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○「リウマチ対策の方向性等」及び「アレルギー疾患対策の方向性等」について

(平成23年8月31日)

(健疾発0831第1号)

(各都道府県・各特別区・各保健所設置市衛生主管部(局)長あて厚生労働省健康局疾病対策課長通知)

厚生労働行政の推進については、日頃より御理解、御協力いただき厚く御礼申し上げます。

標記については、平成17年10月31日付けで通知していたところであるが、今般それぞれの方向性等について、別添のとおり見直しを行ったところであるのでお知らせ致します。

貴職におかれましては、本方向性等を踏まえ、今後ともリウマチ対策及びアレルギー疾患対策を推進されるよう特段のご配慮をお願い致します。

別添1

○リウマチ対策の方向性等

(平成23年8月31日)

(都道府県等、関係学会、関係団体あて健康局疾病対策課長通知)

第1 趣旨

関節リウマチ(以下「リウマチ」という)は、聞き慣れた病名ではあるが、その病因・病態は未だ十分に解明されたとはいえず、効果的な対症療法はあるものの、根治的な治療法が確立されていない。

かつては、リウマチの症状は継続的に悪化し、患者によっては、強い疼痛や変形・拘縮などによる上下肢の機能障害などによってQOL(生活の質)の低下が生じていた。

しかし、近年、リウマチの早期診断・早期治療が可能となり、メトトレキサート(MTX)や生物学的製剤等の治療薬の効果的な選択により、リウマチの診療は飛躍的な進展を遂げている。特に新規にリウマチを発症した患者においては、早期から積極的な治療を開始することで、リウマチによる関節破壊の完全な阻止を期待できる治療方法が確立されつつある。

本方向性等は、このような認識の下、厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会により平成23年8月にとりまとめられた「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」を踏まえ、国、地方公共団体及び関係団体等におけるリウマチ対策が戦略的に推進されることを促そうとするものである。

第2 基本的方向性

1 当面のリウマチ対策の目標

平成17年の通知「リウマチ対策の方向性等」を踏まえた研究開発の推進や普及啓発等により、リウマチの早期診断手法が確立されたこと、生物学的製剤の効果的な選択による寛解導入方法が見出されつつあることなど、著しく改善された事項も多いものの、治療方法の変革等により新たに生じた課題も残されている。

最終的なリウマチ対策の目標は、リウマチに関する予防法や根治的治療法を確立するとともに、各地域の医療体制の実情に応じた連携体制を整備することにより、国民の安心・安全な生活の実現を図ることにあるが、当面の目標としては、以前は不治の病とされていたリウマチを「寛解導入が可能な疾患」にすることを目指す。このため、最新の知見に基づいた診療ガイドラインの改訂等による不断の診療水準の向上や失われた関節機能を改善させることを目的とした医療の提供、リウマチに係る適切な医療情報を得られる様な体制の構築を目的とした情報提供・相談体制の確保、関節の破壊を阻止するための治療方法の確立や関節破壊に伴う日常生活の活動性の低下の改善を目的とした研究開発及び医薬品等開発の推進に取り組むことが重要である。

2 取り組むべき施策の柱

平成17年に通知した「リウマチ対策の方向性等」に引き続き、国、地方公共団体及び関係団体などが適切な役割分担の下、(1)医療提供等の確保、(2)情報提供・相談体制の確保、(3)研究開発等の推進を取り組むべき施策として実施の柱に据えることが必要であり、それぞれについて以下の方向性で取り組んでいく。

(1) 医療提供等の確保

リウマチの治療法については、早期からのメトトレキサートの使用に加えて、不応例に対しては生物学的製剤を積極的に導入することにより、関節破壊の進展を阻止させる治療方法が確立しつつある。患者等に身近なかかりつけ医を中心としながら、症状の安定時にはかかりつけ医により、重症難治例や著しい増悪時等には専門医療機関により、適切な対応がなされるよう、かかりつけ医と専門医療機関の円滑な連携による医療提供の確保を図る。

また、最新の知見に基づいた診療ガイドラインの改訂等による不断の診療水準の向上、専門的な医学情報の普及、リウマチ診療に精通した人材の育成を進めることにより、診療レベルの均てん化を図る。

(2) 情報提供・相談体制の確保

国及び地方公共団体は、患者を取り巻く生活環境等の改善を図るため、患者を含む国民全体に対する情報提供体制や相談体制の確保のための対策を講じ、国民がリウマチに係る適切な医療情報を得られる様な体制の構築を目指す。

(3) 研究開発等の推進

リウマチ対策研究の基本的方向性としては、関節の破壊を阻止するための治療方法の確立に重点を置くとともに、関節破壊に伴う日常生活の活動性の低下を改善させるための有効な治療法の開発を推進する。なお、長期的視点に立ち、リウマチの予防法と根治的な治療法の開発を進め、最終的にはリウマチの克服を目指す。

3 国と地方公共団体との役割分担と連携

目標が達成されるためには、国と地方公共団体、関係団体等における役割分担及び連携が重要となる。国と地方公共団体の役割分担については、リウマチの特性及び医療制度の趣旨等を考慮すれば、基本的には、都道府県は、適切な医療体制の確保を図るとともに、市町村と連携しつつ地域において正しい情報の普及啓発を行うことが必要である。一方、国は地方公共団体が適切な施策を進めることができるよう、先進的な研究を実施し、その成果を普及する等の必要な技術的支援を行う必要がある。

このような国と地方公共団体における役割分担の下、国は患者団体、日本医師会、日本リウマチ学会、日本整形外科学会、日本小児科学会、日本リウマチ財団等関係団体と連携してリウマチ対策を推進していく。

第3 今後のリウマチ対策

第2の2における取り組むべき施策の柱については、国と地方公共団体の役割分担を明らかにしつつ、以下のとおり実施していく。

1 医療提供等の確保

(1) 国の役割

○ 診療ガイドラインの普及

国は、日本医師会や関係学会等と連携して、リウマチ医療を提供する医療機関が、適切な治療法の選択や薬剤投与による副作用の早期発見等の適切な医療が実施できるよう、発症初期のリウマチの診断及び治療を含めたリウマチ診療に対する最新の知見を整理した診療ガイドラインの改訂及びその普及を図る必要がある。

○ 人材の育成

国においては、日本医師会等の医療関係団体や日本リウマチ学会等の関係学会等と連携して、診療ガイドラインの普及を図るなど、急速に変遷しつつあるリウマチの診断及び治療に関する啓発活動を積極的に行う。これに加え、診療ガイドラインに基づいた、リウマチの診療における必要な疾患自体の知識、適切な治療方法及びその考え方、外来診療における留意事項等のかかりつけ医が習得しておくべき基本的診療技術を明確にするとともに、リウマチ診療に必要な基本的知識・技術を持つかかりつけ医の育成に努める。さらに、リウマチ診療に精通した人材の育成を図るため、国は関係団体等に対し以下のとおり協力を依頼する。

① 日本医師会において実施している医師の生涯教育において、リウマチに係る教育の一層の充実

② 保健師、看護師、薬剤師、理学療法士等もリウマチ患者に適切に対応できるよう、各種研修における教育の一層の充実

③ リウマチ診療の質の向上及び都道府県間におけるリウマチ専門の医師の偏在の是正を図るため、関係学会においてリウマチ専門の医師が適切に育成されること

④ リウマチ診療はほぼ全臓器に関わる診療となるため総合的なリウマチ専門の医師の存在が重要と考えられることから、関係学会において、総合的なリウマチ専門医の育成についての検討

○ 専門情報の提供

リウマチに関する研究成果等を踏まえた専門的な医学情報については、国は関係学会等と協力して必要な情報提供を適宜行うこととする。

(2) 地方公共団体の役割

○ 診療ガイドライン等の普及、適切な地域医療の確保

都道府県においては、国の取組や医療計画等を活用して、地域におけるリウマチに関する医療体制の確保を図ることが求められる。また、適切な地域医療の確保の観点から、地域保健医療対策協議会等の場を通じ、関係機関との連携を図る必要がある。また、リウマチはほぼ全身の臓器に係わる疾患であることから、専門医療機関等を支援できる集学的な診療体制を有している病院を都道府県に1箇所程度確保するというような医療連携体制が考えられる。加えて、小児リウマチの医療体制についても、必要に応じて、周辺都道府県と連携してその確保に努める必要がある。

○ 地域におけるリハビリテーション体制の確保

地方公共団体においては、機能障害の回復や機能低下の阻止のためのリハビリテーションを行うことができる環境の確保を図る。その際、市町村においては、健康増進法に基づく機能訓練や介護保険制度に基づく介護予防サービス事業の活用等も考慮し、地域におけるリハビリテーション体制の確保に留意する。あわせて、在宅療養を支援するための難病患者等居宅生活支援事業の活用を図ることも重要である。

2 情報提供・相談体制の確保

(1) 国の役割

○ ホームページ等による情報提供

ホームページやパンフレット等を活用して、最新の研究成果を含む疾病情報や診療情報等を都道府県等や医療従事者等に対して提供する。また、免疫アレルギー疾患等予防・治療研究推進事業において実施されるリウマチ・アレルギーシンポジウムにより、リウマチに関する上記の情報を国民に広く啓発し、国民がリウマチに対する正しい知識を得るための機会を確保することに努め、専門的な診療を必要とする患者が専門医療機関に確実に受診できるよう支援していく。

○ 相談体制の確保

国は、地域ごとの相談レベルに格差が生じないよう、全国共通の相談員養成研修プログラムを作成し、「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」の内容に関する充実を引き続き図るものとする。

(2) 地方公共団体の役割

○ リウマチに係る情報提供

地方公共団体においては、国等の発信する情報やリウマチ・アレルギー特別対策事業を活用するほか、それぞれの地域医師会等の協力を得ながら医療機関等に関する情報を住民に対して提供することが望ましい。

○ 相談体制の確保

都道府県内において体系的なリウマチ相談体制を構築するため、一般的な健康相談等は市町村において実施し、その支援の一環としての相談・支援、医療機関情報の提供等については保健所において実施する等を検討し実行することが望ましい。

3 研究開発等の推進

○ 効果的かつ効率的な研究推進体制の構築

国は、研究企画・実施・評価体制の構築に際し、明確な目標設定、適切な研究評価等を行うことにより、リウマチに関する研究をより戦略的に実施し、得られた成果がより効果的に臨床に応用されるよう研究を推進する。

○ 研究目標の明確化

当面成果を達成すべき研究分野としては、今後よりリウマチ診療の医療の均てん化や医療水準の向上に資するような研究成果が得られるよう、特にリウマチを早期診断し、関節破壊が生じる前に寛解導入療法を積極的に開始する治療方法及び治療戦略の確立や、すでに関節破壊が進行した場合の関節機能の改善方法に関して重点的に研究を推進していく。長期的目標としては、病因・病態(免疫システム等)に関する更なる研究を進めてリウマチの克服を目指す。

○ 医薬品等の開発促進等

欧米程度の医療水準が確保されるよう、新薬開発の促進が図られていく必要がある。また、安全性・有効性を確保しつつ、適切な外国データがあればそれらも活用しながら、医薬品の薬事法上の承認に当たって適切に対応していく必要がある。また、優れた医薬品がより早く患者の元に届くよう治験環境の確保に努めるとともに、有害事象を的確に把握できるよう収集された副作用データベースの活用方法を検討する必要がある。

4 その他

○ 施策のフォローアップ

国においては、適宜、有識者の意見等を聞きつつ、国が実施する重要な施策の実施状況等について評価し、また、地方自治体の実施する施策を把握することにより、より的確かつ総合的なリウマチ対策を講じていくこと。

地方公共団体においても国の施策を踏まえ、国や関係団体等との連携を図り、施策を効果的に実施するとともに、主要な施策について政策評価を行うことが望ましい。

○ 方向性等の見直し

国は、「リウマチ対策の方向性等」について、概ね5年を目途に再検討を加え、必要があると認められるときは、これを変更するものとする。

別添2

○アレルギー疾患対策の方向性等

(平成23年8月31日)

(都道府県等、関係学会、関係団体あて健康局疾病対策課長通知)

第1 趣旨

わが国においては全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患していると推定されており(気管支喘息が国民全体では約800万人、花粉症を含むアレルギー性鼻炎は国民の40%以上、アトピー性皮膚炎が国民の約1割)、アレルギー疾患対策に対する国民の関心は非常に高い。しかしながら、患者への医療の提供等については、我が国は欧米のアレルギー診療水準との格差はないものの、患者のニーズに対応できていない部分があり、課題を残しているといえる。

また、アレルギー疾患に関する研究については、徐々に発症機序、悪化因子等の解明が進みつつあるが、その免疫システム・病態はいまだ十分に解明されていないため、アレルギー疾患に対する完全な予防法や根治的治療法はなく、治療の中心は抗原回避をはじめとした生活環境確保と抗炎症剤等の薬物療法による長期的な対症療法となっているのが現状である。

本方向性等は、このような認識の下、厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会により平成23年8月にとりまとめられた「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」を踏まえ、国、地方公共団体及び関係団体等におけるアレルギー疾患対策が戦略的に推進されることを促そうとするものである。

第2 基本的方向性

1 当面のアレルギー対策の目標

国のアレルギー疾患対策の最終的な目標は、アレルギー疾患に関して、予防法及び根治的治療法を確立することにより、もって国民の安心・安全な生活の実現を図ることにあるが、これを達成するためには長期的な研究による成果が必要であるため、当面の目標としては、アレルギー疾患を「自己管理可能な疾患」にすることを目指し、一層対策を推進することとする。具体的には、身近なかかりつけ医を始めとした医療関係者等の支援の下、患者及びその家族が必要な医療情報を得ることや相談を受けることによって、治療法を正しく理解し、生活環境を改善し、また自分の疾患状態を客観的に評価する等の自己管理を的確に行えるような環境を整えることが不可欠である。

2 取り組むべき施策の柱

平成17年に通知した「アレルギー対策の方向性等」に引き続き、国、地方公共団体及び関係団体等が適切な役割分担の下、(1)医療提供等の確保、(2)情報提供・相談体制の確保、(3)研究開発等の推進を取り組むべき施策の柱に据えることが必要であり、それぞれについて以下の方向性で取り組んでいく。

(1) 医療提供等の確保

アレルギー疾患の多様性に鑑み、かかりつけ医と専門医療機関間のみならず、かかりつけ医間、専門医療機関間における円滑な医療連携体制の確保を図る。医療連携体制において中心的役割を負うかかりつけ医が担うべき役割を明確化し、診療ガイドラインの普及及び診療ガイドラインに基づいた適切な治療を行う上での基本的診療技術の習得を推進するとともに、各医療職種の人材育成の推進を図り、アレルギー疾患患者に統一的、標準的な治療が提供できる体制の確保を目標とする。

(2) 情報提供・相談体制の確保

国及び地方公共団体は、患者を取り巻く生活環境等の改善を図るため、アレルギー疾患を自己管理する手法等の普及・啓発を図るとともに、関係団体や関連学会等と連携し、その手法等の普及啓発体制の確保を図る。

(3) 研究開発等の推進

難治性アレルギー疾患に対する治療方法の開発とその普及に資する研究を推進するとともに、適切な医療が提供できる医療体制の確保に資する研究を推進する。

3 国と地方公共団体との役割分担と連携

目標が達成されるためには、国と地方公共団体、関係団体等との役割分担及び連携が重要となる。国と地方公共団体の役割分担については、都道府県は、適切な医療体制の確保を図るとともに、市町村と連携しつつ地域における正しい情報の普及啓発を行うことが必要である。一方、国は地方公共団体が適切な施策を進めることができるよう、先進的な研究を実施しその成果を普及する等の必要な技術的支援を行う必要がある。

このような行政における役割分担の下、厚生労働省は患者団体、日本医師会、日本アレルギー学会、日本小児科学会等関係団体並びに関係省庁と連携してアレルギー疾患対策を推進していくことが必要である。

第3 今後のアレルギー疾患対策

第2の2における取り組むべき施策の柱については、国と地方公共団体の役割分担を明らかにしつつ、以下の通り実施していく。

1 医療提供等の確保

(1) 国の役割

○ 診療ガイドラインの普及

国においては、アレルギー疾患に係る医療体制を確保するため、日本医師会等医療関係団体や関係学会等と連携して、診療ガイドラインの改訂及びその普及を図ることにより、地域における診療の向上を図る。また、全ての患者を専門医が診ることは現実的でないため、安定時には身近なかかりつけ医が対応することが望ましく、かかりつけ医の診療をさらに向上させることが望まれる。そのためには、かかりつけ医が担う診療において必要な最低限度の技能や知識等を明確化し、その基本的診療技術の習得を推進していく必要がある。

○ 人材の育成

アレルギー疾患(喘息発作やアナフィラキシーショック等)の診療経験は、プライマリケアの基本的診療能力として、その正しい知識及び技術の修得に資するものであり、現在臨床研修においてアレルギー疾患が経験目標の1疾患として取り上げられているところであるが、さらにアレルギー疾患の診療に精通した人材の育成を図るため、国は関係団体等に対し以下のとおり協力を依頼する。

① 日本医師会に対して、医師の生涯教育におけるアレルギー疾患に係る教育の一層の充実

② 保健師、看護師、薬剤師及び管理栄養士等の職能団体に対して、各種研修におけるアレルギー疾患に係る教育の一層の充実

③ 日本アレルギー学会等の関係学会に対して、アレルギー専門の医師が地域によっては不足しがちであること及び小児アレルギー診療に携われる医師の確保が必要であるとの意見があることに鑑み、専門の医師の育成の促進

(2) 地方公共団体の役割

○ 診療ガイドライン等の普及、適切な地域医療の確保

都道府県においては、地域の実情に応じたアレルギー疾患に関する医療提供体制の確保を図ることが求められる。また、適切な地域医療を確保する観点から、地域保健医療協議会等を通じ、地域医師会等の関係団体等との連携を十分に図り、アレルギー疾患に対する専門的・集学的な対応が可能な医療機関を地域ごとに確保することが必要である。このような専門医療機関は、少なくとも都道府県に1カ所程度は確保することが望まれる。このような専門医療機関は限られていることから、専門医療機関等が互いに支援できるような、専門医療機関間での連携も重要と考えられる。診療ガイドラインに基づいた標準的な医療を提供するに当たっては、医療従事者間における相互の密接な連携も重要であるが、その具体的な在り方については、地方公共団体や地域の関係団体等との間でもそれぞれの地域の特性を活用した取組が検討されることが望ましい。

また、アレルギー疾患では、喘息の重積発作や大発作、重症感染症を併発している状態あるいはアナフィラキシーショックのような、緊急を要する病態を来す可能性もあることから、救急時対応を行う救急病院においても、アレルギー疾患の緊急時対応を適切に行える医師が配備されていることが望まれる。

2 情報提供・相談体制の確保に係る具体策

(1) 国の役割

○ ホームページ等による情報提供

国においては、適宜、関係団体や関係学会等と連携し、ホームページやパンフレット等を活用して、最新の研究成果を含む疾病情報や診療情報等を都道府県等や医療従事者等に対して提供する。また、免疫アレルギー疾患等予防・治療研究推進事業において実施されるリウマチ・アレルギーシンポジウムにより、アレルギー疾患に関する上記の情報を国民に広く啓発することが重要である。また、(財)日本予防医学協会において実施されている、アレルギー相談センター事業が活用されるよう、その周知に努めるべきである。

○ アレルギー物質を含む食品に関する表示

国は、アレルギー物質を含む食品に関する表示については、科学的知見の進展等を踏まえ、表示項目や表示方法等の見直しを検討していく。

○ 自己管理に資する情報提供

国は、日本アレルギー学会等と連携し、厚生労働科学研究において作成された患者の自己管理マニュアル等を用いて、自己管理手法を積極的に普及し、患者及び患者家族が有効に活用できるように努める。

○ 研修会の実施

国は、地域ごとの相談レベルに格差が生じないよう、「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」のより一層の充実を図る。

○ 専門医療機関等を対象とする相談窓口の設置

専門医療機関等からの相談に対応できるよう、国立病院機構相模原病院の臨床研究センターの相談窓口についても引き続き活用されることが望まれる。

(2) 地方公共団体の役割

○ アレルギー疾患に係る情報提供

地方公共団体においては、国等の発信する情報や、リウマチ・アレルギー特別対策事業を活用するほか、それぞれの地域医師会等の協力を得ながら、住民が適切な医療機関等を選択するための情報を住民に対して提供することが望ましい。

○ 適切な自己管理の手法に係る情報提供

都道府県等においては、都道府県医師会や関係学会等と連携して研修会を実施する等して、自己管理手法の普及を図ることが求められる。また、市町村においては、都道府県等と同様、アレルギー疾患の早期発見及び自己管理手法の普及等を図ることが求められる。

○ 相談体制の確保

都道府県内において体系的なアレルギー相談体制を構築するため、一般的な健康相談等は市町村において実施し、標準的な治療方法等に関するより専門的な相談については保健所において実施する等を検討し実施することが望ましい。

○ 保健所等における取組み

地域医師会、看護協会、栄養士会等と連携し、個々の住民の相談対応のみならず、市町村からの相談や地域での学校等におけるアレルギー疾患対策の取組への助言等の支援が期待される。

3 研究開発等の推進

○ 研究推進体制の構築

国は研究企画・実施・評価体制の構築に際し、明確な目標設定、適切な研究評価等を行うことにより、アレルギー疾患に関する研究をより戦略的に実施し、得られた成果がより効果的に臨床に応用されるよう研究を推進する。

○ 医薬品等の開発促進

医薬品等の開発促進等については、新しい医薬品の薬事法上の承認に当たり、国は適切な外国のデータがあればそれらも活用しつつ、適切に対応する。また、優れた医薬品がより早く患者の元に届くよう治験環境の整備に努める。なお、小児に係る医薬品全般の臨床研究の推進を図る。

4 その他

○ 施策のフォローアップ

国においては、適宜、有識者の意見等を聞きつつ、国が実施する重要な施策の実施状況等について評価し、また、地方公共団体の実施する施策を把握することにより、より的確かつ総合的なアレルギー対策を講じていくことが重要である。地方公共団体においても国の施策を踏まえ、国や関係団体等との連携を図り、施策を効果的に実施するとともに、主要な施策について政策評価を行うことが望ましい。

○ 方向性等の見直し

国は、「アレルギー疾患対策の方向性等」について、概ね5年を目途に再検討を加え、必要があると認められるときは、これを変更するものとする。

別添3

リウマチ・アレルギー対策委員会報告書

平成23年8月

厚生科学審議会疾病対策部会

リウマチ・アレルギー対策委員会

目次

はじめに

Ⅰ リウマチ対策について

1 リウマチ対策の現状と課題

(1) 我が国におけるリウマチ対策の現状

ア リウマチ患者の動向

イ リウマチの治療の動向

ウ 主なリウマチ対策の経緯

(2) リウマチ対策における課題

ア 医療の提供等に関する課題

イ 研究開発及び医薬品等開発に関する課題

2 今後のリウマチ対策について

(1) リウマチ対策の基本的方向性

ア 今後のリウマチ対策の目標

イ 国と地方公共団体との適切な役割分担と連携体制の確立等

ウ 当面の方向性

(2) リウマチ対策の具体的方策

ア 医療の提供等

イ 情報提供・相談体制

ウ 研究開発及び医薬品等開発の推進

(3) 施策の評価等

Ⅱ アレルギー対策について

1 アレルギー疾患対策の現状と問題点

(1) 我が国におけるアレルギー疾患対策の現状

ア アレルギー疾患の疫学

イ 主なアレルギー疾患対策の経緯

(2) アレルギー疾患対策における課題

ア 医療の提供等に関する課題

イ 情報提供・相談体制の確保に関する課題

ウ 研究会開発及び医薬品等開発の推進に関する課題

2 今後のアレルギー疾患対策について

(1) アレルギー疾患対策の基本的方向性

ア 今後のアレルギー疾患対策の目標

イ 国と地方公共団体との適切な役割分担と連携体制の確立

ウ 当面の方向性

(2) アレルギー疾患対策の具体的方策

ア 医療の提供等

イ 情報提供・相談体制の確保

ウ 研究開発及び医薬品等開発の推進

(3) 施策の評価等

終わりに

資料

リウマチ・アレルギー対策委員等名簿

委員会等の開催日程と議題

はじめに

これまで、リウマチ・アレルギー対策については、研究の推進や研究成果を活用した普及啓発等を実施するとともに、今後のリウマチ・アレルギー対策を総合的かつ体系的に実施するため、厚生科学審議会疾病対策部会の専門委員会として設置されたリウマチ・アレルギー対策委員会(以下「委員会」という。)により平成17年10月にとりまとめられたリウマチ・アレルギー対策委員会報告書を踏まえ、「リウマチ対策の方向性等」「アレルギー疾患対策の方向性等」を都道府県、関係団体等に周知するなどして、戦略的な推進に努めてきた。

近年、リウマチやアレルギー疾患にかかる医療技術や国民における認識及び社会情勢等が著しく変化していること、広く普及に努めてきたそれぞれの方向性等については5年間程度を目途に策定されたものであったことから、今般、委員会を開催し、有識者による検討を行ったところである。なお、リウマチ対策、アレルギー疾患対策それぞれについて、より専門的な検討を進めるため、リウマチ対策作業班及びアレルギー疾患対策作業班を設置し、医療従事者、患者からのヒアリングなどを通して、具体的な方策に関する報告もとりまとめられている。本報告書は、それぞれの作業班の報告を基に、新たな「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」として作成されたものである。

今後、本報告書を参考に、新たな「リウマチ対策の方向性等」「アレルギー疾患対策の方向性等」が示され、国全体のリウマチ・アレルギー疾患対策の充実につながることを期待する。

Ⅰ リウマチ対策について

1 リウマチ対策の現状と課題

(1) 我が国におけるリウマチ対策の現状

ア リウマチ患者の動向

我が国におけるリウマチの患者数は、一般的に約70~80万人といわれているが、リウマチの年間発症数や罹患している患者数等に関する情報は、十分には把握されていない。

なお、本報告書において、リウマチとは関節リウマチをいう。

イ リウマチの治療の動向

リウマチは、聞き慣れた病名ではあるが、その病因・病態は未だ十分に解明されたとはいえず、効果的な対症療法はあるものの、根治的な治療法が確立されていない。

かつては、リウマチの症状は継続的に悪化し、患者によっては、強い疼痛や変形・拘縮などによる上下肢の機能障害などによってQOLの低下が生じていた。

しかし、近年、リウマチの早期診断・早期治療が可能となり、メトトレキサート(MTX)や生物学的製剤等の治療薬の効果的な選択により、リウマチの診療は飛躍的な進展を遂げている。特に新規にリウマチを発症した患者においては、早期から積極的な治療を開始することで、リウマチによる関節破壊の完全な阻止を期待できる治療方法が確立されつつある。

一方で、過去にリウマチを発症し、既に関節破壊を来して日常生活が制限されている患者も数多く存在しており、機能回復のための技術革新が求められている。

ウ 主なリウマチ対策の経緯

(ア) 厚生労働省におけるリウマチ対策

厚生労働省においては、平成9年に公衆衛生審議会成人病難病対策部会リウマチ対策専門委員会より、「今後のリウマチ対策について」(中間報告)として、調査研究の推進、医療の確保、在宅福祉サービスの充実、医療従事者の資質向上、情報網の確保促進という観点から今後の施策の方向性が示され、現在までに、免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業によるリウマチの病態解明、治療法の確立等のための研究が進められている。

その研究成果はシンポジウム、パンフレット等によって情報提供されるとともに、平成16年12月から厚生労働省のホームページ上に「リウマチ・アレルギー情報」のページが開設され、正しい情報の普及の強化が図られている。(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/index.html)

また、都道府県等の保健師等を対象にした「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」が実施され、地域における相談体制の確保促進が図られている。

医療機関等における適切な診断・治療法の普及のために、関係学会等との連携により、「関節リウマチの診療マニュアル」等の診療ガイドラインが作成され、関係医療機関等に配布されている。

さらに、厚生労働省においては、平成17年に、厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会においてリウマチ対策の基本的方向性から、重点的に推進すべき具体的施策に及ぶ幅広い事項について議論を重ね、取りまとめられた「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」等を踏まえ、「リウマチ対策の方向性等」(平成17年10月31日付け健疾発第1031001号)を発出し、戦略的、体系的にリウマチ対策を推進している。

これに基づき、従前の事業の拡充に努めるとともに、国民やリウマチ患者を対象として、シンポジウムを開催し、リウマチに関する一般的な疾病情報、適切な治療や薬剤に関する情報などを広く啓発する事業も開始している。

なお、平成8年からリウマチ科の自由標榜が認められ、平成20年の医療施設等調査によれば、リウマチ科の標榜施設は病院と診療所を合わせて5,100施設となっている。

(イ) 地方公共団体におけるリウマチ対策

都道府県におけるリウマチ対策は、地域の特性に応じて自治事務として取り組まれており、具体的には、リウマチに関する相談、普及啓発等の取組が行われている。しかしながら、ほとんどの都道府県において計画的かつ十分な対策は行われていない。また、現時点においては、各都道府県でリウマチ患者に関する調査や、患者の実態把握等が十分になされていない可能性がある。

(ウ) リウマチに関する専門医療等

リウマチ性疾患に対する専門医療の向上を図るため、昭和62年から日本リウマチ学会において専門医制度が導入され、日本専門医制評価・認定機構によって承認されている。平成23年2月現在、指導医は854名、専門医4,356名である。このほか、昭和61年3月から、日本整形外科学会は独自に認定リウマチ医制度を有しており、認定リウマチ医は5,389名(平成23年2月現在)である。また、昭和61年2月、日本リウマチ学会により一般診療の質の向上を図るためリウマチ登録医制度が制定され、昭和62年11月に日本リウマチ財団に移管された。平成23年2月現在でリウマチ登録医の数は3,498名である。

(エ) リウマチに関する研究

リウマチ・アレルギー疾患に関する診療、研修、研究、情報などに関する高度専門医療施設として平成12年10月に国立相模原病院(現国立病院機構相模原病院)に臨床研究センターが開設されており、同研究センターでは、平成16年4月から理化学研究所横浜研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターとの間で、「花粉症、リウマチをはじめとする免疫・アレルギー疾患克服」に関する基礎研究と臨床研究の連携強化及び研究成果の応用に関する協力を行う目的で、研究協力協定を締結し、共同で研究が実施されている。

(2) リウマチ対策における課題

我が国においてはこのようなリウマチ対策が実施されてきたが、これらの対策は必ずしも全国的に展開・推進されてはおらず、患者への医療提供等について患者のニーズに適切に対応できていない面があり、課題を残しているといえる。

ア 医療の提供等に関する課題

(ア) リウマチに対する治療

○ リウマチ患者の状況

平成21年に実施された日本リウマチ友の会の調査(以下「患者の調査」という。)によれば、現在受けているリウマチ診療に対する満足度は、「満足」が44.3%に過ぎず、自助具を使用している患者は59.8%、手術を受けたことがある患者は42.0%を占めており、関節破壊は患者のQOL低下の大きな要因となっている。

○ リウマチ診療における課題

医療技術等の進歩により、リウマチの早期診断が可能となりつつあり、さらにリウマチの治療においては、メトトレキサート(MTX)等の抗リウマチ薬の積極的な使用及び生物学的製剤の普及並びに人工関節を中心とする外科的治療の進歩が図られており、寝たきりリウマチ患者の減少に寄与している。患者の調査では、メトトレキサートを含む抗リウマチ薬が80.7%、生物学的製剤が29.1%の患者に使用されていると報告されている。

リウマチは、悪化するまで適切な治療をしないまま放置された場合、軟骨・骨の破壊により関節機能が低下して日常生活動作(ADL)の障害を来たし、ひいては生活の質(QOL)の低下を招く。これを防止するために、世界的には抗リウマチ薬を用いた早期かつ積極的な治療が推奨されるようになっているが、我が国においては未だ十分に対応できているとはいえない。

その理由とし、進行例には第一選択薬剤とされるメトトレキサートの使用には専門的知識を要することに加えて、近年普及している生物学的製剤による治療法は、多額の医療費を要すること、副作用としての感染症に対するリスクマネジメントに専門的な知識を要することなどが、指摘されている。

これらに加え、リウマチ診療が飛躍的に変化している現状において、リウマチの専門的な診療が可能な医師や医療機関は増加傾向にはあるものの、リウマチ専門の医師の数については、都道府県間で偏在がある、専門医制度が統一されていない、診療拠点となる病院が少ないなどの理由により、受診すべき医療機関の選択で患者が困惑しているなどの指摘もある。

(イ) 治療法の安全性評価と新薬導入

現在使われている薬剤の安全性の評価(市販後医薬品の評価)については、医薬品の内容に応じて必要な調査を義務づけており、その中で特に生物学的製剤の使用による有害事象を検出する体制が整えられている。我が国における生物学的製剤の使用による有害事象としては、感染症(細菌性肺炎、結核及びニューモシスチス肺炎)、間質性肺炎などが注意すべきものであることが明らかになっている。また、生物学的製剤以外の抗リウマチ薬であるレフルノミド、メトトレキサート、タクロリムスなどの使用において、間質性肺炎が生命予後を左右する重篤な有害事象となり得ることが明らかにされている。

また、海外からの新薬導入(開発及び承認)が遅いとの意見や小児を対象とした生物学的製剤等の新薬の導入が遅いとの指摘がある。

(ウ) 患者の実態把握

リウマチ患者の実態については、これまでリウマチの発症率、有病率、発症年齢、機能予後、生命予後などの疫学的データが十分に得られておらず、我が国の患者実態を客観的にとらえるための研究に対して公的競争資金などを用い、継続的な支援を行うことが必要であると思われる。また、医療機関で収集する情報のみならず、患者の目線で収集された情報も、医療の標準化や国等が進める対策を検討する上では、重要である。

(エ) 医療機関の連携

リウマチ診療の可能な医療機関の立地については、地域により様々であるが、身近な医療機関と専門的な診療が可能な医療機関が相互に連携してリウマチ診療が行われることが望まれる。また、各地域にリウマチ診療連携の拠点になるような医療機関を確保し、かかりつけ医との間に密接な病診連携システムを構築することが必要である。

(オ) リウマチの診療に従事する医師及びコメディカルの更なる資質の向上

リウマチの早期診断・早期治療の必要性は増しており、これを遂行できる医師の養成は必須である。また、小児科においてリウマチの診療に携わり、専門的な治療に習熟した医師は全国的に見ても非常に少ないとの指摘があり、こうした医師の養成も必須である。

このため、厚生労働省研究班と学会等との連携により作成した診療ガイドラインの普及を図っているが、必ずしも診療ガイドラインを活用した標準的な医療の提供がなされていない医療機関もあるとの指摘がある。近年のメトトレキサートや生物学的製剤等による治療方法等や既に関節破壊が進行し日常生活の活動性が低下した患者に対する治療方法等の普及のため、最新の医学的知見を踏まえた診療ガイドラインの改訂及びその普及が求められている。また、リウマチはほぼ全身の各臓器にわたる病変を対象とする疾患であり、リウマチの早期診断には膠原病を中心とするリウマチ性疾患との鑑別が極めて重要であるため、専門の医師の育成に当たっては、内科医、整形外科医等が縦割りで診療・研修を行うことなく、関連学会が全体的に連携すること等を通して幅広い知識を習得する機会を設ける必要がある。

また、リウマチ診療には医師とコメディカルとの連携が必要不可欠であり、リウマチ診療に精通した看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士などの育成も重要である。

イ マーケット開発に関する課題

リウマチの疫学、早期診断法や新規治療法の開発等については、国や関係学会、製薬企業等を中心に積極的な取組が進められ、メトトレキサート及び生物学的製剤等による寛解導入療法が標準化されつつあるが、患者に最適な治療の選択方法やその治療を進める上でそれぞれの立場から注意すべき事項、診療計画表など、標準化されていないものもある。

研究実施状況としては、これまでの明確な目標設定とその達成度を適正に評価する体制に加え、継続的に多くの機関が活用できる患者データベース等を用いて、より効率的に患者情報を収集すべきであること、病因・病態研究解明を通じてさらに新規治療法の開発を目指すべきであることなどの指摘がある。

なお、リウマチの予防法の開発や根治的治療法の開発に向けた研究の推進も、引き続き図られるべきである。

2 今後のリウマチ対策について

(1) リウマチ対策の基本的方向性

ア 今後のリウマチ対策の目標

○ 最終的目標

国のリウマチ対策の目標としては、リウマチに関する予防法や根治的治療法を確立するとともに、各地域の医療体制の実情に応じた連携体制を整備することにより、国民の安心・安全な生活の実現を図ることにある。

○ 当面の目標

平成17年に通知した「リウマチ対策の方向性等」を踏まえて、①医療提供等の確保、②情報提供・相談体制の確保、③研究開発等の推進といった点について施策を実施・推進することにより、リウマチの早期診断手法が確立されたこと、生物学的製剤の効果的な選択による寛解導入方法が見出されつつあることなど、著しく改善された事項も多いが、今なお残る課題や新たに生じた課題も明らかにされてきている。

すなわち、劇的な治療方法の変革により生じた施策の変更や、以前より指摘されている問題点を踏まえ、その解決を図るために新たなリウマチ対策を改めて策定する必要がある。

当面の目標としては、以前は不治の病とされていたリウマチを「寛解導入が可能な疾患」にすることを目指すべきである。このため、最新の知見に基づいた診療ガイドラインの改訂等による最新の診療水準を普及することや失われた関節機能を改善させることを目的とした医療の提供等や、リウマチに係る適切な医療情報を得られる様な体制の構築を目的とした情報提供・相談体制の確保、関節の破壊を阻止するための治療方法の確立や関節破壊に伴う日常生活の活動性の低下の改善を目的とした研究開発及び医薬品等開発の推進に取り組むことが重要である。

イ 国と地方公共団体との適切な役割分担と連携体制の確立等

上記リウマチ対策の目標が達成されるためには、国と地方公共団体、関係団体等における役割分担及び連携が重要となる。

国と地方公共団体の役割分担については、リウマチの特性及び医療制度の趣旨等を考慮すれば、基本的には、都道府県は、適切な医療体制の確保を図るとともに、市町村と連携しつつ地域において正しい情報の普及啓発を行うことが必要である。一方、国は地方公共団体が適切な施策を進めることができるよう、先進的な研究を実施し、その成果を普及する等の必要な技術的支援を行う必要がある。

また、このような国と地方公共団体における役割分担の下、国は患者団体、日本医師会、日本リウマチ学会、日本整形外科学会、日本小児科学会、日本リウマチ財団等関係団体と連携してリウマチ対策を推進していくことが必要である。

ウ 当面の方向性

○ 医療の提供等

リウマチの治療法については、現時点では、完全な予防法や根治的な治療法は開発されていない。しかし、早期からのメトトレキサートの使用に加えて、不応例に対しては生物学的製剤を積極的に導入することにより、関節破壊の進展を阻止させる治療方法が確立しつつある。このような背景を踏まえ、今後は、リウマチが強く疑われる患者、進行性かつ活動性の高いリウマチ患者、高齢かつ臓器合併症などの生命予後上のリスク因子を有するリウマチ患者などが早期に専門医療の可能な医療機関を受診し、リウマチによる関節破壊を阻止できるような医療体制の確保が重要である。また、治療方針が確定した患者は、リウマチ診療に必要な基本的知識・技術をもつかかりつけ医によって治療を継続されるような病診連携体制が構築されることも必要である。

また、既に関節破壊が進行し日常生活の活動性が低下しているリウマチ患者に対しても、関節破壊の進展阻止を目指した重症化防止の取組、人工関節を中心とする外科的治療、総合的な理学療法等による関節機能の改善を目的とした取組も、リウマチの医療等の提供を考慮する上では重要である。

これらの取組により、可能な限り入院患者を減少させ、又は入院しても短期で退院し社会復帰できるよう、適切な入院治療・外来治療を提供することを目指す。

○ 情報提供・相談体制

国及び地方公共団体は、患者を取り巻く生活環境等の改善を図るため、患者や国民に対する情報提供体制の確保や相談体制の確保のための対策を講じ、患者や国民がリウマチに係る適切な医療情報を得られる様な体制の構築を目指す。

○ 研究開発等の推進

リウマチ対策研究の基本的方向性としては、関節の破壊を阻止するための治療方法の確立に重点を置くとともに、関節破壊に伴う日常生活の活動性の低下を改善させるための有効な治療法の開発を推進する。

なお、長期的視点に立ち、リウマチの予防法と根治的な治療法の開発を進め、最終的にはリウマチの克服を目指す。

(2) リウマチ対策の具体的方策

上記の方向性を具体的に達成するため、今後、重点的に取組を行う具体的方策は以下のとおりである。

ア 医療の提供等

(ア) リウマチの治療に必要な医療体制の確立

○ 国、都道府県等の役割分担

・ 国においては、日本医師会等医療関係団体や関係学会等と連携して、メトトレキサート及び必要に応じて生物学的製剤を使用した治療により寛解導入に結びつけることができるようになったことを踏まえ、診療ガイドラインの改訂を行うとともに、その普及により地域の診療レベルの不均衡の是正を図ることが必要である。

・ 都道府県においては、上記のような国の取組や医療計画等を活用して、地域におけるリウマチに関する医療体制の確保を図ることが求められる。また、適切な地域医療の確保の観点から、地域保健医療対策協議会等の場を通じ、関係機関との連携を図る必要がある。なお、地域医療に求められる医療連携体制の例としては、以下のようなものが考えられる。診断から寛解導入に至るまでの時期や著しい増悪時、さらには急速進行の高リスク群(高疾患活動性、早期からの骨びらんの存在、抗CCP抗体高値など)、重症難治例には専門的な対応をリウマチ診療の専門機能を有する医療機関が行い、病状の安定している時期あるいは寛解導入後の治療には身近なかかりつけ医が診療する。なお、リウマチの早期診断には専門的な対応を要することも多いため、身近なかかりつけ医が専門的な検査や診断が可能な医療機関に時機を逸することなく患者を紹介することが重要である。また、リウマチはほぼ全身の臓器に係わる疾患であることから、上記のような専門医療機関等を支援できる集学的な診療体制を有している病院を都道府県に1箇所程度確保するというような医療連携体制が考えられる。加えて、小児リウマチの医療体制についても、必要に応じて、周辺都道府県と連携してその確保に努める必要がある。

・ 地方公共団体においては、機能障害の回復や機能低下の阻止のためのリハビリテーションを行うことができる環境の確保を図る。その際、市町村においては、健康増進法に基づく機能訓練や介護保険制度に基づく介護予防サービス事業の活用等も考慮し、地域におけるリハビリテーション体制の確保に留意する。あわせて、在宅療養を支援するための難病患者等居宅生活支援事業の活用を図ることも重要である。

○ 早期発見・早期治療の方向性

・ 現在、リウマチ患者の総数は、約70~80万人といわれている。リウマチの根治的な治療法は今なお確立されていない状況ではあるが、メトトレキサートの早期からの積極的な使用に加え、近年開発され普及しつつある生物学的製剤の積極的な早期投与により、以前は不治の病とされていたリウマチが、ほぼコントロールできる疾患としてその位置付けを移しつつある。このような概念は’Window of Opportunity’と言われ、早期発見・早期治療の重要性を示すものとして国際的に注目を集めている。リウマチの診断に関しては、米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会による新分類基準が平成22年に発表され、今後我が国でも広く使用されるものと思われる。また、関節破壊を非侵襲的に評価できる関節超音波検査の標準化も、我が国では日本リウマチ学会を中心に進められている。

・ こうした診断及び治療方法の革新を踏まえ、今後、リウマチが原因で関節機能が損なわれることがないようにすることにより、患者の生活の質を向上させるとともに、入院患者の減少又は入院期間の短縮を図るためには、最新の知見に基づいて提唱された早期診断法やリウマチ発症初期におけるリウマチ寛解導入療法といった有効性の高い治療法を普及し、適切な医療を効率的に提供できる体制を確立すること、相談や情報提供等患者を取り巻く環境を整備し、患者が適切な医療を可能な限り早期に享受できるようになることを目指す必要がある。特に、寛解という明確な治療目標を設定し、総合的疾患活動性指標(DAS28など)を用いて目標到達まで治療を積極的に推進するTreat to Targetという手法が従来は糖尿病、高脂血症などで行われてきたが、リウマチの分野でも世界的に急速に広まっており、平成23年に米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会から発表された新寛解基準とともに、我が国でも普及を図る必要がある。

(イ) 人材育成

○ リウマチ診療に必要な基本的知識・技術をもつかかりつけ医の育成

・ 診療ガイドラインに基づく治療を行うことにより、患者のQOLを向上させ、効率的かつ適切な医療の提供を促進できると考えられることから、国においては、日本医師会等の医療関係団体や日本リウマチ学会等の関係学会等と連携して、診療ガイドラインの普及を図るなど、急速に変遷しつつあるリウマチの診断及び治療に関する啓発活動を積極的に行う。これに加え、診療ガイドラインに基づいた、リウマチの診療における必要な疾患自体の知識、適切な治療方法及びその考え方、外来診療における留意事項等のかかりつけ医が習得しておくべき基本的診療技術を明確にするとともに、リウマチ診療に必要な基本的知識・技術をもつかかりつけ医の育成に努める。

・ 医学教育においては、全国の医科大学(医学部)の教育プログラムの指針となる「医学教育モデル・コア・カリキュラム」において、「関節リウマチの病態生理、症候、診断、治療とリハビリテーションを説明できる」等の到達目標を掲げており、各大学においては、これに基づいた教育カリキュラムを策定し、その充実を図ることが必要である。また、医師国家試験出題基準においてリウマチが取り上げられている。

・ 臨床研修においても、現在、経験が求められる疾患の1つとしてリウマチが取り上げられており、プライマリケアの基本的診療能力としてその正しい知識及び技術修得が求められている。臨床研修を受けている医師は自らリウマチ診療について経験する必要がある。

・ 日本医師会において実施している医師の生涯教育においても、今後ともより一層リウマチに係る教育が充実されることを望みたい。

○ リウマチ専門の医師の育成

・ リウマチ診療の質の向上及び都道府県間におけるリウマチ専門の医師の偏在の是正を図るため、関係学会におけるリウマチ専門の医師が適切に育成されることが望まれる。また、リウマチ診療はほぼ全臓器に関わる診療となるため総合的なリウマチ専門の医師の存在が重要と考えられ、関係学会において、そのような専門の医師の育成について検討することが望まれる。

・ それぞれの地域におけるリウマチ専門の医師を育成するため、リウマチ診療の専門機能を有するのみでなく、専門的なリウマチ診療を担う医師の教育研修をそれぞれの地域で効率的に行える医療機関の確保も医師の偏在是正を図る上では重要である。

・ 日本リウマチ学会リウマチ専門医と日本整形外科学会認定リウマチ医の認定の基準や方法等においては、専門医の在り方を踏まえつつ、リウマチの鑑別診断、メトトレキサートや生物学的製剤を用いる専門的な薬物治療とそのリスク管理や手術の予後に関する知識等の共通化が図られるとともに、将来的には、リウマチを専門に診療する医師の基準や認定が統一されていくことが望ましい。

・ 疾患管理により高い専門性が求められる小児リウマチ診療に携わる人材の育成について、日本小児科学会等における専門的な診療技術の確立やその普及に向けた取組が望まれる。

○ 医師以外の医療従事者の育成

保健師、看護師、薬剤師、理学療法士等においても、リウマチ患者に適切に対応できるよう、例えば、メトトレキセートや生物学的製剤による治療がなされている患者に対しては、治療への不安や副作用の発現を早期に探知し、支援できるような知識・技能を高めておく必要がある。なお、保健師、看護師については、日本リウマチ財団や日本看護協会の研修等において、今後ともより一層リウマチに係る教育が充実されることが望ましい。

(ウ) 診療の質の向上

○ 診療ガイドライン及びクリニカルパスについて

・ 国は、日本医師会や関係学会等と連携して、リウマチ医療を提供する医療機関が、適切な治療法の選択や薬剤投与による副作用の早期発見等の適切な医療が実施できるよう、発症初期のリウマチの診断及び治療を含めたリウマチ診療に対する最新の知見を整理した診療ガイドラインの改訂及びその普及を図る必要がある。

・ 入院するリウマチ患者に対して、適切な入院医療が提供されるよう、専門的なリウマチ診療を行う病院は、病態別重症度別のクリニカルパス(検査及び治療等を含めた詳細な診療計画表をいう。)を積極的に導入していくことが望まれる。

・ 患者の長期的な治療計画の標準化や標準化された治療計画の普及・推進のためには、地域連携クリニカルパス(リウマチの専門医療機関と地域の医療機関等が診療上担う役割を明確化した計画表等により、リウマチ患者に対する診療の全体像を体系化したものをいう。)等も有効であると考えられる。

○ 専門情報の提供について

・ リウマチに関する研究成果等を踏まえた専門的な医学情報については、国は関係学会等と協力して必要な情報提供を適宜行うこととする。

・ 専門医療機関等からの相談に対応することを目的とした(独)国立病院機構相模原病院臨床研究センターの相談窓口についても引き続き活用されることが望まれる。

イ 情報提供・相談体制

(ア) 情報提供体制の確保

・ 国民及び患者にとって必要な情報としては、リウマチに関する一般疾病情報、適切な治療や薬剤に関する情報、研究成果等に関する最新診療情報、医療機関及びサービスの選択に係る情報などが考えられる。

・ 具体的な情報提供手段としては、正しい情報を効果的かつ効率的に普及するためには、ホームページのみならず、パンフレット等を活用した情報提供が必要である。

・ 国においては、適宜関係学会等と連携し、ホームページやパンフレット等を活用して、最新の研究成果を含む疾病情報や診療情報等を都道府県等や医療従事者等に対して提供する。また、免疫アレルギー疾患等予防・治療研究推進事業において実施されるリウマチ・アレルギーシンポジウムにより、リウマチに関する上記の情報を国民に広く啓発し、国民がリウマチに対する正しい知識を得るための機会を確保することに努め、専門的な診療を必要とする患者が専門医療機関に確実に受診できるよう支援していく。

・ 地方公共団体においては、国等の発信する情報やリウマチ・アレルギー特別対策事業を活用するほか、それぞれの地域医師会等の協力を得ながら医療機関等に関する情報を住民に対して提供することが望ましい。

(イ) 相談体制の確保

・ 国は、地域ごとの相談レベルに格差が生じないよう、全国共通の相談員養成研修プログラムを作成し、「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」の内容に関する充実を引き続き図るものとする。

・ 地方公共団体は、このような国の取組を踏まえ、都道府県においては体系的なリウマチ相談体制の構築、具体的には、一般的な健康相談等は市町村において実施し、その支援の一環としての相談・支援、医療機関情報の提供等については保健所において実施する等を検討し実行することが望ましい。

ウ 研究開発及び医薬品等開発の推進

(ア) 効果的かつ効率的な研究推進体制の構築

・ 研究企画・実施・評価体制の構築に際し、明確な目標設定、適切な研究評価等を行うことにより、リウマチに関する研究をより戦略的に実施し、得られた成果がより効果的に臨床応用されることが重要である。

・ 国は、政策的課題に関連するテーマも勘案した上で、適切に公募課題に反映させるとともに、研究課題の採択に当たって、リウマチ分野において重要性、発展性が高く、かつ独創性、新規性の高い研究課題を採択するほか、免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業の中でテーマの類似している研究課題の統廃合を図る必要がある。なお、国が進めていくべき研究課題は、民間企業や医療機関と国との役割を認識しながら、研究事業の評価委員会の意見を踏まえ、課題の決定を行う。

・ 治療効果も含めたリウマチ患者の動向を適切に把握することは、単に疾患統計という視点のみならず、病因、病態、治療、予後等の研究を効果的かつ効率的に進める上で重要であるとともに、薬物投与による長期的な副作用に関する情報を収集する必要性が高いと考えられることから、継続的かつ汎用性の高い患者データベース等をその対策の為に利用することも重要である。

(イ) 研究目標の明確化

○ 当面成果を達成すべき研究分野

これまで得られた研究成果等を踏まえ、今後よりリウマチ診療の医療の均てん化や医療水準の向上に資するような研究成果を得られるよう、特に次の研究分野に関して重点的に研究を推進していく。

(関節破壊の阻止)

・ リウマチを可能な限り早期に的確に診断し、関節破壊等の病状が進行する前に寛解導入療法を積極的に開始し、リウマチによる関節の破壊を阻止するための治療方法及び治療戦略の確立を目指す。

・ 近年普及している複数の生物学的製剤等について、より効果的でより安全な使用方法を確立するための研究

・ 治療効果、重症度の改善効果、副作用の少なくない医薬品使用時の安全性等を、より詳細に把握するための研究

(関節機能の改善)

・ 既に関節破壊が進行し、身体機能に障害を来しているリウマチ患者の活動性を改善させることを目的として、外科的治療法や医療用具等の開発、リハビリテーション療法の確立等を目指す。

○ 長期的目標を持って達成すべき研究分野

上記の関節破壊の阻止や関節機能の改善に関する研究に取り組みつつ、病因・病態(免疫システム等)に関する更なる研究を進めてリウマチの克服を目指す。

(関節リウマチの予防法と根治的な治療法の確立)

・ リウマチの病因・病態や先端的治療に関する研究

例 リウマチの遺伝的要因、環境要因の分子機構に関する研究

リウマチの免疫異常とその制御に関する研究

リウマチの骨・軟骨破壊抑制等に関する研究

各病態に応じた治療法の確立に関する研究

疾患制御の効果についての介入試験のデザインとその評価等や費用対効果分析に関する研究

(ウ) 医薬品等の開発促進等

・ 日本は欧米程度の医療水準が確保されるよう、新薬開発の促進が図られていく必要がある。また、安全性・有効性を確保しつつ、適切な外国データがあればそれらも活用しながら、医薬品の薬事法上の承認に当たって適切に対応していく必要がある。

・ 国においては、優れた医薬品がより早く患者の元に届くよう治験環境の確保に努めるとともに、有害事象を的確に把握できるよう収集された副作用データベースの活用方法を検討する必要がある。また、リウマチに対する生物学的製剤は、その誕生から長くても15年程度しか経過しておらず、生物学的製剤の長期的な副作用に関しては、明らかにされていないことに留意することも重要である。

(3) 施策の評価等

・ 国においては、適宜、有識者の意見等を聞きつつ、国が実施する重要な施策の実施状況等について評価し、また、地方自治体の実施する施策を把握することにより、より的確かつ総合的なリウマチ対策を講じていくことが重要である。

・ 地方公共団体においても国の施策を踏まえ、国や関係団体等との連携を図り、施策を効果的に実施するとともに、主要な施策について政策評価を行うことが望ましい。

Ⅱ アレルギー対策について

1 アレルギー疾患対策の現状と問題点

(1) 我が国におけるアレルギー疾患対策の現状

ア アレルギー疾患の疫学

(ア) アレルギー疾患の罹患者数

2008年の全国小児喘息の有症率は、6~7歳で13.8%。13~14歳で9.5%、16~18歳で8.3%であった。また幼稚園児での喘鳴有症率は19.9%であった。さらに成人において、2006年における全国11箇所における有病率調査では成人喘息有病率(医師により診断された喘息)は5.4%、最近1年間の喘鳴症状のある喘息有症率は9.4%であった。また同時調査での全国一般住民における鼻アレルギー症状を有する(花粉症を含む)頻度は47.2%であることも判明した(以上、厚生労働科学研究赤澤班2010報告書)。またアトピー性皮膚炎は4ヶ月から6歳では12%前後認め、成人のアトピー性皮膚炎も20~30歳代で9%前後の頻度で認められることが明らかとなっている(アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2008)。これらの結果は、わが国の全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患していることを示している。これは近年の国民の約3人に1人がアレルギー疾患に罹患している状態よりもさらに急速に増加していることを示している。この増加の主体はアレルギー性鼻炎(花粉症を含む)と喘息の増加によると考えられている。

(イ) アレルギー疾患患者の動向(平成15年保健福祉動向調査より)

○調査の概要

平成15年国民生活基礎調査の調査地区から層化無作為抽出した全国の300地区内におけるすべての世帯員41,159名を調査の客体とし調査が行われた。

○調査の結果

本調査によると、この1年間に、皮膚、呼吸器及び目鼻のいずれかにアレルギー様症状があったと回答した者は全体の35.9%で、このうち、アレルギーと診断された者は全体の14.7%であった。したがって、アレルギー様症状のある者で医療機関においてアレルギー診断を受けた者の割合は半分に至っていない。

また、今後のアレルギー疾患対策について要望があると答えた者は全体の57.5%で、その主な内容は、「医療機関(病院・診療所)にアレルギー専門の医師を配置してほしい」、「アレルギーに対する医薬品の開発に力を入れてほしい」、「アレルギーに関する情報を積極的に提供してほしい」であった。

(ウ) 個別疾患ごとの状況

○気管支喘息

小児での有症率は2005~2008年時点で、6~7歳で13.8%、13~14歳で9.5%、16~18歳で8.3%、幼稚園児での喘鳴有症率は19.9%である(厚生労働科学研究赤澤班2010報告書)。気管支喘息は小児、成人ともにここ10~20年間で急増している(アレルギー疾患診断治療ガイドライン2010)。小児喘息はここ20年で約3倍の増加を示し、2002年までは少なくとも急増していたが(アレルギー疾患診断治療ガイドライン2010)、2005年以降の調査で横ばいから微増にとどまったとする報告がある(厚生労働科学研究 赤澤班2010報告書)。今後の経時的調査が必要である。成人(20~44歳)における国内初の全国11箇所大規模疫学調査(2006年調査)では、喘息有病率は5.4%、最近1年間の喘鳴症状のある喘息有症率は9.4%であった(厚生労働科学研究赤澤班2010報告書、およびFukutomi et al. 153 280-287;2010 IAAI)。経年的調査研究は、大規模な研究はないものの、定点調査(静岡県藤枝市)において、医師により診断された喘息有病率は、1985年が2.1%(中川ら)、1999年が3.9%(大田ら)、2005年が6.9%と急増している(Fukutomi et al. AI 2011)。今後も正確な経年的な調査が必要である一方、50歳以上における喘息有病率調査は、COPDなどの混入の問題があり、現状では正確な調査が世界的にも困難とされている。そのため国内でも正確な調査はないが、青年壮年期と比較してやや多い有症率と考えられている。

以上、国民全体では少なくとも約800万人が気管支喘息に罹患していると考えられる。

○アレルギー性鼻炎・花粉症

花粉症は世界的に、特に先進国において増加している。通年性アレルギー性鼻炎は、室内アレルゲン(ハウスダスト、ダニ、ペット、真菌など)が主な原因であるが、季節性鼻アレルギー、特に花粉症は花粉抗原が原因となるため、国内でも地域差が大きい。2005年に行われたECRHSを用いた全国疫学調査では、花粉症を含む鼻アレルギーの頻度は成人で47.2%であった(厚生労働科学研究赤澤班2010報告書)。2010年に行われた全国Web調査でも(対象:全国約4万人の20歳から44歳の県庁所在地住民)、47.2%であった(厚生労働科学研究赤澤班2011報告書)。全国の耳鼻科医とその家族におけるアレルギー性鼻炎有病率調査において、1998年と2008年の比較では、アレルギー鼻炎全体は29.8%から39.4%に増加、スギ花粉症も16.2%から26.5%に増加している(鼻アレルギー診療ガイドライン2009)。通年性鼻炎は若年層に多く、一方、スギ花粉症は若年から中年層に幅広く認められるが、近年では小児期の発症が目立っている。

以上、スギ花粉症を含むアレルギー性鼻炎は、国民の40%以上が罹患していると考えられ、今後も増加することが予想される。

○アトピー性皮膚炎

2000~2008年において、保健所、小学校、大学における医師健診による有症率調査が報告されている(アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2008)。そこでは、4歳児が12.8%、1歳半が9.8%、3歳児が13.2%、小学1年生が11.8%、小学6年生が10.6%、大学生が8.2%であった。また成人では、20歳代が9.4%、30歳代が8.3%、40歳代が4.8%、50~60歳代が2.5%であった。また重症度では、学童から30歳代までに中等症以上の比較的重症例がそれぞれの層で多く(20%以上)含まれていた(アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2008)。小学生においては年次推移が示されており、全学年において1992年と2002年との比較では、やや減少していた(アレルギー疾患診断治療ガイドライン2010)。

以上、国民の約1割がアトピー性皮膚炎に罹患していると考えられる。ただし、アトピー性皮膚炎に対する大規模かつ詳細な研究、最新の報告はないため、その推移に関しては今後の検討課題である。

○食物アレルギー

食物アレルギーは原因抗原の種類あるいは加齢により耐性化するため有病率も各年齢で異なる。わが国の大規模有病率調査から、乳幼児有病率は5~10%、学童期は1~2%と考えられる。成人の大規模な調査はないため不明である(アレルギー疾患診断治療ガイドライン2010)。近年は、全年齢層での重症例の増加、成人での新規発症例が目立っている。

(エ) アレルギー関連死

平成15年人口動態統計によると、アレルギー疾患に関連した死亡者数は3,754名で、そのうち「喘息」による死亡は3,701名(98.6%)、「スズメバチ、ジガバチおよびミツバチとの接触」による死亡は24名(0.6%)、「有害食物反応によるアナフィラキシーショック」による死亡は3名(0.1%)であったが、平成21年人口動態統計では、アレルギー疾患に関連した死亡者数は2,190名であり、「喘息」による死亡は2,139名(97.6%)、「スズメバチ、ジガバチおよびミツバチとの接触」による死亡は13名(0.6%)、「有害食物反応によるアナフィラキシーショック」による死亡は4名(0.2%)であり、アレルギー関連死は喘息死を中心に減少傾向であった。

イ 主なアレルギー疾患対策の経緯

(ア) 厚生労働省におけるアレルギー疾患対策

厚生労働省においては、平成17年に、厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会においてアレルギー疾患対策の基本的方向性から、重点的に推進すべき具体的施策に及ぶ幅広い事項について議論を重ね、取りまとめられた「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」等を踏まえ、「アレルギー疾患対策の方向性等」(平成17年10月31日付け健疾発第1031002号)を発出し、国民に安心・安全な生活を提供できる社会づくりを目指し、アレルギー疾患対策を総合的かつ体系的に推進してきた。

○ 医療の提供等に関する取組等

・ 平成18年度から、「喘息死ゼロ作戦」として地域における喘息死を減少させることを目的に、平成22年度からは、対象疾患をリウマチ及びアレルギー疾患に拡大して、その新規患者数を減少させることを目的に、医療従事者の研修会の開催等のリウマチ・アレルギー特別対策事業を実施している。

・ 質の保たれた均一な治療の普及のために、厚生労働科学研究費補助金などを通じて、関係学会等と連携し、診療ガイドライン等を作成して関係医療機関等に配布している。

・ 平成8年から医療法上の標榜科としてアレルギー科を新たに定めた。平成14年時点でのアレルギー科の標榜施設は病院と診療所を合わせて4,480施設、平成20年時点では6,750施設と増加している。

○ 情報提供

・ 相談体制の確保に関する取組等

・ 厚生労働科学研究費補助金により、各種アレルギー疾患の自己管理手法についてわかりやすく解説したセルフケアマニュアルを作成し、ホームページ等を通じて、広く国民に情報を提供している。

・ 平成16年から厚生労働省のホームページ上に「リウマチ・アレルギー情報」のページを開設し、正しい情報の普及の強化に努めている。(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/index.html)

・ 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究推進事業においては、日本予防医学財団に委託し国民を対象としたアレルギーシンポジウムを開催している。

・ 都道府県等の保健師等を対象にした「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」等を実施し、地域における相談体制の確保促進を図っている。

・ 平成19年から、アレルギー疾患に関する各種一般・専門情報の提供を行うとともに、電話相談等を通じてアレルギー疾患患者やその家族の悩みや不安に的確に対応することにより、その生活の一層の支援を図ることを目的に(財)日本予防医学協会に委託し、「アレルギー相談センター事業」を実施している。

○ 研究開発等の推進に関する取組等

・ 厚生労働科学研究費補助金により、平成4年度から、アレルギー疾患についてその病因・病態解明及び治療法の開発等に関する総合的な研究を実施している。

・ 平成12年10月に国立相模原病院(現(独)国立病院機構相模原病院)に臨床研究センターを開設し、アレルギー疾患に関する臨床研究を進めている。さらに、平成16年3月に研究協力協定を締結し、それに基づき4月から(独)理化学研究所横浜研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターとの間でスギ花粉症のワクチン開発等の共同研究が実施されている。

○ その他の事項

・ 食物アレルギー疾患を有する者の健康被害の発生を防止する観点から、アレルギー物質を含む食品に関する表示について、アナフィラキシーをはじめとしたアレルギー反応を惹起することが知られている物質を含む加工食品のうち、特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高い小麦、そば、卵、乳及び落花生の5品目を原材料とする加工食品については、これらを原材料として含む旨を記載することを食品衛生法で義務づけている(平成13年から施行)。さらに、平成20年から対象を拡大してえび及びかにについても記載を義務づけている。また、その他アレルギーの発症が見られる20品目についても、法的な義務は課されていないものの、アレルギー疾患を有する者への情報提供の一環として、これらの食品を原材料として含む旨を可能な限り表示するよう努めるよう、平成13年から推奨している。こうした制度を周知するため、パンフレットやホームページ等を活用した情報提供を行っている。

・ エピネフリンは、その交感神経刺激作用により、気管支痙攣の治療や急性低血圧・アナフィラキシーショックの補助治療等に世界中で使用されており、これを自己注射するための緊急処置キットとして、エピネフリン自己注射用キットが開発されている。厚生労働省は、平成15年、蜂毒に起因するアナフィラキシーショックの補助治療剤としての輸入承認を行い、平成17年3月、蜂毒に限らず食物及び薬物等に起因するアナフィラキシーについて新規効能追加の承認を行い、医師が患者、その家族またはそれに代わり得る適切な者に適切に指導することを前提とした使用が可能となっている。

・ 社会問題化している花粉症の諸問題について検討を行うため、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、気象庁、環境省で構成する「花粉症に関する関係省庁担当者連絡会議」を設置し、適宜、必要な情報交換等を行っている。

(イ) 地方公共団体におけるアレルギー疾患対策

都道府県においては、アレルギー疾患対策は、地域の特性に応じて自治事務として取り組まれており、具体的には、住民に対する普及啓発や相談窓口の設置などの取組が行われている。しかし、市町村や関係団体等との連携を図っているところが少ないなど、各都道府県間の取組には格差があり、その対策は必ずしも十分なものにはなっていない。また、医療計画上アレルギー疾患対策を定めているところは少ない。

(ウ) アレルギー疾患に関する専門医療等

アレルギー疾患に関する医療の水準を高めること、患者やその家族から見て医療機関や医師個人の専門を承知して診療を受けられるようにすること、医療機関及び医師が相互にその専門をすぐ判るようにすること等に役立つことを目的として、昭和62年10月、日本アレルギー学会によりアレルギー認定医制度が制定され、平成16年11月から専門医制度に一本化された。平成22年現在でアレルギー専門医は2,965名(うち指導医496名)が認定されている。日本アレルギー学会の認定施設数は、273施設460科である。

また、アレルギー疾患には、呼吸器領域、耳鼻咽喉科領域、皮膚科領域、小児科領域等で診療される疾患が含まれており、それぞれの領域の専門医等もアレルギー疾患の診療において重要な役割を担っている。平成22年現在での各学会認定の専門医師数は、日本呼吸器学会が4,364名、日本皮膚科学会が5,744名、日本耳鼻咽喉科学会が8,601名、日本小児科学会が14,106名である。

(エ) 関係団体等による取組

日本医師会においては、医師の生涯教育においてアレルギー疾患をとりあげ、また地域の医師会によっては、アレルギー疾患に係る病診連携体制の構築に取り組むなど、医療体制の確保に資するための様々な取組が行われている。

日本アレルギー学会等関連学会においては、前述の様な診療ガイドライン等の改訂や、専門医・指導医等の育成、疾患の病態解明や治療法の開発等の研究推進等の取組を実施している。

また、患者会等においては、患者目線での普及啓発として、患者自己管理マニュアル策定への参画、患者間における相互協力・患者相談の実施、国を含めた公共団体等での体験講演などの活動が行われている。

(2) アレルギー疾患対策における課題

我が国においては以上のようなアレルギー疾患対策を実施し、欧米のアレルギー診療水準との格差はないが、患者への医療の提供等について、患者のニーズに対応できていない部分があり、課題を残しているといえる。

ア 医療の提供等に関する課題

○ 体系的・計画的な医療の提供について

アレルギー診療の可能な医療機関の立地については地域により様々であるが、その実情や在り方について、地域において体系立てて計画的に把握されていないのが現状である。

アレルギー疾患に係る専門医としては、アレルギー専門医のほか、呼吸器内科専門医、耳鼻咽喉科専門医、皮膚科専門医、小児科専門医等が考えられるが、地域における医療を体系的・計画的に提供するためには、それらの医師がそれぞれの地域にどの程度いるか、専門医のいる医療機関がどの程度あるかを把握することも、重要であるが、現状では必ずしも十分に把握できていない。

○ 早期診断・早期治療について

患者の重症化を防ぐためには早期診断、早期治療が重要であるが、そのためには発症早期の患者や軽症の患者を診療する可能性が高い、地域の医療機関のかかりつけ医におけるアレルギー疾患管理能力の向上が重要である。

○ 多診療科との連携や医師の資質について

アレルギー疾患の標的となる臓器は多岐にわたり、乳幼児期から高齢期まで全年齢層が罹患する疾患群であるので、アレルギー診療には幅広い知識が必要となるが、現在は各診療科が縦割りでそれぞれの診療を行っている場合が多いため、診療科間における医療連携の構築がなされていないと指摘されている。

また、アレルギー専門医以外のかかりつけ医によるアレルギー診療においては必ずしも最新の診療ガイドラインに基づいた標準的な治療がなされていない場合もあるとの指摘がある。

○ アレルギー疾患に関連した死亡について

人口動態統計調査によるアレルギー疾患に関連した死亡は、他の死亡原因に比較して大幅に減少を認めており、疾患対策としては奏功している分野であると指摘されている。

しかし、前述のとおり、依然として喘息を原因として死亡する患者は平成21年の人口動態調査において、2,139名おり、適切な治療により死に至ることを防ぐことが可能な疾患である喘息及び喘息死に対する積極的な取組は、今後とも必要である。

近年の喘息死の原因としては、喘息診療に対する患者の認識不足や不定期受診等、患者側の要因が大きいとされている。その一方、診療側については、診療ガイドラインに基づいた継続的かつ計画的な治療管理が喘息死を有意に減少させるとされているが、ガイドラインの普及は十分といえず、高齢者介護施設等の入所施設において吸入ステロイド薬が普及していないなどの指摘もある。

イ 情報提供・相談体制の確保に関する課題

○ 自己管理に資する情報提供について

・ アレルギー疾患については、抗原回避等の生活環境や生活習慣の改善、日常における服薬等の疾患管理、疾患状態の客観的自己評価及び救急時対応の手法等について自ら習得し管理することで、QOLの向上を図ることができる。そのため、厚生労働省においては、患者の自己管理マニュアル等の作成・普及に努めてきたが、現時点では必ずしもこういった内容を踏まえた適切な疾患管理が患者自身によって十分に行われておらず、その普及の在り方には課題を残している。

・ アレルギー疾患の治療においては、炎症を抑える薬物を長期投与することが多く、ステロイド薬等の長期投与に伴う副作用に対する留意は必要である。しかし、過度に副作用に対する懸念を抱くことにより、診療ガイドラインに基づいたステロイド薬の適切な使用による治療をも忌避してしまう患者やその家族も少なくないとの指摘がある。そのため、国等の公共団体及び日本医師会、関係学会等の関連団体においては、患者やその家族に対して、適切な情報を適切な手段で提供することにより、患者やその家族が安心して最新の知見に基づく適切な医療を享受する機会を逸さない様にするための取組を行うとともに、薬剤の副作用について正しい知識を普及することにより、患者が薬剤の副作用発現に早期に気づき、合併症を併発し、より重篤な状態となることを避けることが重要である。

○ 情報提供の在り方について

インターネットの普及等により、患者自らがアレルギー疾患に関する各種の情報を入手できるようになった。しかし、同時にいわゆる医療ビジネスや民間療法に関する情報も普及し、中には健康に悪影響を及ぼす誤った情報や、不適切な情報等もあり、国民にとって正しい情報を取捨選択することが困難な状況にある。そのため、国民からは、正しい情報をさらに積極的に提供してほしいとの要望もなされている。

○ 相談体制の在り方について

個人差はあるものの、アレルギー疾患患者は長期的にQOLを損なう場合があり、また患者やその家族にも心理的負担がかかるとの指摘もあるため、アレルギー疾患を管理する上ではカウンセリング等の心理的支援にも留意した適切な相談対応が必要である。

また、国において実施している相談員養成研修会においては、アレルギー疾患に関する適切な情報を地方公共団体に所属する保健師等に提供する等により、相談員の養成に努めているところであるが、参加した保健師等からは担当部署の異動等により、養成研修会での経験が必ずしも活用されていないとの指摘もある。

地方公共団体における相談業務を始めとしたアレルギー疾患に関する対策が講じられている地域とそうでない地域とでは、喘息死の比率等にも差が生じている可能性も否定できないとの指摘もある。

ウ 研究開発及び医薬品等開発の推進に関する課題

○ 患者の実態把握について

国において対策を講じる上で必要なアレルギー患者の罹患率や有症率等の実態についての調査が必ずしも十分ではないとの指摘もある。

○ 予防法・根治的治療法が未確立であることについて

アレルギー疾患に関する研究の成果として、徐々に発症機序、悪化因子等の解明が進みつつあるが、その免疫システム・病態はいまだ十分に解明されていないため、アレルギー疾患に対する完全な予防法や根治的治療法がなく、治療の中心は抗原回避をはじめとした生活環境確保と抗炎症剤等の薬物療法による長期的な対症療法となっているのが現状である。免疫アレルギー疾患に関する我が国の基礎研究は世界水準にあるといえるが、予防法・根治的な治療法の確立に資する研究は引き続き推進すべきである。

2 今後のアレルギー疾患対策について

(1) アレルギー疾患対策の基本的方向性

ア 今後のアレルギー疾患対策の目標

○ 最終的目標

国のアレルギー疾患対策の最終的な目標としては、アレルギー疾患に関して、予防法及び根治的治療法を確立することにより、もって国民の安心・安全な生活の実現を図ることにある。しかしながら、現時点において、最終的な目標を達成するためには、長期的な研究による成果が必要である。一方、従来実施されてきたアレルギー疾患対策によっても、先に述べたような医療の提供等に関する課題、情報提供・相談体制の確保に関する課題及び研究開発等の推進に関する課題が指摘されており、まずはこれらの問題の解決に向けて、当面の目標を定め、アレルギー疾患対策を効果的に講じる必要がある。

○ 当面の目標

当面の目標としては、アレルギー疾患を「自己管理可能な疾患」にすることにより、一層対策を推進することを目指すべきである。このため、身近なかかりつけ医を始めとした医療関係者等の支援の下、患者及びその家族が必要な医療情報を得ることや相談を受けることによって、治療法を正しく理解し、生活環境を改善し、また自分の疾患状態を客観的に評価する等の自己管理を的確に行えるような環境を整えることが不可欠である。

イ 国と地方公共団体との適切な役割分担と連携体制の確立

上記アレルギー疾患対策の目標が達成されるためには、国と地方公共団体、関係団体等との役割分担及び連携が重要となる。国と地方公共団体の役割分担については、アレルギー疾患の特性及び医療制度の趣旨等を考慮すれば、基本的には、都道府県は、適切な医療体制の確保を図るとともに、市町村と連携しつつ地域における正しい情報の普及啓発を行うことが必要である。一方、国は地方公共団体が適切な施策を進めることができるよう、先進的な研究を実施しその成果を普及する等の必要な技術的支援を行う必要がある。また、このような行政における役割分担の下、厚生労働省は患者団体、日本医師会、日本アレルギー学会、日本小児科学会等関係団体並びに関係省庁と連携してアレルギー疾患対策を推進していくことが必要である。

ウ 当面の方向性

○ 医療の提供等

アレルギー疾患の多様性に鑑み、かかりつけ医と専門医療機関間のみならず、かかりつけ医間、専門医療機関間における円滑な医療連携体制の確保を図る。医療連携体制において中心的役割を負う、かかりつけ医が担うべき役割を明確化し、診療ガイドラインの普及及び診療ガイドラインに基づいた適切な治療を行う上での基本的診療技術(日常診療上、必要不可欠で適切な技能や知識を指す。)の習得を推進するとともに、各医療職種の人材育成の推進を図り、アレルギー疾患患者に統一的、標準的な治療が提供できる体制の確保を目標とする。

○ 情報提供・相談体制の確保

国及び地方公共団体は、患者を取り巻く生活環境等の改善を図るため、アレルギー疾患を自己管理する手法等の普及・啓発を図るとともに、関係団体や関連学会等と連携し、その手法等の普及啓発体制の確保を図る。

○ 研究開発及び医薬品等開発の推進

難治性アレルギー疾患に対する治療方法の開発とその普及に資する研究を推進するとともに、適切な医療が提供できる医療体制の確保に資する研究を推進する。

(2) アレルギー疾患対策の具体的方策

今後の目標を達成するため、重点的に取り組むべき具体的方策は以下のとおりである。

ア 医療の提供等

(ア) アレルギー疾患に必要な医療体制の確立

○ かかりつけ医を中心とした医療体制

・ 国においては、アレルギー疾患に係る医療体制を確保するため、日本医師会等医療関係団体や関係学会等と連携して、診療ガイドラインの改訂及びその普及を図ることにより、地域における診療の向上を図る。また、地域におけるアレルギー疾患対策の医療体制の在り方としては、何らかのアレルギー疾患に罹患する患者が非常に多く、全ての患者を専門医が診ることは現実的でないため、安定時には身近なかかりつけ医が対応することが望ましく、かかりつけ医の診療をさらに向上させることが望まれる。そのためには、かかりつけ医が担う診療において必要な最低限度の技能や知識等を明確化し、その基本的診療技術の習得を推進していく必要がある。

・ 都道府県においては、上記のような国の取組や医療計画等を活用して、地域の実情に応じたアレルギー疾患に関する医療提供体制の確保を図ることが求められる。また、適切な地域医療を確保する観点から、地域保健医療協議会等を通じて関係機関との連携を十分図る必要がある。なお、地域医療に求められる医療体制の例としては、以下のようなものが考えられる。病状の安定している時期には、身近なかかりつけ医が診療に当たるが、重症難治例に対しては専門的な対応が必要である。そのため、アレルギー疾患に対する専門的・集学的な対応が可能な医療機関を地域ごとに確保することが必要である。このような専門医療機関は、少なくとも都道府県に1カ所程度は確保することが望まれる。なお、専門医療機関に求められる診療体制とは、アレルギー疾患の急性増悪期に対する適切な対応が可能であるとともに、標準的な治療による疾患管理が困難な、いわゆる難治性のアレルギー疾患に対する専門的な診療に習熟した医師を有していることを指す。このような専門医療機関は限られていることから、専門医療機関等が互いに支援できるような、専門医療機関間での連携も重要と考えられる。

また、アレルギー疾患では、喘息の重積発作や大発作、重症感染症を併発している状態あるいはアナフィラキシーショックのような、緊急を要する病態を来す可能性もあることから、救急時対応を行う救急病院においても、アレルギー疾患の緊急時対応を適切に行える医師が配備されていることが望まれる。

・ 身近なかかりつけ医においては、一次医療機関での対応が可能な症例であっても、診療科の違い等により、必ずしも最新の診療ガイドラインに基づいた基本的診療技術を習得しているとは限らないため、診療科の異なる診療所間等において、適切に患者を紹介し合う等の連携体制を構築することが望まれる。

・ 壮年期における喘息死患者の多くが不定期受診に起因していることを鑑み、不定期受診により病状が重くなって受診した患者であっても、可能な限り標準的・統一的な治療が提供されるよう、地域において診療カルテの共有化を図る、薬局間での連携や情報の共有化を図る、患者カードの所持をより啓発するなどの、地域における標準的・統一的な治療の普及に資する取組にも期待したい。

・ 診療ガイドラインに基づいた標準的な医療を提供するに当たっては、医師のみならず、看護師や薬剤師、管理栄養士等の果たすべき役割も大きいことから、医療従事者間における相互の密接な連携も重要である。その具体的な在り方については、その地域事情によって大きく異なることが考えられるが、それぞれの地域の特性を活用した取組は、地方公共団体や地域の関係団体等との間でも検討されることが望ましい。

○ 喘息死等を予防する医療体制:「喘息死ゼロ作戦」の推進

近年着実に減少傾向にある喘息死の今なお残る原因として、患者側の喘息診療に対する認識不足や不定期受診等の問題、診療側の診療ガイドラインに基づいた標準的かつ計画的な治療管理が行われてないなどの問題が従前から指摘されている。これらの問題を総合的に解消していくため、地域において診療所等と救急病院とが連携し、患者教育を含む適切な治療方法の普及と患者カードを常に携帯してもらうことによる医師―患者間の情報共有等を図ることへのより一層の取組が重要である。

なお、救急病院は、基本的には、二次医療圏単位で確保されることが望ましい。当該病院に求められる要件としては、高度、大規模な医療機器を備えている必要はなく、アレルギー専門の医師の確保がなされていれば足りると考えられている。

※ 喘息死ゼロを目指した取組の主な内容は以下のとおりである。

・ かかりつけ医への診療ガイドライン等に基づいた基本的診療技術の普及

・ 患者カード携帯、喘息日誌の活用等による患者の自己管理の徹底

・ 救急時対応等における病診連携の構築

・ 医療従事者間の密接な連携体制の確立

(イ) 人材育成

○ アレルギー疾患の基本的治療・技術をもつかかりつけ医の育成

・ 国においては、診療ガイドラインに基づく治療を行うことにより、患者のQOLを向上させ、効率的かつ適切な医療の提供を促進できることから、日本医師会等医療関係団体や関係学会等と連携して、診療ガイドライン等の普及を図りつつ、最新の医学的知見に基づいた診療ガイドライン等の改訂を推進する必要がある。また、身近なかかりつけ医が日常診療において必要な、アレルギー疾患の基本的診療技術を取りまとめ、その普及を図ることも重要である。

・ 医学教育においては、全国の医科大学(医学部)の教育プログラムの指針となる「医学教育モデル・コア・カリキュラム」において、「アレルギー疾患の特徴とその発症を概説できる」「アナフィラキシーの症候、診断と治療を説明できる」「薬物アレルギーを概説できる」などの到達目標を掲げていることから、各大学においては、これに基づいた教育カリキュラムを策定し、その充実を図ることが必要である。

・ 臨床研修においても、現在、経験目標の1疾患としてアレルギー疾患が取り上げられており、救急対応等を始めとしたプライマリケアの基本的診療能力としてその正しい知識及び技術の修得に資するものである。臨床研修を受けている医師は自らアレルギー疾患(喘息発作やアナフィラキシーショック等)の診療について経験することが必要である。

・ 日本医師会が実施している医師の生涯教育において、アレルギー疾患の基本的診療技術を習得するためのアレルギー疾患に係る教育が充実されることを望みたい。

・ 小児アレルギー診療に携わることができる人材の育成について、日本小児科学会の取組等も望まれる。

○ アレルギー専門の医師の育成

・ アレルギー疾患に対する診療の全国的な質の向上を図るためには、それぞれの地域にアレルギー専門医又は各アレルギー疾患のそれぞれの診療科(呼吸器科、耳鼻咽喉科、皮膚科、小児科等)の専門医が十分にいることも必要であり、かつその様な情報が適切に更新・公開されることが望まれる。関係学会においては、各アレルギー疾患を専門的に診療できる医師の適切な育成に対する取組にも期待したい。

・ アレルギー疾患の専門的な診療においては、全身的な管理を要すること、全年齢層を対象とすることとなる場合も多いため、総合的なアレルギー疾患専門の医師の存在は重要と考えられ、関係学会においてそのような専門の医師の育成について、その備えるべき技能や具体的な育成の方法等について検討するとともに、適切な技能を備えた専門医師の育成がなされることが望まれる。

○ 医師以外の医療従事者の育成

保健師、看護師、薬剤師及び管理栄養士等においても、アレルギー疾患患者に適切に対応できるよう、知識・技能を高めておく必要がある。

保健師、看護師については日本看護協会の研修において、急性増悪期の看護をはじめ、患者の療養指導および相談対応など看護職に期待される役割を発揮するよう、今後ともより一層アレルギー疾患に係る教育が充実されることが望ましい。

薬剤師については、薬学専門教育のガイドラインである「薬学教育モデル・コアカリキュラム」においても、「アレルギーの代表的な治療薬を挙げ、作用機序、臨床応用、および主な副作用について説明できる」ことを到達目標として挙げている。アレルギー疾患の患者に対する適切な投薬管理や投与法の指導も、患者の症状安定やその自己管理において非常に重要であるため、薬剤師の服薬指導等の資質の向上に資するような研修会等の取組が推進されることにも期待したい。

さらに、アレルギー疾患にはアナフィラキシーを含む食物アレルギーもあり、個々の患者ごとに適正な食物除去が行われることが重要であることから、管理栄養士及び栄養士についても、アレルギー疾患患者の栄養管理に十分対応できるよう、日本栄養士会の研修等において今後より一層アレルギー疾患に係る教育が充実されることが望ましい。

(ウ) 専門情報の提供

国は、アレルギー疾患に関する研究成果等を踏まえた専門的な医学情報については、関係学会等と協力して必要な情報提供体制の確保を図る。また、専門医療機関等からの相談に対応できるよう、国立病院機構相模原病院の臨床研究センターの相談窓口についても引き続き活用されることが望まれる。

イ 情報提供・相談体制の確保

(ア) 自己管理に資する情報提供の促進

○ アレルギー疾患については、患者及びその家族により次に掲げる事項を行うことにより、自己管理することが望まれる。

例 生活環境改善(食物・住環境等に関する抗原回避、禁煙等)

罹患している疾患とその治療法の正しい把握

疾患状態の客観的な自己評価

救急時対応等

○ 国は、日本アレルギー学会等と連携し、上記内容について厚生労働科学研究において作成された患者の自己管理マニュアル等を用いて、自己管理手法を積極的に普及し、患者及び患者家族が有効に活用できるように努める。

このような国の取組を踏まえ、都道府県等においては、都道府県医師会や関係学会等と連携して研修会を実施する等して、保育所・学校(PTA等)・職域・地域(子ども会等)等における自己管理手法の普及を図ることが求められる。

また、市町村においては、都道府県等と同様の取組が期待され、乳幼児健診等における保健指導等の場を効果的に活用し、アレルギー疾患の早期発見及び自己管理手法の普及等を図ることが求められる。

さらに、学校・保育所等においては、保護者等と十分連携をとり、児童のアレルギー疾患の状況を把握して健康の維持・向上を図ることが望ましい。

医療従事者においては、自己管理手法の普及について正しく認識し、医療機関や保険薬局等において、看護師や薬剤師、管理栄養士等と医師との密接な連携のもと、適切な指導が実践されることが重要である。

(イ) 効果的・効率的な情報提供

○ 国民及び患者にとって必要なアレルギー疾患に関する主な情報としては、以下のものが挙げられる。

例 アレルギー疾患に関する一般疾病情報(病因・病態・疫学等)

生活環境等に関する情報(患者の適切な生活環境確保に必要な情報等)

適切な治療や薬剤に関する情報

最新の研究成果等に基づいた、適切な診療に関する情報

医療機関及びサービスの選択にかかる適切な情報

○ 上記の情報を効果的かつ効率的に普及するためには、ホームページのみならず、パンフレット等も活用するなど効果的かつ効率的な情報提供が必要である。

国においては、適宜、関係団体や関係学会等と連携し、ホームページやパンフレット等を活用して、最新の研究成果を含む疾病情報や診療情報等を都道府県等や医療従事者等に対して提供する。また、免疫アレルギー疾患等予防・治療研究推進事業において実施されるリウマチ・アレルギーシンポジウムにより、アレルギー疾患に関する上記の情報を国民に広く啓発することが重要である。

地方公共団体においては、国等の発信する情報や、リウマチ・アレルギー特別対策事業を活用するほか、それぞれの地域医師会等の協力を得ながら、住民が適切な医療機関等を選択するための情報を住民に対して提供することが望ましい。

○ その他の事項として、下記のような取組が求められる。

・ 国は、アレルギー物質を含む食品に関する表示については、科学的知見の進展等を踏まえ、表示項目や表示方法等の見直しを検討していく。

・ 日本アレルギー学会が、近年、学術団体としての法人格を得て資格名を広告することが可能となったアレルギー専門医等についても、各臓器別疾患分野の専門医と併せて、その普及に努めていく必要がある。

・ 未就学児童をもつ保護者へのアレルギー疾患に関する情報提供は、乳幼児期がアレルギー疾患の好発年齢であることから特に重要である。そのひとつとして、市町村は、保育所等を通じて、食を通じた子どもの健全育成(いわゆる「食育」)に関する取組の中で、食物アレルギーのある子どもについても対応を進めていくことが望ましい。

・ 本年3月に決定された第2次食育推進基本計画においては、「食育を通じた健康状態の改善等の推進」に関連して、「栄養教諭は、学級担任、養護教諭、学校医等と連携して、保護者の理解と協力の下に、(中略)食物アレルギー等食に関する健康課題を有する子どもに対しての個別的な相談指導を行うなど望ましい食習慣の形成に向けた取組を推進する。」と記載されている。

(ウ) 多様な相談体制の確保・充実

○ 国は、地域ごとの相談レベルに格差が生じないよう、「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」のより一層の充実を図る。

また、(財)日本予防医学協会において実施されている、アレルギー相談センター事業が活用されるよう、その周知に努めるべきである。

○ 地方公共団体は、このような国の取組を踏まえ、都道府県においては体系的なアレルギー相談体制の構築、具体的には、一般的な健康相談等は市町村において実施し、標準的な治療方法等に関するより専門的な相談については保健所において実施する等を検討し実施することが望ましい。

○ 都道府県や保健所においては、地域医師会、看護協会、栄養士会等と連携し、個々の住民の相談対応のみならず、市町村からの相談や地域での学校等におけるアレルギー疾患対策の取組への助言等の支援が期待される。

○ 患者会等における相談窓口等も、特に、経験者の体験を基にした福祉的側面等の相談など、相談者のニーズに対応することが可能であり、広く活用されることが期待される。

ウ 研究開発及び医薬品等開発の推進

(ア) 効果的かつ効率的な研究推進体制の構築

○ 研究企画・実施・評価体制の構築に際し、明確な目標設定、適切な研究評価等を行うことにより、アレルギー疾患に関する研究をより戦略的に実施し、得られた成果がより効果的に臨床応用されることが重要である。

○ 国は、政策的課題に関連するテーマも勘案した上で、適切に公募課題に反映させるとともに、研究課題の採択に当たっては免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業の中でテーマの類似している研究課題の統廃合を図ることが必要である。なお、国が進めるべき研究課題は、民間企業や医療機関と国との役割を認識しながら、研究事業の評価委員会の意見を踏まえ、課題の決定を行う。

○ 治療効果も含めたアレルギー疾患患者の動向を適切に把握することは、単に疾病統計という視点のみならず、病因、病態、診断、治療、予後等の研究を効果的かつ効率的に進める上で重要であることから、継続的かつ汎用性の高い患者データベース等の構築も重要である。

また、小児に特化した調査としては、同一客体を長年にわたって追跡調査する「21世紀出生児縦断調査」が平成13年度から実施されているところであり、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎・結膜炎、食物アレルギーの有病率について調査している。本調査結果も、小児アレルギーの実態を把握する上での有用な疫学情報のひとつであると考えられ、国は調査結果の積極的な活用について検討する。

(イ) 研究目標の明確化

○ 当面成果を達成すべき研究分野

これまで得られた研究成果等を踏まえ、今後よりアレルギー疾患診療の医療の均てん化や医療水準の向上に資するような研究成果を得られるよう、特に次の研究分野を重点的に推進していく。

・ アレルギー疾患において、現行の標準的な治療方法による疾患管理が困難な、あるいは不十分ないわゆる「難治性アレルギー疾患」患者に対する有効な治療方法の開発を最優先の目標とする。そのため、関係学会等と連携し、治療の安全性は当然担保しつつ、より高い有効性が期待される治療方法を開発することを目標とする。

・ 喘息死の中心を占める高齢者喘息の実態やその管理手法の確立、不定期受診に起因する喘息死患者の抑止の方法の開発と普及に資する研究も推進する。

・ 国は、これらの研究から得られる成果や、成果に基づいた国等への施策提案を踏まえ、科学的根拠に基づいた正しい医学的知見の、かかりつけ医等への普及を図り、国民が必要とする適切な治療を等しく享受できるような医療体制の確保に資することを目指すべきである。

○ 長期目標を持って達成すべき研究分野

・ 長期目標として、アレルギー疾患の予防法と根治的治療法を開発するため、アレルギー疾患の病態・免疫システム解析と病因解明を行い、その成果に基づくアレルギー疾患に対する根本的な治療法を開発することを目指す。

(ウ) 医薬品等の開発促進等

○ 新しい医薬品等の薬事法上の承認に当たっては、国は適切な外国のデータであれば適切に対応する。

○ 国においては、優れた医薬品等がより早く患者の元に届くよう治験環境の整備に努める。特に小児に係る医薬品等については対応が十分とはいえないため、小児に係る臨床研究の推進を図ることが望ましい。

(3) 施策の評価等

国においては、適宜、有識者の意見等を聞きつつ、国が実施する重要な施策の実施状況等について評価し、また、地方公共団体の実施する施策を把握することにより、より的確かつ総合的なアレルギー対策を講じていくことが重要である。

また、地方公共団体においても国の施策を踏まえ、国や関係団体等との連携を図り、施策を効果的に実施するとともに、主要な施策について政策評価を行うことが望ましい。

おわりに

本委員会において参集をもとめたリウマチ対策作業班及びアレルギー疾患対策作業班における議論の結果を踏まえ、患者のQOLを維持・向上させるということに重点を置き、検討を重ねてきた。

具体的な検討の範囲としては、我が国におけるリウマチ・アレルギー対策を総合的かつ体系的に推進するための基本的方向性から、重点的に推進すべき具体的施策に及ぶ幅広い事項が取り上げられた。

このような形で報告書がとりまとめられたことは、議論を尽くしきれなかった点、至らない点もあるとは思われるものの、我が国におけるリウマチ・アレルギー対策を推進する上で大きな前進となることであろう。

本報告書の成果が十二分に活用され、リウマチ、アレルギーともに関係者の協力の下、その対策が円滑に実施され、国民に安心・安全な生活を提供する社会づくりが達成されることを期待したい。

厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会 委員名簿

今村 聡 (社)日本医師会常任理事

栗山 真理子 特定非営利活動法人アレルギー児を支える全国ネットアラジーポット専務理事

洪 愛子 (社)日本看護協会常任理事