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○革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業の成果に基づき策定された試験方法の公表について(「冠動脈用生体吸収性スキャフォールドの経時的拡張保持特性試験方法」等4件)

(令和元年5月22日)

(薬生機審発0522第1号)

(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)

(公印省略)

厚生労働省では、革新的な医薬品、医療機器及び再生医療等製品の実用化を促進するため、平成24年度から、最先端の技術を研究・開発している大学・研究機関等において、レギュラトリーサイエンスを基盤とした安全性と有効性の評価方法の確立を図り、ガイドラインの作成を行うとともに、大学・研究機関等と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)及び国立医薬品食品衛生研究所の間で人材交流を実施する事業を実施しているところです。

今般、早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)(総括研究代表者:伊関洋)における検討を経て、下記の試験方法が別添のとおり策定されましたので、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管内関係業者に対して周知方御配慮願います。

なお、本通知の写しを独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、一般社団法人日本医療機器産業連合会会長、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長、欧州ビジネス協会医療機器・IVD委員会委員長、国立医薬品食品衛生研究所所長宛て送付することを申し添えます。

冠動脈用生体吸収性スキャフォールドの経時的拡張保持特性試験方法(別添1)

冠動脈用生体吸収性スキャフォールドの耐久性試験方法(別添2)

腱索機能を有する人工僧帽弁の弁接合性能、拍動流性能及び耐久性評価に関する非臨床試験法(別添3)

三次元化学線量計を用いた定位放射線治療照射に関する精度管理法(別添4)

1.これらの試験方法は、現時点で考えられる評価法の一例として示したものであり、製造販売承認申請において必ずしも当該試験方法による試験の実施を求めるものではないこと。試験方法の選択等については、必要に応じて独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言を活用すること。

2.革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業におけるロードマップ等においてはPMDAのホームページ

(https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/facilitate-developments/0001.html)を参照されたい。

別添1

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別添2

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別添3

ガイドライン

腱索機能を有する人工僧帽弁の弁接合性能、拍動流性能及び耐久性評価に関する非臨床試験法

1.はじめに

今までの僧帽弁修復術においては、腱索機能を有する製品が存在しなかった。既存の人工僧帽弁では、弁輪が固定され、左心室の動きに追従するものはない。また、弁輪部の動きを拘束することや、人工弁には縫合するための弁輪部が必要なため、有効弁口面積が小さくなり、特に弁輪のサイズが小さい患者に対しては、流路面積が小さくなり圧力損失が大きくなるという課題がある。今後、これらの問題点を解決すべく、腱索機能を有する人工僧帽弁が開発されることが想定される。本ガイドラインでは、腱索機能を有する人工僧帽弁の有効性及び安全性の評価、特に前後乳頭筋間距離及び弁輪と乳頭筋の縫合部の距離が弁の接合に及ぼす影響、左心室との連続性を考慮した拍動流性能試験、腱索部を乳頭筋に縫合する特徴を考慮した有限要素解析並びに耐久性試験を実施する際の留意すべき事項について具体的に示すこととした。

本ガイドラインは当該医療機器の評価の考え方の一案を例示したものであり、製造販売承認申請に必要十分な評価法を意図して作成したものではない。非臨床試験の評価項目、試験デザイン等の妥当性については当該医療機器を開発する製造販売業者が自らの責任において説明する必要があることに留意されたい。また、当該医療機器は新規性が高く、今後得られる科学的根拠に応じて評価法の考え方が変わりうるため、製造承認申請を目指して類似医療機器の開発に携わる関係者は開発早期から個別に独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言を活用すること。

2.本ガイドラインの対象と範囲

本ガイドラインは、既存の人工弁と比較して、腱索機能を有することを特徴とする人工僧帽弁の有効性評価及び安全性評価に必要と考えられるin vitro試験法を対象とする。その他の動物試験を含む非臨床試験については、ISO 5840「Cardiovascular implants―Cardiac valve prostheses」[1],[2],や「人工肺および人工心肺用血液回路基準」(平成11年12月28日付け医薬発第1439号厚生省医薬安全局長通知)における「人工心臓弁基準」[3]等を参考として、それぞれの製品の特性や新規性に応じて評価方法を判断する必要がある。材質については、8.「その他の留意事項」②「使用する素材について」の項も参照のこと。

3.本ガイドラインの位置づけ

本ガイドラインは、今後開発が予想される腱索機能を有する人工僧帽弁の評価における人工弁の従来の評価方法では含まれていなかった事項を現時点の知見に基づいてまとめたものである。本ガイドラインが対象とする製品の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性を背景にして、柔軟に対応する必要がある。

4.弁閉鎖時の弁接合性能

本試験は、弁閉鎖時の弁膜の接合性能を評価することが目的である。腱索機能を有する人工僧帽弁では、「前後乳頭筋間距離」、「乳頭筋の縫合部と弁輪の距離」が弁の接合状態に影響を及ぼすため、前後乳頭筋間距離として18、24、30及び36mm、乳頭筋の縫合部と弁輪の距離として25及び35mmについて評価すること[4],[5]。試験条件としては、弁固定治具に弁を縫着し、弁を閉鎖させる差圧120mmHgを負荷した条件での弁接合距離を計測することが挙げられる。測定部位としては、例えば接合部の中央と最小接合部が挙げられる。弁輪サイズは最大、中位及び最小のサイズにて試験を実施すること。測定方法としてはMicro―CT等が挙げられる。

5.拍動流性能試験

本試験は、拍動時の弁機能を評価することが目的である。対象製品の特徴である、腱索機能を有する点と弁輪部が通常の人工弁より柔らかい可能性がある点を考慮し、以下の項目に留意して人工弁の特性を評価すること。

① 人工弁を設置する左心室モデル

ヒトの左心室形態を模擬した弾性体モデルを用いること[6]

・乳頭筋モデルを有し、腱索部を固定し評価すること。

・使用した左心室モデルの形態の妥当性を説明すること。

② 試験条件

前後乳頭筋間距離として18、24、30及び36mm、乳頭筋の縫合部と弁輪の距離として25及び35mmについて評価すること。

他の評価項目と試験条件については、ISO 5840を参考として検討すること。

6.有限要素解析

本評価は、耐久性試験における試験条件としての、前後乳頭筋間距離及び乳頭筋の縫合部と弁輪の距離のワーストケースを決定するために実施することが望ましい。解析においては、使用する解析条件の妥当性について説明すること。

① 前後乳頭筋間距離が弁閉鎖時の弁膜に生じる応力分布に及ぼす影響を評価すること。その距離としては、18、24、30及び36mmについて解析すること。

② 乳頭筋の縫合部と弁輪の距離が弁閉鎖時の弁膜に生じる応力分布に及ぼす影響を評価すること。その距離としては、25及び35mmについて解析すること。

③ 弁輪サイズは最大、中位及び最小のサイズについて解析すること。

7.耐久性試験

本試験は、加速耐久性評価として、拍動負荷による弁膜の開閉に起因する強度低下、破壊等の変化を確認することが目的であり、以下の項目に留意して評価すること。

① 腱索固定部

評価において、設定した「乳頭筋の縫合部と弁輪の距離」及び「前後乳頭筋間距離」を示し、その妥当性について有限要素解析結果等を踏まえ説明すること。

② 試験期間

製品の特性に応じて設定するとともに、その妥当性を説明すること。

他の評価項目と試験条件については、ISO 5840を参考として検討すること。

8.その他の留意事項

① 小児用製品への適応について

小児用の製品に対しては、要求性能等が成人用の製品と異なることを考慮し、個別の特性(適用範囲、使用目的、効能・効果等)に関する試験条件を設定する必要がある。

② 使用する素材について

それぞれの材質の特性により、評価方法、試験条件等は異なることが想定される。特に「脱細胞化組織」等、架橋固定処理されていない生体組織を用いた製品の場合、体内留置後に自己組織化して強度が向上する可能性があるが、耐久性試験においては細胞浸潤がなく、本来の性能が評価できないことも想定される。このような場合は、動物試験における経時的な組織観察及び臨床試験の結果に基づいて製品の耐久性能の妥当性を示すことが考えられる。

参考規格

[1] ISO 5840-1:2015 Cardiovascular implants -- Cardiac valve prostheses -- Part 1:General requirements

[2] ISO 5840-2:2015 Cardiovascular implants -- Cardiac valve prostheses-- Part 2:Surgically implanted heart valve substitutes

[3] 「人工肺および人工心肺用血液回路基準」(平成11年12月28日付け医薬発第1439号厚生省医薬安全局長通知)―人工心臓弁基準

[4] 高田淳平、朱暁冬、臼井一晃、馬原啓太郎、加瀬川均、梅津光生、岩画像15 (18KB)別ウィンドウが開きます
清隆、ステントレス僧帽弁の前・後乳頭筋間距離が弁閉鎖時の応力分布に及ぼす影響の有限要素解析、日本機械学会関東支部第23期総会・講演会、GS1101―02、東京、2017年3月16日

[5] Y Topilsky, O Vaturi, N Watanabe, V Bichara, VT Nkomo, H Michelena, TL Tourneau, SV Mankad, S Park, MA Capps, R Suri, SV Pislaru, J Maalouf, K Yoshida, M Enriquez-Sarano, Real-time 3-dimensional dynamics of functional mitral regurgitation:A prospective quantitative and mechanistic study, J Am Heart Assoc. 2013;2:e000039.

[6] 臼井一晃、高田淳平、加瀬川均、梅津光生、岩画像16 (18KB)別ウィンドウが開きます
清隆、腱索機能を有するステントレス僧帽弁の評価のための拍動循環シミュレータの開発,第27回バイオフロンティア講演会論文集、pp.85―86、札幌、2016年10月23日

別添4

革新的医薬品・医療機器・再生医療製品等実用化促進事業

「革新的医療機器実用化のためのEngineering Based Medicineに基づく非臨床性能評価系と評価方法の確立」

三次元化学線量計を用いた定位放射線治療照射に関する精度管理法

平成29年3月31日

早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns)

三次元化学線量計を用いた定位放射線治療照射に関する精度管理法

1.はじめに

Gamma Knifeを用いた頭蓋内腫瘍に対する約30年以上の臨床経験をもとに、1990年代に定位放射線治療が体幹部腫瘍に対しても応用され始めた。しかし、体幹部腫瘍は、固定の困難さ、特に体幹部における呼吸性移動や照射ターゲットの不均一性に課題があり、それを克服するために新しい照射装置や治療計画方法が考案され、現在も試行錯誤が繰り返されている。一方で、新しく定位放射線治療を開始した施設の中には、物理学的、機械的な精度管理に対するQA・QCを行う際、複雑に成形された照射範囲を三次元的に確認・検証を行うことがないままに施行されているところも見受けられる。定位放射線照射は、大線量を腫瘍部位に限局して短期間に照射するだけに、効果的な治療が可能となるものの、逆に、間違った方法や理論により、照射された場合の正常組織に対する障害は甚大になることが予想される。

また、近年臨床応用され始めた陽子線、炭素線などの高エネルギー荷電粒子線は、顕著なBraggピークにより線量を集中させた治療照射を実現することができ、治療成績の向上が期待される。しかし、粒子線治療においても、大きな臨床効果とは対象的に、微小な誤差が患者体内に与える影響が大きくなり、予測出来ない副作用につながることも考えられる。治療装置の設定は工学的に制御され、そのほとんどが自動化されており、設定ミスを防ぐように配慮されているが、それが逆に自動化により設定ミスを発見しにくい状況にもなっている。また、機器の中にはその精度が経時的に変化するものもあるため、設定された機器の状態を経時的に把握する必要がある。粒子線治療は高い精度が要求されるため、線量分布計算の正確性や機器設定の誤差に起因する線量分布の不確かさを十分に把握することが一層重要である。そして、これらの線量分布の不確かさを考慮した上で、治療を実施することが粒子線治療の治療成績を向上させることには必要不可欠である。

そこで、放射線治療においては、線量分布の誤差原因と推定される機器やシステムなどの誤差を明確にし、これらの程度を常に把握し、適正に維持する方策を示す必要がある。これらの複雑化された線量分布は三次元的に直接確認可能な三次元化学線量計を用いることによって、最終的に照射された吸収線量分布の直接測定が可能になる。このような背景を踏まえ、光子線および粒子線を用いた定位放射線治療について、科学的根拠を基盤にした三次元化学線量計を用いた精度管理を適正かつ迅速に進めるために本評価方法を作成した。

2.用語の定義

(1) 三次元化学線量計

放射線照射によって誘起される化学反応を利用して三次元的・連続的に線量分布を読み出すことが出来る化学線量計を示す。

(2) 定位放射線治療

電離放射線を用いて、病巣に対して多方向から照射する技術と照射する放射線を病変精確に正確に照準する技術の両者を満たすものであり、従来の放射線治療よりも大線量を短期間に局所的に照射することを目的にした治療のことを示す。

(3) 精度管理

計画された放射線治療の照射計画に対して、照射される放射線の不確かさを少なくするための確認と検証を示す。ここでは、照射された放射線の線量分布を可能な限り三次元的に直接的・間接的に可視化し、照射された放射線量分布を確認することを示す。

(4) 光子線治療

電磁波であるX線・γ線を用いた放射線治療を示す。

(5) 粒子線治療

陽子や炭素の原子核等の粒子を用いた放射線治療を示す。

(6) 読み取り装置

三次元化学線量計に照射された線量分布を読み取る装置。ここでは核磁気共鳴診断装置、X線コンピュータ断層装置や光学コンピュータ断層装置等の装置を示し、三次元化学線量計に照射された放射線による化学的・物理学的変化を読み取り、間接的・直接的に可視化と数値化が行える装置を示す。なお、装置の利用方法や適応に関しては個別に規格・基準を参照すること。

3.本評価方法の対象

本評価方法は、定位放射線治療の線量分布測定における三次元化学線量計を用いた精度管理に適用されるものである。現在、定位放射線治療においては放射線腫瘍学会よりガイドライン・勧告がホームページ上で公開されており、特に線量や線量率及び、線質に関しては既存のガイドライン等により、機械的・物理学的に測定される技術が構築されている(https://www.jastro.or.jp/guideline/)。しかしながら、照射範囲が物理学的・工学的検証以外に三次元的に測定・検証される手法に対するガイドラインは存在しない。また、近年画像誘導型の定位放射線治療機器が開発されており、既存の計測器を用いる事は困難であるが、三次元化学線量計を用いることにより照射された放射線を三次元的に連続的に測定することが可能になることから、三次元化学線量計の重要性は高まっている。

4.本評価方法の位置づけ

本評価方法は日々進歩の著しい定位放射線治療の機器開発・技術開発に対して、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えうる点について示したものである。従って、今後の技術革新や知見の集積等をもとに改定されるものである。定位放射線治療の照射精度の評価に当たっては個別の技術・機器の特性を十分に理解したうえで、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。

なお、本評価方法のほか、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

5.評価に当たって留意すべき事項

(1) 使用者は品質管理条件(温度・期間)、化学組成、形状、物理学的・化学的特性(組成比など)の明記または理解をして利用すること。また、廃棄方法は施設基準に従い処理すること。

(2) 照射の際は以下の事項を参考に、使用し評価する。

新たに用いられる治療機器及び治療方法に関しては、以下の事項に留意し、対応する三次元化学線量を選択して用いること。

・線量範囲

・線質依存性

・線量率依存性

・線量積算性

・化学線量計の形状(サイズなど)

・温度依存性

・放射化

(3) 読み取り際は以下の事項を参考に、使用し評価する。

照射された三次元化学線量計を読み取る際には、以下の事項に留意し、読み取り原理・手法と機器の特性を理解し、三次元化学線量計の評価を行うこと。

・空間分解能

・アーチファクト

・温度依存性

・均一性

・線量分解能

・線量範囲(信号範囲)

・線量率依存性

・化学線量計の形状(サイズなど)

・時間依存特性(フェーディング・エージングなど)

(4) 線量評価の際は以下の事項を参考に、使用し評価する。

読み取られたデータを解析する際は、以下の事項に留意し、評価を行うこと。

・線量範囲

・線質依存性

・線量率依存性

・線量積算性

・校正曲線

・均一性(利用する三次元化学線量計の物理学的・化学的均一性など)

・空間分解能

・線量分解能

・化学線量計の形状(サイズなど)

・温度依存性(作製時・保管時・使用時・読み取り時を含む)

・時間依存特性(フェーディング・エージングなど)