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○「リウマチ等対策委員会報告書」について

(平成30年11月7日)

(健発1107第1号)

(都道府県知事・政令指定都市市長・中核市市長あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

リウマチは、自己免疫により生じる関節滑膜の炎症を特徴とする全身の炎症性疾患であり、女性に多く発症し、患者数は約60~100万人と推定される。リウマチは、治療期間が長く、重症化すると関節の変形、軟骨や骨の破壊が生じ、日常生活における生活の質(QOL)の低下を招き、要介護状態となる等、社会的負担が大きな疾患である。

我が国では、「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」(平成23年8月)に基づき対策を講じることにより、臨床症状・血液検査・画像検査による早期診断や、メトトレキサート・生物学的製剤等による治療法の進歩により、疾患活動性の低い状態を保てるようになってきた。今般、リウマチ対策の更なる推進を目指して、平成30年3月から「リウマチ等対策委員会」を開催し、今後の対策等について検討を行い、対策の全体目標を「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOLを最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う」と設定し、別添のとおり報告書をとりまとめたところである。

貴職におかれては、本報告書について十分に内容を御了知の上、貴管内の市区町村、リウマチ対策の関係団体、関係機関等に対して周知するともに、地方公共団体や関連学会、関係団体等の関係者が一体となり、地域の実情に応じて、本報告書に基づき、①一般医療機関と専門医療機関等の連携の推進、②一般医療機関等に対しての情報提供、③リウマチ患者の病態の認識を職場や学校等に普及する等のリウマチ対策に取り組んでいただきたい。今後、全国健康関係主管課長会議等において、全国の好事例を情報提供することも検討しているところである。そのため、貴職においては、地域の事例について状況を把握し、厚生労働省に報告いただくことも想定しているので、ご協力いただきたい。なお、これらの取組に係る経費については、リウマチ・アレルギー特別対策事業の補助対象としているので、積極的な活用をお願いする。

○「リウマチ等対策委員会報告書」について

(平成30年11月7日)

(健発1107第2号)

(別記団体の長あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

リウマチは、自己免疫により生じる関節滑膜の炎症を特徴とする全身の炎症性疾患です。女性に多く発症し、患者数は約60~100万人と推定されています。リウマチは、治療期間が長く、重症化すると軟骨や骨が破壊され、関節が変形し、日常生活や生活の質の低下を招き、介護対象となる等、社会的負担が大きな疾患です。

我が国では、「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」(平成23年8月)に基づき対策を講じることにより、メトトレキサート・生物学的製剤による有効的な治療方法が標準化され、早期診断・早期治療により、疾患活動性を低く保ち、関節破壊を防ぐことが可能となってきました。今般、リウマチ対策の更なる推進を目指して、平成30年3月から「リウマチ等対策委員会」を開催し、今後の対策等について検討を行い、対策の全体目標を「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOL(生活の質)を最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う」と設定し、別添のとおり報告書をとりまとめました。

これを受けて、別紙のとおり都道府県知事・政令指定都市長・中核市長宛てに通知したのでご連絡いたします。

貴職におかれましても、本報告書の内容について十分に御了知の上、関係団体及び関係者に対して周知を図っていただきますよう、よろしくお願いたします。

(別記団体)

公益社団法人 日本医師会

公益社団法人 日本歯科医師会

公益社団法人 日本薬剤師会

公益社団法人 日本看護協会

公益社団法人 日本栄養士会

特定非営利活動法人 日本健康運動指導士会

公益社団法人 日本理学療法士協会

公益社団法人 日本社会福祉士会

一般社団法人 日本病院会

公益社団法人 日本精神科病院協会

一般社団法人 日本医療法人協会

一般社団法人 日本社会医療法人協議会

公益社団法人 全日本病院協会

公益社団法人 全国自治体病院協議会

都道府県後期高齢者医療広域連合

健康保険組合

健康保険組合連合会

全国健康保険協会

公益社団法人 国民健康保険中央会

一般社団法人 全国国民健康保険組合協会

一般社団法人 日本リウマチ学会

一般社団法人 日本内科学会

公益社団法人 日本整形外科学会

一般社団法人 日本臨床リウマチ学会

一般社団法人 日本小児リウマチ学会

一般社団法人 日本臨床整形外科学会

一般社団法人 日本アレルギー学会

一般社団法人 日本小児アレルギー学会

公益社団法人 日本小児科学会

一般社団法人 日本総合健診医学会

公益社団法人 日本人間ドック学会

公益社団法人 日本リハビリテーション医学会

一般社団法人 日本ケアマネジメント学会

公益財団法人 日本リウマチ財団

公益財団法人 健康・体力づくり事業財団

公益社団法人 日本リウマチ友の会

(別紙)

○「リウマチ等対策委員会報告書」について

(平成30年11月7日)

(健発1107第1号)

(都道府県知事・政令指定都市市長・中核市市長殿あて厚生労働省健康局長通知)

(公印省略)

リウマチは、自己免疫により生じる関節滑膜の炎症を特徴とする全身の炎症性疾患であり、女性に多く発症し、患者数は約60~100万人と推定される。リウマチは、治療期間が長く、重症化すると関節の変形、軟骨や骨の破壊が生じ、日常生活における生活の質(QOL)の低下を招き、要介護状態となる等、社会的負担が大きな疾患である。

我が国では、「リウマチ・アレルギー対策委員会報告書」(平成23年8月)に基づき対策を講じることにより、臨床症状・血液検査・画像検査による早期診断や、メトトレキサート・生物学的製剤等による治療法の進歩により、疾患活動性の低い状態を保てるようになってきた。今般、リウマチ対策の更なる推進を目指して、平成30年3月から「リウマチ等対策委員会」を開催し、今後の対策等について検討を行い、対策の全体目標を「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOLを最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う」と設定し、別添のとおり報告書をとりまとめたところである。

貴職におかれては、本報告書について十分に内容を御了知の上、貴管内の市区町村、リウマチ対策の関係団体、関係機関等に対して周知するともに、地方公共団体や関連学会、関係団体等の関係者が一体となり、地域の実情に応じて、本報告書に基づき、①一般医療機関と専門医療機関等の連携の推進、②一般医療機関等に対しての情報提供、③リウマチ患者の病態の認識を職場や学校等に普及する等のリウマチ対策に取り組んでいただきたい。今後、全国健康関係主管課長会議等において、全国の好事例を情報提供することも検討しているところである。そのため、貴職においては、地域の事例について状況を把握し、厚生労働省に報告いただくことも想定しているので、ご協力いただきたい。なお、これらの取組に係る経費については、リウマチ・アレルギー特別対策事業の補助対象としているので、積極的な活用をお願いする。

(別添)

厚生科学審議会疾病対策部会

リウマチ等対策委員会報告書

平成30年11月

厚生科学審議会疾病対策部会

リウマチ等対策委員会

目次

1.はじめに

2.リウマチの現状

1) リウマチについて

(1) 定義

(2) リウマチの特徴

(3) リウマチの診療

(4) リウマチの合併症・治療の副作用

2) リウマチに関する疫学

(1) リウマチ患者数

(2) リウマチ患者の高齢化

(3) リウマチにかかる医療費

3) 厚生労働省による取組

(1) 厚生労働省におけるリウマチ対策

(2) 現在実施している事業

3.リウマチ対策の更なる推進のために

1) 対策の全体目標

2) 個別対策

(1) 医療の提供等

①診療連携体制のあり方について

②診療の標準化・均てん化について

③年代に応じた診療・支援の充実について

④専門的なメディカルスタッフの育成について

(2) 情報提供・相談体制

(3) 研究開発等の推進

3) 施策の評価等

4.おわりに

厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ等対策委員会委員名簿

1.はじめに

リウマチ対策については、これまで、厚生科学審議会疾病対策部会の専門委員会として設置されたリウマチ・アレルギー対策委員会が、平成17年及び平成23年に取りまとめた報告書を都道府県や関係団体等に周知するなどして、戦略的に推進してきた。

近年、リウマチにかかる医療技術の進歩に伴い、国民における認識及び社会情勢等が著しく変化していることから、今後のリウマチ対策を検討する必要性が生じてきた。また、この間にアレルギー疾患対策基本法(平成26年法律第98号)が成立したことを受け、アレルギー疾患対策の議論の場として、同法に基づきアレルギー疾患対策推進協議会が設置された。

このため、厚生科学審議会疾病対策部会の専門委員会を、リウマチ等対策委員会と改組し、平成30年3月より医療従事者や患者からのヒアリング等を含め、今後のリウマチ対策の方向性について4回にわたり検討を行ったところである。

本委員会においては、今後のリウマチ対策の全体目標を、「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的な生活の質(Quality Of Life、以下「QOL」という。)を最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う」と設定し、「医療の提供等」、「情報提供・相談体制」、「研究開発等の推進」について、それぞれ今後の取組の方向性について整理し、これらの議論の内容について本報告書として取りまとめた。

本報告書により、リウマチ対策の重要性が医療従事者、患者やその家族を含む国民全体に広く認識され、国全体のリウマチ対策の実践が推進されることを期待する。

2.リウマチの現状

1) リウマチについて

(1) 定義

本報告書において、リウマチとは、2010年に米国及び欧州リウマチ学会が合同で発表した分類(診断)基準に示された関節リウマチをいう。

(2) リウマチの特徴

リウマチは、自己免疫により生じる関節滑膜の炎症を特徴とする全身の炎症性疾患である。滑膜の炎症により、関節の痛みや動かしにくさが生じる。さらに炎症が進むと強い痛みが生じ、いずれ軟骨や骨が破壊され、関節が変形する。その結果、上下肢の機能障害が生じ、日常生活動作(Activity of Daily Living。以下「ADL」という。)やQOLが低下する。リウマチは治療期間が長く、ADLやQOLの低下を招き、要介護状態となる等、社会的負担が大きな疾患である。

(3) リウマチの診療

リウマチの病因・病態は未だ十分に解明されておらず、発症の予防や根治的な治療法はない。しかしながら、近年では、臨床症状・血液検査・画像検査から早期にリウマチを診断することが可能になってきた。また、メトトレキサートや生物学的製剤等の治療薬を用いた有効性の高い治療法の進歩により、新規リウマチ発症患者における関節破壊や変形を来す患者が減少し、疾患活動性の低い状態を保てるようになってきた。

平成14年度から行われた厚生労働科学研究(難治性疾患等実用化研究事業 免疫アレルギー疾患等実用化研究事業 免疫アレルギー疾患実用化研究分野)「日本における関節リウマチ患者の現状と問題点を全国的に継続的に明らかにするための共同臨床研究」(主任研究者:當間重人)の報告書(以下、「當間研究班報告書」という。)によれば、この研究班により構築された全国データベース(National Database of Rheumatic Diseases by iR-net in Japan、以下「NinJa」という。)から、2015年度時点では60%以上の患者において、疾患活動性の低い状態を維持していること(図1)が明らかとなっている。

一方、すでに関節の変形や破壊を来した患者においては、薬物療法のみでは、十分な身体機能の回復を望むことは難しく、理学療法や装具の使用、手術といった集学的な治療が必要となる。

治療法の進歩により、リウマチに関する手術の数や内容に変化が生じている。當間研究班報告書によれば、炎症が生じた滑膜を除去する滑膜切除術や、変形破壊された関節(膝関節、股関節等)を置換する人工関節置換術の手術数は大幅に減少したが、リウマチによる骨粗鬆症に伴う骨折手術や手指・手関節及び足趾・足関節の機能を回復させるための関節形成術では減少傾向が見られないことが明らかになっている(図2)。このように近年、リウマチ診療における手術療法の役割が変化している。

図1 疾患活動性に関する経年変化(NinJaデータベース2015より)

図2 リウマチに関連した手術療法の推移(NinJaデータベース2015より)

(4) リウマチの合併症・治療の副作用

リウマチ患者への治療にあたっては、リウマチ自体の合併症と、リウマチ治療の副作用として生じる症状を考慮する必要がある。

リウマチに罹患することで発症頻度が高まる疾患として、當間研究班報告書によれば、骨粗鬆症、間質性肺炎、動脈硬化性疾患(虚血性心疾患や脳血管障害等)、悪性リンパ腫等が報告されている。なお、これらの合併症は、リウマチ治療薬の副作用として生じることもある。また、リウマチ治療薬による免疫抑制効果に伴う感染症への罹患が、薬物療法の副作用として大きな課題となっている。

罹病期間の長いリウマチ患者を管理・治療するには、これらの合併症や治療の副作用に対して十分配慮する必要があり、その重要性は年々高まっている。治療法の進歩により、これらの合併症・治療の副作用も変化してきており、引き続き合併症や治療の副作用の検討も必要である。

2) リウマチに関する疫学

(1) リウマチ患者数

山中らの報告(Yamanaka, et al. Modern Rheumatol 2014:24(1):33-40.)によると、16~74歳までの300万人の診療情報データベースを用いて、抗リウマチ薬を服用している人の比率を求めた結果、わが国におけるリウマチの有病率は0.6~1.0%、患者数は60~100万人と推定された。また、厚生労働省が3年に一度実施している患者調査(※)によると、リウマチ患者数は約33万人(平成26年)と推計されている。このように、リウマチの患者数に関する調査においては、様々な報告がある。なお、同年の患者調査における受療率は、平成5年に比べ入院、外来とも減少しており(入院10人→3人、外来32人→23人(いずれも人口10万人対))、これは主に薬物を含めた治療法の向上に伴う変化と考えられる。

(※)患者調査とは、病院及び診療所を利用する患者について、その属性、入院・来院時の状況及び傷病名等の実態を明らかにし、併せて地域別患者数を推測することにより医療行政の基礎資料とすることを目的とした、3年に1回行われる調査である。

(2) リウマチ患者の高齢化(図3)

近年のわが国の高齢化の進展を反映し、リウマチ患者の高齢化の進展、及び高齢発症するリウマチ患者の増加が、當間研究班報告書から明らかになってきた。このような状況にあるが、高齢リウマチ患者の医療・介護保険等の利用状況に関する調査はなされていない。

(3) リウマチにかかる医療費(図4)

厚生労働省が毎年公表している国民医療費の概況(平成27年度版)によると、傷病分類別医科診療医療費構成割合において、「筋骨格系及び結合組織の疾患」の医療費は、全体(42兆3,644億円)の7.7%を占め、3番目に多い。特にリウマチを含めた本領域の疾患は女性に多く、女性における医療費構成割合において9.9%を占めている。また、この「筋骨格系及び結合組織の疾患」のうち、炎症性多発性関節障害にかかる医療費は2,852億円であった(平成27年度国民医療費の概況第6表性、傷病分類、入院-入院外別にみた医科診療医療費)。

図3 リウマチ患者の平均年齢(左)および平均発症年齢(右)の推移(NinJaデータベース2015より)

図4 疾患別の国民医療費の内訳(厚生労働省 平成27年度国民医療費の概況より)

3) 厚生労働省による取組

(1) 厚生労働省におけるリウマチ対策(表1)

厚生労働省は、平成9年に公衆衛生審議会成人病難病対策部会リウマチ対策専門委員会において、「今後のリウマチ対策について」(中間報告)として、調査研究の推進、医療の確保、在宅福祉サービスの充実、医療従事者の資質向上、情報網の確保促進という観点から今後の施策の方向性を示した。

平成12年には、リウマチ・アレルギー疾患に関する診療、研究、情報などに関する高度専門医療施設として、国立相模原病院(現独立行政法人国立病院機構相模原病院)に臨床研究センターを開設した。

平成17年と平成23年には、厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会により取りまとめられた報告書を踏まえ、今後のリウマチ・アレルギー対策を総合的・体系的に実施するために「リウマチ対策の方向性等」を都道府県、関係団体等に通知するなどして、戦略的に推進してきた。平成17年報告書を基に、平成18年から「リウマチ・アレルギー特別対策事業」を開始し、平成22年からは、相談員の資質向上を目標として、「リウマチ・アレルギー相談センター事業(現在は、アレルギー情報センター事業)」を開始した。

また、研究事業については、リウマチの病態解明、治療法の確立等を目標に、平成2年度のリウマチ調査研究事業に始まり、平成7年度より長期慢性疾患総合研究事業として統合され、現在では、厚生労働省における免疫アレルギー疾患政策研究事業及び国立研究開発法人日本医療開発研究機構における免疫アレルギー疾患実用化研究事業として実施している。

(2) 現在実施している事業

・リウマチ・アレルギー特別対策事業

本事業は、リウマチや食物アレルギー等についての新規患者の抑制等を図ることを目的に行っている。具体的には、都道府県における医療連絡協議会の開催、研修の実施、正しい知識の普及啓発、診療ガイドラインの普及等があり、都道府県、政令指定都市、中核市がこれらの事業を実施する際に補助を行う事業である。

・アレルギー情報センター事業

本事業は、アレルギー疾患やリウマチ疾患を有する患者やその家族に対しての相談事業やこうした相談を受ける相談員養成事業等を行っている。

相談員養成事業は、自治体等でリウマチ・アレルギー疾患対策に取り組む保健師等を対象とした「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」を開催し、これらの疾患に関する正しい知識の普及を図っている。

・免疫アレルギー疾患政策/実用化研究事業

本事業は、免疫アレルギー疾患について、発症原因と病態との関係を明らかにし、予防、診断及び治療法に関する新規技術を開発するとともに、医療の標準化や均てん化に資する研究を行っている。

表1 厚生労働省によるリウマチへの取組

平成9年

・公衆衛生審議会成人病難病対策部会リウマチ対策専門委員会より、「今後のリウマチ対策について」として、調査研究の推進、医療の確保、在宅福祉サービスの充実、医療従事者の資質向上、情報網の確保促進という観点から今後の施策の方向性を提示。

平成12年

・リウマチ・アレルギー疾患に関する診療、研修、研究、情報などに関する高度専門医療施設として、国立相模原病院(現国立病院機構相模原病院)に臨床研究センターを開設。

平成17年

・厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会おいて報告書をとりまとめ、今後のリウマチ・アレルギー対策を総合的・体系的に実施するため「リウマチ対策の方向性等」「アレルギー疾患対策の方向性等」を、都道府県、関係団体等に通知。(平成17年10月31日付 健疾発第1031001号)

平成18年

・リウマチ・アレルギー特別対策事業を開始。

目標:喘息死の減少。リウマチ及びアレルギー系疾患の新規患者数の減少。

方法:都道府県を通じて、医療機関、保健所、市町村等の地域医療連携を推進。

平成22年

・リウマチ・アレルギー相談センター事業を開始。

目標:専門医療機関等の所在、最新の治療指針等の情報提供等を行うとともに、自治体の相談員を対象に研修会を開催し、相談員の資質の向上に努め、患者の生活への支援を充実。

方法:電話相談、ウェブサイト、リウマチ・アレルギー相談員養成研修会

平成23年

・厚生科学審議会疾病対策部会リウマチ・アレルギー対策委員会において報告書をとりまとめ、都道府県、関係団体等に通知。5年後を目処に改訂と記載。(平成23年8月31日付健康局疾病対策課長通知)

3.リウマチ対策の更なる推進のために

1) 対策の全体目標

リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOLを最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う。

対策の全体像を図5に示す。目標の達成には、発症早期に診断がなされ、適切な治療を早期から実施・継続することにより、重症化を予防する。また、罹病期間が長く、すでに関節の変形や破壊を来した患者には、薬物療法、理学療法、手術療法等を集学的に行い、機能性の改善の実現に取り組む必要がある。

また、年代や状況に応じた社会生活の充実を図るため、患者やその家族に対して、専門的なメディカルスタッフ等による生活支援や社会保障制度の情報提供を行うとともに、さらに、患者が社会生活を行う職場や学校等の場において、周囲からの理解が得られるよう、リウマチに関する正しい知識の普及・啓発に取り組む必要がある。

図5 リウマチ対策の全体像

2) 個別対策

全体目標の達成に向け、個別対策について現時点での課題を整理するとともに、それらを解決するために必要な取り組みの方向性を示す。

(1) 医療の提供等

①診療連携体制のあり方について

(ア) 現状と課題

発症直後や症状の再燃、または合併症等が生じた際は、専門医療機関等による治療方針の検討が必要であるが、一般医療機関と専門医療機関等の連携が十分とはいえない。2017年には、一般社団法人日本リウマチ学会より、「関節リウマチ診療ガイドラインJCR2014に基づく一般医向け診療ガイドライン」が発行されたが、一般医療機関への周知が十分ではない。また、発症早期における診断や悪化時における治療選択の際に、一般医療機関から専門医療機関等へ紹介する基準が明確となっていない。

また、専門医療機関等においては、薬物療法や理学療法、手術療法等を含め、集学的な診療が求められるが、内科及び整形外科等の連携が十分にとれている施設は少ない。

(イ) 取組の方向性

・関係学会や関係団体は、国や地方公共団体と連携し、リウマチ診療における一般医療機関と専門医療機関等との連携を、地域の実情に配慮しながら推進していく必要がある。

・関係学会と日本医師会等の関係団体は、国と連携し、一般社団法人日本リウマチ学会が作成した「関節リウマチ診療ガイドラインJCR2014に基づく一般医向け診療ガイドライン」を、発症早期における紹介基準等を含めた内容に改訂し、「関節リウマチ診療ガイドライン2014」と併せて、広く普及していく必要がある。

・関係学会や関係団体は、専門医療機関等において、内科や整形外科等の関連する診療科間における密接な連携システムを構築する必要がある。

・国は、これらの連携システムを強化するに当たり、地域の実情に応じた、モデルとなる事業を行い、リウマチ診療連携体制の好事例を示す必要がある。

②診療の標準化・均てん化について

(ア) 現状と課題

これまでの厚生労働科学研究等での研究成果をもとに、リウマチ患者に対する治療は進歩してきた。特に、発症早期からメトトレキサートや生物学的製剤を適切に用いることにより、多くの患者が低疾患活動性を維持できるようになった。一般社団法人日本リウマチ学会は、2014年に「関節リウマチ診療ガイドライン2014」をまとめ、標準治療の普及に寄与している。しかしながら、小児、若年成人、高齢者、合併症等における最適な治療方法の検討や、高額な生物学的製剤の使用方法の検討は十分ではない。また、薬物療法により疾患活動性が低下している患者への薬物の減量・休薬・中止に関する検討も十分ではない。

診療の均てん化については、例えば、一般社団法人日本リウマチ学会のリウマチ専門医の分布をみてみると、地域偏在が認められる。また、リウマチを専門とする整形外科医の減少や小児科医の不足が指摘されており、今後のリウマチ診療の充実における課題である。

(イ) 取組の方向性

・関係学会は、国と連携し、診療の標準化を推進するため、診療ガイドラインを改訂し、普及させることが必要である。生物学的製剤の適正な使用を推進するとともに、疾患活動性が低下しているリウマチ患者においては、治療薬の減量・休薬・中止方法についての検討を行い、診療ガイドラインに反映させる必要がある。なお、診療ガイドラインの改訂の際は、患者の視点を引き続き取り入れることが望ましい。

・地方公共団体は、各地の医師会等の関係団体と連携し、リウマチ・アレルギー特別対策事業等を活用し、一般医療機関等に対して情報提供を行うことが必要である。

・関係学会は、診療の均てん化を推進するため、専門的なリウマチの知識と技能を有する医師の育成を推進し、地域偏在や診療科偏在の解消を図ることが必要である。

③年代に応じた診療・支援の充実について

(ア) 現状と課題

小児期に発症する若年性特発性関節炎に罹患すると、成人期にリウマチへ移行する可能性が高いとの報告があるが、小児期におけるリウマチ性疾患を専門に診療できる小児科医が不足している。また、小児期から成人期への移行期における診療連携体制が不十分なため、国は、厚生労働科学研究費を用いて移行期における診療連携体制の検討を行っているところである。

若年成人期の患者においては、仕事や学校生活、また、妊娠や出産等、様々な社会生活やライフイベントに対する治療・支援に関する情報が不足している。リウマチの症状は、改善と悪化を繰り返すことが多く、そのために、治療と仕事や学校生活との両立が難しい場合がある。これらの両立に関しての実態を把握し、両立支援のモデル事例を開発するために、平成30年度から厚生労働科学研究を開始したところである。

また、妊娠・出産においては、近年のリウマチ医療の進歩により、リウマチ治療を継続しながら妊娠・出産をすることが可能となっているが、多くのリウマチ患者は、無事に妊娠・出産できるか等の不安や悩みを抱えている。

さらに、新規発症を含むリウマチ患者の高齢化が進み、合併症や加齢に伴う様々な運動器障害のために、ADLやQOLが損なわれる患者が増加している。

近年のリウマチ診療の向上を背景に、このような年代に応じて様々な課題が表出してきている。こうした課題に配慮した診療ガイドライン等の充実が求められる。

(イ) 取組の方向性

・国は、地方公共団体や関係学会等と連携し、厚生労働科学研究等の報告書に基づいた小児期および移行期におけるリウマチ診療の充実を図る必要がある。

・国は、関係学会や関係団体と連携し、リウマチ患者における治療と仕事や学校生活の両立の支援について、その現状や課題を把握した上で、推進する方法を検討することが望ましい。

なお、その際には、がん対策における治療と仕事の両立支援の取組等を参考にする必要がある。

・関係学会は、国と連携し、年代や状況に応じた社会生活の充実を図るため、仕事、学校生活、妊娠・出産等のライフイベントや高齢なリウマチ患者に多く見られる合併症や運動機能障害等へ対応できるよう、診療ガイドラインの改定を検討する必要がある。

④専門的なメディカルスタッフの育成について

(ア) 現状と課題

公益社団法人日本リウマチ友の会が2015年に調査した「リウマチ白書」によると、患者は、病状や経過、薬の説明、装具やリハビリについての処方・助言、治療目標について主治医からの説明を要望している。しかしながら、リウマチを専門とする医師の偏在、不足により、十分な対応が困難な状況にある。

このような状況を改善するには、医師以外のリウマチに関する専門的な知識や技能をもつメディカルスタッフによる患者のケアが重要である。保健師、看護師は、年齢や生活環境など患者の状況を考慮し、患者やその家族を支援する必要がある。

また、薬剤師は、高度化しているリウマチ治療に用いられる薬剤やその作用機序及び副作用について、習熟した上で指導を行う必要がある。

さらに、リウマチ患者の身体機能低下を防止するため、治療早期からの運動指導や理学療法を行う必要があり、理学療法士等はリウマチに対する専門的な知識を有した上で、指導や治療を行う必要がある。

全体目標で示したように、リウマチ患者が、長期的なQOLを最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行うためには、社会福祉士やケアマネジャー等、様々な職種が関与するチーム医療の必要性がますます高まってくると考えられる。

(イ) 取組の方向性

・国は、関係学会や関係団体と連携し、リウマチ患者が様々な社会生活への参加を行う上で必要な支援等について把握する必要がある。

・関係学会や関係団体は、薬剤師、保健師、看護師、理学療法士、社会福祉士、ケアマネジャー等に研修等を通じ、リウマチ患者が様々な社会生活へ参加する上で必要な専門的な知識や技能を有する人材の育成を行うことが望ましい。

(2) 情報提供・相談体制

(ア) 現状と課題

今後のリウマチ対策を推進していく上では、国民及びリウマチ患者に対して、リウマチの疾病特性に関する情報、適切な治療や薬剤に関する情報、専門的な医療機関や医療者に関する情報、保険や医療費助成等に関する情報及び受けられる福祉サービスに関する情報を充実させることが必要である。特に、リウマチ患者の病態については、職場や学校等でのリウマチに関する知識不足により、患者が周囲からの理解や支援が得られないことが多いとの指摘もある。

厚生労働省は、関係学会と協力して保健師等の医療従事者を対象としたリウマチ・アレルギー相談員養成研修会を実施しているが、実際にリウマチ対策に関与する医療従事者の参加が少ない。また、アレルギー情報センター事業において、リウマチに関しての電話相談を行っているが、リウマチに関する相談件数は少ない。一方で、公益社団法人日本リウマチ友の会等の患者会が実施している相談には、医療費や治療に関する相談が多数寄せられ、患者相互のピアサポートが行われている。

(イ) 取組の方向性

・国は、地方公共団体や関係学会や関係団体等と連携し、最新の研究成果を含むリウマチに関する疾病情報、適切な治療や薬剤に関する情報、専門的な医療機関や医療従事者に関する情報、保険や医療費等に関する情報及び受けられる福祉サービスに関する情報を医療従事者や患者・家族を含む国民に広く提供していく必要がある。

・国は、地方公共団体、関係団体、企業、学校等と連携し、保健師等によりリウマチ患者の病態の認識を職場や学校等において普及させ、リウマチ患者が社会生活を行う場において周囲の理解を得られるようにすることが望ましい。

・国は、関係学会や関係団体と連携し、リウマチ相談員の養成や、ピアサポートの充実・強化等を通じて、活用できる様々な社会福祉サービス等の情報提供を行い、リウマチ患者に必要とされる相談体制を充実させることが必要である。

(3) 研究開発等の推進

(ア) 現状と課題

我が国のリウマチ診療における疫学研究では、患者の推計数だけでなく、年齢分布、合併症や治療の副作用、ライフステージ別の診療や社会生活に関しての実態把握等、今後のリウマチ診療において必要となるデータが不足している。

また、リウマチ治療における標的分子の制御による治療手段や早期治療から始まる治療戦略は大きく進歩したが、リウマチ発症の根源的なメカニズムについては、解明されておらず、骨破壊や軟骨破壊などを引き起こす分子機序や自己免疫学的な機序等の解明も不十分である。さらに、これまでの研究成果により、リウマチ発症に関しての遺伝的背景によるハイリスク集団などが特定されてきているが、こうした発症ハイリスク集団に対しての発症前からの医学的介入による予防については検討が十分になされていない。

(イ) 取組の方向性

・国は、関係学会等と連携し、疫学研究の目的に応じて、レセプト情報・特定健診情報データベース、既存のリウマチデータベース、コホート研究等を用いて、患者数や年齢分布、合併症や治療の副作用、さらにはライフステージ別の診療や社会生活に関しての実態を十分に把握するための疫学研究を推進する必要がある。

・国は、関係学会等と連携し、関節破壊の阻止や免疫学的な機序解明等によりリウマチの治癒や予防に資する研究や、リウマチ発症のハイリスク集団等に対する発症前からの医学的介入等に関する研究を推進する必要がある。

3) 施策の評価等

・国は、適宜、有識者の意見等を聞きつつ、国が実施する重要な施策の実施状況等について評価し、また、地方自治体の実施する施策を把握することにより、より的確かつ総合的なリウマチ対策を講じていくことが重要である。

・地方公共団体は、国の施策を踏まえ、国や関係団体等との連携を図り、施策を効果的に実施するとともに、主要な施策について政策評価を行うことが望ましい。

4.おわりに

本委員会における議論の結果を踏まえ、全体目標に示した「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOLを最大限まで改善し、職場や学校での生活や妊娠・出産等のライフイベントに対応したきめ細やかな支援を行う」ことに重点を置き、検討を重ねてきた。

そして、我が国におけるリウマチ対策を総合的かつ体系的に推進するため、リウマチの現状からこれまで取り組んできた3本柱の対策を基に、それぞれについて新たな課題を示し、今後の取組の方向性について議論をおこない、報告書をとりまとめた。なお、本文では言及しなかったが、今後の科学技術の進歩に伴い、他領域における取組と同様に、遠隔医療、データヘルス、オミックス(ゲノム等)、AI等の最先端の技術を取り込んだ研究開発への取組も期待されることについての意見もあった。これらの先端技術は、我が国におけるリウマチ対策を推進する上で大きな前進となると考えている。

本報告書を十分に活用し、リウマチ対策の関係者の協力の下、その対策が円滑に実施され、国民に安心・安全な生活を提供する社会が醸成されることを期待する。

リウマチ等対策委員会委員名簿

市川朝洋

公益社団法人日本医師会常任理事

金子祐子

慶應義塾大学医学部内科学教室(リウマチ・膠原病)専任講師

小嶋雅代

名古屋市立大学大学院医学研究科医学・医療教育学分野准教授

笹井敬子

東京都福祉保健局技監

矢内真理子

東京都福祉保健局技監(平成30年4月25日~)

田中栄

国立大学法人東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座整形外科学教授

角田美佐枝

公益社団法人日本リウマチ友の会副会長

中板育美

公益社団法人日本看護協会常任理事

井本寛子

公益社団法人日本看護協会常任理事(平成30年7月6日~)

○宮坂信之

国立大学法人東京医科歯科大学名誉教授

森雅亮

国立大学法人東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 生涯免疫難病学講座寄附講座教授

一般社団法人日本小児リウマチ学会 理事長

山中寿

東京女子医科大学医学部膠原病リウマチ内科学 教授

山本一彦

国立研究開発法人理化学研究所統合生命医科学研究センター自己免疫疾患研究チーム副センター長

一般社団法人日本リウマチ学会 理事長

(参考人)

羽鳥裕

公益社団法人日本医師会常任理事 (平成30年7月6日)

○:委員長

(五十音順・敬称略)

(平成30年3月26日時点)