添付一覧
○医薬部外品・化粧品の光安全性試験評価体系に関するガイダンスについて
(令和4年10月27日)
(薬生薬審発1027第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
今般、「医薬品等の動物試験代替法の開発及び国際標準化等に関する研究」(日本医療研究開発機構研究費(医薬品等規制調和・評価研究事業、研究開発代表者 小島肇))において、医薬部外品・化粧品の光安全性を評価するにあたって、動物を用いずに光安全性を評価することを目的として、複数の試験法を用いた際の評価フロー及び実施方法について、留意点等をまとめたガイダンスを別添のとおり作成されたので、貴管下関係業者に対して周知願います。
[別添]
医薬部外品・化粧品の光安全性試験評価体系に関するガイダンス
平成30年3月29日発の「医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)について」1)において、光安全性試験実施の際には平成26年5月21日発「医薬品の光安全性評価ガイドラインについて」2)及び平成26年11月21日発「医薬部外品の承認申請に際し留意すべき事項について」3)を参照するように記載されており、太陽光(紫外部及び可視光領域)の波長内(290~700nm)に光吸収帯を持っている医薬部外品・化粧品原料については、光安全性評価を実施していく必要がある。太陽光の照射を受けた医薬部外品や化粧品原料が原因となって皮膚に発症する毒性として、刺激に基づくと考えられる一過性の皮膚反応である光毒性や、免疫を介した反応である光アレルギー(光感作性)等が知られており4)、上記資料では、光安全性を評価するために必要な項目として、光毒性試験及び光感作性試験が挙げられている。
光毒性試験におけるin vitroの代替法として、2004年、経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co―operation and Development)は光毒性試験に関するin vitro試験法「3T3 NRU PT(Neutral Red Uptake Phototoxicity Test)」を試験法ガイドライン(TG:Test Guideline)4325)として採択した。3T3 NRU PTは単層培養細胞を用いて化学物質の光毒性の有無を検出する試験法として以前より使用されており、特に感受性の高い試験法として認識されている。3T3 NRU PTの利用については上記TG432をもとに、国内において既にガイダンス6)が発出されており、医薬部外品や化粧品の安全性評価へ広く利用されている。また、光感作性試験については、利用可能な代替法はなく、動物を用いた光感作性試験にて評価が行われてきている。一方、OECDは2019年、光化学的反応性評価法として活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)assayをTG495として採択した7)。ROS assayは化学物質の光化学的特性を指標としたin chemico法であり、簡便かつ迅速に測定可能な光安全性評価法として提案されている。
本ガイダンスは、医薬部外品・化粧品の光安全性を評価するにあたって、上記の方法を利用した評価フロー及び実施方法についてわかりやすく解説するとともに、必要な留意点等をガイダンスとしてとりまとめたものである。
1.評価フローに基づく光安全性評価
1―1.基本的な考え方
本ガイダンスで取り扱う内容は、光毒性及び光感作性である。光毒性及び光感作性の実験的評価(in vitro試験もしくはin vivo試験)を行う前に、光化学的性質及び薬理学的/化学的分類に基づく初期評価(紫外線/可視光吸収性の把握や化学的光反応性の確認等)の実施が推奨される。
1―2.概要
光安全性評価を以下の手順で行う(図1)。
(1) 紫外線/可視光吸収性の把握
光安全性評価では、まず初めに被験物質の光吸収性を確認する。紫外部/可視光領域(波長290~700nm)におけるモル吸光係数(MEC:Molar Extinction Coefficient)を確認する(補遺1)。紫外部/可視光領域において光の吸収帯が認められない、あるいは、被験物質のMECが1,000Lmol-1cm-1未満の場合は、光毒性及び光感作性を引き起こすほどの光反応性はないと考えられるため、追加の光安全性(光毒性及び光感作性)試験を実施する必要はない2)。
(2) 化学的光反応性の確認
(1)において、光反応性が否定できない場合は、光毒性及び光感作性に対する実験的評価を行う。被験物質の化学的光反応性は、光照射下における物質由来の活性酸素生成につながり、光安全性上の懸念につながる恐れがある。光毒性及び光感作性に対する実験的評価のin chemico試験として、ROS assayの利用が可能である(補遺2)。ROS assayは光毒性及び光感作性の検出が可能であることから、適切に実施されたROS assayにて陰性と判定された場合は、光安全性の懸念がないと結論でき、それ以降の光毒性試験及び光感作性試験の実施は必要ない。一方、ROS assayの結果から光安全性の懸念があると判断される場合、臨床的な光安全性の懸念を必ずしも示唆するものではないが、追加的評価を考慮すべきと考える。
(3) 光毒性試験及び光感作性試験
(1)及び(2)において、被験物質の光安全性の懸念があると判断される場合、光毒性試験及び光感作性試験の実施が必要である。光毒性試験のin vitro法である3T3 NRU PTは、TG4325)及び既出ガイダンス6)を参考に実施できるが、2019年にTG432改訂版8)が発出されたことから、変更点(補遺6)を考慮した上で試験を実施する必要がある。適切に実施された3T3 NRU PTで陰性となれば、対象となる被験物質の光毒性は陰性と判断できる。一方、3T3 NRU PTの結果から光毒性が陰性であると判断できない場合、臨床的な光毒性を必ずしも示唆するものでなく、追加的評価を考慮すべきと考え、従来の方法1―3)で評価する。光毒性が陰性であっても、光感作性の確認は必要であるため、光感作性試験を従来の方法1―3)を別途行う。なお、これらの光毒性試験及び光感作性試験が適切な条件下において実施される場合、本光安全性評価フローにおける化学的光反応性の確認は必ずしも必須ではない。
図1 光安全性評価フロー
2.本評価フローの予測性と運用方法に関する留意点
2―1.ベンチマーク物質との相対評価
ベンチマーク物質は、特定の化学物質又は製品クラスに属する未知の化学物質の光安全性、又は光反応性が特定の範囲内にある被験物質を相対的に評価する上で有用である。なお、被験物質との比較に用いられるベンチマーク物質は以下の要件を満たすものである。(i)供給源に一貫性及び信頼性がある、(ii)化学構造及び機能が被験物質に類似している、(iii)物理的及び化学的特性が既知である、(iv)紫外部及び可視光領域の波長内(290~700nm)における吸収スペクトルが被験物質に類似している、(v)光安全性が望ましい範囲内にあること(ヒトが安全に使用できること)を示す既知のデータがある。
2―2.本評価フローの光毒性予測
光毒性情報が知られている59物質(陽性対照34品、陰性対照25品)の試験成績を用い、本評価フローの予測性を解析した(詳細なデータは補遺8を参照)。各試験法の予適用限界である難水溶性物質の陰性結果を結論がでない(Inconclusive)を除いた本評価フローの感度、特異度及び正確度は全て100%であった(表1)。以上の結果から、適切に実施された本評価フローの光毒性予測の偽陰性懸念は低いことが示唆された。
表1 本評価フローの光毒性予測結果
(1)MEC |
(2)ROS/mROS*assay |
(3)3T3 NRU PT |
評価フロー予測結果 |
|
感度 |
100%(34/34) |
100%(34/34) |
100%(30/30) |
100%(30/30) |
特異度 |
72.0%(18/25) |
81.0%(17/21) |
100%(22/22) |
100%(23/23) |
正確度 |
88.1%(52/59) |
92.7%(51/55) |
100%(52/52) |
100%(53/53) |
*mROS:micellar ROS assay9)
2―3.ROS assayの光感作性予測
日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH:International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use)で議論し採択されたROS assay10)は光毒性を対象としており、ROS assayの光感作性予測については議論されていない。ただ、光毒性の発症メカニズムにおいて発生するROSは、光感作性を有する物質でも同様に発生する11)。そのため、適切な試験条件下においてROS assayを実施した結果で陰性となった場合は、光毒性及び光感作性を示さないと判断できる。補遺4に詳細を記載している。
3.本評価フローの限界と留意点
3―1.各試験法の適用限界
難水溶性物質や植物エキスのような構造式や分子量の情報が不明な物質の光安全性の評価を行う際には、各試験法(補遺1、補遺2及び補遺6)の適用範囲を考慮した上で実施する。
3―2.代謝物
代謝により親化合物と大幅に異なるクロモフォア1が生じることは通常ないので、一般的に代謝物について、別途、光安全性評価を行う必要はない2)。
3―3.間接的光毒性
細胞学的、生化学的、生理学的変化による光毒性であるが、光化学的反応に関連しないもの(偽ポルフィリン症やポルフィリン症等)を指す2)。本ガイダンスは間接的光毒性には対応していない。
4.引用文献
1) 医薬部外品の製造販売承認申請及び化粧品基準改正要請に添付する資料に関する質疑応答集(Q&A)について(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課事務連絡,平成30年3月29日付)
2) 医薬品の光安全性評価ガイドラインについて(厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0521第1号,平成26年5月21日)
3) 医薬部外品の承認申請に際し留意すべき事項について(厚生労働省医薬食品局審査課長、薬食審査発1121第15号、平成26年11月21日)
4) Onoue S., Seto Y., Sato H., Nishida H., Hirota M., Ashikaga T., Api A.M., Basketter D., Tokura Y., 2017. Chemical photoallergy:photobiochemical mechanisms, classification, and risk assessments. J. Dermatol. Sci. 85, 4‐11.
5) OECD, 2004, OECD Test No.432:In Vitro 3T3 NRU Phototoxicity Test. Available at:https://www.oecd.org/env/ehs/testing/Test%20No.432-2004%20English.pdf, Accessed April 4th 2022
6) 光毒性試験代替法としてのin vitro 3T3 NRU光毒性試験を化粧品・医薬部外品の安全性評価に活用するためのガイダンス(厚生労働省医薬食品局審査管理課、事務連絡平成24年4月26日)
7) OECD, 2019. OECD Test No.495:Ros(Reactive Oxygen Species)Assay for Photoreactivity,https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/915e00ac-en.pdf?expires=1625737066&id=id&accname=guest&checksum=63D6CA3AF7673D27F10120003C2A9973, Accessed April 4th 2022
8) OECD, 2019, OECD Test No.432:In Vitro 3T3 NRU Phototoxicity Test. Available at:https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/9789264071162-en.pdf?expires=1631607250&id=id&accname=guest&checksum=8C7791EDD86F693111AE5484758418F1, Accessed April 4th 2022
9) Seto Y., Kato M., Yamada S., Onoue S., 2013. Development of micellar reactive oxygen species assay for photosafety evaluation of poorly water‐soluble chemicals. Toxicol. In Vitro 27, 1838‐1846.
10) International Council on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(ICH), 2014. ICH S10 Guidance on photosafety evaluation of pharmaceuticals.
https://www.ema.europa.eu/en/documents/regulatory-procedural-guideline/ich-guideline-s10-photosafety-evaluation-pharmaceuticals-step-5_en.pdf, Accessed April 4th 2022
11) Tokura Y., 2009. Photoallergy. Expert Rev. Dermatol. 4, 263‐270.
――――――――――
1 クロモフォア:可視光あるいはUVを吸収する分子の部分構造(ICH S10より)
補遺1 モル吸光係数(MEC)の確認
1.概要
1―1.MECの算出方法
紫外部/可視光領域の波長(290~700nm)の吸収スペクトルの評価を行えば、追加の光安全性評価を行う必要がなくなる場合もあることから、初期評価の手法として推奨される1)。
MEC測定のための標準化された条件は非常に重要である。基本的な内容を確認する場合には、OECDのTG1012)又はICH S103)を参照する。
溶媒の選択
適切な溶媒の選択については、測定に必要な条件(被験物質の溶解性や紫外線/可視光領域の透過性)と生理学的な妥当性の両面から決定すべきである。メタノールは望ましい溶媒として推奨されており、MECの閾値を1,000Lmol-1cm-1とする際に用いられた4)。
注1) 分子中のクロモフォア(例えば、フェノール構造や芳香族アミン、カルボン酸等)がpH感受性を有すると考えられる場合、pH7.4の水性緩衝液を用いた追加測定の実施により、吸収スペクトルやMECの差異に関する有益な情報が得られる。
注2) OECD TG101を参考に、酸性(pH<2)、中性、塩基性(pH>10)の3つの異なるpH条件における吸収スペクトル測定を行ってもよい。水媒体で溶解しない場合、10%HCl又はNaOHを含む有機溶媒(メタノールが推奨される)を用いる([HCl],[NaOH]=1M)。
MECの算出
Lambert―Beerの法則を用いて算出する。MECは吸光度とモル濃度から成る検量線の傾きに相当する。
A:吸光度(-)
ε:MEC(Lmol-1cm-1)
C:被験物質のモル濃度(mol/L)
d:セルの光路長(cm)
注1) 良好な直線性が得られる濃度範囲で複数濃度を設定することが望ましい。MECの閾値を1,000Lmol-1cm-1とする際には、100μM付近の濃度で測定されているが4)、光吸収性の低い被験物質は必要に応じて、より高濃度で調製してもよい。
1―2.判定
MECが1,000Lmol-1cm-1未満であれば光毒性及び光感作性を引き起こすほどの光反応性は無いと判定され、追加の光安全性(光毒性及び光感作性)試験を実施する必要はない。MECが1,000Lmol-1cm-1以上の場合は、光反応性を否定できないため、不足する光安全性試験を行う。
2.試験実施上の留意点
2―1.技術的に試験に適用することが困難な物質
(1) 溶媒に溶解しない物質
(2) 溶媒中での安定性が問題となる物質(例:溶媒中で加水分解)
(3) 分子量が不明な物質
2―2.予測性に関して限界がある物質
(1) クロモフォアがpH感受性を有する物質
メタノール中とpH調整緩衝液中での吸収スペクトルに有意な差が認められる場合、1,000Lmol-1cm-1の閾値を用いることはできない。
3.引用文献
1) 医薬品の光安全性評価ガイドラインについて(厚生労働省医薬食品局審査管理課長、薬食審査発0521第1号,平成26年5月21日)
2) OECD, 1981. OECD Test No.101:UV‐VIS Absorption Spectra(Spectrophotometric Method),https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/9789264069503-en.pdf?expires=1629963576&id=id&accname=guest&checksum=C3C8A906CA7E04F1F908CDB2980A5DEB, Accessed April 4th 2022
3) International Council on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use(ICH), 2014. ICH S10 Guidance on photosafety evaluation of pharmaceuticals.
https://www.ema.europa.eu/en/documents/regulatory-procedural-guideline/ich-guideline-s10-photosafety-evaluation-pharmaceuticals-step-5_en.pdf, Accessed April 4th 2022
4) Bauer D., Averett L.A., De Smedt A.D., Kleinman M.H., Muster W., Pettersen B.A., Robles C., 2014.Standardized UV‐vis spectra as the foundation for a threshold‐based, integrated photosafety evaluation. Regul. Toxicol. Pharmacol. 68, 70‐75.
補遺2 ROS assay(OECDのTG495)
1.試験法の概要
1―1.原理
光毒性は、光照射によって産生される光反応性物質に対する急性の組織反応である。第一段階として化学物質が光エネルギーを吸収し励起状態へ移行し、一重項酸素(SO:Singlet Oxygen)やスーパーオキシドアニオン(SA:Superoxide Anion)を含むROSを生成する過程を経る。光エネルギーの吸収により、光付加体や光反応物質の形成等を生じることもあるが、その場合でもROSが介在すると考えられている1)。ROS assayは、光照射によるSO及びSAの2種のROS産生の有無を確認する試験である。SO産生の評価は、光照射を受けて被験物質が励起化合物となり、これから産生されたSOがimidazoleと反応中間体を形成し、これがp―nitrosodimethylaniline(RNO)を酸化・変色することで440nmの吸光度が減少することを指標とする。一方SAは、励起化合物から産生されるSAの電子移転反応によりnitoroblue tetrazolium(NBT)を還元し生成されるmonoformazanが560nmに吸収を有するため、この吸光度の増加を指標として評価する。
1―2.試験手順及び判定
1―2―1.試験手順
詳細な内容を確認する場合には、TG495を参照する2)。
被験物質・対照物質の準備
ROS assayを実施する際には、DMSOで10mMの被験物質溶液を試験直前に調製し、assay mixtureにおける終濃度は200μMとする。DMSOに溶解しない場合は、20mM sodium phosphate buffer(NaPB)を用いてもよい。光安定性に注意をしつつ、ボルテックスミキサや超音波処理にて5~10分程度混和し、溶解性を確認することが推奨される。Assay mixture中の終濃度200μMにおいて懸濁、沈殿又は着色等が認められる場合、終濃度20μM濃度に希釈して実施してもよいが試験結果の判断には注意が必要である。
陽性対照物質としてquinine hydrochloride(CAS No.6119―47―7)、陰性対照物質としてsulisobenzone(CAS No.4065―45―6)をいずれも試験直前に10mMに調製して用いる。
Assay mixtureの準備、擬似太陽光の照射
ROS assayではSOとSAの双方を評価するため、それぞれの測定に必要なassay mixtureを図2に従い調製する。調製後、200μLのassay mixtureを96ウェルマイクロプレートにn=3になるよう移し、光学顕微鏡観察(×100)と目視観察にて溶解性を確認する。5秒程度撹拌した後、照射前の各assay mixtureの吸光度(440nm及び560nm)を測定する。96ウェルマイクロプレートをreaction containerにセットし、気密性を高めるために石英板をしっかりと固定し、solar simulatorで1時間擬似太陽光を照射する。1分程度攪拌した後、照射後の各assay mixtureの吸光度(440nm及び560nm)を測定する。
図2 被験物質の選択溶媒に応じたワークフロー
SO及びSAの算出
Blank及び被験物質の照射前後の吸光度から、SO及びSAの産生を以下の通りそれぞれ算出する。
SO:画像4 (10KB)
A440×103={A440(-)-A440(+)-(A-B)}×103
A440(-):照射前のassay mixtureの440nmにおける吸光度
A440(+):照射後のassay mixtureの440nmにおける吸光度
A:照射前のblankの440nmにおける吸光度
B:照射後のblankの440nmにおける吸光度
SA:画像5 (10KB)
A560×103={A560(+)-A560(-)-(B-A)}×103
A560(-):照射前のassay mixtureの560nmにおける吸光度
A560(+):照射後のassay mixtureの560nmにおける吸光度
A:照射前のblankの560nmにおける吸光度
B:照射後のblankの560nmにおける吸光度
1―2―2.判定
被験物質の平均値は、SOが25未満かつSAが20未満の場合は、光反応性は陰性と判定する。SOが25以上あるいはSAが20以上のいずれかの条件を満たした場合、光反応性は陽性と判定する。ただし、溶解度等の問題で20μMにて対応した場合、陰性判定はできない。
2.試験実施上の留意点
2―1.試験実施における各種条件及び注意事項
新たに試験を実施する試験施設では、ROS assayの習熟度確認物質(補遺3)等を活用し精度の向上に努めなければならない。また、光照射強度や光照射時間、サンプル温度、共存する有機溶媒をはじめとする種々の条件によって大きく変動が誘発されるため、細心の注意が必要である。
Solar simulator
ROS assayに使用するsolar simulatorは、標準昼光に近い条件とするため、290nm以下の波長をカットするUVフィルターを装着したAtlas Suntest CPS/CPS+(照射量:1.8~2.2mW/cm2)又はSeric SXL―2500V2(照射量:3.0~5.0mW/cm2)が推奨される。また、Solar simulatorのチャンバー内の温度は、試験系へ影響しないよう20~29℃の範囲で制御する。Solar simulatorによっては照射ムラが発生することがあるため、照射ムラの無い領域を把握しておく必要がある。他のsolar simulatorを用いて使用することも可能であるが、その場合には習熟度確認物質(補遺3)を用いた条件最適化を必要とする。
Reaction container
Assay mixtureを擬似太陽光に照射する際、水分揮発による濃度変動回避のためスペクトルパターンが変化しない石英板にて蓋をして固定し、気密性を高める必要がある。推奨されるreaction containerは、スチール製の固定具、白色テフロンシート及び蓋の役目を果たす石英板から構成される(図3)。他のreaction containerを使用することも可能であるが、その場合には習熟度確認物質(補遺3)を用いた条件最適化を必要とする。
図3 Reaction containerの構成
2―2.試験成立条件について
以下の条件を満たした場合にのみデータを採用する。
(1) 照射前のassay mixtureにおいて、被験物質が溶解している。
(2) 照射前のassay mixtureにおいて、被験物質の着色干渉が無い。
(3) 440nm及び560nmにおける吸光度が0.02~1.5の範囲内である。
(4) Blank、陽性対照及び陰性対照を同一のプレート内で評価し、陽性対照及び陰性対照のSO及びSAが妥当な範囲に収まる。
なお、(4)における妥当な範囲は、ROS assay開発施設が設定した上限・下限値(陽性対照物質200μM:SOが319~583、SAが193~385、陰性対照物質200μM:SOが-9~11、SAが-20~2)を指す。陰性対照のSAが下限値を下回る場合、Cu2+を添加したNaPBを用いることで妥当な範囲に収まることが報告されている3)。
2―3.吸光度測定に干渉する場合の対処について
光照射によって生成された物質が測定波長域(440nm又は560nm)に光吸収性を示す場合、吸光度測定に干渉する可能性がある。その場合、反応基質を含まないassay mixture(control)を用意してROS assayと同様の操作を行い、440nm又は560nmにおける吸光度変化をROS assayデータから差し引くことで補正が可能である4)。
2―4.ベンチマーク物質との相対評価
ROS assayで陰性結果が得られない場合、被験物質に関連したベンチマーク物質との相対評価を行うこともできる。
2―5.難溶性物質への対応
終濃度200μM濃度においてassay mixture中で懸濁、又は、沈殿物を光学顕微鏡(×100)又は目視観察で確認できる場合、終濃度20μM濃度に希釈したROS assay又はassay mixtureに0.5%(v/v)Tween20を添加したmicellar ROS assay(mROS)5)を用いて試験を実施する。ただし、陽性判定はできるが、陰性判定から光反応性が陰性と判断することはできない。
2―6.混合物又は多成分物質への対応
混合物とは、互いに反応しない2つ以上の物質からなる混合物又は溶液とする6)。一方、多成分物質とは、その定量的組成に、2つ以上の主要成分が濃度10%(w/w)以上80%(w/w)未満存在することにより定義される物質とする7)。これら、混合物と多成分物質との違いについて、混合物が2つ以上の物質が化学反応を起こさず混合することにより得られるのに対し、多成分物質は化学反応の結果得られる。
既知組成の混合物及び多成分物質は、水以外の構成成分の割合の合計から得られる純度及び見かけ分子量を用いて10mMの被験物質溶液を調製する。主要な分子量を測定できないポリマーの場合、モノマーの分子量(又は、ポリマーを構成する複数のモノマーの見かけ分子量)を考慮して、10mMの被験物質溶液を調製し、各assay mixtureに使用する。また、未知成分で構成される原料を被験物質とする場合は、見かけ分子量を250と設定し、各assay mixtureにおける原料の終濃度を50μg/mLとする(補遺5)。ただし、光安全性懸念を示唆する情報がある場合等は、陰性結果が得られたとしても申請者は個別に対応する必要がある。
2―7.技術的に試験に適用することが困難な物質及び予測性に関して限界がある物質
様々な構造を有する化学物質の光安全性の予測が可能であることが示されているが4―5)、被験物質に対する本試験法の適否を判断する際には以下の点について考慮する。
2―7―1.技術的に試験に適用することが困難な物質
(1) 溶媒に溶解しない物質又は溶媒中で安定的に均一に分散しない物質
(2) 色素
ROS assayは変色を指標とした試験系であることから、溶解時に着色が認められる被験物質は評価できない。
2―7―2.予測性に関して限界がある物質
(1) 難水溶性の物質
終濃度200μM濃度においてassay mixture中で懸濁、又は、沈殿物を光学顕微鏡(×100)又は目視観察で確認できる場合、陽性判定はできるが、陰性判定から光反応性が陰性と判断することはできない。
(2) 光安定性に問題がある物質
光照射により分解することがその被験物質の光安全性懸念を示唆するわけではない。そのため、光安定性に問題がある被験物質は偽陽性となる可能性がある。
(3) 酸化性又は還元性を有する物質
酸化性物質はRNOを酸化させ、還元性物質はNBTを還元させる可能性があるため、被験物質を偽陽性と予測することがある。
3.引用文献
1) Tokura Y., 2009. Photoallergy. Expert Rev. Dermatol. 4, 263‐270.
2) OECD, 2019. OECD Test No.495:Ros(Reactive Oxygen Species)Assay for Photoreactivity.
https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/915e00ac-en.pdf?expires=1625737066&id=id&accname=guest&checksum=63D6CA3AF7673D27F10120003C2A9973, Accessed April 4th 2022
3) Ohtake T. and Hirota M., 2022. Causes and countermeasure for blank absorbance increase in the ROS assay. J. Toxicol. Sci. 47, 109‐116.
4) Onoue S., Suzuki G., Kato M., Hirota M., Nishida H., Kitagaki M., Kouzuki H., Yamada S., 2013. Non‐animal photosafety assessment approaches for cosmetics based on the photochemical and photobiochemical properties. Toxicol. In Vitro 27, 2316‐2324.
5) Seto Y., Kato M., Yamada S., Onoue S., 2013. Development of micellar reactive oxygen species assay for photosafety evaluation of poorly water‐soluble chemicals. Toxicol. In Vitro 27, 1838‐1846.
6) United Nations(UN)(2017), Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals(GHS). Seventh revised edition, New York and Geneva, United Nations Publications.
https://www.unece.org/trans/danger/publi/ghs/ghs_rev07/07files_e0.html, Accessed April 4th 2022
7) OECD, 2022. OECD Test No.442C:In Chemico Skin Sensitisation Assays addressing the Adverse Outcome Pathway key event on covalent binding to proteins.
https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/9789264229709-en.pdf?expires=1631144327&id=id&accname=guest&checksum=E85765EDAB5BB15A728867C3F6710642, Accessed July 21th 2022
補遺3 ROS assayの習熟度確認物質
表2 ROS assayの習熟度確認物質リスト
化学物質名 |
CAS番号 |
性状 |
SO1) |
SA1) |
溶媒 |
濃度 |
p―Aminobenzoic acid |
150―13―0 |
固体 |
-8to12 |
-11to7 |
DMSO |
200μM |
Benzocaine |
94―09―7 |
固体 |
-7to9 |
-7to17 |
DMSO |
200μM |
Doxycycline hydrochloride |
10592―13―9 |
固体 |
115to429 |
230to468 |
DMSO |
200μM |
Erythromycin |
114―07―8 |
固体 |
-15to11 |
-9to21 |
DMSO |
200μM |
Fenofibrate |
49562―28―9 |
固体 |
77to203 |
-31to11 |
DMSO |
20μM |
L―Histidine |
71―00―1 |
固体 |
-8to12 |
8to120 |
NaPB |
200μM |
Norfloxacin |
70458―96―7 |
固体 |
131to271 |
57to161 |
DMSO |
200μM |
8―Methoxy psoralen |
298―81―7 |
固体 |
31to137 |
0to126 |
DMSO |
200μM |
Octyl salicylate |
118―60―5 |
液体 |
-5to11 |
-8to20 |
DMSO |
20μM |
Acridine |
260―94―6 |
固体 |
182to328 |
121to243 |
DMSO |
200μM |
Chlorpromazine hydrochloride |
69―09―0 |
固体 |
-56to70 |
66to106 |
DMSO |
200μM |
Diclofenac |
15307―79―6 |
固体 |
34to416 |
47to437 |
DMSO |
200μM |
Furosemide |
54―31―9 |
固体 |
31to225 |
-7to109 |
DMSO |
200μM |
Ketoprofen |
22071―15―4 |
固体 |
120to346 |
77to151 |
DMSO |
200μM |
Nalidixic acid |
389―08―2 |
固体 |
54to246 |
88to470 |
DMSO |
200μM |
Omeprazole |
73590―58―6 |
固体 |
-221to103 |
30to216 |
DMSO |
200μM |
Promethazine hydrochloride |
58―33―3 |
固体 |
20to168 |
-3to77 |
DMSO |
200μM |
略号等:
CAS番号:Chemical Abstracts Service Registry Number(CASRN)
1) バリデーション研究で得られた結果に基づく。
補遺4 ROS assayの光感作性予測への利用についての補足
化学物質による光線過敏症は光毒性と光感作性に分けられる。そのうち、光感作性は、光化学反応によって蛋白質付加体等の光反応生成物を形成し、それにより引き起こされる免疫を介した反応とされている1)。光照射による光反応性物質産生時に発生するSOとSAは、光感作性を示す物質でも同様に発生し、光感作性では、光蛋白結合又は光分解のエネルギーにつながると考えられている2)。一般的に、臨床の現場において、光毒性と光感作性を明確に鑑別することは難しいとされており3)、光毒性と光感作性の両方の性質を有する化学物質もある。したがって、光毒性を示さない光感作性物質の選定が難しいことから、ROS assayが作用機序の観点から光感作性物質の検出が可能か否かの検証は容易ではない。そこで、以下示す観点から光感作性物質として分類した34物質を表3に示した。
・法規制により化粧品への配合が禁止されている光線過敏症の原因化学物質である。
・公的な評価書(医薬品インタビューフォーム、IFRA、CIR、SCCS)において、副作用に光線過敏症が記載されている、又は、光感作性陽性物質と判断されている。
・In vivo光感作性試験の陽性対照として使用されている。
ROS assayの結果は34物質全て陽性であったことから、光毒性に加えて光感作性を含めた光安全性評価ツールとしてROS assayを利用することは妥当と考えられる。
表3.光感作性物質として分類した物質リスト
No. |
化学物質名 |
CAS番号 |
光感作性 |
ROS/mROS assay |
||
根拠 |
Ref. |
結果 |
Ref. |
|||
1 |
3,3',4',5―Tetrachlorosalicylanilide |
1154―59―2 |
法規制、in vivo(陽性対照) |
4、5 |
+* |
33 |
2 |
4―Methyl―7―ethoxycoumarin |
87―05―8 |
IFRA |
6 |
+ |
33 |
3 |
6―Methylcoumarin |
92―48―8 |
IFRA、in vivo(陽性対照) |
6、5 |
+ |
33 |
4 |
7―Methoxycoumarin |
531―59―9 |
IFRA |
6 |
+ |
33 |
5 |
Amiodarone HCl |
19774―82―4 |
IF(光線過敏症) |
7 |
+* |
33 |
6 |
Oxybenzone |
131―57―7 |
SCCS |
8 |
+ |
34 |
7 |
Bithionol |
97―18―7 |
法規制、in vivo(陽性対照) |
9、5 |
+ |
33 |
8 |
Chlorpromazine HCl |
69―09―0 |
IF(光線過敏症) |
10 |
+ |
33 |
9 |
Dichlorophen |
97―23―4 |
CIR |
11 |
+* |
33 |
10 |
Diclofenac Na |
15307―79―6 |
IF(光線過敏症) |
12 |
+ |
33 |
11 |
Doxycycline HCl |
10592―13―9 |
IF(光線過敏症) |
13 |
+ |
35 |
12 |
Enoxacin |
74011―58―8 |
in vivo(陽性対照) |
14 |
+ |
33 |
13 |
Fenticlor |
97―24―5 |
in vivo(陽性対照) |
5 |
+* |
33 |
14 |
Fenofibrate |
49562―28―9 |
IF(光線過敏症) |
15 |
+* |
33 |
15 |
Furosemide |
54―31―9 |
IF(光線過敏症) |
16 |
+ |
35 |
16 |
Glibenclamide |
10238―21―8 |
IF(光線過敏症) |
17 |
+ |
36 |
17 |
Hexachlorophene |
70―30―4 |
in vivo(陽性対照) |
18 |
+ |
33 |
18 |
Hydrochlorothiazide |
58―93―5 |
IF(光線過敏症) |
19 |
+ |
36 |
19 |
Ketoprofen |
22071―15―4 |
IF(光線過敏症) |
20 |
+ |
33 |
20 |
Lomefloxacin HCl |
98079―52―8 |
IF(光線過敏症) |
21 |
+ |
37 |
21 |
Musk ambrette |
83―66―9 |
IFRA、SCCS |
6,22 |
+* |
33 |
22 |
Nalidixic acid |
389―08―2 |
IF(光線過敏症) |
23 |
+ |
35 |
23 |
Norfloxacin |
70458―96―7 |
IF(光線過敏症) |
24 |
+ |
35 |
24 |
Ofloxacin |
82419―36―1 |
IF(光線過敏症) |
25 |
+ |
35 |
25 |
Omadine Na |
3811―73―2 |
in vivo(陽性対照) |
5 |
+ |
36 |
26 |
Piroxicam |
36322―90―4 |
IF(光線過敏症) |
26 |
+ |
33 |
27 |
Promethazine HCl |
58―33―3 |
IF(光線過敏症) |
27 |
+ |
33 |
28 |
Pyridoxine HCl |
58―56―0 |
IF(光線過敏症) |
28 |
+ |
36 |
29 |
Sparfloxacin |
110871―86―8 |
IF(光線過敏症) |
29 |
+ |
37 |
30 |
Quinine |
130―95―0 |
FDA PRESCRIBING INFORMATION(Photosensitivity) |
30 |
+ |
33 |
31 |
Sulfanilamide |
63―74―1 |
in vivo(陽性対照) |
5 |
+ |
33 |
32 |
Sulfasalazine(Salazosulfapyridine) |
599―79―1 |
IF(光線過敏症) |
31 |
+ |
36 |
33 |
Tetracycline HCl |
64―75―5 |
IF(光線過敏症) |
32 |
+ |
33 |
34 |
Tribromsalan(3,5,4'―Tribromosalicylanilide) |
87―10―5 |
法規制 |
4 |
+* |
33 |