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○「開発後期の承認前又は承認後に実施される特定の臨床試験における安全性データ収集の選択的なアプローチ」について

(令和5年5月9日)

(/薬生薬審発0509第1号/薬生安発0509第2号/)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知)

(公印省略)

近年、優れた新医薬品の研究開発を地球規模で促進し、患者へ迅速に提供するため、承認審査資料の国際的な調和の推進を図ることの必要性が指摘されています。このような要請に応えるため、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、承認審査資料の国際的な調和の推進を図るための活動が行われているところです。

別添の「開発後期の承認前又は承認後に実施される特定の臨床試験における安全性データ収集の選択的なアプローチ」は、ICHにおける合意に基づき、試験参加者の安全性を確保しつつ、選択的な安全性データ収集の利用に関して、国際的に調和されたガイドラインを提供することを目的としています。つきましては、貴管下関係業者等に対して周知方御配慮願います。

なお、本通知の写しについて、別記の関係団体及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構宛てに発出しますので、念のため申し添えます。

[別添]

ICH E19

開発後期の承認前又は承認後に実施される特定の臨床試験における安全性データ収集の選択的なアプローチ

ガイドライン

ICH E19

開発後期の承認前又は承認後に実施される特定の臨床試験における安全性データ収集の選択的なアプローチ

目次

1 諸言

1.1 ガイドラインの目的

1.2 背景

1.3 ガイドラインの適用範囲

2 一般的原則

2.1 試験参加者の安全性確保

2.2 医薬品の安全性プロファイルが選択的な安全性データ収集の正当化のために十分に特徴づけられているという結論に寄与する因子

2.3 ベースラインデータ

2.4 一般的に収集されるべきデータ

2.5 選択的な収集が適切となる可能性のあるデータ

2.6 選択的な安全性データ収集についてのベネフィット・リスクの考慮

2.7 規制当局との早期からの協議

2.8 選択的な安全性データ収集が考慮されうる状況

3 選択的な安全性データ収集の実装

3.1 臨床試験の全ての患者に対する選択的な安全性データ収集

3.2 臨床試験の特定の部分集団に対する包括的な安全性データ収集と、その他の集団に対する選択的な安全性データ収集

3.3 臨床試験の初期における包括的な安全性データ収集と、その後の期間における選択的な安全性データ収集

3.4 代表的な部分集団に対する包括的な安全性データ収集と、その他の患者集団に対する選択的な安全性データ収集

4 選択的な安全性データ収集のための実務的な留意事項

5 他のガイドライン/規制との関係

5.1 臨床試験の実施及び臨床安全性データ管理に関連する他のICHガイドライン

5.2 ICHガイドライン以外で注目すべき科学的ガイダンス文書

6 用語集

7 参考文献

1 諸言

1.1 ガイドラインの目的

本ガイドラインは、開発後期の承認前又は承認後に実施される特定の臨床試験において適用されうる選択的な安全性データの収集の利用に関して、国際的に調和されたガイドラインを提供することを目的としている。選択的な安全性データ収集とは、当該アプローチを正当化しうる因子を十分に検討した上で、臨床試験において特定の種類のデータ収集を減らすことを意図している。安全性データの収集方法を最適化することにより、データ収集のアプローチを合理化することで、より効率的に臨床試験を実施できる可能性がある。これにより、多数の試験参加者で長期間の経過観察を伴う大規模な有効性及び安全性の臨床試験の実施を促進するであろう。

選択的安全性データの収集の利用が検討される全ての状況において、全ての試験参加者の福利は保護されるべきである。

1.2 背景

頑健な安全性データベースは、医薬品1の安全性プロファイルを特徴づける基礎となるものである。

時間の経過とともに安全性データが集積し、医薬品の安全性プロファイルに関する知見は絶えず発展している。医薬品の開発過程を通じて、試験依頼者はバイタルサインやその他の身体的検査データ、臨床検査値データ及び全ての有害事象を含む広範な安全性に関連するデータを収集している。特定の第Ⅲ相試験や製造販売後臨床試験において、医薬品の安全性プロファイルが十分に理解され、記述されている場合、全ての安全性データを包括的に収集しても、追加で得られる臨床的意義のある知見は限られているかもしれない。そのような状況では、安全性データ収集に関して、より選択的なアプローチが適切な場合もありうる。

規制当局、試験依頼者及び試験担当医師は、重要な新規の医学的知識をもたらし公衆衛生を進展させるような臨床試験の実施を促進させることに対して共通の関心を示している。臨床試験の複雑化と規模の拡大に伴い、もはや一律のアプローチを全ての臨床試験に適応することはないと認識されている。ときには、安全性データ収集に対する選択的なアプローチ、すなわち、リスクに応じたアプローチが許容されることもある。

本文書では、例えば長期のアウトカム試験のように、開発後期の承認前及び承認後に実施される臨床試験において、適切な場合で、かつ規制当局の合意が得られている場合に、安全性データの収集を減らすことが適切である可能性がある状況について説明する(2.7項参照)。

試験依頼者及び試験担当医師は、選択的安全性データ収集のアプローチを使用しても、日常の患者診療が損なわれないことを保証する必要がある(2.1項参照)。

1.3 ガイドラインの適用範囲

本ガイドラインは、主に承認後の状況において、主に介入試験の安全性データの収集に対して適用するものである。状況によっては、承認前の状況でも適用が考慮される場合もあるかもしれない。

承認前の状況

承認前の状況では、例えば、患者背景、病歴、併用療法等による部分集団間の差異の可能性を含む、有害事象の発現頻度、重症度、重篤度及び用量反応性を明らかにするために、包括的な安全性データ収集が一般的に期待される。まれに、完了した臨床試験から十分な安全性データが得られているときには、第Ⅲ相試験において選択的な安全性データの収集が正当化できる場合もあるかもしれない。

承認後の状況

医薬品が承認された後、全ての安全性データを包括的に収集しても、追加で得られる臨床的意義のある知見は限られているかもしれない。そのような状況では、試験の目的と試験参加者の福利が損なわれない限り、安全性データ収集に関して、より選択的なアプローチが適切な場合もありうる。

本ガイドラインは、遺伝子治療や希少疾病の臨床試験には適用されない。このような試験では、参加見込みの被験者数が限られているため、全ての参加者から、包括的な安全性データを収集する必要がある。

このガイドラインの原則に従った選択的な安全性データの収集は、各国や各地域の安全性報告の要件を変更するものではない。

2 一般的原則

2.1 試験参加者の安全性確保

臨床試験における安全性モニタリングは、2つの目的を果たしている。1つ目は、個々の試験参加者の安全と福利を保護すること、2つ目は、治験薬のリスクプロファイルの評価に使用する安全性情報を得ることである。

本ガイドラインに記載されている選択的な安全性データ収集のアプローチとは、試験担当医師が症例報告書に特定のデータ(2.5項参照)を記録し、その後の評価及び規制当局への提出のために試験依頼者に報告することである。重要なことは、このアプローチは、試験担当医師が試験参加者を観察し、一般的な標準治療に従って治療されていることを保証するという医療従事者としての責任に影響を与えるものではないということである。具体的には、選択的な安全性データの収集は、個々の試験参加者のモニタリング及び臨床診療や、診療録における有害事象の記録には影響を及ぼさない。さらに、選択的な安全性データの収集は、各国や各地域の要件に従った安全性報告等、医療従事者の他の報告義務を不要とするものではない。

例えば、低血糖が既知の副作用で、添付文書で日常的な血糖モニタリングが推奨されているような、安全性データが十分に特徴づけられている医薬品を考えてみる。選択的な安全性データの収集を行う臨床試験においては、臨床現場と同じように血糖値のモニタリングがなされるべきである。しかし、試験実施計画書に規定されておらず、重篤な有害事象に関連していない限り、血糖値のデータは、症例報告書に記録される必要又は試験依頼者に報告される必要はない。ただし、血糖の値や低血糖が、特に注目すべき有害事象等のように試験実施計画書に規定されていたり、臨床的に重要であるとみなされる場合、重篤な有害事象に関連する場合には、症例報告書に記録される。

2.2 医薬品の安全性プロファイルが選択的な安全性データ収集の正当化のために十分に特徴づけられているという結論に寄与する因子

以下に列挙する因子は、医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられ、提案された臨床試験において選択的な安全性データ収集が正当化されるという結論に寄与しうる因子である。これらの因子のいずれかの因子が存在するか否かにより、決定的となるものではない。しかし、該当する因子が多ければ多いほど、選択的な安全性データ収集を支持するものとなる。

規制の状況

1.製品の規制の状況、すなわち、当該医薬品が規制当局から製造販売承認を受けているかどうか。

メカニズムに関する因子

2.医薬品の作用機序の理解;オフターゲット作用の特徴づけ(ミネラルコルチコイドと女性化乳房、ミノキシジルと多毛症等、関心のあるターゲット以外のターゲットを介在する予期しなかった作用)

3.同じ薬理学的分類の医薬品の安全性プロファイルに関する知見。例えば、そのクラスで唯一の医薬品よりも、確立された薬理学的分類の医薬品の一つである方が選択的な安全性データ収集の支持は、強くなるであろう。

臨床安全性データベース

4.その医薬品の安全性の特徴づけに寄与した、医薬品に曝露された試験参加者の数。一般的に、この数が多ければ多いほど、安全性の事前の特徴づけに対する信頼が増す。2

5.包括的な安全性データ収集が行われた臨床試験において安全性プロファイルが一貫していること。

6.当該医薬品の安全性を特徴づけるために用いられた過去の臨床試験における安全性モニタリングの強度。例えば、モニタリングされた安全性パラメータの数と種類(例:臨床検査値、バイタルサイン)、評価の徹底、また、モニタリングの頻度と期間が重要となりうる。

計画中の臨床試験と過去の臨床試験の類似性

7.提案された臨床試験において計画している投与量と投与頻度。一般的に、計画中の投与量と投与頻度は、その医薬品の安全性を特徴づけるために用いられた過去の臨床試験で検討されたものを超えるべきではない。

8.曝露期間。過去の臨床試験における曝露期間は、提案された臨床試験における曝露期間を支持するのに十分な期間である必要がある。

9.医薬品の製剤(例えば、剤形、原薬、添加物等)及び投与経路の比較可能性。提案された臨床試験の製剤と投与経路は、安全性を特徴づけるために過去の臨床試験で用いられたものと比較可能であるべきである。

10.重要な患者背景、合併症、既往症、併用療法及びその他の要因(例えば、シトクロムP450(CYP)の表現型等)に関して、過去の臨床試験における集団が、計画中の臨床試験の集団と類似していること。安全性を特徴づけるために用いられた臨床試験に含まれる集団よりも、検討予定の集団が薬物の有害作用に対してより感受性が高い場合、例えば、より高齢又はより若年の試験参加者、腎臓若しくは肝臓の障害、又はより高い心血管リスクに関連する因子を有するような試験参加者等の場合、選択的な安全性データ収集は実施不可能であろう。

臨床薬理

11.薬物間相互作用が十分に特徴づけられている。

12.薬剤の代謝と排泄が十分に説明され、理解されている。

非臨床データ

13.非臨床毒性データが十分に特徴づけられている。

製造販売承認後のデータ

14.承認後の安全性データの量と質。データの充足性は、販売期間、医薬品に曝露された試験参加者の数、データ収集の方法等、いくつかの要因に関係する。

2.3 ベースラインデータ

選択的な安全性データ収集のアプローチを用いた場合でも、臨床試験の目的により決定されるベースラインデータ収集の際に考慮すべき事項に変更はない。ベースラインデータは参加見込みの試験参加者が試験への登録に適格であることを保証するために必要である。さらに、ベースラインデータは、例えば、患者背景、ベースラインにおける疾患の特性、合併症及び既往症、並びに併用療法等に基づく部分集団における有効性及び安全性の評価に必要である。

2.4 一般的に収集されるべきデータ

ICH E2Aガイドライン(治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて)及びICH E6ガイドライン(「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」のガイダンスについて)に従い、有害事象とは、医薬品が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状、又は病気のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わない。

以下に示すリストは、一般的に収集されるべきデータ要素を含めているが、包括的であることを意図したものではない。

1.重篤な有害事象(ICH E2A、ICH E6ガイドライン参照)

2.重大な医学的事象(ICH E2Aガイドライン参照)

3.投与過誤/過量投与(故意又は故意でないもの)

4.試験薬剤の投与中止に至った有害事象

5.妊娠及び授乳時における曝露とその結果

6.安全性評価に極めて重要であるとして、試験実施計画書で特定されている特に注目すべき有害事象(臨床検査値の異常含む)(ICH E6ガイドライン、ICH E2Fガイドライン(治験安全性最新報告)、CIOMS Ⅵ参照)。

各地域又は各国の規制で許可/合意されており、試験実施計画書において十分にその正当性が裏付けられている場合、それらの地域では、上記リストの一部のデータの選択的な収集が考慮されうる。

盲検解除や緊急報告の対象にならない有効性又は安全性の評価項目とみなされる重篤な有害事象(ICH E2Aガイドライン参照)については、規制当局と事前に合意し、臨床試験の実施計画書に記述されるべきである。これらの事象は、試験依頼者により設置された独立データモニタリング委員会(IDMC)を通して、定期的に収集され、監視されるべきである(ICH E6ガイドライン参照)。

2.5 選択的な収集が適切となる可能性のあるデータ

選択的な安全性データ収集が正当化される場合、2.1項に沿って試験参加者の安全性を確保しつつ、特定のデータ収集を制限することが許容される場合がある。

1.非重篤な有害事象は、収集しなくともよい又は収集頻度を減らすことが可能である場合がある。

2.各種の臨床検査(血液生化学検査、血液学的検査)、心電図、画像検査は、不要となる又は頻度を減らしてモニタリングを実施することが可能である場合がある。

3.身体的検査及びバイタルサインのデータは、収集しなくともよい又は収集頻度を減らすことが可能である場合がある。

4.ベースラインで併用薬の使用が記録されていれば、併用療法の変更(例えば、投与量の変更、併用療法の追加、併用療法の中止等)は収集しなくともよい場合がある。

しかしながら、試験実施計画書に従って収集が必要とされた2.4項のいずれの事象においても、試験依頼者は、追跡情報を含め、生じた事象を特徴づけるための関連情報(診療録、検査データ等)を収集する必要がある場合がある。

2.6 選択的な安全性データ収集についてのベネフィット・リスクの考慮

医薬品のベネフィット・リスクプロファイルに対する非重篤な有害事象の寄与は、適応症や患者の特性(例えば、年齢、心血管リスク因子等)により異なることを認識すべきである。患者集団の比較可能性や選択的な安全性データ収集の適用可能性を受け入れる際には、これらの要因が考慮されるべきである。具体的には、重症疾患(例:進行がん、心不全)の患者集団において、ある医薬品の安全性が十分に特徴づけられている場合であっても、比較的重症でない疾患(例:片頭痛、高血圧症)を有する患者集団では、当該患者集団においてベネフィットがリスクを上回ることを保証するために、包括的な安全性データ収集が必要となる場合がある。

2.7 規制当局との早期からの協議

臨床試験は、各国及び各地域の法律及び規制要件に従い実施しなければならない。選択的な安全性データ収集を検討している試験依頼者は、規制当局とあらかじめ合意を得る必要がある。考慮すべき点には以下が含まれる。1)選択的な安全性データ収集を正当化できるほど、医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられているのかどうか、2)計画された実施方法の詳細(3項参照)

医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられているとみなされ、提案されたアプローチに全ての規制当局が同意している場合、選択的な安全性データ収集を用いた単一の試験実施計画書による国際共同試験を実施することが可能である。このガイドラインを考慮して十分にデザインされた国際共同試験は、試験依頼者が複数の地域の規制当局と合意に至ることに役立つ(ICH E17ガイドライン(国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則)参照)。

試験依頼者や申請者が複数の地域で臨床試験結果を薬事目的で使用することを計画している場合、試験開始前にそれらの地域で、科学的助言を得ることが強く推奨される。

2.8 選択的な安全性データ収集が考慮されうる状況

2.2項に記載された因子を慎重に検討し、医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられていると判断される場合、以下に示す状況において選択的な安全性データ収集が適切となる場合がある。このリストは包括的なものではなく、選択的な安全性データ収集は、他の状況でも適切な場合がある。選択的な安全性データの収集を適用するさらなる例及び状況は、3項に示されている。

1.既承認の医薬品における新規効能の追加を支持する臨床試験において、新しい適応症の集団が、承認済みの適応症を裏付ける臨床試験の集団と類似している場合(例えば、患者背景、合併症、併用療法等に関して)又は十分に代表する集団である場合。

例:

1) 冠動脈疾患患者における心血管イベントの抑制に対してこれまでに承認されている抗血栓薬において、末梢動脈疾患患者における心血管イベントの抑制に対する効能を追加するための臨床試験

2) 糖尿病の治療に対してこれまでに承認されている医薬品において、糖尿病の臨床試験における患者の多くが心不全を併存する患者であった場合に、心不全の治療に対する効能を追加するための臨床試験

2.既承認の医薬品の注意事項等情報(添付文書)の記載内容の拡大のため、同一の患者集団を対象に追加のエンドポイントを設定して実施する臨床試験。

例:

1) 心不全に対して大規模(例えば数千人)なアウトカム試験を実施している医薬品を例とする。その安全性プロファイルが十分に特徴づけられている場合、同様の心不全患者を対象とした、症状改善(例えば、6分間歩行テストに基づく身体機能の改善、患者報告アウトカムの改善等)を示すための臨床試験において、選択的な安全性データ収集は適切であるかもしれない。

2) 症状又は確立された代替エンドポイント(例:血圧、ヘモグロビンA1c、クレアチニンクリアランス)の改善に対してこれまでに承認されている医薬品を例とする。その安全性プロファイルが十分に特徴づけられている場合、同じ患者集団で臨床転帰(入院の必要性、透析の必要性等)の改善を示すために計画された臨床試験において、選択的な安全性データ収集は適切であるかもしれない。

3.特定のパラメータ(例:視覚障害、肺毒性、認知機能障害、主要心血管イベント(MACE))に焦点を当て、潜在的な安全性の懸念をさらに調べるために計画された安全性試験。安全性プロファイルが十分に特徴づけられている場合、選択的な安全性データ収集は適切であるかもしれない。

4.医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられている場合に、有効性に関する追加のエビデンスを提供するために設計された臨床試験。ある医薬品が規制当局に承認申請された状況を考えてみる。総合的な審査の後、規制当局によりその医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴づけられていると判断されたものの、承認前に、有効性の追加のエビデンスを得るために追加の臨床試験が必要とされたとする。この追加の臨床試験に対して、選択的な安全性データ収集は適切であるかもしれない。

3 選択的な安全性データ収集の実装

ある種の安全性データの収集を減らすことが適切であるかもしれない場合に関して、2項に概説した一般的原則を考慮した上で、選択的な安全性データ収集に対していくつかのアプローチが考えられる。これらの実施方法は、収集を減らすことが可能な特定の種類のデータだけでなく、これらのデータのモニタリング間隔に関しても柔軟であることを意図している。選択した方法にかかわらず、患者の安全性を確保し、各国並びに各地域の法律及び規制を遵守することが不可欠である。

選択的な安全性データ収集のアプローチは、本ガイドラインを参照した上で、慎重に計画され、関連する文書(例えば、試験実施計画書、モニタリング計画書、統計解析計画書等)内に、明確に記述されるべきある(4項参照)。試験担当医師が選択的な安全性データ収集を熟知していないと仮定して、CRFは十分に設計されるべきであり、試験担当医師が適切なトレーニングを受けられるようにするべきである。

安全性情報が提示されるとき、選択的な安全性データ収集のアプローチは、例えばICH E2Fガイドライン、ICH E3ガイドライン(治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン)、ICH M4ガイドライン(コモン・テクニカル・ドキュメント)等に基づく適切な文書に、記述されるべきである。

以下の実施方法の例は全てを網羅するものではない。

3.1 臨床試験の全ての患者に対する選択的な安全性データ収集

臨床試験の参加者全てに対して、試験期間中にわたり、2.4項に記載されたパラメータが収集されるであろう。しかし2.5項に記載されたデータの種類の一部又は全部については、収集が限定されるであろう。

例:

1.安全性プロファイルが十分に特徴づけられている既承認の医薬品を考えてみる。この医薬品はその作用機序からトランスアミナーゼを増加させることが知られているとする。肝毒性を回避するために血清トランスアミナーゼの最適なモニタリング規範を決めることが主要な目的の一つである臨床試験が実施される。2.4項に記載されたパラメータは試験期間中にわたり収集され、血清トランスアミナーゼは定期的に評価されるであろう。しかし、2.5項に記載されたデータは収集されないであろう。

2.安全性プロファイルが十分に特徴づけられている既承認の医薬品において、死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を主要複合エンドポイントとし、心血管アウトカムの臨床試験を実施する場合を考えてみる。これらは重篤な事象であり、2.4項に記載されたように必ず収集され、判定されるであろう。しかし、2.5項で述べられたデータは収集されないであろう。

3.2 臨床試験の特定の部分集団に対する包括的な安全性データ収集と、その他の集団に対する選択的な安全性データ収集

追加の情報が重要であるとみなされる特定の患者の部分集団に対して包括的な安全性データが収集されるが、他の患者集団に対しては安全性データ収集が削減されるであろう。

例:

1.過去に実施された臨床試験の患者集団において、65歳以上の患者が少なかった場合、同じ適応症や関連する適応症に関して新たに実施する試験において65歳以上の患者集団で追加の安全性データを収集することは有用でありうる。したがって、65歳以上の患者には包括的な安全性データを収集し、65歳未満の患者ではデータ収集が削減されるであろう。

2.1の年齢以外の他の因子(例えば、人種、民族、性別、ベースラインの疾患の状態、腎/肝障害、CYPの遺伝子多型、遺伝的要因、地理的な場所等)に基づく特定の患者集団では包括的な安全性データモニタリングが行われ、他の患者集団では選択的な安全性データ収集を行うことが可能である。

3.3 臨床試験の初期における包括的な安全性データ収集と、その後の期間における選択的な安全性データ収集

ある種の状況では、臨床試験の開始からあらかじめ定められた期間までは包括的な安全性データを収集し、それ以降は選択的な安全性データ収集を行うことが可能である。

長期の臨床試験では、安全性モニタリングは通常、試験の開始時にはかなり頻繁に行われるが、試験が進むにつれて、その頻度は減少する。臨床試験の初期に収集されるデータが、非重篤な有害事象だけでなく、バイタルサインの重要な変化や臨床検査値異常を十分に特徴づけられるという前提に基づけば、この計画されたモニタリング頻度の減少は、選択的な安全性データ収集のバリエーションの一つである。この概念は広げることが可能であるかもしれない。具体的には、特定の経過観察期間が達成された時点で、患者に対して、ある種の安全性データの収集を減らす又は中止することが可能であるかもしれない。例えば、患者において12カ月にわたり経過観察が行われた後は、定期的な身体検査や臨床検査については、中止することが可能であるかもしれない。

例:

1.予防ワクチンの臨床試験を考えてみる。接種後あらかじめ定められた期間(例:7日間)、特定の徴候や症状が毎日記録され、接種後約4週間は全ての非特定有害事象が収集され、接種後少なくとも6カ月間は重篤な有害事象及び事前に規定された特に注目すべき有害事象が収集される(1)。

2.市販前に開始され、医薬品の承認時に進行中の心血管アウトカム試験について考えてみる。承認の時点では、その医薬品の安全性は適応となる患者集団において十分に特徴づけられているはずである。その時点から、進行中の試験には、選択的な安全性データのアプローチが適切であると考えられるであろう。

3.認知症や末期腎臓病のような重要な転帰を予防又は遅延させるためにデザインされた医薬品の有効性に関する臨床試験を考えてみる。十分な統計的検出力を得るために十分なエンドポイントのイベントを収集するには何年もかかると仮定すると、全ての患者について妥当な期間、例えば1年間、包括的な安全性データを収集した後に、選択的な安全性データ収集を利用することは適切であろう。

3.4 代表的な部分集団に対する包括的な安全性データ収集と、その他の患者集団に対する選択的な安全性データ収集

有効性の臨床試験や特定の安全性の臨床試験の中には、十分な統計的検出力を得るために何千人もの参加者を組み入れる必要がある場合がある。大規模臨床アウトカム試験のようなこのような状況においては、組入れ予定の参加者の数が、非重篤な有害事象、バイタルサインの変化や臨床検査異常を評価するために必要とされる数を大きく上回る場合がある。このような状況では、参加者の代表的な部分集団に対して包括的な安全性データを収集し、他の参加者では選択的な安全性データ収集を行うことがありうる(2.5項参照)。

例:

1.無作為に選択された施設、例えば全ての国又は地理的領域の半分ほどの施設で包括的なデータが収集され、他の施設では安全性データ収集が削減されるであろう。

2.全施設の中から無作為に選択された患者に対して包括的なデータが収集され、他の患者では安全性データの収集が削減されるであろう。

これらの方法を用いる場合、包括的な安全性モニタリングを受ける患者が母集団全体を代表するものであることが重要である。したがって、選択バイアスを回避し、包括的なデータ収集を行う患者集団の十分な多様性を確保する必要があり、また、施設又は患者を無作為に選択する方法を試験実施計画書及び他の関連する文書に記載する必要がある。

4 選択的な安全性データ収集のための実務的な留意事項

選択的な安全性データ収集を検討する試験依頼者は、患者、試験実施、データ解析及び解釈への影響について検討すべきである。このようなアプローチの実施可能性や実施計画について、事前に規制当局と協議し、合意を得るべきである。これらのアプローチは効率性を改善することができるが、欠点もある。データが収集されなかった場合、例えば、併用薬、臨床検査パラメータ、血圧に関する問題等、後から生じる可能性のある論点のうちいくつかは、調査することができない。

選択的な安全性データ収集を利用した臨床試験の実施中に、懸念が生じた場合、安全性モニタリングの強化又は包括的な安全性データ収集への転換が必要となる可能性がある。このような変更は、臨床試験の実施施設、試験実施計画書、データ収集様式に関する実施手順に問題を生じさせるかもしれない。

選択的な安全性データ収集の使用により、データの解析、提示、要約が複雑化するかもしれない。選択的な安全性データ収集が臨床試験で一様に(すなわち、試験中の全ての患者に対して、試験期間を通して)使用される場合、解析は複雑ではない。しかし、発現頻度の要約に際して、結果の解釈を可能にするために、安全性データ収集に対するアプローチの詳細を記述する必要があるであろう。一方、安全性データの収集方法が臨床試験の全ての患者に対して一貫していない場合、あるいは臨床試験の試験期間を通じて一貫していない場合、包括的な安全性データのアプローチで得られたデータと選択的な安全性データのアプローチで得られたデータを併合することはできない。データの集計方法は、試験実施計画書及び関連する解析計画書の中で、詳細に記述されるべきである。解析と要約は収集アプローチに適したものであるべきであり、結果において、収集アプローチにより解釈に影響を受けるデータの要約を明確にする必要がある。

5 他のガイドライン/規制との関係

5.1 臨床試験の実施及び臨床安全性データ管理に関連する他のICHガイドライン

本ガイドラインは臨床試験の実施や臨床安全性データの取扱いに関連する他のICHガイドライン、例えば、ICH E2A、ICH E2F、ICH E1ガイドライン(致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について)、ICH E3、ICH E6、ICH E8ガイドライン(臨床試験の一般指針)、及び/又はICH E17等と併せて検討されるべきである。承認後の安全性監視活動を通して得られる情報の評価も、全ての製品を安全に使用するために重要であり、関係するガイドラインとしては、例えばICH E2Eガイドライン(医薬品安全性監視の計画)、ICH E2Dガイドライン(承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準)、ICH E2Cガイドライン(定期的ベネフィット・リスク評価報告(PBRER))等が挙げられる。

5.2 ICHガイドライン以外で注目すべき科学的ガイダンス文書

選択的な安全性データ収集の科学的正当化の必要性、同じトピックに関する既存のガイドライン、及び安全性データ収集の規制要件を考慮すると、以下の地域及び国の科学的ガイダンス文書は、選択的なデータ収集のアプローチを支持するICHガイドラインのリスト(非網羅的リスト)に加えて、参照されるべきである。

1.FDA, United States. Guidance for Clinical Trial Sponsors‐Establishment and Operation of Clinical Trial Data Monitoring Committees. March 2006;

2.EC, Europe. Guideline on Data Monitoring Committees. 2005. EMEA/CHMP/EWP/5872/03;

3.FDA, United States. Guidance for Industry on“Determining the Extent of Safety Data Collection Needed in Late‐stage Premarket and Post‐approval Clinical Investigations”. February 2016. And further relevant guidelines from the various ICH contributor countries/regions;

4.EC, Europe. Risk Proportionate Approaches in Clinical Trials; Recommendations of the Expert Group on Clinical Trials for the Implementation of Regulation. 25 April 2017. (EU) No 536/2014 on Clinical Trials on Medicinal Products for Human Use.

6 用語集

有害事象

医薬品が投与された患者又は被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごと。必ずしも当該医薬品の投与との因果関係が明らかなもののみを示すものではない。

したがって、有害事象とは、医薬品が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状、又は病気のことであり、当該医薬品との因果関係の有無は問わない(ICH E2Aガイドライン及びICH E6ガイドライン参照)。

特に注目すべき有害事象

特に注目すべき有害事象(重篤か否かは問わない)とは、試験依頼者の製品又はプログラムに特異的な科学的及び医学的に懸念のある事象であり、試験担当医師等がこれを継続的にモニターし、その発現を試験依頼者に速やかに連絡することが適切であると考えられる事象をいう。これらの事象については、その特徴づけと理解のために更なる調査が必要になる場合がある。また当該事象の性質によっては、試験依頼者から他の関係者(規制当局等)への速やかな連絡を必要とすることも考えられる(CIOMS Ⅵに基づく。ICH E2Fガイドライン参照)。

重大な医学的事象

即座に生命を脅かしたり死や入院には至らなくとも、患者を危機にさらしたり、重篤な結果に至らぬように処置を必要とするような事象。これらの事象は医学的及び科学的判断を必要とし、緊急報告に該当する。(ICH E2Aガイドライン参照)

重篤な有害事象

投与量に関わらず医薬品が投与された際に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとのうち、以下のものをいう。

― 死に至るもの

― 生命を脅かすもの

― 入院又は入院期間の延長が必要になるもの

― 永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの

又は

― 先天異常/出生異常を来すもの

(ICH E2Aガイドライン及びICH E6ガイドライン参照)

7 参考文献

1.WHO Expert Committee on Biological Standardization. Sixty‐seventh report. Geneva. World Health Organization; 2017 (WHO technical report series; no.1004); annex 9‐Guidelines on clinical evaluation of vaccines: regulatory expectations; p.503‐73.

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1 本ガイドラインの目的で、「治験薬」は「薬剤」、「医薬品」と同義であり、ヒトの医薬品及び生物学的製剤を含むものとする。

2 原則として、治験薬に曝露された患者の数は、ICH E1ガイドラインに記載されている数を十分に上回る必要がある。

(別記)

日本製薬団体連合会

日本製薬工業協会

米国研究製薬工業協会在日執行委員会

一般社団法人欧州製薬団体連合会

独立行政法人医薬品医療機器総合機構