添付一覧
○「食中毒処理要領」及び「食中毒調査マニュアル」の改正について
(平成31年3月29日)
(生食発0329第17号)
(各都道府県知事・各保健所設置市長・各特別区長あて厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)
(公印省略)
「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第46号。以下「改正法」という。)については、平成30年6月13日に公布され、同日付け生食発0613第10号「「食品衛生法等の一部を改正する法律」の公布について」により通知したところです。
この改正法のうち、平成31年4月1日に予定している広域的な食中毒事案への対策強化に関する規定の施行に伴い、「食中毒処理要領」(昭和39年7月13日付け環発第214号別添(最終改正:平成25年3月29日付け食安発0329第1号))及び「食中毒調査マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号別添(最終改正:平成25年3月29日付け食安発0329第1号))を別添1、別添2のとおり改正するので、御了知の上、その運用に遺漏無きよう対応方よろしくお願いします。
○「食中毒処理要領」及び「食中毒調査マニュアル」の改正について
(平成31年3月29日)
(生食発0329第18号)
(各地方厚生(支)局長あて厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)
(公印省略)
「食品衛生法等の一部を改正する法律」(平成30年法律第46号。以下「改正法」という。)については、平成30年6月13日に公布されたところである。
この改正法のうち、平成31年4月1日に予定している広域的な食中毒事案への対策強化に関する規定の施行に伴い、「食中毒処理要領」(昭和39年7月13日付け環発第214号別添(最終改正:平成25年3月29日付け食安発0329第1号))及び「食中毒調査マニュアル」(平成9年3月24日付け衛食第85号別添(最終改正:平成25年3月29日付け食安発0329第1号))を別添1、別添2のとおり改正するので、御了知の上、その運用に遺漏無きよう対応を願いたい。
[別添1]
食中毒処理要領
Ⅰ 趣旨
食品衛生の目的は、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ることにあるが、もし万一食中毒が発生した場合には、直ちにその拡大防止に努めなければならない。そのためには、食中毒発生を早期に探知もしくは発見し、その食中毒の原因を追求し、できるだけ迅速に原因となった食品や発生の機序を排除するための適切な措置を講じなければならない。このような対策が、有効かつ円滑に遂行されるためには、関係職員の緊密な協力態勢が必要であって、関係行政部門への報告、連絡を遅滞なく行うとともに、必要な場合には、情報の提供、試験検査の支援などを受けることが肝要である。特に、広域的な食中毒事案(疑いを含む。以下同じ。)発生時においても、適切な原因調査、情報共有等の対応を行うことができるよう、広域連携協議会の活用等により、関係機関は相互に連携を図りながら協力しなければならない。
これらの処理が行われた後においても、必ず反省、検討を加え、再び同じような食中毒が発生しないように、その教訓を事後の食中毒予防対策の中に生かすようにしなければならない。
本処理要領は、このような趣旨に基づいて策定されたものであり、これによって食中毒の適切な処理を図るものである。
Ⅱ 食中毒発生時の対策要綱の策定
都道府県、保健所設置市、特別区(以下「都道府県等」という。)は、食中毒又はその疑いのある事例の発生時において、迅速かつ的確に対応するため、以下の内容を含む対策要綱を定めること。検討に当たっては、広域又は大規模食中毒発生時の体制を考慮すること。
1 対策の基本方針
2 集団発生時の対策本部の設置要項
(1) 本部の編成
(2) 現地本部と本庁本部との業務分担
(3) 業務内容、業務分担及び業務の流れ
ア 調査体制
イ 検査体制
ウ 評価体制(原因究明専門家会議の設置等)
エ 内部関係者間の連絡体制
オ 外部関係者(国及び他の都道府県等)への連絡体制及び応援要請
カ 広域連携協議会の活用
キ 広報体制
3 平常時における準備等
Ⅲ 発生の探知、発見
1 医師の届出の励行
食品衛生法(以下「法」という。)第58条第1項及び同法施行規則(以下「規則」という。)第72条に、食中毒の患者若しくはその疑いのある者(以下「食中毒患者等」という。)を診断し、又はその死体を検案した医師は、24時間以内に、最寄りの保健所長に文書、電話又は口頭により届出を行うことの規定があるので、都道府県等は、この規定の励行を医師会を通じて、又は個々の事例を利用して各医師に周知徹底するよう努めなければならない。
2 医師の届出以外の探知
医師以外の者から通報があった場合や、保健所職員の聞き込みによって、食中毒発生を知った場合には、法第58条第2項のその他食中毒患者等が発生していると認めるときとして、次により処理するものとする。
(1) 患者等が医師の診断を受けていた場合には、その主治医に連絡して、病状その他の状況について十分に聴取しなければならない。
(2) 患者等が医師の診断を受けていない場合には、保健所医師もしくはその他の医師の診断を受けるよう勧奨し、(1)によって処理しなければならない。
なお、食中毒の発生の探知を医師の届出だけに依存することは不十分であって、細大もらさず迅速に探知するためには、医師以外の者からの通報の協力も必要である。このため、平素行なわれている衛生教育等の活動を通じて、その必要性について周知徹底しておくことが肝要である。
また、食品衛生監視員はもちろんのこと、医師、保健師、その他の保健所職員が、たえず食中毒の発生に注意を払い、聞き込みに努めるとともに、感染症患者等の届出、患者診断、死亡診断書の整理等においても食中毒発生の探知に努めなければならない。
Ⅳ 発生の報告、連絡
1 保健所
(1) 発生時の報告等
保健所長は、医師の届出、その他により食中毒患者等が発生していると認め、事故発生を探知したときは、直ちに関係職員にその応急処理に当たらせるとともに、法第58条第2項の規定により、速やかに都道府県等の食品衛生主管部局に報告しなければならない。必要に応じ、相互に発生情報の交換、連絡を要する部門としては次のものが挙げられる。
ア 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という。)に規定されている疾病の場合…感染症対策部門
イ 薬品又は毒物及び劇物による中毒が疑われる場合…薬務部門
ウ 食品の貯蔵、輸送、販売等に関して、広域にわたる調査が特に必要な場合…農林水産及び経済部門
エ 食中毒の原因食品について原材料に至る遡り調査が必要な場合…農林水産部門
オ 特に犯罪に関係があると疑われる場合…検察、警察部門
カ 学校(幼稚園を含む。)又は社会福祉施設等(保育所を含む。)が摂食場所である場合…教育又は社会福祉部門等
キ 医療機関が摂食場所である場合…医療監視部門
ク 水道水等が原因として疑われる場合…水道行政部門
ケ 食品の流通及び患者等の発生状況からみて、他の保健所の管轄区域と関係があると思われる場合…他地域の衛生行政機関
ただし、アからクまでのことで、他の都道府県等に及ぶ場合は、緊急やむを得ない場合を除き、都道府県等の食品衛生主管部局を通じて連絡を行わなければならない。
この食中毒発生の報告、連絡は、食品衛生法施行令(以下「令」という。)第37条第1項の規定により、都道府県等の食品衛生主管部局にできる限り速やかに、かつ丹念に行うべきである。当初入手した情報が不十分な場合でも、それが完全に把握できるまで待つことなく、一応の情報として報告しておき、以後、調査等により状況が判明するに応じて、逐次、報告を追加・訂正していくことが必要である。
(2) 調査終了後の報告
ア 保健所長は、法第58条第4項及び令第37条第3項の規定に基づき、食中毒の調査が終了後、速やかに、規則第75条第1項に規定する食中毒事件の区分に応じ以下の報告書を作成し、都道府県知事、保健所設置市の市長又は特別区の区長(以下「都道府県知事等」という。)に提出しなければならない。
① 法第58条第3項の規定により都道府県知事等が厚生労働大臣に直ちに報告を行った食中毒事件…食中毒事件票(規則様式第14号)及び食中毒事件詳報(規則第75条第2項)
② ①以外の食中毒事件…食中毒事件票
イ 食中毒事件票については、規則様式第14号に従い、「食中毒統計の報告事務の取扱いについて」(平成6年12月28日付け衛食第218号)別添の食中毒統計作成要領により行うものとする。
なお、これら諸報告作成の基礎となる必要な業務上の記録(たとえば、患者の整理台帳、調査票、事件票等)は、平素から十分整備しておくことが大切である。
ウ 食中毒事件詳報については、事件処理終了後速やかに規則第75条第2項に掲げる事項について作成し、都道府県知事等に提出すること。
なお、食中毒事件詳報については、その内容を公表することとしているので、患者の個人情報等に配慮すること。
エ 広域流通食品が原因食品となった場合の食中毒事件詳報については、原因となった施設等を所管している保健所が事件の全容を取りまとめ作成すること。原因となった施設等が不明の場合については、当該事件に係る食中毒患者等又はその死者の数が最も多い都道府県等のうち、食中毒患者等又はその死者の数が最も多い保健所で作成すること。
2 都道府県等の食品衛生主管部局
(1) 発生時の報告等
都道府県等は、保健所から報告を受け、又は探知した場合、事件の特異性、発生規模等からみて、適宜、保健所に対し、指示もしくは支援を行うとともに、関係機関との連絡を迅速かつ緊密に行わなければならない。
ア 都道府県等の食品衛生主管部局は、法第58条第3項の規定に基づき、規則第73条に定める事例については、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課食中毒被害情報管理室(以下「食中毒被害情報管理室」という。)及び地方厚生局健康福祉部食品衛生課あて、直ちに電話、メール又はファクシミリ及び食品保健総合情報処理システム等により、別記に規定する項目に従って連絡すること。
イ 都道府県等の食品衛生主管部局は、アの報告を行ったときは、令第37条第2項の規定により、調査の実施状況に応じ、その状況を規則第74条に規定する項目に従って、電話、メール又はファクシミリ及び食品保健総合情報処理システム等により逐次報告すること。
なお、調査の過程で食中毒ではないと判断された場合については、判断した理由、以降の担当部局等を食中毒被害情報管理室あて報告すること。
(2) 調査終了後の報告
ア 都道府県等の食品衛生主管部局は、保健所における事件調査が終了後、令第37条第4項の規定により、規則第76条の規定に従い、以下に示す報告書を食中毒被害情報管理室に提出すること。
(ア) 食中毒事件調査結果報告書(規則様式第15号)
食中毒統計作成要領に従って、食中毒事件調査結果報告書を作成し、月ごとに、その月に受理した食中毒事件票を添付して、所定の期日までに食中毒被害情報管理室に提出すること。
食中毒事件票については、あわせて食品保健総合情報処理システムへの入力を行うこと。
(イ) 食中毒事件調査結果詳報(別記様式1)
法第58条第3項の規定により厚生労働大臣に直ちに報告を行った食中毒事件については、規則第75条第2項で規定する項目に従って食中毒事件調査結果詳報を作成し、食中毒被害情報管理室に提出すること。食中毒事件調査結果詳報は、保健所長から提出のあった食中毒事件詳報を活用した形で作成すること。
なお、食中毒事件調査結果詳報については、その内容を公表することとしているので、患者の個人情報等に配慮すること。
イ 上記アに示す報告書の内容、数値等は、Ⅵの2で述べる全国食中毒事件録のそれと整合するものでなければならない。
(3) 広域的な食中毒事案発生時の報告等
都道府県等の食品衛生主管部局は、平常時より定例的に開催される広域連携協議会において、他の都道府県等の食品衛生主管部局との連絡、連携及び協力体制を確保しておかなければならない。
広域的な食中毒事案が発生した場合は、食中毒被害情報管理室及び他の都道府県等の関係機関に直ちに電話、メール又はファクシミリ等により情報共有を行う。
3 地方厚生局
(1) 広域連携協議会の開催
地方厚生局は、関係機関の連絡及び連携体制を確保するため、法第21条の3に基づく広域連携協議会に係る必要な事務を処理する。
ア 定例的な開催
構成員等間の連絡体制の整備、事案等発生時の調査内容等、必要な事項について協議するため、毎年度、定例的に広域連携協議会を開催する。
イ 事案対処のための開催
広域的な食中毒事案発生時には、構成員等を招集し、当該事案に対処するための広域連携協議会を開催する。
(2) 派遣等
地方厚生局は、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課(以下「食品監視安全課」という。)から指示があった場合には、担当者を当該都道府県等に派遣し、都道府県等と協力の上現場調査等に立ち会うものとする。
4 厚生労働省本省
(1) 食中毒発生時の初動対応
厚生労働省本省は、都道府県等から食中毒発生の報告を受けた場合、食中毒調査の実施、被害拡大の防止措置等について、必要に応じ、技術的助言、連絡調整等の調査支援を行うほか、現地に職員を派遣して情報を収集する必要があると認められる場合には、必要に応じて国立感染症研究所及び国立医薬品食品衛生研究所の協力も得て情報収集を行う。
また、都道府県等からの報告や国立感染症研究所及び国立医薬品食品衛生研究所等からの情報から、広域的な食中毒事案発生を探知した場合は、必要な情報を国でとりまとめ、関係する都道府県等で情報共有を図る。
(2) 大規模又は広域的な食中毒事案発生時
以下に示す大規模又は広域に渡る食中毒事案が発生した場合であって食品衛生上の危害の発生を防止するため緊急を要するときは、法第60条の規定に基づき、必要に応じ都道府県等に対し、期限を定めて食中毒の原因を調査し、調査の結果を報告するよう求める。また、同場合において、必要があると認めるときに、法第60条の2の規定に基づき、広域的な食中毒事案等に対処するための広域連携協議会の開催を地方厚生局に依頼する。
ア 食中毒患者等が500人以上発生し、又は発生するおそれがあると認められる場合
イ 当該中毒の患者等の所在地が複数の都道府県に渡る場合、又はそのおそれがあると認められる場合
Ⅴ 調査
1 調査実施体制
食中毒が発生した場合は、保健所長がその調査、連絡、措置等を行うものである。したがって、必要により現場に赴き、関係職員を指揮監督して、それぞれの領域において十分な活動をさせ、場合によっては全所員をこれに協力させ、必要にして十分な調査及び対策を実施しなければならない。特に腸管出血性大腸菌や細菌性赤痢などの感染症法に規定される疾病が疑われる場合については、患者発生の届出の受理から、食中毒調査の初動対応の迅速化を図るため、感染症対策部門と共同調査を行う体制整備に努めること。
(1) 患者の診断は、多くは臨床医師によってまず行われるが、必要により保健所医師は再診、補正を行うこと。
また、医師の診断を受けていない患者、回復患者及び患者と同一集団の者、並びに施設の従業員等の健康診断も保健所医師によることを原則とすること。
(2) 未届出患者等の発見、原因食品の追求、販売系統の調査等は食品衛生監視員が中心となり、必要な場合は保健師その他の職員の支援を受けるものとすること。
(3) 保健所医師による健康診断、採血、採便等には保健師その他の職員が医師の補助をすること。
(4) 微生物学的、理化学的、その他の試験検査は、試験部門の専門職員によって行うものとすること。
以上の如くそれぞれ専門領域を相互に尊重しつつ、責任をもち合い、所長の統率の下に保健所全体が一丸となって協力し、その結果については、所長が総合的に判断するものとする。
事件が小規模、1保健所管内に限定されているときは、その保健所独力で処理すべきであるが、事件が重大で規模が大きく、また複雑であって、技術的に若しくは人的にも不足がある時、又は2つ以上の保健所の管轄区域にわたるときは、都道府県等に応援を求めることが必要である。都道府県等は、保健所より応援を求められたとき、又は状況を判断して応援が必要と認める時は、担当職員を派遣し、対策と調査の迅速化を図ると共に関係機関連絡調整に努めなければならない。
なお、都道府県等においても、単に食品衛生部門のみでなく、感染症対策などの関係各部門ならびに地方衛生研究所等との連絡を十分密にする必要がある。また、事件が大規模又は広域にわたる可能性があることも踏まえ、調査の段階から、広域連携協議会における協議や関係機関との情報共有など相互に連携を図りながら協力しなければならない。その一環として、当該都道府県等のみでは、技術的に若しくは人的にも不足がある時は、近隣の都道府県等に応援を求めることが必要である。
2 原因の追求
原因食品及び病因物質の追求は、食中毒処理の基本であり、事後の措置の大部分を決定するものである。食中毒調査を容易かつ正確にするためには、食中毒発生あるいは発生の疑い情報入手直後において、速やかに調査に着手し、調査に必要な資料の収集、検体の採取などに当らなければならない。したがって、迅速な届出、報告の受理、その他の探知が重要であり、同時に初動調査が円滑に行なえるように平素からその態勢を整えておかなければならない。現場では、まず食中毒患者等、死者を詳細に調査し、これを発生月日時別、症状別、性別、年齢別、職業別、摂食食品別、給水別、入手系路別等に分類統計し、次の事項について観察すること。
(1) 症候学的観察
食中毒は、原因食品摂取後、数時間から1週間程度で起こるものが多く、肝炎ウイルス等の潜伏期間が1ヶ月を超えるものもある。症状は急性胃腸炎の症状を呈するものが多いが、ボツリヌス菌、自然毒等独特な症状を呈するものもある。化学物質によるものについては、病因物質の種類により特異な症状を呈し、また、病因物質の量により、症状に多少の特殊性があるもの、あるいは全く異なる症状を呈するものもある。
患者や診断医師から症状、発症日時を詳細に聞き取り、症状別に集計し、流行曲線を作成することにより、病因物質等の曝露日、状況が推定出来る場合もある。このことから、診断医師、患者等に病状等を聴取することが必要である。また、一般的に食中毒などの単一曝露事例の流行曲線は一峰性のピークを示し、感染症などの複数曝露事例では、二峰性等の複数のピークを示し、ピークが不明瞭な場合は継続的な曝露を示すことが多いことにも注意する必要がある。
試験検査に最善を尽くしてもなお判明しない場合は、症候学的観察(臨床決定)によって病因物質を推定するよう努力しなければならない。
(2) 食中毒患者等の検査
原因追求には、食品残品、原材料、使用器具、容器包装等の検査のほか、患者、回復患者等の排泄物(糞便、尿、吐物)、血液等について微生物学的、血清学的、理化学的及びその他必要な検査を行わなければならない。病因物質については、食中毒患者等の検査により特定できる場合が多い。患者と同一の疑わしい食品を摂取している者についても、保菌状況等の検査を実施することが必要な場合もある。
また、さらに必要な場合には、回復患者についても保菌検査、血清学的検査等を行わなければならない。
その際には細菌性食中毒を疑う場合、既に抗生物質を投与されている患者については、検査結果が陰性となる場合もあるので注意が必要である。
(3) 死体解剖
死者のある場合、原因調査上必要なときは、法第59条の規定によって死体解剖を行い、また、これより採取した検体について微生物学的、理化学的、病理学的、その他必要な検査を行うべきである。なお、司法解剖が優先して実施される場合にも、立会い協力して原因追求に努めなければならない。
(4) 原因食品の疫学的調査
原因食品の推定には、後ろ向きコホート研究(集団として定義できる場合)又は症例対照研究(集団の定義が難しい場合)により分析することが望ましい。
患者及び健康者(対照者)について、原則として食中毒発生前7日間、必要に応じてそれ以前に遡り摂取したすべての食品を摂取時間別に調査し、患者群と健康者群の摂取率を食品別に考察する。この調査は、食事のみでなく間食等摂取したすべての食品について行わなければならない。
これによって、患者群に共通して摂取率の高い食品が1つ又はいくつか発見される。この場合に、摂取率は100%とならないことが多く、また、共通性において、同様に高率な食品が2~3に止まらないこともあり得る。これらの食品を原因食品として一応疑いをかけ、原因食品としての確定(推定)は、摂取と発病の時間(潜伏時間)の一致の有無を考慮し、後述の販売系統調査や、試験室における微生物学的、理化学的又は生物学的の試験結果等を総合して判定するものである。
平常、共通の食事を摂っている人々の中のある者が、たまたまある特定の食事を摂らず(出張、外出、欠勤等)、かつ他の大部分の者が罹患している場合には、その食事に疑いが大きくおかれ、また逆に、たまたま特定の食事のみを摂った者(来客、外来者等)が同時に罹患したという様な場合には、同様にその食事への疑いの可能性が高くなる。このことは食事中の品目についても同様である。かかる特殊例を発見することは原因食品の確定に重要である。
この調査に当って、患者及び関係者の記憶が不明確なことがあるが、この場合には無理な追求は避け信頼できる確実なもののみを対象にして行うべきである。また、これらの記憶を疑わしい食事のメニュー、食品の購入歴等を質問票に加えるなどして、明確にする努力も必要である。
原因食品が推定された時、その原因食品を摂取した人は必ず発病するとは限らない。そのため、発病率が低いだけの理由でそれを除外することは出来ない。逆に推定原因食品を摂食しないで、罹患した人がある時は、当該患者が他の疾病によるものか、あるいは、その人の失念によるものか、供述が不正確であるためなのか、これらの点について、十分再調査し、補正すれば明確になってくる。この推定原因食品を試料として試験検査を行う。したがって、事件発生と同時に、患者が摂食したと思われる食品の残品があれば、あらゆる検査に必要な量を採取し、汚染、変敗、変質しないように保管に留意するとともに、できるだけ速やかに試験検査を行わなければならない。
(5) 販売系統の疫学的調査
原因食品の追求によって、疑わしい食品が発見された場合(あるいは原因食品としての推定は出来ないが、患者に関係あると思われる食品について)、その食品の購入先、加工施設、必要に応じて原材料の採取場所等まで遡り調査を実施し、全販売先について、患者等が発生していないかを調査する。
また、同時にこの販売系統調査においても必要に応じて検体を採取して検査を行い、この検査結果も考慮する。
この販売系統における患者分布および採取試料の試験検査の結果は、原因食品として疑ったものが、真の原因食品であるか否かを判定する上の有力な資料の1つとなりうることがある。
また、販売系統における患者分布は各種の試験検査の結果と関連して、疑わしい食品あるいは推定原因食品の汚染経路を判定する要素となるものである。すなわち、食品の汚染等(微生物、化学物質いずれによるものも含む。)は、販売系統において、すべての患者あるいは病因物質を検出した検体の採取された点を、すべて含む最初の総合点が最もその可能性が多く、それより中心に近い点の可能性がこれに次ぐ。最初の総合点より末端の数か所以上で、同時に汚染等が行われる可能性は比較的少ないものである。
たとえば、左図において、Bで汚染された可能性が最も多く、Aがこれに次ぎ、bとcが同時に汚染されることはまずないと考えるべきである。(左図略)
(6) 試験検査
以上の調査によって、一定の食品が食中毒の原因食品と疑われる場合はもちろんのこと、確定した場合でも、試験室における検査の結果でこれを裏付けることが必要である。実際に、食中毒の病因物質については、不明のものもあり、食品の残品等の採取が困難な場合もあるが、食品がどのような病因物質に汚染され、またはどのように病因物質が増殖したかを判断するため試験結果は重要であり、試験検査の結果なくしては、その食品がいかなる微生物により汚染されたか、あるいは、いかなる有害物質が含有、付着していたかは知り得ない。ただし、自然毒によるものの場合、あるいは症状により、また文献、事例等により、病因物質を推定することが出来うる場合もある。
試験検査には、微生物学的、血清学的、生物学的、理化学的、その他の必要な技術が、十分利用されるべきであり、その検査材料(検体)としては、患者の食べ残した物もしくはこれに近いもの、あるいは、同一販売系統のもの、それらの原材料、原因として疑われる施設等の器具、設備、トイレ等の拭き取り検体、患者の吐物、糞便、尿、血液、死体の一部等が利用される。黄色ぶどう球菌による食中毒の場合は、その食品を取り扱った者の手指等より黄色ぶどう球菌を検出し、食品等より分離した菌と同定できるか否かを検査することは、きわめて意義がある。
これらの試料の採取、送付、保管等については、十分な訓練と注意が必要であり、特に微生物学的検査においては、無菌的採取、迅速な送付が必要である。必要によっては試験担当者が自ら試料採取を行わなければならないこともある。
試験室における試験検査は正確に行うことが必要であって、このためには、十分な知識、技能を有する技術者と十分な施設、資材、文献類が必要である。
試験室で満足できる結果が得られないような場合には、適当な方法で検体を保存して、さらに詳細な検査が可能な機関に検査を依頼すべきである。
なお、地域や事件の状況によっては、以上の場合のほか、大学その他の研究機関に対し、試験検査について、技術的な協力を得ることもあってよい。
こうして得られた試験結果も、その証明力に限界のあることに注意して、絶対的なものであると過信したり、あるいは、過大評価をしてはならない。
また、試験結果が否定的(陰性)であっても、それは検体の不適、検査方法の未発達、ないし技術の不良、偶然の見落し、抗生物質の投与等いろいろの要因によって起りうることであって、食中毒が存在したという事実は否定できない。また、逆に試験結果が陽性であっても、それは原因としての確実性を強化するものではあるが、決定的な証明とはならないことがあるから注意を要する。
なお、検体の試験検査は、できるだけ地方衛生研究所までの段階において実施し、その病因物質等の決定に努め、都道府県等より、国の試験検査機関に精密な試験を依頼する場合は、厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課長あて「食中毒検体試験依頼書」(1通)を別記様式2により、また、これに添付する「食中毒検体送付書」の写(2通)は別記様式3により、それぞれ予め依頼するものとする。なお、食品監視安全課から指示があった場合には、地方厚生局は必要な連絡調整等を実施する。
試験の迅速化を図るため、主として患者由来菌株は国立感染症研究所あて、食品及び食品由来菌株は国立医薬品食品衛生研究所あて、それぞれ別記様式3にもとづく「食中毒検体送付書」を添付して直接送付するものとする。
検体を送付する際には、平成24年3月15日付け健感発0315第1号「感染症発生動向調査事業等においてゆうパックにより検体を送付する際の留意事項について」に留意すること。
食品監視安全課はこの依頼書に基づき、国立感染症研究所又は国立医薬品食品衛生研究所にこれを試験させ、その結果を都道府県等に通知する。なお、食品監視安全課から地方厚生局健康福祉部食品衛生課に指示があった場合には、地方厚生局は必要な連絡調整等を実施する。
腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌及び赤痢菌感染症患者等の発生を探知した際には、患者等由来菌株を迅速に収集し、反復配列多型解析法(MLVA法)等による遺伝子解析とライブラリーとの照合を行う国立感染症研究所に検査結果又は菌株を送付すること1。また、食品、従業員の検便、拭き取り等から腸管出血性大腸菌を検出した場合においても、MLVA法による患者由来菌株のライブラリーと照合を行うため、MLVA法による検査結果又は菌株を国立感染症研究所に送付すること。
(7) 施設及びその運営状況並びに従業者の健康状態
汚染又は、増殖が疑われる場所について、その施設の構造、運営状況及びねずみ、昆虫類などの衛生動物の状況等を調べ、必要十分な拭き取り検体を採取する。従業者の健康管理状況、疑われている原因食品を取扱った状況、衛生意識の程度を調査し、あわせて従業員の健康診断、検便検査、手指等の拭き取りを行ない、そこに衛生上の不備欠陥等を発見し、これと発生した食中毒の種類との関連の有無を考慮することが必要である。
また、病因物質が増殖したことが疑われる場所については、その施設の温度管理記録等を確認するほか、従業員等から管理の状況について調べる必要がある。
(8) 総合的判断
上記の調査によって得られた結果にもとづいて、あくまで科学的に、不断に反省を繰り返しつつ、総合的に判断することが必要である。1つの結果に執着したり、これらの食中毒に起りがちな虚報に惑わされたりして、誤った結果を出してはならない。
また、試験室の結果が陰性に終っても、前述の疫学的所見又は症候的観察等の結果まで無視してはならない。これらにより相当に原因が推定出来るものである。さらに広域的な食中毒事案においては、複数の都道府県等における調査結果を踏まえて判断する必要があるため、広域連携協議会において調査結果を共有し、協議を行い、当該結果を尊重して総合的な判断を行う。
この原因の総合的判断に際して、原因食品、病因物質の区分を明瞭に行うとともに、それが疫学的調査、試験検査その他により確認されたものか、推定されたものかを明瞭にしておく必要がある。
なお、食中毒の病因物質やその検出方法は学問の進歩とともに明瞭になっていくものであり、新しい傾向、文献等によって常に新しい知識を得るように心掛けることが必要である。
──────────
1 国立感染症研究所において、サルモネラ属菌についてはファージ型別検査又はパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による検査、赤痢菌及び腸管出血性大腸菌については反復配列多型解析法(MLVA法)による検査を実施している。また、腸管出血性大腸菌におけるMLVA法の結果の取り扱いについては、平成30年6月29日付け事務連絡「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について」を参照すること。
Ⅵ 措置
1 事件の措置
事件の措置においても、調査と同様に、保健所長、食品衛生監視員のみでは解決出来ない場合があり、必要に応じ他の職員の協力応援が考慮されるべきである。また、事件の内容によっては保健所の他、都道府県等の協力応援が必要である。
(1) 食中毒においては、患者に対するまん延防止措置等は行っていないが、感染型のものは排泄物、施設等の消毒等を考慮すべきである。
(2) 衛生部局が食中毒の処理に当って行うべき手段の主要部分をなすものは、その原因食品若しくは原因と疑われる食品の販売、使用等の禁停止、販売施設等の使用等の禁停止又は事後の根本的対策であり、この食品の販売、使用等の禁停止、営業の禁停止を行政部局が強制しうるのは、営業者(法第62条の読み替えを含む。)についてのみであるが、被害拡大防止のために、一般消費者に対して宣伝広報を用いて積極的に公表を行うことが必要である。公表は一般消費者に対して速やかに正確な情報を分かりやすく伝え、被害の発生状況を明らかにするとともに不要な不安を生じさせないため、広域・散発の時の公表の際には、原則として原因施設等を所管する都道府県等が中心となり、各都道府県等との内容に相違がないように十分に調整すること(その他に中心となることがふさわしい都道府県等がある場合についてはこの限りではない。)。
また、これらに対する措置は、できるだけ速やかに実施しなければならない。原因食品及び原因施設がはじめから確認し得る場合はもちろん、一応推定しか出来ない場合、あるいは疑わしい場合においても、危害の拡大防止のため、必要にして十分な措置を直ちに講じなければならない。危険性の範囲が、当初明瞭となっていない場合には、危険の可能性の考えられる範囲全体に対して、包括的かつ、広汎な措置を行なっておいて、その後の調査の進行によって、危険範囲が明確化するにつれて、不必要であった制限は順次解除し、食品の販売、使用等の禁停止、販売施設等の使用等の禁停止を、必要な部分のみに縮少して行くことが必要である。この推定による広範囲の措置は、予備的なものであり、後に解除して行くことが予想されるものであるから、この予備的措置によって、関係営業者に与える影響はなるべく少なくするよう十分注意しなければならない。
不良食品と確定したもの、又は最終的に原因食品と疑われるものに対する行政処分は、法第54条の規定によって、営業者をして廃棄させ、あるいは、食品衛生上の危害を防ぐに必要にして十分と考えられる処置をとらせ、さらに、営業者をしてこれらの措置をとらせることが不適当であると考えられるときは、行政当局自らの手によって処理しなければならない。この廃棄処分は、不良食品を焼却する等、食品としての利用の途を断つことである。これは最も安全な方法であるが、食用以外の用途、例えば、肥料、飼料、燃料等に利用し、場合によっては、これを精製加工することにより、無害化して再び食用に供する等の方途があれば、それらを考慮すべきである。しかし、これによって食品衛生上の安全が保障し得ない場合、あるいは最後まで監視することが困難な場合には、廃棄を行うべきである。
営業者に対する行政処分は、法第55条及び第56条の規定によって被害拡大防止対策、再発防止対策が完了するために必要十分な期間・範囲をとることが重要である。
これらの処分を行う際には、当該営業者に対し、調査結果等を丁寧に説明するとともに、公益上、緊急に行政処分を行う必要がある場合を除き、行政手続法に基づき営業者に弁明の機会の付与等が行われること。
なお、これらの処分は、その処分を行う権限を有するものの命令にもとづいて行なわれるべきで、緊急やむをえない場合は、権限者の命令を速やかに受理できるような措置を予め講じておくべきである。
(3) 食中毒事件が引き起された状況よりみて、悪質であり責任追求の必要があると考えられる時、その他行政上司法処分の必要があると認められるときは、検察当局に文書又は口頭をもって、証拠物件を添えて告発を行うものとする。
(4) 食中毒は、その与える実際上の物質的な損害以上に、消費者に与える精神的な影響が大であるので、十分注意して処理しなければならない。
食中毒を起こした施設はもちろん、これと同種の業者に対しても施設、取扱いの改善を十分指導すると共に、その他の営業者及び一般消費者に対しても、食中毒を契機として食品衛生に関する教育、啓発宣伝に努めなければならない。
(5) 広報として、メディア等を通して一般消費者に向けた情報を発信する際は、適切な広報担当者を指定する。
(6) 広域的な食中毒事案について公表を行う場合には、事前に関係機関に情報提供を行う又は広域連携協議会において公表方針の協議を行う等、行政として整合性のとれた情報発信を行うよう努めなければならない。
2 記録、評価及び予防対策
食中毒の調査結果をもとにして、将来の資料として評価し、記録を十分完備、保存することが必要である。また、報告(食中毒事件票や食中毒調査結果詳報など)など作成の基礎となった資料は十分整備し、これらの事例の集積によつて、今後の根本的防止対策を講じるために役立たせなければならない。
なお、食中毒事件調査結果詳報および食中毒事件票等をもとに作成された全国食中毒事件録、食中毒統計(厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課編)その他の統計資料等を活用して、絶えず、他都道府県等との比較検討を行なって、管内の発生状況の位置づけや客観的分析を行うことも肝要である。
別記
食中毒発生速報(第 報)
1 患者及び死者の届出年月日及び所在地
2 患者数及び死者数並びにこれらの者の症状
3 原因食品等(推定・確定の別)及びその特定の理由
4 病因物質及びその特定の理由
5 発生状況の概要
6 措置
7 上記の他原因調査及び行政処分を行うに当たり重要と認められる事項
8 報告者
別記様式1
別記様式2
別記様式3
[別添2]
食中毒調査マニュアル
Ⅰ 目的
本マニュアルは、食中毒処理の一層の迅速化等を図るため、食中毒処理要領等で示された食中毒の発生から報告の作成までの具体的な手順について例を示し、都道府県、保健所設置市及び特別区(以下「都道府県等」という。)における食中毒処理の検討の用に資するものである。なお、本マニュアルの各手順においては、広域的な食中毒事案(疑いを含む。)となる可能性を踏まえて対処しなければならない。例えば、調査において事案が大規模又は広域にわたる可能性を視野にいれ、早期から関係機関との必要な連絡及び連携体制を確保する等、国及び都道府県等の関係機関各々が、食中毒患者等の広域にわたる発生又はその拡大を防止するために必要な対応を勘案して事案に対処する。
Ⅱ 届出及び探知
保健所においては、食中毒若しくはその疑いのある患者又は死者(以下「患者等」という。)の発生について、医師、患者、関係者等から電話、口頭等により届出又は連絡があった場合又は保健所の職員が探知した場合は、次の点に留意し、その事件の内容を聴取するとともに、記録すること。
1 医師からの届出
食品衛生法(以下「法」という。)第58条第1項及び同法施行規則(以下「規則」という。)第72条に基づき医師から届出のあった場合は、臨床情報、流行の規模、流行の時期、原因と思われるもの等に関する情報が重要であり、具体的には次の点を確認すること。
(1) 医師の氏名、住所、連絡先及び医療機関名
(2) 患者等の所在地、氏名、住所、年令、性別及び連絡先
(3) 食中毒の原因(原因食品、病因物質など)
(4) 発病年月日及び時刻
(5) 診断又は検案年月日及び時刻
(6) 診断名
(7) 患者等の勤務先又は学校名等
(8) 患者等の容体、症状及び特異的症状の有無、今後の見通し
(9) 糞便、血液、吐物、汚物等の検査の状況及び検体確保の依頼の状況
(10) 治療方法(投与薬剤名、治療内容)
(11) 発生規模(単発か集団発生の別)
(12) 類似の症状を有する者の受診状況
2 患者等又はその関係者等からの連絡
患者等又はその関係者等から届出があった場合は、次の点を確認すること。
(1) 連絡者の氏名、住所及び連絡先
(2) 患者等の氏名、住所、年齢、性別及び連絡先
(3) 患者等の勤務先又は学校名等
(4) 患者等の容体、症状及び発症時期
(5) 医療機関への受診の有無及び受診した医療機関名、住所、連絡先
(6) 発症前の行動並びに喫食した食品及び摂食場所
(7) 吐物、排泄物、食品残品等の検体の有無及び検体確保の依頼の状況
(8) 家庭での服薬の有無及び薬剤名
(9) 患者等の周囲の者の発症状況
3 その他学校、消防署等の関係機関、営業者等からの連絡
学校、消防署等の関係機関、営業者等から患者等の発生について連絡があった場合は、次の点を確認すること。
(1) 連絡者の氏名、住所及び連絡先
(2) 患者等が発生した施設等の名称及び住所
(3) 患者等の発生の時期
(4) 患者等の数、受診者数、入院者数、死亡者数
(5) 患者等の集団の性・年令分布
(6) 患者等が共通して摂食した食品など
(7) 特に、学校等で患者等が発生した場合は、学年別、クラス別の発生状況、他の学校等の発生状況及び給食方式
(8) 吐物、排泄物、食品残品等の検体の有無及び検体確保の依頼の状況
(9) 患者等が受診した又は搬送された医療機関名、住所、連絡先、人数、容体、治療方法、搬送時間
4 保健所職員による探知及び情報収集
保健所の職員が食中毒またはその疑いに関する情報を入手した場合は、保健所の食品衛生監視員は食品衛生担当課長に報告するとともに、患者等、医師などから聴き取りを行い、上記1から3に関する情報の事実確認を行うこと。
Ⅲ 体制の確立
保健所は、医師からの届出がなされていない段階でも、患者等を探知した場合には、直ちに原因究明のための調査方針を検討し、必要な初動調査を開始する。また、広域散発事例又は大規模な集団発生が疑われる場合は、必要に応じて、保健所又は本庁に、それぞれ現地対策本部及び本庁対策本部を設置し、効果的な調査体制を確立すること。
また、保健所は探知した事件内容を、直ちに本庁の食品衛生主管部局に連絡するとともに、保健所内の関係課と協議を行い、次の事項についての確認と調査方針を決定すること。
1 事件の把握(事件の規模等の判断)
調査対象者や調査対象となる食品、添加物、器具又は容器包装(以下「食品等」という。)の数が多く、また広範囲に及びそうな場合は、事件の規模、拡大の見通しに関する状況判断を早急に行い、本庁の食品衛生主管部局に連絡すること。本庁の食品衛生主管部局は、調査等における人員等について不足する可能性がある際には必要に応じて応援を送ること。
2 関係機関からの情報収集及び関係機関との連携
(1) 保健所と次の他の行政機関、団体との連携(必要に応じて現地対策本部を設置)を図り、必要な情報の収集、提供を行うこと。
ア 市町村(学校における発生の場合は教育委員会を含む)
イ 地元医師会等関係団体
ウ 集団発生が起こった施設
(2) 本庁と次の他の部局等との連携(必要に応じて本庁対策本部を設置)を図り、発生パターンや症状、その他の状況を踏まえ、本庁における共同調査の必要性について協議するとともに、必要な情報の収集・提供を行うこと。
ア 衛生研究所
イ 感染症担当課(感染症の疑いがある場合)
ウ 薬事担当課(薬物中毒又は家庭用品による中毒の疑いがある場合)
エ 農林水産及び経済担当部局(食品等の生産、販売等の広域な調査が必要な場合)
オ 教育委員会(学校における発生の場合)
カ 都道府県医師会等関係団体
キ 警察部局(特に犯罪に関係があると疑われる場合)
ク 福祉担当部局(福祉施設における発生の場合)
ケ 医療監視担当課(医療機関における発生の場合)
コ 水道行政担当課(水道水等が原因として疑われる場合)
3 調査方法
(1) 調査体制の整備
調査に必要な人員を確保し、患者調査班、施設調査班等の役割分担を行い、調査体制の整備を行うこと。広域散発又は大規模食中毒発生時に調査を行うにあたり人員等が不足している場合には、近隣の都道府県等への応援を要請できるよう体制を整えておくこと。
(2) 喫食状況の調査
症候学的調査、喫食状況調査等を共通食を喫食した者に対して行う場合については、受診者、入院者、菌検出者等、食中毒の症状を呈している可能性の高い集団から調査するとともに無症状者に対しても有症者と同じ内容の調査を同じ方法で行うこと。
(3) 検体採取の範囲及び検査内容の検討
時間の経過とともに原因究明に必要な食品や環境等の検体は散逸していくことからできるだけ早期に、食品等(食材を含む。)、糞便、患者血液、水、拭き取り等の検査の必要性や微生物学(ウイルスを含む。)、理化学検査等の必要性を検討すること。
(4) 関係都道府県等、関係機関への調査依頼
調査対象者や調査対象食品の流通経路が他の都道府県等に及ぶ場合は、関係する都道府県等の食品衛生主管部局に調査状況を説明するとともに、必要な調査を依頼すること。
(5) 症例定義について
症例定義は複数の段階に分けて設定することが望ましい。食中毒発生初期には可能な限り多くの患者の掘り起こしを行うための幅広い症例定義を作成する。その後、症状が患者認定、調査の報告などにより具体的な症例定義を作成する。症例定義には場所・地域、患者の症状、症状日時などの要素を含めて作成し、検証したい曝露やリスク要件は含めない。
Ⅳ 調査
食中毒調査においては、調査時期を逸した場合には、必要な情報が収集困難となる場合が多いことから、初動調査が最も重要であり、探知後直ちに必要な情報をもれなく収集する必要がある。
調査に際しては、別添のチェックリストにより、必要な調査が全て実施されているかどうかを確認すること。
1 調査担当者の心得
調査に当っては、前項Ⅲで決定された事項を遵守し、公衆衛生対策としての法律に基づいた調査を実施し、いたずらに先入観を持ち、これに左右されて判断を誤ったり、不確実な情報や資料に惑わされないように努めること。
また、食中毒調査の実施に当たっては、専ら、食品衛生確保の観点から、科学的見地に立って粛々と調査を行うこと。
2 患者等、喫食者及び関係者の調査
患者等や関係者から調査対象者名簿等を入手し、又はその作成を行うとともに、原則として患者等、喫食者等に直接面会の上、聴き取り調査を行うこと。
(1) 症候学的調査
① 調査対象者の発症の有無、症状、発症年月日、医療機関への受診の有無、受診した医療機関名、受診年月日、治療の内容、入院・外来の別等を具体的に調査すること。
② 発症者の既往歴、現病歴等の健康状態を把握すること。
③ 患者等の家族構成、家族の発症状況を確認すること。
④ 学校、事業所等にあっては、患者等の発生時期前後の欠席・欠勤状況を確認すること。
⑤ 発症者の海外渡航歴、国内旅行歴の有無を確認すること。
⑥ 発症以前に外国に滞在していた者については、食事内容及び宿泊場所等現地での行動を聴取すること。また、必要に応じて旅行代理店等への協力依頼を行うこと。
⑦ 学校などについては、平常時の有病率及び欠席率を確認すること。
(2) 喫食状況調査
① 患者等グループの共通性(学校給食、会食、旅行及び催し等における共通の飲食物を喫食した機会の有無等)を確認し、共通食の献立表(メニュー)の入手に努め、喫食状況調査を行うこと。
② 患者等の共通食が特定される場合を除き、原則として7日間、必要に応じてそれ以前に遡り喫食した食事内容について喫食状況調査を行ない、間食や飲み物についても調査を行うこと。
③ 喫食した食品の特徴(フグ、生カキ、生卵、生肉、血液、内臓、キノコ類、山菜、海藻、貝類、山野草等)の発見に努めること。
④ 症状等から原因と推測される食品の喫食状況については特に詳細に調査すること。
⑤ 水道事業以外で供給される水の飲用について確認すること。
(3) その他の留意点
① 原因であることが疑われる食品又は食材を食べずに発症した者又は特異な症状を示している者については、詳細に調査を行うこと。
② 学童の調査を学校等に依頼する場合には、学童に暗示を与えないよう調査方針、調査方法等について十分説明を行うこと。乳幼児については保護者から事情を聴取すること。
③ 実際に症状を有さない者が、周囲の状況等からの影響を受け、症状を訴える場合があることに注意すること。
④ 旅行者の集団が旅行後又は旅行中に発症している場合については、旅行日程、行動計画表、行動の記録等(宿泊場所及び休憩所等が記載されているもの)を入手すること。また、必要に応じて旅行代理店等への協力依頼を行うこと。
⑤ 本人、保護者、関係者等に対し調査に関する正しい理解を求めるため、十分な説明を行い、調査の実施について同意を得ること。学校や保育園、勤務先等において誤解・偏見等を招かないよう、それらの組織に属する者(学生、児童、職員等)又はその保護者等に対して調査について説明し、理解を求めること。
⑥ 学校や保育園、勤務先における調査に当たっては、個人情報、プライバシーの保護に細心の注意を払わなければならない。
3 施設調査
原因施設として疑われる施設に対しては、速やかに立ち入り調査を行い、検食(食材を含む)及び施設のふき取り検体等を採取するとともに、仕入元、出荷及び販売先、製造又は加工に関する記録等の資料の確保を行うこと。
特に、ふき取り検査や排水の検査は、施設の消毒後は意義を失うので、消毒前に必要な検体を十分確保すること。
食中毒の原因施設として疑われる営業施設等の調査は、次の点に注意して行うこと。
(1) 調査対象施設への立入り
Ⅱ項の届出の内容に基づき、住所、屋号及び電話番号等が一致するかを確認してから立ち入ること。
(2) 食材の仕入れ及び食品の提供に関する調査
① 食材の仕入元の住所、電話番号等を記載した名簿やリスト、仕入年月日
② 献立別(給食、弁当、会食料理等のメニュー)の提供、調理、加工及び製造の数量
③ 施設の利用者又は弁当等の購入者の人数等
④ 購入者、販売・提供先、喫食者の住所、電話番号等を記載した名簿やリスト
⑤ 原則として発症時点から7日間、必要に応じてそれ以前に遡り調査対象者が喫食した食事の献立(メニュー)
(3) 食品の製造・加工・調理、販売過程の調査(輸送過程も含む)
次の事項を詳細に調査し、それぞれの食品等(食材を含む)について汚染経路、混入経路、増菌の機会、調理ミス等の有無の確認を行うこと。
① 時系列でみた食品の製造・加工・調理過程における食品等(食材を含む)の取扱い手順及び内容
② 時系列でみた食品の製造・加工・調理過程における従事者の作業動線
③ 調理済み食品の保管方法及び時間、販売又は提供方法等
(4) 施設の衛生状態の調査
① 法第50条(管理運営の基準)及び第51条(営業施設の基準)に基づく基準、並びに衛生管理に関する指導事項の遵守状況に係る調査を行うこと。
ア 営業施設の構造・設備(区画、面積、換気、防そ・防虫、冷蔵設備、洗浄設備、給湯設備、器具等の整備・配置、保管設備、運搬具、計器類、温度管理等)
イ 施設及び周辺の清掃状況、並びに作業場内の環境保守の状況
ウ 機械器具類の維持管理状況
エ 室内の温度及び湿度管理
オ 廃棄物等の処理状況
カ 食材等の仕入れ及び製品の保管状況
キ 添加物、殺虫剤及び殺菌剤等の使用状況ならびに管理状況
ク 自主検査の実施の有無及び成績書
ケ その他衛生管理に係る自主点検記録等
② 給水設備及び使用水の衛生状況の点検
ア 残留塩素の測定(簡易測定キット等を使用)
イ 使用水が水道水以外の場合については、水源の確認と水源を汚染する要因(井戸の構造、深さ等を含む)の有無について
ウ 貯水槽の点検、汚染要因(亀裂、漏水箇所の有無、マンホールの状態等)の把握
エ 水質検査の結果、貯水槽の清掃記録等
③ 排水処理方法と維持管理状況の確認
④ そ族、昆虫等の駆除記録、生息状況の点検・調査
⑤ 異物混入の可能性の調査
⑥ 調理場内に出入りする者の確認等
(5) 調理従事者等についての調査
① 調理従事者の健康状態
② 検便等の健康診断の実施状況の確認
③ 流行性疾患の有無
④ 海外渡航歴の有無
⑤ ニキビ、手荒れ、キズ、化膿性疾患等の有無
⑥ 調理上好ましくない習慣の有無
⑦ 食事の嗜好(生カキ、生肉、生卵等)
⑧ 共通食の喫食(賄い等)
⑨ 家族等の健康状態
(6) その他
調査対象施設に関して、他の者からの苦情の有無を確認すること。
4 販売系統の疫学的調査
原因食品の追求によって、疑わしい食品等(あるいは原因食品等としては推定できないが、患者に関係があると思われる食品等を含む。)が発見された場合の市場流通調査は、次の点に留意して行う。
(1) 他の販売先に苦情や事故が発生していないかを確認し、その際、患者が確認された場合は発症状況等を調査すること。
(2) 仕入元、製造又は加工施設、生産地等の流通過程全般(運送過程を含む。)の遡り調査を行うこと。必要に応じて本社に調査の協力を依頼すること。
(3) 流通過程全般における、保存基準及び製造過程における殺菌基準の遵守状況等取扱い状況を確認すること。
(4) 流通過程全般において、同一ロット品(同一ロット品がない場合は、別ロットの同一品目)及び施設・器具等のふき取り検体(排水溝や冷蔵庫の排水等を含む。)を収去し検査を実施すること。
(5) 流通過程において疑わしい食品等が発見された場合には、当該品の末端の全販売先を調査するとともに必要な措置を講じること。
5 死者が発生した場合の対応
患者が死亡した場合は、下記の点も調査項目に加えること。
(1) 発症から死亡するまでの時間経過とその状況
(2) 通院中及び入院中の治療内容、検査内容等
(3) 関係者(家族、親族等)からの聴取(共通食を摂食した者の有無、患者の喫食状況及び症状等)
(4) その他、調査が必要と思われる事項を都道府県等の食品衛生主管部局と協議すること。
6 試験検査
試験検査以外の調査によって、一定の食品等が事件の原因と疑われる場合は勿論のこと、確定した場合でも、試験室における試験検査の結果を総合して判定すること。
また、検体の採取は迅速かつ適切に行うこととし、調査に当っては、調査器具容器類常備一覧表(参考)に記載されている器具類等を持参し、検体の種類に応じて必要量の検体を採取すること。
なお、検体の変質を最小限に止めるために、検体は保冷し速やかに検査実施施設へ搬入すること。
(1) 患者等、喫食者及び関係者からの検体採取
① 糞便
② 吐物
③ 汚物
④ 家庭に残っている食品等の残品、及び参考食品等
⑤ 必要に応じて、患者の血液・尿
⑥ 解剖の際に採取できる検体
(2) 施設及び食品等の流通経路からの検体採取
① 検食、残品及び食材を含む参考食品
② 調理器具、容器、包装材、冷蔵庫(冷蔵庫の排水を含む。)及びその他機器等のふきとり
③ 調理場のふきとり
④ 調理従事者の手指、鼻前庭及び化膿疾患部のふきとり
⑤ 使用水(井戸水、受水槽の水等)
⑥ 調理従事者の糞便
⑦ 混入したおそれのある添加物、洗剤、消毒薬、殺菌剤等
⑧ その他(衛生昆虫、ネズミの糞、ペット類の糞、土壌及び排水溝の汚泥等)
⑨ トイレ等のふきとり
(3) 検体採取、保管、搬入時の取扱い
「食品衛生検査施設における検査等の業務管理について」(平成9年1月16日衛食第8号、厚生省生活衛生局食品保健課長通知)によること。
Ⅴ 調査結果の検討とその対応
1 調査結果の検討
食中毒事件の原因究明、被害の拡大防止のため、調査の進行に伴い得られた情報、資料に基づき、随時、状況の整理・分析を行うこと。
また、必要に応じて調査方針を再検討し、修正を図ることにより早急な事件の究明に努めること。
2 医師からの届出と診断の補正等
患者の診断は、多くは臨床医師によってまず行なわれるが、患者が医師の診断を受けていない場合には、保健所医師もしくはその他の医師の診断を受けるよう勧奨し、病状その他の情況について十分に把握しなければならない。
また、必要により、保健所医師は再診及び補正(修正)を行うこと。
3 食中毒の判断
診察した医師の診断、発症数、患者の発症の範囲(時間、地域、集団)、喫食状況、施設調査、微生物学及び理化学検査等の結果から、原則として保健所長が食中毒の判断を行うこと。
4 病因物質、原因施設、原因食品、原因食材、汚染源、汚染経路及び増殖過程の推定及び決定
病因物質、原因施設、原因食品、原因食材、汚染源、汚染経路及び増殖過程の推定及び決定する際は、調査ならびに検査の結果を総合的かつ科学的に分析・検討する必要があること。なお、検査等から推定又は決定できなくとも、疫学的調査結果から推定又は決定が可能であること。
(1) 病因物質の推定及び決定
① 病因物質の推定
潜伏時間及び症状等から病因物質を推定すること。
② 病因物質の決定に際しては、次の事項を確認すること。
ア 糞便、吐物、食品等及び拭き取り検体等から、食中毒の原因と思われる病因物質が一致して検出され、かつ潜伏時間及び症状から病因物質として特定できるか。
イ 検出された病因物質が、原因施設(推定を含む。)又は製造過程において食品を汚染する機会又は増殖の機会があったか。
(2) 原因施設又は発生場所の決定に際しては、次の事項を確認すること。
① 共通食、原材料の販売、採取、製造、加工、使用、調理、貯蔵、又は運搬を行なった施設(場所)を特定できるか。
② 原因施設又は場所に発生要因が存在するか。
③ 原因食品及び食材(疑いを含む。)から原因施設又は場所を特定できるか。
④ 統計学的な曝露時点の推定等も含め、食中毒の発生にかかわる因果関係を疫学的に証明できるか。
(3) 原因食品及び食材の推定及び決定
① 原因食品及び食材の推定
ア 患者及び喫食者調査から発症者の共通食を推定すること。
イ 喫食状況調査結果から食品別の発症率を算出すること。
ウ 患者の日時別発生状況から曝露時点を推定すること。
エ 発症状況から原因食品と食材との関連性を探求すること
オ 患者集団(受診者、入院者、菌検出者、特定の症状を有する者、特定期間の発症者等)とコントロール集団(給食、宴会食、仕出し等の共通食を喫食した健康者、同一社会集団の健康者、同一時期に異なる原因で食中毒症状を示した者等)の喫食状況を調査すること。(リスク比、オッズ比、信頼区間、カイ2乗検定などにより、原因食品を推定すること。)
カ 調理・加工方法と患者症状との関連性について確認すること。
キ 推定原因食品及び食材と病因物質の関連性を確認すること。
② 原因食品及び食材の決定に際しては、次の事項を確認すること。
ア 発症状況から、原因を食品等(使用水、添加物、器具、容器包装及び玩具なども含む)に限定することができるか。
イ 食品及び食材の残品から、食中毒の原因として特定できる病因物質が検出されているか。
(4) 汚染源及び汚染経路、増殖過程の推定又は決定
ア 販売系統調査により、原因食品又は食材の他の販売先における患者等の有無を確認すること。
イ 販売系統調査により、原因食品又は食材の製造・加工・調理、流通過程における食品又は食材の関係施設等からの病因物質の検出の有無を確認すること。
ウ 原因食品又は食材に係る製造・加工・調理、流通過程の調査で確認された汚染源及び汚染経路における病因物質の性状(血清型、DNAパターン、ファージ型等)が患者等及び原因食品又は原因食材から分離された病因物質の性状と一致するかどうかを確認すること。
エ 販売系統調査において採取した食品(食材)から分離された病因物質の量と製造・加工・調理、流通過程の調査で確認された温度管理の不備などの関係を確認すること。
Ⅵ 措置
保健所は、食中毒事故の拡大防止及び再発防止のために必要な措置を速やかに行なわなければならないこと。
食中毒の原因が推定・決定された場合には、その状況に応じて法に基づく必要な処分又は指導を行うこと。
なお、食中毒の因果関係が明確になっていなくても、疑いの強い食品等がある場合、関係施設に対して、速やかに必要な措置を講じなければならないので、都道府県等の食品衛生主管部局と協議を行うこと。
1 被害拡大防止対策
(1) 営業自粛を指導又は停止
(2) 原因食品と同一の健康被害を引き起こすおそれのある食品等の販売、使用等の禁止
(3) 原因が判明するまでの間、推定原因食品等(同一ロット、類似食品)の販売、使用、移動等の禁止
(4) 使用水(井戸水、沢水、河川水、貯水槽水等)が原因と推定される場合は、使用の禁止
(5) 調理従事者が健康保菌者である場合又は下痢等の健康被害を起こしている場合については、原因が判明するまで又は食中毒病因物質が除去されるまで、食品等に直接触れる作業への従事の禁止
(6) 施設の消毒
(7) 地域住民への必要な情報提供
2 再発防止対策
(1) 食中毒の原因施設及び関係者への対策
① 法第51条に係る施設基準に適合しないものについては、その補修改善を命令すること。
② 法第50条に係る管理運営基準に基づく、施設、設備、調理器具等の洗浄、殺菌、管理の不備については基準遵守の徹底を指導すること。
③ その他衛生管理に関する指導事項の遵守の徹底を指導すること。
④ 食品衛生監視員は、保健所長の指示に基づき、事故を発生させた施設の営業者、食品衛生管理者、食品衛生責任者、調理従事者及び関係者に対して、食中毒の再発防止のため、食中毒事故の発生要因、今後の予防対策等について衛生教育を行うこと。
⑤ 必要に応じて衛生管理マニュアルの点検と不備事項の改善を指導すること。チェーン店等の場合は、本社に対しても指導をすること。
(2) 営業者、消費者等への対策
営業者、消費者等への事故の再発防止対策等について、各種の機会をとらえて情報の提供を行うこと。
(3) 行政機関における対策
① 事故処理完結後、処理方法、原因食品、病因物質、発生要因等について検討し、食中毒防止対策について今後の食品衛生行政及び関連する行政に反映できるようにすること。
② 公衆衛生上必要と認められる事例については、その結果を他都道府県等の食品衛生主管部局等に報告するとともに、研究発表会などの機会をとらえて情報の提供を行うこと。
Ⅶ 報告
1 食中毒事件が発生した場合には、速やかに次に示す報告を行うこと。
(1) 保健所長から都道府県知事、保健所設置市長、特別区長(以下、「都道府県知事等」という。)への報告
① 法第58条第2項に基づく報告
② 食品衛生法施行令(以下「令」という。)第37条第1項に基づく報告
③ 行政処分実施結果の確認報告書など、各都道府県等において定める報告
(2) 都道府県知事等から厚生労働大臣への報告
① 法第58条第3項に基づく報告
ア 食中毒患者等が50人以上発生し、又は発生するおそれがあると認められると思われる集団発生事例
イ ア以外の場合であっても、次に該当する事例
(ア) 当該中毒により死者又は重篤な患者が発生した場合
(イ) 当該中毒が輸入食品等に起因し、又は起因すると疑われる場合
(ウ) 規則別表第17に定める病因物質に起因し、又は起因すると疑われる場合
(エ) 当該中毒の患者等の所在地が複数の都道府県にわたる場合
(オ) 当該中毒の発生状況等からみて食中毒の原因調査が困難である場合
(カ) 当該中毒の発生状況等からみて行政処分に係る判断が困難である場合
② ①の場合において、令第37条第2項に基づく報告
2 食中毒事件の処理が完結した場合は、次に示す報告書により速やかに報告すること。
(1) 保健所長から都道府県知事等への報告
ア 法第58条第3項の規定により都道府県知事等が厚生労働大臣に直ちに報告すべき食中毒事件…食中毒事件票(規則様式第14号)及び食中毒事件詳報(規則第75条第2項)
イ ア以外の食中毒事件…食中毒事件票
(2) 厚生労働大臣への報告
ア 法第58条第3項の規定により都道府県知事等が厚生労働大臣に直ちに報告すべき食中毒事件…食中毒事件調査結果報告書(規則様式第15号)及び食中毒事件調査結果詳報(規則第76条第4項)
イ ア以外の食中毒事件…食中毒事件調査結果報告書
Ⅷ 事件の公表
事件及び調査結果の公表のために、事件の対象基準、内容及び方法等について手順を作成しておくこと。
公表に際しては、都道府県等の食品衛生主管部局等と協議し必要な情報を整理、確認し、確実な情報のみを公表すること。また、公表窓口は一元化し、数日間継続して行う場合は毎日時間を定めて行うこと。公表は一般消費者に対して速やかに正確な情報を分かりやすく伝え、被害の発生状況を明らかにするとともに不要な不安を生じさせないため、広域・散発の時の公表の際には、原則として原因施設等を所管する都道府県等が中心となり、各都道府県等間との内容に相違がないように十分に調整すること(その他に中心となることがふさわしい都道府県等がある場合についてはこの限りではない。)。
なお、都道府県等の食品衛生主管部局は、事前に厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課及び地方厚生局健康福祉部食品衛生課あて連絡を行うこと。
Ⅸ 平常時における準備
1 食中毒発生時の対策要綱の策定
都道府県等は、食中毒若しくはその疑いのある事例発生時において、迅速かつ的確に対応するため、以下の内容を含む対策要綱を定めること。検討に当たっては、広域又は大規模食中毒発生時の体制を考慮すること。
① 対策基本方針
② 集団発生時の対策本部の設置要項
ア 調査体制
イ 検査体制
ウ 評価体制(原因究明専門家会議の設置等)
エ 内部関係者間の連絡体制
オ 外部関係者(国及び他の都道府県等)への連絡体制及び応援要請
カ 広報体制
③ 平常時における準備等
2 緊急連絡網の整備
① 夜間、休日、祝日及び勤務時間外に発生した食中毒(疑い)の届出の受入れ体制を整備しておくこと。
② 初動調査が円滑に行えるように、緊急連絡網を整備しておくこと。
3 器材の整備
調査及び検査に使用するための用紙類、器具ならびに器材類は、調査器具容器類常備品一覧表を参考に定めるものを整備し、常に使用できる状態で保管すること。
4 職員の研修
迅速的確な調査ができるよう職員の技能、資質向上のための研修を自ら実施するとともに、厚生労働省の実施する講習会にも計画的に参加させること。
5 その他
平素からの衛生管理指導、収去検査により、食中毒発生を未然に防止するよう努めること。
(参考) 調査器具容器類常備一覧表