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○海外における業務による感染症の取扱いについて

(昭和63年2月1日)

(基発第57号)

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

近年の日本企業の海外進出に伴い,海外における業務に従事する労働者が増加しているが,これらの労働者が日本国内においては感染リスクが無いか,又は著しく低い感染症に,海外でり患する事例がみられるところである。これらの海外においてり患した感染症については,業務起因性が認められる場合に,労働基準法施行規則別表第1の2(以下「別表」という。)第6号5に該当する疾病として認定してきたところである。しかしながら,従来,海外における業務と感染症との因果関係について必ずしも明確ではなかったことから,「労働基準法施行規則第35条定期検討のための専門委員会」(以下「専門委員会」という。)においてこれらの因果関係について検討が行われ,今般,その検討結果が得られた。そこで,これに基づき海外における業務による感染症の取扱いについて下記のとおり取りまとめたので,その事務処理に遺漏のないように配意されたい。

また,認定に当たっての参考として「感染症に関する医学的事項」を別添のとおり作成したので,これを活用し,迅速・適正な認定に努めるとともに,労使等の関係者に対して周知徹底を図られたい。

1 海外においてり患した感染症の法令上の取扱い

労働者(労働者災害補償保険法第27条第6号及び第7号に掲げる者を含む。)が海外においてり患した感染症については,専門委員会の検討結果に基づき,今後においても,個々の事例について感染経路,潜伏期間,臨床症状,診断,業務との関連等を十分調査・検討し,業務起因性が認められる場合には,別表第6号5に該当する疾病として取り扱うこと。

2 感染症と業務との関連及び認定に当たっての留意事項

海外においてり患のおそれのある主な感染症(別表第6号4に掲げた恙(つつが)虫病を除く。)と業務との関連について,感染リスクの観点から次のように分類されるので,業務起因性の判断に当たっては,別添「感染症に関する医学的事項」を参考にして,慎重に判断すること。

(1) 媒介動物と接触の多い業務において感染リスクの高い感染症

媒介ネズミ,媒介昆虫等の媒介動物感染により間接伝播する感染症であって,媒介動物と接触の機会の多い次の業務は,感染リスクが高いと考えられるが,これらの感染症については,媒介動物と接触の機会の多い業務が他の業務に比較して感染リスクが高いと指摘されるものであって,他の業務及び一般生活においても感染リスクは存在するものであるので,業務起因性の判断に当たっては,感染経路,潜伏期間,臨床症状,診断等を十分調査・検討すること。ただし,媒介動物の存在しない地域での業務については,たとえ,ここに掲げる業務であっても,当然,感染リスクが認められないものである。

イ ペスト 媒介動物の多い山林地域や船舶内での業務

ロ 黄熱(森林型) 媒介動物の多い山林地域での業務

ハ 住血吸虫症 媒介貝の棲息する河川内での業務

(2) 業務遂行中及び一般生活に同様の感染の機会がある感染症

汚染飲食物等の媒介物感染により間接伝播する感染症,媒介動物感染により間接伝播する次の感染症((1)及び(3)のロの感染症を除く。)及び気道感染する真菌感染症は,侵淫(しんいん)地域(当該感染症への感染リスクが高い地域)において,業種や業務内容とは無関係に業務遂行中に感染の機会があるが,感染リスクは,一般生活においても同様に存在するので,ただちに業務上疾病と認めることはできない。

イ 媒介物感染

コレラ,細菌性赤痢,腸チフス,パラチフス,A型肝炎,非A非B型肝炎(水系感染),アメーバ症,ジアルジア症

ロ 媒介動物感染

デング熱,日本脳炎,狂犬病,ラッサ熱,黄熱(都市型),発疹チフス,発疹熱,マラリア,トリパノソーマ症,リーシュマニア症,フィラリア症,オンコセルカ症

ハ 気道感染

コクシジオイデス症,ヒストプラスマ症,ブラストミセス症,パラコクシジオイデス症

(3) 医療・研究業務を除いて感染リスクの高い業務が存在しない感染症

次の感染症については,既に別表第6号1に掲げられている「患者の診療若しくは看護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務」を除いて特に感染リスクの高い業務はないので,通常,これらの業務以外については,業務上疾病と認められない。

なお,腎症候性出血熱は,ごく最近の報告例で実験動物を取り扱う研究機関以外における発症例がみられることから,今後の発症例の報告に留意する必要があるので,研究機関以外における発症事例については,本省に協議すること。

イ 血液,体液等の接触感染

B型肝炎,デルタ肝炎,非A非B型肝炎(血液感染),後天性免疫不全症候群(AIDS)

ロ 媒介動物感染

腎症候性出血熱

(4) その他

アフリカ出血熱(マールブルグ病)については,ウイルスの生態が未だよく解明されておらず,業務との関連も不明であるので,発症事例については,本省に協議すること。

(編注:別添「感染症に関する医学的事項」(略)

ただし、参考資料「主な感染症一覧」は後掲の表のとおり。)

参考資料1

主な感染症一覧


疾病名

病原体

感染経過

潜伏期

主な症状

分布

細菌による疾病

コレラ

コレラ菌

汚染飲食物の摂取

6時間~2、3日

著しい下痢による脱水症状

東南アジア

ペスト

ペスト菌

ネズミ等に寄生する感染ノミの刺咬

2~6日

発熱、おう吐、血痰、リンパ節腫大

東南アジア、アフリカ、北・中南米

細菌性赤痢

赤痢菌

汚染飲食物の摂取

2~4日

発熱、腹痛、血便、下痢

世界各地(特に開発途上国)

腸チフス

チフス菌

汚染飲食物の摂取

7~14日

悪感、頭痛、発熱、ばら疹

世界各地

パラチフス

パラチフスA菌

汚染飲食物の摂取

1~10日

腸チフスに類似するが症状はやや軽い。

東南アジア、南米

ウイルスによる疾病

ウイルス肝炎

A型肝炎

A型肝炎ウイルス

汚染飲食物の摂取

2~6週間

全身けんたい、はきけ、黄疸

世界各地(特にアジア、アフリカ)

B型肝炎

B型肝炎ウイルス

感染患者の血液・性交

1~6カ月

A型肝炎と類似

世界各地(特にアジア、アフリカ)

デルタ肝炎

デルタ因子

HBVキャリアーに感染するか、B型肝炎と同時に発症する

B型肝炎と同じ

B型肝炎と類似するが、しばしば重篤化する。

アフリカ、中近東、南米

非A非B型肝炎

未だ分離、同定されていない

汚染飲食物の摂取、感染患者の血液

15日~6カ月

B型肝炎と類似

世界各地(特にアジア)

デング熱

デング熱ウイルス

媒介蚊の刺咬

5~8日

悪感、筋肉痛、発熱、発疹

熱帯、亜熱帯

日本脳炎

日本脳炎ウイルス

媒介蚊の刺咬

4~14日

頭痛、はきけ、発熱

東、東南、南の各アジア

狂犬病

狂犬病ウイルス

り患した混血動物の刺咬

1~2カ月

けんたい感、発熱、幻覚、麻痺、過敏反応

世界各地

アフリカ出血熱

エボラウイルス

不明

1週間

発熱、頭痛、筋肉痛、おう吐、発疹、傾眠

アフリカ

ラッサ熱

ラッサ熱ウイルス

媒介ネズミ等の排泄物

6~20日

発熱、筋肉痛、口腔潰瘍

西アフリカ

黄熱

黄熱ウイルス

媒介蚊の刺咬

3~6日

おう吐、筋肉痛、発熱、重症例は黄疸

アフリカ、南米

後天性免疫不全症候群(エイズ)

エイズウイルス

感染患者の血液・性交

6~10週間後、エイズ抗体陽性となるが、このうち10~15%が5年以内に急激な免疫機能の低下をきたし、日和見感染、悪性腫瘍等にり患する。

世界各地(特にアフリカ、北米、ヨーロッパ)

腎症候性出血熱

腎症候性出血熱ウイルス

媒介ネズミ等の排出物、あるいは血液、体液のエアゾルの吸入又は経口感染と推定

8~40日

悪感、発熱、全身倦怠、おう吐、筋肉痛、重症例はショック症状、腎不全、心不全

世界各地

リケッチアによる疾病

発疹チフス

リケッチア

媒介シラミの排泄物

1~2週間

発熱、悪感、皮虜乾燥、発疹

世界各地

発疹熱

リケッチア

媒介ノミの排泄物

1~2週間

発疹チフスと類似

世界各地

ツツガムシ病

リケッチア

媒介ツツガムシの刺咬

6~18日

球状発疹、発熱、リンパ節(局所)腫大

世界各地

寄生虫による疾病

マラリア

・3日熱マラリア

・4日熱マラリア

・熱帯熱マラリア

・卵形マラリア

マラリア原虫

媒介蚊(アノフェレス)の刺咬

(3日熱)

10~14日

(4日熱)

28~37日

(熱帯熱)

8~15日

(卵形)

11~16日

熱発作、脾腫、貧血特に熱発作は周期的にくり返す。(3日熱、卵形48時間、4日熱72時間、熱帯熱は不定)

熱帯、亜熱帯

トリパノソーマ症

アフリカ・トリパノソーマ症

トリパノソーマ(睡眠病)原虫

媒介ツエツエバエの刺咬

10~20日

発熱、リンパ節腫脹、頭痛、中枢神経症状

熱帯アフリカ

アメリカ・トリパノソーマ症

トリパノソーマ(シャーガス病)原虫

媒介サシガメの刺咬

5~14日

浮腫、肝・脾の腫大、発熱

中南米

リーシュマニア症

内臓リーシュマニア症

カラ・アザール(リーシュマニア)原虫

媒介サシチョウバエの刺咬

2~4カ月

発熱、発汗、脾腫

北アフリカ、ソビエト、中国、中南米

皮膚リーシュマニア症

皮膚リーシュマニア(東洋瘤腫)原虫

媒介サシチョウバエの刺咬

数日~数カ月

刺咬部の小丘疹が潰瘍に至る

ヨーロッパ(地中海沿岸)、中近東、インド

粘膜・皮膚リーシュマニア症

粘膜・皮膚リーシュマニア(エスプンジア)原虫

媒介サシチョウバエの刺咬

数日~数週

丘疹→潰瘍→懐死(欠損)の経過をたどる、発熱

中南米

アメーバ症(アメーバ赤痢)

赤痢アメーバ

汚染食物内の嚢子の摂取

2~4週間

腹痛、下痢、粘血便、胆嚢炎

世界各地(特に熱帯)

ジアルジア症

ランブル鞭毛虫

汚染食物内の嚢子の摂取

6~22日

下痢、栄養障害

世界各地(特に熱帯)

フィラリア症

糸状虫

媒介蚊の刺咬

3カ月~1年

リンパ節炎、腫脹、発熱、乳び尿、象皮病

熱帯、亜熱帯

オンコルセカ症

オンコルセカ糸状虫

媒介ブユの刺咬

1年以上

皮膚の線維腫結節、かゆみ、視力障害、失明

アフリカ、中南米

住血吸虫症

日本住血吸虫症

日本住血吸虫

媒介貝から遊出したセルカリアが皮膚から侵入

4~6週間

下痢、肝、脾の腫脹、腹水、貧血

東、東南アジア

マンソン住血吸虫症

マンソン住血吸虫

アフリカ、中近東、中南米

ビルハルツ住血吸虫症

ビルハルツ住血吸虫

排尿時痛、腰痛、血尿

アフリカ、中近東、南アジア

真菌による疾病

コクシジオイデス症

コクシジオイデスイミティス

気道感染(砂塵の中の胞子の吸引)

不明

軽い感冒症状、肺結核類似症状

アメリカ合衆国の南西部、メキシコ北部、アルゼンチンの一部

ヒストプラスマ症

(アメリカ型)

ヒストプラスマカプスラーツム

気道感染(土壌中の胞子の吸引)

感冒症状、肝脾腫、リンパ節腫脹、肺結核類似症状

アメリカ合衆国のオハイオ・ミシシッピ河流域、中南米

(アフリカ型)

ヒストプラスマドゥボイジイ

皮膚の肉芽腫性~潰瘍性病変

アフリカ

ブラストミセス症

ブラストミセスデルマティティディス

気道感染(胞子の吸引)

微熱、咳嗽、喀痰、皮膚に肉芽腫性病変

北米

パラコクシジオイデス症

パラコクシジオイデスブラジリエンシス

気道感染(粘膜、皮膚の直接感染もあるとされている。)

多くは無症状、粘膜皮膚の肉芽腫性病変

南米