添付一覧
○成人と合わせて評価可能な小児(10歳又は12歳以上の小児)の臨床評価の留意点について
(令和2年6月30日)
(事務連絡)
(各都道府県衛生主管部(局)あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課通知)
今般、小児を対象とした医薬品の臨床開発の一層の効率化、適正化を図ることを目的として、成人と合わせて評価可能な小児の年齢層及び疾患について、臨床評価の留意点を別添のとおり取りまとめましたので、貴管下関係事業者に対し周知願います。
なお、本留意点は、現時点での原則的な考え方をまとめたものであり、個別事例によっては、必ずしもここに示された考え方が当てはまらない場合もあり得ることを申し添えます。
別添
成人と合わせて評価可能な小児(10歳又は12歳以上の小児)の臨床評価の留意点について
Ⅰ.総論
1.背景及び目的
医薬品の開発では、一般的に成人を対象にした開発を先行させ、小児の用法・用量の開発は成人の開発後に行われる。また、小児の用法・用量の開発は、臨床試験の実施が難しい場合や、市場規模が小さいなど経済的な理由から、進みにくい状況もある。そのため、小児に必要な医薬品の用法・用量の開発が進まず、小児の用法・用量が承認されていない状況下で、臨床使用されているものもある。
一方、小児を対象とした臨床試験に基づき用法・用量が設定された医薬品では、12歳以上の小児などに対し、成人と同一の用法・用量が承認されている事例も見られる。また、多数の小児患者が存在する疾患を対象としたものを除き、非盲検非対照試験や、登録症例数が少ない等、得られている情報は限られているものもある。また、小児で多数の患者が存在する疾患においては、同一疾患を対象としているにもかかわらず、臨床試験で組入れられた年齢区分が開発薬剤によって異なった結果として、薬剤ごとに投与対象となる小児の年齢区分が異なり、医療現場での使用に注意を要する場合もある。
国際的には、医薬品規制調和国際会議(ICH;the International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use)において、小児集団に対する臨床試験に関する考え方を作成し、計画開始時の問題点、開始時期、試験の種類、年齢区分などが記載されている1),2),3)。小児医薬品の開発促進を目指し、米国食品医薬品局(FDA)は、昨年、抗悪性腫瘍薬の臨床評価に関し、病理学的、生物学的特徴が成人とAdolescentsで類似していると考えられる悪性腫瘍については、Adolescentsを成人の臨床試験に含めるべきとするガイダンス案を公表している4)
このような背景から、小児を対象とした医薬品の臨床開発の一層の効率化、適正化を図ることを目的として、成人と合わせて評価可能な小児の年齢層及び疾患について、臨床評価の留意点を取りまとめた。
なお、この留意点は現時点での原則的な考え方をまとめたものであり、個別事例によってはこの留意点に示された考え方が当てはまらない場合もあり得る。また、対象とした疾患に用いられる薬剤すべてで成人と小児を合わせて評価することを求めるものではなく、小児用医薬品の開発計画により成人における臨床試験の完了や成人用医薬品の臨床使用が遅れることがあってはならない1)。
2.対象年齢について
本留意点は、成人と小児で曝露量が同様と考えられ、小児に対する用法・用量が、成人と同一、または成人で複数用量が設定され、小児用量はその一部が該当するなど、成人の用法・用量の範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる年齢層の小児を対象とする。
一般的には、主な薬物代謝酵素、トランスポーターは10歳以上の小児で成人と発現量が大きく異ならないと報告されている5),6),7),8),9),10)。また、腎機能については10歳以上の小児で成人と変わらないものと報告されている10)。さらに、日本人の体格11)についても10歳や12歳以上で成人のばらつきの範囲に入っている集団が一定数いると考えられる。
以上を踏まえ、本留意点の対象とする年齢層は原則としては10歳又は12歳以上の小児とする。一方で、薬剤の特性だけでなく、対象疾患、病態により対象年齢を判断する必要があるため、具体的な年齢は対象疾患毎に検討する。ただし、対象となる年齢層は成長の度合いに個人差も大きい年齢層であることから、“5.各薬剤開発において考慮する事項について”に記載するように、対象となる年齢の小児を成人対象の臨床試験に含めることの妥当性について最終的には薬剤ごとに説明することが必要である。
なお、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象にできる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。
3.対象疾患について
対象となる疾患については、病態が成人と対象となる年齢の小児で類似しているもの、あるいは差異は認められるものの臨床評価上は類似とみなすことが許容されるものとする。該当する疾患は種々想定されるが、まずは、2型糖尿病、家族性高コレステロール血症、アレルギー疾患、抗菌薬・抗ウイルス薬、造血器悪性腫瘍をとりあげる。なお、他の疾患についても必要に応じて今後検討を進める。
また、成人の臨床試験に小児集団を組み入れることから、小児集団においても成人の臨床評価と同一の評価指標が使用できることが前提となる。患者の理解度が影響する指標については、対象とする年齢についても慎重に検討することが必要である。
4.小児を組入れる臨床試験について
本留意点は、小児に対する用法・用量が、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児を対象とする。そのため、本留意点の対象となる試験は、原則として、探索的試験において、成人に対する有効性、安全性について評価され、用法・用量が確定された後の検証的試験、長期試験を想定している。
一方で、臨床開発計画の多様性を踏まえると、探索的試験においても本留意点の考え方を適用できる場合もあり得る。ただし、このような開発において小児集団を試験に含める場合は、その妥当性について検討し、説明することが必要である。
臨床試験への小児の組入れにあたっては、安全性を考慮して著しく低身長や低体重の小児を除外することを検討するとともに、必要に応じて思春期未発来者を除外するなどの第二次性徴等も考慮する。
また、長期試験に小児を組入れる場合は、試験期間中における成長と発達が影響する可能性についても注意する必要がある。
5.市販後の情報収集及び情報提供について
市販前の臨床試験から得られる情報は、対象となる疾患・病態により、様々な理由から小児での臨床試験が容易でないもの(2型糖尿病など)、または、小児において一定数の患者が存在し、臨床試験が可能なものに(アレルギー性鼻炎)より異なる。
前者においては市販前に得られる情報が限られるため、市販直後から対象となる小児の年齢層に対する重点的な情報収集により、早い段階で得られた情報を医療現場に提供すべきである。この場合の情報収集は、特に安全性に関する情報を念頭に置く。また、疾患によっては、市販直後は対象施設などを限定して使用を開始し、段階的に使用を拡大する等の方策も考慮すべきである。添付文書においては、承認時点で対象となる小児集団において得られている情報が限られていることも記載して情報提供するとともに、得られた情報を迅速かつ確実に医療現場に届けるべきである。
後者においては、小児に関しても一定程度の情報が市販前に得られていることから、品目ごとに必要に応じた適切な情報収集を検討する。
また、対象となる小児に対する医薬品の適正使用の確保、安全性情報の確実な収集のためには、関連学会の積極的な連携や、医師、薬剤師の取り組みが重要である。
6.倫理的配慮
小児を対象とした臨床試験の実施に際しては、小児被験者の権利を守り、回避可能なリスクから保護し、苦痛を最小化するなどの特別な配慮が必要である。関連するICHガイドライン1),2),3)に従い、試験計画を作成、実施する必要がある。そのため、本留意点は、原則、成人を対象とした探索的試験において、有効性が期待され、安全性も許容される臨床用量が推定された以降の臨床試験を対象とする。
また、年齢・理解度に則したインフォームドアセントを実施する必要があることは言うまでもない。
7.ICHの小児関連のガイドライン1),2),3)との関係
ICHにおいて小児臨床評価に関する考え方が整理され、「小児用医薬品開発における外挿」(成人等のデータの小児への外挿)についても記載されている3)。また、現在、より詳細なガイダンスの作成に向けた議論が行われている。
今回の留意点は、「小児用医薬品開発における外挿」ではなく、個別の疾患・病態、小児の一部の年齢層により、医薬品の臨床評価の一般化、つまり成人に含めて評価が可能であるという立場に立っている。ただし、疾患・病態等の類似性に関わる考え方は、ICHに示された「小児医薬品開発における外挿」を検討する際の一般的な考え方と異なるものではない。
8.各薬剤開発において考慮する事項について
本留意事項において、成人と同時に開発可能な疾患・病態とされたものにおいても、薬剤ごとに安全性のプロファイル、得られている情報が異なることから、対象となる個別薬剤に関して、本留意事項の考え方を適用する妥当性を確認することが必要である。
また、臨床試験実施前や、承認申請において、当該開発方法の妥当性を説明することが必要である。妥当性の検討事項としては以下の点があげられる。
・ 非臨床試験などでの成長、発達への影響
一般的には、12歳以上の小児を対象とする場合は幼若動物を用いた試験は不要であるが、既存のデータが小児の臨床試験を実施するに十分でないと判断された場合には実施すべきである13),14)。
・ 用法・用量の妥当性
レ 対象となる年齢層において、体格又は体重が吸収、分布、代謝、排泄に及ぼす影響を、非臨床試験や成人の薬物動態試験等の既存のデータから説明する
レ 薬物動態、薬物動態/薬力学(PK/PD)、曝露―反応関係の情報から用法・用量が成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内とすることが可能と判断した理由(シミュレーションによる検討を含む)を明確化する
・ 慎重に投与すべき対象の有無
低身長児、低体重児など、体格が標準からはずれる小児について慎重な投与が必要と考えられる場合は、身長や体重の制限を設けることも検討する。
Reference:
1) 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて 平成12年12月15日付け医薬審第1334号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知
2) 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスに関する質疑応答集(Q&A)について 平成13年6月22日付け 厚生労働省医薬局審査管理課 事務連絡
3) 小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺について 平成29年12月27日付け薬生審査発1227第5号 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知
4) Consideration for the inclusion of Adolescent Patients in Adult Oncology Clinical Trials, Guidance for Industry, March 2019; U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), Center for Biologics Evaluation and Research (CBER), Oncology Center of Excellence (OCE)
5) Prasad B, et al. Interindividual variability in hepatic organic anion‐transporting polypeptides and P‐glycoprotein (ABCB1) protein expression: quantification by liquid chromatography tandem mass spectroscopy and influence of genotype, age, and sex. Drug Metab Dispos. 42: 78‐88, 2014
6) Strassburg CP, et al. Developmental aspects of human hepatic drug glucuronidation in young children and adults. Gut. 50: 259‐265, 2002
7) Tanaka E, In vivo age‐related changes in hepatic drug‐oxidizing capacity in humans. J Clin Pharm Ther. 23: 247‐255, 1998
8) Prasad B, et al. Interindividual variability in the hepatic expression of the human breast cancer resistance protein (BCRP/ABCG2): effect of age, sex, and genotype. J Pharm Sci. 102: 787‐793, 2013
9) Deo AK, et al. Interindividual variability in hepatic expression of the multidrug resistance‐associated protein 2 (MRP2/ABCC2): quantification by liquid chromatography/tandem mass spectrometry. Drug Metab Dispos. 40: 852‐855, 2012
10) Fernandez E, et al. Factors and Mechanisms for Pharmacokinetic Differences between Pediatric Population and Adults. Pharmaceutics. 3: 53‐72, 2011
11) 平成30年度学校保健統計(学校保健統計調査報告書)平成31年3月25日文部科学省
12) 「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について 平成22年2月19日付け薬食審査発0219第4号 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
13) 「小児用医薬品のための幼若動物を用いた非臨床安全性試験ガイドライン」について 平成24年10月2日付け薬食審査発1002第5号 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
14) 「小児用医薬品のための幼若動物を用いた非臨床安全性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」について 平成24年10月2日付け 厚生労働省医薬食品局審査管理課 事務連絡
Ⅱ.対象疾患毎の事項
1.2型糖尿病
(1) 病態について
本邦の小児2型糖尿病の発症率は欧米白人に比べて高く、学校検尿・糖尿病検診による発見率は小児10万人当たり2.5~3.5人/年と報告されている。小児2型糖尿病の発症年齢分布をみると9歳から10万人当たり0.5人と増え始め、14歳で2.5人とピークとなる1)。小児2型糖尿病患者では小児1型糖尿病患者に比べ合併症がより早期に発現するとも報告されている2)。
糖尿病の疾患概念については、日本糖尿病学会の糖尿病診断基準検討委員会によって1999年に発表された『糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告』によると、『インスリン作用の不足により起こる慢性高血糖を主徴とし、種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群である。その発症には遺伝因子と環境因子がともに関与する。代謝異常の長期間にわたる持続は特有の合併症を来しやすく、動脈硬化症をも促進する。代謝異常の程度によって、無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示す。』と定義されている。
糖尿病のうち2型糖尿病はインスリン分泌低下とインスリン感受性の低下が主体となるものであり、日本人の糖尿病の大多数を占める。この両因子の関与の程度は症例によって異なっており、インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある。膵β細胞機能はある程度保たれている。
小児2型糖尿病患者は成人2型糖尿病患者に比べてインスリン抵抗性を示す肥満患者が多く3),4)、また、診断時の年齢の中央値は11.9歳で、肥満を伴う2型糖尿病患者は小児でもより高年齢となるとも報告されている4)。しかしながら、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性が2型糖尿病の主たる成因であることは成人と小児で同様であり、病態の基礎に本質的な違いはないと考えられる。
(2) 治療実態について
「糖尿病診療ガイドライン,2019」(日本糖尿病学会編、南江堂 東京 2019、以下「国内ガイドライン」)の「小児・思春期における糖尿病」の項において、小児2型糖尿病は自覚症状が乏しいために治療の放置や中断が多く、小児1型糖尿病に比較して合併症の頻度が高いこと5)、我が国では食事・運動療法のみで血糖コントロールが得られるのは60~70%で、残りの症例において薬物療法が行われていることが記載されている。
小児2型糖尿病の薬物療法では、糖尿病診断時のHbA1cレベルが低い場合はαグルコシダーゼ阻害剤、中程度の場合はメトホルミンやスルホニルウレア剤、高い場合はインスリンが用いられていること、肥満を伴う2型糖尿病患者ではメトホルミンが安全で有効であること、一方で、単剤で治療を開始した多くの患者では、併用療法やインスリン単独療法に至ることが報告されている6)。小児2型糖尿病の薬物治療においても、個々の病態に応じて薬剤が選択されるという点では成人2型糖尿病と同様と考えられる。
なお、現在本邦において小児の用法・用量が承認されている経口血糖降下薬はメトホルミンとグリメピリドのみであり、メトホルミンでは10歳以上の小児について用法・用量が規定され、グリメピリドでは用法・用量における年齢区分はないが、添付文書の小児等への投与の項において9歳未満の小児に対する安全性は確立していないと記載されている。
(3) 成人と合わせて開発が可能と考える理由
本邦における成人と小児の2型糖尿病の病態については、小児においては成人に比べてインスリン抵抗性を示す肥満患者の割合が高い傾向があるという違いがある。しかしながら、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性が2型糖尿病の主たる成因であることは成人と小児で同様であり、病態の基礎に本質的な違いはないと考えられる。
糖尿病の治療の目標は血糖コントロールであり、臨床評価においては、患者ごとの病態の背景により異なった評価指標を用いることはせず、主要評価項目をHbA1cとし、副次評価項目として血糖などの指標をとることを推奨している。これは、症例によりインスリン分泌低下、インスリン抵抗性増加の関与の度合いが異なるとしても両因子を含め複合的な要因で成立するという病態の本質的な成り立ちに違いはないこと、治療の目標は血糖コントロールであり、薬剤の血糖コントロールの効果を確認することで目標が達成できることによる。
したがって、成人と小児でインスリン分泌不全、インスリン抵抗性の分布に多少の違いが存在するとしても、薬剤の有効性評価としては、小児においても成人同様に血糖コントロールへの効果を確認できればよく、成人と一定の年齢層の小児集団を一つの集団として評価することは可能である。
(4) 対象となる年齢層について
本留意点では、総論「2.対象年齢について」の項で記載したとおり、成人の用法・用量と同一、又はその範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児の年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。2型糖尿病においては病態や発症年齢を考慮すると10歳以上とすることが妥当と考えられる。なお、小児2型糖尿病では発症率が9歳から増え始めることが報告されており、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象にできる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。また、GLP―1受容体作動薬など用量調節が可能な製剤、SGLT2阻害薬など骨代謝などの成長に影響を及ぼす可能性のある薬剤にあたっての対象年齢の取扱いについては、個別に考慮すべきと考えられる。
(5) 臨床評価方法
本留意点の対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方であり、小児の臨床データの取得は、主に、検証的臨床試験、あるいは、長期投与試験によるものとなる。
2型糖尿病の成因の基礎が成人と小児で同様であること、また、用法・用量が成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内と考えられる年齢層を対象とすることを考慮すると、検証的臨床試験において小児部分集団の評価を行うことは必須ではない。一方で、血中薬物動態も含めた小児での情報を取得すること、一定の症例数が確保された場合には部分集団解析を行うことは有益であり、検証的試験や長期投与試験の対象に小児集団も含めるべきである。
なお、小児は成人と比較して身体活動の差が大きく、そのために低血糖の有害事象が生じやすいことも考えられるため、成人の試験に小児を組み入れる場合には留意が必要である。
(6) 市販後の情報収集
承認前に得られる小児集団のデータは限られるため、製造販売後調査等において対象となる小児集団については早期かつ重点的に調査し、結果を臨床現場に情報提供することが必要である。
(7) その他の留意点
小児の2型糖尿病治療は成人と同様に食事・運動療法で目的とした血糖コントロールが得られない場合に薬物療法を開始すべきこと、インスリン抵抗性など患者背景により薬物療法の優先順位も異なることから、承認申請に当たっては、開発薬剤の位置付けを説明することが必要である。
Reference:
1) 平成28~30年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業))「小児慢性特定疾病対策の推進に寄与する実践的基盤提供にむけた研究」総合研究報告書
2) Allison B. Dart, et al. Earlier onset of complications in youth with type 2 diabetes. Diabetes Care. 37: 436‐443, 2014
3) Urakami T, et al. Urine glucose screening program at schools in Japan to detect children with diabetes and its outcome‐incidence and clinical characteristics of childhood type 2 diabetes in Japan. Pediatr Res. 61: 141‐145, 2007
4) Sugihara S, et al., on behalf of the Committee for the Medical treatment of Childhood‐Onset Type 2 Diabetes Mellitus. The Japanese Society for Pediatric Endocrinology. Analysis of weight at birth and at diagnosis of childhood‐onset type 2 diabetes mellitus in Japan. Pediatr Diabetes. 9: 285‐290, 2008.
5) Yokohama H, et al. Higher incidence of diabetic nephropathy in type 2 than in type 1 diabetes in early‐onset diabetes in Japan. Kidney In. 58: 302‐311, 2000
6) Sugihara S, et al. Survey of Current Medical Treatments for Childhood‐Onset Type 2 Diabetes Mellitus in Japan. Clin Pediatr Endocrinol. 14: 65‐75, 2005
2.家族性高コレステロール血症
(1) 病態について
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia:FH)は、low‐density lipoprotein(LDL)受容体及びその関連遺伝子の変異による遺伝性疾患である。FHは常染色体優性遺伝形式をとり、原因遺伝子の変異が対立遺伝子の片方にある場合がFHヘテロ接合体、双方にある場合がFHホモ接合体である。FHの主な特徴は高LDL―コレステロール血症、腱黄色腫及び早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満での冠動脈疾患の発症)の発症である。FHの動脈硬化の進展速度は、遺伝的背景のない高LDLコレステロール血症患者に比べて速く、それに伴う臓器障害の程度も強い。小児期にすでに動脈硬化性の変化が現れていることは、Bogalusa Heart Study1)やPathological Determinants of Atherosclerosis in Youth(PDAY)2)などの剖検所見からも証明されている。特に、FHホモ接合体患者では小児期から冠動脈硬化症・大動脈弁疾患などの動脈硬化性疾患が急速に進行する。一方で、一般的なFHヘテロ接合体患者では動脈硬化性心血管疾患は中高年になって発症するが、オランダで行われた小児FHヘテロ接合体の臨床研究により10歳頃から急速に動脈硬化が進行すること、さらにスタチン治療によりその進行が抑制できることが明らかにされている3)。
このように、FHの成因は関連遺伝子の変異であり、成人と小児の病態は連続しており、高LDL―コレステロール血症を伴うという病態も同様である。
(2) 治療実態について
小児期から、高LDL―コレステロール血症が動脈硬化の独立したリスク因子であり、多くの小児FHヘテロ接合体ではすでに学童後期より頸動脈の内膜中膜複合体厚の肥厚が進行していることが知られている4)。近年、海外の多くのガイドラインにおいて、将来の心血管イベント予防を目的として、小児期からの治療の重要性が指摘されている5),6),7)。
小児家族性高コレステロール血症診療ガイド20178)によれば、「FHと診断されれば、できるだけ早期に生活習慣の指導を行い、LDL―コレステロール値の低下を含めた動脈硬化のリスクの低減に努める。生活習慣の改善による効果が十分でない場合には、10歳を目安に薬物療法開始を考慮する」とされている。FHヘテロ接合体の薬物療法は、「第一選択薬はスタチンで、最小用量から開始する。単独で十分な効果を得られない場合には、①その製剤を増量、②より強力なスタチン製剤に変更・増量、③スタチンに他の脂質低下薬を併用、を考慮する」とされている。また、FHホモ接合体の場合は、「まずはスタチンを開始し、最大耐用量まで増量する。約1か月後にスタチンの効果を判定し、効果不十分であればLDLアフェレシスを開始する。並行して、スタチン以外の薬剤(エゼチミブ・レジン・プロブコール・PCSK9阻害薬など)の効果を検討する」とされている。
(3) 成人と合わせて開発が可能と考える理由
本邦における成人と小児の家族性高コレステロール血症の診断基準は、成人では表1、小児では表2とされ、2者間に違いがある。一方で、LDL受容体及びその関連遺伝子の変異による脂質代謝異常が本態であることは成人と小児で同様であり、病態の基礎に本質的な違いはないと考えられる。
表1.成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準
1.高LDL―C血症(未治療時のLDL―C180mg/dL以上) |
2.腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫 |
3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族) |
表2.小児(15歳未満)FHヘテロ接合体診断基準
1.高コレステロール血症:未治療時のLDL―C値≧140mg/dL(総コレステロール値≧220mg/dLの場合はLDL―C値を測定する。) |
2.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族) |
高コレステロール血症治療は、成人及び小児においても動脈硬化とそれに続く心血管イベントの予防を目的に血中LDLコレステロール値を低下させることである。臨床評価においては、心血管イベントの代替指標としてLDLコレステロール値が確立していることから、LDLコレステロール値のベースラインからの低下が主要評価項目として設定される。また、値は異なるものの、成人においても小児においても治療の目標として血中LDLコレステロールの管理目標値が定められている。以上の状況より、薬剤の有効性評価としては、小児においても成人同様にLDLコレステロール値低下効果を確認できればよく、成人と一定の年齢層の小児集団を一つの集団として評価することは可能である。
(4) 対象となる年齢層について
小児家族性高コレステロール血症診療ガイド20178)によれば、「FHと診断されれば、できるだけ早期に生活習慣の指導を行い、LDL―C値の低下を含めた動脈硬化のリスクの低減に努める。生活習慣の改善による効果が十分でない場合には、10歳を目安に薬物療法開始を考慮する」とされている。
また、本留意点では、総論“2.対象年齢について”で記載した通り、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児の年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。小児家族性高コレステロール血症診療ガイド20178)によれば、「生活習慣の改善による効果が十分でない場合には、10歳を目安に薬物療法開始を考慮する」とされており、対象となる年齢層については10歳以上の小児とすることが妥当と考えられる。ただし、総論“4.小児を組み入れる臨床試験について”で記載した通り、必要に応じて二次性徴の発現・成熟などの思春期段階も考慮することが望ましい。なお、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象に含めることができる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。
(5) 臨床評価方法
本留意点の対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方であり、小児の臨床データの取得は、主に、検証的臨床試験、あるいは、長期投与試験によるものとなる。
FHの病態の成因の基礎が成人と小児で同様であること、共通の評価項目が設定可能であること、成人と同一、または成人の範囲内の用法・用量を設定できる年齢層を対象とすることを考慮すると、10歳以上の小児を成人の試験に含めて有効性、安全性を評価していくことは妥当である。したがって、臨床評価においては、小児の部分集団解析は必須ではないが、血中薬物動態も含めた小児の情報を取得すること、一定の症例数が確保された場合には部分集団解析を行うことは有益であり、成人で設定された検証試験、長期投与試験の対象に10歳以上の小児も含めるべきである。なお、小児期におけるLDL―C値の変動の大きさに留意するとともに、成長及び思春期段階を含めた発達についても評価の必要性を検討すべきである。
(6) 市販後の情報収集
承認前に得られる小児集団のデータが限られるため、製造販売後調査等において対象となる小児集団については早期かつ重点的に調査し、結果を臨床現場に情報提供することが必要である。
(7) その他の留意点
現在、本邦で家族性高コレステロール血症の小児用法・用量が承認されているピタバスタチンでは、小児は日常の身体活動の頻度強度が成人と比べて多くなる場合があり、筋障害が現れやすいおそれがあるため、慎重に投与することが求められている。このように、薬剤ごとに小児適用に当たり注意を要する特徴的事項がありうる点に留意する。
Reference:
1) Li S, et al. Childhood cardiovascular risk factors and carotid vascular changes in adulthood: the Bogalusa Heart Study. JAMA. 290: 2271‐2276, 2003
2) Natural history of aortic and coronary atherosclerotic lesions in youth. Findings from the PDAY Study. Pathobiological Determinants of Atherosclerosis in Youth (PDAY) Research Group. Arterioscler Thromb. 13: 1291‐1298, 1993
3) Wiegman A, et al. Efficacy and safety of statin therapy in children with familial hypercholesterolemia: a randomized controlled trial. JAMA. 292: 331‐337, 2004
4) Wiegman A, et al. Arterial intima‐media thickness in children heterozygous for familial hypercholesterolaemia. Lancet 363: 369‐37, 2004
5) Wiegman A, et al., on behalf of the European Atherosclerosis Society Consensus Panel. Familial hypercholesterolemia in children and adolescents: gaining decade of life by optimizing detection and treatment. Eur Heart J. 36: 2425‐2437, 2015
6) Wierzbicki AS, et al: Familial hypercholesterolaemia: summary of NICE guidance. Br Med J. 337: 509‐510, 2008
7) Kwiterovich PO Jr, Recognition and management of dyslipidemia in children and adolescents. J Clin Endocrinol Metab. 93: 4200‐4209, 2008
8) 日本小児科学会 日本動脈硬化学会(編):小児家族性高コレステロール血症診療ガイド2017 日本動脈硬化学会,2017
3.アレルギー疾患
3―1 気管支喘息
(1) 病態について
喘息は、気道の慢性炎症を本態とし、可逆性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳等の臨床症状で特徴付けられる疾患である1)。その病態は、気道では、好酸球、リンパ球、マスト細胞などの炎症性細胞の浸潤に加えて、血管拡張、粘膜・粘膜下浮腫が認められ、構造上の変化としては、気道上皮剥離、杯細胞増生、粘膜下腺過形成、血管新生、上皮下線維増生(基底膜部の肥厚)や気道平滑筋の増生などが認められる1)。
喘息には多様な原因や憎悪因子が存在し、その病像は多様であるが、病型の一般的な分類は、環境アレルゲン特異的IgE抗体が検出されるアトピー型と、検出されない非アトピー型に分類される。小児期発症喘息は前者が多く、成人期発症喘息では非アトピー型が増加する1)。また、小児期発症喘息は80~90%が6歳までに発症し、思春期にコントロールできていない患者は成人まで持ち越す可能性が高いとされている。
このように喘息は、小児と成人において病型分布割合が異なるが、その成因は気道の慢性炎症によることは同様である。その気道炎症は、好酸球をはじめとする種々の炎症細胞及び気道上皮細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞などの組織構成細胞が遊離する炎症性メディエーターやサイトカインの直接作用、あるいは他の細胞、神経系、接着分子を介した作用で生じると考えられている1)。
(2) 治療実態について
喘息の管理目標は、①症状のコントロール(発作や喘息症状がない状態を保つ)、②将来のリスク回避(呼吸機能の経年低下の抑制、喘息の回避など)1),2)であり、小児と成人で違いはない。
喘息の治療薬は、喘息の症状や憎悪がなく、呼吸機能を維持するといった管理目標の達成を目的とした長期管理薬(controller)と、急性増悪(発作)が発生した際の呼吸困難等を一次的に改善することを目的とした発作治療薬(reliever)に大きく分けられる。長期管理薬を用いた治療ステップは、使用される薬剤や用量の違いはあるが、強度から4つの強度からなっている1)。薬物治療は気道炎症の抑制と気道拡張作用を持つものが使用される。これらの基本的な治療戦略は小児と成人で同様である。
(3) 成人と合わせて開発が可能と考える理由
喘息は多様な原因により発症し、小児と成人において病型分布割合が異なるが、その成因は気道の慢性炎症によることは同様である。また、成人における喘息では、小児期発症の喘息も含まれており、この場合、思春期も含めて成人期まで治療が必要となる。
薬物治療も同様に炎症を抑えること、気道を拡張させることであり、薬剤の臨床評価についても、原則、喘息症状と呼吸機能を中心とした評価が行われている。
SABA等の発作治療薬としての気管支拡張薬の治療効果は、気道閉塞の改善によって示される。成人における評価については、FEV1が良好な指標とされている。
長期管理薬の治療効果の評価は喘息症状の改善により評価され、特に、急性増悪は重要な指標である。長期管理薬の評価においては、FEV1等の呼吸機能検査のみの評価では不十分であり、急性増悪等の症状の指標についても評価が必要である。
一方、小児では、FEV1等の呼吸機能検査については、検査手技への習熟の違い1)が評価の妥当性に影響することから、主要評価項目として採用する際には留意が必要である。また、主要評価項目に症状スコアなど患者評価指標を用いる場合は、小児の精神・心理面での発達段階を踏まえて、被験者自身の評価の実施可能性及び適切性についても考慮することが必要となる。このように小児を対象とする場合には臨床評価上考慮するべき事項があるが、小児(10歳又は12歳以上の小児)の場合には成人と同じ評価指標を用いることが可能である。
以上から、一定の年齢以上の小児集団を成人と合わせて開発することは可能と考えられる。
なお、欧州医薬品庁(EMA)は、小児を6歳未満、6歳から12歳、13歳から17歳の3群に分けたうえで、臨床試験を実施しないことの正当性が説明できない限り小児での臨床試験が必要で、Adolescentsは薬物動態が成人と同様の場合は成人の検証試験に組み入れることができるとしている3)。また、最近、我が国で小児用法・用量も含めて承認された薬剤では、12歳以上の小児と成人を同一の臨床試験で評価したものもみられている。
(4) 対象となる年齢層について
本留意点では、総論「2.対象年齢について」の項で記載したとおり、成人の用法・用量と同一、又はその範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児の年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。
喘息については、小児期発症の場合80~90%が6歳までに発症するなど低年齢の小児の患者も多く、小児の幅広い年齢層での用法・用量の開発が求められること、また、近年、国際共同で開発が進められる可能性があることを考慮すると、対象となる年齢層については原則12歳以上とすることが妥当と考えられる。なお、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象にできる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。
(5) 臨床評価方法
本留意点の対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方であり、小児の臨床データの取得は、主に、検証的臨床試験、あるいは、長期投与試験によるものとなる。
喘息については12歳以上においても一定規模の数の患者が存在することから、これらの年齢層を一定数成人の検証的試験に組入れ、市販前に薬物動態、有効性、安全性に関する情報を取得することが必要である。特に、局所投与薬など薬物動態による有効性の理論構築に限界があるものは、臨床試験における有効性、安全性の情報がより重要となる。12歳以上の小児は、成人と同様に評価することが可能と考えられることから、小児集団のみで統計学的な検証を行うことは必須ではない。ただし、可能な限り部分集団解析を実施するなどして、12歳以上の小児と成人の有効性、安全性及び薬物動態を比較し、用法・用量の妥当性を確認しておくことは重要である。また、小児においても長期の安全性の情報を収集しておくことは有益であり、長期試験の対象にも12歳以上の小児を含めるべきである。
(6) 市販後の情報収集
喘息では、原則、臨床試験において小児の有効性、安全性のデータが一定数収集され、承認審査時点で評価される。したがって、製造販売後調査においては、薬剤ごとに、承認前に得られている情報を考慮して、必要とされる情報収集の内容、範囲を判断する。
(7) その他の留意点
思春期(12歳以上の小児)集団では治療に対する遵守性が低下する例が認められ2)、臨床試験の対象患者としての適切性及び有効性評価に影響する可能性に留意する必要がある。例えば、難治患者を対象とした臨床試験のプラセボ群において、治験参加後に治療順守性が向上することで成人に比べて大きなプラセボレスポンスが認められ、試験成績の一貫性の評価が困難になる場合がある。
Reference:
1) 日本アレルギー学会 喘息予防・管理ガイドライン2018
2) 日本小児アレルギー学会 小児気管支喘息 治療・管理ガイドライン2017
3) Guideline on the clinical investigation of medicinal products for the treatment of asthma. CHMP/EWP/2922/01, 2015
3―2 アレルギー性鼻炎
(1) 病態について
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のⅠ型アレルギー性疾患で、原則的には発作性反復性のくしゃみ、(水様性)鼻漏、鼻閉を主徴とし、血清特異的IgE抗体レベルの上昇、局所マスト細胞及び局所と血液の好酸球の増加、粘膜の非特異的過敏性亢進などの特徴を持つ1)。また、アレルギー性鼻炎は、通年性アレルギー性鼻炎と花粉症などの季節性アレルギー性鼻炎に分けられる。
幼少期ではしばしばアレルギー性皮膚炎が先行、合併し、また高率に気管支喘息を合併し、このうち、皮膚炎、気管支喘息は小学校高学年で自然治癒の傾向がみられるが、アレルギー性鼻炎の自然治癒は比較的低率で遅いとされている。
このようにアレルギー性鼻炎は鼻粘膜のⅠ型アレルギー性疾患で、成因は成人と小児で同様と考えられる。
(2) 治療実態について
アレルギー性鼻炎の治療法は患者との医療者とのコミュニケーション、抗原の除去と回避、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法に分けられる。このうち、薬物療法に用いられる薬剤は、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、受容体拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬、ステロイド薬に分類される。
通年性アレルギー性鼻炎の治療法は病型と重症度の組み合わせで選択し、その選択は画一なものではないとされるが、鼻アレルギー診療ガイドライン1)では以下の選択基準を挙げている。
重症度 |
軽症 |
中等症 |
重症 |
||
病型 |
くしゃみ・鼻漏型 |
鼻閉型または鼻閉を主とする充全型 |
くしゃみ・鼻漏型 |
鼻閉型または鼻閉を主とする充全型 |
|
治療 |
①第2世代抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③Th2サイトカイン阻害薬 ④鼻噴霧用ステロイド薬 ①、②、③、④のいずれか一つ |
①第2世代抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③鼻噴霧用ステロイド薬 ①、②、③のいずれか一つ。必要に応じて①または②に③を併用する。 |
①抗LTs薬 ②抗PGD2/TXA2薬 ③Th2サイトカイン阻害薬 ④第2世代抗ヒスタミン薬 ⑤鼻噴霧用ステロイド薬 ①、②、③、④、⑤のいずれか一つ。必要に応じて①、②、③に⑤を併用する。 |
鼻噴霧用ステロイド薬 + 第2世代抗ヒスタミン薬 |
鼻噴霧用ステロイド薬 + 抗LTs薬または抗PGD2/TXA2薬 もしくは 第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤 必要に応じて点鼻用血管収縮薬を治療開始時の1~2週間に限って用いる。 |
鼻閉型で鼻腔形態以上を伴う症例では手術 |
|||||
アレルゲン免疫療法 |
|||||
抗原除去・回避 |
花粉症に対しては、予想される花粉飛散量と、最も症状が強い時期における病型、重症度を基に、以下の表のように用いる薬剤を選択するとしている。
重症度 |
初期療法 |
軽症 |
中等症 |
重症 |
||
病型 |
くしゃみ・鼻漏型 |
鼻閉型または鼻閉を主とする充全型 |
くしゃみ・鼻漏型 |
鼻閉型または鼻閉を主とする充全型 |
||
治療 |
①第2世代抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③抗LTs薬抗 ④PGD2/TXA2薬 ⑤Th2サイトカイン阻害薬 ⑥鼻噴霧用ステロイド薬 くしゃみ・鼻漏型には①、②、⑤、鼻閉型または鼻閉主とする充全型には③、④、⑤、6のいずれか一つ |
①第2世代抗ヒスタミン薬 ②遊離抑制薬 ③抗LTs薬抗 ④PGD2/TXA2薬 ⑤Th2サイトカイン阻害薬 ⑥鼻噴霧用ステロイド薬 ①~⑥のいずれか一つ。 ①~⑤で治療を開始したときは必要に応じて⑥を追加。 |
第2世代抗ヒスタミン薬 + 鼻噴霧用ステロイド薬 |
抗LTs薬または抗PGD2/TXA2薬 + 鼻噴霧用ステロイド薬 + 第2世代抗ヒスタミン薬 もしくは 第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤 + 鼻噴霧用ステロイド薬 |
第2世代抗ヒスタミン薬 + 鼻噴霧用ステロイド薬 |
抗LTs薬または抗PGD2/TXA2薬 + 鼻噴霧用ステロイド薬 + 第2世代抗ヒスタミン薬 もしくは 第2世代抗ヒスタミン薬・血管収縮薬配合剤 + 鼻噴霧用ステロイド薬 必要に応じて点鼻用血管収縮薬を治療開始時の1~2週間に限って用いる。 症状が強い症例では経口ステロイド薬を4~7日間処方する。 |
点眼用抗ヒスタミン薬または遊離抑制薬 |
点眼用抗ヒスタミン薬、遊離抑制薬またはステロイド薬 |
|||||
鼻閉型で鼻腔形態以上を伴う症例では手術 |
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アレルゲン免疫療法 |
||||||
抗原除去・回避 |
小児の薬物治療は成人に準ずるが、投与量は小~中学生は成人の半量が基準となるとし、ステロイド薬に関しては、噴霧用は小児では慎重に投与し、内服薬は極力避けるとしている。
一方で、近年、小児用法・用量が承認された薬剤では、12歳以上の小児は成人と同じ用量となっているものもみられている。
(3) 成人と合わせて開発が可能と考える理由
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜のⅠ型アレルギー性疾患で、成因は成人と小児で同様と考えられる。小児期発症のアレルギー性鼻炎の自然治癒は比較的低率で遅いとされ、この場合、思春期も含めて成人期まで治療が必要となる。また、小児の薬物治療は成人に準ずるとされている。
臨床評価における主要評価項目について、症状スコアなど患者評価指標を用いる場合は、小児の精神・心理面での発達段階を踏まえて、被験者自身の評価の実施可能性及び適切性についても成人との異同を考慮することが必要となるが、小児(10歳又は12歳以上の小児)においては、成人と同じ評価指標で臨床試験を行うことは可能と考えられる。
以上から、小児(10歳又は12歳以上の小児)においては、成人と合わせて開発することは可能である。
なお、EMAは、小児一般の免疫学的治療では小児集団での有効性、安全性の評価が必要としているが、青少年は成人と合わせて臨床試験を行うことが可能としている2)。また、近年日本において開発された薬剤において、主要な試験が12歳以上の小児と成人を同一の試験で評価したものもみられている。
(4) 対象となる年齢層について
本留意点では、総論「2.対象年齢について」の項で記載したとおり、成人の用法・用量と同一、又はその範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児の年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。
アレルギー性鼻炎については、小児の低年齢の小児の患者も多く、小児の幅広い年齢層での用法・用量の開発が求められること、また、近年、国際共同で開発が進められる可能性があることを考慮すると、対象となる年齢層については原則12歳以上とすることが妥当と考えられる。なお、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象にできる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。
(5) 臨床評価方法
本留意点の対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方であり、小児の臨床データの取得は、主に、検証的臨床試験、あるいは、長期投与試験によるものとなる。
アレルギー性鼻炎は12歳以上においても一定規模の数の患者が存在することから、これらの年齢層を一定数成人の検証的試験に組入れ、市販前に薬物動態、有効性、安全性に関する情報を取得することが必要である。特に、局所投与薬など薬物動態による解釈に限界があるものは有効性、安全性の情報がより重要となる。12歳以上の小児は、成人と同様に評価することが可能と考えられることから、小児集団のみで統計学的な検証を行うことは必須ではない。ただし、可能な限り部分集団解析を実施するなどして、12歳以上の小児と成人の有効性、安全性及び薬物動態を比較し、用法・用量の妥当性を確認しておくことは重要である。また、小児においても長期の安全性の情報を収集しておくことは有益であり、長期試験の対象にも12歳以上の小児を含めるべきである。
(6) 市販後の情報収集
アレルギー性鼻炎では、原則、臨床試験において小児の有効性、安全性のデータが一定数得られ、承認時点で評価される。したがって、製造販売後調査においては、薬剤ごとに、承認前に得られている情報を考慮して、情報収集の内容、範囲を判断する。
(7) その他の留意点
アレルギー性鼻炎に対するステロイド内服薬は極力避けるなどの注意がされているところであり、開発にあたっても、副作用などの影響を考慮し、その妥当性を慎重に検討することが必要である。
Reference:
1) 鼻アレルギー診療ガイドライン―通年性鼻炎と花粉症― 2016年版(改訂第8版)
2) Guideline on the clinical development of products for specific immunotherapy for the treatment of allergic diseases. CHMP/EWP/18504/2006, 2008
4.抗ウイルス薬、抗菌薬
(1) 既存ガイドライン等との関係
抗菌薬の臨床評価に関しては、抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン1)が通知されている。その中で小児については、小児に関連するICHガイドラインを参照することとしている。
また、(独)医薬品医療機器総合機構では科学委員会において“薬剤耐性菌感染症治療薬の臨床評価について”を取りまとめたところであり、その中で、小児開発に関し、対象とする疾患の特徴や開発を計画している治験薬の特徴を鑑み、年長小児については、成人対象の試験の対象とすることも検討すべきである、としている。
本留意点ではこれらのガイドライン等に即し、成人の試験に小児を組入れて評価する際の留意点を示す。
(2) 感染症の病態について
感染症は、病原微生物(細菌、ウイルスなど)が生体のバリアを通過して侵入し、侵入場所あるいは遠隔臓器に運ばれ定着、増殖することにより、または、感染部位で増殖したウイルスに対する免疫反応により、細胞障害を起こすものである。したがって、感染部位、組織障害を起こす部位について、小児の発達度合いにより成人と同様と考えられる場合は、その成因は成人と小児で同様と考えられる。一方で、感染症では過去の感染により獲得された生体防御機能により、病態が異なる可能性があることにも留意が必要である。
(3) 成人と合わせて開発が可能と考える理由及び対象とする年齢層について
化学療法は病原微生物の感染機構、増殖機構を阻害するものであり、疾病の成因、作用機構は成人と小児で同様である。したがって、病原微生物に対する薬剤の効果の観点からは、成人と小児を合わせて開発が可能と考えられる。しかしながら、薬剤の効果は病原微生物に対するものであるが、臨床効果は、生体防御機能により治療効果が異なる可能性があることにも留意が必要である。
対象となる年齢層について本留意点では、総論「2.対象年齢について」の項で記載したとおり、成人の用法・用量と同一、又はその範囲内となることが想定され、かつ、同一製剤を使用できる小児の年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。
感染症については、小児の低年齢の小児の患者も罹患し、小児の幅広い年齢層での用法・用量の開発が求められること、また、近年国際共同で開発が進められる可能性があることを考慮すると、対象となる年齢層については原則12歳以上とすることが妥当と考えられる。なお、用法・用量や安全域など薬剤特性によっては、より低年齢小児を臨床試験の対象に含めることができる場合もある。この場合は、評価方法など、より低年齢小児を含めて評価することの妥当性を説明する必要がある。
例えば、抗インフルエンザウイルス治療薬では、現在、ウイルス増殖に必要なノイラミニダーゼやキャップ依存性エンドヌクレアーゼの活性を阻害する薬剤が本邦で承認されている。インフルエンザウイルス感染症の成因、抗インフルエンザウイルス薬のインフルエンザウイルスへの作用機構は成人と小児と同様と考えられる。一方で、インフルエンザウイルスに対する獲得免疫は、過去の罹患により影響すると考えられるが、小児(10歳又は12歳以上の小児)については一般的にはインフルエンザウイルス感染症の罹患歴を有していると考えられ、成人と同様に有効性の評価ができると考えられる。
近年、本邦で小児用法・用量が承認された抗インフルエンザウイルス薬に関する主要な臨床試験においては、10歳あるいは12歳以上の小児を成人の試験に組入れて臨床評価を行っている。
なお、FDAは、抗インフルエンザウイルス薬の開発に関して、成人と小児で過去の罹患による免疫能がインフルエンザウイルス感染症の病態に影響する可能性や、ウイルス排泄が成人と小児で異なる可能性を指摘し、特に12歳未満の小児については臨床的有効性指標や安全性についての試験が必要としている。一方で、Adolescentについては個々の薬剤の薬理作用により成人の試験に組み込むことも可能としている2)。
抗菌薬についても、EMA、FDAが小児臨床評価に関し以下の考え方を示している。
EMAはいくつかの例外を除き、抗菌薬は成人の有効性を小児全体に外挿することが可能と考えられること、多くの場合で小児の薬物動態試験だけが求められるとしている3)。
FDAは院内肺炎に対する抗菌薬の臨床評価に関し、小児への有効性の外挿は一般的に受け入れられるが、至適用量の決定や安全性の評価には小児対象の臨床試験が求められるとしている。
(4) 臨床評価方法
本留意点の対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方であり、小児の臨床データの取得は、主に、検証的臨床試験、あるいは、長期投与試験によるものとなる。
感染症では罹患する患者数の異なる様々な疾患があり、疾患に合わせて小児に対する臨床データの必要性を考えることが適切である。一般的には、12歳以上においても一定規模の数の患者が存在するものは、これらの年齢層を一定数成人の検証的試験に組入れ、市販前に薬物動態、有効性、安全性に関する情報を取得することが必要である。この場合、12歳以上の小児は、成人と同様に評価することが妥当と考えられることから、小児集団のみで統計的な検証を行うことは必須ではない。ただし、可能な限り部分集団解析を実施するなどして、12歳以上の小児と成人の有効性、安全性及び薬物動態を比較し、用法・用量の妥当性を確認しておくことは重要である。また長期投与が想定され成人で長期試験が行われる場合は、小児においても長期の安全性の情報を収集しておくことは有益であり、長期試験の対象にも12歳以上の小児を含めるべきである。
一方で、12歳以上の患者を一定数組み込むことが難しい疾患においても、用法・用量の妥当性を考察するため血中動態を含めた小児の情報を取得することは有益であり、臨床試験の対象に小児集団も含めるべきである。
(5) 市販後の情報収集
抗菌薬、抗ウイルス薬では、対象とする疾患により臨床試験で得られる小児の情報が異なる。臨床試験において小児の有効性、安全性のデータが一定数得られ、承認時点で評価されるものについては、製造販売後調査においては、薬剤ごとに、承認前に得られている情報を考慮して、情報収集の内容、範囲を判断する。
一方で、臨床試験で得られる情報が限定的なものについては、小児に対して主に安全性に関し、市販後に重点的な調査を行い、結果を早期に医療現場に提供することが必要である。
(6) その他の留意点
抗菌薬、抗ウイルス薬では、小児使用に限らず、耐性菌、耐性ウイルスの出現を防止することが重要であり、その使用には留意が必要である。開発する薬剤について、抗菌薬、抗ウイルス薬における位置づけを明確にしておくことが必要である。
Reference
1) 抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて 平成29年10月23日付け薬生薬審発1023第3号 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知
2) Guidance for Industry Influenza: Developing Drugs for Treatment and/or Prophylaxis. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research (CDER), April 2011
3) Addendum to the guideline on the evaluation of medicinal products indicated for treatment of bacterial infections to address paediatric‐specific clinical data requirements. EMA/CHMP/187859/2017, 2018
4) Guidance for Industry, Hospital‐Acquired Bacterial Pneumonia and Ventilator‐Associated Bacterial Pneumonia: Developing Drugs for Treatment. U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration Center for Drug Evaluation and Research (CDER), May 2014
5.造血器悪性腫瘍
(1) 「小児悪性腫瘍における抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイダンス」1)との関係
「小児悪性腫瘍における抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイダンス」(以下、「本ガイダンス」)では、小児悪性腫瘍の薬剤開発について以下の点を指摘している。
標的となるタンパクの発現や遺伝子変異が小児悪性腫瘍でも存在することが知られている場合は、当該標的分子の修飾を目的とした薬剤も国内の成人と同時開発を行うことが望ましい。
病態が成人悪性腫瘍と同様の小児悪性腫瘍に関して、成人での開発を検討する段階で、小児も含めた試験を行うことについて検討することが推奨される。ただし、その場合は、成人と小児をまとめて同一試験内で評価することが可能か否か慎重に検討する必要がある。
本留意点は、本ガイダンスの考え方を踏まえて、対象を造血器悪性腫瘍とし、成人と合わせて評価可能な小児の臨床評価における留意点を示すものである。
なお、本留意点で対象としない固形悪性腫瘍、脳腫瘍においても病態や薬剤の作用機序から、本留意点の考え方を適応できる場合もある。この場合は、病態も含めて、成人と合わせて評価することの妥当性を説明する必要がある。
(2) 病態について
造血器悪性腫瘍には由来する細胞により様々な病型があり、その腫瘍化の成因も不明なものも多いが、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、一部の悪性リンパ腫などは一般的に成人と共通の成因、病態であることがわかってきている。
例えば、急性リンパ性白血病に関しては、成人も小児も同様にリンパ球の分化過程でBあるいはT/NK系統への分化が決定したリンパ系前駆細胞での腫瘍化と考えられる。そのうち、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病、11番染色体上のKNMT2A(MLL)遺伝子と他の染色体上の遺伝子間の転座を有するMLL関連急性リンパ性白血病などの特徴的な染色体異常が成因と考えられる。
また、慢性骨髄性白血病では、多能性造血幹細胞レベルの細胞に9番染色体と22番染色体の転座が起こり、それに伴って恒常的に活性化したチロシンキナーゼであるBCR―ABL1キメラ遺伝子産物が生じたことにより発症すると考えられている。
一方で、腫瘍化の成因は不明であっても、変異した造血幹細胞が分化・増殖を繰り返し、正常造血が阻害され、機能的な細胞(赤血球、好中球、血小板など)が生産されず、その結果、貧血、感染症などをきたしたり、蓄積した中間的分化段階以前の細胞が臓器に浸潤することにより障害を起こしたりすることが疾患の本態であることは共通と考えられる。
(3) 治療実態について
造血器悪性腫瘍の治療に関しては、様々な病型等に応じて治療成績の向上のため用法・用量や、併用療法の検討がなされている。
例えば、急性リンパ性白血病では年齢、白血球数、免疫学的分類、染色体・遺伝子異常の種類などにより、リスク分類し、治療法が選択される。フィラデルフィア染色体陰性急性リンパ性白血病では、思春期・若年成人に対し、成人レジメンではなく、小児レジメンの治療成績が優位に良好であるとの報告があり、小児白血病・リンパ腫診療ガイドラインでも、思春期・若年成人急性リンパ性白血病には小児レジメンを推奨している。一方、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病では成人と同様にイマチニブ併用化学療法が推奨されているが、日本において小児の用法・用量は承認されていない。
慢性骨髄性白血病では、成人と小児で同様に初発時の治療はチロシンキナーゼ阻害剤とされている。チロシンキナーゼ阻害剤の小児の用法・用量は、成人の標準量に相当するものが用いられているが、日本において小児の用法・用量が承認されているのはニロチニブのみである。
(4) 成人と合わせて開発が可能/必要と考える理由
造血器悪性腫瘍には由来する細胞により様々な病型があり、その成因も不明なものも多いが、変異した造血幹細胞が分化・増殖を繰り返した結果様々な障害を起こすことが疾患の本態であることは、成人と小児の腫瘍においても共通している。そのため、薬物治療は薬剤により薬理作用は異なるが腫瘍化した細胞を結果として死滅させることであり、薬剤の有効性評価は成人も小児も同様と考えられる。
一方で、造血器悪性腫瘍の薬物治療の有効性・安全性に密接に関連する用法・用量においては、副作用に対する忍容性が年齢により異なることも報告されていることから、用法・用量の設定には留意が必要となる。
他方、小児の造血器悪性腫瘍は発生数が限られ、小児を対象として、用法・用量の妥当性、治療の有効性、安全性のエビデンスを収集するための臨床試験を実施することが困難なものも多い。
このような状況から、造血器悪性腫瘍の成因や薬物治療の薬理作用を踏まえた科学的妥当性を検討の上、成人の試験に、小児を組み込むことを検討することが望まれる。
例えば腫瘍化の成因が明らかとなった、慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病ではチロシンキナーゼ阻害剤の小児用法・用量は成人の用法・用量と同様となるように設定されている。
なおFDAは、病理学的、生物学的特徴が成人とAdolescentで類似していると考えられる悪性腫瘍については、Adolescentを成人の臨床試験に含めるべきとするガイダンス案2)を公表している。
(5) 対象となる年齢層について
本留意事項では、総論“2.対象年齢について”で記載した通り、成人と同一の用法・用量の適用となる年齢を想定し、原則10歳や12歳以上としている。
一方で、造血器腫瘍は致死的で、幼少期から発症することから、低年齢においても新しい薬剤が求められている。しかしながら、造血器腫瘍に対する薬物治療の目的が増殖した腫瘍細胞の死滅であるものの、腫瘍化の成因が必ずしも明らかになっていないものも多く、用法・用量も含めた有効性、安全性については慎重な検討が必要であることから、対象となる年齢層については12歳以上とすることが妥当と考えられる。
ただし、慢性骨髄性白血病など発症機構が解明され、常時活性化したチロシンキナーゼを阻害する薬剤のように、作用機序が明確で、開発初期の成人での安全性データ及び類薬情報等から安全性についても成人と大きく異なることは想定されない場合は、12歳未満のより低年齢も含めることも可能である。なお、より低年齢層も臨床試験に含める場合は、小児特有の安全性について幼若動物を用いた試験などで検討することが必要である。
なお、FDAは抗悪性腫瘍剤の開発に関し、Adolescentも含めた2歳以上の小児の成人臨床試験への登録について、早期臨床試験、後期臨床試験の開発段階、2歳以上11歳以下と12歳以上17歳以下の年齢に分けて、考え方を示している3)。
(6) 臨床評価方法
本留意点の検討対象は、原則、成人の用法・用量が設定されたのち、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内となる小児集団に対する臨床評価の考え方である。
造血器悪性腫瘍には由来する細胞により様々な病型があり、その成因も不明なものも多いが、薬物治療は薬剤により作用機序は異なるが腫瘍化した細胞を結果として死滅させることであり、成人と小児で同じ病態であると想定され、成人と同一、または成人の範囲内の用法・用量が想定される場合には、有効性の薬剤評価においては成人も小児も同様と考えられ、12歳以上の小児など一定の年齢層の小児を成人と同様に有効性、安全性を評価していくことは妥当である。したがって、臨床評価においては、小児の部分集団解析は必須ではないが、血中薬物動態も含めた小児の情報を取得すること、一定の症例数が確保された場合には部分集団解析を行うことは有益であり、成人で設定された試験の対象に12歳以上の小児も含めるべきである。
ただし、個々の薬剤の開発にあたっては、忍容性を考慮した用法・用量設定の必要性の有無など、成人と同一、または成人の用法・用量の範囲内とすることについて科学的な説明が必要である。
(7) 市販後の情報収集
病態が成人と同様あるいは薬剤の臨床評価上同等と考えられる12歳以上の小児については、成人の臨床試験に組み入れて評価することが妥当であるが、一般的には、造血器悪性腫瘍については、その希少性から臨床試験への組入れ症例数は少数になることが想定される。このような場合は、市販直後から、投与対象となる小児の年齢層に対する重点的な情報収集し、早い段階で得られた情報を医療現場に提供するとともに、市販直後は対象施設などを限定して使用を開始し、段階的に使用を拡大する等の方策も考慮すべきである。
また、造血器悪性腫瘍は致死的な疾患であり、常に治療成績の向上が求められる領域である。したがって、臨床試験に小児を組み入れることで、有効性・安全性について一定の評価がなされて承認された場合でも、引き続きより良い用法・用量の検討が必要な場合もある。
(8) その他の留意点
抗悪性腫瘍薬の開発では、一般的な第1相、第2相、第3相というステップを重視した開発に限らず、第3相試験終了を待たずに第2相試験結果で承認申請される場合もある。また、マスタープロトコル等の新たな開発手法も検討されている。成人において用法・用量が確定していない段階での12歳以上の小児の組入れについては、個々の開発計画や試験目的を踏まえ、個々の薬剤ごとにその妥当性を説明することが必要である。
Reference:
1) 「小児悪性腫瘍における抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイダンス」について 平成27年9月30日付け薬食審査発0930第1号 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
2) Consideration for the inclusion of Adolescent Patients in Adult Oncology Clinical Trials, Guidance for Industry, March 2019; U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), Center for Biologics Evaluation and Research (CBER), Oncology Center of Excellence (OCE)
3) Cancer clinical trial eligibility criteria: minimum age for pediatric patients guidance for industry draft guidance; U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Oncology Center of Excellence (OCE), Center for Drug Evaluation and Research (CDER), Center for Biologics Evaluation and Research (CBER), March 2019