アクセシビリティ閲覧支援ツール

(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005(日本老年医学会)、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(日本老年医学会)より改変引用)

別表3 代表的腎排泄型薬剤

薬効分類

薬物名

抗菌薬

フルオロキノロン系抗菌薬(レボフロキサシン他)

バンコマイシン塩酸塩

アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン硫酸塩) 他

抗ウイルス薬

バラシクロビル塩酸塩

アシクロビル

オセルタミビルリン酸塩 他

H2受容体拮抗薬

ファモチジン

ラニチジン塩酸塩 他

糖尿病治療薬

メトホルミン塩酸塩

シタグリプチンリン酸塩水和物

アログリプチン安息香酸塩 他

不整脈治療薬

シベンゾリンコハク酸塩

ジソピラミド

ピルシカイニド塩酸塩 他

抗凝固薬

ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩

リバーロキサバン 他

高尿酸血症治療薬

アロプリノール

強心配糖体

ジゴキシン

メチルジゴキシン 他

精神・神経疾患治療薬

炭酸リチウム

スルピリド

リスペリドン

アマンタジン塩酸塩

メマンチン塩酸塩 他

別表4.CYPの関与する基質,阻害薬,誘導薬の代表例(特に高齢者での使用が想定され注意が必要な薬物)

CYP分子種

基質

(阻害薬や誘導薬からの相互作用を受ける薬物)

阻害薬

(基質の血中濃度を上昇させる薬物等)

誘導薬

(基質の血中濃度を低下させる薬物等)

CYP1A2

チザニジン

ラメルテオン

デュロキセチン

フルボキサミン

シプロフロキサシン

メキシレチン


CYP2C9

ワルファリン

フェニトイン

グリメピリド、グリベンクラミド、ナテグリニド

ジクロフェナク、セレコキシブ

フルバスタチン

ミコナゾール、フルコナゾール

アミオダロン

ブコローム

リファンピシン

CYP2C19

ボリコナゾール

オメプラゾール、ランソプラゾール

フルボキサミン

ボリコナゾール、フルコナゾール

リファンピシン

CYP2D6

デキストロメトルファン

ノルトリプチリン、マプロチリン

メトプロロール

アトモキセチン

トルテロジン

パロキセチン

テルビナフィン

シナカルセト

ミラベグロン

デュロキセチン


CYP3A注1、2)

トリアゾラム、アルプラゾラム、ブロチゾラム

スボレキサント

シンバスタチン、アトルバスタチン

ニソルジピン、フェロジピン、アゼルニジピン、ニフェジピン

リバーロキサバン

チカグレロル

エプレレノン

イトラコナゾール、ボリコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール

クラリスロマイシン、エリスロマイシン

ジルチアゼム、ベラパミル

グレープフルーツジュース

リファンピシン、リファブチン

フェノバルビタール、フェニトイン、カルバマゼピン

セントジョーンズワート

※ 基質(相互作用を受ける薬物)は、そのCYP分子種で代謝される薬物である。基質の薬物は、同じ代謝酵素の欄の阻害薬(血中濃度を上昇させる薬物等)、誘導薬(血中濃度を低下させる薬物等)の薬物との併用により相互作用が起こり得る。一般に血中濃度を上昇させる阻害薬との組み合わせでは基質の効果が強まって薬物有害事象が出る可能性があり、血中濃度を低下させる誘導薬との組み合わせでは効き目が弱くなる可能性がある。なお、多くの場合、基質同士を併用してもお互いに影響はない。

※ 上記薬剤は2倍以上あるいは1/2以下へのAUCもしくは血中濃度の変動による相互作用が基本的に報告されているものであり、特に高齢者での使用が想定され、重要であると考えられる薬剤をリストアップしている。抗HIV薬、抗HCV薬、抗がん薬など相互作用を起こしうる全ての薬剤を含めているものではない。組み合わせによっては5倍以上、場合によっては10倍以上に血中濃度が上昇するものもある。

※ 本表はすべてを網羅したものではない。実際に相互作用に注意すべきかどうかは、医薬品添付文書の記載や相互作用の報告の有無なども確認して個別の組み合わせごとに判断すること。

注1 ベンゾジアゼピン系薬やCa拮抗薬は主にCYP3Aで代謝される薬物が多い。本リストでは、そのなかでもCYP3Aの寄与が高いことが良く知られている薬物を例示した。

注2 消化管吸収におけるCYP3A、P糖蛋白の寄与は不明瞭であることが多く、また両方が関与するケースもみられることに注意を要する。またCYP3Aの阻害薬については、P糖蛋白も阻害する場合が多い。

(別紙) 薬物動態、腎機能低下時及び薬物相互作用について

(1) 加齢に伴う薬物動態および薬力学の変化

○薬物動態

薬物動態は、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)のADMEと略称されるステップにより規定される。それぞれ加齢により以下(表)のような影響を受けるが、特に代謝や排泄は加齢の影響を受けやすく、薬物の消失能力(薬物クリアランス)に関わるので重要である。

一般に、多くの薬物は体内曝露量と効果・薬物有害事象の関連性が高く、その体内曝露量を規定する因子として濃度時間曲線下面積(Area Under the Curve;AUC)がある。薬物を投与した場合、AUC=投与量/全身(あるいは経口)クリアランスの関係があるため、高齢者で肝クリアランスや腎クリアランスの低下に伴う全身(あるいは経口)クリアランスの残存率に応じて減量することにより、理論的には肝機能や腎機能が正常な場合と同じAUCを維持できる。これは、後述する腎機能低下時の投与設計(Giusti-Hayton法)やCYPの阻害によるAUCの変化などの考え方の基本となる。

表1.加齢に伴う生理学的変化と薬物動態の変化


加齢に伴う生理学的変化

一般的な薬物動態の変化

吸収

消化管運動機能低下

消化管血流量低下

胃内pH上昇

最高血中濃度到達時間延長

(薬剤によっては血中濃度上昇あるいは低下)

分布

体脂肪率増大

脂溶性薬物の分布容積増大

(血中半減期延長)

体内水分量減少

水溶性薬物の分布容積減少

血漿中アルブミン濃度低下

酸性薬物の蛋白結合率低下

代謝

肝重量減少

肝クリアランス低下

※相互作用の影響も重要

肝血流量低下

薬物代謝酵素活性低下

排泄

腎血流量低下

腎クリアランス低下

※高齢者で特に影響が大きい

糸球体濾過量低下

尿細管分泌低下

○薬力学

薬物血中濃度が変動しなくても、加齢に伴い標的分子へ反応性が変化する薬物もある。β受容体刺激薬に対する感受性低下、抗不安薬や睡眠薬、抗コリン薬に対する感受性亢進などが知られている。

(2) クレアチニン・クリアランスによる腎機能評価

腎排泄型薬物の投与量設定には、適切な腎機能評価が重要であり、不適切な腎機能評価は過量投与や過少投与につながる。腎機能評価は実測のクレアチニンクリアランス(Ccr)で行うことが理想であるが、実臨床において全例測定することは非現実的である。また、腎機能低下があっても、高齢者の場合、血清クレアチニン値(SCr)は正常範囲内であることが多い。したがって、薬物投与量を設定する際は、SCrだけで判断せず、Cockcroft-Gault式(CG式)による推算Ccr、または推算糸球体濾過量(eGFR)による腎機能評価が必要である。ただし、CG式による推算Ccrは肥満患者では腎機能を過大評価してしまうこと、またJaffe法で測定されたSCrを基準に作成された式であるため、本邦のほとんどの施設で採用されている酵素法で測定されたSCrを用いる際は、実測SCrに0.2を加えて計算する必要がある点に留意する。

(3) 推算糸球体濾過量(eGFR)による腎機能評価

標準化eGFR(単位:mL/min/1.73m2)は、各患者の体格が一律1.73m2であると仮定した場合の腎機能であり、特に体格の小さい高齢女性等では腎機能の過大評価に伴う過量投与につながるため、そのままでは投与量設定には適さない。したがって、eGFRを投与量設定に用いる際には、個々の患者の体表面積に合わせたeGFR(個別化eGFR)を用いる必要がある。なお、薬物の投与量が体重や体表面積あたりで設定されている場合には、既に体格を考慮している投与量のため、対応する腎機能としては標準化eGFR(単位:mL/min/1.73m2)を用いる。

(4) クレアチニンを用いた腎機能評価の問題点とシスタチンCの有用性

SCrは、長期臥床、サルコペニア・フレイルなど筋肉量が少ない患者では、腎機能を反映しないことが多い。このような患者では、筋肉量に影響されないシスタチンCを用いた腎機能推算式が有用である。

表2.各種腎機能評価方法とその特徴

腎機能評価方法

特徴・注意点

クレアチニン・クリアランス(CG式)

画像7 (13KB)別ウィンドウが開きます

※女性は、0.85を乗ずる

・酵素法(本邦での測定法)で測定されたSCrを用いる際は、実測値に0.2を加えて代入

・筋肉量が少ない患者では腎機能を過大評価

・肥満患者では腎機能を過大評価

標準化eGFR(SCrから算出)

eGFR=194×SCr-1.094×年齢-0.287

※女性は、0.739を乗ずる

・個々の患者の体格は考慮しない式のため、薬剤投与量設定には適さない場合が多い

・筋肉量が少ない患者では腎機能を過大評価

個別化eGFR(SCrから算出)

個別化eGFR=標準化eGFR×患者の体表面積/1.73

・薬剤投与量設定に適している

・筋肉量が少ない患者では腎機能を過大評価

標準化eGFR(シスタチンCから算出)

男性:eGFR=(104×CysC-1.019×0.996年齢)-8

女性:eGFR=(104×CysC-1.019×0.996年齢×0.929)-8

・個々の患者の体格は考慮しない式のため、薬剤投与量設定には適さない場合が多い

・筋肉量の影響を受けない

・HIV感染、甲状腺機能異常、シクロスポリンなどの薬剤投与の影響を受ける可能性がある

個別化eGFR(シスタチンCから算出)

個別化eGFR=標準化eGFR×患者の体表面積/1.73

・薬剤投与量設定に適している

・筋肉量の影響を受けない

・HIV感染、甲状腺機能異常、シクロスポリンなどの薬剤投与の影響を受ける可能性がある

(5) 薬剤投与量の簡便な設定方法(Giusti-Hayton法)

腎機能低下患者に対する腎排泄型薬剤の投与量を設定する簡便な方法としてGiusti-Hayton法がある。下記の式で求められる補正係数(G)を常用量に乗算することで対象患者に対する至適投与量を、または投与間隔を除する事により延長すべき投与間隔を算出することができる。下記の式において、一般に腎機能正常者のCcrは100mL/minとして考える。また、Ccrの代わりにeGFRを用いてもよい。

補正係数(G)=1-投与薬剤の尿中未変化体排泄率×(1-対象患者のCcr/腎機能正常者のCcr)

※ 静脈内投与時の値を使用する、または経口投与時の値を使用する際は生物学的利用率(F)で除することにより補正したものを用いる

※ 代謝物が活性を有する場合は、代謝物の尿中排泄率も考慮する

例:ファモチジン(常用量40mg/日、尿中未変化体排泄率80%)をCcr50mL/minの患者に投与する場合、投与補正係数Gは、1-0.8×0.5=0.6となる。補正係数から、この患者では40mg/日×0.6=24mg/日を投与することで腎機能正常者とほぼ同じ血中濃度になる。

(6) 薬物相互作用の種類

薬物相互作用の発現機序には、薬物動態学(pharmacokinetics)的相互作用と薬力学(pharmacodynamics)的相互作用がある。

薬物動態学的相互作用は、薬物の吸収、分布、代謝、排泄が他の薬物により影響を受け、血中濃度が変動することによって過剰な効果の発現(中毒)や効果の減弱が起こる場合をいう。代表的なものには、肝臓での薬物代謝酵素活性の阻害などがある。薬物相互作用の約40%が代謝部位での薬物動態学的相互作用であることが報告されており、その相互作用の多くがシトクロムP450(CYP)を介した機序であるが、トランスポーターを介した重要な相互作用の報告も増えている。薬力学的相互作用は、薬物の体内動態(血中濃度)には変化はないが、受容体などの作用部位での相互作用や同様の薬効の重複などによって、効果の増強や減弱が起こる場合である。気管支拡張薬と気管支収縮作用を有するβ受容体遮断薬の併用による喘息症状の悪化、中枢神経抑制薬の併用による傾眠、抗ドパミン作用を有する薬剤の併用による薬剤性パーキンソニズム、抗コリン作用を持つ薬物の併用による口渇、排尿障害、便秘などがあげられる。

(7) CYPの関与する相互作用

CYP分子種の薬物代謝への寄与はCYP3A、CYP2D6、CYP2C、CYP1A2の分子種で90%以上を占めている。特にCYP3Aはヒト小腸および肝臓における最も主要なCYPであり、CYPにより代謝される薬物のうち約50%に関係する。あるCYP分子種による消失(クリアランス)の寄与が高い基質(代謝を受ける薬物)でも、臨床用量ではそのCYP分子種を阻害しない場合が多く、代謝の寄与の程度と阻害の程度は別に考える必要がある。

薬物代謝酵素の活性変化による相互作用については、in vivo状況下(ヒトに投与した状況下)で基質薬の消失(クリアランス)に該当の代謝酵素がどの程度寄与しているのかと、阻害薬あるいは誘導薬が該当の代謝酵素の活性をどの程度阻害あるいは増大するのかを評価することが重要となる。

(8) 相互作用の回避とマネジメント

薬物相互作用は、単に治療効果の減弱あるいは増強のみならず、時として重大な有害作用をおよぼすことがあり、その評価と回避が重要な位置づけとなる。相互作用による血中濃度の変化の大きさが、どの程度効果や薬物有害事象に影響するかは、薬剤および症例個別に考える必要がある。常に相互作用に関する認識を持ち、最新の情報の収集に努め、患者個別に相互作用を評価することが、薬物療法の安全性確保の観点から重要な要件となる。

相互作用を起こす可能性のある薬剤の組み合わせが処方されている場合、処方の経緯、患者背景、相互作用により起こり得る作用の重篤度、代替薬に関する情報などを考慮して、効果及び有害作用のモニター、中止、減量、代替薬への変更等を行い、処方の適正化を図ることが重要である。

高齢者医薬品適正使用検討会

(平成30年5月7日現在)

○秋下雅弘

一般社団法人 日本老年医学会 副理事長

東京大学大学院 医学系研究科 加齢医学講座 教授

荒井美由紀

日本製薬団体連合会 安全委員会 委員長

池端幸彦

一般社団法人 日本慢性期医療協会 副会長

◎印南一路

慶應義塾大学総合政策学部 教授

大井一弥

一般社団法人 日本老年薬学会 理事

鈴鹿医療科学大学薬学部 教授

勝又浜子

公益社団法人 日本看護協会 常任理事

北澤京子

京都薬科大学 客員教授

斎藤嘉朗

国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部長

島田光明

公益社団法人 日本薬剤師会 常務理事

林昌洋

一般社団法人 日本病院薬剤師会 副会長

伴信太郎

一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会 理事

画像8 (8KB)別ウィンドウが開きます
口恵子

NPO法人 高齢社会をよくする女性の会 理事長

平井みどり

兵庫県赤十字血液センター 所長

松本純一

公益社団法人 日本医師会 常任理事

水上勝義

公益社団法人 日本精神神経学会

溝神文博

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 薬剤部

美原盤

公益社団法人 全日本病院協会 副会長

三宅智

特定非営利活動法人 日本緩和医療学会

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科

山中崇

一般社団法人 日本在宅医学会 理事

◎座長、○座長代理 (五十音順、敬称略)

高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ

(平成30年5月7日現在)

◎秋下雅弘

一般社団法人 日本老年医学会 副理事長

東京大学大学院 医学系研究科 加齢医学講座 教授

池端幸彦

一般社団法人 日本慢性期医療協会 副会長

大木一正

公益社団法人 東京薬剤師会 副会長

株式会社 クリーン薬局 代表取締役

大野能之

東京大学医学部附属病院 薬剤部

桑田美代子

医療法人社団慶成会 青梅慶友病院 看護部

清水惠一郎

一般社団法人 東京内科医会 副会長

阿部医院 院長

画像9 (8KB)別ウィンドウが開きます
瀬義昌

一般社団法人 日本在宅医学学会

医療法人至高会 在宅療養支援診療所 たかせクリニック理事長

仲井培雄

地域包括ケア病棟協会 会長

芳珠記念病院 理事長

○永井尚美

武蔵野大学薬学部 教授

浜田将太

一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部

水上勝義

公益社団法人 日本精神神経学会

溝神文博

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 薬剤部

◎主査、○副主査 (五十音順、敬称略)

その他執筆協力者

木村丈司(神戸大学医学部附属病院),小島太郎(東京大学医学部附属病院),近藤悠希(熊本大学大学院生命科学研究部),那須いずみ(虎の門病院),松村真司(松村医院)

(五十音順、敬称略)