添付一覧
○「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~」について
(平成30年7月12日)
(健発0712第1号)
(都道府県知事・政令指定都市市長・中核市市長あて厚生労働省健康局長通知)
(公印省略)
腎疾患は、糖尿病や高血圧等の生活習慣病や難病等を原因とし、患者数は約1,300万人に達する。腎疾患は、重症化すると血液透析をはじめとする腎代替療法を要することになるのみならず、循環器系疾患のリスクも高いため、国民の健康や生活の質に重大な影響を及ぼしている。我が国では、「腎疾患対策のあり方について」(平成20年3月)に基づき対策を講じてきたが、今後も高齢化が進む中で、腎疾患患者の増加が予想されることから、更なる腎疾患対策の推進を目指して、平成29年12月から「腎疾患対策検討会」を開催し、今後の対策等について検討を行い、別添のとおり報告書をとりまとめたところである。
貴職におかれては、本報告書について、特に下記の点に留意しつつ、十分に内容を御了知の上、貴管内の市区町村、腎疾患対策の関係団体、関係機関等に対して周知するとともに、地方公共団体や関連学会、関係団体等はもちろんのこと、企業、学校、家庭等の腎疾患対策に関わる関係者が一体となり、地域の実情に応じて、本報告書に基づく腎疾患対策に取り組んでいただきたい。
なお、都道府県、政令指定都市及び中核市における慢性腎臓病(CKD)対策に係る経費については、従前通り、慢性腎臓病(CKD)特別対策事業において補助対象としており、積極的な活用をお願いする(慢性腎臓病(CKD)特別対策事業については、「慢性腎臓病(CKD)特別対策事業について」(平成21年4月28日健発第0428001号厚生労働省健康局長通知)を参照)。
また、関連学会及び関係団体等に対しては、別途通知していることを申し添える。
記
1.報告書の目標と地方公共団体の役割
報告書において、「自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)を早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより、CKD重症化予防を徹底するとともに、CKD患者(透析患者及び腎移植患者を含む)のQOLの維持向上を図る」ことを対策の全体目標として、「2028年までに、年間の新規透析導入患者数を3万5000人以下に減少させる」(2016年時点で約3万9000人)ことを達成すべき成果目標として設定している。
このため、地方公共団体が実施すべき主な取組として、①一般住民や医療従事者等対象者に応じたCKD普及啓発活動の充実、②健診受診後の適切な保健指導・受診勧奨、③かかりつけ医から腎臓専門医療機関等への紹介基準の普及、④腎臓病療養指導士等とも連携しつつ、地域でCKD診療を担うかかりつけ医等の医療従事者や腎臓専門医療機関等の情報の共有・発信によるかかりつけ医等と腎臓専門医療機関等との連携の推進等を掲げている。
2.都道府県の役割
都道府県におかれては、生活習慣病対策、糖尿病性腎症対策、難病対策の担当者等が一体となり、貴管内における市区町村の腎疾患対策関係部署や、関連学会や関係団体等と連携し、上記①から④までに関して普及啓発や紹介基準の普及など自ら積極的に取組を進めていただきたい。また、既存の生活習慣病に関する取組や糖尿病性腎症重症化予防プログラム等を活用し、市区町村における上記①から④までに関する取組への支援を実施するほか、市区町村における取組状況のとりまとめを行い、現状や課題等の把握を進め、好事例の横展開等に取り組んでいただきたい。これらを実施するに際しては、報告書の中において、関連学会等は「地域の腎疾患対策の中心的役割を担う担当者を、都道府県ごとに決定する」、「担当者を中心に、地方公共団体と連携して普及啓発活動を推進するとともに、活動の情報を集約し、地域での実施状況の把握及び活動の効果の評価を行う」とされており、一般社団法人日本腎臓学会において既に地域の担当者を決定していると承知していることから、こうした担当者との連携を特に進めていただきたい。
3.市区町村の役割
市区町村におかれては、生活習慣病対策、糖尿病性腎症対策、難病対策等の担当者等が一体となり、都道府県の腎疾患対策関係部署、関連学会や関係団体等と連携し、既存の生活習慣病に関する取組等を活用し、上記①から④までに関して普及啓発や健診受診後の適切な保健指導・受診勧奨等の対策に取り組んでいただきたい。その際には、報告書において、「糖尿病性腎症重症化予防プログラムなど、先行している糖尿病性腎症対策とCKD対策とが連動することにより、より効率的・効果的なCKD対策の推進が期待できる」とされていることから、国民健康保険の保険者等が実施している糖尿病性腎症対策との連動についても適宜進めていただきたい。
4.進捗管理等
報告書では、対策の全体目標や個別対策において評価指標を示しており、例えば「市町村単位での対策の取組状況」や「各都道府県での普及啓発活動の実施数」等が示されている。その上で、「国や関連学会等は、評価指標等を用いて、本報告書に基づく対策の進捗管理を実施する」とあるように、今後、報告書の進捗管理を行っていくとともに、現状や課題等の把握を進め、好事例の横展開等に取り組んでいきたいと考えているため、その際には事例報告等にご協力をお願いする。
以上
○「腎疾患対策検討会報告書~腎疾患対策の更なる推進を目指して~」について
(平成30年7月12日)
(健発0712第2号)
(別記団体の長あて厚生労働省健康局長通知)
(公印省略)
腎疾患は、糖尿病や高血圧等の生活習慣病や難病等を原因とし、患者数は約1,300万人に達しております。腎疾患は、重症化すると血液透析をはじめとする腎代替療法を要することになるのみならず、循環器系疾患のリスクも高いため、国民の健康や生活の質に重大な影響を及ぼしています。我が国では、「腎疾患対策のあり方について」(平成20年3月)に基づき対策を講じてきましたが、今後も高齢化が進む中で、腎疾患患者の増加が予想されることから、更なる腎疾患対策の推進を目指して、平成29年12月から「腎疾患対策検討会」を開催し、今後の対策等について検討を行い、報告書をとりまとめたところです。
これを受けて、別紙のとおり都道府県知事・政令指定都市市長・中核市市長宛てに通知いたしましたのでご連絡いたします。
貴職におかれましても、本報告書の内容について十分に御了知の上、貴管下の関係団体及び関係者に対して周知を図っていただきますよう、よろしくお願いいたします。
(別記団体)
公益社団法人 日本医師会
公益社団法人 日本歯科医師会
公益社団法人 日本薬剤師会
公益社団法人 日本看護協会
公益社団法人 日本栄養士会
特定非営利活動法人 日本健康運動指導士会
公益社団法人 日本理学療法士協会
一般社団法人 日本病院会
公益社団法人 日本精神科病院協会
一般社団法人 日本医療法人協会
一般社団法人 日本社会医療法人協議会
公益社団法人 全日本病院協会
公益社団法人 全国自治体病院協議会
健康保険組合
健康保険組合連合会
全国健康保険協会
公益社団法人 国民健康保険中央会
一般社団法人 全国国民健康保険組合協会
一般社団法人 日本腎臓学会
一般社団法人 日本糖尿病学会
一般社団法人 日本循環器学会
一般社団法人 日本透析医学会
一般社団法人 日本病態栄養学会
一般社団法人 日本総合健診医学会
公益社団法人 日本人間ドック学会
一般社団法人 日本心不全学会
一般社団法人 日本脳卒中学会
一般社団法人 日本内科学会
一般社団法人 日本移植学会
特定非営利活動法人 日本高血圧学会
公益社団法人 日本小児科学会
一般社団法人 日本泌尿器科学会
公益財団法人 日本眼科学会
一般社団法人 日本小児腎臓病学会
日本腎臓病薬物療法学会
一般社団法人 日本慢性疾患重症化予防学会
公益社団法人 日本透析医会
公益社団法人 日本眼科医会
公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
公益社団法人 日本糖尿病協会
一般社団法人 全国腎臓病協議会
特定非営利活動法人 腎臓サポート協会
一般社団法人 日本腎不全看護学会
一般社団法人 日本糖尿病教育・看護学会
日本糖尿病対策推進会議
(別添)
腎疾患対策検討会報告書
~腎疾患対策の更なる推進を目指して~
平成30年7月
腎疾患対策検討会
目次
1.はじめに
2.腎疾患の現状
3.腎疾患対策の更なる推進のために
(1) 対策の全体目標
(2) 個別対策
①普及啓発
②地域における医療提供体制の整備
③診療水準の向上
④人材育成
⑤研究開発の推進
(3) 腎疾患対策の全体像
4.おわりに
腎疾患対策検討会構成員名簿
1.はじめに
我が国における腎疾患患者は年々増加傾向にあり、平成18年末時点で、約26万人が透析療法を受けているなど、国民の健康に重大な影響を及ぼしてきた。しかし、生活習慣病予防対策や、透析・移植等の腎不全対策に比べ、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease(CKD)。以下「CKD」という。)の重症化予防については、施策の対象として明確化されてこなかったため、平成19年10月より、「腎疾患対策検討会」において我が国における腎疾患対策のあり方について検討を行い、「腎機能異常の重症化を防止し、慢性腎不全による透析導入への進行を阻止すること」、及び「慢性腎臓病(CKD)に伴う循環器系疾患(脳血管疾患、心筋梗塞等)の発症を抑制すること」を目標として腎疾患対策の方向性を示した、「今後の腎疾患対策のあり方について」が取りまとめられた。
その後の10年間の対策により、年齢調整後の新規透析導入率の減少を達成するなど、着実な成果が現れている一方、透析患者数が減少傾向となるまでには至っておらず、さらに、今後高齢化が進む中で、生活習慣病に由来する腎疾患患者数の増加が続くと予想されている。
このため、腎疾患対策の更なる推進のため、平成29年12月より、「腎疾患対策検討会」を開催し、今後の腎疾患対策の方向性について4回にわたり検討を重ねた。当検討会では、「自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)を早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより、CKD重症化予防を徹底するとともに、CKD患者(透析患者及び腎移植患者を含む)のQOLの維持向上を図る」ことを目標として、「普及啓発」、「地域における医療提供体制の整備」、「診療水準の向上」、「人材育成」、「研究開発の推進」という5本柱ごとに今後実施すべき取組等を整理した。また、2028年までに、年間新規透析導入患者数を35,000人以下に減少させるという成果目標(KPI)も設定した。「腎疾患対策検討会」における、これらの議論の内容について、報告書として次のとおり取りまとめた。
本報告書により、腎疾患対策の重要性がさらに広く認識され、医療従事者や行政機関だけでなく、患者やその家族も含めた国民全体にCKDについての普及啓発を行い、腎疾患対策を実践することが望まれる。
2.腎疾患の現状
○腎疾患の特徴
腎臓は「沈黙の臓器」と言われ、自覚症状が乏しく、症状を自覚した時には、腎疾患が既に進行しているというケースも少なくない。だが、早期から適切な治療を行えば重症化予防が可能であるため、早期診断、早期治療が重要である。腎臓は、「図1 腎臓の構造」に示すように血管が豊富な臓器であり、血液の「ろ過」を行っている「糸球体」も、毛細血管が球状に絡まった組織である。そのため、腎臓の血管の障害は、腎疾患の発症に直結する。つまり、血管障害を引き起こす糖尿病、高血圧、脂質異常症等の生活習慣病や加齢等が、腎疾患の主な発症リスクである。
図1 腎臓の構造
特定非営利活動法人腎臓サポート協会ホームページより抜粋
○腎疾患の原因
主な腎疾患としては、糖尿病による糖尿病性腎症、複数の難病を包括した慢性糸球体腎炎、主に高血圧や加齢による腎硬化症等がよく知られている。これらの疾患は併存する場合もあることから、「糖尿病」がその発症や進展の少なくとも一部に関与する腎疾患を包括した、「糖尿病性腎臓病(Diabetic kidney disease(DKD)。以下「DKD」という。)」という概念が近年欧米で提唱され、わが国の関連学会においても広く共有されている。また、生活習慣病のみならず、IgA腎症等の慢性糸球体腎炎や、多発性嚢胞腎、膠原病等の難病も腎障害の原因となる。難病は、生活習慣病の既往がなくても発症し、急速に進行する場合もあることから、早期診断、早期治療がより重要である。
○慢性腎臓病(CKD)について
慢性腎臓病(CKD)は、1つの疾患の名称ではなく、腎臓の働きが徐々に低下していくさまざまな腎臓病を包括した総称であり、予防啓発に積極的に取り組むために提唱された名称である。医学的には、「蛋白尿」等または「腎機能低下」が3ヶ月以上続く状態と定義されており、その重症度は、蛋白尿及び腎機能の状態を組み合わせ、「図2 CKDの重症度分類」で示すように4段階(緑、黄、オレンジ、赤)で分類されている。緑はリスクが最も低い状態で、黄、オレンジ、赤になるにつれ、死亡、末期腎不全、心血管死亡発症のリスクが上昇する。腎機能が同程度であっても、蛋白尿が多いほど重症度が高くなることに注意すべきである。
図2 CKDの重症度分類
○CKDの疫学
CKD患者数は、成人の約8人に1人にあたる約1,300万人であり、頻度が高い(CKD診療ガイド2012)。近年、透析患者数の増加は鈍化しているが、減少には至っておらず、平成28年末には329,609人に達している(「図3 慢性透析患者数の推移」)。「図4 新規透析導入患者数の推移」に示すように新規透析導入患者数も、近年は横ばい傾向にあり、平成28年の新規透析導入患者数は39,344人である。腎機能は加齢に伴い低下するため、高齢化の進行はCKD患者数の増加要因となるが、近年の新規透析導入患者数は横ばい傾向である。これはこれまでの腎疾患対策の着実な成果を示唆するものと考えられる。また、平成28年の透析導入患者の平均年齢は69.4歳であり(日本透析医学会 図説わが国の慢性透析療法の現況)、透析患者の高齢化が進んでいることから、新規透析導入患者数における高齢化の影響を除外するため年齢調整をおこなうと、平成20年比で新規透析導入率について減少傾向が見られるという報告もある(若杉ら 日本腎臓学会雑誌 第60巻・第1号)。
図3 慢性透析患者数の推移
図4 新規透析導入患者数の推移
「図5 新規透析導入患者の原疾患の年次推移」では、新規透析導入患者が透析に至った原因(原疾患)別の年次推移を示す。透析に至った原因は、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎の順に多い。平成10年以降は糖尿病性腎症が第1位を占めているが、その割合は43%前後で横ばい傾向である。一方、主に高血圧や加齢により発症する腎硬化症が年々増加していることに注意すべきである。
図5 新規透析導入患者の原疾患の年次推移
○CKDと循環器系疾患の関連について
CKD患者は、循環器系疾患(心筋梗塞や脳梗塞等)のリスクも高いことが知られている。腎不全は、悪性新生物、心疾患、肺炎、脳血管疾患、老衰、不慮の事故に次いで我が国の死因の第7位である(平成27年人口動態調査)が、透析患者をはじめとするCKD患者は、死因の上位である心疾患や脳血管疾患等の合併症が死因となることが多い。このため、CKDは国民の健康に与える影響が大きく、生命をおびやかす重篤な疾病であると広く認識し、対策を行うべきである。
○原疾患を問わないCKD対策について
平成28年度に糖尿病性腎症重症化予防プログラム(15ページ参照)が策定されるなど、腎疾患対策のうち糖尿病性腎症対策の重要性の認識は広まりつつある。一方、CKDは原疾患を問わない概念であり、血圧、血糖の管理や減塩指導等の治療原則も共通である。まだ絶対数は少ないものの、年々増加傾向である腎硬化症を含めた生活習慣病対策と、若年者や長期透析患者も少なくない、慢性糸球体腎炎等の難病対策も含めたCKD対策を行うことで、より効果的・効率的な対策につながることが期待される。
3.腎疾患対策の更なる推進のために
(1) 対策の全体目標
自覚症状に乏しい慢性腎臓病(CKD)を早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続することにより、CKD重症化予防を徹底するとともに、CKD患者(透析患者及び腎移植患者を含む)のQOLの維持向上を図る。
目標を達成するため、国や関連学会等は、評価指標等を用いて、本報告書に基づく対策の進捗管理を実施する。その状況は、ホームページ等で公開されることが望ましい。また、国や関連学会は、進捗管理の過程で、KPIの達成が困難と判断される場合には、適宜検討をおこない、後述する実施すべき取組に見直しを加えながら対策に取り組み、目標達成に努める。
達成すべき成果目標(KPI)及び評価指標
(a) 地方公共団体は、他の行政機関、企業、学校、家庭等の多くの関係者からの参画を得て、腎疾患の原因となる生活習慣病対策や、糖尿病性腎症重症化予防プログラムの活用等も含め、地域の実情に応じて、本報告書に基づく腎疾患対策に取り組む。
(評価指標)
・市町村単位での対策の取組状況
・糖尿病性腎症重症化予防プログラムを活用する市町村数 等
(b) かかりつけ医、メディカルスタッフ、腎臓専門医療機関等が連携して、CKD患者が早期に適切な診療を受けられるよう、地域におけるCKD診療体制を充実させる。
(評価指標)
・紹介基準に則った腎臓専門医療機関への紹介率
・腎臓専門医療機関からかかりつけ医等への逆紹介率
・地域におけるCKD診療を担う、かかりつけ医等の医療従事者数 等
(c) 2028年までに、年間新規透析導入患者数を35,000人以下に減少させる。(2016年の年間新規透析導入患者数は約39,000人)
(評価指標)
・新規透析導入患者数について、2016年比で、5年で5%以上減少、10年で10%以上減少を達成する都道府県数 等
その際、地域の実情に応じて、人口当たりの導入患者数や、年齢調整、原疾患別の評価等を行うことも有用と考えられる。
(2) 個別対策
個別対策について、現時点での課題を整理するとともに、それらを克服するために今後実施すべき取組及び取組の評価指標を示す。平成20年にとりまとめた「今後の腎疾患対策のあり方について」に基づき、施策を実施してきた5本の柱(「普及啓発」、「地域における医療提供体制の整備」、「診療水準の向上」、「人材育成」、「研究開発の推進」)を踏まえて、本報告書においても5本の柱ごとに対策を検討し、とりまとめている。
① 普及啓発
(ア) 目的
医療従事者や行政機関に対してのみならず、患者・家族、成人・小児を問わず国民全体にCKDについて普及啓発を行い、より多くの人が腎疾患対策を実践する体制を構築すること、また、より計画的、効率的・効果的な普及啓発活動を実施することで、腎疾患対策の更なる推進を図ることが目的である。
(イ) 課題
・CKDは生命を脅かし、患者数も多い疾患であること、治療可能であること、早期発見・早期治療が重要であること等のCKDの正しい認識及び知識が十分普及していない。
・医師、メディカルスタッフ、行政機関、CKD患者、国民全体、高齢者、小児など、対象に応じた普及啓発内容の検討が十分とはいえない。
・普及啓発活動の実施状況の把握や効果の評価・検証が十分とはいえず、効果的な普及啓発活動が実施されていない。
・医療従事者、関連学会及び行政機関等において好事例が十分に共有されておらず、好事例の横展開が十分に進んでいない。
(ウ) 今後実施すべき取組
・国は、関連学会等と連携し、対象に応じて普及啓発すべき内容の検討整理を行う。それを踏まえて、普及啓発資材を開発し、普及を図る。
・関連学会等は、普及啓発を含めた地域の腎疾患対策の中心的役割を担う担当者を、都道府県ごとに決定する。その上で、担当者を中心に、地方公共団体と連携して普及啓発活動を推進するとともに、活動の情報を集約し、地域での実施状況の把握及び活動の効果の評価を行う。なお、糖尿病や高血圧、心血管疾患等、他の疾病と連携した普及活動も効果的・効率的と考えられる。
・国及び地方公共団体は、好事例を関係者含め共有し、関連学会、関連団体等と連携して、効果的・効率的な普及啓発活動の横展開を行う。
(エ) 評価指標
・各都道府県での普及啓発活動の実施数
・市民公開講座等の実施数
・CKDの認知度 等
② 地域における医療提供体制の整備
(ア) 目的
CKDは患者数が多いため、腎臓専門医療機関のみで診療を行うことは困難である。一方で、軽症のうちは、血圧や血糖の管理や減塩指導等の一般的な内科診療が中心であるが、重症化すると、合併症予防や最適な腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)の選択や準備など、専門性の高い診療が必要となる。そのため、メディカルスタッフ等の協力のもと、紹介・逆紹介、2人主治医制など、かかりつけ医等と腎臓専門医療機関等の連携を推進することで、CKDを早期に発見・診断し、良質で適切な治療を早期から実施・継続できる診療体制を構築することが目的である。
(イ) 課題
・かかりつけ医等から腎臓専門医療機関等、あるいは、糖尿病専門医療機関等に紹介すべき基準の周知が十分とはいえない。
・各地域においてかかりつけ医等が連携すべき腎臓専門医療機関等の周知が十分に行われているとはいえない。
・かかりつけ医等と腎臓専門医療機関等の連携における好事例が行政機関、関連学会や関係団体等において十分共有されず、医療提供体制の均てん化が進んでいない。
(ウ) 今後実施すべき取組
・関連学会や関係団体等は、国や地方公共団体と連携し、「図6 かかりつけ医から腎臓専門医・腎臓専門医療機関への紹介基準」、「図7 かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準~主に糖尿病治療ガイドより~」を、CKD診療を担う関係者に広く普及する。
・健診はCKDやその発症リスクとなる糖尿病、高血圧等の項目を発見するよい機会であるため、定期的な健診受診を通じて、「図8 CKDに関する健診判定と対応の分類例」などを参考にしながら、各々の健診実施機関が適切な保健指導や受診勧奨を行う。
・関連学会や関係団体は、国や地方公共団体と連携し、地域でCKD診療を担うかかりつけ医等の医療従事者や腎臓専門医療機関等の情報を共有・発信することで、かかりつけ医等と腎臓専門医療機関等との連携を図る。なお、関連学会等が決定する地域の腎疾患対策の中心的役割を担う担当者が、地方公共団体や関連団体等との調整において積極的に関与することが期待される。
・行政機関、関連学会、関係団体等は、CKD診療連携体制の好事例を共有し、均てん化を行う。
図6 かかりつけ医から腎臓専門医・腎臓専門医療機関への紹介基準
図7 かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準
~主に糖尿病治療ガイドより~
図8 CKDに関する健診判定と対応の分類例
(エ) 評価指標
・紹介基準に則った腎臓専門医療機関等への紹介率
・腎臓専門医療機関等からかかりつけ医等への逆紹介率
・地域におけるCKD診療を担う、かかりつけ医等の医療従事者数 等
③ 診療水準の向上
(ア) 目的
CKD診療を担う全ての医療従事者が、各種ガイドライン等で推奨されている良質で適切な診療を実践すること、また、関連する疾患の治療との連携を強化することにより、CKD重症化予防の徹底を図ることが目的である。
(イ) 課題
・各種ガイドライン等に不統一に様々な名称が付されており、利用すべき対象者が明確ではない部分がある。
・各種ガイドライン等で、一部推奨内容の不一致が見られる。
・メディカルスタッフ、かかりつけ医等への各種ガイドライン等の普及が十分とはいえない。
・腎臓専門医療機関等と糖尿病など関連する疾病の専門医療機関等との連携基準が明確ではない部分がある。
(ウ) 今後実施すべき取組
・関連学会等が合同で協議し、推奨内容を合致させたガイドライン等を作成する。
・関連学会等は、患者、メディカルスタッフ、かかりつけ医など、利用する対象をそれぞれ明確にしたガイドライン等を作成し、関係団体や関連学会等と連携して、普及する。
・関連学会等は、関連する疾患の専門医療機関等との連携基準等を作成し、普及する。
(エ) 評価指標
・学会横断的ガイドライン等の作成
・対象者それぞれにおける各種ガイドライン等の普及率
・各種ガイドライン等で推奨される診療の実施率 等
④ 人材育成
(ア) 目的
腎臓病医の不足や偏在の中、CKDに関する基本的な知識を有する看護師/保健師、管理栄養士、薬剤師等の人材を育成し、腎臓病医以外の医師とも連携することにより、CKD診療に携わる医療従事者数の増加を図り、CKD診療体制を充実させることが目的である。特に腎臓専門医療機関等が少ない地域では、療養指導士等とかかりつけ医等との連携により、CKD診療体制の充実につながることが期待される。
(イ) 課題
・CKD診療を担うメディカルスタッフの数が不足しており、地域の偏在もある。
・CKD診療を担うメディカルスタッフと、CKDに関連する疾患の診療を担うメディカルスタッフとの連携が十分とはいえない。
(ウ) 今後実施すべき取組
・関連学会等は、腎臓病療養指導士等のCKDに関する基本的な知識を有する看護師/保健師、管理栄養士、薬剤師等のメディカルスタッフを育成する。
・関連学会等は、かかりつけ医等と腎臓病療養指導士等との連携、腎臓病療養指導士等と関連する療養指導士等との連携を推進する。
(エ) 評価指標
・地域における腎臓病療養指導士数
・腎臓病療養指導士等と、関連する療養指導士等間の連携事例数 等
⑤ 研究開発の推進
(ア) 研究開発の推進の方向性
・「医療分野研究開発推進計画」等の国が定める中長期的な研究開発目標を踏まえた研究を、関連学会、関係団体等、国、地方公共団体、企業等が密接に連携したオールジャパン体制で推進すべきである。
・国は、本報告書の全体目標等の達成に資する研究を推進すべきである。
・国は、関係学会と連携して、施策の提言や推進、本報告書に基づく対策の実践及び進捗管理等を行う研究を推進すべきである。
(イ) 研究開発の推進の方向性を踏まえた研究例
・関連学会との連携強化によるデータベース間の連携構築(DKDに関する日本腎臓学会、日本糖尿病学会の連携のみならず、日本循環器学会等の心血管疾患の関連学会との連携も重要である。)
・研究及び診療へのICTやビッグデータの活用
・国際共同試験を含めた臨床試験の基盤整備
・病態解明に基づく効果的な新規治療薬の開発
・再生・オミックス(ゲノム等)研究の推進
・腎臓病の基礎研究や国際競争力の基盤強化
(3) 腎疾患対策の全体像
① 病期に応じた腎疾患対策の全体像
「図9 病期に応じた腎疾患対策の全体像」に、対策の全体像を示す。全体目標の成果目標(KPI)のうち「2028年までに新規透析導入患者を35,000人以下に減少させる」を達成することは、関連施策を含めた全ての対策の総和として現れる結果である。このKPI達成のために最も重要な対策は、健診結果に基づく、かかりつけ医等への適切な受診勧奨や、紹介基準に則った、かかりつけ医等から腎臓専門医療機関等への紹介が円滑に行えるようなCKD診療体制の構築によるCKD重症化予防の徹底であると考える。この取組の好事例として、平成21年から28年までの間に、新規透析導入患者を295人から243人まで約18%の減少を達成した熊本市等が挙げられる。健診受診率の向上、生活習慣病の発症予防、生活習慣病の重症化予防等も新規透析導入患者の減少に、大きなインパクトを与えうる対策であり、推進すべきである一方で、糖尿病性腎症は糖尿病発症後10数年経って発症することが多いなど、これらの対策の成果が新規透析導入患者の減少という結果となって現れるには長期間を要するため、長期的な視点での取組が必要である。
また、全体目標にある、CKD患者のQOLの向上を達成するには、CKD重症化予防のみならず、様々な合併症予防や、各患者にとって最適な腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)の選択や準備、治療と仕事の両立支援等も重要と考えられる。
② 腎疾患に関連する厚生労働省の取組
腎疾患対策の全体像を把握するため、厚生労働省の腎疾患に関連する取組を紹介する。腎疾患対策の更なる推進のためには、関連施策を含めた全体像を俯瞰した上で関係者が密接に連携し、広い視野で対策に取り組むことが重要である。
(ア) 生活習慣病対策
糖尿病、高血圧、脂質異常症等の生活習慣病はCKDの発症リスクであり、一方で禁煙等の生活習慣の改善によってもCKD発症者の減少が期待されることから、これらの生活習慣病の発症予防と重症化予防及び生活習慣の改善が腎疾患対策において非常に重要な位置を占める。
健康増進法(平成14年法律第103号)に基づき、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針(平成15年厚生労働省告示第195号)を示し、平成25年度から「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))(平成24年厚生労働省告示第430号)」を開始している。その中で、平成34年度までに達成すべき目標として、糖尿病性腎症による年間新規透析導入患者の減少、収縮期血圧の平均値の低下、食塩摂取量の減少、喫煙率の減少等がある。
生活習慣病発症予防の啓蒙活動の一環として、健康づくりの取組を推進する「スマート・ライフ・プロジェクト」を実施している。運動、食生活、禁煙、健診・検診の受診について、プロジェクトに参画する企業・団体・自治体と協力・連携しながら、リーフレット・ポスターの提供やアワード受賞などを通じて具体的なアクションの呼びかけを行っている。
さらに、「標準的な健診・保健指導プログラム」を策定しており、健診・保健指導に関わる者が理解しておくべき基本的な考え方や実施する際の留意点等を示し、適切な保健指導の実施や医療機関への受診を促している。
また、医療保険者において医療費適正化に資する取組を進めるため、人工透析の主たる原因である糖尿病性腎症重症化予防の取組を推進している。具体的には、各医療保険者と医療関係者が協働・連携できる体制の整備を支援するため日本医師会・日本糖尿病対策推進会議・厚生労働省の三者で平成28年3月に連携協定を締結、同年4月に糖尿病性腎症重症化予防プログラムを策定した。さらに日本健康会議の重症化予防WGにおいて、市町村等における糖尿病性腎症重症化予防が促進されるよう、好事例の収集・検証や、取組にあたっての課題等の検討を行い、平成29年7月にとりまとめ「糖尿病性腎症重症化予防の更なる展開に向けて」及び事例集を公表した。
加えて、国民健康保険においては、医療費適正化等に取り組む自治体への財政支援として平成28年度より前倒しで実施されている保険者努力支援制度の中で、糖尿病等の重症化予防の取組状況等に応じて交付金を交付することとした。また、後期高齢者医療制度においても、平成28年度から実施の保険者インセンティブにより、広域連合による生活習慣病等の重症化予防の取組を評価し、広域連合に交付する特別調整交付金に反映している。
こうした取組も相まって日本健康会議の達成要件を達成した市町村、広域連合数は、平成28年3月末時点で118市町村、4広域連合であったが、平成29年3月末時点で654市町村、14広域連合に増加した。
(イ) 難病対策
平成27年1月1日に難病の患者に対する医療等に関する法律(平成26年法律第50号)が施行され、研究の推進や療養生活環境整備事業等の対策が実施されている。医療費助成の対象疾病である指定難病は、平成30年4月現在331疾病が指定され、そのうち、日本腎臓学会関連の指定難病は19疾病である(難病情報センターHPを参照)。臨床調査個人票に記載されたデータが登録されることとなる指定難病患者データベースについては、平成29年度から稼働を開始しており、研究への活用が期待される。さらに平成30年度からは、早期診断と、診断後はより身近な医療機関で適切な医療を受けることができること等を目的として、各都道府県の難病診療連携拠点病院を中心とした新たな医療提供体制の構築が開始される。難病の診療を通じて強化される、かかりつけ医と腎臓専門医療機関等との連携が、難病以外に由来するCKDの診療においても、活用されることが期待される。
(ウ) 移植医療
腎移植には、移植腎提供者(ドナー)により生体腎移植と献腎移植があり、献腎移植には提供時のドナーの状態により心停止下腎移植と脳死下腎移植がある。生体腎移植は健康な親族から移植腎提供を受けるのに対し、献腎移植では脳死か心停止のドナーから移植腎提供を受ける。平成9年10月に、臓器の移植に関する法律(平成9年法律第104号。以下「臓器移植法」という。)が施行し、平成21年7月に臓器移植法が改正された。以降、脳死下臓器提供数は増加し、平成28年には脳死ドナーから64例、心停止ドナーから32例の臓器提供があった。腎臓移植については、脳死下116例、心停止下61例、生体1,471例で総数は1,648例であった。
厚生労働省では、一人ひとりが臓器を「提供する」、「提供しない」にかかわらず、意思表示をすることを促すような普及啓発を進めることが重要との観点から、日本臓器移植ネットワークとともに、啓発資料の配付や臓器提供に関する意思表示の機会の普及を図っている。平成30年4月より、運転免許証更新時講習において、厚生労働省からのお知らせとして、臓器提供に関する意思表示欄の周知を開始している。さらに、臓器提供者の意思をいかすためにも、臓器提供施設の増加や体制整備が重要との観点から、日本臓器移植ネットワークとともに、院内体制整備(マニュアルの作成、シミュレーションの実施等)の支援にも取り組んでいる。
また、医療機関にとって日常診療に乖離せずに過大な負担とならないような、各医療機関の特性に応じた臓器提供体制、臓器提供後の検証体制の簡略化を、厚生労働科学研究費事業を通じて検討している。
図9 病期に応じた腎疾患対策の全体像
4.おわりに
第1回から第4回までの腎疾患対策検討会において、平成20年にとりまとめた「今後の腎疾患対策のあり方について」に基づき、この10年間の対策による目標達成度の評価や、腎疾患の現状、腎疾患対策の更なる推進を目指すための具体的な方法等について議論をおこなった。今後も進行する高齢化に伴い、CKD患者の増加が予想されることから、腎疾患対策の更なる推進が必要である。そのためには、腎疾患対策の進捗や成果を「見える化」することで、好事例の共有のみならず、必要に応じて適宜対策を改善し、継続性、実効性のある腎疾患対策が均てん化されることが期待される。また、「3.腎疾患対策の更なる推進のために」で述べたように、全体目標の成果目標(KPI)のうち「2028年までに新規透析導入患者を35,000人以下に減少させる」を達成するためには、まずは本報告書を踏まえた地域における腎疾患対策モデルを構築し、さらに国を中心に、そのモデルを全国に均てん化するための取組が実施されることが望ましい。
糖尿病性腎症重症化予防プログラムなど、先行している糖尿病性腎症対策とCKD対策とが連動することにより、より効率的・効果的なCKD対策の推進が期待できる。例えば、診療現場においては、糖尿病とCKDについて、共通の医療従事者が関与しているケースも少なくないことから、既に構築されているネットワークが活用できる可能性がある。また、多くの行政機関等においては、CKD対策の実践には様々な担当部署の関与が必要ではあるが、関連学会等が指名する地域の担当者等の医療従事者との連携の窓口として、地方公共団体においてCKD対策担当者が明確になることが望ましい。
なお、今回は腎疾患対策について検討し、今後の対策の推進についてとりまとめを行ったが、本報告書の5本の柱のうち、特に普及啓発や診療水準の向上等の内容は、腎疾患対策に特有のものではないため、他の疾病等の対策にも活用されることを期待する。
腎疾患対策検討会
構成員名簿
○柏原 直樹 |
川崎医科大学 副学長 腎臓・高血圧内科 教授 一般社団法人日本腎臓学会 理事長 |
門脇 孝 |
帝京大学医学部 常勤客員教授 国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 特任教授 一般社団法人日本糖尿病学会 理事長 |
川村 孝 |
国立大学法人京都大学環境安全保健機構健康科学センター センター長 |
川本 利恵子 |
公益社団法人日本看護協会 常任理事 |
小室 一成 |
国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授 一般社団法人日本循環器学会 代表理事 |
中澤 よう子 |
神奈川県健康医療局 医務監兼保健医療部長 |
中元 秀友 |
埼玉医科大学総合診療内科 教授 一般社団法人日本透析医学会 理事長 |
南学 正臣 |
国立大学法人東京大学大学院医学系研究科 腎臓内科学・内分泌病態学教授 |
羽鳥 裕 |
公益社団法人 日本医師会 常任理事 |
馬場 亨 |
一般社団法人 全国腎臓病協議会 会長 |
松村 満美子 |
特定非営利活動法人 腎臓サポート協会 理事長 |
(○:座長)
(五十音順・敬称略)
