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○「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」について

(平成30年7月23日)

(薬生薬審発0723第4号)

(各都道府県・各保健所設置市・各特別区衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)

(公印省略)

医薬品の相互作用の検討方法については、薬物相互作用の検討を行う際の参考とすべき資料として「薬物相互作用の検討方法について」(平成13年6月4日付け医薬審発第813号厚生労働省医薬局審査管理課長通知。以下「旧通知」という。)が示されており、その後「「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(最終案)」の公表について」(平成26年7月8日付け厚生労働省医薬食品局審査管理課事務連絡)によりガイドライン案を公表したところです。

今般、国内外の最新の動向を踏まえ、同最終案を見直し、別添のとおり「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン(以下「本ガイドライン」という。)」をとりまとめました。

つきましては、貴管下の関係業者に周知を宜しくお願いします。

なお、本ガイドラインでは、本文で示しているとおり、医薬品の開発時における薬物間相互作用の評価に当たり、現時点において科学的に妥当である一般的な方法を提示しています。

そのため、本ガイドラインに示される検討方法を参考にした上で、対象となる医薬品の特性を踏まえ、学問や科学技術の進歩に基づいて開発された新しい検討方法等も積極的に評価した上で、適切な検討方法を採用していただきますよう、御留意願います。

また、本通知の発出に当たり、旧通知は廃止します。これに伴い、他の通知又は事務連絡中、旧通知を参照する箇所については、本通知を御参照ください。

(別添)

医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン

目次

1.はじめに

1.1 背景と目的

1.2 適用範囲

1.3 薬物相互作用試験の実施における原則

2.吸収における薬物相互作用

2.1 消化管内におけるpHの変化、複合体・キレートの形成及び溶解性への影響

2.1.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

2.1.2 被験薬が相互作用薬となる場合

2.2 消化管運動に及ぼす影響

2.2.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

2.2.2 被験薬が相互作用薬となる場合

2.3 消化管におけるトランスポーターを介した薬物相互作用

2.4 消化管における薬物代謝酵素を介した薬物相互作用

3.組織移行及び体内分布における薬物相互作用

3.1 血漿蛋白結合

3.2 組織移行及び体内分布

3.2.1 特定の組織成分との結合

3.2.2 組織への取込み及び排出におけるトランスポーターの関与

4.薬物代謝における薬物相互作用

4.1 被験薬が相互作用を受ける可能性の検討

4.2 被験薬が薬物代謝酵素を阻害する可能性の検討

4.3 被験薬が薬物代謝酵素を誘導する可能性の検討

4.4 P450以外の酵素を介した薬物相互作用に関する検討

4.5 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品、生物起源由来医薬品)との相互作用

5.排泄における薬物相互作用

5.1 尿中排泄における薬物相互作用

5.2 肝胆系輸送における薬物相互作用

6.トランスポーターを介した薬物相互作用に関する検討

6.1 In vitro試験において考慮すべき一般事項

6.2 吸収に関わるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討

6.3 肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討

6.4 腎臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討

7.臨床薬物相互作用試験による評価

7.1 臨床薬物相互作用試験の必要性及び実施のタイミング

7.2 検討すべき薬物相互作用の指標と評価パラメータ

7.3 試験デザイン

7.4 投与量と投与経路

7.5 投与期間と投与のタイミング

7.6 薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬の選択

7.6.1 P450の阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験

7.6.2 P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験

7.7 薬物代謝酵素の誘導薬の選択

7.8 薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質の選択

7.9 臨床薬物相互作用試験による評価におけるその他の注意事項

7.9.1 単代謝酵素薬物と多代謝酵素薬物

7.9.2 薬物代謝酵素とトランスポーターの両方が関与する薬物相互作用

7.9.3 カクテル基質試験

7.9.4 母集団薬物動態試験法による薬物相互作用の検討

7.9.5 特別な背景を有する被験者についての考慮

7.9.5.1 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討

7.9.5.2 被験薬が主として特別な背景を有する又は特定の疾患を有する患者に適用される場合

7.9.5.3 健康志願者を試験対象としない場合

8.薬物相互作用に関する情報提供と注意喚起について基本となる考え方

8.1 使用上の注意への記載

8.2 「薬剤名等」の欄への記載

8.3 「薬物動態」の項への記載

9.関連するガイドライン等

10.用語一覧

11.付録

11.1 図表一覧

11.2 決定樹

11.3 基質、阻害薬及び誘導薬の代表例

1.はじめに

1.1 背景と目的

臨床現場では治療目的を果たすために複数の薬物を処方する場合が多く、併用薬物間の相互作用に注意が必要である。薬物相互作用により重篤な副作用が現れたり治療効果が減弱したりする場合があることから、新薬の開発においては、生じる可能性のある薬物相互作用の性質とその程度を適切に評価し、患者の不利益とならないように対処する必要がある。

医薬品開発における薬物相互作用の評価には、基本的な検討の段階的な積み重ねと状況に応じた的確な判断が必要であり、計画的、系統的な検討が大切である。本ガイドラインの目的は、薬物相互作用の発現を予測し、臨床試験実施の必要性を判断するための非臨床試験、及びヒトにおける薬物相互作用の発現の有無とその程度を確認するための臨床試験について、具体的な方法及び判断の基準、並びに試験結果の解釈及び情報提供に関する一般的な指針を提示することにある。本ガイドラインに基づき、臨床上問題となる薬物相互作用が発現する可能性を早期に判断することで、医薬品開発の効率化に資するとともに、開発時に得られた情報を適切に臨床現場に提供することにより、薬物相互作用に起因する副作用の発現や有効性の低下が回避され、医薬品のベネフィットとリスクのバランスを最適化し、適正使用が促進されることが期待される。

本ガイドラインでは、現時点において科学的に妥当である一般的な方法を提示する。しかし、個々の薬物によりその物理的・化学的性質、薬理作用、薬物動態、臨床における使用方法等が異なるので、薬物相互作用の可能性を検討する方法も、開発する医薬品ごとに異なる。薬物相互作用試験の実施にあたっては、本ガイドラインで述べる原則を念頭におき、薬物の性質に応じた適切な検討方法を取捨選択すべきである。また、必要に応じて学問や科学技術の進歩に基づく新しい検討方法及び情報提供の手段も積極的に評価し、採用すべきである。

1.2 適用範囲

本ガイドラインは、医薬品開発における薬物相互作用の検討及びその結果を適正に情報提供するための原則及び方法を示したものである。すなわち、ヒトにおける薬物相互作用の発現を予測し、臨床試験実施の必要性を判断するために開発早期に実施されるヒト組織、ヒト薬物代謝酵素やトランスポーターの発現系を用いたin vitro試験、臨床薬物相互作用試験、及び製造販売後に薬物相互作用の検討が必要とされる場合、並びにそれらの結果を添付文書等で情報提供する場合に適用する。

薬物相互作用はあらゆる投与経路において生じる可能性がある。本ガイドラインでは経口投与時に生じる薬物相互作用を中心に記述するが、必要な箇所では他の投与経路についても述べる。経口以外の投与経路において生じる薬物相互作用に関しては、投与経路が変わることで、薬物相互作用の程度も変化することに注意し、適宜、本ガイドラインで示した考えを参照して検討する。

本ガイドラインで定義する薬物相互作用は、薬物の効果、副作用又は薬物動態に影響を及ぼす併用薬物間(バイオテクノロジー応用医薬品や生物起源由来医薬品等の生物薬品を含む)、並びに薬物と飲食物、嗜好品等(例えば、喫煙、飲酒、サプリメント)との間に生じる現象である。

薬物相互作用は、発現機序により薬物動態学的相互作用(pharmacokinetic drug interaction)と薬力学的相互作用(pharmacodynamic drug interaction)に大別される。前者は薬物の吸収、分布、代謝又は排泄における相互作用の結果、薬物又は代謝物の血中濃度又は組織分布が変化することにより引き起こされるものである。後者は薬理作用が重なり合ったり打ち消しあったりすることにより、あるいは併用薬物が薬物感受性を変化させることにより生じる現象である。薬力学的相互作用について、一般的な検討方法として本ガイドラインで示すことは困難であり、薬力学的相互作用を検討するための試験の実施に関しては、薬物の薬理作用や予想される臨床適応に応じて、適宜判断する必要がある。また、本ガイドラインでは、一般的な薬物代謝酵素又はトランスポーターを介する薬物動態学的相互作用を中心に述べるが、ソリブジンとフルオロウラシル系抗悪性腫瘍薬の併用における有害作用発現事例のように、薬物によっては本ガイドラインで示す一般的な薬物代謝酵素以外の酵素を強く阻害し、その結果、当該酵素により代謝される併用薬物の薬物動態に影響を与え、薬物動態学的相互作用を生ずる場合があることにも注意が必要である。

1.3 薬物相互作用試験の実施における原則

薬物相互作用は、開発中の薬物(被験薬)及び併用される可能性のある既承認薬等について、被相互作用薬となる(相互作用を受ける)可能性と相互作用薬となる(相互作用を与える)可能性の両面から検討する。一般に、薬物相互作用の臨床的影響を予測するために、相互作用薬が被相互作用薬の主要消失経路に影響する程度を定量的に評価する必要がある。この目的のために、ヒト組織及び薬物代謝酵素やトランスポーターの発現系を用いたin vitro試験等をまず実施し、薬物相互作用の要因となり得る基本項目及び臨床で相互作用が発現する可能性を検討した上で、必要に応じて、実施すべき臨床薬物相互作用試験を計画する。臨床薬物相互作用試験を実施した場合は、得られた試験成績に基づき相互作用の程度を確認するとともに、広範な薬物の組合せの中から、薬物治療への影響を考慮した上で、回避すべき、又は注意喚起すべき相互作用を選択することが重要である。また、その情報は医療従事者にわかりやすく簡潔に提供されなければならない。

薬物相互作用試験は、事前に得られた被験薬の物理的・化学的特性、薬理学的特性、薬物動態学的特性に基づいて予想される薬物相互作用の発現機序に基づき計画及び実施する。薬物代謝酵素やトランスポーターに対する強い阻害薬等を用いたin vitro試験及び臨床薬物相互作用試験の結果は、他の薬物併用時の薬物相互作用の予測に有用である。臨床において、血中に代謝物が高濃度で存在するような場合又は有害な作用を引き起こす可能性がある代謝物又は臨床的に意味のある薬理活性を有する代謝物が生成する場合には、当該代謝物についても必要に応じて薬物相互作用が生じる可能性を検討する。また、医療用配合剤や併用効能等、被験薬が他の薬物との併用投与を前提として開発されている場合、原則として該当する薬物の併用による臨床薬物相互作用試験を実施する。

医薬品開発における薬物相互作用試験は、開発の相を踏まえて段階的に実施する。被験薬が被相互作用薬及び相互作用薬となる可能性を評価するin vitro試験は、多数の被験者あるいは長期間の投与を行う前(通常、第Ⅲ相試験開始前)までに実施すべきである。通常、第Ⅰ相試験を開始する前に、in vitro試験に基づき被験薬の血漿(血清)蛋白結合率及び薬物代謝の情報を取得する。また、臨床薬物相互作用試験及びヒトにおけるマスバランス試験は、第Ⅲ相試験開始前に実施することが望ましい。以上の検討方針に従い段階的に収集された非臨床又は臨床の試験成績に基づく情報は、治験薬概要書に記述する等の方法で、より後期の臨床試験を実施する際に適切に提供される必要がある。

医薬品開発の各段階において、薬物相互作用の可能性を予測し、臨床試験実施の要否又は試験デザインに関する情報を得るために、生理学的薬物速度論(physiologically based pharmacokinetics(PBPK))等を活用したモデリング&シミュレーションが有用である。モデリング&シミュレーションによる検討においては、検討目的に応じて、使用するモデルや実施するシミュレーションの性質を十分理解するとともに得られた結果の信頼性を確認する必要がある。承認申請時にシミュレーションの結果を利用する場合には、モデルの設定に関する仮定及びモデル構築の過程に関する情報を示した上で、統計学的側面からの検討とともに生理学・医学・薬学の観点から、構築されたモデルと実施したシミュレーション結果の妥当性を説明する必要がある。

臨床において被験薬と併用薬の間で顕著な薬物相互作用が観察されたものの、その相互作用の機序が明らかではない場合には、追加の検討を行うことにより、薬物相互作用が生じる機序を解明することが推奨される。

なお、薬物相互作用を検討する臨床試験の実施にあたっては、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)を遵守して行い、薬物動態の評価は「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日付 医薬審発第796号)に準拠して行う。

2.吸収における薬物相互作用

消化管からの吸収過程における薬物相互作用は、主に経口投与される被験薬で問題となるが、薬物投与後に消化管から吸収される可能性のある吸入薬、点鼻薬、口腔粘膜吸収薬等でも、同様の薬物相互作用を考慮すべきである。

また、薬物の吸収過程には、併用薬だけでなく飲食物中の成分も大きな影響を及ぼすことがある。これらの影響の多くは、薬物及び製剤の物理的・化学的特性並びにその薬理作用の十分な理解により定性的な予測が可能である。したがって、以下2.1~2.2の項目に該当する可能性について考察するとともに、それらから予想できないような薬物動態の変化が認められた場合には、必要に応じて、後述の薬物代謝酵素又はトランスポーターを介した相互作用の可能性も含めて、その原因を検討する。

吸収過程に及ぼす食事の影響については製剤により影響が異なるため、最終製剤について検討する。最終製剤の定義については「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日付 医薬審発第796号)を参照する。

2.1 消化管内におけるpHの変化、複合体・キレートの形成及び溶解性への影響

2.1.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

被験薬の溶解性にpH依存性が認められる場合は、胃内pHを変化させる薬物(プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬、及び制酸薬等)との併用による消化管吸収への影響を評価するために、臨床薬物相互作用試験を実施する必要性を検討する。

併用薬及び飲食物成分(カルシウム等)との間で複合体・キレート、ミセル等が形成されることにより、被験薬の消化管吸収が低下又は増加する場合があるので、薬物の物理的・化学的特性を踏まえ、必要に応じ複合体等が形成する可能性をin vitroで評価する。さらに、物理的・化学的特性及びin vitroデータから、臨床において複合体等の形成が問題となる可能性が示された場合には、飲食物等との臨床薬物相互作用試験を実施する必要性を検討する。小児に適応される医薬品では、新生児及び乳児におけるミルクの摂取等食事内容の特徴も考慮する。

食事の影響の検討は、食事の影響を最も受けやすい条件で実施することが望ましい。例えば、脂溶性が高く消化管内での溶解性が低い薬物の中には、高脂肪食の摂取に起因する胆汁の分泌増加等により溶解性が高まり、薬物の消化管吸収が増加する場合があることに留意する。

2.1.2 被験薬が相互作用薬となる場合

被験薬が胃内pHを変化させる場合、pH依存性を示す他の薬物の消化管吸収への影響を予測し、臨床薬物相互作用試験において評価する必要性を検討する。また、被験薬の化学構造によっては、複合体の形成を介して薬物の吸収阻害を生じる等、他の機序の可能性についても検討する。

2.2 消化管運動に及ぼす影響

2.2.1 被験薬が被相互作用薬となる場合

消化管運動に影響する薬物(プロパンテリン、メトクロプラミド等)との併用は、製剤の崩壊性や小腸移行速度を変化させ、消化管からの薬物の吸収速度を変動させ得る。また、摂食により胃内容物の排出速度が遅くなり、小腸からの吸収遅延が認められることがある。これらのうち、特に血中濃度―時間曲線下面積(area under concentration-time curve(AUC))の変化を伴う薬物動態の変動が認められた場合には、被験薬の代謝への影響にも注意する必要がある。

2.2.2 被験薬が相互作用薬となる場合

被験薬が胃排出又は腸管運動に対して影響を及ぼすことが明らかな場合、他の薬物の薬物動態に影響を与える可能性がある。その場合には、臨床的に問題となる薬物相互作用の生じる可能性を検討し、必要に応じて適切な指標薬(例えば、胃排出に対する作用の指標薬としてアセトアミノフェン)に対する作用を評価する。このような胃排出又は腸管運動に対する影響は、被験薬が非経口投与される場合であっても生じる可能性があることに留意する。

2.3 消化管におけるトランスポーターを介した薬物相互作用

消化管上皮細胞の管腔側の細胞膜上に発現している取込みトランスポーターにより薬物が吸収される場合、同じトランスポーターにより吸収される他の薬物又は飲食物成分との間に相互作用が生じ、薬物の吸収が低下することがある。小腸管腔側の細胞膜上には排出トランスポーターが発現しており、一部の薬物では、管腔側から上皮細胞中に取り込まれた後、基底膜側(門脈側)に移行する前に、排出トランスポーターによって小腸管腔側へ排出される。排出トランスポーターの阻害により薬物の吸収が増大する薬物相互作用や、消化管における排出トランスポーターであるP―糖蛋白質(P-glycoprotein(P-gp))の発現誘導により、薬物の吸収が低下する薬物相互作用もある。

消化管上皮細胞の管腔側に発現するP―gp及びbreast cancer resistance protein(BCRP)は、いずれも排出トランスポーターとして、基質となる薬物の消化管吸収を低下させる。一方、P―gp又はBCRPの基質と阻害薬の併用により、基質の吸収が増大する可能性がある。このため、被験薬がP―gp又はBCRPの基質となる可能性、並びにP―gp又はBCRPに対する被験薬の阻害作用については、原則としてin vitro試験により評価する(検討手順は6.2項及び11.2項の図2―1~図2―3参照)。

2.4 消化管における薬物代謝酵素を介した薬物相互作用

消化管、特に小腸粘膜では、シトクロムP450(P450)の分子種であるCYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)が多く発現している。小腸においてCYP3Aによる初回通過代謝を大きく受ける被験薬では、CYP3Aを阻害する薬物の併用によりバイオアベイラビリティが増大するが、CYP3Aを誘導する薬物の併用により肝臓と同様に小腸においてもCYP3Aが誘導されると、被験薬の血中濃度が低下する。したがって、被験薬の初回通過代謝の程度等を考察し、必要に応じて小腸における薬物相互作用を検討する(手順及び留意点は4章参照)。一方で、被験薬がCYP3Aを阻害する場合には、小腸における代謝阻害の観点からの検討を行う。

また、CYP3A阻害を示す飲食物中の成分の影響についても考慮する必要がある。例えば、グレープフルーツジュースにはCYP3Aを強く阻害する物質が含まれるため、グレープフルーツジュースと同時、又はグレープフルーツジュースの摂取後に、CYP3Aにより主として代謝される経口薬を服用した場合に、当該経口薬のバイオアベイラビリティが上昇する可能性があることに留意する。

CYP3Aの基質はP―gpの基質であることが多く、その両方が阻害又は誘導された場合の薬物相互作用のリスクを念頭に置いて評価する。

3.組織移行及び体内分布における薬物相互作用

薬物の多くは血漿中で血漿蛋白質と結合して存在し、また、組織内では蛋白質やある種の組織成分と結合して存在している。血漿と組織の間の薬物の移行は非結合形によることから、蛋白結合の置換による非結合率の変動が薬物相互作用の原因となることがある。また、薬物によってはその組織分布にトランスポーターが関与することがある。

3.1 血漿蛋白結合

薬物が血漿中において結合する蛋白質は主にアルブミンであるが、一部の薬物はα1―酸性糖蛋白質、リポ蛋白質等に結合する。In vitroで血漿蛋白質との結合率が高い(90%以上)被験薬の薬物相互作用を検討する際には、結合蛋白質の種類と結合の程度を明らかにしておく必要がある。

薬物相互作用により分布が変化する原因のひとつとして、血漿蛋白質と結合した薬物の置換によるものがあり、血漿蛋白質と強く結合する併用薬により、被験薬が結合蛋白質から遊離し、血漿中非結合形分率が上昇する。ほとんどの場合、血漿中非結合形濃度の変化は少ないため、置換は臨床上の重要な変化をもたらさないが、被験薬の血漿蛋白結合率が99%以上で、治療域が狭く、かつ、以下の条件のいずれかを満たす場合には、血漿蛋白質と強く結合することが知られる薬物との併用により重要な相互作用を受ける可能性があることに留意する。

1) 分布容積が小さい薬物である場合。この場合は薬物のクリアランスの大きさ及び被験薬の投与経路の違いは問わない。

2) 主に肝における除去により体内から消失し、しかもその肝クリアランスが大きい被験薬を静脈内に投与する場合。

3) 主に腎からの除去により体内から消失し、しかもその腎クリアランスが大きい被験薬の場合。この場合は投与経路を問わない。

一方で、血漿蛋白結合の置換を介して併用薬の薬物動態に影響を及ぼす薬物は、結合対象の蛋白質濃度と少なくとも同程度の血漿中濃度を示す薬物に限られることにも注意が必要である。

3.2 組織移行及び体内分布

組織中の特定の成分との結合の変動による薬物相互作用に加えて、各組織に発現する取込み又は排出トランスポーターの阻害又は誘導が生じることにより、被験薬の組織分布が変化する可能性にも留意する。

3.2.1 特定の組織成分との結合

薬物によっては、組織の受容体、蛋白質、脂質等と特異的に結合し、結合における競合により組織内の非結合形の薬物濃度が変化し薬物相互作用が生じることがある。

3.2.2 組織への取込み及び排出におけるトランスポーターの関与

肝臓、腎臓等の薬物消失臓器、脳、胎盤、網膜等に存在する血液組織関門には取込み又は排出トランスポーターが発現しており、各組織への薬物の分布に関与する。トランスポーターを介した能動輸送過程において薬物相互作用が生じる場合は、当該組織中の非結合形薬物濃度を変動させることにより(取込みの阻害により減少、排出の阻害により増加する)、その組織での作用や副作用発現に影響を与える可能性がある。

組織分布における薬物相互作用は、必ずしも血漿中の薬物濃度の変化に反映されるとは限らない。特に、全身の分布容積に比して分布容積が小さい組織のみにおいて能動輸送過程に相互作用が生じる場合は、当該組織中の薬物濃度が変動しても、血漿中の薬物濃度の変動に反映されないため注意が必要である。一方で、肝臓、腎臓等の主要な分布、排泄臓器において薬物相互作用が生じる場合には、薬物の分布容積、全身クリアランスにも影響し、血漿中の薬物濃度が変動することもある(5.1項、5.2項参照)。

4.薬物代謝における薬物相互作用

薬物代謝が関連する相互作用試験では、相互作用が生じる代謝経路を特定し、被験薬が被相互作用薬となる場合は全体の消失経路の中でその経路が占める重要性を定量的に把握し、また相互作用薬となる場合は、阻害、誘導等の機序によりその経路の代謝酵素活性に与える影響を評価することが重要である。薬物代謝が関与する薬物相互作用の多くは、酸化的代謝、特にP450が関連する。また、UDPグルクロン酸転移酵素(UGT)等のP450以外の酵素が薬物相互作用に関与することも知られている。

本項では、P450のうち、主要な分子種であるCYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6及びCYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)が関与する薬物相互作用の可能性の検討を中心に述べる。相互作用試験に関する具体的な手順については、被験薬がこれらの分子種により代謝される可能性を検討する場合には4.1項を、阻害や誘導の可能性を検討する場合には4.2項及び4.3項を参照する。また、in vitro代謝試験及び臨床薬物相互作用試験を実施する際に用いることが推奨される代表的な指標薬の例もあわせて示す(11.3項の表1―1~表1―6参照)。

なお、被験薬の代謝における主要なP450分子種の寄与が小さい場合には、他のP450分子種(例:CYP2A6、CYP2E1、CYP2J2、CYP4F2)又はP450以外の酵素を介した薬物相互作用の可能性を検討する(4.4項参照)。また、被験薬の主要な代謝物についても同様に薬物相互作用の可能性を検討する。

薬物代謝においては1つの酵素が多数の薬物の消失に関与することが一般的であり、なかでも最も重要な酵素であるCYP3Aは基質特異性が低く、当該酵素の関与を考慮すべき薬物の数が非常に多い。そのため、網羅的な臨床試験の実施は難しく、比較的少数の臨床薬物相互作用試験の結果からモデリング&シミュレーションを利用して評価することが有用な場合もある。

4.1 被験薬が相互作用を受ける可能性の検討(11.2項の図1―1参照)

被験薬が被相互作用薬となる可能性を検討し、薬物相互作用の寄与の程度を定量的に評価するためには、経口薬の場合、被験薬の経口投与時のクリアランス(CL/F)に対する薬物相互作用を生じる経路のin vivoにおける寄与率(Contribution Ratio、CR)が重要である。被験薬の主要消失経路が代謝である場合は、寄与率の大きい酵素分子種を特定し、その寄与の程度を可能な限り明らかにする。In vitro代謝試験からCRを推定する場合には、一般にヒト肝ミクロソーム等において当該酵素で代謝される割合fm(fraction metabolized)を代用する。In vitro代謝試験及び臨床薬物動態試験(例:マスバランス試験、静脈内投与試験等)の結果から、各(主要)消失経路のin vivo寄与率(最大の推定値)を算出し、特定の薬物代謝酵素による消失が被験薬の消失全体の25%以上に寄与すると推定される場合は、当該酵素の相互作用薬(指標薬:11.3項の表1―5、1―6参照)を用いた臨床薬物相互作用試験の実施を考慮する。なお、被験薬の臨床適応上の投与経路が経口投与であっても、必要に応じて静脈内投与試験を実施することで、被験薬の全身クリアランスにおける肝代謝及び腎排泄の寄与の評価が可能である。

臨床薬物相互作用試験の実施に際しては、可能な限り最初に強い阻害薬(7.6項及び11.3項の表1―5参照)を用い、被験薬の薬物動態の変化の程度を評価する。試験結果により薬物相互作用がない、又は相互作用の程度が軽微であると判断された場合には、被験薬の消失全体における当該酵素の寄与は小さいことが多く、臨床薬物相互作用試験を追加して実施する必要性は低い。一方、強い阻害薬を用いた相互作用試験の結果から、用量調整の必要性を考慮すべき被相互作用薬となることが示唆された場合は、必要に応じて、臨床的に併用される可能性を考慮の上、同じ経路の他の阻害薬の影響を臨床薬物相互作用試験で評価、又は、通常の臨床試験の中での併用事例データに基づき検討する。誘導薬との臨床薬物相互作用試験は、阻害薬との臨床薬物相互作用試験の結果から、モデリング&シミュレーション(例えば、PBPKモデルの妥当性が確認され臨床試験の結果を矛盾なく説明できる場合)等により臨床的に問題となる薬物相互作用が生じるリスクがあると判断された場合には必要となる。

4.2 被験薬が薬物代謝酵素を阻害する可能性の検討(11.2項の図1―2参照)

被験薬がP450に対して阻害作用を及ぼすか否かについて、in vitro代謝試験により評価する。

被験薬が阻害薬となる可能性を評価するための臨床薬物相互作用試験を実施するか否かは、特定の酵素反応に対する被験薬の存在下と非存在下における基質の固有クリアランス値の比(R値)を算出し、カットオフ基準と比較する。被験薬に関する評価においてこの基準以上の場合には、薬物動態学的相互作用を受けやすい基質(7.8項及び11.3項の表1―4参照)を用いて臨床薬物相互作用試験を実施する。なお、カットオフ基準に加えて、メカニズムに基づく静的薬物速度論(mechanistic static pharmacokinetics(MSPK))モデル、PBPKモデル等を用いた検討が可能である。

未変化体に加えて、主要な代謝物による酵素阻害作用についても検討することが望ましい。未変化体と比較した全身曝露及び化学構造の観点による検討に基づき、評価対象とすべきか否かを判断する。In vivoで観察された薬物相互作用が特定の代謝物に起因することが示されている場合、in vitroでの代謝物による酵素阻害試験の実施は、臨床薬物相互作用試験のデザイン及び試験結果の解釈に有用である。また、臨床薬物相互作用試験では、薬物相互作用に関連する可能性のある代謝物の血中濃度を測定することが推奨される。

4.3 被験薬が薬物代謝酵素を誘導する可能性の検討(11.2項の図1―3参照)

被験薬により、核内受容体又はその他のP450の発現制御経路への影響を介した薬物代謝酵素の誘導、又はダウンレギュレーションが起こり得るため、薬物相互作用が生じる可能性を検討する。一般に、in vitro代謝試験結果に基づき、臨床薬物相互作用試験の必要性を検討するが、直接、臨床薬物相互作用試験で誘導を評価する場合もある。

被験薬が誘導薬となる可能性を評価するための臨床薬物相互作用試験を実施するか否かは、in vitroデータ等に基づき、カットオフ基準による評価を行う。カットオフ基準に加えて、MSPKモデル、PBPKモデル等を用いて検討することができる。

4.4 P450以外の酵素を介した薬物相互作用に関する検討

薬物の代謝に関与しているP450以外の第Ⅰ相酵素(酸化、還元、加水分解、閉環及び開環反応に関与している酵素)として、モノアミンオキシダーゼ(MAO)、フラビンモノオキシゲナーゼ(FMO)、キサンチンオキシダーゼ(XO)、アルデヒドオキシダーゼ(AO)、アルコール脱水素酵素及びアルデヒド脱水素酵素等がある。これらP450以外の第Ⅰ相酵素の基質である場合についても、被験薬の消失への寄与が大きい場合は、関与する分子種の同定及び寄与の程度を検討することが推奨される。被験薬がこれらの薬物代謝酵素の基質となる可能性については、同種同効薬や構造類縁化合物等の知見を踏まえて評価可能な場合もある。

第Ⅱ相酵素のうち、被験薬が主にUGTで代謝される場合には、その消失に主に関与する分子種の寄与の程度について検討する(11.2項の図1―1参照)。この場合には、主要な薬物代謝酵素であった分子種に加えて、比較的多くの医薬品の代謝に関与することが知られている分子種(UGT1A1、UGT2B7等)に対する阻害作用を検討することが推奨される(11.2項の図1―2参照)。

また、ソリブジンとフルオロウラシル系抗悪性腫瘍薬の併用における有害作用発現事例のように、被験薬との併用が想定される薬物の主要な代謝経路に、一般的な薬物代謝酵素以外の酵素の寄与が大きい場合には、被験薬及びその代謝物の当該酵素に対する阻害作用を検討すべきである。これらの試験で得られた結果をもとに臨床試験を実施する必要性を評価する際の考え方は、P450の場合に準ずる。その際には、既知の阻害薬及び誘導薬の有無から臨床薬物相互作用試験の実施可能性を判断する。

4.5 生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品、生物起源由来医薬品)との相互作用

一般に、生物薬品は細胞表面の受容体との特異的な相互作用に続く標的細胞内への内在化とリソソームによる分解を介して消失する。したがって、生物薬品と併用薬との薬物動態学的相互作用が生じる可能性は限定的と考えられる。

被験薬がサイトカイン又はサイトカイン修飾因子である場合、被験薬及び併用薬の有効性及び安全性の観点から、P450又はトランスポーターに対する被験薬の影響を評価するための臨床薬物相互作用試験を実施する必要性を検討する。同種同効薬で薬物動態学的相互作用又は薬力学的相互作用の機序が判明しており、これに基づく臨床薬物相互作用の報告がある場合、当該薬物相互作用が生じる可能性を検討するための臨床薬物相互作用試験を実施すべきである。さらに、用法・用量等で規定される併用療法として、他の薬物(低分子医薬品又は生物薬品)と併用投与される予定の生物薬品については、必要に応じて、併用される薬物同士の相互作用の可能性を臨床試験で評価し、その際には薬物動態に対する作用に加えて薬力学的作用も評価することを検討すべきである。

5.排泄における薬物相互作用

5.1 尿中排泄における薬物相互作用

腎クリアランスは、腎糸球体における濾過、尿細管における血管側から尿側への分泌、尿側から血液側への再吸収の総体として決定される。尿細管における分泌又は再吸収には、トランスポーターを介した能動的な輸送が関与することが知られている。したがって、トランスポーターを介して尿細管中に能動的に分泌、また、尿細管で再吸収される薬物は、その過程で薬物相互作用が生じる可能性がある。これに加えて極性の低い薬物は、一般に薬物の物性に基づく受動的な再吸収を受けやすいことから尿中へ排泄されにくい傾向がみられる。再吸収率の高い弱酸性又は弱塩基性の薬物は、尿のpHを変化させる薬物を併用すると尿中での分子型・イオン型薬物の比率が変動することにより、尿側からの膜透過が影響され、腎クリアランスの変動による薬物相互作用を生じることがある。腎疾患や加齢により薬物の尿中排泄能力が低下している患者では、腎機能が低下していない患者と比較して、腎排泄が主要な消失経路である薬物の血中濃度が高値を示すことが多い。このような患者では、尿中排泄における薬物相互作用が生じた場合、さらなる血中濃度の上昇に伴い、薬効の増強又は副作用の発現が生じる場合があることに注意が必要である。

近位尿細管上皮細胞の血管側に発現し、薬物を血中から近位尿細管上皮細胞へ取込むトランスポーターであるorganic anion transporter(OAT)1、OAT3及びorganic cation transporter(OCT)2が阻害される場合、これらの基質となる薬物の血中濃度が上昇する可能性がある。尿管側に発現し、薬物を近位尿細管上皮細胞から尿中へ排出するトランスポーターであるP―gp、BCRP及びmultidrug and toxin extrusion(MATE)1、MATE2―Kが阻害される場合、これらの基質となる薬物の血中濃度が上昇する、又は血中濃度には変化がないにもかかわらず、近位尿細管上皮細胞中の薬物濃度が増加する可能性がある。そのため、被験薬がこれらのトランスポーターの基質あるいは阻害薬となるかを検討し、臨床薬物相互作用試験を実施すべきか否かを判断する(11.2項の図2―2、図2―3、図2―6、図2―7参照)。薬物を輸送することが知られているトランスポーターとしては、他にも、近位尿細管上皮細胞の尿管側に発現し、近位尿細管上皮細胞から尿中へ薬物を排出するmultidrug resistance-associated protein(MRP)2やMRP4等がある。

5.2 肝胆系輸送における薬物相互作用

肝細胞の血管側には、血中から肝細胞中へ薬物を取込むトランスポーターが発現する一方、胆管側には、肝細胞中から胆汁中へ、薬物の未変化体又は抱合体等の代謝物を排出するトランスポーターが発現している。したがって、これらトランスポーターの活性に影響を与える薬物の併用により薬物相互作用が生じる可能性がある。

肝細胞の血管側に発現し、薬物を血中から肝細胞中へ取込むトランスポーターであるorganic anion transporting polypeptide(OATP)1B1及びOATP1B3が阻害されると、これらの基質となる薬物の血中濃度が上昇する可能性がある。そのため、被験薬がこれらのトランスポーターの基質又は阻害薬となるかを検討し、臨床薬物相互作用試験を実施すべきか否かを判断する(11.2項の図2―4、図2―5参照)。また、胆管側膜の胆汁排泄トランスポーターの活性に影響を与える薬物の併用により薬物相互作用が生じる可能性がある。薬物を輸送することが知られているトランスポーターとしては、他にも、肝細胞の血管側に発現し、血中から肝細胞中へ薬物を取り込むトランスポーターであるOCT1、肝細胞の胆管側に発現し、肝細胞中から胆汁中へ薬物を排出するMRP2等がある。MRP2のような排出トランスポーターが阻害されるとき、血中濃度には変化がないにもかかわらず、肝細胞中の薬物濃度が増加する場合もある。さらに、OATP類、MRP2やbile salt export pump(BSEP)のように胆汁酸やビリルビン等の内因性物質の胆汁中排泄に関わるトランスポーターの場合、薬物による阻害に起因して、当該内因性物質の血中又は組織中濃度の上昇が生じる可能性がある。また、グルクロン酸抱合体等は、胆汁中に排泄された後に消化管内で腸内細菌により脱抱合され、未変化体として再び消化管より吸収されることが多い(腸肝循環)。その際、抱合体の胆汁中排泄において薬物相互作用が生じた場合、未変化体の血漿中での滞留時間やAUCが影響される可能性がある。

6.トランスポーターを介した薬物相互作用に関する検討

6.1 In vitro試験において考慮すべき一般事項

トランスポーターのin vitro試験系を用いた輸送評価を行う場合には、典型基質、典型阻害薬(11.3項の表2―1、表2―2)を用いた検討もあわせて実施し、対象とするトランスポーターの機能が十分に観察できることを確認した試験系で、被験薬の試験を実施する。

被験薬がトランスポーターの基質及び阻害薬となる可能性を検討するための臨床薬物相互作用試験を実施するか否かは、in vitroデータ等に基づくカットオフ基準による評価を行う(11.2項の図2―1~図2.7参照)。トランスポーターについてはP450と比較して情報が限られており、カットオフ基準は、今後の科学的知見の集積により変更される可能性がある点に留意して評価する。

トランスポーターを介した薬物相互作用の評価にあたっては、被験薬と類似した構造を有する薬物から得られた知見が役立つ場合がある。代謝物の中にも併用薬との間で薬物相互作用を起こす場合があるため、必要に応じて代謝物についてもトランスポーターとの薬物相互作用を検討することを考慮する。

なお、被験薬の消化管吸収やクリアランスにおいて、以下の項で検討すべきとされる分子種以外のトランスポーターが大きな影響を及ぼすことが示唆された場合、また以下の項で検討すべきとされる分子種以外のトランスポーターに対する被験薬の阻害作用が併用薬の消化管吸収やクリアランスに影響を及ぼすことが示唆された場合には、in vitro試験により、Caco―2細胞(消化管吸収の評価)やトランスポーター発現細胞株、適切な細胞、膜小胞系等を用いて、寄与するトランスポーターの特定やその寄与の程度を類推する必要性について検討する。

6.2 吸収に関わるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討(11.2項の図2―1~3参照)

P―gp及びBCRPはいずれも消化管に発現し、経口バイオアベイラビリティの変動に影響を及ぼし得る重要なトランスポーターである。このため、被験薬がP―gp及びBCRPの基質となる可能性については、原則としてin vitro試験により評価する。なお、これらのトランスポーターは、肝臓、腎臓及び脳にも発現しており、薬物の消失及び中枢移行性にも影響を及ぼし得ることから、経口以外の投与経路の場合も検討が必要な場合がある。

被験薬がP―gp及びBCRPの基質又は阻害薬となる可能性を検討する場合、典型基質又は典型阻害薬(11.3項の表2―1、表2―2参照)を用いて輸送能が確認されたin vitroの試験系により評価を行う。In vitroの試験系としては、Caco―2細胞又は特定のトランスポーターの過剰発現細胞株を用いる双方向の経細胞輸送試験が望ましい。双方向の経細胞輸送試験を実施する際には、アクセプター側及びドナー側における添加薬物の回収率を求めておくことが望ましい。

Caco―2細胞にはP―gp、BCRP、MRP2等の数種類のトランスポーターが発現しているが、個々のトランスポーターに対する典型阻害薬を用いることができれば、それぞれのトランスポーターの関与を定性的に検討することができる。典型阻害薬を用いることができない場合は、特定のトランスポーター遺伝子を発現する細胞株を用いた試験が有用である。

6.3 肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討(11.2項の図2―1、図2―4、図2―5参照)

肝代謝又は胆汁中排泄が主要消失経路(肝代謝又は胆汁中排泄クリアランスが全身クリアランスの25%以上を占める)の被験薬については、肝取込みトランスポーターOATP1B1及びOATP1B3の基質となる可能性を検討する。

被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質又は阻害薬となる可能性を検討する場合、典型基質又は典型阻害薬(11.3項の表2―1、表2―2参照)を用いて輸送能が確認されたin vitroの試験系により評価を行う。その際は、OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株又はヒト肝細胞を用いた試験系を用いる。

6.4 腎臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用の検討(11.2項の図2―1、図2―6、図2―7参照)

主に腎臓の能動的な分泌により消失(腎分泌クリアランスが全身クリアランスの25%以上を占める)する被験薬については、OAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの基質となる可能性を検討する。

被験薬がOAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの基質又は阻害薬になる可能性を検討する場合、典型基質又は典型阻害薬(11.3項の表2―1、表2―2参照)を用いて輸送能が確認されたin vitroの試験系により評価を行う。その際は、OAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―K発現細胞株を用いた試験系を用いる。

7.臨床薬物相互作用試験による評価

臨床薬物相互作用試験は、倫理的かつ科学的に行わなければならない。ヒト組織及び薬物代謝酵素やトランスポーターの発現系を用いたin vitro試験等であらかじめ十分な情報を得て、被験者の安全を確保した上で効率的に臨床薬物相互作用試験を実施することが重要である。In vitro試験結果等に基づきヒトにおける薬物相互作用を予測する際には、モデリング&シミュレーションの手法、また同種同効薬や薬物相互作用の機序が同一である他の薬物のデータを参考にする。また、その薬物相互作用に起因する副作用を念頭におき、被験者の安全に最大限に配慮して試験計画を策定する必要がある。

7.1 臨床薬物相互作用試験の必要性及び実施のタイミング

ヒトにおいて薬物相互作用を生じる可能性が示唆された被験薬については、通常、健康志願者等を対象に、臨床薬物相互作用試験を、原則、第Ⅲ相試験開始前に実施することが望ましい。臨床用量の被験薬、指標薬、阻害薬、誘導薬を用いて薬物相互作用試験を実施する。この結果、被験薬と指標薬との間等において薬物相互作用が示された場合は、臨床で使用される可能性が高い併用薬についても、その特性、薬物相互作用発現の可能性等を考慮し、必要に応じて臨床薬物相互作用の検討を行う。なお、医療用配合剤や併用療法等、被験薬が他の薬物との併用投与を前提として開発されている場合、原則として該当する薬物の併用による臨床薬物相互作用試験を実施する。

臨床薬物相互作用試験の結果は、その後に実施する臨床試験の計画時に、相互作用に基づく併用規定を検討する際に利用される。In vitro試験の結果等から薬物相互作用が生じる可能性が示された薬物は、臨床薬物相互作用試験等で安全性が示されるまでは、原則として、臨床試験において併用を禁止する規定を設けるべきである。第Ⅱ相又はⅢ相臨床試験で薬物相互作用の影響を検討する場合、母集団薬物動態解析法により併用薬物との薬物相互作用に関する情報を得ることは、個体間変動を考慮した薬物動態を予測し、被験薬の薬物動態と有効性及び安全性を検討する上で有用な場合もある。なお、製造販売後においても、新たな薬物相互作用が報告され、臨床薬物相互作用試験の実施を検討すべき場合もある。

7.2 検討すべき薬物相互作用の指標と評価パラメータ

薬物相互作用の定量的評価を行うために、被験薬又は併用薬のAUCを評価する。また、併用薬物との組合せ等によっては、薬効や副作用の評価も薬物相互作用の指標となる場合がある。

臨床薬物相互作用試験の結果に基づく相互作用の有無の判定は、相互作用薬の併用時及び非併用時で得られた薬物動態パラメータの幾何平均比の90%信頼区間に基づき行う。幾何平均比の90%信頼区間が0.80―1.25の範囲にあるとき、一般的には当該薬物間の薬物動態学的な相互作用は無いと判断する。なお、上述の範囲内外にかかわらず、当該医薬品の臨床試験で確認された安全性も踏まえ、薬物相互作用が臨床的に問題となるかを判断すべきである。また、必要に応じて相互作用によるCmax、トラフ濃度、Cmax到達時間(tmax)、クリアランス、分布容積、半減期等の薬物動態パラメータへの影響についても評価する。

臨床的に問題となる薬物相互作用が生じる可能性がある場合、8章を参照して、薬物相互作用の情報提供と注意喚起の内容を判断する。

7.3 試験デザイン

臨床薬物相互作用試験は、無作為化クロスオーバー試験、上乗せ試験(被験薬単剤投与時の検討後に併用投与時を検討する)等の試験デザインにより実施する。並行群間比較試験については、個体間変動の影響を考慮する必要が生じることから一般的に推奨されない。異なる試験の結果を対照とする比較(外部対照との比較)は原則として行わない。

薬物相互作用試験は、血圧や症状観察による評価等バイアスを受けやすい有害事象を含む薬力学的マーカーの評価が重要な場合を除き、一般的には非盲検で実施する。

登録前に医療用医薬品、一般用医薬品、医薬部外品、健康食品(サプリメント等)、タバコ又はアルコールを摂取した被験者は、薬物代謝酵素及びトランスポーターの活性が影響を受けている可能性があることから、臨床薬物相互作用試験の対象から除外することを考慮すべきである。

被験薬の消失が、遺伝子多型により活性の変化する薬物代謝酵素又はトランスポーター(CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、UGT1A1、OATP1B1、BCRP等)の影響を強く受けると考えられる場合は、遺伝子多型によって薬物相互作用の程度が相違する可能性があり、遺伝子型により層別化した試験デザインが有用な場合がある(7.9.5.1項参照)。

7.4 投与量と投与経路

試験で使用する阻害薬又は誘導薬の用法・用量は、薬物相互作用を示す可能性を最大化する用量とすべきであり、予定する又は承認されている最大用量と最短投与間隔を用いる。一方、基質は線形の範囲内であれば、いずれの用量を投与してもよい。また、基質の薬物動態が非線形性を示す場合は、臨床用量を考慮して規定する。安全性上の懸念がある場合は、基質の用量を臨床用量よりも低用量に設定し、分析法の検出感度の観点等、用法・用量の変更が薬物相互作用の評価に与える影響を考察して、治験実施計画書及び治験総括報告書に記載する。

臨床薬物相互作用試験では、投与経路の選択が重要である。被験薬の投与経路は、一般的に臨床使用を予定している投与経路とする。複数の投与経路の用法を開発する場合、予測される薬物相互作用の機序と被験薬及び代謝物のAUCの変化の程度によって、薬物相互作用試験をそれぞれの投与経路別に実施する必要性を判断する。経口製剤のみを市販する場合は、通常、静脈内投与製剤を用いる臨床薬物相互作用試験を実施する必要はない。

7.5 投与期間と投与のタイミング

臨床薬物相互作用試験において、被験薬が薬物代謝酵素の相互作用薬の場合には、被験薬の反復投与による定常状態での相互作用を検討することが望ましい。特にin vitro試験において時間依存的阻害(TDI)が認められた被験薬及び酵素誘導を起こす可能性のある被験薬は、少なくとも数日間の前投与が必要である。このとき、安全性に配慮した上で投与量又は投与間隔を調整し、目標となる定常状態の薬物濃度に短期間で到達させることを考慮する。一方、TDI及び酵素誘導等の可能性のない相互作用薬、又は臨床において単回投与で用いられる薬物の場合には、単回投与による検討も可能である。一般に、被相互作用薬は単回投与により臨床薬物相互作用試験を実施できる。なお、TDI又は誘導等で薬物代謝酵素の活性が長期的に変動する可能性のある相互作用の場合で、臨床的に問題となる際には、併用投与期の後に被相互作用薬の単独投与期を含むクロスオーバー試験により、相互作用薬を休薬した後の回復性を評価することが推奨される。相互作用薬の消化管吸収が胃内pHによる影響を受けることが予想される場合には、吸収過程での相互作用を分離して代謝過程への影響を正確に評価するため、例えば相互作用薬と胃酸分泌抑制剤による相互作用情報等から、あらかじめ影響の程度についても把握することが有用である。

被相互作用薬と相互作用薬の投与のタイミングが両薬物間の相互作用に及ぼす影響についても留意する。臨床薬物相互作用試験では、薬物相互作用の可能性を最大化するタイミングで投与することが望ましいが、被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある。薬物相互作用の大部分が初回通過中に生じる場合には、両薬物の投与の間隔を空けることにより、薬物相互作用の程度は低下する可能性があるが、異なる時点で投与した場合に最も顕著な薬物相互作用が生じる場合もある。

7.6 薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬の選択

7.6.1 P450の阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験

被験薬のP450による代謝が阻害される可能性を評価する場合は、in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて、被験薬の代謝経路に関与する薬物代謝酵素の阻害薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する。阻害薬を選択する際には、阻害の程度を考慮する。阻害の程度は、臨床薬物相互作用試験において、阻害薬が、相互作用を受けやすい基質を経口投与したときの当該基質のAUCに及ぼす影響の程度に応じて、AUCを5倍以上に上昇(CL/Fが1/5以下に減少)させると考えられる阻害薬を「強い阻害薬」、同2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5から1/2以下に減少)させると考えられる阻害薬を「中程度の阻害薬」、同1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/2から1/1.25以下に減少)させると考えられる阻害薬を「弱い阻害薬」とみなす。臨床薬物相互作用試験で用いる阻害薬の選択にあたっては、被験薬の消失に関与する薬物代謝酵素の強い阻害薬を使用することが望ましく、P450のin vivo阻害薬(指標薬、11.3項の表1―5参照)による臨床薬物相互作用試験の実施が推奨されるが、被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある。安全性の観点から強い阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験の実施が困難な場合は、被験者の安全性に留意しながら中程度以下の強さの阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験を実施し、その影響を検討する。強い阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験の結果から、用量調整を考慮する必要性が示唆された場合は、臨床的に併用される可能性を考慮して、同じ薬物代謝酵素に対する他の阻害薬の作用についても臨床薬物相互作用試験で検討すべきである。臨床薬物相互作用試験で検討した阻害薬以外の阻害薬については、必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験、あるいはモデリング&シミュレーションにより評価することも可能である。

被験薬の主要な薬物代謝酵素が11.3項の表1―5に記載されていない場合、治療域を超える血中濃度での安全性及び被験薬の消失全体に対する当該代謝経路の寄与の程度を考慮し、併用投与されることの多い薬物を用いて、当該酵素に及ぼす阻害作用を検討する。

7.6.2 P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーターの阻害薬を用いた臨床薬物相互作用試験

被験薬がP450以外の薬物代謝酵素により代謝あるいはトランスポーターで輸送され、臨床においてそれらの阻害による薬物相互作用を生じる懸念がある場合、当該酵素あるいはトランスポーターに対する既知の阻害薬の有無等を考慮した上で、臨床薬物相互作用試験の実施可能性を検討することが推奨される。臨床薬物相互作用試験を実施する場合、P450により代謝される薬物の場合と同様の手順に沿って評価する。

7.7 薬物代謝酵素の誘導薬の選択

被験薬のP450による代謝が誘導される可能性を評価する場合は、in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて、被験薬の代謝経路に関与する薬物代謝酵素の誘導薬を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する。誘導薬を選択する際には、誘導の程度を考慮する。誘導の程度は、臨床薬物相互作用試験において、誘導薬が、相互作用を受けやすい基質を経口投与したときの当該基質のAUCに及ぼす影響の程度に応じて、AUCを1/5以下に減少(CL/Fが5倍以上に上昇)させると考えられる誘導薬を「強い誘導薬」、同1/5から1/2以下に減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「中程度の誘導薬」、同1/2から1/1.25以下に減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)させると考えられる誘導薬を「弱い誘導薬」とみなす。臨床薬物相互作用試験で用いる誘導薬の選択にあたって、相互作用の最大効果を評価するために作用の強い誘導薬の使用が望ましく、P450のin vivo誘導薬(指標薬、11.3項の表1―6参照)による臨床薬物相互作用試験の実施が推奨されるが、被験者の安全性に最大限に配慮する必要がある。臨床薬物相互作用試験で検討した誘導薬以外の誘導薬については、必要に応じて第Ⅱ相又は第Ⅲ相臨床試験又はモデリング&シミュレーションにより評価することも可能である。適応疾患及び用法の観点から、特定の酵素誘導薬との併用投与が必要となる被験薬の場合には、被験者の安全性に最大限配慮した上で、適切な治療法を確立するために当該誘導薬との臨床薬物相互作用試験の実施が推奨される。

7.8 薬物代謝酵素及びトランスポーターの基質の選択

被験薬がP450による代謝を阻害又は誘導する可能性について評価する場合は、in vitro試験又は臨床薬物動態試験の結果に基づいて、被験薬が影響を与える基質を選択して臨床薬物相互作用試験を実施する。被験薬が薬物代謝酵素(又はトランスポーター)を阻害又は誘導するか否かを臨床薬物相互作用試験で調べるためには、消失全体に対する薬物代謝酵素(又はトランスポーター)の寄与が大きく(薬物動態学的相互作用を受けやすい基質)、当該経路に選択性の優れていることが確立している指標薬又は典型基質(11.3項の表1―4又は表2―3)との臨床薬物相互作用試験を実施する。臨床薬物相互作用試験において、被験薬が指標薬又は薬物動態学的相互作用を受けやすい基質の代謝(又は輸送)を阻害又は誘導することが確認された場合、製造販売後に併用される可能性が高い当該酵素(又はトランスポーター)の基質を用いて、臨床薬物相互作用試験を追加することを考慮する(11.2項の図1―2、図1―3及び4.1項参照)。

7.9 臨床薬物相互作用試験による評価におけるその他の注意事項

7.9.1 単代謝酵素薬物と多代謝酵素薬物

1つの薬物代謝酵素によってのみ代謝される薬物(単代謝酵素薬物)においては、関与する酵素が阻害されると、薬物の生体内濃度が著しく高くなる。一方、複数の薬物代謝酵素により代謝される薬物(多代謝酵素薬物)では、主たる酵素が阻害されても、他酵素(代替酵素)による代謝により薬物の生体内濃度の上昇の程度が少ない。臨床での薬物相互作用の予測を行うためには、被験薬の消失に占める薬物代謝酵素の相対的寄与率の適切な予測が重要である。これらの相互作用の程度を予測するためには、適切にデザインされた臨床薬物相互作用試験結果の解析とあわせて、モデリング&シミュレーションによる検討が有用と考えられる。

7.9.2 薬物代謝酵素とトランスポーターの両方が関与する薬物相互作用

薬物代謝酵素とトランスポーターの基質特異性が重複していることが原因で、薬物相互作用に複数の機序が関与する場合(complex drug-drug interaction)がある。代表例としては、CYP3AとP―gpの基質特異性の重複が挙げられる。薬物相互作用の検討方法としては、CYP3A及びP―gpの双方に阻害作用を示すイトラコナゾール等の阻害薬を用いて試験を実施するが、薬物相互作用があることが明らかとなった場合でも、AUCを変化させる原因がいずれの分子であるかを特定することはできず、試験結果の解釈には注意が必要である。

また、被験薬が相互作用薬となり、複数の酵素及びトランスポーターを阻害又は誘導する場合や、特定の酵素及びトランスポーターを阻害すると同時に、別の酵素及びトランスポーターを誘導する場合も想定される。さらには、複数の薬物を同時併用することで、薬物代謝酵素とトランスポーターの両者が阻害される場合には、より複雑かつ重大な影響が現れる可能性がある。

7.9.3 カクテル基質試験

数種類の薬物代謝酵素及びトランスポーターに対する被験薬の作用を、1回の臨床薬物相互作用試験で検討するためにカクテル基質試験を利用することができる。カクテル基質試験を適切にデザインすれば、阻害作用(可逆的阻害又はTDI)及び誘導作用の双方を検討することが可能である。カクテル基質試験で使用する基質は、評価対象の各酵素(及びトランスポーター)の指標薬又は相互作用を受けやすい基質から構成されている必要がある。用いた指標薬又は基質毎にAUCに対する被験薬の影響を算出する。適切に実施されたカクテル基質試験の結果、薬物相互作用がないと判断された場合(7.2項参照)は、該当する酵素やトランスポーターについてさらに評価を行う必要はないが、臨床的に問題となる可能性がある薬物相互作用があると判断された場合には、当該経路の阻害又は誘導による薬物動態学的相互作用を受けやすい基質(11.3項の表1―4参照)又は典型基質(11.3項の表2―3参照)単剤を用いた臨床薬物相互作用試験を実施する。

7.9.4 母集団薬物動態試験法による薬物相互作用の検討

第Ⅱ又はⅢ相臨床試験において併用薬の情報を収集し、母集団薬物動態解析を利用して薬物相互作用の検討を行えるように試験を計画することにより、独立した臨床薬物相互作用試験で検討されなかった薬物相互作用を検討できる場合がある。そのためには、当該臨床試験における測定試料及び採取のタイミング等は適切に設定することが重要である。

7.9.5 特別な背景を有する被験者についての考慮

7.9.5.1 遺伝子多型を考慮した薬物相互作用の検討

被験者の遺伝子型により、特定の薬物代謝酵素又はトランスポーターにおける薬物相互作用の程度(阻害又は誘導)が異なることがある。主要な消失経路(薬物代謝酵素又はトランスポーター)の活性が欠損又は低下している被験者では、一般に薬物の血中濃度は高く、代替経路の代謝又は排泄を阻害する薬物と併用された場合には、さらに血中濃度が高くなり、安全性上の問題を生じる可能性がある。

遺伝子多型が薬物動態に大きな影響を与える薬物代謝酵素とトランスポーターの分子種としては、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、UGT1A1、OATP1B1、BCRP等がある。これら薬物代謝酵素やトランスポーターが主要消失経路である被験薬は、臨床薬物相互作用試験を行う前に遺伝子多型解析を実施することが有用である。

遺伝子多型の種類及び頻度も考慮する必要がある。特に東アジア人で活性欠損者の頻度が高いCYP2C19及び活性が大きく低下する遺伝子多型が知られているCYP2D6が主要な消失経路である被験薬については、これらP450分子種の特性を念頭に臨床薬物相互作用試験を実施する必要がある。

7.9.5.2 被験薬が主として特別な背景を有する又は特定の疾患を有する患者に適応される場合

被験薬が幼小児や高齢者に対する治療薬である場合、又は腎機能や肝機能が低下した患者に投与されることが十分想定される場合、薬物相互作用の検討方法として、母集団薬物動態試験法やPBPKモデル等による評価も可能である。また、モデリング&シミュレーションによる検討の際には最大限に影響があるケースを想定する等、これら集団において臨床上問題となる薬物相互作用を見逃さないよう注意する。

7.9.5.3 健康志願者を試験対象としない場合

臨床薬物相互作用試験は、通常、健康志願者を対象として実施され、その結果を踏まえて適応患者における薬物相互作用の考察を行う場合が多い。健康志願者での実施が困難で、適応患者を対象に薬物相互試験が実施される場合には、試験期間、用量、採血スケジュール等の試験デザイン上の制約が多くなるため、患者の個体間差を十分に考慮するとともにモデリング&シミュレーションを適用し適宜情報を補うことも有用である。

8.薬物相互作用に関する情報提供と注意喚起について基本となる考え方

医薬品開発の過程で得られた被験薬の薬物動態情報及び薬物相互作用試験の情報は、添付文書やその他の手段を通じて医療現場に提供されることにより、医薬品の適正使用のために有用な情報となる。情報提供や注意喚起の内容を判断する際には、薬物動態の変動が治療効果や副作用発現に影響するか否かという観点から検討する。薬物動態学的な相互作用に関する情報を添付文書に反映させる際の基本となる考え方は、以下のとおりである。

8.1 使用上の注意への記載

他の医薬品を併用することにより、被験薬又は併用薬の薬理作用の増強又は減弱、既知の副作用の増強、新たな副作用の発現又は原疾患の増悪等が生じるおそれがあり、臨床使用において注意を要する場合に記載する。相互作用が併用による薬物動態の変動に起因する場合は、薬物動態(AUC、Cmax等)の変動の程度に基づき、活性本体の用量反応や曝露―応答関係等を踏まえて注意喚起の要否を検討する。措置分類として、「併用禁忌(併用しないこと)」又は「併用注意(併用に注意すること)」がある。重篤な副作用が発現する可能性が高いほどに薬物動態の変動が大きく、それが当該薬に期待される治療効果の臨床的有用性を大きく上回る場合には、「併用禁忌」とすることを検討する。当該薬による治療効果の臨床的有用性は認められるが、薬物動態の変動が承認用法・用量の範囲で想定される曝露の範囲を逸脱する可能性があり、患者を危険にさらし重篤な結果に至らぬように処置を必要とするような場合は、その程度に応じて「併用禁忌」又は「併用注意」とする。

「相互作用」の項には、臨床使用において注意を要する相互作用に関連する薬物動態特性の概要として、被験薬の代謝に関わる酵素分子種とその寄与割合の目安、阻害及び誘導作用、吸収、分布並びに排泄における薬物輸送機序等を冒頭に簡潔に記載する。当該記載にあたっては、原則、臨床薬物動態情報に基づき記載するが、in vitro試験成績であっても臨床使用において注意を要する特性が示された場合には、必要に応じて記載する。被験薬がP450を介して薬物動態学的相互作用を与える場合(阻害薬、誘導薬)、必要に応じて阻害や誘導の強度(7.6項、7.7項参照)も明記する。併用薬に関する注意喚起は、可能な限り表等の分かりやすい形式とし、相互作用の種類(機序等)に基づき項を分ける。薬物動態学的な相互作用の場合は、「薬剤名等」の記載欄に一般的名称と必要に応じて代謝酵素等の情報を記載する。薬力学的な相互作用の場合には「薬剤名等」の記載欄に薬効群と必要に応じて一般的名称を記載する。

薬物相互作用による影響を回避するための注意事項があれば、「臨床症状・措置方法」に記載し、薬物相互作用を生じる機序や併用により安全性上の懸念が生じる可能性のある危険因子等は「機序・危険因子」に記載する。相互作用の機序が不明な場合には、機序が不明である旨を記載する。

相互作用により、当該被験薬の用法・用量の調節が必要な場合には、「用法及び用量に関連する注意」の項において、実施した臨床薬物相互作用試験等における定量的な情報に基づき用法・用量の調節方法を具体的に記載する。

生物薬品や飲食物等との相互作用についても、重要なものについては同様な考え方で判断する。

同種同効薬において、薬物動態学的相互作用により臨床上注意を要する明白な副作用が生じており、当該被験薬について、臨床薬物相互作用試験は実施していないものの同一の薬物動態の機序に起因して、併用薬との間に薬物動態変化が生ずる蓋然性が適切なモデリング&シミュレーション等により示された場合には、臨床での併用の可能性等も考慮した上で、注意喚起の記載を検討する。この考え方は薬物動態の変化を注意喚起の指標として用いるが、注意喚起の程度及び内容の判断は、あくまで有効性及び安全性、対処法等の臨床的要因を考慮して決定する。また、注意喚起にあたってはモデリング&シミュレーションを活用したことが明確になるよう留意する。

8.2 「薬剤名等」の欄への記載

「併用禁忌」の注意喚起は、併用禁忌とする全ての薬剤の一般的名称とそれぞれの代表的な販売名を併記して注意喚起を行う。一方、「併用注意」の注意喚起は、併用薬剤の一般的名称を明記して注意喚起を行う。CYP3Aが関わる薬物相互作用は、注意喚起が必要な併用薬が多数となることに加えて、それぞれに必要な注意喚起の程度は併用薬の薬効だけではなく薬物動態特性によっても異なる場合が多い。CYP3Aを阻害又は誘導する薬剤の添付文書に関しては、「相互作用」の冒頭に阻害又は誘導の強度分類を明記し、「併用注意」の「薬剤名等」の記載欄に記載する薬剤(CYP3Aにより代謝を受ける薬剤)は、臨床での併用の可能性等も考慮した上で、注意が必要と考えられる代表的な併用薬剤の一般的名称を三剤程度列挙する。また、CYP3Aの阻害又は誘導により影響を受ける薬剤の添付文書に関しては、「相互作用」の冒頭にCYP3Aで主に代謝される旨を記載し、「薬剤名等」の記載欄に記載する薬剤(CYP3Aを阻害又は誘導する薬剤)は、CYP3Aの阻害又は誘導の強度分類とともに、臨床での併用の可能性等も考慮した上で、注意が必要と考えられる代表的な併用薬剤の一般的名称を三剤程度列挙する。CYP3A以外のP450分子種による薬物相互作用においても、関与するP450分子種を記載して注意喚起を行うことができるが、阻害又は誘導の強度分類については特に記載が必要な場合のみ記載する。P450以外の薬物代謝酵素及びトランスポーター等による薬物相互作用の注意喚起においては、原則、併用薬剤の一般的名称のみを明記して注意喚起を行うが、他に臨床使用において注意を要する薬剤がある場合には、関与する代謝酵素及びトランスポーター名を必要に応じて記載する。

8.3 「薬物動態」の項への記載

「薬物動態」の項には、ヒトにおける被験薬の薬物動態学的特徴が把握できるよう基本的な薬物動態パラメータと相互作用の機序に関連する事項とその根拠となるin vivoやin vitro試験成績を記載する。薬物動態学的特徴を把握するためには、全身クリアランス、分布容積、絶対バイオアベイラビリティ、尿中排泄率等の薬物動態パラメータが重要であり、経口投与を目的とした開発においても、静脈内投与によりデータを得ている場合は、必要に応じて吸収や排泄等の該当する項目に記載する。また、相互作用の機序に関連する事項として、主要消失経路とそれに関わる薬物代謝酵素等とその寄与の程度に関する定量的な情報、薬物代謝酵素の阻害及び誘導並びに吸収、分布及び排泄における薬物輸送機序等を、代謝や排泄等の該当する項目に記載する。データの情報提供を行う際には、in vitro試験又は臨床薬物相互作用試験によるものか、実測データかシミュレーション等で得られた推定値なのか、明確に区別して記載する。実施した臨床薬物相互作用試験は、使用上の注意において注意喚起されている相互作用について「薬物動態」の項において適切に情報提供する。必要に応じて、相互作用の機序・危険因子について、in vitro試験等のデータを補足する。臨床薬物相互作用試験の結果を記載する場合は、相互作用の程度が定量的に判断できるよう、試験で用いた用法・用量等の情報とともに薬物動態の変化を情報提供する。試験成績の表示は、記述、表又は図を利用しAUC又はCmax等の変化を定量的かつ簡潔に記載する。試験デザインや詳細なデータは添付文書以外の資材を活用して情報提供する。いずれの情報提供についても、添付文書中で文献を引用する等して根拠を明確にする。なお、使用上の注意において注意喚起されていない薬物相互作用については、併用される可能性の高い場合等、特に重要な場合に限り記載する。

9.関連するガイドライン等

本ガイドラインは、薬物相互作用の検討及び注意喚起に関する一般的原則を示したものである。既に公表されているガイドライン等にも薬物相互作用の検討に関する記述が含まれているが、本ガイドラインはそれらの内容を整理するとともに、現時点での最新の知見及び考え方を組み込んだものである。個別の被験薬にかかる検討においては、必要に応じて既に公表されているガイドライン等(以下の「参考」)の記載も参考にすること。

[参考]

ICHガイドライン

1) 平成7年3月20日付 薬審第227号 治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて(ICHE2Aガイドライン)

2) 平成17年3月28日付 薬食安発0328007号 承認後の安全性情報の取扱い:緊急報告のための用語の定義と報告の基準について(ICHE2Dガイドライン)

3) 平成17年9月16日付 薬食審査発第0916001号、薬食安発第0916001号 医薬品安全性監視の計画について(ICHE2Eガイドライン)

4) 平成8年5月1日付 薬審第335号 治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて(ICHE3ガイドライン)、平成24年10月18日付 事務連絡 「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)について

5) 平成6年7月25日付 薬審第494号 「新医薬品の承認に必要な用量―反応関係の検討のための指針」について(ICHE4ガイドライン)

6) 平成10年8月11日付 医薬発第739号 外国で実施された医薬品の臨床試験データの取扱いについて、同日付 医薬審第672号 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(ICHE5ガイドライン)、平成16年2月25日 事務連絡 「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」に関するQ&Aについて、平成18年10月5日付 事務連絡 「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針」に関するQ&Aについて(その2)

7) 平成9年3月27日付 厚生省令第28号 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令、同日付 薬発第430号 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について(通知)(ICHE6ガイドライン)

8) 平成5年12月2日付 薬新薬第104号 「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」について(ICHE7ガイドライン)、平成22年9月17日付 事務連絡 「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」に関する質疑応答集(Q&A)について

9) 平成10年4月21日付 医薬審第380号 臨床試験の一般指針(ICHE8ガイドライン)

10) 平成12年12月15日付 医薬審第1334号 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて(ICHE11ガイドライン)、平成13年6月22日付 事務連絡 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスに関する質疑応答集(Q&A)について

11) 平成29年12月27日付 薬生薬審発1227第5号 小児集団における医薬品開発の臨床試験に関するガイダンスの補遺について(ICH E11(R1)ガイドライン)

12) 平成20年1月9日付 薬食審査発第0109013号、薬食安発第0109002号 ゲノム薬理学における用語集について(ICHE15ガイドライン)

13) 平成23年1月20日付 薬食審査発第0120第1号、薬食安発第0120第1号 医薬品またはバイオテクノロジー応用医薬品の開発におけるバイオマーカー:適格性確認のための資料における用法の記載要領、資料の構成及び様式(ICHE16ガイドライン)

14) 平成30年1月18日付 薬生薬審発0118第1号 ゲノム試料の収集及びゲノムデータの取扱いに関するガイドラインについて(ICHE18ガイドライン)

15) 平成22年2月19日付 薬食審査発0219第4号 「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」について(ICH M3(R2)ガイドライン)、平成24年8月16日付 事務連絡 「医薬品の臨床試験及び製造販売承認申請のための非臨床安全性試験の実施についてのガイダンス」に関する質疑応答集(Q&A)について

その他の通知等

(薬物動態関連)

1) 昭和63年3月11日付 薬審1第5号 徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドラインについて

2) 平成10年6月26日付 医薬審第496号 非臨床薬物動態試験ガイドラインについて

3) 平成13年6月1日付 医薬審発第796号 医薬品の臨床薬物動態試験について

4) 平成20年6月3日付 薬食審査発第0603001号 マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス

5) 平成20年9月30日付 薬食審査発第0930007号 ゲノム薬理学を利用した治験について

6) 平成24年2月29日付 薬食審査発0229第10号 後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン等の一部改正について、同日付 事務連絡 「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について」等の改正等について

7) 平成25年7月11日付 薬食審査発0711第1号 「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法のバリデーションに関するガイドライン」について

8) 平成26年1月10日付 薬食審査発0110第1号 ブロック共重合体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレクションペーパーの公表等について、同日付 事務連絡 ブロック共重合体ミセル医薬品の開発に関する厚生労働省/欧州医薬品庁の共同リフレクションペーパー質疑応答集について

9) 平成26年4月1日 薬食審査発0401第1号 「医薬品開発における生体試料中薬物濃度分析法(リガンド結合法)のバリデーションに関するガイドライン」について

10) 医薬品の臨床薬物動態試験 ―臨床薬物動態試験・薬物相互作用検討方法;通知解説― 株式会社じほう、平成15年1月15日発行

(添付文書関連)

1) 平成29年6月8日付 薬生発0608第1号 医療用医薬品の添付文書等の記載要領について

2) 平成29年6月8日付 薬生安発0608第1号 医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項について

海外のガイダンス等

1) FDA:Guidance for Industry Food-Effect Bioavailability and Fed Bioequivalence Studies (2002,12)

2) EMA:Guideline on the use of pharmacogenetic methodologies in the pharmacokinetic evaluation of medicinal products (2012,8)

3) EMA:Guideline on the investigation of drug interactions (2013,1)

4) FDA:Guidance for Industry Clinical Pharmacogenomics:Premarket Evaluation in Early-Phase Clinical Studies and Recommendations for Labeling (2013,1)

5) FDA:Guidance for Industry In Vitro Metabolism and Transporter Mediated Drug-Drug Interaction Studies DRAFT GUIDANCE (2017,10)

6) FDA:Guidance for Industry Clinical Drug Interaction Studies-Study Design, Data Analysis, and Clinical Implications DRAFT GUIDANCE (2017,10)

10.用語一覧

1) 基質:一般に代謝を受ける薬物あるいはトランスポーターにより輸送される薬物。

2) 分布容積:分布容積が小さいとは、ほぼ細胞外液量あるいはそれ以下の値(ヒトで約0.25L/kg以下)、分布容積が大きいとはヒトで約0.8L/kg以上とする。

3) 併用薬:複数の薬物を使用する場合、それぞれを広義の併用薬と呼ぶ。なお、狭義の意味では、基礎療法に用いられている薬物にさらに追加して使用される薬物を併用薬と呼ぶ。

4) 相互作用薬:薬物動態学的相互作用においては、併用することにより、他の薬物の薬物動態に影響を与える薬物。例えば代謝に関しては、薬物代謝酵素を阻害するものと誘導するものがある。

5) 被相互作用薬:薬物動態学的相互作用においては、併用薬物により、その薬物動態が影響を受ける薬物。例えば代謝に関しては、薬物代謝酵素が阻害されその薬物の代謝が低下するものと酵素誘導により代謝が亢進するものがある。

6) 被験薬:併用薬に薬物相互作用を与えるか、又は併用薬から影響を受けるかについての可能性が検討される医薬品あるいは開発中の薬物。

7) 指標薬:薬物動態に関与する酵素等に対する特異性が高いことが複数の臨床試験で確認されており、薬物動態の変動を示す指標となる薬物。定量が可能な薬物で、臨床試験で使用される薬物の場合は安全性が高い必要がある。

8) 単代謝酵素薬物:主として一つの薬物代謝酵素により代謝される薬物。当該酵素の活性変動による薬物相互作用を受けた場合に総代謝クリアランスの変動が大きく、その場合のリスクが高い。

9) 多代謝酵素薬物:複数の薬物代謝酵素により代謝される薬物。一般に、薬物相互作用による酵素活性が変動を受けた場合に総代謝クリアランスの変動が小さく、よりリスクが低い。

10) トランスポーター:生体膜を貫通し、薬物を細胞の内外へ輸送する担体。

11) 選択的阻害薬、選択的基質:特定の酵素等に対してのみ、比較的強い阻害作用を有する薬物、又は比較的選択的に代謝又は輸送を受ける薬物。

12) 典型阻害薬、典型基質(11.3項の表2―1、表2―2):典型阻害薬は、複数の薬物代謝酵素又はトランスポーターを阻害する場合があり、典型基質は複数の薬物代謝酵素又はトランスポーターの基質となる場合があるため、必ずしも選択的阻害薬又は選択的基質とはならない。

13) 強い阻害薬、中程度の阻害薬、弱い阻害薬:「相互作用を受けやすい基質」のAUCを、5倍以上に上昇(CL/Fが1/5以下に減少)させると考えられる医薬品等を「強い阻害薬」、2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5から1/2以下に減少)させると考えられる医薬品等を「中程度の阻害薬」、1.25倍以上2倍未満に上昇(CL/Fが1/2から1/1.25以下に減少)させると考えられる医薬品等を「弱い阻害薬」とみなす(7.6項の記載を参照)。

14) 強い誘導薬、中程度の誘導薬、弱い誘導薬:「相互作用を受けやすい基質」のAUCを1/5以下に減少(CL/Fが5倍以上に上昇)させると考えられる医薬品等を「強い誘導薬」、1/5から1/2以下に減少(CL/Fが2倍以上5倍未満に上昇)させると考えられる医薬品等を「中程度の誘導薬」、1/2から1/1.25以下に減少(CL/Fが1.25倍以上2倍未満に上昇)させると考えられる医薬品等を「弱い誘導薬」とみなす(7.7項の記載を参照)。

15) 相互作用を受けやすい基質、相互作用の受けやすさが中程度の基質:「強い阻害薬」の併用によりAUCが5倍以上に上昇(CL/Fが1/5以下に減少)する基質を「薬物動態学的相互作用を受けやすい基質」、「強い阻害薬」との併用によりAUCが2倍以上5倍未満に上昇(CL/Fが1/5から1/2以下に減少)する基質を「薬物動態学的相互作用の受けやすさが中程度の基質」とみなす(7.8項の記載を参照)。

11.付録

11.1 図表一覧

【図】

薬物代謝酵素

図1―1.被験薬が相互作用を受ける可能性の検討(被験薬の代謝に関与する酵素の同定)

図1―2.被験薬が薬物代謝酵素を阻害する可能性の検討

図1―3.被験薬が薬物代謝酵素を誘導する可能性の検討

トランスポーター

図2―1.被験薬がトランスポーターの基質となる可能性の検討

図2―2.被験薬がP―gp及びBCRPの基質となる可能性の検討

図2―3.被験薬がP―gp及びBCRPの阻害薬となる可能性の検討

図2―4.被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質となる可能性の検討

図2―5.被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の阻害薬となる可能性の検討

図2―6.被験薬がOAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの基質となる可能性の検討

図2―7.被験薬がOAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの阻害薬となる可能性の検討

【表】

薬物代謝酵素

表1―1.P450のin vitro酵素反応の代表例

表1―2.P450のin vitro阻害薬の代表例

表1―3.P450のin vitro誘導薬の代表例

表1―4.P450のin vivo基質(指標薬)の代表例

表1―5.P450のin vivo阻害薬(指標薬)の代表例

表1―6.P450のin vivo誘導薬(指標薬)の代表例

トランスポーター

表2―1.トランスポーターのin vitro典型基質の代表例

表2―2.トランスポーターのin vitro典型阻害薬の代表例

表2―3.トランスポーターのin vivo典型基質の代表例

表2―4.トランスポーターのin vivo典型阻害薬の代表例

11.2 決定樹

図1―1.被験薬が相互作用を受ける可能性の検討(被験薬の代謝に関与する酵素の同定)

a) 対象とする薬物代謝酵素は、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)とする。ただし、主要なP450分子種の寄与が小さい場合、他のP450分子種(例:CYP2A6、CYP2E1、CYP2J2、CYP4F2)、P450以外の第Ⅰ相酵素(例:MAO、FMO、XO、AO、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素等)や第Ⅱ相酵素(主にUGTで代謝される場合)についても検討する。

b) 被験薬の主要な代謝物についても、以下の場合には同様に検討する。被験薬がプロドラッグで作用の本体が活性代謝物である場合、あるいは薬理活性を有する代謝物を生成し、そのin vitro活性と非結合形薬物のAUCに基づいて推定されたin vivoにおける薬理作用が全体の作用の50%以上を占める場合、又は有害な作用を引き起こすと疑われる場合は、当該代謝物の主要生成経路及び消失経路に寄与する酵素を特定し、未変化体と同様に相互作用を受ける可能性を検討する。

c) 被験薬との併用可能性を考慮して選択する。誘導薬との臨床薬物相互作用試験は、阻害薬との臨床薬物相互作用試験の結果から、モデリング&シミュレーション(例えば、PBPKモデルの妥当性が確認され臨床試験の結果を矛盾なく説明できる場合)等により臨床的に問題となる薬物相互作用が生じるリスクがあると判断された場合には必要となる。

図1―2.被験薬が薬物代謝酵素を阻害する可能性の検討

a) 対象とする薬物代謝酵素は、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)、UGT1A1、UGT2B7、その他P450以外は被験薬及び併用薬の主要消失経路に関与する薬物代謝酵素が対象。

50×Cmax(非結合形)又は0.1×投与量/250mLを含む濃度設定とする。

P450については、時間依存的阻害の有無についても検討する。

In vitro代謝試験は、ヒト肝ミクロソーム、ヒト肝細胞、評価対象の酵素の発現系ミクロソーム等を用いて実施する。

b) 主要な代謝物による酵素阻害作用について:未変化体より極性が低い代謝物についてはAUCが未変化体の25%以上を占める場合、未変化体より極性が高い代謝物についてはAUCが未変化体の100%以上を占める場合、時間依存的阻害(TDI)を起こす可能性が高い化学構造を有する代謝物についてはAUCが未変化体の25%以上かつ薬物関連物質の総AUCの10%以上を占める場合に、代謝物による酵素阻害作用についても検討することが望ましい。

代謝物の阻害作用においても、代謝物の50×Cmax(非結合形)を含む濃度設定とし、未変化体と同様に検討する。

c) 反応液中での被験薬の代謝が速い場合には、被験薬の濃度低下を最小限に抑えるため、被験薬と比較して十分に代謝が速い指標薬を使用してKi(阻害定数:酵素―阻害薬複合体からの阻害薬の解離定数)の評価を行う。表1―1に、in vitroにおけるP450のマーカー反応を示す。In vitro代謝試験で使用する基質の濃度は文献を参照し、通常、Km値付近かそれ以下とする。

設定する被験薬の濃度範囲は、予想される酵素阻害部位(肝臓、小腸)、投与方法、剤形、薬物動態パラメータ(Cmax又はAUC)に応じて設定するが、通常は、50×Cmax(非結合形)又は0.1×投与量/250mLを含む濃度設定とし、濃度依存的な阻害が認められた場合にはKi値を算出する。In vitro代謝試験において、プレインキュベーションにより阻害作用が増強する場合は、TDIがあると判断し、kinact値(最大不活性化速度定数)及びKI値(最大不活性化速度の50%の速度をもたらす阻害薬の濃度)を推定する。反応系における被験薬の非結合形濃度が総濃度よりも顕著に低いと予想される場合、反応液中の非結合形濃度の推定値又は実測値を使用する。これは、被験薬が試験管壁に著しく吸着する可能性がある場合等にも当てはまる。

In vitro指標薬(阻害薬、表1―2)を使用して陽性対照実験を行い、同様の方法で評価された阻害パラメータ(可逆的阻害:Ki、TDI:KI、kinact)の文献値と比較し、試験系の妥当性を確認する。

d) 可逆的阻害の場合、R値は、in vitro阻害定数(Ki)及び臨床最大用量を投与したときにin vivoで達成される阻害薬(被験薬又は代謝物)の最高濃度[I]により式1に従って決定される。

式1

R=1+[I]/Ki

[I]:Cmax(非結合形濃度)、あるいは、[I]g:投与量/250mL

[I]として、阻害薬の全身血中Cmaxの非結合形濃度を用い、R値のカットオフ基準は、1.02を使用する。Ki値の算出を行う場合には、必要に応じて、ミクロソーム等への結合率を推定又は実測する等して非結合形濃度基準のKi値に補正する。血中蛋白結合率が99%以上の場合は、原則、非結合率は1%とする。経口投与薬の場合は、消化管で高発現するP450(例:CYP3A)を阻害する可能性に留意すべきであり、消化管内の最高濃度[I]gとして投与量/250mLを用いる方が全身血中濃度よりも阻害薬の最高濃度を適切に反映する可能性がある。[I]gを用いる場合、代替R値(R=1+[I]g/Ki)のカットオフ基準は11を使用する。

e) 時間依存的阻害(time-dependent inhibition:TDI)

In vitroでの標準的なTDI評価方法では、基質を添加する前に被験薬を試験系でプレインキュベートする。基質の代謝物の生成率が時間依存的に低下する場合は、in vitro試験でTDIのパラメータ(kinact及びKI)を算出する。TDIのR値は、阻害薬の濃度及びTDIのパラメータ(kinact及びKI)に加えて、酵素分解の速度定数(kdeg)にも左右される(式2)。(R値のカットオフ基準は、1.25を使用する)

式2

R=(kobs+kdeg)/kdeg、ただし、kobs=kinact×50×[I]/(KI+50×[I])、消化管におけるCYP3Aの場合、kobs=kinact×0.1×[I]g/(KI+0.1×[I]g)

[I]:Cmax(非結合形濃度)、あるいは、[I]g:投与量/250mL

KI:最大不活性化速度の50%の速度をもたらす阻害薬の濃度

kdeg:酵素の分解速度定数、kinact:最大不活性化速度定数、kobs:見かけの不活性化速度定数

f) モデルによる予測の精度が十分でないと考えられる場合には、直接、臨床薬物相互作用試験による評価に進んでもよい。

g) MSPKモデル

式3

式3のA、B、Cは、それぞれTDI、誘導、可逆的阻害を指し、下記の補足表に記載のとおりである。

Fgは薬物が消化管上皮細胞に吸収後、門脈血に到達する割合で、消化管上皮細胞内で代謝を受ける場合に小さくなる。fmは阻害(誘導)を受けるP450を介した基質の代謝固有クリアランスの、肝臓全ての代謝固有クリアランスに対する割合である。

式3(補足表)

時間依存的阻害(TDI)

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誘導

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可逆的阻害

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下付き文字の「h」及び「g」はそれぞれ肝臓及び消化管を指し、[I]h及び[I]gはそれぞれ肝細胞中及び消化管上皮細胞中の被験薬濃度を示す。dは対照データセットの線形回帰で同定した換算係数である。

図1―3.被験薬が薬物代謝酵素を誘導する可能性の検討

a) 対象とする薬物代謝酵素:CYP1A2、CYP2B6、CYP3A(CYP3A4及びCYP3A5)

必要に応じて、CYP2C9分子種等を追加。

50×Cmax(非結合形)又は0.1×投与量/250mLを含む濃度設定とする。

In vitro酵素誘導及びダウンレギュレーション試験では、初代培養肝細胞(新鮮又は凍結保存)を用い、評価項目としては、被験薬の酵素阻害作用により酵素誘導を見落とすことを避けるため、標的遺伝子のmRNAレベルの変化を用いることが推奨される。In vitro指標薬(誘導薬、表1―3)を使用して陽性対照実験を行い、試験系の妥当性を確認する。

検討対象の濃度範囲は、被験薬の薬物動態により異なり、in vivoの肝細胞で予測される最高濃度を含む3濃度以上で評価し誘導パラメータ(EC50及びEmax)を算出する。一般に、肝酵素に影響を及ぼす薬物に関しては、最大治療用量を投与したときの定常状態で得られる50×Cmax(非結合形)又は0.1×投与量/250mLを含む濃度設定とする。

b) mRNAレベルによる評価:対照(溶媒添加)と比較し、mRNAの増加が濃度依存的であり、mRNAの増加率が100%を超える場合には、in vitro試験での酵素誘導作用があるとみなす。観察された濃度依存的なmRNA増加が100%未満の場合は、そのmRNAの増加が陽性対照による反応の20%未満である場合に限り、in vitro試験での酵素誘導作用がないとみなすことができる。

c) Correlation法による評価:in vitro試験より得られたEC50及びEmaxを用いて、relative induction score(RIS)、Emax×[I]/(EC50+[I])又は[I]/EC50値を算出し、陽性又は陰性対照を使用した結果に基づき評価を行う。

[I]:Cmax(非結合形濃度)

EC50:最大効果の50%の効果をもたらす濃度、Emax:最大誘導作用

mRNAレベル及びCorrelation法による評価においては、既知の陽性対照及び陰性対照の薬物を用いて独自のカットオフ基準を設定することも可能であるが、その際は、十分な数の臨床的エビデンスのある誘導薬(陽性対照)及び非誘導薬(陰性対照)を使用した結果に基づき判断する必要がある。

d) R値の算出による評価(式4)

式4

R=1/(1+d×Emax×10×[I]/(EC50+10×[I]))

[I]:Cmax(非結合形濃度)

EC50:最大効果の50%の効果をもたらす濃度、Emax:最大誘導作用、d:換算係数

カットオフ基準に基づく評価ではd=1を用いる。Rが0.8以下の場合は、当該被験薬を酵素誘導薬と判断する。

e) モデルによる予測の正確さが十分でないと考えられる場合には、直接、臨床薬物相互作用試験による評価に進んでもよい。

f) 式3(図1―2、脚注g)を参照

図2―1.被験薬がトランスポーターの基質となる可能性の検討

a) 必要に応じて代謝物とトランスポーターの薬物相互作用についても検討することを考慮する。

b) 肝臓からの消失が重要となる被験薬(例:肝代謝又は未変化体の胆汁中排泄クリアランスが、総クリアランスの25%以上)については、肝取込みトランスポーターOATP1B1及びOATP1B3の基質かどうかについて検討する。胆汁中排泄クリアランスは、非臨床データ(in vitro肝細胞実験又は放射標識体によるin vivo ADME試験)及び腎外クリアランスのデータから推定できる。

c) 腎尿細管分泌が重要となる被験薬(腎分泌クリアランスが、総クリアランスの25%以上)については、OAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの基質かどうかをin vitro試験で検討する。腎分泌クリアランスの割合は、腎再吸収がないと仮定した場合、(CLr-fu×GFR)/CLtotalから推定可能である。(CLr:腎クリアランス、fu:血中蛋白非結合形薬物分率、GFR:糸球体ろ過速度、CLtotal:全身クリアランス)

図2―2.被験薬がP―gp及びBCRPの基質となる可能性の検討

a) P―gpやBCRPのような排出トランスポーターを介した輸送を評価する際には、薬物の頂端膜側(A)から基底膜側(B)への透過性を、反対方向(BからA)の透過性と比較し、BからAへの透過性とAからBへの透過性の比からEfflux ratio(=B to A/A to B ratio、ER)を算出する。発現細胞株を用いる場合は原則として、非発現細胞のERを用いて補正し、NetER(=(発現細胞のER)/(非発現細胞のER))を算出する。P―gp等トランスポーター遺伝子の発現細胞株等を用いる場合は、典型基質(表2―1)のNetER(Caco―2細胞の場合は、典型基質(表2―1)のER)を指標に輸送能を確認する。使用する細胞系でのこれまでの経験からNetERが2という値では結果を判断できないと考えられる場合は、2以外のNetERのカットオフ値か、又は陽性対照との相対比を使用してもよい。その場合は、陽性対照(表2―1)の検討結果に基づき、適切な値を設定する。

b) NetERが1付近になる、又は明らかに低下する。

c) P―gpは消化管吸収や尿細管分泌、中枢移行性に関与することから、消化管アベイラビリティ(FaFg)、尿細管分泌の有無、中枢毒性の懸念等を考慮し、臨床薬物相互作用試験の必要性を判断する。例えば、FaFg>80%であれば、消化管のP―gp阻害のみによっては、1.25倍以上のAUC上昇は起こらないと考えられる。なお、BCRP基質の場合は、in vivoでの機能低下を示唆する、日本人で比較的頻度の高い変異(c.421C>A)があり、基質の薬物動態の個人差の原因となり得ることから、本決定樹を用いてin vitro試験で基質となるか否かを検討しておくことが推奨される。試験方法はP―gp基質試験に準じる。典型基質を表2―1、典型阻害薬を表2―2に示す。但し、BCRP基質の場合、in vivoで使用可能な典型阻害薬(表2―4)を用いた臨床薬物相互作用試験を計画することは現時点で困難であることから、当面は、BCRPの基質であることを情報提供するのみにとどめる。

図2―3.被験薬がP―gp及びBCRPの阻害薬となる可能性の検討

a) P―gpやBCRPのような排出トランスポーターを介した輸送を評価する際には、薬物の頂端膜側(A)から基底膜側(B)への透過性を、反対方向(BからA)の透過性と比較し、BからAへの透過性とAからBへの透過性の比からEfflux ratio(=B to A/A to B ratio、ER)を算出する。発現細胞株を用いる場合は原則として、非発現細胞のERを用いて補正し、netER(=(発現細胞のER)/(非発現細胞のER))を算出する。P―gp等のトランスポーター遺伝子の発現細胞株等を用いる場合は、典型基質(表2―1)のnetER(Caco―2細胞の場合は、ER)を指標に輸送能を確認する。また、典型阻害薬の添加により、netERが、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に低下することを確認する。

b) In vitro阻害試験に用いる被験薬の検討濃度[I]は、被験薬の消化管上皮細胞の頂端膜側における管腔内での予測最高濃度(1回に投与される阻害薬の最大投与量/250mLをもとに設定する。IC50の算出にはERを指標とし、典型基質の濃度は、Kmに比べて十分低く設定する(表2―1)。発現細胞を用いた評価において、内因性トランスポーターの影響により、非発現細胞での補正が行えない場合には、発現細胞のみのERによる算出が許容できる場合もある。

c) In vivoでの典型基質は、表2―3を参考に選択する。

図2―4.被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の基質となる可能性の検討

a) 図2―1を参照

b) 受動拡散の寄与が大きく、OATP1B1及びOATP1B3による輸送がマスクされる場合も含まれる。

c) ヒト肝細胞はOATP1B1及びOATP1B3を介した輸送能が十分にあることをあらかじめ確認したものを用いる。典型基質(表2―1)の取込みが認められ、かつ典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害される場合、OATP1B1及びOATP1B3の基質であると判断する。

d) OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株を用いる場合は、典型基質(表2―1)の発現細胞への取込みが非発現細胞の2倍以上で、かつ典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値から理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する。その条件下で、被験薬について、上記の典型基質と同条件が満たされた場合、OATP1B1及びOATP1B3の基質であると判断する。ただし、被験薬の取込みについて、使用する細胞系でのこれまでの経験から、取込み比(トランスポーター発現細胞とトランスポーター非発現細胞の輸送活性の比)が2という値では、基質であるかどうかを識別できないと考えられる場合は、2以外の取込み比を使用してもよい。また、被験薬の非特異的な培養器材や細胞への吸着等により、発現細胞への取込みが、非発現細胞への取込みと比較して2倍以上の差が認められない場合でも、典型阻害薬により、阻害薬の添加濃度とKi値から理論的に見積もられる程度被験薬の取込みが減少することをもって、基質と判断することができる。脂溶性が高い化合物では、発現細胞では取り込みが検出し難い場合があることに注意する。

e) リファンピシンについては、繰り返し投与により、誘導能を発揮するため、単回投与で行う。

図2―5.被験薬がOATP1B1及びOATP1B3の阻害薬となる可能性の検討

a) in vitro試験系として、ヒト肝細胞を用いる場合は、典型基質(表2―1)の明らかな取込みが認められ、かつ典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値から理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する。OATP1B1及びOATP1B3発現細胞株を用いる場合は、典型基質(表2―1)の発現細胞への取り込みが非発現細胞の2倍以上で、典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値から理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する。検討時に用いるOATP1B1及びOATP1B3の基質は、臨床で併用される薬物を考慮して選択することを推奨するが、選択が困難な場合はOATP1B1及びOATP1B3の典型基質(表2―1)の利用も可能である。Ki値を求める際の典型基質及び推奨濃度は、表2―1を参照の上、十分にKm値より低い濃度を用いる。30分以上のプレインキュベーションによりKi値を算出する。

b) Iinlet,maxは肝臓入り口の血液中での推定最大阻害薬濃度であり、Cmax+(ka×用量×(FaFg/Qh)として計算される。Cmaxは阻害薬の最高血中濃度、用量は阻害薬の投与量、FaFgは投与した阻害薬の消化管アベイラビリティ、kaは阻害薬の吸収速度定数、Qhは肝血流速度である(例:97L/hr/70kg)。FaFg値及びka値が不明の場合は、理論的な最高値を使用することで偽陰性の予測が避けられるため、FaFg及びkaにそれぞれ1及び0.1min-1を使用する。fu,bは血中蛋白非結合形薬物分率である。蛋白結合率が高く(fu,b値が0.01未満)かつfu,b値が正確に測定できないと判断される薬物については、偽陰性な予測を避けるため、fu,b=0.01と仮定して計算する。

図2―6.被験薬がOAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの基質となる可能性の検討

a) 図2―1を参照

b) 典型基質(表2―1)の発現系細胞への取込みが、非発現細胞の2倍以上で、典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する。被験薬の発現系細胞への取込みが、非発現細胞の2倍以上で、かつ典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害された場合、対象とするトランスポーターの基質であると判断する。ただし、被験薬の取込みについて、使用する細胞系でのこれまでの経験から、取込み比(トランスポーター発現細胞とトランスポーター非発現細胞の比)が2という値では結果を識別できないと考えられる場合は、2以外の取込み比を使用してもよい。被験薬の吸着等により、発現細胞内への取込みが、非発現細胞内への取込みと比較して2倍以上の差が認められない場合でも、典型阻害薬により、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に減少することを確認し、基質と判断することができる。また、脂溶性が高い化合物では、発現系細胞では取込みが検出し難い場合があることに注意する。

MATE1、MATE2―Kは、駆動力が逆向きのH勾配であることから、細胞内を細胞外と比較して相対的に酸性化(MATE発現細胞を塩化アンモニウムとプレインキュベーションする、又は取込み実験時の細胞外pHを8.4程度のアルカリ性にする等)することにより、輸送活性を細胞内への取込みとして測定できる。なお、MATE1、MATE2―Kについては、MATE1、MATE2―K発現細胞株の代わりにこれらの細胞から調製した膜小胞を用いることも可能であり、この場合も同様に、輸送駆動力を得るために膜小胞内を酸性化する必要がある。

c) MATE1及びMATE2―Kは、腎臓からの排出を担っているトランスポーターであることから、被験薬の血中濃度は、阻害薬の共存により変化しないが、腎臓中濃度が上昇する場合があることに留意する。

d) OCT2基質の場合、in vivoで使用可能な典型阻害薬(表2―4)を用いた臨床薬物相互作用試験を計画することは現時点で困難であることから、当面は、OCT2の基質であることを情報提供するのみにとどめる。

図2―7.被験薬がOAT1、OAT3、OCT2、MATE1及びMATE2―Kの阻害薬となる可能性の評価

a) 典型基質(表2―1)の発現系細胞への取込みが、非発現細胞の2倍以上で、典型阻害薬(表2―2)により、阻害薬の添加濃度とKi値より理論的に見積もられる程度に阻害されることを確認する。検討時に用いるトランスポーターの基質は、臨床で併用される薬物を考慮して選択することを推奨するが、選択が困難な場合は各トランスポーターの典型基質(表2―1)の利用も可能である。Ki値を求める際の典型基質及び推奨濃度は、表2―1を参照の上、十分にKm値より低い濃度を用いる。

MATE1、MATE2―Kは、駆動力が逆向きのH勾配であることから、細胞内を細胞外と比較して相対的に酸性化(MATE発現細胞を塩化アンモニウムとプレインキュベーションする、又は取込み実験時の細胞外pHを8.4程度のアルカリ性にする等)することにより、輸送活性を細胞内への取込みとして測定できる。検討時に用いるトランスポーターの基質は、臨床で併用される薬物を考慮して選択することを推奨するが、選択が困難な場合は各トランスポーターの典型基質(表2―1)の利用も可能である。Ki値を求める際の典型基質及び推奨濃度は、表2―1を参照の上、十分にKm値より低い濃度を用いる。なお、MATE1、MATE2―Kについては、MATE1、MATE2―K発現細胞株の代わりにこれらの細胞から調製した膜小胞を用いることも可能であり、この場合も同様に、輸送駆動力を得るために膜小胞内を酸性化する必要がある。

b) 排出トランスポーターであるMATE1及びMATE2―Kの阻害は、血中濃度には変化を及ぼさず、腎臓中濃度のみを上昇させる場合があるため、留意が必要である。

11.3 基質、阻害薬及び誘導薬の代表例

表1―1.P450のin vitro酵素反応の代表例

酵素

マーカー反応

CYP1A2

phenacetin O-deethylation、7-ethoxyresorufin-O-deethylation

CYP2B6

efavirenz hydroxylation、bupropion hydroxylation

CYP2C8

paclitaxel 6α-hydroxylation、amodiaquine N-deethylation

CYP2C9

S-warfarin 7-hydroxylation、diclofenac 4'-hydroxylation

CYP2C19

S-mephenytoin 4'-hydroxylation

CYP2D6

bufuralol 1'-hydroxylation、dextromethorphan O-demethylation

CYP3A

midazolam 1'-hydroxylation、testosterone 6β-hydroxylation