添付一覧
○次世代医療機器評価指標の公表について
(令和5年3月31日)
(薬生機審発0331第5号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)
(公印省略)
厚生労働省では医療ニーズが高く実用可能性のある次世代医療機器について、審査時に用いる技術評価指標等をあらかじめ作成し公表することにより、製品開発の効率化及び承認審査の迅速化を図る目的で、検討分野を選定して評価指標を公表してきたところです。
次世代型高機能人工心臓の評価を行うに当たって必要と考えられる資料、評価のポイント等については、「次世代型高機能人工心臓の臨床評価のための評価指標」(平成20年4月4日付け薬食機発第0404002号)としてとりまとめ、発出いたしました。その後、植込型補助人工心臓の長期在宅補助人工心臓治療(DT:Destination Therapy)を対象とした適応追加が承認され、長期循環補助を経験する中で当初予測できなかった新たな不具合や臨床評価の基本的考え方等について、現行の評価指標の記載内容とそぐわない事態等が生じました。今般、別紙1のとおり本評価指標を改訂しましたので、下記に留意の上、製造販売承認申請に際して参考とするよう、貴管内関係業者に対して周知いただきますよう御配慮願います。
なお、本通知の写しを独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、一般社団法人日本医療機器産業連合会会長、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長及び欧州ビジネス協会医療機器委員会委員長宛て送付することを申し添えます。
記
1.評価指標とは、承認申請資料の収集やその審査の迅速化等の観点から、製品の評価において着目すべき事項(評価項目)を示すものであること。評価指標は、法的な基準という位置付けではなく、技術開発の著しい次世代医療機器を対象として現時点で考えられる評価項目を示したものであり、製品の特性に応じて、評価指標に示すもの以外の評価が必要である場合や評価指標に示す評価項目のうち適用しなくてもよい項目があり得ることに留意すること。
2.個々の製品の承認申請に当たって必要な資料・データを収集する際は、評価指標に示す事項についてあらかじめ検討するほか、可能な限り早期に独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言を活用することが望ましいこと。
[別紙1]
植込型補助人工心臓に関する評価指標
1.はじめに
「次世代型高機能人工心臓の臨床評価のための評価指標」(平成20年4月4日付薬食機発第0404002号)は、次世代医療機器評価指標作成事業における最初の成果物として発出された。当時、国際的には連続流型の植込型補助人工心臓が心臓移植への橋渡し(bridge to transplantation:BTT)として承認されたばかりであり、本邦では国産機器の臨床試験が行われていた。評価指標の策定と時期を同じくして設立された補助人工心臓治療関連学会協議会によって植込型補助人工心臓の実施基準や実施体制が策定された。また、米国INTERMACS(Interagency Registry for Mechanically Assisted Circulatory Support)に倣い、本邦では植込型補助人工心臓登録システムとしてJ―MACS(Japanese registry for Mechanically Assisted Circulatory Support)が構築された。以上のような取組みを経て、国産の2機種の植込型補助人工心臓の承認に至った。
その後、欧米発の複数の植込型補助人工心臓が臨床試験を経て承認され、10年を超える臨床経験が蓄積されてきた。植込型補助人工心臓導入当初からの補助人工心臓治療関連学会協議会、実施施設、実施医ならびに人工心臓管理技術認定士等の不断の努力と協力の結晶として、欧米を凌ぐ優れた遠隔成績を生み出した。一方で欧米では、長期生命維持を目的としたdestination therapy(DT)を対象とする機器の許認可以降、移植を前提としない植込型補助人工心臓による長期補助が現実的な選択肢として導入された。本邦においては著しく心臓移植ドナーが少ないために、BTTにおいても現行の評価指標作成時の想定を超える長期の補助が必要な状況に直面した。また、本邦においてもDTの適応追加が承認された。そのため、長期補助を経験する中で当初予測できなかった新たな不具合等や臨床評価の基本的考え方等について、現行の評価指標の記載内容とそぐわない点等が生じることになった。その状況を鑑み、長期補助の信頼性評価への要求が高まると共に、耐久性試験における評価期間の妥当性については、追加での議論を要した。
植込型補助人工心臓の国内治験については、本評価指標の初版が作成されて以降しばらく実施されてきたが、最新の植込型補助人工心臓においては、新たな国内治験を行わずに承認するに至っている。これより、国内治験のあり方についても改めて検討する必要が生じた。将来的には臨床試験においてBTTとDTとを区別する必要がなくなる可能性があるが、現時点ではBTTとDTという明らかに目的の異なる適応があるために、区別して整理することとなった。加えて「2021年改訂版重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン」(日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会合同ガイドライン:以下、植込型補助人工心臓治療ガイドラインと記載)、並びに「植込型補助人工心臓DT実施基準」(補助人工心臓治療関連学会協議会)をふまえ、臨床試験の考え方、並びに植込型補助人工心臓装着患者の在宅管理については、齟齬が生じないよう十分考慮する必要もあった。
このような状況を踏まえ、植込型補助人工心臓について現時点での科学的根拠を基盤とし、且つ国際ハーモナイゼーションも考慮した非臨床及び臨床における品質、有効性及び安全性評価を、適正且つ迅速に進める手助けとなることを意図して本評価指標を改訂・作成した。
2.用語の定義
本評価指標で使用される用語は、「植込型補助人工心臓治療ガイドライン」を参照すること。
3.本評価指標の対象
本評価指標は、BTT、DTを目的とする植込型補助人工心臓を対象とする。
4.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術革新が著しい機器を対象とするものであることを勘案し、現時点で重要と考えられる事項を示したものである。今後の技術革新や知見の集積等を踏まえて改訂されるものであり、承認申請内容に対して拘束力を持つものではない。本評価指標が対象とする装置の評価にあたっては、個別の装置の特性を十分理解した上で、科学的な合理性を背景にして、柔軟に対応する必要がある。本評価指標の他、国内外のその他の関連規格・ガイドライン等を参考にすることも考慮するべきである。特に臨床評価においては、レジストリ等のReal World Data(RWD)をはじめ、検証的な臨床試験を行うことが困難な場合の新たな審査制度等の活用も検討されたい。詳細は、(3)臨床試験を参照すること。
5.評価にあたって留意すべき事項
(1) 基本的事項
開発の経緯、品目の仕様、類似品の国内外での使用状況、設計開発及び原理、使用方法等を明確に示すこと。その際、植込型補助人工心臓システムを構成する植込み部、非植込み部、接合部にわけて、それぞれの材料及び特性、設計、特性及び制御・駆動方法等について説明することが望ましい。
また、以下の事項に関する情報を示すこと。
ア.ソフトウェア(参考:IEC 62304及びJIS T 2304)
ソフトウェアによりシステムの制御を行う場合には、当該ソフトウェアが規定された開発及び保守に関する要求事項を満たしていること等を示すこと。必要な場合には、適切なサイバーセキュリティを備えていることを示すこと。
イ.データの安全性・逸失保護
使用時に収集されるデータがある場合、そのデータを安全且つ正確に保存する仕組みがあることを示すこと。
ウ.リスクマネジメント(参考:ISO 14971及びJIS T 14971)
システムの特性を踏まえて適切なリスクマネジメントを実施すること。例えば、これまでの審査及び市販後の知見を踏まえ、以下の事項を実施することが想定される。
(ア) 有害事象、不具合に対する原因分析や措置、設計・改良を目的とした、システム動作状況や誤作動等を含めたアラームのログを記録する機能
(イ) 電源途絶リスク低減を目的とした予備電源の数と作動機構
(ウ) 電源ケーブル等の断線に対する対策
(エ) 植込型補助人工心臓構成要素の製造時の形状不適合やシステムの経年劣化に対する対策
(オ) その他、必要となる対策
エ.ユーザビリティエンジニアリング(参考:IEC 62366―1及びJIS T 62366―1)
医療従事者、患者、ケアギバー等に分け、それぞれの特性を考慮して行うこと。
オ.ライフサイクル
カ.警告・アラーム(参考:ISO/IEC 60601―1―8及びJIS T 60601―1―8)
アラーム等、不具合等が生じた場合の警告方法を示すこと。
キ.モニタリング
ク.メンテナンス
ケ.教育システム
最新の臨床ガイドラインを参考に、治療実施者と治療対象者等に分けたシステムを準備して、それぞれの機器安全性と有効性の理解度に応じた教育が実施できる体制を整えておくこと。
(2) 非臨床試験
試験により得られたデータは、その信頼性が担保される必要があることに十分留意すること1。
ア.in vitro評価
近年、動物試験数の削減が求められている背景を考慮し、in vitro評価によって充足可能な事項については、できる限り対応することが望ましい。
システムの構成要素、さらに、それらを統合したシステムについて、それぞれ性能評価を行うと共に、生じうるリスクへの対策等の妥当性について示すこと。試験結果の妥当性については、ワーストケースシナリオに基づき、評価すること。装置の動作パラメータの範囲全体にわたり、システムの特性を評価することによって、動作限界を示すことができる。システム性能の変化が患者に及ぼす影響と、患者の変化がシステム性能に及ぼす影響を検討すること。極端な動作が機器と患者(試験装置等)の両方に与える影響を決定する必要がある。極端な動作とは、最小血流量と最大血流量、高血圧、低血圧、流量の変化に対する反応、圧力、流入/流出の制限の可能性等である。システムの特性評価に関連する条件は、ISO 14708―5附属書Cが参考となる。
試験前処理は、滅菌、使用環境の温度及び湿度、振動・落下・圧力等運搬時に生じうる現象、経年変化に対する安定性、劣化に過敏な場合は劣化試験による結果、植込み前後に生じうる負荷及びその他の現象等を考慮し、行うこと。
使用目的に応じ耐久性試験を行うこと。(参考1:信頼性(耐久性試験))
以下の各事項について、それぞれ具体的なデータをもって明らかにすること。
(ア) 生物学的安全性(参考:薬生機審発0106第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知、ISO 10993―1及びJIS T0993―1)
植込型補助人工心臓において重要となる原材料及びシステムの血液適合性については、ISO 10993―4や薬生機審発0106第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方についての改正について」の別添を参考に評価すること。
なお、最終製品となるシステムにおける溶血性試験の考え方については、上述したISO及び通知に加え、ASTM F1841が参考となる。
(イ) 安定性(なお、放射線滅菌によるものについては、最大線量を踏まえた妥当な試験検体を使用した材質劣化に関する試験等(参考:平成30年2月28日付け薬生機審発0228第7号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知「「医療機器の製造販売承認申請書添付資料の作成に際し留意すべき事項について」の一部改正について」、平成30年2月28日付け薬生機審発0228第10号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知「滅菌医療機器の製造販売承認(認証)申請における滅菌に関する取扱いについて」等))
(ウ) 無菌性(参考:平成29年2月15日付け薬生監麻発0215第13号厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知「滅菌バリデーション基準の改正について」等)
(エ) エンドトキシン試験
(オ) 電気的安全性(参考:ISO 14708―1、ISO 14708―5、IEC 60601―1及びJIS T0601―1)
(カ) 電磁両立性(参考:IEC 60601―1―2及びJIS T 0601―1―2)
(キ) ポンプ及び付属システム
a.流体解析結果(in silico含む)
b.キャビテーションの有無(有る場合には発生箇所の特定)
c.制御及び駆動装置(機構に基づいた安全性及び性能)
d.ユニット温度
e.体内コンポーネント(脱血管、カフ、送血管及び表面修飾材料等を含む耐久性、生体(血液)適合性、解剖学的適合性等)
f.その他の植込み手技に関連するデバイス(ナイフ等)
g.モニタリングシステム(精度、リスクが生じた際の対策等の妥当性)
(ク) コネクター及びドライブライン
a.コネクター(サイクル試験、誤接続、汚染物質侵入等)
b.ドライブライン(伸展、ねじり、折れ、潰れ、引張、振動、摩損、経年劣化、紫外線、潰れ抵抗、切断抵抗,写真観察、リークテスト、繰り返し曲げ試験、実環境での負荷試験等)
(ケ) 制御プログラム(制御ロジック、自動化機能(Closed―loopシステム)等)
(コ) エネルギー関連機器
a.電源供給(電源供給が滞った場合の対策等の妥当性)
b.バッテリー(バッテリーの寿命、交換時の対策、その方法等で生じる対策等の妥当性)
c.経皮的非接触エネルギー給電システム(TETS)
システム自体の基本的事項や必要となる非臨床試験については、最新の科学的知見や公表済の各種ガイドライン等を参考に実施すること。
(サ) 統合システムとしての性能評価
以下の項目が統合システムの性能評価において妥当な設定となっていることを示した上で、最終的な性能評価結果を示すこと。
a.機器システム性能(植込型補助人工心臓の性能、警報、バックアップ、システム情報のモニター、計測精度、システム不具合等)
b.外的影響(被験物の滅菌、保管時の温湿度、移動時の振動・落下・圧、経時的変化、力学的負荷等)
c.部品交換による影響(代替品)
d.模擬循環試験(モック回路仕様、作動流体、計測機器、トランスデューサー、汎用機器可用性を試験回路性能として含む)
e.試験条件(臨床使用条件に基づくこと)
f.血行動態波形(圧流量)
g.血行動態平均値(圧流量)
h.データ解析(システム性能が要求仕様を満たすことを、期待される設計仕様と比較した結果で示すこと。また得られたシステム性能と期待される臨床効果の分析を示すこと。)
イ.in vivo評価
以下の各項目を踏まえて適切な動物実験によるin vivo評価を行うこと。
(ア) 実験動物
a.対象となる実験動物を選定する場合には、ヒトと動物の解剖学的等の違いに留意して、評価する目的に応じた選定を行うこと。
b.動物の手術方法と臨床応用における手術方法との比較について考察を行うこと。
c.動物実験の評価する目的とその評価基準を適切に設定し、これらに応じた妥当な例数、実験期間等を設定すること。
(参考2:動物実験の例数と期間)
(イ) 実験プロトコール
以下の事項を明らかにすること。
a.実験目的と総括的内容(植込型補助人工心臓及び設定される各種パラメータ等)
b.使用薬剤の状況(抗血栓療法、抗菌剤等の使用薬剤の状況と、用量、頻度等)
c.計測データの状況(生理学的、血液・生化学的、機械的、電気的データ等)
d.実験終了後の剖検内容及び使用後の植込型補助人工心臓等の評価内容
(ウ) 評価
以下の事項について科学的データをもって明らかにすること。
a.システムの設計仕様の達成状況(ポンプ流量を含む設定された各種パラメータの状況、システムの機械的トラブル、植込型補助人工心臓の故障、損傷等の発生状況、発熱、周囲臓器への影響等を含む植込型補助人工心臓(カニューレ等の送脱血システムを含む)が生体に与える影響、両心植込型補助人工心臓の場合では左右流量バランスについて等)
b.合併症の発生状況(使用する植込型補助人工心臓に起因する生体の異常、これには血栓塞栓症、溶血、感染症、臓器機能障害及び不全等が含まれる)
c.実験終了後の剖検所見
d.実験使用後の植込型補助人工心臓(血液ポンプ、カニューレ等の送脱血システムを含む)の各種所見(血栓形成の有無等を含む)
e.実験予定期間に到達しなかった動物の例数とその状況
f.上記の評価をもとにした実験目的に関する総合的な評価
(3) 臨床試験
ア.基本的な考え方
(ア) 概要
新規植込型補助人工心臓の設計検証において、非臨床試験の結果のみでは機器の有効性及び安全性を担保することは困難であるため、原則、臨床試験による評価が必要である。臨床試験での対象患者や症例数、期間等の設定に際しては、それに至る根拠や考え方を明確に示すこと。
既承認の植込型補助人工心臓の臨床試験について、その多くは海外Pivotal study2及び少数例での国内治験が実施されているが、国内でFeasibility study3及びPivotal studyが行われたものもある。海外Pivotal studyが実施された植込型補助人工心臓については統計学的根拠に基づいた症例数設計がなされており、近年承認されたものは既存の植込型補助人工心臓との比較対照試験として実施されているものもある。
(イ) 国内治験及び植込型補助人工心臓による治療の国内外差
既承認の植込型補助人工心臓において、Pivotal studyを海外臨床試験として実施された機器については、本邦における植込型補助人工心臓の植込み手技や管理方法の新規性、国内外の医療環境差等が懸念されてきた。このようなケースでは海外Pivotal study成績の国内への外挿性確認を目的として、単群による少数例の国内治験(ブリッジ試験)が実施された。国内治験で得られた知見は本邦での市販後安全対策に活用されると共に、市販後はJ―MACSに全例登録され、植込型補助人工心臓の実臨床での使用成績が把握されている。その結果、本邦の植込型補助人工心臓の使用成績は、米国INTERMACS等の海外のレジストリ成績と比較してみても遜色ない成績が得られており、これらのRWDを活用し、新たな国内治験を実施せず承認された植込型補助人工心臓も現在認められている。
国内治験の要否については、上述の背景や、近年発出された「医療機器の迅速かつ的確な承認及び開発のための治験ガイダンス」4,5を踏まえ、信頼性が担保された海外Pivotal study成績を有する場合は、機器の新規性のほか、国内外差として想定される事項(外的要因及び内的要因)と、それによる評価への影響について多角的に検討すること。検討の結果、安全性上の懸念がない、又は安全対策等により許容可能と考えられる場合は、ブリッジ試験としての国内治験を省略できる可能性がある。
しかしながら、市販前に国内治験を行うことの意義も引き続き十分あり、市販後を見据えた臨床成績の確認や円滑な導入方法の検討、国内外差に関する新たな知見の入手、それによる確度の高いリスクマネジメントの検討が必要である。そのため、今後の開発の1つのあり方として、海外開発品の国内への導入の検討においては、国際共同治験に参加することも推奨される。なお、作動原理をはじめ、操作や植込み方法等に新規性が高い場合は、従来どおりブリッジ試験等の国内治験の実施が必要となる場合がある。
(ウ) 迅速な臨床導入に向けた承認制度等の活用
小児用植込型補助人工心臓等、開発品の対象患者によっては検証的な臨床試験を行うことが困難な場合も想定される。近年、そのような医療機器を対象とした「条件付き早期承認制度」やレジストリ等のRWDの活用に関するガイドラインが整備されており、それらの活用により迅速な導入を実現できる可能性がある。そのため、開発初期の段階から、PMDAと開発品の臨床評価を見据えて相談を行うことを推奨する。
イ.臨床試験の実施にあたって
(ア) 医療機器の臨床試験の実施の基準(GCP)の遵守
新規植込型補助人工心臓の臨床試験を行う場合は、in vitro及びin vivo評価が充分に行なわれて臨床使用の妥当性が確認された機器を用い、被検者の安全と人権の保護に対する倫理的配慮のもと、科学的にかつ適正に実施されなければならない。具体的には、GCP等の基準を遵守し、信頼性が担保された臨床試験を行う必要がある。
(イ) 臨床試験のデザイン
新規植込型補助人工心臓の臨床試験による評価は、使用目的と想定される使用期間に応じた有効性について適切にデザインされた臨床試験のデータに基づいて行う。Pivotal studyとして実施する場合は、基本的に、既承認品との非劣性又は優越性を統計学的根拠に基づく科学的な試験設計で示す必要がある。比較対照試験での対照群の設定については、既存の植込型補助人工心臓との直接的な比較検証以外に、信頼性の高い国内外のレジストリデータを活用することも可能である。
ウ.臨床試験計画書
(ア) 基本的な事項
臨床試験計画書においては、以下の事項を明確に示すこと
a.治験デザイン
b.エンドポイント及び成功基準
c.対象となる患者に対する既存の治療法との違い
d.対照群の設定の必要性の有無及びその妥当性
e.適応疾患と適応基準及び除外基準
f.患者登録方法(割付け方法も含む)
g.収集データ項目及びその収集法、解析法
h.予測される有害事象の予測頻度を含む患者へのインフォームドコンセントの内容。想定される有害事象の予測頻度が高い場合には、当該機器の使用に伴うリスクとベネフィットに関しての十分な説明。DTにおいては、終末期医療に関する説明を含む
i.患者管理とフォローアップの方法
j.在宅治療に必要な事項
k.臨床試験実施者及び医療スタッフに対する装置の使用法と管理法、患者管理及びデータ集積を含む臨床試験実施に関する教育計画
l.臨床試験対象者及び介護者に対する装置の使用法と管理法に関する教育計画
m.剖検及び使用後の治験機器評価に関するプロトコール
n.独立したData Safety Monitoring Boardの設置
o.重篤な有害事象発生時あるいは臨床上の利益が無いと判断された場合における臨床試験の中止に関する事項
p.データ集積を良質に行うためのデータマネジメント及びモニタリングに関する事項
q.監査に関する事項
(イ) 使用目的
使用目的は、BTT、又はDTであり、在宅治療を中心としたQOLの高い長期補助を安全且つ有効に行うものであること。なお、原則的にはどの目的を対象としているかについて明確にすることを考慮する。基本となる医学的基準は、「植込型補助人工心臓治療ガイドライン」に準じた末期的重症心不全とし、使用目的に応じた適応条件に該当する患者群を対象とする。
(ウ) 対象患者(適応条件及び除外条件)
適応条件は、「植込型補助人工心臓治療ガイドライン」を参考に、
・ 末期的心不全のために著しくQOLが障害された患者であること、
・ 他の治療では延命が望めず、本臨床試験に参加することで高いQOLを伴う在宅治療が行え、社会復帰が期待されること
とする。例えば、NYHAクラス3―4度で4度の既往があり、強心薬を含むエビデンスに基づいた最大限の薬物治療等が試みられていること、補助人工心臓治療の限界や合併症についてよく理解していること、並びに家族等の理解と支援が得られることが求められる。
除外条件についても「植込型補助人工心臓治療ガイドライン」の記載を参考とした基準とする。
対象患者は、適切且つ妥当な基準に従って、使用する植込型補助人工心臓の目的(BTT、又はDT)に合致した適応を満たしていると判定されていることが求められる。
(エ) 症例数と治験実施期間
a.症例数
症例数には臨床試験の目的を達成するのに適切な科学的根拠がある数が求められる。臨床試験症例数は、対照群を設定する必要性があるかどうかを考慮して設定すること。具体的には、Pivotal studyの場合は基本的に対照群を設定した比較対照試験を想定する必要があり、統計学的に仮説検証できる症例数とすること。
b.期間
安全性を考慮したFeasibility studyは植込み後6カ月(BTT)または1年(DT)を目安に評価を行うこと。その後、継続して使用目的に応じた検討を行うこと。Pivotal studyにおいては臨床試験の目的に応じたエンドポイントを設定すること。開発品の新規性が高く国内へのブリッジ試験を行う場合は、原則、海外Pivotal studyと同様に設定すること。
また、医療機器においては、多数例・長期間の使用後に、治験では観察されなかった問題が明らかになる場合もあることから、エンドポイントの期間以降もフォローアップとして対象患者の評価を継続すること。
(オ) 実施医療機関
必要症例数に基づいた適切な施設数とする。施設の資格要件としては、該当する植込型補助人工心臓実施施設認定を受けていることに加え、植込型補助人工心臓の十分な経験を有していること。
(カ) 臨床試験データの取得方法
試験対象者の安全性を最優先とし、臨床的な有効性の判断を重視する。侵襲的検査は最小限にする。
(キ) 試験中の有害事象が生じた時の対応
有害事象の定義及び各有害事象発生時の対応を明確にすること。また、有害事象発生頻度が多い場合の治験の継続、中断、あるいは中止について明確にすること。中止にあたっては、その後の治療や治験機器の取扱いについても示すこと。
(ク) 安全性評価
有害事象の項目毎にその結果を具体的且つ明確に示すこと。
(ケ) 最終評価(有用性の評価)
臨床試験の目的及び適応に応じた期間において良好なQOLを保ちながら生存し、科学的に妥当な有用性を認めること。
(4) 治療管理プログラム
「植込型補助人工心臓治療ガイドライン」、並びに「植込型補助人工心臓DT実施基準」(補助人工心臓治療関連学会協議会)を参考に治療管理プログラムを作成し、適切な在宅治療安全管理を実施すること。
(5) 市販後の実施体制及び安全対策
これまで既承認の植込型補助人工心臓においては、補助人工心臓治療関連学会協議会により策定された実施体制・実施基準に沿って使用されてきた。また、植込型補助人工心臓の特性も踏まえ、市販後の症例は保険償還とも連動したJ―MACSに全例登録され、市販後の安全性が確保されてきた。今後の新規植込型補助人工心臓についても、承認後は補助人工心臓治療関連学会協議会と連携・協力して市販後安全対策に取り組むこと。
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1 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」(昭和36年厚生省令第1号)の第114条の22(申請資料の信頼性の基準)
2 医療機器の有効性及び安全性について承認申請に必要なデータを取得するために実施される臨床試験
3 試作品の段階も含め、医療機器の特性、又はその特性が期待どおりに機能するか確かめるための小規模な探索的臨床試験
4 平成29年11月17日付薬生機審発1117第1号、薬生安発1117第1号「医療機器の試験成績に関する資料」の提出が必要な範囲等に係る取扱い(市販前・市販後を通じた取組みを踏まえた対応)について
5 平成29年11月17日付事務連絡「医療機器の迅速かつ的確な承認及び開発のための治験ガイダンスの公表について」
参考1
信頼性(耐久性試験)
補助人工心臓6の耐久性試験においては、合理的な限りシステムとしての耐久性を評価することが望ましい。しかし、拍動型補助人工心臓における構成要素となる生体弁等、システムとして組み込んだin vitro耐久試験では臨床で想定されない負荷が作用することもあり、これらの構成要素に関しては、システム全体とは別に、独立して耐久性試験を行っても良い。
耐久性試験においては、ISO14971:2019に基づくリスク分析により、植込型補助人工心臓の構成要素について故障モードを評価し、それらの想定される故障モードの発生や予兆を評価できる試験を行うことが望ましい。
植込型補助人工心臓の故障の定義は、植込型補助人工心臓が要求される機能を果たせなくなること、または最低要求仕様を果たせなくなること、すなわち血流及び血圧を補助できなくなることとして表される。耐久性試験においては、植込型補助人工心臓、耐久性試験システムにおける構成品の交換や不具合等のイベントを記録すると共に、その解析・評価結果を保管する必要がある。それらの記録は求めに応じて提出できるように管理しておくことが求められる。
システムの信頼性とは、予め定めた試験環境・条件の下で、システムが一定期間その機能を果たす確率で表される。達成すべき信頼性を示すために、ReliabilityとConfidence levelを設定し、試験するシステムの数と許容可能な故障数を決定して試験を計画する等、統計的手法を用いて信頼性を示すことが推奨される。
耐久性試験においては、臨床での使用環境・条件を踏まえ、試験環境・条件を設定することが求められる。
(1) 全ての埋め込み要素は、生理学的な模擬環境(pH、電解質、温度、等)で試験し、拍動流及び拍動圧力のある模擬循環試験装置を用いて評価するものとする。拍動性のある模擬循環試験装置を使用しない場合は、拍動性がなくても耐久性を評価できることを、使用目的を踏まえて科学的に示すことが推奨される。
(2) 人の生理学的状態(通常の活動、運動、就寝等)を模した装置の循環条件(流量、圧力、拍動数等)を考慮する。
使用目的に応じて求められる耐久性の期間は異なる。今後、更なるQOLの向上や低侵襲治療を目指した植込型補助人工心臓の研究開発が期待され、また、研究開発・事業化の促進という観点で、国際ハーモナイゼーションも重要である。BTTを目的とした植込型補助人工心臓に関しては6カ月、さらにDTを目的とした植込型補助人工心臓では2年間の耐久性を示すことが推奨される。
耐久性試験の試験条件と期間については、最低限80%reliability、60%confidence levelでの試験が必要であるが、国際ハーモナイゼーションの観点も勘案し、80%reliability、80%confidence levelで試験を実施することを推奨する。機器の特性を考慮して、下表を参考として試験条件の設定を行うこととする。
(参考)80%reliability,80%confidence levelでの試験台数
想定故障台数 |
Reliability |
Confidence level |
試験台数 |
1台の故障も許容しない場合 |
80% |
80% |
8台 |
1台の故障を許容する場合 |
80% |
80% |
14台 |
2台の故障を許容する場合 |
80% |
80% |
21台 |
(参考)異なるconfidence levelでの試験台数(1台の故障も許容しない場合)
Reliability |
Confidence level |
試験台数 |
80% |
60% |
5台 |
80% |
70% |
6台 |
80% |
80% |
8台 |
(参考)異なるconfidence levelでの試験台数(1台の故障を許容する場合)
Reliability |
Confidence level |
試験台数 |
80% |
60% |
9台 |
80% |
70% |
11台 |
80% |
80% |
14台 |
欧米と異なり、わが国では臓器提供数が心臓移植希望登録者数の増加に追いついておらず、BTTの患者の心臓移植待機期間が1500日を超えている。わが国における心臓移植待機期間の状況やDTにおける長期使用も踏まえ、承認取得後も長期の耐久性試験を継続することが望ましい。これにより、故障の要因となる構成要素とその予兆について分析し、市販後における予防保守やデバイスの交換計画への活用が期待される。
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6 本邦での補助人工心臓は、体内植込型、体外設置型に大別され、それらの適応は心臓移植への橋渡しを目的としたBTT、心臓移植を目的としない長期在宅補助人工心臓治療を目的としたDT、補助人工心臓の植込み前に移植適応判定を下せない場合にBTTを目指して治療を行うことを目的とした(bridge to candidacy:BTC)、心原性ショック等の救命治療を目的とした(bridge to decision:BTD)等がある。BTCやBTDを目的とした体外設置型補助人工心臓においても、本参考を参照して使用目的に応じた数カ月の耐久性を示すことが推奨される。
参考2
動物実験の例数と期間
国際ハーモナイゼーションの観点を尊重し、動物実験の例数及び期間は本ガイドラインでは特に指定しないが、動物実験の例数や期間は、in vitro評価と総合して目的とする評価内容を科学的に提示しうるものであることとする。例としては、過去の国際的慣例等を考慮し、評価目的に応じて、60日間の人工心臓使用を予定とした試験を6頭以上、90日間の人工心臓使用を予定とした試験を8頭以上等の実施を検討する。