添付一覧
○「小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン」について
(令和3年3月30日)
(薬生薬審発0330第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
医薬品規制調和国際会議(以下「ICH」という。)が組織され、品質、安全性及び有効性の各分野で、ハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われているところです。
今般、小児用医薬品の開発における非臨床安全性評価のためのアプローチに関し、ICHにおける合意事項として、新たに「小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン」を別添のとおり定めましたので、下記事項を御了知の上、貴管内関係業者等に対し周知方御配慮願います。
なお、この通知の適用に伴い、「「小児用医薬品のための幼若動物を用いた非臨床安全性試験ガイドライン」について」(平成24年10月2日付け薬食審査発1002第5号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)は廃止します。
記
1.背景
小児用医薬品の開発のために推奨される非臨床安全性評価について現在の推奨事項を明らかにし、各地域間に存在する実質的な評価の相違を減らし、国際的な調和を図ることを目的に、ICHにおける合意に基づき、近年の科学の進歩及び経験を踏まえて、「小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)が定められた。
2.本ガイドラインの要点
本ガイドラインは、小児用医薬品の開発のために推奨される非臨床安全性評価について現在の推奨事項を示したものであり、既存のICHガイドライン(例えばICH E11、M3、S5、S9)を補完させつつ発展させたものである。本ガイドラインにおいては、基本的な考え方(一般原則、追加の非臨床試験に関する考慮事項、幼若動物試験のデザイン、小児先行開発・小児のみの開発に関する考慮事項等)をガイドライン本文に、各動物種における齢区分別の器官系の発達の概要等を附属書に掲載した。これには既に成人で使用されている医薬品も、小児において初めてヒトに投与される医薬品も含まれる。
3.今後の取り扱い
医薬品製造販売承認申請に際し、本ガイドラインに基づいて作成された資料を、この通知の通知日より、申請資料に添付することができるものとする。ただし、この通知の通知日前に開始されている試験の結果については、引き続き、当該試験の結果に関する資料を医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき毒性に関する資料とすることができる。
[別添]
小児用医薬品開発の非臨床安全性試験ガイドライン
目次
1.緒言
1.1 ガイドラインの目的
1.2 背景
1.3 適用範囲
1.4 一般原則
2.追加の非臨床安全性試験に関する考慮事項
2.1 臨床的背景
2.2 ウエイトオブエビデンス(WoE)アプローチ
2.3 WoE評価に必要な考慮事項
2.3.1 臨床情報(WoE要素:対象患者集団の最低年齢、既存データの量/種類、臨床投与期間)
2.3.2 薬理学的特性(WoE要素:発達中の器官系に対する影響、薬理学的標的の器官発達への影響、薬物の選択性や特異性)
2.3.3 薬物動態データ(WoE要素:既存データの量/種類)
2.3.4 非臨床安全性データ(WoE要素:発達中の器官系に対する影響、既存データの量/種類)
2.3.5 実施可能性
2.4 WoE評価の適用及び結果
3.幼若動物試験のデザイン
3.1 一般的考慮事項/試験の目的
3.2 用量設定試験
3.3 動物種の選択
3.4 動物の投与開始時期、投与期間、投与計画
3.5 休薬期間における評価
3.6 投与経路
3.7 投与量の選択
3.8 エンドポイント
3.8.1 主要エンドポイント
3.8.1.1 生死及び一般状態観察
3.8.1.2 成長
3.8.1.3 摂餌量
3.8.1.4 性成熟
3.8.1.5 臨床病理学的検査
3.8.1.6 病理学的検査
3.8.2 特定の懸念に対応するための追加エンドポイント
3.8.2.1 成長に関する他のエンドポイント
3.8.2.2 骨の評価
3.8.2.3 臨床病理学的検査
3.8.2.4 病理学的検査
3.8.2.5 眼科学的検査
3.8.2.6 中枢神経系(CNS)に関する評価
3.8.2.7 生殖器系に関する評価
3.8.2.8 免疫系に関する評価
3.9 試験群及びエンドポイントのサブセットへの動物の割付け方法
3.9.1 離乳前の割付け方法
3.9.2 離乳後の割付け方法
3.10 動物数と性別
4 小児先行開発/小児のみの開発に関する考慮事項
5 データの解釈
5.1 エンドポイントの解釈のための考慮事項
5.2 総合的な解釈
6 その他の考慮事項
6.1 添加剤
6.2 配合剤
用語
参考文献
別紙A:各動物種における齢区分別の器官系の発達の概要
別紙B:WoE評価のケーススタディ
別紙C:げっ歯類における離乳前の同腹児の割付け方法
略語一覧
ADME Absorption, Distribution, Metabolism, and Excretion 吸収、分布、代謝及び排泄等の薬物動態
CNS Central Nervous System 中枢神経系
CYP Cytochromes P450 チトクロームP450
DRF Dose Range―Finding 用量設定
ePPND Enhanced Pre― and Postnatal Development ePPND
FIH First in Human ヒト初回投与
FOB Functional Observational Battery 機能観察総合評価法
GABA Gamma Aminobutyric Acid γ―アミノ酪酸
GFR Glomerular Filtration Rate 糸球体濾過量
GI Gastrointestinal 消化器
HPG Human Pituitary Gonadotropin ヒト下垂体性ゴナドトロピン
ICH International Council on Harmonisation 日米EU医薬品規制調和国際会議
JAS Juvenile Animal Study 幼若動物試験
NHP Non―Human Primate ヒト以外の霊長類
NOAEL No Observed Adverse Effect Level 無毒性量
PND Postnatal Day 生後日齢
PPND Pre― and Postnatal Development 出生前及び出生後の発生並びに母体の機能
PK Pharmacokinetics 薬物動態
PD Pharmacodynamics 薬力学
TDAR T―Cell―Dependent Antibody Response T細胞依存性抗体産生
TK Toxicokinetic トキシコキネティクス
WoE Weight of Evidence ウエイトオブエビデンス
1.緒言
1.1 ガイドラインの目的
本文書の目的は、小児用医薬品の開発のために推奨される非臨床安全性評価についての国際的な基準を推奨し、そのハーモナイゼーションを促進することである。これによって、現在の推奨事項を明らかにし、各地域間に存在する実質的な相違を減らすことが期待される。また、小児臨床試験の適切なタイミングでの実施を促進するとともに、3R(代替法の利用/使用動物数の削減/苦痛の軽減)の原則に従って動物の使用を抑えることが期待される。
1.2 背景
これまでに各規制当局から発出されたガイドラインにおいては、幼若動物試験(JAS)の有用性、実施時期、試験デザインについて完全には一致していない。
本ガイドラインは既存のICHガイドライン(例えば、ICH E11、M3、S5、S9)を補完かつ発展させたものであり、規制当局や医薬品業界の調査事例、文献調査に基づき最新の考え方を反映させたものである。
1.3 適用範囲
本ガイドラインは、小児集団を対象とした医薬品開発における非臨床安全性評価のためのアプローチを推奨しているが、これには既に成人で使用されている医薬品も、小児において初めてヒトに投与される医薬品も含まれる(4章参照)。
ICH S9の適用範囲に含まれる医薬品、すなわち抗悪性腫瘍薬に対するJAS実施の要否についてはICH S9を参照すべきである。腫瘍を適用症とする場合でJASを実施する場合を含めた全ての場合のJASの試験デザインについては、本ガイドラインを参照すべきである。
低分子の医薬品やICH S6で規定されるバイオテクノロジー応用医薬品については本ガイドラインが適用される。細胞加工製品、遺伝子治療用製品、ワクチンについては、幼若動物を用いる安全性試験は通常必要とされないことから、本ガイドラインの適用範囲には含まれないが、本ガイドライン中で説明されている、既存情報を用い安全性を評価する考え方は参考になる。
1.4 一般原則
複数の器官系が急激に成長又は発達する期間に医薬品の投与を受ける小児患者は、成人とは明確に異なる集団と見なされる。器官系が未成熟な時期や成熟の過程に薬物が投与されると、医薬品の薬物動態(PK)、薬力学(PD)やオフターゲット作用へ影響を及ぼし、小児の年齢層間(ICH E11参照)や小児と成人との比較において、安全性や有効性のプロファイルに差異が生じる可能性がある。
適切かつ効率的な非臨床試験を計画するためには、臨床開発計画全体への理解が必要である。小児集団での臨床試験をサポートする追加の非臨床試験が必要とされるか否かの決定は、ウエイトオブエビデンス(WoE)に基づき検討すべきである(第2章参照)。臨床開発が進んだ場合には、その時点で利用できる全ての情報を踏まえ、WoEによる決定を再検討できる。同一の医薬品であっても異なる適応においては、小児の年齢層、適応症、投与期間によってWoE評価の結果が異なる可能性がある。なお、ICH M3に記載されているように幼若動物を用いる毒性試験は、一般的に小児集団での短期間の薬物動態試験のためには重要でないと考えられる。
小児用医薬品開発のための非臨床開発については早期に検討することが推奨される。従来の試験デザインや試験実施時期を変更することで、小児患者に対する安全性上の懸念に対応できる可能性がある。例えば、小児患者の発達段階に相当する情報を得るため、反復投与毒性試験において投与をより若齢から開始することが可能である。また、出生児のトキシコキネティクス(TK)測定や追加のエンドポイントを加え、出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する(PPND)試験を通常の医薬品開発における実施時期より早期に実施することも考えられる(ICH M3、S6参照)。これらの変更により、JASの代替とすることや、JASの試験デザインをより洗練させることが可能となろう。
非臨床及び臨床に関する既存の情報が小児臨床試験をサポートするために不十分と判断された場合にのみ追加の非臨床試験の実施を考慮すべきである。長期間の安全性への影響を含め、他の非臨床試験や小児臨床試験において適切な対応ができない懸念に対応できるようJASはデザインされる必要がある。本ガイドラインでは、主要エンドポイントと特定の懸念に対応するための追加エンドポイントを含むようにカスタマイズされたJASを推奨する。
一部の規制当局は、小児開発計画を明確にするための枠組みを定めている(ICH E11参照)。小児用医薬品の効率的な開発のために、JASを開始する前の早期から規制当局と相談することは有用であろう。
2.追加の非臨床安全性試験に関する考慮事項
2.1 臨床的背景
小児用医薬品の臨床開発計画についてはICH E11で論じられており、適切な非臨床試験を計画するためには、あらかじめ臨床開発計画を理解しておく必要がある。小児臨床試験計画は、適応症/病態、対象となる小児の年齢層、治療レジメン(特に発達段階における投与期間)を含め考える必要がある。小児用医薬品の臨床開発は成人の臨床試験の後に通常行われるが、成人の臨床試験と同時又は成人の臨床試験を実施せずに行うこともある。追加の非臨床安全性試験が有用であるか、その試験デザイン及び実施時期は、それまでに特定された安全性上の懸念及び小児における臨床使用方法に依存する。
小児集団に対して身体機能を著しく損なう又は生命を脅かす疾患、あるいは強いアンメット・メディカル・ニーズが存在する疾患の場合には、医薬品開発者及び規制当局は、追加の非臨床試験データを取得することの有用性と、追加の非臨床試験実施により医薬品を患者へ提供することが遅れる可能性を考慮すべきである。非臨床試験の実施及びその実施時期については十分なリスク・ベネフィット評価に基づき決定されるべきである。このような疾患においては、新たな情報として安全性上の懸念が見出されたときは、適切な非臨床試験の実施を検討すべきであり、進行中の小児臨床試験と並行して行うことも考えられる。
2.2 ウエイトオブエビデンス(WoE)アプローチ
小児用医薬品の非臨床開発計画は、臨床的背景に加え、薬理、薬物動態、in vitro及びin vivoの非臨床安全性データ並びに臨床(成人及び小児)での安全性データを含む総合的な評価、すなわち、WoEアプローチに依存する。WoEアプローチは複数の評価すべき要素を同時に検討する手法であり、単一の要素のみを取り出して検討すべきではない。各要素の重要性は、利用可能な情報から対象小児集団における安全性上の懸念に対して適切に対応できるか、又は、追加の非臨床試験がこれらの懸念に対応できるかについて最終的な結論を出せるように、考慮されるべきである。また、幼若動物試験から得られるデータのヒトへの外挿性や生物学的意義も考慮すべきである。
WoE評価は小児用医薬品開発の最初の計画段階で行うべきであるが、非臨床試験や臨床試験において新たな安全性上の事象が認められた場合や、年齢層、投与経路、投与期間、製剤処方又は適応に変更がある場合には再度評価を行うべきである。WoE評価の結果は、対象小児集団や対象疾患により各臨床試験で異なる可能性がある。
WoE評価の一部として考慮すべき重要な要素を図1に示す。なお、個々の要素は図1の左に示す。最も重要な要素、すなわち、最も重く重み付けされる要素は、対象患者集団の最低年齢及び発達中の器官系において有害事象が生じる疑いがあるか否かである。なお、その他の要素は図1では重要度順に示されてはいない。追加で考慮すべき要素(例えば、リスクの低減化)もあり得るように、下記の図に示す要素は全ての場合にあてはまる包括的なものではない。WoEの要素については以下の章でさらに述べる。
図1:追加の非臨床試験の要否を決定するためのWoE評価の主な要素。重く重み付けされるべき最も重要な要素(リスト1行目及び2行目)は、対象患者集団の最低年齢及び発達中の器官系において有害事象が生じる疑いがあるか否かであり、その他の要素については重要度順に示していない。
2.3 WoE評価に必要な考慮事項
2.3.1 臨床情報(WoE要素:対象患者集団の最低年齢、既存データの量/種類、臨床投与期間)
対象患者集団の最低年齢は考慮すべき最も重要な要素の一つである。ICH E11に述べられているように小児集団を年齢層に区分することはある程度恣意的ではあるが、図1に示すような年齢層に区分することは、区分毎の患者の安全性をサポートするための非臨床試験について考える上での基礎となる。どのように年齢を層別するかについては発生生物学的な観点に基づき決定されるべきである。対象年齢層が低くなるほど追加の非臨床試験がより必要となる可能性がある。
対象小児患者に関連する既存の臨床データは、その医薬品に曝露された他の小児集団(利用できる場合)や成人からのデータである。したがって、臨床で確立された安全性プロファイルは、通常、追加の非臨床試験が必要か否か決定する際に最初に考慮すべきポイントの一つとなる。
臨床試験の投与期間も追加の非臨床試験が必要とされるかどうかの決定に関わる要素である。小児被験者への投与期間が長ければ長いほど(例えば、3ヵ月、6ヵ月、慢性間歇投与)発達上の感受期で曝露される可能性が高まり、短期投与と比べ追加の非臨床試験がより必要となる可能性がある。医薬品の短期間の使用が発達及び成長に影響する可能性は低いと考えられるが、短期間の曝露であっても、それが器官系の発達に対する感受期にあたる場合には悪影響を引き起こす可能性がある。
既存の臨床での安全性データ及びリスク低減化策が小児での使用を十分にサポートしていると考えられる場合には、追加の非臨床試験は必要とされない。また、毒性に対する感受性が成人と小児で異なると想定されない標的器官では、その毒性を確認するためにJASの実施は必要とされない。標的組織やオフターゲット組織の発達の相違は、考慮すべき懸念である。
成人のデータが利用でき、器官系発達に対する感受期に曝露されない場合には、JASは小児患者において短期間の薬物動態試験を開始するために重要でないと考えられる(ICH M3参照)。
2.3.2 薬理学的特性(WoE要素:発達中の器官系に対する影響、薬理学的標的の器官発達への影響、薬物の選択性や特異性)
医薬品の主又は副次的な薬理作用が望ましくない副作用の原因となることがある。発達中の器官(系)で作用が現れる場合、又は、発達中の器官が成熟した器官と異なる感受性をもつ場合には、その医薬品を小児に用いることに懸念が生じる場合がある。医薬品の標的(例えば、受容体、酵素、イオンチャネル、タンパク質)の発達過程での発現、個体発生や発達期間中の役割について文献調査が推奨される。遺伝子改変動物(例えば、受容体のノックアウト動物)における既存データからも小児集団に関連しうる発達期への影響を特定できることがあり、WoE評価に用いて検討できる可能性がある。
既知の薬理作用が、対象小児集団の発達に影響を及ぼす可能性がある場合、あるいは、薬理作用の発達における影響が解明されていないか予測困難である場合には、追加の非臨床試験の実施を検討すべきである。標的に対して高い選択性及び特異性のある医薬品(例えば、モノクローナル抗体や二重特異的抗体)における有害な影響は、過剰な薬理作用の発現に関連する可能性が高く、標的に対して選択性及び特異性の低い医薬品に比べ影響の予測は比較的容易である。標的に対して選択性及び特異性の低い医薬品は副次的な薬力学的作用を有することがあるため、追加の非臨床試験が必要となる可能性が高い。幼若動物や小児の組織や生体試料(例えば、血清、尿)を用いたin vitro又はex vivo試験は年齢に関連した感受性の差異を検討する上で有用となる場合がある。
薬理作用から特定の有害性が既に明らかにされており、成熟動物と幼若動物での用量反応性や感受性の差異について詳細に理解する必要がない場合には、追加の非臨床試験を実施する意義は低いであろう。
2.3.3 薬物動態データ(WoE要素:既存データの量/種類)
ヒト及び動物において、薬物動態(ADME)にとって重要な消化器、肝臓、腎臓等の器官系の発達により、急激に全身曝露が変わることで、年齢により有効性又は毒性に差異が生じる可能性がある。ヒトでは、通常、新生児及び乳幼児において、このような差異が最も顕著に現れる。
臨床薬理学、モデリング及びシミュレーションは、小児における薬物動態(PK)、薬力学、有効性及び安全性に関する情報提供のために有用と考えられる(ICH E11参照)。通常、JASはヒトの薬物動態における年齢差の予測や再検証において有用ではない。
2.3.4 非臨床安全性データ(WoE要素:発達中の器官系に対する影響、既存データの量/種類)
既存の非臨床試験データは、小児において発達中の器官に対する潜在的な影響を予測するために用いられるべきである。小児被験者において到達しうる曝露量と同等の曝露で、動物に所見が認められる場合(それが対象小児年齢で顕著な生後発達時期の器官/組織では特に)、懸念は高まる(別紙A参照)。また、2種以上の成熟動物において安全性に対する影響を示唆する徴候が認められる場合に懸念は高まる。成熟動物でみられた毒性が成人に外挿性がないと解釈されていても、その標的器官(系)が対象小児で発達中である場合には、対象小児に影響が生じる可能性を評価することは適切であろう。動物の投与開始年齢及び設定されたエンドポイントによっては、すでに実施済みの毒性試験において、これらの懸念について対応されている場合もある。
遺伝毒性試験及び安全性薬理試験は、成人の臨床試験をサポートするために通常実施されており、小児臨床試験の開始前に利用すべきである。対象の小児患者集団において構造的・機能的に発達中又は成熟中にある器官系に対する作用が安全性薬理試験において示されている場合には、その作用が影響を及ぼす可能性について考慮すべきである。小児への適応をサポートするために幼若動物を用いる遺伝毒性及び安全性薬理評価を追加することは通常適切ではない。
生殖発生毒性試験のデータも利用でき、役に立つ場合がある。既存のPPND/ePPND試験が実施されており、出生児で臨床的に意義のある全身曝露が示されている場合には、これらのデータをWoE評価に用いることができる(1.4章参照)。ヒト以外の霊長類(NHP)を用い実施されたePPND試験の出生児において適切な曝露又は薬力学的効果が確認できる場合には、出生児のデータを用いて出生後早期の発達期における毒性の特徴づけを行うことができる。
追加の非臨床試験実施に意義があるかどうかを評価する際には、PPND/ePPND試験のデータを利用できる場合には一般毒性試験のデータと合わせ検討すべきである。出生児の所見の解釈に影響することから、薬物の母動物及び胎児における忍容性を考慮すべきである。出生児に有害な影響が認められていること自体はJASが推奨されることを意味するものではないが、PPND/ePPND試験において安全性上の懸念が特定されている場合には、WoE評価に基づき検討すべきである。げっ歯類において、これらのデータは、曝露が示されている場合には、主に早産児又は正規産新生児に関連する情報となる。ただし、ヒトへの外挿性を考える上で、種特異的な器官系の発達を考慮する必要がある。
実施済みのJASのデータを利用できる場合は、WoE評価において考慮すべきである。
2.3.5 実施可能性
追加の動物試験の実施を決定する際には、試験デザイン及びエンドポイントについて、技術的及び実用的な観点での実施の可能性も考慮すべきである。動物種によっては実用的ではないエンドポイントもある(3章参照)。
また、幼若動物を用いた用量設定(DRF)試験において、JAS本試験で小児患者で想定される範囲の適切な全身曝露が得られない、又は、小児患者に相当する年齢層の動物を用いて実施できないことが示されている場合には、有用な情報が得られる可能性は低く、試験実施の必要性は低いであろう(3.2章、3.6章参照)。
2.4 WoE評価の適用及び結果
WoEアプローチは、臨床でのリスク評価の情報を提供する上で非常に重要と考えられる要素を重視し、追加の非臨床試験が必要とされるか否かを決定するために用いられる。試験が必要と思われる場合、特定された安全性上の懸念の特徴に応じて、非臨床試験、すなわち、JAS又は他の試験(例えば、in vitro又はex vivo試験)の目的を決定すべきである。JASにおいて試験目的はWoEの結果と対象小児での使用に沿ったものとすべきであり、投与期間や含めるべきエンドポイントについて試験デザインを適切に設定又は変更するために重要である。
WoEアプローチの適用例を別紙Bに示す。
3.幼若動物試験のデザイン
3.1 一般的考慮事項/試験の目的
本章では、試験デザイン、主要エンドポイント、特定の懸念事項に対応するために含めることができる追加エンドポイントについての推奨を示す。追加エンドポイント全てを含むJASは、各エンドポイントについて根拠が示されない限り推奨されない。JASはGLPに従い実施されるべきである。
ヒトでも動物でも器官系の成熟段階は毒性の感受性に影響を及ぼす。発達期において、成熟段階や機能について種間の相対関係を理解することは、JASを適切に計画する上でも、認められた毒性所見をヒトの年齢区分に外挿する上でも必要である。種間の発達の比較は困難な場合があり、種々の器官系の間でも異なっている。例えば、出生時の成熟度、出生後の成熟速度、発達のための調節機構はヒトと動物間でかなり異なっている。全てを包括するものではないが、動物種毎に器官系の比較発達の概要を別紙Aの図A1~A5に示す。
3.2 用量設定試験
幼若動物を用いた小規模なDRF試験を実施し、曝露や齢に関連する忍容性を評価することが推奨される。離乳前から投与を始める場合、適切ではない曝露のためにおこる予期しない死亡や過剰な毒性発現を回避するため、JAS本試験を計画する際にDRF試験は特に有用である。忍容性又は曝露量の変化が生じる最も鋭敏な時期を評価するため、投与においてはJAS本試験で計画されている最も早期の投与開始時期を含めるべきである。DRF試験は、通常、投与期間は短く、エンドポイントは限定的であり、全ての主要エンドポイント(例えば、病理組織学的検査)を含める必要はない。DRF試験で特殊なエンドポイントを検討し、JAS本試験の試験デザインに反映させることも可能であろう。DRF試験は必ずしもGLPに従い実施する必要はない。
DRF試験により小児開発のための重要な情報を入手できることがある。DRF試験で齢間の曝露の差異を明らかにできるが、この場合、JAS本試験の投与計画に調整が必要となる可能性がある(3.4章、3.7章参照)。
DRF試験において、小児で想定される臨床曝露量で忍容性がない場合には、それに対応する臨床での年齢層に対し重大な懸念を示している可能性がある(すなわち、幼若動物が未成熟なことに関連して、予期しない高い感受性を示した場合には、小児にも関連する可能性がある)。幼若動物と成熟動物において感受性や毒性に明確な差異が生じており、その理由が明らかではない場合には、これらの差異の解釈のために、得られているADME、安全性、発達生物学の情報のレビューに基づき検討された追加の試験が有用であろう。この場合には、毒性の感受期や発現機序を解明するために最適化した探索的なJASが必要となる可能性がある。特定の年齢の小児の安全性に関連し、臨床で年齢層を変更する可能性がある結果が得られた場合には、再度WoE評価を行うべきである(2.2章参照)。
3.3 動物種の選択
JASが必要とされる場合、多くの場合、1種の動物を用いることで十分と考えられる。原則として、成熟動物を用いた反復投与毒性試験で使用されている動物種と同じ動物種を初めに考慮すべきであり、げっ歯類が望ましい。いずれの場合でも動物種の選択の根拠を示すべきであり、薬理学的に適切でない動物種を用いた非臨床試験は誤った評価を導くことがあり推奨されない。
適切な動物種の選択の際には次の事項を考慮すべきである。
・ 対象小児集団と比較し、動物における薬理学的又は毒性学的標的(例えば、受容体)の発生に関する理解
・ 幼若動物と成熟動物との毒性及び全身曝露に関するプロファイルの比較に不可欠な成熟動物を用いた反復投与毒性試験データを利用できる動物種及び系統の選択
・ 毒性標的器官
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幼若動物における器官(系)の発達段階についての対象小児集団との比較(3.4章も参照)
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懸念となる毒性学的エンドポイントの動物モデルにおける検出能力
・ ヒトと動物とのADMEの類似性
・ 選択した動物種での技術的/実際的な観点からの実施可能性
げっ歯類(ラット、マウス)又は非げっ歯類(ウサギ、イヌ、ミニブタ、NHP)を使用する場合の利点又は欠点を別紙Aの表A6に示す。
バイオテクノロジー応用医薬品においては多くの場合NHPが薬理学的に適切な動物種であるが、離乳前のNHPを用いるJASの実施は科学的かつ実際的な理由から困難が伴う(例えば、飼育・輸送及び母子動物の管理)。離乳後のNHPを用いたJASを実施することの意義は限定的である。離乳後のNHPの器官系の発達は、通常多くの小児年齢層を既に超えている(別紙A参照)。離乳前のNHPを用いたJASの実施が適切である場合は限られている(例えば、対象が新生児であり、ePPND試験において適切な曝露が得られていない場合)。したがって、別のアプローチが推奨される(4章参照)。
ICH S6に示されているように、相同タンパク質を用いた評価は、げっ歯類、非げっ歯類の幼若動物いずれの場合でもハザードを特定するために考慮できる。
2種の動物種を用いるJASは、小児先行開発の場合や(4章参照)、出生後の発達に関して複数の特定の懸念があり、1種の動物種だけではそれらの懸念に対応できない場合に必要とされる。バイオテクノロジー応用医薬品においては、ICH S6に示されているように、薬理学的に適切な動物種のみで評価すべきである。1種目の動物種で認められた所見を確認するための2種目の動物種を用いたJASの実施は通常必要とされない。
小児の疾患動物モデル(例えば、酵素補充療法)が存在し、医薬品開発に利用されている場合には、安全性評価に関する適切なエンドポイント(例えば、病理組織学的検査、臨床病理学的検査)を試験に組み込むことが可能である。得られた情報は、JAS本試験を実施せずとも十分な情報となる可能性があり、WoE評価に利用できる。
3.4 動物の投与開始時期、投与期間、投与計画
動物への投与開始時期は、毒性学的に懸念のある器官系のヒト動物間の発達過程の比較を踏まえ、発達的に対象小児集団の最も低い年齢に相当する時期とすべきである。
種間の発達段階の対応関係は器官毎に異なるため、対象小児集団において懸念のある器官(系)、又は特に脆弱な発達中の器官系について優先して考慮し、投与開始時期を設定すべきである。動物における投与開始時期については対応に関する情報(別紙A参照)に基づきその適切性を示すべきである。
成人のための非臨床試験(ICH M3参照)と異なり、JASにおいて推奨される投与期間は小児集団での臨床投与期間と直接には必ずしも関連しない。JASにおける投与期間を決定する際には、対象小児集団の年齢層、ヒトに比べて動物での発達期間が短いこと、対象小児集団における安全性上の懸念、及び懸念のある器官の発達に対応する期間を考慮することが重要である。通常、懸念のある器官系の成長、発達において重要かつ活発な時期(別紙Aの表参照)にJASにおける投与が実施されるべきである。
例えば、器官の中で腎臓のみに懸念がある医薬品の場合、臨床投与期間に関わらず、腎臓の発達に対応する期間に重点をおいた限られた投与期間のラットを用いるJASによってサポートすることが考えられる。一方、懸念のある器官が様々な時期や長期間にわたって発達する場合には、臨床投与期間が短期間であっても、動物ではより長期間投与することが適切であろう。例えば、中枢神経系に懸念がある医薬品で、2歳以上の患者を対象として10日間投与する医薬品の場合、離乳後から成熟するまで投与するラットを用いるJASによってサポートすることが考えられる(別紙A参照)。
臨床投与対象が青少年期を含む場合には、通常、げっ歯類において成熟するまで投与される。NHPでは出生から成熟するまでに数年を要し、成熟するまで投与することは実際的でない。また、NHPでは性成熟の開始や成熟時の年齢の個体差が大きい。一方、他の一般的な非げっ歯類においては、2、3ヵ月から数ヵ月で成熟し比較的個体差が小さいことから、成熟するまで投与することは可能である(例えば、ミニブタ、別紙A参照)。
投与計画は懸念のある器官の発達期に適切な曝露に到達し維持できるよう計画すべきであり、臨床投与レジメンと同一である必要はない。例えば、臨床投与レジメンが週1回であっても、幼若動物においては、より頻回の投与が適切な場合もある。幼若動物で蓄積性が懸念される場合には、成熟動物を用いた毒性試験より低い頻度での投与計画とすることもできる(例えば、成熟動物では1日1回投与に対し、JASでは隔日投与)。
齢の異なる動物で薬物への忍容性や曝露が異なることがデータで示されている場合には、適切な発達段階において臨床的に意義のある曝露の情報が得られるように、経時的に投与量を調整することを考慮できる。
JASにおいて投与期間中に忍容性がないと予期される場合には、投与期間を複数のサブグループに分割することで(例えば、6週間の投与期間が必要な場合、投与開始時期が異なる2つの3週間投与のサブグループへ分割する)、臨床的に意義のある曝露量に到達できる可能性がある。投与期間の異なるサブグループを設定する場合、遅発性の影響を検出するため、成熟するまで観察が必要となるかもしれない。この方法については、前述の利点と、必要な動物数が多くなること、及び異なる投与開始時期から得られたデータの解釈に困難さが伴う等の不利な点とを考慮すべきである。
3.5 休薬期間における評価
JASにおいて投与終了後における評価期間の設定は、1)投与期間中に認められた所見が可逆的、持続的又は進行性かどうか、2)発達期における曝露の結果、発達後に生じる影響(すなわち、遅発性に発現)があるかどうかを説明するために通常推奨される。
休薬期間の設定が有用であるかどうかはWoE評価の結果及び試験で評価すべきエンドポイントに依存する。ICH M3に示された回復性評価の原則が適用できる。休薬期間は、影響の回復を評価する上で十分な期間とすべきであり、また、薬物の消失についても考慮すべきである。しかし、完全な回復を示すことは必須ではなく、回復傾向(例えば、発現頻度や重篤度の低下)が示され、完全に回復するであろうという科学的評価で十分であろう。特定の影響について不可逆性が成熟動物で十分特徴づけられていれば、通常、JASにおいて回復性を確認する必要はない。JASのエンドポイントの中には、性成熟の開始時期の評価のように通常の回復性評価のアプローチが適用できないものもある。また、休薬期間のタイミングは、動物の発達段階を踏まえ考慮すべきである。成熟する前に休薬期間が開始される場合、回復能は、持続的な成長、発達中の器官系の影響を受けることがあり結果の解釈に注意を要する。
ある種の変化は、適当な休薬期間においてのみ、器官系の成熟及び異常の発現に伴い特定できる場合がある。したがって、ある種の評価(例えば、学習及び記憶、免疫機能)は器官系が一定の段階まで成熟した後に行う場合にのみ意義がある。このような評価は、臨床使用時の発達に対応した全ての発達期間に曝露を行い、その後の休薬期間で実施できる。これは、JASの投与期間を未成熟な段階で終了し、休薬期間中にこれらの評価が適切に実施可能となるまで動物が成熟する場合に、特にあてはまる。
特にJASにおいて投与を未成熟な齢で終了する場合、休薬期間に評価を行うことで、早期の曝露により生じた遅発性の変化に対応できる。
非げっ歯類において、動物種にもよるが、発達期間が長く個体差が大きいこと、発達の遅延や変化を検出できる評価方法(例えば、学習及び記憶)が十分に確立されていないことから、通常、JASにおいて休薬群を設定する有用性は低い。
3.6 投与経路
臨床適用経路を実施可能であれば選択すべきであるが、適切な全身曝露が得られることが優先される(3.7章参照)。
実際的に困難な場合には代替投与経路を考慮すべきである(例えば、経皮製剤について離乳前のラットへの経口投与)。試験期間中に投与経路を変更することも考慮できる(例えば、静脈内投与が可能になるまで皮下投与)。代替投与経路を用いる場合にはその妥当性を示すべきである(例えば、一部の幼若動物の曝露データによる裏づけ)。
臨床試験において2つ以上の投与経路での使用が予定される場合、1つの投与経路を用いJASを実施すれば十分であるが、全ての投与経路に対する適切な全身曝露が示されるべきである。
3.7 投与量の選択
幼若動物において有害作用の用量反応関係を確立し、無毒性量(NOAEL)を決定することが望ましい。成熟動物の曝露範囲を含み、幼若動物と成熟動物に対する影響を比較できる投与量を選択すべきである。ただし、高用量群は、成長及び発達に関するエンドポイントにおいて評価を複雑にするほどの顕著な毒性作用が現れない用量とすべきである。急速な発達期における体重減少又は体重増加抑制は結果の解釈を複雑にさせる可能性があり、JASにおいては望ましくない。忍容可能ならば、少なくとも1用量は、臨床試験の対象集団と同程度の曝露が得られるように設定することが望ましい。低分子化合物においては、ICH M3に従った高投与量の選択が適用され、バイオテクノロジー応用医薬品についてはICH S6に示されている投与量選択の原則が適用される。
JASの試験期間中の投与量の調整(増量又は減量)は、ADMEに関連する器官系の成熟に伴い全身曝露が大きく変化する場合に考慮すべきである。投与量の調整は、概ね一定かつ臨床的に意義のある曝露量を維持するためにある。1回を超える投与量の調整は通常必要ない。
3.8 エンドポイント
JASにおいて、通常、以下の3.8.1章に示す主要エンドポイントを含めるべきである。特定の安全性上の懸念に対応するために追加エンドポイント(3.8.2章参照)を考慮し、その適切性を示すべきである。探索的なフォローアップJASのように、適切性が示されれば、主要エンドポイントを全て含む必要がない場合もあろう。
エンドポイントの適切性を検討する際、侵襲的な手技や時間のかる手技は生存に影響するため、離乳前及び離乳時点においては、可能な限り制限することを考慮するべきである。
3.8.1 主要エンドポイント
3.8.1.1 生死及び一般状態観察
生死については試験期間を通して評価すべきである。一般状態観察においては、詳細観察を含め、投与期間中及び休薬期間中を通し、明らかな行動への影響が観察できるよう実施すべきである。
離乳前に幼若動物へ投与を開始する場合、母動物の一般状態観察には哺育行動の観察を含めるべきである。一般状態観察においては、離乳前の動物と成熟動物で所見が異なり、動物の健康状態に対する解釈が異なることがある(例えば、脱水状態は児における栄養状態を反映している)。したがって、児の一般状態観察においては、離乳前の動物に特異的な所見も記録すべきである。離乳後の一般状態観察は成熟動物の場合と同様に記録すべきである。
3.8.1.2 成長
成長については、体重と長骨の長さを基に評価すべきである。体重は出生後早期に急激に増加するため、投与量の計算のためにも各個体の体重は適切な間隔で測定されるべきである。長骨の長さについては、通常、剖検時に1つの長骨(例えば、大腿骨)の長さを測定することでよい(5章参照)。
3.8.1.3 摂餌量
離乳後の摂餌量は、使用動物種と飼育条件に応じて適切に評価すべきである。
3.8.1.4 性成熟
性成熟開始の身体的指標(例えば、げっ歯類では雌の膣開口、雄の亀頭包皮分離)の観察については、試験デザインにこれら指標の発達開始及び完了時期が含まれる場合に推奨される。
3.8.1.5 臨床病理学的検査
標準的な臨床病理学的検査(血液生化学的検査、血液学的検査)は、検査時の齢での測定値の範囲が把握されており、病理組織学的所見の解釈に役立つのであれば、剖検時のエンドポイントとして評価すべきである。
3.8.1.6 病理学的検査
投与終了後又は休薬期間終了後に、肉眼的検査、器官重量、器官・組織の包括的な収集及び保存を行うべきである。病理組織学的検査は主要な器官(例えば、骨/骨髄、脳、消化管、心臓、腎臓、肝臓、肺、卵巣、精巣[成熟雄動物での精子形成の定性的評価を含む])、肉眼的に変化が認められた器官、及び以前に特定された標的器官について実施すべきである。
JASが小児先行の臨床試験をサポートする場合には(4章参照)、成熟動物の毒性試験の標準的な組織・器官について病理組織学的検査を実施することが推奨される。
3.8.1.7 トキシコキネティクス
JASのトキシコキネティクス(TK)を計画する際、マイクロサンプリング又はスパースサンプリングの利用が強く推奨される(ICH S3A参照)。
TKのための試料採取は投与期間の開始及び終了時付近に行い、離乳前に投与を開始する場合には、中間時点でのTK評価を考慮すべきである。用量を試験中に調節する場合、TKのために追加の試料採取が推奨される。TK評価を伴う幼若動物を用いたDRF試験(3.2章参照)は試料採取の時期及び測定時点の決定に有用であろう。TK評価では、医薬品の有効成分とヒト主要代謝物のいずれも考慮すべきである。
バイオテクノロジー応用医薬品については、必要に応じて抗薬物抗体を測定するための試料を採取し評価すべきである(ICH S6参照)。
3.8.2 特定の懸念に対応するための追加エンドポイント
追加エンドポイントを含めるかどうかは、WoE評価で特定された懸念の種類や程度に基づき決定すべきである。
3.8.2.1 成長に関する他のエンドポイント
使用する動物種において適切であれば、頭殿長、体長(例えば、鼻―尾間)あるいは体高を成長の指標として用いることができる。剖検時に長骨の長さを直接測定することに加え、非げっ歯類では、適切なイメージング手法(例えば、X線)を用いた非侵襲的かつ経時的な測定は有用となりうる。
3.8.2.2 骨の評価
骨の代謝や構造について特定の懸念がある場合には、追加検査を考慮すべきである。骨密度測定法を用いた骨量や骨形態の評価、骨形成や骨吸収に関連する血清中又は尿中バイオマーカー測定並びに骨の組織形態計測が例として挙げられる。
3.8.2.3 臨床病理学的検査
標的組織・器官に対する特定された懸念のさらなる特徴づけのために、血液学的検査、血液生化学的検査又はバイオマーカーによる追加の検査を考慮できる。必要かつ実施可能であれば、尿検査、血液凝固系検査等の他の検査項目を追加可能であろう。
幼若動物(特にげっ歯類)から得られる試料の量は限られているため、試料を得るために動物を追加することは、懸念に対応するために必要な場合にのみ推奨される。試料の量に制約がある場合には、測定すべき検査項目は、特定の懸念の優先順位に基づき選択すべきである。
3.8.2.4 病理学的検査
特定の懸念に対応するために、追加した組織・器官で評価できることがある。必要に応じて、組織切片を用いた免疫組織化学的手法や他の特殊染色による手法、電子顕微鏡検査、組織形態計測や、その他のイメージング手法が、さらなる特徴づけのために使用可能であろう。
3.8.2.5 眼科学的検査
ヒトの眼の構造的発達は出生前にほぼ完了するため、標準的な眼科学的検査(例えば、眼瞼反射、眼底検査)は、通常、JASにおいて必ず設定すべきエンドポイントではない。ただし、眼に対する毒性の懸念がある場合には、眼科学的なエンドポイントによる評価を考慮すべきである。
3.8.2.6 中枢神経系(CNS)に関する評価
CNSの評価には下記のカテゴリーがある。
・ 詳細な一般状態観察
・ 行動検査
・ 学習及び記憶の検査
・ 詳細な神経病理組織学的評価
WoE評価において特定された懸念に基づき、追加すべきCNSの評価を選択するべきである。JASにおいてこれらの追加の評価を実施するタイミングについては、有害作用が過剰な薬理作用によるのか、発達神経毒性によるのか(すなわち、投与終了後に認められる影響なのか、投与終了後に顕在化する影響なのか)又はその両方によるのか等、結果の利用目的を踏まえ検討すべきである。
CNSに標的を有する化合物の場合、血液脳関門を通過し分布する程度や、脳のどの部位に影響する可能性があるか(例えば、標的の分布や関連する機能的な経路)を考慮すべきであり、これらの情報が得られているならば、追加のCNSに関する評価の選択に役立てることができる(例えば、学習及び記憶の検査か、他のエンドポイントが必要なのかを決定する場合)。
詳細な一般状態観察は、CNSに関する評価の重要な部分であり、必要に応じて投与期間及び休薬期間を通し適切に評価すべきである。臨床症状が曝露と時間的に関連しているかを確かめるため、その重篤度、発現時期、持続期間を記録すべきである。
行動検査には、自発運動、協調運動や反射の評価、聴覚性驚愕反応(例えば、馴化又はプレパルス抑制)等が含まれ、多種多様である。機能観察総合評価法(FOB)やIrwin変法は幼若げっ歯類では比較的検出力が低いと考えられており、使用は限られる。使用する動物種に適した検査を実施するべきであり、検査のタイミングについては検査時点における動物の成熟度を考慮すべきである。行動検査を投与期間中に行うかどうか決定する前に、薬理作用(例えば、鎮静、運動協調性の低下)との交絡の可能性を考慮すべきである。
WoE評価における懸念が学習及び記憶に関して見出された場合、それを評価できる適切な複雑な課題を有する学習検査を選択すべきである。学習及び記憶について持続的又は遅発的な影響を評価するためには、休薬期間に検査を行うべきである。
出生後のCNSの評価は多くの場合、げっ歯類で実施され特徴づけられるが、げっ歯類の使用が適切でない医薬品については、他の動物種(例えば、イヌ、ミニブタ)において利用できるいくつかの行動検査法がある。NHPにおいては、JAS又はePPND試験における行動観察の結果からCNSへ影響を及ぼす可能性について評価可能であろう。小児患者で行われる検査と同様の学習検査がNHPでも開発されているが、試験方法が複雑であり、個体差が相当大きいことから頻繁には実施されていない。
最後に、WoE評価において、CNSの領域や構成要素(例えば、海馬、ミエリン)が影響を受ける可能性があると評価された場合、必要に応じて詳細な神経病理組織学的検査(例えば、観察する切片の追加、免疫組織化学染色、特殊染色)を実施すべきである。これらの検査は、通常、投与終了後や休薬期間終了後の予定された剖検時に行う。イメージング手法が有用となる場合もあろう。
3.8.2.7 生殖器系に関する評価
雌雄生殖器系又はその機能への影響が懸念される場合は、病理組織学的検査や器官重量測定において、性腺に加え生殖器及び内分泌系の組織を加えることが可能であろう。成熟動物において回復性が示されなかった生殖器系への影響についてはJASで確認する意義は乏しい。
げっ歯類において、雌性に関する懸念に対しては生殖器及び内分泌機能の評価のために性周期の評価が推奨される。雄性のげっ歯類に関する懸念について特徴づけをさらに行う意義がある場合には、精子検査(例えば、数、運動性、形態)や精巣の免疫組織化学染色(例えば、アポトーシス)を考慮できよう。
投与及び評価のタイミングと、試験に用いる動物種の性成熟の時期との関係は非常に重要である。試験デザインや生殖器系に関する評価のタイミングを検討する際、卵胞形成及び精子形成の時期を考慮すべきである。生殖器官又はその機能の評価(例えば、性周期、精子数、精子形成について病理組織学的検査での定性的評価)は性成熟した動物のみにおいて可能である。臨床で思春期の年齢層を含む場合には、医薬品が性成熟や成人期における生殖機能に対し、遅発性の影響を及ぼすかどうかが懸念される場合がある。もし、臨床で思春期のみに投与する場合は、JASの投与期間は未成熟な期間のみとし、休薬期間中に成熟した後に評価を実施するよう試験をデザインすべきである。
交配による評価は、通常、JASにおいて推奨されない。雄の授胎能に関する生殖器官への影響の多くは、組織学的評価により検出可能である。雌のげっ歯類では、性周期と卵巣の組織学的評価によって生殖発生に対する有害性の多くを特定できるであろう。イヌやNHPでは、発達期間が長く個体差が大きいため、交配による評価は困難である。
ホルモン評価については、特に思春期における濃度はかなり変動しやすいため、通常、JASにおいて推奨されない。したがって、ホルモン評価においては、その適切性を示し、評価するタイミングと目的のホルモンについて、評価時の齢での特性が十分に示されるべきである。
生殖器系の評価に関し、JAS実施中に成熟に達する場合には非げっ歯類を考慮できるが、実施の容易さから多くの場合げっ歯類を用いて実施される。
3.8.2.8 免疫系に関する評価
薬理的学的分類、動物又はヒトのデータにおいて免疫系の発達に関する懸念がある場合には、ICH S8に示されている免疫毒性評価を考慮すべきである。発達において重要と考えられる懸念として、特定のリンパ球サブタイプの数又は機能の一過性/持続的/永続的な変化、免疫グロブリンのクラスの持続的増加又は減少等が挙げられる。機能試験は適切な発達段階、例えば、T細胞依存性抗体産生(TDAR)においてはラットでは生後45日以降に実施すべきである。免疫毒性の特徴が十分明らかにされている場合には、通常、JASにおいてその毒性を確認する必要はない。
3.9 試験群及びエンドポイントのサブセットへの動物の割付け方法
3.9.1 離乳前の割付け方法
JAS本試験は大規模かつ複雑な試験となりうるため、試験計画においては科学的な厳密性と使用動物数とのバランスを考慮することが重要である。実験者は試験を計画する際、予定する全てのエンドポイント(主要及び追加)を把握すべきである。試験計画の効率化は3Rの原則における使用動物数の削減のために重要であり、調整された同腹児の中で使用しない児や特定のエンドポイントに割り付けられない児を含め、試験に使用される母動物(及び同腹児)の総数を前もって考えるべきである。
多産の非げっ歯類において、同腹児の割付け方法は様々なものがある。産児数が1匹である動物種や、腹児数が少ない又は変動が大きい動物種(例えば、NHP、イヌ)においては、一般毒性試験で適用されている原則に従った群分け方法を用いることができる。
多くの動物種において、JASを離乳前に開始する場合、同腹児内の児への投与に関し特有の状況がある。母動物は栄養供給と哺育を担う試験の重要な要素であるが、試験の対象となる試験系は児のみである。考えられる交絡因子を低減化するよう計画されるべきである。哺育や腹児数は通常、遺伝的背景より重要な交絡因子と考えられる。どのように同腹児を投与群に割り付けるかと、どのように個々の児をエンドポイントに割り付けるかを含め、同腹児を構成し調整する方法を検討することで、交絡因子を低減化することができる。
試験において同腹児を構成するとき、良好な哺育を行う母動物及び良好な健康状態にある児を選択すべきである。試験における同腹児は生後同一の齢とし、児数及び性比(すなわち、ラットでは1腹あたり各性4~5例)が調整されることが望ましい。これは、完全な里子哺育(全ての同腹児を任意に里子哺育する)又は最小限の里子哺育(出生時の同腹児はできるだけ維持し、希望する腹児数や性比を満たすために必要に応じて他の腹から補完)により行うことができよう。実施可能ならば、試験における同腹児は、初回の投与前に新しい同腹児に対し馴化できるような時期に調整を行うべきである。腹児数の変化は児の成長率に影響を与えるため、離乳前においては用量群内及び用量群間で同じ腹児数を維持することが推奨される。
試験動物を用量群に割り付ける際には、投与群及び対照群の児間でのクロスコンタミネーション、吸乳位置や時間の競合を避けるように、調整された同腹児は同じ用量群に割り付けられることが望ましい。
各動物を本試験のエンドポイントに割り付ける際には、哺育による偏りを避けるため、同性の同腹児を同じエンドポイントに供しないことが推奨される(別紙C参照)。
里子哺育の方法、同腹児の調整方法、用量群やエンドポイントへの割付け方法は試験計画書及び試験報告書に明記されるべきである。ラットを用いるJASにおいて、遺伝的背景、哺育、腹児数による交絡因子を最小化する割付け方法の一例を別紙Cに示す。試験の目的やエンドポイントによっては、同腹児を割り付ける他の適当な方法もあるが、他の方法においてもこれらの偏りを考慮し避けるべきである。
3.9.2 離乳後の割付け方法
多産動物においては、可能であれば、交絡因子を考慮し試験を計画することが推奨される。特に、離乳後早期に投与が開始される場合や、限られた数の母動物から児が供されている場合には、離乳前と同様に交絡因子を考慮し試験を計画すべきである。
3.10 動物数と性別
選択したエンドポイントを評価するために、毒性試験の本試験として通常適切と考えられる群内動物数を使用すべきである(例えば、ラットにおける反復投与毒性試験と同様に、投与終了後の剖検時のエンドポイントに各性10例)。使用動物数を減らすため、同じサブセットの動物において複数のエンドポイントを評価することが効率的である(別紙C参照)。性別については、通常、雌雄を用いて実施することが推奨される。
4 小児先行開発/小児のみの開発に関する考慮事項
小児先行開発又は小児のみの開発を行う通常の医薬品の開発においては、健康成人被験者におけるヒト初回投与(FIH)試験が小児臨床試験に先立って実施される。この場合、成人における臨床試験実施前には、ICH M3に示されるように安全性薬理試験、遺伝毒性試験、げっ歯類及び非げっ歯類を用いる反復投与毒性試験を実施するのが一般的である。また、ICH S6の原則も適用となる。成人におけるFIH試験をサポートするための毒性試験として、2種の動物を用い標準的な反復投与毒性試験が実施される。別なアプローチとして、1種又は2種の幼若動物を用いて試験を開始し、成熟するまで投与を継続することもできる(3.4章参照)。幼若動物を用いる試験においては関連する追加エンドポイントを含めるべきである(3.8章参照)。幼若動物を用いるアプローチは、成人におけるFIH試験実施後直ちに小児患者における臨床試験の開始をサポートしうるため、より効率的となる場合がある。
しかしながら、成人患者又は健康成人のデータなしに小児患者へ投与される場合がある(例えば、生命を脅かす又は身体機能を著しく損なう小児特有の疾患、あるいは成人において安全に投与できない場合)。このような場合、FIH試験は小児患者において実施することになり、その非臨床試験パッケージには、通常、1種のげっ歯類及び1種の非げっ歯類を用いたJASが含まれる。また、幼若動物を用いて実施する必要はないが、成人への使用と同様に安全性薬理試験及び遺伝毒性試験を適切に実施する必要がある(2.3.4章参照)。
医薬品が小児の慢性疾患の治療を目的としている場合、1種のげっ歯類及び1種の非げっ歯類による慢性毒性試験を実施すべきである。少なくとも1種の試験において、対象小児集団の最低年齢の発達段階に相当する時期から投与を開始すべきである。原則として、小児患者の最低年齢の発達段階に相当する時期から投与を開始する慢性毒性試験は、小児使用における全年齢及び投与期間をカバーするのに十分であろう。これらの試験は、成熟動物を用いる慢性毒性試験及び独立したJASに置き換えることができる。生殖発生毒性及びがん原性の可能性についての非臨床評価は必要とされる。
バイオテクノロジー応用医薬品において幼若動物を用いる試験が必要な際は、ICH S6に示されるように、適切な動物種での実施に限るべきである。非侵襲的な安全性薬理に関するエンドポイントをNHPを用いるJAS又は標準的な反復投与毒性試験に含めることができる。遺伝毒性及びがん原性の可能性についてはICH S6に従って対応すべきである。
離乳後のNHPを用いるJASは通常10~12ヵ月齢から開始されるため、これに対応する小児集団の最低年齢は限定される。離乳前のNHPを用いるJASは、初めてかつ主に新生児において臨床使用される医薬品で、他の非臨床安全性評価の実施が困難な場合にのみ実施されるべきである。離乳前のNHPに直接投与する試験は、比較的小規模なJASであっても多数の母動物が必要とされる。したがって、試験デザインとエンドポイントについては臨床上の懸念に基づき明確に適切性が示されるべきである。また、性比や投薬開始時の体重のばらつきが想定されるため試験計画には柔軟性が必要である。小児の最低年齢に対応するJASを実施することが困難な場合には、利用可能かつ適切であれば、これに代わるアプローチ(例えば、in vitro試験、遺伝子改変動物、相同分子)を考慮すべきである。
JASの試験デザインについては3章を参照すること。
5 データの解釈
5.1 エンドポイントの解釈のための考慮事項
JASにおける観察項目(例えば、体重、臨床病理学的検査)の多くは、齢、性、動物種/系統に依存する。したがって、齢をそろえた対照群のデータが解釈において非常に重要である。利用可能なら適切な背景データや参照情報(例えば、組織のデータベースやアトラス)も、特に低頻度の所見や計画外の早期死亡の場合には(すなわち、対照データに欠けた所が多い又は十分でない場合)、結果を解釈するために有用であろう。
一般状態観察における解釈は幼若動物と成熟動物の間で異なることがあり、離乳前の評価においては母動物の哺育行動や同腹児の全体的な健康状態も考慮すべきである。
成長に関する評価は、通常JAS本試験の主要な目的として考慮すべきであり、長骨の長さ、体重及び利用可能なら摂餌量の測定に基づき、なるべくなら剖検時に実施されるべきである。骨発達に対する直接的影響の可能性があるのか、長骨の長さに対する間接的影響(低栄養や体重減少に起因する二次的な毒性)であるのかを区別するため、体重や摂餌量のパラメーターが必要とされる。単なる体重増加抑制は必ずしも成長に対する影響があることを意味しない。一時的な成長への影響を評価するために長骨の長さを頻回に測定を行うことは、発達期においては個体間の成長率の差が大きいことから解釈に困難を伴い意義は限定的である。
器官重量や性成熟の開始の評価は、成長の指標として実施されるべきである。発達中は成長率が異なる器官があるため(すなわち、等成長に対する不等成長)、器官重量の変化は必ずしも体重の変化と比例しない。また、器官毎に成長への影響に対する感受性が異なる(例えば、脳は他の器官より影響を受けにくい)。したがって、絶対器官重量及び相対器官重量の解釈については器官毎の成長への影響に対する感受性を考慮すべきである。
ある一腹の児から得られたデータは、統計解析における独立した変数として扱われるべきではない(ICH S5参照)。
5.2 総合的な解釈
全ての適切な試験について幼若動物と成熟動物における所見を比較し、臨床での外挿性を検討しながら、総合的に評価すべきである。幼若動物において成熟動物で認められない所見や成熟動物と感受性が異なる所見については、影響の性質・重篤性・回復性(把握されている場合)、動物の齢、所見が認められた曝露量又は投与量を踏まえ、総合的に解釈し、目的とする小児使用との関連性を示すべきである。
6 その他の考慮事項
6.1 添加剤
医薬品の製剤処方において小児集団での使用の経験が限られた添加剤が含まれることがある。小児の製剤処方における添加剤の安全性を評価するため、添加剤について利用可能な情報を用い、WoEアプローチに沿って評価すべきである(2章参照)。対象小児集団に対して使用をサポートする十分な情報がない場合には、例えば、JASにおいて添加剤のみを評価する追加の群を設定する等、追加の安全性評価が必要とされる。
6.2 配合剤
小児用医薬品の配合剤の開発においては、ICH M3に示されている配合剤に関する原則と、本ガイドラインに示すWoE評価の原則に基づき非臨床評価を行うべきである。その結果、小児開発をサポートする十分なヒト又は動物における既存情報がなく、WoE評価において特定の懸念に対応するためJASが必要と考えられる場合にのみ、配合剤を用いたJASが必要とされる。追加の非臨床情報が必要とされる場合、配合による懸念に対応するためにどのようなエンドポイントが適切か試験計画を検討すべきである。JASが適切であると考えられる場合には、実際に臨床投与される配合剤を用いて評価すれば通常十分であると考えられ、個別の有効成分を用いた試験は必須ではない。個々の薬物について既に実施が計画されているJASに配合剤を用いる投与群を追加することも可能であり、これによって配合剤を用いた独立した試験で得られる情報を入手できる。
用語
ウエイトオブエビデンス(WoE):
小児で使用する医薬品の開発をサポートする十分な根拠があるかどうか、又は、安全性上の懸念に対応するために追加の非臨床試験が必要かどうかを決定するため、複数の情報源より評価する手法
利用できる根拠に対して、データの質、結果の一貫性、影響の性質や重篤性、情報の意義等に基づき重み付けを行う。WoEアプローチは科学的な判断が必要であるため、それぞれの情報源の頑健性や信頼性は考慮されるべきである。
エンドポイントのサブセット:
同一用量群において、同じエンドポイントに割り付けられた個体のサブグループ
里子哺育:
遺伝的に関係のない出生児(里子)に対し栄養供給や哺育を行うこと。完全な里子哺育(fully fostering)では、意図的に母動物がその遺伝上の児を哺育しないように、同腹児は任意に混ぜ合わされる。最小限の里子哺育(minimally fostering)では、生まれつきの同腹児はできるだけそのままにし、希望する腹児数や性比とするために、必要に応じて里子をあてがう。
小児先行開発:
成人の適応症に対する開発の前に、小児患者への投与を目的とした開発
小児のみの開発:
小児に限定した投与を目的とした開発(例えば、新生児呼吸窮迫症候群)
不等成長と等成長:
等成長は成長中において大きさの変化に比例関係が保たれているときにみられる。不等成長は等成長から外れた場合である。不等成長においては、骨長、器官重量、体表面積のような性質は、体重に対し指数関数的に変化しうる。
幼若動物:
器官(系)の形態及び機能が未成熟な出生後の動物
幼若動物試験(JAS):
幼若動物を用い、通常、医薬品の毒性プロファイルについて評価する目的で実施される非臨床安全性試験
ePPND試験:
ePPND試験は、NHPでのバイオテクノロジー応用医薬品の経験に基づきデザインされたPPND試験であり、胎児の代わりに新生児及び乳児で胚・胎児発生試験(EFD試験)の評価項目を含め、評価を行う試験
参考文献
1.厚生省医薬安全局審査管理課長通知「小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて」(平成12年12月15日、医薬審第1334号)及び厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知「小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺について」(平成29年12月27日、薬生薬審発1227第5号)
2.厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について」(平成22年2月19日、薬食審査発0219第4号)
3.厚生省薬務局審査課長通知「トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンスについて」(平成8年7月2日、薬審第443号)
4.厚生省医薬安全局審査管理課長通知「医薬品の生殖発生毒性試験についてのガイドラインの改正について」(平成12年12月27日、医薬審第1834号)
5.厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について」(平成24年3月23日、薬食審査発0323第1号)
6.厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「医薬品の免疫毒性試験に関するガイドラインについて」(平成18年4月18日、薬食審査発第0418001号)
7.厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて」(平成22年6月4日、薬食審査発0604第1号)
別紙A:各動物種における齢区分別の器官系の発達の概要
別紙B:WoE評価のケーススタディ
A.薬理作用が既知の低分子化合物について、成人における臨床試験成績、及び、反復投与毒性試験を含む非臨床データが存在する。これらの情報において、対象小児集団(12歳以上)、臨床投与期間1ヵ月における発達中の器官に安全性上の懸念を示す情報は認められていない。WoE評価を踏まえ、追加の非臨床試験を実施したとしても有用な情報は得られないと考えられる。
B.新規作用機序を持つ低分子化合物について、新生児又は乳幼児への慢性使用を想定している。第Ⅰ相臨床試験及び非臨床安全性データが存在し、これらのデータにおいて顕著な安全上の懸念は見出されていないが、発達中の器官系に対し薬理学的に影響を及ぼす可能性がある。WoE評価を踏まえ、標的となる発達中の器官系についてのエンドポイントを加えたJASなど、追加の非臨床試験が有用と考えられる。
C.CNSの発達に重要な薬理学的標的を持つ低分子化合物について、小児(6歳以上)への慢性使用を想定している。非臨床試験及び成人における臨床試験成績が存在する。発達中のCNSへの影響について、臨床的なモニタリング及びリスク管理では対応できない懸念がある。その他の発達中の系に対しては適切な既存データがある。WoE評価を踏まえ、離乳後の幼若動物を用い、その懸念に対応するために主要エンドポイントと追加のCNSへのエンドポイントを含むJASが必要と考えられる。
D.可溶性サイトカインを標的とするモノクローナル抗体について、小児(2歳以上)のリウマチ性及びアレルギー性疾患に対する慢性使用を想定している。動物及び成人において、可逆性の血清Igの減少及び注射部位反応のみが認められている。サルePPND試験で生後28日齢までの出生児の曝露は母動物と同程度であり、その後減少した。TDARの結果は対照群(出生後3~6ヵ月)と同様であった。WoE評価を踏まえ、追加のJASは必要ないと考えられる。
別紙C:げっ歯類における離乳前の同腹児の割付け方法
JASにおいて離乳前のラットの児に投与を開始する場合には、母動物の哺育、腹児数や、その他遺伝的背景等の交絡因子を低減するよう試験を計画すべきである。これは、試験の同腹児をどのように構成し調整するかと、同腹児の投与群への割り付けや各児のエンドポイントのサブセットへの割り付けをどのように行うかによって対応される。3.9.1章を参照されたい。
交絡因子を均等に分散する目的に対応する方法の一つとして、以下が挙げられる。
・ 最低限の里子哺育の手法により同腹児を調整する(児の大部分、すなわち、健康状態のよい児はその本来の母動物のままとし、必要に応じ、調整したい腹児数や性比となるよう少数の児を同腹児として里子哺育する)
・ 調整した同腹児の一腹全体を1つの用量群へ割り付ける
・ その同腹児の個々の児をエンドポイントのサブセットに割り付ける
以下に、ラットを用いるJAS本試験の事例として、出生14日後から63日後まで投与し、主要エンドポイント(出生14、22、63日後におけるTK評価を含む)と特定の追加エンドポイント(休薬期間後の剖検及びCNS評価)による評価を含む事例を示す。各用量群に最低限の里子哺育の手法が用いられた10腹(一腹の各母動物はA、B、C等と示す)が割り当てられる。一腹あたり10例の児(可能な限り雄5例及び雌5例)となるよう調整されている。個体識別において、遺伝的に等しい児は任意に割り付け(1例目の雌はF1、2例目の雌はF2等)、里子哺育された児は一番後ろの位置に割り付けられる(例えば、5例目の雌としてF5)。遺伝的な母動物(利用される場合)か里子哺育の母動物かの識別は試験データとして記録される。一腹の10例全てに同一用量が投与されるように、同腹児の一腹全体は同一の用量群へ割り付けられる。腹数は通常、選択したエンドポイントに必要となる児の総数による。マイクロサンプリングはTK評価のための動物数を最小化できることから、常に推奨される。
この事例においては、主要エンドポイントと特定の追加エンドポイントのそれぞれに、10腹の各腹より児が割り付けられている(すなわち、各腹から1~2例の雄や雌を特定のエンドポイントのサブセットへ割り付ける)。里子哺育された児が交絡因子の影響を受けにくいエンドポイントへ割り付けられるよう、投与期間終了時の剖検や他の重要なエンドポイントには小さい識別番号を持つ児(すなわち、M1又はM2)が割り付けられる。特定のエンドポイントによっては、同様の目的でサブセットへ割り付ける様々な方法がある。
図は一用量群(10腹:一腹あたり雌雄各5例)を示す
この事例では、一腹あたり各性1例の児(M1/F1の青線、一用量群あたりの総数は雌雄各10例)が投与期間終了時の剖検に割り付けられている。第2のセットとして一腹あたり各性10例の児(M2/F2の黄と緑の合線)がCNS評価と休薬期間終了時の剖検に割り付けられている。これに第3のセットの各性10例(M3/F3の緑線)をあわせ、一用量群あたり計20例/性がCNS評価に割り付けられている。このCNSに関する評価には、投与期間中に実施される一般状態観察に加え、休薬期間中に実施される詳細な一般状態観察、行動検査、学習及び記憶の検査を含む。剖検時のサブセット(投与期間終了時及び休薬期間終了時)は詳細な神経病理組織学的評価を含む。第4のサブセット(M4/F4の赤線)は出生63日後のTK評価(連続サンプリング)に割り付けられる。採血終了後に安楽殺を伴わない連続サンプリングはこの齢の離乳後のラットにおいて可能であり、TK評価にはこのサブセットの一部のみが必要であり、他の評価に使用することができる。母動物や腹による交絡因子は単回投与のTK評価に重要ではないため、初回投与後に行われる出生14日後のTKサンプリングは、血液採取後に試験が継続されない予備の腹の児(非表示、各用量各時点あたり約3~4例)から行われる。最後に一腹あたり各性1例の児(M5/F5の黒線)は出生後22日のTK評価(マイクロサンプリングを用いない場合、通常、採血終了後に安楽殺を伴う血液採取を必要とする齢)に割り付けられる。
投与期間終了時の剖検(M1/F1)と休薬期間終了時の剖検(M2/F2)に使用する児において、離乳後の摂餌量測定、性成熟、臨床病理学的検査、長骨長の測定に関する主要な評価が行われる。生死、一般状態観察、体重測定に関する主要エンドポイントは全ての児において評価される。
上記以外に試験に割り付ける児の数を減らすことが可能な他のオプションがある。例えば、一用量群あたり各性10例を連続サンプリングによるTK(一用量群あたり各性4例)と休薬期間終了時の剖検(一用量群あたり各性6例)に分割する。別な方法として、図示した事例において、第4のセットの一用量群あたり各性10例(M4/F4)を出生63日後のTK評価のため一用量群あたり各性4例(採血終了後に安楽殺を伴わない連続サンプリングが通常実施可能な齢)と、CNS評価のため一用量群あたり各性6例に分割する。第3のセットの一用量群あたり各性10例(M3/F3)もまたCNSのサブセットに割り付け、一用量群あたり計16例/性とする。これらのオプションはいずれもCNS評価のために動物を追加する必要性を減らす。適切なエンドポイントと割り付けを含め試験計画についてよく考慮することにより、必要な腹数や動物の総数を最小化できる。