添付一覧
○「人道的見地から実施される治験の実施について」の改正について
(令和4年8月31日)
(薬生薬審発0831第3号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
欧米等では使用が認められているが、国内では承認されていない医薬品や適応(以下「未承認薬等」という。)の国内導入に向けては、「未承認薬使用問題検討会議」及び「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(以下「未承認薬等検討会議」という。)での検討に基づく開発の要請及び公募を通じて取り組むとともに、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)の審査員の増員を始めとする審査機能等の充実を通じて審査期間の短縮を図ってきた。
これにより、承認審査にかかる期間に起因するいわゆるドラッグラグ(審査ラグ)はほぼ解消されたと考えられるものの、生命に重大な影響がある疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患の場合には、医薬品の承認申請から承認までの期間を待つことが出来ない患者も存在することが考えられる。
こうした事情を踏まえ、治験の参加基準に満たない患者に対する治験へのアクセスを充実させる仕組み(日本版コンパッショネートユース)の導入に向けた検討を進め、実施中の治験の実施に影響を及ぼさないことを前提に、人道的見地から、当該治験に参加できない患者に対して未承認薬等を提供できるようにするための方策について、「人道的見地から実施される治験の実施について」(平成28年1月22日付け薬生審査発0122第7号厚生労働省医薬・生活衛生局審査管理課長通知)により示してきた。
今般、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令の整備等に関する省令(令和2年厚生労働省令第155号)の施行等を踏まえ、「被験薬の追加」又は「本質的な対象疾患の変更」を行った治験計画変更届書を届け出た場合に治験情報公開にかかる資料を更新することなど、下記のとおり改正したので、貴管内関係業者に対して周知願いたい。
記
1.制度の趣旨
欧米においては、「Expanded Access Program」あるいは「Compassionate use」制度として、代替治療薬の存在しない致死的な疾患等の治療のために人道的見地から未承認薬の提供を行う制度が整備されているところである。
医薬品の臨床的使用については、品質、有効性及び安全性の確保の観点から、原則として「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号。以下「医薬品医療機器法」という。)における製造販売承認が取得されたものが原則であるものの、致死的な疾患等の患者にとっては、未承認薬等が最後の望みとなることも想定されることから、生命に重大な影響がある疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患の治療のため、未承認薬等を臨床使用する場合には、当該未承認薬等の使用によるリスクと期待される治療上のベネフィットのバランスを図りつつ、当該医薬品の開発に支障を生じないことを前提として、これらの患者からのアクセスを確保することが求められている。
このため、わが国においても欧米と同様の趣旨の制度の検討が行われてきたが、重篤な副作用等による健康被害を引き起こすことにならないよう、また、治験の進捗に影響を与えて未承認の状況を徒に長引かせることにならないように慎重な検討と制度設計が必要とされた。
そこで、海外の実施状況等を確認しつつ、そのあり方等について、平成25年度から実施した「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬のアクセス充実対策等事業」を通じて検討を行い、治験の参加基準に満たない患者に対する人道的見地からの未承認薬等の提供のあり方について、関係者の意見を聴取して実施可能性も考慮の上、「人道的見地から実施される治験」(以下「拡大治験」という。)として整理し、平成28年1月から運用を実施しているところである。
本制度は、法令的には既存の枠組みである治験制度の下に実施されることから、国が主治医からの要望に基づいて治験依頼者又は自ら治験を実施する者(以下「治験実施者」という。)に対して拡大治験の実施の検討を要請する点や患者に一部の費用負担を求めることもあり得る点等を除き、原則として既存の治験の取扱いと同様である。
2.制度の概要
(1) 制度の対象範囲
・ 未承認薬等は開発の途中であるため最終的に承認されるとは限らない。特に適応疾患の範囲や用法・用量が定まっていない開発の早期の段階では、例え、他に有効な治療薬がない状況にあったとしても、患者が得られるベネフィットを確保する観点から、未承認薬等へのアクセスを制度として認めることは慎重であるべきと考えられる。このため、本制度においては、未承認薬等の投与により、患者が期待されるベネフィットを享受できる蓋然性が比較的高いと考えられる国内開発の最終段階である治験(通常、効能・効果及び用法・用量が一連の開発を通じて設定された後に実施される有効性及び安全性の検証を目的とした治験、以下「主たる治験」という。)の実施後あるいは実施中(組入れ終了後のものに限る。以下同じ。)の被験薬を対象とする。
・ 拡大治験の実施については、主たる治験の円滑な実施に好ましくない影響を及ぼすことにより、当該医薬品の開発を大幅に遅延させるおそれがあることから、あくまでも主たる治験に影響を及ぼさないことを前提とする。
・ 未承認薬等を使用するリスクと期待される有効性のベネフィットにおける、ベネフィット・リスクバランスの観点から、原則として、当該医薬品の承認申請、承認及び保険適用の期間を待つことが出来ない、生命に重大な影響がある疾患であって、既存の治療法に有効なものが存在しない疾患の被験薬を対象とする。
(2) 臨床試験の位置づけ
・ 国内で承認されていない未承認薬等の投与における安全性確保の観点から、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生省令第28号。以下「GCP省令」という。)が適用される治験の枠組みの中で実施する(承認取得後は、「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第171号)第2条第4項にいう製造販売後臨床試験として継続する場合も含む。)。
・ 拡大治験については、治験計画届書を事前に提出する必要がある。関連の通知を参照し、治験計画届書における「当該届出に関するその他の情報」の「臨床試験の位置付け」の「該当の有無等」の項に「拡大治験」を記載又は入力(以下「記載等」という。)すること。また、「当該届出に関するその他の情報」の「その他」の項に「拡大治験、主たる治験の受付番号○○○○―○○○○」と記載等すること。なお、本制度の運用に伴い、主たる治験の治験計画届書についても、「当該届出に関するその他の情報」の「臨床試験の位置付け」の「該当の有無等」の項に「主たる治験」を記載等すること。
(3) 拡大治験の実施に係る検討要請と実施の可否の決定
・ 拡大治験は、人道的見地から実施される治験であることから、治験実施者が自発的に実施することを妨げない。
・ 拡大治験の実施は法的義務ではなく、その実施の可否は、当該被験薬を提供する者が決定するものである。ただし、いわゆる医師主導治験として拡大治験を実施する場合には、当該拡大治験を自ら実施する者が被験薬の入手可能性を踏まえた上で決定するものである。
・ 安全性確保の観点から、拡大治験の実施の検討には患者の病状等を熟知する主治医の経験・見識が必要であることから、主治医が治験実施者に拡大治験の実施の要望を行うこととする。
・ 人道的見地から、可能な限り主治医及び患者からの要望に応えることが期待されるものの、以下の理由等により、拡大治験が実施できない場合も想定され得る。このような場合には、治験実施者は、主治医に対し、別紙様式1を用いて、実施できない理由をわかりやすく回答することとする。
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既存の治療法に有効なものが存在する、あるいは生命に重大な影響がある重篤な疾患ではない(制度該当性事由)
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被験薬の供給に余裕がないこと等(絶対事由)
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主たる治験の組入れ期間中である等の理由で主たる治験の実施に悪影響を与えるおそれがあること(時期的事由)
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患者の病状に鑑みて、明らかにリスクが高いことから、安全性の観点から拡大治験への参加が勧められないこと等(個別事由)
・ 主たる治験に参加できない場合であって、「制度該当性事由」(「制度該当性事由」を含む複数の事由の場合も含む。)により拡大治験の実施ができないと治験実施者から回答を受けた主治医及び患者が、治験実施者が回答した「制度該当性」に納得できない場合、主治医は、主たる治験に参加できない理由及び拡大治験の必要性等を述べた別紙様式2による検討依頼書を、治験実施者から受けた別紙様式1による回答を添えて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課(以下「医薬品審査管理課」という。)に提出することができるものとする。
検討依頼書を受け付けた場合、厚生労働省は、未承認薬等検討会議において、拡大治験実施の妥当性における制度該当性基準への該当性のみを評価することとする。
未承認薬等検討会議において、制度該当性基準に該当するとされた場合には、厚生労働省は、当該主たる治験の治験実施者(いわゆる医師主導治験にあっては、当該治験を自ら実施する者と当該治験の被験薬を提供している者。以下同じ。)に対して拡大治験の実施の検討を要請することとする。
要請を受けた治験実施者は、改めて拡大治験の実施の可否を検討し、主治医に回答することとする。
なお、未承認薬等検討会議の検討結果については、厚生労働省のホームページで公開することとしているので、そちらを参照されたい。
・ なお、実施の判断は、欧米の類似の制度と同様に企業が行うものであるが、被験薬の供給に余裕がない場合、主たる治験の組入れ期間中である等の理由で主たる治験の実施に影響を与えるおそれがある場合又は患者の病状に鑑みて安全性の観点から拡大治験への参加が勧められない場合等、実施できない場合も想定されることについて承知されたい。
(4) 治験実施計画書
・ 拡大治験の治験実施計画書は、主たる治験の治験実施計画書を基に作成されることを前提とし、主たる治験の治験実施計画のうち、安全性の確認に主眼を置いて変更を加えたものを基調とする。なお、有効性検証のための指標に係る検査項目等は患者の安全性確保に支障が無い範囲で簡略化あるいは省略することは差し支えないものとする。
・ 拡大治験の治験実施計画書の作成にあたっては、必要に応じてPMDAの治験相談等を利用することができる。
・ 原則として、拡大治験の要望を受けてから実施を検討するものであるが、特例として、拡大治験実施の社会的要請度が高いと想定される医薬品の主たる治験を実施する際には、主たる治験の治験実施計画書の作成段階から、拡大治験の実施の可否及び実施する場合の拡大治験の治験実施計画書の作成を検討することが望ましい。
なお、拡大治験実施の社会的要請度が高いと想定される医薬品については、当分の間、以下の医薬品が該当するものとする。
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米国において実施されているEAP(Expanded Access Program)のうち、Intermediate size IND(protocol)又はTreatment IND(protocol)が実施されている医薬品(実施予定を含む)
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先駆的医薬品指定制度(先駆け審査指定制度)に応募した医薬品(応募効能又は用法に限る)
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希少疾病用医薬品の指定を受けた医薬品(指定効能又は用法に限る)
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未承認薬等検討会議において、医療上の必要性が高いとして開発要請された医薬品(要請効能又は用法に限る)
(5) 対象患者
・ 拡大治験の対象は、参加を希望する患者にとっては治療機会の有無を決定する重要なものである一方、主たる治験における組入れ基準を満たさない患者を拡大治験の対象患者に含められるかどうかについては、安全性確保の観点から、合併症、疾患の病期又は重篤性等の項目について慎重に検討する必要がある。このため、実施済みあるいは実施中の主たる治験の実施計画書の組入れ基準の各項目に関して、組入れ基準を緩めても医学・薬学的に許容可能であると判断される範囲の患者とすべきである。
・ 拡大治験の実施要望を受ける前に拡大治験の実施計画書を作成した場合であって、作成した拡大治験の実施計画では当該患者が参加できないと判断される場合には、当該実施計画書を作成した際に検討した根拠に基づき理由を主治医に回答する。
なお、実施計画書の見直しが可能な場合には、その時点で実施計画書の見直しを行うこととする。
(6) 実施施設及び実施者
・ 拡大治験の対象となる医薬品は、未承認薬等であるため、被験者の安全性確保の観点から、原則として当該医薬品を投与した実績があり、当該医薬品による副作用等に対する十分な知識と経験を有している者によって実施されるべきである。そのため、主たる治験を実施したあるいは実施中の医療機関において、主たる治験の治験責任医師又は治験分担医師により実施されることを原則とする。
(7) 治験にかかる費用負担
・ 原則として治験に係る費用は治験実施者が負担するものであるが、拡大治験においては、被験薬の製造、運搬、管理及び保存並びに同種同効薬(ただし、医療保険が適用されない場合)にかかる費用について、拡大治験に参加する患者に応分の負担を求めることも認められる。
なお、通常の治験と異なり、人道的見地から実施されるものであることに鑑み、通常の治験で支払われる負担軽減費については支給する必要は必ずしも無いこと。
・ 患者に負担を求める場合には以下の要件を満たすこと。
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患者説明文書に、想定される患者負担額及びその積算に係る考え方等を事前に患者が理解しやすいように記載するとともに、十分な説明を行った上で、同意を取得すること。
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被験薬及び同種同効薬に関する負担については、「使用薬剤の薬価(薬価基準)」(平成20年厚生労働省告示第60号)に収載されている医薬品にあっては薬価を超えない額であること。
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被験薬及び同種同効薬に関する負担がある場合、負担額とその積算に係る考え方について、医薬品審査管理課に報告すること。
(8) 実施期間
・ 本制度は治験の枠内で実施されるものであることから、原則として、当該医薬品が承認された場合、不承認とされた場合、有効性が認められない等として申請が取下げられた場合又は開発が中止された場合には、その時点で終了するものとする。
ただし、承認後から製造販売を開始するまでの間、継続して被験薬を投与する必要がある場合には、治験の実施主体に応じて、以下の対応を取ること。
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企業治験の場合:承認取得後自動的に製造販売後臨床試験に切り替えられるよう、治験計画届書及び治験実施計画書にその旨を記載する等の対応をしておくこと。
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医師主導治験の場合:承認後自動的に臨床試験に切り替えられるよう、治験計画届書及び治験実施計画書にその旨を記載する等の対応をしておくこと。なお、やむを得ず、治験を継続しなければならない場合には、事前に医薬品審査管理課に相談すること。
(9) 補償について
・ 拡大治験は、治験の範囲で実施されるものであることから、GCP省令第14条又は第15条の9に基づき適切な補償措置を講ずること。
3.申請後の申請資料としての取扱い
・ 拡大治験は、一般に主たる治験に組み入れられている患者よりもリスクが高い患者が含まれていることが想定される。そのため、安全性を評価する観点からも、承認申請後は、PMDAの審査部からの指示に基づき、審査中に少なくとも1回は拡大治験の実施状況を集計し報告すること。
この際、PMDAの審査部は、拡大治験が通常の治験とは異なり、人道的見地から実施されるものであることから、頻回な集計作業により申請者に過度な負担を強いることがないように配慮するものとする。
・ また、拡大治験は、承認審査中も実施されることが想定されるため、承認申請時の臨床データパッケージに含めることは一般には想定されていない。なお、製造販売後に使用が想定される患者の安全性に関する情報を含んでいる場合が考えられることから、添付文書等に必要な記載を行うことがある。
4.治験情報の公開等
・ 治験計画届書としてPMDAに届け出られたもののうち、主たる治験及び拡大治験に係る以下の情報についてはPMDAのホームページで公開する。
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被験薬の情報(治験成分記号)
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治験届出者名及び連絡先(ただし、連絡先は、別途一覧を作成する。)
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対象疾患
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治験の相(第Ⅲ相等)
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治験実施予定期間
・ 治験計画変更届において、以下の変更が行われた場合、PMDAのホームページの更新を行う。
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被験薬の追加
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本質的な対象疾患の変更
・ 薬物の届書で届け出られた被験機器相当及び被験製品相当は、「被験薬」と同様に公開対象とする。
・ 主たる治験及び拡大治験としてPMDAに届け出られた治験計画届書等の情報については、届出翌月末を目処に、PMDAのホームページにおいて公開する。
5.その他、拡大治験に係る運用上の留意点等
(1) 医療機関等における拡大治験への協力の依頼
治験の枠組みで実施される拡大治験は、未承認薬等を患者に投与する方法としては、組織的かつ手厚い安全性確保が図られるものである一方で、実施する企業に多大な負担を強いることになることから、医療機関、開発業務受託機関(CRO:Contract Research Organization)及び治験施設支援機関(SMO:Site Management Organization)等の関連する諸機関におかれては、本制度の趣旨に鑑み、治験実施者の負担が少しでも低減されるよう、通常の治験の受託とは区別して、必要最低限の経費で受託するようご理解とご協力をお願いしたい。
(2) 拡大治験に係るGCP省令上の取扱い
GCP省令において、拡大治験の実施に当たり、当該制度の実施可能性を高める観点から、治験実施者の負担軽減に係る事項が規定されている。
具体的には、別途関連の通知を参照のこと。
(別紙様式1)
(別紙様式2)