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○「製造販売後データベース調査で用いるアウトカム定義のバリデーション実施に関する基本的考え方」の策定について

(令和2年7月31日)

(事務連絡)

(各都道府県衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課通知)

医薬品の再審査及び再評価の申請資料を作成するために製造販売業者等が行う製造販売後調査の一つとして規定されている、医療情報データベース取扱事業者が提供する医療情報データベースを用いた製造販売後データベース調査の実施に当たっては、アウトカム定義を慎重に検討するとともに、必要に応じて、アウトカム定義のバリデーションを実施することが重要です。

今般、独立行政法人医薬品医療機器総合機構より、別添のとおり、製造販売後データベース調査で用いるアウトカム定義のバリデーション実施に関する基本的考え方を策定した旨通知されましたので、御了知の上、御周知願います。

[別添]

○製造販売後データベース調査で用いるアウトカム定義のバリデーション実施に関する基本的考え方の策定について

(令和2年7月31日)

(/薬機レギ長発第0731001号/薬機審長発第0731001号/)

(厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長あて独立行政法人医薬品医療機器総合機構レギュラトリーサイエンスセンター長・審査センター長通知)

(公印省略)

平成30年4月1日付けで施行された「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令」(平成29年厚生労働省令第116号)において、再審査及び再評価の申請資料を作成するために製造販売業者等が行う製造販売後調査の一つとして、医療情報データベース取扱事業者が提供する医療情報データベースを用いた製造販売後データベース調査(以下「製販後DB調査」という。)が明示されました。

製販後DB調査の実施に当たっては、アウトカム定義を慎重に検討するとともに、必要に応じて、アウトカム定義のバリデーションを実施することが重要ですので、製販後DB調査におけるアウトカム定義のバリデーション実施に関する基本的考え方を別添のとおり策定しました。御了知のうえ、関係者等に対し周知方よろしくお願いいたします。

製造販売後データベース調査で用いるアウトカム定義のバリデーション実施に関する基本的考え方

2020年7月31日

独立行政法人医薬品医療機器総合機構

目次

1.本文書の背景と目的

2.本文書の適用範囲

3.アウトカム定義のバリデーションの重要性

4.アウトカム定義の一般的なバリデーション実施方法

5.バリデーション実施計画における具体的留意事項

5―1.対象となるアウトカムの明確化

5―2.医療情報データベースの特徴整理とアウトカム定義の検討

5―3.index dateの定義

5―4.対象集団の検討

5―5.バリデーション実施施設の選定

5―6.データ抽出のためのコードリストやプログラム等の作成

5―7.真のケースの判定

5―7―1.真のケースの判定方法

5―7―2.カルテレビューにおける真のケースの判定者

5―8.アウトカム定義の評価

5―8―1.アウトカム定義のバリデーションにおいて検討すべき指標

5―8―2.感度に関する検討手法

5―8―3.カルテレビュー時の対象症例数

5―9.適切なアウトカム定義の決定

6.その他の留意事項

6―1.バリデーション結果の公表

6―2.バリデーションの再実施

7.用語の定義

1.本文書の背景と目的

平成24年4月11日付けで発出された「医薬品リスク管理計画指針について(薬食安発0411第1号、薬食審査発0411第2号)」において、医薬品安全性監視活動における医療情報データベースの利用可能性が述べられている。また、平成30年4月1日付けで施行された「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令等の一部を改正する省令」(平成29年厚生労働省令第116号)において、再審査及び再評価の申請資料を作成するために製造販売業者等が行う製造販売後調査の一つとして、医療情報データベース取扱事業者が提供する医療情報データベースを用いた製造販売後データベース調査(以下「製販後DB調査」という。)が明示的に規定された。さらに、製造販売後の医薬品安全性監視活動において医療情報データベースを利用する際の留意事項については、「製造販売後の医薬品安全性監視における医療情報データベースの利用に関する基本的考え方について」(平成29年6月9日付け薬生薬審発0609第8号、薬生安発0609第4号)において示され、製販後DB調査の実施に当たっては、アウトカム定義を慎重に検討するとともに、必要に応じて、アウトカム定義の妥当性を検証すること(以下「バリデーション」という。)が求められている。

本文書は、製販後DB調査で用いるアウトカム定義についてバリデーションを実施する際の基本的な考え方を述べたものであり、円滑なバリデーションの実施を促進することを目的とする。なお、学問の進歩等を反映した合理的根拠がある場合には、必ずしも本文書に示した方法を固持するよう求めるものではない。

2.本文書の適用範囲

本文書の適用範囲は、再審査及び再評価申請のための製販後DB調査であって、具体的な安全対策措置等の主たる根拠となることを目的として実施される調査1)で用いるアウトカム定義について、バリデーションを実施する場合である。

なお、本文書で用いる用語の定義については、第7章を参照すること。

――――――――――

1 安全性等に関する具体的な懸念があるものの、安全対策措置をとるための情報が不足しており、添付文書における注意喚起レベルの強化又は緩和(新規事項の追加を除く)、又は注意喚起内容の具体化を目的とする調査若しくは再評価のための事項について検討することを目的とする調査等を指す。

3.アウトカム定義のバリデーションの重要性

製販後DB調査を実施する場合には、対象となるアウトカムについて、その発現割合、発現率、相対リスク等の効果指標を算出し、安全性の評価等を行うこととなる。調査目的によって程度は異なるものの、効果指標を適切に算出するためには、アウトカムの発現を正確に特定することが重要である。臨床検査値のみで定義することが可能なアウトカムのように、医療情報データベースに記録されている情報のみでアウトカムの発現を客観的に判定可能な場合は、その情報を直接用いることが可能であり、バリデーションを実施する必要はないが、そのようなアウトカムであっても、医療行為(検体検査や生理学的検査等のアウトカムの診断方法や薬剤治療、手術等の治療介入等)等の実態を十分に把握した上で適切にアウトカム定義を作成することが重要である。臨床検査値に基づきアウトカムの発現を特定する場合の留意事項を参考までに別添に示す。

一方で、アウトカムの発現が医療情報データベースに含まれる情報から客観的に判定できないような場合においては、当該データベースに記録されている医療情報(傷病名の付与、医薬品の処方、検査の実施・結果等)を組み合わせたアウトカム定義を作成し、アウトカム定義に合致する症例を、真のケースとみなして特定することが一般的である。ここで重要なことは、この作成したアウトカム定義が、実際にどの程度真のケースを特定できているかということを理解しておくことである。例えば、医療情報データベースに記録された傷病名のみでアウトカムを発現しているとみなした場合、その中にはアウトカムを実際には発現していない症例が含まれる可能性がある。したがって、医薬品の安全性評価や安全対策等を適切に実施するためには、アウトカム定義の妥当性をあらかじめ検討し、当該アウトカム定義を用いた場合に特定される集団の特徴等を明確化しておくことが必要である。

上述したように、製販後DB調査結果の評価に当たりアウトカム定義の妥当性の検討が重要であるため、バリデーション実施計画については、本文書を参考に検討した上で、バリデーションの必要性も含め、あらかじめ独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)と相談することが望ましい。

また、バリデーションの実施に当たっては、医療機関や医療情報データベース取扱事業者の協力が必要不可欠であることから、バリデーションを計画・実施する者(製薬企業等)は、バリデーションの重要性や必要性等について理解が得られるように、医療機関や医療情報データベース取扱事業者に十分に説明する必要がある。

4.アウトカム定義の一般的なバリデーション実施方法

アウトカム定義のバリデーションにおける一般的に想定される検討プロセス(下図)は、1)対象となるアウトカムの明確化、2)医療情報データベースの特徴整理とアウトカム定義の検討、3)index dateの定義、4)対象集団の検討、5)バリデーションを実施する施設(以下「バリデーション実施施設」という。)の選定、6)データ抽出のためのコードリストやプログラム等の作成、7)真のケースの判定、8)アウトカム定義の評価、9)適切なアウトカム定義の決定、である。これらは、並行して実施することや順番を前後した方がよい場合もあるため、必ずしもこの順番で実施することを定めるものではない。なお、アウトカム定義を評価した結果、十分な陽性的中度(以下「PPV」という。)や感度が得られなかった場合には、アウトカム定義を再検討する、又は当該アウトカムを製販後DB調査で評価することの適切性について改めて検討する必要がある。

また、製販後DB調査で用いるアウトカム定義の選択に当たっては、バリデーション結果についても十分に考慮すべきであるため、アウトカム定義のバリデーションは、原則、製販後DB調査を開始する前に実施すべきである。

図 アウトカム定義のバリデーションにおける検討プロセス

5.バリデーション実施計画における具体的留意事項

アウトカム定義のバリデーションを実施する際には、実臨床での状況を正確に理解した上で、薬剤疫学的な観点から考慮すべき事項等が十分に検討できるよう計画することが重要である。そのためには、バリデーションを計画・実施する者(製薬企業等)が十分に検討すべきであるが、例えば、計画段階から以下のような専門性を有する有識者の助言も得ながら検討することが望ましい。

・ 次の点について、用いる医療情報データベースに含まれる医療機関又はその可能性のある医療機関での診断、治療等に精通している臨床経験豊富な医師

― 製販後DB調査で対象とする医薬品の効能・効果

― 製販後DB調査の対象となるアウトカム

・ 医療情報を専門とし、アウトカム定義のバリデーションに精通している有識者

・ 薬剤疫学又は生物統計を専門とし、アウトカム定義のバリデーションに精通している有識者

・ 電子レセプト等の医療情報の記録や処理に精通している診療情報管理士

その他、各検討プロセスにおいて、特に留意すべき事項等は5―1.項から5―9.項に記載する。これらの事項について、十分に検討した上で、その対応方法等については、バリデーション実施計画書において明確に記載すべきである。

5―1.対象となるアウトカムの明確化

医薬品リスク管理計画に挙げられた安全性検討事項について、製販後DB調査を計画する場合は、その対象となるアウトカムについてアウトカム定義を検討することになる。数ある医療情報を組み合わせて適切にアウトカム定義を作成するためには、肺炎、心不全といった疾患の分類だけでなく、調査すべき懸念事項を踏まえ、重症度等も含めて具体的に検討したい事象がどのような事象であるのか、臨床的観点から検討し、明確化する必要がある。例えば、同じ疾患であっても、入院治療や手術を必要とする重度な症例のみを対象とするのか、軽度な症例も対象とするかによって、アウトカム定義に盛り込むべき医療情報の条件は異なる。重症度や発現時に呈する症状等も考慮した上で、製販後DB調査の対象となるアウトカムを、バリデーション実施計画を立案する前に明確化し、あらかじめPMDAと合意しておくことが必要である。

また、この検討を踏まえて、製販後DB調査の対象となるアウトカムの発現を適切に特定するためには、一つのアウトカム定義ではなく、複数の独立したアウトカム定義を作成する必要性についても、併せて検討する必要がある。例えば、脳卒中に対する検討を行う際に、脳卒中を特定するための一つのアウトカム定義を作成するのではなく、脳卒中を臨床的な観点から脳梗塞、脳出血等の複数の疾患に分けた上で、それぞれに対して独立したアウトカム定義を作成する必要性を検討することが考えられる。

5―2.医療情報データベースの特徴整理とアウトカム定義の検討

適切なアウトカム定義を検討するためには、まず、医療情報データベースの特徴を正確に理解し、その医療情報データベースで利用可能なデータ項目やその項目に含まれる内容等を整理する必要がある。その上で5―1.項での検討を踏まえ、当該データベースで利用可能なデータ項目に基づき、対象となるアウトカムの発現を最も適切に特定可能と想定されるアウトカム定義を検討する。一般的には、対象となるアウトカムが発現した際に実施され得る医療行為等を確認し、関係する傷病名の付与、医薬品の処方、検査の実施又は結果等の複数の条件を組み合わせて定義する。また、アウトカム定義の作成においては、以下の点等についても検討し、明確化する必要がある。

・ 条件に用いる医療情報の情報源やデータ項目:例えば、傷病名の条件に関しては、様々な情報源(レセプトデータ、DPCデータ、電子カルテデータ等)やデータ項目(DPCデータの主傷病名、最も医療資源を投入した傷病名等)があるため、どの医療情報を用いるべきかを検討しなければならない。

・ 複数の条件の時間的関係:例えば、傷病名の付与と医薬品の処方の2つの条件を組み合わせたアウトカム定義を作成する場合には、傷病名の付与日と同日の医薬品の処方のみを対象とするのか、あるいは傷病名の付与日も含め一定の期間内における医薬品の処方を対象とするのかを検討しなければならない。

なお、一般的には、製販後DB調査で用いるアウトカム定義を複数の候補の中から適切に選択するため、対象となるアウトカムについて、一つではなく数個から十数個のアウトカム定義を作成し、各アウトカム定義のPPV、感度等の指標を算出することが推奨される。また、作成したそれぞれのアウトカム定義については、十分な症例数を確保することが可能かという実施可能性の観点から、アウトカム定義の検討段階において、バリデーション実施施設における各条件やアウトカム定義に該当する人数等を可能な限り確認しておくことが望ましい。

5―3.index dateの定義

アウトカム定義のバリデーションにおけるindex dateは、アウトカム発現日、コホートエントリー日等のアウトカム定義に組み入れる条件の前後関係及び時間的な範囲の起点や、カルテレビューを実施する際のレビュー対象期間の起点となる重要な日付情報である。また、index dateは製販後DB調査においては、アウトカム定義で特定されたアウトカムの発現日となり得るため、この点にも留意し、データの特性等を理解した上で慎重な検討が必要である。

繰り返し発生する事象等により、同一患者において複数回のindex dateを有することが想定される場合には、初回のindex dateのみをバリデーションの対象とするのか、全てのindex dateを対象とするのかについて定める必要がある。アウトカムとなる疾患の特徴(急性疾患か慢性疾患か等)やindex dateとした日付情報並びにアウトカム定義を用いる製販後DB調査での集計方法等を踏まえて、具体的な対応方法を検討すべきである。

5―4.対象集団の検討

アウトカム定義のバリデーションにおける対象集団については、製販後DB調査で想定している対象集団をもとに、具体的な組み入れ基準等を検討していくことになるが、対象集団の設定については慎重に検討する必要がある。一般的には、同じアウトカムに関するバリデーションの実施を必要最小限とし、妥当性が評価されたアウトカム定義をできる限り広く活用するために、可能な限り広い患者層を対象として、バリデーションを実施することが効率的である。そのためには、対象集団の設定に当たり、対象とするアウトカムに対する医療行為等が基礎疾患ごとに異なるか否かを、個別のアウトカムごとに検討し、医療行為等が同様で、アウトカム定義を構成する条件に差異はないような最大限の集団を対象集団として設定することの検討が推奨される。例えば、ある疾患Aにおける医薬品投与時の有害事象について検討する場合に、その有害事象が発現した際に実施され得る医療行為等が疾患Aの患者とそれ以外の疾患Bの患者で異ならなければ、アウトカム定義のバリデーションを実施する対象患者に、疾患Aのみではなく疾患Bの患者も含める可能性を検討することが考えられる。

一方で、アウトカムの診断方法や治療介入が、製販後DB調査の対象集団において特殊である等、製販後DB調査で対象とする集団が、バリデーションにおける対象集団と患者背景等の観点で同様とはみなせない場合には、同じアウトカム定義であっても、製販後DB調査における対象集団に限定して、改めてバリデーションを実施する等の対応が求められることもある。

なお、対象集団における基礎疾患の差異や重症度等の主要な要素に着目した部分集団解析を実施し、作成したアウトカム定義が適用可能な集団の範囲を検討しておくことが有用である。

また、製販後DB調査の実施に当たっては、バリデーションの対象集団及び結果を踏まえて、作成されたアウトカム定義が製販後DB調査の対象集団に適用可能であるか、改めて慎重に検討する必要がある。

5―5.バリデーション実施施設の選定

アウトカム定義のバリデーションは、製販後DB調査で用いる医療情報データベースに含まれる全ての医療機関において実施することが理想的ではあるが、多くの場合、全ての医療機関での実施は困難であるため、バリデーション実施施設を選定する必要があり、時には医療情報データベースに含まれない医療機関での実施も想定される。そのため、バリデーション実施施設は、利用する医療情報データベース全体への一般化可能性等についても検討できるよう、原則として複数施設を選定すべきである。

バリデーション実施施設の選定に当たっては、製販後DB調査に用いる医療情報データベースに含まれる医療機関の特徴とバリデーション実施施設の特徴を、以下の点等について比較して、検討結果に影響を与える重大な差異がないことを確認し、選定したバリデーション実施施設が製販後DB調査で用いる医療情報データベースに含まれる医療機関の特徴に対して代表性を有することを説明できるようにしておく必要がある。

・ 医療機関の特徴(開設者別<大学病院、クリニック等>、機能別分類<特定機能病院、地域医療支援病院>等)における差異

・ 患者の特徴(年齢、性別、対象疾患の重症度等)における差異

・ アウトカム定義の各要素を構成する条件の差異(医療情報のコーディングシステムの違いや定義の揺らぎ、記録頻度の違い等によって生じる分布の差異)

医療情報データベースに含まれる医療機関について特徴に基づきグループ化できるような場合には、各グループから1施設以上を選定するといった方法も考えられる。

ただし、例えば、診断や治療が限られた医療機関に集約されているようなアウトカムを対象とする場合は、上述した特徴等を考慮してもアウトカム定義の妥当性を適切な集団で評価できない可能性がある。このような場合は、あらかじめ対象とすべき集団についてより具体的に検討し、そのアウトカムの診断や治療を行っている医療機関をバリデーション実施施設に含める必要がある。

なお、医療情報データベースの特徴等を踏まえた代表性のある医療機関を選定した場合であっても、限られた施設での実施となることから、バリデーションの結果を、当該データベース全体に適用する際の適切性や限界については、あらかじめ十分に検討し、製販後DB調査では、結果に及ぼしうる影響を検討するための解析を実施する等の具体的な対応についても検討すべきである。

5―6.データ抽出のためのコードリストやプログラム等の作成

対象患者の基準やアウトカム定義に基づき、検討に必要なデータを適切に抽出するためには、医療情報データベースの特徴(データ構造、データ抽出する際に利用可能なデータ項目、データ抽出システムにおける機能的制限等)を十分に理解した上でコードリスト、プログラム等を作成する必要がある。また、コードリスト作成時には、アウトカム定義に組み入れる各条件について、参照するマスタの適切性(バージョン、検索又は抽出する対象のコード等)を確認し、マスタからコードを検索する際のキーワード等を明確にした上で、コードの特性及び医療現場でのコーディングの実態を踏まえて、対象とすべきコードに漏れがなく、明らかに不要なコードが含まれていないかを確認すべきである。

5―7.真のケースの判定

5―7―1.真のケースの判定方法

真のケースの判定に当たっては、可能な限り客観的に判断できるように判定基準及びその方法を明確にする必要がある。一般的には、臨床検査値、又は真のケースが収集されているレジストリ等(例:院内がん登録)での情報に基づき判定する方法やカルテレビューに基づき判定する方法がある。それぞれの手法における留意点は以下のとおりであるが、どの手法を用いた場合であっても、統一的な基準に基づき判定できるように、症例の判定基準を具体的かつ客観的に記述した判定票等をあらかじめ専門医の意見を踏まえて作成し、判定者は当該判定基準を理解した上で実施する必要がある。

・ 臨床検査値

臨床検査値が利用可能な場合には、検査結果値又はその変動幅が一定の基準を超えた際に真のケースと判定する等、臨床検査値のみで判定可能となり得る。この方法を採用する場合には、関連する治療ガイドライン等から、臨床検査値のみによって、真のケースを判定可能と考える根拠を提示できるようにしておく必要がある。また、対象とする臨床検査値のコードや単位等が医療情報データベース内で標準化されているか等についても確認しておく必要がある。

・ レジストリ

特定の疾患を対象としたレジストリとのリンケージが可能な場合には、レジストリの情報をもとに真のケースかを判定できる可能性がある。しかしながら、レジストリによって収集しているデータが異なることから、この方法を採用する場合には、レジストリにアウトカムの発現を直接判定できるデータ項目が記録されているか、どのような症例が登録対象となっているのか等、レジストリの特徴を事前に確認し、レジストリに基づき適切に真のケースか判定可能であるという根拠を提示できるようにしておく必要がある。

・ カルテレビュー

臨床検査値やレジストリの活用のみでは判断が困難な場合であっても、カルテ内容を精査することで適切に真のケースを判定できる可能性がある。この方法を採用する場合は、原則として、真のケースの判定者(以下「判定者」という。)が、カルテにある病名の記載の有無のみを確認して真のケースかを判定するのではなく、症状、画像等の臨床所見に関する記録も改めて確認し、カルテが記録された時点における診断とは独立して判定することで、真のケースかを判定することが必要である。なお、他の手法であっても、評価に関する信頼性があらかじめ確認されていれば用いることは可能であるが、信頼性が担保されているという根拠を提示できるようにしておく必要がある。

5―7―2.カルテレビューにおける真のケースの判定者

カルテ内容を精査して、真のケースを判定する場合には、原則として、1症例に対して2名以上の専門医が独立して判定を行うことが望ましい。2名以上の専門医による独立した判定が困難な場合であっても、カルテ内容の精査や真のケースの判定については、専門医が関与しながら、客観的かつ統一的に対応できるようあらかじめ十分に検討すべきである。例えば、専門医ではない医師が初期の判定を実施した上で、最終判定を専門医が実施する方法や、判定に必要な情報の収集等は医師以外の医療従事者が対応し、判定は専門医が実施する方法等が考えられる。

なお、判定者間で判定が分かれた場合における真のケースの判定方法についても事前に手順を定めておくことが必要であり、判定の一致度を評価するため、κ係数等を用いることが推奨される。

5―8.アウトカム定義の評価

5―8―1.アウトカム定義のバリデーションにおいて検討すべき指標

アウトカム定義の妥当性を評価するためには、PPV、感度、特異度、陰性的中度(以下「NPV」という。)を算出して検討することが望ましい。しかしながら、カルテレビューで真のケースを判定する場合、これらの指標の全てを求めることは実施可能性の観点から困難な場合も想定される。製販後DB調査として、対照群に対する曝露群の相対リスクを算出して、曝露とアウトカムとの関連性の強さを評価する場合が挙げられるが、対照群に対する相対リスクを適切に算出する観点から、アウトカム定義の妥当性の評価においてPPVは重要な指標であると考えられる。

また、製販後DB調査の結果を適切に解釈し、安全対策措置の範囲や程度等を検討するためには、アウトカム定義により特定された集団が、対象となるアウトカム全体のうち、どの程度を網羅できているのかを把握しておくことが必要である。この観点から、原則として、感度についても副次的に検討すべきである。絶対リスクを評価する際や、複数のアウトカム定義から製販後DB調査で用いるアウトカム定義を選択する上でも感度は有用な指標と考えられる(アウトカム定義の決定については5―9.項参照)。

なお、実施可能性の観点等から、特異度とNPVの算出は必須ではないが、アウトカム定義で特定された集団の特徴を適切に理解する上で、偽陽性及び偽陰性となった症例について、臨床的な観点から考察しておくことは有用である。

5―8―2.感度に関する検討手法

感度については、医療情報データベースに含まれる全症例を評価して算出することが理想的ではある。しかしながら、全症例を対象とした評価や、アウトカムが希な場合における全症例からランダムサンプリングした集団を対象とした評価は、実施可能性の観点から困難な場合が多い。そのような場合には、全ての真のケースが含まれると想定される集団(以下「all possible cases」という。)を特定していると考えられる広義の定義を作成し、その定義に該当する症例についてのみカルテレビューを実施し、定義に該当しない症例は、カルテレビューを経ずに真のケースではないと判定するといった方法も考えられる2,3,4)。また、all possible casesを用いて検討する場合であっても、カルテレビュー対象数が相当程度に多く、現実的に実施困難であれば、all possible casesを特定した後に、ランダムサンプリングした集団を対象としてall possible casesに基づく感度を算出することも一案と考えられる。

ただし、all possible casesに基づく感度については、真のケースに該当する全ての症例がall possible casesに含まれることを前提としているため、この前提を満たすようにall possible casesの定義については慎重に検討する必要がある。真のケースの取りこぼしが多く発生し、適切なall possible casesの定義が作成できなければ、all possible casesに基づく感度は高く算出されることに留意しなくてはならない。したがって、all possible casesを適切に定義できないような場合には、調査結果を適切に評価できなくなる可能性があり、製販後DB調査の実施について再考が必要となる場合もある。

――――――――――

2 Krysko, K. M., Ivers, N. M., Young, J., O’Connor, P., &Tu, K. (2015). Identifying individuals with multiple sclerosis in an electronic medical record. Multiple Sclerosis Journal, 21(2). 217‐224.

https://doi.org/10.1177/1352458514538334

3 Widdifield, J., Ivers, N. M., Young, J., Green, D., Jaakkimainen, L., Butt, D. A., …Tu, K. (2015). Development and validation of an administrative data algorithm to estimate the disease burden and epidemiology of multiple sclerosis in Ontario, Canada. Multiple Sclerosis Journal, 21(8), 1045‐1054.

https://doi.org/10.1177/1352458514556303

4 岩上将夫,青木事成,赤沢学,石黒智恵子,今井志乃ぶ,大場延浩,草間真紀子,小出大介,後藤温,小林典弘,佐藤泉美,中根早百合,宮崎真,久保田潔.(2018).「日本における傷病名を中心とするレセプト情報から得られる指標のバリデーションに関するタスクフォース」報告書.薬剤疫学,23(2),95―123.

https://doi.org/10.3820/jjpe.23.95

5―8―3.カルテレビュー時の対象症例数

上述したように、アウトカム定義のバリデーションにおいては、原則として、PPVと感度について検討が必要であるが、アウトカム定義に基づき抽出された症例数が多い場合、全症例についてカルテレビューを実施することが困難な場合も多い。そのような場合には、カルテレビューの対象症例をランダムサンプリングすることも可能であるが、一定の精度を確保しながら評価するためには、バリデーションで検討するアウトカム定義のうち、製販後DB調査で用いることが期待されるいくつかのアウトカム定義について、計画時においてPPVの95%信頼区間の幅が±10%以下となるように症例数を設定することが必要である。感度についても、一定の精度を担保することが重要であるため、all possible casesに基づく感度を用いる場合には、原則としてall possible casesの中に含まれる真のケースが100例以上となるように計画することが必要である。また、感度の検討に当たり著しく点推定値の精度が低いと想定される場合には、その精度を考慮した保守的な症例数設計が推奨される。なお、カルテレビュー対象症例数に極端な差が生じないよう、各バリデーション実施施設において、カルテレビュー対象症例数が一定数以上になるよう計画すべきである。

5―9.適切なアウトカム定義の決定

製販後DB調査で用いるアウトカム定義は、検討した全てのアウトカム定義について、PPV、感度等を精査し、PPVと感度のバランスを考慮して選択する必要がある。PPVが最も高値であるアウトカム定義だけでなく、PPVが比較的高値で、感度も高値を示すアウトカム定義についても複数特定し、これら複数のアウトカム定義を製販後DB調査で用いることが適切である。なお、製販後DB調査において、用いるアウトカム定義としていずれが適切であるかについては、バリデーション結果を踏まえて、事前にPMDAと合意しておく必要がある。

6.その他の留意事項

6―1.バリデーション結果の公表

アウトカム定義のバリデーションについては、医療機関及び医療情報データベース取扱事業者の理解と協力により達成できるものであり、実施のためには多くのリソースを必要とする。妥当性が評価されたアウトカム定義が存在し、当該アウトカム定義が作成された時点と比較して、医療環境等に大きな変化がない場合は、同様の特徴を有する医療情報データベースで用いる限り、バリデーションを実施した者以外も当該アウトカム定義を活用可能であり、同一のアウトカムに対してバリデーションを繰り返し実施する必要性はない。この観点から、製販後DB調査で検討可能なアウトカムを迅速に整備し、かつ、バリデーションに必要なリソースを最小限とするためには、バリデーション結果については、実施方法も含めて公表されることが望ましい。バリデーション結果の公表は、製販後DB調査の適切な実施を促進するだけでなく、結果の透明性を確保し、適切な評価を促進する観点においても重要と考えられる。

6―2.バリデーションの再実施

既に妥当性が評価されたアウトカム定義であっても、バリデーションを実施した医療情報データベースと特徴が大きく異なる医療情報データベースを用いる場合や、同一の医療情報データベースを用いる場合であっても、バリデーション実施後に診療ガイドラインの改定、標準治療の変更、コードの大幅な変更等によりアウトカムを取り巻く医療環境が変化した場合には、アウトカム定義の妥当性が担保されていない可能性がある。したがって、既に妥当性が評価されたアウトカム定義を用いる場合には、用いる医療情報データベースがアウトカム定義のバリデーションが実施された医療情報データベースと同様の特徴を有するかを確認するとともに、そのバリデーションが実施された時期、その後の医療環境の変化等を精査し、アウトカム定義のバリデーションを再度実施する必要がないかについても検討すべきである。

7.用語の定義

本文書で使用する用語の定義を以下に示す。

DPCデータ

「厚生労働大臣が指定する病院の病棟における療養に要する費用の額の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第93号)第5項第3号に基づき厚生労働省が収集し管理する情報。

アウトカム

製販後DB調査の対象となる有害事象等。

アウトカム定義

アウトカムの発現を医療情報データベース上で特定するためのアルゴリズム。一般的に、複数の医療情報を組み合わせて作成する。

感度

医療情報データベース内に含まれる真のケースのうちアウトカム定義が特定している真のケースの割合を示す指標を指す。なお、特段の記載がない場合には「感度」はall possible casesに基づく感度を含む。

真のケース

実際にアウトカムを発現している症例。

レセプト

診療報酬明細書。

(別添)

臨床検査値のみでアウトカムを定義する際の留意事項

1.複数の臨床検査を組み合わせてアウトカム定義を作成する必要がないか確認する。

臨床検査値のみでアウトカム定義を作成する場合であっても、1種類の検査結果からアウトカム定義を作成することが可能であるとは限らず、複数の検査を組み合わせる必要がある場合がある。例えば、好中球検査の場合、医療情報データベースでは、好中球数の値が検査結果のデータとして必ずしも記録されているわけではないため、白血球数(単位:103/μL)と、白血球中の好中球の割合(単位:%)から、好中球数を計算することが必要な場合もある。さらに、白血球中の好中球の割合は、好中球をさらに細分化した、桿状核、分葉核それぞれの割合(単位:%)として示されている場合があり、桿状核及び分葉核の割合を白血球中の好中球の割合として計算することが必要な場合もある。

2.ベースライン(曝露開始前)の検査結果の利用可能性を確認する。

2―1.検査値でアウトカムを定義する場合の留意点

臨床検査値でアウトカムを定義する場合は、曝露開始後の臨床検査値によってアウトカム定義を作成するため、曝露開始前の臨床検査値はアウトカム定義には含めない。例えば、好中球減少について、有害事象共通用語基準(Common Terminology Criteria for Adverse Events, CTCAE)に基づきアウトカムを定義する場合は、注目する好中球減少のGradeを決定し、当該Gradeで定義された好中球数の値でアウトカムを定義することが一般的である。

なお、曝露開始前の検査結果については、対象集団の定義において考慮する必要がある。例えば、曝露開始前にGrade3やGrade4の好中球減少が発現している患者も存在する可能性があり、曝露開始前に好中球減少が発現している症例は、対象集団から除外する等、ベースラインの検査結果については、対象集団の定義において考慮する必要がある。

2―2.曝露開始前の臨床検査値からの相対変化に基づきアウトカムを定義する場合の留意点

曝露開始前の臨床検査値と曝露開始後の臨床検査値の相対変化でアウトカムを定義する場合は、曝露開始前の臨床検査値が必要であるため、曝露開始前の検査の利用可能性を確認する必要がある。例えば、曝露開始日以前の検査の実施回数や曝露開始日直前の検査日についてあらかじめ確認する必要がある。曝露開始前の臨床検査値が取得できない場合も考えられ、曝露開始前の臨床検査値と曝露開始後の臨床検査値の相対変化でアウトカムを定義する際、必要に応じて、別のアウトカム定義を検討する、あるいは欠測を補完して解析を実施する等、結果の頑健性について確認する必要がある。

2―3.曝露開始日当日の検査結果の取り扱いに関する留意点

医療情報データベースには、日付情報はあるが時間情報がない場合もあり、同日に実施された対象薬剤の投与と検査の実施の前後関係は不明な場合がある。曝露開始日当日の検査結果をベースラインの検査結果として取り扱うのか、あるいは曝露開始後の値として取り扱うか等についてあらかじめ検討した上で、必要に応じて条件を変更した解析を実施し、結果の頑健性を確認する必要がある。

以上