○革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業の成果に基づき策定された試験方法の公表について(歯科・整形外科分野で用いられる医療機器たるコンビネーション製品(植え込み型の機械器具と、抗菌系薬物又は組織形成系薬物)の評価指標)
(平成31年3月13日)
(薬生機審発0313第2号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)
(公印省略)
厚生労働省では、革新的な医薬品、医療機器及び再生医療等製品の実用化を促進するため、平成24年度から、最先端の技術を研究・開発している大学・研究機関等において、レギュラトリーサイエンスを基盤とした安全性と有効性の評価方法の確立を図り、ガイドラインの作成を行うとともに、大学・研究機関等と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)及び国立医薬品食品衛生研究所の間で人材交流を実施する事業を実施してきたところです。
今般、筑波大学医学医療系、つくば臨床医学研究開発機構(T―CReDO)(総括研究代表者:荒川 義弘)における検討を経て、下記の評価指標が別添のとおり策定されましたので、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管内関係事業者に対して周知方御配慮願います。
なお、本通知の写しを独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長、一般社団法人日本医療機器産業連合会会長、一般社団法人米国医療機器・IVD工業会会長、欧州ビジネス協会医療機器・IVD委員会委員長及び国立医薬品食品衛生研究所所長宛て送付することを申し添えます。
記
歯科・整形外科分野で用いられる医療機器たるコンビネーション製品(植え込み型の機械器具と、抗菌系薬物又は組織形成系薬物)の評価指標
1.これらの試験方法は、現時点で考えられる評価法の一例として示したものであり、製造販売承認申請において必ずしも当該試験方法による試験の実施を求めるものではないこと。試験方法の選択等については、必要に応じてPMDAの対面助言を活用すること。
2.革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業におけるロードマップ等においてはPMDAのホームページ
(https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/facilitate-developments/0001.html)を参照されたい。
別添
歯科・整形外科分野で用いられる医療機器たるコンビネーション製品(植え込み型の機械器具と、抗菌系薬物又は組織形成系薬物)の評価指標
1.緒言
薬剤溶出ステントや抗菌薬入り骨セメントの出現により、薬物と機械器具を組み合わせたコンビネーション製品の臨床現場におけるニーズが高まっている。
本評価指標は、特に歯科・整形外科分野で用いられる、植え込み型の機械器具と抗菌系薬物又は組織形成系薬物とのコンビネーション製品について、非臨床での品質評価、有効性評価及び安全性評価並びに臨床評価に関する留意すべき事項を示すものである。
2.用語の定義
本評価指標における用語の定義は以下のとおりとする。
(1) コンビネーション製品
コンビネーション製品の定義は、「コンビネーション製品の承認申請における取扱いについて」(平成26年10月24日付け薬食審査発1024第2号、薬食機参発1024第1号、薬食安発1024第9号、薬食監麻発1024第15号通知。以下「コンビネーション製品通知」という。)1による。
(2) 機械器具部
薬物と機械器具から成るコンビネーション製品において薬物(製品全体に薬物が混合されている場合を除く。)及び薬物担持部を除いた部分のこと。
(3) 抗菌系薬物
細菌、真菌等に対する抗菌作用を意図して使用される薬物のこと。単独で流通した場合には抗菌薬や消毒薬に該当することが想定される薬物の他、無機材料や合金の成分等(例:銀イオン)も含まれる。
(4) 組織形成系薬物
植え込み周囲の硬組織や軟部組織の形成又は再生作用を意図して使用される薬物のこと。単独で流通した場合には骨・カルシウム代謝薬等に該当することが想定される薬物(歯肉、歯根膜組織、血管等の軟組織の形成又は再生を意図する薬物も含む。)の他、無機材料や合金の成分等(例:ケイ酸イオン等)も含まれる。
(5) 薬物担持部
薬物と機械器具が一体不可分であるコンビネーション製品において、薬物徐放作用、薬物安定作用等を意図して薬物を担持している部分。製品全体に薬物が混合されている場合等、製品によっては薬物担持部として区分できる部分がない場合もある。
(6) 製品
コンビネーション製品として、治療に使用されるために流通する状態のもの。
(7) 植え込み時製品
薬物と機械器具が一体不可分でなく、植え込んで用いるコンビネーション製品(セット製品)であって、植え込むにあたって薬物と機械器具を一体化させたもの。薬物と機械器具が一体不可分な植え込み型のコンビネーション製品にあっては、「製品」と「植え込み時製品」は同一である。
(8) 類縁物質
薬物内に混在している物質であって、薬物受容体への結合特性が当該薬物と類似している等で当該薬物と同様の生物活性がある物質、及び当該薬物の分解等で生成した生物活性のない物質(薬物由来不純物)の両方を指す。例えば、薬物が生物薬品であれば、類縁物質とは目的物質関連物質2(生物活性あり)及び目的物質由来不純物(生物活性なし)のことである。
3.本評価指標の対象
(1) 本評価指標は、下記の1)から8)の全てを満たす医療機器たる薬物・機械器具コンビネーション製品を対象とする(6.解説1参照)。
1) 薬物と機械器具が一体不可分の製品又はセット製品であること
2) 薬物として抗菌系薬物又は組織形成系薬物を使用していること
3) 機械器具のクラス分類がⅡ、Ⅲ又はⅣのいずれかであること
4) 歯科又は整形外科分野で用いられる植え込み型の医療機器であること
5) 植え込み時製品は、短・中期的接触又は長期的接触(組織との累積接触期間が24時間を超える)を意図する製品であって、次の5―1)及び5―2)のいずれかに当たるものであること
5―1) 体内と体外を連結する
・血流路間接的:血管と一点で接触し、血管に薬液などを注入する
・組織/骨/歯質:組織、皮膚、骨、歯髄又は歯質と接触する
・循環血液:循環血液と接触する
5―2) 体内植え込み
・組織/骨:主として組織又は骨と接触する
・血液:主として血液と接触する
6) 生命維持中枢(中枢神経系、心臓)への接触が無い製品であること
7) 再使用しない製品であること
8) 人体へ、あるいは人体からのエネルギーの投与又は交換がない製品であること
(2) 本評価指標で対象となる製品は、下記1)又は2)に分類される。該当する一般的名称を例示するが、それ以外でも、上記(1)を満たすのであれば、本評価指標を参考にすることができる。
1) 機械器具部に対する審査ガイドライン、承認基準及び認証基準(以下「審査ガイドライン等」という。)等がある製品
1―1) 審査ガイドラインがあるもの
脊椎内固定器具(JMDNコード:37272003)
体内固定用大腿骨髄内釘(JMDNコード:33187000)
1―2) 承認基準があるもの
歯科用インプラントシステム(JMDNコード:70909000)
歯科用インプラントアバットメント(JMDNコード:70910000)
1―3) 認証基準があるもの
歯科用根管充填シーラ(JMDNコード:36095000)
歯科充填用コンポジットレジン(JMDNコード:70847002)
2) 機械器具部に対する審査ガイドライン等がない製品
脊椎ケージ(JMDNコード:38161003)
人工骨インプラント(JMDNコード:17751000)
なお、「歯科用医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(平成30年6月12日付け薬生機審発0612第4号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理室長通知)3別添2に記載されている医薬品含有材料(同通知別添2の「表2 医薬品含有材料、吸収性材料及び生物由来材料」参照)及び医薬品含有キット製品(同通知別添2の「表4キット、関連材料及び関連器材」中、高度管理医療機器の区分参照)に関して、当該医薬品含有材料又は医薬品含有キット製品自体には対応する認証基準がなくても、その機械器具部(場合によっては薬物担持部も含む。)について認証基準がある場合は、前記3.(1)1―3)と同様に扱うことで差し支えない。
4.本評価指標の位置付け
本評価指標は、歯科・整形外科分野で用いられる医療機器たるコンビネーション製品(植え込み型の機械器具と、抗菌系薬物又は組織形成系薬物)を対象として、薬物の組み合わせに伴い新たに必要になる評価事項と留意事項を示したものであり、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではない。したがって、本評価指標が必要事項全てを包含しているとみなすことが必ずしも適切でない場合もあり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
評価に当たっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。製品に設定される臨床的な意義の違いによって、その臨床的意義を確認するための非臨床及び臨床の具体的評価項目に違いが生じるため、既承認品の評価項目を踏襲することは必ずしも適切ではない。まず製品の臨床的意義を明確化することが必要であり、具体的な評価項目は、その臨床的意義を達成するのに必要な性能を製品が具備していることを確認するのに必要十分か否かという観点から設定されることが求められる。
なお、個別の製品の具体的な評価項目については、必要に応じて独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが望ましい。
5.評価に当たって留意すべき事項
本評価指標の対象となる製品(前記3.(1))のうち、薬物と機械器具が一体不可分でない製品(セット製品)については、以下の「製品」を「植え込み時製品」と読み替えること(ただし、下記(2)中、表及び「1―2) 製品の品質評価」を除く。)。
(1) 使用目的又は効果(6.解説2参照)
1) 薬物との組み合わせに基づく製品特性や開発コンセプトに応じ、適応となる患者と疾患名、使用する状況、期待する臨床上の結果、効果等について適切に設定すること。
2) 薬物が医薬品として承認された抗菌薬の場合は、その抗菌薬の承認された適応と整合するように対象症例が限定された「使用目的又は効果」であって、原則として抗菌薬に対する感受性の確認が必要である。
(2) 非臨床評価事項
機械器具部、薬物、薬物担持部、製品のそれぞれについて、下表に示す事項につき、下記の「1) 品質評価事項」から「3) 安全性評価事項」までに従って品質評価、有効性評価、安全性評価を行うこと。In silico(コンピュータシミュレーション)で評価する場合は、当該シミュレーションの利用について十分な妥当性を示すこと4。
なお、機械器具部と製品全体ではこれらの特性や性質が異なる可能性がある。機械器具部のみを用いて評価を行い、製品全体を用いた評価を省略する場合は、製品全体を用いた評価を省略することの妥当性を示すこと。例えば、薬物コーティングした製品全体での試験を行わずに、薬物コーティング無しの機械器具部のみで試験を行う場合は、その妥当性を示すことが必要である。また、機械器具部に対する審査ガイドライン等がある製品(前記3.(2)1))の場合、機械器具部又は製品全体の評価に関しては、該当する審査ガイドライン等を参考に評価を行うことで差し支えないこと。
表 評価対象と実施すべき非臨床評価事項
品質評価 |
有効性評価 |
安全性評価 |
|
機械器具部 |
○* [1―1)] |
○* [3―2)] |
|
薬物 |
○ [1―3)] |
○ (有効性に関わる生物的作用を評価) [2―1)及び2―2)] |
○# [3―5)及び3―6)] |
薬物担持部 |
○ [1―4)] |
○ [3―4)] |
|
製品 |
○* [1―2)] |
○ [2―3)] |
○*# [3―1)及び3―3)] |
○:実施すべき評価事項
*:前記3.(2)1)に記載の製品については、審査ガイドライン等に従って評価すべき事項があることを示す。
#:薬物とその含有量、溶出性、適応疾患、適応部位、含有薬物の確認結果の状況等によっては一部省略可能な事項があることを示す。
[ ]:下記の「1) 品質評価事項」から「3) 安全性評価事項」までの該当の箇所を参照する。
1) 品質評価事項
1―1) 機械器具部の品質評価
機械器具部又は製品全体を用い、機械器具部の物理的、化学的特性を評価する。
1―2) 製品の品質評価
製品を用い、製品の安定性及び保存方法の評価を行う。
薬物と機械器具が一体不可分の製品では、製品に担持された薬物と薬物担持部の安定性について留意することが必要である。
1―3) 薬物の品質評価(6.解説3参照)
製品を用い、含有薬物の確認、薬物含量、薬物分布(製品中で薬物が意図したように分布しているか)、薬物の溶出性(溶出速度等)の評価を行う。評価は、期待する薬物の効果持続時間に留意したものである必要がある。また、製品を用い、薬物の類縁物質や不純物についても含有量の評価2,5―8を行う。製品中の薬物の類縁物質や不純物の含有量の評価を省略する場合は、十分な妥当性を示す必要がある。例えば、最終製品と同一原料、同一製造方法にて作製した試験検体を用いて評価を行い、最終製品での評価を省略する場合には、その妥当性を示す必要がある。
1―4) 薬物担持部の品質評価(6.解説4参照)
製品を用い、薬物担持部の厚さや溶出物、表面の微細構造、コーティングの完全性・健全性等、薬物担持部の品質特定に必要な評価を行う。
なお、表面の微細構造とは、薬物のコーティングを伴う製品におけるコーティング表面の微細な構造を指す。コーティングの完全性・健全性とは、機械器具部にコーティングされている薬物担持部が、意図した範囲を外観上完全に被覆しており、欠陥(割れ、剥離、膨れ、異物)が無いこと、及び意図した使用状況と期間内で存続し使用に耐えることを指す。薬剤担持部が、「整形インプラント製品の承認申請に際し添付すべき臨床試験の試験成績に関する資料の取扱いについて」(平成20年10月8日付け薬食機発第1008001号)9の(別添)Ⅱ―2―2.生体活性コーティングで規定されたコーティングに該当する場合は、同通知を参考に評価を行うこと。
2) 有効性評価事項
2―1) 薬物使用の妥当性・薬物の生物的作用
薬物使用の妥当性を示すため、薬物の抗菌作用又は組織形成作用を評価する。評価は薬物を対象にして行う。薬物単独を対象にした評価ができない場合(例:銀イオン、ケイ酸イオン等)は、製品又は薬物担持部を用いて評価することを妨げないが、その場合は試験検体及び評価方法の妥当性について十分に説明する必要がある。
2―2) 製品の薬物活性(6.解説5参照)
製品の抽出液又は製品全体を用い、薬物の抗菌活性の評価又は組織形成活性の評価を行う。製品の抽出液を用いて評価する場合は、製品の使用法に鑑みて適切な抽出法で抽出する必要がある。
2―3) 製品の有効性評価(6.解説6参照)
医療機器としての性能を評価することに加えて、薬物と組み合わせることにより期待される効能又は効果を評価する。
In vivo試験での評価に際しては、薬物の適正用量を検討するため、用量割り振りで行うことも考慮する。
3) 安全性評価事項(6.解説7参照)
医療機器としての生物学的安全性評価は、製品全体を使用した生物学的安全性評価を行うことが原則として必要であり、加えて機械器具部、及び薬物と機械器具が一体不可分の場合は薬物担持部の生物学的安全性評価を行う。ただし、機械器具部や薬物担持部の承認の状況等によっては、製品全体、機械器具部、薬物担持部の各対象に対する試験結果や評価結果を組み合わせて、あるいは共用して評価することで生物学的安全性試験を一部省略できる場合もあるが、省略する場合は十分な妥当性を示すこと。
薬物に関わる安全性評価として下記「3―3) 製品の薬物安全性評価」、「3―5) 薬物動態」、「3―6) 薬物の安全性評価」を行う。ただし、既承認医薬品を薬物に使用する場合及び単独で原薬として存在し得ない物質(金属イオン等)を薬物に使用する場合は、薬物含量、薬物溶出性、適応疾患、適応部位、含有薬物の確認結果の状況等によっては、製品の薬物安全性試験、薬物動態試験、薬物の安全性評価のうちの全身的な安全性試験は省略できる場合もあるが、省略する場合は十分な妥当性を示すこと。
3―1) 製品の安全性評価
製品全体を用い、製品の生物学的安全性評価3,10―12、その他の安全性評価(機械的安全性評価等)を行う。
3―2) 機械器具部の安全性評価
機械器具部を用い、機械器具部の生物学的安全性評価を行う3,10―12。
3―3) 製品の薬物安全性評価(6.解説8参照)
製品全体を用い、薬物安全性評価(用量割振り評価、薬物動態評価、使用量を考慮した評価)を行う。なお、製品の複数使用が想定される場合においては、最大使用量を考慮した評価を行う。
3―4) 薬物担持部の安全性評価
薬物担持部の生物学的安全性評価を行う3,10―12。
植え込み環境によって、重要な臓器や神経組織(以下「臓器等」という。)への影響が懸念される場合は、薬物担持部の臓器等への影響を評価する必要がある。なお、製品全体を用いた生物学的安全性評価をもって、薬物担持部単独の評価を省略する場合は、十分な妥当性を示す必要がある。
3―5) 薬物動態(6.解説9参照)
薬物を用い、薬物動態を評価する。試験方法は、製品の使用状況や特性を考慮したものである必要がある。薬物動態は、薬物の安全性評価(5.(2)3―6))で得られた無毒性量で評価し、これと製品の安全性評価(5.(2)3―1))で得られた製品を用いた薬物動態評価を組み合わせること等により、製品に含有される薬物の安全性を評価する。
3―6) 薬物の安全性評価(6.解説10参照)
薬物を用い、薬物の安全性評価を行う。なお、薬物の全身に対する暴露量と局所に対する暴露量を考慮した評価を行う。植え込み環境によって、臓器等への影響が懸念される場合は、薬物の臓器等への影響を評価する必要がある。
(3) 臨床評価事項(6.解説11参照)
臨床試験の要否については、薬物との組み合わせで期待する臨床上の効能又は効果や既承認品との差分、動物試験を含めた非臨床試験による評価の可否を踏まえて判断する必要がある。臨床試験における評価項目は、設定された臨床的意義を達成するために必要となる製品性能が評価できる項目とする必要がある。機械器具部又は既存のコンビネーション製品と比較して、有効性及び安全性が同等以上であることを確認すること。臨床評価を行う際の留意点を以下に記載する。
1) 薬物単体の安全性評価を行う。ただし、既承認医薬品を薬物に使用する場合及び単独で原薬として存在し得ない物質(金属イオン等)を薬物に使用する場合は、薬物含量、薬物溶出性、適応疾患、適応部位、含有薬物の確認結果の状況等によっては、省略できる場合もあるが、省略する場合は十分な妥当性を示すこと。
2) 製品の有効性及び安全性を評価する。
有効性は、医療機器としての性能の観点に加えて、薬物との組み合わせで期待する効能又は効果の観点からも評価を行い、総合的に臨床上の製品の有効性及び安全性を検証すること。
安全性評価のための、製品を用いた薬物動態試験が必要になる場合もあるが、他のデータで安全性が評価できる場合は、この限りではない。既承認医薬品を薬物に使用する場合は、薬物含量、薬物溶出性、適応疾患、適応部位、含有薬物の確認結果の状況等によっては省略できる場合もある。ただし、省略する場合は十分な妥当性を示すこと。また、安全性評価に際しては、製品の複数使用における薬物量の増加を考慮すること。
6.解説
解説1 「3.本評価指標の対象となる製品」について
(1) 薬物と機械器具が一体不可分の製品
例①:薬物担持部がある場合
例②:薬物担持部がない(機械器具部が薬物担持部を担う)場合
(2) 薬物と機械器具が一体不可分でない製品(セット製品)
▲:抗菌系薬物又は組織形成系薬物
解説2 「5.(1)使用目的又は効果」について
臨床試験を実施しても薬物に期待される臨床的な効果(例:感染率の低減)の証明が困難な場合には、その効果を「使用目的、効能又は効果」に記載することはできない。
抗菌薬の適応は種々異なることに留意する必要がある(例:2018年11月現在、ガチフロキサシンは眼科用のみ適応有り)。2018年11月現在、歯科・整形外科分野に関連する抗菌薬の適応には例えば以下のような例がある。
・ 外傷・熱傷及び手術創等の2次感染(例:ゲンタマイシン硫酸塩、トブラマイシン)
・ 外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎(例:セファゾリンナトリウム)
・ 歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎(例:ロキシスロマイシン)
・ 外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、歯周組織炎、歯冠周囲炎、顎炎(例:レボフロキサシン、クラリスロマイシン)
・ 外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、骨髄炎、歯周組織炎、顎炎(例:ロメフロキサシン塩酸塩)
解説3 「5.(2)1―3) 薬物の品質評価」について
含有薬物の評価は、製造工程中に薬物が変性していないか、また、薬物が製品に存在しているかを確認するための評価である。含有薬物の確認試験は、製品中の原薬を確認するものであり、存在すると考えられる非常に類似した構造をもつ化合物を識別できるような試験とすべきである。承認された医薬品では薬物確認の試験法が、医薬品ごとに設定されている。製品に含まれる薬物は、期待する抗菌効果又は組織形成効果の持続時間が短期的でよいもの、長期的である必要があるもの、あるいは体内で失活するもの等の可能性が考えられるため、溶出性評価はそれらを考慮した評価である必要がある。類縁物質や不純物はもともとの薬物(この場合、原薬)において含有量が規格として設定されている場合が多い。製品の製造工程で薬物が類縁物質に変化し、類縁物質や不純物含有量が変化する可能性があることから、製品中の薬物の類縁物質や不純物の含有量を評価する必要がある。
解説4 「5.(2)1―4) 薬物担持部の品質評価」について
薬物担持部の溶出物の評価は、薬物担持部からの溶出物による生体への影響が懸念される場合に必要となることがある。
表面の微細構造の評価は、製品表面のコーティングの微細構造の影響により、製品の性能に何らかの影響(例えば、体内固定用ネジの挿入トルクや骨固定性)が生じることが考えられる場合に安全性の観点から必要となることがある。
コーティングの完全性・健全性は、コーティング表面の傷、又は治療中や治療後の薬物担持部の剥がれにより、期待される効果が得られない、又は安全性に支障をきたす可能性が考えられる場合に必要となることがある。
解説5 「5.(2)2―2) 製品の薬物活性」について
製造工程、滅菌工程、セット製品の場合は植え込み前の用時調製等によって、薬物活性が低下又は失活している可能性が考えられるため、製品又は植え込み時製品を用いて薬物活性を評価する必要がある。
薬物活性の測定法については、科学的に妥当な方法を用いる必要がある。例えば、化学合成により製造される薬物の薬物活性は含量(物質量)で評価可能と考えられるが、バイオテクノロジー応用医薬品や生物由来医薬品に該当する薬物の薬物活性は物質量ではなくバイオアッセイが必要になる可能性が高い。なお、医薬品として承認された薬物には、医薬品規格を設定するための活性試験法(定量試験法を含む。)が定められているが、これらの試験法はサンプルとして原薬が十分確保できることを前提とした活性試験法である場合が多い。一方、薬物と機械器具が一体不可分なコンビネーション製品は、薬物が微量であることや薬物担持部の共存等の理由により、医薬品規格の設定のための原薬の活性試験法は検出限界や定量限界が不十分な場合がある。このような場合には、より適切な試験法を採用すべきである。
抗菌薬の抗菌活性の試験法として円筒寒天平板法や穿孔寒天平板法が日本薬局方に記載されている。抗菌系薬物・機械器具コンビネーション製品の抗菌活性の試験法として使用が確認されたものとして、Kirby-Bauer法(The Clinical Laboratory Standards Institute, US)に準じた方法がある。なお、これらの抗菌活性試験法は溶出性と拡散性が高い薬物を使用した製品(溶出抗菌性の製品)には適するが、溶出性や拡散性の低い薬物(例えば銀イオン)を使用した製品(接触抗菌性の製品)には適さない。接触抗菌性の製品ついてはJIS Z 2801やISO 22196等の、より妥当な試験法を用いて製品の抗菌活性を評価すべきである。
解説6 「5.(2)2―3) 製品の有効性評価」について
機械器具部又は既存のコンビネーション製品と比較して、有効性が同等以上であることを示すべきである。
抗菌系薬物・機械器具コンビネーション製品につき、細菌接種を伴う動物実験を行う場合は、動物実験モデルの妥当性を十分に検討する必要がある。製品の臨床的意義を確認するための妥当な動物実験モデルが存在せず、臨床試験でのみ確認可能である等の場合は、必ずしも細菌接種を伴う動物実験を要しない。細菌接種を伴う動物実験にも、初めに細菌を接種して局所感染を起こし、感染創を掻把した後に植え込み物を植え込みする感染動物モデル(例:骨髄炎モデル)と、細菌接種と植え込みをほぼ同時に行う細菌負荷動物モデルがある等、確認すべき臨床的意義に対して適切な動物実験モデルを選択する必要がある。また、薬物に抗菌薬を用いる場合は既承認の適応と動物実験モデルとの整合性にも留意する必要がある。
解説7 「5.(2)3) 安全性評価事項」について
既承認医薬品を薬物に使用することをもって薬物に関する安全性試験を一部省略する場合は、薬物の品質評価(5.(2)1―3))での含有薬物の確認及び溶出性の評価、並びに製品の品質評価(5.(2)1―2))等の結果を踏まえ、製品や植え込み時製品の薬物含有量及びこれらの製品からの薬物溶出量の観点から、既承認医薬品の安全性試験結果を外挿できることの十分な妥当性を示すこと。
解説8 「5.(2)3―3) 製品の薬物安全性評価」について
製品又は植え込み時製品を用いた薬物の安全性評価は、有効性評価と同時に行うこともできる。また、適正用量を決定するための用量割り振り評価、安全性確認を目的とする薬物動態評価及び使用量を考慮した評価を行う。使用量を考慮すべき場合の例としては、ネジやピンを複数同時に使用する場合、あるいは顆粒状製品のように使用量が一義的に定まらない場合等がある。
解説9 「5.(2)3―5) 薬物動態」について
薬物がバイオ医薬品に該当する場合は、非臨床における薬物動態評価の考え方が異なるので、「「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について」(平成24年3月23日付け薬食審査発0323第1号)13に留意すること。
解説10 「5.(2)3―6) 薬物の安全性評価」について
薬物の安全性評価は、薬物の非臨床安全性試験13―16のデータ等で評価する。無機材料や合金の成分等に該当する薬物のように(例:ケイ酸イオン、亜鉛イオン)単独で原薬が存在し得ないために当該非臨床安全性試験13―16が適用できず、これに代わる試験法等で安全性評価を行う場合は、製品の目的とリスク、医療機器の基準のリスク段階17、薬物の使用目的と機序をもとに、十分な妥当性を示す必要がある。
薬物がバイオ医薬品に該当する場合は、非臨床における安全性評価の考え方が異なるので、「「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について」(平成24年3月23日付け薬食審査発0323第1号)13に留意すること。
解説11 「5.(3) 臨床評価事項」について
薬物がバイオ医薬品に該当する場合、安全性評価において抗体産生が観察されても直ちに有害事象であるとまでは言えない。ヒトではヒト型化されたタンパク質製剤に対しても血清抗体が産生されることがあり、またしばしば抗体が存在しても治療効果が持続する13。
【関連通知、規格及び文献】
1.「コンビネーション製品の承認申請における取扱いについて」、平成26年10月24日付け薬食審査発1024第2号薬食機参発1024第1号薬食安発1024第9号薬食監麻発1024第15号厚生労働省医薬食品局審査管理課長大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)医薬食品局安全対策課長監視指導・麻薬対策課長通知
2.「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」、平成13年5月1日付け医薬審発第571号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
3.「歯科用医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方等の一部改正について」、平成30年6月12日付け薬生機審発0612第4号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理室長通知
4.「整形外科インプラントの強度評価への数値解析使用に関する報告書」、平成28年3月25日医薬品医療機器総合機構科学委員会報告書 https://www.pmda.go.jp/files/000211428.pdf
5.「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」、平成13年5月1日付け医薬審発第568号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
6.「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの改定について」、平成14年12月16日付け医薬審発第1216001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
7.「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの改定について」の一部改定について、平成18年12月4日付け医薬審発第1204001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
8.「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定について」、平成15年6月24日付け医薬審発第0624001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
9.「整形インプラント製品の承認申請に際し添付すべき臨床試験の試験成績に関する資料の取扱いについて」、平成20年10月8日付け薬食機発第1008001号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知
10.「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」、平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知
11.JIS T 0993―1医療機器の生物学的評価―第1部:リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験
12.ISO 10993 Biological evaluation of medical devices-- Part 1:Evaluation and testing within a risk management process
13.「「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」について」、平成24年3月23日付け薬食審査発第0323第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
14.「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンスについて」、平成22年2月19日付け薬食審査発0219第4号厚生労働省医薬局審査管理課長通知
15.「『医薬品開発におけるヒト初回投与試験の安全性を確保するためのガイダンス』について」、平成24年4月2日付け薬食審査発0402第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
16.「抗悪性腫瘍薬の非臨床評価に関するガイドラインについて」、平成22年6月4日付け薬食審査発0604第1号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知
17.「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律第四十一条第三項の規定により厚生労働大臣が定める医療機器の基準」、平成17年3月29日付け厚生労働省告示第122号 第7条3~5
関連文献
1.体内埋め込み型材料分野(ハイブリッド型人工骨・骨補填材)開発ガイドライン2008、平成20年6月経済産業省