添付一覧
○「臨床試験の一般指針」の改正について
(令和4年12月23日)
(薬生薬審発1223第5号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
近年、優れた新医薬品の研究開発を地球規模で促進し、患者へ迅速に提供するため、承認審査資料の国際的な調和の推進を図ることの必要性が指摘されています。このような要請に応えるため、医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、承認審査資料の国際的な調和の推進を図るための活動が行われているところです。
別添の「臨床試験の一般指針」(以下「本ガイドライン」という。)は、ICHにおける合意に基づき、用いられる幅広い臨床試験のデザインとデータソースを考慮しつつ、臨床試験における質の設計を含む、臨床開発のライフサイクルに関するガイダンスを提供するためにICH E8(臨床試験の一般的な指針)の改正を行ったものです。本ガイドラインでは、臨床試験における質を目的への適合性と捉え、試験の質を試験実施計画書及び手順にデザインすることにより、試験の質の積極的な向上を確実にすることを目指すクオリティ・バイ・デザインには、質に関する重要な要因(critical to quality factors;CTQ要因)に焦点を当てること及びリスクに応じたアプローチでそれら要因に対するリスク管理を行うことが含まれること等を示しています。
本ガイドラインでは、「臨床試験」という用語を用いており、主には医薬品開発に用いられる試験に焦点が当てられていますが、医療現場等で製造販売承認の前後のあらゆる時点で実施される様々な試験・研究においても適用できるように作成されたものです。つきましては、貴管内関係者に対し周知方お願いします。
なお、本通知の写しについて、別記の関係団体宛てに発出するので、念のため申し添えます。
別記
日本製薬団体連合会
日本製薬工業協会
米国研究製薬工業協会在日技術委員会
一般社団法人欧州製薬団体連合会
公益社団法人 日本医師会
公益社団法人 日本歯科医師会
一般社団法人 日本病院薬剤師会
公益社団法人 日本看護協会
一般社団法人 日本CRO協会
日本SMO協会
公益社団法人 全国自治体病院協議会
一般社団法人 日本病院会
公益社団法人 全日本病院協会
一般社団法人 日本医療法人協会
公益社団法人 日本精神科病院協会
総務省自治行政局公務員部福利課
文部科学省高等教育局医学教育課
防衛省人事教育局衛生官付
日本郵政株式会社事業部門病院管理部
健康保険組合連合会
国家公務員共済組合連合会
一般財団法人 船員保険会
公益社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会
全国厚生農業協同組合連合会
日本赤十字社
独立行政法人 労働者健康安全機構
独立行政法人 国立病院機構
独立行政法人 地域医療機能推進機構
日本医学会
独立行政法人医薬品医療機器総合機構
各地方厚生局
ICH E8(R1)
臨床試験の一般指針
目次
1.本指針の目的
2.一般的原則
2.1 試験の参加者の保護
2.2 臨床試験のデザイン、計画、実施、解析及び報告への科学的なアプローチ
2.3 医薬品開発への患者からの情報の反映
3.臨床試験における質の設計
3.1 臨床試験におけるクオリティ・バイ・デザイン
3.2 CTQ要因
3.3 CTQ要因を特定するアプローチ
3.3.1 開かれた対話を支える文化の形成
3.3.2 試験に不可欠な活動への集中
3.3.3 利害関係者の試験デザインへの関わり
3.3.4 CTQ要因のレビュー
3.3.5 運用上のCTQ要因
4.医薬品開発の計画
4.1 治験薬の品質
4.2 非臨床試験
4.3 臨床試験
4.3.1 臨床薬理
4.3.2 安全性および有効性に関する探索的及び検証的試験
4.3.3 特殊集団
4.3.4 承認後の試験
4.4 追加の開発
5.臨床試験のデザインの構成要素及びデータソース
5.1 試験の対象集団
5.2 試験治療の説明
5.3 対照群の選択
5.4 反応変数
5.5 偏りを低減する手法
5.6 統計解析
5.7 試験データ
6.実施、安全性モニタリングと報告
6.1 試験の実施
6.1.1 試験実施計画書の遵守
6.1.2 トレーニング
6.1.3 データマネジメント
6.1.4 中間データへのアクセス
6.2 試験実施中の参加者の安全性
6.2.1 安全性モニタリング
6.2.2 中止基準
6.2.3 データモニタリング委員会
6.3 試験の報告
7.CTQ要因を同定するための留意事項
補遺:試験の種類
1.本指針の目的
医薬品の臨床試験は、試験の参加者(被験者)を保護しながら、最終的には、患者に対して意味のある影響を持つ安全かつ有効な医薬品へのアクセスを向上させる情報を提供するために実施される。この文書は、多様な臨床試験デザインやデータソースが用いられることも考慮しつつ、臨床試験における質の設計を含む、臨床開発のライフサイクルに関する指針を提供する。
ICH文書である「臨床試験の一般指針」は、以下を目的としている。
1.参加者を保護し、かつ規制当局によるデータと結果の受入れを円滑に進める、臨床試験のデザインと実施に関する国際的に容認された原則と具体的なあり方を説明する。
2.医薬品のライフサイクルを通して、臨床試験の設計や実施において質を検討するための指針を提供する。この指針には、試験の計画段階における試験の質に大きな影響を与える要因の特定と、実施段階におけるそれら要因に対するリスク管理が含まれる。
3.医薬品のライフサイクルを通して実施される臨床試験の種類の概要を提供し、それらの臨床試験について、試験での参加者の保護、データのインテグリティ(完全性)、結果の信頼性及び目的を達成するための試験の能力を保証するために重要な、質に関する要因の特定を支援する試験デザインの構成要素を説明する。
4.有効性に関するICHガイドラインへの利用者のアクセスを促進するため、手引きを提供する。
一般的原則は本文書の2章で説明され、3章の臨床試験におけるデザインの質に関する説明に続く。医薬品開発計画の概要と、医薬品のライフサイクルを通して開発を進めるために必要な様々な種類の試験によって提供される情報については、4章に記載される。5章では、医薬品開発で使用されるデザインと利用可能なデータソースの範囲の多様さに対応した臨床試験デザインの重要な要素が説明される。6章では、試験の実施、参加者の安全性の確保及び試験の報告について論ずる。試験の質に重要な要因を特定するための留意事項が7章で示される。
ICHの有効性ガイドライン群は、臨床試験の計画、デザイン、実施、安全性、解析及び報告を扱う一連の指針である。ICH E8は、臨床開発、臨床試験に質を設計すること、試験の質に重要な要素へ焦点を当てることに関する全般的な概論を提供する。これらの指針は、一つの指針又はその一部のみに焦点を合わせるのではなく、統合され包括的な手法で検討し、用いるべきである。
本文書において、臨床試験とは、製造販売承認の前後において、医薬品のライフサイクルのあらゆる時点で実施される、ヒトにおける一つのあるいは複数の医薬品についての試験を指す。焦点は、規制上の意思決定を支援するための臨床試験に当てられており、これらの試験は健康政策の決定、臨床診療ガイドライン、又はその他の取り組みにも役立つ可能性があると考えられる。「Drug」(医薬品)という用語は、治療、予防、又は診断用の医薬品(medicinal product)と同義である。「医薬品の承認」という用語は、医薬品の製造販売承認を取得することを意味する。
2.一般的原則
2.1 試験の参加者の保護
臨床試験の倫理的な実施と特殊集団を含む参加者の保護の重要な原則は、ヘルシンキ宣言を起源としており、ヒトを対象とする全ての医薬品の臨床試験の実施において遵守されるべきである。これらの原則は、他のICHガイドライン、特に医薬品の臨床試験の実施基準であるICH E6に記載されている。
E6ガイドラインで更に説明されているように、治験担当医師と治験の依頼者は、治験審査委員会/独立倫理委員会とともに、試験参加者を保護する責任がある。
参加者の特定が可能な情報の機密性は、適用される規制及び法的要件に従って確保されなければならない。
臨床試験の開始前には、計画するヒトに対する試験において医薬品が許容可能な程度に安全であることを保証するために十分な情報が入手されているべきである。新たに入手される非臨床、臨床及び医薬品の品質データは、それらが入手されるごとに、参加者の安全性に対する潜在的な影響を評価するため、必要な知識・知見を有する専門家により検討され、評価されるべきである。新たに入手した知見を考慮し、参加者を保護するために、必要に応じて実施中、及び将来の試験に適切な調整を行うべきである。医薬品開発全体を通して、全ての手順・評価が科学的観点から必要であると判断できるように注意を払うべきであり、参加者に過度の負担をかけないように配慮すべきである。
2.2 臨床試験のデザイン、計画、実施、解析及び報告への科学的なアプローチ
人を対象とする研究の本質は、重要な問題を提起し、適切な試験によってそれに答えることである。いずれの試験においても、主要な目的は、リサーチクエスチョンが反映され、明確にされ、明言されるべきである。臨床試験は、その目的を達成するために、理に適った科学的な原理に従って、デザインされ、実施され、解析され、報告されるべきである。
本文書では、臨床試験における質を、目的への適合性と考える。臨床試験の目的は、参加者を保護しながら、リサーチクエスチョンに答えるために、信頼できる情報を生成し、意思決定を支援することである。したがって、生成される情報の質は適切な意思決定を支援するのに十分であるべきである。
臨床試験のクオリティ・バイ・デザインとは、試験の質を試験実施計画書及び手順にデザインすることにより、試験の質の積極的な向上を確実にすることを目指すものである。これには、試験実施計画書及び手順のデザインの質を、存在するリスクに釣り合うように向上させるための、前向きで多くの専門分野にわたるアプローチの使用とそれがどのように達成されるかの明確なコミュニケーションが含まれる。
医薬品のライフサイクルを通して、様々な種類の試験が異なる目的とデザインで実施され、またデータソースも様々であり得る。本指針では、開発計画は医薬品のライフサイクル全体を扱うものとする(4章)。補遺は、医薬品開発の様々な段階の目的別に、試験の種類の広範な分類を示している。試験は、試験の対象集団や反応変数の選択、結果の偏りを最小化する方法の使用等といったデザインの要素に注意を払いながら、試験の目的に応えるように緻密にデザインすべきである(5章)。
順序立てて実施される試験の背景にある基本的な論理は、先行する試験結果の情報を踏まえ、後の試験が計画されるべきであるということである。新たに入手したデータはしばしば開発戦略の変更を促すであろう。例えば、検証的試験の結果は、追加の臨床薬理試験の必要性を示唆する可能性がある。
ICHガイドラインの調和により、医薬品開発プログラムの国際化が進んだ結果、複数地域のデータが利用可能となり、異なる地域で個別の試験を実施する必要性が最小限に抑えられている。試験結果は複数の地域の規制当局への申請に使用されることが多く、試験のデザインは、実施する地域以外の地域における試験結果の適用可能性も考慮すべきである。更なるガイダンスは、民族的要因に関するICH E5、ICH E6及び国際共同治験に関するICH E17により提供される。
各地域における要求事項を理解するために、早い段階から規制当局の関与を得ることが推奨され、これは、試験に質を作り込むことを促す。
2.3 医薬品開発への患者からの情報の反映
医薬品開発に際して、患者や患者団体に意見を求めることは、患者の視点を確実に捉えることを促す。患者(又はその介護者/親)の視点は、医薬品開発の全ての段階を通して有意義になり得る。試験をデザインする早い段階で患者が参画することは、試験への信頼を高め、組入れを容易にし、試験計画の遵守を促進する可能性がある。また、患者は、病態と共に生きる上での視点も提供する。患者にとって意義のあるエンドポイントの設定、適切な対象集団や試験期間の選択、許容できる比較対照の使用などを決定する際に手助けとなる場合もある。これは最終的に、患者のニーズにより適合した医薬品の開発を支援する。
3.臨床試験における質の設計
臨床試験に対するクオリティ・バイ・デザインの方法(3.1項)は、参加者の権利、安全性及び福利の保護、信頼性の高い意味のある結果を得るための質に関する重要な要因(critical to quality factors;以下「CTQ要因」)に焦点を当てることと、リスクに応じたアプローチによりそれら要因に対するリスク管理を行うことを含む(3.2項)。このアプローチは、試験のデザイン及び計画時から、その実施、解析、報告全体を通して、CTQ要因の特定と評価のための適切な枠組みの確立により維持される(3.3項)。
3.1 臨床試験におけるクオリティ・バイ・デザイン
臨床開発プログラムにおける質は、臨床試験のデザイン、計画、実施、解析及びその報告で第一に考慮すべき事項であり、臨床開発プログラムに必要な要素である。臨床試験において、重大な誤りを防止しながら信頼できる方法でリサーチクエスチョンに答える可能性は、試験の実施計画書、手順、関連する運用計画及びトレーニングの全ての構成要素のデザインに前向きな注意を払うことで飛躍的に向上する。事後的に実施される文書やデータのレビューやモニタリング等の活動は、質の保証のプロセスの重要な部分である。しかしながら、監査と組み合わせた場合においてすら、これらの活動は臨床試験の質を保証するには十分ではない。
5章において説明される、以下のような臨床試験のデザイン要素に留意することも、適切な計画や実施に繋がる。
・ 主要な科学的疑問に答えるための、明確に事前に定義された試験の目的の必要性
・ 試験で対象とする、疾患、病態、分子/遺伝的プロファイルを有する適切な参加者の選択
・ ランダム化や、盲検化あるいはマスキング及び/又は交絡の制御等の偏り(バイアス)を最小化する手法の使用
・ 明確に定義され、測定可能であり、臨床的に意義があり、かつ患者にとって適切なエンドポイント
試験の実施可能性の明確な理解、適切な実施医療機関の選定、特殊な分析及び検査機関と手順の質、及びデータのインテグリティを保証するプロセスといった運用基準もまた重要である。
3.2 CTQ要因
試験の質の保証に関連する基本的な要因は、試験ごとに特定されるべきである。試験の質にとって極めて重要な要因は強調されるべきである。これらCTQ要因は、参加者の保護、試験結果の信頼性と解釈の可能性及び試験結果に基づく意思決定の根本となる試験の属性である。これらの質に関する要因は、そのインテグリティが試験デザイン又は実施上の誤りにより損なわれた場合に、意思決定の信頼性あるいは意思決定の倫理性もまた損なわれることから、極めて重要と考えられる。CTQ要因は、要因間の依存的な関係を特定できるよう、俯瞰的に検討すべきである。本文書の7章は、試験のCTQ要因の特定に役立つ考慮すべき事項を示す。
臨床試験のデザインは、治療・診断又は予防されるべき病態、これらの背景にある(病態及び治療の両方に関する)生物学的機序、及び医薬品の対象として意図されている集団といった、その医薬品に関する知識や経験が反映されるべきである。研究開発が進むにつれて、知見が蓄積し、薬理作用、安全性及び有効性に関する不確実性は減少する。医薬品に関する知見は、臨床開発のいずれの時点においても、CTQ要因の特定とそれらを制御するプロセスに対して継続的に情報を与える。
臨床試験における質を作り込もうとする試験の依頼者及び関係者は、CTQ要因を挙げるべきである。当該要因を挙げた後には、これらのインテグリティを脅かすリスクを特定し、リスクが生じる可能性、検出可能性及び影響の大きさに基づき、リスクが受入れられるか又は軽減されるべきかを判断することが重要である。リスクを軽減する必要があると判断した場合は、必要な制御のプロセスを整備して周知し、リスク軽減のために必要な行動をとるべきである。リスクという用語は、ここでは、臨床試験のあらゆる要因に対して適用可能な、一般的なリスク管理の方法論を意図して使用されている。
CTQ要因についての事前の積極的なコミュニケーションとリスク軽減のための活動は、試験の依頼者及び実施医療機関にとっての優先順位付けやリソースの配分をどのように行うべきかを理解しやすくするであろう。試験実施計画書、手順及び関連する運用計画とプロセス設計の適切な実装には、積極的な支援(例えば、現場スタッフへの役割に応じたトレーニング、試験実施計画書における質の要因と潜在的なリスク軽減策の記載)が重要である。
活動のあらゆる面を完璧にすることは、およそ不可能であるか、得られる恩恵に見合わないリソースを投入しなければ達成されない。質に関する要因は、試験をデザインする時点で、重要なものを特定するために、優先順位をつけるべきであり、試験手順は試験に内在するリスク及び得られる情報の重要性と釣り合いの取れたものにすべきである。CTQ要因は、明確であるべきであり、かつ軽微な問題(例えば、広範な二次的目的、適切な参加者の保護及び/又は試験の主要な目的に関連しないプロセス/データ収集)に煩わされるべきではない。
3.3 CTQ要因を特定するアプローチ
試験デザインを質の面から検討する際に重要なことは、その試験が答えようとしている目的が明確で理路整然としているか、つまり、この試験が取り組むべきリサーチクエスチョンを満たすようにデザインされているか、これらのリサーチクエスチョンが患者にとって意義があるか、そして、試験の仮説が具体的かつ科学的に妥当であるかを問うことである。CTQ要因を特定する際には、選択したデザインとデータソースが、これらの目的を十分かつ最も効率的に達成できるかを検討すべきである。試験をデザインする早い段階において患者と相談することは、このアプローチに寄与し、最終的にはCTQ要因の特定を助ける。試験デザインは、実施可能なものとすべきであり、必要以上に複雑にすることは避けるべきである。試験実施計画書と症例報告書/データの収集方法は、試験がデザインどおりに実施できるようにすべきであり、必要以上のデータ収集を避けるべきである。
以下の要素を含むアプローチにより、試験のCTQ要因がよりよく特定されるであろう。
3.3.1 開かれた対話を支える文化の形成
ツールやチェックリストだけに頼るのではなく、特定の試験や開発プログラムの質にとって何が重要であるかについて、批判的思考や率直で前向きな対話を重視し、それに報いる文化の形成することが推奨される。率直な対話は、質を確保するための革新的な方法の開発を促進する。
柔軟性を欠く画一的なアプローチは推奨されない。質の高い臨床試験を実施するには、標準化された運用手順が必要であり有益であるが、試験の質を効果的かつ効率的に支援するには、各試験に固有の戦略と活動も必要である。
試験デザインに有用となるエビデンスは、試験開始前及び試験中に透明性のある方法で収集及びレビューすべきであり、その際に、データの乖離や矛盾するデータが存在する場合にはそれを認めると共に、そのような乖離又は矛盾が発生しうることを予め念頭におくべきである。
3.3.2 試験に不可欠な活動への集中
試験結果を患者と公衆衛生にとって信頼でき意義があるものとし、かつ参加者のために試験を安全で倫理的に実施するために、本質的な活動に労力を集中すべきである。試験の実施を単純化し、効率を改善し、重要な領域にリソースを注ぐことによって質を向上させるために、本質的ではない活動とデータ収集を試験から除くことを検討すべきである。リソースは、重要な誤りを特定して防止又は制御するために割かれるべきである。
3.3.3 利害関係者の試験デザインへの関わり
患者や医療者を含む幅広い利害関係者からの情報は、臨床試験のデザインに最も有用である。試験の依頼者自身の組織のみならず、外部の専門家や利害関係者からの意見も率直に聴取すべきである。
治験担当医師や、治験コーディネーター及び他の現場スタッフ、患者/患者団体等、試験の成功に直接関わる人々の参画は、試験に質を作り込むプロセスに情報を与える。治験担当医師及び参加者となりうる患者は、提示された適格基準を満たす参加者を登録できる可能性や、試験の来院スケジュールや手順が過度な負担となり早期脱落に繋がる可能性、対象とする患者集団における試験のエンドポイントや試験の設定に関する一般的な妥当性についての価値ある識見を有する。彼らはまた、倫理的問題、文化、地域、患者背景及びその他の特徴による対象となる患者集団内の部分集団における、治療の有用性についての洞察も与えてくれる可能性がある。
早い段階から規制当局の関与を得ることを考慮すべきであり、特に試験が質に関して重要と考えられる新規の要素(例えば、患者集団、手順又はエンドポイントの定義)を含む場合は重要である。
3.3.4 CTQ要因のレビュー
試験が開始されてから新たな問題や予期しない問題が発生する可能性があるため、蓄積された経験と知見に加え、CTQ要因を定期的に見直すことにより、リスクを制御する方法の調整が必要かどうかを判断すべきである。
試験中の試験計画の変更及び/又は中間的な意思決定時点を含む試験は、前向きな計画とCTQ要因の継続的なレビュー及びリスク管理において、特別な注意が必要である(ICH E9臨床試験における統計的原則)。
3.3.5 運用上のCTQ要因
試験の成功の基となるものは、科学的に正当で、かつ運用上実施可能な試験実施計画書である。実施可能性の評価には、運用上の観点から臨床開発の成功に影響を及ぼす可能性のある、試験デザイン及び実施上の要因の検討が含まれる。
実施可能性に関して考慮すべき事項には、医療環境と患者集団における地域差や、臨床試験の実施経験を持つ適格な治験担当医師/医療機関スタッフ(ICH E6)の確保状況、臨床試験を問題なく実施するために必要な機器及び設備の確保、対象となる患者集団の確保、及び試験の目的を満たすために十分な数の参加者を登録する能力が含まれるが、これらに限定されるものでもない。参加者が試験に参加し続けることや参加者のフォローアップも、CTQ要因である。試験の実施可能性に関連するここにあげた要因を含めCTQ要因を考慮することは、試験デザインに情報をもたらし、質の実装を強くすることを可能とする。
4.医薬品開発の計画
この項では、医薬品開発計画において考慮すべき一般原則を説明する。医薬品開発計画は、結果の信頼性と解釈の可能性を担保する科学的研究と、優れた試験デザインの原則に従う。効率的な医薬品開発は、製品の品質の要件との整合性を確保し、残された課題に対処するための承認後の試験を含む、病態又は疾患に対する承認の支持のための、開発全体を通しての適切に計画された規制当局との対話が含まれる。このプロセス全体を通して、参加者の権利、安全性及び福利の保護は最も重要な留意点である。
医薬品開発の計画は、標的の特定から非臨床、臨床評価へと移行しながら不確実性を低減するように、開発のプロセスを通じた知見に基づいて構築していく。このような計画には、化学、製造及び管理(CMC)を含む医薬品の品質と、非臨床及び臨床試験(承認前及び承認後)が含まれる。モデリング&シミュレーションは、医薬品開発のプロセスを通して情報をもたらす可能性がある。計画には、医療技術評価等、市場への医薬品導入に関して、各地域において考慮すべき事項も含まれる場合がある。
ライフサイクル全体を通して、医薬品の開発や評価に関わる利害関係者の経験、視点、ニーズ、優先順位を確実に把握し、医薬品開発の計画に有意義に反映させることが重要である。
臨床開発では、バリデートされたバイオマーカーや、診断のための検査、医薬品の安全で効果的な医薬品使用を支援する機器等を併せて開発することが要件となる場合がある。
医薬品開発に寄与する可能性のある試験の種類は4.2項と4.3項に記載され、補遺に要約される。
4.1 治験薬の品質
治験薬の適切な品質の確保と物理化学的特性の把握は、医薬品開発計画を立案する上で重要な要素であり、ICH及び各地域の品質に関するガイドラインで扱われている。生物製剤を含め複雑な製品では、より広範な特性評価が必要になるであろう。製剤は、可能な場合にはバイオアベイラビリティに関する情報を含め、医薬品開発計画で十分に特徴付けられているべきであり、医薬品開発の各段階と対象となる患者集団に適しているべきである。小児の集団での臨床試験を計画する場合には、年齢に応じた製剤開発が検討事項となることがある(ICH E11―E11A小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンス)。
医薬品の品質の評価は、その投与に必要な機器や対象集団を特定するためのコンパニオン診断薬等にまで及ぶ可能性がある。
開発期間中における製剤の変更は、開発プログラム全体にわたる試験結果の解釈可能性を担保するために、変更前後の比較が可能なデータによって裏付けられるべきある。これには、生物学的同等性試験又は他の手段を通して製剤間の関係を確立することが含まれる。
4.2 非臨床試験
非臨床安全性試験に関するガイダンスは、ICH M3臨床試験のための非臨床試験の実施時期、ICH安全性ガイドライン、関連するQ&A文書、及び各地域のガイダンスで提供されている。非臨床の評価には、通常、臨床試験を支持する、毒性、がん原性、免疫原性、薬理学、薬物動態、及びその他の評価が含まれる(また、in vivo及びin vitroモデルや、モデリング&シミュレーションによって生成されたエビデンスが含まれる場合がある)。実施する臨床試験に対して必要とされる非臨床試験の範囲と実施時期は、更なる開発に情報を与える様々な要因によって定まる。この要因としては、例えば、薬剤の化学的又は分子的特性、主たる効果に関する薬理学的特性(作用機序)、投与経路、吸収・分布・代謝・排泄(ADME)、各臓器系への生理学的影響、用量/濃度―反応関係、代謝物、効果の持続期間、使い方などがある。特殊集団(妊婦、授乳婦、小児等)での医薬品の使用には、追加の非臨床での評価を必要とする場合がある。特殊集団におけるヒトの臨床試験の実施を支持するための、非臨床安全性試験のガイダンスを確認すべきである。(ICH S5生殖発生毒性試験、S11小児用医薬品開発の非臨床試験及びM3等を参照)。
医薬品の生理学的及び毒性学的な作用を含む非臨床での特性の評価は、臨床試験のデザイン及びヒトでの予定される使い方の検討材料になる。ヒトでの試験を開始する前には、ヒトでの初期用量と安全な曝露期間の設定のための、十分な非臨床の情報を得ているべきである。
4.3 臨床試験
医薬品の臨床開発は、ヒトにおいて医薬品を研究することと定義され、それぞれの時点までに実施された非臨床試験や臨床試験から得られた知見を基に、順序だてて行われる。臨床開発プログラムの全体像は様々な検討によって形作られるもので、個々の試験は、異なった目的、異なったデザイン、開発の中の時々に応じた異なった背景を有している。本文書の補遺では、様々な目的に応じた試験の例を列挙している。医薬品の臨床開発は4つの相(第1相―第4相)で成り立つといわれるが、相の概念は説明上のものであって、要件ではないこと、相を明確に分けることができない場合があること、複数の相にまたがる試験があり得ることを理解することが重要である。
新薬を効率的に開発するためには、開発の初期段階でその特徴を明らかにし、そのプロファイルに基づいて適切な開発プログラムを計画することが不可欠である。初期の臨床試験では、短期的な安全性と忍容性を早期に評価するため、あるいは有効性のproof of conceptを示すために、試験規模や試験期間が制限されることがある。これらの試験は、後に実施される臨床試験における適切な用量範囲や投与スケジュールを決定するために必要な、薬力学、薬物動態等の情報源となりうる。医薬品の知見が蓄積されていくにしたがい、臨床試験の症例数が大きくなることや、期間が長くなること、より多様な集団が組み入れられること、有効性の主要評価項目に加えてより多くの副次的評価項目が含まれることがある。開発を通して新たに得られたデータは、追加試験の必要性を示唆することがある。
バイオマーカーの利用は、医薬品のより安全でより効果的な使用を促進し、用量選択に指針を与え、医薬品のベネフィットとリスクのプロファイルをより良くする可能性があり(ICH E16ゲノム薬理を参照)、医薬品開発の中で検討されうる。臨床試験において、ベネフィットを得る可能性が高く有害事象を生じる可能性が低い患者をより適切に選択するため、あるいは臨床応答を予測しうる中間的なエンドポイントとして評価するために、バイオマーカーの利用が評価されることがあるかもしれない。
以下の項では、ヒトでの最初の試験から後期開発及び承認後までにわたる臨床開発において、典型的に実施される試験の種類について説明する。
4.3.1 臨床薬理
初期の臨床試験のデザインをする際、特にヒトへの治験薬の初回投与(通常は第1相と呼称される)の際には、参加者の保護を常に最優先とする必要がある。これらの試験は、薬剤の特性及び開発プログラムの目的に応じて、健康なボランティア又は病態あるいは疾患を有する患者から選択された集団を対象に実施される。
これらの試験では通常、以下にあげるそれぞれの観点、あるいは複数の観点を組み合わせて検討される。
4.3.1.1 初期の安全性と忍容性の推定
ヒトへの医薬品の初回及びその後の投与は、通常、後の臨床試験で評価されると見込まれる用量範囲の忍容性を見極め、予期される副作用の特徴を判断することを目的としている。これらの試験は通常、単回投与及び反復投与の両方を含む。
4.3.1.2 薬物動態
医薬品の吸収・分布・代謝・排泄の特性の評価は開発計画を通して継続するが、予備的な特性の評価は欠くことのできない早期の目標である。薬物動態試験では、薬剤のクリアランスを評価し、未変化体又は代謝物の蓄積の可能性、代謝酵素及びトランスポーターとの相互作用、並びに薬物相互作用の可能性を予測することが特に重要である。より詳細な問いに答えるために、薬物動態試験が開発後期に行われることも一般的である。経口投与される医薬品は、食事に関連した投薬指示についての情報を与えるために、バイオアベイラビリティに対する食事の影響に関する試験が重要である。代謝又は排泄が異なる可能性のある患者集団、例えば、腎機能障害患者又は肝機能障害患者、高齢者、小児及び民族の部分集団における薬物動態学的な情報の入手を検討すべきである(ICH E4用量―反応試験、E7高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン、E11、E5)。
4.3.1.3 薬力学と早期の薬物活性の測定
医薬品や関心のあるエンドポイント次第では、薬力学試験及び薬物の濃度と反応に関する試験(PK/PD試験)が、健康なボランティア又は病態あるいは疾患を有する患者を対象として行われる。適切な指標がある場合、薬力学的データから効果及び有効性の早期の推測が可能であり、後の試験における用量・用法の指針となる。
4.3.2 安全性および有効性に関する探索的及び検証的試験
開発初期の臨床試験で安全性、臨床薬理学、投与量に関する十分な情報が得られた後に、医薬品の安全性と有効性の両者を更に評価するために、探索的及び検証的試験(通常は各々第2相及び第3相と呼称される)が実施される。この目的は、医薬品と患者集団の特性に応じて、単一又はいくつかの試験で組み合わせることができる。探索的及び検証的試験では、試験の目的に応じて、様々な試験デザインを使用できる。
探索的試験は、その医薬品の対象となる患者から選択された集団における安全性及び有効性を評価するようにデザインされる。さらに、これらの試験は、有効な用量とレジメンを精緻なものとすることを目的とし、対象集団の定義を明確にし、医薬品に対するより強固な安全性プロファイルを提供し、後の試験のためのエンドポイントを検討することを含むであろう。探索的試験は、治療効果に影響を与える要因の候補を挙げ、決定するための情報を提供し、状況によってはモデリング&シミュレーションと組み合わせて、後の検証的試験のデザインの裏付けとなることがある。
検証的試験は、意図された適応症並びに対象集団での医薬品の使用が安全で有効であるという、初期の臨床試験で蓄積された予備的なエビデンスを検証するためにデザインされる。これらの試験は、承認のための適切な根拠を提供し、医薬品の使用のための適切な指示と公式な医薬品情報を裏付けることを一般に目的とする。検証的試験は、承認後に医薬品が投与される集団を代表する、病態や疾患を有する又は病態や疾患のリスクを有する参加者における医薬品の評価を目的とする。これには、頻繁に発生又は潜在的に関連する合併症(例えば、心血管疾患、糖尿病、肝障害及び腎障害)を有する患者での安全で有効な医薬品の使用を特徴付けるための、当該部分集団における検討が含まれる。
検証的試験では、複数の用量や、疾患のステージに応じた医薬品の使用、一つ又は複数の他の医薬品と組み合わせた使用における有効性及び安全性を評価することがある。医薬品を長期にわたり投与することが想定される場合には、長期間の曝露を含んだ試験を実施すべきである(ICH E1「致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間」)。想定される投与期間によらず、医薬品の効果の持続に関する情報は、フォローアップの期間の参考情報となる。
検証的試験のために選択されたエンドポイントは、臨床的に意味のあるもので、疾患のつらさを反映しているか、又は疾患のつらさや後の経過を予測するための適切な代替であるべきである。
4.3.3 特殊集団
一部の集団は、一般の集団とは異なるリスク/ベネフィット上の留意点がある場合や、医薬品の投与量と投与スケジュールの変更が必要になる場合があることから、医薬品の開発の中で追加の検討が求められる。ICH E5及びE17は、民族的要因が医薬品の効果に与える影響を評価するための枠組みを提供している。脆弱な集団に対するインフォームド・コンセントについては、倫理的な配慮から特に注意を払うべきである(ICH E6及びE11)。特殊集団での試験は、これらの集団での医薬品の効果を理解するために、開発のいずれの段階でも実施することができる。特殊集団に関して考慮すべき幾つかの事項を次に掲げる。
4.3.3.1 妊婦での検討
妊娠中に使用される可能性のある医薬品の検討は重要である。妊娠中の女性ボランティアが臨床試験へ組み入れられる場合、又は参加者が試験の途中に妊娠した場合、妊娠とその結果の追跡評価、並びにその転帰の報告は必要である。
4.3.3.2 授乳婦での検討
医薬品又はその代謝物の乳汁への排泄は、該当する場合及び実施可能な場合に検討すべきである。授乳婦が臨床試験に組み入れられている場合、通常、乳児に対する医薬品の影響についても観察する。
4.3.3.3 小児での検討
ICH E11は、小児用医薬品の開発における重要な課題の概要と、小児集団における医薬品の安全で効率的かつ倫理的な試験へのアプローチを提供する。
4.3.3.4 高齢者での検討
ICH E7は、高齢者集団で使用する医薬品の開発における重要な課題の概要と、安全で効率的かつ倫理的な試験へのアプローチを提供する。
4.3.4 承認後の試験
医薬品の承認後、承認された適応症における医薬品の安全性と有効性を更に理解するために、追加の試験が行われる場合がある(通常、第4相と呼称される)。これらは承認に必要であるとは考えられていなかったが、医薬品の使用の最適化のためにしばしば重要な試験となる。これらは、どのような種類のものでもあり得るが、妥当な科学的目的を有しているべきである。承認後の試験は、当局からの要求に対処するために実施される場合がある。
承認後の試験は、製造販売承認前に実施された試験よりも多様な集団における医薬品の有効性、安全性及び使い方に関する追加の情報を提供するために実施される場合がある。長期の追跡を伴う試験又は他の治療の選択肢や標準治療との比較を伴う試験は、安全性と有効性に関する重要な情報を提供する可能性がある。一般的に実施される試験には、追加の薬物相互作用、用量反応又は安全性の試験や、承認された適応症の下での使用を支援するようにデザインされた試験(例えば、死亡率/罹患率の試験、疫学研究)が含まれる。これらの試験は、実際の医療現場での医薬品の使い方を探索する可能性があり、医療経済学及び医療技術評価にも情報を提供する可能性がある。
4.4 追加の開発
最初の承認後、新たな患者集団に対する適応症の追加又は変更、新規の投与方法、新投与経路の試験により、医薬品の開発が続けられる場合がある。新用量、新剤型、新剤形、新配合を試験する際、追加の非臨床及び/又は臨床薬理試験が必要となることがある。それまでの試験や既承認薬の臨床経験からのデータは、これらの計画に情報をもたらすことがある。
5.臨床試験のデザインの構成要素及びデータソース
試験の目的は、試験デザインとデータソースの選択に影響を及ぼし、試験が規制上の意思決定と実際の診療を支援する強さに影響を与える。4章で述べたように、医薬品開発には様々な試験の目的がある。同様に、これらの目的に対処するための幅広い試験デザインとデータソースが存在する。5.1項から5.6項では、試験計画を定めるために使用される主要な要素について記し、5.7項では、試験に用いられる様々なデータソースについて記す。
明確な目的は試験デザインを特定することを助け、逆に、デザインを特定する過程で目的が更に明確になることもある。デザインの段階において、実施上の検討事項や限界、又はCTQ要因に対する他のリスクが特定された場合、試験の目的の修正が必要な場合もある。試験の目的は、estimandを特定することで更に明確になる。ICH E9(R1)補遺:臨床試験の統計的原則で説明されているestimandは、試験の目的によって提起されている臨床的な疑問を反映した、治療効果の詳細な記述である。estimandは、比較されている異なる治療状況下で同じ患者にどのような結果がもたらされるかを集団レベルで要約する。
試験の特徴に関する重要な区分は、試験の手順として各個人への治験薬の割付が制御されているか、又は薬剤への割付が制御されていないが、薬剤への曝露が試験で観察されているかどうかである。本文書においては、前者を介入試験と呼び、後者を観察研究と呼ぶ。
介入試験、特にランダム化試験は、より適切に偏りを制御できるため、医薬品開発において中心的な役割を果たす。ランダム化試験のデザインは、単純な並行群間デザインから、より複雑なものまで様々である。例えば、アダプティブデザイン試験は、蓄積されていくデータに基づいて、試験対象集団の変更や、試験の過程で検討される薬剤の用量の変更等、事前に計画された試験デザインの変更を可能とする。マスタープロトコル試験は、共有する枠組みの下で、複数の薬剤又は複数の条件の検討を可能にする。プラットフォーム試験は、事前に規定された判断基準に基づいて、異なる医薬品が異なる時点で試験に加わり、また試験から外れるといった形で、複数の医薬品を継続的に検討することができる。
ランダム化を行わない試験(介入試験、観察研究を問わず)は、ランダム化が実施困難な場合の特定の状況でも同様に役立つ可能性がある。観察研究は承認後に行われることが多いが、医薬品の開発を含め、ライフサイクル全体にわたってエビデンスを補強する情報源として有用である可能性がある。
試験デザインの多様化と共に、試験が用いるデータのソースも多様化している。従来、試験では試験に特化したデータ収集プロセスが用いられてきた。電子診療記録やデジタルヘルステクノロジー等から取得したデータは、試験の効率や試験結果の一般化可能性を高めるために活用される可能性がある。
この項では、対象集団、試験治療、対照群、反応変数、偏りを低減する方法、統計解析、データソース等、臨床試験のデザインを定義する重要な要素を示す。これは、試験の目的を達成するために必要なCTQ要因の特定をするのに役立つと同時に、試験のデザインに柔軟性をもたらし、試験実施の効率を上げることを目的としている。ここでは介入試験に焦点を当てているが、介入試験と観察研究の両方に適用できる説明を意図している。ここで概説する要素は、現在臨床試験で使用されている、及び将来開発される可能性のある、試験の種類とデータソースに関連すると考えられる。
5.1 試験の対象集団
試験の対象集団は、試験の目的を裏付けるように選択されるべきであり、試験の選択及び除外基準により定義される。試験に望ましい対象集団をどの程度登録することができるかは、試験の目的を達成できるかどうかに影響を及ぼす。
試験の対象集団は、参加者へのリスクを低減するため、あるいは特定の効果を検出する試験の感度を最大化するために、狭く定義する場合がある。逆に、医薬品の使用の対象となる多様な集団により近いものとするために、広く定義される場合もある。一般に、開発プログラムの初期段階で実施する試験では、医薬品の安全性についての知見はわずかであり、試験の対象集団の定義においてより均質である傾向がある。医薬品開発の後期又は承認後の試験では、試験の対象集団がより不均一である傾向がある。このような試験では、医療現場で実際に治療が行われる多様な集団を代表する参加者が含まれるべきである。疾患の転帰又は介入の効果を予測する可能性のある、参加者の特徴に関する利用可能な知見により、試験の対象集団を更に明確に定義することが可能となる。
試験の参加者数(サンプルサイズ)は、提示された問題に信頼のおける解答を与えられるよう十分な大きさであるべきである(ICH E9を参照)。試験に必要な参加者数は、通常、試験の主要な目的により決められる。参加者数がその他の理由から決定される場合には、その理由を明確にし、正当化しておくべきである。例えば、安全性に関する問題又は重要な副次目的に基づいて参加者数が決定される試験では、主要な有効性の問題に基づいて参加者数が決定される試験よりも多くの参加者数を必要とするであろう(ICH E1を参照)。試験の目的に特定の部分集団に関する情報の入手が含まれる場合は、これらの部分集団を適切に代表する参加者が確保されるよう努力を払うべきである。
5.2 試験治療の説明
試験における対照を含む試験治療は、明確かつ具体的に記されるべきである。これらは、個別の治療(異なる用量又はレジメンを含む)、治療の組み合わせ、又は無治療である場合もあり、基礎治療の特定を含めることもある。試験治療の定義は、試験の目的に沿っているべきである(ICH E9(R1))。例えば、医療現場における治療効果を検討することが目的であれば、基礎治療がある場合、参加者と医療者の裁量に委ねると規定することもある。特定の基礎治療に追加した場合の薬剤の効果を理解することが目的である場合、その基礎治療は、対照群を含む全ての治療群について明示的かつ具体的に定義されるべきである。
5.3 対照群の選択
対照群の主たる目的は、試験治療の効果を、疾患の自然経過、他の医療行為、又は評価者若しくは患者の期待等の他の要因による効果と区別することである(E10臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題)。関心のある試験治療の効果は、試験の対象となっている医薬品の投与を受けていない場合、あるいは他の治療を受けている場合と比較した効果であろう。比較の対象は、プラセボ、無治療、実薬対照又はその医薬品の異なる用量となるであろう。
対照群のデータソースは、試験の内部又は外部であり得る。内部対照を利用する目的は、治療群間の違いが受けた治療のみに起因し、参加者の選択や、アウトカムのタイミングや測定方法等の違いに起因するものではないことの保証を支援することである。内部対照群の特殊なケースでは、各参加者が薬剤と対照薬を異なる時点で投与されることにより、自身の内部対照となる。外部対照では、その対象は外部ソースから選択され、実施中の試験の参加者より早い時期(ヒストリカル対照群)、又は同時期ではあるが異なる状況で治療を受ける場合もある。
外部対照を用いる場合の重要な限界については、ICH E10で説明されている。誤った推論の可能性を最小限に抑えるために、特別な注意が必要である。外部対照を用いる場合には、疾患の経過がよく知られていて予測可能である必要がある。外部対照を用いる場合の対象は、人口統計学的及び背景的特徴(例えば、病歴、併存する疾患)が試験の参加者とは異なる場合がある。さらに、外部対照を用いる場合の対象は、併用される治療、アウトカム及び他のデータ要素の測定が、試験の参加者とは異なる場合がある。内部対照は、特にランダム化と組み合わせて使用すると、外部対照よりも一般に偏りを生じる可能性が軽減されることから、外部対照を用いるかどうかと、外部対照に何を用いるかの適切性は、慎重に検討し正当化すべきである。5.5項では、観察研究で発生する可能性があり、外部対照の使用に関連する偏りの原因について論じる。
外部対照群を選択する場合には、個人レベルのデータが利用できない場合がある。一方で、要約された値が、薬剤の効果の推定とその効果の仮説の検定のための、治療を受けた参加者との比較の基礎となりうる可能性がある。ただし、これらの比較を行なうことや、個々のデータ要素の質と網羅性を検討するにあたって、外部対照群と臨床試験の参加者の間の特性の違いを制御することが難しくなる。さらに、部分集団の検討や、反応変数を試験で用いられたものと一致するように変更することができない場合がある。
5.4 反応変数
反応変数は、医薬品により影響を受けるであろう関心の対象となる属性である。反応変数は、医薬品の薬物動態学、薬力学、有効性又は安全性や、あるいは、例えば承認後のリスク最小化策の遵守といった医薬品の使用方法に関連するであろう。試験の評価項目は、医薬品の効果を評価するために選択される反応変数である。
主要評価項目は、試験の主要な目的に結び付いた、臨床的に意味があり説得力のあるエビデンスを提供できるべきである(ICH E9)。副次評価項目は、主要な目的に関連した補助的な測定値又は副次目的に関連した効果の測定値のいずれかである。探索的な評価項目は、試験結果の更なる説明や補足をするため、又は後の試験で用いる新しい仮説を探索するために使用される。対象となる患者集団の選択にとって意味がある評価項目が選択されるべきであり、この選択に患者の視点が考慮されることもある。各試験の評価項目の定義は、明確に定められ、かつ参加者の医薬品の治療及び追跡期間のどの時点でどのようにそれが確認されるかを含めるべきである。
医薬品に関する知見、臨床的背景及びその試験の目的が、どのような反応変数を収集すべきかに影響する。例えば、比較的短期間のproof―of―concept試験では、主要な関心のあるアウトカムではなく、薬力学のアウトカムを採用する場合がある(ICH E9)。その後に、より長い期間のより大規模な試験を用いて、主要な関心のある転帰に対しての臨床的に意味のある効果を確認することができるであろう。医薬品の安全性プロファイルが十分に特徴付けられている状況下で行われる試験等の場合には、安全性データ収集の範囲を、試験の目的に合わせて調整することができる。
5.5 偏りを低減する手法
試験デザインは、結果の信頼性を損なう可能性がある偏りの潜在的な原因に対処すべきである。試験の種類が異なれば偏りの原因も異なるが、この項では一般的な原因について説明する。ICH E9では、主に介入試験において、偏りを制御及び低減するための原則について説明している。
内部対照群を有する試験では、ランダム割付が治療群間の比較可能性を担保し、それによって治療の割付により生じる偏りの可能性を最小限に抑えるために用いられる。
試験開始時のランダム化は、ランダム化時点での群間の違いに対処するが、試験中に生じる差異による偏りを防ぐことはできない。ランダム化後の事象(特に中間事象(ICH E9(R1))は、治療群間の比較の妥当性と解釈に影響を与える可能性がある。治療の中止やレスキュー薬の使用がその例として挙げられる。また、特定のグループの参加者が、例えば有害事象や有効性の欠如等の理由で異なる割合で試験を中止したことにより、群間で追跡のパターンに違いが生じる可能性がある。試験中に中間事象が潜在的に生じうることと、その影響を慎重に検討することは、試験中止の抑止、治療中止後のデータ収集の継続、必要に応じた試験中止後のデータ取得等の、CTQ要因の特定に役立つ。治療効果(estimand)を定義する際には、中間事象の発生を考慮することが重要である。
治療の割付を知られないようにすること(盲検化)により、臨床試験の実施や解釈において、治療経過、モニタリング、評価項目の確認及び参加者の反応に影響を及ぼす可能性のある、意識的又は無意識的な偏りの発生が抑制される。単盲検試験では、治験実施医師は治療を知っているが、参加者は知らされていない。参加者の治療又は臨床評価に関与している治験実施医師もまた治療の割付を知らない場合、試験は二重盲検と呼ばれる。非盲検試験では、募集、治療の割付、参加者の管理、安全性報告、反応変数の確認等の試験実施の側面において、事前に定めた判断基準を用いることによって、盲検化の欠如により生じる影響を低減させることができるであろう。可能な場合には、試験実施施設のスタッフあるいは試験の依頼者に対する盲検化を実施すべきである。
中間解析結果(個人レベルか治療群レベルかを問わず)を知ることが、偏りを生じさせたり、試験の実施や試験結果の解釈に影響を与えたりする可能性がある。したがって、情報の流れと機密保持に関しては、特別な考慮が必要である。
観察研究は、偏りの評価と制御に特有の課題をもたらす。これらには、治療法の選択に関連する予後因子、反応変数の把握、及びベースライン後の付随する患者診療という観点で、参加者が検討対象の病態を確実に有していることと、治療群間の比較可能性を担保することが含まれる。これらの課題は、介入試験で外部対照を用いる場合にも存在するであろう。これらの課題のいくつかを軽減することができる方法が知られており、デザイン段階で検討すべきである。
5.6 統計解析
試験の統計解析は、試験目的を達成するために必要な重要な要素を網羅している。統計解析の詳細と文書化は、試験結果のインテグリティを確保するために重要である。統計解析の主要な特徴は、試験デザインの際に計画されるべきであり、試験開始前に作成される試験実施計画書に明記されるべきである(ICH E9)。計画された統計解析の完全な詳細は、薬剤の効果を明らかにする可能性のある試験結果を知るよりも前に規定し文書化すべきであるが、これは、別途作成される統計解析計画書に記載することもできる。試験実施計画書には、ICH E9(R1)で確立されたフレームワークに従ってestimandを定義すべきである。
有効性と安全性の両方に関する試験の主たる目的に対応した、主要及び副次評価項目の統計解析については試験実施計画書に記述されるべきであり、これには全ての中間解析及び/又は計画されたデザインの変更が含まれる。試験実施計画書に記述されるべき試験の他の統計的側面には、薬剤の効果に関する計画された推定及び仮説検定のための解析方法と、サンプルサイズの妥当性が含まれる。
統計解析には、試験結果における主要解析及び重要な副次解析に対して行われた推論の影響を評価するための、事前に規定された感度分析を含めるべきである(E9(R1))。例えば、解析が欠測データの理由に関する特定の仮定に依存している場合、感度分析を計画して、その仮定が試験結果に与える影響を評価すべきである。観察研究の場合は、例えば、追加の潜在的な交絡因子の検討が感度分析として行われるかもしれない。
二重盲検試験の場合、治療の割付が明らかになる前に統計解析計画を確定すべきである。したがって、試験に一つ以上の中間解析が含まれている場合、盲検解除を伴う中間解析の後に、計画された統計解析を変更すべきではない。非盲検及び単盲検試験の場合、主要及び重要な副次解析に関する詳細は、最初の参加者がランダム化又は試験介入に割付ける前に確定することが望ましい。
解析手法を事前に規定することは、特に一次データ収集(5.7項)を行わずに既存のデータソースを用いる試験の場合、試験のために計画された統計解析のみならず、既存のデータが適用できるかを評価するための実施可能性の分析に対しても特に重要である。例えば、外部対照を用いた単群の介入試験では、試験の介入の手順を実施する前に外部対照の詳細を規定すべきである。試験の計画前の既存のデータソースのいかなるレビューも、試験のインテグリティを脅かすことのないように、解析を事前に規定すべきである。
統計解析は、前向きに定義された解析計画に従って実行すべきであり、計画からの逸脱は全て、試験報告書に示すべきである(ICH E3治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン)。
5.7 試験データ
試験データは、既存のデータソースから試験固有の評価に至る範囲まで、試験に関連して生成、収集、又は使用される全ての情報で構成される。試験データには、試験実施計画書及び統計解析計画書で規定された統計解析を実施すると共に、参加者の安全性、試験実施計画書の遵守及びデータのインテグリティをモニターするために必要な情報が含まれているべきである。
試験データは大きく2つのタイプに分類できる:(1)その試験のために試験固有に生成されたデータ(一次データ収集)と、(2)その試験の外部データソースから得られたデータ(二次データの利用)。試験のために生成されたデータは、症例報告書、検査室での測定、電子的な患者報告アウトカム、又はモバイルヘルスツールにより収集される場合がある。外部データソースの例には、過去の臨床研究、全国的な死亡データベース、疾患及び薬剤レジストリ、医療保険請求データ、並びに日常的な医療行為からの医療及び管理の記録が含まれる。一つの試験で、これら両方の種類のデータを用いる場合もある。
全てのデータソースについて、試験の対象者の個人データの保護を保証するための手順を実装すべきである。試験実施計画書、及び用いられる場合にはインフォームド・コンセントでは、個人データの保護について明確な対応を示すべきである。個人データの保護に関連する規制にも従う必要がある。外部ソースからのデータを検討する場合、本来の意図とは異なる目的でそのようなデータを用いることを規制当局が受け入れるかどうかを確認することが重要となる。
試験データは、試験の目的に対処するために十分な質でなければならず、介入試験では参加者の安全性をモニタリングするためにも十分な質でなければならない。データの質は、一貫性(確認の経時的な均一性)、正確性(収集、伝達及び処理の正確さ)、網羅性(情報が欠落していないこと)等により評価される。これらの側面は、データソースの選定、データの収集及び処理に関連する、試験のCTQ要因を特定することにより、試験の計画段階において事前に検討すべきである。
データの信頼性を支え、結果の正しい解析と解釈を容易にし、データの共有を促進するには、データの記録とコード化(又は再コード化)のための標準を使用することが重要である。国際的に認められたデータ標準は、試験で用いられる多くのデータソースに対して存在しており、適用できる場合には使用すべきである。
一次データ収集では、データの取得とその後の処理において使用するために、確立された方法と標準により、データの質を前向きに保証する機会がもたらされる。
二次データの使用では、利用可能なデータの適切性を考慮し、試験実施計画書に明記すべきである。例えば、一次データの収集によるのではなく、既存の電子診療記録データを使用して試験のエンドポイントを確認する場合、アウトカムに関する診療記録の情報を、試験のエンドポイントに変換することが必要な場合がある。場合によっては、二次データの使用は試験の全ての観点に対しては十分ではない可能性があり、一次データ収集により補完する必要が生ずることがある。実施する試験において、異なる目的で収集されたデータを再利用するときには、データの質について評価すべきである。そのデータの取得時には、注意深い質の管理のプロセスが適用されていた可能性があるが、そうであっても、そうしたプロセスは、実施する試験の目的を必ずしも念頭に置いてデザインされていたわけではない。
二次データを使用する場合、追加で考慮すべき事項がある。例えば、外部ソースからのデータを選択する際や、解析をする前には、治療内容を隠す方法を検討すべきである。別の例として、特定の状態又はイベントがあるという情報を欠くことは、そうした状態が存在しないことを意味するとは限らない。イベントの発現と、既存のデータソース内にその情報が反映されるまでの間に、遅延が生じる可能性もある。不確実性と偏りの潜在的な原因は、試験のデザイン段階、データ解析の際、及び試験結果の解釈において可能な限り対処されるべきである。
6.実施、安全性モニタリングと報告
6.1 試験の実施
クオリティ・バイ・デザインを含め、本指針に記載されている原則とアプローチは、臨床試験の実施と報告に関するアプローチに適切な情報となる。CTQ要因を損なうことがないように、リスクの大きさに応じた軽減策を採用すべきである。
6.1.1 試験実施計画書の遵守
試験実施計画書及びその他の関連文書の遵守は不可欠であり、試験のCTQ要因の中で、遵守についての様々な面が検討されなければならない。クオリティ・バイ・デザインの原則を成功裡に適用することは、試験実施計画書の変更の必要性を最小限に抑え、試験を通しての遵守をより可能なものとするであろう。試験実施計画書の変更が必要になった場合は、変更の理由を試験実施計画書の修正において明確に述べ、変更が試験の実施に与える影響を慎重に検討すべきである。
6.1.2 トレーニング
試験の実施に携わる者は、試験における各々の役割に応じたトレーニングを受けるべきであり、このトレーニングは、その者が試験に携わる前に行われるべきである。試験の実施中に生じたCTQ要因に関連する問題に対応するため、及び/又は試験実施計画書の変更を実装するために、更新されたトレーニング又は再トレーニングが必要になる場合がある。
6.1.3 データマネジメント
試験データの収集及び管理の方法とそのスケジュールは、全体的な試験データの質に影響を及ぼす重要な因子である。実施手順上のチェック、データの中央モニタリング及び統計的手法を用いた監視により、是正措置が必要なデータの質に関する重要な問題を特定することがある。データマネジメントの手順は、臨床試験に用いられるデータソースの多様性を考慮すべきである(5.7項)。介入的な臨床試験については、データ管理に関する更なるガイダンスがICH E6に示されている。
6.1.4 中間データへのアクセス
試験実施中のデータへの不適切なアクセスは、試験のインテグリティを損なう可能性がある(5.5項、5.6項及びICH E9)。計画された中間解析を用いた試験では、誰がデータと結果へのアクセスを有するかに特に注意を払うべきである。計画された中間解析のない試験であっても、不適切なアクセスを避けるために、試験実施中に行われる盲検を解除したデータのあらゆるモニタリングに特別な注意を払うべきである。
6.2 試験実施中の参加者の安全性
臨床試験における倫理的な実施及び参加者の保護の重要な規範は2.1項に記載されている。この項では、試験実施中の安全性に関して考慮すべき点を記す。
6.2.1 安全性モニタリング
安全性モニタリングの目的は、参加者を保護し、医薬品の安全性プロファイルを特徴付けることである。試験中の安全性上の懸念の特定、モニタリング、報告のための手順とシステムは明確に規定されるべきである。このアプローチには、試験の種類及び目的、参加者のリスク、並びに医薬品及び試験の対象集団に関する既存の知見を反映すべきである。規制当局への適切な安全性データの報告及び安全性報告の内容とタイミングに関しては、ガイダンスが示されている(ICH E2A―E2Fファーマコビジランス及び、特に介入試験についてはICH E6)。
6.2.2 中止基準
参加者が試験参加を継続しつつ治療又は試験における処置を中止するための明確な基準は、参加者の保護を確実にするために必要であるが、重要なデータの減失も最小限に抑えるべきである。
6.2.3 データモニタリング委員会
多くの臨床試験において、安全性モニタリングの重要な要素として、独立データモニタリング委員会の設置がある。この委員会は、試験の継続や変更あるいは中止の適否を勧告する目的で、試験実施中に集積されるデータをモニタリングする。
開発プログラムを計画する際には、開発プログラムに含まれる複数の試験を通した安全性データをモニタリングするための、独立した安全性モニタリング委員会の必要性も判断すべきである。個々の試験又は開発プログラム全体のいずれかにデータモニタリング委員会が必要な場合には、委員会の運用を管理する手順、特に介入試験における盲検化されていないデータを試験のインテグリティ(ICH E9)を保ちながら評価する手順を、試験開始前に確立しておくべきである。
6.3 試験の報告
臨床試験とその結果は、試験の種類(介入試験又は観察研究)と報告される情報に適した形式を使用して、適切に報告すべきである。ICH E3は、特に介入的な臨床試験の報告形式に焦点を当てているが、基本的な原則は他の種類の臨床試験にも適用されることがある(ICH E3 Q&A)。試験の報告書をどのように構成するかは、クオリティ・バイ・デザインのプロセスの一つである。報告書には、試験のCTQ要因が記載されているべきである。試験結果の報告は、包括的で、正確であり、なおかつ適切な時期に行われるべきである。
参加者に対し、客観的で、バランスが取れ、かつ販売促進に繋がらない方法で、関連する安全性情報や試験の限界を含め、全体的な試験結果の事実の要約を提供することを考慮すべきである。さらに、個々の参加者に対してその参加者の試験の特定の結果(例えば、治療群、検査結果)に関する情報を提供することを検討することもできる。そのような情報は、参加者の健康の管理に関与する者(例えば、治験担当医師)によって伝えられるべきである。参加者には、どのような情報をいつ受け取るかについて、インフォームド・コンセントを提供する際に知らせるべきである。
医薬品開発における臨床試験の透明性には、広くアクセス可能かつ認知されたデータベースへの、臨床試験の開始前の登録及び臨床試験結果の公開が含まれる。観察研究においても、このような取り組みを行うことが透明性を向上させる。客観的で偏りのない情報を公に利用可能にすることは、臨床試験の価値を高め、不必要な臨床試験を減らし、医療現場における意思決定に情報提供することを通して、適応となる患者集団と同様に一般の公衆衛生に対しても有用である。
7.CTQ要因を同定するための留意事項
CTQ要因の特定は、3章で示したように、試験の計画時点で前向きで横断的な議論と意思決定によって支援されるべきである。4章から6章で紹介されている概念のとおり、試験の種類によって重要な要素は異なる。
試験のデザインに際しては、CTQ要因の特定の支援をするために、以下のような側面を適用可能な範囲で考慮すべきである。
・ 患者を含む全ての関連する利害関係者の関与を試験の計画及びデザインの際に考慮すること。
・ 事前に実施すべき非臨床試験、及び該当する場合は臨床試験が完了し、計画中の試験の裏付けとして十分であること。
・ 医薬品に関して蓄積された知見を考慮した上で、開発プログラムの中での当該試験の役割にふさわしい科学的な疑問を、試験の目的として設定すること。
・ 臨床試験のデザインが、選択した対照群との比較に際して、医薬品の効果に関する意義のある比較に役立つものとなっていること。
・ 参加者の権利、安全性及び福祉を保護するために適切な措置を用いること(インフォームド・コンセントのプロセス、治験審査委員会/倫理委員会の審査、治験担当医師及び臨床試験施設のトレーニング、匿名化等)。
・ 参加者に提供される情報が明確で理解できるものであること。
・ 試験の依頼者と治験担当スタッフによる試験に求められる、それぞれの役割に応じた能力とトレーニングが特定されること。
・ 試験の実施可能性を評価し、試験が運用可能であると確かめるべきであること。
・ 症例数、試験期間や試験中の来院頻度が、試験の目的を裏付けるために十分であること。
・ 適格基準が、試験の目的を反映したものであり、試験実施計画書に十分に文書化されているべきであること。
・ 試験実施計画書において、試験目的の達成、医薬品のベネフィット/リスクの把握、及び参加者の安全性のモニターに必要となるデータの収集を特定していること。
・ 反応変数の選択とそれらを評価する方法が、明確に定義され、医薬品の効果の評価を助けること。
・ 臨床試験の手順に、偏りを最小化するための適切な措置(例えば、ランダム化、盲検化)が含まれること。
・ 統計解析計画を予め規定し、関心のある集団及びエンドポイントに適した解析方法を定義すること。
・ 重要な試験データのインテグリティを確保するために、試験の実施を支援するシステムとプロセスを整備すること。
・ 試験のモニタリングの範囲と特性を、個別の試験のデザイン及び目的、並びに参加者の安全性を担保する必要性に合わせて調整すること。
・ データモニタリング委員会の必要性と適切な役割を評価すること。
・ 試験結果の報告が、計画され、包括的で正確であり、適切な時期になされ、かつ公に入手可能であること。
これらの留意点は網羅的なものではなく、全ての試験に当てはまるものではない。個々の試験ごとに、CTQ要因を特定するために、別の視点から考慮する必要があるかもしれない。
補遺:試験の種類
医薬品開発は、理想的には論理的で段階的な一連の過程であり、初期の試験からの情報が、後の試験を支持し計画するために用いられる。しかしながら、ある医薬品開発プログラムで実施される実際の一連の試験は、異なる依存関係である場合や、試験の種類が重複する場合もある。試験には、アダプティブデザイン(以下に掲げるような異なる試験の種類をつなぐ、又は組み合わせるもの)や、複数の薬剤又は複数の適応症、あるいはその両方の検討を目的としたデザイン(例えば、マスタープロトコルの下で実施される試験)が含まれる場合もある。以下の表では、目的別に試験の種類を分類している。提示する例は、網羅的ではなく、また、これらに限定されるものでもない。ある種類の試験の目的として記載されているものは、別の種類の試験の目的にもなりうる。
試験の種類 |
試験の目的 |
試験の例 |
臨床薬理試験 |
・ 忍容性と安全性の評価 ・ PK1及びPD2の定義/記述 ・ 薬物代謝と薬物相互作用の探索 ・ 薬理活性及び免疫原性の評価 ・ 腎臓/肝臓に関する忍容性評価 ・ 心毒性の評価 |
・ 空腹/食後条件下のBA3/BE4試験 ・ 用量忍容性試験 ・ 単回投与及び反復投与のPK及び/又はPD試験 ・ 薬物相互作用に関する試験 ・ QT/QTc評価試験 ・ 薬物送達デバイスにおけるヒューマンファクター試験 |
探索的試験 |
・ 標的とする適応症での使用の探索 ・ 以降の試験のための用量/レジメンの推定 ・ 用量反応/曝露反応関係の探索 ・ 検証的試験のデザインの基礎の提供(例えば、対象集団、臨床的なエンドポイント、患者報告アウトカムの指標、治療効果に影響を及ぼす因子) |
・ 代替又は薬理学的エンドポイント若しくは臨床的指標を用いた、明確に定義された限られた患者集団で実施する比較的短期間のランダム化比較臨床試験 ・ 用量探索試験 ・ バイオマーカー探索試験 ・ 患者報告アウトカムのバリデーション試験 ・ 探索的目的と検証的目的を組み合わせたアダプティブデザイン |
検証的試験 |
・ 有効性の証明/検証 ・ より大規模かつより患者集団を反映する集団における安全性プロファイルの確立 ・ 薬事承認を支援するためのベネフィット/リスクの関係を評価するための適切な基盤の提供 ・ 用量反応/曝露反応関係の確立 ・ 特殊集団(例えば、小児、高齢者)における安全性プロファイルの確立と有効性の検証 |
・ 有効性の確立を目的としたより大規模かつより患者集団を反映した集団におけるランダム化比較試験 ・ 用量反応試験 ・ 安全性に関する臨床試験 ・ 死亡率/罹患率をアウトカムとした試験 ・ 特殊集団を対象とした試験 ・ 単一の試験実施計画書で複数の薬剤の有効性を示すことを目的とする試験 |
承認後の試験 |
・ 一般的又は特殊な集団又は環境における、ベネフィット/リスクの関係の理解を深めること ・ より発現頻度の低い副作用の特定 ・ 推奨用量の最適化 |
・ 効果比較研究(Comparative effectiveness studies) ・ 長期追跡試験 ・ 死亡率/罹患率又はその他の追加のエンドポイントの試験 ・ 大規模かつシンプルなランダム化試験 ・ 薬剤経済学的研究 ・ 薬剤疫学的研究 ・ 医療現場における薬物の使用に関する観察研究 ・ 疾患又は薬剤レジストリ |
1PK 薬力学 2PD 薬物動態 3BA studies バイオアベイラビリティ試験 4BE studies 生物学的同等性試験 |