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○遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保について

(令和元年7月9日)

(薬生機審発0709第2号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)

(公印省略)

遺伝子治療の目的に使用される医薬品(治験薬を含む。以下「遺伝子治療用医薬品」という。)については、「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保について」(平成25年7月1日付け薬食審査発0701第4号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知。以下「旧課長通知」という。)において、品質及び安全性確保のために必要な基本的要件として「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針」(以下「旧指針」という。)を定めているところです。

厚生労働省では、革新的な医薬品、医療機器及び再生医療等製品の実用化を促進するため、平成24年度から平成28年度まで、最先端の技術を研究・開発している大学・研究機関等において、レギュラトリーサイエンスを基盤とした品質及び安全性の評価方法の確立を図るためのガイドラインの作成を行うとともに、当該大学・研究機関等と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)及び国立医薬品食品衛生研究所との間で人材交流を行う事業を実施しました。

今般、本事業において提案された指針改正案をもとに、科学技術の進歩や臨床試験の実施状況を踏まえて旧指針の内容を見直すとともに、海外規制当局の動向を踏まえ、再生医療等製品のうち遺伝子治療用製品及び遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品(治験製品を含む。以下「遺伝子治療用製品等」という。)の品質及び安全性の確保のために必要となる基本的な技術的事項として、「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保に関する指針」を別添のとおり策定し、下記のとおり取り扱うこととしましたので、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管下関係業者等に対して周知方御配慮願います。

なお、本通知の発出に伴い、旧課長通知は廃止します。

1 「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」(平成27年厚生労働省告示344号)第1章については、遺伝子治療用製品等の治験にも適用されるので留意すること。また、同指針のその他の部分についても、参考にすることが望ましいこと。

2 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(平成15年法律第97号)に基づく遺伝子組換え生物等の使用等に係る承認及び確認の申請は、従来どおり必要であること。このため、承認及び確認の申請に際しては、PMDA再生医療製品等審査部と事前に協議等を行い、標準的事務処理期間に留意して申請を行われたいこと。

以上

遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保に関する指針

はじめに

1.本指針は、再生医療等製品のうち遺伝子治療用製品及び遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品(治験製品を含む。以下「遺伝子治療用製品等」という。)の品質及び安全性の確保のために必要となる基本的な技術的事項について定めるものである。

ただし、遺伝子治療用製品等の種類や特性、臨床上の適用法は多種多様であり、また、本分野における科学的進歩や経験の蓄積は日進月歩であるため、本指針を一律に適用したり、本指針の内容が必要事項すべてを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もある。したがって、個々の遺伝子治療用製品等についての試験の実施や評価に際しては本指針の目的を踏まえ、その時点の学問の進歩を反映した合理的根拠に基づき、ケース・バイ・ケースで柔軟に対応するものであることに留意すること。

2.遺伝子治療用製品等の開発に当たっては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)に定める治験計画の届出の際、ヒトに投与するための品質や安全性に関するデータ等が不足している場合は治験実施が認められない場合があることに留意する必要がある。したがって、治験が円滑に実施されるよう、治験計画の届出を行う前にはヒトを対象とした治験の実施が可能な品質及び安全性を有しているかを確認するために、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)が行うレギュラトリーサイエンス戦略相談(以下「RS戦略相談」という。)を適切に活用されたいこと。

また、遺伝子治療用製品等の治験を開始するに当たっての基本的留意点は、当該製品のヒトへの適用により支障となる品質及び安全性上の明らかな問題が存在するか否か、臨床で得られた知見との関係性を照合できる程度に品質特性が把握され、その一定範囲の恒常性が確保されているか否かを確認することにある。その際、明らかに想定される製品のリスクを現在の学問・技術を駆使して排除し、その科学的妥当性をまず明らかにすべきである。その上で、なお残る未知のリスクと、重篤で生命を脅かす疾患、身体の機能を著しく損なう疾患、身体の機能や形態を一定程度損なうことによりQOLを著しく損なう疾患等罹患し従来の治療法では限界があり克服できない患者が、「新たな治療機会を失うことにより被るかもしれないリスク」とのリスクの大小を勘案し、かつ、これらすべての情報を開示した上で患者の自己決定権に委ねるという視点を持つことを考慮する必要がある。すなわち、リスク・期待されるベネフィットの情報を開示した上で、治験に入るかどうかの意思決定は患者が行うという視点を入れて評価することも重要である。したがって、治験計画の届出に当たって添付するべき資料について本指針に示された要件及び内容を全て満たすことを必ずしも求めている訳ではなく、製造販売承認申請時における品質及び安全性の確保のための資料を治験の進行とともに本指針に沿って充実整備されることを前提に、治験開始時点ではその趣旨に適う条件を満たし、合理的に作成された適切な資料を提出すること。

3.本指針に記述された試験方法、基準等に関する技術要件は、その試験目的等に応じて考慮、選択、適用及び評価されることを意図しており、必ずしも常に同一又は最高水準での解釈、運用を求めている訳ではない。このため、開発者は、考慮した背景並びに選択、適用及び評価した内容と程度がそれぞれの試験等の目的に相応しく、科学的に合理性があることを明らかにすること。

目次

第1章 総則

1.目的

2.適用対象

3.定義

第2章 遺伝子治療用製品等の概要及び開発の経緯等

1.概要及びこれまでの開発の経緯

2.これまでの臨床試験の実施状況

第3章 品質

1.遺伝子発現構成体

(1) 遺伝子発現構成体の構造

(2) 遺伝子発現構成体の構築

(3) 目的遺伝子の機能的特性

(4) 発現調節要素の構造及び機能的特性

(5) 目的遺伝子からの発現産物の構造及び機能的特性

(6) その他の構成要素や翻訳可能領域の配置及び機能的特性

2.ベクターの構造及び特性並びに製造方法

(1) ウイルスベクター

(2) 非ウイルスベクター

3.標的細胞

(1) 遺伝子治療用製品

(2) 遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品

4.特性解析並びに規格及び試験方法

(1) 原則

(2) 遺伝子治療用製品の特性解析及び管理方法

(3) 遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品の特性解析及び管理方法

5.製品開発の経緯

6.プロセス評価/プロセスバリデーション

7.安定性試験

第4章 非臨床試験

1.効果又は性能を裏付けるための試験

2.生体内分布

3.非臨床安全性試験

(1) 一般毒性評価

(2) 遺伝子組込み評価

(3) 腫瘍形成及びがん化の可能性の評価

(4) 生殖発生毒性試験

(5) 免疫毒性評価

(6) 増殖性ウイルス出現の可能性の評価

第5章 治験における留意事項

1.治験実施の正当性

2.治験実施計画

3.被験者の追跡調査計画

第6章 遺伝子治療用製品等の第三者への伝播のリスク等の評価について

第1章 総則

1.目的

本指針は、遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保のために必要となる基本的な技術的事項を示すものである。

2.適用対象

本指針は、再生医療等製品のうち遺伝子治療用製品等を適用対象とする。

なお、遺伝子導入された動物細胞加工製品、疾病の予防を目的とした遺伝子発現構成体を含有する医薬品等の本指針の適用対象ではない医薬品等について本指針を参照とする場合は、個々の事例ごとに事前に厚生労働省及びPMDAに相談1すること。

3.定義

(1) 「遺伝子治療用製品等」とは、再生医療等製品のうち遺伝子治療用製品及び遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品をいう。

(2) 「遺伝子導入」とは、遺伝子発現構成体を細胞に導入することをいう。

(3) 「遺伝子導入細胞」とは、遺伝子発現構成体が導入された細胞をいう。

(4) 「遺伝子発現構成体」とは、目的遺伝子及びプロモーターやエンハンサー等の発現調節に関わる要素を含む構成体をいう。

(5) 「目的遺伝子」とは、タンパク質や特定の機能をもつ核酸をコードする塩基配列をいい、製品の効能、効果又は性能の本質となるものをいう。

(6) 「ベクター」とは、遺伝子発現構成体を細胞に導入する際に使用されるものをいう。

(7) 「ウイルスベクター」とは、遺伝子組換え技術等により野生型ウイルスゲノムを組み換えたゲノムがウイルス粒子内にパッケージされているベクターをいう。

(8) 「非ウイルスベクター」とは、ウイルスベクター以外のベクターをいい、プラスミド単独又はプラスミドとリポソーム等のキャリアーとの複合体を指す。

(9) 「キャリアー」とは、プラスミド等を効率的に細胞に導入する際に使用されるものをいう。

(10) 「バンクシステム」とは、ベクター製造を適切に行うための、マスター・セル・バンク(以下「MCB」という。)、ワーキング・セル・バンク(以下「WCB」という。)、マスター・ウイルス・バンク(以下「MVB」という。)、ワーキング・ウイルス・バンク(以下「WVB」という。)等を指す。

(11) 「MCB」とは、単一の細胞プールからの分注液で、一般的には、選択されたクローン細胞株から一定の方法で調製され、複数の適切な保存容器に分注し、一定の条件下で保存したものをいう。

(12) 「WCB」とは、マスター・セル・バンクから一定の条件で培養して得られる均一な細胞懸濁液を、複数の適切な保存容器に分注し、一定の条件下で保存したものをいう。

(13) 「MVB」とは、ウイルスベクター製造の元になる種株であり、選択されたクローンウイルス株から一定の方法で調製され、複数の適切な保存容器に分注し、一定の条件下で保存したものをいう。

(14) 「WVB」とは、マスター・ウイルス・バンクから一定の方法で調製して得られる均一なウイルス(懸濁)液を、複数の適切な保存容器に分注し、一定の条件下で保存したものをいう。

(15) 「ヘルパーウイルス」とは、目的のウイルスベクターを産生する際に必要となるウイルスであり、ウイルスベクターを産生する細胞に感染させ、ウイルスベクターの産生を補完するために用いられるものをいう。

(16) 「パッケージング細胞」とは、ウイルスベクターの産生に必要な遺伝子の一部が導入された細胞であり、それのみではウイルスベクターの産生が起こらない細胞をいう。

(17) 「ウイルス産生細胞」とは、パッケージング細胞にウイルスベクター産生に必要な遺伝子を補完的に導入することにより作製された、ウイルスベクター産生能を有する細胞をいう。

(18) 「最終製品」とは、最終的にヒトに投与されるものをいう。

――――――――――

1 遺伝子導入された動物細胞加工製品や疾病の予防を目的とした遺伝子発現構成体を含有する医薬品等の開発に当たっては、RS戦略相談等を適切に活用すること。(参考:遺伝子治療用医薬品における確認申請制度の廃止について(平成25年7月1日付け薬食発0701第13号厚生労働省医薬食品局長通知))

第2章 遺伝子治療用製品等の概要及び開発の経緯等

1.概要及びこれまでの開発の経緯

対象疾患及び現行の治療法の概要を明らかにし、開発しようとする遺伝子治療用製品等の基礎試験成績からみた特徴及び有用性の概要を明らかにした上で、その遺伝子治療用製品等により対象疾患が治療可能であると考える合理的根拠を明らかにすること。

ヒトへの遺伝子導入方法の概略を明らかにすること。投与経路及び投与方法(例えばウイルスベクターを使うのか又は非ウイルスベクターを使うのか、及びそれらのベクターを直接投与するのか又は体外で遺伝子を導入した細胞を投与するのか等。)の概要を示すとともに、当該遺伝子導入法の特徴、有用性等を明らかにした上で、対象疾患に適用する理由を明らかにすること。増殖性又はある特定の条件下のみで選択的に増殖性を示すウイルスベクターを使用する場合は、その増殖の機序や治療のメカニズムに関する合理的根拠と臨床使用の適切性を明らかにすること。

ヒトに投与される遺伝子治療用製品等の構造、製法、特性等を明らかにすること。

2.これまでの臨床試験の実施状況

開発しようとする遺伝子治療用製品等と同一の製品を用いた臨床試験が既に国内又は外国で行われている場合には、対象疾患を含め、その概要、有効性及び安全性に関する情報並びに予定している治験との相違点を明らかにすること。

開発しようとする遺伝子治療用製品等と同一製品の臨床使用経験がない場合であっても、参考となる類似の製品を用いた臨床試験が既に国内又は外国で行われている場合には、その概要、成果及び当該製品との関係を明らかにすること。

開発しようとする遺伝子治療用製品等の外国における申請状況及び臨床使用状況を明らかにすること。

第3章 品質

本章では、遺伝子治療用製品等の構造、特性、製造方法及び品質管理の方法、安定性等に関し、以下の事項について詳細を明らかにすること。

製造販売承認申請までには、臨床試験に使用された治験製品と同等/同質である製品を恒常的かつ安定的に製造できる製造方法及び品質管理の方法が確立されていなければならないことを念頭に置き開発を進めることが肝要である。したがって、より迅速に開発を進める上では、治験の進展に伴い得られる広範な品質に関する知識を踏まえ、治験製品の製造方法及び管理方法を見直し、目的とする品質を有した製品をより恒常的かつ一貫して製造できる管理手法を段階的に構築しながら、品質保証を高めていくことが重要となることに留意すること。

1.遺伝子発現構成体

遺伝子組換え技術を用いて製造される遺伝子治療用製品等の製造過程では、目的遺伝子の発現に適した遺伝子発現構成体を構築する必要がある。遺伝子発現構成体の適切性について、以下に示す事項を明らかにする必要がある。

(1) 遺伝子発現構成体の構造

遺伝子発現構成体の構造について、構造模式図を用いて示すこと。また、主な制限酵素切断位置及び構成要素(目的遺伝子、プロモーターやエンハンサー等の発現調節要素、複製単位、薬剤選択マーカー等の遺伝子及びその他必要な要素)の配置を明らかにし、その遺伝子発現構成体の全塩基配列を示すこと。

(2) 遺伝子発現構成体の構築

遺伝子発現構成体の作製については、目的遺伝子の由来が明らかとなるよう、遺伝子の入手方法、作製の経緯、構造等について詳細を明らかにすること。遺伝子発現構成体の分析は、「組換えDNA技術を応用したタンパク質生産に用いる細胞中の遺伝子発現構成体の分析について」(平成10年1月6日付け医薬審第3号厚生省医薬安全局審査管理課長通知。以下「ICH Q5B ガイドライン」という。)を参考に実施すること。

(3) 目的遺伝子の機能的特性

目的遺伝子の対象疾患に対して期待される作用機序を明らかにすること。目的遺伝子とそれに対応する野生型遺伝子との構造及び塩基配列の異同(置換、付加、欠失等の変異の有無、相同性等を指す。)を明らかにすること。

ヒトには存在しない遺伝子配列が導入される場合や、siRNA等の特定の機能をもつRNAをコードする塩基配列をベクターにより導入する場合は、導入される塩基配列に期待される作用機序及び生物活性を明らかにすること。

(4) 発現調節要素の構造及び機能的特性

目的遺伝子のプロモーター、エンハンサー等の発現調節に関わる要素の構造及び機能を明らかにすること。目的遺伝子の発現が何らかの調節を受けるように設計されている場合には、設計した発現調節機構が適切に働くことを明らかにすること。

(5) 目的遺伝子からの発現産物の構造及び機能的特性

目的遺伝子から生じる発現産物の特性に応じ、下記の点を明らかにすること。

目的遺伝子によって特定のタンパク質が発現し、これにより臨床的効果を期待する場合、その発現産物の特性について、これまでに得られている知見を明確に示すとともに、想定される生体内での生物活性を明らかにし、対象疾患に適用することについての合理的な理由を明らかにすること。また、その発現タンパク質のヒトへの投与経験がある場合には、その実績を明らかにすること。なお、ヒトに存在しないタンパク質等をコードする遺伝子が導入される場合には、想定される免疫原性やその生物活性等を含め、安全性について問題となり得るリスクがあるかを明らかにすること。

目的遺伝子によって核酸が発現し、これにより臨床的効果を期待する場合、その発現産物の特性についてこれまでに得られている知見を明確に示すとともに、想定される生体内での生物活性を明らかにし、対象疾患に適用する際の合理的な理由を明らかにすること。また、類似の核酸のヒトへの投与経験がある場合には、その実績を明らかにし、目的遺伝子から発現する核酸に安全性上問題となり得るリスクがあるかを明らかにすること。

(6) その他の構成要素や翻訳可能領域の配置及び機能的特性

導入される遺伝子の翻訳可能領域(遺伝子発現構成体の中で、翻訳可能な目的遺伝子及び目的遺伝子以外の遺伝子の塩基配列を指す。)を明らかにすること。構成要素としてがん遺伝子や病原性に関連する遺伝子が含まれていないことを利用可能なデータベース等の情報から検索し、有害となり得る塩基配列が存在する場合、その配列を使用する理由を明らかにすること。

2.ベクターの構造及び特性並びに製造方法

(1) ウイルスベクター

1) ウイルスベクターの構造

① 遺伝子導入法の選択理由及びその特徴

採用した遺伝子導入法の概要を示し、その遺伝子導入法の特徴、有用性等を明らかにした上で、対象疾患に適用する理由を明らかにすること。

② ウイルスベクターの粒子構造

ウイルスベクターの粒子構造を明らかにすること。野生型ウイルス粒子との相違点があれば明らかにすること。

③ 遺伝子構造

ウイルスベクターの全塩基配列分析を技術的に可能な限り実施し、その配列において安全性上問題となり得るリスクがあるか、配列解析により明らかにすること。配列解析の方法はバリデートされた方法により行うとともに、その方法を明らかにすること。塩基配列分析に際しては、少なくとも目的遺伝子、フランキング領域(目的産物をコードする塩基配列の5'及び3'両端に隣接する非コード領域を指す。)、プロモーター、エンハンサー、スプライシング配列及びウイルスの特性を変更するために行った改変領域等を対象に実施すること。その他の塩基配列のうち、機能が未知のものについては、過去に報告された配列との相同性検索等の配列解析を行い、安全性評価を行うこと。

目的遺伝子配列が設計どおりの構造として安定的に保持されているかを評価するとともに、ウイルスベクター全体の遺伝子の安定性についても評価すること。さらに、製造工程を通じ遺伝子が安定的に保持されるかについても評価すること。特にRNAウイルスの場合には製造時における遺伝子の安定性について、その重要性を考慮し評価することが望ましい。

2) ウイルスベクターの由来及び性質

ウイルスベクターの由来となる野生型ウイルスについて、その名称、構造、生活環、宿主域、物理化学的安定性、病原性及び細胞傷害性等を明らかにするとともに、当該ウイルスを選択した合理的な理由を明らかにすること。特に当該ウイルスベクターの由来となるウイルスが臨床試験で用いられたことのないウイルスの場合は、ヒトに対する病原性、免疫原性、細胞傷害性、生体での持続性等について、ヒトへの適用の際の安全性の評価と併せて明らかにすること。

ウイルスベクターの性質に関し、採用したウイルスベクターの種類に応じ以下の事項を明らかにすること。

① どのような細胞に感染し遺伝子導入することが可能であるか、種特異性、組織特異性、細胞周期への依存性等を明らかにすること。

② 種特異性、組織特異性を変更するような改変を行っている場合は、どのような細胞に感染する可能性があるのかを明らかにすること。

③ 遺伝子導入の効率及び目的遺伝子の発現効率を明らかにすること。

④ ウイルスベクターは、染色体に組み込まれるのか又はエピソームとして染色体外に存在するのか等、その存在状態を明らかにすること。前者の場合には挿入部位が特異的か非特異的か、後者の場合には染色体外複製を伴うのかを明らかにすること。その際、目的遺伝子の細胞内での安定性を明らかにすること。

⑤ ウイルスベクターの増殖性、選択的増殖性及び目的遺伝子発現の持続性を明らかにすること。

⑥ 当該ウイルスベクターの有効性及び安全性に係る情報として、既に臨床使用等がされていれば、その実績及び関連する最近の動向を明らかにすること。

3) ウイルスベクターの構築及び作製に用いる細胞

① ウイルスベクターの製造に用いるプラスミド又はウイルスの構築

ウイルスベクターの製造に用いる全てのプラスミド又はウイルスについて、使用する合理的な理由を明らかにし、目的の遺伝子治療用製品等を得るのに適したものであることを明らかにすること。また、それらの品質管理の方法を定めること。その際、これらのプラスミド又はウイルスのゲノムの全塩基配列及び制限酵素切断地図並びに全ての構成要素の配置、各塩基配列の起源及び機能等の特性に加え、クローニング方法及び使用した宿主の情報を含む遺伝子改変等の過程を含む作製方法を明らかにすること。

ウイルスベクターの製造にヘルパーウイルスを用いる場合は、その名称、構造、生活環、宿主域、物理化学的安定性、病原性、細胞傷害性等の特性を明らかにし、ウイルス製造にそのヘルパーウイルスを選択した理由を明らかにすること。

製造に使用するプラスミド又はウイルスは、特性解析の結果に基づき妥当な品質管理の項目を設定すること。

なお、最終製品の品質を恒常的に保つため、バンクシステムによる品質管理を行うことが望ましい。

② ウイルスベクターの製造に用いる細胞

ウイルスベクターの製造に用いる細胞について合理的な理由を明らかにし、目的のウイルスベクターを得るのに適した細胞であることを明らかにすること。また、その細胞の適切な品質管理の方法を定めること。その際、その細胞の名称、由来・起源、病原性・安全性、増殖性、成長因子依存性、表現型、腫瘍形成能、遺伝子の安定性及び製造に用いる際のウイルス安全性等の特性解析の試験成績を示し、製造に使用することの合理的な理由を明らかにすること。また、増殖性ウイルス出現の可能性、増殖性、成長因子依存性、表現型、腫瘍形成能、安定性等について、起源となる元の細胞の性質から変化した点も含め明らかにすること。

パッケージング細胞やウイルス産生細胞等の遺伝子改変細胞を使用する場合には、その由来となる細胞の起源や特徴、導入又は改変遺伝子等の全塩基配列及び制限酵素切断地図並びに全ての構成要素の配置、各塩基配列の起源及び機能等の特性に加え、クローニング方法及び使用した宿主の情報等、遺伝子改変等の過程を含む遺伝子改変細胞の作製方法(培養条件、遺伝子改変法、クローン選択法を含む。)を明らかにすること。

なお、最終製品の品質を恒常的に得るため、バンクシステムによる品質管理を行うことが望ましい。

③ バンクシステム

ウイルスベクターの製造に用いる細胞基材(パッケージング細胞、ウイルスベクター産生細胞、フィーダー細胞等を指す。)及びプラスミド等の作製に用いる細胞基材、並びにウイルスベクター及びヘルパーウイルスについて、バンクシステムを用いる場合には、そのMCB及びWCB並びにMVB及びWVBの由来についての情報、調製方法やその経緯(培養等の作製条件、培養等に用いる培地、原料・添加物を含む。)及び保存方法並びにそれらの特性を明らかにするとともに、同一性及び純度に関する試験項目、分析方法、管理基準、保存方法及び保存中の安定性を踏まえた保存期間、更新方法等に関する適切な管理方法を設定すること。また、セル・バンク及びその作製に用いた原料等のうち生物由来成分については、生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)に適合することを示す必要がある。

バンクシステムの作製、特性解析、管理方法は、ICH Q5B ガイドライン及び「「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)製造用細胞基材の由来、調製及び特性解析」について」(平成12年7月14日付け医薬審第873号厚生省医薬安全局審査管理課長通知。以下「ICH Q5D ガイドライン」という。)を参考に実施すること。また、「「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」について」(平成12年2月22日付け医薬審第329号厚生省医薬安全局審査管理課長通知。以下「ICH Q5A ガイドライン」という。)に準じてウイルス安全性評価を実施すること。

バンクシステムの特性解析の実施及び管理方法の設定については、以下に示した点に特に留意すること。

ア.セル・バンク

純度試験として、少なくとも無菌試験、マイコプラズマ否定試験及びウイルス試験を含めること。また、必要に応じて最終製品での増殖性ウイルス試験を設定すること。

セル・バンクのウイルス試験の実施に際しては、MCB、WCB及び遺伝子治療用製品等の製造のためにin vitro細胞齢の上限にまで培養された細胞について、原則、ICH Q5A ガイドラインに準じて実施すること。ただし、特にヒト由来細胞を用いる場合には、想定されるウイルス安全性のリスクを考慮し、ヒト免疫不全ウイルス1型(以下「HIV―1」という。)及び2型(以下「HIV―2」という。)、ヒトB型肝炎ウイルス(以下「HBV」という。)、ヒトC型肝炎ウイルス(以下「HCV」という。)、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(以下「HTLV―1」という。)及び2型(以下「HTLV―2」という。)の他、エプスタイン・バールウイルス(以下「EBV」という。)、サイトメガロウイルス(以下「CMV」という。)、パルボウイルスB19等、必要に応じて各種ウイルスに対する試験を実施すること。ウイルス安全性に係るリスクを明らかにした上で、セル・バンクの管理において実施するウイルス試験の項目を設定すること。特にレトロウイルス由来以外のウイルスベクターを製造する場合、MCB又はWCBについてレトロウイルスの混入の有無を逆転写酵素試験、電子顕微鏡観察等により確認することを考慮すること。

ウシ又はブタ由来の血清、血清由来成分、トリプシン等の増殖因子等を培養に用いる場合には、ウシ又はブタ由来の感染性因子による汚染について、適切な試験結果を含めてその安全性を明らかにすること。必要に応じてセル・バンクでの管理方法を定めること。

プラスミドの製造に用いる微生物のセル・バンクについては、菌株の同定及び選択マーカーに用いる薬剤耐性の試験に加え、バクテリオファージの試験の実施を考慮すること。

イ.ウイルス・バンク

純度試験として、少なくとも無菌試験、マイコプラズマ否定試験、迷入ウイルスに対するウイルス試験、増殖性ウイルスの否定試験を含めること。その他、ウイルス安全性に係るリスクを明らかにした上で、セル・バンクの管理において実施するウイルス試験の項目を設定すること。レトロウイルス由来以外のウイルスベクターを製造する場合は、MVB又はWVBについてレトロウイルスの混入の有無を逆転写酵素試験、電子顕微鏡等により確認することを考慮すること。

ウシ又はブタ由来の血清、血清由来成分、トリプシン等の増殖因子等を培養に用いる場合には、ウシ又はブタ由来の感染性因子による汚染について、適切な試験結果を含めてその安全性を明らかにすること。必要に応じてウイルス・バンクでの管理方法を定めること。

4) ウイルスベクターの製造に用いる原料等

使用する培地については、培地成分及び血清、成長因子、抗菌剤・抗真菌剤等の添加する原料等も含め、製造に用いる全ての原料及び材料を明らかにすること。また、それらの原料及び材料が、製造のどの工程で使用されるかを明らかにすること。さらに、それらを使用する必要性を明らかにするとともに、最終製品の品質に影響を与えるおそれのある重要な原料及び材料については受入試験の規格を示し、その管理方法の適切性を明らかにすること。

特に、ヒトへの安全性確保の観点から以下の点を明らかにすること。

① ヒト・動物由来成分を含む原料等を使用する場合は、含まれる全ての生物由来成分に対し生物由来原料基準への適合性に問題がないことを明らかにすること。

② 感染性因子による汚染を防止するために講じた不活化/除去処理及び実施する試験等の対策を明らかにすること。

5) ウイルスベクターの製造方法及びプロセス・コントロール

製造に使用する細胞の培養方法、ウイルスベクター産生のためのプラスミド又はウイルス等の細胞への導入法、ウイルスベクター産生を行う間のおよその細胞継代数及び細胞播種密度並びに遠心、カラム精製、密度勾配遠心等の精製法を含め、適正な品質のウイルスベクターを恒常的に製造するための全ての製造工程及びその管理に関する概略を、製造工程全体のフローチャート等を示した上で、明らかにすること。

製造工程ごとにどのようなプロセス・コントロールが行われるのかの概略(管理値/判定値を含む)を示すとともに、その工程管理を設定した目的又は理由並びに管理値/判定値の根拠を明らかにすること。

品質を確保する上で管理が必要な工程パラメータを明らかにすること。特に品質に影響する重要な工程及び重要工程パラメータを特定するとともに、その管理幅を明らかにすること。重要中間体が存在する場合、その管理方法として保存方法、必要に応じて管理値等を定めること。

増殖性ウイルスを含めた安全性を確保する上で必要となる品質管理の試験は、実施する試験の特徴やその試験の検出性の観点から工程管理として実施した方がより適切な場合もあるため、安全性に係る試験の実施時期、試験方法を明らかにすること。

6) 製造工程由来不純物の評価

最終製品に混入する可能性のある製造工程由来不純物に対しては、最終製品への残存量を求め、ヒトに投与された際の曝露量では、ヒトでの安全性上の懸念が生じないことを明らかにすること。また、必要に応じてそれらの物質を含む原料等の製造管理の適切性及び受入試験の規格値の設定の合理的な理由を明らかにすること。さらに、製造工程での除去能等の工程評価、製造方法の見直し等を行い、残存のリスクを可能な限り低減化した製造工程を確立すること。特にヒトへ投与経験のない化学物質、毒劇物、生理活性物質、感作性物質等のヒトへの安全性が懸念される物質については、最終製品への残存性を慎重に評価すること。

(2) 非ウイルスベクター

1) 非ウイルスベクターの構造

① 遺伝子導入法の選択理由及びその特徴

採用した遺伝子導入法の概要を示し、その遺伝子導入法の特徴、有用性等を明らかにした上で、対象疾患に適用する理由を明らかにすること。

② 非ウイルスベクターの構成

プラスミド単独、あるいはリポソーム等のキャリアーを用いる等、非ウイルスベクターの構成を明らかにすること。

③ 遺伝子構造

非ウイルスベクターの全塩基配列分析を実施し、その配列において安全性上問題となり得るリスクがあるかを配列解析により明らかにすること。配列解析の方法はバリデートされた方法により行うとともに、その方法を明らかにすること。

目的遺伝子配列が設計どおりに安定に保持されているか評価するとともに、非ウイルスベクター全体の遺伝子の安定性についても評価すること。さらに、製造工程を通じての安定性についても評価すること。

2) 非ウイルスベクターの由来及び性質

非ウイルスベクターの由来となるプラスミドの名称、構造、物理化学的安定性、病原性、細胞傷害性等を明らかにするとともに、当該プラスミドを選択した合理的な理由を明らかにすること。特に臨床試験で用いられたことのないプラスミドの場合は、ヒトに対する病原性、免疫原性、細胞傷害性、生体での持続性等について、ヒトへの適用の際の安全性の評価と併せて明らかにすること。

非ウイルスベクターに使用されるキャリアーの構成成分(タンパク質、糖質、脂質等を指す。)についても、名称、構造、物理化学的安定性、病原性、毒性等を明らかにするとともに、それらを選択した合理的な理由を明らかにすること。特に臨床試験で用いられたことのない場合は、ヒトに対する病原性、免疫原性、毒性、体内動態等について評価し、ヒトで安全性上の懸念が生じないことを明らかにすること。

非ウイルスベクターの性質に関し、採用した非ウイルスベクターの種類及び遺伝子導入方法に関して以下の事項を明らかにすること。

① 遺伝子導入法を明確にした上で、その方法によりどのような細胞に遺伝子導入が可能であるか、種特異性又は組織特異性があるか、細胞周期への依存性等を明らかにすること。

② 遺伝子の導入効率及び目的遺伝子の発現効率を明らかにすること。

③ 導入遺伝子が染色体に組み込まれるか又はエピソームとして染色体外で存在するか、その特性を明らかにすること。染色体に組み込まれる場合には、その染色体の組み込み位置が部位特異的か非特異的かを明らかにすること。また、染色体に組み込まれない場合には染色体外複製を伴うのかを明らかにした上で、目的遺伝子の細胞内での安定性を明らかにすること。

④ 目的遺伝子発現の持続性を明らかにすること。

⑤ 臨床使用等の実績及び関連する最新の動向を明らかにすること。

3) 非ウイルスベクターの構築及び作製に用いる細胞

① 非ウイルスベクターの製造に用いるプラスミド等の構築

ヒトに導入されるプラスミド等の構築方法を明らかにすること。その際、そのプラスミド等を得るための増幅方法及び精製方法に加え、プラスミド等の全塩基配列及び制限酵素切断地図並びに全ての構成要素の配置、各塩基配列の起源及び機能等の特性、並びにクローニング方法及び使用した宿主の情報を含む遺伝子改変等の過程を含む作製方法を明らかにすること。

② 非ウイルスベクターの製造に用いる微生物等

非ウイルスベクターの製造に用いる微生物等について、目的の遺伝子治療用製品等を得るのに適した微生物等であることを明らかにし、その微生物等の適切な品質管理の方法を設定すること。その際、その微生物等の名称、由来・起源、病原性・安全性、増殖性、表現型、遺伝子の安定性、製造に用いる際の感染性因子等の特性解析の試験成績を示し、製造に使用することの合理的な理由を明らかにすること。

なお、最終製品の品質を恒常的に得るため、バンクシステムによる品質管理を行うことが望ましい。

③ バンクシステム

非ウイルスベクターの製造に用いた微生物等について、バンクシステムを用いる場合には、そのMCB及びWCBの由来についての情報、調製方法やその経緯(培養等の作製条件、培養等に用いる培地、原料・添加物を含む)及び保存方法並びにそれらの特性を明らかにするとともに、同一性及び純度に関する試験項目、分析方法、管理基準、保存方法、保存中の安定性、更新方法等に関する適切な管理方法を設定すること。また、セル・バンク及びその作製に用いた原料等のうち生物由来成分については生物由来原料基準に適合することを示す必要がある。

バンクシステムの作製、特性解析、管理方法は、ICH Q5Bガイドライン及びICH Q5D ガイドラインを参考に実施すること。また、ヒト又は動物由来の細胞を用いる場合は、ICH Q5A ガイドラインに準じたウイルス安全性評価を実施すること。

4) 非ウイルスベクターの製造に用いる原料等

使用する培地については、培地成分及び血清、成長因子、抗菌剤・抗真菌剤等の添加するもの等の情報、非ウイルスベクターの構成成分及び組成等の情報を含め、製造に用いる全ての原料及び材料を明らかにすること。また、それら原料及び材料が、製造のどの工程で使用されるかを明らかにすること。さらに、それらを使用する必要性を明らかにするとともに、最終製品の品質に影響を与えるおそれのある重要な原料及び材料については受入試験の規格を示し、その管理方法の適切性を明らかにすること。

特にヒトへの安全性確保の観点から、ヒトへの投与に当たり以下の点を明らかにすること。

① キャリアー等の製造に生物由来の原料を使用する場合も含め、製造においてヒト・動物由来成分を含む原料等を使用する場合は、含まれる全ての生物由来成分に対し生物由来原料基準への適合性に問題がないことを明らかにすること。

② 感染性因子による汚染を防止するために講じた不活化/除去処理及び実施する試験等の対策を明らかにすること。

5) 非ウイルスベクターの製造方法及びプロセス・コントロール

製造に使用する微生物等の培養方法、プラスミド等の微生物等への導入法及び遠心、カラム精製等の精製法並びにキャリアーの構成成分の調製法及び精製法を含め、適正な品質の非ウイルスベクターを恒常的に製造するための全ての製造工程及びその管理に関する概略を、製造工程全体のフローチャート等を示した上で、明らかにすること。

非ウイルスベクターの製造において、工程ごとにどのようなプロセス・コントロールが行われるのかの概略(管理値/判定値を含む)を示すとともに、その工程管理を設定した目的又は理由並びに管理値/判定値の合理的な理由を明らかにすること。

キャリアー等の製造において一定の品質の恒常性が担保されるための適切な工程管理がなされていること。

品質を確保する上で管理が必要な工程パラメータを明らかにすること。特に、品質に影響する重要な工程及び重要工程パラメータを特定するとともに、その管理幅を明らかにすること。重要中間体が存在する場合、その管理方法として保存方法及び必要に応じて管理値等を定めること。

感染性因子を含めた安全性を確保する上で必要となる品質管理の試験は、より安全性を高める観点から工程管理として実施した方が適切な場合もあるため、安全性に係る試験の実施時期及び試験方法を明らかにすること。

6) 製造工程由来不純物の評価

最終製品に混入する可能性のある製造工程由来不純物に対しては、最終製品への残存量を求め、ヒトに投与された際の曝露量では、ヒトで安全性上の懸念が生じないことを明らかにすること。また、必要に応じてそれらの物質を含む原料等の製造管理の適切性及び受入試験の規格値の設定の合理的な理由を明らかにすること。さらに、製造工程での除去能等の工程評価、製造方法の見直し等を行い、残存のリスクを可能な限り低減化した製造工程を確立すること。特にヒトへ投与経験の無い化学物質、毒劇物、生理活性物質、感作性物質等のヒトへの安全性が懸念される物質を含む原料等については、最終製品への残存性を慎重に評価すること。

3.標的細胞

(1) 遺伝子治療用製品

ヒトへの投与方法、投与部位、投与に用いる機械器具等を明らかにすること。機械器具等にヒト・動物由来成分が含まれている場合は、生物由来原料基準への適合性を明らかにすること。

標的となる細胞又は組織の生物学的特徴を明らかにすること。特に標的となる細胞又は組織が目的遺伝子を欠損している場合には、遺伝子導入によってもたらされる特性の変化を詳細に明らかにすること。また、その他の細胞又は組織に遺伝子導入する場合と比較して、有利な点及び不利な点を明らかにするとともに、標的としてその細胞又は組織を選択した合理的な理由を明らかにすること。

(2) 遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品

1) 遺伝子導入する細胞の由来及び性質並びに選択理由

ヒト由来の細胞を遺伝子導入の標的細胞とする場合、その起源及び由来(細胞又は組織の種類、自己又は同種の別を含む)並びに生物学的特徴(例えば形態学的特徴、増殖特性、生化学的指標、免疫学的指標、特徴的産生物質、HLAタイピング、その他適切な遺伝型又は表現型の指標等)を明らかにすること。

細胞株等の細胞基材を遺伝子導入の標的細胞に用いる場合、その由来についての情報、調製方法やその樹立までの経緯(培養等の条件、培養等に用いる培地及び添加物、原料等の情報を含む。)並びにそれらの特性及び保存時の安定性を明らかにするとともに、同一性及び純度に関する試験項目及び管理基準、試験方法、保存方法、更新方法等に関する適切な管理方法を設定すること。また、ICH Q5A ガイドラインに準じてウイルス安全性評価を実施するとともに、本細胞が生物由来原料基準に適合することを示すこと。さらに、その他の細胞に遺伝子導入する場合と比較して、本細胞を用いる際の有利な点及び不利な点を明らかにし、標的細胞として選択した合理的な理由を明らかにすること。なお、最終製品の品質を恒常的に得るため、バンクシステムによる品質管理を行うことが望ましい。

2) ドナーの適格性

ヒトから遺伝子導入する標的細胞を採取する場合、そのドナーの適格性に問題がないことを示すこと。ドナーの選択が倫理的に適切に行われ、かつ適切な手続きで行われたことを明らかにすること。また、年齢、性別、民族学的特徴、遺伝的特徴、病歴、健康状態、採取細胞、組織を介して感染する可能性がある各種感染症に関する検査項目、免疫適合性等を考慮して、選択基準又は適格性基準を定め、その合理的な理由を明らかにすること。

同種由来の細胞を用いる場合には、想定されるウイルス等感染性因子に対する安全性のリスクを考慮し、HBV、HCV、HIV―1及びHIV―2、HTLV―1及びHTLV―2、EBV、CMV並びにパルボウイルスB19の他、必要に応じて血清学的試験又は核酸増幅法等の各種ウイルスに対するドナースクリーニング検査を実施すること。また、ドナーに関する血清学的試験、診断履歴、病歴等についても可能な範囲で明らかにした上で、目的細胞の使用の合理的な理由を明らかにすること。さらに、必要に応じて遺伝的多型及び主要組織適合抗原の一致について解析し、同種細胞の使用の合理的な理由を明らかにすること。

なお、患者自身の細胞を用いる場合は、患者、製造従事者及び医療従事者の安全性を確保する観点等から、採取細胞・組織を介して感染する可能性がある各種感染症を考慮し、ドナーに対し感染症に関する検査を実施すること。

3) 組織等の採取法

ヒトから遺伝子導入する標的細胞の元となる組織等を採取する場合、その採取の対象となる組織等の種類、具体的な部位、採取法、採取量、採取の回数及び間隔について、使用する機械器具を含めて明らかにすること。細胞の採取法として、生体内へサイトカイン等の薬剤の投与によりドナー細胞を動員する方法等を用いる場合には、その具体的内容の詳細を明らかにすること。

4) 遺伝子導入細胞の製造に用いる原料等又は機械器具等

遺伝子導入細胞の製造に用いる原料等については、培地成分、血清、成長因子、抗菌剤・抗真菌剤等の添加するものの情報、キャリアー等であればその構成成分、組成等の情報を明らかにすること。遺伝子導入の際に用いる機械器具等については、必要な性能が確保されていることを含め、全ての原料及び材料並びに機械器具等を明らかにすること。また、それらの原料等及び機械器具等が、製造のどの工程で使用されるかを明らかにすること。また、遺伝子導入細胞の製造に用いる原料等又は機械器具等を使用する必要性を明らかにするとともに、最終製品の品質に影響を与えるおそれのある重要な原料及び材料については、受入試験の規格を定め、その管理方法の適切性を明らかにすること。

特にヒトへの安全性確保の観点からヒトへの投与に当たり、以下の点を明らかにすること。

① 製造に用いる原料等又は機械器具等にヒト・動物由来成分を含む原料等を使用する場合は、含まれる全ての生物由来成分に対し生物由来原料基準への適合性に問題がないことを明らかにすること。

② 感染性因子による汚染を防止するために講じた不活化/除去処理及び実施する試験等の対策を明らかにすること。

③ キャリアー等を用いる場合又は遺伝子導入に機械器具等を用いる場合には、それらを使用することの安全性や合理的な理由を明らかにすること。

5) 遺伝子導入細胞の製造方法及びプロセス・コントロール

遺伝子導入する細胞の培養方法、培養日数、細胞継代数、細胞播種密度、遺伝子導入方法及び細胞の洗浄法等を含め、適正な品質の遺伝子導入細胞を恒常的に製造するための全ての製造工程及びその管理に関する概略を、製造工程全体のフローチャート等を示した上で、明らかにすること。また、遺伝子導入後に遺伝子導入細胞の濃縮、選択、拡大培養等を行う場合、遺伝子導入細胞に放射線照射等の処理を行う場合又は遺伝子導入細胞を凍結保存後に解凍し使用する場合は、その工程も含めること。

製造工程ごとに実施するプロセス・コントロールの概略(管理値/判定値を含む。)を示すとともに、その工程管理を設定した目的又は理由並びに管理値/判定値の合理的な理由を明らかにすること。特にヒトへの投与に当たり、遺伝子導入に伴い細胞表現型に望ましくない変化等、細胞に生じうる安全性上の懸念がないことを評価し、必要に応じて管理方法を定めること。

品質を確保する上で管理が必要な工程パラメータを明らかにすること。特に品質に影響する重要な工程及び重要工程パラメータを特定するとともに、その管理幅を明らかにすること。重要中間体が存在する場合、その管理方法として保存方法、必要に応じて管理値等を定めること。

6) 製造工程由来不純物の評価

遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品を含む最終製品に混入する可能性のある製造工程由来不純物に対しては、最終製品への残存量を求め、ヒトに投与された際の曝露量では、ヒトで安全性上の懸念が生じないことを明らかにすること。また、必要に応じてそれらの物質を含む原料等の製造管理の適切性及び受入試験の規格値の設定の合理的な理由を明らかにすること。

なお、遺伝子導入細胞をヒトに投与する前に洗浄操作等の調製を行う場合には、その手順及び当該操作手順による製造工程由来不純物の除去効率を考慮して、最終製品の残存量の規格値の設定の合理的な根拠を示すこともできる。

さらに、製造工程での除去能等の工程評価、製造方法の見直し等を行い、残存のリスクを可能な限り低減化した遺伝子導入の製造工程を確立すること。特にヒトへ投与経験のない化学物質、毒劇物、生理活性物質、感作性物質等のヒトへの安全性が懸念される物質を含む原料等については、最終製品への残存性を慎重に評価すること。

7) 遺伝子導入細胞に残存するベクターの評価

ウイルスベクターを用いて遺伝子導入細胞を製造する場合、感染性を有するウイルスベクターの残存性について評価すること。その際、ウイルスベクターの物理化学的な性質や遺伝子導入後の細胞の培養期間、洗浄操作等も考慮した評価を行うこと。

4.特性解析並びに規格及び試験方法

(1) 原則

特性解析については、製品ごとにケース・バイ・ケースで判断することが必要であるため、「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(平成13年5月1日付け医薬審発第571号厚生労働省医薬局審査管理課長通知)の原則を踏まえ、遺伝子治療用製品等の特徴に応じた特性解析を実施し、構造、物理的化学的性質、生物学的性質、純度、不純物等の特性を明らかにすること。また、それらの特性解析の結果に基づき、個々の遺伝子治療用製品等に求められる品質を確保するために治験製品又は市販される製品の規格及び試験方法を設定するほか、製造ごとの均質性を確保するために原料、重要中間体等の管理も含めた品質管理を行うこと。

遺伝子治療用製品等として最終的に市販される製品では、臨床試験に用いられたロットと同等/同質の品質を有する製品が恒常的に供給されるよう製品原液及び製品に対し規格及び試験方法を設定すること。臨床開発の進行に併せ、特性解析、複数のロット試験等の成績から最終製品の均質性及び恒常性が得られるための製品原液及び製品のロット管理の方法を確立すること。設定の根拠には、試験に用いたロット数の合理的な理由を明らかにすること。製品原液については管理の必要性を考慮した上でその管理戦略を構築すること。

治験製品の規格及び試験方法は、治験を通じて同一とするのではなく、治験の進展に伴い、ヒトへの投与において確認された有効性及び安全性が確保できる品質となるよう、一般的には治験の相ごとに、より適切なものにしていくことが望まれる。治験を開始するにあたり、少なくとも以下の点を踏まえ、治験製品の管理方法を定めること。

① 治験製品の規格項目及び規格値は、感染性因子の試験を除き、非臨床試験において用いられた検体や試験製造品と一貫した品質が確保されるよう設定すること。

② 規格及び試験方法は、試験項目、用いる分析法及びその方法で試験したときの規格値/適否の判定基準を示したものであり、外観・性状、確認試験、純度、一般試験(浸透圧、pH、採取容量、不溶性微粒子、不溶性異物等の測定を指す。)、感染性因子、生物活性、力価、物質量等について、原則設定すること。ただし、開発段階に応じた適切な規格及び試験方法を設定すること。また、規格値の設定に当たっては、その設定の根拠を明らかにすること。試験方法については適切な試験性能が確認された方法を採用すること。

③ 試験に用いる検体の特徴や試験感度の観点から、最終製品での試験が必ずしも適切でない項目については、製造工程中の重要中間体において管理することがより合理的である。その場合には、妥当な工程内管理試験の方法、検体の保存方法、管理値等が設定されていることを明らかにすること。最終製品が遺伝子導入細胞の場合は、遺伝子導入細胞の製造に用いたウイルスベクター又は非ウイルスベクターの特性解析の成績及び品質試験結果を踏まえ、必要に応じてそれらの管理方法を設定すること。

(2) 遺伝子治療用製品の特性解析及び管理方法

1) 特性解析

ベクターの構造的な特徴が遺伝子治療用製品の安全性に影響することが知られていることから、遺伝子配列の解析については慎重に行う必要がある。例えば、ウイルスベクターでは目的遺伝子の配列、そのフランキング領域の配列、プロモーター及びエンハンサーの配列並びにベクターの全塩基配列を確認すること。全塩基配列を確認しない場合でも、詳細な制限酵素切断地図の解析によりベクター全体の構造が設計どおりであることを確認すること。また、標的細胞で目的とする遺伝子の発現がどの程度期待されるのか、発現量及び持続性についてin vitro試験等によりデータを取得すること。また、必要に応じて標的細胞以外の細胞での発現についてデータを取得すること。

2) 確認試験

確認試験は目的とする遺伝子治療用製品が得られていることを確認するための試験であり、高い特異性が求められる。特性解析結果を踏まえ、適切な試験を設定すること。

3) 純度試験

純度試験は、不均一性の恒常性確保及び不純物含量の規定のために設定される。不純物含量は、原則として重要中間体又は最終製品に対する規格及び試験方法を設定して管理する。ただし、精製工程で許容できる水準以下に除去することが恒常的に可能であることが示されているものについては、最終製品の試験を設定せず、工程内管理試験の実施により管理する場合がある。また、恒常的かつ高いレベルでの除去が確認された不純物については、重要中間体又は最終製品の規格及び試験方法又は工程内管理試験のいずれも設定しない場合がある。

純度試験の試験項目として、ベクターの製造に用いるDNA又はRNA、タンパク質、ペプチド、培地添加物、溶媒、血清等を対象に適切な純度試験を設定すること。プラスミドベクターの場合、総DNA又はRNAの定量試験、サイズ及び構造に関する試験、プラスミドの性状(例えばスーパーコイル、オープンサーキュラー、線状。)に関する均一性試験、プラスミド産生細胞由来のDNA及び宿主タンパク質の混入に関する試験の設定を考慮すること。また、ウイルスベクターの場合、製造に用いるヌクレアーゼ、プラスミドDNA、ヘルパーウイルス、ベクター産生細胞由来のタンパク質及びDNA、非感染性粒子等の残存量について純度試験に含めることを考慮すること。

4) 感染性因子に対する試験

感染性因子に対する試験について、以下の留意点を考慮し、感染性因子に対する安全性を可能な限り高める観点から混入するおそれのある感染性因子のリスク評価に基づき、原料又は材料、セル・バンク、ウイルス・バンク及び未精製バルク、重要中間体及び最終製品等に対し広範に解析した上で、バンクシステム、工程内管理試験又は重要中間体若しくは最終製品の適切な段階で妥当な管理方法を設定すること。

ウイルス試験又はマイコプラズマ否定試験については、培養工程以降でウイルス又はマイコプラズマの増幅が想定されない、又は高感度に検出ができるなど合理的な理由がある場合には、未精製バルク又は重要中間体を対象として試験を実施することで安全性の確保が可能な場合がある。

無菌試験は可能な限りヒトに投与する最終製品を対象として実施すること。

① 無菌試験(細菌及び真菌の否定試験)

治験に用いるベクターについて、日本薬局方(以下「日局」という。)無菌試験法<4.06>が適用可能であれば、これに準じて試験を行うこと。遺伝子治療用製品の特性から、検体量の確保が困難な場合には、技術的に可能かつ適切な試験方法を設定すること。その場合には、試験方法のバリデーションを適切に実施し、採用する試験方法の信頼性を確保すること。

② マイコプラズマ否定試験

日局参考情報のバイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品の製造に用いる細胞基材に対するマイコプラズマ否定試験に準じて試験を行うこと。

③ ウイルス試験

ICH Q5A ガイドラインに準じてウイルス安全性評価を実施すること。また、それらの評価結果を踏まえ、品質管理として必要なウイルス試験を設定すること。その際、in vitroウイルス試験等、迷入ウイルスを検出するための感染性試験を実施することが望ましい。マウス等のげっ歯類由来のパッケージング細胞をレトロウイルスベクターの産生に用いる場合には、MCBに低濃度に混入する可能性のあるエコトロピックレトロウイルスを検出する試験を実施すること。

ヒト由来の細胞を用いてベクターを製造する場合には、特にヒトに対して感染性や病原性を示す可能性のあるウイルスに対する試験を考慮すること。例えばアデノウイルスベクターをHEK293細胞で産生する場合は、前述のウイルスに加えてアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等、ヒトに対して感染性や病原性を示す可能性のあるウイルスの試験を考慮すること。

④ 増殖性ウイルス試験(ウイルスベクターを用いる場合)

非増殖性のレトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターを使用する場合は、増殖性レトロウイルス(複製可能レトロウイルス及び複製可能レンチウイルスを指す。)否定試験をバンクシステム、製造終了後の未精製バルク及び最終製品に対し実施し評価すること。必要に応じて適切な段階の検体に対し品質管理の試験を設定すること。他の非増殖性ウイルスベクターを使用する場合は、増殖性ウイルス否定試験をバンクシステム及び最終製品に対して実施し評価すること。必要に応じて品質管理の試験を設定すること。また、増殖性ウイルス試験の試験方法の概要を示し、その検出感度については試験の目的に適した妥当なものであることを明らかにすること。

ウイルスベクターの製造に他のウイルスを用いた場合、使用した他のウイルスの最終製品への混入を適切な感度を示す方法によって否定すること。

増殖性又は制限増殖性ウイルスベクターを使用する場合は、最終製品において目的遺伝子を欠いたウイルスベクター、復帰突然変異体等の目的外となる増殖性ウイルスの存在を各々のセル・バンクシステム又は最終製品において適切な感度を示す方法で確認し、否定すること。

⑤ エンドトキシン試験

エンドトキシン試験の実施に当たっては、日局エンドトキシン試験法<4.01>が適用可能であれば、これに準じて試験を行うこと。検体量又は被験試料の特性から日局エンドトキシン試験法の適用に合理性がない場合には、日局エンドトキシン試験法を参考にし、適切な試験を実施すること。その場合には、試験方法のバリデーションを適切に実施し、採用する試験方法の信頼性を確保すること。

5) 生物活性又は力価

ベクターの発現産物の生物活性に関し、実施した全ての特性解析の評価結果を示すこと。目的とする臨床効果と密接に関連する生物活性についての評価結果と期待される臨床効果との関連について、特性解析、薬理学的試験又は臨床試験の成績を踏まえ明らかにすること。これらの生物活性に関する試験は定量性を持っていることが望ましい。必要に応じて生物活性の許容域を設定すること。

ウイルスベクターの場合、感染性粒子と非感染性粒子の比率を求め、そのウイルス力価を測定し、適切な許容域を設定する又はウイルス粒子当たりの感染価を測定することで適切な許容域を設定すること。

6) 含量

ベクターの含量は、ウイルスベクターにあっては、ウイルス粒子数又はウイルス力価、非ウイルスベクターにあっては、プラスミドDNAの濃度等、投与における物理量の許容域を設定すること。

7) その他の製品の特性に応じて実施する試験

用いるウイルスベクター、非ウイルスベクターに特異的な粒子径分布等の特性を明らかにし、必要に応じて許容域を設定すること。

遺伝子治療用製品の特性によっては、凝集体形成への配慮が必要であり、適切な試験方法を設定して凝集体の量を管理すること。

(3) 遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品の特性解析及び管理方法

1) 特性解析

遺伝子導入細胞の特性解析として、例えば細胞表面マーカー、サイトカイン産生能等の特性解析を行い、遺伝子導入細胞の種類の同定、細胞1個あたりの導入遺伝子のコピー数と遺伝子挿入解析等を行い、特定の部位に挿入されていないことを確認すること。

目的としない細胞群への遺伝子導入の可能性について、安全性の観点から検討すること。例えばT細胞への遺伝子導入を目的としている場合、採取した細胞集団に造血幹細胞が含まれている可能性とその造血幹細胞への遺伝子導入効率を明らかにすること。また、挿入変異に関する造腫瘍性等に関しては適切な試験系を用いて評価すること。

in vitroでの分化誘導を目的とした遺伝子導入の場合には、in vitroでの培養期間の設定及びその根拠を示すための評価として、設定された期間を超えて培養された細胞の増殖特性、生存率、遺伝子発現等の特性解析を行い、培養における特性の変化を明らかにすること。さらに、必要に応じて遺伝子導入に用いたベクターの残存について評価すること。

2) 確認試験

確認試験は目的とする遺伝子導入細胞が得られていることを確認するための試験であり、高い特異性が求められる。遺伝子導入細胞の表現型に関する特性解析結果を踏まえ、適切な試験を設定すること。

3) 純度試験

純度試験は、不均一性の恒常性確保及び不純物含量の規定のために設定される。細胞の活性化又は加工に用いたタンパク質又はペプチドの残存、製造に用いたサイトカイン、成長因子、抗体、血清等の原料に関する適切な純度試験を実施すること。さらに、目的外の形質を持つ細胞に関する純度試験の実施も考慮すること。

4) 感染性因子に対する試験

感染性因子に対する試験について、本指針の第3章 品質 4.特性解析並びに規格及び試験方法 (2)遺伝子治療用製品の特性解析及び管理方法 4)感染性因子に対する試験の項を参考に実施すること。

ただし、①無菌試験については、ヒト細胞加工製品の特性から、検体量の確保が困難又は試験実施の時間的制約等から日局無菌試験方の適用が困難な場合には、日局参考情報に示された微生物迅速法も参考とし、技術的に可能かつ適切な試験方法を設定すること。その場合には、試験方法のバリデーションを適切に実施し、採用する試験方法の信頼性を確保すること。

③ウイルス試験については、自己由来細胞を使用する場合は、「ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性確保について」(平成20年2月8日付け薬食発第0208003号厚生労働省医薬食品局長通知)を参考にし、製造に使用する原料等に由来するウイルス汚染のリスクや必要に応じて製造工程においてウイルスの増殖が起こる可能性も考慮し、ウイルス安全性評価の必要性を検討すること。また、自己細胞であっても、投与経路又は移植部位(例えば脳内投与等。)の特性を考慮して、迷入ウイルスによる重篤な感染症が起きるリスクについても評価しておくこと。同種由来細胞を使用する場合は、「ヒト(同種)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医用機器の品質及び安全性の確保について」(平成20年9月12日付け薬食発第0912006号厚生労働省医薬食品局長通知)を参考に、採取する組織・細胞の特性を考慮し、適切なウイルス検査を実施するとともに、必要に応じて製造工程においてウイルスの増殖が起こる可能性について評価しておくこと。また、同種由来細胞をバンク化又はストックして使用する場合には、ICH Q5A ガイドラインに基づいたウイルス安全性評価についても実施すること。なお、遺伝子導入後に内在性ウイルスの活性化等のウイルス安全性への影響が懸念されることから、必要に応じて遺伝子導入後の細胞についてウイルス安全性を評価すること。以上のウイルス安全性評価結果を踏まえ、品質管理として必要なウイルス試験を設定すること。

④増殖性ウイルス試験については、遺伝子導入細胞を長期間培養する場合、必要に応じて増殖性ウイルス否定試験を実施すること。

5) 生物活性又は力価

遺伝子導入細胞の生物活性に関し、実施した全ての特性解析の評価結果を示すこと。目的とする臨床効果と密接に関連する生物活性についての評価結果と期待される臨床効果との関連について、特性解析、薬理学的試験又は臨床試験を踏まえ明らかにすること。これらの生物活性試験は定量性を持っていることが望ましい。必要に応じて生物活性の許容域を設定すること。

6) 細胞数及び細胞生存率

遺伝子導入細胞の物質量として、生細胞数及び目的機能を持つ細胞数の許容域を設定すること。投与される細胞数の上限値が設定されている場合には根拠を明らかにすること。また、投与時の細胞生存が確保されるよう、安定性の成績を考慮し生存率の下限値を設定すること。

7) その他の製品の特性に応じて実施する試験

遺伝子導入細胞を凍結保存後に解凍し使用する場合には、凍結解凍後の細胞生存率等の評価結果を踏まえ、必要に応じて確認試験方法及び凍結保存有効期間を設定すること。

遺伝子導入細胞を高濃度に含む場合又は遺伝子導入細胞の特性によっては、凝集体形成への配慮が必要であり、適切な試験方法を設定して凝集体の量を管理すること。

5.製品開発の経緯

遺伝子治療用製品等を構成する主成分(例えばベクター又は遺伝子導入細胞。)及び各副成分を含め、目的の品質を得るための製品の設計を明らかにすること。また、最終的に投与する溶液等について最終組成を一覧表等にて明確に示すこと。各副成分を添加する必要性及び合理的な理由を明らかにし、その安全性、使用実績、安定性等を評価すること。

有効期間にわたって規定される遺伝子治療用製品等の品質規格を保証できるよう、また、適正な使用及び投与時の安全性が確保されるよう、一次容器として用いる容器及び施栓に設計上の問題がないことを明らかにすること。その際、日局参考情報を参照し、容器及び施栓の材質に起因する毒性学的評価、無菌化の処理の適切性、汚染を防止するための完全性等の評価を行うこと。また、移動の際に破損汚染を防ぐような工夫のための二次容器についても明らかにすること。

遺伝子治療用製品等のヒトへの投与に際して特殊な機械器具等が必要なものについては、使用方法及び安全性に関する情報を明らかにすること。

6.プロセス評価/プロセスバリデーション

製造販売承認申請時においては、製造方法の恒常性を確認するために、プロセス評価/プロセスバリデーションとして、実生産スケールでの製造手順等により期待した結果(例えば、工程内管理試験の結果、その他の重要なプロセス・パラメータ、製造工程における不純物の除去状況等があらかじめ設定した基準に適合すること等。)が得られることを原則複数ロットの成績から示すこと。なお、遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品のように、倫理上の理由による検体の量的制限、技術的限界等のため、プロセスバリデーションの実施が困難な場合においては、ベリフィケーションの手法による評価が認められる場合もある。

評価の実施においては、重要品質特性の特定、それに関連する重要工程パラメータの特定及び管理幅の設定並びに原料又は材料の管理幅の設定等について、その設定の合理的な理由を明らかにすること。また、製品の無菌性を確保するために、工程において実施する無菌性保証の方策等に対し実施した評価についてもプロセス評価/プロセスバリデーションに含めること。不純物の除去についてのプロセス評価/プロセスバリデーションにおいては、混入物及び分解物として検出対象とした物質とその理由、用いた試験方法とその検出感度等の合理的な理由を明らかにすること。

開発段階では、製造工程の改良やスケールアップのため、製法変更が実施されることが少なくない。特に場合によっては、開発過程で細胞基材が変更されるケースもあることや、大量生産が必要であること等の理由により、製法変更が繰り返されることもある。製法が変更された場合、旧製法で製造された製品を用いて得られた非臨床・臨床試験データを、新製法で製造された製品でのデータとして用いるために、製法変更前後の製品の同等性/同質性評価が必要である。また、遺伝子治療用製品等の製造に関する最新技術の採用や、感染性物質に関する新たな情報等から、承認後にも製法が変更されることがある。この場合も、製法変更前後の製品に関して同等性/同質性評価が必要である。同等性/同質性評価は、「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の製造工程の変更にともなう同等性/同質性評価について」(平成17年4月26日付け薬食審査発第0426001号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知)を参照し実施すること。遺伝子治療用製品等の品質の同等性/同質性評価で大きな課題となるのは、生物学的性質の評価に加え、不均一性や不純物の除去状況の評価である。製法変更前後で品質特性の差異が認められた場合、その差異が有効性や安全性にどのような影響を及ぼすかについて、非臨床試験や臨床試験での確認が必要な場合もある。なお、製法変更前後の製品について同等性/同質性が示されない場合には、旧製法で製造された製品を用いて得られた特性解析データ及び非臨床データについて、新製法で得られた製品を用いて再度取得しなければならない可能性に留意すること。

7.安定性試験

遺伝子治療用製品等のヒトに投与するまでの安定性を評価し、適切な保存条件及び保存期間を設定すること。ベクター又は遺伝子導入細胞の一定期間の保存又は他施設への輸送が行われる場合にはその手順書を作成するとともに、ベクター又は遺伝子導入細胞の有効性及び安全性への影響を検証すること。

なお、製造販売承認申請時には、「生物薬品(バイオテクノロジー応用製品/生物起原由来製品)の安定性試験」(平成10年1月6日付け医薬審第6号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を参考に、保存条件及び保存期間を考慮した適切な安定性試験を行い、保存方法及び有効期間を設定するとともに、設定根拠を明らかにすること。その設定の根拠を示すに当たって用いたロットの製造スケール、保存条件、ロット数等の根拠についても明らかにすること。

第4章 非臨床試験

非臨床試験の主な目的は、遺伝子治療用製品等をヒトに投与した際にヒトで予測される薬理学的及び毒性学的な影響を明らかにすることで、治験開始前のみならず、治験中においても、必要に応じて実施すべきものである。

1.効果又は性能を裏付けるための試験

ヒトでの有効性が期待できるデータを、in vitro及びin vivo試験により得ることが求められる。導入した遺伝子の発現量、遺伝子発現の制御及び持続性についてのデータを得るためにin vitro試験の実施が求められるが、in vitro試験のみではヒトに投与した際の薬理学的及び毒性学的影響を評価することが困難な場合が多いため、可能な限りin vivo試験により有効性を予見できるデータを得ておくこと。

開発する遺伝子治療用製品等についてヒトでの有効性が示唆されることを示すには、遺伝子治療用製品等により導入された遺伝子等が、ヒトに投与された場合と同様に薬理作用を示すことが期待される病態モデル動物を選択することが有用である。種差により、ベクターに搭載された目的遺伝子がヒトと同様の薬理作用を惹起する適切なモデル動物が利用できない場合には、目的とするヒト遺伝子と相同なモデル動物由来の遺伝子を発現するベクターを用いた試験を検討すること。その場合には、得られた試験成績のヒトへの外挿性について、合理的な理由が明らかにされなければならない。

in vivo試験では、a) 薬理学的な作用が見られる最小薬理作用量及び最適用量の検討、b) 最適な投与経路の確立、c) 最適な投与スケジュールの検討及びd) 目的とする遺伝子治療用製品等の作用機序、想定される生物活性の明確化等が目的とされる。

2.生体内分布

遺伝子治療用製品等の安全性及び有効性を評価するための基礎データとして、「「遺伝子治療用製品の非臨床生体内分布の考え方」について」(令和5年10月23日付け医薬機審発1023第1号厚生労働省医薬局医療機器審査管理課長通知)を参考に、適切な動物を用いて遺伝子治療用製品等の生体内分布を明らかにすること。生体内分布の解析から、目的とする生体組織への分布だけでなく、目的としない生体組織及び生殖細胞への分布を明らかにすることにより、ヒトでの安全性や意図しない組込みリスクを評価する際に着目すべき器官を明らかにすることが可能になる。ベクターの分布や消失を含めた持続性を明らかにすることにより、ヒトでの適切な解析時期に関する情報が得られる。さらに、生体内分布データは、毒性試験で組織特異的に検出された異常所見の毒性学的意義を考察する際に有用な場合がある。

新規遺伝子治療用製品等の治験開始前に生体内分布試験を実施しない場合には、その合理的な理由が明らかにされなければならない。

生体内分布の解析では、遺伝子治療用製品等を投与後、一定時間ごとに組織、血液等を採取し、定量的PCR等を用いてベクターのコピー数を測定すること。さらに、ベクターのコピー数の経時的な変化を測定することにより、その消長に関する情報が得られる。特定の組織、体液等に遺伝子発現構成体の存在が示された場合には、必要に応じて使用した遺伝子発現構成体からの目的遺伝子等の発現について解析すること。

3.非臨床安全性試験

非臨床安全性試験は、治験開始前のみならず、開発ステージの進行に伴う、臨床試験のヒトへの安全性を担保する目的で、適時実施すべきものであり、ヒトで懸念される毒性学的影響を明らかにすることを目的とする。a) 臨床試験における初回投与量の設定、投与量の増量幅及び最高臨床投与量の設定、b) 毒性学的標的臓器の特定、c) 臨床試験での副作用を把握するための指標の特定並びにd) 臨床試験の中止基準等の設定のために実施される。非臨床安全性試験で得られた試験成績から、ヒトに投与した際にどのような有害作用が懸念され、またどの程度の安全域が得られるかを明らかにする必要がある。

なお、製造販売承認申請時に添付すべき遺伝子治療用製品等の非臨床安全性試験に関する資料は、他の再生医療等製品と同様、「再生医療等製品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成26年厚生労働省令第88号)に規定する基準(以下「GLP」という。)に従って収集され、かつ、作成されたものでなくてはならない。しかしながら、試験方法や試験条件によっては、GLP適用下での実施が困難な場合も想定されることから、その場合には、GLPを適用しない部分を明確にした上で、当該部分が非臨床安全性評価全体に及ぼす影響を評価する必要がある。

(1) 一般毒性評価

1) 動物種の選択

① 一般原則

非臨床安全性試験を実施する上で適切な動物種を選択することは重要であり、ヒトへ外挿可能なデータが得られるように、遺伝子治療用製品等がヒトで期待される薬理学的作用を示すと考えられる動物種を選択する必要がある。動物種の選択においては、a) 発現ベクターに搭載した目的遺伝子が標的細胞で発現すること、b) 目的遺伝子由来の核酸、タンパク質等がヒトで期待される薬理学的作用を発揮すること、c) ウイルスベクターを用いる場合には、ウイルスベクターの由来となった野生型ウイルスがヒトと同様の感染性及び組織・細胞への指向性を示すこと、d) 臨床での投与方法を適用できること等を考慮する必要があり、これらを踏まえて非臨床安全性試験に用いる動物種の適切性を明らかにする必要がある。また、遺伝子治療用製品等の非臨床安全性は、正常な動物を用いた毒性試験だけでなく、病態モデル動物を用いた有効性を予測するための試験において、安全性に関する評価項目を含めることで評価できることもある。遺伝子治療用製品等が選択的な組織・細胞への指向性を持つように設計されている場合には、生体内分布試験を実施することに加えて、遺伝子発現の組織特異性、発現継続時間及び生物活性を適切なモデル動物で確認すること。

② 動物種の数

医薬品の非臨床安全性は、通常2種類の動物種を用いて評価されるが、遺伝子治療用製品等については、その特性を踏まえると、1種類の適切な動物種のみでの評価で十分な場合がある(例えばベクターや目的遺伝子の生物学的特性が十分に評価されている場合、非臨床安全性評価における適切な動物種が1種類しか確認されない場合等。)。このような場合には、1種類の動物種で評価することの合理的な理由を明らかにする必要がある。また、臨床適用経路での非臨床安全性試験がげっ歯類等の小動物で実施できない場合には、全身への影響を代替投与経路により小動物で評価することも可能と考えられるが、臨床適用部位への影響に関しては、非げっ歯類等の大動物を用いて評価することが必要な場合もある。

③ 代替法の使用

通常の非臨床試験に用いられる動物種の中から適切な動物種が選択できない場合には、遺伝子改変動物又は動物由来の目的遺伝子を利用する代替法も想定される。しかしながら、これらを用いた非臨床安全性試験は、有害性の検出、臨床試験におけるバイオマーカーの同定等に役立つ可能性はあるが、量的なリスク評価には必ずしも適さないことに留意する必要がある。

2) 試験デザイン

① 一般原則

毒性試験の実施に当たっては、目的とする適応疾患を考慮した上で、a) 類似の遺伝子治療用製品等又は類似製品でのin vivo、in vitroでの生物活性等に関する情報、b) 目的遺伝子からの発現タンパク質等に関する生物学的特性及び安全性情報、c) 臨床試験で想定されている投与方法に関する情報及び投与に用いる機械器具等に関する使用方法等の情報、d) 遺伝子治療用製品等に対する非臨床安全性試験に用いる動物の生物学的反応、e) 遺伝子治療用製品等の作用機序等を考慮して試験をデザインする必要がある。

なお、遺伝子治療用製品等に関する一般毒性試験の試験デザインは、「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」(平成元年9月11日付け薬審1第24号厚生省薬務局審査第一・審査第二・生物製剤課長連名通知)の別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」を参照し、遺伝子治療用製品等の特性を踏まえて毒性試験の試験デザインを設定する必要がある。

② 用量設定

遺伝子治療用製品等の投与量の設定に当たっては、薬理作用の用量反応関係とともに、遺伝子治療用製品等の遺伝子導入効率、発現効率、薬理活性の種差等を考慮する必要があり、適切な対照群を選択した上で、用量依存性を確認するためには複数の投与群を設定する必要がある。毒性試験における最高用量は、臨床投与量、意図する薬理作用が最大となる用量、最大耐量、投与可能な最大量等の適切な限界量を踏まえて考慮すべきであり、選択した最高用量の合理的な理由を明らかにする必要がある。

③ 試験期間

試験期間は、ベクターの発現期間、免疫原性、臨床での適応症等を考慮して設定すべきである。なお、遺伝子治療用製品では、目的遺伝子由来の核酸、タンパク質等が薬理学的作用を発揮することから、「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価について」(平成24年3月23日付け薬食審査発0323第1号)を参照し、最長の試験期間は6カ月で十分と考えられる。

④ 観察及び検査項目

医薬品の反復投与毒性試験と同様に、動物の死亡、一般状態、体重、摂餌量、血液学的検査、血液生化学的検査、尿検査、眼科的検査、器官重量、剖検、病理組織学的検査等を実施する必要がある。また、病理組織学的検査においては、生体内分布試験により分布が確認された組織・臓器のみならず、少なくとも脳、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓等の主要臓器、精巣及び卵巣並びに投与部位を評価する必要がある。また、遺伝子治療用製品等の特性を踏まえて、主要な生理的機能(例えば循環器系、呼吸器系、中枢神経系等。)への影響を明らかにし、薬理作用に関連する評価項目(例えば免疫機能検査、行動検査、神経学的検査、細胞増殖活性パラメータ等。)の追加を検討することも考えられる。

⑤ 回復性

毒性試験で重篤な毒性所見が認められ、臨床において安全性に懸念が生じる場合には、回復性試験又は科学的評価(例えば病変の範囲及び重篤度、作用がみられた器官系の再生能、並びにその作用を示す既存薬の知見。)に基づいて、毒性の回復性を評価すべきである。

(2) 遺伝子組込み評価

1) 一般原則

ベクターの染色体への組込みの可能性については評価が必要である。がん等の生命を脅かす疾患で、長期間の余命が期待できない患者を対象とする場合には、必ずしも染色体への組込みリスクについて評価することは必要とされないなど、対象疾患を考慮して評価する必要がある。例えば染色体へ挿入されるレトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクターでは、細胞1個当たりに組み込まれるコピー数及び特定の部位に組み込まれる可能性に関して評価しておくこと。さらに、挿入変異による特定の遺伝子の活性化によるがん化の可能性を評価することも重要である。また、アデノウイルスベクター及びプラスミドDNAのように染色体への組込み能を持たないベクターの場合には、低い頻度の挿入を検出する感度の高い試験の実施を考慮すること。また、T細胞や筋肉細胞等の分化した細胞に比べて造血幹細胞のような未分化性の高い細胞を標的とする場合には、挿入変異のリスクが高いことを考慮すべきである。

2) 生殖細胞への意図しない遺伝子組込みリスクの評価

ベクターを直接生体に投与する場合、生体内分布試験により生殖細胞への分布が認められた場合には、生殖細胞の染色体への組込みリスクについて科学的に適切な手法を用いて評価すること。ただし、がん等の生命を脅かす疾患で、長期間の余命が期待できない患者を対象とする場合においては、必ずしも生殖細胞の染色体への組込みリスクの評価を求めるものではない。リスク評価に当たっては、「ICH見解:生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的考え方」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)を参考にすることが望ましい。

(3) 腫瘍形成及びがん化の可能性の評価

遺伝子治療用製品等による腫瘍形成及びがん化のリスクは、ベクターのがん原性(例えば発現産物によるプロモーター作用、染色体への挿入変異等。)又はex vivo投与法における遺伝子導入細胞の細胞調製(例えば使用するサイトカインの種類。)やベクターの染色体挿入変異による造腫瘍性について評価する必要がある。これらの評価結果について患者へ適切に情報提供し、リスク管理計画の策定に反映すること。

1) がん原性の評価

遺伝子治療用製品等について、化学合成医薬品の評価に用いられる標準的ながん原性試験を実施することは適切ではないと考えられるが、がん原性の評価は必要である。臨床使用期間、適用患者集団、遺伝子導入の標的細胞・組織の特性、ベクター及び構成成分の特性(例えば遺伝子組込み及び目的遺伝子由来の発現産物の特性等。)、使用したキャリアー等を踏まえて、「医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について」(平成20年11月27日付け薬食審査発第1127001号厚生労働省医薬食品局審査管理課通知)を参考にがん原性の評価法を検討する必要がある。公表データ、ウイルスベクターの由来となった野生型ウイルスの特性、類似する製品に関する情報、発現産物の生物学的特性及び作用機序、in vitro試験成績、一般毒性試験成績、臨床試験成績等を踏まえて、科学的な重要度に基づくアプローチにより、がん原性を評価する必要がある。

2) 造腫瘍性の評価

遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品では、遺伝子導入細胞の作製に用いたベクターのがん原性の評価を実施した上で、関連するヒト細胞加工製品の品質及び安全性確保に関する指針に準じて、細胞の増殖性変化及び腫瘍組織の形成の有無を検討し、がん化のリスクを評価する必要がある。

(4) 生殖発生毒性試験

受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は、一般毒性試験における病理組織学的検査で生殖器官への影響が懸念される場合に必要である。胚・胎児発生に関する試験、出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験については、適用患者集団、遺伝子治療用製品等の生物学的特性(例えば一般毒性、薬理作用、曝露量、生体内分布、胎盤通過性、組織・細胞への指向性等。)を踏まえて、試験実施の必要性を検討する必要がある。

(5) 免疫毒性評価

ベクター及びベクターからの発現産物が免疫系に有害な影響を与える可能性を明らかにすること。なお、動物を用いた試験では特異的な免疫反応が惹起される可能性があることから、試験成績の解釈においてはその影響を留意すること。

(6) 増殖性ウイルス出現の可能性の評価

非増殖性ウイルスベクターを使用する場合には、パッケージング細胞での製造において増殖性ウイルス出現の有無を評価することに加え、遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品では遺伝子導入細胞からの増殖性ウイルスベクターの出現の有無について評価を行うこと。増殖性ウイルスの検出に用いた試験方法については、その検出感度等を含め適切なバリデーションがなされていなければならない。さらに、可能であれば、投与された遺伝子治療用製品からの増殖性ウイルスの出現の可能性について動物モデルで評価すること。

突然変異又は内在性ウイルス断片等との組換えにより増殖性ウイルスが出現する可能性を評価すること。

第5章 治験における留意事項

1.治験実施の正当性

対象疾患の病因、疫学、病態、臨床経過、治療法、予後等の対象疾患に関して現在得られている知見を明らかにするとともに、遺伝子治療用製品等によりどのような機序で治療効果が得られ、既存の治療法と比べて優れていると考えられる点及び想定されるリスクを踏まえ、遺伝子治療を行うべき理由を明らかにすること。

2.治験実施計画

治験の具体的な実施計画を明らかにすること。投与量、投与回数及び投与部位の設定根拠を明らかにすること。また、遺伝子治療用製品等の投与に際して特別な前処置を行う場合には、前処置による被験者への影響及び安全性を明らかにするとともに、前処置により有害事象が発症した場合の対処方法を明らかにしておくこと。

治験においては、予期せぬ免疫反応が起こることを考慮し、適切な試験計画を立て、患者の状態を把握すること。ウイルスベクターを用いて複数回にわたる投与を行う場合には、当該ウイルスベクターに対して抗体産生が起こる可能性について留意する必要がある。また、目的遺伝子の発現制御の必要性の有無、必要ない場合にはその理由を明らかにすること。欠損遺伝子に相当するタンパク質を発現するベクターを投与する場合には、発現タンパク質に対して免疫応答が惹起される可能性について留意する必要がある。特にベクター又は発現タンパク質に対する抗体産生や予期しない免疫応答を考慮し、適切に評価できる試験計画を立て、患者の状態を把握すること。

3.被験者の追跡調査計画

被験者に投与されたベクター、遺伝子導入細胞の生体内分布、遺伝子導入細胞の生存及び目的遺伝子の発現様式、増殖性ウイルスの発生の有無並びに投与による臨床症状に関する観察予定を明らかにすること。追跡調査期間はベクターの種類、疾患の特性等を踏まえ、適切な期間を設定すること。染色体組込み型ベクターでは、最低年に一度の観察として、目的遺伝子の持続性及び実施が可能な場合は遺伝子導入細胞のクローナリティーの評価を実施すること。追跡調査の結果により観察期間の延長が必要となる場合があることも考慮すること。この間、有害事象が発症した場合の原因究明のために、ベクター又は遺伝子導入細胞を含む最終製品の保存を考慮すること。

第6章 遺伝子治療用製品等の第三者への伝播のリスク等の評価について

「ICH見解:ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」(平成27年6月23日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課・医療機器・再生医療等製品担当参事官室事務連絡)を参考に、患者に投与したベクターが、投与を受けた患者以外の第三者へ伝播するリスクを含む、ヒトに与える影響を評価すること。遺伝子導入細胞からなるヒト細胞加工製品の場合は、投与する細胞外にウイルスベクターが残存する可能性を明らかにし、残存性が否定できない場合には、遺伝子導入に使用したベクターの特性を踏まえ、第三者へ伝播するリスク等について評価すること。