○「母集団薬物動態/薬力学解析ガイドライン」について
(令和元年5月15日)
(薬生薬審発0515第1号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
臨床薬物動態を評価するために母集団薬物動態解析及び薬物動態/薬力学解析を実施する際の留意点については、「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日付け医薬審第796号厚生労働省医薬局審査管理課長通知。以下「薬物動態通知」という。)により基本的な考えを示しているところです。
近年、医薬品開発において薬物動態、薬力学及び暴露と応答関係を検討する際に母集団薬物動態/薬力学解析を適用する例が増えるとともに、医薬品開発の国際化が急速に進展しています。こうした中、患者の薬物動態プロファイルの評価、民族間比較及び適切な用法・用量の検討を行う上で、母集団解析は有用性の高い解析手法となっています。このため、薬物動態通知の発出以降に海外で作成されたガイドラインや集積された科学的知見を踏まえ、別紙のとおり、薬物動態通知を補完する「母集団解析/薬力学解析ガイドライン」を作成しました。つきましては、貴管下関係業者等に対し周知方願います。
なお、本ガイドラインでは、本文で示しているとおり、医薬品の開発時における母集団薬物動態/薬力学解析の実施に当たり、現時点において科学的に妥当である一般的な方法を提示しています。そのため、本ガイドラインで示す方法を参考にしつつ、対象となる医薬品の特性を踏まえ、学問や科学技術の進展に基づいて開発された新しい解析手法等も積極的に評価した上で、適切な方法を採用していただきますよう、御留意願います。
(別紙)
母集団薬物動態/薬力学解析ガイドライン
目次
1.はじめに
1―1.背景と目的
1―2.適用範囲
2.試験方法
2―1.治験の計画及び実施
2―1―1.治験計画時の事前検討事項
2―1―2.治験実施計画書に記載すべき事項
2―1―3.母集団解析に関する解析計画書に記載すべき事項
2―1―4.薬物濃度測定に関わる留意事項
2―2.データの取扱い
2―2―1.データの管理
2―2―2.欠測値
2―2―3.定量下限未満の濃度値
2―2―4.外れ値
2―3.モデル構築と診断
2―3―1.母集団薬物動態及び薬力学モデルの構築
2―3―2.モデルの妥当性の診断
2―4.モデルの適格性評価
3.モデルの活用
3―1.特定の対象集団における薬物動態学的又は薬力学的特徴の予測
3―2.臨床試験デザイン
4.報告と情報提供
4―1.母集団解析報告書
4―2.医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき資料
4―3.添付文書における情報提供
5.関連する指針及びガイドライン
6.用語一覧
1.はじめに
1―1.背景と目的
医薬品の臨床開発では、通常、臨床第Ⅰ相試験において、健康志願者を対象に開発医薬品に対する忍容性と安全性及び基本的な薬物動態プロファイルを評価し、また探索的な薬物動態/薬力学についても検討することで、その後の臨床試験の計画と実施に必要な情報を得る。しかし、医薬品の投与対象となる患者集団では、年齢、体重、疾病の種類や重症度、併用薬、遺伝的要因、生活習慣等の背景が多様であり、その結果として患者集団における薬物動態/薬力学は健康志願者集団と異なる場合がある。このため、開発医薬品の適応患者を対象とした臨床第Ⅱ相及び臨床第Ⅲ相試験、小児や高齢者又は薬物の消失に関わる臓器障害を有する集団を対象とした臨床試験、薬物相互作用試験等を通して、用量、薬物動態及び薬力学の関係を把握しておくことは、医薬品の有効性や安全性を予測し、適正な用法及び用量を設定する上で有用な情報を与える。また、特定の要因を有する患者や併用薬のある場合の用量調節の検討においても有用な情報を与える。
薬物濃度等を対象とした解析は、被験者ごとにパラメータ値を推定する標準的な解析と、被験者が属する母集団におけるパラメータ値を推定する母集団解析に大別される。母集団解析は、被験者あたりの検体採取頻度を軽減することで被験者への負担を少なくしつつ、幅広い背景を有する多数の被験者から得られた薬物濃度や臨床評価指標を対象に薬物動態及び薬力学の平均的なパラメータ値とその変動、影響を与える複数の要因の影響を同時に解析することが可能である。このような特徴を有することから、医薬品開発における母集団解析は、開発後期相における適応患者を対象とした臨床試験や小児適応の取得を目的とした開発に活用されてきた。さらに近年、国際共同治験等の複数地域で大規模に実施される臨床試験を対象にした薬物動態/薬力学及び曝露と反応関係の検討において、母集団解析の適用が増えている。医薬品開発の国際化が急速に進展する中、母集団解析は、患者の薬物動態プロファイルの評価、民族間比較、並びに適切な用法及び用量の検討を行う上で有用性の高い解析手法となってきている。
医薬品の特性や開発状況を考慮し、解析に使用したデータ及び関連情報が限られていることによる限界を認識した上で、臨床試験の効率化に役立つ有用な情報を得るために、また医療現場への適切な情報提供のために、母集団モデルを用いたシミュレーションを活用することは有益である。
本ガイドラインは、医薬品開発において母集団解析を用いた評価が適切に実施されるように、現時点における科学的に妥当な一般的な指針を示したものであり、母集団薬物動態/薬力学解析に際しての留意事項及び基本的考え方についてとりまとめたものである。本文書に挙げた各事項は、現時点での科学的知見に基づいて検討されたものであるが、今後の理論とその応用の両面での研究の進展に伴い、新たな知見が得られた場合は、科学的な判断に基づき、柔軟な対応を考慮することが必要である。
1―2.適用範囲
本ガイドラインは、医薬品の臨床第Ⅰ相試験、臨床第Ⅱ相試験、臨床第Ⅲ相試験、製造販売後臨床試験、又は臨床薬理試験のデータ、さらにそれら複数の臨床試験を統合したデータにおける母集団薬物動態又は母集団薬物動態/薬力学の評価に適用するものとする。
2.試験方法
2―1.治験の計画及び実施
治験依頼者は、母集団解析に供するデータを取得する臨床試験について、以下の点に留意して臨床試験計画を立案し、かつ実施することが望ましい。臨床試験計画の立案から解析結果の評価に至る過程においては、臨床薬理学、薬物動態学、生物統計学、さらにはファーマコメトリクス等の関連分野に携わる者の相互の連携が重要である。
なお、製造販売後臨床試験の場合においては、厚生省令第28号「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(1997)第56条(再審査等の資料の基準)の記載に準じて、それぞれ「治験」を「製造販売後臨床試験」と読み替えるものとする。
2―1―1.治験計画時の事前検討事項
(1) 試験デザインに関する留意事項
母集団解析に供するデータを取得する臨床試験の計画に際しては、臨床薬理学、薬物動態学、薬力学、生物統計学及びファーマコメトリクスの観点から事前に検討しておくべき事項がある。
母集団解析では、臨床試験の目的、用法及び用量、適応集団、薬物動態及び作用機序、解析の目的、連続値又は離散値等の収集されるデータの種類、検体採取及びデータ収集上の制約等を考慮した上でモデルが構築される。そのため、既存の情報や試験成績も参考に、薬物動態や薬力学に影響を及ぼす変動要因、薬効指標として検討する測定項目(真のエンドポイント、代替エンドポイント、臨床効果や副作用との関係が確認された臨床薬理学的指標、探索的なバイオマーカー等)、安全性評価の測定項目、検体採取時点、症例数等を適切に設定して試験デザインを立案する。
母集団薬物動態解析において推定すべき特定の薬物動態パラメータが存在する場合には、当該パラメータの推定精度を鑑みた検体採取時点の妥当性を検討しておく。また、血漿タンパク結合率が高い化合物では、非結合形分率の変化又は血中非結合形濃度の変化の有無が検討可能となるような配慮も有用である。
薬効指標や安全性評価データの収集時期については、薬効や有害事象発現時期を考慮し、必要に応じて具体的な時点やその許容幅を規定する。また、曝露と反応関係の効率的な評価が可能となるよう、薬効指標や安全性評価データを得る時期と薬物濃度測定用の検体採取時期との関係について考慮することが重要である。
被験薬の投与を継続的に受けている同一被験者から長期間にわたって母集団解析に関わるデータ収集がなされる場合、例えば、体重、年齢、腎又は肝機能、阻害又は誘導による薬物代謝酵素活性等が、時間に伴い変化することがある。それらの時間に伴う変化を評価する必要がある場合には、検討する項目のデータを経時的に複数回収集する。また、薬物動態及び薬効指標が短期間に大きく変動するような被験薬の場合には、薬物濃度及び薬効指標を同一被験者において繰り返し測定することを考慮する。
過去の成績を用いたシミュレーション等は、母集団解析の計画に関わる薬物濃度や薬効指標として検討する測定項目の採取時点、症例数等の試験デザインの検討に際し有用である。例えば、薬物濃度データや共変量の分布とデータ量を種々変えてシミュレーションを行うことにより、結果にどの程度影響するのかを事前に検討し試験デザインに反映することが可能である。
母集団解析モデルを構築する際の仮定は、解析結果に密接に反映されるため、関心のあるパラメータについて信頼できる推定値が得られるよう、試験デザインを十分に検討することが重要である。
(2) データ収集計画策定時の留意事項
薬物濃度測定用検体の採取計画は明瞭に規定する。母集団解析を前提とする検体の採取計画においては、標準的な薬物動態試験における検体採取時点より広い幅をもって規定することが許容されるが、関心のあるパラメータ値の推定に必要な薬物濃度データを得るために、検体採取時点が特定の時間に集中することがないように、検体採取時点を複数設定しておくことが望ましい。臨床試験を実施する環境において対応しやすい現実的な方策としては、予め目安とする検体採取時間帯の幅をもって提示し、その範囲内において検体採取を行う。その際、実際に検体採取した時刻を正確に記録する。検体採取時刻との関連において投与時刻の正確な情報を得ることは薬物動態解析をする上での基本であり、評価対象とする被験薬の消失半減期等も勘案しつつ、検体採取時刻から適切な時間を遡った投薬履歴の情報を得る。点滴投与の場合は、点滴開始時刻とともに点滴終了時刻の正確な記録が必要である。
併用薬による影響を評価する場合には、それらの投与情報も取得する必要がある。服薬の不遵守は、推定されたパラメータの解釈を誤らせる可能性があるため、適切な手段を講じて、服薬の不遵守が極力発生しないようにするとともに、原則として、症例報告書や患者日誌の利用等によって、客観的な服薬記録が入手できる仕組みを構築することも必要である。
2―1―2.治験実施計画書に記載すべき事項
治験実施計画書に記載すべき母集団解析に関わる事項として、母集団解析の主要な目的のほか、当該臨床試験のデータを他の臨床試験データと統合して解析を行うことが明らかである場合には、その旨を記載する。また、臨床試験実施時に母集団解析を実施することが明確な場合で、母集団解析に関する解析計画書を他の解析計画書とは独立して作成する場合には、その旨を治験実施計画書に記載する。
2―1―3.母集団解析に関する解析計画書に記載すべき事項
解析計画書には、母集団解析の目的、方針及び手順等の技術的な側面を記述する。解析計画書に記載すべき基本的事項としては、母集団解析の対象とする試験及び被験者、並びにその選択根拠、解析に使用するモデルの選択方法、パラメータ等の推定方法、解析に用いるソフトウェア、また予想される解析上の問題(例えば、欠測値、定量下限未満の濃度値又は外れ値といったデータの取扱い)等がある。母集団解析の目的が複数ある場合、必要に応じて主要な目的と副次的な目的は区別して示す。母集団解析の対象とする被験者を、健康志願者若しくは適応患者又はその両者とするのか、民族や年齢等の背景因子に基づいて限定した被験者を対象とするのか等は、母集団解析の目的に応じて判断する。当該被験薬について他の適応に対して既に構築されたモデルを用いて解析を開始する場合や成人で確立されたモデルを小児へ適用する場合には、既存のモデルを利用した旨と採用できると考えた根拠を記載する。また、モデルの構築に関しては、予定されるモデル構築の方法、共変量をモデルへ組み入れるか否かの採用基準、モデルの診断及び適格性評価等に関する方法についても、解析計画書に記載する。
なお、解析計画書作成の時期は、当該臨床試験のデータを他の臨床試験データと統合して解析するか否かにもよるが、解析の目的に応じてデータ固定前等、解析開始前の適切な時期に作成する。事前に作成した解析計画書に明記されていない追加解析の必要性が生じた場合には、解析内容に応じて、追加解析実施前に解析計画書を作成するか、追加解析実施後に解析内容及び解析を行った経緯を母集団解析報告書に記載する必要がある。
2―1―4.薬物濃度測定に関わる留意事項
薬物の定量分析は、生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関する各種ガイドラインに準じて適切にバリデートされた方法で実施する。薬物濃度測定はひとつの施設で集中して実施するセントラルラボ方式とすることが望ましい。多施設で薬物濃度測定を実施する場合には、施設間における測定値の一致性等を予め確認しておくことが望ましい。
薬物濃度、投薬履歴、共変量等のデータ収集を随時行い、それらデータの分布偏在の有無など内容を把握しておくことは、母集団解析に用いるデータが臨床試験のデータ固定時まで入手できない場合と比較して効率的な解析が期待できる。しかし、臨床試験が二重盲検法により実施されている場合には、臨床試験期間中の随時のデータ収集に際して臨床試験の盲検性を維持するための適切な方策が必要である。
検体に関わる留意事項としては、臨床試験実施施設における検体の調製、保管、臨床試験実施施設から測定施設への運搬、測定施設における分析に至るまで、人、場所、機材等を適切に確保し、一連の過程が円滑に進められるよう配慮すべきである。臨床試験が長期にわたる場合には、各検体の安定性保証期間中に分析が終了するよう測定計画を立てる。
2―2.データの取扱い
2―2―1.データの管理
母集団解析結果の妥当性及び信頼性を保証するためには、その前提となる統計処理方法及びソフトウェアの品質並びにそれらの妥当性に加えて、解析用データの管理が重要である。解析用データの管理は、標準業務手順書(SOP)等、事前に作業手順が規定された適切な文書に基づいて行われるべきである。データ管理のフローの一例について図1―1及び図1―2に示す。母集団解析ではいくつかの試験を統合して実施することが多い。解析用データは、個別の臨床試験データベースから必要な項目を抜き出し、統合及び加工して作成する場合や(図1―1)、複数の臨床試験データが統一のフォーマットに従い保存されている臨床試験データベースから必要な項目を抜き出し加工して作成する場合がある(図1―2)。いずれの場合にも、あらかじめ解析用データの仕様書を作成する。臨床試験データから解析用データを作成する一連のプロセスについて、追跡可能性(トレーサービリティ)を担保することが重要である。作成したデータが適切か否かは、データの図示による視覚的な確認や要約統計量の確認等により判断する。
図1―1 解析用データ管理のフローの一例:個別の臨床試験データベースから必要な項目を抜き出し、統合及び加工して作成する場合
図1―2 解析用データ管理のフローの一例:統合データベース(臨床試験データベース)から必要な項目を抜き出し加工して作成する場合
2―2―2.欠測値
欠測値は推定結果を偏らせ、ひいては誤った結論を導く原因となる可能性があるため、欠測値を減らすあらゆる努力を払うべきである。欠測値が生じる状況として、共変量データの一部が欠測値となる場合と、薬物濃度及び臨床反応に関する測定値そのものが欠測値となる場合があるが、いずれの場合であっても、解析結果の解釈が困難になることがある。そのため、薬物濃度、臨床反応及び共変量データが欠測となることで起こりうる問題とその対処方針を事前に検討し、解析計画書にその方針を記載しておく。また、事前に検討した対処方針に加えて、必要に応じて感度分析等を実施することにより欠測値の影響を検討する。
2―2―3.定量下限未満の濃度値
定量下限未満の濃度値を単純に解析データより削除したときには、パラメータ推定値にバイアスが生じる場合がある。母集団解析法における定量下限未満の濃度値の取扱いについては、解析用データの特性又は解析の目的に応じて適切な方法を選択する。
2―2―4.外れ値
外れ値の定義及び取扱い方針は可能な限り解析計画書に明記する。外れ値を含めた場合と除外した場合の結果に基づき、外れ値が結果へ及ぼす影響について考察し、母集団解析報告書に記載する。外れ値を除外し解析する場合は、その判断した根拠を生理学的事象、臨床試験関連事象等から説明する。
2―3.モデル構築と診断
母集団解析は、モデルの構築とその診断の繰り返しにより進められる。適用する診断法の種類とレベルについては、解析のステージに応じて適切に選択する。また、モデルの構築や診断に用いられるアルゴリズムについては、日々新しい手法が研究されている。解析担当者はアルゴリズムを正しく理解し、母集団解析の各段階でどの手法を用いるか十分検討する必要がある。
以下に、一般的なモデルの構築及び診断方法を解説するとともに、図2に母集団解析フローの一例を示す。
図2 母集団解析フローの一例
2―3―1.母集団薬物動態及び薬力学モデルの構築
母集団薬物動態及び薬力学モデルはモデル構築の段階に応じて、母集団基本モデルと母集団最終モデルと呼ばれる。母集団基本モデルは、構造モデル、個体間変動と個体内変動(誤差モデル)、及び薬物動態/薬力学に影響を及ぼすことが明らかとなった共変量(共変量モデル)から構築される。母集団最終モデルは、母集団基本モデルに対して重要な共変量の組み込み、さらにその妥当性の評価を行い得られたモデルである。
以下、構造モデル、誤差モデル及び共変量モデルについて解説する。ただし、モデル構築全体の過程は必ずしもこの順に行う必要はない。解析の過程、結論に至った道筋、複数の選択肢から特定のモデルを選択した根拠等を明確に示し、遡及的に検討ができ、解析結果を客観的に再現できることが重要である。
(1) 構造モデル
構造モデルとは薬物動態及び薬力学を記述するモデルであり、コンパートメントモデル、Emaxモデル等が挙げられる。構造モデルの選択にあたってまず考慮すべき点は、観測値の特徴を適切に表しうるモデルを選択することである。この特徴とは、線形又は非線形、一相性又は多相性の挙動等を含む。さらに、構造モデル構築に際しては、得られたデータの情報量を考慮しなければならない。例えば、消失相のみで検体採取された薬物濃度データからは吸収相に関する薬物動態パラメータは推定できない。
線形/非線形モデルの区別、及び最適なコンパートメント数に関しては、臨床第Ⅰ相試験等の早い時期に行われた臨床薬物動態試験の結果が参考となる場合が多い。しかしながら、モデルの選択、特にコンパートメント数に関しては、検体採取の頻度やスケジュールに依存するため、既に得られている試験結果と必ずしも一致させる必要はない。実際に得られたデータの性質に比べ、過剰なパラメータ数の設定は避けるべきであり、例えば、各患者から少数回の検体採取により得られた薬物濃度データのみに基づいて解析する場合、簡略化したモデルがより適切な場合もある。一方、臨床第Ⅰ相試験の多数回検体採取による薬物濃度データに加え、臨床第Ⅱ相試験以降の少数時点検体採取による薬物濃度データを統合して解析する場合は、必ずしも構造モデルを簡略化する必要がない場合もある。
(2) 誤差モデル
一般に、母集団解析においては個体間変動と個体内変動の2種類の誤差項を設定してモデル構築を行う。
個体間変動をパラメトリックに記述する際、汎用される誤差分布は正規分布と対数正規分布の2種類である。前者は等誤差モデルとも呼ばれる。後者は比例誤差モデルに相当する。個体内変動については、等誤差モデルと比例誤差モデルに加えて、その両者を混合したタイプの誤差モデルも用いられる。すなわち、低濃度領域のデータは一定の分散を持つが、高濃度領域では濃度に比例した誤差が測定データに含まれている場合を想定する。いずれの誤差モデルが適切かについては、パラメータ推定値の分布の検討、測定に用いられた手法により生じる誤差モデルの考慮、種々の残差プロット等のモデルの診断(モデルの診断については2―3―2項に詳述)等により判断する。
また、複数の個体間変動パラメータ間に相関が認められる場合には、相関を適切にモデル化して解析する場合もある。ただし、共変量として重要な影響要因を見落としていることに伴い見かけの相関が認められる場合もあるため、誤差モデルと共変量モデルの探索は相互に行う必要がある。個体間変動パラメータは、データから個体間変動を推定しうる構造パラメータに設定する。
なお、上記2種類の誤差に加えて、個体別パラメータの時期間変動についても考慮する場合がある。この場合は、個体間、個体内及び時期間変動の3種類の誤差項を設定する。
(3) 共変量モデル
母集団解析において適切な共変量モデルを構築することは、個体間変動を引き起こす要因の特定につながる。共変量を選択する際には、臨床的及び薬物動態学的観点から重要と考えられる要因を考慮する。
モデルへ組み込まれる共変量は、観測された共変量の分布に依存する。例えば、腎排泄型の薬物であっても、被験者全例が腎機能正常者であれば、腎機能とクリアランスの関係は得られない。また、小児期の発達との関連性を解析する場合、各年齢層に被験者がバランス良く分布したデータが得られていない場合には、その解析結果の信頼性は低くなる。一般に、特定の要因について解析することを目的とするならば、それに見合うデータを収集する試験実施計画が必要である。
母集団基本モデルの構築の際、薬物動態/薬力学に影響を及ぼすことが明らかな共変量を構造モデルに予め組み込んでおくことが適切な場合もある。例えば、体表面積あたりの用量で投与される薬物の場合、クリアランスに予め体表面積を組み込んでおくことにより臨床適用しやすい結果を導くことができる。非線形混合効果モデル法での母集団最終モデルの構築過程における共変量選択の方法には、変数増加法、変数減少法、ステップワイズ法、フルモデル法等がよく用いられている。これら以外の方法でも、用いるアルゴリズムに従い合理的に最適な共変量モデルを構築できればよい。
共変量を選択するときには、例えば高齢者における年齢と腎機能低下のように、共変量間の相関に注意が必要である。解析にあたっては、基本的に独立した因子について共変量の影響を検討する。共変量として考慮すべき複数の因子が強い相関を持つ場合には、相関する因子の中で生理学的及び臨床的により適切な因子を選択してモデル構築を行うことが望ましい。相関が強い二つの共変量がデータセットに含まれる場合には、共変量の影響をモデルに同時に取り込んで解析することにより、初期値や解析データセットの違いで解析結果が大きく異なる、又は解析が収束しないといった不安定な結果にならないか等について検討する。また、生理学的及び臨床的により適切であり、医療現場で利用しやすい共変量を選択する。したがって、共変量選択は、統計学的有意性のみによらず、臨床的、薬力学的及び薬物動態学的な知見や考察に基づき、それを統計学的評価で確認していくことが必要である。
2―3―2.モデルの妥当性の診断
構築されたモデルは、解析結果の安定性及び頑健性の観点、並びに得られたパラメータ推定値の妥当性の観点、解析したデータを再現する予測性能の観点等から、その妥当性を診断する。妥当なモデルというのは、あくまで解析目的に依存して決まるものであり、モデルの妥当性を判断する基準を一義的に定めることはできない。したがって、構築されたモデルの妥当性を客観的に明示するために、目的に応じた適切な診断を行う必要がある。
解析結果の安定性及び頑健性については、初期値の影響、モデル構築で用いた仮定や設定の影響、データの平均的傾向から外れた観測値や共変量データを持つ個体を除外した場合の影響等の検討により診断できる。結果に対して大きな影響を及ぼし得る観測値や個体は、例えば、目的関数に及ぼす影響によっても識別できる。また、パラメータ推定値の推定誤差の大きさが許容できる程度に小さいことも、解析結果の安定性及び頑健性を判断するための情報の一つである。これに加えて、ブートストラップ法、ジャックナイフ法、プロファイル尤度等の方法で推定した信頼区間も解析結果の安定性及び頑健性を判断するために有用である。このような信頼区間を与える診断方法のうち、ブートストラップ法は、解析に用いたオリジナルのデータセットから個体データをランダムに復元抽出してデータセットを作成し、パラメータ推定値を得る手続きを繰り返して推定値の要約統計量を求め、オリジナルのパラメータ推定値との比較から、そのバイアスや精度に関する評価を行うものである。ブートストラップ統計量は、収束値が正常に得られた場合の集計から得ることになるが、異常終了の割合が高い場合には、異常終了の原因やその際の結果についても吟味されるべきである。
パラメータ推定値の妥当性については、一般的に、モデル予測値と観測値との一致性、投与後時間や予測値に対する残差の依存性、時間や投与量又は主要共変量等に対する個体間パラメータの事後推定値の依存性やバイアス、個体間又は個体内変動の分布や不均一性、外れ値等の確認を視覚的に行う一方、臨床的、薬力学的及び薬物動態学的な妥当性も鑑みて、総合的に診断される。変量効果が極端に小さくゼロに近い推定値が得られる場合、個体間変動を推定するために十分な情報が得られていないことを示している可能性について留意する必要がある。また、個体別パラメータの事後推定値が、情報量の不足から母集団平均の近傍に偏るシュリンケージ現象を起こすことがあるので、その現象の有無の確認が必要である。共変量探索を行うパラメータに対する変量効果に大きなシュリンケージが認められる場合、その評価には注意が必要である。
モデルの持つ予測性能を視覚的に評価するためには、個体間変動誤差及び個体内変動誤差を加味したシミュレーションに基づく評価方法である、視覚的事後予測性能評価(visual predictive check:VPC)が用いられる。この方法では、パラメータ推定値を用い、解析データセットに対応するモデル予測値をシミュレーションし、その中央値と適切なパーセンタイル区間を実際の観測値のプロットと重ね合わせることで視覚的に評価する。予測中央値に対する均等な観測値のばらつきや、観測値が予測区間内に入る割合等を総合的に考慮し、構造モデル並びに個体間及び個体内変動誤差モデルの妥当性を評価する。予測値のばらつき具合の評価では、観測値のデータ数に応じて、予測値のパーセンタイル区間や時点の集計範囲を柔軟に設定し、視覚的比較が適切に行えるよう配慮する。投与量や主要な共変量が異なる群を合わせて評価する場合には、母集団予測値による補正(prediction corrected VPC)等を行うが、主要な共変量の群ごとにプロットを作成し、要因ごとの予測性能を評価する方が有用な情報を与える場合がある。
同じ母集団から得られるデータに対する予測性能をより厳密に保証するために、モデル構築に用いなかったデータセット(検証データセット)に対する予測性能を評価する場合がある(外部検証法)。しかしこの方法には、データの分割によりモデル構築に用いるデータが少なくなること、1回の分割により評価する不確かさが生じ得る問題を有する。この欠点を補うためには、データ分割、モデル構築及び予測性能評価を繰り返し行うクロスバリデーション法が用いられる。この方法では、一連のプロセスを繰り返すことにより、予測性能評価に用いるデータの分布が極端に偏っていた場合に誤った判断をするリスクを避け、かつモデル構築に使用するデータの割合を多くすることが可能になる。
2―4.モデルの適格性評価
モデルの適格性評価とは、母集団最終モデルを構築した際に、そのモデルが解析目的を満たすのに十分な性能を有するのか、モデル診断の結果に基づいた客観的な評価を行うことである。モデル診断と同様、いかなる解析目的に対しても常に適用可能な一般的な適格性の評価基準は存在しないことから、個々の解析ごとに、薬物の特性を踏まえ、臨床的、薬力学的及び薬物動態学的観点から、適切な複数のモデル診断と実務上必要な評価水準を定める必要がある。そして、母集団最終モデルを適格と判断した根拠として、採用したモデル診断手法とその評価結果を報告する必要がある。
3.モデルの活用
母集団解析により構築した最終モデル及びパラメータ推定値は、適正な用法及び用量を設定する上で有用な情報を与え、併せて医薬品を適正に使用する上で有益な情報となりうる。さらに、特定の対象集団の薬物動態学的又は薬力学的な挙動の推定や臨床試験の立案にも活用できる場合がある。モデルの活用における留意点について、以下に概説する。
3―1.特定の対象集団における薬物動態学的又は薬力学的特徴の予測
母集団モデルに組み込まれた共変量がある特定の対象集団の特徴を説明する因子である場合、特定の集団での薬物動態学的又は薬力学的プロファイルを誤差モデルも組み込んだシミュレーションにより検討することが有用な場合もある。なお、解析対象集団における共変量の分布を超える範囲についてシミュレーションにより外挿する場合は、分布の端から遠ざかるにつれて予測値の信頼性は低下することに留意する必要がある。
3―2.臨床試験デザイン
個体間変動、個体内変動、検討対象の臨床試験で想定される患者群での共変量の分布等の情報を考慮した確率論的シミュレーションによる臨床試験結果の予測は試験計画の立案に有用な場合がある。例えば、臨床第Ⅱ相試験の実測値を用いた解析結果だけでなく、この結果に臨床第Ⅱ相試験までに収集された薬物動態及び薬力学データに基づくモデル解析とシミュレーションを追加して検討することで、臨床第Ⅲ相試験の試験計画の立案や意思決定を確度高く行える場合がある。ただし、シミュレーションはさまざまな近似や仮定を伴うため、事前にモデル構築の前提となった仮説、対象集団の背景、当該疾患に関する予後因子等を吟味し、解析に使用したデータ及び関連情報が限られることによるシミュレーションの限界を認識しながら検討する必要があることに留意する。
また、共変量を含むシミュレーション用データ(シミュレーション対象集団)を作成する際には共変量間の相関に注意を払うべきである。特に、採用した共変量に対する平均及び分散推定値を用いて、正規分布、一様分布等の確率分布に基づく乱数からサンプリングし、新たなデータを発生させるようなパラメトリックサンプリングの場合、限られたデータの推定値分布からのサンプリングが予測バイアスを生ずる可能性がある。また、パラメータ間の共分散、パラメータと共変量との交互作用等を適切に再現できない可能性もある。
4.報告と情報提供
4―1.母集団解析報告書
母集団解析に関する解析計画書の記載内容に従い、母集団解析報告書を作成する。母集団解析報告書には以下のような内容が記載されていることが望ましい。ただし、母集団解析に関する結果を治験総括報告書に含める場合や母集団解析の目的によっては簡略化された母集団解析報告書が適切な場合がある。なお、解析結果を医薬品製造販売承認申請に際し添付すべき資料として位置付ける場合には、データ管理、解析及び報告書作成の品質管理及び品質保証が適切に履行される必要がある。
1) 概要
母集団解析を要約する簡潔な概要を示す。概要には、解析の目的、方法、結果及び主要な結論を説明するための十分な情報を含める。
2) 緒言
緒言には、被験薬の背景情報、被験薬の開発における当該解析の位置付け等について簡潔に記載する。
3) 母集団解析の目的
母集団解析の目的を記載する。母集団解析の目的が複数ある場合、主要な目的と副次的な目的は区別して示されることが望ましい。
4) 母集団解析の方法
以下に示すような母集団解析の対象とした臨床試験、解析に用いたデータ、データ解析方法等の全般的方法について記載する。解析計画書に記載した解析計画からの変更があった場合は、変更点を示す。
・ 母集団解析の対象とした臨床試験
母集団解析の対象とした臨床試験を特定し、それぞれについての試験デザインや内容、対象被験者及び症例数、被験者の背景情報、薬物、用法及び用量等、投与に関する情報について簡潔に記載する。
・ 解析に用いたデータ
母集団解析で検討した薬物濃度及び臨床評価指標の評価項目、薬物濃度及び薬効指標データ収集に関する検体採取回数、検体採取時点、指標測定時点等の情報、並びに母集団解析で共変量として検討した項目について記載する。クレアチニンクリアランスのように計算によって求めた値を使用した場合は、その計算式を記載する。また、欠測値、定量下限未満の濃度値及び外れ値の取扱い方法について記載する。
・ データ解析方法
選択した母集団解析方法、ソフトウェア及びそのバージョン、コンパイラやオペレーティングシステム(OS)等のソフトウェアの動作環境、パラメータ値の推定方法、パラメータの設定や変量効果の分布等のモデルの構成要素や仮定に関する情報、全般的なモデルの構築方法、共変量モデルの構築手順(ステップワイズ法、フルモデル法等)、共変量の採用基準(p値等)、モデルの診断及びモデルの適格性評価の方法等について記載する。
5) 解析結果
解析結果として、以下の内容を記述するとともに適切な図又は表を用いて要約する。
・ 解析の対象とした母集団及びデータの特性
被験者数と測定データ数、時間―薬物濃度のプロット、測定データのプロファイル、人口統計学的変数及びその他共変量の要約統計量、外れ値及び欠測値への対処結果等を提示する。
・ モデル構築結果
母集団最終モデルを決定するまでの過程とその判断根拠を明確に示した上で記載する。母集団基本モデルと母集団最終モデルについては、パラメータ推定値とその推定誤差及び診断プロットを提示する。共変量モデル構築過程については、共変量間の相関を示す図及び母集団基本モデルから得た個体別パラメータの事後推定値と共変量との相関を示す図を提示して説明することが望ましい。また、最終モデルについてはモデルの適格性評価結果を提示する。
6) 考察及び臨床適用
モデル構築及び推定値の妥当性と臨床的意義について考察する。構築した母集団最終モデルを投与設計等の目的に応用する場合には、母集団最終モデルを用いたシミュレーションの結果をその信頼性も含め図示することが推奨される。
7) 付録
母集団基本モデルと母集団最終モデルの構造を記述したモデルファイル及び出力結果、解析に使用したデータセット(数例分の被験者を抽出した部分的なデータセットでも可)を付録に添付する。また、本文中に含めなかった図表を付録に含めても良い。
4―2.医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき資料
母集団解析結果を医薬品の製造販売承認申請に際し添付すべき資料(コモン・テクニカル・ドキュメント:CTD)として用いる場合には、関連する一連の通知等に従い、母集団解析報告書を添付するとともに、母集団解析報告書に基づき、CTD2.7臨床概要を作成する。臨床概要では、解析対象としたデータ、モデル構築の手順、検討した薬物動態、薬力学又は曝露と反応関係の最終モデルと得られた母集団パラメータ推定値、及びモデルに基づくシミュレーションを、そのモデルの診断及び適格性評価を含めて、図表等により提示する。また、医薬品の薬物動態及び薬力学プロファイルの記述にあたり、必要に応じて母集団解析の情報をCTDの関連箇所に適切に反映させる。
承認申請時の電子データの提出対象となる母集団解析については、関連する一連の通知等に従い、電子データを提出する。
4―3.添付文書における情報提供
添付文書において母集団解析結果を提供することが有用と判断された場合は「薬物動態」又は他の適切な項に記載する。シミュレーション結果が重要な注意喚起の根拠となる場合は、必要に応じて「使用上の注意」の適切な項にも注意喚起の記載を行い、「薬物動態」を参照する旨を記載する。
記載にあたっては、医薬品の投与対象となる患者集団での薬物動態情報を提供する場合、薬物動態又は薬力学の変動要因の情報を提供する場合、特定の対象集団における用量調節指針の根拠となる情報を提供する場合等、母集団解析結果の医療現場での活用を念頭におき、情報提供を行う。
5.関連する指針及びガイドライン
本ガイドラインは、母集団解析の実施にあたり、科学的に妥当な一般的な指針を提示したものである。既に公表されているガイドラインや指針等にも母集団解析に関する記述が含まれているが、本ガイドラインはそれらの内容を統合して整理するとともに、現時点での最新の知見及び考え方を組み込んだものである。
ICHガイドライン
1) 平成7年3月20日付 薬審第227号 治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて(ICH E2Aガイドライン)
2) 平成17年3月28日付 薬食安発0328007号 承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準について(ICH E2Dガイドライン)
3) 平成17年9月16日付 薬食審査発第0916001号、薬食安発第0916001号 医薬品安全性監視の計画について(ICH E2Eガイドライン)
4) 平成8年5月1日付 薬審第335号 治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて(ICH E3ガイドライン)
5) 平成6年7月25日付 薬審第494号 「新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討のための指針」について(ICH E4ガイドライン)
6) 平成10年8月11日付 医薬発第739号 外国で実施された医薬品の臨床試験データの取り扱いについて、同日付医薬審第672号 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(ICH E5ガイドライン)
7) 平成9年3月27日付 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令、同日付 薬発第430号 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について(ICH E6ガイドライン)
8) 平成5年12月2日付 薬新薬第104号 「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」について(ICH E7ガイドライン)
9) 平成10年4月21日付 医薬審第380号 臨床試験の一般指針(ICH E8ガイドライン)
10) 平成10年11月30日付 医薬審第1047号 「臨床試験のための統計的原則」について(ICH E9ガイドライン)
11) 平成12年12月15日付 医薬審第1334号 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて(ICH E11ガイドライン)
12) 平成20年1月9日付 薬食審査発第0109013号、薬食安発第0109002号 ゲノム薬理学における用語集について(ICH E15ガイドライン)
13) 平成21年7月7日付 薬食審査発0707第3号 新医薬品の製造販売の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料に関する通知の一部改正について(ICH M4及びM8ガイドライン)
14) 平成30年1月18日付 薬生薬審発0118第1号 ゲノム試料の収集及びゲノムデータの取扱いに関するガイドラインについて(ICH E18ガイドライン)
15) 平成29年12月27日付 薬生薬審発1227第5号 小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺について(ICH E11(R1)ガイドライン)
国内の指針等(薬物動態関連)
1) 平成13年6月1日付 医薬審発第796号 医薬品の臨床薬物動態試験について
2) 平成19年9月28日付 薬食審査発第0928010号 国際共同治験に関する基本的考え方について
3) 平成25年7月11日付 薬食審査発0711第1号 「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」について
4) 平成26年4月1日付 薬食審査発0401第1号 「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン」について
5) 平成26年6月20日付 薬食審査発0620第6号 承認申請時の電子データ提出に関する基本的考え方について
6) 平成27年4月27日付 薬食審査発0427第1号 承認申請時の電子データ提出に関する実務的事項について
7) 平成27年12月25日付 薬生審査発1225第10号 「抗菌薬のPK/PDガイドライン」について
8) 平成30年7月23日付 薬生審査発0723第4号 「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」について
国内の指針等(添付文書関連)
1) 平成29年6月8日付 薬生発0608第1号 医療用医薬品の添付文書等の記載要領について
2) 平成29年6月8日付 薬生安発0608第1号 医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項について
海外のガイドライン/ガイダンス等
1) FDA:Guidance for Industry:Population Pharmacokinetics(1999.2)
2) FDA:Guidance for Industry:Exposure-Response Relationships―Study Design, Data Analysis, and Regulatory Applications(2003.5).
3) FDA:Guidance for Industry:End-of-Phase 2A Meetings(2009.9).
4) FDA:White Paper:Challenge and Opportunity on the Critical Path to New Medical Products(2004.3)
5) FDA:Guidance for Industry:General Clinical Pharmacology Considerations for Pediatric Studies for Drugs and Biological Products(draft, 2014.12)
6) EMA:Guideline on the clinical investigation of the pharmacokinetics of therapeutic proteins(2007.7)
7) EMA:Guideline on reporting the results of population pharmacokinetic analyses(2008.1)
8) EMA:Guideline on the use of pharmacokinetics and pharmacodynamics in the development of antimicrobial medicinal products(2017.2)
6.用語一覧
1章
1) 母集団解析(population analysis):集団における薬物動態又は薬力学反応を、母集団平均(固定効果)とそこからの変動(変量効果)をモデル化し両者を解析する手法。
2章
2) 構造モデル(structural model):薬物動態又は薬力学反応を記述するための数学モデル。
3) 時期間変動(inter-occasion variability):評価対象時期間で被験者のパラメータ値が変わることにより生じる変動。一般的には、時期間で生じる変量効果としてモデル化する。
4) 個体内変動(intra-individual variability/within-subject variability):被験者内でパラメータ値が異なることにより生じる変動。パラメータ値の、時期や共変量に依存した固定効果としてモデル化したり、時期間で生じる変量効果(時期間変動inter-occasion variability)としてモデル化したりする。モデル化しない場合、残差変動(residual variability)と区別されない。
5) 個体間変動(inter-individual variability/between-subject variability):被験者間でパラメータ値が異なることにより生じる変動。母集団平均パラメータ値に対する変動(変量効果)としてモデル化される。
6) 外れ値(outlier):薬物動態又は薬力学反応の観測値の場合は、モデル当てはめの結果、そのモデルから得られるとは想定できないほど、モデル予測値との乖離が大きな観測値のこと。個体の共変量の場合は、被験者集団における共変量の標本分布から考えて、特に乖離が大きな値のこと。必ずしも生理学的にあり得ない値として同定されるものではない。
7) 共変量(covariate):薬物動態や薬力学反応に影響を及ぼす要因。被験者の内因性(体重、性別、年齢等)や外因性(併用薬、喫煙等)の要因、投与条件(製剤、用法及び用量、食事条件等)等が挙げられる。
8) 感度分析(sensitivity analysis):母集団解析では主に、モデルの安定性及び頑健性を評価する目的で、データ又はパラメータの変化に対する解析結果の依存性を確認する検討をいう。
9) 母集団基本モデル(base model):固定効果と変量効果よりなる、通常共変量探索実施の前に確立される母集団モデルのこと。
10) 母集団最終モデル(final model):解析目的を満たすと判断され、最終的に採用されたモデルのこと。通常、母集団基本モデルを基に共変量探索の末に確立されたモデルを指す。
11) 誤差モデル(error model):個体間変動又は個体内変動といった、母集団平均やモデル予測値からの変動を記述するモデル。
12) 残差(residual error):薬物動態又は薬力学反応の観測値とモデル予測値との差。
13) 個体別パラメータ(individual parameter):母集団パラメータ値の推定後、事後的に経験ベイズ推定によって得られる被験者ごとのパラメータ推定値。経験ベイズ推定値(empirical Bayes estimates)、又はポストホック推定値(posthoc parameter estimate)とも呼ばれる。
14) 変数増加法(forward selection):母集団パラメータに影響を及ぼす共変量を探索する際、通常は共変量を含まない単純なモデルから始めて、事前に設定した統計学的有意水準を満たし、かつ、影響の大きい共変量から順次モデルに組み込み、新たに追加できる有意な共変量がなくなった段階で終了する手法。
15) 変数減少法(backward elimination):母集団パラメータに影響を及ぼす共変量を探索する際、予備的に選択された全ての共変量を組み込んだモデルから始める手法。事前に設定した統計学的有意水準を満たさず、かつ、影響の小さい共変量より順次モデルから省いていき、モデル中の全ての共変量の効果が有意となった段階で終了する。
16) ステップワイズ法(stepwise covariate modeling):母集団パラメータに影響を及ぼす共変量を探索するための手法で、事前に設定した統計学的有意水準を元に、共変量の追加及び除外による検定を逐次的に実施し、最終的な共変量モデルを得る。
17) フルモデル法(full model estimation with all inclusive covariates):母集団パラメータに影響を及ぼす共変量を探索するための手法で、母集団パラメータに対する影響を評価したい共変量を事前に特定し、それらの共変量を母集団基本モデルに全て組み込み、共変量の母集団パラメータへの影響を評価する手法。特定の共変量効果の程度は、推定した共変量の効果の信頼区間から判断する。
18) ブートストラップ法(bootstrap):モデル診断やモデルの適格性評価において、パラメータ推定値の推定精度や偏りを評価する方法の一つ。元のデータセットから被験者単位のデータを復元抽出してブートストラップデータセットを作成しモデル当てはめを行う操作を繰り返し、パラメータ推定値の標本平均及び分布を得る。
19) 変量効果(random effect):母集団モデルにおいて、母集団平均からの変動を確率論的に表現する。
20) シュリンケージ(shrinkage):過剰な変量効果パラメータを有することが原因で、事後的な個体別パラメータ(経験ベイズ推定値)が母集団平均の近傍に縮小される(η-shrinkage)ことや、残差の分布がゼロ付近に縮小される(ε-shrinkage)ことを言う。
21) 事後予測性能評価(predictive check):モデルの持つ予測性能を包括的に評価するために用いられるシミュレーションに基づく評価方法の一つ。観測値との比較や特性の一致性を、視覚的に行う場合(視覚的事後予測性能評価、visual predictive check:VPC)、数値比較する場合(数値的事後予測性能評価、numerical predictive check:NPC)、そして統計的に比較する場合(確率的事後予測性能評価、posterior predictive check:PPC)等がある。
22) 外部検証法(external validation):モデル診断のうち最も厳格な手段の一つ。モデル構築には用いなかった別試験から得られたデータを検証データセットとして、得られたモデルの予測性能を評価する。一方、モデル構築に用いたデータを分割やリサンプリングの方法によって再利用し、得られたモデルの予測性能を評価する方法を内部検証法(internal validation)という。
23) クロスバリデーション(cross validation):モデル診断における内部検証法の一つ。データ分割により得たインデックスデータセットによってモデル構築を行い、残りの検証データセットによってモデルの予測性能の評価を行うことを繰り返し実行する。
3章
24) パラメトリックサンプリング(parametric sampling):平均及び分散の推定値から得た確率分布より乱数を利用してパラメータや観測値を発生又は抽出すること。
25) 確率論的シミュレーション(stochastic simulation):誤差を考えているシミュレーションであり、乱数を発生させ、多数の被験者のパラメータの分布を求めるシミュレーションのこと。