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○「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」について

(令和3年3月31日)

(薬生薬審発0331第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

抗悪性腫瘍薬の承認申請の目的で実施される臨床試験の評価については、「「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」の改訂について」(平成17年11月1日付け薬食審査発第1101001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知。以下「旧通知」という。)により取り扱ってきたところです。

今般、近年の抗悪性腫瘍薬の開発・審査を巡る状況の変化に対応するため、新たに、「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」(以下「新ガイドライン」という。)を別添のとおり定めましたので、下記事項を御了知の上、貴管内関係者に対し周知方御配慮願います。

また、新ガイドラインは、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであり、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。

なお、本通知の適用に伴い、旧通知は廃止します。

1.背景

近年、免疫チェックポイント阻害薬や、がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプを対象とした分子標的薬が開発されるようになり、開発早期の臨床試験で臨床的有用性を評価し薬事承認を得る等、従来と異なる考え方で臨床開発が進められている現状を踏まえ、新ガイドラインが定められた。

2.新ガイドラインの要点

近年の抗悪性腫瘍薬の開発・審査を巡る状況の変化を踏まえ、旧通知 別添「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」を見直し、以下の対応を行った。

・ 第Ⅰ相試験では原則入院での患者管理が求められていたが、治験環境の整備を踏まえ、緊急対応可能な環境下での患者管理に変更した。

・ 免疫チェックポイント阻害薬の特性に応じた記載を追記した。

・ がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプを対象とした分子標的薬の特性に応じた記載を追記した。

3.今後の取扱い

医薬品製造販売承認申請に際し、新ガイドラインに基づいて作成された資料を、この通知の通知日より、申請資料に添付することができるものとする。ただし、この通知の通知日前に開始されている試験の結果については、なお従前の例による。

[別添]

抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン

目次

Ⅰ.緒言

Ⅱ.背景

Ⅲ.概要

1.抗悪性腫瘍薬の定義

2.抗悪性腫瘍薬の臨床試験の種類

3.抗悪性腫瘍薬の臨床開発における基本的考え方

4.探索的試験の一般的な考え方

5.検証的試験の一般的な考え方

Ⅳ.探索的試験

1.第Ⅰ相試験

2.第Ⅰ/Ⅱ相試験

3.第Ⅱ相試験

Ⅴ.検証的試験

1.第Ⅲ相試験

2.第Ⅱ/Ⅲ相試験

Ⅵ.希少がん、希少なサブタイプの抗悪性腫瘍の臨床評価

1.基本的事項

2.希少がん

3.希少なサブタイプ

4.マスタープロトコル

Ⅶ.結言

関連ガイドライン・通知

Ⅰ.緒言

本ガイドラインは、抗悪性腫瘍薬の承認のために実施される医薬品の臨床的有用性を検討するための臨床試験(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)第2条で定義される治験)の計画、実施、評価方法等について、現時点で妥当と思われる一般的指針をまとめたものである。実際の臨床試験においては、当該薬剤、対象疾患、臨床状況、科学的知見の蓄積等により、臨床的有用性を評価する方法の妥当性を科学的に判断する必要がある。

Ⅱ.背景

従来の抗悪性腫瘍薬は第Ⅰ相、第Ⅱ相及び第Ⅲ相試験で安全性と有効性が評価され臨床開発されてきた。抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインは平成3年2月に策定されたが、当時は殺細胞性薬が臨床開発の中心であった。その後、抗体薬を含む分子標的薬が開発されるようになり、これに対応するために平成18年4月から新たなガイドラインが適用された。近年では、免疫チェックポイント阻害薬等、免疫系に作用する薬物が新規抗悪性腫瘍薬の開発の大きな部分を占めるようになったが、これらの効果や有害事象は従来の殺細胞性薬、分子標的薬とは異なった特徴を示し、臨床試験の考え方を整理する必要がある。

前回のガイドライン公表後に、特に分子標的薬の開発は大きく変化した。がんの発生等に特に重要なドライバー変異を対象とした薬物が著明な効果を示し、頻度が低い遺伝子異常に基づく機能変化に対する薬物が開発される例もある。これら希少なサブタイプ(Ⅵ項 参照)に対する抗悪性腫瘍薬の臨床開発では、全生存期間等を主要評価指標(エンドポイント)とした検証的位置づけの比較試験の実施は困難なことが多く、第Ⅱ相試験の腫瘍縮小効果を有効性の主要な試験成績として薬事承認される例もある。希少なサブタイプにおける臨床試験は本邦だけで実施することが困難なことが多いため、その薬剤開発は早期臨床試験であっても積極的に国際共同試験として実施することが求められる。

また、希少なサブタイプを同定するためにがん遺伝子検査がゲノム医療として実臨床に導入され、今後も頻度が低い遺伝子異常に基づく腫瘍に対して多くの薬物が開発されるようになると思われる。頻度が低い遺伝子異常では、その遺伝子異常が有する生物学的意義ががん種間で共通である場合には、異なったがん種を対象にした一つの臨床試験で有効性及び安全性を評価し、がん種を限定せず(がん種横断的)に薬事承認される抗悪性腫瘍薬もでてきている。がん種横断的に抗悪性腫瘍薬が薬事承認される場合、有効性のデータが得られていないがん種に対しても当該薬剤が使用可能となるため、それが科学的に妥当かどうか十分に検討するとともに、薬事承認後に得られる知見等に基づき適正使用を進める必要がある。

免疫チェックポイント阻害薬や、がん遺伝子検査に基づいた希少なサブタイプを対象とした分子標的薬が開発されるようになり、開発早期の臨床試験で有効性を評価し薬事承認を得る等、従来と異なる考え方で臨床開発が進められる事例も出現した。今後、この傾向は加速することも予測される。

これらの薬剤開発の変化に対応するため、今般、抗悪性腫瘍薬の臨床評価に関するガイドラインを改定することにした。このガイドラインを活用することで本邦の薬剤開発が促進されることを期待する。特に、国際共同開発が広がる中、海外と同調して薬剤開発を実施し国民が海外と同時期に新薬の恩恵を受けられるようにしなければならない。一方、本邦と欧米では薬物動態や薬力学反応に民族差が存在する可能性もあり、注意が必要である。研究者、規制当局、製薬企業及びがん患者それぞれの意見に配慮した現実的なガイドラインの策定を目指した。

Ⅲ.概要

1.抗悪性腫瘍薬の定義

本ガイドラインが対象とする抗悪性腫瘍薬は、悪性腫瘍の増大・転移及び再発の抑制、これらによる延命・症状やQuality of Life(QOL)の改善等の何らかの臨床的有用性を示して薬事承認を得ようとする薬剤である。抗悪性腫瘍薬には低分子化合物、抗体、細胞療法、ワクチン等、多様なものがあるが、ウイルスを用いた治療やキメラ抗原受容体T細胞(Chimeric antigen receptor T cell、CAR―T)等の再生医療等製品に関しては、医薬品における考え方が参考になるものの、製品の特徴として医薬品と異なった考え方を必要とする部分があるため本ガイドラインの対象とはしない。

2.抗悪性腫瘍薬の臨床試験の種類

従来から、主に①忍容性及び安全性並びに薬物動態を評価し用法・用量を検討する第Ⅰ相試験、②有効性及び安全性を探索的に評価する第Ⅱ相試験、③従来の標準的治療と臨床的有用性を比較する第Ⅲ相試験、と段階的に臨床開発を進めることが一般的である。しかし、近年では薬剤の特徴等により第Ⅰ相試験で拡大コホートを設定し、有効性及び安全性を探索的に評価して第Ⅱ相試験を省略する場合や、第Ⅱ相試験と第Ⅲ相試験を一つの試験として実施する場合もある。いずれにしても忍容性及び安全性並びに薬物動態を評価し推奨用法・用量を決定した後に、有効性及び安全性を探索的に評価し、最終的に従来の標準的治療と臨床的有用性を比較するという方針が基本である。

そこで、本ガイドラインでは、上記①及び②に相当する探索的試験と、③に相当する検証的試験に分けて記載した。

3.抗悪性腫瘍薬の臨床開発における基本的考え方

薬剤の臨床開発においては、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use、ICH)が作成したガイドラインに基づき臨床試験を実施することとされている。ICHE5(「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取り扱いについて」(平成10年8月11日付け医薬発第739号))では外国の臨床試験のデータを受け入れる考え方が示されているが、希少なサブタイプ等を対象とした臨床試験は小規模な試験であっても本邦だけで実施することが困難な場合が多いため、より積極的に国際共同試験の実施を検討すべきである。国際共同試験に際しては、以下についても参考にする。

・ ICH E17(「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則に関するガイドラインについて」(平成30年6月12日付け薬生薬審発0612第1号))

・ 関連通知等(「国際共同治験に関する基本的考え方について」(平成19年9月28日付け薬食審査発第0928010号)

・ 「「国際共同治験に関する基本的考え方(参考事例)」について」(平成24年9月5日付け事務連絡)

・ 「国際共同治験開始前の日本人での第Ⅰ相試験の実施に関する基本的考え方について」(平成26年10月27日付け事務連絡)

薬事承認を目的とした薬剤の臨床試験(治験)では対象患者に対しての臨床的有用性を示す必要がある。臨床的有用性は治療の効果及び有害事象を総合的に評価して判断する。その際、対象としている疾患の病態、他治療の有無、QOL等も考慮するが、エンドポイントを適切に評価可能な試験デザインを採用するべきである。

患者数が多いがん種を対象とした臨床試験では、生存期間の延長等に基づき、確実な有効性を示す必要がある。ただし、遺伝子異常に基づいた希少なサブタイプを対象とする等、科学的根拠に基づいて効果が期待される患者数が著しく少ない場合には、全生存期間に基づく検証的試験の実施が困難であったり相当の期間を要すると判断される場合も想定され、上記の限りではない。

がんは生命に関わる重大な疾患であり、標準的治療でいまだ十分な有効性が得られなかったり、標準的治療を受けた後では有効な治療法が乏しい。治療の選択肢を増やすためにも、令和2年9月から施行された医薬品の条件付き承認制度を利用した開発も考慮する。医薬品の条件付き承認制度を利用する場合等、患者の真のエンドポイント以外の代替エンドポイントに基づき臨床的有用性を評価することになるが、代替エンドポイントは臨床的有用性を合理的に反映するものである必要がある。

医薬品の条件付き承認等を含めて少数例のデータに基づいて承認申請をする場合、有効性及び安全性、並びにその民族差等は製造販売後も適切に評価を継続する必要があることに留意する。薬物動態や薬効に民族差が認められることがあるが、希少なサブタイプに対して薬剤開発をする場合、日本人が少数例しか含まれないデータで薬剤が承認され実地臨床で使用されることも考えられる。その場合、民族差は製造販売後にも評価されることになるが、製造販売後の情報を収集し評価した上で適正使用に必要な情報を医療現場に伝えることが重要である。

免疫系に作用する抗悪性腫瘍薬では、治療開始後数カ月以上経過してから有害事象が認められることや、投薬を終了しても免疫系の賦活状態が持続することがあるため、臨床試験での治療が終了した後も含め長期間に亘る安全性のデータを収集することが重要である。免疫系に作用し得る他の抗悪性腫瘍薬が過去に使用されていたり併用したりする場合には、その影響や相互作用も考慮する必要がある。標準的治療に引き続く維持療法や術後補助療法等、腫瘍量が少ない状態で有効性を評価することが効率的である場合も考えられる。その場合には十分な科学的根拠があり、また、試験デザインにおいても十分倫理性が担保される必要がある。

作用機序や非臨床試験の成績に基づきバイオマーカー(遺伝子異常等)による患者選択が可能である等、高い臨床的有用性が期待される薬剤では、開発の早期であっても既治療患者ではなく一次治療や術後療法の患者で評価する場合も考えられるが、その場合には十分な科学的根拠があり、また、試験デザインにおいて十分に倫理性が担保される必要がある。

開発薬剤の薬物動態学的特性等を十分に把握した上で、特定の背景を有する患者における薬物動態、薬物間相互作用等について、臨床開発全体を通じて検討することが重要である。また、母集団薬物動態解析等に基づき、開発薬物の薬物動態に影響を与える因子を特定することも有用である。可能であれば母集団薬力学解析も実施し、臨床で想定される様々な状況における薬物動態及び薬力学反応をシミュレーションしておくことが望ましい。また、有効性と安全性に関する曝露―反応解析を実施し、用法・用量の妥当性について検討することが望ましい。なお、経口剤の場合は食事の影響を受ける可能性も考え得るので、「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日付け医薬審発第796号)等を参照し、市販用製剤について食事の影響を検討しておく必要がある。食事の影響は第Ⅲ相試験開始までに検討しておくことが望ましい。

がん医療において、患者視点からの指標として患者報告アウトカム等が注目されている。抗悪性腫瘍薬の開発においても、今後、臨床試験のエンドポイントとしての利用可能性も考慮し、情報を収集しておくことが望ましい。さらには抗悪性腫瘍薬に限らず、医薬品は実際の医療現場において評価されることも重要で、リアルワールドのデータの利用も考慮される。また、免疫系に作用する抗悪性腫瘍薬の有効性及び安全性に対し、遺伝子異常等によるがん細胞の性質、遺伝的要因による患者の体質、生活習慣及び環境因子が影響を及ぼす可能性があり、さらにこれらの因子に民族差が存在する場合も想定される。蓄積しつつある科学的知見次第では、これらの因子にも留意した上で薬剤開発を行うことも検討する。

4.探索的試験の一般的な考え方

殺細胞性薬、分子標的薬のいずれであっても有害事象で用量が制限される場合には、用量制限毒性(dose―limiting toxicity、DLT)を明らかにし最大耐量(maximum tolerated dose、MTD)及び推奨用量(recommended dose、RD)を決定する。標的分子が明確で選択性が高い分子標的薬でDLTが観察されない場合には、非臨床試験での薬物動態/薬力学的知見、観察された腫瘍縮小効果、用量反応関係、臨床試験での薬物動態/薬力学的知見等を指標に次相で用いる用法・用量等を決定することになる。腫瘍縮小効果が明らかでなくても腫瘍での生物学的反応等が認められる場合はこれらも参考に用法・用量を決定し、当該用法・用量を用いて有効性を検討することも考えられる。

抗体薬では、臨床試験を開始する前に標的分子の特性、ヒト正常組織での発現等を検討し、ヒトで想定されるリスクを評価しておく。また、抗体薬を含む分子標的薬や免疫系に作用する抗悪性腫瘍薬の探索的試験では、投与前後での薬理学的及び免疫学的解析により臨床開発に有用な情報を得ることができる場合もある。

標準的治療の後では薬理作用の評価が適切に行えない薬物で、有効性が期待され、かつ忍容性が確認された場合には、十分倫理面に配慮した上で標準的治療の前に短期間のみ薬剤を投与し、投与前後の腫瘍検体等において薬力学的評価やバイオマーカーを検索し、その後の臨床開発の参考とすることもある。

バイオマーカーを応用した医薬品開発を行う場合には、当該バイオマーカーを有することで薬剤の治療効果が得られることを科学的根拠に基づき説明する必要がある。また、臨床試験の実施にあたっては、バイオマーカーを検出する検査薬について一定の分析性能が確認されていることが求められる。バイオマーカーにより臨床的有用性が期待される患者集団を特定することも重要だが、臨床試験成績がない段階で臨床的有用性が認められる可能性のある集団を除外してしまわないよう配慮する必要がある。早期臨床試験ではバイオマーカーは探索的に検討されることが多いが、検証的試験においては当該バイオマーカーに対する検査薬について臨床的カットオフ値の妥当性及び臨床的有用性を検討しておくことは重要である。

がんは奏効の定義を満たすほどの自然退縮はまれであるため、単群の臨床試験における腫瘍縮小効果を評価するためのエンドポイントとしては奏効割合が最も適切と考えられる。腫瘍縮小や、無増悪生存期間等、腫瘍の大きさの計測を必要とするエンドポイントの評価においては、評価の時期を治験実施計画書にあらかじめ規定しておき、それを遵守する必要がある。

近年の医薬品開発の国際化により、頻度が低い疾患を対象とした薬剤では第Ⅰ相試験の段階から国際共同試験として実施することも考えられる。その場合は、より迅速で精密な情報共有と、民族差の可能性を考慮した試験デザインが必要である。本邦での忍容性評価を第Ⅱ相又は第Ⅲ相として実施する国際共同試験の一部として行うこともある。

5.検証的試験の一般的な考え方

検証的位置付けの国際共同試験における用法・用量は、原則として参加する全ての民族集団で同一であるべきである。しかしながら、開発早期の試験データにより、ある民族集団で用量―反応や曝露―反応関係が明らかに異なることが示されている場合には、異なる用法・用量を用いることが適切なこともある。この場合、その用法・用量が許容される安全域内で、同様の治療効果をもたらすことが期待されることが前提であり、治験実施計画書においてその用法・用量を用いることが科学的に妥当であるとされている必要がある。また、異なる用法・用量を用いる場合にどのように評価するかについては、個々の事例ごとに事前に慎重に計画し、解析計画に明記すべきである。

生命にかかわる疾患であるがんの場合、全生存期間が患者にとって最も意義あるエンドポイントであるが、病態によっては無増悪生存期間、無病生存期間、QOL等も患者にとって意義ある指標であれば有効性のエンドポイントとなる場合も考えられる。ただし、これらの指標は二重盲検化しなければ評価にバイアスを生じ得るため、バイアスを最小限にするよう計画する必要がある。また、局所の腫瘍による症状を緩和することが患者にとって重要である際にはそのコントロールも有効性のエンドポイントとなる場合も考え得る。今後、微小残存病変(minimal residual disease、MRD)も代替エンドポイントとなる可能性があり、MRDの定義を明確にしてデータを収集することが望ましい。いずれにしても根治不能のがんでは延命効果等で有効性を評価するのが原則である。

バイオマーカーを有するがんに対してがん種横断的に薬剤の有効性を評価する場合、希少なサブタイプでは腫瘍縮小効果とその持続期間で評価が行える場合もあるが、頻度がある程度あるがん種については第Ⅲ相試験を実施し、比較試験で延命効果等を評価することが原則である。今後は患者視点からの指標が重要になることも考えられる。患者自身が治療効果や有害事象を評価する患者報告アウトカムやQOL等を利用した有効性及び安全性の評価を含めることは重要である。

免疫系に作用する抗悪性腫瘍薬は一定の割合で長期生存が期待できる等、従来の抗悪性腫瘍薬とは異なる特徴を示す可能性があることに留意する。また、効果が期待される患者が推察できる試験治療が望ましい。

標準的治療がある病態を対象とした比較試験においてプラセボを対照とすることは、標準的治療への上乗せによる臨床的有用性を検討する場合等を除いて倫理的に許容されない。一方で、標準的治療への上乗せによる臨床的有用性を検証する場合は、可能な限りプラセボを使用し、対照群はプラセボと標準的治療の併用とすることが望ましい。

免疫系に作用する薬物や合成致死を誘導する併用療法等、新規薬剤を用いた併用療法を試験治療とすることも考えられる。この場合は、試験治療のそれぞれの薬剤を併用する意義や相互作用が、それまでの臨床試験等で確認されている必要がある。

患者の負担や有害事象が臨床的に意義ある程度軽減されることが明らかな治療の場合には、ランダム化比較試験において実薬を対照群とした非劣性試験も許容される。

検証的試験では、中間解析を行い十分な有効性が証明できた場合には有効中止、又は有効性が証明できる可能性が極めて低い場合には無効中止とすることがある。その場合は中止する規準をあらかじめ決めておく必要がある。無効中止では無効な治療を受ける患者数を必要最小限にすることができ、有効中止では有用な治験薬を早期に薬事承認することにつながり得る。

中間解析で早期有効中止となった場合には、クロスオーバーを許容して対照群に登録された患者に対して試験治療を行う等、科学的及び倫理的な妥当性を十分に検討する必要がある。中間解析を含め、統計解析の方法は治験開始前に決定し、治験実施計画書に記載する。

Ⅳ.探索的試験

1.第Ⅰ相試験

(1) 目的

第Ⅰ相試験は非臨床試験の成績を基に治験薬を初めてヒトに投与する試験、又はそれに準ずる試験である。非臨床試験で観察された事象に基づき、用量に依存した治験薬の安全性を検討するのが主な目的である。一般に、以下の項目について検討を行う。

a) DLTの有無、MTD及びRDの決定

b) 薬物動態学的検討

c) 治療効果の観察

d) 治療効果を予測するバイオマーカーの探索(分子標的薬等)

(2) 試験担当者及び試験施設

抗悪性腫瘍薬について十分な知識と経験を有する治験担当医師が、非臨床試験成績について十分な知識を有する研究者及び臨床薬理学に精通した研究者と協同して実施することが望ましい。第Ⅰ相試験では予期せぬ毒性が出現するため、試験担当者相互の連絡を密にして試験を安全に実施できるように、単施設又は同等な評価が可能な必要最小限の施設の共同試験とする。

(3) 対象患者

毒性が強い抗悪性腫瘍薬の第Ⅰ相試験では、健康な人ではなく、がん患者を対象とすべきである。また、一般的に認められた標準的治療によって延命や症状緩和が得られる可能性のあるがん患者を対象とすべきではない。非臨床試験や薬理作用等からヒトで問題となる毒性が生じないと予測される薬物の第Ⅰ相試験は健康な人でも実施可能な場合がある。

一律の入院を規定するものではないが、未知及び予想外の有害事象が生じる可能性があるため緊急対応可能な環境で評価することが必要である。十分な安全性の確保が困難な場合は、入院による管理下にて評価する。

対象患者は、以下の条件を満たすものとする。

a) 原則として組織診又は細胞診により悪性腫瘍であることが確認されていること。

b) 治験参加の時点で、通常の治療法では効果が期待できないか、又は学会の診療ガイドライン等で認められた標準的治療がない悪性腫瘍を有する患者であること。標準的治療がある状態で探索的試験を実施する場合には科学的及び倫理的な妥当性を十分に検討する必要がある。ただし、試験の目的、対象としている疾患の病態や薬剤の特性等によっては、必ずしも計測可能な病変を有する必要はない。なお、薬剤の特性や開発目標により将来の臨床試験で特定のがん種を対象とすることが明白な場合にはそのがん種に限定して行うことがある。

c) 十分な生理的な代償機能があり、造血器、心臓、肺、肝、腎等に著しい障害や重篤な合併症のないこと、すなわち治験薬投与時の有害事象を適確に評価し得る臓器機能や全身状態が維持されていること。

d) 前治療の影響がないか、又は治験薬投与時の有害事象を適確に評価し得る程度に軽度であること、すなわち試験開始時点では安定した生理状態にあること。前治療から臨床的に妥当と判断される間隔をあけることが必要とされる。

e) 腫瘍縮小効果と有害事象が観察できるよう、十分な期間(例えば3カ月以上)の生存が期待できること。

f) 薬物動態に影響する合併症等、有害事象の判定を困難にする要因がないこと。

(4) 第Ⅰ相試験のデザイン

a) 投与経路

非臨床試験における成績を基に、予想される第Ⅱ相試験での投与経路及び用法・用量についてそれぞれ検討を行うが、選択した投与経路及び用法・用量について妥当な科学的理由を示す必要がある。なお併用療法においては、薬物動態/薬力学の検討により、組み合わせる薬剤間の相互作用を検討し、その投与時期を決定するために参考とする。

b) 有害事象の評価規準

有害事象は国際的に認知されている有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events、CTCAE)に従い、その内容及び重症度を評価する。

c) 評価指標(エンドポイント)

・ DLTの発現の有無

治験薬と有害事象の関連について評価を行い、因果関係がある、又は否定できないものが副作用である。そのうち用量を制限するものがDLTであるが、DLT(種類、程度及びその頻度)やMTD等の定義とその判断規準については、治験実施計画書においてあらかじめ明確に規定しておく。

分子標的薬の中には連日長期投与するものが多く、この場合DLT相当の毒性が数コース投与後に出現することもある。これらも総合的に評価してRDを最終的に決定することが望ましい。さらに、経口剤等、長期に亘り持続投与される薬剤の場合には毒性も長期間に及ぶため、間欠投与される殺細胞性薬よりも程度が軽くても長期間に及ぶ毒性はDLTとする等、DLT自体も薬物の特性に合わせて定義する必要がある。

・ 薬物動態及び薬物動態/薬力学の評価

用法・用量の決定に必要である。

・ 腫瘍縮小効果

対象とするがん種の絞り込みやバイオマーカーの探索的評価のために行うことがある。

d) 初回投与量の決定

ヒトで初めて行う(First in human)試験での初回投与量及び投与スケジュールは非臨床試験での結果に基づいて設定される必要がある。ICH S9(「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて」(平成22年6月4日付け薬食審査発0604第1号))、「「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」について」(平成24年4月2日付け薬食審査発0402第1号)等を参考とし、原則、げっ歯類で供試動物の10%に重篤な毒性が発現する投与量(severely toxic dose in 10% of animals、STD10)の1/10量又は非げっ歯類で重篤な毒性が発現しない最大投与量(highest non―severely toxic dose、HNSTD)の1/6量に基づいて初回投与量を設定する。また、薬剤の投与経路、特性等に応じて、動物での投与量(mg/kg)を体表面積(mg/m2)に換算した上で、初回投与量を設定することを検討する。

免疫系に作用する薬物のうち、ヒトに対して高い特異性を示す抗体薬では、薬理作用を示す動物種が存在せず、First in human試験の初回投与量の設定が困難な場合も想定されるが、できる限り薬理評価と毒性評価を行っておくことが望ましい。難しい場合は、ヒト細胞を用いたin vitroにおける薬理作用の評価及びヒト組織交差反応性試験等に基づく毒性評価を実施しておくことが望ましい。免疫系に対しアゴニスト作用を有する可能性のある抗体薬については、非臨床試験の結果から予期できない有害作用が発現し得るリスクを考慮し、推定最小薬理作用量(minimally anticipated biologic effect level、MABEL)等の科学的根拠に基づいて初回投与量を設定すべきである。

e) 増量計画と観察期間

一般的に細胞毒性を持つ抗悪性腫瘍薬は有効性の期待できる治療域と中毒域が近接している。このことに十分留意し、治験薬の増量の方法を検討すべきである。一般的な増量法として伝統的方法であるFibonacciの変法を用いた3例コホート法等を用いることもあるが、Bayes流デザイン等、科学の進歩に従って適切なデザインを採用することも可能である。いずれにせよ、治験薬の用量増加は、非臨床試験における用量―毒性曲線の勾配や薬理試験成績等に基づいて慎重に進めるべきである。その際には、用量―曝露―反応曲線の勾配や患者間の不均一性等も考慮し、既承認の類似薬がある場合はその臨床試験や非臨床試験成績等も参考とする。以上を踏まえた上で、投与量はMTDを決定するまで、又は生物学的な効果が得られる用量レベルまで慎重に増量する。

原則としてDLT評価期間に出現する治験薬との因果関係がある、又は否定できない有害事象で増量の可否やMTDの評価を行うが、DLT評価期間以降に出現する有害事象も評価し増量やMTDの評価の変更を行い、最終的にRDを決定する。治験薬が非臨床試験で遅発性の毒性を有していた場合には、その毒性から患者を守るために十分な観察期間を設定する必要がある。

f) 同一患者での増量計画

原則として同一患者での増量は行わない。ただし、以下のような条件を満たす場合、同一患者での増量が可能なこともある。

・ 当該患者で治験薬が忍容可能であり、増量によってさらに高い効果が期待できる。

・ 当該治験薬の他に有効な治療薬がない。

・ 増量して治療を継続することを患者が同意している。

・ 増量する予定の用量で治験薬の忍容性が既に確認されている。

ただし、増量した患者の忍容性は安全性の評価には用いても増量後の用量におけるDLT評価には用いない。

g) 海外において既に臨床成績が示されている治験薬の取扱いについて

海外において信頼できる臨床成績が示されている治験薬で、有効性や安全性、MTD、薬物動態/薬力学等が明らかにされている治験薬の国内における第Ⅰ相試験では、ICH E5ガイドラインに基づきこれらの海外の試験成績を利用して初回投与量、用法及び増量計画を設定することが可能である。ただし、薬物動態/薬力学等の情報の利用可能性について試験開始時より慎重に評価することが必要である。

第Ⅰ相試験において治験薬の薬物動態/薬力学や安全性等に民族差がないことが予見できる場合は、ICH E5ガイドラインに則り、その後の治験を効率よく行うことを検討する。

h) 薬物動態学的検討

試験開始前に、薬物濃度の測定系の確立、活性物質の同定、代謝様式の検討がなされていることが必要である。治験薬のADME(absorption、distribution、metabolism、excretion)に関する諸指標(クリアランス、分布容積、生物学的利用率、血中半減期、代謝産物、血中蛋白結合性等)を評価し、未変化体又は代謝物の蓄積の可能性を検討するとともに、毒性出現との関係、用量―曝露―反応曲線の勾配等についても検討を行い、適切な投与経路、投与量及び投与スケジュールを決めるための参考とする。

i) 薬力学的検討

試験中に採取された血液検体や腫瘍組織検体を用いて、期待された薬理効果(免疫療法においては免疫反応)が得られているかどうかを評価する。

j) RDの決定

DLT、試験全体で観察された有害事象とその頻度、薬物動態、抗腫瘍効果、治療強度等を総合的に勘案して次相の試験で用いるRDを決定する。免疫療法等の一部の抗悪性腫瘍薬では、MTDの考え方に基づくRDの設定が適切ではないことがある。そのような場合、RDの決定には、推定される薬理作用又は免疫反応に基づくバイオマーカーの評価が適している場合もある。

k) 探索的検討

一つの治験実施計画書において、第Ⅰ相試験の増量計画に引き続き、特定のがん種における腫瘍縮小効果の探索的な評価や、当該薬剤の代替用法・用量の評価(他の抗悪性腫瘍薬との併用も含む)等を、拡大コホートとして一つ又は複数のコホートで検討することがある。ただし、特定のがん種における腫瘍縮小効果の探索的な評価を行う場合は第Ⅱ相試験の考え方に準じる。有効性及び安全性を考慮した適切な中止規準を設定する。

2.第Ⅰ/Ⅱ相試験

第Ⅰ相試験においてRDを投与される患者数は限られるため、安全性、薬物動態、治療効果に関する情報が十分に収集できないことがある。第Ⅰ/Ⅱ相試験では、一つの試験において、第Ⅰ相部分としてRDの決定を行い、第Ⅱ相部分として追加の対象患者に対しRDで投与した際の安全性、薬物動態学的検討、治療効果についてデータ収集を行う。

対象患者や試験デザイン等は、第Ⅰ相部分は第Ⅰ相試験に、第Ⅱ相部分は第Ⅱ相試験に準じる。

3.第Ⅱ相試験

(1) 目的

第Ⅰ相試験で決定された用法・用量に従って、対象とするがん種や集団における治験薬の臨床的意義のある治療効果及び安全性を評価し、治験薬を組み入れた新しい治療と既存の標準的治療を比較する第Ⅲ相試験等のさらなる評価を行うべきか判断する。

対照群をおいたランダム化比較試験が実施されることがあるが、第Ⅲ相試験の候補を選択するための非検証的試験デザインである。また、第Ⅰ相試験で検出できなかった頻度の低い副作用や亜急性又は蓄積性に出現する副作用等も含めさらに検討する。

(2) 試験施設

複数又は単一の施設で行う。

(3) 対象患者

対象患者は、原則として、下記の条件を満たすものとする。

a) 組織診又は細胞診により悪性腫瘍であることが確認されていること。

b) 標準的治療に不応、又は標準的治療若しくはそれに相当する治療が存在しない患者。ただし、治験治療によって標準的治療と同等以上の有効性が期待される場合や既存治療との併用が科学的及び倫理的に妥当と判断される場合には、標準的治療未施行の患者も許容される。

c) 適切な生理機能(造血器、心臓、肺、肝、腎等)及び全身状態を有する患者であること。

d) 前治療の影響がないか、又は治験薬投与時の有害事象を適確に評価し得る程度に軽度であること、すなわち試験開始時点では安定した生理状態にあること。前治療から臨床的に妥当と判断される間隔をあけることが必要である。

e) 腫瘍縮小効果と有害事象が観察できるよう、十分な期間(例えば3カ月以上)の生存が期待できること。

f) 重篤な合併症、重複がん、薬物動態に影響する合併症等、効果や有害事象の判定を困難にする要因がないこと。

g) 主要エンドポイントが奏効割合である場合は、腫瘍縮小効果を定量的に測定するために、客観的に測定可能な病変を有するもの。

(4) 評価指標(エンドポイント)

・ 腫瘍縮小効果

第Ⅱ相試験における臨床的意義のある治療効果とは、通常、一定の規準で評価される腫瘍縮小効果を指す。ただし、免疫系に作用する抗悪性腫瘍薬の開発に関しては効果が遅発性に出現する場合もあることから、従来の腫瘍縮小効果のみで評価した場合に真の効果及び毒性を見落とす可能性があることも考慮した上でエンドポイントの設定を検討する。また、奏効期間も臨床的に重要であり、評価する必要がある。

・ 全生存期間、無増悪生存期間

全生存期間等、時間に依存する指標を主要エンドポイントとして有効性を示そうとする場合は対照を置いたランダム化比較試験とする。

・ 有害事象の種類、程度及び頻度

副作用をコントロールするために留意点をまとめた指針を作ることが望ましい。

・ QOL

第Ⅲ相試験でQOLを評価することを計画している場合は、ランダム化第Ⅱ相試験においてもQOLを評価し、第Ⅲ相試験のデザインの参考とすることも考慮する。

・ バイオマーカー

分子標的薬等において、治療効果を予測するバイオマーカーのさらなる検索を行う。

・ 薬物動態、曝露―反応関係(有効性、安全性)の検討

ADME特性より特定されたリスク要因に基づき、各集団における安全性を検討する。曝露と有効性指標、曝露と安全性指標の関係を評価し、用法・用量ごとにその妥当性について検討する。

第Ⅰ相試験で薬物動態と特定の副作用との関連性が示唆されるものについては、第Ⅱ相試験でもさらに検討し評価する。また、サイトカイン放出症候群を含む免疫関連有害事象(immune―related adverse event、irAE)を誘発する可能性のある薬剤では、その有無と程度、対処法の検討も行う。

(5) 対象疾患の選定と患者数の設定

第Ⅰ相試験で効果が認められた腫瘍、既存の抗悪性腫瘍薬との類似点やヒトがん細胞及びそれに由来する培養株等を用いた薬効薬理試験の結果等に基づいて、効果が期待できると考えられるがん種を対象に試験を行う。

どの程度の有効性を持つ抗悪性腫瘍薬を求めているのかを明らかにし、奏効割合を主要エンドポイントとする場合は、目標とする期待奏効割合を定める。目標とする期待奏効割合は、既治療薬との関連(交差耐性等)を考慮して慎重に設定する。許容できる閾値奏効割合以上の効果が示されなければ有用な抗悪性腫瘍薬としては認められないと判断される。閾値奏効割合及び期待奏効割合は、がん種、対象となる患者等によって異なるため、それぞれの設定根拠を科学的に明確にすることが必須である。

治療効果を評価するために科学的に十分な精度の評価が可能となる患者数を統計学的な推論に基づいて設定する。

期待する効果のない治験薬では治験を早期に中止できるよう、十分に倫理面を配慮した試験計画を立案すべきである。

(6) 用法・用量

第Ⅰ相試験の結果から適切と判断した用法・用量及び投与期間に基づいて試験を開始する。特に薬物動態に関与する臓器の状態とその影響を十分に考慮する。治験薬の安全性及び有効性の評価に支障を来す薬剤、治験薬と相互作用を示す可能性のある薬剤の併用は原則として行わない。

さらに、適切な用法・用量を決定するためには、候補となる複数の用法・用量を検討する試験を行うこともある。

(7) 統計解析

奏効割合を主要エンドポイントとする場合、明確に規定された対象患者で奏効割合を推定し、算出された推定値の精度(信頼区間等)を算出する。その際には、治験薬の投与の有無によらない全適格例、又は適切な場合には治験薬の投与を受けた適格患者を対象とし、奏効割合を算出する。

(8) 効果判定規準

固形がんではRECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)による効果判定規準等が標準である。個々の患者の効果判定は、独立効果判定委員会等の第三者組織の確認を受けることが望ましい。なお、科学の進歩に応じて、その治験薬により適切な規準を使用する。たとえば、免疫療法特有の作用機序により、遅発性の効果発現が想定される場合がある。その効果発現パターンを考慮した効果判定規準も提唱されており、将来このような免疫療法特有の評価方法について、後方視的に検証できるように評価しておくことも考えられる。

腫瘍が増悪した場合は治療を終了することが原則である。しかし、免疫系に作用する薬物等、遅発性の効果が想定される治療では偽増悪(pseudoprogression)や緩徐な腫瘍増大、新病変出現等により治療を直ちに終了することが適切でない場合がある。そのような場合には治療継続を許容する条件、治療を終了する規準をあらかじめ明確にしておく必要がある。探索的試験ではこれを考慮した増悪までの期間を主要エンドポイントとすることも想定されるが、その場合でもエンドポイントの定義を明確にしておく必要がある。

(9) 有害事象の評価規準

有害事象は国際的に認知されている規準(CTCAE等)を用いて、その内容及び重症度を評価する。なお、有害事象と治験薬との関連性について評価しなければならない。有害事象のうち、治験薬との因果関係がある、又は否定できないものを副作用とする。免疫療法におけるirAEにおいては遅発性、又は治療終了後に発生する可能性を考慮した評価期間の設定が望ましい。

観察項目には、各種の一般臨床検査、及び第Ⅱ相試験の計画時までに判明した当該治験薬に特有と思われる検査項目を含める。

Ⅴ.検証的試験

1.第Ⅲ相試験

(1) 目的

第Ⅲ相試験は、より優れた標準的治療を確立するために行う臨床試験である。安全性、腫瘍縮小効果、症状緩和効果等、何らかの臨床的有用性が示唆された新しい薬剤や治療法、薬剤の新しい使い方等の試験治療を、現在の標準的治療と比較する試験である。

この比較試験では、試験治療の臨床的有用性が明確に検証できるよう試験を計画しなければならない。従って、第Ⅲ相試験では全生存期間等の、臨床的有用性を直接反映する項目を主要エンドポイントとする。他のエンドポイントとして症状緩和やQOLの改善等があるが、十分に妥当性が確認された評価方法を用いる必要がある。

第Ⅲ相試験では明確に規定された患者集団において重要な予後因子等を考慮した適切な割付を行い、適切なデータ管理を実施して試験を遂行する必要がある。特に国際共同試験では、民族差に関する重要な要因を計画時に特定しておくことが重要であり、治療効果に与える影響を後になっても評価できるように、検証的試験においてもそれらの情報を収集すべきである。

(2) 試験施設

一般に複数の施設で行う。

(3) 対象患者

対象患者は、原則として、以下の条件を満たすものとする。

a) 組織診又は細胞診により特定の悪性腫瘍であることが確認されていること。

b) 既治療例を対象とする場合には、前治療に関する一定の規準を満たすこと。

c) 適切な生理機能(造血器、心臓、肺、肝、腎等)及び全身状態を有する患者であること。

d) 治療効果を検証できるよう、十分な期間の生存が期待できること。

e) 重篤な合併症、重複がん、薬物動態に影響する合併症等、効果の判定を困難にする要因がないこと。

(4) 評価指標(エンドポイント)

標準的なエンドポイントは生存に関する指標であり、全生存期間がその代表である。非常に予後のよい集団を対象とする場合、全生存期間を主要エンドポイントとすると多くの患者登録や長期の追跡が必要となること等から、無増悪生存期間や無病生存期間等を主要エンドポイントとする場合がある。

無増悪生存期間、無病生存期間等を主要エンドポイントとする場合は、独立効果判定委員会等の第三者組織の確認を受けることが望ましい。免疫療法では偽増悪や遅発性の効果発現が想定されるため、免疫療法特有の評価方法について後に検証できるよう探索的エンドポイント等として評価することが望ましい。

(5) 対象疾患の選定と試験計画

第Ⅱ相試験で有効性及び安全性が確認された場合には、その対象とした腫瘍に対して試験治療の臨床的有用性を全生存期間等のエンドポイントを用いて適切な対照群と比較検討する。

第Ⅲ相試験では、患者を試験治療群と対照群にランダムに割付け、薬剤等の特性に応じて適切かつ可能ならば二重盲検法を採用する。

(6) 対照群の設定

対照群は対象とする腫瘍の標準的治療である。対象とする腫瘍、患者の状態、治験薬の特性等によって、対症療法、標準的な薬物療法等が対照となる。これらには医学的、科学的、倫理的な妥当性が必要である。

確立した治療がある疾患を対象とする場合、標準的治療に併用する場合を除いて、プラセボを対照とすることは倫理的に許容されない。標準的治療に併用する場合は、併用する科学的論拠が明確であるか、それを支持する根拠がそれまでの臨床試験等で示されている必要がある。標準的治療が無効となった疾患を対象とする場合はプラセボを対照とすることを考慮する。

対照とする治療は必ずしも単一である必要はない。国際共同試験では標準的治療が地域によって異なることがある。また、過去の治療歴や病態により異なる治療を対照とすることも考えられる。異なる治療を対照とする場合には、治療間で有効性及び安全性に明確な差異がないことが前提であり、また、評価のタイミングが異なると無増悪生存期間等、時間に依存するエンドポイントの評価に影響を与えるため、可能な限り治療サイクルが同じものを対照とすることが望ましい。

(7) 統計解析

生存期間等の主要エンドポイントでの統計解析では、頑健性のある適切な解析法を用いる。試験治療の対照群に対する優越性や非劣性を検証できるように、過去の対照群の治療成績と試験治療で期待される治療成績に基づいた上で、適切な検出力と有意水準を設定して目標患者数を決定する。治療効果に影響を及ぼすと考えられる予後因子は、ランダム化の段階で調整されるべきである。万が一、不均一になった場合、又は試験中に新たに重要と考えられる予後因子が判明した場合には、適切な統計解析法を適用し主要解析結果の頑健性を検討すべきである。

(8) 有害事象の評価規準

有害事象の評価規準は国際的に認知されている規準(CTCAE等)を用い、その規準に従い有害事象の内容及び重症度を評価する。免疫療法におけるirAEにおいては遅発性、又は治療終了後に発生する可能性を考慮した評価期間の設定が望ましい。

2.第Ⅱ/Ⅲ相試験

特定のがん種に対する有効性、安全性を評価するための探索的試験である第Ⅱ相試験に引き続き、標準的治療法を確立するために行われる検証試験である第Ⅲ相試験を一連の試験として行うこともある。第Ⅱ相部分において有効性及び安全性を解析し、第Ⅲ相部分に移行することの妥当性について検討する。第Ⅲ相部分の用法・用量は、第Ⅱ相部分の有効性及び安全性の成績を踏まえ決定する。

Ⅵ.希少がん、希少なサブタイプに対する抗悪性腫瘍薬の臨床評価

1.基本的事項

希少がんと希少なサブタイプは、異なる疾患群である。希少がんは数が少なく、そのため診療及び受療上の課題が他のがんに比べて大きい疾患群とされる。希少なサブタイプは、明確な定義はないものの、臨床病理学的に定義された(比較的頻度が高い)がんのうち、非常に少ない患者のみに特徴的かつ生物学的に意義のある遺伝子異常(融合遺伝子、突然変異、遺伝子増幅等)が共通に認められる疾患群とされる。治療対象が「希少なサブタイプ」に該当するかどうかは、その推定罹患率のみで一律に規定するのではなく総合的に判断することが望ましい。なお、「希少がん」は罹患率によって定義されるので、特定の遺伝子異常等を有するがんを論ずる場合には「希少なサブタイプ」という用語を用いる。

患者数が極めて少ない希少がん又は希少なサブタイプを対象とした薬剤においては、検証的位置付けの比較試験の実施は困難であり、単群の第Ⅱ相試験で評価する場合も考えられる。その場合には、ヒストリカルデータと比較した上で臨床的有用性を説明することが重要であり、必要に応じて、疾患レジストリ等のデータの利用も考えられる。ヒストリカルデータを利用する際にはその信頼性と臨床的妥当性に注意が必要である。がんは自然退縮がまれであることを考えると、腫瘍縮小は抗悪性腫瘍薬の薬理活性を反映していると考えられ、腫瘍縮小(奏効割合)を主要エンドポイントとすることが原則となる。その場合、独立した第三者組織により腫瘍縮小を評価することが必要である。また、腫瘍縮小が長期間得られることは患者のメリットにつながると考えられるため、長期間持続する腫瘍縮小を患者数が少ない疾患に対する単群試験で評価することは妥当と考えられる。また、奏効割合だけでなく、腫瘍縮小の程度、完全奏効割合及び奏効期間を評価することも必要である。また、全生存期間及び無増悪生存期間を評価することも重要である。

奏効割合は低くても全生存期間又は無増悪生存期間を延長する薬剤や、腫瘍縮小の評価が難しい腫瘍もある。患者数が少ない疾患を対象としてこのような薬剤開発をする場合の評価方法は今後の課題であり、エンドポイントは薬物の作用機序や疾患の病態等を考慮して適切に選択する必要がある。

2.希少がん

希少性から考えて、患者集積に時間を要する可能性が高いこと、比較試験が難しい場合があること等を鑑みて、適切なエンドポイントを選択する。国際共同試験も推奨されるが、本邦からも一定の患者数の登録が必要である。比較試験の実施が困難な希少がんに対しては単群の臨床試験で評価しヒストリカルデータと比較することも考慮するが、腫瘍縮小(奏効割合)の他に全生存期間及び無増悪生存期間等も可能な限りエンドポイントに加える。製造販売後に質が高く適切で妥当なデータを収集する必要がある。

3.希少なサブタイプ

一般的な臨床試験では、単一のがん種、単一の薬剤で評価が行われているが、希少なサブタイプの場合、単一の治験実施計画書(プロトコル)で複数の薬剤又は複数のがん種に関して並行して評価するマスタープロトコルによる試験デザインを用いることもあり得る。種々の試験デザインによる国際共同試験も推奨されるが、本邦からも一定の患者数の登録が必要である。

腫瘍縮小(奏効割合)を主要エンドポイントとして設定することは可能である。また、その場合、全生存期間、無増悪生存期間、奏効期間等も可能な限り副次的エンドポイントに設定する。バイオマーカーを用いたProof of Conceptの検討を実施することが望ましい。薬物の作用機序や非臨床試験の成績に基づき有効性との関連性が示唆されたバイオマーカーがある場合は、バイオマーカーを検出するためのコンパニオン診断薬も臨床試験で評価する必要がある。遺伝子変異等のバイオマーカーの検出には、原則として一定の分析性能(真度、精度等)を有することが確認された検査薬を使用する。

異なったがん種でも当該の遺伝子異常が有する生物学的意義が共通である場合にはそれをバイオマーカーとして、がん種横断的に一つの臨床試験で有効性及び安全性を評価することも考えられる。バイオマーカーで対象を規定する場合は、それが科学的に妥当であり明確に規定される必要がある。また、開発方針について事前に規制当局と相談しておくことが望まれる。バイオマーカーに基づいてがん種横断的な効能効果で承認申請を行う薬剤においては、治験において使用経験のないがん種を含め、製造販売後に質が高く適切で妥当なデータを収集する必要がある。

4.マスタープロトコル

(1) 基本的事項

マスタープロトコルは単一のプロトコルで複数の薬剤又は複数のがん種を対象として並行して評価する試験デザインの一つであり、各々の薬剤又はがん種に対する新しいプロトコルを立案する必要がなく、希少がん、希少なサブタイプに対する抗悪性腫瘍薬の開発を促進できるものと期待されている。マスタープロトコルには、バスケット試験、アンブレラ試験、プラットフォーム試験等の試験デザインが用いられ、単一の臨床試験、単一のプロトコルを用いて、柔軟性を保ちつつ複数の薬剤又はがん種を同時に評価する。評価対象となる薬剤は、原則としてRDが明らかになっているものを用いる。

(2) バスケット試験

単一の治療法を用いた複数の疾患を対象とした試験であり、特定の遺伝子異常等を有するがんの患者集団で複数のがん種横断的に薬剤の臨床評価を実施する。バスケット試験の基本的特徴は探索的な位置付けであり、奏効割合を主要エンドポイントとした単群試験が基本となる。

(3) アンブレラ試験

単一の疾患に対する複数の治療法を対象とした試験であり、様々な分子学的異常(遺伝子変異等)又は組織型を有する一つのがん種に対して臨床評価を実施する。それぞれのサブ試験(副試験)において、分子学的に定義されたサブタイプに対して遺伝子異常等に応じた薬剤の臨床評価を実施する。

(4) プラットフォーム試験

単一の疾患に対する複数の治療法を対象とした継続的な試験であり、事前に規定されたアルゴリズムに基づき試験中に新たな薬剤又は対象患者の追加や削除が許容される試験である。新たな薬剤又は対象患者の追加や削除を柔軟に行うことができるため、効率的に検証的試験に移行できる反面、大規模化又は長期化した試験構造になることもあり、試験のマネジメント上の負荷が大きくなることが課題である。

Ⅶ.結言

本ガイドラインは日本医療研究開発機構医薬品等規制調和・評価研究事業の研究費の補助を受けて作成され公表されたものである。今後も科学の進歩により抗悪性腫瘍薬の臨床開発も変化することが予想される。本ガイドラインも科学の進歩に応じて改定されることが望まれる。

関連ガイドライン・通知

ICH E5(「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取り扱いについて」(平成10年8月11日付け医薬発第739号)

ICH E17(「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則に関するガイドラインについて」(平成30年6月12日付け薬生薬審発0612第1号))

ICH S9(「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて」(平成22年6月4日付け薬食審査発0604第1号))

「国際共同治験に関する基本的考え方について」(平成19年9月28日付け薬食審査発第0928010号)

「国際共同治験に関する基本的考え方(参考事例)について」(平成24年9月5日付け事務連絡)

「国際共同治験開始前の日本人での第Ⅰ相試験の実施に関する基本的考え方について」(平成26年10月27日付け事務連絡)

「国際共同治験の計画及びデザインに関する一般原則に関するガイドラインについて」(平成30年6月12日付け薬生薬審発0612第1号)

「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日付け医薬審発第796号)

「「医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス」について」(平成24年4月2日付け薬食審査発0402第1号)

「「母集団薬物動態/薬力学解析ガイドライン」について」(令和元年5月15日付け薬生薬審発0515第1号)