添付一覧
○小麦中のデオキシニバレノール試験法について
(令和3年9月30日)
(生食発0930第1号)
(各都道府県知事・各保健所設置市市長・各特別区区長あて厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)
(公印省略)
小麦中のデオキシニバレノールについては、食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(令和3年厚生労働省告示第294号)により、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)において基準値を示し、令和4年4月1日から適用することとしたところです。
今般、「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について(小麦中のデオキシニバレノールに係る基準値の設定)」(令和3年7月30日付け生食発0730第7号厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)において別途通知することとしていた小麦中のデオキシニバレノール試験法について、別添のとおり周知しますので、関係者への周知をお願いするとともに、その運用に遺漏がないようお取り計らい願います。
なお、本試験法と同等以上の性能を有する試験法により試験を実施しても差し支えないこと及びこれまで小麦中のデオキシニバレノールの試験法について示していた「デオキシニバレノールの試験法について」(平成15年7月17日付け食安発第0717001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)は廃止することを申し添えます。
(別添)
小麦中のデオキシニバレノール試験法
小麦中のデオキシニバレノールの試験は、以下のⅠに示す試験法により実施することとする。また、Ⅱに示す方法は、スクリーニングのための分析法として用いることができる。
Ⅰ デオキシニバレノール試験法
1.装置
紫外分光光度検出器付き高速液体クロマトグラフ(HPLC―UV)
液体クロマトグラフ・質量分析計(LC―MS)又は液体クロマトグラフ・タンデム型質量分析計(LC―MS/MS)
2.試薬・試液等
次に示すもの以外は、食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)第2添加物の部C試薬・試液等の項に示すものを用いる。
(1) デオキシニバレノール標準品1)
デオキシニバレノールを98%以上含むものを用いる。アセトニトリルで溶解し、100mg/Lの濃度の標準原液を調製する。
(2) 多機能カラム
内径12~13mmのポリエチレン製のカラム管に、多機能カラム充てん剤(逆相樹脂、イオン交換樹脂、活性炭等)を充てんしたもの又はこれと同等の性能を有するものを用いる。
3.試験溶液の調製
(1) 試料の調製
検体を1,000μmの標準網ふるいを通るように粉砕した後、その50.0gを量り採り、500mLの三角フラスコに移す。これにアセトニトリル及び水の混液(17:3)200mLを加え、振とう機を用いて30分間激しく振り混ぜた後、ガラス繊維ろ紙を用いてすり合わせ、減圧濃縮器中に吸引ろ過し、ろ液を抽出溶液とする。
(2) 精製法
多機能カラムに(1)で得られた抽出溶液6~10mLを注入し、毎分1mL以下の流速で流出させる2)。デオキシニバレノールが流出する画分3)の約2.2~2.4mLを共栓付き試験管に採る。この流出液の2.0mLを別の共栓付き試験管に正確に採り、45℃以下で窒素気流を用いて溶媒を除去する。
残留物にアセトニトリル、水及びメタノールの混液(1:18:1)0.5mLを加えて溶かした後、10,000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を試験溶液とする4)。
4.検量線の作成
デオキシニバレノール標準原液をアセトニトリルで希釈し、0.25~4mg/Lの濃度範囲の標準溶液を数点調製する。それぞれ0.5mLを採り、45℃以下で窒素気流を用いて溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル、水及びメタノールの混液(1:18:1)0.5mLを加えて溶かし、検量線溶液を調製する。それぞれを分析機器に注入し、ピーク高法又はピーク面積法で検量線を作成する。
5.定量
試験溶液をHPLC―UVに注入し、4.で得られた検量線により小数第2位までデオキシニバレノールの分析値(mg/kg)を求める。分析値の小数第2位を四捨五入してデオキシニバレノールの定量値とする。HPLC―UVを用いず、LC―MS又はLC―MS/MSによりデオキシニバレノールの定量及び確認試験を同時に行うこともできる。
6.確認試験
3.(2)で得られた試験溶液をLC―MS又はLC―MS/MSに注入して確認する。
7.操作条件例
(1) HPLC―UV5)
カラム充てん剤 粒径3~5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム管 内径4~4.6mm、長さ150~250mm
カラム温度 40℃
検出器 波長220nm
移動相 アセトニトリル、水及びメタノールの混液(1:18:1)
流速 1.0mL/分
注入量 20~100μL
(2) LC―MS又はLC―MS/MS
カラム充てん剤 粒径3~5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲル
カラム管 内径2~3mm、長さ150mm
カラム温度 40℃
移動相
A溶媒 2mmol/L酢酸アンモニウム
B溶媒 メタノール又はアセトニトリル
分離条件
0分 B溶媒 5%
8分 B溶媒 90% 10分まで維持
流速 0.2~0.4mL/分
注入量 2~10μL
イオン化モード ESI(-)
検出イオン(m/z)
<LC―MS> 295
<LC―MS/MS> プリカーサーイオン295、プロダクトイオン265、138
8.定量限界
0.25mg/kg以下
9.妥当性評価の方法
デオキシニバレノールを含まない試料(ブランク試料)に、デオキシニバレノールを添加した試料(添加試料)を試験法に従って試験し、その結果から以下の性能パラメータを求め、それぞれ表に示す目標値に適合していることを確認する。添加濃度は、原則として1.0mg/kgとする。なお、各パラメータの定義及び評価の手順は、「食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正について」(平成22年12月24日付け食安発1224第1号~第3号別添)に準じるものとする。
(1) 選択性
HPLC―UVを用いる場合:ブランク試料を試験法に従って試験し、定量を妨害するピークがないことを確認する。妨害ピークを認める場合は、妨害ピークの面積(又は高さ)が、デオキシニバレノール濃度1.0mg/Lに相当するピークの面積(又は高さ)と比較し、1/10未満であることを確認する。
LC―MS又はLC―MS/MSを用いる場合:ブランク試料から調製した試験溶液にデオキシニバレノール(最終濃度1.0mg/L)を添加した検体(マトリクス試験用試料)を用いて、マトリクスによるイオン化への影響の有無を確認する。標準溶液の面積値と比較し、マトリクス試験用試料の定量値が±10%以内に収まることを確認する。
(2) 真度(回収率)
添加試料5個以上を試験法に従って試験し、得られた定量値の平均値の添加濃度に対する比率を求め、真度を評価する。
(3) 精度
添加試料の試験を繰り返し、得られた定量値の併行精度及び複数の実施者又は実施日による室内精度を評価する。
<表 真度及び精度の目標値>
試行回数* |
真度 (%) |
併行精度 (%) |
室内精度 (%) |
5回以上 |
80~110 |
10> |
15> |
* 自由度4以上とする。
――――――――――
<注解>
1) 正確に濃度調製された市販標準溶液も使用可能である。
2) 抽出溶液の注入前にコンディショニングが必要なカラムを使用する場合は、カラム付属のプロトコールに従ってコンディショニングを行う。
3) 使用するカラムによって溶出パターンは異なるので、標準溶液を用いて事前に溶出量を確認する。なお、多機能カラム内には常に液が充てんされているように留意する。
4) 感度の高いLC―MS/MSで定量をする場合、アセトニトリル、水及びメタノールの混液(5:18:5)で試験溶液を10倍希釈し、測定してもよい。その場合、検量線は0.025~0.4mg/Lの範囲で作成する。定量を行う際は、小数第3位までデオキシニバレノールの分析値(mg/kg)を求める。分析値を10倍した後に小数第2位を四捨五入した値をデオキシニバレノールの定量値とする。
5) 長さ250mmのカラムを使用する場合のデオキシニバレノールの溶出時間の目安は14~20分である。
Ⅱ デオキシニバレノールスクリーニング法
小麦中のデオキシニバレノールのスクリーニングには、ELISA(Enzyme―Linked Immuno―Sorbent Assay)法を原理とし、以下の基準を満たすキットを用いる。スクリーニング法により陰性と判断された場合を除き、上述の「Ⅰ デオキシニバレノール試験法」により判断を行う。
1.使用可能なキットの基準
(1) 選択性
Ⅰ9.に示したブランク試料を用いて少なくとも5回の試験を行い、分析値が0.1mg/kgを下回ることを確認する。検量線用の標準溶液の最小濃度が0.1mg/L以上である場合は、最小濃度を下回ることを確認する。
(2) 真度
Ⅰ9.に示した添加試料を用いて少なくとも5回の試験を行い、回収率が60~140%の範囲に収まることを確認する。
(3) 測定範囲
0.5~1.0mg/kgが測定範囲に入っていること。
(4) 結果の評価方法
分析値が0.6mg/kg未満の場合、陰性と判断する。
2.分析に当たっての留意事項
・使用期限及び保存温度を確認し、遵守すること。
・キット、試薬等は使用前に室温に戻しておくこと。
・各キットを販売する販売者又は輸入代理店から詳細な取扱説明書を入手し、技術的な習得を行うこと。
・分析値のばらつきを抑え、安定した結果を得るためには、2以上の反復した分析を行い、分析値を比較して再現性を確認することが望ましい。
・検量線のR2(決定係数)が0.98未満の場合には、キットの操作手順等に問題があると考えられるので、操作手順等を確認の上、再度試験を実施すること。