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○「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集について

(令和4年8月12日)

(事務連絡)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区各衛生主管部(局)あて厚生労働省医政局総務課通知)

平素より、医療行政の推進に格別の御配慮を賜り、厚く御礼申し上げます。

身元保証人・身元引受人等がいないことを前提とした医療機関の対応方法については、令和元年に「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインの発出について(通知)」(令和元年6月3日付厚生労働省医政局総務課長通知)により、周知させていただきました。

今般、令和2年度及び令和3年度の厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発研究事業)「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関する研究」により、医療機関等を対象に実施された調査で抽出された事例に関して、医学的課題、法律的・倫理的懸念事項や対応策として考えられる内容等を整理した事例集が作成されました。

各都道府県等におかれましては、別添の事例集について、「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」とともに、貴管下医療機関へ周知し、活用を促していただくとともに、福祉部局等の関係部局・関係機関と十分連携の上、身寄りがない人や医療に係る意思決定が困難な人が安心して医療を受けられる環境の整備に努めていただくようお願いいたします。

【別添】

○ 「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集について

【参考】

○ 「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインの発出について(通知)」(令和元年6月3日付け厚生労働省医政局総務課長通知)

(照会先)

厚生労働省医政局総務課

電話:03―5253―1111(内線)4158

[別添]

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集

令和3年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関する研究」班

研究代表者

山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座

山縣 然太朗

はじめに

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」に基づく事例集は、令和2~3年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関する研究」班が、その研究成果をもとに作成しました。

平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班が策定した医療機関に勤務する職員を対象とする「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン(以下、ガイドライン」は厚生労働省医政局総務課長通知(医政総発0603第1号令和元年6月3日)により周知され、医療機関等でご活用いただいています。

本事例集は、ガイドラインでは対応が難しい困難事例に対して、医療面の課題、法律的・倫理的懸念事項、法律・倫理の観点を踏まえた対応案、対応案について留意すべき事項を整理しました。

本事例集において取り扱っている事例は患者が成年であることを前提としたものとなっています。このため、本事例集の活用にあたっては、小児のような年齢による特異性やLGBTQに配慮し、個人情報保護法を遵守するなどの必要に応じた対応についてご検討いただきますようお願いいたします。その際に参考となる指針等は本事例集の参考文献をご参照ください。

事例集作成にあたっては、関係者、関係団体各方面からのご意見を賜りましたことをあらためて感謝申し上げます。

本事例集が活用されることにより、身寄りのない場合にも医療機関や医療関係者が患者に必要な医療を提供できるように、また、患者も身寄りがなくても安心して必要な医療を受けられるようになれば幸いです。

2022年7月

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関する研究」

研究代表者 山縣 然太朗

目次

1.身寄りがない人への支援の基本的な考え方

(1) 「身寄りがない人」はどのような人か?

(2) 本人の意思の尊重の原則

(3) 障害者権利条約の考え方と意思決定支援

(4) 身寄りがない人の支援の流れ

(5) 臨床倫理の観点からの検討

(6) 臨床倫理の4分割法

(7) 共同意思決定と意思決定支援

2.事例1:患者本人の意思が確認できない状況での対応(身寄りの確認と治療の決定)

(1) 1―1.医療従事者が意識のない患者の所持品(財布の中や携帯電話の連絡先等)を確認するなどして、個人情報を取得及び提供することについて、個人情報保護関連の法的な問題は問われないのか?

(2) 1―2.家族等の有無の情報について確認すべき関係機関はどこか?

(3) 1―3.本人が医療費を支払うことが困難な場合、誰に医療費の請求をすることができるのか?

(4) 1―4.本人の生活背景を誰も知らないため本人の意思の推定が不可能である場合、何を基準に本人にとっての最善の医療を決定すればよいか?

(5) 1―5.本人の意思が確認できず、医療・ケアチームで医療の決定をした場合の記録の留意点は何か?

3.事例2:患者本人の意思決定を尊重した上での対応(本人の意思を尊重した退院)

(1) 2―1.患者本人の意思決定を尊重した上での対応とは?

(2) 2―2.病院は入院継続を勧めたが本人の希望で退院し、退院直後に状態が悪化、死亡した場合には病院の責任が問われるのか?

(3) 2―3.本人の意思だけで医療を進めてよいのなら、仮に患者に家族等がいる場合であっても、その同意は不要か?

4.事例3:患者本人と疎遠な家族との関わり方(家族の役割)

(1) 3―1.疎遠な家族にどこまで働きかける必要があるのか?複数の家族に、どこまでどの程度連絡をするべきなのか?家族一人ひとりに意向を確認するのは大変な作業であるが連絡をとらないと法的な問題があるのか?

5.事例4:絶縁状態の家族の意見の尊重(延命治療の決定プロセス)

(1) 4―1.絶縁状態の家族の意向を治療に反映させてもよいのか?

6.事例5:退院後の住まいを確保し生活を支援するための対応

(1) 5―1.本人の住まいを確保し生活を支援するために施設へ入所してもらう制度はあるか?

7.【Q&A】身寄りがない人の金銭管理の支援、制度の活用

(1) Q1.相続法改正(2019年7月1日施行)により、法定相続人が個人の預金を一定額引き出すことが可能になったがその法解釈や手続きが知りたい。

(2) Q2.金銭に関わることはトラブルになりやすいので、金融機関との対応方法についてのガイドラインが欲しい。

(3) Q3.病院が患者の財産管理をすることに法的な問題がないのか?

(4) Q4.病院が患者の財産管理をする場合の出納帳の作り方を示してほしい。

(5) Q5.医療機関が財産管理をするときの注意点を知りたい。

(6) Q6.予後が悪く生存中に成年後見制度の申立てを行っても審判が間に合わないと予測される患者の保全処分の適応を知りたい。

(7) Q7.内縁関係にある人、友人や会社の雇用主がキーパーソンの場合、金銭管理等どこまで依頼できるのか?

1.身寄りがない人への支援の基本的な考え方

(1) 「身寄りがない人」はどのような人か?

民法において「親族」と定義される身分関係にある者でも、その時々の状況によって、法律上認められる権利や課される義務は異なる。たとえば、患者の医療費を負担する義務を負う者、患者が死亡した際にその財産的地位を相続できる者、近親者として加害者に慰謝料を請求することができる者・・・これらは重なることもあれば、そうでないこともある。また、裁判例やガイドラインには、患者が医療について決定することができない状況等において、医療機関が接触を図ることが求められる「家族等」の存在が示唆されることもあるが、ここでの「家族等」と民法上の「親族」は必ずしも同義ではない1。このような状況において、「身寄り」という言葉を定義することは困難である。

そこで、本事例集は、状況に応じて「身寄り」という言葉の指す内容は変わりうるという考えを前提にするものであることを予めお断りしておく。なお、法的に親族関係のある者が存在する場合にも、それらの者が患者との関係を拒否する場合には「身寄りがない人」に含める。

(2) 本人の意思の尊重の原則

医療行為の決定は本人の一身専属の権利であることを前提に、本人の意思を尊重することを原則とする。

(3) 障害者権利条約の考え方と意思決定支援

2006年国連総会にて採択された障害者権利条約に、2014年、日本も批准した。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利を実現するための措置等を規定しているものである。これに基づき、判断能力が不十分な場合にも、本人が自らの価値観や選好に基づく意思決定ができるよう、本人に関わる支援者が、本人に必要な情報を提供し、本人の意思や考えを引き出すなどの支援をしていく意思決定支援の取組が進められている2。医療従事者に対しても、患者に提供する医療の質が障害の有無によって異ならないよう、意思決定支援を通じた医療の提供が求められる(同条約25条d号)。

(4) 身寄りがない人の支援の流れ

1) 家族等の有無を確認

本人との意思疎通が可能である場合、親族や友人・後見人等の有無を確認し、本人の意向を尊重したうえで、緊急連絡先となれる者の有無を確認する3。これに対して、本人に身寄りの有無を尋ねても理解を得るのが難しい場合、医療機関は、患者に家族等があるかどうかを調べるために次のような方法をとりうる。

・親族の有無

市区町村の役所にて、患者の住民票や戸籍を請求して確認する(後掲1―2を参照)。

・成年後見人等の有無

患者との意思疎通ができず医療に関する契約が交わせない状態にある場合、代理権を有する成年後見人、保佐人又は補助人との間で契約をする必要がある。これら後見人等は、民法の規定に基づき、患者の財産管理や医療・介護・福祉サービス等の契約の締結を行うことができる4

後見人等を名乗る者が現れた場合、その者に成年後見に係る「登記事項証明書」の提示を求める。保佐人・補助人については「医療契約及び病院への入院に関する契約」に関しての代理権の記載があることを確認してから個人情報の提供をする等、適切な取り扱いをする(ガイドライン参照)。これに対して、後見人等が選任されているかどうか明らかでない場合、親族に後見人の有無を確認することが考えられる5。適当な親族が見つからない場合、市町村長の申立による成年後見人の選任がなされている可能性があるため、市町村に相談する6

2) 本人の意思決定を支援する仕組みの活用

障害者権利条約の理念に照らし、本人が自ら医療に関する決定を行うことができるよう支援する仕組みを利用していくことが求められている。そのひとつに、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)があげられる。ACPとは、患者の将来の医療及びケアについて、本人が主体となって、その家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことである。近時は、このACPを利用して、患者と意思疎通を図りながら将来の医療について決定していく手続をとることが望ましいとされている。医療従事者は、身寄りがない者についても、本人との間で継続的に意思確認を行う。

また、本人の判断能力が不十分な場合、入院費等に関することや入院中に必要な物品の準備に関することなど、医療機関としての懸念事項を解決するに当たって、本人に日常生活自立支援事業や成年後見制度等の権利擁護の仕組みを利用するよう勧めたり、本人との相談が難しい場合には市町村行政に相談することが考えられる。この場合も、できる限り、他者の代理によって決定するのではなく、本人の意思決定を支援する仕組みの利用を勧めることが望ましい。すなわち、本人が意思表示をできるような場合には、日常生活自立支援事業7を、事理弁識能力の低下が認められ、成年後見制度を利用する場合も、まずは保佐類型や補助類型8を紹介する。また、判断能力が十分な場合は、本人の意思に基づいて任意後見契約を結び、判断能力が不十分になった場合に備えることも考えられる9

どのような仕組みが活用しやすいかは、地域の社会資源によって様々であるため、市町村行政または地域の中核機関に「どのような権利擁護支援が良いか」を相談することがポイントである。

(5) 臨床倫理の観点からの検討

医療行為の決定は、本人の一身専属の権利であり、本人の意思を尊重することが原則であるが、身寄りがないということは、その意思決定のプロセスを支える存在が得られにくい状態であることも意味している。

臨床倫理とは、患者ケアに関わる人々の日々の道徳的意思決定を意味する。つまり、患者の命と人生について考え、語り、話し合い、どんな選択が最善かを検討し、原則的方向性を打ち出し、実践することだと定義されている10。そして、臨床倫理は一人ひとりの患者/利用者本人に関わるすべての職種がチームで推進すべきものである11

著名な生命倫理の倫理原則として、患者にとって最善の行いをすること(beneficence)、患者に危害を与えないこと(non‐maleficence)、正義・資源配分が公正であること(justice)、自律を尊重すること(respect for autonomy)という4つの原則がよく知られている12。これらの原則をもとに、日本の臨床現場に即した臨床倫理の原則として、「人間尊重」(人として尊重した医療とケアの提供)、「予益」(相手の益になり、害とならない)、「社会的適切さ」(資源の適切な利用や配分、法令やガイドラインの遵守という3つの原則がまとめられている13

具体的な事例を検討する場合には、次の2つのアプローチによる検討を考慮することが望ましい。いずれも、今後の方針の決定のみならず、既に起こったことの見直しと今後の改善の検討においても有用である。医療・ケアチーム側での検討においては、多職種が参加するカンファレンスを通じた検討の機会を設けることが望ましい。また、これらの過程において、医療・ケアチームに属さない臨床倫理の専門家(コンサルタント、コンサルティングチーム等)から助言を受けることによって、考慮すべき視点の漏れをなくし、新たな検討の観点を入れることが期待できる。

(6) 臨床倫理の4分割法(図1)

医学的適応、患者の意向、QOL(人生の質)、周囲の状況の4つの側面について、多職種で分析することによって、倫理的な対話を実現し、倫理的なジレンマの存在を見出すアプローチである。これらの4つの側面に関する情報を収集し、ワークシートに記入されたものを用いて話し合いを進め、患者にとっての最善の治療を検討するアプローチである。

医療・ケアチームは、検討する症例を決定したうえで、臨床倫理の四分割表を参考に担当者が情報を収集し、多職種が参加するカンファレンスにおいて事実関係を共有する。「医学的適応」「患者の意向」「周囲の状況」「QOL」の順で話し合いを行うことが推奨されている14。時間の余裕があれば、不足した情報を集めて再度カンファレンスを開いて議論を深めることも考慮すべきである。

図1 臨床倫理の四分割表

医学的適応(Medical Indications)

1.患者の医学的問題は何か?

病歴は? 診断は? 予後は?

2.急性か、慢性か、重体か、救急か?可逆的か?

3.治療の目標は何か?

4.治療が成功する確率は?

5.治療が奏功しない場合の計画は何か?

6.要約すると、この患者が医学的および看護的ケアからどのくらい利益を得られるか?またどのように害を避けることができるか?

患者の意向(Patient Preferences)

1.患者には精神的判断能力と法的対応能力があるか?能力がないという証拠はあるか?

2.対応能力がある場合、患者は治療への意向についてどう言っているか?

3.患者は利益とリスクについて知らされ、それを理解し、同意しているか?

4.対応能力がない場合、適切な代理人は誰か?その代理人は意思決定に関して適切な基準を用いているか?

5.患者は以前に意向を示したことがあるか?事前指示はあるか?

6.患者は治療に非協力的か、または協力できない状態か?その場合、なぜか?

7.要約すると、患者の選択権は倫理・法律上、最大限に尊重されているか?

QOL(Quality of Life)

1.治療した場合、あるいはしなかった場合に、通常の生活に復帰できる見込みはどの程度か?

2.治療が成功した場合、患者にとって身体的、精神的、社会的に失うものは何か?

3.医療者による患者のQOL評価に偏見を抱かせる要因はあるか?

4.患者の現在の状態と予測される将来像は延命が望ましくないと判断されるかもしれない状態か?

5.治療をやめる計画やその理論的根拠はあるか?

6.緩和ケアの計画はあるか?

周囲の状況(Contextual Features)

1.治療に関する決定に影響する家族の要因はあるか?

2.治療に関する決定に影響する医療側(医師・看護師)の要因はあるか?

3.財政的・経済的要因はあるか?

4.宗教的・文化的要因はあるか?

5.守秘義務を制限する要因はあるか?

6.資源配分の問題はあるか?

7.治療に関する決定に法律はどのように影響するか?

8.臨床研究や教育は関係しているか?

9.医療者や施設側で利害対立はあるか?

【出典】症例検討の進め方.赤林朗・蔵田伸雄・児玉聡監訳.『臨床倫理学 第5版』(新興医学出版社)pp.261―262,2006.

(7) 共同意思決定と意思決定支援(図2)

近年、治療法の意思決定に積極的に患者に加わってもらう相互参加型の医療が模索されてきており、共同意思決定(shared decision making)も普及している。共同意思決定とは、本人、家族、医療・ケアチームがともに意思決定に関わり、本人にとって最善の治療方針を決定するアプローチである。

ここでは、清水哲郎らが提唱する<情報共有―合意モデル>について紹介する。医療・ケアチームから本人への医学的な説明と、本人側から医療・ケアチームへの物語り的な説明(価値観や死生観など)を通して、双方で情報を共有したうえで共同意思決定に至る。本人のプロフィール、経過をまとめたうえで、別の選択がありうる「分岐点」を明示したうえで、図2に示すようにAからEの順に沿って検討を進める。これにより見いだされた方針は、患者との共同意思決定であり、すなわち患者へのインフォームド・コンセントの内容でもある。

図2 <情報共有―合意モデル>カンファレンス用ワークシート概念図

【出典】清水哲郎.臨床倫理事例検討の進め方p.19図1.清水哲郎・会田薫子・田代志門編『臨床倫理の考え方と実践 医療・ケアチームのための事例検討法』所収.東京大学出版会.2022.

タイトル:患者本人の意思が確認できない状況での対応(身寄りの確認と治療の決定)

事例1

患者は、道で意識不明で倒れているところを発見され救急搬送されてきた。救命はできたが意識が戻ることはなく人工呼吸器管理下で経過している。所持品の中から家族等が特定できるものを探したが、情報は得られなかった。加えて、今後意識や呼吸状態が回復する可能性が極めて低く、人工呼吸器や栄養管理等の延命治療の是非を考える必要があるが、本人の生活背景を誰も知らないため本人の意思の推定が不可能である。このような場合、何を基準に本人にとっての最善の医療を決定すればよいか?また、今後の医療費の支払いは誰に請求すればよいか。

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 事例に関する医療面の課題

・患者本人の意思が確認できない時の情報収集および確認すべき関係機関

・患者本人の意思が推定できない時の医療の決定

・患者本人の意思が確認できない時の医療費の請求

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 事例に関する法律的・倫理的懸念事項

1―1.医療従事者が意識のない患者の所持品(財布の中や携帯電話の連絡先等)を確認するなどして、個人情報を取得及び提供することについて、個人情報保護関連の法的な問題は問われないのか?

1―2.家族等の有無の情報について確認すべき関係機関はどこか?

1―3.本人が医療費を支払うことが困難な場合、誰に医療費の請求をすることができるのか?

1―4.本人の生活背景を誰も知らないため本人の意思の推定が不可能である場合、何を基準に本人にとっての最善の医療を決定すればよいか?

1―5.本人の意思が確認できず、医療・ケアチームで医療の決定をした場合の記録の留意点は何か?

1―1.医療従事者が意識のない患者の所持品(財布の中や携帯電話の連絡先等)を確認するなどして、個人情報を取得及び提供することについて、個人情報保護関連の法的な問題は問われないのか?についての対応案

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 法律の観点を踏まえた対応案

・個人情報の取得については、「偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」(個人情報保護法第20条1項)とされているところ、意識のない患者の治療に関連して家族等を特定する目的でその所持品を確認することは「偽りその他不正の手段」とはいえないと考えられる。

なお、家族の連絡先ではなく、患者の身体状況、病状、治療等の情報を取得する場合には、これらの情報は「要配慮個人情報」に該当するため、取得時に本人の同意が必要となる。ただし、本事例のように「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」は、本人の同意のない取得も例外的に許される。

・家族や関係機関(1―2参照)に本人の病状に関する情報を提供する場合には、原則として本人の同意が必要となる。ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合には、本人の同意がなくとも、法的な問題はない。

例えば、①意識不明で身元不明の患者について、関係機関(1―2参照)へ照会したり、家族又は関係者等からの安否確認に対して必要な情報提供を行う場合、②意識不明の患者の病状や重度の認知症の高齢者の状況を家族等に説明する場合等が、これに該当する(厚労省・後掲ガイダンス)。

また、本人の同意を得るために個人情報を利用すること(同意を得るために患者・利用者の連絡先を利用して電話をかける場合など)も認められる(厚労省・後掲ガイダンス)。

・患者が成年被後見人、被保佐人及び被補助人であって判断能力を有しない場合には、法定代理人(※)から同意を得る必要がある(厚労省・後掲ガイダンス)。

※ 保佐人及び補助人においては、上記対応における法定代理権を持っていない場合がある。

<参考>

個人情報保護法20条、27条、個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日、令和4年3月一部改正)

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・意識が回復した場合は、家族への連絡について本人の意思を確認する。

・関係機関への個人情報の提供について、本人の意思を尊重する。

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 対応案について留意すべき事項

・生命を守るための対応を尽くすべきであるが、患者本人の意識が回復した時には家族への連絡についての説明をする。

・本人の意思確認ができる場合は、家族への連絡や、関係機関からの情報提供は本人と話し合って同意を得る。

1―2.家族等の有無の情報について確認すべき関係機関はどこか?についての対応案

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 法律の観点を踏まえた対応案

・地方自治体の窓口(例えば、市町村の戸籍住民課住民記録係)

法律上は、権利の行使又は義務の履行のために住民票や戸籍の記載事項を確認する必要がある場合には、第三者が住民票・戸籍(附票含む)を請求することができる。

また、患者が生活保護受給者である場合、医療扶助の受給との関係があるので、生活保護の担当窓口(当該地域の福祉事務所)に問い合わせる。

<参考>

住民基本台帳法12条の3第1項1号、戸籍法10条の2第1項

・患者が以前に利用したことのある病院や施設

生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合に、本人の同意が得られないときも、以前に患者が利用したことのある病院や施設に個人データを照会することができる。ただし、照会先の病院や施設にはこの照会に応じて開示する法的な義務があるわけではない。

<参考>

個人情報保護法27条(第三者提供の制限)

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・意識が回復した場合は、情報提供を受けた担当者から収集の経緯について患者本人へ説明する。

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 対応案について留意すべき事項

・適切な医療の提供のための情報は各関係機関から収集する必要があるが、患者の意識が回復した際には、情報提供を受けた担当者から収集の経緯について患者本人に説明する。

1―3.本人が医療費を支払うことが困難な場合、誰に医療費の請求をすることができるのか?についての対応案

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 法律の観点を踏まえた対応案

次の者が見つかった場合は、当該者への請求が考えられる。

・後見人または、医療契約及び病院への入院に関する契約に関する代理権を持つ保佐人・補助人

後見人または、医療契約及び病院への入院に関する契約に関する代理権を持つ保佐人・補助人は、患者を代理して患者本人の財産から医療費を支払う。

・配偶者

夫婦の一方が、日常の家事に関して第三者と契約をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯責任を負うこととされている。「日常の家事」に含まれる医療契約による債務については、配偶者に請求をすることができる。

<参考>

民法761条

※内縁関係にある者も含む。

・扶養義務者

請求できるような配偶者がいない場合において、本人の請求により直系血族(親子間、祖父母と孫間等)や兄弟姉妹が扶養義務を負うことがある。ただし、扶養を受ける権利は一身専属的なものであるから、扶養義務者への請求は、本人の意向がある場合に限られるのが原則であり、医療側としてはこれら扶養義務者に本人の意向を伝え、医療費支払いの協力を求める。なお、兄弟姉妹間や子が親に対して有する義務の程度は、配偶者に比べて低いため、扶養義務者の余力の範囲における負担となる。

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 対応案について留意すべき事項

・家族とはいっても、法的に支払義務を負うか否かは個別事情による。

1―4.本人の生活背景を誰も知らないため本人の意思の推定が不可能である場合、何を基準に本人にとっての最善の医療を決定すればよいか?についての対応

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 倫理の観点を踏まえた対応案と留意すべき事項

・臨床倫理四分割表(図1)を活用し、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況を考慮して、患者本人にとっての最善の医療を決定する。「患者の意向」は、意識を回復した場合、発話内容のみに頼らず、表情や振舞いなどからも意向を汲み取る努力をする。「医学的適応」の観点から意識の回復が見込めない場合、苦痛や不快の軽減、尊厳ある看取りのありかたについても考慮する。

・カンファレンス等の記録については、後掲1―5を参照。

1―5.本人の意思が確認できず、医療・ケアチームで医療の決定をした場合の記録の留意点は何か?についての対応

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 倫理の観点を踏まえた対応案と留意すべき事項

・本人にとっての最善の利益が何であると判断したのか、本人の意思が言語から確認できない場合でも表情や振舞いなどにより、本人が現在の治療内容をどのように考えていると推測できるか、あるいは何も推測できないかについても考慮する。

【カンファレンス等の記録の記載例】

・診療経過、病気の現状、必要な検査・治療の内容、認知症等により患者の理解力に疑義がある場合は、その旨も文書にまとめておく。

・臨床倫理の観点から検討した結果を文書にまとめておく。

・患者の意思確認が困難な場合でも、患者本人に病名を告知し、必要な検査や治療を伝えたかどうか、それに対する患者の反応(表情や振舞いなども含めて文書にまとめておく。

・患者の意思確認が困難な場合でも、決定事項について、その都度患者本人に説明をし、記録することが重要(病態が変化する場合もあるので)。患者の病態の変化に応じて検査や転院も検討し、患者に説明した時の反応(表情や振舞いなども文書にまとめておく。

タイトル:患者本人の意思決定を尊重した上での対応(本人の意思を尊重した退院)

事例2

イレウスで入院した患者が治療によって回復したが、再発の可能性が高く、最悪の場合死に至る可能性があった。見舞いにくるような家族等はいないが、調査はしていない。入院を継続し人工肛門造設術を受けることを提案したが本人が拒否し退院を強く希望した。手術の必要性を説明しても「家で苦しんで死んでもいい」と話す。この意向は、医学的な説明や今後の見通しを本人が十分理解したうえでの判断なのかは分からなかったが、さしあたり身近に家族等がいなければ、本人の意思を尊重し自宅退院としてよいか?

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 事例に関する医療面の課題

・人工肛門造設術が必要であり、造設せずに退院した場合、退院後に状態が悪化し緊急入院となる可能性が高い。

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 事例に関する法律的・倫理的懸念事項

2―1.患者本人の意思決定を尊重した上での対応とは?

2―2.病院は入院継続を勧めたが本人の希望で退院し、退院直後に状態が悪化、死亡した場合には病院の責任が問われるのか?

2―3.本人の意思だけで医療を進めてよいのなら、仮に患者に家族等がいる場合であっても、その同意は不要か?

2―1.患者本人の意思決定を尊重した上での対応

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 法律の観点を踏まえた対応案

・患者本人の意思決定の尊重

治療方針の決定においては、本人の状態に応じた専門的な医学的検討を経て、医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、本人が自らの意思をその都度示し、伝えることが出来るような支援が行われることが必要である。その上で、本人の病状、治療の方針、治療をしない場合にもたらされる結果等を真摯に説明し、本人が理解したうえで医療従事者等との相互の話し合いのもと、本人の意思に基づき方針を決定し、医療従事者等はその方針を尊重すべきである。患者の要望に応えることができないと考える場合は、その旨を説明したうえで、他の方策も含め本人にとって最善の方針を検討する。本人の意思が明確である場合、家族に相談する義務はない。しかし、本人と家族の関係に鑑みて、その協力を仰ぐことが適当であると判断されるケースにおいては、家族への説明は紛争の予防に資する。(※)

※家族(※※)への説明が望ましい場合

特に患者が認知症等により判断能力が不十分な状態にあり、自らが置かれた状況の危険性が理解できない状態にあるときや、治療の拒否によって生命・身体に重大な結果が生じるとき。

※※ここで特に相談すべき「家族」に該当すると考えられる人とは?

・近親者等

「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」(民法711条)。また、最高裁の判例には、被害者との間に「父母、配偶者及び子」と実質的に同視しうる身分関係が存在し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者による慰謝料請求権が認められるとしたもの15や、死亡のみならず重大な障害が残った場合にも認められるとしたもの16がある。

・推定相続人

患者への十分な説明を怠っていたようなケースにおいて、上記の近親者には該当せず固有の損害賠償請求権をもたない者も死亡した患者本人の損害賠償請求権を相続するため注意が必要である。

推定相続人とは

①配偶者、及び

②子(子がないときは孫、孫がないときは曾孫)、

③②がないとき、直系尊属のうち一番親等が近しい者(父母→祖父母→曾祖父母…)

又は、

④③がないとき、兄弟姉妹(兄弟姉妹がないときは甥・姪)

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・退院後であっても、いつでも意思を変更でき、その時点で人工肛門の造設を検討できることを伝える。

・退院後においても、機会があれば、入院を継続し人工肛門造設術を受ける選択肢以外にどのような選択肢があるのか、人工肛門造設をせずに退院することにより健康状態にどのような変化が生じるリスクがあるのかについて、本人が想像しやすい言葉遣いで説明し、疑問や質問に答える時間をもつ。

・本人が言語化した意思が、本人の真意と異なる可能性もあることに留意する。医師が最善と考える治療方針の選択によって、本人の人生においてより価値のあるものがどのように損なわれる恐れがあるのかについて関心をもち、本人と対話を重ねる。

・自律性を尊重するという観点から、機能や能力が喪失している、または障害があることが確認されるまでは、本人には判断能力があるものと考える。

・治療方針を理性的に決定する判断能力は十分でなくても、どのような生活を望むかという本人の意向や価値観の表明は可能であれば、本人の価値観を治療方針の決定に反映することは可能であると考える。

・本人の価値観を確認したり、治療方針を話し合ったりする場には、病院関係者だけでなく、病院関係者ではない人:後見人等、友人、ケアマネージャー等にも同席してもらう必要があることを説明する。

・患者に家族等に連絡したくないという意思がある場合は、本人の意思を尊重する。

・話し合いの内容は文書にまとめておく。

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 対応案について留意すべき事項

・本人の意思決定に疑問を感じた場合や、判断能力の判定が困難な場合には、主治医だけでなく複数の医療従事者(医師、看護師、MSW等)で話し合いを行い、方針を検討する。

・患者が病状や治療について理解できない状態にあり、家族等に相談する場合、家族等に関する情報収集を行って家族等に対する告知の適否を検討する義務を尽くす必要がある。

2―2.病院は入院継続を勧めたが本人の希望で退院し、退院直後に状態が悪化、死亡した場合には病院の責任が問われるのか?についての対応

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 法律・倫理の観点を踏まえた対応案と留意事項

・説明義務を尽くし、本人が危険性も理解したうえでなお退院を希望した後の結果については、責任を負わないものと考えられる。

・患者本人への説明は、複数人で分かりやすく説明する。

・退院後も体調が悪くなればいつでも受診できることを説明する。

・話し合いの内容について文書にまとめておく。

・法的には患者本人に説明義務を尽くすことで免責されるが、家族に、丁寧に複数人で説明をして、その内容について文書にまとめておくことは紛争の予防に資する。

2―3.本人の意思だけで医療を進めてよいのなら、仮に患者に家族等がいる場合であっても、その同意は不要か?についての対応

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 法律の観点を踏まえた対応案

法的には、本人に明確な意思があるのであれば、その判断は尊重されるべきであるから家族の同意は必要ないと考えられる。むしろ、本人に判断能力があるにもかかわらず、本人への説明がなされず、家族からの同意のみを得て行った治療については、不法行為が成立するものと考えられる。

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・本人の意思が確認できる場合、家族の同意取得は不要である。医師が推奨する治療方針を本人が選択しない場合であっても、その説得に家族を利用することは避けるべきである。

・意思決定までの過程において、本人が信頼し、本人の最善の利益をともに探し当てる人物として家族が選択される場合には、意思決定の支援を目的として、話し合いの場に加わってもらう。

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 対応案について留意すべき事項

・医療の同意は本人がすることであり、それが困難な場合は家族等を含めた医療・ケアチームで本人にとっての最善の方針を検討していくことが望ましい。

・話し合いの内容については文書にまとめておく。

タイトル:患者本人と疎遠な家族との関わり方(家族の役割)

事例3

胃がんで入院の患者が、手術が必要であるが、重度の認知症のため意思疎通が困難である。意思決定支援を尽くしたが本人からの同意が得られなかったため、家族にも医療の方向性について確認することになった。患者の妻は患者と5年間絶縁状態であるが、患者本人から妻の連絡先を聞くことができたので連絡したところ呼び出し音は鳴るが電話には出ない。子どもが2人おり、息子は、連絡は取れるが患者との関わりを拒否している。娘は関わりを拒否はしていないが、長く疎遠であったため患者のことはよく知らないようであり、遠方に住んでいるため来院して患者の支援をすることは不可能である。このように、複数の家族の存在が明確に確認できる場合でも、実質的な患者への支援がない場合は「身寄りなし」として、本人の意向を汲み取りつつ、医療・ケアチームが決定した方針だけで医療を進めてよいか?また後から家族の気持ちが変化して患者と関わるようになった時、家族から本人と病院(医師)が決めた医療について訴えられたりすることが心配である。

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 事例に関する医療面の課題

患者に適切な医療を提供するための疎遠な家族への支援の要請

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 事例に関する法律的・倫理的懸念事項

3―1.疎遠な家族にどこまで働きかける必要があるのか?複数の家族に、どこまでどの程度連絡をするべきなのか?家族一人ひとりに意向を確認するのは大変な作業であるが連絡をとらないと法的な問題があるのか?

3―1.疎遠な家族にどこまで働きかける必要があるのか?複数の家族に、どこまでどの程度連絡をするべきなのか?家族一人ひとりに同意を確認するのは大変な作業であるが連絡をとらないと法的な問題があるのか?についての対応

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 法律の観点を踏まえた対応案

・後見人、保佐人、補助人が選任されている場合

後見人等に、家族に関する情報収集ができないか相談することが考えられる。

・連絡をとるべき家族の範囲

医療機関が、複数の家族全員に個別に連絡をとることが困難なケースもある。そのような場合は、家族の中で意見をまとめ代表して医療機関とやりとりを行う人物(キーパーソン)を決めてもらい、その者を通じて患者の家族の意見を集約するという方法もとりうる。

・どの程度の調査が必要か

行政の助力を得て(前掲1―2参照)、入手した情報に基づいて連絡を試みたが、相手方から返答がないという場合は、それ以上の捜索義務はないものと考えられる。

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・臨床倫理四分割表(図1)や、<情報共有―合意モデル>カンファレンス用ワークシート(図2)も活用し、医療・ケアチームで話し合う。

・本人が、意思決定にあたって家族に意見を求めたいという意向が含まれていると考えられる場合、家族への接触について一定の努力をしたが意見聴取は困難であったこと、医療・ケアチームで最善の意思決定をすることを、可能な限り本人が理解できる言葉や説明方法で伝える。

・事後の家族への説明に備えるため、医療・ケアチームでの話し合いの経緯や結果を文書にまとめておく。

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 対応案について留意すべき事項

・連絡先を把握している家族には患者の状況や治療について説明する必要があるが、家族が患者との関わりを拒否した場合は、医療・ケアチームで本人にとっての最善の決定をしていく旨を伝えて了承を得る。

タイトル:絶縁状態の家族の意見の尊重(延命治療の決定プロセス)

事例4

身寄りがなく意識の確認がとれなくなった患者の延命治療(人工呼吸器と栄養管理)とDNAR(do not attempt resuscitation:蘇生不要)について、30年間絶縁状態の家族へ連絡を取り確認をしたところ、家族からは「(治療は)何もしないで」とだけ言われた。絶縁状態の家族の意向を治療に反映させてもよいのか?

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 事例に関する医療面の課題

絶縁状態の家族から一切の治療不要の意向

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 事例に関する法律的・倫理的懸念事項

4―1.絶縁状態の家族の意向を治療に反映させてもよいのか?

4―1.絶縁状態の家族の意向を治療に反映させてもよいのか?についての対応

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 法律・倫理の観点を踏まえた対応案

・人生の最終段階における医療・ケアの在り方に関しては、医療・ケアチームと本人との間で話し合いを繰り返し行っておくことが重要。本人が能力を失うこともあるため、話し合いには家族等(※)の信頼できる者も参加することが望ましい(後掲ガイドライン)。

・本人の意思確認ができない場合には、絶縁状態の家族が、本人の意思の推定にふさわしいか検討するとともに、①家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、②そのような推定意思が明らかでない場合、医療・ケアチームは家族等と十分に話し合って本人の最善の方針を決める。③家族等がいない場合や家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合は、本人にとっての最善の方針をとる(後掲ガイドライン)。

※家族等

平成30年の改訂によって「家族」から範囲が拡張され、「本人が信頼を寄せ、人生の最終段階の本人を支える存在であるという趣旨」であり、「法的な意味での親族関係のみを意味せず、より広い範囲の人(親しい友人等)を含み」「複数人存在することも考えられ」るとする(後掲ガイドライン解説編注12)。したがって、法的な親族関係があるものの絶縁状態の家族以外に、本人の生活状況をよく知る親しい者がいる場合は、当該者と話しあうことも考えられる。

<参考>

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)

・絶縁状態であった家族に対して、「治療不要」という意向の理由を確認し、本人の意思の推定あるいは本人の価値観の反映の結果であるかどうかを判断する。

・絶縁状態であったとはいえ、家族が本人の最善の利益を考えられる意欲があり、その立場にあると判断できる場合には、治療方針の決定過程に加えることを考慮する。

・臨床倫理四分割表(図1)や、<情報共有―合意モデル>カンファレンス用ワークシート(図2)も活用し、医療・ケアチームで話し合う。

・「治療不要」という意向が、家族側の都合のみに基づく意見であった場合は、医療・ケアチームにより、本人にとって最善と考えられる治療方針を決定する。

・事後の家族への説明に備えるため、医療・ケアチームでの話し合いの経緯や結果を文書にまとめておく。

<参考>川崎協同病院事件の控訴審判決(1995年)

倫理的に適切な代理判断者として、①家族が、患者の性格・価値観・人生観等について十分に知り、その意思を的確に推定しうる立場にある、②家族が、患者の病状・治療内容・予後等について、十分な情報と正確な認識を持っていること、③家族の意思表示が、患者の立場に立ったうえで、真摯な考慮に基づいたものである場合に、家族による代理判断が許される、と述べられている。長期にわたって絶縁状態にあった親族が、①から③を満たしているかどうか、本人にとって最善の利益が考慮された意向といえるか、本人ではなく親族の都合で治療不要という意向を示している可能性がないか等を医療・ケアチームで話し合う必要がある。

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 対応案について留意すべき事項

・家族へ医学的適応や今後の回復の見込みや回復した場合の予測されるADL(Activities of DailyLiving:日常生活動作:日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のこと)、予測される医療費等について説明を尽くす。

タイトル:退院後の住まいを確保し生活を支援するための対応

事例5

入院前は一人暮らしで自立して生活をしていた高齢者が脳梗塞で入院をした。脳梗塞後遺症による麻痺のため全介助が必要となった。自宅へ退院し一人暮らしをすることは困難であるが、本人が在宅復帰を強く希望し、施設入所を明確に拒否している。自宅での介護サービス利用も拒否。本人の意思の尊重をしたいが、どうしたらよいか。また、このような時に本人の生命を守るために施設へ入所してもらう制度はあるか?今後のため、成年後見制度の利用も勧めているが「自分でできる」の一点張りで制度利用を拒否している。

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 事例に関する医療面の課題

・退院後の生活に必要と思われる介護サービスの利用拒否

・本人のADLを考慮した退院後の住まいが見つからない。(自宅退院が適切ではないケース)

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 事例に関する法律的・倫理的懸念事項

5―1.本人の住まいを確保し生活を支援するために施設へ入所してもらう制度はあるか?

5―1.本人の住まいを確保し生活を支援するために施設へ入所してもらう制度はあるか?についての対応

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 法律の観点を踏まえた対応案

本人に十分な判断能力があり、明確に施設入所を拒否している場合は、まずは十分な情報を提供し、施設入所の必要性を丁寧に説明し、同意が得られるように努める。本人が自ら入所契約を行えないような場合、下記のとおり、市町村が、入所措置により本人の身体状況等に応じた施設などのサービスを提供又は委託させることができる。なお、利用者は、基本的に65歳以上であるが、65歳未満の者であって特に必要があると認められる者も含まれる(老人福祉法第5条の4)。ただし、必要な説明を尽くしても、判断能力のある本人が入所を明確に拒否している場合は、実務的には入所措置による入所は困難な場合が多いと考えられる。

・養護老人ホームへの入所措置

利用者が、環境上の理由及び経済的理由によって居宅において養護を受けることが困難な場合、養護老人ホームに入所させることができる。

・特別養護老人ホームへの入所措置

利用者が、身体上又は精神上に著しい障害があるために常時介護を必要とし、かつ、居宅において介護を受けることが困難で、高齢者本人等による契約や要介護認定の申請が困難などのやむを得ない事由(※)により介護保険法の定める施設に入所させることが著しく困難な場合、市町村の措置により特別養護老人ホームに入所させることができる。

※「やむを得ない事由」とは、事業者と「契約」をして介護サービスを利用することや、その前提となる市町村に対する要介護認定の「申請」を期待しがたいことを指す(後掲厚生労働省老健局長通知)。一部の基礎自治体が作成した「老人福祉法に基づくやむを得ない事由による措置要綱」には、例えば、①家族等から虐待又は無視を受けている者、②認知症その他の理由により意思能力が乏しくかつ適切な代理人がいない者、③その他自治体の長がやむを得ない事由と認める場合が対象とされている。

<参考>

老人福祉法第5条の4、第10条の4第1項3号5号、第11条第1項1号、2号

厚生労働省老健局長通知「老人ホームへの入所措置等の指針について」平成18年3月31日付け老発第0331028号参照)、各市町村の「老人福祉法に基づくやむを得ない事由による措置要綱」

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 倫理の観点を踏まえた対応案

・本人が施設での生活を具体的にイメージできるように丁寧に説明をする(厚生労働省老健局長通知「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインについて」平成30年6月22日付け老発第0622第1号参照)。

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 対応案について留意すべき事項

・入院時からの退院支援の実施。早い段階で自治体や関係機関と話し合いをする。

・施設入所については本人の同意が得られるよう説明して、説明を尽くしてもなお本人が理解できない場合は自治体に相談して措置入所の適応を検討する。

【Q&A】身寄りがない人の金銭管理の支援、制度の活用

令和元年ガイドライン発出後、令和2年から3年に実施したガイドライン活用状況の調査において、特に質問が多かった事項についてはQ&Aにまとめた。

Q1.相続法改正(2019年7月1日施行)により、法定相続人が個人の預金を一定額引き出すことが可能になったがその法解釈や手続きが知りたい。

A.改正法の内容

改正民法第909条の2は、遺産分割前において相続人が単独で行使できる預貯金債権金額の算定方法(「遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額」×三分の一×共同相続人の法定相続分)を規定する。

例) 被相続人Aは、M銀行に普通預金1200万円を有していた。相続人が妻Ⅹと子YとZであるとき、それぞれいくら払い戻すことができるか。

・第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分

配偶者:1/2、子:1/2を子の人数で均等に分割した値(例では子が2人いるので1/2×1/2=1/4)

・第909条の2により、相続人が遺産分割前に払い戻しできる金額は、

妻X:1200×1/3×1/2=200万円

子Y:1200×1/3×1/4=100万円

子Z:1200×1/3×1/4=100万円

上記を超える金額については、遺産分割協議の手続きを経て具体的相続分が決定したあとでなければ払い戻すことができない。

Q2.金銭に関わることはトラブルになりやすいので、金融機関との対応方法についてのガイドラインが欲しい。

A.本人以外の者による預金の払い出しについて

以下、2021年に全国銀行協会が公表した考え(後掲資料)を紹介する。なお、法律上確定した取扱いではなく、実務の一例にすぎないことに留意されたい。

・預金を払い出す場合には預金者本人の意思確認が必要であるため、家族といえども本人に無断で患者の預金を払い出すことはできない。本人の判断能力が低下した場合は、法定後見制度の利用が必要。

・しかし、さまざまな事情で後見制度が利用されないことがある。そのような場合において、親族等(※)が本人の医療費、施設入所費用、生活費等の支払いに充当するため、預金の払い出しを求めたとき、金融機関は本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、極めて限定的にその依頼に応じる。

※親族等

後掲資料には「銀行は含まれない」ことは明記されているが、具体的な定義はない。

<参考>

全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方」(令和3年)<https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/news/news330218.pdf>

Q3.病院が患者の財産管理をすることに法的な問題がないのか?

A.

・本人に判断能力があり、医療機関に財産管理を委任することを希望する場合には、本人との契約により財産管理をすることができる。ただし、本人の財産の中から病院が医療費用を受け取るような両者の利益が相反する場合には、民法108条2項により、あらかじめ契約の際にこの点の許諾を得ることが必要である。委任後に本人から返還希望があれば、本人に財産を返さなければならない。なお、委任後に精神疾患などで本人の判断力が低下し、自力での財産管理は難しいと考えられるにも関わらず、(精神疾患の影響などにより)本人が医療機関からの説明や説得を理解せず、本人からの財産の返還要求が続くような場合には、成年後見制度の利用などが考えられる。

・本人の判断能力が不十分で財産管理は困難であるが、サービス提供については理解ができるような場合には社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を用いることが考えられる。他方、サービス提供について理解ができない場合には、法定後見制度の利用が必要となるので、担当窓口17に相談する。

Q4.病院が患者の財産管理をする場合の出納帳の作り方を示してほしい。

A.

・現金出納帳の例

下の記載例は、後見人がつける現金出納帳の例である。家族2人と同居している場合に、食費や日用品の費用などの生活費が家族全体で15万円程度かかるため、本人がその1/3を負担しているケースを想定している。

なお後見人に対して、本人の財産管理は、預貯金によって行うことを原則とし、現金による管理額が50万円を超えないようにとの注意喚起がなされている。本人との契約に基づいて病院が財産管理をする場合も、必要以上に預金の払い戻しをするべきではない。

<参考>

出典:東京家庭裁判所後見センター「成年後見人・保佐人・補助人ハンドブック(Q&A付き)」(令和3年4月)33頁<https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/kouken/020101.pdf>

Q5.医療機関が財産管理をするときの注意点を知りたい。

A.

・医療機関が本人の財産を管理する場合、必ず本人との間で財産管理委任契約を結ばなければならない。医療機関は、その契約に基づいて授権された代理権の範囲内で財産を管理することができる。

・「医療費の支払い」について授権された場合は、本人に委任状を作成してもらうことで預金の払い出しが可能となる(一般に任意代理人の届出が求められるので、各銀行の規則に従って届出を行っておく)。

・トラブルを避けるために、通帳や印鑑等は患者が保管することとし、必要な場合にのみ預かり証と交換で受領、用事が終われば都度返却するということを徹底する。

・通帳記帳による入出金のチェックを欠かさない。Q4の要領で出納帳を作成し、本人には必ず代理した内容を報告する。

Q6.予後が悪く生存中に成年後見制度の申立てを行っても審判が間に合わないと予測される患者の保全処分の適応を知りたい。

A.まもなく死亡する蓋然性が高い患者の財産を親族等の第三者が費消してしまう可能性があり、患者の財産を迅速に保全する必要性があるのであれば保全処分の申立は可能。

Q7.内縁関係にある人、友人や会社の雇用主がキーパーソンの場合、金銭管理等どこまで依頼できるのか?

A.

・本人が第三者への財産管理を希望しており、財産管理委任契約を結ぶことができれば、第三者に代理権の範囲で金銭管理を任せることができる。

・本人に判断能力がない場合は、法定後見制度の利用が必要となるので、連絡がつく親族がない場合は、担当窓口(Q3のA参照)に相談する。

――――――――――

1 例えば、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月厚生労働省)では、「家族等」に患者の意思を推定する役割を期待するが、法的な意味での親族関係のみを意味せず、親しい友人等、より広い範囲の関係者を含むことが示されている。同様の趣旨から、本事例集においても「家族等」という語を用いることがある。なお、本ガイドラインにおいて、あえて「家族」という表現にとどめる場合は、特に近親者・推定相続人等、民法上の親族にあたる者のみを指す。

2 「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(令和元年5月「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班)のほか、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月31日厚生労働省)、「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」(平成30年6月厚生労働省)、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」(令和2年10月意思決定支援ワーキング・グループ)がある。

3 個人情報の収集は、個人情報保護法及びガイダンスの規定に従って行う(詳しい内容については後掲1―2を参照)。

4 他方、成年後見人等の権限にはいわゆる医療同意権までは含まれないとするのが現在の通説的見解である(ガイドライン)。後見人等の職務内容については、ガイドラインを参照。

5 後見人の選任手続の過程で親族の意向調査が行われることがあるため、親族が後見人の有無を把握している可能性がある。また、4親等内の親族であれば法務局に成年後見に係る登記事項証明書の申請を行うことができる。

6 本人との契約が困難である場合は、後見人の選任が必要となるため、過去に市町村長申立がなされていない場合であってもいずれにしても市町村への相談が必要となる。

7 日常生活自立支援事業は、都道府県・指定都市社会福祉協議会が、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な者が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うもの。日常の生活費の管理や行政手続きの支援、定期的な訪問等の援助を受けることができる(ガイドライン)。

8 本人の同意に基づいた代理権付与の仕組みをとるため、成年後見人に対して包括的な代理権が付与される後見類型よりも、本人の意思が尊重される(ガイドライン)。

9 任意後見制度については(ガイドライン参照)、移行型任意後見契約が締結されているケースのうち、本人の判断能力が十分でなくなり、さらにはそれを欠く等の状況に至っても任意後見監督人選任の申立てがなされず、本人の権利擁護が適切に行われない状態が継続しているような場合もあるため、役所や権利擁護支援の中核機関、地域包括支援センターなど、公的相談窓口を通した利用であることが望ましい。

10 浅井篤.医療職のための臨床倫理のことば48.日本看護協会出版会,2011.

11 会田薫子.臨床倫理の基礎.清水哲郎・会田薫子・田代志門編『臨床倫理の考え方と実践 医療・ケアチームのための事例検討法』所収.東京大学出版会.2022.

12 トム・L.ビーチャム,ジェイムズ・F.チルドレス著.立木教夫・足立智孝監訳(2009)『生命医学倫理 第5版』(麗澤大学出版会)

13 清水哲郎+臨床倫理プロジェクト(2016)『臨床倫理テキスト 臨床倫理エッセンシャルズ2016年春版』東京大学大学院人文社会系研究科死生学・応用倫理センター上廣講座.[http://clinicalethics.ne.jp/cleth-prj/img/clethessent2016.pdf]

14 川口篤也.モヤモヤよさらば臨床倫理4分割カンファレンス[https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/153]

15 最高裁昭和49年12月17日判決民集28巻10号2040頁。

16 最高裁昭和33年8月5日判決民集12巻12号1901頁。

17 65歳以上の高齢者の場合は、地域包括支援センター又は市町村の介護保険・高齢者担当部署、18歳以上65歳未満の場合は、基幹相談支援センター、市町村の障害担当部署等(ガイドライン)。

「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関する研究」

研究班名簿

研究代表者

山縣 然太朗 山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座・教授

研究分担者

田宮 菜奈子 筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野・教授

武藤 香織 東京大学医科学研究所公共政策研究分野・教授

橋本 有生 早稲田大学法学学術院・教授

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さやか 健康科学大学看護学部・助教

[参考]

○身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインの発出について(通知)

(令和元年6月3日)

(医政総発0603第1号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局総務課長通知)

(公印省略)

近年、少子高齢化が進展し、単身の高齢者が増加している中、主にこうした方等を対象として、身元保証・身元引受等や日常生活支援、死後事務等を担う民間サービス(以下「身元保証等高齢者サービス」という。が生まれている。

今後、こうしたサービスの需要が一層高まっていくことが見込まれる中、消費者被害を防止する観点から、内閣府の消費者委員会において、平成29年1月に、「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」(以下「建議」という。)が取りまとめられた。建議においては、高齢者が安心して病院に入院することができるよう、病院が身元保証人等に求める役割等の実態を把握すること等が求められている。

また、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)に基づき、平成29年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」(以下「基本計画」という。において、「成年被後見人等の医療・介護等に係る意思決定が困難な人への支援等」について、医療・介護等の現場において、関係者が対応を行う際に参考となるような考え方を指針の作成等を通じて社会に提示し、成年後見人等の具体的な役割等が明らかになっていくよう検討することが求められている。

厚生労働省は、建議及び基本計画を踏まえ、平成29年度厚生労働科学特別研究事業「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」において、医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握を行った。

また、平成29年度の研究の成果を踏まえた上で、平成30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」において、医療機関に勤務する職員を対象とする「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)が取りまとめられたところである。

ついては、別添のガイドラインについて、貴管下医療機関へ周知し、活用を促していただくなど、関係部局・関係機関と十分連携の上、身寄りがない人や判断能力不十分で医療に係る意思決定が困難な人が安心して医療を受けられる環境の整備に努めていただくようお願いする。

また、ガイドラインについては、社会・援護局地域福祉課、同局保護課、同局障害保健福祉部障害福祉課及び老健局振興課より、各都道府県等の福祉部局にも周知しているところであり、貴部局におかれては、特にこれらの部局とも連携して対応いただくようお願いする。

なお、本通知は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項に規定する技術的な助言である。

【別添】

○ 身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

【参考】

○ 「「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」について(周知依頼)」(令和元年6月3日付け厚生労働省社会・援護局地域福祉課長・保護課長・障害保健福祉部障害福祉課長・老健局振興課長通知)

○ 「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(平成30年4月27日付け厚生労働省医政局医事課長通知)

(照会先)

厚生労働省医政局総務課

電話:03―5253―1111(内線)4158