添付一覧
○HIFUに関する監視指導の徹底について
(令和5年3月31日)
(薬生監麻発0331第12号)
(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長通知)
(公印省略)
医薬品、医療機器等に係る監視指導については、種々御配慮いただいているところですが、今般、別添写しのとおり、消費者安全調査委員会が行った調査の結果報告書「消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書 エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故(令和5年3月29日)」(以下「報告書」という。)において、高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound。以下「HIFU」という。)を人体に照射する機器(以下「HIFU機器」という。)であって、医療機器として規制されるべきものが、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「法」という。)第23条の2の5に基づく必要な承認を得ないまま、輸入若しくは製造され、又は販売若しくは授与されている実態が推定される旨報告されており、消費者安全調査委員会から厚生労働省に対して、不適切な機器流通への監視強化が求められているところです。
HIFUを人体に照射し熱エネルギーを加えることで、標的組織を焼灼等して皮膚のしわ又はたるみの改善、痩身の効果を得られると標ぼうするなど、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことを目的とする機械器具は法第2条第4項に規定する医療機器に該当します。
つきましては、HIFU機器に関して、美容目的と称して医療機器として規制されるべきHIFU機器が流通しないよう、貴管内関係業者、関係団体等に周知いただくとともに、法に基づく監視指導の一層の徹底を図るよう御留意願います。なお、令和5年3月31日時点においては、美容目的で使用されるために我が国において承認されたHIFU機器は存在しません。
別添
消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書
エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故
令和5年3月29日
消費者安全調査委員会
本報告書の調査は、消費者安全調査委員会が消費者安全法第23条第1項の規定に基づき、消費者安全の確保の見地に立って、事故の発生原因や被害の原因を究明するものである。消費者安全調査委員会による調査又は評価は、生命身体に係る消費者被災の発生又は拡大の防止を図るためのものであって、事故の責任を問うために行うものではない。
本報告書は、担当専門委員による調査、製品等事故調査部会における調査・審議を経て、令和5年3月29日に消費者安全調査委員会で決定された。
消費者安全調査委員会
委員長 中川 丈久
委員長代理 持丸 正明
委員 小川 武史
委員 河村 真紀子
委員 小塚 荘一郎
委員 宗林 さおり
委員 東畠 弘子
(2022年9月30日まで)
委員長 中川 丈久
委員長代理 持丸 正明
委員 小川 武史
委員 河村 真紀子
委員 澁谷 いづみ
委員 水流 聡子
委員 中原 茂樹
製品等事故調査部会
部会長 小川 武史
部会長代理 河村 真紀子
臨時委員 伊藤 崇
臨時委員 門脇 敏
臨時委員 関東 裕美
臨時委員 菅谷 朋子
臨時委員 水流 聡子
臨時委員 宮崎 祐介
(2022年9月30日まで)
部会長 小川 武史
部会長代理 河村 真紀子
臨時委員 伊藤 崇
臨時委員 門脇 敏
臨時委員 関東 裕美
臨時委員 小坂 潤子
臨時委員 西田 佳史
臨時委員 堀口 逸子
臨時委員 松尾 亜紀子
臨時委員 宮崎 祐介
担当専門委員 梶浦 明裕
担当専門委員 葭仲 潔
目次
はじめに
1 事案の概要
2 事故等原因調査の経過
2.1 選定理由
2.2 調査体制
2.3 調査の実施経過
2.4 原因関係者からの意見聴取
3 認定した事実
3.1 HIFUとは
3.2 HIFU施術及び機器に関する法規制
3.2.1 施術に関する法規制(医師法)
3.2.2 機器に関する法規制(薬機法)
3.3 施術に関する業規制について
3.4 施術の安全性に関する指針
3.5 機器に関する安全基準
4 分析
4.1 施術者の実態調査
4.2 事故情報の分析
4.2.1 事故発生状況
4.2.2 HIFU施術の症例
4.2.3 被災者の具体的症状
4.2.4 事故情報から確認された事項
4.3 アンケート調査
4.3.1 実施概要
4.3.2 調査結果
4.3.3 アンケート調査で確認された事項
4.4 機器の実態調査
4.4.1 調査内容
4.4.2 実験結果
4.4.3 機器の実態調査のまとめ
4.4.4 施術現場で確認された事項
4.5 豚肉への照射実験
4.6 生体への熱投与シミュレーションによる解析
4.6.1 検討方法
4.6.2 解析条件
4.6.3 評価方法
4.6.4 解析結果
4.6.5 解析結果から確認された事項
4.7 HIFU機器物流の実態調査
4.8 法規制に関する調査
5 事故等原因
6 再発防止策
7 意見
7.1 厚生労働大臣への意見
7.2 経済産業大臣への意見
7.3 消費者庁長官への意見
参考資料
参考資料A 音圧分布及び温度解析
参考資料B 焦点形成状況の可視化
参考資料C HIFU照射パワーの計測
報告書
はじめに
消費者安全調査委員会1(以下「調査委員会」という。)は、消費者安全法に基づき、生命又は身体の被災に係る消費者事故等の原因2及びその事故による被災発生の原因を究明し、同種又は類似の事故等の再発・拡大防止や被災の軽減のために講ずべき施策又は措置について、内閣総理大臣に対して勧告し、又は内閣総理大臣若しくは関係行政機関の長に対して意見具申することを任務としている。
調査委員会の調査対象とし得る事故等は、運輸安全委員会が調査対象とする事故等を除く生命又は身体の被災に係る消費者事故等である。ここには、食品、製品、施設、役務といった広い範囲の消費者に身近な消費生活上の事故等が含まれるが、調査委員会はこれらの中から生命身体被災の発生又は拡大の防止を図るために当該事故等の原因を究明することが必要であると認めるものを選定して、原因究明を行う。
調査委員会は選定した事故等について、事故等原因調査(以下「自ら調査」という。)を行う。ただし、既に他の行政機関等が調査等を行っており、これらの調査等で必要な原因究明ができると考えられる場合には、調査委員会はその調査結果を活用することにより当該事故等の原因を究明する。これを、「他の行政機関等による調査等の結果の評価(以下「評価」という。)」という。
この評価は、調査委員会が消費者の安全を確保するという見地から行うものであり、他の行政機関等が行う調査等とは、目的や視点が異なる場合がある。このため、評価の結果、調査委員会が、消費者安全の確保の見地から当該事故等の原因を究明するために必要な事項について、更なる解明が必要であると判断する場合には、調査等に関する事務を担当する行政機関等に対し、原因の究明に関する意見を述べ、又は調査委員会が、これら必要な事項を解明するため自ら調査を行う。
上記の自ら調査と評価を合わせて事故等原因調査等というが、その流れの概略は次のページの図のとおりである。
図 調査委員会における事故等原因調査等の流れ
<参照条文>
○消費者安全法(平成21年法律第50号)〔抄〕
(事故等原因調査)
第23条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止(生命身体事故等による被害の拡大又は当該生命身体事故等と同種若しくは類似の生命身体事故等の発生の防止をいう。以下同じ。)を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。ただし、当該生命身体事故等について、消費者安全の確保の見地から必要な事故等原因を究明することができると思料する他の行政機関等による調査等の結果を得た場合又は得ることが見込まれる場合においては、この限りでない。
2~5 (略)
(他の行政機関等による調査等の結果の評価等)
第24条 調査委員会は、生命身体事故等が発生した場合において、生命身体被害の発生又は拡大の防止を図るため当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明することが必要であると認める場合において、前条第一項ただし書に規定する他の行政機関等による調査等の結果を得たときは、その評価を行うものとする。
2 調査委員会は、前項の評価の結果、消費者安全の確保の見地から必要があると認めるときは、当該他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長に対し、当該生命身体事故等に係る事故等原因の究明に関し意見を述べることができる。
3 調査委員会は、第一項の評価の結果、更に調査委員会が消費者安全の確保の見地から当該生命身体事故等に係る事故等原因を究明するために調査を行う必要があると認めるときは、事故等原因調査を行うものとする。
4 第一項の他の行政機関等による調査等に関する事務を所掌する行政機関の長は、当該他の行政機関等による調査等に関して調査委員会の意見を聴くことができる。
本報告書の本文中における記述に用いる用語の使い方は、次のとおりとする。
① 断定できる場合
・・・「認められる」
② 断定できないが、ほぼ間違いない場合
・・・「推定される」
③ 可能性が高い場合
・・・「考えられる」
④ 可能性がある場合
・・・「可能性が考えられる」
・・・「可能性があると考えられる」
――――――――――
1 消費者安全法(平成21年法律第50号)の改正により、2012年10月1日に消費者庁に設置された。
2 原因は、要因のうちある現象を引き起こしているとして特定されたものとし、要因は、ある現象を引き起こす可能性のあるものとする。出典:JIS Q9024:2003(マネジメントシステムのパフォーマンス改善―継続的改善の手順及び技法の指針)
1 事案の概要
調査委員会は、エステサロンで高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)(以下「HIFU」という。)による施術を受けた後に、唇にしびれ・麻痺・引きつれが生じ、三叉神経の麻痺と診断されたという申出を受けた。
また、独立行政法人国民生活センターは、皮下組織に熱作用を加え危害を及ぼすHIFU施術をエステサロン等で受けないように、消費者に対して注意を呼び掛けるとともに、関係機関・団体へ要望及び情報提供を行った3。それを受けてエステティック業界の主要団体では、HIFU施術を禁止する注意喚起を会員に対して行っており、これら会員企業ではHIFU施術は行われていない。
しかし、これらの団体に未加盟のエステサロン等が多く、現在でもHIFU施術が多く行われ、神経・感覚の障害、熱傷などの被害も報告されているのが実状である。
以上から、調査委員会は、エステサロン等4によるHIFU施術の実態や事故情報についての調査を行うこととした。
――――――――――
3 エステサロン等でのHIFU機器による施術でトラブル発生!―熱傷や神経損傷を生じた事例も―(2017年3月2日)
4 本調査において、エステサロン等とは、エステサロン及びセルフエステを表すが、整体やネイルを主なサービスとしている店舗でHIFU施術を併用して行っている場合等も含む。ただし、美容医療クリニックは含まない。
2 事故等原因調査の経過
2.1 選定理由
調査委員会は、「事故等原因調査の対象の選定指針」(2012年10月3日消費者安全調査委員会決定)に基づき、以下の要素を重視し、申出による事故を起因として2021年7月30日の調査委員会にて、エステサロン等でのHIFU(ハイフ)による事故について事故等原因調査の対象として選定した。
・公共性
切開を伴わずに痩身、リフトアップが可能となる新しい手法として近年人気が高く、消費者が望めば、医療機関、エステサロン、及びセルフエステのいずれでも施術を受けることが可能である。
・被害の程度
軽い熱傷等の場合が多いが、場合によっては神経障害などの重大事故となる可能性がある。
・多発性
HIFU施術は比較的効果の高い新技術として需要が高まっており、事故件数が年々増える傾向にある。
・消費者による回避可能性
施術者による行為が主であり、施術者が専門知識を取得しているか判断することが困難であり、消費者による回避は困難である。
2.2 調査体制
調査委員会は、本調査について、HIFUに関する技術的な特性、及び規制に関する法的な知見等が必要と考えることから、HIFUによる治療用機器等の基盤・応用技術の研究開発を専門とする葭仲潔専門委員、及び医療事故を専門とする弁護士の梶浦明裕専門委員の2名を本調査の担当専門委員に指名し、製品等事故調査部会及び調査委員会で審議を行った。
2.3 調査の実施経過
2021年7月30日 第107回調査委員会において原因調査を行う事故として選定し、調査計画を審議
2021年9月17日 第109回調査委員会において担当専門委員を指名
2021年10月7日 第47回製品等事故調査部会において照射実験計画について審議
2021年11月5日 第48回製品等事故調査部会においてアンケート計画について審議
2022年3月4日 第52回製品等事故調査部会において調査経過を報告
2022年5月10日 第53回製品等事故調査部会において照射実験及びアンケート結果について審議
2022年6月3日 第54回製品等事故調査部会において経過報告書(案)及び報告書(骨子)を審議
2022年6月23日 第118回調査委員会において経過報告書(案)を審議
2022年7月4日 第55回製品等事故調査部会において経過報告書(案)及び報告書(骨子)を審議
2022年7月26日 第119回調査委員会において経過報告書(案)を審議・決定
2022年8月8日 第56回製品等事故調査部会において追加調査結果を報告
2022年9月9日 第57回製品等事故調査部会において照射シミュレーション計画を審議
2022年9月29日 第121回調査委員会において調査経過を報告
2022年11月7日 第58回製品等事故調査部会において再発防止策を審議
2022年11月29日 第124回調査委員会において再発防止策を審議
2022年12月12日 第59回製品等事故調査部会において照射シミュレーション結果を審議
2022年12月22日 第125回調査委員会において照射シミュレーション結果を審議
2023年1月18日 第60回製品等事故調査部会において報告書(案)について審議
2023年2月2日 第126回調査委員会において報告書(案)及び原因関係者について審議
2023年2月15日 第61回製品等事故調査部会において報告書(案)について審議
2023年3月1日 第127回調査委員会において報告書(案)及び概要版(案)について審議
2023年3月15日 第62回製品等事故調査部会において報告書(案)及び概要版(案)について審議
2023年3月29日 第128回調査委員会において報告書(案)及び概要版(案)について審議し、報告書及び概要版を決定
2.4 原因関係者からの意見聴取
原因関係者5から意見聴取を行った。
――――――――――
5 原因関係者(消費者安全法第23条第2項第1号)とは、帰責性の有無にかかわらず、事故等原因に関係があると認められる者をいう。
3 認定した事実
3.1 HIFUとは
HIFUとは、前述のとおり、高密度焦点式超音波(High Intensity Focused Ultrasound)の略で、集束超音波の熱エネルギーにより体内の組織を高温に加熱するもので、焼灼/凝固の侵襲6作用により前立腺がん治療などに用いられる技術である。美容で用いられるものはその治療の技術を転用したものである。
集束超音波とは、カートリッジ内のトランスデューサ7から発振する超音波を、レンズで焦点を合わせるように一定の深さで集束させるものである。
その結果、ある決まった焦点部のみに熱を発生させて高温にする(図1)。
つまり、表皮部分に熱傷を起こさずに、任意の皮下組織に熱を与えることができるため、美容で主にたるみや痩身の治療に用いられている。なお、痩身目的には脂肪、たるみ改善のためには、真皮、脂肪又はSMAS筋膜8といった組織が施術の対象となる。
図1 HIFUの照射イメージ9
HIFU機器を用いた施術は、先端にトランスデューサが組み込まれたカートリッジの先端部を皮膚に当てた状態にしてプローブを手に持って動かして行う(図2)。
HIFU機器の超音波は、電圧を加えることで振動するトランスデューサを利用して発生させるもので、プローブの照射ボタンを押すと照射される。
また、カートリッジの先端部と皮膚との間に空間があると適切に照射ができないため、ジェルを皮膚に塗布してカートリッジ先端部と皮膚を密着させることが必要である。
図2 一般的なHIFUの施術イメージ
一般的に、プローブには角形と筒形がある。角形のプローブには、トランスデューサが直線的に自動移動して線状に超音波を照射する形態、及び複数列の線状(面状)に照射する形態がある。一方、筒形のプローブは、点状に照射する形態で、手で移動して照射する(図3)。
角形 |
筒形 |
|
線状 |
面状 |
点状 |
図3 一般的なプローブ形状と照射形態
3.2 HIFU施術及び機器に関する法規制
HIFU施術及び機器に関する法規制等として、①施術に関する法規制である医師法(昭和23年法律第201号)、②医療機器に関する法規制である医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)(以下「薬機法」という。)が挙げられる。
3.2.1 施術に関する法規制(医師法)
医師法第17条は、「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と規定しており、医師以外が「医業」の内容となる医行為に該当する行為を行った場合には、処罰の対象となる(同法第31条)。
医行為は「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解されている(令和2年9月16日最高裁判所第2小法廷決定参照)。
エステティック業界が提供する役務のうち厚生労働省が医行為に該当する例と示した行為として「用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為」(いわゆる脱毛施術)等がある10。
なお、HIFU施術が、「医行為」に該当するか否かについては、厚生労働省から統一した基準は示されておらず、これに関する裁判例等は確認できていない。
3.2.2 機器に関する法規制(薬機法)
薬機法第2条第4項は、「医療機器」を「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であつて、政令で定めるもの」と規定している。
業として医療機器の製造販売を行うためには、厚生労働大臣の許可が必要となり、これに反する場合、処罰の対象となる(薬機法第23条の2、第84条)。
なお、前立腺がんなどの治療効果を目的にしたHIFU機器が医療機器として承認されている例(理学診療用器具の分類)は存在するが、美容医療を目的としたHIFU機器で医療機器として承認されている例はない。
また、厚生労働大臣の承認又は同大臣の登録認証機関の認証を受けないで、超音波照射能力を有する医療機器である高密度焦点式超音波痩身機を販売したことについて、旧薬事法に違反するとした裁判例が1件存在する11。
さらに、個人が自ら使用するために医薬品等(注:医薬品等には医療機器を含む。)を輸入する場合、又は医師等が自己責任の下、自己の患者の治療や診断に使用する医薬品等を輸入する場合などは、必要に応じて、通関前に厚生労働大臣(地方厚生局長)に輸入確認申請書等を提出し、輸入確認証の交付を受ける必要がある12。ただし、医療従事者ではない個人が、自ら使用するために医家向けの医療機器を個人輸入することは原則できない。
なお、美容機器等と称して、あたかも薬機法の医療機器に該当しないかのように販売されている製品であっても、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であると判断される場合には、医療機器に該当する13。
3.3 施術に関する業規制について
エステティックサービスを業として行うに当たり、法律による特別の資格は必要ではなく、エステサロンの開設・運営に際しても業規制はなく、行政機関への届出なども要求されていない。
3.4 施術の安全性に関する指針
「美容医療診療指針」14では、HIFUによる治療について、以下のように記載(一部抜粋)されており、安全性には十分な注意が必要だとされている。
「推奨度:治療を希望する患者には、行うことを弱く推奨する。
推奨文:効果は外科手術や注入剤を用いた治療に及ばないが、瘢痕形成は稀で、体内に異物を残さないため、合併症の危険性が低く、タルミ治療の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨できる。
有効性:あり
安全性:副作用として瘢痕形成、神経麻痺などが挙げられ、十分な注意が必要である。
承認状況:すべて国内未承認」
さらに以下のような解説もある。
「レーザーのように選択的に組織を破壊することができないため、解剖学的な知識がないと皮下の神経や血管、筋肉などを傷害し、それに対応した副作用を発症する恐れがある。」
3.5 機器に関する安全基準
美容に用いられるHIFU機器に関し、監督官庁や業界団体が定めた具体的な安全基準は存在しない。
――――――――――
6 侵襲とは「医療において、生体内の恒常性を乱す可能性のある外部からの刺激」(大辞林第三版より)
7 トランスデューサとは変換器のことで、ここでは超音波を発生する素子のこと。
8 皮下にある顔面軟部組織を支える筋膜(Subcutaneous Musclo―Aponeurotic System)
9 筋膜をターゲットとした焦点深さ4.5mmのトランスデューサを例として記載した。
10 医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて(平成13年11月8日)(医政医発第105号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6731&dataType=1&pageNo=1
11 大阪地判平成27年6月15日(公刊物未登載)(平成27年(わ)第855号)。
12 関東信越厚生局ホームページより
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iji/yakkanhp-kaishu-2016-3.html
13 医薬品等の個人輸入に関して(厚生労働省ホームページより)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/kojinyunyu/topics/tp010401-1.html
14 日本美容外科学会会報2020Vol.42特別号
「美容医療診療指針」は、美容医療に関わる主要な学術団体である日本美容外科学会(JSAPS)、日本美容皮膚科学会(JSAD)、及びそれぞれの基盤学会である日本形成外科学会(JSPRS)と日本皮膚科学会(JDA)、さらに日本美容外科学会(JSAS)と公益法人日本美容医療協会(JAAM)が合同で協力した研究事業の中で作成されたもの
4 分析
4.1 施術者の実態調査
(1) 概要
現在、HIFU施術は、医療機関である美容医療クリニック(美容外科、美容皮膚科)(以下「美容クリニック」という。)のほかに、エステティシャンがHIFU機器を扱って施術するエステサロンや店舗に置かれたHIFU機器を利用者自らが扱って施術するセルフエステなどで行われている。
また、自宅等で利用者自らが施術することもある。
(2) エステティック業界におけるHIFU施術
エステティック業界は経済産業省が所管しており、エステティック業界の産業振興のために業界団体を支援・協力している。
また、厚生労働省は、公益財団法人日本エステティック研究財団を通じて、エステティックの安全性や衛生面での研究、営業者の経営倫理の確立を通して消費者被害の防止を図り、エステティック業界の健全化を図っている。
2017年3月に、独立行政法人国民生活センターからエステサロン等でのHIFU機器による施術についての注意喚起を受けて、業界の主要団体15からは、会員宛に以下の勧告や注意喚起が行われ、HIFU施術を自主的に禁止している。
(参考) エステティック関連の業界団体のHIFU施術禁止の動き
2019年8月 日本エステティック振興協議会
関連団体に向けて「セルフハイフ施術禁止」の勧告
同8月 日本エステティック業協会
会員宛にHIFU施術(含むセルフ)禁止の通達
同10月 日本エステティック協会
会員宛にエステティシャンによるHIFU機器使用禁止を通達
2021年4月 日本エステティック業協会
会員宛に2019年8月の通達を再徹底
同7月 日本エステティック協会
会員宛に「医師以外のHIFUの使用・取り扱いの禁止」を通達
エステサロン等の店舗数やその中でHIFU施術が行われている店舗数については、エステサロン等の営業やこれら事業者が提供する役務に対する法的な規制がなく、関連情報を集約、管理する公的な部署が存在しないため、その正確な店舗数などの実態を把握することは困難である。
そこで、それらを概算するため、大手予約サイトのホームページ出店数16を調査した結果、以下の店舗数の掲載を確認した。
(登録店舗数)
① エステサロン17:約24,000店舗
うち、HIFU施術のメニューを掲載:約4,600店舗
② セルフエステ:約3,200店舗(①に含まれる)
うち、HIFU施術のメニューを掲載:約700店舗
③ 美容医療クリニック:約1,300施設
うち、HIFU施術のメニューを掲載:約400施設
ここで、HIFU施術は業界の主要団体では禁止しているため行われておらず、これらの団体に加盟していない店舗で行われていると考えられる。
なお、業界の主要団体に加盟しているのは約1,700店舗であり、ここで概算された店舗数を前提に考えると、HIFU施術を禁止しているのはエステサロン全体の1割以下と推測される(図4)。
図4 業界の主要団体への加盟状況とHIFU施術の関係
――――――――――
15 業界の主要団体には一般社団法人日本エステティック振興協議会、NPO法人日本エステティック機構、公益財団法人日本エステティック研究財団などがある。
16 大手予約サイトの2022年6月時点での集計
17 主登録がまつげ・ネイル・リラクゼーションで、サブにエステサロンを登録している店舗は含めないこととした。ただし、その中でHIFU施術している店舗もある。
4.2 事故情報の分析
4.2.1 事故発生状況
事故情報データバンク18に寄せられた事故情報の分析や、業界団体が把握する情報の収集を行った。
HIFUによる事故は、事故情報データバンクには、2015年11月から2022年12月までの間に135件19寄せられている。事故件数を、「施術場所」別に「傷病内容」20ごとにみると、表1に示すように、エステサロンでの事故件数が最も多いが、利用者自らがHIFU機器を操作するセルフエステでも事故が報告されており、医療機関である美容クリニックにおいても事故は報告されている。
HIFUによる事故件数を「傷病の程度」21で見ると、「1か月以上」の事故は全135件のうち24件22で、「施術場所」別にみると、エステサロンが96件中17件(17.7%)、セルフエステが8件中4件(50.0%)、美容クリニックが31件中3件(9.6%)である。
「傷病の程度」が「1か月以上」の事故の割合は「神経、感覚の障害」23が15件中8件(53.3%)と最も高い。
表1 HIFUによる事故件数
(事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月)
傷病内容 |
エステサロン |
セルフエステ |
美容クリニック |
計 |
神経・感覚の障害 |
7(3) |
3(3) |
5(2) |
15(8) |
皮膚障害 |
16(1) |
1(0) |
8(0) |
25(1) |
熱傷 |
46(10) |
3(1) |
12(0) |
61(11) |
その他 |
27(3) |
1(0) |
6(1) |
34(4) |
計 |
96(17) |
8(4) |
31(3) |
135(24) |
※表中の( )は傷病の程度が1か月以上の事故情報を示す。
また、HIFUによる事故件数を性別及び年代別に見ると、図5、図6に示すように、事故の97%を女性が占めており、特に30歳代に多い。
図5 性別の事故件数
図6 年代別の事故件数
さらに、HIFU施術で事故が発生した部位別にみると、図7に示すように、顔への事故が70%を占め、「傷病内容」が「神経・感覚の障害」は、部位不明の事故2件を除く13件の全てが顔で発生している(表2)。
よって、調査の対象を顔への施術に絞り込んだ。
図7 身体部位別事故件数24
表2 身体部位別事故件数
(事故情報データバンク:2015年11月~2022年12月)
傷病内容 |
顔 |
下半身 |
上半身 |
腹 |
部位不明 |
計 |
神経・感覚の障害 |
13 |
0 |
0 |
0 |
2 |
15 |
皮膚障害 |
19 |
1 |
1 |
1 |
3 |
25 |
熱傷 |
38 |
5 |
4 |
5 |
9 |
61 |
その他 |
24 |
4 |
2 |
0 |
4 |
34 |
計 |
94 |
10 |
7 |
6 |
18 |
135 |
HIFUによる事故の情報は2015年に初めて登録されてから増加傾向にあり、特にエステサロンでの事故はその傾向が顕著である(図8)。
図8 HIFUによる事故情報登録件数の推移
4.2.2 HIFU施術の症例25
事故情報データバンクに登録されているHIFU施術に関する事故情報を、神経・感覚の障害、皮膚障害、熱傷、及びその他に分けて、各々についての特徴と具体的な症状の例を示す。
(1) 神経・感覚の障害
表1から分かるように、神経・感覚障害は、件数としては熱傷、皮膚障害に次ぐ規模であるが、傷病の程度が1か月以上の事故の割合が最も高い。こういった特徴から、HIFU施術で最も注目すべき障害だと考えられ、症状の具体例からは、痺れや麻痺が数週間続くなど、症状が長引く傾向がみられることが特徴である。
(症状の具体例)
・左眉毛の上に、強い痛みを覚えた。2週間後、おでこ全体と頭の痛みが治まらず。左眉の上の三叉神経が損傷している可能性。
・神経に障害が出て一週間ほど麻痺している。下顎、下唇の筋肉に苦痛を感じた。現在、話すことは可能だが、咀嚼が以前のように上手くいかない。診断は「オトガイ神経損傷」。
・3か月前施術を受け、顔面の一部に麻痺症状が残った。施術後、マスクを付けて帰宅したが、家で鏡を見たら、右の上唇、口角がだらんと伸び切った感じで麻痺していた。その後、麻痺が治らず。
・セルフハイフ中、ビリッと唇に痛みが走った。感覚が変になった。右下唇、右の口角、内側の感覚が無いため、神経内科を受診すると「神経損傷で唇の感覚が無くなっている、治るか治らないかは不明。自然に治るかもしれないし、どのように回復するかわからない。脳からの影響ではない。年単位かもしれない。全治何か月かは不明」と言われた。
・4か月前に9回目を受けいつもより痛みがあった。痺れで下を向くと無意識によだれが垂れる。2か月経っても右口角の麻痺が消えない。
・左頬から唇にかけて電気が走りしびれは改善したが、1か月後に別に頬にひきつる違和感(洗顔時左頬に触ると右に比べ少し凹んでいる違和感)がある。
・右顔面神経麻痺の重傷。
・施術を受けた時、効果が感じられないことを伝えると今回は少し強くするといわれた。その後、顔面神経麻痺が起こり、顔が歪んだり、うがいがしにくくなった。
・顎と左首部分に痺れが出始めた。麻痺した感覚が治らなかったので神経内科を受診した。診断としては、「末梢神経損傷。首の奥の細胞が死んでいる。」と医師から言われた。
(2) 皮膚障害
表1から分かるように、皮膚障害は、傷病の程度が1か月以上の事故は25件中1件と割合が低いものの、施術中や施術直後から障害が生じたり、翌日以後に生じたりと、事例によって症状に差がみられる。症状の具体例からは、赤みや腫れ、ピリピリしたり、痛みを感じるなどの傾向がみられる26。
(症状の具体例)
・施術後顔がピリピリしてお面を被っているような感覚で顔の皮膚が動きにくい。
・翌日から顔が腫れあがり、3日目には倍ぐらい腫れあがった。
・(2日後)顎に縦2~3cm×横2cm程度の大きさで、赤茶色いシミのような跡ができていることに気付いた。
・施術直後は左顎が手のひらサイズで赤くなった。自宅に帰りピリピリするので、鏡を見ると、薄いミミズ腫れが数本でき、ピリピリしたのが、治まらなかった。
・両頬全体に赤黒いシミが広がっており驚いた。
・施術中いつもよりピリピリした痛みがあり、終わって鏡を見たら、両頬骨の下の1か所ずつと、首に、白い1cm大の盛り上がりができていた。現在まだ治っておらず、表面が固くなっていて、大人のニキビのように、押すと膿が出そうな状態で痛みがある。
・12日前に施術を受けたが、もみあげができたような黒いラインができ、傷ができた。皮膚科を受診したところ、重度の内出血を起こしている、薄くはなると言われた。実際、薄くなり、最近ではかさぶたができている状況。
・3か月の間に5回施術を受けたが、顔に色素沈着が残り消えない。
・1回施術を受けたら肌荒れした。
(3) 熱傷
表1から、熱傷の事故は61件と最も多い。施術中に痛みが生じたものや、施術直後に熱傷を生じた事例、また、時間が経ってから症状が現れた事例もあり、多様な症例が報告されている。症状の具体例からは、熱傷後色素沈着や熱傷瘢痕を生じて日常生活に負担が生じた事例や精神的なショックを受けた事例など複数みられる27。
(症状の具体例)
・帰宅後機器を当てられた部分に違和感があり鏡を見たら黒くなっていた。翌日一層黒くなっていた。
・約3か月前、5回目の施術を受けた直後から顔面に違和感があった。鼻の脇に直径1.5cmほどの水膨れができ、顔面に麻痺を感じた。Ⅱ度の熱傷と診断。水膨れが潰れた後、皮膚が陥没し、紅斑となり色素沈着して跡が残っている。顔の目立つところにダメージを受け、精神的なショックが大きい。
・フェイスラインがやけど跡のように細かいシワのたるみになってしまった。このたるみは時間経過とともに消えるものではないと言われたため精神的苦痛が大きい。
・頬に熱さを感じた。火傷と診断をされて通院。
・直後に顔が赤く腫れ、内科で見てもらったら毛ほう炎と言われた。両頬に2mmほどのホクロ状の炎症が16個ある。紫外線に当たってはいけないと言われているため外出ができず仕方なく仕事を休んでいる。炎症が取れるまで1か月、色素が抜けるまでは3か月から半年と言われている。
・直後に両頬に水膨れができ、帰路さらにひどくなった。1か月経ち水膨れは治ったが昨日左ほほに0.5mm四方のしみができていることに気付いた。
・出力を上げられた途端、顔面が急に熱くなり痛みが走った。結局火傷をし、左頬に3本の大きな赤い傷と膨らみができた。
・当日も次の日も何でもなかったが、今朝、頬の施術をうけたところが痛みはないが機材の形に丸く赤くなっていた。すぐに病院に行き診てもらったところ「低温やけどではないか。」との診断だった。
・初めに施術を受けた右頬下部や首筋に赤く線状に火傷痕が付いてしまった。
・翌日顔がヒリヒリして盛り上がり、火傷に思い写真を撮り、店にこのことを伝えた。すると「皆さん火傷されています、1~2週間様子見てください。」と言われただけだった。
・セルフハイフの翌日、両頬に火傷を負った。両頬に線が出てきた。翌々日、皮膚科を受診したところ全治2週間の火傷と診断された。
(4) その他
(1)~(3)に挙げた事例のほか、身体の中の違和感や頭痛、引き攣れなど神経感覚器の異常を訴えられた事例など、様々な症状の事故が発生している。
(症状の具体例)
・施術中に今まで感じたことのないような痺れを感じ、術後も残った。その後も唇から顎にかけて、麻酔を打った時のような痺れが続いた。
・1年前の施術で、未だにこめかみから頭の後ろに痛みが走る。
・施術直後から顔全体に痛みが生じ、1週間程経った現在も頭痛、右顎を中心としたフェイスラインの痛み、目の痙攣があり、顔全体が熱っぽい。
・痺れは、唇や顎付近に物が触れると、ビリっとくる感じ。
・翌日唇の下が歯医者で麻酔を打った時のような腫れぼったい感じがした。外見では分からない。翌々日になると唇から顎にかけて痺れ、口の開け閉めは辛くないが固いものを食べると響いた。
・10~15分ほどHIFU機器を使用して施術した。その後目の調子が良くないので、眼科へ行くと、飛蚊症だと診断された。
・施術後、唇がピリピリし、6日間続いている。
・鏡を見ると、右頬の皮膚の表面は異常はないが、右頬がでこぼこになった。今は右頬の皮膚の表面には異常はないが、見ても触ってもでこぼこになっているのが分かる。皮膚の内面がでこぼこになっているからだと思う。
・2週間前、エステ店で顔のハイフの施術を受けたが、顔の片面の痛みがなかなか治らない。笑ったり、御飯を食べたりすると、まだ痛みがある。
・希望していない右側のこめかみの上を施術され、強い痛みを感じ中断した。また翌月同様にカウンセリング無しで、左側のこめかみの上にHIFUを施術され、頭頂部まで痛みを感じた。この2日後、眉毛が変形し眉毛上部が隆起し、額に2本の縦線と眉間に皺が出ていることに気づいた。間もなく施術から6か月経つが完全に回復せず。
4.2.3 被災者の具体的症状
エステサロン等でのHIFU施術による具体的な症状や施術内容等について、被災者28に対してヒアリング調査を実施した。
被災者A(40歳代女性)
傷病名 |
右顔面神経麻痺 |
施術場所 |
エステサロン |
症状等 |
施術後に体がだるく睡眠後の夕刻に口が動かず呂律も回らない状態。約2週間はよだれ、咀嚼もうまくできず。右側の口が麻痺。目を閉じることができないことがある。 |
施術内容 |
・ヘッドマッサージ+HIFU施術で初回12,000円のコース。施術時間は20分程度。 ・機器出力について、美容クリニックで施術した際に高くて1.4Jで強い痛みがあり、被災時はそれ以上の痛みであった。 ・トランスデューサは焦点深さ4.5mmを使用。美容クリニックでは受けたことがない口の周りを平気で照射された。理由は、他のお店が同様な施術をしているからとのこと。また、施術者は美容クリニックのHIFU施術を受けたことがないとのこと。 ・美容クリニックでは、顔に照射か所をマーキングするが、ここではしなかった。また、照射してはダメな口元やおでこに照射していた。 |
事前説明 |
事前説明はあったと思うが、美容クリニックで何度も聞いているので記憶にない。 |
その他 |
美容クリニックでのHIFU施術経験は何度もあるが、エステサロンでは初めて。 |
被災者B(30歳代女性)
傷病名 |
末梢神経障害 |
施術場所 |
セルフエステ |
症状等 |
頬に照射した際に唇が痛くなった。3年経つが今でも痺れは残っている。 |
施術内容 |
2,980円/4,000ショットのコースで10分程度の施術。約1か月の施術間隔をあけて4回通い、4回目に被災した。 |
事前説明 |
・2~3分の使用方法の説明動画をタブレットで視聴したのみで、不明点は聞いてくださいと言われた。問診なし。 ・照射間隔は2週間に1回ぐらいが効果的と言われたが、最低必要な間隔については説明なし。 |
その他 |
・4回目に被災したが、1~3回と全く同じ設定で照射した。しかし、4回目はピリッとした痛みがあっていつもと違っていた。 ・4回目は特別なことはしていないが、頬のちょうど神経のある所に当てた可能性が考えられる。 ・同じ個所への照射をしてはいけないことは知っており、プローブを回して照射していた。照射してはいけない場所については動画をみて確認していた。 ・セルフエステでHIFU施術を行うことが危険だという意識はなかった。 |
被災者C(30歳代女性)
傷病名 |
末梢神経損傷 |
施術場所 |
エステサロン |
症状等 |
翌日、下顎と首の左側が痺れていることを施術者に伝えると耳鼻科へ行くように言われたが、神経内科で受診。 |
施術内容 |
・フェイシャルと脱毛の店で、HIFUを新たに導入し、導入後約1か月で施術を受けた。初めてのHIFU施術で被災した。 ・初回8,160円/3,000ショット フェイシャル。 ・頬の右側半分を照射後に左側を始めて、顎の下を施術した時に、チクチクと強い痛みがあった。施術者に痛いと言うと「強めなので。」と言われ、その後も20分間施術継続。施術して1日は痛いと言われた。 ・右側から左側に移った時にバチっと来たが、左側では、プローブを押し付ける圧力が強く、向きを変えて当てる角度に違いがあったと思う。出力は変えていないと思う。 |
事前説明 |
・説明はなかった。効果を整理した資料はプリントやスマートフォンで提供を受けたが、施術の説明や注意はなし。問診なし。HIFU施術についての契約書はなし。 |
その他 |
・ネットなどで何も調べず、HIFUについては何も知らずに行った。 ・施術者はHIFU施術の研修は受けたと言っていた。 |
被災者D(40歳代女性)
傷病名 |
急性白内障 |
施術場所 |
美容院内(店舗持たずにHIFU機器を持ち込んで営業) |
症状等 |
施術終了から3~4時間後に左目に靄(もや)がかかったような違和感があり、翌日明らかに目の中心部がかすんで白くぼやけた。4日位して施術者からは、そういう事例はあるので、しばらく様子をみるように言われたが治らず。大学病院で受診し、何度か検査した後に手術。手術後は回復し、1年経った現在は、夜の光を眩しく感じる程度。 |
施術内容 |
顏に10分程の施術を受けた。目の上側と下側にもプローブを当てた。目の近くを施術した時は、眩しいと感じたが、特に痛み等はなかったと記憶。 |
事前説明 |
説明は全くなし。契約書もない。特にHIFU施術を希望した訳ではなく、施術内容は当日その場で知る。 |
その他 |
国民生活センターの注意喚起は、事故後にいろいろ調べる中では知った。 |
4.2.4 事故情報から確認された事項
①事故情報データバンクでは、HIFUに関する事故情報は2015年から報告されており、年々増加傾向にあり、特にエステサロンでの事故はその傾向が顕著である。
②施術後の症例としては、熱傷が最も多い。また、1か月以上障害が続く事故の割合は、神経・感覚の障害で最も高い。神経・感覚の障害では、痺れや麻痺が数週間続くなど症状が長引く傾向がみられ、HIFU施術で最も注目すべき障害であり、全て顔で発生している。
また、飛蚊症や急性白内障のような重篤な眼球の合併症が生じた例もある。
③被災者へのヒアリング結果からは、施術者にHIFU施術等に係る知識がなく、施術ミスが発生し、事故につながっていると考えられる。また、セルフエステは何も知識のない利用者が2~3分程度の動画を視聴しただけで施術をしている事例もあり、知識が不足した状態で施術を行っている場合が確認された。
――――――――――
18 「事故情報データバンク」は、消費者庁が独立行政法人国民生活センターと連携し、関係機関から「事故情報」、「危険情報」を広く収集し、事故防止に役立てるためのデータ収集・提供システム(2010年4月から正式運用開始)のことである。
19 検索条件:「フリーワード=「hifu」、「ハイフ」、「高密度」、「焦点式」、「超音」等のいずれかを含む(類義語を含む)」で検索し、その中から内容を確認してHIFUの事故を抽出した。この件数には事実確認を経ていない消費生活相談の情報も含まれている。
20 「傷病内容」は、事故情報データバンクの分類項目で、相談者の申出内容に基づいて、「熱傷」、「感覚機能の低下」、「神経・脊髄の損傷」、「皮膚障害」などに分類を行っている。
21 「傷病の程度」は、事故情報データバンクにおける分類項目で、相談者の申出内容等に基づいて、「1カ月以上」、「1~2週間」、「医者にかからず」などに分類を行っている。
22 事実確認を経ていない消費生活相談を含むため、消費者安全法上の重大事故等の通知件数とは一致しない。
23 「感覚機能の低下」及び「神経・脊髄の損傷」を「神経・感覚の障害」としてまとめた。また、「その他の傷病及び諸症状」、「呼吸器障害」、「擦過傷・挫傷・打撲傷」は『その他』にまとめた。
24 事故内容の記述から、「顔」は目の周囲、頬、顎、首等、「上半身」は腕、脇、胸等、「下半身」は太腿、ふくらはぎ等を分類した。
25 事故情報データバンクで、顔に関する事例から抜粋引用
26 この皮膚障害の中で記載されている症状具体例のほとんどは、皮下組織の熱傷により起きている障害(赤黒いシミ、みみずばれ、汗で痛むなど)とも考えられる。よって、深部熱損傷による神経障害及び皮膚障害(または皮下組織熱傷による障害)とも言える。ちなみに、皮下組織への熱損傷は、本来HIFU施術がそれを目的に照射しているので当然起こりえる。目で見えるダメージは少ないので、長引く傾向がないのだと思う。(形成外科・美容皮膚科・美容外科の医師であり、調査委員会の専門委員である森専門委員からのコメント)
27 浅達性Ⅱ度以下(表皮、および真皮の浅い層まで)の熱傷でも、炎症後色素沈着が改善するまで半年以上かかることがある。また深達性Ⅱ度以上の熱傷であれば、後遺障害が残る可能性がある(森専門委員コメント)。
28 被災者A~Cは消費者安全法に基づく重大事故等の被災者
4.3 アンケート調査
エステサロン等での施術現場の実態を把握するため、国内におけるHIFU機器の施術者及び利用者に対してアンケート調査を実施した。
4.3.1 実施概要
① 調査時期
令和4年3月14日~23日
② 調査方法
インターネット調査
③ 調査対象及び回答数
・HIFU施術者:269名
HIFU機器による施術を行っている、あるいはこれまでに行ったことのある者29
・HIFU利用者:1,000名
エステサロン(セルフエステを含む。)において、HIFU機器による施術を受けたことがある一般の利用者
※HIFU施術者及びHIFU利用者の回答者の年齢構成を図9に示す。
図9 回答者年齢構成
4.3.2 調査結果
(1) 施術の同意書、説明について
利用者に対して、「HIFU機器を使用した施術を受ける際に、施術内容の説明や注意事項等を明記した同意書などに名前を記入して提出しましたか」と尋ねたところ、64.6%が「提出しなかった」又は「わからない、覚えていない」と回答している(図10)。
図10 同意書の署名の状況(利用者)
また、施術者に対して、「HIFU機器を使用した施術を行う際に、お客様への施術説明及び注意事項等を明記した同意書等を取り付けていましたか」と尋ねたところ、60.6%が「あり」と回答している(図11)。
図11 利用者への同意書の取付け(施術者)
さらに、利用者に対して、「機器を使用した施術を受ける前に、エステティシャンやスタッフから施術内容や注意事項に関する説明がありましたか」と尋ねたところ、74.0%が「説明はなかった」又は「覚えていない」と回答している(図12)。
図12 施術内容の説明の状況(利用者)
(2) HIFUのリスクの認識について
① 照射が危険な部位の認知
利用者に対して、「HIFU機器を使用した施術に関し、次のような照射をすると危険な場合があることを知っていましたか(知っている場合は、複数回答)」と尋ねたところ、利用者の58.8%は、HIFU施術をする上での危険な箇所や、危険な施術方法については知らないと回答している(図13)。
図13 危険な照射の認知(利用者)
また、施術者に対して、「HIFU機器を使用した施術に関し、行わないように気をつけていたり、指導されている(いた)照射の方法を選んでください(複数回答)」と尋ねたところ、半数以上は神経と骨に近い箇所には注意して施術していると回答している(図14)。
図14 施術上、注意している照射方法(施術者)
② 施術者の知識
施術者に対して、「勤務している(していた)エステティックサロンの店舗にて、HIFU機器を使用開始前に、HIFU機器のメーカー・販売店や店舗スタッフ等による研修や説明会がありましたか」と尋ねたところ、施術者の12.3%は「いずれもなかった」と回答している(図15)。
図15 HIFU機器についての研修・説明会(施術者)
また、施術者に対して、「勤務している(していた)エステティックサロンの店舗で、HIFU機器を使用した施術に関し、医師の監修・アドバイス等がありましたか」と尋ねたところ、施術者の64.3%は「なし」又は「わからない、覚えていない」と回答している(図16)。
図16 HIFUの施術についての医師の監修・アドバイス(施術者)
(3) 施術後の被害について
利用者に対して、「HIFU機器を使用した施術を受けた後、施術を受けた場所に痛みがあったり、違和感があったりしましたか」と尋ねたところ、利用者の13.9%が「痛みがあったり、違和感があった」と回答している(図17)。
図17 施術後の痛みや違和感(利用者)
この問いに続けて、「[痛みや違和感があった]とお答えの方に伺います。痛みや違和感の詳細をご記入ください(お答えは具体的に)」と尋ねたところ、「チクチクした」や「針で刺されたような痛み」との回答が多かった(28名)。
その他、「しびれるような痛み 骨の近くや歯のあたりの痛みが強く感じる」、「2日間チクチクとした感じ、そして強い筋肉痛のような感じがした」、「骨のところに痛みがあった」、「我慢はできるけど無視できない痛み」などの回答があった。
また、「HIFU機器を使用した施術を受けた場所の痛みや違和感のために、病院で診察・治療を受けましたか」と尋ねたところ、回答があった利用者145名のうち、31名(21.4%)が病院で診察や治療を受けていた(図18)。
図18 診療・治療経験(利用者)
(4) 施術の間隔について
利用者に対して、「HIFU機器を使用した施術に関しお答えください。施術を行ってから次回の施術までの平均的な間隔(日数を回答)」を尋ねた結果は平均:29.9日(回答者594名)であった。
また、施術者に同様に尋ねた結果は平均23.2日(回答者210名)であった。
よって、施術後、次の施術までの間隔の平均日数は、利用者、施術者ともに1か月以内であった。
(5) その他
①「利用している(していた)エステティックサロンの店舗はどのように選びましたか(複数回答)」と尋ねたところ、「予約・口コミサイト」を見て店舗を選ぶとの回答が1,206件中の410件であり、その割合は40.0%であった。(図19)。
図19 利用している(していた)店舗の選び方(利用者)
②「エステティックサロンにおいて、HIFU機器を使用した施術を利用したことがありますか(複数回答)。※美容外科などの医療機関で行う施術は除いてお答えください」と尋ねたところ、「エステティックサロンで以前利用したことがある」との回答が1,065件中625件であり、その割合は58.7%であった(図20)。
図20 HIFUを受けた場所(利用者)
③「HIFU機器を使用した施術に関し、お客様からのクレーム、お客様への身体事故の発生等の有無に関しお答えください」と尋ねたところ、お客様からのクレームが「あった」と回答したものの割合は8.9%であった(図21)。また、身体事故の発生等が「あった」と回答したものの割合は5.2%であった(図22)。
図21 お客様からのクレームの有無(施術者)
図22 身体事故の発生等の有無(施術者)
4.3.3 アンケート調査で確認された事項
①施術者の約6割が、HIFU機器を使用した施術に関し、医師の監修・アドバイス等を受けていない又は分からない、覚えていないと回答していること、また、施術者の約1割が、HIFU機器を使用開始前にメーカー・販売店又は店舗スタッフ等の研修や説明会がなかったと回答していることから、施術者に対する機器や施術の教育が不十分であると考えられる。なお、機器の情報が施術者に適切に与えられていないことは、製造物責任法(平成6年法律第85号)上の欠陥があると解される場合があり、民事裁判において通常有すべき安全性を欠いていると解され得る機器が流通している可能性が考えられる。
②利用者の約7割が、施術前に施術内容や注意事項に関する説明がはなかった又は覚えていないと回答していることから、施術に際しての利用者への説明が十分になされていないと考えられる。
③利用者の約6割が、HIFU施術をする上での危険な箇所や、危険な施術方法については知らないと回答しており、利用者はHIFU施術についてのリスクを認識していないと考えられる。
④利用者の約1割が、HIFU機器を使用した施術を受けた後、痛みや違和感があったと回答している。また、具体的な症状に係る自由記述からは、チクチクしたり、針で刺されたような痛みがあったといった回答が多かった。
――――――――――
29 エステサロンで現在勤務するエステティシャンのうち、HIFU機器による施術を行っている、あるいはこれまでに行ったことのある者:177名 及びエステサロンで勤務した経験のあるエステティシャンのうち、HIFU機器による施術を行ったことのある者:92名の合計
4.4 機器の実態調査
エステサロン等の施術現場で、実際の施術に使用されているHIFU機器を使って、機器の照射方式や照射能力等について調査を行った。
調査は、エステサロン11か所、セルフエステ2か所及び美容クリニック3か所で行い、プローブの当て方を各機器で同様にできる計測装置(図23)を用いて行った。
なお、調査に使用したトランスデューサは、顔に照射する仕様のもので、焦点深さが4.5mm30のものを使用した。
図23 実態調査の様子及び計測装置
4.4.1 調査内容
(1) 照射パターン(実験A)
HIFU機器でアクリル板に超音波を照射すると、焦点近傍が熱によって白化する。その白化状況を目視で観察し、機器の照射が図3に示したいずれのパターン(線状、面状、点状)であるかを確認した(図24)。
図24 アクリル板への照射
(2) 照射能力(実験B)
① 実験方法
HIFU機器の照射能力の差異を把握するための目安として、超音波を生体組織を模したファントム31に照射し、ファントムの温度を上昇させる能力を機器間で比較した。
ファントムは、超音波診断機用に生体内の超音波の音速、散乱減衰等を模擬したファントム(以下「ファントムa」という。)を用い、トランスデューサーの焦点深さに合わせ、ファントムaの厚みは4.5mmとした。
ファントムaに図25のように超音波を照射し、ファントムa裏面の温度変化を赤外線サーモカメラにより計測した32。
なお、HIFU機器の照射出力は、各々の機器仕様による最大、中間、最小の3出力で計測した。
図25 ファントムaへの照射
② 評価方法
赤外線サーモカメラで取得した熱画像を図26に示す。熱画像は、試料台にあけた角穴を通してファントムaの裏面を撮影した。照射が開始してから終了するまでの画像を抜粋し、図中に示した。
図26 赤外線サーモカメラの熱画像
超音波が照射されて最高温度となったポイント33を抽出し、当該ポイントの温度プロファイル34から、図27のように立ち上がり前後の温度差Δtを読み取り、照射能力の指標とした。
Δtを比較することで各々の機器の照射能力の相対評価を行った。
図27 評価指標Δt
(3) 熱変性の程度(実験C)
70℃に加熱されると白濁するファントム35(以下「ファントムb」という。)に超音波を照射し、その白濁状況を観察した36(図28)。
各々のHIFU機器の最大出力で照射し、白濁状況を目視で評価した。
図28 ファントムbへの照射
4.4.2 実験結果
実験対象とした20機種についての仕様及び実験A、B、Cの結果を一覧にまとめた(表3)。
また、実験Bから得られた機器の照射能力について、各機器の照射能力Δtを比較したグラフを図29に示し、さらに照射痕跡の例として、実験Aのアクリル板への照射パターン及び実験Cのファントムbの白濁状況の例を図30に示した。
表3 実験結果
機器No. |
業態 |
プローブ形状 |
出力設定範囲(J) |
実験A |
実験B |
実験C |
||
照射パターン |
照射能力Δt(℃) |
白濁状況 |
||||||
機器の出力設定 |
||||||||
最小 |
中間 |
最大 |
||||||
1 |
エステサロン |
角形 |
0.1~2.0 |
線状 |
10.1 |
53.2 |
54.9 |
× |
2 |
筒形 |
1.0~100 |
点状 |
1.5 |
10.9 |
18.6 |
+ |
|
3 |
角形 |
0.2~2.0 |
線状 |
41.4 |
54.3 |
60.4 |
++ |
|
4 |
筒形 |
10~50 |
点状 |
故障で測定できず |
||||
5 |
筒形 |
0.5~5.0 |
未確認 |
故障で測定できず |
||||
6 |
筒形 |
0.5~5.0 |
未確認 |
ボディー用のため対象外 |
||||
7 |
角形 |
0.3~2.0 |
未確認 |
故障で測定できず |
||||
8 |
角形 |
0.5~5.0 |
未確認 |
照射弱く測定できず |
||||
9 |
角形 |
0.1~20 |
面状 |
6.9 |
30.8 |
53.9 |
++ |
|
10 |
筒形 |
0.1~2.0 |
点状 |
0.0 |
12.1 |
20.4 |
++ |
|
11 |
角形 |
0.3~1.2 |
線状 |
11.6 |
52.0 |
53.8 |
+ |
|
12 |
筒形 |
0.1~2.0 |
点状 |
12.2 |
28.8 |
56.3 |
+++ |
|
13 |
角形 |
0.3~1.2 |
線状 |
30.1 |
55.3 |
63.4 |
- |
|
14 |
角型 |
0.3~1.2 |
線状 |
34.4 |
51.6 |
54.3 |
× |
|
15 |
セルフエステ |
角形 |
0.3~1.2 |
線状 |
0.5 |
4.7 |
4.1 |
× |
16 |
角形 |
0.3~1.2 |
線状 |
50.9 |
48.4 |
50.9 |
+++ |
|
17 |
角形 |
0.1~2.0 |
面状 |
6.8 |
45.0 |
49.3 |
+++ |
|
18 |
美容クリニック |
角型 |
0.75~1.2 |
線状 |
6.0 |
8.2 |
27.4 |
× |
19 |
角形 |
0.1~2.0 |
面状 |
4.7 |
39.8 |
46.2 |
+++ |
|
20 |
角形 |
0.1~3.0 |
線状 |
6.9 |
53.6 |
55.6 |
+ |
実験Cの評価指標
強い白濁 |
+++ |
やや強い白濁 |
++ |
弱い白濁 |
△ |
変化なし |
× |
未実施 |
- |
図29 各機器の照射能力Δtの比較(実験B)
機器No. |
実験A |
実験C |
|
エステサロン |
3 |
線状 |
|
9 |
面状 |
||
12 |
点状 |
||
セルフエステ |
16 |
線状 |
|
17 |
面状 |
||
美容クリニック |
19 |
線状 |
図30 照射痕跡の例(実験A、C)
4.4.3 機器の実態調査のまとめ
①エステサロン、セルフエステ及び美容クリニックで使用されているHIFU機器の間で、照射能力に差は確認できなかった。
図29より、機器の照射能力を示すΔtは機器による差が見られるが、全体的にはエステサロン、セルフエステ、及び美容クリニックで使用されている機器の照射能力に明確な差が見られない。
②エステサロン等で使用する機器に照射出力の高い機器があった。
実験Cではエステサロン及びセルフエステで使用されている機器の一部に、70℃付近で白濁するファントムbで熱変性が認められる照射出力の高い機器が確認された。
③同じ個所に超音波を照射し続けると温度が上昇した。
実験Bで同じ個所に5回照射を繰り返した場合の温度変化の例を図31に示す。同じ個所に照射を繰り返すことによって照射部の温度が上昇していることが分かる37(緑色矢線)。
図31 照射の繰り返しによる温度上昇例
4.4.4 施術現場で確認された事項
エステサロン等のHIFU施術現場では、機器の超音波照射状況の把握が適切に行われていないことが確認された。
① 機器の照射状態の把握
エステサロン及びセルフエステで使用されている機器は、照射状況のモニター機能を有していない(モニタリングしているような画面はあるが、実際のモニタリングを示したものではない。)。
今回の実験の中で、エステサロン等で使用されている16台中3台は、故障等により実際に超音波が照射がされていないことが確認された。いずれもプローブの照射ボタンを押すと、超音波を照射しているような音がするため、照射されていると勘違いしてしまうが、実験では、超音波の照射による温度変化を計測したので故障を確認することができた。しかし、通常の操作ではこれらの故障を確認することは難しく、効果を発現させるため、本来推奨される出力を超えた設定で機器を使用するおそれがある。
このことは、これらの故障していた機器の修理や入替え時など、故障が直った際に、故障時に設定していた出力で機器を使用することにより、本来推奨される出力よりも高い出力で照射してしまうリスクを抱えていると考えられる。
このように安全上信頼性の低い機器が使用されている実態が確認された。
② その他確認された事項
・出力を押さえるリミッター等の機能を有する機器はなかった。
・使用者の知らない裏設定メニュー(メンテナンス用かは不明)のある機種があり、設定値を変更することは可能であった。
・エステサロン等の機器では、詳細な取扱説明書がない機器が複数あった。
・セルフエステで使用していた3台は、いずれもオーナーが海外通販サイトを利用して個人輸入したものであった。
・同一名称の機器でも照射能力の差が見られた(同一名称の機器はNo.10と12、No.11と16、No.13と14)。
・機器の出力設定値が同じ値(例えば2.0J)であっても、機器により照射能力の差が見られた。
――――――――――
30 実験は顔用のHIFUを対象とし、焦点深さはSMAS筋膜をターゲットとする4.5mmのものとした。なお、焦点位置はメーカの表示値にそろえているため、メーカーが焦点をどのように定義しているかによって結果が異なる。
31 JIS0601―2―37:2018「医用電気機器 第2―37部:医用超音波診断装置及びモニタ機器の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項―附属書AA」に記載の人体組織を模擬する熱特性・音響特性をもつ生体組織模擬材。
32 ファントムaの裏面で接している空気層による超音波の反射と空気層による冷却の影響がある。
33 温度計測ポイントのサイズ(面積)は約0.1mm×0.1mm。
34 温度計測データ及び熱画像の計測時間間隔は25msec。
35 70℃付近で白化する透明ゲルで、熱特性等生体に近い物理特性を有し、照射による体内の変性を模擬したファントム。
36 ファントムbは、予め40℃に保温しておいた。
37 最高温度が変わらないのは、ファントムaの融点に達した可能性が考えられる。
4.5 豚肉への照射実験
エステサロン等で使用されるHIFU機器による超音波の照射が、人体への侵襲の要因となるか確認するため、豚肉を用いた照射実験を実施した。
(1) 実験方法
人の筋肉に超音波を照射する状態をできるだけ模擬するため、新鮮で脂身の少ない豚のモモ肉38に、超音波を照射した。また、照射前に人の体温に近い約40℃に保温した肉片に線状に照射した。図32に豚肉への照射状況を示す。
図32 豚肉への照射状況
(2) 照射検体の分析方法
照射した豚肉の検体の照射直後及びホルマリン固定後の検体の例を写真1に示す。集束超音波の焦点は進行方向に約1mmの縦長に形成される(参考資料B参照)ため、検体は、照射面から4.5mmの深さを中心に肉の厚み方向に3か所、厚さ約4μmに薄切して、1つの検体から病理組織標本を3枚作製した。そして、エラスティカ・マッソン染色39を施した。
また、3枚のうち最も組織学的変化が顕著な1枚を選んで詳細な病理組織学的検査を実施した。
写真1 照射した豚肉の検体例
(左:照射直後、右:ホルマリン固定後)
(3) 実験結果
照射による変化が最も分かりやすかったサンプルの、病理組織標本の全体及び熱変性部分の詳細を写真2に示す。肉片の中央部の線状に照射した位置に熱変性部分がみられた。
熱変性部分が一直線上に並び、その間隔が照射ピッチ1mmのほぼ倍数になっていることと、さらに病理学的にはこれらは肉の組織の変性であると思われることから、超音波の照射により侵襲の要因となる熱変性が生じたと推定される(設定出力3.0J、照射回数1回)。
写真2 病理組織標本
(上段:標本全体 中段:熱変性部分の詳細 下段:熱変性部分拡大)
――――――――――
38 豚肉は新鮮なものを使用できるよう屠畜2日後のものを入手し、入手したその日に照射を行った。
39 結合組織を明瞭に染め分ける染色法の一つ。
4.6 生体への熱投与シミュレーションによる解析
実際に行われているHIFU施術にどのようなリスクがあるか確認するため、機器の出力や照射方法による生体への影響について、熱投与シミュレーションにより解析を行い、検討した。
4.6.1 検討方法
エステサロン等で使われているHIFU機器40を1台準備し、図33のフローで測定及びシミュレーションを実施した。なお、実施は東北大学大学院医工学研究科の協力を得て行った。
図33 シミュレーションを活用した解析方法41
4.6.2 解析条件
以下の条件で解析を実施した。
① 照射パターン:線状、面状、点状(図3参照)
② 設定出力:1.5J、1.0J、0.5J ※1点の照射における値
③ 照射方法:
・照射パターンが線状及び面状の機器:
プローブを固定して同じ位置で繰り返し照射した場合
・照射パターンが点状の機器:
プローブを3パターンの速さで、手で動かして照射した場合
4.6.3 評価方法
細胞が死に至る速さは、温度が上がるとともに増加し、図34のように43℃付近で屈曲している。
細胞をある温度に曝した時間を、同じ致死率をもたらす43℃に曝した時間t43に置き換えることができ、このt43はサーマルドース(熱投与量)と呼ばれ、熱治療の定量化指標として用いられてきた。また、多くの実験結果を基に、充分な殺細胞効果が得られる目安として、t43=4h(時間)が、慣用的に用いられている(図35)42。
このサーマルドースを推定することで生体への影響を評価することができる。
そこで、本解析では、t43=4h(時間)との相対値を用いることとし、相対値が1以上であれば細胞死が起きていることを表す評価指標とした。
なお、サーマルドースは、図34のグラフの縦軸が対数であることから、温度が上昇するにつれて、細胞死の速度やそれに伴う細胞死の体積は、指数関数的に増加していくことが分かる。
図34 細胞死の温度依存性43
図35 生体組織における受けた温度と時間の生体への影響44
4.6.4 解析結果
(1) サーマルドース
照射パターンごとのサーマルドースの解析結果を図36から図38に示す。なお、サーマルドースを解析するために測定した音圧分布や、温度解析の結果については、参考資料Aに示す。
① 線状照射
1、3、6回目の照射の繰り返しによるサーマルドースの分布を図36に示す(設定出力1J)。図の色は、細胞死が起きるとされるサーマルドースt43=4hrとの相対値(熱治療において細胞死に十分であるとされる43℃4時間に相当するサーマルドースを1とした。)を示し、白色は細胞死が生じている可能性のある領域を表している。
図から、6回目の照射では細胞死が生じる可能性のあることが分かる。
図36 生体内のサーマルドース(線状照射6回繰り返し)
② 面状照射
面状照射の3回繰り返しによるサーマルドース(相対値)の分布を図37に示す(設定出力1J)。照射される面の中央部付近でサーマルドースは大きくなっている。ただし、t43=4hrとの相対値は1以下であり、この場合細胞死までには至っていない。
図37 生体内のサーマルドース(面状照射3回繰り返し)
③ 点照射
サーマルドースはプローブを手動走査する速度の違いで差がみられ、速度が遅いと生体への影響が大きくなることが分かる(設定出力1J)。
図38 生体内のサーマルドース(点状照射 走査速度3パターン)
(2) 設定出力と照射方法による生体への影響
実際の施術現場を想定し、設定出力や照射方法を変えると生体にどのような影響があるのか解析結果から検討した。
① 線状照射
機器の設定出力と照射方法(繰り返し照射回数)を変えた場合の、生体内の最高到達温度と細胞死体積(サーマルドースt43の相対値≧1の体積)の変化を図39に示す。
図から、設定出力が大きくなると生体内の温度は上昇する。また、線状照射を繰り返すと細胞死体積は指数関数的に増加するので、注意を要することが分かる。
熱影響で副作用を起こす細胞死体積を約1mm3と仮定すると45、線状照射の場合は、1.5Jに出力を上げた場合は繰り返し照射すべきでなく、1Jでは5回以上繰り返すべきではない。一方、0.5Jでは繰り返しても生体への影響はほとんどないが、細胞死が引き起こされないことから、HIFU施術による効果の有効性は期待できない。
図39 線状照射の設定出力と繰り返し照射回数による生体への影響
② 面状照射
設定出力1Jの面状照射において、照射繰り返し回数に伴う細胞死体積の増加は、線状照射に比べてはるかに遅いが、この機器では3回目(線状照射の13回目)以上では急速に細胞死体積が増えることが分かる。
図40 面状照射の温度上昇と生体への影響(細胞死体積)
③ 点状照射
点状照射の機器の設定出力と照射方法(手動走査の速度)を変えた場合の、生体内の最高到達温度と細胞死体積の変化を図41に示す。
この機器の場合、1Jでは、生体への熱影響を抑えながら、かつ効果の有効性が期待できる手動走査の速度は、図に示した青色の両矢印の範囲であり、その場合の走査速度の最大値と最小値の比は2倍以下の範囲と狭い。
また、1.5Jでは範囲は改善され、生体への熱影響が大きくならない条件は、走査速度10mm/s程度以上が必要となる。
図41 点状照射の設定出力と手動走査速度による生体への影響
以上から、生体への熱影響を抑えるだけの目的であれば、熱的細胞死体積がゼロとなるHIFU照射条件を選べばよいことになるが、目的とする効果の有効性がなくなってしまう。
HIFU照射による美容作用を定量的に評価する方法は、未だ確立されていないので、ここでは、熱的細胞死体積がゼロではないが1mm3よりも小さいことを、熱影響が少ない有効なHIFU照射条件(作用域)であるという仮定を置き、その範囲を図39、図40及び図41に追加し、青の両矢印にて示した。図39からは、照射超音波エネルギーが1J/点の場合は作用域が広いが、0.5J/点および1.5J/点では極めて狭いと推測される。図40からは、照射超音波エネルギーが1J/点の場合は作用域が広いと推測される。一方、図41からは、1.5J/点の場合に作用域が広く1J/点では極めて狭いと推測される。
4.6.5 解析結果から確認された事項
今回の解析結果から、HIFU施術では、適切な出力や照射方法で施術しない場合に、生体への熱影響が大きくなる可能性が確認された。
特に、線状照射でプローブを固定した状態で照射を繰り返したり、点状照射で手動で施術を行う場合の走査速度(プローブを動かす速さ)が遅いと、指数関数的に熱影響(細胞死体積)が増加する。
美容に用いられるHIFU施術は、主にSMAS筋膜への照射をターゲットとしている。顔には図42のように神経が張り巡らされており、SMAS筋膜の下には図43で示すように多くの神経がある。
図42 顔の神経(イメージ)46
図43 HIFUの照射と皮膚の構造(イメージ)
今回の解析で分かったように、HIFUの施術は、機器の出力や照射方法が適切に行われなければ、SMAS筋膜の周囲にも熱影響を及ぼし神経障害を起こすリスクがある。
なお、43℃4時間の条件は、筋肉などの一般的な細胞の目安であって、神経細胞の場合には更に熱に弱いと考えられ、リスクはより高くなるものと考えられる。また、脂肪の厚みは個人差があり、SMAS筋膜に超音波の焦点を結ぶことができない場合も同様のリスクがある。
HIFU施術はエステサロン等で美容機器を使った施術のうち、最も顔の神経障害を起こす可能性の高い施術と考えられる。
また、生体への熱影響を抑えながら有効性が期待できるように、機器の設定出力や照射方法を狭い範囲で適切に行わなければならない施術の難しさがある。
このような施術は、神経や血管の位置などの解剖学の知識を持つ医師など、施術者を限定して行うべきである。
また、HIFUの施術は、HIFUの原理や機器の特性などを十分に理解する必要があると考えられる。
――――――――――
40 実際に使用されている機種で入手可能であった機器を使用した。
41 厚生労働省「イメージガイド下強力集束超音波治療装置ガイドライン―HIFUの非臨床評価項目における安全性・有効性の基本的考え方に関する附属書―サーマルドース推定」(平成30年12月28日)の手法を参考に解析を行っている。
42 脚注41に示したガイドラインからの引用
43 同上
44 Focused Ultrasound Therapy of the Prostate with MR Guidance. Curr Radiol Rep (2013) 1:154‐160」
45 個体差等で値は異なる。
46 「ウルセラ(HIFU)によるたるみ治療」 石川浩一(全日本病院出版会 PEPERS No.111:81―91,2016)等を参考に調査委員会で作成。
4.7 HIFU機器物流の実態調査
エステサロン等で使用しているHIFU機器がどのような経路で入ってくるのか確認するため、エステティック業界関係者(業界主要団体、美容機器販売会社、輸入代行業者、エステサロン店主、業界誌編集者など)へのヒアリング調査を行った。その結果、国内のHIFU機器はほぼ輸入品であり、図44のようなルートで海外から輸入されていると推定される。
美容クリニックでは、輸入代行業者を通して未承認の医家向け医療機器として、医師の自己責任で個人輸入している。一方で、未承認の医家向け医療機器は、原則、医師しか個人輸入を行うことができないことから、医師のいないエステサロン等では、このような経路で輸入を行うことはできず、エステサロン等で使用されているHIFU機器は、医療機器ではない製品(雑品)とすることで、輸入されていると推定される47。
図44 HIFU機器の物流(推定)48
――――――――――
47 同様に雑品として海外通販サイトから個人で購入していた場合も確認された。
48 図中の※印は以下を示す。
※1 税関で医療機器かどうか疑義が生じた場合には、その都度地方厚生局健康福祉部薬事監視指導課に照会する。
※2 「疾病の診断、治療若しくは予防、又は身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことを目的とするもの(製品説明等にそのような標榜があるもの)は医療機器であり法の規制対象に該当しますが、それ以外のものは雑品であり法の規制対象には該当しません。」(「医薬品等輸入手続質疑応答集(Q&A)(令和3年9月10日版)」Q68)
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iji/000160345.pdf
※3 3セットまでは輸入確認証の交付は不要
4.8 法規制に関する調査
本調査の結果から、HIFU機器を使った施術は顔の神経障害を起こすリスクがあり、医師資格のないエステティシャンがこのような施術をすることは医師法に抵触するおそれがある。
しかしながら、現状では医師法及び薬機法においてHIFU施術及び機器についての対応は個別判断にとどまっており、十分とは言えない。
5 事故等原因
HIFU施術は、機器の出力や照射方法が適切に行われなければ、特に顔の神経障害を起こすリスクがある難しい施術である。このような難しい施術を行うには、神経や血管の位置などの解剖学の知識が必要である。
また、美容クリニックで使われている機器と変わらない照射出力の高い機器や、安全上信頼性の低い機器がエステサロン等で使われている実態が確認された。
以上から、HIFU施術における事故等の直接原因は、照射出力が高く、安全上信頼性の低い機器を用い、施術に必要な解剖学や、出力や照射方法の調整に関する知識の不十分な者が行った結果として、熱傷や神経障害などの事故に至ったものと認められる。
また、その背景要因として下記の諸事情があると考えられる。
(1) HIFU施術及び機器に関する法規制が及んでいないこと
美容で用いる引締め等の効果を有するHIFU施術が、医師法における医行為に当たるかについては明確な判断が示されておらず、個別判断にとどまっている。さらに、HIFU機器が薬機法の医療機器に該当するかについても同様であり、医療機器ではない製品(雑品)として、薬機法の輸入確認制度を潜脱して輸入されて国内流通している実態が推定される。
このように、HIFU施術及び機器に対して、医師法及び薬機法による規制(輸入規制を含む。)が及んでいないのが現状である。
(2) 施術の技術的困難さが施術者に知られていないこと
生体への熱影響を抑えながら有効性が期待できる施術を行うには、機器の出力や照射方法を適切に調整するという高度な技術が必要であり、適切な施術が行われない場合には、顔の神経障害という深刻な危害を及ぼすリスクがあることが、HIFU施術者において十分に認識されていない。
(3) 照射出力の高い機器が使用されていること
エステサロン等で使用されているHIFU機器の照射実験を行った結果、美容クリニックで使用されている機器と照射能力の違いはみられなかった。
また、ファントムへの照射から、照射出力の高い機器がエステサロン等で使われている実態が認められた。
これらは、サーマルドースの観点からも生体への熱影響による副作用のリスクがあると考えられる。
(4) 信頼性の低い機器が使用されていること
エステサロン等で使用されているHIFU機器には、超音波の照射状況だけでなく機器の故障も施術者が把握できていないものがあり、その結果本来推奨される出力よりも高い出力で照射してしまうリスクを抱えていることが認められた。
(5) 施術者の施術に関する知識の欠如
美容クリニックでは医師資格により、解剖学など施術のための知識を有する者が施術を行うことになるが、それに対してエステサロン等では、エステティシャンの資格規制がないため、人体の解剖学的知識を有しない者が施術を行っていることが推定される。施術者に行ったアンケート調査でも、施術者に対する機器や施術の教育が十分ではないこと、リスクの知識が薄いことが認められた。
(6) 注意喚起が行き渡らない業界の実態
エステティック業界の主要団体ではHIFU施術を禁止しているが、団体未加盟の店舗が多く、それらの店舗には影響力がない。このため、周知や注意喚起を業界全体に行き渡らせることができない実態が推定される。
(7) 利用者がリスクを知らないこと
利用者へのアンケート調査からは、利用者の約6割がHIFU施術のリスクを認識していない実態が認められた。
6 再発防止策
HIFU施術は、施術者を法規制により医師などに限定することが必要である。明確な法規制が存在しない中で、エステサロン等では広くHIFU施術が行われていることを踏まえると、次の対策を講じ、早急に事故を減少させていくことが必要である。
(1) 医行為としての施術者の限定
今回調査した、エステサロン等で行われているようなHIFU施術は、神経や血管の位置などの解剖学の知識を有する者が、機器の特性や施術方法を熟知して行う場合を除いては、顔の神経障害など人体に危害を及ぼすリスクが高い施術である。このため、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医師法17条の「医業」に係るいわゆる医行為)に該当するものがあると考えられるため、医師法上の取扱いを整理し、施術者を限定することでエステサロン等でのHIFU施術に制限をかける必要がある。
(2) 輸入機器流通の監視強化
今回調査した、エステサロン等で用いられているようなHIFU機器で、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼす目的を持つ機器は、薬機法第2条第4項に規定する医療機器に該当する可能性がある。そのようなHIFU機器が医療機器ではない製品(雑品)として輸入され、承認を受けないまま販売されている実態が推定される。
そうしたHIFU機器を使用して、又は利用者に使用させて営業するエステサロン等に対し、当該HIFU機器を販売したり、販売のために広告したりすることは、いずれも薬機法に違反する行為である可能性がある。
このため、HIFU機器流通の監視を強化し、エステサロン等が未承認の医療機器に該当するHIFU機器を入手できないようにすることが、早急に必要である。
(3) 施術者への情報共有
HIFU施術者を(1)のとおり限定して行う際にも、生体への熱影響による副作用を抑えながら有効性が期待できるようにする施術は、出力と照射方法の調整域が狭いといった技術的に高度な施術という特徴がある。しかも、信頼性のある機器を用いて施術を行うことが重要である。
そのため、HIFU施術の特殊性や危険性の情報が広く施術者の間で共有されることが望ましい。
(4) HIFU施術のリスクに関する注意喚起
エステティック業界に対して、HIFU施術の注意喚起を早急かつ広範に行う必要がある。
そのためには業界主要団体に未加盟の店舗にも注意喚起が行き渡るように、行政と主要団体が連携して広く周知していくことが望ましい。
(5) 消費者への注意喚起
HIFU施術のリスクが利用者に十分に認識されているとは言えないため、安易に施術を受けないよう早急な注意喚起が必要である。
その際、多くの消費者の目に留まり効果的となるようSNSを最大限に活用した注意喚起が望ましい。
7 意見
消費者安全調査委員会は、以下のとおり意見する。
7.1 厚生労働大臣への意見
(1) 医行為としての施術者の限定
今回調査した、エステサロン等で行われているようなHIFU施術は、神経や血管の位置などの解剖学の知識を有する者が、機器の特性や施術方法を熟知して行う場合を除いては、人体に危害を及ぼすリスクが高いものである。このため、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(医師法17条の「医業」に係るいわゆる医行為)に該当するものがあると考えられるので、医師法上の取扱いを整理し、これにより施術者が限定されるようにすること。
(2) 輸入機器流通の監視強化
今回調査した、エステサロン等で用いられているようなHIFU機器で、人の身体の構造又は機能に影響を及ぼす目的を持つ機器は、薬機法第2条第4項に規定する医療機器に該当する可能性がある。
その場合、医療機器として規制されるべきHIFU機器は、医療機器として承認を受けていない場合、機器の国内販売は薬機法上禁止されることになる。
HIFU機器の医療機器該当性確認や承認なき機器の流通の防止に向けた情報提供を、財務省関税局や都道府県等関係機関に行うこと。
(3) 施術者への情報共有
HIFU施術は、生体への副作用を抑えながら有効性が期待できるようにするためには、出力と照射方法の調整域が狭いといった技術的に高度な施術であり、かつ機器の信頼性が重要であることから、本調査で確認された事故事例や客観的データ等情報が、上記(1)で限定される施術者の中で共有されるようにすること。
7.2 経済産業大臣への意見
HIFU施術は、神経や血管の位置などの解剖学の知識を有する者が、機器の特性や施術方法を熟知して行う場合を除いては、人体に危害を及ぼすリスクが高い施術であり、施術者が法規制で限定されるのを待つことなく、エステティック業界に対して、早急かつ広範に注意喚起を行う必要がある。
こうしたリスクについて、エステティック業界団体と協力し、団体未加盟を含むエステサロン店舗に広く周知し、注意喚起すること。
また、適切に勧告や注意喚起を行っているエステティック業界団体の取組を後押しすること。
7.3 消費者庁長官への意見
HIFU施術は、神経や血管の位置などの解剖学の知識を有する者が、機器の特性や施術方法を熟知して行う場合を除いては、人体に危害を及ぼすリスクが高い施術である。こうしたリスクについて、SNSを最大限に活用する等により、消費者に広く周知し、注意喚起すること。
参考資料
参考資料A 音圧分布及び温度解析
「4.6 生体への熱投与シミュレーションによる解析」における熱投与量(サーマルドース)の計算に至るまでの音圧分布測定及び温度分布解析等について補足する。
(1) 集束超音波音場の数値計算
トランスデューサの開口寸法と焦点距離に基づき数値計算した4MHzの3次元集束超音波音場の代表的な2断面を図A1に示す。
なお、生体の超音波減衰を0.09Neper/cm/MHzとした。
図A1 集束超音波音場の数値計算結果
(2) 集束超音波音場の測定
トランスデューサから照射された集束超音波音場を実測した。超音波伝搬方向の測定結果を図A2に、それに直交する方位方向の測定結果を図A3に、(1)で数値計算した理論曲線と重ねて示す。
測定結果と理論曲線が、特に主ローブについてよく一致することから、数値計算により得られる3次元音場が現実の音場をよく近似できていると判断される。
図A2 伝搬方向の集束音場
図A3 方位方向の集束音場
(3) 温度分布
① 線状照射
出力1Jで線状に1回照射(25点照射される。)した場合の生体内の温度変化を図A4に示す。
図A4 生体内の温度変化(線状照射)
また、プローブを固定した状態で照射を6回繰り返し、各回においてトランスデューサの走査が中央部に来た時点の温度分布を図A5に示す。
繰り返しにより照射領域全体の温度が上昇していることが分かる。
図A5 生体内の温度変化(線状照射、6回繰り返し)
② 面状照射
①の線状照射と同じ照射を横方向に6行照射することで面状照射とし、それを3回繰り返して照射する(図A6)。
図A6 面状照射パターン(行間2mm、戻り1800ms)
出力1Jで面状照射を3回繰り返した場合の、各回の照射でトランスデューサの走査が面のほぼ中央(3行目の13点目)に来た時点での生体内の温度分布を図A7に示す。照射部全体が少しずつ温度上昇しているのが分かる。
図A7 温度変化(面状照射、3回繰り返し)
③ 点状照射
点状照射において、出力1Jで手動走査の速度を3パターン変えて、直線状に25mm走査した場合の、走査終了時点での生体内の温度分布を図A8に示す。
走査速度が遅くなるにつれて照射部全体の生体内の温度は高くなる傾向にある。
図A8 温度分布(点状照射、手動走査速度3パターン)
参考資料B 焦点形成状況の可視化
HIFU機器から照射される超音波の焦点がどのように形成されるのかを確認するため、ハイスピードカメラによる観察を行った。
(1) 観察概要
使用したHIFU機器は、線状に超音波を照射するもので、照射出力3.0(J)、照射範囲25mmを1mm間隔で照射する条件で照射した。
超音波の照射状況を可視化できるファントム49に超音波を照射し、ハイスピードカメラで撮影50した。
(2) 観察結果
線状の照射により形成された焦点の画像を写真B1に示す。
その結果、約25mmの範囲に1mm間隔で焦点が形成されることが確認された。
写真B1 照射による焦点
また、写真B1で黄色の点線で囲った焦点が形成されていく様子を、撮影画像から白く見え始めた時点を時間経過の基準(0msec)として、10msec間隔で抽出した画像を写真B2に示す。
その結果、焦点は、約1mmの範囲で、深い側から縦形状に形成されていくことが分かった。
図B2 焦点形成の様子
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49 皮膚下の超音波エネルギー熱凝固点の照射を確認するためのファントム
50 撮影スピードは、一秒間に7,000フレーム
参考資料C HIFU照射パワーの計測
エステサロン等で使用しているHIFU機器で照射する超音波のパワーを確認するため、天秤法を用いて計測した。
(1) 計測概要
高精度電子天秤と円筒形の小型水槽から構成された超音波パワーメータ(写真C151)を使用。水槽には脱気水を満たし、トランスデューサから照射された超音波パワーを高精度天秤によってグラム単位で検出する。
HIFU照射した際の最大瞬時表示値を目視で読み取り、5回照射して計測した平均値とした。
なお、HIFU機器は製品A、Sの2機種で、計測は以下の条件にて行った。
機器A 照射出力 0.1~3.0J 照射幅25mm、照射ピッチ1mm
機器S 照射出力 0.2~2.0J 照射幅25mm、照射ピッチ1mm
(2) 計測結果
製品A、Sともに、照射パワーは、機器の出力設定値に対して、ほぼ比例して出力されていた。
写真C1 超音波パワーメータ
図C1 超音波パワー測定結果52
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51 超音波パワーメーター:OhmicInstruments社製[MODEL:UPM―DT―1 AV]
52 縦軸の計測値は、読み取り値の単位(g)を(W)に換算した。なお、機器の照射パルス幅(s)は不明であったことから(J)の換算はしていない。