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○HIFUに関する監視指導の徹底について

(令和5年3月31日)

(薬生監麻発0331第12号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知)

(公印省略)

医薬品、医療機器等に係る監視指導については、種々御配慮いただいているところですが、今般、別添写しのとおり、消費者安全調査委員会が行った調査の結果報告書「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故(令和5年3月29日)」(以下「報告書」という。)において、高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound。以下「HIFU」という。)を人体に照射する機器(以下「HIFU機器」という。)であって、医療機器として規制されるべきものが、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「法」という。)第23条の2の5に基づく必要な承認を得ないまま、輸入若しくは製造され、又は販売若しくは授与されている実態が推定される旨報告されており、消費者安全調査委員会から厚生労働省に対して、不適切な機器流通への監視強化が求められているところです。

HIFUを人体に照射し熱エネルギーを加えることで、標的組織を焼灼等して皮膚のしわ又はたるみの改善、痩身の効果を得られると標ぼうするなど、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことを目的とする機械器具は法第2条第4項に規定する医療機器に該当します。

つきましては、HIFU機器に関して、美容目的と称して医療機器として規制されるべきHIFU機器が流通しないよう、貴管内関係業者、関係団体等に周知いただくとともに、法に基づく監視指導の一層の徹底を図るよう御留意願います。なお、令和5年3月31日時点においては、美容目的で使用されるために我が国において承認されたHIFU機器は存在しません。

別添

消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書

エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故

令和5年3月29日

消費者安全調査委員会

本報告書の調査は、消費者安全調査委員会が消費者安全法第23条第1項の規定に基づき、消費者安全の確保の見地に立って、事故の発生原因や被害の原因を究明するものである。消費者安全調査委員会による調査又は評価は、生命身体に係る消費者被災の発生又は拡大の防止を図るためのものであって、事故の責任を問うために行うものではない。

本報告書は、担当専門委員による調査、製品等事故調査部会における調査・審議を経て、令和5年3月29日に消費者安全調査委員会で決定された。

消費者安全調査委員会

委員長 中川 丈久

委員長代理 持丸 正明

委員 小川 武史

委員 河村 真紀子

委員 小塚 荘一郎

委員 宗林 さおり

委員 東畠 弘子

(2022年9月30日まで)

委員長 中川 丈久

委員長代理 持丸 正明

委員 小川 武史

委員 河村 真紀子

委員 澁谷 いづみ

委員 水流 聡子

委員 中原 茂樹

製品等事故調査部会

部会長 小川 武史

部会長代理 河村 真紀子

臨時委員 伊藤 崇

臨時委員 門脇 敏

臨時委員 関東 裕美

臨時委員 菅谷 朋子

臨時委員 水流 聡子

臨時委員 宮崎 祐介

(2022年9月30日まで)

部会長 小川 武史

部会長代理 河村 真紀子

臨時委員 伊藤 崇

臨時委員 門脇 敏

臨時委員 関東 裕美

臨時委員 小坂 潤子

臨時委員 西田 佳史

臨時委員 堀口 逸子

臨時委員 松尾 亜紀子

臨時委員 宮崎 祐介

担当専門委員 梶浦 明裕

担当専門委員 葭仲 潔

目次

はじめに

1 事案の概要

2 事故等原因調査の経過

2.1 選定理由

2.2 調査体制

2.3 調査の実施経過

2.4 原因関係者からの意見聴取

3 認定した事実

3.1 HIFUとは

3.2 HIFU施術及び機器に関する法規制

3.2.1 施術に関する法規制(医師法)

3.2.2 機器に関する法規制(薬機法)

3.3 施術に関する業規制について

3.4 施術の安全性に関する指針

3.5 機器に関する安全基準

4 分析

4.1 施術者の実態調査

4.2 事故情報の分析

4.2.1 事故発生状況

4.2.2 HIFU施術の症例

4.2.3 被災者の具体的症状

4.2.4 事故情報から確認された事項

4.3 アンケート調査

4.3.1 実施概要

4.3.2 調査結果

4.3.3 アンケート調査で確認された事項

4.4 機器の実態調査

4.4.1 調査内容

4.4.2 実験結果

4.4.3 機器の実態調査のまとめ

4.4.4 施術現場で確認された事項

4.5 豚肉への照射実験

4.6 生体への熱投与シミュレーションによる解析

4.6.1 検討方法

4.6.2 解析条件

4.6.3 評価方法

4.6.4 解析結果

4.6.5 解析結果から確認された事項

4.7 HIFU機器物流の実態調査

4.8 法規制に関する調査

5 事故等原因

6 再発防止策

7 意見

7.1 厚生労働大臣への意見

7.2 経済産業大臣への意見

7.3 消費者庁長官への意見

参考資料

参考資料A 音圧分布及び温度解析

参考資料B 焦点形成状況の可視化

参考資料C HIFU照射パワーの計測

報告書

はじめに

消費者安全調査委員会1(以下「調査委員会」という。)は、消費者安全法に基づき、生命又は身体の被災に係る消費者事故等の原因2及びその事故による被災発生の原因を究明し、同種又は類似の事故等の再発・拡大防止や被災の軽減のために講ずべき施策又は措置について、内閣総理大臣に対して勧告し、又は内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対して意見具申することを任務としている。

調査委員会の調査対象とし得る事故等は、運輸安全委員会が調査対象とする事故等を除く生命又は身体の被災に係る消費者事故等である。ここには、食品、製品、施設、役務といった広い範囲の消費者に身近な消費生活上の事故等が含まれるが、調査委員会はこれらの中から生命身体被災の発生又は拡大の防止を図るために当該事故等の原因を究明することが必要であると認めるものを選定して、原因究明を行う。

調査委員会は選定した事故等について、事故等原因調査(以下「自ら調査」という。)を行う。ただし、既に他の行政機関等が調査等を行っており、これらの調査等で必要な原因究明ができると考えられる場合には、調査委員会はその調査結果を活用することにより当該事故等の原因を究明する。これを、「他の行政機関等による調査等の結果の評価(以下「評価」という。)」という。

この評価は、調査委員会が消費者の安全を確保するという見地から行うものであり、他の行政機関等が行う調査等とは、目的や視点が異なる場合がある。このため、評価の結果、調査委員会が、消費者安全の確保の見地から当該事故等の原因を究明するために必要な事項について、更なる解明が必要であると判断する場合には、調査等に関する事務を担当する行政機関等に対し、原因の究明に関する意見を述べ、又は調査委員会が、これら必要な事項を解明するため自ら調査を行う。

上記の自ら調査と評価を合わせて事故等原因調査等というが、その流れの概略は次のページの図のとおりである。

図 調査委員会における事故等原因調査等の流れ

<参照条文>

○消費者安全法(平成21年法律第50号)〔抄〕

(事故等原因調査)

第23条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止(生命身体事故等による被害の拡大又は当該生命身体事故等と同種若しくは類似の生命身体事故等の発生の防止をいう。以下同じ。)を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。ただし、当該生命身体事故等について、消費者安全の確保の見地から必要な事故等原因を究明することができると思料する他の行政機関等による調査等の結果を得た場合又は得ることが見込まれる場合においては、この限りでない。

2~5 (略)

(他の行政機関等による調査等の結果の評価等)

第24条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認める場合において、前条第一項ただし書に規定する他の行政機関等による調査等の結果を得たときは、その評価を行うものとする。

2 調査委員会は、前項の評価の結果、消費者安全の確保の見地から必要があると認めるときは、当該他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長に対し、当該生命身体事故等に係る事故等原因の究明に関し意見を述べることができる。

3 調査委員会は、第一項の評価の結果、更に調査委員会が消費者安全の確保の見地から当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明するために調査を行う必要があると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。

4 第一項の他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長は、当該他の行政機関等による調査等に関して調査委員会の意見を聴くことができる。

本報告書の本文中における記述に用いる用語の使い方は、次のとおりとする。

① 断定できる場合

・・・「認められる」

② 断定できないが、ほぼ間違いない場合

・・・「推定される」

③ 可能性が高い場合

・・・「考えられる」

④ 可能性がある場合

・・・「可能性が考えられる」

・・・「可能性があると考えられる」

――――――――――

1 消費者安全法(平成21年法律第50号)の改正により、2012年10月1日に消費者庁に設置された。

2 原因は、要因のうちある現象を引き起こしているとして特定されたものとし、要因は、ある現象を引き起こす可能性のあるものとする。出典:JIS Q9024:2003(マネジメントシステムのパフォーマンス改善―継続的改善の手順及び技法の指針)

1 事案の概要

調査委員会は、エステサロンで高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)(以下「HIFU」という。)による施術を受けた後に、唇にしびれ・麻痺・引きつれが生じ、三叉神経の麻痺と診断されたという申出を受けた。

また、独立行政法人国民生活センターは、皮下組織に熱作用を加え危害を及ぼすHIFU施術をエステサロン等で受けないように、消費者に対して注意を呼び掛けるとともに、関係機関・団体へ要望及び情報提供を行った3。それを受けてエステティック業界の主要団体では、HIFU施術を禁止する注意喚起を会員に対して行っており、これら会員企業ではHIFU施術は行われていない。

しかし、これらの団体に未加盟のエステサロン等が多く、現在でもHIFU施術が多く行われ、神経・感覚の障害、熱傷などの被害も報告されているのが実状である。

以上から、調査委員会は、エステサロン等4によるHIFU施術の実態や事故情報についての調査を行うこととした。

――――――――――

3 エステサロン等でのHIFU機器による施術でトラブル発生!―熱傷や神経損傷を生じた事例も―(2017年3月2日)

4 本調査において、エステサロン等とは、エステサロン及びセルフエステを表すが、整体やネイルを主なサービスとしている店舗でHIFU施術を併用して行っている場合等も含む。ただし、美容医療クリニックは含まない。

2 事故等原因調査の経過

2.1 選定理由

調査委員会は、「事故等原因調査の対象の選定指針」(2012年10月3日消費者安全調査委員会決定)に基づき、以下の要素を重視し、申出による事故を起因として2021年7月30日の調査委員会にて、エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故について事故等原因調査の対象として選定した。

・公共性

切開を伴わずに痩身、リフトアップが可能となる新しい手法として近年人気が高く、消費者が望めば、医療機関、エステサロン、及びセルフエステのいずれでも施術を受けることが可能である。

・被害の程度

軽い熱傷等の場合が多いが、場合によっては神経障害などの重大事故となる可能性がある。

・多発性

HIFU施術は比較的効果の高い新技術として需要が高まっており、事故件数が年々増える傾向にある。

・消費者による回避可能性

施術者による行為が主であり、施術者が専門知識を取得しているか判断することが困難であり、消費者による回避は困難である。

2.2 調査体制

調査委員会は、本調査について、HIFUに関する技術的な特性、及び規制に関する法的な知見等が必要と考えることから、HIFUによる治療用機器等の基盤・応用技術の研究開発を専門とする葭仲潔専門委員、及び医療事故を専門とする弁護士の梶浦明裕専門委員の2名を本調査の担当専門委員に指名し、製品等事故調査部会及び調査委員会で審議を行った。

2.3 調査の実施経過

2021年7月30日 第107回調査委員会において原因調査を行う事故として選定し、調査計画を審議

2021年9月17日 第109回調査委員会において担当専門委員を指名

2021年10月7日 第47回製品等事故調査部会において照射実験計画について審議

2021年11月5日 第48回製品等事故調査部会においてアンケート計画について審議

2022年3月4日 第52回製品等事故調査部会において調査経過を報告

2022年5月10日 第53回製品等事故調査部会において照射実験及びアンケート結果について審議

2022年6月3日 第54回製品等事故調査部会において経過報告書(案)及び報告書(骨子)を審議

2022年6月23日 第118回調査委員会において経過報告書(案)を審議

2022年7月4日 第55回製品等事故調査部会において経過報告書(案)及び報告書(骨子)を審議

2022年7月26日 第119回調査委員会において経過報告書(案)を審議・決定

2022年8月8日 第56回製品等事故調査部会において追加調査結果を報告

2022年9月9日 第57回製品等事故調査部会において照射シミュレーション計画を審議

2022年9月29日 第121回調査委員会において調査経過を報告

2022年11月7日 第58回製品等事故調査部会において再発防止策を審議

2022年11月29日 第124回調査委員会において再発防止策を審議

2022年12月12日 第59回製品等事故調査部会において照射シミュレーション結果を審議

2022年12月22日 第125回調査委員会において照射シミュレーション結果を審議

2023年1月18日 第60回製品等事故調査部会において報告書(案)について審議

2023年2月2日 第126回調査委員会において報告書(案)及び原因関係者について審議

2023年2月15日 第61回製品等事故調査部会において報告書(案)について審議

2023年3月1日 第127回調査委員会において報告書(案)及び概要版(案)について審議

2023年3月15日 第62回製品等事故調査部会において報告書(案)及び概要版(案)について審議

2023年3月29日 第128回調査委員会において報告書(案)及び概要版(案)について審議し、報告書及び概要版を決定

2.4 原因関係者からの意見聴取

原因関係者5から意見聴取を行った。

――――――――――

5 原因関係者(消費者安全法第23条第2項第1号)とは、帰責性の有無にかかわらず、事故等原因に関係があると認められる者をいう。

3 認定した事実

3.1 HIFUとは

HIFUとは、前述のとおり、高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)の略で、集束超音波の熱エネルギーにより体内の組織を高温に加熱するもので、焼灼/凝固の侵襲6作用により前立腺がん治療などに用いられる技術である。美容で用いられるものはその治療の技術を転用したものである。

集束超音波とは、カートリッジ内のトランスデューサ7から発振する超音波を、レンズで焦点を合わせるように一定の深さで集束させるものである。

その結果、ある決まった焦点部のみに熱を発生させて高温にする(図1)。

つまり、表皮部分に熱傷を起こさずに、任意の皮下組織に熱を与えることができるため、美容で主にたるみや痩身の治療に用いられている。なお、痩身目的には脂肪、たるみ改善のためには、真皮、脂肪又はSMAS筋膜8といった組織が施術の対象となる。

図1 HIFUの照射イメージ9

HIFU機器を用いた施術は、先端にトランスデューサが組み込まれたカートリッジの先端部を皮膚に当てた状態にしてプローブを手に持って動かして行う(図2)。

HIFU機器の超音波は、電圧を加えることで振動するトランスデューサを利用して発生させるもので、プローブの照射ボタンを押すと照射される。

また、カートリッジの先端部と皮膚との間に空間があると適切に照射ができないため、ジェルを皮膚に塗布してカートリッジ先端部と皮膚を密着させることが必要である。

図2 一般的なHIFUの施術イメージ

一般的に、プローブには角形と筒形がある。角形のプローブには、トランスデューサが直線的に自動移動して線状に超音波を照射する形態、及び複数列の線状(面状)に照射する形態がある。一方、筒形のプローブは、点状に照射する形態で、手で移動して照射する(図3)。

図3 一般的なプローブ形状と照射形態

3.2 HIFU施術及び機器に関する法規制

HIFU施術及び機器に関する法規制等として、①施術に関する法規制である医師法(昭和23年法律第201号)、②医療機器に関する法規制である医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)(以下「薬機法」という。)が挙げられる。

3.2.1 施術に関する法規制(医師法)

医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定しており、医師以外が「医業」の内容となる医行為に該当する行為を行った場合には、処罰の対象となる(同法第31条)。

医行為は「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解されている(令和2年9月16日最高裁判所第2小法廷決定参照)。

エステティック業界が提供する役務のうち厚生労働省が医行為に該当する例と示した行為として「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」(いわゆる脱毛施術)等がある10

なお、HIFU施術が、「医行為」に該当するか否かについては、厚生労働省から統一した基準は示されておらず、これに関する裁判例等は確認できていない。

3.2.2 機器に関する法規制(薬機法)

薬機法第2条第4項は、「医療機器」を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるもの」と規定している。

業として医療機器の製造販売を行うためには、厚生労働大臣の許可が必要となり、これに反する場合、処罰の対象となる(薬機法第23条の2、第84条)。

なお、前立腺がんなどの治療効果を目的にしたHIFU機器が医療機器として承認されている例(理学診療用器具の分類)は存在するが、美容医療を目的としたHIFU機器で医療機器として承認されている例はない。

また、厚生労働大臣の承認又は同大臣の登録認証機関の認証を受けないで、超音波照射能力を有する医療機器である高密度焦点式超音波痩身機を販売したことについて、旧薬事法に違反するとした裁判例が1件存在する11

さらに、個人が自ら使用するために医薬品等(注:医薬品等には医療機器を含む。)を輸入する場合、又は医師等が自己責任の下、自己の患者の治療や診断に使用する医薬品等を輸入する場合などは、必要に応じて、通関前に厚生労働大臣(地方厚生局長)に輸入確認申請書等を提出し、輸入確認証の交付を受ける必要がある12。ただし、医療従事者ではない個人が、自ら使用するために医家向けの医療機器を個人輸入することは原則できない。

なお、美容機器等と称して、あたかも薬機法の医療機器に該当しないかのように販売されている製品であっても、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であると判断される場合には、医療機器に該当する13

3.3 施術に関する業規制について

エステティックサービスを業として行うに当たり、法律による特別の資格は必要ではなく、エステサロンの開設・運営に際しても業規制はなく、行政機関への届出なども要求されていない。

3.4 施術の安全性に関する指針

「美容医療診療指針」14では、HIFUによる治療について、以下のように記載(一部抜粋)されており、安全性には十分な注意が必要だとされている。

「推奨度:治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨する。

推奨文:効果は外科手術や注入剤を用いた治療に及ばないが、瘢痕形成は稀で、体内に異物を残さないため、合併症の危険性が低く、タルミ治療の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨できる。

有効性:あり

安全性:副作用として瘢痕形成、神経麻痺などが挙げられ、十分な注意が必要である。

承認状況:すべて国内未承認」

さらに以下のような解説もある。

「レーザーのように選択的に組織を破壊することができないため、解剖学的な知識がないと皮下の神経や血管、筋肉などを傷害し、それに対応した副作用を発症する恐れがある。」

3.5 機器に関する安全基準

美容に用いられるHIFU機器に関し、監督官庁や業界団体が定めた具体的な安全基準は存在しない。

――――――――――

6 侵襲とは「医療において、生体内の恒常性を乱す可能性のある外部からの刺激」(大辞林第三版より)

7 トランスデューサとは変換器のことで、ここでは超音波を発生する素子のこと。

8 皮下にある顔面軟部組織を支える筋膜(Subcutaneous Musclo―Aponeurotic System)

9 筋膜をターゲットとした焦点深さ4.5mmのトランスデューサを例として記載した。

10 医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて(平成13年11月8日)(医政医発第105号)

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6731&dataType=1&pageNo=1

11 大阪地判平成27年6月15日(公刊物未登載)(平成27年(わ)第855号)。

12 関東信越厚生局ホームページより

https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iji/yakkanhp-kaishu-2016-3.html

13 医薬品等の個人輸入に関して(厚生労働省ホームページより)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/topics/tp010401-1.html

14 日本美容外科学会会報2020Vol.42特別号

「美容医療診療指針」は、美容医療に関わる主要な学術団体である日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容皮膚科学会(JSAD)、及びそれぞれの基盤学会である日本形成外科学会(JSPRS)と日本皮膚科学会(JDA)、さらに日本美容外科学会(JSAS)と公益法人日本美容医療協会(JAAM)が合同で協力した研究事業の中で作成されたもの

4 分析

4.1 施術者の実態調査

(1) 概要

現在、HIFU施術は、医療機関である美容医療クリニック(美容外科、美容皮膚科)(以下「美容クリニック」という。)のほかに、エステティシャンがHIFU機器を扱って施術するエステサロンや店舗に置かれたHIFU機器を利用者自らが扱って施術するセルフエステなどで行われている。

また、自宅等で利用者自らが施術することもある。

(2) エステティック業界におけるHIFU施術

エステティック業界は経済産業省が所管しており、エステティック業界の産業振興のために業界団体を支援・協力している。

また、厚生労働省は、公益財団法人日本エステティック研究財団を通じて、エステティックの安全性や衛生面での研究、営業者の経営倫理の確立を通して消費者被害の防止を図り、エステティック業界の健全化を図っている。

2017年3月に、独立行政法人国民生活センターからエステサロン等でのHIFU機器による施術についての注意喚起を受けて、業界の主要団体15からは、会員宛に以下の勧告や注意喚起が行われ、HIFU施術を自主的に禁止している。

(参考) エステティック関連の業界団体のHIFU施術禁止の動き

2019年8月 日本エステティック振興協議会

関連団体に向けて「セルフハイフ施術禁止」の勧告

同8月 日本エステティック業協会

会員宛にHIFU施術(含むセルフ)禁止の通達

同10月 日本エステティック協会

会員宛にエステティシャンによるHIFU機器使用禁止を通達

2021年4月 日本エステティック業協会

会員宛に2019年8月の通達を再徹底

同7月 日本エステティック協会

会員宛に「医師以外のHIFUの使用・取り扱いの禁止」を通達

エステサロン等の店舗数やその中でHIFU施術が行われている店舗数については、エステサロン等の営業やこれら事業者が提供する役務に対する法的な規制がなく、関連情報を集約、管理する公的な部署が存在しないため、その正確な店舗数などの実態を把握することは困難である。

そこで、それらを概算するため、大手予約サイトのホームページ出店数16を調査した結果、以下の店舗数の掲載を確認した。

(登録店舗数)

① エステサロン17:約24,000店舗

うち、HIFU施術のメニューを掲載:約4,600店舗

② セルフエステ:約3,200店舗(①に含まれる)

うち、HIFU施術のメニューを掲載:約700店舗

③ 美容医療クリニック:約1,300施設

うち、HIFU施術のメニューを掲載:約400施設

ここで、HIFU施術は業界の主要団体では禁止しているため行われておらず、これらの団体に加盟していない店舗で行われていると考えられる。

なお、業界の主要団体に加盟しているのは約1,700店舗であり、ここで概算された店舗数を前提に考えると、HIFU施術を禁止しているのはエステサロン全体の1割以下と推測される(図4)。

図4 業界の主要団体への加盟状況とHIFU施術の関係

――――――――――

15 業界の主要団体には一般社団法人日本エステティック振興協議会、NPO法人日本エステティック機構、公益財団法人日本エステティック研究財団などがある。

16 大手予約サイトの2022年6月時点での集計

17 主登録がまつげ・ネイル・リラクゼーションで、サブにエステサロンを登録している店舗は含めないこととした。ただし、その中でHIFU施術している店舗もある。

4.2 事故情報の分析

4.2.1 事故発生状況

事故情報データバンク18に寄せられた事故情報の分析や、業界団体が把握する情報の収集を行った。

HIFUによる事故は、事故情報データバンクには、2015年11月から2022年12月までの間に135件19寄せられている。事故件数を、「施術場所」別に「傷病内容」20ごとにみると、表1に示すように、エステサロンでの事故件数が最も多いが、利用者自らがHIFU機器を操作するセルフエステでも事故が報告されており、医療機関である美容クリニックにおいても事故は報告されている。

HIFUによる事故件数を「傷病の程度」21で見ると、「1か月以上」の事故は全135件のうち24件22で、「施術場所」別にみると、エステサロンが96件中17件(17.7%)、セルフエステが8件中4件(50.0%)、美容クリニックが31件中3件(9.6%)である。

「傷病の程度」が「1か月以上」の事故の割合は「神経、感覚の障害」23が15件中8件(53.3%)と最も高い。

表1 HIFUによる事故件数

(事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月)

傷病内容

エステサロン

セルフエステ

美容クリニック

神経・感覚の障害

7(3)

3(3)

5(2)

15(8)

皮膚障害

16(1)

1(0)

8(0)

25(1)

熱傷

46(10)

3(1)

12(0)

61(11)

その他

27(3)

1(0)

6(1)

34(4)

96(17)

8(4)

31(3)

135(24)

※表中の( )は傷病の程度が1か月以上の事故情報を示す。

また、HIFUによる事故件数を性別及び年代別に見ると、図5、図6に示すように、事故の97%を女性が占めており、特に30歳代に多い。

図5 性別の事故件数

図6 年代別の事故件数

さらに、HIFU施術で事故が発生した部位別にみると、図7に示すように、顔への事故が70%を占め、「傷病内容」が「神経・感覚の障害」は、部位不明の事故2件を除く13件の全てが顔で発生している(表2)。

よって、調査の対象を顔への施術に絞り込んだ。

図7 身体部位別事故件数24

表2 身体部位別事故件数

(事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月)

傷病内容

下半身

上半身

部位不明

神経・感覚の障害

13

0

0

0

2

15

皮膚障害

19

1

1

1

3

25

熱傷

38

5

4

5

9

61

その他

24

4

2

0

4

34

94

10

7

6

18

135

HIFUによる事故の情報は2015年に初めて登録されてから増加傾向にあり、特にエステサロンでの事故はその傾向が顕著である(図8)。

図8 HIFUによる事故情報登録件数の推移

4.2.2 HIFU施術の症例25

事故情報データバンクに登録されているHIFU施術に関する事故情報を、神経・感覚の障害、皮膚障害、熱傷、及びその他に分けて、各々についての特徴と具体的な症状の例を示す。

(1) 神経・感覚の障害

表1から分かるように、神経・感覚障害は、件数としては熱傷、皮膚障害に次ぐ規模であるが、傷病の程度が1か月以上の事故の割合が最も高い。こういった特徴から、HIFU施術で最も注目すべき障害だと考えられ、症状の具体例からは、痺れや麻痺が数週間続くなど、症状が長引く傾向がみられることが特徴である。

(症状の具体例)

・左眉毛の上に、強い痛みを覚えた。2週間後、おでこ全体と頭の痛みが治まらず。左眉の上の三叉神経が損傷している可能性。

・神経に障害が出て一週間ほど麻痺している。下顎、下唇の筋肉に苦痛を感じた。現在、話すことは可能だが、咀嚼が以前のように上手くいかない。診断は「オトガイ神経損傷」。

・3か月前施術を受け、顔面の一部に麻痺症状が残った。施術後、マスクを付けて帰宅したが、家で鏡を見たら、右の上唇、口角がだらんと伸び切った感じで麻痺していた。その後、麻痺が治らず。

・セルフハイフ中、ビリッと唇に痛みが走った。感覚が変になった。右下唇、右の口角、内側の感覚が無いため、神経内科を受診すると「神経損傷で唇の感覚が無くなっている、治るか治らないかは不明。自然に治るかもしれないし、どのように回復するかわからない。脳からの影響ではない。年単位かもしれない。全治何か月かは不明」と言われた。

・4か月前に9回目を受けいつもより痛みがあった。痺れで下を向くと無意識によだれが垂れる。2か月経っても右口角の麻痺が消えない。

・左頬から唇にかけて電気が走りしびれは改善したが、1か月後に別に頬にひきつる違和感(洗顔時左頬に触ると右に比べ少し凹んでいる違和感)がある。

・右顔面神経麻痺の重傷。

・施術を受けた時、効果が感じられないことを伝えると今回は少し強くするといわれた。その後、顔面神経麻痺が起こり、顔が歪んだり、うがいがしにくくなった。

・顎と左首部分に痺れが出始めた。麻痺した感覚が治らなかったので神経内科を受診した。診断としては、「末梢神経損傷。首の奥の細胞が死んでいる。」と医師から言われた。

(2) 皮膚障害

表1から分かるように、皮膚障害は、傷病の程度が1か月以上の事故は25件中1件と割合が低いものの、施術中や施術直後から障害が生じたり、翌日以後に生じたりと、事例によって症状に差がみられる。症状の具体例からは、赤みや腫れ、ピリピリしたり、痛みを感じるなどの傾向がみられる26

(症状の具体例)

・施術後顔がピリピリしてお面を被っているような感覚で顔の皮膚が動きにくい。

・翌日から顔が腫れあがり、3日目には倍ぐらい腫れあがった。

・(2日後)顎に縦2~3cm×横2cm程度の大きさで、赤茶色いシミのような跡ができていることに気付いた。

・施術直後は左顎が手のひらサイズで赤くなった。自宅に帰りピリピリするので、鏡を見ると、薄いミミズ腫れが数本でき、ピリピリしたのが、治まらなかった。

・両頬全体に赤黒いシミが広がっており驚いた。

・施術中いつもよりピリピリした痛みがあり、終わって鏡を見たら、両頬骨の下の1か所ずつと、首に、白い1cm大の盛り上がりができていた。現在まだ治っておらず、表面が固くなっていて、大人のニキビのように、押すと膿が出そうな状態で痛みがある。

・12日前に施術を受けたが、もみあげができたような黒いラインができ、傷ができた。皮膚科を受診したところ、重度の内出血を起こしている、薄くはなると言われた。実際、薄くなり、最近ではかさぶたができている状況。

・3か月の間に5回施術を受けたが、顔に色素沈着が残り消えない。

・1回施術を受けたら肌荒れした。

(3) 熱傷

表1から、熱傷の事故は61件と最も多い。施術中に痛みが生じたものや、施術直後に熱傷を生じた事例、また、時間が経ってから症状が現れた事例もあり、多様な症例が報告されている。症状の具体例からは、熱傷後色素沈着や熱傷瘢痕を生じて日常生活に負担が生じた事例や精神的なショックを受けた事例など複数みられる27

(症状の具体例)

・帰宅後機器を当てられた部分に違和感があり鏡を見たら黒くなっていた。翌日一層黒くなっていた。

・約3か月前、5回目の施術を受けた直後から顔面に違和感があった。鼻の脇に直径1.5cmほどの水膨れができ、顔面に麻痺を感じた。Ⅱ度の熱傷と診断。水膨れが潰れた後、皮膚が陥没し、紅斑となり色素沈着して跡が残っている。顔の目立つところにダメージを受け、精神的なショックが大きい。

・フェイスラインがやけど跡のように細かいシワのたるみになってしまった。このたるみは時間経過とともに消えるものではないと言われたため精神的苦痛が大きい。

・頬に熱さを感じた。火傷と診断をされて通院。

・直後に顔が赤く腫れ、内科で見てもらったら毛ほう炎と言われた。両頬に2mmほどのホクロ状の炎症が16個ある。紫外線に当たってはいけないと言われているため外出ができず仕方なく仕事を休んでいる。炎症が取れるまで1か月、色素が抜けるまでは3か月から半年と言われている。

・直後に両頬に水膨れができ、帰路さらにひどくなった。1か月経ち水膨れは治ったが昨日左ほほに0.5mm四方のしみができていることに気付いた。

・出力を上げられた途端、顔面が急に熱くなり痛みが走った。結局火傷をし、左頬に3本の大きな赤い傷と膨らみができた。

・当日も次の日も何でもなかったが、今朝、頬の施術をうけたところが痛みはないが機材の形に丸く赤くなっていた。すぐに病院に行き診てもらったところ「低温やけどではないか。」との診断だった。

・初めに施術を受けた右頬下部や首筋に赤く線状に火傷痕が付いてしまった。

・翌日顔がヒリヒリして盛り上がり、火傷に思い写真を撮り、店にこのことを伝えた。すると「皆さん火傷されています、1~2週間様子見てください。」と言われただけだった。

・セルフハイフの翌日、両頬に火傷を負った。両頬に線が出てきた。翌々日、皮膚科を受診したところ全治2週間の火傷と診断された。

(4) その他

(1)~(3)に挙げた事例のほか、身体の中の違和感や頭痛、引き攣れなど神経感覚器の異常を訴えられた事例など、様々な症状の事故が発生している。

(症状の具体例)

・施術中に今まで感じたことのないような痺れを感じ、術後も残った。その後も唇から顎にかけて、麻酔を打った時のような痺れが続いた。

・1年前の施術で、未だにこめかみから頭の後ろに痛みが走る。

・施術直後から顔全体に痛みが生じ、1週間程経った現在も頭痛、右顎を中心としたフェイスラインの痛み、目の痙攣があり、顔全体が熱っぽい。

・痺れは、唇や顎付近に物が触れると、ビリっとくる感じ。

・翌日唇の下が歯医者で麻酔を打った時のような腫れぼったい感じがした。外見では分からない。翌々日になると唇から顎にかけて痺れ、口の開け閉めは辛くないが固いものを食べると響いた。

・10~15分ほどHIFU機器を使用して施術した。その後目の調子が良くないので、眼科へ行くと、飛蚊症だと診断された。

・施術後、唇がピリピリし、6日間続いている。

・鏡を見ると、右頬の皮膚の表面は異常はないが、右頬がでこぼこになった。今は右頬の皮膚の表面には異常はないが、見ても触ってもでこぼこになっているのが分かる。皮膚の内面がでこぼこになっているからだと思う。

・2週間前、エステ店で顔のハイフの施術を受けたが、顔の片面の痛みがなかなか治らない。笑ったり、御飯を食べたりすると、まだ痛みがある。

・希望していない右側のこめかみの上を施術され、強い痛みを感じ中断した。また翌月同様にカウンセリング無しで、左側のこめかみの上にHIFUを施術され、頭頂部まで痛みを感じた。この2日後、眉毛が変形し眉毛上部が隆起し、額に2本の縦線と眉間に皺が出ていることに気づいた。間もなく施術から6か月経つが完全に回復せず。

4.2.3 被災者の具体的症状

エステサロン等でのHIFU施術による具体的な症状や施術内容等について、被災者28に対してヒアリング調査を実施した。

被災者A(40歳代女性)