。なお、医療資源の集約化・重点化により分娩施設までのアクセスが悪化した地域に居住する妊産婦に対して、地域の実情に応じて対策を検討すること。
④ 新生児医療の提供が可能な体制
新生児搬送体制やNICU、新生児回復期治療室(以下「GCU」という。)の整備を含めた新生児医療の提供が可能な体制を整備すること。
なお、これまで、低出生体重児の割合の増加や長期入院等により病床が不足する傾向にあることから、都道府県は出生1万人対25床から30床を目標として、その配置も含め地域の実情に応じて整備を進めてきた。特に、安定した地域周産期医療提供体制の構築のためには新生児医療を担う医師の確保、充足が重要であることから、周産期母子医療センター等の地域新生児医療を担う施設における新生児医療を担当する医師の充足状況を把握した上で、医師の確保のために必要な方策を検討し、明示すること。その後、平成29年度には、全都道府県で目標を達成しており、目標を大きく上回る都道府県もあることから、質の高い新生児医療を効率的に提供できるよう、引き続き、NICUの集約化・重点化について検討をすること。
⑤ 母子に配慮した周産期医療の提供が可能な体制
分娩を取り扱う医療機関は、母子の心身の安定・安全の確保等を図る観点から、産科区域の特定(院内助産・助産師外来や医療機関における産後ケア事業の実施、また、母子保健や福祉に関する事業と連携する機能を包括的に実施する機能をもつ病棟の概念を含む。)や安全な無痛分娩の実施などの対応を講ずることが望ましいなか、当該医療機関の実情を踏まえた適切な対応を推進すること。また、都道府県は、無痛分娩を実施する医療機関について、無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA)の実施する研修、情報公開、有害事象分析事業への参画を推進すること。
⑥ NICUに入室している新生児の療養・療育支援及び在宅ケアへの円滑な移行が可能な体制
周産期医療関連施設は、NICU長期入院児等が自宅に退院する前に、地域療養支援施設運営事業を活用して、当該施設の一般病棟や地域の医療施設への移動等の段階を経ることにより、自宅退院後に家族等が在宅ケアを行うための手技の習得や環境の整備をする期間を設けることで、医療的ケア児の生活の場における療養・療育への円滑な移行を支援する体制の整備を行うこと。また、地域の医療機関は、在宅において療養・療育を行っている児の家族等に対し、日中一時支援事業を活用し、レスパイト等の支援を実施する体制の整備を行うこと。
⑦ 医師の勤務環境の改善が可能な体制
周産期医療に携わる医師の働き方改革を進めつつ、地域において必要な周産期医療を維持・確保するため、地域医療構想や医師確保計画との整合性にも留意しながら、基幹施設を中心として医療機関・機能の集約化・重点化や産科及び小児科の医師偏在対策を検討すること。また、ハイリスク分娩を取り扱う周産期母子医療センター等に負担を集中させないよう、分娩を取り扱わない医療機関においても、妊婦健診や産前・産後のケアの実施や、オープンシステム(地元で妊産婦の健康診断を担当した医師・助産師が、分娩時に連絡を受け、周産期母子医療センター等の連携病院に出向き、出産に対応する仕組み)・セミオープンシステム(地元の産科診療所等が妊産婦の健康診断を行い、周産期母子医療センター等の連携病院の医師・助産師が出産に対応する仕組み)の活用をすすめるなど、医療機関の役割を分担し、周産期医療と母子保健を地域全体で支えること。さらに、地域医療介護総合確保基金等を活用し、院内助産や助産師外来の活用を進めることにより、産科医師から助産師へのタスク・シフト/シェアを進めること。
(2) 各医療機能と連携
前記「(1) 目指すべき方向」を踏まえ、周産期医療体制に求められる医療機能を下記①から④に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
① 正常分娩等を扱う機能(日常の生活・保健指導及び新生児の医療の相談を含む。)【正常分娩】
ア 目標
・ 正常分娩に対応すること
・ 妊婦健診等を含めた分娩前後の診療を行うこと
・ 周産期母子医療センター及びそれに準ずる施設など他の医療機関との連携により、リスクの低い帝王切開術に対応すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 産科に必要とされる検査、診断及び治療が実施可能であること
・ 正常分娩を安全に実施可能であること
・ 他の医療機関との連携により、合併症や、帝王切開術その他の手術に適切に対応できること
・ 妊産婦のメンタルヘルスに対応可能であること
・ 分娩の立会いや面会の方針など、医療機関を選択する上で必要な情報をあらかじめ提供すること
・ 緊急時の搬送に当たっては、周産期救急情報システム等を活用し、病態や緊急度に応じて適切な医療機関を選定すること。また平時から近隣の高次施設との連携体制を構築すること
・ 助産所においては、嘱託医師・嘱託医療機関を定め、妊産婦の状況の変化や異常分娩が生じた際には適切に連携を行うこと
ウ 医療機関の例
・ 産科又は産婦人科を標榜する病院又は診療所
・ 連携病院(集約化推進通知に規定されるもの)
・ 助産所
② 分娩を取り扱わないが、妊婦健診や産前・産褥管理・産後ケアを実施する機能
ア 目標
・ 妊婦健診や産前・産褥管理・産後ケアを実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 産科に必要とされる検査、診断、初期治療が実施可能であること
・ 妊産婦のメンタルヘルスケアを行うこと
・ 妊産婦の日常的の生活・保健指導に対応すること
・ オープンシステム・セミオープンシステムを活用し、分娩取扱医療機関との連携により、分娩以外の産科診療に対応すること
・ 当該施設の休診時間等におけるかかりつけの妊産婦の症状等への対応について、連携する分娩取扱医療機関と取決めを行うこと
・ 当該施設のかかりつけ妊婦の分娩が近くなった際に、適切に分娩取扱医療機関への診療情報提供を行うこと。また、オープンシステム、セミオープンシステムを活用し、情報の共有に努めること。
・ 緊急時の搬送に当たっては、周産期救急情報システム等を活用し、病態や緊急度に応じて適切な医療機関を選定すること。また、平時から近隣の高次施設との連携体制を構築すること。
ウ 医療機関の例
・ 分娩を取り扱わない産婦人科を標榜する病院又は診療所
・ 分娩を取り扱わない助産所
③ 周産期に係る比較的高度な医療行為を行うことができる機能【地域周産期母子医療センター】
ア 目標
・ 周産期に係る比較的高度な医療行為を実施すること
・ 24時間体制での周産期救急医療(緊急帝王切開術、その他の緊急手術を含む。)に対応すること
イ 医療機関に求められる事項
(ア) 機能
a 地域周産期母子医療センターは、産科及び小児科(新生児診療を担当するもの)等を備え、周産期に係る比較的高度な医療行為を行うことができる医療施設を都道府県が認定するものである。ただし、NICUを備える小児専門病院等であって、都道府県が適当と認める医療施設については、産科を備えていないものであっても、地域周産期母子医療センターとして認定することができること。
b 地域周産期母子医療センターは、地域周産期医療関連施設等からの救急搬送や総合周産期母子医療センターその他の地域周産期医療関連施設等との連携を図ること。
c 都道府県は、各地域周産期母子医療センターにおいて設定された提供可能な新生児医療の水準について、医療計画に明記するなどにより、関係者及び住民に情報提供すること。
d 分娩の立会いや面会の方針など、医療機関を選択する上で必要な情報をあらかじめ提供すること。
(イ) 整備内容
a 施設数
地域周産期母子医療センターは、総合周産期母子医療センター1か所に対して数か所の割合で整備するものとし、周産期医療圏に1か所以上整備することが望ましい。
b 診療科目
地域周産期母子医療センターは、産科及び小児科(新生児医療を担当するもの)を有するものとし、麻酔科及びその他関連診療科を有することが望ましい。ただし、NICUを備える小児専門病院等であって、都道府県が適当と認める医療施設については、産科を有していなくても差し支えない。
また、当該施設が精神科を有さない場合には、連携して対応する協力医療機関を定め、精神疾患を合併する妊産婦についても対応可能な体制を整えることが望ましい。
c 設備
地域周産期母子医療センターは、次に掲げる設備を備えること。
(a) 産科を有する場合は、次に掲げる設備を備えることが望ましい。
i 緊急帝王切開術等の実施に必要な医療機器
ii 分娩監視装置
iii 超音波診断装置(カラードップラー機能を有するものに限る。)
iv 微量輸液装置
v その他産科医療に必要な設備
(b) 小児科等には新生児病室を有し、次に掲げる設備を備えるNICUを設けることが望ましい。
i 新生児用呼吸循環監視装置
ii 新生児用人工換気装置
iii 保育器
iv その他新生児集中治療に必要な設備
(ウ) 職員
地域周産期母子医療センターは、次に掲げる職員を配置することが望ましい。
a 小児科(新生児医療を担当するもの)については、24時間体制を確保するために必要な職員
b 産科を有する場合は、帝王切開術が必要な場合に迅速(おおむね30分以内)に手術への対応が可能となるような医師(麻酔科医を含む。)及びその他の各種職員
c 新生児病室については、次に掲げる職員
(a) 24時間体制で病院内に小児科を担当する医師が勤務していること
(b) 各地域周産期母子医療センターにおいて設定した水準の新生児医療を提供するために必要な看護師が適当数勤務していること
(c) 公認心理師等を配置すること
(d) NICUを有する場合は入院児支援コーディネーターを配置することが望ましい
(エ) 連携機能
地域周産期母子医療センターは、総合周産期母子医療センターからの戻り搬送の受入れ、オープンシステム・セミオープンシステム等の活用による地域の産婦人科医療機関からの妊産婦の受入れ、合同症例検討会等の開催等により、総合周産期母子医療センターその他の地域周産期医療関連施設等と連携を図ること。
(オ) 災害対策
地域周産期母子医療センターは、災害時を見据えて、下記の対策を行うこと。
a 被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画を策定していること。
b 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくことが望ましい。なお、自家発電機等の燃料として都市ガスを使用する場合は、非常時に切替え可能な他の電力系統等を有しておくこと。また、平時より病院の基本的な機能を維持するために必要な設備について、自家発電機等から電源の確保が行われていることや、非常時に使用可能なことを検証しておくこと。なお、自家発電機等の設置場所については、地域のハザードマップ等を参考にして検討することが望ましい。
c 災害時に少なくとも3日分の病院の機能を維持するための水を確保することが望ましい。具体的には、少なくとも3日分の容量の受水槽を保有しておくこと又は停電時にも使用可能な地下水利用のための設備(井戸設備を含む。)を整備しておくことが望ましい。ただし、必要に応じて優先的な給水協定の締結等により必要な水を確保することについても差し支えない。
d 浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)又は津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じることが望ましい。
ウ 医療機関の例
・ 地域周産期母子医療センター(集約化推進通知に規定される連携強化病院を含む。)
④ 母体又は児におけるリスクの高い妊娠に対する医療及び高度な新生児医療等の周産期医療を行うことができる機能【総合周産期母子医療センター】
ア 目標
・ 合併症妊娠、胎児・新生児異常等母体又は児にリスクの高い妊娠に対する医療、高度な新生児医療等を行うことができるとともに、必要に応じて当該施設の関係診療科又は他の施設と連携し、産科合併症以外の合併症を有する母体に対応すること
・ 周産期医療体制の中核として地域周産期医療関連施設等との連携を図ること
イ 医療機関に求められる事項
(ア) 機能
a 総合周産期母子医療センターは、相当規模のMFICUを含む産科病棟及びNICUを含む新生児病棟を備え、常時の母体及び新生児搬送受入体制を有し、合併症妊娠(重症妊娠高血圧症候群、切迫早産等)、胎児・新生児異常(超低出生体重児、先天異常児等)等母体又は児におけるリスクの高い妊娠に対する医療、高度な新生児医療等の周産期医療を行うことができるとともに、必要に応じて当該施設の関係診療科又は他の施設と連携し、脳血管疾患、心疾患、敗血症、外傷、精神疾患等を有する母体に対応することができる医療施設を都道府県が指定すること
b 総合周産期母子医療センターは、地域周産期医療関連施設等からの救急搬送を受け入れるなど、周産期医療体制の中核として地域周産期母子医療センターその他の地域周産期医療関連施設等との連携を図ること
c 総合周産期母子医療センターは、地域の医療従事者への研修を含め、周産期医療に精通した医療従事者育成の役割を担うこと
d 分娩の立会いや面会の方針など、医療機関を選択する上で必要な情報をあらかじめ提供すること
(イ) 整備内容
a 施設数
総合周産期母子医療センターは、原則として、三次医療圏に一か所整備すること。ただし、都道府県の面積、人口、地勢、交通事情、周産期受療状況及び地域周産期医療関連施設の所在等を考慮し、三次医療圏に複数設置することができること。なお、三次医療圏に総合周産期母子医療センターを複数設置する場合は、周産期医療情報センター等に母体搬送及び新生児搬送の調整等を行う搬送コーディネーターを配置する等により、母体及び新生児の円滑な搬送及び受入れに留意すること。
b 診療科目
総合周産期母子医療センターは、産科及び新生児医療を専門とする小児科(MFICU及びNICUを有するものに限る。)、麻酔科その他の関係診療科を有すること。
c 関係診療科との連携
総合周産期母子医療センターは、当該施設の関係診療科と日頃から緊密な連携を図ること。
総合周産期母子医療センターを設置する医療施設が救命救急センターを設置している場合又は救命救急センターと同等の機能を有する場合(救急科、脳神経外科、心臓血管外科又は循環器内科、放射線科、内科、外科等を有することをいう。)は、都道府県は、その旨を医療計画に記載し、関係者及び住民に情報提供すること。また、総合周産期母子医療センターを設置する医療施設が救命救急センターを設置していない場合又は救命救急センターと同等の機能を有していない場合は、都道府県は、当該施設で対応できない母体及び新生児の疾患並びに当該疾患について連携して対応する協力医療施設を医療計画に記載し、関係者及び住民に情報提供すること。
また、総合周産期母子医療センターを設置する医療施設においては、当該施設が精神科を有し施設内連携が図られている場合はその旨を、有さない場合は連携して対応する協力医療施設を医療計画に記載し、精神疾患を合併する妊産婦についても対応可能な体制を整え、関係者及び住民に情報提供すること。
d 設備等
総合周産期母子医療センターは、次に掲げる設備等を備えること
(a) MFICU
MFICUには、次に掲げる設備を備えること。なお、MFICUは、必要に応じ個室とすること。
i 分娩監視装置
ii 呼吸循環監視装置
iii 超音波診断装置(カラードップラー機能を有するものに限る。)
iv その他母体・胎児集中治療に必要な設備
(b) NICU
NICUには、次に掲げる装置を備えること。
i 新生児用呼吸循環監視装置
ii 新生児用人工換気装置
iii 超音波診断装置(カラードップラー機能を有するものに限る。)
iv 新生児搬送用保育器
v その他新生児集中治療に必要な設備
(c) GCU
GCUには、NICUから退出した児並びに輸液、酸素投与等の処置及び心拍呼吸監視装置の使用を必要とする新生児の治療に必要な設備を備えること。
(d) 新生児と家族の愛着形成を支援するための設備
新生児と家族の愛着形成を支援するため、長期間入院する新生児を家族が安心して見守れるよう、NICU、GCU等への入室面会及び母乳保育を行うための設備、家族宿泊施設等を備えることが望ましい。
(e) ドクターカー
医師の監視の下に母体又は新生児を搬送するために必要な患者監視装置、人工呼吸器等の医療機器を搭載した周産期医療に利用し得るドクターカーを必要に応じ整備すること。
(f) 検査機能
血液一般検査、血液凝固系検査、生化学一般検査、血液ガス検査、輸血用検査、エックス線検査、超音波診断装置(カラードップラー機能を有するものに限る。)による検査及び分娩監視装置による連続的な監視が常時可能であること。
(ウ) 病床数
a MFICU及びNICUの病床数は、当該施設の過去の患者受入実績やカバーする周産期医療圏の人口等に応じ、総合周産期母子医療センターとしての医療の質を確保するために適切な病床数とすることを基本とすること。施設当たりのMFICU病床数は6床以上、NICUの病床数は9床以上(12床以上とすることが望ましい。)とすること。ただし、三次医療圏の人口がおおむね100万人以下の地域に設置されている場合にあっては、当分の間、MFICUの病床数は3床以上、NICUの病床数は6床以上で差し支えない。
なお、両室の病床数については、以下のとおり取り扱うこと。
(a) MFICUの病床数は、これと同等の機能を有する陣痛室の病床を含めて算定して差し支えない。ただし、この場合においては、陣痛室以外のMFICUの病床数は6床を下回ることができない。
(b) NICUの病床数は、新生児用人工換気装置を有する病床について算定すること。
b MFICUの後方病室(一般産科病床等)は、MFICUの2倍以上の病床数を有することが望ましい。
c GCUは、NICUの2倍以上の病床数を有することが望ましい。
(エ) 職員
総合周産期母子医療センターは、次に掲げる職員をはじめとして適切な勤務体制を維持する上で必要な数の職員の確保に努めること。なお、総合周産期母子医療センターが必要な数の職員を確保できない場合には、都道府県は、当該医療施設に対する適切な支援及び指導を行うこと。
a MFICU
(a) 24時間体制で産科を担当する複数(病床数が6床以下であって別途オンコールによる対応ができる者が確保されている場合にあっては1名)の医師が当該医療施設内に勤務していること。
(b) MFICUの全病床を通じて常時3床に1名の助産師又は看護師が勤務していること。
b NICU
(a) 24時間体制で新生児医療を担当する医師が当該医療施設内に勤務していること。なお、NICUの病床数が16床以上である場合は、24時間体制で新生児医療を担当する複数の医師が勤務していることが望ましい。
(b) 常時3床に1名の看護師が勤務していること。
(c) 公認心理師等を配置すること。
c GCU
常時6床に1名の看護師が勤務していること。
d 分娩室
原則として、助産師及び看護師が病棟とは独立して勤務していること。ただし、MFICUの勤務を兼ねることは差し支えない。
e 麻酔科医
麻酔科医を配置すること。
f NICU入院児支援コーディネーター
NICU、GCU等に長期入院している児童について、その状態に応じた望ましい療育・療養環境への円滑な移行を図るため、新生児医療、地域の医療施設、訪問看護事業所、療育施設・福祉施設、在宅医療・福祉サービス等に精通した看護師、社会福祉士等を次に掲げる業務を行うNICU入院児支援コーディネーターとして配置することが望ましい。
(a) NICU、GCU等の長期入院児の状況把握
(b) 望ましい移行先(他医療施設、療育施設・福祉施設、在宅等)との連携及び調整
(c) 在宅等への移行に際する個々の家族のニーズに合わせた支援プログラムの作成並びに医療的・福祉的環境の調整及び支援
(d) その他望ましい療育・療養環境への移行に必要な事項
(オ) 連携機能
総合周産期母子医療センターは、オープンシステム・セミオープンシステム等の活用による地域の産婦人科医療機関からの妊産婦の受入れ、救急搬送の受入れ、合同症例検討会の開催等により、地域周産期母子医療センターその他の地域で分娩を取り扱う全ての周産期医療関連施設等と連携を図ること。
(カ) 災害対策
総合周産期母子医療センターは、災害時を見据えて、下記の対策を行うこと。
a 被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画(BCP)を策定していること。なお、自都道府県のみならず近隣都道府県の被災時においても、災害時小児周産期リエゾン等を介して物資や人員の支援を積極的に担うこと。
b 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくこと。なお、自家発電機等の燃料として都市ガスを使用する場合は、非常時に切替え可能な他の電力系統等を有しておくこと。また、平時より病院の基本的な機能を維持するために必要な設備について、自家発電機等から電源の確保が行われていることや、非常時に使用可能なことを検証しておくこと。なお、自家発電機等の設置場所については、地域のハザードマップ等を参考にして検討することが望ましい。
c 災害時に少なくとも3日分の病院の機能を維持するための水を確保すること。具体的には、少なくとも3日分の容量の受水槽を保有しておくこと又は停電時にも使用可能な地下水利用のための設備(井戸設備を含む。)を整備しておくことが望ましい。ただし、必要に応じて優先的な給水協定の締結等により必要な水を確保することについても差し支えない。
d 浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)又は津波災害警戒区域に所在する場合は、風水害が生じた際の被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じることが望ましい。
ウ 医療機関の例
・ 総合周産期母子医療センター
⑤ 周産期医療関連施設を退院した障害児等が生活の場(施設を含む。)で療養・療育できるよう支援する機能【療養・療育支援】
ア 目標
・ 周産期医療関連施設を退院した医療的ケア児、障害児等が生活の場(施設を含む。)で療養・療育できる体制を提供すること(地域の保健・福祉との連携等)
・ レスパイト等の、在宅において療養・療育を行っている児の家族等に対する支援を実施すること
イ 医療機関等に求められる事項
・ 周産期医療関連施設等と連携し、人工呼吸器の管理が必要な児や、気管切開等のある児の受入れが可能であること
・ 児の急変時に備え、救急対応可能な病院等との連携が図れていること
・ 薬局、訪問看護事業所、福祉サービス事業者及び自治体等との連携により、医療、保健、福祉サービス及びレスパイト入院の受入れ等を調整し、地域で適切に療養・療育できる体制を提供すること
・ 地域又は総合周産期母子医療センター等の周産期医療関連施設等と連携し、療養・療育が必要な児の情報(診療情報や治療計画等)を共有していること
・ 医療型障害児入所施設等の自宅以外の場においても、障害児の適切な療養・療育を支援すること
・ 家族等に対する精神的サポート等の支援を実施すること
ウ 医療機関等の例
・ 小児科を標榜する病院又は診療所
・ 在宅医療を行っている診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 医療型障害児入所施設
・ 日中一時支援施設
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、周産期医療の体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)~(3)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ 出生率(人口動態統計)
・ 合計特殊出生率(人口動態統計)
・ 分娩数(帝王切開件数を含む。)(医療施設調査)、正常分娩数
・ 死産率(人口動態統計)
・ 低出生体重児出生率(人口動態統計)
・ 新生児、乳児、乳幼児の死亡率(人口動態統計)
・ 周産期死亡率(人口動態統計)
・ NICU入室児数(医療施設調査)
・ ハイリスク新生児の発育発達予後
・ 周産期関連疾患患者数と発生率
・ 妊産婦死亡数、主な死亡の原因(人口動態統計)
・ 産後訪問指導を受けた割合(地域保健・健康増進事業報告)
・ 重症心身障害児の数、身体障害者手帳交付数(18歳未満)(福祉行政報告例)
・ 小児在宅人工呼吸器患者数
・ 療養療育施設入所児童数
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① 救急搬送
・ 母体搬送、新生児搬送等の救急搬送件数及び受入状況
・ 搬送先医療機関
・ 周産期救急情報システム等の活用状況
・ 救急要請から医療機関収容までに要した時間
・ 搬送先医療機関の選定において問い合わせた周産期医療関連施設数
・ ドクターカー及びドクターヘリの活用状況
・ 周産期救急情報システム及び救急医療情報システムの活用状況
・ 搬送コーディネーターの活動状況及び勤務態勢
② 医療機関等
ア 正常分娩に対応する病院・診療所
(ア) 分娩数等の診療内容及び診療体制等
・ 産科医及び産婦人科医の数
・ 助産師数 等
(イ) 対応可能な分娩
・ 母体、胎児の条件 等
(ウ) 医療連携の状況
・ リスクの低い帝王切開術に対応するための連携状況
・ オープンシステム・セミオープンシステムへの参加状況
・ 医療機器共同利用の状況
・ 他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況 等
イ 分娩を取り扱う助産所(院内助産所を含む。)
・ 分娩数等の診療内容及び診療体制等(助産師数)
・ 対応可能な分娩(母体、胎児の条件等)
・ 医療連携の状況(嘱託医、嘱託医療機関及びその他の周産期医療機関との連携状況、周産期医療情報システムへの参加等)
ウ 分娩を取り扱わない産婦人科標榜医療機関及び助産所
(ア) 診療内容及び診療体制等
・ 産科医及び産婦人科医の数
・ 助産師数 等
(イ) 診療内容
・ 妊婦健診、産前・産後ケアの提供状況
(ウ) 医療連携の状況
・ オープンシステム・セミオープンシステムへの参加状況
・ 他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況 等
エ 周産期医療機関(周産期母子医療センター等)
(ア) 所在地、診療科目、病床数
(イ) 設備
・ MFICU、NICU、GICUの病床数、稼働率
・ ドクターカーなど新生児搬送用救急車の配備状況 等
(ウ) 分娩数等の診療内容及び診療体制等
・ 分娩数
・ 対応可能な分娩(母体、胎児の条件等)
・ 診療実績(周産期関連疾患や他科疾患合併妊娠の患者数、入院数等)
・ NICU、GCU等の長期入院児の状況
・ 産科医及び産婦人科医の数(医師一人あたりの分娩数)
・ 新生児の医療を担当する医師数(医師一人あたりのNICU病床数、担当患者数)
・ 助産師数等
・ 院内助産所及び助産師外来の活動状況
・ 麻酔科医師、公認心理師等、NICU入院児支援コーディネーター等の数及び勤務態勢 等
(エ) 医療連携の状況
・ 他の医療機関からの搬送受入状況
・ 圏域・県域を越えた搬送依頼、受入状況
・ オープンシステム・セミオープンシステムの実施状況
・ 他の医療機関との診療情報や治療計画の共有、合同症例検討会の開催等の状況
・ 在宅療養・療育を支援する機能を持った施設等との連携状況 等
(オ) 災害対策の状況
・ 業務継続計画(BCP)の策定状況
オ 在宅療養・療育を支援する機能を持った施設
(ア) 診療内容及び診療体制等
・ 医師数、看護師数 等
(イ) 対応可能な医療内容
・ 人工呼吸器管理、気管切開のケア、児の痰の吸引
・ レスパイトへの対応状況 等
(ウ) 医療連携の状況
・ 他の医療機関からの紹介状況
・ 救急対応可能な病院等との事前の連携状況
・ 医療型障害児入所施設等との連携状況
・ 他の医療機関との診療情報や治療計画の共有の状況 等
(3) 都道府県全体の周産期医療体制整備に関する情報
① 災害時の周産期医療体制に関する事項
・ 災害時小児周産期リエゾンの任命状況
・ 周産期医療施設や妊産婦等の被害を想定した災害訓練の実施状況
② 近隣都道府県との連携に関する協議の状況
(4) 指標による現状把握
別表10に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 周産期医療圏の設定
(1) 都道府県は、周産期医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、妊産婦、胎児及び新生児のリスクや重症度に応じて必要となる医療機能を明確にして、周産期医療圏を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。周産期医療圏の設定においては、産科医師や分娩取扱い施設が存在しない周産期医療圏がないようにするという第7次医療計画中間見直しの際に示された方針に従って、二次医療圏にこだわらず、周産期母子医療センターを基幹として集約化・重点化を行うなどにより、周産期医療圏を柔軟に設定し、必要な医療を確保すること。その際、周産期医療に携わる医師の勤務環境にも留意しつつ、医師の働き方改革、地域医療構想及び医師確保計画との整合性にも留意すること。特に、無産科周産期医療圏を有する都道府県については、現状の把握を適切に行った上で、周産期医療圏の見直しも含めた検討を行うこと。
(3) NICUを有する周産期母子医療センター等の基幹病院とその連携病院群への適正アクセスを一定程度確保しながら基幹病院の機能を適切に分化、重点化させるために、分娩取扱医療機関のカバーエリアや妊産婦人口に対するカバー率を考慮する。また、周産期医療圏の設定に当たっては、重症例(重症の産科疾患、重症の合併症妊娠、胎児異常症例等)を除く産科症例の診療が周産期医療圏で完結することを目安に、従来の二次医療圏にこだわらず地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。
(4) 集約化・重点化により分娩医療機関までのアクセスが悪化する地域に居住する妊産婦に対して、妊婦健診や分娩、陣痛の待機の際に医療機関への移動や宿泊に要する費用の支援など、アクセスを確保するための対策について検討すること。特に最寄りの周産期母子医療センターまで時間を要する地域の妊産婦については、各地域の実情を踏まえ、妊産婦の情報についてあらかじめ消防機関と情報を共有する等の対応策を講じること。
(5) 検討を行う際には、地域医師会等の医療関係団体、現に周産期医療の診療に従事する者、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。また、現行の周産期医療に関する協議会を十分に尊重・活用すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、周産期医療の体制を構築するに当たって、分娩の安全確保を考慮した上で、地域の医療機関が妊産婦、胎児及び新生児のリスクや重症度に応じて機能を分担する連携となるよう、また、関係機関・施設の信頼関係を醸成するよう配慮すること。特に、無産科周産期医療圏を有する都道府県については、関係機関・施設間の円滑な連携体制を構築した上で、「産科医療確保事業等」(「産科医療確保事業の実施について」(平成21年4月1日付け医政発0401007号厚生労働省医政局長通知)別添「産科医療確保事業等実施要綱」に規定する事業をいう。)を活用し、分娩取扱施設の確保や産科医の派遣、周産期医療圏を越える搬送体制の整備等を通じた無産科周産期医療圏問題の解消に向けた対策を医療計画に位置づけること。
さらに、医療機関、地域医師会等関係者は、診療技術や知識の共有、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互の調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 母体及び新生児の搬送及び受入(周産期医療圏を越えた搬送及び受入を含む。)に関する現在の問題点を把握し、都道府県域の県境地域においては、道路状況や地域住民の受療動向により、県内医療機関と県外医療機関との連携体制を検討すること。
その場合、隣接都道府県関係者からなる協議会を設置する等により合意を得る。
(4) 産科合併症以外の合併症を有する母体への医療施設や診療科間の連携や、救急医療情報システムとの連携等、周産期救急情報システムの効率的な活用方法について検討すること。
(5) 医療計画には、原則として、各医療機能を担う医療機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が同じ周産期医療圏内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
(6) 集約化・重点化を実施するための計画との整合性を図る。
① 連携強化病院の体制
② 連携病院の体制
③ 連携強化病院と連携病院の連携体制
④ 連携強化病院における地域の周産期医療施設の支援体制
⑤ 医療機関間における搬送体制
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の周産期医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状分析に用いたストラクチャー、プロセス、アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り周産期医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な周産期医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に周産期医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
――――――――――
1 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
2 厚生労働省「医療施設調査」(令和2年)
3 厚生労働科学研究「健やか親子21」の最終評価・課題分析及び次期国民健康運動の推進に関する研究」(主任研究者 山縣然太朗)(平成25年)
4 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和2年)
5 日本産婦人科医会施設情報調査2021、日本産科婦人科医会勤務医部会調査2021(令和2年)
6 日本新生児成育医学会会員数
7 厚生労働省「衛生行政報告例」(令和2年)
8 厚生労働省「周産期医療体制のあり方に関する検討会意見のとりまとめ」(平成28年度)
9 日本周産期・新生児医学会が認定する専門医
小児医療の体制構築に係る指針
小児医療の体制については、日本小児科学会が示している「我が国の小児医療提供体制の構想」及び「中核病院小児科・地域小児科センター登録事業」を参考に、小児救急医療のみならず地域での一般の小児医療との連携も視野に入れながら、小児の医療体制を構築する。
本指針では、小児医療の体制構築に当たり、「第1 小児医療の現状」で小児医療をとりまく状況がどのような医療が行われているのかを概観し、次に、「第2 医療体制の構築に必要な事項」でどのような医療体制を構築すべきかを示している。なお、本指針においては、二次医療圏と同一である場合も含め小児医療の提供体制に係る圏域を「小児医療圏」と呼称する。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また各医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて小児医療圏を設定し、その小児医療圏ごとの医療機関とそれらの医療機関間の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 小児医療の現状
1 小児医療をとりまく状況
(1) 小児の疾病構造
1日当たりの全国の小児(0歳から14歳までを指す。以下同じ。)患者数(推計)は、入院で約2.3万人、外来で約72万人となっている1。
① 入院については、「周産期に発生した病態」(25.8%)のほか、「先天奇形、変形及び染色体異常」(13.1%)、「神経系の疾患」(9.2%)、「呼吸器系の疾患」(7.9%)が多い1。
② 外来については、急性上気道感染症(12.8%)をはじめとする呼吸器系の疾患(29.6%)が圧倒的に多い1。
また、小児医療に関連する業務においては、育児不安や小児の成長発達上の相談、親子の心のケア、予防接種、児童虐待への対応等の保健活動が占める割合が大きい。
なお、小児救急診療については、患者の多くが軽症者であり、また、夕刻から準夜帯(18時から23時まで)にかけて受診者が多くなることが指摘されている。
(2) 死亡の状況
我が国の周産期死亡率(出産1,000対)は3.4、乳児死亡率(出生1,000対)は1.7、幼児(1歳から4歳まで)、児童(5歳から9歳まで)、児童(10歳から14歳まで)の死亡率(人口10万対)はそれぞれ、13.8、6.7、8.3となっている2。
幼児(1歳から4歳まで)の死亡の主な原因は、「先天奇形、変形及び染色体異常」(20.5%)、「悪性新生物」(11.0%)、「不慮の事故」(10.3%)となっている。一方、児童(10歳から14歳まで)の主な原因は、「自殺」(29.0%)、「悪性新生物」(18.6%)、「不慮の事故」(11.8%)となっている2。
(3) 小児救急の現状
少子化(小児人口は、平成12年の1,847万人から令和2年の1,500万人まで減少している3。)にもかかわらず、18歳未満の救急搬送数は増加傾向であった。近年は平成17年の約51万人から平成27年の約46万人、令和元年の29万人、令和2年の17万人と、減少傾向にある4。
また、同搬送における軽症者の割合は約72%となっている4。さらに、小児の入院救急医療機関(第二次救急医療機関)を訪れる患者数のうち、9割以上は軽症であることが以前より指摘されている5。このように、小児救急患者※については、その多くが軽症患者であり、かつ、重症患者を扱う医療機関においてさえ軽症患者が多数受診している。
※ 小児救急患者
救急車等によって救急搬送される小児患者や、休日・夜間等の通常の診療時間外に医療機関を受診する小児患者等を指す。
小児救急患者の時間帯別の受診状況をみると、平日では夕刻から準夜帯(18時から22時頃まで)にかけて増加傾向にあり、さらに土・日では多くなっている6。このように、小児救急患者は、いわゆる時間外受診が多いことが指摘されている。
小児救急における受療行動には、少子化、核家族化、夫婦共働きといった社会情勢や家庭環境の変化に加え、保護者等による専門医指向、病院志向が大きく影響していると指摘されている6。
このような状況を背景として、夜間や休日に、子どもの病気やけがへの対応について、保護者等の不安を軽減し、不要不急の受診を抑制するため、全国共通ダイヤルで看護師や小児科医師からアドバイスを受けられる「子ども医療電話相談事業(#8000事業)」を平成16年度から開始している。平成22年度以降は全都道府県で実施されており、年間相談件数は、平成22年度の46.6万件から、令和元年度には111.5万件と増加している7。また、平成30年12月に「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」において『「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!』が取りまとめられ、患者・家族の不安を解消する取組を最優先で実施すること、緊急時の相談電話やサイトを導入・周知・活用すること等が求められており、具体的な事項として、#8000事業の体制整備や周知徹底が挙げられている。さらに、「医療のかかり方・女性の健康に関する世論調査」(令和元年調査)においては、就学前の子どもがいる方を中心として認知の割合が向上していたが、「電話がつながるまでの時間が長かった」等の意見があり、適切な回線数の確保等が求められている。
2 小児医療の提供体制
(1) 小児医療の提供体制
① 平成14年から令和2年までの間に小児科を標榜している一般病院は24.9%減少(3,359から2,532)、診療所は27.3%減少(25,862から18,798)、小児科が主たる標榜である一般診療所は4.3%増加(2,991から3,119)している8。
② 小児慢性特定疾患を取り扱う医療機関については各都道府県において指定されている。
③ 平成11年度以降、小児救急医療体制の充実を図るため、病院群輪番制(398地区)や小児救急医療拠点病院(31か所)の整備を推進している(数値はいずれも令和2年4月現在。)。
④ 高度な医療を提供するNICUを有する医療機関数は、令和2年に352施設、小児集中治療室(以下「PICU」という。)を有する医療機関数は、令和4年に36施設となっている8。
⑤ このような状況のなかで、これまで未熟児養育医療、小児慢性特定疾患治療研究事業(平成27年度以降は小児慢性特定疾病医療)、自立支援事業(育成医療)等に対する公費負担事業や重症度に応じた救急医療体制の整備等の対策を進めてきたところであり、これらの達成目標は、「健やか親子21」(平成12年)や「子ども・子育てビジョン」(平成22年)にも目標値として盛り込まれた。
⑥ さらに、平成17年8月に関係省庁により発表された「医師確保総合対策」等において小児科医の不足が指摘されたことから、都道府県に対し、集約化推進通知において、小児科・産科の医師偏在問題については、医療資源の集約化・重点化の推進が当面の最も有効な方策であることを示した。
⑦ また、平成21年7月に示された「重篤な小児患者に対する救急医療体制の検討会」の中間取りまとめに基づき、消防法による小児救急患者への対応を含む実施基準の策定や、小児救命救急センターの整備、PICUの整備等が行われてきたところである。さらに、「少子化社会対策大綱」(令和2年)、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年)においても、継続して小児医療の充実に取り組んでいる。
⑧ 平成30年7月に成立した「医療法及び医師法の一部を改正する法律」により、令和2年度より医師偏在指標に基づいた医師偏在対策を行うこととなり、産科医師・小児科医師についても、各都道府県において、産科・小児科の医師偏在指標を活用し、医療圏の見直しや医療資源の更なる集約化・重点化等を含む産科・小児科の医師確保計画を策定している。産科・小児科の医師確保計画の考え方や構造については、医師確保計画策定ガイドラインにおいて示している。
⑨ 平成30年12月に成立した成育基本法に基づく成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針が令和3年2月9日に閣議決定され、成育医療の提供に当たっては、医療、保健、教育、福祉などの各分野の横断的な視点での総合的な推進を行うこととされた。
(2) 小児医療に係る医師等の状況
① 我が国の小児科を標榜する病院一施設当たりの、小児人口は約5千人(例えば、英国では約2万5千人)、小児科医数は平均2名余(英国は約20名)と、他の先進諸国に比べ、医療資源が広く薄く配置されている状況が指摘されている9。
② 平成14年から令和2年までの間に小児科医の数は14,481人から17,997人と約3,500人増加している10。また、小児人口1万人当たりの小児科医数でみても、7.7から12.0と増加傾向にある。なお、女性医師の割合は、36.0%である。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 都道府県における小児医療体制の整備
(1) 小児医療に関する協議会
① 小児医療に関する協議会の設置
都道府県は、小児医療体制の整備に関する協議を行うため、小児医療に関する協議会を設置すること。構成員は、地域の小児医療に携わる医師、看護師を含むことを基本とし、歯科医師、薬剤師、保健師、保健医療関係機関・団体の代表、児童福祉関係者、学校・教育関係者、医育機関関係者、消防関係者、学識経験者、都道府県・市町村の代表、住民等から、地域の実情に応じて選定すること。なお、小児医療体制について協議するに当たり、適切な既存の協議の場が他にある場合にあっては、当該既存の協議の場を活用することで差し支えない。
② 協議事項
小児医療に関する協議会は、次に掲げる事項について、少なくとも年1回、必要に応じて年に複数回、定期又は臨時で開催すること。また、必要に応じオンラインで開催すること。協議事項は次のアからサまでに掲げるとおりであり、その内容について、都道府県は住民に対して情報提供を行うこと。なお、小児患者の搬送及び受入れ、災害対策等、他事業・疾患との連携を要する事項については、小児医療に関する協議会と、メディカルコントロール協議会、消防防災主管部局等の関連団体や各事業の行政担当者と連携し、地域の実情に応じて、実施に関する基準等を協議すること。また、出生後の児を円滑に周産期医療から引き継ぐ観点から、周産期医療と強く結びつく必要があるため、周産期医療に関する協議会との合同開催等を通じ、互いの情報連携を進めること。
ア 小児医療体制に係る調査分析に関する事項
イ 医療計画(小児医療)の策定に関する事項
ウ 小児科の医師確保計画の策定に関する事項
エ 小児患者の搬送及び受入れ(圏域を越えた搬送及び受入れ(ドクターヘリ等の運用による場合を含む。)を含む。)、小児の死亡や重篤な症例に関する事項
オ 他事業との連携を要する事項(救急医療、災害医療、精神疾患、歯科疾患等の小児期に合併する疾患に関する医療等)
カ 小児の外傷、熱傷等小児科以外の診療科と連携が必要な領域を含む、小児医療に関する事項
キ 医療的ケア児支援センターを中心とした、医療的ケア児及びその家族への支援体制に関する事項
ク 子どもの心の問題や児童虐待に係る、医療・保健・福祉の関係者間の連携体制(子どもの心の診療ネットワーク事業や児童虐待防止医療ネットワーク事業等)の構築に関する事項
ケ 小児医療関係者に対する研修に関する事項
コ 新興感染症の発生、まん延時における医療体制に関する事項(小児の受入先等の救急搬送体制を含む。)
サ その他、特に検討を要する事例や小児医療体制の整備に関し必要な事項
③ 都道府県医療審議会等との連携
小児医療に関する協議会については、都道府県医療審議会又は地域医療対策協議会の作業部会として位置付けるなど、都道府県医療審議会及び地域医療対策協議会と密接な連携を図ること。また、地域医療構想調整会議等、連携を要する他事業に関する協議会との整合性に留意すること。
(2) 小児医療における災害対策
これまでの震災を踏まえた研究や検討から、現状の災害医療体制では小児・周産期医療に関して準備不足であることが指摘された。また、小児・周産期医療については平時から独自のネットワークが形成されていることが多く、災害時にも既存のネットワークを活用する必要性が指摘された11。そのため、都道府県は、災害時に、小児・周産期医療に係る保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう、保健医療福祉調整本部等において、被災地の保健医療ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等に係る助言及び支援を行う都道府県災害医療コーディネーターをサポートすることを目的として、「災害時小児周産期リエゾン」を任命し、次に挙げる事項を整備すること。また、災害時小児周産期リエゾンに任命された者は、各都道府県において平時からの訓練や災害時の活動を通じて、地域のネットワークを災害時に有効に活用する仕組みを構築すること。
① 災害時に小児及び小児患者に適切な医療や物資を提供できるよう、平時より訓練を実施
② 自都道府県のみならず近隣都道府県の被災時においても、災害時小児周産期リエゾン等を介して被災都道府県からの搬送受入れや診療に係る医療従事者の支援等を行う体制を構築
(3) 小児医療における新興感染症の発生・まん延時の対策
新興感染症の発生・まん延時においても、地域で小児医療を確保するため、感染症の罹患又は罹患が疑われる小児に対して救急医療を含む小児医療を実施する医療機関について、地域の小児医療に関する協議会等においてあらかじめ協議すること。また、適切に小児のトリアージや入院等に係るコーディネートを行う災害時小児周産期リエゾン等の人材を、災害時小児周産期リエゾン養成研修事業を活用し養成するとともに、平時からその活用について検討すること。さらに、新興感染症の発生・まん延時に対面診療が困難となる場合に備えて、平時からオンライン診療の導入について検討すること。
2 目指すべき方向
当面、日本小児科学会が示している「我が国の小児医療提供体制の構想」及び「中核病院小児科・地域小児科センター登録事業」を参考に、全ての小児医療圏(令和3年4月現在310地区)で小児救急医療を含めて常時小児の診療ができる体制を確保すること。
その際、小児医療圏ごとに少なくとも一箇所の小児専門医療を取り扱う病院を確保することを目標に、既存の医療機関相互の連携や各事業の効果的な組合せ等によって、地域における小児医療の連携体制の構築を行うこと。また、医療機関の機能や患者のアクセス等を考慮し、小児医療圏の見直しを適宜行う等により小児医療圏毎の小児医療提供体制を検討すること(日本小児科学会「小児医療提供体制委員会報告」(平成27年)を参照のこと。)。
(1) 子どもの健康を守るために、家族等を支援する体制
① 急病時の対応等について健康相談・支援を実施可能な体制
② 医療的ケア児、慢性疾患児や障害児、心の問題のある児の家族に対する身体的及び精神的サポート等を実施する体制
③ 家族による救急蘇生法等、不慮の事故や急病への対応が可能な体制
(2) 小児患者に対し、その症状に応じた対応が可能な体制
① 地域において、初期救急も含め一般的な小児医療を実施する体制
② 小児医療圏において、拠点となる病院が、専門医療又は入院を要する小児救急医療を提供する体制
③ 三次医療圏において、高度な専門医療又は重篤な小児患者に対する救命医療を提供する体制
④ 身体機能の改善やADLの向上のため、早期からのリハビリテーションを実施する体制
※ 医療的ケア児、慢性疾患児や障害児、心の問題のある児等に関しては、上記①~④の分類に基づく医療提供体制が必ずしも当てはまらない場合が想定されることから、地域の実情に応じ、適宜、体制の確保を図ること。
(3) 地域の小児医療が確保される体制
① 医療資源の集約化・重点化の実施により、小児専門医療を担う病院が確保される体制
② 小児医療に係る医師の確保が著しく困難な地域については、小児医療圏の見直しや医療の連携の構築を図ることで、全体で対応できる体制
③ 医療資源の集約化・重点化により小児医療へのアクセスが悪化する地域に居住する小児に対する医療の確保のため、対面診療を適切に組み合わせてオンライン診療を行う体制
(4) 療養・療育支援が可能な体制
① 医療的ケア児が入院する医療機関において、児の入院後、現在の病状及び今後予想される状態等について家族等と話合いを開始し、退院後の療養上必要な事項について説明するとともに、退院・転院後の療養生活を担う医療機関や訪問看護事業所等との連絡や調整、福祉サービスの導入に係る支援等を行う体制
② 退院後の医療的ケア児等の緊急入院に対応できる体制
③ 退院後の医療的ケア児等の保護者の負担を軽減するための、レスパイト等の受入れ体制
(5) 医師の勤務環境の改善が可能な体制
小児医療、特に新生児医療に携わる医師の働き方改革を進めつつ、地域において小児医療を維持・確保することを目的として、地域医療構想や医師確保計画との整合性にも留意しながら、医療機関・機能の集約化・重点化や小児科の医師偏在対策を検討する体制
3 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、小児の医療体制に求められる医療機能を下記(1)から(4)に示す。
都道府県は、各医療機能の内容(目標、医療機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 地域において、急病時の対応等について健康相談・支援を実施する機能
① 健康相談等の支援の機能【相談支援等】
ア 目標
・ 子どもの急病時の対応等を支援すること
・ 慢性疾患の診療や心の診療が必要な児童及びその家族に対し、地域の医療資源、福祉サービス等について情報を提供すること
・ 不慮の事故等の救急の対応が必要な場合に、救急蘇生法等を実施できること
・ 小児かかりつけ医を持つとともに、適正な受療行動をとること
イ 関係者に求められる事項
(家族等周囲にいる者)
・ 必要に応じ電話相談事業等を活用すること
・ 不慮の事故の原因となるリスクを可能な限り取り除くこと
・ 救急蘇生法等の適切な処置を実施すること
(消防機関等)
・ 心肺蘇生法や不慮の事故予防に対する必要な知識を家族等に対し、指導すること
・ 急性期医療を担う医療機関へ速やかに搬送すること
・ 救急医療情報システムを活用し、適切な医療機関へ速やかに搬送すること
(行政機関)
・ 休日・夜間等に子どもの急病等に関する相談体制を確保すること(子ども医療電話相談事業(#8000事業)やその他の電話相談事業について、応答率等を確認し、回線数を増やすなどの改善の必要性を適宜検討すること。また、#8000対応者研修事業を活用し、相談者への応対の質の向上を図ること。さらに、相談体制を補完するものとして、小児救急に関するウェブ情報(こどもの救急、教えて!ドクター等)についても周知を行うこと。
・ 小児の受療行動に基づき、急病等の対応等について啓発を実施すること(小児救急医療啓発事業)
・ 心肺蘇生法や不慮の事故予防に対する必要な知識を、家族等に対し指導する体制を確保すること(自動体外式除細動器普及啓発事業)
・ 慢性疾患の診療や心の診療が必要な児童及びその家族に対し、地域の医療資源、福祉サービス等について情報を提供すること
・ 医療的ケア児支援センターを中心とした、医療的ケア児及びその家族への支援体制を構築し、医療機関の参画を促すこと
・ 地域において、子どもの心の問題や児童虐待に対応するため、子どもの心の診療ネットワーク事業や児童虐待防止医療ネットワーク事業の実施等により、医療・保健・福祉の関係者間の連携体制を構築すること
(2) 地域において、日常的な小児医療を実施する機能【一般小児医療】
① 一般小児医療(初期小児救急医療を除く。)を担う機能【一般小児医療】
ア 目標
・ 地域に必要な一般小児医療を実施すること
・ 生活の場(施設を含む。)での療養・療育が必要な小児に対し、支援を実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 一般的な小児医療に必要とされる診断・検査・治療を実施すること
・ 地域における医療と保健・福祉・教育との連携の促進の役割を担うこと
・ 軽症患者の入院診療を実施すること(入院設備を有する場合)
・ 他の医療機関の小児病棟やNICU、PICU等から退院するに当たり、生活の場(施設を含む。)での療養・療育が必要な小児に対し、支援を実施すること
・ 訪問看護事業所、福祉サービス事業者、行政等との連携により、医療、介護及び福祉サービス(レスパイトを含む。)を調整すること
・ 医療型障害児入所施設等、自宅以外の生活の場を含めた在宅医療を実施すること
・ 家族等に対する身体的及び精神的サポート等の支援を実施すること
・ 医療的ケア児、慢性疾患児等の急変時に備え、対応可能な医療機関と連携していること
・ 専門医療を担う地域の病院と、診療情報や治療計画を共有するなどして連携していること
ウ 医療機関等の例
・ 小児科を標榜する診療所(小児かかりつけ医を含む。)
・ 一般小児科病院、小児地域支援病院※
・ 連携病院(集約化推進通知に規定されるもの)
・ 訪問看護事業所
※ 小児地域支援病院は日本小児科学会の「地域振興小児科A」に相当する。
② 初期小児救急医療を担う機能【初期小児救急】
ア 目標
・ 初期小児救急医療を実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 小児初期救急センター、休日夜間急患センター等において平日昼間や夜間休日における初期小児救急医療を実施すること
・ 緊急手術や入院等を要する場合に備え、対応可能な医療機関と連携していること
・ 地域で小児医療に従事する開業医等が、病院の開放施設(オープン制度)や小児初期救急センター等、夜間・休日の初期小児救急医療に参画すること
ウ 医療機関の例
(平日昼間)
・ 小児科を標榜する診療所
・ 一般小児科病院、小児地域支援病院
・ 連携病院(集約化推進通知に規定されるもの)
(夜間休日)
・ 在宅当番医制に参加している診療所、休日夜間急患センター、小児初期救急センター
(3) 小児医療圏において中心的に小児医療を実施する機能【小児地域医療センター】(日本小児科学会の「地域小児科センター」に相当するもの)
① 小児専門医療を担う機能【小児専門医療】
(人的体制、新生児医療等その他の事項については、集約化推進通知の連携強化病院に係る記載も参照のこと。)
ア 目標
・ 3(2)①の機能(一般小児医療)を担う医療機関では対応が困難な患者に対する小児専門医療を実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 高度の診断・検査・治療や勤務医の専門性に応じた専門医療を実施すること
・ 一般小児医療を担う医療機関では対応が困難な患者や常時監視・治療の必要な患者等に対する入院診療を実施すること
・ 小児科を標榜する診療所や一般病院等の地域における医療機関と、小児医療の連携体制を形成することにより、地域で求められる小児医療を全体として実施すること
・ より高度専門的な対応について、高次機能病院と連携していること
・ 療養・療育支援を担う施設との連携や、在宅医療を支援していること
・ 家族等に対する精神的サポート等の支援を実施すること
ウ 医療機関の例
・ 地域小児科センター
・ 連携強化病院(集約化推進通知に規定されるもの)
② 入院を要する救急医療を担う機能【入院小児救急】
(人員体制、新生児医療等その他の事項については、集約化推進通知の連携強化病院に係る記載も参照のこと。)
ア 目標
・ 入院を要する小児救急医療を24時間体制で実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 小児科医師や看護師などの人員体制を含めて、入院を要する小児救急医療を24時間365日体制で実施可能であること
・ 小児科を標榜する診療所や一般病院等の地域における医療機関と連携し、地域で求められる入院を要する小児救急医療を担うこと
・ より高度専門的な対応について、高次機能病院と連携していること
・ 療養・療育支援を担う施設と連携、医療的ケア児や慢性疾患児の急変等に対応すること
・ 家族等に対する精神的サポート等の支援を実施すること
ウ 医療機関の例
・ 地域小児科センター
・ 連携強化病院(集約化推進通知に規定されるもの)
・ 小児救急医療拠点病院
・ 輪番制・共同利用に参加している病院
(4) 三次医療圏において中核的な小児医療を実施する機能【小児中核病院】(日本小児科学会の「中核病院小児科」に相当するもの)
① 高度な小児専門医療を担う機能【高度小児専門医療】
(人員体制、新生児医療等その他の事項については、集約化推進通知の高次機能病院に係る記載も参照のこと。)
ア 目標
・ 小児地域医療センター等では対応が困難な患者に対する高度な小児専門入院医療を実施すること
・ 当該地域における医療従事者への教育や研究を実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 広域の小児中核病院や小児地域医療センター等との連携により、高度専門的な診断・検査・治療を実施し、医療人材の育成・交流などを含めて地域医療に貢献すること
・ 療養・療育支援を担う施設と連携していること
・ 家族等に対する精神的サポート等の支援を実施すること
ウ 医療機関の例
・ 中核病院小児科
・ 大学病院(本院)
・ 小児専門病院
② 小児の救命救急医療を担う機能【小児救命救急医療】
(人的体制、新生児医療等その他の事項については、集約化推進通知の高次機能病院に係る記載も参照のこと。)
ア 目標
・ 小児の救命救急医療を24時間体制で実施すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 小児地域医療センターからの紹介患者や重症外傷を含めた救急搬送による患者を中心として、重篤な小児患者に対する救急医療を24時間365日体制で実施すること
・ 小児の集中治療を専門的に実施できる診療体制(小児専門施設であればPICUを運営することが望ましい。)を構築することが望ましい。
・ 療養・療育支援を担う施設と連携し、医療的ケア児や慢性疾患児の急変等に対し救命医療を実施すること
・ 家族等に対する精神的サポート等の支援を実施すること
ウ 医療機関の例
・ 救命救急センター
・ 小児救命救急センター
・ 小児救急医療拠点病院のうち救命救急医療を提供するもの
(5) 小児医療過疎地域の一般小児医療を担う機能【小児地域支援病院】
小児中核病院又は小児地域医療センターがない小児医療圏において、最大の病院小児科であり、小児中核病院又は小児地域医療センターからアクセス不良(車で1時間以上)であるものと定義される。日本小児科学会の分析によると、小児人口の5.4%をカバーしているに過ぎないものの、小児医療圏の面積は全国の約25%と広く、小児医療資源が乏しいため、他地域の小児科との統廃合は不適当であるとされている。
ア 目標
・ 小児医療過疎地域において不可欠の小児科病院として、軽症の診療、入院に対応すること
イ 医療機関に求められる事項
・ 原則として入院病床を設置し、必要に応じて小児地域医療センター等へ紹介すること
第3 構築の具体的な手順
1 現状の把握
都道府県は、小児医療体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
なお、(1)及び(2)の各項目について、参考として調査名を示しているが、その他必要に応じて調査を追加されたい。
(1) 患者動向に関する情報
・ 小児患者数(住所の別、軽症・重症の別、外来・入院の別、搬送の種類、受診時間帯)(患者調査)
・ 乳児、乳幼児、小児(15才未満)の死亡率(人口動態統計)
・ 小児人口(住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査)
・ 出生率(人口動態統計)
・ 特別児童扶養手当数等(福祉行政報告例等)
(2) 医療資源・連携等に関する情報
① 小児科標榜病院数とその所在
② 各病院における診療の実態
・ 外来(一般外来、各種専門外来、検診・育児相談・予防接種等)
・ 入院(一般病床数、NICU病床数、PICU病床数、小児入院医療管理料の算定病床数等)
・ 小児医療に係る医師の数(小児科医等)
③ 小児科標榜診療所数とその所在
④ 時間外の診療対応状況
・ 休日・夜間診療所の運営状況(診療時間、対応疾病、医師人数等)
・ 小児科を標榜する診療所及び病院の初期救急体制への関与状況
・ 休日・夜間の薬局の運営状況(開局時間、薬剤師人数等)
⑤ 小児救急医療に携わる施設とその位置(衛生主管部局)
⑥ 救急医療機関の人員(衛生主管部局)
⑦ 休日・夜間等における子どもの急病等に関する相談事業
・ 回線数、相談件数、認知度、応答率等
⑧ 医療的ケア児に対する医療を提供する施設間の連携の状況
⑨ 災害時の小児医療体制に関する事項
・ 災害時小児周産期リエゾンの任命状況
・ 小児医療施設や小児患者等の被害を想定した災害訓練の実施状況
⑩ 新興感染症発生・まん延時の小児医療体制に関する事項
・ 感染症の罹患または罹患が疑われる小児に対して医療を実施する施設
・ 災害時小児周産期リエゾンの任命状況(再掲)
(3) 指標による現状把握
別表11に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 医療機能の明確化及び圏域の設定に関する検討
(1) 都道府県は、小児医療体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、一般小児医療、小児地域支援病院、小児地域医療センター、小児中核病院といった各種機能を明確にして、小児医療圏を設定すること。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。逆に、一つの医療機関で小児地域医療センターや小児中核病院の医療機能を担いきれない場合には、複数の医療機関で連携してそれらひとつの医療機能を担うこともあり得る。また、小児医療圏内に機能を担う施設が存在しない場合には、小児医療圏の再設定を行うこともあり得る。
(3) 小児医療圏を設定するに当たっては、小児地域医療センターを中心とした診療状況を勘案し、従来の二次医療圏にこだわらず地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定すること。また、第7次医療計画中間見直しの際に示された方針に従って、周産期医療圏との連携の下、小児医療圏と小児救急医療圏を一本化すること。一本化するに当たっては、小児救急患者を常時診療可能な体制がとれるように留意すること。
(4) 検討を行う場合は、地域医師会等の医療関係団体、現に小児医療の診療に従事する者、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、小児医療の体制を構築するに当たって、患者の重症度・緊急度に応じて適切に医療が提供されるよう、また、関係機関・施設の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。また、都道府県内における医療的ケア児等の支援に関わる医療・福祉等の関係機関と連係を図ること。
さらに、医療機関、消防機関、消防防災主管部局、地域医師会等の関係者は、診療情報の共有、連携する施設・医師等専門職種の情報の共有に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等と連携して医療機関相互又は医療機関と消防機関との調整を行うなど、積極的な役割を果たすこと。
(3) 都道府県域の県境地域においては、道路状況や地域住民の受療動向により、県内医療機関と県外医療機関との連携体制を検討すること。
その場合、隣接都道府県関係者からなる協議会を設置する等により合意を得る。
(4) 医療計画には、原則として各医療機能を担う医療機関の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関が複数の機能を担うこともある。逆に、ひとつの医療機関で小児地域医療センターや小児中核病院の医療機能を担いきれない場合には、複数の医療機関で連携してそれらひとつの医療機能を担うこともあり得るため、分かりやすい周知に努めること。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が小児医療圏内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載をすることで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
(5) 集約化・重点化を実施するための計画との整合性を図る。
① 連携強化病院の体制
② 連携病院の体制
③ 連携強化病院と連携病院の連携体制
④ 地域の診療所・連携病院の参加による休日・夜間初期小児救急医療体制
⑤ 連携強化病院における地域の小児救急医療の支援体制
⑥ 医療機関間における搬送体制
⑦ 高次機能病院の役割
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で収集した情報や指標により把握した数値から明確となった現状について分析を行い、地域の小児医療体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状分析に用いたストラクチャー、プロセス、アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、可能な限り小児医療圏ごとに課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な小児医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案すること。
なお、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に小児医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策について、医療計画に記載すること。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、少なくとも6年(在宅医療、医師の確保及び外来医療に関する事項については3年)ごとに調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
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1 厚生労働省「患者調査」(令和2年)
2 厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(令和3年)
3 総務省「国勢調査」(令和2年)
4 消防庁「平成28年版 救急・救助の現状」(令和3年)
5 日本医師会「小児救急医療体制のあり方に関する検討委員会報告書」(平成14年)ほか
6 厚生労働科学研究「小児救急医療における患者・家族ニーズへの対応策に関する研究」(主任研究者 衛藤義勝)(平成16年度)
7 厚生労働省医政局地域医療計画課調べ
8 厚生労働省「医療施設調査」(令和2年)
9 日本小児科学会調べ(平成18年)
10 厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和2年)
11 厚生労働省「周産期医療体制のあり方に関する検討会意見のとりまとめ」(平成28年度)
在宅医療の体制構築に係る指針
多くの国民が自宅等住み慣れた環境での療養を望んでいる。高齢化の進展に伴い疾病構造が変化し、誰もが何らかの病気を抱えながら生活をするようになる中で、「治す医療」から「治し、支える医療」への転換が求められている。在宅医療は、高齢になっても、病気や障害の有無にかかわらず、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けられるよう、入院医療や外来医療、介護、福祉サービスと相互に補完しながら、患者の日常生活を支える医療であり、地域包括ケアシステムの不可欠の構成要素である。
また、今後増大する慢性期の医療ニーズに対し、在宅医療はその受け皿として、さらに看取りを含む医療提供体制の基盤の一つとして期待されている。
本指針では「第1 在宅医療の現状」において、我が国の疾病構造及び在宅医療のニーズの変化や在宅医療に係る資源の現状を概観し、次に「第2 医療体制の構築に必要な事項」において、どのような医療体制を構築すべきかを示している。
都道府県は、これらを踏まえつつ、「第3 構築の具体的な手順」に則して、地域の現状を把握・分析し、また在宅医療に求められる医療機能を理解した上で、地域の実情に応じて圏域を設定し、その圏域ごとの医療機関とそれらの関係機関間の連携の検討を行い、最終的には都道府県全体で評価を行えるようにすること。
第1 在宅医療の現状
1 在宅医療の現状
(1) 疾病構造の変化
昭和10~20年代において、我が国の死因の第1位であった結核に代わり、昭和33年以降は、悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病(慢性疾患)が死因の上位を占めるようになった1。こうした疾病構造の変化や高齢化の進展に伴い、要介護認定者や認知症患者は大幅に増加しており、自宅や地域で疾病や障害を抱えつつ生活を送る者が今後も増加していくことが考えられる。
(2) 在宅医療のニーズの増加と多様化
令和2年における65歳以上の高齢者人口は、3,534万人であるが1、令和24年には3,935万人となりピークを迎え2、同年の75歳以上の人口割合は、現在の14%から20%に増加する。また、65歳以上の高齢者のいる世帯の約6割が、独居又は夫婦のみの世帯である。さらに、死亡総数は現在の約136万人から約167万人に増える2。在宅医療を受ける患者数は令和22年以降に最も多くなる見込みとされており、今後は、高齢者の世帯動向、居宅等の形態も踏まえ、医療提供の在り方を検討することが重要である。
在宅人工呼吸指導管理料を算定している患者数は、平成30年の18,257人/月から、令和3年には19,536人/月と、推移している3。特に、医療技術の進歩等を背景として、退院後も人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを受けながら日常生活を営む小児や若年層の患者が増加している。在宅患者訪問診療料を算定している1か月あたりの小児(0~14歳)の数は、平成30年の2,085人/月から、令和2年の2,935人/月へと増加し3、また訪問看護を受ける小児(0~14歳)の数は、平成29年の約1万4千人/月から、令和3年の約2万3千人/月へと増加している4。
このように、疾病構造の変化や高齢化の進展、医療技術の進歩、QOL向上を重視した医療への期待の高まり等により、在宅医療のニーズは増加し、また多様化している。
2 在宅医療の提供体制
(1) 退院支援
在宅医療は、増大する慢性期の医療ニーズの受け皿としての役割を期待されている。近年、在宅療養を選択する人工呼吸器を装着した者や何らかの医療処置を必要とする者が増えてきたことから、医療の継続性や退院に伴って新たに生じる心理的・社会的問題の予防や対応のために、入院初期から退院後の生活を見据えた退院支援が重要となる。
具体的には、病院における組織的な取組(退院支援担当者の配置や退院困難者のスクリーニングの導入等)や多職種による退院前カンファレンス等が行われており、自宅への退院者の増加や平均在院日数の減少、患者や家族等のQOL向上等の効果が報告されている5。
退院支援担当者を配置している病院は、平成20年の2,450か所(28%)から、令和2年の4,147か所(50%)へと増加している6。病床規模別にみると、300床以上の病院では74%の病院で退院支援の担当者を配置しており、病床規模が大きい病院ほど複数の担当者を配置している傾向がみられる6。
(2) 日常の療養生活の支援
① 訪問診療
在宅医療を受けた患者数は、平成29年の160,600人/日から、令和2年の158,400人/日で推移している7。
今後も需要の増加が見込まれる在宅医療の体制整備に向け、訪問診療における医療機関間の連携やICT化等による対応力強化、これまで訪問診療を担っていない医療機関や新規に開業する医療機関の訪問診療への参入促進等を行っていく必要がある。
令和2年に訪問診療を提供している医療機関は、全病院8,238か所のうち2,973か所(36.1%)、全診療所102,612か所のうち、20,187か所(19.7%)である6。また、在宅療養支援病院及び在宅療養支援診療所数は令和2年3月現在、それぞれ1,493か所、14,401か所の届出があり8、増加しているものの、都道府県別の人口10万人当たりでみると、前者が0.4から5.4(全国値1.2)、後者が5.5から21.4(全国値11.6)とばらつきが見られる7。
病院、診療所を対象とした調査では、在宅医療を実施する上で特に大変なこととして、74%が24時間対応の困難さを挙げた9。在宅医療の多くが診療所を中心とした小規模な組織体制で提供されており、24時間対応、急変時の対応及び看取りを行うための医療機関間の連携の構築や情報通信機器の活用等による対応力強化の構築が求められている。
② 訪問看護
訪問看護利用者については、医療保険による利用者は約38.0万人/月10、介護保険による訪問看護利用者が約66.9万人/月11である。
介護保険における請求事業所数でみると、訪問看護ステーションは11,084か所12、訪問看護を実施する病院・診療所は1,411か所である12。都道府県別に人口10万人当たりの訪問看護事業所数(訪問看護ステーション、訪問看護を実施している医療機関の合計)をみると、6.3から17.7とばらつきがみられる(全国値10.5)13。
訪問看護ステーションの半数以上は、看護職員(常勤換算)が5人未満の小規模な事業所であるが、規模の大きな訪問看護ステーションほど、緊急時の訪問、医療ニーズの高い利用者への対応、24時間対応等が可能な体制をとれている事業所が多い実態がある14。
今後は、上記に加え、退院に向けた医療機関との共同指導、看取りや重症度の高い利用者へ対応できるよう、訪問看護事業所間や関係機関との連携強化、訪問看護事業所の事業者規模の拡大等の機能強化や、情報通信機器の活用等による業務効率化による安定的な訪問看護サービスの提供体制の整備が求められている。
③ 訪問歯科診療
在宅歯科医療を受けた患者は、約40,900人/日(歯科外来患者総数の3.1%)であり、そのうち、92.9%が65歳以上である7。
全歯科診療所67,874か所のうち、訪問歯科診療を提供している歯科診療所は、15,236か所(22.4%)である6。歯科衛生士等による訪問歯科衛生指導を提供している歯科診療所は4,707か所(6.9%)である6。
在宅又は介護施設等における療養を歯科医療面から支援する在宅療養支援歯科診療所は8,468か所、全歯科診療所の約12.5%にとどまっている8。
近年、口腔の管理が誤嚥性肺炎の発症予防につながるなど、口腔と全身との関係について広く指摘されており、口腔の管理の重要性が高まっている。こうした観点から、歯科医師だけでなく、歯科衛生士の口腔の管理へのより一層の関わりが期待されている。今後は地域の実情を踏まえ、歯科診療所と後方支援機能を有する歯科医療機関との連携や医科歯科連携を更に推進していくことが求められている。
④ 訪問薬剤管理指導
全薬局61,791か所15のうち、訪問薬剤管理指導業務を実施している薬局は、医療保険では9,207か所で算定回数は約75万回/年、介護保険では30,021か所(重複あり)で算定回数は約1,591万回/年である16。医療機関の薬剤師が実施した訪問薬剤管理指導業務は、医療保険約340回/月17、介護保険約6,000回/月18となっている。薬局には、医薬品、医療機器等の提供体制の構築や患者の服薬情報の一元的・継続的な把握とそれに基づく薬学的管理・指導、薬物療法に関する情報の共有をはじめとした多職種との連携、夜間・休日を含む急変時の対応等が求められている。薬剤師の関与により、薬物有害事象への対処や服薬状況の改善が見込まれ、在宅医療の質の向上につながることから、薬剤師の果たす役割は大きい。
高度な薬学管理等を充実させ、多様な病態の患者への対応やターミナルケアへの参画等を推進するため、麻薬調剤や無菌製剤処理、小児への訪問薬剤管理指導、24時間対応が可能な薬局の整備が必要である。そのため、地域医療介護総合確保基金等を活用し、医療機関等と連携して行われる研修や、カンファレンス等への参加を通じて、在宅医療に関わる薬剤師の資質向上を図ることが重要である。また、都道府県の薬務主管課と医務主管課が連携し、地方薬事審議会等を活用して、麻薬調剤や無菌製剤処理等の高度な薬学管理が可能な薬局の整備状況や実績について把握・分析を行い、在宅医療に必要な医薬品等の提供体制を構築することが求められている。
⑤ 訪問リハビリテーション
医療機関から訪問リハビリテーションを受けた患者のうち、医療保険による患者数は2,326人/月であり、提供している医療機関(病院・診療所)数は1,472か所である8。介護保険による患者数は135,700人/月であり、提供している医療機関等(病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院)数は4,950か所である11。
今後、在宅療養患者が居宅において生活機能の回復・維持を図る観点を踏まえ、医療機関におけるリハビリテーション(急性期・回復期)から、地域における居住生活の維持向上を目指す生活期リハビリテーションを切れ目なく提供できる体制の整備が求められる。
なお、医療計画においては病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院から提供される訪問リハビリテーションについて検討することとする。
⑥ 訪問栄養食事指導
在宅患者訪問栄養食事指導(医療保険)を受けた患者数は142.5人/月であり、実施している医療機関(病院・診療所)数は114.7か所である8。管理栄養士による居宅療養管理指導(介護保険)を受けた患者数は4,960人/月であり、実施している事業所(病院・診療所)数は1,116か所である8。また、管理栄養士による居宅療養管理指導について、65歳以上人口10万人あたりの事業所数は全国平均で31.4か所であり、都道府県によってばらつきがみられた8。
今後、訪問栄養食事指導を充実させるためには、管理栄養士が配置されている在宅療養支援病院や在宅療養支援診療所、管理栄養士が所属する地域密着型の拠点である栄養ケア・ステーション※等の活用も含めた体制整備を行うことが求められる。
※ 栄養ケア・ステーションには、(公社)日本栄養士会又は都道府県栄養士会が設置し、運営する「栄養ケア・ステーション」と(公社)日本栄養士会が事業者等を個別に認定する「認定栄養ケア・ステーション」がある。
(3) 急変時の対応
自宅での療養を希望していてもそれが実現できない理由として、急変時の対応に関する患者の不安や家族等の負担への懸念が挙げられる。こうした不安や負担の軽減が、在宅での療養を継続するための重要な課題である。
そのため、24時間いつでも往診や訪問看護等の対応が可能な連携体制や、入院医療機関における円滑な受入れといった後方支援体制の構築が求められている。
(4) 在宅での看取り
人生の最期を迎えるとき、どのような場所で生活したいかについて、国民の30.9%が在宅での生活を希望し、25.2%が病院などの医療機関で過ごすことを望んでいるが19、場所別の死亡率をみると、医療機関での死亡率が68%となっている1。患者や家族等のQOLの維持向上を図りつつ療養生活を支えるとともに、患者や家族等が希望した場合には、自宅で最期を迎えることを可能にする医療及び介護体制の構築が求められている。
また、訪問看護によるターミナルケアを受けた利用者数は介護保険で平成29年の1,446人から令和3年の2,086人20、医療保険で平成29年の約3,400人から令和3年の約7,100人21へと年々増加している。
高齢化の進展に伴い、介護施設等で最期を迎える者が増えていることから、在宅医療に係る機関が介護施設等による看取りを必要に応じて支援することが求められる。
第2 医療体制の構築に必要な事項
1 目指すべき方向
前記「第1 在宅医療の現状」を踏まえ、個々の役割や医療機能、それを満たす各関係機関、さらにそれら関係機関相互の連携により、在宅医療が円滑に提供される体制を構築すること。
(1) 円滑な在宅療養移行に向けての退院支援が可能な体制
① 入院医療機関と在宅医療に係る機関との協働による退院支援の実施
(2) 日常の療養支援が可能な体制
① 多職種協働により患者やその家族等の生活を支える観点からの医療の提供
② 緩和ケアの提供
③ 家族等への支援
(3) 急変時の対応が可能な体制
① 患者の病状急変時における往診や訪問看護等の体制及び入院病床の確保
(4) 患者が望む場所での看取りが可能な体制
① 住み慣れた自宅や介護施設等、患者が望む場所での看取りの実施
また、上記(1)から(4)の体制を構築するにあたり、地域における多職種連携を図りながら、24時間体制で在宅医療が提供されることが重要である。こうした観点から、在宅医療において積極的役割を担う医療機関や在宅医療に必要な連携を担う拠点を医療計画に位置付けることが必要である。
2 各医療機能と連携
前記「1 目指すべき方向」を踏まえ、在宅医療の提供体制に求められる医療機能を下記(1)から(4)に示す。都道府県は、各医療機能の内容(目標、関係機関等に求められる事項等)について、地域の実情に応じて柔軟に設定すること。
(1) 円滑な在宅療養移行に向けての退院支援が可能な体制【退院支援】
① 目標
・ 入院医療機関と、在宅医療に係る機関の円滑な連携により、切れ目のない継続的な医療体制を確保すること
② 入院医療機関に求められる事項
・ 退院支援担当者を配置すること
・ 退院支援担当者は、可能な限り在宅医療に係る機関での研修や実習を受けさせること
・ 入院初期から退院後の生活を見据えた関連職種による退院支援を開始すること
・ 退院支援の際には、患者の住み慣れた地域に配慮した在宅医療及び介護、障害福祉サービスの調整を十分図ること
・ 退院後、患者に起こりうる病状の変化やその対応について、関連職種を含む退院前カンファレンスや文書・電話等で、在宅医療に係る機関との情報共有を十分図ること
(医療機関の例)
・ 病院・有床診療所
※ 介護老人保健施設においても、在宅への移行に向けた取組が行われている。
③ 在宅医療に係る機関に求められる事項
・ 患者のニーズに応じて、医療や介護、障害福祉サービスを包括的に提供できるよう調整すること
・ 在宅医療や介護、障害福祉サービスの担当者間で、今後の方針や病状に関する情報や計画を共有し、連携すること
・ 高齢者のみではなく、小児や若年層の患者に対する訪問診療、訪問歯科診療、訪問薬剤管理指導、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問栄養食事指導等にも対応できるような体制を確保すること
・ 病院・有床診療所・介護老人保健施設の退院(退所)支援担当者に対し、地域の在宅医療及び介護、障害福祉サービスに関する情報提供や在宅療養に関する助言を行うこと
(関係機関の例)
・ 病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 居宅介護支援事業所
・ 地域包括支援センター
・ 基幹相談支援センター・相談支援事業所
※ 病院・診療所には、歯科を標榜するものを含む。以下同じ。
(2) 日常の療養支援が可能な体制【日常の療養支援】
① 目標
・ 患者の疾患、重症度に応じた医療(緩和ケアを含む。)が多職種協働により、可能な限り患者が住み慣れた地域で継続的、包括的に提供されること
② 在宅医療に係る機関に求められる事項
・ 関係機関の相互の連携により、患者のニーズに対応した医療や介護、障害福祉サービスが包括的に提供される体制を確保すること
・ 医療関係者は、地域包括支援センターが地域ケア会議において患者に関する検討をする際には積極的に参加すること
・ 地域包括支援センター等と協働しつつ、在宅療養に必要な医療や介護、障害福祉サービス、家族等の負担軽減につながるサービスを適切に紹介すること
・ がん患者(緩和ケア体制の整備)、認知症患者(身体合併症等の初期対応や専門医療機関への適切な紹介)、小児患者(小児の入院機能を有する医療機関との連携)等、それぞれの患者の特徴に応じた在宅医療の体制を整備すること※
・ 災害時にも適切な医療を提供するための計画(人工呼吸器等の医療機器を使用している患者の搬送等に係る計画を含む。)を策定すること
・ 医薬品や医療機器等の提供を円滑に行うための体制を整備すること
・ 身体機能及び生活機能の維持向上のための口腔の管理・リハビリテーション・栄養管理を適切に提供するために、関係職種間で連携体制を構築すること
・ 日常生活の中で、栄養ケア・ステーション等と連携し、患者の状態に応じた栄養管理を行うことや適切な食事提供に資する情報を提供するための体制を構築すること
・ 在宅療養患者への医療・ケアの提供にあたり、医師・歯科医師の定期的な診察と適切な評価に基づく指示により、患者の病態に応じて、適切な時期にサービスが提供される必要がある
※ がん患者、認知症患者及び小児患者の在宅医療については、それぞれがんの医療体制構築に係る指針、精神疾患の医療体制構築に係る指針及び小児医療の体制構築に係る指針を参照のこと。
(関係機関の例)
・ 病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 居宅介護支援事業所
・ 地域包括支援センター
・ 介護老人保健施設
・ 介護医療院
・ 短期入所サービス提供施設
・ 基幹相談支援センター・相談支援事業所
(3) 急変時の対応が可能な体制【急変時の対応】
① 目標
・ 患者の病状急変時に対応できるよう、在宅医療を担う病院・診療所、薬局、訪問看護事業所及び入院機能を有する病院・診療所との円滑な連携による診療体制を確保すること
② 在宅医療に係る機関に求められる事項
・ 病状急変時における連絡先をあらかじめ患者やその家族等に提示し、また、求めがあった際に24時間対応が可能な体制を確保すること
・ 24時間対応が自院で難しい場合も、近隣の病院や診療所、薬局、訪問看護事業所等との連携により、24時間対応が可能な体制を確保すること
・ 在宅医療に係る機関で対応できない急変の場合は、その症状や状況に応じて、搬送先として想定される入院医療機関と協議して入院病床を確保するとともに、搬送については、地域の消防関係者と連携を図ること
・ 患者の病状急変時にその症状や状況に応じて、円滑に入院医療へ繋げるため、事前から入院先として想定される病院・有床診療所と情報共有を行う、急変時対応における連携ルールを作成する等、地域の在宅医療に関する協議の場も活用し、消防関係者も含め連携体制の構築を進めることが望ましい
(関係機関の例)
・ 病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 消防機関
③ 入院医療機関に求められる事項
・ 在宅療養支援病院、有床診療所(在宅療養支援診療所を含む。)、在宅療養後方支援病院、二次救急医療機関等において、在宅医療に係る機関(特に無床診療所)が担当する患者の病状が急変した際の受入れを行うこと
・ 特に、在宅療養支援病院、在宅療養後方支援病院においては、地域の在宅医療に係る機関と事前から情報共有を行う等連携することで、円滑な診療体制の確保に努めること
(医療機関の例)
・ 病院・有床診療所
(4) 患者が望む場所での看取りが可能な体制【看取り】
① 目標
・ 住み慣れた自宅や介護施設等、患者が望む場所での看取りを行うことができる体制を確保すること
② 在宅医療に係る機関に求められる事項
・ 人生の最終段階に出現する症状に対する患者や家族等の不安を解消し、患者が望む場所での看取りを行うことができる体制を構築すること
・ 本人と家族等が希望する医療・ケアを提供するにあたり、医療と介護の両方を視野に入れ、利用者の状態の変化に対応し、最期を支えられる訪問看護の体制を整備すること
・ 麻薬を始めとするターミナルケアに必要な医薬品や医療機器等の提供体制を整備すること
・ 患者や家族等に対して、自宅や住み慣れた地域で受けられる医療及び介護、障害福祉サービスや看取りに関する適切な情報提供を行うこと
・ 介護施設等による看取りを必要に応じて支援すること
(関係機関の例)
・ 病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 居宅介護支援事業所
・ 地域包括支援センター
・ 基幹相談支援センター・相談支援事業所
③ 入院医療機関に求められる事項
・ 在宅医療に係る機関で看取りに対応できない場合について、病院・有床診療所で必要に応じて受け入れること
(医療機関の例)
・ 病院・診療所
(5) 在宅医療において積極的役割を担う医療機関
前記(1)から(4)までに掲げる目標の達成に向けて、自ら24時間対応体制の在宅医療を提供するとともに、他の医療機関の支援も行いながら、医療や介護、障害福祉の現場での多職種連携の支援を行う病院・診療所を、在宅医療において積極的役割を担う医療機関として医療計画に位置付けること。
また、在宅医療において積極的役割を担う医療機関については、在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院等の地域において在宅医療を担っている医療機関の中から位置付けることが想定される。
なお、医療資源の整備状況が地域によって大きく異なることを勘案し、在宅医療において積極的役割を担う医療機関以外の診療所及び病院についても、地域の実情に応じて、引き続き、地域における在宅医療に必要な役割を担うこととする。
① 目標
・ 在宅医療の提供及び他医療機関の支援を行うこと
・ 多職種が連携し、包括的、継続的な在宅医療を提供するための支援を行うこと
・ 災害時及び災害に備えた体制構築への対応を行うこと
・ 患者の家族等への支援を行うこと
② 在宅医療において積極的役割を担う医療機関に求められる事項
・ 医療機関(特に一人の医師が開業している診療所)が必ずしも対応しきれない夜間や医師不在時、患者の病状の急変時等における診療の支援を行うこと
・ 在宅での療養に移行する患者にとって必要な医療及び介護、障害福祉サービスが十分確保できるよう、関係機関に働きかけること
・ 臨床研修制度における地域医療研修において、在宅医療の現場での研修を受ける機会等の確保に努めること
・ 災害時等にも適切な医療を提供するための計画(人工呼吸器等の医療機器を使用している患者の搬送等に係る計画を含む。)を策定し、他の医療機関等の計画策定等の支援を行うこと
・ 地域包括支援センター等と協働しつつ、療養に必要な医療及び介護、障害福祉サービスや家族等の負担軽減につながるサービスを適切に紹介すること
・ 入院機能を有する医療機関においては、患者の病状が急変した際の受入れを行うこと
(6) 在宅医療に必要な連携を担う拠点
前記(1)から(4)までに掲げる目標の達成に向けて、地域の実情に応じ、病院、診療所、訪問看護事業所、地域医師会等関係団体、保健所、市町村等の主体のいずれかを在宅医療に必要な連携を担う拠点として医療計画に位置付けること。
在宅医療に必要な連携を担う拠点を医療計画に位置付ける際には、市町村が在宅医療・介護連携推進事業において実施する取組との連携を図ることが重要である。
また、在宅医療・介護連携推進事業の実施主体と、在宅医療に必要な連携を担う拠点とが同一となることも想定される。さらに障害福祉に係る相談支援の取組との整合性に留意し、事前に市町村と十分に協議することが重要である。
なお、前項の在宅医療において積極的役割を担う医療機関が在宅医療に必要な連携を担う拠点となることも可能である。
① 目標
・ 多職種協働による包括的かつ継続的な在宅医療の提供体制の構築を図ること
・ 在宅医療に関する人材育成を行うこと
・ 在宅医療に関する地域住民への普及啓発を行うこと
・ 災害時及び災害に備えた体制構築への支援を行うこと
② 在宅医療に必要な連携を担う拠点に求められる事項
・ 地域の医療及び介護、障害福祉の関係者による会議を定期的に開催し、在宅医療における提供状況の把握、災害時対応を含む連携上の課題の抽出及びその対応策の検討等を実施すること
・ 地域包括ケアシステムを踏まえた在宅医療の提供体制を整備する観点から、地域の医療及び介護、障害福祉サービスについて、所在地や機能等を把握し、地域包括支援センターや障害者相談支援事業所等と連携しながら、退院時から看取りまでの医療や介護、障害福祉サービスにまたがる様々な支援を包括的かつ継続的に提供するよう、関係機関との調整を行うこと
・ 質の高い在宅医療をより効率的に提供するため、関係機関の連携による急変時の対応や24時間体制の構築や多職種による情報共有の促進を図ること
・ 在宅医療に係る医療及び介護、障害福祉関係者に必要な知識・技能に関する研修の実施や情報の共有を行うこと
・ 在宅医療に関する地域住民への普及啓発を実施すること
(関係機関の例)
・ 病院・診療所
・ 薬局
・ 訪問看護事業所
・ 居宅介護支援事業所
・ 訪問介護事業所
・ 介護保険施設
・ その他の介護施設・事業所
・ 地域包括支援センター
・ 基幹相談支援センター・相談支援事業所
・ 消防機関
第3 構築の具体的な手順
1 地域の現状の把握
都道府県は、在宅医療の体制を構築するに当たって、(1)及び(2)に示す主な項目を参考に、患者動向、医療資源及び医療連携等について、現状を把握すること。
さらに、(3)に示す、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、数値で客観的に現状を把握すること。
(1) 患者動向に関する情報
・ 人口動態
・ 退院支援を受けた患者数
・ 往診を受けた患者数
・ 訪問診療を受けた患者数(人口動態を元にした将来推計を含む。)
・ 訪問歯科診療を受けた患者数(人口動態を元にした将来推計を含む。)
・ 訪問看護利用者数
・ 訪問薬剤管理指導を受けた患者数
・ 医療機関等から提供される訪問リハビリテーションの患者数
・ 訪問栄養食事指導を受けた患者数
・ 歯科衛生士による訪問歯科衛生指導を受けた患者数
・ 小児の訪問診療を受けた患者数
・ 小児の訪問看護利用者数
・ 小児の訪問薬剤管理指導を受けた患者数
(2) 医療資源・連携等に関する情報
・ 在宅医療を担う関係機関の数とその位置(訪問診療等を実施する診療所、在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院、在宅療養支援歯科診療所、訪問薬剤管理指導を実施する薬局、訪問看護事業所等)
・ 在宅医療に携わる人員・体制(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院の医師数、訪問看護ステーションの看護師数、24時間体制を取っている訪問看護ステーション数や看護師数、24時間対応が可能な薬局等)
・ 連携の状況(情報通信機器等の活用も含めた関係機関間での診療情報や治療計画の共有の状況)
(3) 指標による現状把握
別表11に掲げるような、医療機能ごと及びストラクチャー・プロセス・アウトカムごとに分類された指標例により、地域の医療提供体制の現状を客観的に把握し、医療計画に記載すること。その際、地域住民の健康状態やその改善に寄与すると考えられるサービスに関する指標(重点指標)、その他国が提供するデータや独自調査データ、データの解析等により入手可能な指標(参考指標)に留意して、把握すること。
2 圏域の設定
(1) 都道府県は、在宅医療提供体制を構築するに当たって、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を基に、前記「1 現状の把握」で収集した情報を分析し、退院支援、生活の場における療養支援、急変時の対応、看取りといった各区分に求められる医療機能を明確にして、圏域を設定すること。
圏域の設定は、課題の抽出や数値目標の設定、施策の立案の前提となるものであり、施策の実効性を確保する観点から、圏域の設定は確実に行うことが望ましい。
(2) 医療機能を明確化するに当たって、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの施設が複数の機能を担うこともあり得る。
(3) 圏域を設定するに当たって、在宅医療の場合、医療資源の整備状況や介護との連携のあり方が地域によって大きく変わることを勘案し、従来の二次医療圏にこだわらず、できる限り急変時の対応体制(重症例を除く。)や医療と介護の連携体制の構築が図られるよう、在宅医療において積極的役割を担う医療機関及び在宅医療に必要な連携を担う拠点の配置状況並びに地域包括ケアシステムの状況も踏まえ、市町村単位や保健所圏域等の地域の医療及び介護資源等の実情に応じて弾力的に設定する。なお、在宅医療において積極的役割を担う医療機関及び在宅医療に必要な連携を担う拠点を圏域内に少なくとも1つは設定すること。
(4) 検討を行う際には、地域医師会等の関係団体、在宅医療及び介護に従事する者、在宅医療に関わる病院・診療所関係者、住民・患者、市町村等の各代表が参画すること。
3 連携の検討
(1) 都道府県は、在宅医療提供体制を構築するに当たって、退院支援から生活の場における療養支援、急変時の対応、看取りまで継続して医療が行われるよう、また、関係機関の信頼関係が醸成されるよう配慮すること。この際、必要に応じ、在宅医療に係る機関間の円滑な相互連携や情報通信機器の活用等の取組を支援すること。
また、医療機関、在宅医療及び介護、障害福祉の関係者及び地域医師会等の関係団体は、診療技術や知識の共有、連携する医療及び介護、障害福祉の関係機関等との情報の共有に努めること。
さらに、都道府県は、在宅医療に係る機関の医師、歯科医師、薬剤師、看護職員、介護支援専門員等について、地域の保健医療関係機関・団体等と連携し、必要な専門的・基礎的知識及び技術を習得させるための研修の実施等により人材育成に努めること。
(2) 保健所は、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の規定に基づき、また、「医療計画の作成及び推進における保健所の役割について」を参考に、医療連携の円滑な実施に向けて、地域医師会等の関係団体と連携して医療機関相互の調整を行う等、積極的な役割を果たすこと。
(3) 医療計画には原則として、各医療機能を担う医療機関等の名称を記載すること。
なお、地域によっては、医療資源の制約等によりひとつの医療機関等が複数の機能を担うこともある。
さらに、医療機関等の名称については、例えば医療連携体制の中で各医療機能を担う医療機関等が圏域内に著しく多数存在する場合にあっては、地域の実情に応じて記載することで差し支えないが、住民に分かりやすい周知に努めること。
(4) 災害時においても、医療機関間や訪問看護事業所間等、また、医療機関、薬局、訪問看護事業所、居宅介護支援事業所等の関係機関間、さらに市区町村や都道府県との連携が重要になることから、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」等において平時から連携を進めるとともに、国が策定した手引きや事業等も活用しながら、業務継続計画(BCP)の策定を推進すること。
4 課題の抽出
都道府県は、「第2 医療体制の構築に必要な事項」を踏まえ、「1 現状の把握」で明確にした現状について、指標により把握した数値となっている原因の分析を行い、地域の在宅医療の体制の課題を抽出し、医療計画に記載すること。
その際、現状分析に用いたストラクチャー、プロセス、アウトカム指標の関連性も考慮し、病期・医療機能による分類も踏まえ、市町村と連携しながら、可能な限り医療圏ごとに課題を抽出すること。
特に、在宅医療の体制整備においては、これまでの介護サービス基盤の整備状況や今後の見込みも踏まえる必要があることから、医療計画と介護保険事業(支援)計画の整合性を図るため、医療計画策定の際に、都道府県や市町村における医療・介護の担当部局間で協議を行うこと。
また、在宅医療に必要な医薬品等の提供体制について、薬務主管課と医務主管課が連携し、地方薬事審議会等を活用して把握・分析を行い、課題を抽出すること。
5 数値目標
都道府県は、良質かつ適切な在宅医療を提供する体制について、事後に定量的な比較評価を行えるよう、「4 課題の抽出」で明確にした課題に対して、地域の実情に応じた目標項目やその数値目標、目標達成に要する期間を設定し、医療計画に記載すること。
数値目標の設定に当たっては、令和22年までの訪問診療・訪問看護等の需要推計データや小児の在宅医療の実態を把握するための訪問診療・訪問看護等のデータ、各指標の全国データ等を参考にするとともに、基本方針第十一に掲げる諸計画に定められる目標を勘案するものとし、達成可能なものだけを目標とするのではなく、真に医療圏の課題を解決するために必要な目標を設定すること。
なお、参考とする訪問診療・訪問看護の将来推計については、令和元年の実績値と将来の人口推計を基にしたデータであるため、実際の需要を全て反映しているものではないこと、及び今後の医療提供体制の変化により変わりうるものであることに留意が必要である。
また、これに加え、
・ 在宅医療の提供体制に求められる各医療機能を確保するため、「退院支援」、「日常の療養支援」、「急変時の対応」、「看取り」のそれぞれの機能ごとの目標
・ 多職種による取組を確保するため、「訪問看護」、「訪問歯科診療」、「訪問薬剤管理指導」、「医療機関等から提供される訪問リハビリテーション」、「訪問栄養食事指導」といった主要な職種についての目標
について、別表12を参照し、それぞれ具体的な数値目標を、可能な限り記載するよう努めること。
なお、介護保険事業(支援)計画との整合性を確保する観点から、第8次医療計画における在宅医療の整備目標の設定に当たっては、第9期介護保険事業(支援)計画と整合的なものとなるよう、介護サービスの提供量や提供状況を十分考慮し、国保データベースのデータ等も参考にしながら、令和5年度末までの在宅医療の整備状況を評価した上で、令和8年度末における目標を設定すること。
6 施策
数値目標の達成には、課題に応じた施策・事業を実施することが重要である。都道府県は、「4 課題の抽出」に対応するよう「5 数値目標」で設定した目標を達成するために行う施策・事業について、医療計画に記載すること。
その際、訪問診療を実施する診療所・病院数に関する数値目標の達成に向けた施策及び情報通信機器の活用を含めた在宅医療に係る機関の持続可能な連携体制の整備に向けた施策については、原則記載することとし、「退院支援」、「日常の療養支援」、「急変時の対応」、「看取り」のそれぞれの機能ごとの目標や、「訪問看護」、「訪問歯科診療」、「訪問薬剤管理指導」といった主要な職種についての目標の達成に向けた施策についても、可能な限り記載するよう努めること。
また、施策の検討に当たっては、在宅医療の提供者側に対する施策のみに偏重しないよう、多様な職種・事業者が参加することを想定して施策を検討すること。
(施策の例)
・ 新規に開業する医療機関やこれまで訪問診療を担っていない医療機関に対する訪問診療への参入促進
・ 退院に向けた医療機関との共同指導、医療ニーズの高い利用者への対応、24時間体制、ターミナルケア等の機能や役割に着目した訪問看護に係る体制整備、訪問看護事業所間の連携、訪問看護事業者規模の拡大等による機能強化、情報通信機器の活用等による業務効率化
・ 災害時等の支援体制構築に向けて、「在宅医療に必要な連携を担う拠点」等における平時からの医療機関、薬局、訪問看護事業所、居宅介護支援事業所等の関係機関間、都道府県や市町村との連携の推進
・ 地域住民に対する普及啓発
・ 入院医療機関に対し在宅医療で対応可能な患者像や療養環境についての研修
・ 入院医療機関と、かかりつけの医療機関や居宅介護支援事業所等との入退院時における情報共有のための協議の実施
・ 地域医療介護総合確保基金等を活用し、医療機関等と連携して行われる研修や、カンファレンス等への参加を通じた、在宅医療に関わる薬剤師の資質向上 等
さらに、在宅医療・介護連携推進事業の実施主体と在宅医療に必要な連携を担う拠点が、同一となりうることも含め、両者の関係について明確にし、連携を進める必要がある。
市町村が在宅医療・介護連携推進事業において実施する取組について、在宅医療に係る圏域ごとの課題に鑑みて、在宅医療に必要な連携を担う拠点の機能も踏まえ、必要な施策については医療計画にも記載することとし、施策の達成に向けた役割分担を明確にした上で、地域医師会等と連携しながら、必要な支援を行うこと。
特に、医療に係る専門的・技術的な対応が必要な「切れ目のない在宅医療と在宅介護の提供体制の構築推進」や「在宅医療・介護連携に関する相談支援」、二次医療圏等の広域の視点が必要な「在宅医療・介護連携に関する関係市区町村の連携」について、重点的な支援が必要である。
7 評価
計画の実効性を高めるためには、評価を行い、必要に応じて計画の内容を見直すことが重要である。都道府県は、あらかじめ評価を行う体制を整え、医療計画の評価を行う組織や時期を医療計画に記載すること。この際、少なくとも施策・事業の進捗状況の評価については、1年ごとに行うことが望ましい。また、数値目標の達成状況、現状把握に用いた指標の状況について、計画期間の中間年での見直しを見据え、適時に調査、分析及び評価を行い、必要があるときは、都道府県はその医療計画を変更すること。
8 公表
都道府県は、住民に分かりやすい形で医療計画を公表し、医療計画やその進捗状況を周知する必要がある。このため、指標による現状把握、目標項目、数値目標、施策・事業やその進捗状況、評価体制や評価結果を公表すること。その際、広く住民に周知を図るよう努めること。
――――――――――
1 厚生労働省「国勢調査」(令和2年)
2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(1月推計)」(平成29年)
3 厚生労働省「社会医療診療行為別統計」
4 厚生労働省「訪問看護療養費実態調査」(平成29年6月審査分、令和3年6月審査分より推計)
5 医療経済研究機構「退院準備から在宅ケアを結ぶ支援(リエゾンシステム)のあり方に関する研究」(平成19年)
6 厚生労働省「医療施設調査(静態)」(平成20,令和2年)
7 厚生労働省「患者調査」(平成29,令和2年)
8 厚生労働省医政局地域医療計画課調べ(令和元・2年)
9 日本医師会総合政策研究機構「かかりつけ医機能と在宅医療についての診療所調査結果」(平成29年)
10 厚生労働省「訪問看護療養費実態調査」(令和3年6月審査分より推計)
11 厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)」(令和3年6月)
12 厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)」(令和2年6月)
13 厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)」(令和2年度)より算出
14 厚生労働省保険局医療課調べ(令和3年)
15 厚生労働省「衛生行政報告例」(令和3年)
16 厚生労働省保険局、老健局調べ(令和3年)
17 厚生労働省「社会医療診療行為別統計」(令和3年)
18 厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費等実態調査)」(令和3年度)より算出
19 厚生労働省「高齢期における社会保障に関する意識調査」内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」(平成30年)
20 厚生労働省「介護給付費等実態統計(旧:介護給付費実態調査)」(各年4月審査分 特別集計)
21 厚生労働省「訪問看護療養費実態調査」(平成29年6月審査分、令和3年6月審査分より推計)
(別添)
ロジックモデルの構成要素の例示
注:
・アウトカムは、「分野アウトカム」「中間アウトカム」など、段階に分けて記載する。例えば、政策分野の目標である長期成果(分野アウトカム)を設定した上で、それを達成するために必要となる中間成果(中間アウトカム)を設定し、当該中間成果(中間アウトカム)を達成するために必要な個別施策を設定する。
・この図において、分野アウトカムに関する指標は、アウトカム指標又はプロセス指標を、中間アウトカムに関する指標はプロセス指標又はストラクチャー指標を使用することが想定される。アウトプットに関する指標は、その施策の実施状況を示すものを使用する。
別表1 がんの医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表2 脳卒中の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表3 心筋梗塞等の心血管疾患の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表4 糖尿病の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表5 精神疾患の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表6 救急医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表7 災害時における医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表8 新興感染症の発生・まん延時における医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表9 へき地の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表10 周産期医療の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表11 小児医療の医療体制構築に係る現状把握のための指標例
別表12 在宅医療の体制構築に係る現状把握のための指標例
