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○エレヌマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(片頭痛発作の発症抑制)の一部改正について

(令和4年11月15日)

(薬生薬審発1115第13号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

経済財政運営と改革の基本方針2016(平成28年6月2日閣議決定)において、革新的医薬品の使用の最適化推進を図ることが盛り込まれたことを受けて、革新的医薬品を真に必要な患者に提供するために最適使用推進ガイドラインを作成することとしています。

エレヌマブ(遺伝子組換え)製剤(販売名:アイモビーグ皮下注70mgペン)については、「エレヌマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(片頭痛発作の発症抑制)について」(令和3年8月11日付け薬生薬審発0811第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)により示してきたところです。

今般、エレヌマブ(遺伝子組換え)製剤の添付文書の重要な基本的注意が改訂されたことを踏まえ、当該留意事項について、別紙のとおり改正いたしましたので、貴管内の医療機関及び薬局に対する周知をお願いします。なお、改正後の最適使用推進ガイドラインは、別添のとおりです。

別紙

[別添]

最適使用推進ガイドライン

エレヌマブ(遺伝子組換え)

(販売名:アイモビーグ皮下注70mgペン)

令和3年8月(令和4年11月改訂)

厚生労働省

目次

1.はじめに

2.本剤の特徴、作用機序

3.臨床成績

4.施設について

5.投与対象となる患者

6.投与に際して留意すべき事項

1.はじめに

医薬品の有効性・安全性の確保のためには、添付文書等に基づいた適正な使用が求められる。さらに、近年の科学技術の進歩により、抗体医薬品等の革新的な新規作用機序を有する医薬品が承認される中で、これらの医薬品を真に必要とする患者に適切に提供することが喫緊の課題となっており、経済財政運営と改革の基本方針2016(平成28年6月2日閣議決定)においても、革新的医薬品等の使用の最適化推進を図ることとされている。

新規作用機序を有する医薬品は、薬理作用や安全性プロファイルが既存の医薬品と明らかに異なることがある。このため、有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積されるまでの間、当該医薬品の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに、副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件を満たす医療機関で使用することが重要である。

したがって、本ガイドラインでは、開発段階やこれまでに得られている医学薬学的・科学的見地に基づき、以下の医薬品の最適な使用を推進する観点から必要な要件、考え方及び留意事項を示す。

なお、本ガイドラインは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、一般社団法人日本神経学会、一般社団法人日本頭痛学会、一般社団法人日本内科学会、一般社団法人日本脳神経外科学会及び特定非営利活動法人日本脳神経血管内治療学会の協力のもと作成した。

対象となる医薬品:アイモビーグ皮下注70mgペン(一般名:エレヌマブ(遺伝子組換え))

対象となる効能又は効果:片頭痛発作の発症抑制

対象となる用法及び用量:通常、成人にはエレヌマブ(遺伝子組換え)として70mgを4週間に1回皮下投与する。

製造販売業者:アムジェン株式会社

2.本剤の特徴、作用機序

アイモビーグ皮下注70mgペン(一般名:エレヌマブ(遺伝子組換え)、以下「本剤」)はカルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin―gene related peptide:CGRP)受容体(Receptor:R)に対する遺伝子組換えヒトIgG2モノクローナル抗体である。

CGRPは侵害受容性シグナル伝達を調節する神経ペプチドであり、片頭痛の病態生理に関連する物質である。血漿CGRP濃度は片頭痛中に有意に増加し、頭痛の軽減とともに正常に戻ることが示されている1)2)。さらに、片頭痛患者にCGRPを投与すると片頭痛発作が誘導され、CGRPが片頭痛の原因となる可能性を示唆する3)4)5)。本剤は、強力かつ特異的にCGRP―Rに結合することで、CGRPのシグナル伝達を阻害し、片頭痛患者における片頭痛発作の発症を抑制することが期待される。

3.臨床成績

製造販売承認時に評価を行った主な臨床試験の成績を示す。

国内第Ⅱ相試験(20120309試験)

【試験の概要】

本剤の有効性、安全性及び用量反応関係を検討する目的で、日本人反復性片頭痛(Episodic Migraine:EM)患者473例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験が国内45施設で実施された。

最長3週間の初回スクリーニング期、4週間のベースライン期に続く24週間が二重盲検投与期、その後76週間が非盲検投与期、12週間が安全性追跡調査期とされた。用法・用量は、二重盲検投与期ではプラセボ、本剤28mg、70mg又は140mgを4週に1回皮下投与し、続く非盲検投与期では本剤70mg又は140mgを4週に1回皮下投与とされた。

主要評価項目は、二重盲検投与期の最後の3カ月(4、5及び6カ月目)における月間片頭痛日数(片頭痛又は片頭痛の疑いが起こった日数)のベースラインからの変化量とされた。

[主な選択基準]

画像2 (7KB)別ウィンドウが開きます
 20~65歳の男性又は女性

画像3 (7KB)別ウィンドウが開きます
 スクリーニング期の開始12カ月以上前から、医療記録又は患者の自己申告に基づき、国際頭痛学会(International Headache Society:IHS)のICHD第3版β版に準拠して判定された片頭痛(前兆のある片頭痛又は前兆のない片頭痛)の既往があり、最初の発症が50歳より前である

画像4 (7KB)別ウィンドウが開きます
 片頭痛頻度:スクリーニング前3カ月の平均月間片頭痛日数が4日以上15日未満であり、ベースライン期間の片頭痛日数が4日以上15日未満である

画像5 (7KB)別ウィンドウが開きます
 頭痛(片頭痛又は非片頭痛様頭痛)頻度:スクリーニング前3カ月間の平均頭痛日数が15日未満であり、ベースライン期間の頭痛日数が15日未満である

なお、ICHD第3版β版の「1.2 前兆のある片頭痛」に含まれる片麻痺性片頭痛及び脳幹性前兆を伴う片頭痛(脳底動脈型片頭痛)の既往歴を有する患者は試験に組み入れられなかった。

【結果】

[有効性]

主要評価項目である月間片頭痛日数のベースラインからの変化量は表1のとおりであり、本剤28mg群、70mg群及び140mg群でプラセボ群との差は統計学的に有意な片頭痛日数の改善が認められた。

表1 投与開始から4、5、6カ月目における平均の月間片頭痛日数のベースラインからの変化(有効性解析対象集団)


プラセボ群

(136例)

28mg群

(66例)

70mg群

(135例)

140mg群

(136例)

ベースラインの月間片頭痛日数(日)a

7.67

(2.34)

7.75

(2.08)

7.84

(2.31)

8.18

(2.40)

4、5、6カ月目における平均月間片頭痛日数のベースラインからの変化(日)b,c

0.06

[-0.46,0.58]

-1.19

[-1.91,-0.47]

-2.25

[-2.78,-1.73]

-1.83

[-2.35,-1.31]

4、5、6カ月目における平均月間片頭痛日数のプラセボとの差(日)b,c

-1.25

[-2.10,-0.41]

-2.31

[-3.00,-1.62]

-1.89

[-2.58,-1.20]

p値c

0.004

<0.001

<0.001

a:上段:平均値 下段:標準偏差

b:上段:最小二乗平均値 下段:95%信頼区間

c:投与群、ベースライン値、片頭痛予防薬の使用状況(あり[使用中]、あり[過去に使用]、使用歴なし)、予定された来院及び投与群と予定された来院の交互作用で調整した反復測定線形混合効果モデルにて算出した。なお、検定の多重性を調整するため、初めに本薬140mg群とプラセボ群の比較を行い、統計学的に有意であった場合は、次に70mg群とプラセボ群の比較を行い、統計学的に有意であった場合は、最後に28mg群とプラセボ群の比較を行った。

非盲検投与期では、459例が本薬70mg又は140mgを1回以上投与され、本薬70mgのみを投与された270例における投与100週間後までの月間片頭痛日数のベースラインからの変化量は図1のとおりであった。本薬70mgのみを投与された270例におけるベースライン時の月間片頭痛日数の平均値(標準偏差)は、7.79(2.36)日、当該症例における月間片頭痛日数のベースラインからの変化量(平均値[95%CI])は、投与28週間後、52週間後及び100週間後でそれぞれ-2.39[-2.85,-1.93]日、-2.58[-3.08,-2.09]日及び-2.77[-3.26,-2.28]日であり、非盲検投与期を通して同程度のベースラインからの変化量で推移し、効果の持続性が示された。

DBTP:二重盲検投与期、OLTP:非盲検投与期、縦線:95%信頼区間

図1:20120309試験の非盲検投与期に本薬70mgを1回以上投与された被験者における投与100週間後までの月間片頭痛日数のベースラインからの変化

[安全性]

二重盲検投与期における有害事象は、プラセボ群67.6%(92/136例)、本剤28mg群60.6%(40/66例)、70mg群70.4%(95/135例)、140mg群69.3%(95/137例)で認められ、いずれかの群で2%以上に発現が認められた主な事象は表2のとおりであった。大部分の有害事象の重症度はグレード1又は2であり、死亡に至った事象は認められなかった。

重篤な有害事象は、プラセボ群2.9%(4/136例)、本剤28mg群1.5%(1/66例)、70mg群0.7%(1/135例)、140mg群0.7%(1/137例)で認められたが、いずれの重篤な有害事象も発現例数は1例であった。

治験薬の投与中止に至った有害事象は、プラセボ群0.7%(1/136例)及び本剤70mg群1.5%(2/135例)で認められた。

副作用は、プラセボ群4.4%(6/136例)、本剤28mg群7.6%(5/66例)、70mg群12.6%(17/135例)、140mg群9.5%(13/137例)で認められた。

表2 二重盲検投与期においていずれかの群で2%以上に発現が認められた有害事象(安全性解析対象集団)


プラセボ群

(136例)

28mg群

(66例)

70mg群

(135例)

140mg群

(137例)

上咽頭炎

40(29.4)

22(33.3)

39(28.9)

45(32.8)

便秘

2(1.5)

0(0.0)

6(4.4)

7(5.1)

咽頭炎

3(2.2)

3(4.5)

5(3.7)

3(2.2)

背部痛

2(1.5)

3(4.5)

7(5.2)

1(0.7)

齲歯

3(2.2)

2(3.0)

6(4.4)

2(1.5)

胃腸炎

4(2.9)

2(3.0)

2(1.5)

5(3.6)

上腹部痛

1(0.7)

1(1.5)

5(3.7)

2(1.5)

胃炎

3(2.2)

0

2(1.5)

3(2.2)

湿疹

2(1.5)

0

3(2.2)

2(1.5)

インフルエンザ

4(2.9)

1(1.5)

3(2.2)

1(0.7)

膀胱炎

3(2.2)

1(1.5)

1(0.7)

2(1.5)

口腔咽頭痛

0

0

3(2.2)

1(0.7)

口内炎

1(0.7)

2(3.0)

1(0.7)

1(0.7)

注射部位紅斑

0

0

0

3(2.2)

足部白癬

0

2(3.0)

0

1(0.7)

傾眠

1(0.7)

0

3(2.2)

0

耳鳴

0

0

3(2.2)

0

浮動性めまい

4(2.9)

1(1.5)

2(1.5)

0

歯肉炎

0

2(3.0)

1(0.7)

0

頭痛

5(3.7)

0

1(0.7)

1(0.7)

喘息

4(2.9)

1(1.5)

0

1(0.7)

注射部位疼痛

1(0.7)

2(3.0)

0

0

例数(%)

非盲検投与期における有害事象の発現割合は、91.9%(422/459例)であり、5%以上に発現した有害事象は、上咽頭炎(59.7%(274/459例))、インフルエンザ(16.3%(75/459例))、胃腸炎(8.9%(41/459例))、背部痛(7.4%(34/459例))、咽頭炎(6.1%(28/459例))、上腹部痛、齲歯、膀胱炎(5.7%(26/459例))であった。死亡は認められなかった。重篤な有害事象は27例(歯牙破折、軟骨疾患、子宮頚部上皮異形成、出血性腸憩室/大腸腺腫、子宮平滑筋腫、手骨折、ウイルス性髄膜炎/頭痛、咽頭炎/扁桃炎、マイコバクテリア感染、腸炎、鎖骨骨折、眼瞼下垂、筋断裂/腱断裂、脊髄症、骨壊死、大腸ポリープ、脱水、頭蓋内動脈瘤、うつ病、憩室炎、軟骨損傷、半月板損傷、頭位性回転性めまい、乳癌、術後イレウス、乳管内増殖性病変、痔核各1例)に認められ、このうち、2例(出血性腸憩室、マイコバクテリア感染各1例)は治験薬との因果関係が否定されなかった。投与中止に至った有害事象は6例(甲状腺機能亢進症、乳癌、乳管内増殖性病変、緊張性頭痛、片頭痛、紅斑性皮疹各1例)に認められた。

国内第Ⅲ相試験(20170609試験)

【試験の概要】

本剤の有効性及び安全性を検討する目的で、日本人EM患者及び慢性片頭痛(Chronic Migraine:CM)患者256例を対象とした無作為化二重盲検プラセボ対照試験が国内41施設で実施された。

最長3週間の初回スクリーニング期、4週間のベースライン期に続く24週間の二重盲検投与期とされた。用法・用量は、本剤の70mg又はプラセボを4週に1回皮下投与した。

主要評価項目は、二重盲検投与期の最後の3カ月(4、5及び6カ月目)における月間片頭痛日数のベースラインからの変化量とされた。

[主な選択基準]

画像7 (7KB)別ウィンドウが開きます
 20~65歳の男性又は女性

画像8 (7KB)別ウィンドウが開きます
 スクリーニング期の開始12カ月以上前から、医療記録又は患者の自己申告に基づき、IHSのICHD第3版に準拠して判定された片頭痛(前兆のある片頭痛又は前兆のない片頭痛)の既往があり、最初の発症が50歳より前である

画像9 (7KB)別ウィンドウが開きます
 片頭痛頻度:スクリーニング前3カ月での以下の基準に基づくCM又はEM

(a) CMは、月間頭痛日数が15日以上で、そのうち片頭痛日数としての基準を満たす月間片頭痛日数が3カ月間平均で8日以上として定義する。

(b) EMは、月間頭痛日数が15日未満で、そのうち片頭痛日数としての基準を満たす月間片頭痛日数が3カ月間平均で4日以上として定義する。

画像10 (7KB)別ウィンドウが開きます
 以下の片頭痛基準のいずれかを満たす(例:スクリーニングの3カ月前にEMの基準を満たしていた場合、ベースライン期間でもEMの基準を満たさなければならない):

(a) 以下、CMの定義:

頭痛日が15日以上で、そのうちベースライン期間の片頭痛日数としての基準を満たす頭痛日が8日以上

(b) 以下、EMの定義:

頭痛日が15日未満で、そのうちベースライン期間の片頭痛日数としての基準を満たす頭痛日が4日以上

なお、ICHD第3版の「1.2 前兆のある片頭痛」に含まれる片麻痺性片頭痛及び脳幹性前兆を伴う片頭痛(脳底動脈型片頭痛)の既往歴を有する患者は試験に組み入れられなかった。

【結果】

[有効性]

主要評価項目である月間片頭痛日数のベースラインからの変化は表3のとおりであり、本剤70mg群でプラセボ群との差は統計学的に有意な片頭痛日数の改善が認められた。またEM及びCMの各サブグループにおいて、Month 4、5、6における平均月間片頭痛日数のベースラインからの変化の本剤70mg群におけるプラセボ群との最小二乗平均値[95%信頼区間]の群間差は、EM被験者で-1.67[-2.56,-0.78]日、CM被験者で-1.57[-3.39,0.24]日であり、EM、CMとも群間差の点推定値は-1日を下回り、臨床的に意義のある差が認められた。

表3 投与開始から4、5、6カ月目における平均の月間片頭痛日数のベースラインからの変化(有効性解析対象集団)


プラセボ群

(131例)

70mg群

(130例)

ベースラインの月間片頭痛日数(日)a

11.84

(5.70)

12.40

(5.99)

4、5、6カ月目における平均月間片頭痛日数のベースラインからの変化(日)b,c

-1.98

[-2.72,-1.24]

-3.60

[-4.36,-2.85]

4、5、6カ月目における平均月間片頭痛日数のプラセボとの差(日)b,c

-1.62

[-2.52,-0.73]

p値c

<0.001

a:上段:平均値 下段:標準偏差

b:上段:最小二乗平均値 下段:95%信頼区間

c:投与群、片頭痛のタイプ(EM/CM)、片頭痛予防薬の使用状況(あり[使用中/過去に使用]、使用歴なし)、予定された来院及び投与群と予定された来院の交互作用で調整した反復測定線形混合効果モデルにて算出した。

[安全性]

二重盲検期における有害事象は、プラセボ群58.8%(77/131例)、本剤70mg群65.4%(85/130例)で認められ、主な事象は表4のとおりであった。大部分の有害事象の重症度はグレード1又は2であり、死亡に至った事象は認められなかった。

重篤な有害事象は、プラセボ群1.5%(2/131例)、本剤70mg群1.5%(2/130例)で認められた。

治験薬の投与中止に至った有害事象は、認められなかった。

副作用は、プラセボ群3.8%(5/131例)、70mg群7.7%(10/130例)で認められた。

表4 二重盲検投与期においていずれかの群で3%以上に発現が認められた有害事象(安全性解析対象集団)


プラセボ群

(131例)

70mg群

(130例)

上咽頭炎

37(28.2)

35(26.9)

背部痛

6(4.6)

7(5.4)

便秘

2(1.5)

6(4.6)

胃腸炎

4(3.1)

5(3.8)

咽頭炎

4(3.1)

5(3.8)

口内炎

2(1.5)

5(3.8)

下痢

1(0.8)

5(3.8)

筋骨格硬直

1(0.8)

5(3.8)

齲歯

2(1.5)

4(3.1)

例数(%)

4.施設について

本剤が適応となる患者の選択及び投与継続の判断は、適切に行われることが求められ、本剤の投与が適切な片頭痛とそれ以外の頭痛疾患を鑑別することが必要である。また、本剤の投与により重篤な副作用が発現した際にも適切な対応をすることが必要なため、以下の①~③のすべてを満たす施設において使用するべきである。

① 施設について

片頭痛の病態、経過と予後、診断、治療(参考:頭痛の診療ガイドライン20216))を熟知し、本剤についての十分な知識を有している医師(以下の<医師要件>参照)が本剤に関する治療の責任者として配置されていること。

<医師要件>

以下の基準を満たすこと。

画像11 (7KB)別ウィンドウが開きます
 医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に、頭痛を呈する疾患の診療に5年以上の臨床経験を行っていること。

画像12 (7KB)別ウィンドウが開きます
 本剤の効果判定を定期的に行った上で、投与継続の是非についての判断を適切に行うことができること。

画像13 (7KB)別ウィンドウが開きます
 頭痛を呈する疾患の診療に関連する以下の学会の専門医の認定を有していること。

・日本神経学会

・日本頭痛学会

・日本内科学会(総合内科専門医)

・日本脳神経外科学会

二次性頭痛との鑑別のためにMRI等による検査が必要と判断した場合、当該施設又は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、必要時に適切な対応ができる体制が整っていること。

② 院内の医薬品情報管理の体制について

製薬企業等からの有効性・安全性等の薬学的情報の管理や、有害事象が発生した場合に適切な対応と報告業務等を速やかに行うこと等の医薬品情報管理、活用の体制が整っていること。

③ 副作用への対応について

医薬品リスク管理計画(RMP)の安全性検討事項に記載された副作用や、重要な基本的注意等に記載された副作用に対して、当該施設又は近隣医療機関の専門性を有する医師と連携し、副作用の診断や対応に関して指導及び支援を受け、直ちに適切な処置ができる体制が整っていること。

5.投与対象となる患者

【患者選択について】

投与の要否の判断にあたっては、以下のすべてを満たす患者であることを確認する。

1.国際頭痛分類(ICHD第3版)を参考に十分な診療を実施し、前兆のある又は前兆のない片頭痛の発作が月に複数回発現している、又は慢性片頭痛であることが確認されている。

2.本剤の投与開始前3カ月以上において、1カ月あたりの片頭痛日数が平均4日以上である。

3.睡眠、食生活の指導、適正体重の維持、ストレスマネジメント等の非薬物療法及び片頭痛発作の急性期治療等を既に実施している患者であり、それらの治療を適切に行っても日常生活に支障をきたしている。

4.本邦で既承認の片頭痛発作の発症抑制薬(プロプラノロール塩酸塩、バルプロ酸ナトリウム、ロメリジン塩酸塩等)のいずれかが、下記①~③のうちの1つ以上の理由によって使用又は継続できない。

① 効果が十分に得られない

② 忍容性が低い

③ 禁忌、又は副作用等の観点から安全性への強い懸念がある

【投与の継続・中止について】

本剤投与中は症状の経過を十分に観察し、本剤投与開始後3カ月(3回投与後)を目安に治療上の有益性を評価して症状の改善が認められない場合には、本剤の投与中止を考慮すること。またその後も定期的に投与継続の要否について検討し、頭痛発作発現の消失・軽減等により日常生活に支障をきたさなくなった場合には、本剤の投与中止を考慮すること。

なお、日本人を対象とした臨床試験において、本剤の100週間を超える使用経験はない。

6.投与に際して留意すべき事項

1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者については本剤の投与が禁忌であるため、投与しないこと。

2.アナフィラキシー、血管浮腫、蕁麻疹等の重篤な過敏症反応が報告されている。観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を直ちに中止するなど適切な処置を行うこと。

3.重篤な合併症(腸閉塞、糞塊、腹部膨満及びイレウス等)を伴う便秘があらわれることがある。多くの症例では、本剤の初回投与後に発現する。

4.添付文書に加え、製造販売業者が提供する資料等に基づき本剤の特性及び適正使用のために必要な情報を十分理解してから使用すること。

5.本剤のRMPを熟読し、安全性検討事項を確認すること。

6.本剤は片頭痛発作の発症抑制のための薬剤であるため、本剤による治療中に頭痛発作が生じた場合には、必要に応じて急性期治療薬を用いるよう、患者に指導すること。

7.自己投与については、製造販売承認時に評価を行った臨床試験で安全性が確認されている。自己投与は患者の利便性を向上すると考えられる。自己投与を実施するにあたっては、実施の妥当性を慎重に検討し、患者に対して適切な教育、訓練及び指導をすること。

【参考文献】

1) Raddant A, Russo A. Calcitonin gene‐related peptide in migraine:intersection of peripheral inflammation and central modulation. Expert Rev Mol Med. 2011;13:e36

2) Goadsby PJ, Edvinsson L, Ekman R. Vasoactive peptide release in the extracerebral circulation of humans during migraine headache. Ann Neurol. 1990;28(2):183‐187.

3) Edvinsson L. CGRP receptor antagonists and antibodies agianst CGRP and its receptor in migraine treatment. Brit J Clin Pharmacol. 2015;80(2):193‐99.

4) Lassen LH, Haderslev PA, Jacobsen VB, et al. CGRP may play a causative role in migraine. Cephalalgia. 2002;22(1):54‐61.

5) Silberstein S, Lenz R, Xu C. Therapeutic monoclonal antibodies:what headache specialist need to know. Headache. 2015;55(8):1171‐82.

6) 頭痛の診療ガイドライン作成委員会(編).日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会(監修).頭痛の診療ガイドライン2021.東京:医学書院;2021.