添付一覧
○医薬品の残留溶媒ガイドラインの改正について
(平成30年7月19日)
(薬生薬審発0719第3号)
(各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知)
(公印省略)
新医薬品の製造又は輸入の承認申請に際して検討される医薬品中の残留溶媒の規格及び試験方法上の取扱いに関しては、平成10年3月30日付医薬審第307号医薬安全局審査管理課長通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」により定められているところですが、今般、日米EU医薬品規制調和国際会議(以下、「ICH」という。)において、トリエチルアミン及びメチルイソブチルケトンのPermitted Daily Exposure(PDE値)について別紙のとおり合意されたことから、「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」の一部を下記のとおり改め、2019年8月1日以降に申請される新医薬品に対し適用することとするので、ご了知の上、貴管下関係業者に対し周知徹底方ご配慮お願いいたします。
なお、本通知の写しを日本製薬団体連合会会長ほか、関連団体の長あてに発出していることを申し添えます。
記
上記通知「医薬品の残留溶媒ガイドラインについて」の別紙「医薬品の残留溶媒ガイドライン」について以下のように改める。
1.表2.「|メチルシクロヘキサン|11.8|1180|」の次に「|メチルイソブチルケトン|45|4500」を加える。
2.表3.「メチルイソブチルケトン」を削る。
3.表3.「酢酸プロピル」の次に「トリエチルアミン」を加える。
[別紙]
パート5:
不純物:残留溶媒(メンテナンス)
トリエチルアミン及びメチルイソブチルケトンのPDE
ICH調和化ガイドライン
トリエチルアミン
はじめに
トリエチルアミン(TEA)は、化学合成において触媒作用を有する溶媒として使用されている(1、2)。この物質は無色の液体で、水、エタノール、四塩化炭素及びエチルエーテルに可溶であり、アセトン、ベンゼン及びクロロホルムに極めて高い溶解性を示す。TEAの蒸気圧(20℃)は、54mmHgで、強いアンモニア臭を有し、肺と鼻腔を刺激することが報告されている(2、3)。
ヒトを用いた試験データによるとTEAは、経口または吸入経路によって容易に吸収され、主に尿中に未変化体及び/またはN―Oxide体として速やかに排泄される(4―6)。
ヒトボランティアにおける試験では、2.5ppm(10mg/m3)を超える曝露濃度では、局所作用による角膜の腫脹によって一過性の視覚障害(4、7)を引き起こした。角膜に影響を及ぼす曝露濃度では、全身性の影響が認められなかった。臭気の閾値は、0.0022~0.48mg/m3であった(8―10)。
遺伝毒性
Ames試験では、標準的なサルモネラ菌株に対して代謝活性化存在下及び非存在下のいずれの条件でも、変異原性を示さなかった(11)。チャイニーズハムスター卵巣細胞において、代謝活性化存在下及び非存在下のいずれの条件でも姉妹染色分体交換を誘発しなかった(12)。In vivo試験においては、ラットに30日または90日間TEAを1mg/m3(0.25ppm)及び10mg/m3(2.5ppm)連続吸入曝露した後の骨髄において、異数性の誘発を認めたが染色体構造異常の誘発は認められなかった(13)。この弱い異数性誘発性の影響は低濃度かつ曝露早期のみに認められたが、試験に不備があるためこの所見の妥当性は非常に疑わしい。全体として、利用可能なデータからはTEAに遺伝毒性があるという証拠は認められない。
がん原性
試験報告はない。
生殖毒性
生殖毒性についての信頼できる情報はない。TEAを0、2及び200ppm(約0、0.14及び14mg/kg/day)の用量でラット(10匹/性/群)に飲水投与した3世代生殖試験は、米国環境保護局(US EPA)の統合リスク情報システムの評価レビューに引用された(14)。この試験では、高濃度で症状が観察されなかったため、第三世代では高用量群の濃度を500ppmに増加した。200ppm群では二世代に渡って明白な影響は認められなかった。しかし、測定したエンドポイントが不足しており、この試験データは一日許容摂取量(PDE)の算定に利用されなかった。
反復投与毒性
ラットを用いた亜慢性吸入毒性試験(OECD TG 413及び452と同様)は、PDEを算出するうえで最も信頼性の高い公表された動物実験であると考えられる。この試験では、F344ラット(50匹/群/性)に気中濃度として0、25及び247ppm(0、0.10及び1.02mg/L)、1日6時間、週5日で28週間全身吸入曝露した(15)。被験物質投与に関連した統計学的に有意な全身影響は、全ての用量群に認められなかった。雄ラットに用量依存性のあるわずかな体重減少が観察されたが、体重増加率は統計学的に有意な影響ではなかった。この試験の無影響量(NOEL)は、247ppmであった。
TEAの分子量:101.19g/mol
NOEL:247ppm
ラットの呼吸気量:290L day-1
ラット体重:0.425kg
F1=ラットからヒトへの外挿を行う係数5
F2=個人差を考慮した係数10
F3=投与期間(28週間)の補正係数2
F4=重篤な影響が認められていないため1
F5=NOELが設定されているため1
その他の公表された動物を用いた毒性試験データは、明らかな試験の不備のためPDE算出に用いなかった。
結論
ラットの亜慢性吸入投与試験のNOELに基づいてTEAのPDEは、62.5mg/dayと計算される。提案されたPDEは、50mg/dayより大きいことから、TEAは、ICH Q3Cガイドライン「医薬品の残留溶媒ガイドライン」中の表3のクラス3(低毒性の溶媒)に分類することが推奨される。
参考文献
1.Lide, D.R.CRC Handbook of Chemistry and Physics 86TH Edition 2005-2006.CRC Press, Taylor & Francis, Boca Raton, FL 2005, p.3-498.
2.Lewis, R.J.Sr.;Hawley's Condensed Chemical Dictionary 14th Edition.John Wiley & Sons, Inc.New York, NY 2001., p.1125.
3.OECD SIDS Initial Assessment Profile:Tertiary Amines.CoCAM 2, 17/04/2012, assessed.(available from the OECD Existing Chemicals Database)(http://webnet.oecd.org/hpv/ui/Default.aspx).
4.Akesson, B., Skerfving S.and Mattiasson L.(1988).Experimental study on the metabolism of triethylamine in man.Br.J.Ind.Med.45:262-268.
5.Akesson, B., Vinge E.and Skerfving S.(1989).Pharmacokinetics of triethylamine and triethylamine-N-oxide in man.Toxicol.Appl.Pharmacol.100:529-538.
6.Akesson, B., Skerfving S., Stahlbom B.and Lundh T.(1989).Metabolism of triethylamine in polyurethane foam manufacturing workers.Am.J.Ind.Med.16:255-265.
7.Akesson, B., Floren, I.and Skerfving S.(1985).Visual disturbances after experimental human exposure to triethylamine.Br.J.Ind.Med.42:848-850.
8.Amoore, J.E.and E.Hautala(1983).Odor as an aid to chemical safety:Odor thresholds compared with threshold limit values and volatilities for 214 industrial chemicals in air and water dilution.J.Appl.Toxicol.3:272-290.
9.Ruth, J.H.(1986).Odor thresholds and irritation levels of several chemical substances:A review.Am.Ind.Hyg.Assoc.J.47:A142-A151.
10.Nagata, Y.(2003).Measurement of odor threshold by triangle odor bag method.In:The Ministry of the Environment of Japan(2003):Odor measurement review, Booklet of international workshop on odor measurement, 118-127.
11.Zeiger E.et al.(1987).Salmonella mutagenicity tests:III.Results from the testing of 255 chemicals.Environ.Mutagen.9:1-110.
12.Sorsa M.et al.(1988).Biological and environmental monitoring of occupational exposure to cyclophosphamide in industry and hospitals.Mut.Res.204:465-479.
13.Isakova, GE.Ekshtat, B.Y.and Kerkis Y.Y.(1971).On studies of the mutagenic properties of chemical substances in the establishment of hygenic standards.Hygiene Saint.36:178-184.
14.U.S EPA Integrated Risk Information System:Triethylamine(CASRN 121-44-8)(Last revised at 04/01/1991)(http://www.epa.gov/iris/subst/0520.htm)
15.Lynch, D.W., Moorman, W.J.Lewis, T.R., Stober, P., Hamlin, R.and Schueler, R.L.(1990).Subchronic inhalation of triethylamine vapor in Fischer 344 rats:Organ system toxicity.Toxicol.Ind.Health.6:403-414.
メチルイソブチルケトン
はじめに
メチルイソブチルケトン(MIBK)は、当時利用可能であった毒性データのレビューによりPDEが100mg/dayと設定されたことに基づき、1997年にICH Q3Cガイドラインにクラス3、すなわち低毒性の溶媒、として収載されていた(1)。専門家作業部会は、米国国家毒性計画(NTP)によるラット及びマウスを用いた2年間の吸入曝露発がん性試験及び公表された生殖発生毒性試験を含む新しい毒性データに基づきMIBKのPDEを再評価した。
遺伝毒性
1997年に最後の評価が実施されて以来、遺伝毒性についての追加情報は報告されていない。利用可能なデータは、MIBKは遺伝毒性がないことを示唆している。
がん原性
MIBKは、NTPによってラット及びマウスを用いた2年間の吸入曝露試験が実施されている。F344/Nラット及びB6C3F1マウス(各50匹/性/群)に、0、450、900及び1800ppmのMIBK気中濃度を1日6時間、週5日で2年間曝露した。生存率は、雄ラットの1800ppm群で低下した(4)。体重増加は、雄ラットの900及び1800ppm群及び雌マウスの1800ppm群で低下した。MIBKの一般毒性と発がん性に関する主要な標的は、ラットでは腎臓であり、マウスでは肝臓であった。NTPテクニカルレポートは、ラット及びマウスに対してMIBKにはいくらかの発がん性の証拠があると結論した(4、5)。これらのNTPデータに基づき、IARCはMIBKをグループ2B発がん物質「ヒトに対して発がん性の可能性がある」に分類した(6)。
ラットのNTP試験では、MIBKは高用量群の雄において、慢性進行性腎症(CPN)の増加を引き起こし、尿細管腺腫および尿細管癌の発現を僅かに増加させた。さらなる機構研究により、雄ラットで認められた尿細管腫瘍は、よく知られている雄ラット特有のα2u―腎症を介した作用による可能性が高いことが明確となり、ヒトにおける関連性はないと考えられる(7)。また、雌ラットにおけるCPNの悪化(全投与群における発現率及び1800ppm群における重篤度の増加)が認められ、この所見のヒトにおける関連性は今のところ不明である。1800ppm群の雄ラットにおける単核細胞白血病の増加及び、1800ppm群の雌ラットに2例の腎間葉系腫瘍(極めて稀な腫瘍でNTPの背景データはない)は、MIBK曝露との関連性が不明な所見であった(5)。
MIBKのラットの発がん性試験の結果から、PDEは2つの異なるシナリオに基づいて計算される。
(i) 雌雄ラットにみられた腫瘍は、投与に関連するものでも、ヒトに関連するものでもないことから、最低用量(LOEL=450ppm)で認められた雌ラットのCPNをPDEの算出に用いる。
または、
(ii) 1800ppm群のラットでみられた雄の腫瘍(単核細胞白血病)や雌の腫瘍(腎間葉系腫瘍)のMIBK曝露との関連性や、ヒトにおける関連性は排除できないので、腫瘍形成のNOAELである900ppmをPDEの算出に用いる。
MIBKの分子量:100.16g/mol
シナリオ1:LOEL(CPN)450ppm(ラット)
ラットの呼吸気量:290L day-1
ラット体重:0.425kg
F1=ラットからヒトへの外挿を行う係数5
F2=個人差を考慮した係数10
F3=長期の試験期間(2年間)により係数1
F4=ヒトに対して不明瞭な関連性を持つ影響の低重篤度(雌のCPN)1
F5=CPNのNOELが設定できなかったため5
シナリオ2:NOEL(腫瘍)900ppm(ラット)
ラットの呼吸気量:290L day-1
ラット体重:0.425kg
F1=ラットからヒトへの外挿を行う係数5
F2=個人差を考慮した係数10
F3=長期の試験期間(2年間)により係数1
F4=エンドポイントの重篤度(発がん)10
F5=NOELが設定されているため1
マウスの試験では、MIBKは1800ppmの雌雄両群で肝細胞腺腫と、腺腫または肝細胞癌の(合算した)発生率を増加させた。さらなる機構研究から、これらのマウス肝腫瘍については構成的アンドロスタン受容体(CAR)が媒介する作用機序(MOA)が明らかである(8)。この作用機序はヒトへの関連性がない(9)ので、マウスの2年間試験のデータに基づくPDEの算出はなされなかった。
生殖及び発生毒性
発生毒性試験では、妊娠F―344ラットに気中濃度として0、300、1000及び3000ppmのMIBKを1日6時間で、妊娠6~15日に吸入曝露した。3000ppm群で認められた胎児毒性(体重の低下及び骨格骨化の減少)は母体毒性の二次影響と考えられた。1000ppm群では、母体、胚及び胎児に対して如何なる毒性も認められなかった(2)。
二世代生殖試験においては、SDラットに気中濃度として0、500、1000及び2000ppmのMIBKを1日6時間で、F0世代の交配前の期間を含む70日間からF2世代の授乳期間まで全身吸入曝露した。生殖毒性に対するNOELは最高曝露群である2000ppmであり、新生児に対する毒性のNOELは急性の中枢神経系の抑制性の影響に基づいて1000ppmと判断した(3)。
結論
これまでのMIBKのPDEは50mg/dayより大きい(100mg/day)ことから、クラス3の溶媒として分類されていた。新しく算出されたMIBKのPDEは、NTPの2年間の吸入曝露試験における雌雄ラットの腫瘍のNOELおよび雌ラットの慢性進行性腎症のLOELに基づいて45mg/dayとなる。したがって、MIBKは、ICH不純物:残留溶媒ガイドラインの表2に示されるクラス2として分類することが推奨される。
参考文献
1.Connelly JC, Hasegawa R, McArdle JV, Tucker ML.ICH Guideline Residual Solvents.Pharmeuropa 1997;Suppl 9:57.
2.Tyl RW, France KA, Fisher LC, Pritts IM, Tyler TR, Phillips RD, et al.Developmental toxicity evaluation of inhaled methyl isbutyl ketone in Fisher 344 rats and CD-1 Mice.Fundam Appl Toxicol 1987;8:310-27.
3.Nemec MD, Pitt JA, Topping DC, Gingell R, Pavkov KL, Rauckman EJ, et al.Inhalation two-generation reproductive toxicity study of methyl isobutyl ketone in rats.Int J Toxicol 2004;23:127-43.
4.NTP.Toxicology and Carcinogenesis Studies of Methyl Isobutyl Ketone(CAS No.108-10-1)in F344/N Rats and B6C3F1 Mice(Inhalation Studies).US Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health;Research Triangle Park, NC:2007.Technical Report Series No.538.
5.Stout MD, Herbert RA, Kissling GE, Suarez F, Roycroft JH, Chhabra RS et al.Toxicity and carcinogenicity of methyl isobutyl ketone in F344N rats and B6C3F1 mice following 2-year inhalation exposure.Toxicology 2008;244:209-19.
6.IARC.Some Chemicals Present in Industrial and Consumer Products, Food and Drinking-water.IARC Monographs 2012;101:305-24.
7.Borghoff SJ, Poet TS, Green S, Davis J, Hughes B, Mensing T, et al.Methyl isobutyl ketone exposure-related increases in specific measures of α2u-globulin(α2u)nephropathy in male rats along with in vitro evidence of reversible protein binding.Toxicology 2015;333:1-13.
8.Hughes BJ, Thomas J, Lynch AM, Borghoff SJ, Green S, Mensing T, et al.Methyl isobutyl ketone-induced hepatocellular carcinogenesis in B6C3F(1)mice:A constitutive androstane receptor(Car)-mediated mode of action.Regul Toxicol Pharmacol.2016;doi:10.1016/j.yrtph.2016.09.024.[Epub ahead of print]PubMed PMID:27664318.
9.Elcombe CR, Peffer RC, Wolf DC, Bailey J, Bars R, Bell D, et al.Mode of action and human relevance analysis for nuclear receptor-mediated liver toxicity:A case study with phenobarbital as a model constitutive androstane receptor(CAR)activator.Crit Rev Toxicol 2014;44:64-82.