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○がん免疫療法開発のガイダンスについて

(平成31年3月8日)

(/薬生薬審発0308第1号/薬生機審発0308第1号/)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長、厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)

(公印省略)

厚生労働省では、革新的な医薬品、医療機器及び再生医療等製品の実用化を促進するため、平成24年度から、最先端の技術を研究・開発している大学・研究機関等において、レギュラトリーサイエンスを基盤とした安全性と有効性の評価方法の確立を図り、ガイドラインの作成を行うとともに、大学・研究機関等と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)及び国立医薬品食品衛生研究所の間で人材交流を実施する事業を実施しました。

今般、「がんワクチン・免疫療法の安全性と有効性の評価方法の確立に資する研究」(代表研究者:三重大学大学院医学系研究科 珠玖洋)における検討を踏まえ、下記のがん免疫療法開発のガイダンスを別添のとおり策定しましたので、製造販売承認申請に当たって参考とするよう、貴管内関係事業者に対して周知方御配慮願います。

がん免疫療法開発のガイダンス

1.このガイダンスは、現時点で考えられるがん免疫療法開発において考慮すべき事項の一例を示したものであり、がん免疫療法の製造販売承認申請において必要となる試験方法の選択等については、必要に応じてPMDAの対面助言を活用すること。

2.革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業におけるロードマップ等においてはPMDAのホームページ(http://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/facilitate-developments/0001.html)を参照されたい。

以上

[別添]

がん免疫療法開発のガイダンス

早期臨床試験の考え方

後期臨床試験の考え方

がん免疫療法に用いる細胞製品の品質、非臨床試験及び臨床試験の考え方

がん治療用ワクチン・アジュバント非臨床試験ガイダンス

早期臨床試験の考え方

目次

はじめに

Ⅰ.がん免疫療法の開発にあたって

① がん免疫療法のアプローチ:安全性と有効性の特性

② 標的抗原検査の開発

③ 免疫反応

④ バイオマーカーの検索

⑤ 臨床検体の採取、収集、保存、解析

⑥ 複合的がん免疫療法

⑦ がん免疫療法の個別化に向けて

Ⅱ.早期臨床試験の考え方

① 患者集団

a.対象の病期と病態

b.対象のがん種について

② 臨床試験中の病変増大について

Ⅲ.第Ⅰ相臨床試験

① 初期投与量と投与スケジュール

② 評価項目

③ 試験デザイン

Ⅳ.第Ⅱ相臨床試験

① 評価項目

② 試験デザイン

はじめに

がんに対する宿主免疫応答の解明と理解が大きく進む中、がん免疫療法の開発が様々な技術的アプローチをたどりつつ急速に進んでいる。感染症に対する免疫学的アプローチの代表であるワクチンに考え方の起源を持ち体内で能動的な免疫応答の誘導を目指す「がんワクチン」、受動的免疫治療法である「エフェクター細胞療法」、さらにがん免疫応答に特徴的な自己抗原に対する免疫学的寛容や免疫抑制環境の解除を目指す「免疫抑制阻害療法」などである。とりわけ、最近の免疫チェックポイント阻害薬やがん抗原受容体遺伝子改変T細胞輸注などにおける明確な臨床効果の報告は、がん免疫療法の新しい幕開けを力強く示している。

がん免疫療法ではこれまで多くの場合、治療標的がん抗原はいわゆる自己抗原そのものであった。自己抗原に対する免疫応答は、生体に元々備わっている様々な免疫寛容機構により抑制又は回避されている。したがって、がん免疫療法が患者体内に誘導する免疫反応は、多くの場合ウイルスなどの外来抗原に比べて弱いとされる。加えて、担がん宿主では腫瘍が関与する多様で複雑な分子機構からなる免疫抑制環境が、がん局所を中心に形成されている。このような免疫抑制環境形成は、がんの進行に伴って強まることが多く報告されている。このように近年、がんと免疫の相互反応の解析が進み、正負両方向のがん免疫反応の実態が分子レベルで説明できるほどに明らかとなりつつある。

一方では、標的抗原が自己抗原である場合には、治療介入に伴って自己免疫反応、ひいては自己組織の傷害が誘発されることが考えられ、一部では報告され始めている。端的な例として、免疫チェックポイントは本来自己寛容を誘導・維持するために存在する生体メカニズムであることから、この阻害薬では重症度の差はあれ、ある程度の自己免疫反応は避けることができない。したがって、免疫療法の強化に伴って生じ得る安全性への配慮が、がん免疫療法の有効性の向上とともに今後より重要となる。

本ガイダンスは、急速に発展するがん免疫分野の情報と今日的理解をもとに、有用ながん免疫療法の開発に資する考え方をまとめたものである。新規性の高いがん免疫療法について、この分野の今後の発展の方向性も踏まえて、臨床試験の実施に際しての留意点を抽出・整理し、レギュラトリーサイエンスの視点と十分に調和を図り、その効率的な開発に寄与することを目指している。本ガイダンスでは、がんワクチン、エフェクター細胞療法、免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする免疫抑制阻害療法を対象としている。

本ガイダンスは、がん免疫療法の研究を行っているアカデミア及び医療関係者並びに臨床開発を行う企業関係者が参照できるように編集した。本編では「早期臨床試験の考え方」について述べる。

Ⅰ.がん免疫療法の開発にあたって

① がん免疫療法のアプローチ:安全性と有効性の特性

がん免疫療法は、担がん宿主における多彩な免疫関連細胞と分子群から成り立つ免疫機能に介入することによりがん細胞を標的とするものであり、最終的にはその破壊又は増殖抑制を目指す治療法である。がんに対する宿主免疫応答については、未解明の部分も多いが、近年の腫瘍生物学、免疫学、分子遺伝学などの発展と理解の深化により、がんの発生から進展までの過程における自然免疫系・獲得免疫系の様々な免疫担当細胞群、さらにがん局所を中心とする微小環境における非腫瘍系、非免疫系の細胞群の関与、これらの細胞間の分子的な情報交換による「がん免疫」の相互作用が理解されつつある。がん免疫療法は、このような「がん免疫」の今日的理解の中で、経時的・空間的に変化するがん免疫応答に対して積極的な介入を試みるものであり、いくつかのアプローチにおいては、目覚しい臨床的効果が得られつつある。ここに取り上げるがんワクチン、エフェクター細胞療法、免疫抑制阻害療法は、現在開発が進んでいるがん免疫療法の中心となっている存在であり、臨床上の安全性と有効性について以下のような特性を有する。

がんワクチン

がんワクチンは、免疫学上の古典的手法であるワクチン技術に基づき、がん抗原分子をワクチン抗原として様々な形態と方法を用いてがん患者に投与し、宿主の免疫系によるワクチン抗原の処理と抗原提示の過程を経て、エフェクター細胞(多くの場合、獲得免疫の中心であるCD8T細胞およびCD4T細胞)のがん抗原特異的活性化を目指すアプローチである。ただし、感染症ワクチンと異なり、抗原の多くが宿主自己抗原又はその変異抗原である点、多くは予防ではなく腫瘍病変が体内に存在している点、その腫瘍抗原を発現している状況下でさらに抗原を投与するアプローチである点、腫瘍による免疫抑制機構の存在下において能動的免疫応答を誘導する試みである点に留意が必要である。

投与するワクチン抗原は、その多くが宿主自己抗原又はその変異抗原であり、短鎖ペプチド、長鎖ペプチド、タンパク、糖鎖、mRNA、DNAなどの形態(以上、同定されたがん抗原の形態)、若しくは、がん組織由来成分の形態(未同定がん抗原を含む形態)をとる。抗原単独で投与される他、樹状細胞などの抗原提示細胞やその他の細胞に添加又は導入して投与される。ウイルスや微生物などのベクターを用いることもある。近年の研究により、ワクチン抗原単独が投与される際には、免疫応答の過程で、ワクチン抗原を適切に送達するデリバリーシステムやワクチン抗原に対する免疫応答を賦活化する免疫活性増強剤(アジュバント)とともに投与することが、ワクチンの免疫原性の向上にとって重要であることが示されている。多くの場合、がんワクチンでは副作用の発現は少ないという一般的な認識が存在する一方で、ワクチンの効果を高めるための種々の新しい工夫(デリバリーシステム、アジュバント、免疫チェックポイント阻害薬の併用など)が急速に広まるにつれて、がんワクチンにおいても自己抗原に対する免疫寛容の解除が起こり、正常組織の傷害などの副作用の可能性が考えられている。

がんワクチンに用いられるデリバリーシステムやアジュバントで、承認に至った製品は世界的にもまだ少ないが、今後はがんワクチン分野において実用化され医療現場で広く使われるものも増えていくと予想される。臨床評価が進んでいるものとしては、デリバリーシステムではエマルジョン、リポソーム、ポリマーミセル、ナノ粒子などの物理デバイスや、ウイルス・微生物などの生物ベクターといった様々な技術が存在する。アジュバントは、広義にはワクチン効果の増強をもたらし得るすべての物質を含み、臨床評価の段階にある代表的なものだけでも金属塩、低分子化合物、ポリペプチド、核酸、タンパク(サイトカイン、他)など多様な物質が検証されつつある。近年は、自然免疫活性化を介して獲得免疫にも大きな効果を及ぼすToll様受容体(TLR)に対するアゴニストが、アジュバントとして注目されている。このように多種多様なデリバリーシステムとアジュバントについては、個々の物質の免疫学的・薬理学的特徴を十分に理解しつつ、ワクチンの免疫原性の向上という利点と、自己抗原に対する望ましくない免疫反応に基づく有害事象というリスクを鑑みて適切に用いる必要がある。免疫原性の向上と副作用の発現は、ワクチン抗原とデリバリーシステム、アジュバントの組み合わせ方によっても異なることが予想されるので、早期の段階から適切な組み合わせについて検討することが望ましい。

有害事象については、これまでに報告されている様々な形態のワクチン抗原を用いたがんワクチンの臨床試験の成績によれば、ワクチンの反復投与によりワクチン抗原に対する免疫反応が明確に検出されていても、自己免疫反応に基づく有害事象はほとんど報告されていない。有害事象の多くは、用いられるアジュバントによる局所又は全身反応が主であるが、これはアジュバントに対する反応として捉えられる。しかしながら、今後デリバリーシステムやアジュバントの作用により免疫原性が強化されたがんワクチン製剤が増え、自己抗原に対する自己免疫様反応の出現が増える可能性がある。

臨床的な有効性については、多種多様ながんワクチンが臨床試験で評価されているが、客観的定義に基づく腫瘍縮小効果の報告は限られている。免疫反応の誘導例も見られるが、末梢血での反応性と臨床効果とは必ずしも一致しない。がんワクチンの対象疾患としては、腫瘍量の多い転移例と外科的治療法などにより腫瘍量を最小化した術後再発予防がある。様々な病態のがんについて、がんワクチンが進行遅延や生存期間延長などの臨床効果を十分に発揮するか否かは、進行中の様々な後期臨床試験の結果を待つところが大きい。有効性の評価方法については、既存の抗がん剤にも用いられている腫瘍縮小を評価するRECIST(response evaluation criteria in solid tumors)基準などが標準的である。また、苦痛軽減などのQOL向上を代替(surrogate)にした報告も多いが、現在は十分なコンセンサスが得られている評価法は世界的にも存在しない。

エフェクター細胞療法

がん細胞の破壊と増殖抑制に直接関わるエフェクター細胞として、CD8T細胞、CD4T細胞、γδT細胞、NK細胞、NKT細胞などが挙げられる。末梢血や腫瘍局所から得られたこれらの自己細胞を体外にて処理・増殖させた後に患者に輸注する。これらの細胞の体外調製の際に、抗原非特異的な刺激あるいはがん抗原や自己腫瘍細胞などによる特異的刺激を施すことがある。

近年、リンパ球に特定の抗原に対する抗原受容体遺伝子をウィルスベクターなどで導入・発現し、人工的にがん抗原特異的に改変したT細胞の輸注療法の開発も試みられている。抗原受容体にはT細胞受容体(T-cell receptor,TCR)とキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor,CAR)が専ら用いられている。

腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocytes,TIL)から調製された多クローン性の腫瘍抗原特異的T細胞輸注や受容体改変T細胞輸注療法では、重篤な有害事象例が報告されている。これらの有害事象は、輸注療法の効果の促進のためのサイトカイン投与や患者への予めの免疫抑制性薬剤投与や全身放射線照射による直接的な毒性と、これら前処置により輸注細胞の活性が修飾・増強されることによるものがある。前処置を受けた患者体内では、いわゆる恒常的リンパ球増殖(homeostatic lympho-proliferation)による輸注細胞の急速な増加と活性化に伴う体内のサイトカインの上昇、炎症反応などが出現し、サイトカイン遊離症候群(cytokine release syndrome,CRS)を引き起こすことがある。CAR遺伝子導入T細胞において、CD19―CAR遺伝子導入T細胞を急性リンパ性白血病に対して用いた臨床試験で、CRSが高頻度に起こることが報告されているが、臨床効果との関連性もあり、予め適切なマネージメントに関する準備とともに、密な安全性情報の収集が必要である。また、急激な腫瘍細胞の傷害による腫瘍崩壊症候群も引き起こし得る。さらには、人為的に改変された抗原受容体を用いた場合、当初の想定を越えた標的抗原又は類似抗原の正常組織での発現に対する反応性による死亡例を含む有害事象も報告されている。

非特異的活性化リンパ球、γδT細胞、NK細胞、NKT細胞などを用いる輸注療法では、輸注時のエフェクター細胞の活性と用量によるが、重篤な有害事象の報告はほとんどない。

TIL由来抗原特異的T細胞や抗原受容体改変T細胞輸注の報告では明確な腫瘍縮小や腫瘍消失例があり、長期にわたる寛解例も多く報告されている。しかしながら、これらの開発は未だ早期段階であり、他の標準的がん治療薬で認められるような腫瘍進行の遅延効果や生存期間の延長が得られるかは今後の検討による。

非特異的活性化リンパ球、γδT細胞、NK細胞、NKT細胞などを用いる輸注療法においては、腫瘍縮小効果は多くの場合、未だ不明確である。治療の有効性に関する報告はあるが、治療との因果関係の解析は今後の課題である。その一部では、実施例数はすでに多数にのぼると推測され、投与例における自覚症状の改善やQOLの向上などについて、その科学的な意義に関する議論が必要である。また、これらの治療法に関する科学的なエビデンスを構築するためには、適切な対照群を設定した上で、統計学的解析を十分に考慮した臨床試験の実施を検討する必要がある。

非自己の細胞療法を考える場合、同種造血幹細胞移植療法やそれに伴うドナーリンパ球輸注療法は歴史的に広く行われてきた細胞療法であり、NK細胞の輸注療法などにも一部では非自己の細胞を用いる試みがある。しかしながら、エフェクター細胞療法は現時点では多くの場合に患者の自己リンパ球が用いられている。非自己のリンパ球を用いると、輸注細胞の均質性の確保、患者の状態による治療への影響の低減、輸注の随時性の確保などの優位性が得られる可能性がある。一方、その実用化には輸注細胞の拒絶の回避、移植片対宿主病(graft-versus-host disease,GVHD)の回避、病原性のリスクなど克服すべき課題が考えられる。

免疫抑制阻害療法

これまで同定されている多くのがん抗原はいわゆる自己抗原であり、胎児期からのいずれかの時点で、宿主体内で発現された後で免疫寛容が成立していると考えられる。そのため、これらの抗原に対する免疫反応は様々な機構で弱められている。加えて、近年のがん免疫研究により、がんの発生から進展する過程で局所を中心とした免疫抑制環境が形成・維持していることも明らかになってきた。これらの免疫抑制状態に関わる多くの免疫抑制細胞や分子の働きを解除することにより、がんに対する免疫反応の活性化を誘導・強化することが検討されてきた。典型的な成功例では、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫抑制機構を解除する治療法がある。最近、これらの免疫チェックポイント分子群であるCTLA―4分子、PD―1分子とそのリガンドであるPD―L1分子の阻害抗体を用いた高い治療効果が次々と報告されるとともに、免疫抑制の解除に伴う正常組織への反応性出現によると考えられる自己免疫病態の発生も明らかになってきた。また、免疫抑制分子に対する阻害抗体を用いたがんに対する宿主免疫反応を増強するアプローチとは逆に、免疫刺激機能を有する分子に対するアゴニスト抗体により、抗腫瘍効果の誘導を目指す治療法の開発も進められている。標的となる分子群は、主に活性化したT細胞に誘導的に発現され、なおかつ刺激性の免疫シグナルを伝達する受容体である、4―1BBやOX―40、GITRなどの分子が含まれている。これらの治療法を免疫チェックポイント阻害薬やがんワクチンと併用する複合的がん免疫療法の進展も期待されている。

これらの治療法の中には、自己免疫反応に起因すると考えられる大腸炎、肝炎、内分泌障害、皮膚障害などの出現が報告されているが、阻害する分子によりその頻度や自己免疫反応の範囲と程度は異なる。このことは、自己抗原に対する免疫寛容の存在を明確に示すとともに、同様なアプローチでは様々な自己免疫反応とそれによる正常組織の傷害が必然的に出現することを示している。自己免疫反応による有害事象の出現は個人差も大きく、またその傷害部位も異なっている。免疫関連有害事象の発生と臨床効果には関連があるとされているので、予め適切なマネージメントに関する準備と安全性に関する密な情報報集が必要である。

一方で、これらの治療法では臨床効果が極めて顕著な症例も多く、メラノーマにおいては完全な腫瘍消失から様々なレベルでの腫瘍縮小、また臨床反応が長期持続する例が認められることが報告されている。T細胞におけるCTLA―4とPD―1の両分子の機能は異なっているので、これら抗体を併用して投与した場合には顕著な臨床的効果を示した報告もある。メラノーマ以外の進行がん例においても、進行の遅延や生存期間の有意な延長をもたらすことが期待されている。

② 標的抗原検査の開発

がん免疫療法は特定の抗原を標的とすることが多く、その臨床開発にあたり投与対象例を抽出するために、可能な限り詳細な標的抗原検査を確立する必要があり、開発初期から標的抗原の検出・定量技術と判定基準の開発及びその標準化への努力をするべきである。標的抗原はタンパク又はこれをコードするmRNAとして検出や定量的な測定がされることが多いが、その技術は極力、開発時の水準のものを採用し、感度と定量性の面で十分な性能を備える必要がある。標的抗原の発現に関する情報が効果予測に有用なバイオマーカーとして利用できることもあるが、その成否は臨床開発の進展とともに明確になると考えられる。したがって、標的抗原検査の開発はがん免疫療法の臨床試験と同時に進める必要がある。これまでの取り組みでは、臨床試験に参加する患者のがん組織における抗原発現の有無を確認しても、その割合や陽性度については詳細に検討されていない傾向があった。しかし、可能な限り定量性のある標的抗原検査を実施することが、対象例の適切な組入れとバイオマーカー開発という観点から、臨床開発の成功率を高めるために有意義となり得る。

標的抗原検査法は各々のがん免疫療法に固有であることが多く、コンパニオン診断薬とした場合、がん免疫療法とともに臨床開発する必要があり、長い年月と十分な臨床データの蓄積を要する。抗原特異的なエフェクター細胞療法とりわけ受容体遺伝子改変T細胞療法においては、事前の抗原分子の発現とともに予期しない交差反応性を引き起こす可能性に十分に注意して抗原エピトープの詳細な解析を行い、またその検出法の開発も必要となり得る。

免疫チェックポイント阻害薬などでは特定のがん抗原を対象とはしないが、薬剤の標的となる分子(例えば抗PD―1抗体ではがん組織中のPD―L1)の発現などの情報を事前に得ておくと、その薬剤と腫瘍の特性の関係性を評価するために有用である。

従来の抗体医薬品(抗HER2抗体、抗EGFR抗体、抗CCR4抗体など)の開発における標的抗原検査法の経験や、コンパニオン診断薬の開発のためのガイダンスを参考とすることは重要である。

③ 免疫反応

がん免疫療法治療薬の臨床試験での免疫反応の評価は極めて重要である。動物モデルでの非臨床試験では免疫反応が、ヒトとは異なり適切な評価は困難なことが多い。しかしながら、ヒトと動物モデルにおける差異は考慮しつつも、可能な限り非臨床試験にて試験製剤の作用機序(mode of action)とそれを反映する指標が確認できるモデルシステムなどを確立し、POC(proof of concept,概念実証)を確認することが開発の成功確率を高めるために重要であろう。

臨床開発に当たっては、FIH(first-in-human,ヒトで初めて)を含む早期臨床試験での免疫反応の評価が、開発する治療法の免疫生物学的活性の検証のために重要である。誘導される免疫反応の内容、程度、持続性などのデータは、その後の臨床開発を進めるための情報となる。早期臨床試験は、対象とする標的抗原に対する免疫反応を観察できる最初の機会となり、その解析は可能な限り広範囲で総合的に行われる必要がある。その評価は、該当するがん免疫療法の実施根拠を科学的に裏付ける情報を得られるものであり、開発自体の妥当性とそれに基づく開発の継続ないし中止の決定に際し極めて重要である。

がんワクチンやエフェクター細胞療法では標的腫瘍に対する免疫反応の誘導・付与は必要条件であるが、細胞性免疫・液性免疫ともに、どのような免疫反応の誘導・付与が十分であるかについては多くが不明である。また、臨床効果を反映し得る免疫反応については、開発する治療法毎に内容や程度が異なると考えられるので、事前の考え方の整理が重要である。

がんワクチンやエフェクター細胞療法の免疫反応測定では多くの場合、抗原特異的T細胞の測定が中心となる。その測定は可能な限り定量的であり、また、in vivoを反映したものであることが望ましい。細胞に長時間の培養操作が加わる際には、これらの測定法は、免疫反応の定量的評価には適しにくいことに留意する必要がある。T細胞反応の測定では、広く使われているアッセイ技術であるELISPOT(enzyme-linked immunospot)法、細胞内サイトカイン染色法(intracellular cytokine staining)やMHCマルチマー法などでは、検体の状態や測定に用いる試薬によって生じる較差がある。また測定実施者の熟練が必要であり、施設間の較差も大きい。したがって、多施設共同臨床試験を行う場合には、T細胞反応の測定の実施機関の集約化や測定技術の均一化に向けての手順の標準化などについて、事前の十分な検討をする必要がある。また、ワクチン抗原の皮膚反応(遅延型過敏反応;delayed-type hypersensitivity,DTH)をT細胞性の生体反応として測定する方法も従来から存在する。

エフェクター細胞療法においては、輸注された細胞の経時的な評価、とりわけ細胞の量、機能、特性の解析が重要と考えられる。また、輸注細胞の体内動態、数量的及び機能的な経時変化の測定と評価も重要と考えられ、開発する細胞製剤の特徴に応じた免疫反応の評価法の選択と開発も必要となる。CAR遺伝子導入T細胞療法の早期臨床試験において造血器腫瘍に対して著しい抗腫瘍効果が報告されているが、CRSを始めとする重篤な有害事象の発現率が高頻度で報告されているため、毒性発現の予測及びそのマネージメントに関する準備が重要である。

一方、免疫チェックポイント阻害薬などの免疫抑制阻害療法の中には、がん抗原を含む多様な自己抗原に対する免疫反応が増強されるものがあるため、臨床的効果が期待される反面、自己細胞への傷害による有害事象の一定度の出現が原則的に不可避と考えられる。したがって、従来のがんワクチンやエフェクター細胞療法などの特異的免疫反応測定に加えて、治療効果が望める患者集団(治療効果の予測)及び毒性が高まる患者集団(毒性の予測)を早期に選別可能な免疫学的バイオマーカーについての研究が行われるべきである。また、投与した抗体の半減期や標的となる免疫チェックポイント分子との結合の持続性(薬力学;pharmacodynamics,PD)などの解析も重要である。免疫チェックポイント分子の中にはエフェクターT細胞だけでなく、免疫抑制性細胞(制御性T細胞など)上にも発現を認めるものもあり、治療薬によるエフェクターT細胞の直接の活性化だけでなく、エフェクター細胞の抑制解除系にも留意して、免疫反応の解析を考慮する必要がある。その他、液性免疫反応やサイトカイン・ケモカインなどの解析の多くは探索的ではあるが、今後のより安全で効果を高める治療法の開発にとって重要な評価資料となる可能性がある。

いずれの治療法においても末梢血検体の解析に加えて、「がん局所」における免疫応答解析は極めて重要であると考えられるので、検体入手に最大限努め、詳細な解析を行うことが望ましい。

④ バイオマーカーの検索

がん免疫療法に伴う有害事象と臨床効果の予測のためのバイオマーカーの同定は、喫緊の課題である。これまでの報告からは、標的抗原と免疫反応という指標はバイオマーカーとして有用ではあるが十分ではなく、その他の指標の検索が求められる。がんに対する免疫応答に関わる腫瘍、免疫系、宿主のいずれも多様性に富むことから、検討対象となる指標候補も多岐に及ぶ。その中でも特に「がん細胞・がん局所と全身疾患状態」、「宿主ゲノムの個人差」、「免疫関連細胞・分子の変化などの免疫反応の解析」の3つの要素が検討対象の中心となっている。

がんの個別性の解析

がんの個別性の解析の対象として、(1)がん細胞 (2)がん組織内の脈管、間質細胞、細胞外マトリックス分子などの非免疫系細胞・分子群 (3)がん局所に浸潤する免疫系細胞群などがある。解析の項目としては、多彩な発現抗原の質と量、抗原分子の機能的性状、抗原ペプチド/MHC分子の複合体発現とその形成関連分子、免疫シナプス形成分子、がん細胞に発現する免疫修飾(抑制)分子(PD―L1、FasLなど)の多様性、間質細胞群の内容とがん微小環境の構成状態、がんの部位などある。

これらの解析では主に腫瘍組織を対象とするので、生検や手術検体の入手と処理、保存管理は極めて重要である。解析には、これまで病理学的手法や免疫組織化学的手法が広く用いられており、解析に用いる抗体・試薬の準備とともに操作手技には十分な習熟と経験が必要である。近年、DNAアレイ、次世代シークエンシング技術や逆転写定量PCRなどを用いたゲノムやトランスクリプトームの網羅的解析技術が普及したことにより、がんの個別性解析がもたらす情報の質と量は飛躍的に向上しつつある。これらの解析技術については、検討対象の構成細胞群を予め明確に選別する必要がある。いずれの手法においても、解析手順のバリデーションと標準化は必要である。また、得られるデータと治療効果との関係性について適切に評価できる仕組みも慎重に検討し準備する必要がある。

腫瘍組織以外の臨床検体(血清、血液細胞、尿など)は、全身的な疾患状態の解析に広く用いられている。血液や尿などの比較的入手が容易な臨床検体を用いて、がん細胞分泌物や循環がん細胞を測定する技術の開発も試みられている。

患者の個別性の解析

患者のゲノム背景の解析については、先行しているSNP解析や遺伝子発現のPCRによる解析とともに、次世代シークエンサーによる解析技術の発展が宿主の個別性解析をさらに精密化している。また、それらの関連解析手法も、より洗練され簡素化されつつある。以前から免疫反応の宿主側要因として、抗原ペプチド提示に関わるMHC分子の型や発現が解析されてきた。複雑な免疫系に関わる細胞群や分子群の遺伝学的背景の重要性も示唆されているが、その意義や有用性の検証については今後の検討によるものがほとんどである。

免疫関連細胞や関連分子の解析

がん免疫療法の介入前後における免疫関連細胞や抗体、サイトカイン、ケモカインなどを中心とする免疫関連分子の解析を進める中で、治療前のこれらの解析データは治療薬に対する安全性と有効性のバイオマーカーとなり得ると期待される。近年、抗原特異的・非特異的な免疫反応の挙動とともに、免疫抑制に働く制御性T細胞、骨髄由来抑制性細胞(myeloid-derived suppressor cell,MDSC)などの測定の重要性も考慮されている。これらの検討については、従来は末梢血を中心に行われてきたが、「がん局所」におけるエフェクター細胞群や抑制性細胞群の挙動の解析の重要性が指摘されている。これまでの検討は、現在のところ総じて探索的であり、その意義については今後の検証が必要である。一部のがん種において、TILの数と性状が予後予測因子となることが示唆されている。類似の検討により、がん免疫療法治療薬の有効性や安全性の予測が可能であるか、今後の解析が待たれる。

⑤ 臨床検体の採取、保存、解析

がん免疫療法の臨床試験は患者のがん免疫応答への介入であり、新しい治験薬開発に際しては、投与後における免疫反応については必ずしも予測し得ない要素が多く含まれる。臨床試験の進展に伴い、臨床的項目の評価の比重が大きくなるが、患者からの検体の採取、保存、解析も重要である。患者への侵襲は最小限としつつも、治療薬の投与前後の経時的な検体採取は、試験計画時から重要な課題である。ただし、がんに対する免疫反応の解析は、多くの解析手法が現時点では標準化されていないものが多く、探索的にならざるを得ない。一方で、腫瘍細胞学、免疫細胞学の進展は日進月歩であり、時代に応じた新しい視点と手法で患者検体を解析することは、臨床開発にとって大きな意味を持つ。とりわけ、第Ⅰ相より後期の臨床試験までに費やされる長い期間を考慮すれば、その間に種々の研究で進む解析技術を取り入れることも検討すべきである。適切な検体の収集、保存の持つ意義は大きい。予め、患者への説明と同意の取得、検体の登録と保管管理、バンキングシステム、さらには解析データのデータベース化などの整備が重要である。

多くの場合、患者検体は手術検体と経時的に採取された末梢血に限られてきた。腫瘍組織の入手は免疫反応の解析に極めて重要であり、治療前後における生検などでの採取の必要性も最大限考慮すべきである。

⑥ 複合的がん免疫療法

がんに対する免疫応答は、「がん局所」を中心とする宿主内の多くの免疫関連細胞群と分子群の正負の反応の連鎖から成り立っている。その複雑な機構の解明の進展に伴って、より有効ながん免疫療法の開発には、様々な免疫反応の場面への介入の組み合わせが必要であることを強く示唆している。現在開発されている各々のがん免疫療法のアプローチは、例えば抗原提示細胞の活性上昇(免疫アジュバントなど)、エフェクター細胞の活性化(サイトカイン併用、リンパ球除去用の前処置など)、抑制性T細胞の除去(ブロッキング抗体など)が挙げられる。作用点の異なる治療法を組み合わせた複合的がん免疫療法には強い期待がかけられ、今後の開発の大きな流れになりつつある。併用する治療法には、現在広く用いられている化学療法、生物学的製剤、放射線療法なども含まれるが、各々の作用機序、用量、投与法などについて、免疫療法薬と併用薬との相互効果に関する情報を可能な限り詳細に得ておく必要がある。他治療との併用は、免疫治療薬同士の併用や、他の化学療法剤などとの併用が含まれ、予想外の毒性が発生する可能性もある。薬剤の特性にもよるが、既承認薬だけでなく未承認薬同士の併用療法の開発を当初より進めることも重要である。

エフェクター細胞療法では、化学療法剤や放射線による前処置が有効性の確保に重要な場合が想定される。したがって、これらの前処置としての治療法との併用を積極的に検討すべきである。

承認薬剤をがん免疫療法薬と併用する場合には、承認時と使用法が異なる場合もある。そのような場合には慎重を期す必要があるが、非臨床試験で併用の根拠が示唆される場合には、併用した治療法とした試験を実施することも重要である。

⑦ がん免疫療法の個別化に向けて

がんに対する免疫反応は、がん細胞の個別性、宿主の個別性、免疫システムの多様性に大きく依存している。そのため適切な治療法は、個々の患者によって異なるのは当然である。他のがん治療法と同様に、個々の患者にとって適切な治療法の選択が可能な治療アルゴリズムの開発が必要となっている。次世代シークエンシング技術などの新しい技術により、近年、ゲノムのレベルで個別性解析技術が大きく進展し、がん免疫療法分野においても、個別性を考慮した治療が選択できるシステムが検討できる状況が醸成されつつある。

個々の患者毎のがんの個性の一つとして、腫瘍が発現する特異的抗原の種類と組合せが異なることが知られている。これを考慮し、様々ながん抗原の組合せを前提としたがんワクチンの開発も進められつつある。予め個々の体内での免疫反応の存在を指標として抗原(ペプチドなど)の組合せを選択するがんワクチンの開発も進められている。また、各患者のがん局所に浸潤するリンパ球は多クローン性であり、またその構成は各々で大きく異なる。TILに着目したエフェクター細胞も、同様にがんの個性を重視した着想の上に成り立っている。さらに今後は、個々のがんに認められる多彩な個別の変異性抗原(突然変異、転座、スプライシング変異に伴う変異性タンパクなど)を解析し、患者毎に固有の変異性抗原に対するがんワクチンやエフェクター細胞療法の開発も検討されつつある。

個別化医療の開発は、それを担保する技術の進化とともにがん免疫療法でも今後大きく進み、治療法の新しいパラダイムを形成していくことが考えられる。患者毎で得られた情報に基づく治療法の安全性と有効性の考え方を整理し、このような治療法を開発する必要性が生じつつある。

Ⅱ.早期臨床試験の考え方

早期のがん免疫療法臨床試験の主な目的は、安全性プロファイル、至適用量、投与法と投与スケジュール、さらに有効性を明らかにすることである。

① 患者集団

a.対象の病期と病態

早期臨床試験、とりわけヒトに初めて投与されるがん治療薬は、適切な治療が存在しない進行期又は転移・再発した病変を持つ例を対象にすることが一般的である。がん免疫療法においても同様の病変をもつ例を対象にする計画から検討することになる。

がんワクチンのように安全性とともに治療薬により引き起こされた免疫反応性を評価する場合には、進行する病変を有する例を対象とするかどうかは、十分な検討をしておくことが望ましい。例えば、対象となる例が転移・再発病変を持ち、治療薬の投与開始後から短期間で病状が悪化する場合には、評価できる免疫反応を得るまでの時間が保てないことも予想される。さらに、転移・再発例では、多くの場合、既に化学療法や放射線治療を受けており、これらの治療ががん免疫療法、特にがんワクチンに対して誘導される免疫反応に対して負の影響を与えて、免疫反応を減弱させている可能性がある。したがって、宿主免疫応答の維持されている腫瘍量の少ない例を対象にすることが妥当な場合も考えられる。すなわち、試験のデザインとしての適切性の検討は必要となるが、がん病巣の完全切除後又は化学療法・放射線治療が奏効し腫瘍病変の存在しない例、あるいは微小病変をのみもつ例を対象に含めることを考慮する場合もあり得る。また、化学療法などの前治療による影響をできるだけ少なくする方法があるならば、例えば適切な休薬期間を設けるなどして、宿主免疫応答が回復することが予測される場合にその検討をしておくべきである。

評価可能病変を有さない例を対象にした場合、短期間には十分な有効性が確認できない場合がある。無増悪生存期間(progression-free survival,PFS)の評価をする際には、その治療の開発継続の可否について中間的判断が困難となることもある。また、手術切除後のがん再発予防(術後アジュバント設定)の効果を評価するために、無病生存期間(disease-free survival,DFS)や全生存期間(overall survival,OS)、一部の腫瘍マーカー値の変化などを評価項目とする際は、妥当な試験デザインや対照群の設定を十分に検討する必要がある。

エフェクター細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬では、腫瘍縮小などの抗腫瘍効果が比較的早期に期待できる場合も想定され、そのような場合、評価可能な再発・転移病変を持つ例を対象とすることも妥当となり得る。なお、免疫チェックポイント阻害薬では、治療に伴う有害事象として自己免疫反応が予想される薬剤があり、顕在性・潜在性に関わらず自己免疫疾患を有する例を対象に含めるかを、早期臨床試験では特に慎重に検討すべきである。

b.対象のがん種について

従来の抗がん剤の第Ⅰ相臨床試験の主な目的は、多くの場合、試験薬の最大耐量(maximum tolerated dose,MTD)や安全性プロファイルの評価であり、臨床試験が様々ながん種を含む集団から成り、異なる臨床効果を示したとしても、評価の上では特には問題にならない。したがって、殺細胞性抗がん剤などの第Ⅰ相臨床試験では、異なる複数がん種を対象にすることが一般的である。治療薬のMTDが評価できれば、次の第Ⅱ相臨床試験では、対象がん種を特定して有効性を評価することが一般的である。

これまでのがんワクチンでは、第Ⅰ相臨床試験においてMTDを特定できないことが多かったことから、毒性以外の評価項目、特に治療薬により誘導される免疫反応を考慮して推奨用量を決定する方法を考慮する場合も今後十分にあり得る。そのような状況が予測される際に、対象を異なる複数のがん種とする場合には、患者毎に試験前の治療内容が異なることが多く、それががん免疫療法による免疫反応の誘導に影響を与える可能性があり、免疫反応の評価について解析結果の解釈が難しくなり、試験の成否に影響を及ぼしかねないことも配慮すべきである。したがって、がんワクチンにおいては少数例を対象として免疫反応を評価することになれば、がん種や前治療が比較的均一な集団を対象とすることが望ましい場合もあることも念頭に置くべきである。

また、がんワクチンやエフェクター細胞療法などの抗原特異的ながん免疫療法においては、標的とする抗原に対して免疫反応を誘導し、その結果として得られる抗腫瘍効果を期待するため、対象は標的抗原の発現が認められるがんに限られることになる。抗原の発現状況は、治療効果を予測するようなバイオマーカーとなることが予想されるので、その発現検査法が未確立であれば、早期試験の段階では探索的に抗原発現検査の開発研究を進行しながら、臨床試験を実施していくことが重要である。(Ⅰ.② 標的抗原発現検査の開発 参照)

標的抗原の発現が確認でき、異なる複数がん種を対象とした場合、毒性の発生にがん種間の差異については未知なことが多く、がん種を特定しない第Ⅰ相試験の計画も行い得る。しかし、有効性に関しては、がん種により腫瘍を形成する細胞や組織の構成、腫瘍周辺で産生されるサイトカイン・ケモカインのプロファイル、免疫細胞の組織到達性などに差異があり得る。したがって、がん免疫療法全般において、免疫反応や抗腫瘍効果に差異をもたらし得る多くの可能性についての配慮が必要と考えられる。

免疫チェックポイント阻害薬については、特に単剤投与の場合には対象となるがん種は特定のがん抗原の発現には制限されないと考えられる。

② 臨床試験中の病変増大について

従来の抗がん剤の臨床試験では、がん病変の増大、新病変が出現した際は、治療薬は無効として中止することが一般的である。一方で、がん免疫療法では、生物学的活性としての免疫反応を引き起こすために、一定の時間が必要と予想されることから、がん免疫療法が実施された例においては、遅発性の効果にも留意する必要がある。また、病変局所での免疫反応に伴う炎症性変化により、一時的に病変増大がみられる可能性も考慮しておく必要がある。測定可能な病変をもつ例を対象にがん免疫療法の試験を計画する際、試験期間中に病変の増大あるいは新病変が出現した場合に、中止するか、継続するかについてはあらかじめ検討しておくべきと考えられる。なお、継続することが、患者の不利益をもたらさないかどうか、個々に慎重な検討が必要でもある。また、個別の患者においてプロトコール治療期間中に病変増大あるいは新病変の出現がみられた場合に治療を継続とする基準を臨床試験実施計画で定めておくべきである。

治療薬の継続には、以下の条件が少なくとも必要と考えられる。

・ 患者の全身状態が試験開始時と同程度である場合

・ 病変が生命を脅かす状態(life-threatening)でないと判断される場合

・ 患者に発生した有害事象が治療薬の継続投与の際に許容できる場合

患者に対しては、病状悪化のリスクと、中止した際は他の治療へ変更可能なことについてインフォームド・コンセントを得ることが必要である。

Ⅲ.第Ⅰ相臨床試験

第Ⅰ相臨床試験の目的は、主に安全性と忍容性の評価を行うことである。

① 初期投与量と投与スケジュール

従来の殺細胞性抗がん剤の開発では、非臨床試験(in vitro試験や動物試験)のデータに基づいて、第Ⅰ相臨床試験のデザインをすることが一般的である。投与経路や投与スケジュールについては、可能な限りヒトに外挿可能な動物モデルを用いて、臨床試験開始前に検討すべきである。しかし、がん免疫療法は、免疫反応を介して作用するという機序をもつため、殺細胞性抗がん剤とは異なって、適切な動物モデルの作製が困難であることが多い。そのため、がん免疫療法では非臨床試験の結果に基づいてヒトでの初期投与量を設定するには限界がある。治療薬の作用機序に関連した毒性の発現に関しては、過去にヒトに投与された経験のある類似治療薬の情報が有用であることもある。

エフェクター細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬の一部では、がんワクチン療法に比較して、より用量依存的な毒性と有効性が観察される可能性が想定され、初回投与量と投与スケジュールと増量計画については慎重な検討が必要である。また、エフェクター細胞療法では最小投与量群でも重篤な副作用が出現する可能性があることから、サイトカイン、CRP(C-reactive protein)などの安全性予測のマーカーをモニターしながら慎重に投与するべきである。そのため、がん種や体内の腫瘍量と有害事象発生の関連についても留意すべきである。エフェクター細胞療法では、輸注した細胞が体内で増殖することも考慮する必要がある。また、輸注した細胞が長期に維持され、そのために有害事象の継続や再燃の可能性についても考慮する。輸注後に、細胞を制御する技術の開発が有害事象に対する有効な方策の一つとなり得る。免疫チェックポイント阻害薬においては、用量依存性に自己免疫反応に起因した正常組織への傷害が生じる可能性があり、予期せぬ有害事象が発生することを考慮しておくことが重要である。

治療薬の体内動態などの解析と評価を行うことも必要である。

② 評価項目

殺細胞性抗がん剤の第Ⅰ相臨床試験では、安全性及び忍容性を確認するために主要評価項目として毒性の発現頻度、種類、グレードが評価される。毒性の種類及びグレードの評価には、米国国立がん研究所有害事象共通用語規準(National Cancer Institute,Common Terminology Criteria for Adverse Events,NCI CTCAE)が用いられる。さらに、安全面で許容される用量の上限として最大耐量(maximum tolerated dose,MTD)が探索される。これは、殺細胞性抗がん剤の場合、強い毒性を持ちながらも、用量を増やすほど毒性のリスクだけでなく効果のベネフィットも増加すると期待されるため、毒性において許容可能な用量が最大の効果をもたらす用量となると考えられるからである。MTDについては、通常は第Ⅰ相試験に組み入れられた患者に投与する際に用いた用量と、それに関連して発現するDLT(dose limiting toxicity)に基づいて決定される。DLTは、毒性の中でも、それ以上用量を増やすことを制限するような許容不能な毒性又は生じることが望ましくない毒性を指す。殺細胞性抗がん剤の第Ⅰ相臨床試験では、副次評価項目として、有効性を確認するために抗腫瘍反応なども評価される。

エフェクター細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬の一部では、殺細胞性抗がん剤のように用量の増加とともに毒性及び効果が増加することも予期される。したがって、これらの第Ⅰ相臨床試験では、免疫反応の評価を加えた上で、殺細胞性抗がん剤の場合と同様の対象及び評価項目を用い得ることが可能と考えられる。ただし、がん種や体内の腫瘍量によって毒性の発現が異なることに留意する必要がある。

一方、がんワクチン療法では、探索された用量の範囲内でDLTが発現することがほとんどないため、MTDが同定されない場合もある。そのような状況下では、毒性反応とともに、それ以外の反応(抗腫瘍反応、免疫反応、注入部位反応など)を評価項目として用量探索に直接活用することの可能性も検討する。特に、有効性を発揮する作用機序が、投与したワクチン抗原に対する免疫反応を介したものである以上、免疫反応が作動しないまま臨床開発を進めることには大きな問題を抱えることになる。したがって、毒性以外に免疫反応を評価項目とすることを検討しておく必要がある。(Ⅰ.③ 免疫反応 参照)

また、がん免疫療法によっては、遅発性の毒性及び効果の反応を示す場合もあるため、それらの評価期間の設定には注意を要する。

③ 試験デザイン

エフェクター細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬の一部では、殺細胞性抗がん剤と同様、毒性反応を指標とした用量探索デザインを用い得る。従来から、いわゆる「3+3デザイン」が用いられることが多かったが、このデザインのいくつかの問題点を解決するべく、その他多くの毒性反応を指標とした用量探索デザインがすでに開発されている。例えば、用量―毒性反応モデルに基づいてMTDを探索する「連続再評価法(continual reassessment method)」、被験者内増量を行うことも許容しながら、DLTよりも軽度の毒性情報も活用して増量を行い、試験終了時に用量―累積毒性反応モデルに基づいてMTD又は推奨用量を同定する「加速漸増デザイン(accelerated titration design)」、毒性発現確率の分布に基づいてMTDの探索を行う「毒性発現確率の区間に基づくデザイン(toxicity probability interval design)」などが存在する。これらのデザインが適用される場合もある。

がんワクチン療法の多くの試験では、探索された用量の範囲内でDLTが発現することが少ないため、MTDが同定されないことが多かった。検討される用量がMTDよりも低い用量であると予期される中で、後続の試験のための推奨用量を同定することを目的とした場合、上述の毒性反応を指標としたデザインにおいて1コホートのサイズを大きくすること、例えば、3+3デザインの一般化である「A+Bデザイン」や、コホートサイズを大きくした修正版CRMなどを用いて、毒性反応はもちろんそれ以外の反応についてのより精度の高い情報を収集することが可能である。ただし、コホートサイズを大きくすることの欠点は、増量するのに多くの患者を要すること、効果の期待できない低い用量で相当数の患者を治療してしまう、ということがある。また、3+3デザインでは20~30%の毒性頻度を標的としているが、A+Bデザインでは、コホートサイズが3+3デザインとは異なるため、必ずしもそうでないことにも留意すべきである。また、毒性反応を指標とした用量探索デザインを通じて決定された用量、又は製造上の理由や投与部位反応など実施上の制約(例えば、エフェクター細胞療法や細胞を用いたがんワクチンなど)により規定された最大用量が、安全で最大の効果を与えることが期待できる場合、その用量でのコホートを拡大することで、毒性反応はもちろんそれ以外の反応について精度の高い情報を収集することが可能である。

毒性反応に基づく推奨用量の決定以外に、免疫反応をはじめとする他の反応(抗腫瘍活性、治療薬投与部位での反応や制約など)を用量探索に直接活用することも考えられる。例えば、免疫反応又は抗腫瘍活性を用量探索の指標として直接用いるデザイン、毒性反応とそれ以外の反応の両方を同時に用量探索の指標として用いるデザイン、毒性に基づく用量探索(第Ⅰ相)部分を毒性以外の反応に関するランダム化第Ⅱ相部分へシームレスに連結した試験デザインなども考えられる。特にシームレスデザインでは、毒性に基づく用量探索デザインを通じて忍容可能な複数の用量を同定したもとで、その後、それらの用量間でランダム化(Ⅳ.② 試験デザイン 参照)又は有効な用量への割付確率を高くする反応適応的ランダム化(response-adaptive randomization)を行い、毒性以外の反応において望ましい用量を選択する。ただし、毒性以外の反応として、特に免疫反応を用いる場合には、その測定の信頼性や妥当性、治療効果との相関など臨床的な意義について十分な検討が必要である。(Ⅰ.③ 免疫反応 参照)

上記のいずれの用量探索デザインを用いるにせよ、後続の相へ進むか否かは、毒性が許容可能であることは当然のことながら、望ましくはある一定以上及び/又は最大の効果を与える用量が同定できるかに依拠する。

その他、後続の試験のための推奨投与スケジュールを同定することを目的とした場合には、用量とともに投与スケジュールを探索するデザインも考えられる。毒性及び効果に関する反応が遅発性の場合には、それらのイベントが発現するまでの時間を考慮したデザインも考えられる。また、強い抗腫瘍活性を有する治療法では、用量とともに効果が必ずしも単調に増加しないことも予想される。その場合は、期待される効果が得られる最少量の同定が必要であり、極めて少ない用量から漸増するような試験デザインも考えられる。また、がん種や体内の腫瘍量を考慮した適格基準や試験デザインの工夫も必要である。

Ⅳ.第Ⅱ相臨床試験

第Ⅱ相臨床試験の目的は、主に有効性の評価とレジメンの最適化を行うことである。

① 評価項目

殺細胞性抗がん剤の第Ⅱ相臨床試験では、多くの場合、主要評価項目を腫瘍縮小として有効性が評価される。腫瘍縮小効果は、がん種によっては第Ⅲ相試験における生存延長の代替指標にはならないが、抗腫瘍活性を評価することが有効な抗がん剤をスクリーニングするために適切と考えられているからである。

がん免疫療法においても、抗腫瘍活性はRECIST基準を用いて主に腫瘍縮小や増悪の遅延が評価される。しかし、がん免疫療法特有の作用機序により、遅延性の効果発現が想定される場合がある。その効果発現パターンを考慮した腫瘍縮小の評価基準である免疫関連効果判定基準(immune-related response criteria,irRC)が提案され、このような新基準の必要性も想定される。さらに、がん免疫療法によっては、腫瘍縮小効果が得られなくとも増悪の遅延や生存延長が期待できる可能性があり、このような場合には無増悪生存期間又は全生存期間を主要な評価項目として検討することになる。初期治療後で評価可能病変のない患者が主な対象となる状況も考えられる。増悪の遅延や生存延長の程度は、検証試験をデザインするための重要な基礎データとなる。

がん免疫療法の生物学的活性を示すデータとして、免疫反応を検討することが望ましい。期待される免疫反応に基づいてレジメンを最適化できる可能性がある。また、がん免疫療法のPOCとして、まずがん免疫療法による免疫反応が期待通りに惹起されるかどうか、さらに、その免疫反応と抗腫瘍活性や生存期間との相関を評価することも重要である。ただし現時点では、免疫反応検査法が十分には確立されておらず、どのような免疫反応を測定すべきか定まっていない場合もあることから、免疫反応検査の結果の解釈には注意が必要である。

第Ⅱ相臨床試験においても、安全性も副次評価項目として評価し、有害事象の頻度やグレードを収集することが必要である。

② 試験デザイン

がん免疫療法において、腫瘍縮小を評価項目とする場合、殺細胞性抗がん剤の場合と同様に単群での第Ⅱ相試験を計画し得る。単群試験では、奏効割合が閾値奏効割合を有意に超えるか否が評価され、無効中止に関する中間解析を1回行う2段階デザインが広く用いられている。このデザインは、奏効割合に限らず、免疫反応の有無のような2つの値の評価項目であれば用いることができる。ただし、症例数設計のための閾値・期待値は、評価する免疫反応やがん種ごとにヒストリカルデータに基づいて設定されるべきである。

がん免疫療法(例えばがんワクチン)では、殺細胞抗がん剤とは異なり、用量毒性曲線は比較的なだらかな場合も考えられ、用量反応曲線は単調とは限らないこともある。すなわち、最大耐量や投与可能な最大の用量が、有効性を最大にする投与量かどうか不明となる場合がある。この際には、第Ⅱ相試験の段階で、免疫反応などの生物学的活性も参考にしながら、第Ⅲ相試験で用いる投与量を決定すべきである。投与量以外にも、投与スケジュール、併用薬などについてレジメンを最適化すべき状況が有り得る。第Ⅲ相試験の前に比較的小規模な試験でレジメンを最適化することにより、第Ⅲ相試験での成功確率を高めることが期待できる。

複数のレジメンの中から最適なレジメンを選択する目的の試験では、選択デザインと呼ばれるランダム化第Ⅱ相試験を考えることができる。例えばSimonのランダム化第Ⅱ相試験は、通常2から4種の治療レジメンをランダムに割り付け、そのうち腫瘍縮小効果(の点推定値)が最も高いレジメンを第Ⅲ相試験の試験治療として選択するデザインである。選択デザイン以外には、抗悪性腫瘍剤以外の一般薬でよく用いられる用量反応性を確認するためのランダム化第Ⅱ相試験を計画することができるが、プラセボ群を設けるかどうかについては慎重な検討が必要である。

第Ⅱ相試験のプロトコールデザインの一つに「第2.5相試験デザイン」と言われるランダム化比較試験がある。このデザインの一例は、有意水準を片側10%に緩め、無増悪生存期間を標準治療と比較するランダム化臨床試験である。従来のランダム化第Ⅱ相試験は、複数の候補レジメンの中から検証試験で用いる試験治療を「選択」することが目的であるのに対し、第2.5相試験の目的は対照群との「比較」である。第2.5相試験は検証試験ではないため、抗腫瘍効果に基づく評価項目や通常用いられる5%有意水準よりも大きい有意水準が許容される。また、ランダム化比較試験では、効果の程度に関する情報など検証試験を計画するために有用な情報を得ることができる。

単群第Ⅱ相試験、ランダム化第Ⅱ相試験、第2.5相試験は、順番に実施しなければならないものではない。第Ⅱ相試験の目的や状況に応じて適切なデザインを選択すべきである。

個別性の高いエフェクター細胞療法では、プラセボの設定や盲検の設定が困難な場合も想定される。その場合においても有効性の評価には適切な対照群を設定した比較試験が必要であろう。特に明確な腫瘍縮小が得られ難く生存期間の延長やQOLなどを評価項目とした試験設定の場合には適切な比較が必要となると考えられる。

後期臨床試験の考え方

Ⅰ はじめに

Ⅱ 本ガイダンスの目的と適応範囲

Ⅲ がん免疫療法の特性を考慮した試験デザイン

Ⅲ.1.評価項目設定

Ⅲ.2.対照群

Ⅲ.3.統計解析法

Ⅳ その他の留意事項

Ⅳ.1.非劣性試験

Ⅳ.2.バイオマーカー

Ⅳ.3.免疫関連有害事象

Ⅴ 参考

Ⅴ.1.RECIST1.1とirRCの主な比較

Ⅴ.2.バイオマーカー検索の事例等

Ⅴ.3.複合がん免疫療法

Ⅵ 後期臨床試験に関するガイドライン等

Ⅶ 参考文献

Ⅰ はじめに

近年、がん免疫療法の有効性に関する情報が飛躍的に集積されている。免疫チェックポイント阻害剤は、複数の検証的な臨床試験成績が報告され、1―10)国内外で既に承認された医薬品もある。また、遺伝子導入T細胞輸注療法をはじめとするエフェクター細胞療法は、早期臨床試験の段階で有効性が示唆されている。11―14)一方、がんワクチンについては、主な開発対象であるペプチドワクチン単独投与で有効性が示された臨床試験成績は限られており、15)がんワクチンの構成等の新たな工夫が試みられようとしている。16)

免疫チェックポイント阻害剤及びがんワクチンは、腫瘍細胞に対する特異的な免疫応答を誘導することで間接的に抗腫瘍効果を示すと考えられおり、効果の発現までに一定の期間を要する可能性があると考えられる。一方、エフェクター細胞療法はエフェクター細胞が腫瘍に直接的に作用する治療法であり、当該細胞が体内で増殖することにより、抗腫瘍効果を示すことが報告されている。12)13)また、免疫チェックポイント阻害剤を用いた早期臨床試験等では、抗腫瘍反応が一定期間持続した症例及び観察期間中に腫瘍増大が観察されない症例の報告がある。17)18)

がん免疫療法の臨床試験を実施する場合は、既存の化学療法又は分子標的療法とは異なる特性を十分に理解した上で試験設定等を計画する必要があり、早期臨床試験の結果及び他のがん免疫療法に関する最新の知見等の参考情報を収集しておくことが重要である。

Ⅱ 本ガイダンスの目的と適応範囲

がん免疫療法において、「『抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン』の改訂について」(薬食審査発第11010001号付け平成17年11月1日)の対象とされる抗悪性腫瘍薬の定義「悪性腫瘍病変の増大や転移の抑制、又は延命、症状コントロール等の何らかの臨床的有用性を悪性腫瘍患者において示す薬剤」に該当する場合には、当該ガイドラインに基づいた評価方法を臨床試験において設定すべきである。

本ガイダンスの目的は、がん免疫療法のうち、特に、免疫チェックポイント阻害剤、エフェクター細胞療法及びがんワクチンを用いた後期臨床試験を実施する際の考え方や試験設定の留意点について示すことである。なお、後期臨床試験とは、主に有効性及び安全性を評価する検証的試験を含めたピボタル試験を指す。本ガイダンスで扱われないがん免疫療法については、本ガイダンスの記載内容の一部を適用できる可能性がある。

なお、開発計画立案に際しては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構と相談することが望ましい。

Ⅲ がん免疫療法の特性を考慮した試験デザイン

後期臨床試験の実施に際して、早期臨床試験等で得られた情報に基づき、がん免疫療法の特性を踏まえた試験設定を十分に検討した上で臨床的有用性を評価する必要がある。

免疫チェックポイント阻害剤及びがんワクチンの特性として、既存の化学療法又は分子標的療法とは異なり、免疫機能を介して効果を発現するため、効果発現までに一定の時間を要すること、効果が長期的に持続することがあげられる。17)18)19)対照群と被験薬群の生存曲線が重なったまま推移した後、一定の時期以降に開く場合等には、比例ハザード性の仮定が成立しないため、中間解析、最終解析の方法及び時期について十分に検討する必要がある。また、追跡期間についても、がん種、治療ライン及び後期臨床試験までに得られている情報等に基づき、設定すべきである。

Ⅲ.1.評価項目設定

有効性の評価には、臨床的に意義のある評価項目を設定する必要がある。最も客観的に測定可能で、臨床的意義のある評価項目は、全生存期間(overall survival、OS)である。

遅発性に効果が発現するがん免疫療法は、がん免疫療法の開始後に一時的に病勢が進行する可能性があり、評価項目として無増悪生存期間(progression free survival、PFS)等を設定した場合には、がん免疫療法の効果が過小評価される可能性がある19)ことに留意すべきである。近年では、免疫応答の誘導期間及び腫瘍組織での免疫細胞浸潤期間を考慮し、RECIST(response criteria for solid tumors)とは異なる効果判定基準であるirRC(immune-related response criteria)20)又はirRECIST(immune-related RECIST)21)(Ⅴ参考―1を参照)に基づき腫瘍の増悪を判定することが検討されている。しかし、irRC等の効果判定基準は十分に確立された基準でないと考えられることから、今後は臨床試験等でエビデンスを蓄積していくことが必要となる。なお、一部のエフェクター細胞療法等の早期に効果発現が推測されるがん免疫療法の場合には、通常の化学療法と同様に、効果判定基準としてRECISTを用いることができる可能性がある。

その他の有効性の評価項目として、早期臨床試験等で得られた情報に基づき、長期間にわたり効果が持続することが推測される場合には、durable response rate(例えば、治療開始1年以内で6か月以上持続する完全奏効(complete response、CR)又は部分奏効(partial response、PR))を用いることが検討されている。22)

がん免疫療法の安全性については、既存の化学療法又は分子標的療法と比較して有害事象の様式が異なる可能性が推測される(Ⅳ―3)参照)。

Ⅲ.2.対照群

がん免疫療法の後期臨床試験において設定する対照群は、対象となるがん種に対する標準治療の有無、疾患の状況等によって、プラセボ投与群、対症療法群、及び標準的治療法群が考えられる。医学的、科学的及び倫理的観点から対照群の設定の妥当性について十分に検討する必要がある。

アジュバントを用いるがんワクチンの臨床試験において、プラセボ群にアジュバントを投与する場合は、アジュバントにより免疫応答が誘導される可能性があることに留意する必要がある。また、エフェクター細胞療法のうち自己細胞を用いる場合においては、対照群として抗腫瘍免疫活性を細胞加工により付加されていない免疫細胞を用いることは、侵襲的な血液採取を行うことによる倫理的な観点、及び細胞調製等の技術的な観点を踏まえ、プラセボ対照試験の実施は困難である。

Ⅲ.3.統計解析法

後期臨床試験における有効性の評価は、主要評価項目の情報が最も重要になる。主要評価項目の解析は、生存率、OS中央値等をKaplan-Meier法を用いて推定し、ログランク検定等を用いて群間比較を行うことが一般的である。また、Cox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比の推定ならびに共変量の調整を行う。

しかし、比例ハザード性が成り立たない場合にログランク検定を適用すると、解析時の検出力が低下する可能性がある。遅発性の効果がみられるがん免疫療法の場合には、比例ハザード性が成立しないことが想定されるので、ログランク検定の代わりに、Harrington-Fleming検定23)24)のような観察期間後期に重み付けをする解析手法を用いることが有用な場合もある。ただし、Harrington-Fleming検定は、ログランク検定とは異なり、パラメータにより特徴づけられるパラメータ族から構成されるので、事前に、合理的なパラメータ設定の下に適切な検定を計画しなければならない。

臨床試験の計画時に規定した、特定の時点での生存率を横断的に比較することが可能なマイルストーン生存解析法も、解析手法の一つとして考えられる。25)当該手法は解析対象とする時点を複数に設定することも可能であるが、第一種の過誤確率が増加すること及び最終解析前に盲検が解除されることのないように対応する必要がある。また、規定した特定の時点までの生存曲線下の面積(restricted mean survival times)を群間比較する手法26)も考えられる。マイルストーン生存解析法や生存曲線下面積を比較する方法は、比例ハザード性については問題にならないが、計画時に規定した時点が適切でない場合に、誤った結論を導く可能性があることに留意する必要がある。解析対象とする時点の設定は、抗腫瘍効果の遅延性や長期的持続性を考慮し、適切に計画しなければならない。なお、これらの解析法を使用する際はがん免疫療法に応じて、個別に検討がなされる。

Ⅳ その他の留意事項

Ⅳ.1.非劣性試験

がん免疫療法が実対照薬の有効性よりも劣らないことを示すことを目的とした非劣性試験を検討できる場合がある。非劣性試験の実施に際しては、有効性、安全性及びその他の要因(quality of life(QOL)、利便性等)を総合的に勘案するほか、仮想プラセボを念頭においた非劣性マージンの設定や試験の分析感度等に特に留意する必要がある。

Ⅳ.2.バイオマーカー

現在、腫瘍の多様性、腫瘍微小環境と腫瘍と免疫機能の相互関係、がん免疫療法が及ぼす多様な作用機序等が解明されていないものの、治療予測効果、免疫関連有害事象の発現の推測、治療反応性等のバイオマーカーを同定することが望ましく、適切な患者集団を設定するべきである。

そのため、他のがん免疫療法に関する最新の知見等も参考に、早期臨床試験の段階からバイオマーカーを探索的に検討した上で、後期臨床試験において、その検証を行うことが必要である。

なお、既存のがん免疫療法に関するバイオマーカーの事例については、Ⅳ参考―2)バイオマーカー検索の事例等の項で述べる。

Ⅳ.3.免疫関連有害事象

免疫チェックポイント阻害剤における免疫関連有害事象の発現及び重症度に関する報告がある。27)28)29)免疫関連有害事象の対策として、重篤な免疫関連有害事象を発見するための方法、有害事象発現に関与するマーカーの同定、免疫学的有害事象に対する予防法及び治療法の確立、医療関係者及び患者への安全性等の情報提供が重要であると考える。

Ⅴ 参考

Ⅴ.1.RECIST1.1とirRCの主な比較30)

カテゴリー

RECIST v1.1

irRC

腫瘍病変の測定法

一方向

二方向

標的病変数

最大5病変まで

最大15病変まで

新病変の取り扱い

初めての出現時にPDと判定

内臓病変では10まで、皮膚病変では5病変までの新病変をどの段階でも評価病変としての腫瘍量総和に加えることができる

CR

(complete response)

すべての標的・非標的病変の消失

リンパ節は短径で10mm未満に縮小

新病変なし

再確認が必要

PR

(partial response)

ベースラインに比して30%以上の腫瘍量の減少

再確認が必要

ベースラインに比して50%以上の腫瘍量の減少

再確認が必要

PD

(progressive disease)

最小値に比して20%以上かつ5mm以上の腫瘍量の増加

新病変出現又は非標的病変の進行

ベースライン、最小値又は再設定ベースラインに比して25%以上の腫瘍量の増加

腫瘍量に新病変を加える

再確認が必要

SD

(stable disease)

PR、PDのどちらにも当てはまらない

Ⅴ.2.バイオマーカー検索の事例等

免疫チェックポイント阻害剤のうち、抗PD―1/PD―L1抗体では腫瘍組織でのPD―L1発現がバイオマーカーとして重要であるが、PD―L1のバイオマーカーとしての位置付けはがん種により異なることがある。PD―L1発現の対象となる検体の採取時期、発現検査法及びその判定法が確立された場合は、有効性が予測可能な対象の絞込みが可能となるかもしれない。

免疫チェックポイント阻害剤の有効性と、がん細胞の体細胞変異数及び腫瘍特異的なネオエピトープへの細胞傷害性T細胞の応答にいずれも相関が報告されたこと、31)及び抗PD―1抗体が、マイクロサテライト不安定性を有するがん種に対してより高い奏効率を示したという報告がなされたことより、32)特定のがん遺伝子変異パターンがバイオマーカーとしての役割を果たす可能性がある。

他のバイオマーカーでは、腫瘍組織を用いた腫瘍浸潤リンパ球などを対象としたDNA又はRNA遺伝子シグニチャーにより有効性の予測を行う試みがある。33)MAGE(melanoma-associated antigen)―A3タンパクワクチンの早期臨床試験検体を用いた有効性予測の探索研究の事例がある。34)

がん免疫療法においては治療応答性を予測しうるバイオマーカーとして、免疫チェックポイント阻害剤ではPD―L1の他に、がん細胞体細胞変異及びネオエピトープ・シグナル、TIL(tumor infiltrating lymphocytes)シグナル等が指摘されている。35)

Ⅴ.3.複合がん免疫療法

患者体内における、腫瘍抗原提示、エフェクター細胞の活性化と増殖、腫瘍組織での微小環境等のがんに対する免疫応答のメカニズムが明らかにされつつある。がんワクチン、免疫チェックポイント阻害剤、エフェクター細胞療法等の免疫療法は、抗原提示やT細胞活性メカニズムにおいて独自の働きを有することが想定される。そのような理解のなかで、個々のがん免疫療法単独よりも他の治療法と組み合わせた複合がん免疫療法が期待されている。

これまでの報告では、がんワクチン単独での臨床試験では有効性を示されることがまれであり、36)免疫チェックポイント阻害剤との併用が検討されつつある。37)38)一方、化学療法、分子標的療法又は放射線療法が、抗原提示細胞並びにT細胞のサブセット数及び機能の修飾を介して腫瘍免疫応答に影響を及ぼすこと示されており、39)がん免疫療法とは作用機序が異なる治療法との併用により、相乗的な影響をもたらす可能性がある。

また、非臨床試験における有用性の検討を踏まえ、複合がん免疫療法の適切な臨床試験を実施することが望ましい。

Ⅵ 後期臨床試験に関するガイドライン等

・「抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドライン」の改訂について

(平成17年11月1日付け 薬食審査発第1101001号)

・抗悪性腫瘍薬の臨床評価方法に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について

(平成18年3月1日付け 事務連絡)

・臨床試験の一般指針(ICH E8)

(平成10年4月21日付け 医薬審第380号)

・「臨床試験のための統計的原則(ICH E9)」について

(平成10年11月30日付け 医薬審第1047号)

・「臨床試験における対照群の選択とそれに関連する諸問題」について

(平成13年2月27日付け 医薬審発第136号)

Ⅶ 参考文献

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がん免疫療法に用いる細胞製品の品質、非臨床試験及び臨床試験の考え方

目次

はじめに

第1章 総則

第1 目的

第2 定義

第2章 製造及び品質管理

第1 製造及び品質管理の考え方

第2 ドナーに関する事項

第3 製造方法に関する事項

第4 最終製品の品質管理に関する事項

1) エフェクター細胞製品

2) 非エフェクター細胞製品

第5 運搬方法

第3章 非臨床安全性試験

第1 非臨床安全性試験の考え方

1) 毒性の評価の考え方

2) 物種の選択と免疫不全動物の特殊性

第2 一般毒性試験

第3 造腫瘍性試験

第4章 効能又は性能を裏付ける試験

第1 効能又は性能を裏付ける試験の考え方

第2 in vitro試験とin vivo試験

1) in vitro試験

2) in vivo試験

第5章 体内動態に関する試験

第1 体内動態に関する試験の考え方

第2 試験方法

第6章 臨床試験

参考

引用文献

はじめに

最近の免疫チェックポイント阻害薬、遺伝子改変リンパ球の輸注療法等における明確な臨床効果は、がん免疫療法に対する大きな期待と関心を集めている。一方、その顕著な臨床効果は副作用の出現可能性と表裏一体であることも明らかになりつつあり、今後はより有効で、かつ安全性の高い治療法の開発戦略が必須になる。同時に国内では、新たに制定された医薬品医療機器法の中で再生医療等製品に分類されるヒト細胞加工製品の利用が様々な医療分野で拡大しており、がん免疫療法の分野でもヒト細胞加工製品(以下「細胞製品」という。)を利用した治療が今後さらに拡大することが予想される。

がん免疫療法に用いる細胞製品には、患者体内における直接的な抗腫瘍免疫応答を誘導する(抗原特異的又は抗原非特異的)目的で投与されるαβ―T細胞、γδ―T細胞、NK細胞、NKT細胞等のエフェクター細胞(以下「エフェクター細胞」という。)と、患者体内における抗腫瘍免疫応答を賦活する目的(ワクチン)で投与される樹状細胞等の抗原提示細胞、又は患者体内の免疫環境や腫瘍局所の環境を改変する目的で投与される間葉系幹細胞等の非エフェクター細胞(以下「非エフェクター細胞」という。)がある。

その原料又は原材料としては、自己細胞、同種細胞、体性幹細胞、iPS細胞、ES細胞等様々な場合があり、製造方法には、培養を行う場合、非細胞成分と組み合わせる場合、遺伝子改変を加える場合、様々な処理により細胞を初期化、脱分化又は分化誘導を行う場合等がある。それぞれの原料等や製造方法に起因する特有の課題に対する細胞製品の品質及び安全性の確保に関しては参照すべき指針に従う必要がある。

今般、急速に発展するがん免疫分野において蓄積された情報と、細胞製品の利用機会の増大という現況に鑑み、この分野の今後の発展の方向性も踏まえて、がん免疫療法に用いる細胞製品の開発に際しての留意点を抽出・整理するとともに、レギュラトリーサイエンスの視点と十分に調和が図られた効率的な開発のための方法論が望まれる。本ガイダンスは、がんに対する免疫療法を対象として細胞製品を開発する際に特に留意すべき点とがん免疫療法としての特殊性に重点をおいて細胞製品に求められる基本的要件の考え方を中心に、がん免疫療法における細胞製品の品質、安全性及び非臨床有効性に関する基本的な要件についての考え方を述べるものである。また、本ガイダンスは細胞製品ごとに異なる特性に応じ合理的かつ実効性の高い運用がなされる必要がある。

細胞製品の品質及び安全性の確保に関して参照すべき告示又は通知として以下のものが挙げられる。

・ 生物由来原料基準(平成26年9月26日付け厚生労働省告示第375号)

・ ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について(平成20年2月8日付け薬食発第0208003号)

・ ヒト(同種)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について(平成20年9月12日付け薬食発第0912006号)

・ ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第2号)

・ ヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第3号)

・ ヒト(自己)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第4号)

・ ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第5号)

・ ヒトES細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について(平成24年9月7日付け薬食発0907第6号)

また、遺伝子改変を行った場合には、参照すべき通知又は事務連絡として以下のものが挙げられる。

・ 遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保について(平成25年7月1日付け薬食審査発0701第4号)

・ ICH見解「ウイルスとベクターの排出に関する基本的な考え方」について(平成27年6月23日付け事務連絡)

さらに、最近示された下記の事務連絡も参考にすべきものである。

・ 再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンスについて(平成28年6月27日付け事務連絡)

第1章 総則

第1 目的

本ガイダンスは、がんに対する免疫療法に用いるヒト由来細胞を加工した細胞製品の品質、非臨床安全性、効能又は性能の裏付け、体内動態及び臨床試験に関する基本的な要件についての考え方を述べるものである。

第2 定義

1.ヒト由来細胞の「細胞製品」とは、ヒト(自己又は同種)由来細胞を加工した製品、ヒト(自己又は同種)体性幹細胞、ヒト(自己又は同種)iPS(様)細胞、ヒトES細胞加工製品等を含むものをいう。

2.細胞の「加工」とは、疾患の治療や組織の修復又は再建を目的として、細胞の人為的な増殖や分化、細胞の株化、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変、非細胞成分との組合せ、遺伝子改変等を施すことをいう。細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等は加工とみなさない。

3.「製造」とは、加工に加え、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等、当該細胞の本来の性質を改変しない操作を含む行為であり、最終製品の品質を確保する上で管理が求められる原料の受入から最終製品であるヒト細胞製品を出荷するまでに行う行為をいう。

4.「ドナー」とは、「細胞製品」の原材料となる細胞・組織を提供するヒトをいう。

5.「表現型」とは、ある一定の環境条件のもとで、ある遺伝子によって表現される形態学的及び生理学的な性質をいう。

6.「ベクター」とは、目的遺伝子を宿主細胞に導入するときに使われる運搬体をいう。ただし、組換えウイルスを使用する場合には導入遺伝子を含めてウイルスベクターという。目的遺伝子を含むプラスミドを直接細胞に導入する場合にはプラスミドDNAをベクターという。

7.「ウイルスベクター」とは、ベクターとして用いられる組換えウイルスであって、野生型ウイルスゲノムの代わりに目的遺伝子を組み込んだ組換えウイルスゲノムがウイルス粒子内にパッケージされているものをいう。

8.in vitro試験とは、ヒト又は動物の生体外において実施する試験のことをいい、in vivo試験とは、動物の生体内に細胞製品を投与して実施する試験のことをいう。

第2章 製造及び品質管理

第1 製造及び品質管理の考え方

がん免疫療法に用いる細胞製品を含む再生医療等製品は、その特性、並びに使用目的及び製造規模やリスク対象の規模を踏まえ、その時点における最新の知見等を反映した合理的な根拠等に基づいた製造方法及び品質管理が求められる。

特に、原料となる細胞等がドナーの感染により汚染されている可能性があることや、滅菌、ウイルスの不活化、除去等が不可能であることから、従来の医薬品と同様の方法論による感染性因子に対する安全性の担保は困難であることが多い。そのため、それぞれの細胞製品の特性や製造方法に応じて、最終製品での試験に加え工程内管理試験等により製品の感染性因子に対する安全性を慎重に検討する必要がある。

「はじめに」の項に提示した細胞製品の品質及び安全性の確保に関して参照すべき通知を踏まえ、がん免疫療法に用いる細胞製品の製造方法及び品質管理に関する基本的な要件及び考え方を示す。

第2 ドナーに関する事項

原料等として自己細胞を用いる場合は、自己細胞であることから感染症伝播リスクの観点からは必ずしもドナースクリーニングは必要とされない。しかしながら、製造工程での新たな汚染の否定、製造工程での感染因子の増幅リスク、製造従事者及び医療従事者に対する安全性の確保が主な目的となる等の細胞製品ごとの固有のリスクを踏まえ、目的に応じた検査項目及び管理基準を設定する必要がある。同種移植後の移植ドナー由来の同種細胞を用いる場合も、感染症リスクに関しては、自己細胞を用いる場合と同様の考え方が可能な場合がある。

第3 製造方法に関する事項

特に製造に係る経験や知見に乏しい開発の初期段階において、有効性及び安全性に関係する重要な品質特性を特定することは難しい。例えば、原料等となる細胞において、有効性に影響を与える可能性が高い細胞数等の管理値を一律に設けることが、必ずしも適切でない場合がある。その際には、例えば、増殖を伴う製造を行う場合の製造開始時点の細胞数の場合、治験の初期段階の治験製品の管理においては、非臨床試験の成績等を踏まえ有効性が期待できる細胞数を取得するために必要な最小細胞数のみを設定し、安全性の確認が可能な範囲において調整を行えるようにするといった、柔軟な対応は許容される。ただし、開発の相が進むに応じ、前相で確認された安全性が確保できるような管理値を設定していくことが求められる。

通常、一般的な採血方法により採取された末梢血から微生物、マイコプラズマ等が検出される可能性は少ないと考えられる。しかし、摘出した組織等を原材料として用いる場合は、原材料の汚染のリスクに応じて原材料においても試験を実施し、製造管理として微生物、マイコプラズマに対し有効な抗生物質を用いるか否かを判断することは有用である。

第4 最終製品の品質管理に関する事項

がん免疫療法に用いる細胞製品で共通して設定する必要がある試験としては、細胞数及び生存率試験、確認試験、細胞の純度試験、製造工程由来不純物試験、無菌試験及びマイコプラズマ否定試験、エンドトキシン試験、ウイルス否定試験等がある。さらに、効能試験、力価試験等を設定する必要がある。規格及び試験方法の設定においては、細胞製品ごとの特性に応じた設定(参考1)が必要である。

通常、無菌医薬品における無菌試験において、当該医薬品が微生物等に対する抗菌活性を有する場合は、試験サンプルから当該抗菌活性を除去又は中和した上で試験が行われる。細胞製品においても、その製造に際して微生物等の増殖抑制を目的として抗生物質を用いる場合は、無菌試験結果に及ぼす影響に留意した上で、適切な試験方法及び規格を設定する必要がある。日本薬局方に定める無菌試験法だけでなく、微生物迅速試験法を応用した試験方法等を設定することも可能である。

また、ウイルス否定試験の対象ウイルスについては、製造に伴うウイルスの増幅リスクに留意する必要がある。そのリスク等が明らかとなっていない場合は、マルチアッセイによる網羅的な試験の設定は可能であるが、対象となる患者に対して、同意を得る必要がある。

1) エフェクター細胞製品

エフェクター細胞製品における試験方法として、がん免疫療法に用いる細胞製品で共通して設定する必要がある試験に加え、サイトカイン産生能試験等の効能試験及び/又は力価試験等を設定する必要がある。さらに、遺伝子改変T細胞製品においては、増殖性ウイルス(Replication Competent Virus:RCV)試験を設定する必要があり、導入遺伝子コピー数試験、インターロイキン(Interleukin、以下「IL」という。)―2依存性増殖試験、クローナリティー試験、テトラマー解析試験、ベクター完全性試験等の設定について検討する必要がある。なお、活性化リンパ球療法に用いられる自己由来のエフェクター細胞における効能試験及び力価試験の設定は、非特異的であるため標的細胞の設定が難しく、試験方法の妥当性に限界があること、及び技術的な観点から試験に用いる最終製品のサンプルの確保に限界があることを踏まえて、合理的な試験方法を設定することが望ましい。

2) 非エフェクター細胞製品

非エフェクター細胞製品における試験方法として、がん免疫療法に用いる細胞製品で共通して設定する必要がある試験に加え、同種混合リンパ球反応試験等による細胞増殖試験、サイトカイン産生能試験等の効能試験及び力価試験を設定する必要がある。なお、効能試験及び力価試験の設定は、標的細胞の設定が難しく、試験方法の妥当性に限界があること及び技術的な観点から試験に用いる最終製品のサンプルの確保に限界があることを踏まえて、合理的な試験方法を設定することが望ましい。

第5 運搬方法

原料となる血液等を運搬する場合は、品質に影響を及ぼす可能性があるため、温度、期間、容器、運搬手段等の運搬方法について管理する必要がある。製造に自己血清、血漿を用いる場合は、用いる細胞だけでなく、血清、血漿の品質についても同様に管理する必要がある。細胞製品を運搬する場合は、細胞の保存温度、運搬手段等により品質に影響を及ぼす可能性があるため、同様に管理する必要がある。

また運搬方法の管理に加えて、検体として出荷用の細胞製品とは別の包装(生存率算定用テストサンプル)を用いることにより、輸注時の細胞製品に含まれる細胞数、細胞生存率、凍結製品の解凍の影響を評価することが可能である。

第3章 非臨床安全性試験

第1 非臨床安全性試験の考え方

1) 毒性の評価の考え方

がん免疫療法に用いる細胞製品が誘導する特異的免疫応答に伴う毒性又は意図しない受容体への結合等に基づく毒性について、動物を用いた評価は、種差の影響から困難である場合が多い。しかしながら、エフェクター細胞のうち、受容体遺伝子改変T細胞製品は、がん細胞を標的とする細胞傷害性を人為的に付与したものであり、受容体の標的となる分子又はそれと構造的に類似した分子が生命維持において重要な組織や細胞に発現していた場合に重篤な毒性が生じる可能性がある。そのため、新たに自己細胞への応答性(自己反応性)を獲得していないこと(例えば、自己細胞に対する反応性インターフェロン(Interferon:IFN)―γ産生が無いこと。)を評価(参考2)する必要がある。また、今後開発が予想されるT細胞受容体(T cell receptor、以下「TCR」という。)遺伝子導入T細胞(以下「TCR―T細胞」という。)製品については、内因性TCR―α/β鎖と遺伝子導入したTCR―α/β鎖との間で発生するミスペアリングを抑制するよう対応することが望ましく、必要に応じて自己反応性について評価することも検討するべきである(参考3)。なお、キメラ型抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor、以下「CAR」という。)遺伝子導入T細胞(以下「CAR―T細胞」という。)製品の場合も、必要に応じて自己反応性についてin vitroで評価することを検討すべきであるが、抗CD19―CAR―T細胞療法に見られる正常Bリンパ球の消失(参考2)のように有効性と表裏一体である有害事象について、in vitro試験においてリスクを予測することは理論的に不合理であるため、in vitro試験において、標的細胞に対する細胞傷害活性に伴い生じる毒性を評価する必要がない場合もある。

2) 動物種の選択と免疫不全動物の特殊性

非臨床安全性試験の実施に際して、ヒトと動物の間にサイトカイン等の活性タンパク質及び細胞間相互作用における種差があるため、ヒトの細胞製品を通常の免疫応答能力を有する動物に投与した場合は、投与した細胞は免疫学的機序により短時間に死滅し、さらに異種免疫反応等に起因する炎症が生じることにより、ヒトでの安全性の評価を外挿する上で有用な情報を得る事は困難となる。また、使用する動物にヒトと同様の機能を有する相同の細胞製品(サロゲート細胞)を動物に投与する場合は、作用の評価には有用であるものの、実際の細胞製品とは異なることから適切な毒性評価が得られない場合がある。したがって、非臨床安全性試験の使用動物は、がん免疫療法に用いるヒト細胞が生着しやすい免疫不全動物を選択すべきである(参考4)。ただし、非臨床試験において有用な疾患モデルマウスが利用可能な場合は、選択肢の一つとして考えられる。

現在、非臨床安全性試験に供する事が可能な免疫不全動物としては、ヌードマウス(T細胞欠損)、SCIDマウス(T細胞及びB細胞欠損)、RAG遺伝子欠損マウス(T細胞及びB細胞欠損)、NOD―SCIDマウス(T細胞及びB細胞欠損、NK細胞部分欠損)、NOGマウス(T細胞、B細胞及びNK細胞欠損)、免疫不全ラット等がある。細胞の種類に応じた適切な種類の免疫不全動物(遺伝子導入ヒトTリンパ球の細胞製品の場合は、ヒトの血球系細胞が生着しやすいNOGマウスを用いる等)を選択する必要がある。一方、免疫不全動物は、通常のマウスに病原性を示さない微生物に対して感受性があることから、SPF(Specific Pathogen-Free)環境下においても、コントロールされていない(モニタリング対象外の)微生物に感染する可能性があることに留意する必要がある。また、免疫不全マウスの系統1によっては、正常な免疫を有するマウスよりも生存期間が短い場合もあるため、長期間の観察を要する試験の実施が困難になることにも留意する必要がある。

第2 一般毒性試験

効果を発揮する細胞数、投与後の細胞の増殖の有無等を踏まえ、「医薬品の製造(輸入)承認申請に必要な毒性試験のガイドラインについて」(平成元年9月11日付け薬審1第24号)の別添「医薬品毒性試験法ガイドライン」、「単回及び反復投与毒性試験ガイドラインの改正について」(平成5年8月10日付け薬新薬第88号)、及び「「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について」(平成22年2月19日付け薬食審査発0219第4号)を参考に、一般毒性試験を実施する必要がある。また、当該試験の実施に際して、以下の点にも留意する必要がある。

・ 基本的に、細胞製品の臨床投与経路と同じ投与経路で投与し評価する。量的なリスク評価は困難であることから、ハザード(有害性)を確認するための用量段階は、対照群と細胞製品投与群の2群以上で不足はないが、最高投与量は全身毒性が評価可能な最大量2を投与する必要がある。投与回数は可能な限り臨床で予定されている用法と同様にすることが望ましいが、反復投与しても細胞製品が生体内で蓄積されず、新規の毒性所見や毒性の増悪が生じる可能性が低い場合には、必ずしも反復投与毒性試験の実施は必要ない。観察期間については、全身毒性を評価可能と考える最短の期間である14日程度とすることは可能であるが、細胞製品の特性を考慮して適切に設定する。

・ 特性や含有量を踏まえ、可能な限り理化学的手法によって安全性を評価するが、必要が生じた場合には非細胞成分に注目した非臨床安全性試験を別途実施する。不純物については、不純物の残存量(推定残存量)を示した上で、安全性の担保が可能と判断した根拠を説明する必要があり、既知の情報に基づいた推定残存量の不純物の安全性の説明が困難である場合は、不純物に着目した非臨床安全性試験を実施することが適切である。

・ 免疫不全動物が用いられることから、動物種は1種類でよく、必ずしも非げっ歯類又は非ヒト霊長類での検討は必要ではない。

・ 陰性対照群は適切に設定する。例えば、遺伝子改変T細胞製品を免疫不全動物に投与する場合は、ヒトT細胞の投与による影響を除くために、非遺伝子導入ヒトT細胞を対照群に用いることも検討する必要がある。

なお、安全性薬理試験の実施は、ヒトへの外挿性に乏しく量的なリスク評価が困難であること等から、通常必要としない。しかしながら、生命維持に重要な影響を及ぼす器官系(循環器系、呼吸器系及び中枢神経系)に重大な影響を与えないことを一般毒性試験等で(一般状態観察も含めて)評価した上で、ヒトへの安全性が懸念される毒性が認められる場合には、ヒトへの安全性を説明する目的で、追加の試験の実施を検討する。

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1 NOD―SCIDマウスでは約8.5ヶ月:Strain Information from The Jackson Laboratory

2 最大耐量(Maximum Tolerated Dose:MTD)及び投与可能な最大量(Maximum Feasible Dose:MFD)の観点から、投与(移植)量は可能な限り多くの細胞数とする。

第3 造腫瘍性試験

原材料に用いられる細胞を基準とした場合、ES細胞又はiPS細胞、体性幹細胞、体細胞の順に悪性質転換のリスクが高く、さらにES細胞又はiPS細胞由来製品では、多能性幹細胞の残存による奇形腫形成のリスクについても評価する必要がある。

造腫瘍性試験として、in vitro試験では、遺伝的安定性を確認するための核型分析試験、足場非依存的な増殖能を確認するための軟寒天コロニー形成試験等が、in vivo試験では、免疫不全動物を用いた腫瘍形成能を評価する試験が知られている。一般毒性試験に免疫不全動物を用いる場合は、一般毒性試験の一部としてin vivo試験における造腫瘍性を評価することは可能である。in vivo試験の実施に際して、以下の点に留意する必要がある。

・ 細胞製品における悪性形質転換細胞による腫瘍形成のリスク評価:腫瘍細胞が生体内において増殖し腫瘍を形成するか否かは、局所の組織学的構造、サイトカイン環境、血流及びリンパ流の状態、免疫監視状態、細胞外基質及び間質細胞の特性等により、生体内各組織における局所環境の影響を強く受け、転移性腫瘍の好発部位は原発のがん種によって異なる。そのため、最終製品に由来する悪性形質転換細胞の造腫瘍性リスクは、原則として、臨床投与経路と同じ移植経路により評価すべきである。

・ ES細胞又はiPS細胞由来製品における多能性幹細胞の残存等による奇形腫形成リスク評価:多能性幹細胞の残存等のリスクを評価するために、背部皮下移植を実施し奇形腫形成能を評価することが望ましい。

・ 造腫瘍性を有する細胞の移植数が腫瘍形成の閾値を満たさない場合には、造腫瘍性が陰性と判定される可能性があることから、臨床での用法・用量に関わらず、移植可能最大量2の細胞を単回移植して評価する。なお、造腫瘍性のポテンシャルを確認するためには、対照群(陰性)と細胞製品移植群の2群で評価が可能である。

・ 動物数については、細胞製品は対象外であるが、WHO Technical Report Series 978を参考に最終評価の段階で1群10匹を目安にすることが考えられる。

・ ES細胞又はiPS細胞由来の最終製品の悪性形質転換細胞のリスク評価を目的とした観察期間は、移植した細胞が確認できなくなるまでの期間、免疫不全動物の加齢又は自然発生病変が影響を与えない期間とし、生体内での生着期間も考慮する必要がある。一方、最終製品に残存するES細胞又はiPS細胞の奇形腫形成リスク評価3を目的とした試験を実施する場合の観察期間は、公表文献等を参考に、奇形腫形成が検出可能な期間を適宜設定する。より造腫瘍性の懸念が低いと考えられる体性幹細胞由来の製品について、試験を実施する場合の試験期間は、WHOガイドラインTRS978で推奨される試験期間(4~16週)を目安に設定することも考えられる。

なお、ヒト血球由来細胞等の分化した細胞は、未分化な多能性幹細胞等と比較して、製造工程の中で悪性形質転換細胞が生じる懸念は低いと考えることから、in vivo造腫瘍性試験を実施する意義は低い。ただし、遺伝子改変を行ったT細胞では、遺伝子導入による細胞の悪性形質転換に着目する必要があり、当該懸念はIL―2依存的増殖試験又はクローナリティー解析により評価することを考慮する。「第2章 製造及び品質管理 1)エフェクター細胞製品」の項を参照すること。

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3 最終製品中の残存するES/iPS細胞数で奇形腫が形成されない閾値を評価。

Takahashi et al. Cell 2007;131,861-872, 9週

Standfeld et al. Science 2008;332, 945-949 3―4週

Zhou et al. Stem Cells 2009; 27, 2667-2674 4―6週

第4章 効能又は性能を裏付ける試験

第1 効能又は性能を裏付ける試験の考え方

急速に進む本領域の技術的進歩及び臨床的知見を踏まえた合理的根拠に基づき、細胞種、自己又は同種細胞、臨床使用目的、特性等に応じて、適切かつ意義のある効能又は性能を裏付ける試験を効率的に実施すべきである。当該試験の実施に際して、以下の点に留意する必要がある。

・ 動物、細胞等を用いて、細胞の加工(参考5)による発現産物の生物活性、細胞、組織及び個体における機能発現及び作用持続性から期待される作用を評価する必要がある。なお、細胞の加工(参考5)による発現産物の生物活性については、品質特性を踏まえた効能、性能を明らかにするため、適したモデルを工夫する必要がある。

・ 遺伝子を導入した場合の目的とする産物の発現の効率及び持続性、並びに導入した遺伝子の発現産物の生物活性を評価する必要がある。

・ 適切な動物由来細胞、疾患モデルの動物がある場合には、それを用いて試験を実施する必要がある。また、腫瘍部位等を考慮に入れ、がん種の差異が作用に及ぼす影響を検討することが望ましい。

・ 臨床試験の開始段階において、細胞製品の効能又は性能の裏付けが文献又は知見等により合理的な評価が可能である場合は、必ずしも詳細な実験的検討は必要ではない。

第2 in vitro試験とin vivo試験

効能又は性能を裏付ける試験としては、in vitro試験及びin vivo試験(動物モデル又は免疫不全マウス等を用いたヒト細胞移植モデル)がある。複数の免疫細胞が関与するような細胞製品の場合は、腫瘍細胞に特異的な細胞傷害作用をin vitro試験のみで評価することは困難であるため、細胞製品の特徴に基づき、in vitro試験とin vivo試験との組合せにより評価することが望ましい。

1) in vitro試験

細胞の種類及びサブセットを同定するために、フローサイトメトリー法により、細胞製品に特有の表現型及び機能に関わる分子の発現(機能に結び付く接着分子、共刺激分子の発現等)並びに目的とする細胞の割合を評価する必要がある。さらに、分化誘導して得られた細胞製品においては、分化誘導前後の細胞の比較並びに表現型及び機能に関わる分子の発現について評価する必要がある。

腫瘍細胞に特異的な細胞傷害作用は、エフェクター細胞は直接的に、非エフェクター細胞は誘導される免疫応答により間接的に評価することが可能である。細胞製品を用いたin vitro試験では、腫瘍細胞、ヒト末梢単核球等を標的細胞として用いる方法があるが、T細胞の細胞製品においては、当該細胞製品の対象となるヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen、以下「HLA」という。)遺伝子を導入した腫瘍細胞株、又は当該細胞製品の対象として要件を満たすがん患者由来の臨床検体等を標的細胞として用いた試験を行うことが望ましい。

腫瘍細胞に特異的な細胞傷害作用の評価に際して、以下の試験方法により評価可能である。

・ サイトカイン産生能試験:細胞内サイトカイン産生(フローサイトメトリー法)、細胞外サイトカイン産生(ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法又はELISPOT(Enzyme-Linked ImmunoSpot)法)の評価等

・ 細胞増殖能試験:3Hチミジン、BrdU(Bromodeoxyuridine)、MTT(3-(4,5-di-methylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide)による増殖能の評価等

・ 腫瘍細胞傷害性脱顆粒試験:CD107a発現の評価等

・ 腫瘍細胞傷害性試験:51Cr放出の評価等

また、がん抗原に特異的に反応するTCR遺伝子を他のT細胞に導入した遺伝子改変T細胞(TCR―T細胞)の細胞製品においては、HLA拘束性が保持されていることを評価する必要がある。評価法としては、抗HLA classⅠ抗体又は抗HLA classⅡ抗体を用いた特異的細胞傷害作用阻害試験、若しくは標的抗原を有しない細胞や対象としないHLAを有する標的抗原発現細胞を陰性対照とした特異的細胞傷害試験等がある。

2) in vivo試験

① 動物モデルを用いた評価

対象とする疾患に類似した動物モデルがあり、用いる動物細胞とヒト細胞における表現型及び機能に関わる分子の発現の同等性が明確である場合は、動物同等品(モデル細胞)を用いた動物モデルによる細胞傷害作用の評価は可能である。しかしながら、使用する動物とヒトとの間で免疫応答等の差異により、動物における評価がヒトに外挿可能とは限らないことに留意する必要があることから、動物種及びがん種における作用の差異等を検討する必要がある。また、T細胞が腫瘍部位に存在することによる炎症の有無により、効果が異なることから(引用文献1)、動物モデルによる腫瘍部位を解析し、用いる動物とヒトの差異を評価する必要がある。なお、がん種の差異が有効性に及ぼす影響の検討の必要性が示されている(参考6)ことから、動物モデルにより検討する必要がある。

② ヒト細胞移植モデルを用いた評価

動物細胞とヒト細胞における表現型及び機能に関わる分子の発現の同等性が明確ではない細胞製品又はエフェクター細胞製品の評価に際して、免疫不全マウス等を用いたヒト細胞移植モデルを用いる場合は、現段階では完全にヒトの免疫を免疫不全動物で再現できない(造血系・免疫系、特にがんの発生母地である間質組織)。そのため、目的に応じてそれぞれのモデル動物を作製する必要があり、得られる評価は限定的であることに留意する必要がある。また、評価に際して、異種であることにより発生する移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)が細胞傷害作用に及ぼす影響に留意する必要がある。

第5章 体内動態に関する試験

第1 体内動態に関する試験の考え方

技術的に可能でかつ科学的合理性がある範囲で、細胞製品を構成する細胞及び導入遺伝子の発現産物について、ヒトに適用された場合の細胞・組織の生存期間、効果持続期間を推測し、目的とする効果が十分期待できることを明らかにする必要がある。このため、技術的に可能であり、かつ科学的合理性がある範囲で、動物における体内動態に関する試験等により、投与方法の適切性、投与された細胞製品の持続性及び局在性について明らかにすること。

第2 試験方法

輸注された細胞製品の体内動態は、組織学的解析、PCR法、磁気共鳴画像診断法(MRI)、陽電子放射断層撮影法(PET)、単一光子放射断層撮影法(SPECT)、バイオイメージング(細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入若しくは色素又はアイソトープ標識によるin vivoイメージング等)等により評価可能である。

細胞製品の投与方法の適切性・合理性について、投与した細胞の動物における体内動態を評価することにより、それを明らかにする必要がある。特に、全身投与を想定した細胞製品では、動物モデル等に全身投与したときの細胞の体内動態(例えば標的外の組織への分布等)を評価し、ヒトに外挿することが望ましい。

投与する細胞が特定の部位(組織等)に直接投与又は到達して作用する場合には、その局在性を明らかにし、細胞製品の有効性・安全性に及ぼす影響を考察する必要がある。エフェクター細胞製品においては、腫瘍組織への遊走が重要であり、非エフェクター細胞製品においては、リンパ組織等の組織への移行性が重要である。そのため、in vivoイメージング等で全身性において生体内分布を評価し、移行すると思われる標的組織、腫瘍組織又はリンパ組織において、投与する細胞を免疫染色、フローサイトメトリー法等で詳細に解析すべきである。

また、投与された細胞の持続性を評価するために、免疫不全動物を用いて、投与した細胞の体内動態と抗腫瘍効果及びマウス全身所見を経時的に投与後一定期間まで観察する必要がある。なお、エフェクター細胞製品の場合は、免疫不全マウスにヒトがん細胞(株化細胞又は患者由来のがん細胞)を移植したマウスを用いたモデルを用いて、投与方法の適切性、投与されたエフェクター細胞の持続性、腫瘍集積性等の評価が可能である(参考7)。

第6章 臨床試験

細胞製品の臨床上の有用性については、臨床試験で得られた有効性、安全性等の情報を踏まえ評価されるが、細胞製品の臨床試験計画に際して、以下の点等を踏まえて、適切な試験デザインを設定する必要がある。

・ 対象疾患

・ 細胞製品の特性

・ 適用方法

・ 選択基準及び除外基準の設定

・ 細胞製品の適用を含め、被験者に対して行われる治療内容

・ 既存の治療法を踏まえた臨床試験実施の妥当性

・ 現在得られている情報から想定されるリスク及びベネフィットを含めた被験者への説明事項

がん免疫療法の対象患者におけるリスクと期待されるベネフィットの大小を勘案することは特に重要である。細胞製品において明らかに想定されるリスクを現在の知見・技術を駆使して排除し、その科学的妥当性を明らかにした上で、「未知のリスク」の可能性について考慮すべきである。その一方で、がん免疫療法を実施しなかった場合について、従来の治療法ではがんを克服できない患者が「新たな治療機会を失うことにより被るかもしれないリスク」についても配慮し、両者のリスクの大小を勘案し、かつ、これらすべての情報を開示した上で患者の自己決定権に委ねるという視点を持つことが望まれる。

参考

参考1 細胞製品の均一化の例

高度に抗がん剤治療を受けた患者又は高齢患者のドナーは、目的の遺伝子の導入効率、培養条件等による複合的な要因がその収量に影響するため、高純度に均一化した細胞集団を多量に得ることは困難である場合がある。そのため、モノクローナル抗体、ビーズ等を用いて細胞製品を質的又は数的に均一化する方法がある。

樹状細胞の場合は、確認試験におけるT細胞の刺激に関与する分子群(HLAクラスI、HLAクラスII、CD80、CD86等)の発現の有無の確認、サイトカイン産生能試験におけるサイトカイン産生パターン(IL―12/IL―10比等)の確認等により、機能を評価する必要がある。また、間葉系幹細胞の場合は、確認試験における細胞表面マーカー(CD34、CD45、CD73、CD29、CD90、CD105、CD166等)の発現の有無の確認、細胞増殖(能)の確認、軟骨、骨、脂肪への分化能の確認、核型分析試験等により、評価する必要がある。

参考2 受容体遺伝子改変T細胞製品における非臨床安全性試験の際に留意すべき点の例

1) TCR―T細胞

臨床試験に用いられるTCRの親和性が人為的に非生理的レベルまで高められた現在では、致死的なオン・ターゲット毒性又はオフ・ターゲット毒性が生じる可能性がある。

例として、がん細胞と正常精巣組織に選択的に発現しているがん精巣抗原(Cancer Testis Antigen:CTA)の一つであるMelanoma-Associated Antigen(以下「MAGE」という。)―A3に特異的なHLA―A2拘束性TCR―T細胞療法を使ったメラノーマに対する臨床試験において、中枢神経系に僅かに発現するMAGE―A3 familyタンパクであるMAGE―A12由来の類似ペプチド抗原がHLA―A2上に提示され、投与したTCR―T細胞が認識・攻撃した結果、致死的な中枢神経傷害が発症した(引用文献2)。

また、MAGE―A3に特異的なHLA―A1拘束性TCR―T細胞療法を使ったメラノーマ及び多発性骨髄腫に対する臨床試験において、生理的に心筋はMAGE―A3を全く発現していないが、心筋の構成タンパクであるTitinがこのMAGE―A3特異的TCRが認識するアミノ酸配列のエピトープを有していたことから、心筋の収縮期に同期して(context-dependentに)HLA―A1上に提示されたTitin由来の抗原エピトープとの複合体を投与したTCR―T細胞が認識・攻撃したことにより致死的心筋傷害が発症した(引用文献3)。

現状では、TCR―T細胞のオン・ターゲット毒性又はオフ・ターゲット毒性を正確に予測することは出来ない。しかしながら、可能な限り予測する試みがなされている。新たに作成したTCR―T又はTCRに準じた抗原エピトープ・HLA複合体特異的CAR―T細胞療法に関して、標的抗原エピトープの構成アミノ酸をアラニン置換したアミノ酸からなるペプチドライブラリーに対する反応性に基づいて、データベースからその構造と類似した既知のアミノ酸配列を検索する方法が開発された(アラニンスキャン法)(引用文献4)。他にも、目的のHLAを持ったiPS細胞から重要臓器を構成する細胞パネルを作り、エフェクター細胞の反応の有無を検討する試みが提案されている(引用文献3)。iPS細胞の利用には時間を要するが、アラニンスキャン法は、リスクを完全に否定できないものの、現時点で実施可能であり、これからの新規TCR―T細胞療法や一部のCAR―T細胞療法の開発においては、安全性に関する基礎データの一つとなる可能性がある。

2) CAR―T細胞

複数回輸注されたCAR―T細胞のマウス由来のモノクローナル抗体から作成した細胞外ドメインに対して患者体内に形成されたヒト抗マウス抗体(Human Anti-Mouse Antibody:HAMA)が介在するアナフィラキシーショックによる致死的な有害事象の発症した例(引用文献5)を除いて、CAR―T細胞による有害事象の大部分はオン・ターゲット毒性又はオフ・ターゲット毒性に起因する。抗CD19―CAR―T細胞療法に見られる正常Bリンパ球消失や、抗Human Epidermal Growth Factor Receptor 2(Her2/neu)―CAR―T細胞療法で見られた致死的な肺傷害(正常肺上皮にも少量のHer2が発現している)を発症した例等がある(引用文献6)。

参考3 TCR―T細胞療法における内因性TCR―α/β遺伝子発現の抑制

自己T細胞を用いたTCR―T細胞が、新たに獲得する自己反応性は、遺伝子導入される側のT細胞が持つ内因性TCR―α/β鎖と導入される治療用TCR―α/β鎖との間で、意図しないα/β鎖の組換え体が生じることに起因する(mispairing)。現在、この内因性TCR―α/β遺伝子発現を様々な方法を用いて抑制することで、TCR―T細胞が未知の自己反応性を獲得するリスクを減らすことができる(引用文献7,8)。

参考4 HLA遺伝子導入免疫不全マウスにおける毒性を評価した例

例えば、生理的に造血前駆細胞、肺・胸膜、腹膜、腎糸球体タコ足細胞に比較的高い発現が認められるがん関連抗原であるWilms Tumor 1(以下「WT1」という。)は、ヒトとマウスの間で95%以上のアミノ酸配列相同性がある。WT1特異的TCR―T細胞のこれら臓器、特に腎臓に対するオン・ターゲット毒性に関して、対象となるHLAを遺伝子導入した免疫不全マウスを用いて毒性を検討した報告がある(引用文献9)。HLAを遺伝子導入した免疫不全マウスは、一般的に造血系・免疫系は、ヒト化されているものの、間質組織はヒト化されていないことから、オン・ターゲット毒性の評価には不十分である。寧ろ、マウスの評価系で完結する方が得られる情報は多い。従って、より適切な疾患モデルマウスの作成が改めて重要であると言える。

参考5 細胞加工の種類

細胞加工の定義は「再生医療等製品の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」(平成26年8月12日付け薬食機参発0812第5号)によるところであるが、その種類として以下の場合等が考えられる。

・ 非細胞成分(マトリックス、医療材料、支持膜、ファイバー、ビーズ等)と組み合わせる場合

・ 細胞に遺伝子工学的改変を加える場合

・ 細胞にタンパク質を導入する場合

・ 薬剤等の処理により細胞の初期化、脱分化又は分化誘導を行う場合

・ 物理的方法により細胞の初期化、脱分化又は分化誘導を行う場合

参考6 変異遺伝子の存在と予後との関連性の例

例えば、メラノ―マにおいて、BRAF、NRAS等の変異遺伝子の存在と予後との関連性等が指摘されている(引用文献10)。

参考7 投与されたエフェクター細胞の持続性、腫瘍集積性の評価例

移植するがん細胞と輸注するエフェクター細胞に異なる色調のルシフェラーゼ遺伝子を導入することにより、腫瘍集積性を剖検すること無く評価が可能である。

引用文献

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7.Okamoto S, Mineno J, Ikeda H, Fujiwara H, Yasukawa M, Shiku H, Kato I. Improved expression and reactivity of transduced tumor-specific TCRs in human lymphocytes by specific silencing of endogenous TCR. Cancer Res. 69: 9003-9011, 2009.

8.Torikai H, Reik A, Liu PQ, Zhou Y, Zhang L, Maiti S, Huls H, Miller JC, Kebriaei P, Rabinovitch B, Lee DA, Champlin RE, Bonini C, Naldini L, Rebar EJ, Gregory PD, Holmes MC, Cooper LJ. A foundation for universal T-cell based immunotherapy: T cells engineered to express a CD19-specific chimeric-antigen-receptor and eliminate expression of endogenous TCR. Blood. 119: 5697-5705, 2012.

9.Asai H, Fujiwara H, Kitazawa S, Kobayashi N, Ochi T, Miyazaki Y, Ochi F, Akatsuka Y, Okamoto S, Mineno J, Kuzushima K, Ikeda H, Shiku H, Yasukawa M. Adoptive transfer of genetically engineered WT1-specific cytotoxic T lymphocytes does not induce renal injury. J Hematol Oncol. 7:3, 2014.

10.Bhatia P, Friedlander P, Zakaria E, Kandil E. Impact of BRAF mutation status in the prognosis of cutaneous melanoma: an area of ongoing research. Ann Transl Med 3: 24-31, 2015.

がん治療用ワクチン・アジュバント非臨床試験ガイダンス

目次

Ⅰ.背景

Ⅱ.がん治療用ワクチン

Ⅱ.1.ワクチン抗原

Ⅱ.2.アジュバント

Ⅲ.本ガイダンスの目的と適用範囲

Ⅲ.1.目的

Ⅲ.2.適用範囲

Ⅲ.3.一般的な考え方

Ⅳ.がん治療用ワクチンの非臨床評価に免疫の種差が及ぼす影響

Ⅳ.1.ワクチン抗原の非臨床評価における免疫の種差の影響

Ⅳ.2.アジュバントの非臨床評価における免疫の種差の影響

Ⅳ.3.遺伝子改変動物の利用による非臨床評価における免疫の種差の影響の克服

Ⅴ.効力を裏付ける試験

Ⅴ.1.In vitro試験

Ⅴ.2.In vivo試験

Ⅵ.非臨床安全性試験

Ⅵ.1.安全性薬理試験

Ⅵ.2.単回投与毒性試験

Ⅵ.3.反復投与毒性試験

Ⅵ.4.生殖発生毒性試験

Ⅵ.5.遺伝毒性試験・がん原性試験

Ⅵ.6.局所刺激性試験

Ⅶ.非臨床薬物動態試験

Ⅷ.参考文献

Ⅸ.用語説明

別表1.主な腫瘍関連抗原

別表2.主なアジュバント

別表3.がん治療用ワクチンと感染症予防ワクチンの差異

Ⅰ.背景

腫瘍に対する免疫応答の解明が進み、がんの発生・成立や治療後の予後を宿主の免疫応答が大きく左右していることが明らかとなりつつある。今日では、宿主側の腫瘍免疫応答の存在は免疫監視機構として広く知られ、腫瘍免疫応答を利用したがん治療法であるがん免疫療法の開発が国内外で急速に進んでいる。本ガイダンスで取り扱うがん治療用ワクチンはその一つで、免疫系が腫瘍細胞を認識する際の目印となる抗原を患者に投与することにより、腫瘍特異的免疫応答を患者体内に誘導又は増幅することを目的とする。その結果として、腫瘍特異的免疫応答による腫瘍増大・転移・再発の抑制、生存期間の延長等が期待されている。

がん治療用ワクチンで用いられるワクチン抗原の形態は多様であるが、大きく分けてペプチドワクチン、タンパク質ワクチン、核酸ワクチン及び細胞ワクチンに分類できる。本邦ではペプチドワクチンの開発が特に進んでいるが、将来は様々な抗原形態のがん治療用ワクチンが本邦でも開発されることが予想されている。

過去に実施されたがん治療用ワクチンの臨床試験の成績に関する体系的分析から、がん治療用ワクチンの投与による重篤な有害事象発生のリスクは極めて低いことが示されているものの、1)臨床試験で有効性が検証されて承認に至ったケースは僅かである。2)3)そこで、ワクチン抗原の設計を改善し、種々のアジュバント(ワクチンの効果を増強する物質、デリバリーシステムを含む。)を使用することによって、がん治療用ワクチンの免疫原性及び効力を高める工夫が広く模索されている。4―7)

Ⅱ.がん治療用ワクチン

がん治療用ワクチンは、腫瘍関連抗原(主にタンパク質)に由来し腫瘍特異的免疫応答を誘導するためのワクチン抗原を含んでいる。一般的に、ワクチン抗原はがん治療用ワクチンが標的とする腫瘍関連抗原タンパク質に基づいて設計される。代表的な腫瘍関連抗原を別表1に示す。

がん治療用ワクチンに含まれるワクチン抗原は、生体に投与された後、抗原提示細胞(主として樹状細胞又はマクロファージ)に貪食され、その細胞内部で処理されて、8から15残基程度のアミノ酸から成るエピトープペプチドとなり、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex(以下「MHC」という。))クラスⅠ又はクラスⅡと結合した複合体として、抗原提示細胞の表面に提示される。CD8陽性キラーT細胞及びCD4陽性ヘルパーT細胞の表面に発現するT細胞受容体(T cell receptor(以下「TCR」という。))は、それぞれMHCクラスⅠ/ペプチド複合体及びMHCクラスⅡ/ペプチド複合体を特異的に認識する。その結果、これらT細胞は活性化され、腫瘍局所に集まり、腫瘍細胞に作用することにより抗腫瘍効果を発揮することが期待される。即ち、CD8陽性キラーT細胞はワクチン抗原に含まれているのと同じエピトープペプチドを提示する腫瘍細胞を認識して破壊し、CD4陽性ヘルパーT細胞はインターフェロン(interferon(以下「IFN」という。))―γやインターロイキン(interleukin(以下「IL」という。))―2等のサイトカイン及びケモカインの分泌を通じてCD8陽性キラーT細胞の働きを増強する。CD4陽性ヘルパーT細胞には、CD40リガンド(CD40L)及びCD40経路を介して抗原提示細胞の抗原提示能力やB細胞の抗原特異的IgG抗体産生を増強する働きもある。

また、がん治療用ワクチンにはワクチン抗原が誘導する特異的免疫応答を増強するためのアジュバントが使用されることが多い。代表的なアジュバントを別表2に示す。アジュバントはワクチン抗原が誘導する獲得免疫応答の性質(Th1型、Th2型又はTh17型免疫応答等)にも影響を与えることが多い。

Ⅱ.1.ワクチン抗原

ワクチン抗原としてペプチド抗原を用いるがん治療用ワクチンが最も盛んに開発されてきた。3)ペプチド抗原は鎖長の違いにより短鎖ペプチド抗原と長鎖ペプチド抗原に大別でき、いずれも主に化学合成法で製造される。

短鎖ペプチド抗原は最小エピトープペプチドであり、その鎖長は、CD8陽性キラーT細胞の誘導を目的とする場合は8から11アミノ酸残基程度、CD4陽性ヘルパーT細胞の誘導を目的とする場合は12から17アミノ酸残基程度である。

長鎖ペプチド抗原は、1個から複数個の最小エピトープペプチドを含むように設計された比較的長いペプチドであり、その鎖長は20から50アミノ酸残基程度である。長鎖ペプチド抗原のアミノ酸配列は、腫瘍関連抗原タンパク質の天然アミノ酸配列である場合、複数のエピトープペプチドを連結した人工的なアミノ酸配列である場合がある。

タンパク質抗原は、全長又は部分長の腫瘍関連抗原タンパク質であり、主に組換えタンパク質として大腸菌等を用いて製造されることが多い。

短鎖ペプチド抗原は抗原提示細胞に取り込まれずに、抗原提示細胞表面のMHCに直接結合することが可能である。一方、長鎖ペプチド抗原及びタンパク質抗原は、MHCに直接結合できないため、抗原提示細胞に取り込まれた後に、その細胞内部でエンドソーム内のプロテアーゼ、ペプチダーゼ、細胞質のプロテアソーム、ペプチダーゼ等によってエピトープペプチドへと処理される。

その他に、ペプチド抗原又はタンパク質抗原をコードするDNA又はmRNAを投与する核酸ワクチン(DNAワクチン又はRNAワクチン)が開発されている。これら核酸ワクチンでは、投与したDNA又はmRNAが抗原提示細胞の核内又は細胞質に移行して目的のペプチド抗原又はタンパク質抗原が合成される必要がある。

ペプチド抗原又はタンパク質抗原(腫瘍溶解物含む。)を添加、若しくはペプチド抗原又はタンパク抗原をコードするDNA又はmRNAを導入した抗原提示細胞(主に樹状細胞)や、腫瘍関連抗原を含有する腫瘍細胞自体を不活化した細胞ワクチンも開発されている。

腫瘍関連抗原の発現及び腫瘍関連抗原に対する免疫応答には個人差がある。そこで、個々の患者の腫瘍関連抗原の発現状況や治療前に存在する腫瘍特異的免疫応答を考慮した上で、個々の患者ごとに適したワクチン抗原を用いる「個別化がん治療用ワクチン(personalized therapeutic cancer vaccine)」の開発が始まっている。例えば、予め用意された複数のペプチド抗原の中から、各患者が反応し得るペプチド抗原を患者血液検査によって選択して投与するペプチドワクチンや、8)次世代シークエンス解析技術を用いて各患者の腫瘍に固有の変異を同定し、変異部分を含むように設計したペプチド抗原又はそれをコードするmRNAを患者ごとに合成したがん治療用ワクチンとして投与する個別化がん治療用ワクチンが開発されつつある。9)10)

Ⅱ.2.アジュバント