○非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法について
(令和4年3月25日)
(事務連絡)
(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課通知)
食品中の放射性セシウムスクリーニングについては、「食品中の放射性セシウムスクリーニング法について」(平成23年10月4日付け厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課事務連絡。平成24年3月1日最終改正。)を参照し、実施しているところです。
今般、皮付きたけのこについて、試料の細切や混和を要しない、いわゆる非破壊検査法による放射性セシウムスクリーニング法の検討がなされたことを受け、「非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法について」(令和3年3月26日付け厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課事務連絡)の別添「非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法」を、本事務連絡別添のとおり改正しましたのでお知らせします。
(別添)
非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法
1.非破壊検査法による放射性セシウムスクリーニング法
放射性セシウム濃度が基準値よりも低い食品を確実に判別するための、試料の細切や混和を要しない、いわゆる非破壊検査法によるスクリーニング法を策定した。
一般食品のスクリーニング法である、試料の細切等の前処理を伴ういわゆる破壊検査法は、放射線計測で重要な放射線源と検出器の位置関係であるジオメトリを試料容器と試料の均質性によって制御しているが、非破壊検査法はそれらの測定条件を設定しないため、基本的なスクリーニングの考え方は同じでも、同じような装置、手法であっても同じ測定精度を望むことはできない。測定上重要な因子群を一定の幅をもって標準作業手順書で規定し、精度・真度を一定の範囲内に制御することが重要である。
非破壊検査法によるスクリーニング法の性能要件等は以下のとおりとする。従来のスクリーニング法で規定されている要件のいくつかはスクリーニングレベルの検証に含有させている。
なお、スクリーニングの結果、放射性セシウムが基準値よりも低いと判断できない検体はゲルマニウム半導体によるガンマ線スペクトロメトリーによる試験法等を用いて検査結果を確定するものとする。
参考に、性能要件を満たすことを確認した実例及び分析機器情報も添付するので、非破壊検査法を行う際には参照されたい。
1 分析対象
放射性セシウム(Cs―134及びCs―137)
2 対象食品
まつたけ、皮付きたけのこ
3 分析方法
以下に示す性能を有する方法とする。
バックグラウンド値 |
ブランク状態(試料を入れない状態)の測定値とし、下記のスクリーニングレベルを担保できる値であること。 |
校正 |
適切な標準線源を用いて計数効率が校正されていること。 校正は1年に1回以上実施すること。 |
真度 |
下記のスクリーニングレベルを担保できる値であること。 |
スクリーニングレベル |
25Bq/kg以上とすること。 設定した測定条件において、スクリーニングレベルにおける測定値の99%区間上限が基準値レベルで得られる測定値以下であること。 |
4 検査結果の信頼性管理
1) 測定日ごとにブランクを測定し、バックグラウンドが高くなっていないこと、分析系に放射性表面汚染がないことを確認する。
2) 測定日ごとに標準線源又は濃度既知の試料の測定によって機能確認を行い、真度が変化していないことを確認する。
3) 測定日ごとにエネルギー校正を実施する。
4) 測定場所の空間線量の変動はバックグラウンドに影響を与え、温度の変化及び印加電圧の変動はエネルギー校正結果に影響を与えるので、校正を行った測定環境を維持するように注意する。測定場所の移動等により上記条件が変動した場合は、エネルギー校正を行い、標準線源を測定して、真度を確認する。
5) 試料を検出器にセットする際には、その形状に留意する。(繰り返して測定する場合は、試料を再分散させるなど検査結果の偏りを小さくするように留意する。)
6) 試料による分析系の放射性表面汚染、あるいは試料間の汚染が起こらないように留意する。特に検出部位の汚染を防ぐため、検出器をポリエチレン袋で覆う、袋の外側に試料を付着させない等の措置を講じる。
7) 試料は、土壌が付着していないことを確認した上で測定に供する。
8) 試料の取り違えを防止するための措置を講じる。
5 検査結果の記載
スクリーニング法は、放射性セシウム濃度がスクリーニングレベル以下である食品を、基準値以下と判定できるよう性能要件を設定したものであり、精確な測定値を得ることを目的としていない。従って、スクリーニング法により得られた検査結果については、上記内容を踏まえ、以下の内容を記載する。
1) 測定に使用した機器の種類、型式
2) 検査結果について
・スクリーニングレベル以下である場合は、「<○○Bq/kg」(○○はスクリーニングレベル)とする。
・スクリーニングレベルより高い場合は、ゲルマニウム半導体を用いたガンマ線スペクトロメトリー等による試験法により検査結果を確定する。
2.非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示
スクリーニング法として使用可能と考えられる非破壊式放射能測定装置(シンチレーションスペクトロメータ)による方法を、例示として示す。性能の求め方及び分析上留意すべき点も記載する。他の方法であっても、1.非破壊検査法による放射性セシウムスクリーニング法に示された条件を満たせば、スクリーニング法として使用できる。
1 装置
一般的な説明は、平成23年10月4日付け事務連絡「食品中の放射性セシウムスクリーニング法について」別添2.食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示(以下「食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示」という。)と同じである。
以下に、非破壊式放射能測定装置(シンチレーションスペクトロメータ)を非破壊検査法による食品中の放射性セシウムスクリーニング法として用いる場合の条件について記載する。
1) 測定エネルギー範囲:「食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示」11)と同じ。
2) 校正と真度:「食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示」の真度(校正)においては、通常、測定容器と同じ体積標準線源を用いるが、非破壊検査法においては測定容器を設定しないことから、同じ定義は不可能であり、測定試料とは独立した機器性能である校正とスクリーニングレベル設定時の測定試料に依存した機器性能である真度に分けて性能要件としている。ここでの校正は、バックグラウンド及び数え落としが十分無視できる計数率を与える標準線源を、機器の製造者の定める位置に設置して測定する。バックグラウンドを差し引いた正味指示値を試験に用いた標準線源の測定時点の放射能で除し、機器のレスポンスを求める。この試料測定空間におけるレスポンスが規定した時点(例えば、出荷時、納品時、スクリーニングレベル設定時など)から使用の間、継続的に異ならない(許容範囲内である)ことを確認する。許容範囲は真度に影響を及ぼさない範囲とし、許容範囲を逸脱し機器の修理・調整等を行った場合には、再度使用前に校正する。線源としては、Cs―137の標準線源(点線源など)が、入手が容易で扱いやすい。一方、ここでの真度は、測定対象試料に対する濃度換算係数の初回使用前の設定・確認であり、これによりスクリーニングレベルが担保されていることを確保する。
3) 測定下限値については、非破壊検査法においては試料形状を規定しないため設定しない。測定感度は、試料形状(不均一性を含む)、機器計数効率、測定時間、バックグラウンド等に依存するが、これらを含めてスクリーニングレベルにおいて規定する。ただし、スクリーニングレベルを満足する試料の供試量(g)の範囲は予め定めるものとする。
4) 測定環境の維持については、「食品中の放射性セシウムスクリーニング法例示」14)と同じ。
5) 測定結果は、試料と検出器のジオメトリ(空間的位置関係)の影響を受けるため、試料の測定は、スクリーニング法としての性能の確認(真度の確認)における試料と検出器のジオメトリ条件の範囲内で行う必要がある。(例えば、性能の確認における試料測定時の試料の写真などもこの判断に有効と考えられる。)測定時間や測定回数も真度確認における条件と同一条件とする。また、試料の前処理を行わない非破壊式の場合には、試料中の放射性セシウムの不均一分布が結果に影響を及ぼし得る。この影響を回避するために、試料の特性を考慮して試料を測定の都度再分散させて繰り返し測定を行い、検査結果の偏りを小さくするようにするなどの措置を採ることは検査の信頼性を確保する上で重要である。
2 スクリーニング法としての性能の確認方法
スクリーニングレベルの確認
スクリーニングレベルの測定値の分布の99%上限が基準値で得られる測定値未満であることを確認する。測定値の分布の99%上限の求め方としては、以下の方法が考えられるが、統計的に正しい他の手法を用いても良い。
1) 測定の繰り返しによる方法
スクリーニングレベルにおける測定を繰り返し、測定値の平均と標準偏差から以下の式により99%上限を求める。測定は実際の試料測定と同じ条件で、測定の変動に影響する要因をできるかぎり含めて行う。繰り返し数は5以上とする。
測定値の分布の99%上限=m+tk-1,0.01×s 式1
m 測定値の平均値
s 測定値の標準偏差
k 測定数
tk-1,0.01 自由度k-1、片側危険率1%のt値
2) 回帰直線の予測区間による方法
放射性セシウム濃度がスクリーニングレベル・基準値付近の異なる複数の試料を測定し、回帰直線の99%予測区間の上限を求める。
画像1 (15KB)
式2
m 回帰直線から予想される濃度xにおける測定値
Ve 回帰直線の誤差分散
n 回帰に使用したデータの数
x 放射性セシウム濃度
画像2 (7KB)
回帰に用いた放射性セシウム濃度の平均
Sxx 回帰に用いた放射性セシウム濃度の平方和
計数率から放射能濃度への換算 正味計数率(測定試料とバックグラウンドの計数率の差)、機器換算係数、試料重量から計算する。
画像3 (9KB)
式3
nb:バックグラウンドの計数率 cps
ns:試料の計数率 cps
K:機器換算係数 Bq/cps
W:試料の重量 kg
C:放射性セシウムの濃度 Bq/kg
ただし、機器換算係数は、スクリーニングレベルを満足する試料の供試量(g)の定格範囲を網羅できるものとする。機器換算係数は試料重量に対して関数化された濃度換算係数fk(W)であってもよい。
(ns-nb)×fk(W)=C 式4
fk(W):試料重量に対して関数化された濃度換算係数
3 皮付きたけのこの不可食部を含めた同等性の確認
皮付きたけのこの場合には、不可食部が含まれるため、不可食部の重量割合、形状等にも注意が必要である。測定試料が、スクリーニング法としての性能の確認で検討された試料と同等であるかについては、不可食部も含めて確認する。
4 その他
皮を除去したたけのこについては、非破壊検査法の検討がなされていないことから、現時点では非破壊検査法の対象とはなっていない。今後皮を除去したたけのこへの非破壊検査法の検討を実施し、適用が可能とされた場合には、改めて本事務連絡別添を改定する予定である。
(参考)