添付一覧
○「向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン」について
(令和4年12月27日)
(/薬生薬審発1227第3号/薬生安発1227第1号/)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知)
(公印省略)
今般、「医薬品が自動車運転技能に与える影響の評価手法の開発」(日本医療研究開発機構委託研究開発(医薬品等規制調和・評価研究事業、代表研究者 岩本邦弘))において、向精神薬の自動車の運転技能に及ぼす影響を評価するにあたって、臨床試験の計画、実施、評価法等の標準的方法及び手順をまとめたガイドラインが別添のとおり作成されたので、貴管下関係業者に対して周知願います。
なお、本通知の写しについて、別記の関係団体の長並びに独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長及び各地方厚生局長宛てに発出するので、念のため申し添えます。
別記
日本製薬団体連合会 会長
日本製薬工業協会 会長
米国研究製薬工業協会在日執行委員会 委員長
一般社団法人 欧州製薬団体連合会 会長
公益社団法人 日本精神神経学会 理事長
一般社団法人 日本臨床精神神経薬理学会 理事長
一般社団法人 日本精神薬学会 理事長
一般社団法人 日本神経精神薬理学会 理事長
一般社団法人 日本てんかん学会 理事長
一般社団法人 日本睡眠学会 理事長
一般社団法人 臨床睡眠医学会 理事長
日本うつ病学会 理事長
日本統合失調症学会 理事長
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長
各地方厚生局長
[別添]
向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法に関するガイドライン
目次
Ⅰ.緒言
Ⅱ.自動車の運転技能に対する影響の評価の必要性と基本的考え方
Ⅲ.非臨床試験
Ⅳ.臨床評価方法
1.自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法
2.有害事象による評価方法
Ⅴ.臨床試験
1.臨床薬理試験
2.探索的試験、検証的試験及び長期投与試験
3.自動車運転試験
Ⅵ.疫学研究の結果の活用
本ガイドラインで引用した臨床試験に関するICHガイドライン
Ⅰ.緒言
精神疾患は、精神機能の基盤となる心理学的、生物学的、または発達過程の機能不全を反映する個人の認知、情動制御、または行動における臨床的に意味のある障害によって特徴づけられる症候群である。精神疾患の発症を継続的かつ長期間にわたり調査した複数の前向きコホート研究の結果からは、精神疾患の生涯有病率は70―80%に及ぶことが推定されている。また、2019年の患者調査では本邦の医療機関を利用した精神疾患の総患者数は500万人を超えている。精神疾患において薬物療法は重要な治療選択肢であり、症状の軽減とともに、社会的、職業的、又は他の重要な活動における苦痛や機能低下の改善を図ることが治療目標とされている。そして、精神疾患の多くが慢性疾患であり、症状の軽減後も再燃や再発を予防するために薬物治療は欠かせないものとなっている。
これまで向精神薬1)の本邦における添付文書では、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないことを規定しているものが多かった。しかしながら、既に眠気などの副作用が少ない向精神薬が使用可能になっている。このため、自動車の運転技能に及ぼす影響を検討し適切な注意喚起を行うことは、患者の安全を守るだけでなく、治療の選択肢が広がり患者に適切な治療薬が提供され症状の悪化及び再発防止に寄与できると考えられる。
自動車の運転は、覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能が関与した複合的な動作であり、神経系障害に関連する有害事象(傾眠や鎮静等)による影響だけを受けるわけではない。向精神薬以外にも自動車の運転技能に影響を及ぼす可能性がある薬剤(血糖降下剤、抗アレルギー剤等)は存在するが、自動車の運転技能に及ぼす影響は医薬品の特性により異なり、医薬品の特性に応じた方法で評価する必要があり、本ガイドラインは向精神薬1)を対象とする。
本ガイドラインは、向精神薬として開発される新医薬品の自動車の運転技能に及ぼす影響を検討するため、臨床試験の計画、実施、評価法等について標準的方法と手順を概説したものである。本ガイドラインに準じることにより、臨床試験を科学的かつ倫理的に行い、質的向上が図られ、国際的にも一定の評価が得られることが期待される。しかし、医薬品の自動車の運転技能に及ぼす影響に関する臨床的及び基礎的研究は、今後も急速に進歩することが予想され、新しい検査法、治療法が導入される時点において、本ガイドラインも適宜改訂されるべきである。また、本ガイドラインの運用に当たっては、合理的な根拠がある場合、必ずしも本ガイドラインに拘ることなく柔軟な対応が望まれる。また、既承認の向精神薬を評価する場合も本ガイドラインを参考にされたい。
本ガイドラインは、個々の患者の自動車運転の適性を評価する方法を示すものではない。自動車の運転技能には、医薬品以外に病状、年齢、そして生活習慣等も影響することがある。このため、自動車の運転技能への影響が認められなかった医薬品においても、個々の患者の安全性を保障するものではなく、実臨床においては適切な指導を行うことが重要である。
薬剤開発を目的とした臨床試験は、一般的に開発相の概念により臨床試験が分類され、第Ⅰ相、第Ⅱ相及び第Ⅲ相等で区分される。しかし、ICH(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use:医薬品規制調和国際会議)E8ガイドライン(臨床試験の一般指針について:平成10年4月21日付医薬審第380号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)では目的による分類が望ましいとされていること、ICH E9ガイドライン(「臨床試験のための統計的原則」について:平成10年11月30日付医薬審第1047号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)では開発相による分類が使用されていないことも勘案し、本ガイドラインでは各試験の目的と位置付けをより明確にするために、各相試験については臨床薬理試験、探索的試験及び検証的試験として分類する。
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1):向精神薬は、麻薬及び向精神薬取締法で規定される向精神薬ではなく、日本標準商品分類(分類番号)の抗不安剤(112)、催眠鎮静剤(112)、抗てんかん剤(113)、抗うつ剤(117)、精神神経用剤(117)、その他の中枢神経用薬(119)のうち不眠症、ナルコレプシー、注意欠陥/多動性障害の治療薬等をいう。
Ⅱ.自動車の運転技能に対する影響の評価の必要性と基本的考え方
自動車の運転は、覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能が関与した複合的な動作である。向精神薬は、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)に影響を及ぼす可能性がある。このため、成人に対して継続的に投与される向精神薬について、自動車運転を禁止と制限しないためには、自動車の運転技能に及ぼす影響を評価することが必要である。一方で、小児や入院中のみで使用される薬剤等、投与対象となる集団で自動車の運転が想定されない場合は、自動車の運転技能に及ぼす影響を評価する必要はない。
向精神薬の自動車の運転技能への影響を主観的方法のみで評価することは困難であり、客観的方法による評価も必要となる。また、向精神薬の自動車の運転技能に及ぼす影響の評価は、神経系障害に関連する有害事象(傾眠や鎮静等)の発現状況により覚醒度への影響を評価するのみではない。このため、以下の点を考慮して、各試験の目的に応じた適切な評価項目を設定し段階的に評価していくことが有用である。
・ 非臨床試験や臨床薬理試験等の開発早期の臨床試験においては、自動車運転に関連する機能として、覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能の各々に及ぼす影響を評価し、以後に実施する探索的試験、検証的試験、長期投与試験での評価方法を検討するための情報を収集する。
・ 臨床試験の全般においては、自動車運転に影響する有害事象の発現状況について時間的関係を検討する。
・ 集積された情報から自動車の運転技能への影響が示唆される場合は、必要に応じて自動車運転試験を実施する。
本ガイドラインでは、向精神薬の自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法として、非臨床試験、臨床試験及び疫学研究において留意すべき事項を解説する。本ガイドラインは向精神薬の開発における自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法を説明するが、既承認の向精神薬を評価する場合も参考にされたい。
Ⅲ.非臨床試験
本ガイドラインは、向精神薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の評価ガイドラインであることから、一般的に必要な非臨床試験のうち、自動車の運転技能に及ぼす影響の評価において留意すべき事項として薬理試験について説明する。
薬理試験により、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)と関係する可能性がある各神経伝達物質の受容体、トランスポーター、イオンチャネル等に対する被験薬及び代謝物の作用について検討する。この薬理学的な検討は、被験薬の標的に対する作用のみではなく、オフターゲット効果や耐性の有無についても検討する。
Ⅳ.臨床評価方法
臨床試験における自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法には、自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法、有害事象による評価方法、そして自動車運転試験による評価方法がある。本章では、臨床試験における評価方法の総論として、自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法と有害事象による評価方法を説明する。
1.自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法
自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価は、覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能の各々に及ぼす影響を高い感度で評価しシグナルを検出することが目的である。自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価は、臨床薬理試験等の開発早期の臨床試験において行うことが一般的である。また、治験薬の薬理学的作用やその時点で既に得られている臨床試験成績等から、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)のうち評価を行う機能を合理的に選択する必要がある。
(1) 覚醒機能に及ぼす影響の評価方法
覚醒機能に及ぼす影響の評価方法として、VAS(Visual Analogue Scale)、エップワース眠気尺度、スタンフォード眠気尺度、カロリンスカ眠気尺度等の評価尺度を用いた主観的評価方法を用いることが一般的である。また、精神運動覚醒検査(Psychomotor Vigilance Test)等を用いた客観的評価を用いる場合もある。
(2) 感覚機能に及ぼす影響の評価方法
感覚機能に及ぼす影響の評価方法として、平衡機能検査等がある。
(3) 認知機能に及ぼす影響の評価方法
治験薬が認知機能に及ぼす影響として、注意及び処理速度、そして遂行機能への影響を評価することが重要である。注意及び処理速度に及ぼす影響の評価方法として、持続注意課題(CPT:Continuous Performance Test)や符号課題(DSST:Digit Symbol Substitution Test)等の神経心理学的検査がある。注意及び処理速度、そして遂行機能に及ぼす影響の評価方法として、TMT(Trail Making Test)等の神経心理学的検査がある。
(4) 精神運動機能に及ぼす影響の評価方法
治験薬が精神運動機能に及ぼす影響として、反応時間への影響を評価することが重要である。反応時間に及ぼす影響の評価方法として、選択反応時間課題(CRT:Choice Reaction Time)等の神経心理学的検査がある。
尚、自動車運転試験を実施する場合は、自動車運転試験において追従走行課題や急ブレーキ課題により、認知機能及び精神運動機能に及ぼす影響を評価することも可能である(「Ⅴ.4.自動車運転試験」の項参照)。
2.有害事象による評価方法
有害事象による評価は、実臨床での観察方法を検討するために治験薬が自動車の運転技能に及ぼす影響の発現時期や持続期間などの時間的関係を評価することが目的であり、臨床薬理試験、探索的試験、検証的試験、長期投与試験、そして自動車運転試験のいずれでも行う。
有害事象の発現状況による評価は、治験薬の薬理学的作用、そして臨床薬理試験等において検討した自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)に及ぼす影響についての結果に基づいて、自動車運転に影響する有害事象を定義し収集することが重要である(「Ⅳ.1.自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法」の項参照)。
Ⅴ.臨床試験
本章では、臨床試験における自動車の運転技能に及ぼす影響の評価方法の各論として、臨床薬理試験、探索的試験、検証的試験、長期投与試験、そして自動車運転試験の試験計画における留意点を説明する。尚、臨床薬理試験、探索的試験、検証的試験及び長期投与試験の主な目的である対象疾患に対する有効性や安全性の評価に関する試験計画は、本ガイドライン以外の適切なガイドラインを参照されたい。また、臨床データパッケージの構成や各試験計画の詳細については、医薬品医療機器総合機構との相談を積極的に利用することが望ましい。
1.臨床薬理試験
臨床薬理試験では、有害事象の発現状況の検討の他に、治験薬の薬理学的作用を基に自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)に及ぼす影響をより高い感度で評価を行うことでシグナルを検出し、以後に実施する試験での評価方法を検討する。
(1) 自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価
治験薬の薬理学的作用やその時点で既に得られている臨床試験成績等から、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)のうち評価する機能を合理的に選択する必要がある。少なくとも治験薬の投与前及び投与終了時に行い、影響の持続期間や耐性の有無等の時間的関係についても評価を行う。自動車運転試験を実施する場合は、自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価の一部又は全てを自動車運転において行うことも可能である(「Ⅳ.1.自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法」の項参照)。
(2) 有害事象による評価
治験薬の薬理学的作用等に基づいて自動車運転に影響する有害事象を定義し時間的関係を検討する。
2.探索的試験、検証的試験及び長期投与試験
探索的試験、検証的試験及び長期投与試験では、自動車運転に影響する有害事象の発現状況について時間的関係を検討する。
自動車運転に影響する有害事象を積極的に収集することが重要である。また、臨床薬理試験における検討の結果、自動車の運転技能に影響を及ぼす可能性がある場合は、被験者の安全確保のために、標準化された評価尺度等を用いて前方視的な評価による観察を行うことが重要である。
自動車運転に影響する有害事象の発現時期、持続期間や耐性の有無等の時間的関係を評価できるように、適切な観察時期を設定することが重要である。
睡眠薬等の夜間に投与する治験薬の場合は、翌日への持越し効果の評価を行う。
3.自動車運転試験
(1) 目的と必要性
自動車運転試験は、実車又はシミュレーターのいずれかを用いて治験薬の自動車の運転技能に及ぼす影響をより高い特異度で評価することが目的となる。
自動車運転試験の実施の必要性は、治験薬の薬理学的作用、その時点で既に得られている臨床試験成績等により異なる。つまり、集積された情報から自動車の運転技能への影響が示唆される場合は、自動車運転試験を実施する必要があることがある。尚、以下の場合は、自動車運転試験の実施は必要がないことがある。
・ 自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)への明らかな影響がない場合(「Ⅴ.1.臨床薬理試験」の項参照)
・ 既に海外で実施された自動車運転試験があり、治験薬の有効性と安全性に民族的要因が影響を及ぼさないと考えられる場合
・ 薬理学的に覚醒度に影響する受容体等への親和性に大きな差異がない他薬剤で実施された自動車運転試験があり、臨床試験における自動車運転に影響する有害事象の発現状況や疫学研究の結果において、治験薬と当該薬剤の間で自動車の運転技能に及ぼす影響に大きな差異がないと考えられる場合
一方、既承認とは異なる対象疾患や用法及び用量で開発する場合は、新たに自動車運転試験の実施が必要になることがある。このため、自動車運転試験の実施の必要性については、臨床開発の早期の段階で規制当局と相談することが望ましい。
(2) 試験計画に関する留意点
① 対象集団
高齢者(65歳以上)を含め、将来的に実臨床で治験薬の使用が想定される患者集団を対象に臨床試験を実施することは、自動車の運転技能への影響を検討するためには重要である。一方で、患者を対象とした場合は健康成人を対象とした場合と比較して対象集団が均質とならないことがあり、自動車運転試験では評価が困難になる可能性がある。このため、健康成人と患者集団で、治験薬の自動車の運転技能に及ぼす影響に大きな差異がないと考えられる場合は、健康成人を対象とすることは可能である。
② 用法・用量
治験薬では、反復投与により耐性が生じることがあり、投与初期に自動車の運転技能に影響することがある。一方で、治験薬や活性代謝物の半減期が長い場合は、反復投与を行った際の血中濃度は単回投与より高くなることがあり、反復投与により自動車の運転技能に影響することがある。このため、自動車運転試験では、投与初期及び反復投与を行った際の影響を検討する必要がある。反復投与は、少なくとも治験薬及び活性代謝物の血中濃度が定常状態に達するまでの期間の投与を行い、耐性がある場合はこの期間を考慮する。
薬物代謝に関連する遺伝特性、特殊集団、そして薬物相互作用などを考慮して、臨床において想定される最大曝露量に相当する用量を含んだ用量群を設定する必要がある。
睡眠薬等の夜間のみの効果を期待する薬剤は、治験薬及び活性代謝物の血中濃度プロファイルを考慮して、日中の持越し効果を評価する。
③ 対照
治験薬の自動車の運転技能に影響をより高い特異度で評価するには、プラセボ群の他に陽性対照群を設定し分析感度を保つ必要である。
④ 評価項目
自動車運転試験の主要評価項目は、以下の点に留意して設定する必要がある。
・ 治験薬のプロファイルとして、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)のうち最も影響が大きいと考えられる機能との関連性が示された評価指標を主要評価項目に設定する必要がある。
・ 主要評価項目で得られた結果の臨床的意義を検討するために、測定値の平均値のみでなく、分布や臨床的意味のある基準値を用いた検討も行う必要がある。
走行環境のシナリオは、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)のうち最も影響が大きいと考えられる機能に適したシナリオを選択することが重要である。
向精神薬の代表的な有害事象には、神経系障害に関連する有害事象(傾眠や鎮静等)があり、自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)のうち覚醒機能への影響が最も大きいと考えられる場合は、単調な走行環境のシナリオにより、主要評価項目として走行中の横揺れの程度(SDLP:Standard Deviation of Lateral Position)を設定し、自動車の運転技能への影響を評価することが一般的である。SDLPの臨床的に意味のある基準値は、通常、自動車事故のリスクと関連が示されている血中アルコール濃度を指標にして設定される。
副次的な評価項目では、治験薬が自動車運転に関連する機能(覚醒機能、感覚機能、認知機能、精神運動機能)に及ぼす影響を評価することが有用である(「Ⅳ.1.自動車運転に関連する機能に及ぼす影響の評価方法」の項参照)。
Ⅵ.疫学研究の結果の活用
製造販売後調査や副作用報告を含む疫学研究の結果は、特定の医薬品と同種同効の医薬品の自動車の運転技能に及ぼす影響の差異や対象疾患ごとの影響の差異を検討するのに有益な情報となる可能性がある。したがって、前述した非臨床試験及び臨床試験の成績と実臨床から得られる疫学研究の結果を併せて、医薬品が自動車の運転技能に及ぼす影響を検討することも重要である(「Ⅴ.3.自動車運転試験」の項参照)。
本ガイドラインは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構からの委託により、「医薬品が自動車運転技能に与える影響の評価手法の開発」に関する研究班において、公益財団法人日本精神神経学会ガイドライン検討委員会と連携し原案の検討及び作成が行われた。同案につき各方面から寄せられた意見を踏まえて検討及び修正を加え、最終的な内容とした。
本ガイドラインで引用した臨床試験に関するICHガイドライン(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use:医薬品規制調和国際会議)
E8:臨床試験の一般指針について(平成10年4月21日付医薬審第380号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)
E9:「臨床試験のための統計的原則」について(平成10年11月30日付医薬審第1047号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)