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○第十九改正日本薬局方作成基本方針について
(令和3年10月25日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)薬務主管課あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課通知)
日本薬局方については、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第41条第1項の規定に基づき、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定めることとされており、令和3年厚生労働省告示第220号により第十八改正日本薬局方を定めたところです。
今後、第十九改正日本薬局方の作成にあたり審議を進めていく上での基本方針を策定すべく、薬事・食品衛生審議会薬事分科会日本薬局方部会にて審議が行われ、別添のとおり「第十九改正日本薬局方作成基本方針」がとりまとめられましたので、御連絡いたします。
第十九改正日本薬局方作成基本方針
1.日本薬局方の役割と性格―公的・公共・公開の医薬品品質規範書―
日本薬局方は、公衆衛生の確保に資するため、学問・技術の進歩と医療需要に応じて、我が国の医薬品の品質を適正に確保するために必要な規格・基準及び標準的試験法等を示す公的な規範書である。
また、日本薬局方は、薬事行政、製薬企業、医療、薬学研究、薬学教育などに携わる多くの医薬品関係者の知識と経験を結集して作成されたものであり、それぞれの場で関係者に広く活用されるべき公共のものである。
さらに、日本薬局方は、その作成過程における透明性とともに、国民に医薬品の品質に関する情報を開示し、説明責任を果たす役割が求められる公開の書である。
加えて、日本薬局方は、我が国における保健医療上重要な医薬品の一覧となるとともに、国際社会の中においては、国レベルを越えた医薬品の品質確保に向け、先進技術の活用及び国際的整合の推進に応分の役割を果たし、貢献することも求められている。
2.作成方針―日本薬局方改正の5本の柱―
上述したように、日本薬局方の基本的な役割は医療に必要な医薬品全般の品質を適正に確保することである。この役割を果たすための課題として、第一に、保健医療上重要な医薬品を優先して収載することによる収載品目の充実を経て、公定規格にふさわしい医薬品の全面的収載を目指す。
第二に、医薬品の品質分野での規範書としての役割を果たすためには、最新の学問・技術を積極的に導入して内容の質的向上を図ることが必要不可欠である。
第三に、医薬品開発や市場及びサプライチェーンのグローバル化とともに、医薬品規制に係るガイドライン等が日・米・欧の三極から世界規模での国際調和・収束に移行し、また、薬局方収載試験法及び添加物を中心とした医薬品各条の国際調和並びに調和事項の規制当局受入れが促進されていること、さらにはアジア地域での貢献等を考慮し、日本薬局方の一層の国際化・国際整合化を図り、医薬品の開発と円滑な流通を支援することが重要な課題である。
第四に、近年の急速な科学技術の進歩や国際調和事項を日本薬局方ひいては薬事行政に速やかに反映させるため、従来の5年ごとの大改正及び追補改正に加え、適宜、部分改正を行うことが必要である。
第五に、医薬品品質に関する公的・公共・公開の規範書であるという日本薬局方の役割と性格に鑑み、日本薬局方改正の過程における透明性を保つとともに、広く国内外の関係者に利用されるよう日本薬局方の普及を図ることも重要な課題である。
こうしたことから、以下の五項目を第十九改正日本薬局方作成の柱とすることとする。
<第十九改正日本薬局方作成の5本の柱>
(1) 保健医療上重要な医薬品を優先して収載することによる収載品目の充実
(2) 最新の学問・技術の積極的導入による質的向上
(3) 医薬品のグローバル化に対応した国際化の一層の推進
(4) 必要に応じた速やかな部分改正及び行政によるその円滑な運用
(5) 日本薬局方改正過程における透明性の確保及び日本薬局方の国内外への普及
3.作成方針に沿った第十九改正に向けての具体的な方策
(1) 保健医療上重要な医薬品を優先して収載することによる収載品目の充実
① 収載方針
保健医療上重要な医薬品とは、有効性及び安全性に優れ、医療上の必要性が高く、国内外で広く使用されているものである。
加えて、日本薬局方が国際的に広く利用されていることに鑑み、最先端の医薬品についても、先進性及び国際的整合性の維持・確保の観点から、保健医療上重要な医薬品に位置付ける。
これらの医薬品の有効性及び安全性の恒常的確保は、規格等を定め適正な品質を保証することによりもたらされることから、順次、日本薬局方への収載を進め、収載品目の充実を目指す。
ア.新規収載について
a) 優先的に新規収載をすべき品目
・ 有効性及び安全性に優れたもの
他の承認薬が存在しない又は他の治療薬若しくは治療法に比べて有効性の大幅な改善が見込まれる(著しい安全性の向上を含む)画期的な医薬品。
・ 医療上の必要性が高いもの
代替薬が無い医薬品(希少疾病用医薬品等)。
対象患者が多く、医療現場で広く用いられている医薬品等。
・ 国内外で広く使用されているもの
日本薬局方外医薬品規格、日本薬局方外生薬規格、医薬品添加物規格等公的規格集に収載済みで、国内で長年広く使用されている医薬品。
米国薬局方(USP)や欧州薬局方(EP)等に収載され、国際的に広く使用されている医薬品。
・ 日本薬局方の一層の国際化を推進するもの
他の薬局方に先駆けて、日本薬局方に早期収載すべき医薬品。
b) 収載時期
・ 既承認品で保健医療上重要な医薬品については、可能な限り速やかに収載する。
・ 先発医薬品と後発医薬品の規格の統一や品質の向上を図る観点から、日本薬局方が品質確保における公的な規範書としての役割を果たし、広く活用されるように、再審査期間が終了した医薬品は可能な限り速やかな収載を行うよう検討する。
・ 今後承認される新規開発医薬品については、承認後一定の期間を経た後に収載することとする。
イ.既収載品目について
時代の変遷により医療上の必要性が低くなった収載品目については、適宜、削除を行う。また、安全性の問題で回収などの措置がとられた品目については、その都度、削除等の適切な措置を講じる。
特に、医薬品各条において試験法や項目の見直しが長期間行われず、国際的な水準から遅れをとっている場合や規格値が国際的水準とかけ離れている場合には、優先的に見直しを図る。
なお、効率性の観点から、再審査や再評価がなされる時期に合わせて、見直しを行うことも検討する。
(2) 最新の学問・技術の積極的導入による質的向上
① 通則の改正
通則は、日本薬局方全般に関わる共通のルールを定めたものであることから、最新の学問・技術の進歩を反映し、すべての医薬品に共通するあるべき姿を念頭に置き、必要な項目の追加等について検討を行う。
② 一般試験法の改正
一般試験法は、医薬品各条に共通する試験法、医薬品の品質評価に有用な試験法及びこれに関連する事項を定めたものである。
一般試験法の改正については、
ア.工程内試験を含め、汎用性があり、日本薬局方に未収載である試験法の積極的導入
イ.欧米薬局方等に収載され、かつ、日本薬局方に未収載である試験法の積極的導入
ウ.国際調和の推進
エ.既収載の一般試験法の見直し
オ.参考情報にある試験法の一般試験法への移行
カ.クリーンアナリシスの一層の推進
キ.最小秤量値と使用されるべき天秤の考え方の整理
などを中心に、最新の科学技術を反映した試験法を設定するよう検討を行う。
③ 医薬品各条の整備
主に次の項目に留意しつつ検討する。
ア.確認試験、純度試験、定量法等への最新の分析法の積極的導入
イ.製剤の新規収載に伴う既収載原薬の見直し
ウ.製法に依存する不純物の規格設定の考え方の明確化や国際調和への対応、試験項目の合理的設定(類縁物質等)
エ.試験に用いる試料量、試薬・試液量及び溶媒量の低減化
オ.クリーンアナリシスの一層の推進
カ.動物を使用しない試験法への代替(代替試験法)
キ.先端技術応用医薬品に対応した医薬品各条設定の検討
ク.異なる処方の製剤に対応する適切かつ柔軟な各条規格の記載の検討
ケ.必要に応じた「製造要件」及び「意図的混入有害物質」の項等の活用
コ.「製造要件」の活用による、工程で管理される重要品質特性の明示
サ.試験法や項目の見直しが長期間行われず、国際的な水準から遅れをとっている場合や規格値が国際的水準とかけ離れている場合には、優先的に見直しを図る。
医薬品各条の整備に際しては、日本薬局方が公的なものであることに留意し、広く一般に実施可能なものとするとともに、既収載品目を含め最新の科学・品質基準の国際的動向が反映されるよう検討する。
④ 標準品等の整備
日本薬局方標準品は、局方医薬品の品質を確保する上で不可欠なものである。より適切な品質管理及び今後の収載品目の増加に対応するため、引き続き、標準品の品質確保に関する考え方等について検討を行うとともに、各検討委員会間の円滑な連携を促進する。
また、標準品の設定方針は、適宜、最新の品質管理手法及び国際的な動向に基づいて策定する。さらに、標準品の供給体制の強化に努め、標準品の安定供給により日本薬局方の信頼性を確保する。
⑤ 生物薬品に係る整備
近年、先端技術を用いて開発・製造されるバイオ医薬品やバイオ後続品の承認品目数が増加し、医療上の重要性が高い製品が増えていることを踏まえ、これら生物薬品の各条収載を図るとともに、最新の科学的知見・技術を反映した一般試験法及び参考情報を整備する。
⑥ 国際的動向を踏まえた不純物の管理に係る整備
リスクを踏まえた不純物の管理、特に医薬品規制調和国際会議(ICH)―Q3D医薬品の元素不純物ガイドラインを踏まえた元素不純物の管理について、国際的な動向を踏まえ、日本薬局方への取込みのロードマップに基づき、その実行に取り組む。さらに、ICH―M7潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理ガイドラインについても考慮する。
⑦ 参考情報の有効活用
参考情報は、日本薬局方を補足する重要情報として位置付けられているものである。参考情報を日本薬局方と一体として運用することにより、日本薬局方の質的向上や利用者の利便性の向上に資することができる。
参考情報については、
ア.通則等での重要事項の解説又は補足
イ.先端技術応用医薬品等の品質評価に必要な新試験法の収載
ウ.国際調和事項の日本薬局方収載状況
エ.医薬品の品質確保に必要な情報
オ.医薬品包装に係る試験法の充実
カ.目的に応じた日本薬局方の適用方法の解説
を中心に収載することとする。
また、既存の参考情報については必要に応じ改正を行う。
(3) 医薬品のグローバル化に対応した国際化の一層の推進
① 医薬品各条に関する国際調和の推進
② WHOをはじめとする薬局方に関する国際的な活動への積極的な貢献
③ 日米欧三薬局方検討会議(PDG)の場を通じた医薬品添加物及び試験法の国際調和等の推進、調和事項の速やかな日本薬局方への導入、並びに成果の国際的な活用の推進
④ 日本薬局方の一層の国際化を推進するための方途の実施
ア.日本薬局方が国際標準としてアジア地域を含む多くの国と地域で活用されることを目指し、医薬品各条における類縁物質情報(類縁物質/不純物の名称、構造式)に関する記載の一層の推進により、不純物情報の透明性を確保
イ.類縁物質情報の記載に伴い、カラム情報を(独)医薬品医療機器総合機構ホームページに全面的に開示
⑤ 生薬調和フォーラムの場を通じた生薬分野のアジア地域での調和活動への積極的支援
⑥ 海外ユーザーを考慮した英文版の利便性の向上及び速やかな発行
⑦ 海外規制当局等に対する日本薬局方の教育トレーニング
(4) 必要に応じた速やかな部分改正及び行政によるその円滑な運用
① 医薬品の安全性に係る情報が得られた場合やPDG、ICH等における国際調和がなされた場合等には、従来の大改正や追補以外にも部分改正を実施する。
(5) 日本薬局方改正過程における透明性の確保及び日本薬局方の国内外への普及
① 日本薬局方原案検討過程における意見募集並びに経緯の説明
引き続きインターネットを利用した意見募集を行う。また、可能な範囲で学会誌等を活用して、検討内容や経緯の説明を行う。
② インターネットを利用した日本薬局方の公開
引き続き大改正や追補の他、部分改正も含め、インターネットにより情報提供を行う。また、厚生労働省ホームページ及び(独)医薬品医療機器総合機構ホームページに掲載している日本薬局方に関連する情報について、さらに充実と利便性の向上を図る。
③ ユーザーに分かりやすい日本薬局方の策定(より分かりやすい文章表現等の検討、表記の整備等)
④ 参考情報、附録、索引等の充実・拡充
⑤ 薬学教育における日本薬局方の活用
医薬品の創製・品質確保・適正使用に関する薬学教育の拠り所とする。
4.施行時期
第十九改正の施行時期は令和8年4月を目標とする。なお、検討状況等を勘案し、第十八改正日本薬局方の追補改正及び部分改正を適宜行う。