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○「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」について

(令和2年2月4日)

(薬生薬審発0204第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

バイオ後続品の品質等の確保に関しては、平成21年3月4日付け薬食審査発第0304007号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」において取扱いを示しているところですが、今般、当該指針について、別添のとおり取りまとめましたので、貴管下関係事業者に対して周知方お願いします。

なお、本指針は、現時点における科学的知見に基づく基本的考え方をまとめたものであり、学問上の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを申し添えます。

「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」

目次

1.はじめに

2.適用範囲(対象)

3.バイオ後続品開発における一般原則

3.1 先行バイオ医薬品との同等性/同質性評価

3.2 先行バイオ医薬品

3.3 バイオ後続品の製法開発及び品質管理戦略構築にあたっての留意事項

① 宿主細胞株

② 製剤設計

③ 規格及び試験方法

④ 安定性(貯法・有効期間)

4.品質に関する比較試験

4.1 構造・物理的化学的性質に関する比較

4.2 生物学的性質に関する比較

4.3 不純物に関する比較

4.4 免疫原性に関連する品質特性の比較

5.非臨床試験

5.1 非臨床薬理試験

5.2 非臨床安全性試験

6.臨床試験

6.1 臨床薬物動態(PK)試験及び薬力学(PD)試験

6.2 臨床的有効性の比較

6.3 臨床的安全性の確認

6.4 効能・効果の付与

7.製造販売後におけるリスク管理

1.はじめに

バイオ後続品とは、国内で既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(以下「先行バイオ医薬品」という。)と同等/同質の品質、安全性、有効性を有する医薬品として、異なる製造販売業者により開発される医薬品である。バイオ後続品は、一般的にバイオシミラーといわれており、品質、安全性及び有効性について、先行バイオ医薬品との比較から得られた同等性/同質性を示すデータ等に基づき開発できる。

本指針において「同等性/同質性」とは、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の品質特性の類似性が高く、品質特性に何らかの差異が見出されたとしても、製造販売する製品の臨床的有効性・安全性に影響を及ぼすものではないことが、非臨床試験、臨床試験等の結果に基づいて科学的に判断できることを意味する。

バイオ医薬品(バイオ後続品を含む。)においては、生体による生合成過程を製造に利用していることから、分子構造上不均一なものが産生される可能性が本質的に存在する。バイオ医薬品(バイオ後続品を含む。)の有効成分は、構造が複雑で翻訳後修飾等に伴う不均一性を有するため、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の有効成分の同一性を実証することは困難である。また、有効成分の不均一性が体内動態や薬理作用にも影響する可能性があることに加え、免疫原性のように品質特性との関係が十分解明されておらず、臨床での評価が必要な課題があるという特徴がある。したがって、バイオ後続品の開発に、先発医薬品と同一の構造を持つ化学合成医薬品の後発医薬品と同様のアプローチは適用できない。

本指針は、バイオ後続品の開発を行う際に配慮すべき要件を示すとともに、承認申請に必要なデータについて明確にしたものである。バイオ後続品の申請は、先行バイオ医薬品の再審査期間の満了等をもって可能となる。したがって、バイオ後続品は、先行バイオ医薬品の開発・承認以降、一定期間の製造販売実績及び臨床使用期間を経てから開発することになる。その間に、先行バイオ医薬品の製法や、関連する製造技術、評価技術は急速に進歩し、改良されていると考えられることから、バイオ後続品の開発に当たっては、その間の情報の蓄積や最新の科学技術を十分取り入れ、安全性に関する最新の情報についても十分に考慮することが必要となる。

2.適用範囲(対象)

本指針では、微生物や動物細胞等を用いて生産され、高度に精製され、一連の適切な分析方法により特性解析ができる遺伝子組換えタンパク質(単純タンパク質及び糖タンパク質を含む)、ペプチド及びそれらの誘導体並びにそれらを構成成分とする医薬品(例えば、ポリエチレングリコール修飾タンパク質や抗体薬物複合体)を対象とする。

本指針で示す基本的な考え方は、細胞培養技術を用いて生産される非組換えタンパク質医薬品、あるいは組織及び体液から分離されるタンパク質やペプチドのような上記の範疇以外の医薬品であっても、高度に精製され、品質特性解析可能な医薬品には適用できる場合がある。なお、適用できるかどうかについては、個々の製品ごとに規制当局に相談することが望まれる。

本指針は、抗生物質、合成ペプチド、多糖類、ビタミン、細胞の代謝産物、核酸を有効成分とする医薬品、アレルゲン抽出物、病原微生物を弱毒化・不活化したものや抽出物等を抗原とした従来型のワクチン、細胞及び全血又は細胞性血液成分(血球成分)には適用されない。

3.バイオ後続品開発における一般原則

他社が開発した先行バイオ医薬品の製法に関する情報を入手することは通常困難である。したがって、バイオ後続品の開発では独自に恒常性と頑健性が担保された製法を開発・確立する必要がある。よって、このような製法上の違いがあることを十分に考慮した上で、先行バイオ医薬品とバイオ後続品との同等性/同質性を明らかにしていくことが求められる。また、バイオ後続品の開発は、先行バイオ医薬品の承認からかなりの期間を経た後に行われることから、バイオ後続品の製法開発にあたっては、その時点における最新の知見に基づいた安全性確保のための対策等が適用可能な場合には、有効性に影響しない範囲において、それを積極的に採用することが推奨される。

3.1 先行バイオ医薬品との同等性/同質性評価

バイオ後続品の開発では、品質、非臨床及び臨床での先行バイオ医薬品との比較等を通じて、先行バイオ医薬品との同等性/同質性を示すことが求められる。科学的に妥当かつ合理的な範囲で品質特性に関する比較試験を行った結果、先行バイオ医薬品との類似性がどの程度立証できたかによって、求められる非臨床試験や臨床試験のデータの必要度及びその範囲は異なる(第4章、第5章、第6章を参照)。

非臨床試験は、バイオ後続品の特性解析を十分行った上で実施すべきであり、バイオ後続品そのものの品質特性解析の結果や先行バイオ医薬品との品質特性の比較結果を考慮して、どのような試験を実施するか適切に判断することが求められる。

臨床試験の実施に際しては、バイオ後続品の品質特性、並びに先行バイオ医薬品とバイオ後続品との品質特性及び非臨床試験結果の比較に基づく同等性/同質性評価結果を考慮するべきである。また、先行バイオ医薬品に関する文献等を含む種々の知見も考慮して、必要かつ合理的な試験をデザインし、臨床的有効性及び安全性の観点から、先行バイオ医薬品と同等/同質であるかを評価しなければならない。

3.2 先行バイオ医薬品

品質試験、非臨床試験及び臨床試験の対照薬として用いる先行バイオ医薬品は、原則として、国内で承認されているバイオ医薬品である必要がある。海外で承認されている製品(以下「海外承認品」という。)を対照薬として用いた試験成績を、本邦でのバイオ後続品の承認申請に利用する場合には、国内承認品と海外承認品が同一とみなせることを、両者の品質比較試験結果等に基づき説明する必要がある。

3.3 バイオ後続品の製法開発及び品質管理戦略の構築にあたっての留意事項

バイオ後続品の開発では、新有効成分を含有するバイオ医薬品を開発するときと同様に、関連するICHQ5、Q6B、Q7、Q8~11ガイドライン等を参考に、独自に製法開発、品質特性解析、製剤設計等を行い、目的とする製品品質プロファイルを満たす製品を製品ライフサイクル全期間にわたって恒常的に製造することが可能となるように、適切な管理戦略を構築する必要がある。バイオ後続品の開発の際には、新有効成分含有医薬品と比較して実施される臨床試験の数が少なく、承認申請までに製造されるロットも少なくなることが想定されるが、原則的に、目標製品品質プロファイル(QTPP)は先行バイオ医薬品と同じと考えられるため、重要品質特性(CQA)の特定とその許容範囲の設定の際には、先行バイオ医薬品のロット分析結果が重要な情報となる。

品質を恒常的に確保する観点から、自家の標準物質を可能な限り早期に確立することが重要である。製法変更を行う場合には、ICH Q5Eガイドラインに従った製法変更前後の評価が必要となる。また、製造販売後においても、開発段階で確立した管理戦略の適格性を継続的に確認することが重要である。

①宿主細胞株

組換えタンパク質の製造に用いる宿主細胞は、糖鎖等の翻訳後修飾や宿主細胞由来タンパク質のプロファイル等に影響を及ぼすことが知られている。したがって、先行バイオ医薬品の宿主細胞が明らかにされている場合は、同一宿主細胞を用いた開発を進めることが望ましいが、安全性等の観点から、異なる宿主細胞(由来する生物種も含む起源の異なる細胞)が用いられる場合もある。異なる種類の宿主細胞を用いた開発を行う場合には、その妥当性を説明し、宿主細胞由来不純物を含む製造工程由来不純物のプロファイルに着目した品質や安全性に関する検討を同一宿主細胞の場合よりも十分に行い、データを提出することが求められる。

糖鎖を持つ製品では、宿主細胞が同一であっても遺伝子発現構成体の挿入部位や培養条件等、さまざまな要因によって糖鎖の不均一性が大きく変動することが知られている。バイオ後続品の製造に用いる細胞株を樹立し、製法を開発する際、先行バイオ医薬品との糖鎖構造の類似性にも留意すると共に、非臨床試験・臨床試験を通して、糖鎖の違いが安全性・有効性に及ぼす影響を評価することが必要となる。

②製剤設計

バイオ後続品は、先行バイオ医薬品と投与経路が同一である必要がある。ただし、剤形については、妥当性があれば先行バイオ医薬品とは異なる剤形とすることも可能であり、例えば、先行バイオ医薬品が凍結乾燥製剤であるのに対してバイオ後続品は液剤とすることが認められる場合もある。製剤設計に関して有効性や安全性に影響を与えない限り、製剤処方が先行バイオ医薬品と同一であることは必須ではない。例えば、より安全性の高い添加剤を用いた製剤処方とすることも可能である。また、処方中の有効成分濃度は先行バイオ医薬品と同じであることが望ましいが、先行バイオ医薬品の用法・用量を用いた場合に同一の有効成分の量を投与することが可能であるならば、有効成分の濃度が同一であることは必須ではない。

③規格及び試験方法

規格及び試験方法は、バイオ後続品の品質特性のうち、有効成分の確認に必要な項目や、保存中に変化する可能性の高い項目、製造工程中での評価が困難な項目等、製造工程での関連する工程パラメータの管理に加えて、原薬又は製剤での試験が必要と考えられる項目について設定する。通常、先行バイオ医薬品の規格及び試験方法に関する情報は入手が困難であるため、先行バイオ医薬品の規格及び試験方法と同一であることは必須ではない。

④安定性(貯法・有効期間)

先行バイオ医薬品と同様、バイオ後続品の開発においても、実保存期間・実保存条件での長期保存試験が必要となる。有効期間は長期保存試験データに基づき設定する。承認申請時には6カ月以上の試験データを提出することで差し支えない。保存条件及び有効期間が先行バイオ医薬品と同一であることは必須条件でないことから、先行バイオ医薬品との比較は必ずしも必要ではない。ただし、有効期間が極端に先行バイオ医薬品よりも短い場合には医療現場で混乱を引き起こす可能性があるので、別途規制当局と協議することが推奨される。一方、実保存条件で取得したデータに基づき、バイオ後続品の有効期間を先行バイオ医薬品より長く設定することも認められる。また、バイオ後続品の原薬・製剤の特性を評価する上で有用な情報が得られることから、原則として苛酷試験・加速試験の実施が望まれる。

4.品質特性に関する比較試験

先行バイオ医薬品とバイオ後続品の品質特性の比較試験は、品質の類似性を検証し、非臨床試験・臨床試験を立案するために重要なステップである。恒常性・頑健性のある確立された製造方法により製造されたバイオ後続品の品質特性を、最先端の分析技術を用いて十分に解析すると共に、先行バイオ医薬品とバイオ後続品との品質特性に関して必要かつ可能な項目について比較試験を実施する。この際、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の品質特性の差異を検出するために、十分な性能を持つ分析手法を用いることが重要である。例えば、凝集体のような複雑な品質特性を解析するためには、原理の異なる複数の分析手法により、多面的な評価を行なうことが推奨される。なお、比較試験で用いる製剤は、市販製品用の製法で製造されたものを用いることが原則であるが、開発途上で製法変更があった場合にはICH Q5Eガイドラインにしたがって同等性/同質性を評価する。

異なる製法により製造されるバイオ後続品と先行バイオ医薬品との間には、糖タンパク質における糖鎖の違いのような有効成分そのものはもとより、目的物質関連物質や目的物質由来不純物、製造工程由来不純物のプロファイルを含め、その品質特性に違いが存在する可能性が高いことに留意が必要である。複数ロットの原薬又は製剤を用いた品質特性の比較によって品質特性の類似性の程度を明らかにし、認められた差異が有効性や安全性に対してどのような影響があるか考察し、その結果に基づいて非臨床・臨床で実施すべき試験を選択することが求められる。

各品質特性の差異が有効性・安全性に及ぼす影響は、有効成分の作用機序や製品の適応症等によって異なり、許容される品質特性の差異の範囲については、製品の特徴や医療の現場における使用目的、使用方法等によって大きく異なる。例えば、各品質特性における変動が、生物活性、体内動態、免疫原性、安全性等に及ぼす影響を考察した際、これらに及ぼす影響が大きい品質特性ほど先行バイオ医薬品との差異が許容される範囲は狭く、影響があまりない品質特性では差異が許容される範囲は広くなると考えられる。また、抗体や融合タンパク質等のように、複数の生物活性を持つ製品の場合は、生物活性の中でも、有効性に関わる作用機序や安全性との関連が深い品質特性については許容される差異の範囲は狭くなると考えられる。このような各品質特性の有効性・安全性への影響を考察する過程では、先行バイオ医薬品について得られている知見や文献上の情報も参考になる。

品質特性に関する比較を行う際には、構造解析、物理的化学的性質に関する比較試験、生物活性に関する比較試験、不純物に関する比較試験を実施すると共に、これらの比較結果に基づき、免疫原性を含め、臨床的有効性・安全性の差異の可能性に関する考察を行う。

先行バイオ医薬品によっては、公的な標準品が入手可能な場合があるが、標準品は、特定の用途に適用することを目的に設定されているものであり、先行バイオ医薬品に替わるものではないため、比較試験の対照とはなりえない。

4.1 構造・物理的化学的性質に関する比較

アミノ酸配列、ジスルフィド結合、糖鎖構造、その他の翻訳後修飾、サブユニット構造等に関し、先行バイオ医薬品との比較を行う。目的物質について先行バイオ医薬品と一次構造上の違いがある場合には、バイオ後続品とは判断されない。N末端やC末端アミノ酸のプロセシングによるものなど、翻訳後修飾等に起因する不均一性について、先行バイオ医薬品と差異が認められる場合には、その差異が臨床的有効性・安全性に影響を与えないことを担保する必要がある。また、高次構造評価として、二次構造の比較を行うと共に、三次構造についても比較を行うことが有用である。試料の入手可能性や測定用検体の調製の困難さから、高次構造の解析が十分に行えない場合もあるが、高次構造は生物活性に反映されると考えられることから、生物活性の比較も含めて、高次構造の類似性を評価できると考えられる。なお、先行バイオ医薬品の目的物質のアミノ酸配列等に関しては、文献等の情報を参考にすることも可能である。

4.2 生物学的性質に関する比較

可能な限り複数の方法を用いて、先行バイオ医薬品とバイオ後続品との生物活性を比較する。例えば、細胞の増殖や分化、受容体結合活性、酵素活性等の臨床的有効性と密接に関連するin vitroでの生物活性について比較試験を行うことが有用である。特に、複数の機能ドメイン構造を持つタンパク質の場合は、各ドメインが持つ生物活性をそれぞれ比較することで、分子全体の機能を比較することができる。一般に、抗体医薬品のバイオ後続品においては、抗原との結合活性に加え、中和活性、Fcγ受容体、胎児性Fc受容体及び補体C1qとの結合活性、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(CDC)活性等について、先行バイオ医薬品と比較する必要がある。一方、糖鎖構造等が体内動態に大きく影響するために、in vitroの活性が臨床効果と相関しない場合もあり、その場合にはin vivoでの生物活性試験の実施が必要と考えられる。

先行バイオ医薬品と同等の有効性・安全性が期待できることの論拠の一つとして、生物活性の比較結果は重要であるので、開発する製品の作用機序等を考慮し、構造及び物理的化学的性質の比較において差異が見出された項目のうち、生物活性への影響が考えられるものについては、その差異が生物活性に影響する程度を明らかにし、有効性・安全性への影響を考察する必要がある。

先行バイオ医薬品の臨床用量が重量単位で設定されている場合には特に比活性について比較し、その同等性を確認する。比活性に差異がある場合、その差が認容可能か、すなわち有効性や安全性に対して影響がないかどうかを評価し、先行バイオ医薬品と同じ投与量を用いることの妥当性を説明することが求められる。

また、生物活性の比較試験では、公的な標準品を用いて活性値を校正しておくことにより、公知の情報との比較も可能となることから、公的な標準品が入手可能ならば、これに対して校正した値を求めておくことが望ましい。

4.3 不純物に関する比較

目的物質由来不純物については、その種類と量の比較を行い、有効性・安全性への影響を考察する。目的物質由来不純物の代表的な例として、切断体や凝集体が挙げられる。凝集体については、免疫原性との関連が示唆されている不純物であり、様々なサイズや形状のものが存在する可能性があることから、原理の異なる複数の分析手法を用いて比較を行うことが有用と考えられる。

製造工程由来不純物については、製造工程により異なるため、先行バイオ医薬品との比較は必ずしも必要ではないが、先行バイオ医薬品とバイオ後続品に共通して含まれる不純物については、比較を行い、先行バイオ医薬品と比較して残存量が多くないことを示すことは有用である。ただし、ELISAを用いた宿主細胞由来タンパク質試験のように、構成するタンパク質が先行バイオ医薬品とバイオ後続品で異なるものを、同一の分析法で比較した結果は、分析法の特異性の違いにより実際の残存量の違いを反映していない可能性があるので注意が必要である。また、先行バイオ医薬品には含まれない不純物が、バイオ後続品に含まれる場合もあるため、適切な分析及び評価が必要である。

4.4 免疫原性に関連する品質特性の比較

先行バイオ医薬品とバイオ後続品の免疫原性の差異を生じ得る品質関連の要因には、目的物質の翻訳後修飾構造や目的物質由来不純物、製造工程由来不純物等が含まれる可能性がある。免疫原性は、非臨床試験による評価が困難であり、臨床試験での評価が必要であるため、品質の比較試験において、免疫原性に影響を及ぼし得る品質特性の差異を明らかにしておくことが、臨床試験の計画を考える上でも有用である。

5.非臨床試験

バイオ後続品の開発においても、臨床試験を開始する前までに、少なくともヒトに投与するための安全性が評価されている必要がある。非臨床試験には、先行バイオ医薬品と不純物プロファイルが異なるバイオ後続品の安全性確認のための試験のように、バイオ後続品のみを対象として試験を実施する方が合理的な場合と、薬理作用の比較試験のように先行バイオ医薬品と比較するための試験が適切な場合が含まれる。

糖タンパク質医薬品では糖鎖の不均一性が体内動態に大きく影響する場合もあり、バイオ後続品の同等性/同質性評価の一環として非臨床での薬物動態を比較することが有用な場合もある。

なお、非臨床試験の実施に当たっては、十分な品質特性解析が行われていることが前提になる。また、先行バイオ医薬品とバイオ後続品との品質特性の比較結果のみならず、類似した製品の使用実績や文献情報が、安全性評価のための試験設計において重要な役割を果たすことがある。

5.1 非臨床薬理試験

薬理試験として、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の薬理作用を直接比較する。臨床効果と密接に関連するin vitroでの生物活性(細胞を用いた試験や受容体結合活性等)の比較が必要であり、品質の比較試験として作用機序を考慮した生物活性の比較がなされている場合には、これを非臨床薬理試験として準用できる場合もある。in vitroの比較試験で十分な評価が可能な場合には、必ずしもin vivoでの薬力学的効果に関する比較試験が求められるわけではないが、ある種の糖タンパク質のようにin vitroの活性が臨床効果と相関しない場合には、in vivo薬理試験による比較を行う。適切なin vitro評価系がない場合は、in vivoでの評価が必要である。

5.2 非臨床安全性試験

バイオ後続品の非臨床安全性試験については、品質試験及び薬理試験の成績を踏まえて実施の要否を検討する必要がある。

品質試験及び薬理試験における比較検討の結果、先行バイオ医薬品と高い類似性を有し、臨床試験実施にあたり安全性上の懸念がないことが十分説明できる場合には、非臨床安全性試験を省略することが可能である。

一方、バイオ後続品の品質及び薬理試験を踏まえて、先行バイオ医薬品と異なる安全性上の懸念がある場合には、当該情報に基づき、ICH S6ガイドライン等を参考に、非臨床安全性試験を実施する必要がある。その際、バイオ後続品の非臨床安全性試験は、通常、適切な動物種1種を用いた反復投与毒性試験で評価可能であり、その試験デザイン(動物種、投与期間、投与量等)については、先行バイオ医薬品の毒性プロファイル及び対象疾患等を考慮して設定する必要がある。

6.臨床試験

バイオ後続品では、一般に、品質特性及び非臨床試験結果のみによって、先行バイオ医薬品との同等性/同質性を検証することは困難であり、基本的には、臨床試験により同等性/同質性を評価する必要がある。

なお、臨床試験で用いる製剤は、市販製品用の製法で製造されたものを用いることが基本的に求められるが、開発途上で製法変更があった場合には必要に応じてICH Q5Eガイドラインにしたがって同等性/同質性を評価する。

後述する臨床薬物動態(PK)試験又は薬力学(PD)試験により目的とする臨床エンドポイントにおける同等性/同質性を保証できる十分なデータが得られた場合には、有効性に関する臨床試験を省略できる場合がある。

臨床試験による同等性/同質性評価は、得られたデータに基づき次の試験をデザインし、ステップ・バイ・ステップで実施すべきものであり、必要とされる臨床試験の種類と内容は先行バイオ医薬品に関する情報やその特性によっても大きく異なる。各々の製品について必要とされる臨床試験の範囲については、開発ステージで得られているデータに基づいてケース・バイ・ケースの対応が必要であるので、規制当局に相談することが望ましい。

6.1 臨床薬物動態(PK)試験及び薬力学(PD)試験

バイオ後続品と先行バイオ医薬品の薬物動態の同等性を適切にデザインされた試験により確認する必要がある。クロスオーバーデザインが望ましいが、消失半減期が長い薬剤(抗体、PEG結合タンパク質等)や免疫原性のリスクが高い薬剤等では、並行群間比較試験が適切と考えられるため、特性を考慮した試験デザインを検討する。その際、先行バイオ医薬品や対象疾患等によって、健康人を対象とすることが適切な場合と患者を対象とする方が適切な場合がある。体内動態の制御機構(標的に依存した消失、薬物動態関連受容体による消失等)や、それらを変動させる臨床的要因を考慮し、品質特性の差異がもたらす薬物動態の差異を検出しやすい対象を選択する。

また、先行バイオ医薬品の目的とする効能・効果における投与経路と同一の投与経路で検討を行う必要があり、複数の投与経路を有する場合には原則的にはそれぞれについて検討する必要がある。ただし、全ての投与経路での検討までは必要でない場合もあり、例えば、先行バイオ医薬品が同一の剤形で静脈内投与と皮下投与の用法を有しており、皮下投与時の評価により静脈内投与時の消失過程を検討することが可能と考えられる場合には、皮下投与での試験のみで差し支えない。原則的には、先行バイオ医薬品の推奨用量で検討するべきであるが、科学的に妥当と考えられた場合は、それ以外の用量を選択することも可能である。

主要な薬物動態パラメータとしては血中濃度曲線下面積(AUC)、最高血中濃度(Cmax)等が考えられるが、事前に同等性の許容域(同等性のマージン)を規定しておく必要がある。許容域は、個々の製品の特性を踏まえ検討する必要があり、設定した許容域の妥当性について十分な説明が必要であるが、バイオ後続品と先行バイオ医薬品のPKの評価パラメータの対数値の平均値の差の90%信頼区間が、log(0.80)~log(1.25)の範囲にあるとき、PKが同等と判定することは一般に受入れ可能である。

先行バイオ医薬品とバイオ後続品の品質特性の差異により、薬物濃度分析に用いられる結合試薬との結合性に差異が生じ、両者の検量線が一致しない場合があるので、生体試料中濃度の測定には、バリデートされた分析法を用いる必要がある。

PKの評価と併せて、有効性、安全性又は免疫原性の評価が実施可能な場合もある。また、可能であれば製品の臨床効果を反映するPDマーカーを選択し、PDを指標にした比較を行う。特に、技術的な問題でPK試験が困難な場合においてはPDマーカーによる比較が有用である。

6.2 臨床的有効性の比較

品質特性の比較試験等によって品質面での高い類似性が示されたものの、PK又はPD試験の結果をあわせても、臨床的有効性の同等性の結論が下せない場合は、バイオ後続品と先行バイオ医薬品の有効性が同等であることを確認するための臨床試験を実施することが必須となる。

有効性の比較を目的とした臨床試験の実施に際しては、バイオ後続品と先行バイオ医薬品の同等性を確認するために、適切な比較試験をデザインし、その妥当性を説明する必要がある。具体的には、必要かつ妥当な症例数を設定すると共に、臨床的に確立されたエンドポイントを用い、事前に同等性の許容域(同等性のマージン)を規定しておく必要がある。評価に用いるエンドポイントは、必ずしも真のエンドポイントである必要はなく、先行バイオ医薬品とバイオ後続品の差異を検出するために適切なものを選択する。薬理作用やエンドポイントを考慮して、科学的合理性を十分に説明できる場合は、先行バイオ医薬品に対する非劣性を検証する試験デザインとすることが可能な場合がある。

また、臨床試験は、原則として先行バイオ医薬品の承認された効能・効果及び用法・用量の範囲内で実施する必要があり、バイオ後続品と先行バイオ医薬品の有効性に差異がある場合にその差異が検出されやすい集団を対象として実施することが推奨される。

6.3 臨床的安全性の確認

バイオ後続品は、有効性の同等性が示された場合であっても、安全性プロファイルが先行バイオ医薬品と異なる可能性がある。PK又はPD試験によって先行バイオ医薬品との同等性/同質性が示され、有効性を評価するための臨床試験を実施しない場合であっても、必要に応じて安全性に関する臨床試験の実施(免疫原性の評価を含む)を検討する。また、有効性を比較するための臨床試験を実施する際に、安全性(有害事象の種類、その頻度)を同時に検討するような試験計画としても差し支えない。

不純物プロファイルの解析結果等から安全性について特に懸念がある場合には、十分な検討ができるよう考慮する必要がある。

長期投与される医薬品においては、繰返し投与試験の実施を考慮する。繰返し試験の期間については、安全性プロファイルを確認できる期間が必要であり、抗薬物抗体産生などの公知の知見を踏まえ設定することができる。なお、有効性に関して同等性が示されている場合には、比較臨床試験によらず、非対照試験により抗薬物抗体産生を含む安全性を確認することで差し支えない場合もある。

なお、臨床開発の適切なステージで、抗体の出現の有無及びその他の免疫原性について、科学的に妥当な判断が可能な試験を行う。抗薬物抗体の評価に用いる試験法は、適切にバリデートされた分析法を用いる必要がある。

6.4 効能・効果の付与

先行バイオ医薬品との品質特性の類似性が高く、非臨床薬理試験等で同等性が示され、ある効能・効果において先行バイオ医薬品と有効性が同等であり、安全性プロファイルについても差異がないと判断された場合、臨床試験を実施した効能・効果をバイオ後続品に付与することが可能となる。

さらに、対照薬として用いた先行バイオ医薬品が複数の効能・効果を有する場合、臨床試験を実施していない効能・効果においても、薬理学的に先行バイオ医薬品と同様の作用が期待でき、安全性プロファイルにも問題がないことが説明できるのであれば、それぞれの効能・効果での用法・用量や投与期間の異同に関わらず、それらの効能・効果をバイオ後続品に付与することが可能となる(外挿)。一方、それぞれの効能・効果で作用機序が異なっている場合、又はその作用機序が明確になっていない場合には、他の効能・効果を付与することはできず、別途臨床試験が必要となる場合もある。例えば、有効成分が複数のドメインからなるバイオ医薬品で、複数の標的分子や受容体を介して作用し、各効能・効果でその寄与の度合いが異なる場合等がこれに該当すると考えられる。

なお、臨床試験を実施していない効能・効果の付与が可能となるのは、対照薬として用いた先行バイオ医薬品のもつ効能・効果に限られ、先行バイオ医薬品以外の同種・同効の他の既承認バイオ医薬品の効能・効果は含まれない。

7.製造販売後におけるリスク管理

一般に医薬品の承認までに実施される臨床試験から得られる安全性及び有効性に関する情報は限られている。また、一般に再審査期間を満了した医薬品の効能・効果等は、安全性及び有効性に関する一定の情報が十分に得られている。しかしながら、バイオ後続品は、バイオ医薬品であるため、免疫原性等、後発医薬品と異なる要素があり、製造販売後には、バイオ後続品の特性を考慮した適切なリスク管理及び情報提供が求められる。そのため、開発段階において先行バイオ医薬品との同等性/同質性評価で十分に評価できなかった事項を考慮し、製造販売後に収集すべき情報の有無とその内容を明確にすると共に、適切な医薬品リスク管理計画を立案する必要がある。

医薬品安全性監視活動の検討に際しては、製品の品質特性、臨床試験により得られた情報及びその限界、並びに評価が十分に行えなかった事項、想定される患者集団の特徴、当該製剤に関して海外で製造販売後に収集された知見等を考慮する必要がある。その上で、追加の医薬品安全性監視活動を行う場合には、例えば、使用成績調査、製造販売後データベース調査、国際共同臨床試験を含む製造販売後臨床試験、その他医薬品安全性監視の方法としてICH E2Eガイドラインに示された方法等の様々な手法の中から、目的に応じて効率的かつ効果的な手法を選択すべきである。また、対象患者数が少ない場合や、複数の企業が同一先行バイオ医薬品に対するバイオ後続品を販売する場合等では、信頼性が担保される疾患レジストリを産学等で構築して活用することも有用かもしれない。なお、追加の医薬品安全性監視活動を行う際には、適切に信頼性を担保する必要がある。また、リスクの内容に応じたリスク最小化計画を立案する必要がある。

承認申請に際してはこれらの計画の全体をとりまとめた医薬品リスク管理計画書(案)を提出することが求められ、詳細については承認審査の過程で規制当局と議論することになる。また、承認後、これらの追加の医薬品安全性監視活動の経過及び結果については、事前に医薬品リスク管理計画書で定めた時期に規制当局に報告する必要がある。また、結果の適切な公開の方法について、検討しておくことが望ましい。

適宜参考とすべき主なガイドライン等

1.ICH Q2Aガイドライン「分析バリデーションに関するテキスト(実施項目)」

2.ICH Q2Bガイドライン「分析法バリデーションに関するテキスト(実施方法)」

3.ICH Q5Aガイドライン「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」

4.ICH Q5Bガイドライン「組換えDNA技術を応用したタンパク質生産に用いる細胞中の遺伝子発現構成体の分析」

5.ICH Q5Cガイドライン「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品)の安定性試験」

6.ICH Q5Dガイドライン「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析」

7.ICH Q5Eガイドライン「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程の変更にともなう同等性/同質性評価」

8.ICH Q6Bガイドライン「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定」

9.ICH Q7ガイドライン「原薬GMPのガイドライン」

10.ICH Q8ガイドライン「製剤開発に関するガイドライン」

11.ICH Q9ガイドライン「品質リスクマネジメントに関するガイドライン」

12.ICH Q10ガイドライン「医薬品品質システムに関するガイドライン」

13.ICH Q11ガイドライン「原薬の開発と製造(化学薬品及びバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)」

14.ICH S6ガイドライン「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」

15.ICH E2Eガイドライン「医薬品安全性監視の計画」

16.ICH E9ガイドライン「臨床試験のための統計的原則」

17.薬食審査発0401第1号 平成26年4月1日「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン」

18.薬食審査発1214第1号 平成24年12月14日「抗体医薬品の品質評価のためのガイダンス」

用語集・定義

同等性/同質性

先行バイオ医薬品とバイオ後続品の品質特性の類似性が高く、品質特性に何らかの差異が見出されたとしても、製造販売する製品の臨床的有効性・安全性に影響を及ぼすものではないことが、非臨床試験及び臨床試験等の結果に基づいて科学的に判断できることを意味する。ただし、安全性に悪影響を与えない品質特性の差異や、有害反応の頻度が先行バイオ医薬品より低いといった差異は、許容される。

目標製品品質プロファイル(QTPP)

製剤の安全性及び有効性を考慮した場合に要求される品質を保証するために達成されるべき、製剤の期待される品質特性の要約。(ICH Q8,11)

重要品質特性(CQA)

要求される製品品質を保証するため、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質。(ICH Q8,11)

品質特性

製品の品質を現すのに相応しいものとして選択された分子特性又は製品特性であり、当該製品の同一性、純度、力価、安定性及び外来性感染性物質の安全性などを併せて規定されるものである。規格及び試験方法で評価されるのは、品質特性から部分的に選択された一連の項目である。品質特性には、目的とする有効成分の力価や生物活性、物理的化学的性質等のみならず、目的物質関連物質、目的物質由来不純物、製造工程由来不純物の種類や存在量も含まれる。

目的物質関連物質

製造中や保存中に生成する目的物質の分子変化体で、生物活性があり、製品の安全性及び有効性に悪影響を及ぼさないもの。これらの分子変化体は目的物質に匹敵する特性を備えており、不純物とは考えない。(ICH Q6B)

不純物

原薬又は製剤中に存在する目的物質、目的物質関連物質及び添加剤以外の成分。製造工程由来のものもあれば目的物質由来のものもある。(ICH Q6B)

目的物質由来不純物

目的物質の分子変化体(例えば、前駆体、製造中や保存中に生成する分解物・変化物)で、目的物質関連物質以外のもの。(ICH Q6B)

製造工程由来不純物

製造工程に由来する不純物。これらには、細胞基材に由来するもの、細胞培養液に由来するもの、あるいは培養以降の工程である目的物質の抽出、分離、加工、精製工程に由来するもの(例えば、細胞培養以降の工程に用いられる試薬・試液類、クロマトグラフィー用担体等からの漏出物)がある。(ICH Q6B)

(公的)標準品

国際標準品及び国内標準品を指す。例えばNational Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)から配布されている国際標準品、あるいは日本公定書協会から配布されている日本薬局方標準品が該当する。これらの標準品は、力価測定用、あるいは理化学試験用等であり、定められた用途以外での使用は不適切である。