添付一覧
○歯科用医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方の一部改正について
(令和3年5月31日)
(薬生機審発0531第5号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)
(公印省略)
歯科用医療機器の製造販売承認申請等に際して添付すべき資料のうち、生物学的安全性評価に関する資料の取扱いについては、「歯科用医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方等の一部改正について」(平成30年6月12日付け薬生機審発0612第4号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知。以下「課長通知」という。)等により示しているところです。
今般、ISO 7405:2018“Dentistry‐Evaluation of biocompatibility of medical devices used in dentistry”及びJIS T 6001「歯科用医療機器の生体適合性の評価」が改訂されたこと等に伴い、課長通知の別紙「歯科用医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方」(以下「ガイダンス」という。)を下記のとおり改めることとしましたので、御了知の上、貴管内関係製造販売業者等への周知方御配慮願います。
記
1.ガイダンスの一部改正について
課長通知別添1のガイダンスを別添のとおり改めること。
2.適用期日について
令和3年5月31日から適用すること。ただし、令和6年2月29日までに行われる歯科用医療機器、歯科材料及び歯科器械の製造販売承認申請、認証申請及び届出(一部変更承認申請、一部変更認証申請及び届出事項変更届出を含む。)については、改正前のガイドラインに従って評価を行ったものを添付できること。
[別添]
歯科用医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方
1.目的
医療機器の生物学的安全性評価は、医療機器の使用によって生じる潜在的な生物学的リスクからヒトを保護するために実施するものであり、JIS T 14971「医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用」(以下、JIS T 14971)又は国際規格であるISO 14971,Medical devices -- Application of risk management to medical devices(以下、ISO 14971)に規定されるリスクマネジメントプロセスの検証作業の一つとして位置づけられる。
本文書は、歯科で使用される医療機器(以下、歯科用医療機器)の安全性評価の一環として、歯科用医療機器の多くが用時加工・調製されて使用されることに鑑み、その特質を明確にした生物学的有害作用(毒性ハザード)のリスク評価を行うための生物学的安全性評価に関する基本的な考え方を示すものである。
2.定義
本文書において用いられる用語の定義は以下によるものとする。
1) 原材料
歯科用医療機器を構成する材料又は歯科用医療機器の製造工程中で用いられる材料であり、合成又は天然高分子化合物、金属、合金、セラミックス、その他の化学物質などをいう。
2) 最終製品
包装を含む全ての製造工程を終えた歯科用医療機器又は歯科用医療機器の構成部材をいう。該当する場合は滅菌処理も含む。ただし、出荷後、用時加工・調製され使用されるものにあっては、実際に使用される状態の製品(例えば、歯科用セメントの練和物及び硬化物)をいう。
備考:多くの歯科材料は練和直後の状態で使用されるため、最終製品には練和直後及び硬化後の両方の状態のものが含まれる。
3) 製品
用時加工・調製されて最終製品となる歯科用医療機器で、加工・調製前の製品(例えば、歯科用セメントの粉と液)をいう。
4) ハザード
ヒトの健康に不利益な影響を及ぼす原因となりうる遺伝毒性、遅延型過敏症(感作性)、慢性全身毒性などの要素をいう。
5) リスク
ハザードにより引き起こされる、ヒトの健康に及ぼす不利益な影響の発生確率及びその重大さとの組合せをいう。
6) エンドポイント
歯科用医療機器の生物学的安全性を評価するために必要な項目をいう。
3.公的規格の活用
歯科用医療機器の生物学的安全性評価は、原則として、JIS T 0993―1「医療機器の生物学的評価―第1部:リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験」(以下、JIS T 0993―1)及びJIS T 6001「歯科用医療機器の生体適合性の評価」(以下、JIS T 6001)あるいは国際規格である最新のISO 10993シリーズ(医療機器の生物学的評価関連の規格群)及びISO 7405,Dentistry‐Evaluation of biocompatibility of medical devices used in dentistry(以下、ISO 7405)に準拠して行うこととする。すなわち、JIS T 0993―1及びJIS T 6001並びにISO 10993―1,Biological evaluation of medical devices‐Part 1:Evaluation and testing within a risk management process(以下、ISO 10993―1)及びISO 7405に準拠して、個々の歯科用医療機器の接触部位と接触期間に応じて必要な評価項目を選定する。各評価項目はISO 10993シリーズの各試験法ガイダンス及びJIS T 6001(又はISO 7405)の試験法を参考として適切な試験法を選定し安全性評価を行うこととする。各試験法については、歯科用医療機器の安全性評価を適切に実施できるのであれば、他の公的規格に準拠した試験法による評価で代替することができる。
また、ISO 10993シリーズ中の各試験法ガイダンスとして、多くの場合、評価項目ごとに複数の試験法が提示され、JIS T 6001(又はISO 7405)では歯科用医療機器に適用する試験方法が提示されているが、個々の歯科用医療機器についてどの試験法をいかに適用するか、また試験結果に基づいてそれぞれの歯科用医療機器をどのように評価すべきかについては明確に規定されていない。このため、試験実施にあたっては、4項以下を踏まえて適切な試験法を選択することが必要である。本文書及び「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス」[「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方についての改正について(令和2年薬生機審発0106第1号)」の別添]では、生物学的安全性評価で留意すべき点を追記している。
なお、公的規格及び基準は科学技術の進展に伴って逐次改定されるものであるため、試験を実施する時点における最新の規格及び基準を参照し、適切な試験法を選択する必要がある。
備考:JIS T 6001(又はISO 7405)は歯科用医療機器に適用される規格であるが、機械及び器具(一時的接触するものに限る。)については、JIS T 0993―1(又はISO 10993―1)からの変更はない。
本文書では、次に掲げるISO 10993シリーズの文書及びその関連文書を引用している。これらの文書は2020年3月1日時点で有効な文書である。
1) ISO 10993―1,Biological evaluation of medical devices -- Part 1:Evaluation and testing within a risk management process
2) ISO 10993―2,Biological evaluation of medical devices -- Part 2:Animal welfare requirements
3) ISO 10993―3,Biological evaluation of medical devices -- Part 3:Tests for genotoxicity,carcinogenicity and reproductive toxicity
4) ISO 10993―5,Biological evaluation of medical devices -- Part 5:Tests for in vitro cytotoxicity
5) ISO 10993―9,Biological evaluation of medical devices -- Part 9:Framework for identification and quantification of potential degradation products
6) ISO 10993―10,Biological evaluation of medical devices -- Part 10:Tests for irritation and skin sensitization
7) ISO 10993―11,Biological evaluation of medical devices -- Part 11:Tests for systemic toxicity
8) ISO 10993―12,Biological evaluation of medical devices -- Part 12:Sample preparation and reference materials
9) ISO 10993―13,Biological evaluation of medical devices -- Part 13:Identification and quantification of degradation products from polymeric medical devices
10) ISO 10993―14,Biological evaluation of medical devices -- Part 14:Identification and quantification of degradation products from ceramics
11) ISO 10993―15,Biological evaluation of medical devices -- Part 15:Identification and quantification of degradation products from metals and alloys
12) ISO 10993―17,Biological evaluation of medical devices -- Part 17:Establishment of allowable limits for leachable substances
13) ISO 10993―18,Biological evaluation of medical devices -- Part 18:Chemical characterization of medical device materials within a risk management process
14) ISO/TS 10993―19,Biological evaluation of medical devices -- Part 19:Physico‐chemical,morphological and topographical characterization of materials
15) ISO/TR 10993―22,Biological evaluation of medical devices -- Part 22:Guidance on nanomaterials
16) ISO/TS 21726,Biological evaluation of medical devices‐Application of the threshold of toxicological concern(TTC)for assessing biocompatibility of medical device constituents
4.生物学的安全性評価の原則
1) 歯科用医療機器及び原材料の生物学的安全性評価は、JIS T 14971(又はISO 14971)に示されたリスク分析手法により実施されなければならない。すなわち、意図する使用又は意図する目的及び歯科用医療機器の安全性に関する特質を明確化し、既知又は予見できるハザードを特定し、各ハザードによる不利益のリスクを推定する必要がある。このようなリスク分析手法のアプローチにおいては、「陽性」の結果は、ハザードが検出・特定できたことを意味するものであって、それが直ちに歯科用医療機器としての不適格性を意味するものではなく、当該歯科用医療機器の安全性は、引き続き行われるリスク評価により判断される。上市後の歯科用医療機器もJIS T 14971(又はISO 14971)により管理されるべきであり、本ガイドライン、JIS T 6001(又はISO 7405)及びISO 10993シリーズの改定ごとに、生物学的安全性の再評価を必ずしも求めるものではない。
備考:リスクマネジメントプロセスで実施する生物学的評価については、JIS T 0993―1に規定される体系的な手引き及びリスクマネジメントプロセスの指針を参照する。
2) 生物学的安全性評価は、次のア)~ク)に示す情報及び本文書に準拠して実施された安全性試験結果、当該歯科用医療機器に特有の安全性評価項目の試験結果、関連の最新科学文献、非臨床試験、臨床使用経験(市販後調査を含む)などを踏まえて、リスク・ベネフィットを考慮しつつ、総合的に行う必要がある。
ア) 構成材料(直接的又は間接的に人体組織と接触する全ての材料)
イ) 添加物、製造工程での混入物及び残存物(残留エチレンオキサイドについてはJIS T 0993―7「医療機器の生物学的評価―第7部:エチレンオキサイド滅菌残留物」を参照)
ウ) 包装材料(直接的又は間接的に歯科用医療機器と接触することにより化学物質が歯科用医療機器に移行し、結果的に患者や医療従事者に移行する可能性)
エ) 溶出物(ISO 10993―17及びISO 10993―18参照)
オ) 分解生成物(一般原則はISO 10993―9、高分子・セラミックス・金属の分解生成物はそれぞれISO 10993―13、ISO 10993―14、及びISO 10993―15を参照)
カ) 最終製品及び/又は製品中のア)~オ)以外の成分及びそれらの相互作用
キ) 最終製品及び/又は製品の性質、特徴
ク) 最終製品及び/又は製品の物理学的特性(多孔率、粒径、形状、表面形態を含む)
3) 生物学的安全性評価は、教育・訓練が十分になされ、経験豊富な専門家によって行われなければならない。
4) 原材料及び歯科用医療機器において、以下の項目のいずれかに該当する変更や事象が確認された場合には、再度、生物学的リスクの評価を行わなければならない。
ア) 製品の製造に使用される材料の供給元又は仕様の変更
イ) 製品の成分・配合、加工、一次包装又は滅菌方法の変更
ウ) 用時加工・調製方法の変更
エ) 保管中、最終製品及び/又は製品に化学変化が認められた場合、有効期限、保管条件及び輸送条件の変更
オ) 最終製品及び/又は製品の使用目的に変更があった場合
カ) 製品が人体に使用された際、何らかの有害な作用を生じる可能性を示す知見が得られた場合
上記条件に該当しても、例えば、最終製品及び/又は製品からの溶出化学物質とその溶出量を分析し、毒性学的情報に基づいた摂取許容値との対比により生物学的安全性が確保できる場合には、必ずしも生物学的安全性試験を再実施する必要はない。
5) 再使用可能な歯科用医療機器では、再使用に係る洗浄・滅菌などにおける原材料の材質に対する影響など、検証済みの再使用可能な最大サイクルを考慮した評価を実施する。
6) 歯科用医療機器の生物学的安全性について評価すべき項目の選択については、JIS T 6001(又はISO 7405)及びJIS T 0993―1(又はISO 10993―1)に示されているとおり、歯科用医療機器あるいは構成部材ごとの接触部位及び接触期間によるカテゴリ分類に応じて、原則として、表1及び表2に示すエンドポイントを評価することが望ましい。カテゴリのいずれにも該当しない歯科用医療機器を評価する場合には、最も近いと考えられるカテゴリを選択すること。歯科用医療機器が複数の接触期間のカテゴリに該当する場合は、より長期間のカテゴリに適用される項目について評価すること。また、複数の接触部位のカテゴリに該当する場合は、それぞれのカテゴリに適用される項目について評価すること。
① 歯科用医療機器の接触部位によるカテゴリ分類
ア) 非接触機器:直接/間接を問わず、患者の身体に接触しない歯科用医療機器
イ) 表面接触機器:
○ 皮膚:健常な皮膚の表面のみに接触する歯科用医療機器
○ 口腔内組織:健常な口腔粘膜組織に接触する歯科用医療機器
歯の硬組織(エナメル質、象牙質、セメント質)の外面に接触する歯科用医療機器
備考:歯肉退縮などにより自然に口腔内に露出している象牙質及びセメント質は表面と考えられるが、切削などにより人工的に作られた表面は含まれない。
○ 損傷表面:創傷皮膚又は口腔粘膜組織に接触する歯科用医療機器
ウ) 体内と体外とを連結する機器:口腔粘膜組織,歯の硬組織,歯髄組織若しくは骨、又はこれらの組合せに、侵入し又は接触するもので、その一部が口腔環境にさらされている歯科用医療機器
エ) 歯科用体内植込み機器:次のうちの一つ又は複数に部分的に又は完全に埋め込む、歯科用インプラント及び他の歯科用の体内植込み機器
(1) 軟組織(例えば、骨膜下インプラント,皮下インプラント)
(2) 骨(例えば、骨内インプラント,骨(代替)補填材)
(3) 歯髄象牙質系(pulpodentinal system)(例えば、歯内療法用材料)
(4) これらの組合せ(例えば、骨貫通インプラント)
② 接触期間によるカテゴリ分類
○ 一時的接触 :単回又は複数回使用され、その累積接触期間が24時間以内の歯科用医療機器
○ 短・中期的接触:単回又は複数回使用され、その累積接触期間が24時間を超え、30日以内の歯科用医療機器
○ 長期的接触:単回又は複数回使用され、その累積接触期間が30日を超える歯科用医療機器
備考:繰り返し使用される歯科用医療機器は、その接触する累積期間で分類する。
5.評価の進め方
生物学的安全性評価は、JIS T 0993―1の図1(又はISO 10993―1のFigure 1)に提示されたフローチャートに従って行う。
備考:非接触機器は、JIS T 0993―1(又はISO 10993―1)及びJIS T 6001(又はISO 7405)による生物学的安全性評価を求められない。
1) 生物学的安全性評価を実施する上で、対象となる歯科用医療機器及びその構成成分の物理学的及び化学的情報を収集することが重要である。これらの情報はフローチャートの材料、製造方法,滅菌方法、形状、物理学的特性、身体接触及び臨床使用に関する質問を充足できる内容であることが望まれる。また毒性学的リスク評価のために、少なくとも最終製品及び製品の化学的成分及び製造時に使用した残留する可能性のある加工助剤又は添加物を可能な限り明らかにしなければならない。
材料の化学的特性評価を実施する場合には、ISO 10993―18を参照する。歯科用医療機器から溶出し得る化学物質の種類と量を化学的特性評価によって把握することにより、毒性学的閾値、並びに摂取許容値に基づく安全性評価(ISO 10993―17参照)が可能となり、新たな生物学的安全性試験の実施の要否を判断することができる。歯科用体内植込み機器又は血液と接触する歯科用医療機器の評価においては、物理学的特性評価に関する情報(ISO/TS 10993―19参照)が必要となるものがある。ナノマテリアル(nanomaterial)の特性評価には、ISO/TR 10993―22を参照する。
2) 対象の歯科用医療機器と既承認/認証の歯科用医療機器との生物学的安全性における同等性を判断する。JIS T 0993―1(又はISO 10993―1)では、①原材料(配合組成など)、②製造工程・滅菌の種類/工程、③幾何学的形状及び物理学的特性、④接触部位及び臨床適用における同等性の確認を要求している。
3) 2)において既承認/認証の歯科用医療機器との同等性が確認できなかった場合、以下の3点を充足する情報又はデータにより、当該歯科用医療機器の臨床適用における生物学的安全性の担保が可能か否かを判断する。これらは、生物学的安全性におけるリスク評価の実施を正当化できる根拠及び当該歯科用医療機器の臨床適用に関連性のある化学的及び生物学的なデータとなる。
① 原材料の化学物質毒性データ
② ①は他の化学物質混合時にも適用可能なデータであること
③ ①は当該歯科用医療機器の安全性評価可能な用量及びばく露経路を踏まえたデータであること
4) 2)及び3)を充足しない場合には、表1及び表2の評価すべき生物学的安全性評価項目及び参考情報(10項参照)を検討して、試験を行う。
5) 1)~4)で得られた情報及びデータから毒性学的リスク評価を実施する。JIS T 0993―1のB.2.1(又はISO 10993―1 Annex BのB.2.1)に記載されているとおり、生物学的ハザードを特定するために、当該歯科用医療機器を構成する原材料情報から、ハザードとなり得る化学物質を特定するとともに、臨床ばく露量の推定などにより評価を行う。これらの情報と表1及び表2に示す項目の評価を対比させて過不足を判断する。表1及び表2は、印を付したエンドポイントとなる全試験の実施を必ずしも要求するものではない。ただし、公表文献による評価を行う場合には、JIS T 0993―1の附属書C(又はISO 10993―1 Annex C)を参考とし、客観性及び第三者による検証に耐え得るよう、その妥当性を明らかにする必要がある。
6) 表1及び表2に示されたエンドポイントのみでは、当該歯科用医療機器の生物学的安全性評価が不十分と考えられる場合、その特質を十分考慮して評価項目を検討する必要がある。例えば、毒性試験結果などから免疫系への影響が疑われた場合に免疫毒性に関する評価が必要となる場合、あるいは細胞/組織を使用した歯科用医療機器(例えば、ブタ歯胚組織使用歯周組織再生用材料)の評価など、表1及び表2に示された試験を単純に適用するのが困難な場合もある。また生体内で経時的に吸収され性状が変化する歯科用医療機器(例えば、吸収性歯周組織再生用材料)では、その変化を考慮した試験条件などを設定することも必要である。
7) 表1及び表2は評価が推奨される生物学的安全性評価項目を示したものであり、必ずしも試験実施を要求するものではない。既承認/認証の歯科用医療機器との同等性や既存化学物質の安全性情報からの評価など、適切にリスク評価を行ない、評価不要と判断する場合その理由を明確にすることが必要である。逆に当該カテゴリの歯科用医療機器として印がない項目であっても、リスク評価に基づき必要と判断された場合には評価を実施すべきである。
備考:別表1に主要な歯科用医療機器の接触部位・接触期間のカテゴリを示す。
8) 歯科用医療機器には既承認/認証の歯科用医療機器に使用されている原材料又は成分を組合せた製品が多い。原材料又は成分の規格、接触部位、接触期間などが既承認/認証の歯科用医療機器(薬事法改正前の承認不要品目を含む。)と同等である場合には改めて試験を行うことを求めるものではない。なお、同等性の有無は、5項の2)によって判断する。
9) 急性全身毒性、亜急性全身毒性、亜慢性全身毒性及び慢性全身毒性の投与経路は、リスク分析手法に基づいて判断する。例えば、揮発成分を含む場合には吸入による全身毒性の評価が必要であるが、使用量から揮発成分の濃度が既知の危険レベルに達しない場合など、吸入によるリスクが許容できる場合には、吸入による全身毒性試験を行うことを求めるものではない。
6.試験方法
1) ISO 10993シリーズ及びJIS T 6001(又はISO 7405)中の各試験法ガイダンスには、それぞれの評価項目ごとに多様な試験法が並列的に記述されており、その中のどの試験法を選択すべきかについては、明確に規定されていない。ある評価項目に関して複数の試験法の中からどれを選択すべきかについては、目的とする歯科用医療機器の生物学的安全性評価の意義との関連において、試験の原理、感度、選択性、定量性、再現性、試験試料の適用方法とその制限などを勘案して決めるべきである。
ア) 細胞毒性試験に関しては、JIS T 6001(又はISO 7405)に、間接接触法(寒天拡散法、フィルタ拡散法及び象牙質バリア法)が、また、ISO 10993―5に、抽出液による試験法、直接接触法、及び間接接触法(寒天拡散法、フィルタ拡散法)が示されている。これらの試験法は、感度、定量性などが異なるため、リスク評価のためのハザード検出に当たっては、感度が高く定量性のある方法を用いる必要がある。一般的に、抽出液による試験法は感度が高いため、この方法で試験するのが望ましいが、当該試験法以外を選択した場合にはその妥当性を説明する必要がある。
備考:寒天拡散法は寒天重層法と称されることがある。
イ) 遅延型過敏症(感作性)試験及び遺伝毒性試験のハザード検出に当たってはISO 10993―12の抽出溶媒に関する規定やISO 10993―3及びISO 10993―10に記載されている抽出法を参照し、各材料に適したものであって、かつ抽出率の高い溶媒を選択して歯科用医療機器の安全性を評価することが必要である。その際、抽出溶媒の種類や抽出条件によって試料溶液中の溶出物の濃度や種類が異なることから、結果が偽陰性を示す可能性があることに留意する。
ウ) 亜急性全身毒性、亜慢性全身毒性、及び慢性全身毒性試験に関しては、埋植試験あるいは使用模擬試験が各毒性試験で必要とされる観察項目及び生化学データなどを含んでいる場合、これらの毒性試験に代えることができる。
エ) 歯科用体内植込み機器のリスク評価では、全身的影響及び局所的影響を考慮しなければならない。
オ) 歯科用骨内インプラント使用模擬試験で埋植による局所的な影響を評価できれば、埋植試験(ISO 10993―6による試験)に代えることができる。
2) 歯科用医療機器の中には使用模擬試験により生物学的安全性を評価すべきものがあり、JIS T 6001の中で使用模擬試験方法が記述されている。いずれの使用模擬試験を選択すべきかについては、評価する歯科用医療機器、試験の原理とその制限などを勘案して決めるべきである。
ア) 歯髄・象牙質使用模擬試験は、歯科用医療機器又はその成分が象牙質を透過して歯髄に到達する場合の歯髄への影響を評価するための使用模擬試験であり、象牙質に接触する歯科用医療機器(例えば、歯科裏装用セメント)の場合に試験の実施を必要とする。ただし、露髄部又は歯髄に近接した象牙質部分の歯髄保護処置を前提とした使用方法が指定される歯科用医療機器(例えば、歯科充填用コンポジットレジン)の場合には、必ずしも試験を求めるものではない。
イ) 覆髄試験は、歯髄に直接接触する歯科用医療機器による歯髄への影響を評価するための使用模擬試験であり、歯髄に直接接触する歯科用医療機器(ただし、歯科材料に限る。)の場合に試験の実施を必要とする。
なお、この覆髄試験は、一部を変更して断髄試験としても使用できる。
ウ) 根管充填使用模擬試験は、歯科用医療機器による根尖周囲組織への影響を評価するための使用模擬試験であり、根管充填に使用される歯科用医療機器(ただし、歯科材料に限る。)の場合に試験の実施を必要とする。ただし、根尖部を封鎖した根管に充填され、根尖周囲組織との接触の可能性がない歯科用医療機器の場合には、必ずしも試験を求めるものではない。
エ) 歯科用骨内インプラント使用模擬試験は、咬合による歯科用インプラント材料の周囲組織(硬組織)への影響を評価するための使用模擬試験であり、骨内に埋込まれる歯科用インプラント材料の場合に試験の実施を必要とする。
3) 全ての歯科用医療機器について一律の試験法を定めることは合理性に欠ける。また特定の試験法を固守するよう求めるものでもないが、選定した試験法から得られた結果が臨床適用上の安全性を評価するに足るものであると判断した根拠と妥当性を明らかにする必要がある。
7.試験試料
1) 歯科用医療機器の生物学的安全性試験を実施する場合の試験試料としては、最終製品、最終製品の一部、製品及び原材料などが考えられる。試験試料の選択においては、最終製品の安全性を十分に評価できるか否かを検討し、その選択の妥当性を明らかにする必要がある。
2) 歯科用医療機器は複数の材料を組合せて製造されることが多く、滅菌を含む製造工程において材料が化学的に変化する可能性がある。またそれら複数の材料は人体へ複合的に直接又は間接ばく露され得る。このため生物学的安全性試験を実施する際には、最終製品及び製品、最終製品又は製品が人体と接触する部分を切り出した試験試料、最終仕様の試作品あるいは同じ条件で製造した模擬試験試料を用いて実施することを基本とする。一方、製造工程において材料が化学的に変化しないことが確認できる場合には、原材料を試験試料として試験を実施しても差し支えない。
3) 用時加工・調製される歯科材料については、その加工・調製過程において、材料が化学的に変化する場合には、同じ条件で加工・調製した模擬試験試料を用いて試験を行う必要がある。特に、用時調製の過程のまま生体に適用する材料(例えば、未硬化状態の歯科用根管充填シーラなど)にあっては、練和直後及び硬化後の両方の状態の試験試料についての試験を考慮する必要がある。
一方、加工・調製において材料が化学的に変化しないことが確認できる場合は、製品又は原材料を試験試料として試験を行うことで差し支えない。
4) 原材料の一部の成分を新規の化学物質に変更し、かつ、それが材料中で化学的に変化しない場合、原材料、最終製品又は製品を用いて試験を実施するよりも当該化学物質について試験を行った方が合理的なこともある。このような場合は、当該化学物質の試験をもって、原材料、最終製品又は製品の試験に代えることができる。
8.Good Laboratory Practiceの適用
5項の4)に規定する生物学的安全性試験は、「医薬品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売承認申請等の際に添付すべき医薬品、医療機器及び再生医療等製品の安全性に関する非臨床試験に係る資料の取扱い等について(平成26年薬食審査発1121第9号・薬食機参発1121第13号)」に基づき、「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令(平成17年厚生労働省令第37号)」で定める基準(Good Laboratory Practice、「GLP」という。)に従って実施すること。ただし当該製品に求められる機能性/有効性を評価する試験で安全性評価の目的が副次的である場合には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則(昭和36年厚生省令第1号)」第114条の22を順守すること。
生物学的安全性評価を目的とした試験はGLPに準拠した実施が求められる。性能確認試験など、その他の目的で実施する場合は、必ずしもGLP準拠が求められるものではないことに留意する必要がある。
備考
1:「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」の第一条において、同省令は製造販売承認を必要とする製品に適用されると定められている。
2:「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関するQ&Aについて(平成19年1月22日付け医療機器審査管理室事務連絡)」において、生物学的安全性評価が二次的な目的である歯科材料の使用模擬試験には適用されないことが示されている。
9.動物福祉
試験に動物を用いる際の動物の取扱いについては、「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)」、「厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針(平成27年科発0220第1号)」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号)」及びISO 10993―2などに従い、動物実験の代替法の3Rの原則[1.Replacement(実験動物の置き換え)、2.Reduction(実験動物数の削減)、3.Refinement(実験方法の改善による動物の苦痛の軽減)]に則り動物の福祉1)に努めつつ、適正な動物実験を実施すること。
10.参考情報
1) リスクマネジメントプロセスにおける生物学的評価
医療機器のリスクマネジメントに係る規格であるJIS T 14971(又はISO 14971)には、歯科用を含む医療機器のライフサイクル全体の安全性確保に不可欠な要求事項が示されている。生物学的安全性評価は、その要求事項に従い実施するリスクマネジメントプロセスの一環であり、検証上の重要なプロセスに位置している。リスクマネジメントプロセスの概要、及び評価全般の注意事項は、JIS T 0993―1の附属書B(ISO 10993―1 Annex B)を参照するとよい。
2) 考慮すべき評価項目(表1)及び考慮すべき使用模擬試験(表2)の改正について
本文書は、ISO 10993―1:2018及び対応するJIS T 0993―1並びにISO 7405:2018及び対応するJIS T 6001と整合させる目的で、改正前の表1、表2及び表3を考慮すべき評価項目(表1)と考慮すべき使用模擬試験(表2)として改訂した。物理学的・化学的情報に関する項目は、歯科用を含む医療機器及び構成成分の基本的情報を収集することを指す(5項の1)参照)。このプロセスは生物学的評価の最初のステップとしてISO 10993―1:2009及び対応するJIS T 0993―1:2012においても規定されていたものであって、新たな要求事項ではない。
またJIS T 14971(又はISO 14971)に基づくリスクマネジメントプロセスの下、より詳細に毒性学的影響を評価して、歯科用医療機器の生物学的安全性を確保することが目的であり、表1及び表2に記されたエンドポイント別に独立した試験を実施することを求めるものではない。例えば「埋植」がエンドポイントと記されたカテゴリで、当該歯科用医療機器の臨床適用部位での全身毒性試験又は刺激性試験が行われ、適用部位の病理組織学的検査が適切に実施されている場合には、その試験結果を評価することも可能と考えられる。
3) 生分解性評価
生分解性の材料が使用された歯科用医療機器など、臨床適用時に原材料が体内で分解することが予測される場合には、その過程で発生する化学物質及びその量を検討することが望ましい。ISO 10993―9、ISO 10993―13、ISO 10993―14及びISO 10993―15を参考とし、それらの化学物質の安全性情報の収集に努め、生物学的安全性評価に利用すべきである。また、実施された試験において試験系にそれらの化学物質がばく露されていることを検証することも重要になる。分解の過程でナノ粒子が発生するおそれがある場合にはISO/TR 10993―22を考慮した評価を行うこと。
4) 生殖発生毒性の評価
この評価の推奨される歯科用医療機器のカテゴリは存在しないが、例えば評価対象となる歯科用医療機器の原材料に生殖発生毒性や内分泌かく乱作用を有すると考えられる化学物質が含まれる場合には、評価が必要となる。
5) がん原性(発がん性)の評価
人体に長期的に使用される歯科用を含む医療機器においては、がん原性(発がん性)のリスク評価が必要となる。ISO 10993―3では、医療機器及びその原材料の発がん性の評価方法に関する情報が記述されている。原材料の不純物及び医療機器からの溶出物の化学的同定と、これらの化学物質のばく露量などから、発がんリスクを評価することが基本となる。発がん性の情報2)から、当該医療機器の接触部位(経路)及び接触期間に対して適切なものを選択する。重大な発がんリスクが存在しない医療機器に対し、発がん性試験を実施する必要性は低いと考えられる。最終製品の発がん性試験が必要であると判断される場合には、遺伝子組み換えモデルやOECD 試験ガイドライン 4533)に記述されている慢性全身毒性と腫瘍形成性を評価する試験法が参考になる。
6) 毒性学的リスク評価について
毒性学的リスク評価にはISO 10993―17が参照可能である。当該規格では、医療機器からの溶出が確認された化学物質の毒性学的閾値などの情報を用いてリスク評価する方法が説明されている。2018年11月現在、表題を「Establishment of allowable limits for leachable substances」から「Toxicological risk assessment of medical device constituents」へ変更して、ISO/TC 194/WG 11において改訂作業が進められている。
これに関連して、TTC(Threshold of Toxicological Concern:毒性学的懸念の閾値)の概念が提唱された。TTCとは、製品の主体以外の化学物質で、意図する/しないに関わらず製品に存在する全ての化学物質を対象として、その閾値未満であればヒトへの健康に明らかなリスクを示さないとされるばく露閾値のことである。医薬品不純物の評価及び管理ガイドライン4)、食品における香料及び間接添加物の許容ばく露閾値5,6)の根拠にTTCが用いられている。一方で、医療機器分野ではISO/TS 21726が発行された。
11.参考文献
1) 実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準の解説(2017年10月環境省)
2) International Agency for Research on Cancer(IARC)monograph chemicals
3) OECD Guidelines for the Testing of Chemicals,Section 4:Health Effects Test No. 453(2018):Combined Chronic Toxicity/Carcinogenicity Studies
4) ICH M7“Assessment and Control of DNA Reactive(Mutagenic)Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk”(June 2014)
5) JECFA:Evaluation of Certain Food Additives and Contaminants‐Forty‐fourth report of the Joint FAO/WHO Expert Consultation on Food Additives,1995
6) FDA:Food Additives:Threshold of Regulation for Substances Used in Food Contact Articles;Final Rule,21 CFR Part 170.39
表1 考慮すべき評価項目
歯科用医療 機器のカテゴリ |
接触期間 (累積): A:一時的接触 (24時間以内) B:短・中期的接触 (24時間を超え、30日以内) C:長期的接触 (30日超) |
生物学的安全性評価項目 |
||||||||||||||
物理的・化学的情報 |
細胞毒性 |
遅延型過敏症(感作性) |
刺激性又は皮内反応 |
材料由来の発熱性a |
急性全身毒性b |
亜急性全身毒性b |
亜慢性全身毒性b |
慢性全身毒性b |
埋植b,c |
遺伝毒性d |
がん原性(発がん性)d |
生殖発生毒性d,e |
生分解性f |
|||
非接触機器 |
||||||||||||||||
表面接触機器 |
皮膚 |
A |
要g |
Eh |
E |
E |
||||||||||
B |
要 |
E |
E |
E |
||||||||||||
C |
要 |
E |
E |
E |
||||||||||||
口腔内組織 |
A |
要 |
E |
E |
E |
|||||||||||
B |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
|||||||||
C |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
||||||
損傷表面 |
A |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
|||||||||
B |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
||||||||
C |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
||||
体内と体外とを連結する機器 |
組織/骨/歯質 |
A |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
||||||||
B |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
|||||||
C |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
||||
歯科用体内植込み機器 |
組織/骨 |
A |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
||||||||
B |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
|||||||
C |
要 |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |
E |