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○被保護者就労支援事業の実施について

(平成27年3月31日)

(社援保発0331第20号)

(各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生労働省社会・援護局保護課長通知)

(公印省略)

今般、生活保護法の一部を改正する法律(平成25年法律第104号。以下「改正法」という。)の一部が本年4月1日から施行されることに伴い、被保護者の就労の支援に関する問題につき、被保護者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行う事業(以下「被保護者就労支援事業」という。)が創設されることになった。

ついては、事業実施に当たって留意すべき事項等を下記のとおり定めることとしたので、了知の上、取扱いについて遺漏のないよう配慮されたい。

なお、本通知は地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定による技術的助言として行うものであることを申し添える。

1 基本的事項

(1) 被保護者の自立については、身体や精神の健康を回復・維持し、自分で自分の健康管理を行うなど日常生活において自立した生活を送る「日常生活自立」、社会的なつながりを回復・維持し、地域社会の一員として充実した生活を送る「社会生活自立」、就労により経済的に自立する「経済的自立」の3つの概念が含まれる。特に就労は、単に経済的自立のみならず、日常生活自立や社会生活自立にもつながるものであり、福祉事務所において就労に向けた支援に取組むことが必要である。

被保護者の状態は、早期に就労による自立が見込まれる者から、現時点では直ちに就労に結びつくことが難しい者まで多様であることから、就労支援に当たっては、被保護者自らの希望を尊重し支援を行っていくことが必要である。このため、支援を行うに当たっては、あらかじめ自立に向けた取組について、本人に説明し、同意を得て支援することが重要である。

(2) また、生活保護を受給する高齢者世帯が増加していることから、高齢者になる手前の者に対して早期に支援し自立を促進していくことが重要となってきている。

しかしながら、被保護者は、職歴や学歴等において、求人と求職におけるミスマッチにより就労につながりにくいことに加え、特に、高齢者になる手前の40~50歳代の者については、年齢が阻害要因となり、就労に結びつきにくいという課題がある。

こうした雇用のミスマッチを解消していくためには、地域において行政機関や関係団体等が協働しながら就労体験の場を含め、本人の特性に合う就労の場を開拓していくことが有効である。

(3) なお、本事業の対象者であって、「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」(平成25年5月16日付け社援発0516第18号厚生労働省社会・援護局長通知。以下「基本方針」という。)に基づく支援が効果的と思われる者については、自立活動確認書を作成し、保護開始直後から保護脱却に至るまで、切れ目なく集中的な支援を行うことになるので留意されたい。

2 就労支援について

(1) 就労支援の流れ

① アセスメント

アセスメントとは、対象者の課題を把握し、その背景や要因を分析し、課題に応じた適切な支援の方向を見定めることである。

アセスメントでは、就労意欲の確認、就労していくに当たっての悩みや阻害要因の聴取などにより、対象者の現状を把握し、その過程において、対象者の自己理解(自分の性格、職業志向性、働くことの意義・価値観、職歴や職業希望を踏まえ、職業選択や将来のキャリア形成を考えること)や職業理解(職業、職務内容、賃金事情等労働市場全般の情報を知ること)を促進することが必要である。そのため、労働市場の現状及び職業情報の提供を行うとともに、対象者の自己理解と職業理解を通じた包括的な職業選択及び将来のキャリア形成に向けて、キャリアコンサルティング等必要な支援を行うこと。また、アセスメントを通じて、本人の置かれている状況や取り巻く環境について理解を深め、信頼関係を築いていくこと。なお、アセスメントは、課題だけでなく、本人の強みにも着目しながら実施していくこと。

ア 現状の把握

稼働能力があっても、就労が実現していない対象者については、これまでのケース記録や面談等を通じて、傷病、障害、年齢、学歴、職歴、世帯員の育児・介護の必要性等本人が置かれている状況や取り巻く環境等、自立を阻害する要因について的確に現状を把握し、就労の実現に向けて支援することが重要である。

イ 自己理解への支援

対象者の中には、自分の職業能力を適切に把握していないために就労に結びつかないこともあるため、自らを省みる機会を設けることが重要である。

また、「履歴書」や「職務経歴書」を書くことは、対象者が自身の現状や将来の希望を自ら明確化する効果もあることにも留意し、的確な支援を行うこと。なお、本人の希望と就労可能な仕事との間に齟齬がある場合には、その所在を本人と共有し、その解決に向けた支援を行うこと。

ウ 職業理解への支援

就労支援は就労させることだけでなく、職場に定着し、継続して自立した生活を送れるようにすることも視野に入れ行うことが必要である。そのためには、本人同意の下、本人の能力や労働市場等取り巻く環境を理解させるためのキャリアコンサルティングや、本人の希望を尊重した支援を行うことが必要である。

なお、本人の希望を尊重した就労活動を行っても就労の目途が立たない場合には、職種や就労場所を広げるなどの助言をすること。

② 個別シートの作成及び見直し

支援を行うに当たっては、あらかじめ自立に向けた取組について、本人に説明し、同意を得て支援することが重要である。

そのため、アセスメントの結果、生活課題、本人の希望する職業や働き方への課題、目標が設定できたら、対象者ごとに、本人の状態に応じた目標や支援内容を個別シートに記載すること等により明確にしておくこと。なお、個別シートの様式については、基本方針に基づく自立活動確認書を参考にすること。

また、基本方針に基づき支援する対象者であり、自立活動確認書が組織的に共有されている場合には、それをもって個別シートを作成したものとして取り扱って差し支えない。

なお、支援開始後は、定期的に対象者との面談の機会を設けて、取組が計画どおりに行われているか、対象者がどのような状況にあるかなどを確認する機会をもつことが重要である。このため、あらかじめ、状況を確認する時期を決めておくとともに、その結果、必要に応じ、支援内容を見直すこと。

③ 求職活動の支援

ア 履歴書・職務経歴書の作成、面接の受け方指導

履歴書、職務経歴書の作成は、対象者のこれまでの経験を振り返る、就労に当たっての希望や意欲を再確認する、どういう能力があるかを再発見できる等、様々な効果がある。このため、履歴書等の作成指導を通じて、本人の経験や意欲を対象者と一緒に振り返り、必要な助言を行うとともに、面接の受け方などの指導を行うこと。

イ ハローワークへの同行等

自主的な求職活動により就労が可能な場合については、支援開始当初にハローワークを有効利用できるよう同行し、利用方法や適職探しについて助言すること。

④ 支援の評価

対象者とともに、実施されてきた就労支援や目標の達成状況を振り返り、支援内容や目標の見直し、新しい課題に対する支援の再検討をすること。

また、評価を踏まえて、「生活保護受給者等就労自立促進事業の実施について」(平成25年3月29日付け雇児発0329第30号・社援発0329第77号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長・社会・援護局長連名通知)に基づく生活保護受給者等就労自立促進事業や被保護者就労準備支援事業、他の自立支援プログラムへの参加がより対象者に適した支援であると判断した場合は、対象者の同意を得て、当該プログラムへの参加を促すこと。

なお、基本方針に基づく支援の対象者である場合には、活動開始から一定期間経過後に行われる評価をもって替えても差し支えない。

(2) 個別求人開拓

職業紹介や個別求人開拓を行う場合は、求人と求職のマッチングが円滑に行われるよう対象者の希望や特性に合った事業者を紹介又は開拓すること。

その際、対象者のみならず雇用主の希望を聞きつつ、その理解が得られるよう調整していくことが重要である。関係団体等とも連携しながら、日頃から求人情報を収集し、求人見込みがありそうな企業や社会福祉法人等の民間事業者がある場合は、当該事業者のニーズ等の把握に努めることが必要である。求人を出してもらうよう働きかける場合においては、当該事業者にどのようなメリットが考えられるかを伝えるとともに、業務の切り分けなどについての助言や、本人を雇用するに当たってどのような点に配慮すべきかを継続的に助言していくこと。

なお、地方自治体が、無料職業紹介を行う際は、職業安定法(昭和22年法律第141号)に基づく無料職業紹介事業の届出を行うことが必要(本事業を委託により実施する場合にあっては、委託先事業者が同法に基づく無料職業紹介事業の許可を受けることが必要)であるので留意すること。

(3) 定着支援

就労支援に当たっては、職場に定着するための支援等のフォローアップも重要である。就労後、短期間のうちに離職する者も見られることから、職場の状況確認などの声かけや見守りが、対象者の就労や生活の安定につながる有効な対応であることを認識し、定着支援を行うこと。

3 稼働能力判定

就労支援の実施に当たって、稼働能力や適正職種の検討、就労支援プログラムの選定等を行う際には、必要に応じて、複数の専門的な知見を有する者で構成する稼働能力判定会議等を開催し、助言を求めること。

4 就労支援連携体制の構築

被保護者は、職歴や学歴等において、求人と求職におけるミスマッチが生じることで就労につながりにくく、加えて、高齢者になる手前の者については、年齢が阻害要因となり就労に結びつきにくいという課題がある。こうした雇用のミスマッチを解消していくためには、地域において行政機関や関係団体等が協働しながら、就労体験の場を含め、本人の特性に合う就労の場を開拓し、求人と求職を丁寧にマッチングしていくことが有効である。

そのため、都道府県、市区町村(町村については福祉事務所を設置している町村に限る。以下同じ。)において、ハローワーク等の行政機関、社会福祉法人、特定非営利活動法人、関係団体、企業等が参画し協議する場を設定するなど就労支援の連携体制を構築することが必要であり、以下の取組を行うものとする。

また、小規模自治体等、十分な実施体制がとれない場合は、複数の自治体による共同設置等の広域的な実施も可能とする。

なお、地域において、趣旨や目的が同様の就労支援に関する協議会等が開催されている場合には、既存の枠組みの活用や、協議事項の追加等により一体的に実施するなど、地域に実情に応じて効果的な方法により実施して差し支えない。

(1) 市区町村における就労支援連携体制構築

地域においては、中小規模の事業所を中心に、ハローワークに求人を出すまでではないが、一時的に人手が必要である仕事や、1日4時間など短時間の求人のために求職者が集まらないような仕事など、潜在的な求人ニーズがあると考えられ、こうした需要を掘り起こしていくことが重要である。

また、被保護者の就労ニーズに応じた求人を開拓する(例えば、1人8時間の仕事を2人で4時間ずつの業務に切り分けるなどして新たな仕事を作り出す等)ことなども重要である。

① 目的

地域において行政機関や関係団体が協働し、就労支援の連携体制を構築し、雇用情勢や生活保護動向、社会資源等の情報を共有し、一般就労のみならず、就労体験等の場も含めた就労の場の確保を行う。

② 主な連携内容

ア 地域の雇用情勢、生活保護動向、社会資源等についての情報の共有

イ 地域の被保護者に対する就労支援の方向性を共有

ウ 中間的就労等、新たな就労の場の開拓を検討

エ 就労の場の掘り起こしについて協力要請等

(2) 都道府県における就労支援連携体制構築

① 目的

被保護者の就労の場を確保するため、都道府県の設置する福祉事務所の管内における連携体制を構築するとともに、都道府県内の自治体における連携体制の構築を推進するため、都道府県内全域で活動する関係団体等の調整や自治体の後方支援を実施する。

② 主な連携内容

ア 福祉事務所管内における連携

都道府県が設置する福祉事務所管内については、(1)と同様

イ 広域的な連携

(ア) 都道府県内自治体間における地域の求人情報の共有、好事例や課題の把握、集約と管内自治体への情報提供を通じたノウハウの蓄積、助言

(イ) 都道府県内を活動範囲とする関係団体への協力要請等

5 事業の評価及び検証

就労支援を効果的・効率的に実施し、事業の質を向上させるためには、定期的に就労支援の実施状況や目標の達成状況を評価、検証し、的確に見直していくことが重要である。また、就労支援は、本事業だけでなく、他の就労支援事業との連携を図りつつ行うことが効果的である。

このため、事業主体は、本事業を含めた就労支援事業に係る計画を策定するとともに、計画期間の終了後に計画達成状況を評価、検証するなど、政策循環の仕組みを導入し効果的に機能させること。

6 本事業の実施に係る職員の配置について

(1) 配置の目安について

本事業の実施に当たっては、「就労支援員の増配置について」(平成22年9月14日付け社援発0914第7号厚生労働省社会・援護局長通知)を参考とし、実施主体における被保護者の数その他地域の実情に応じて、2及び4の支援等を専任で行う職員(以下「就労支援員」という。)を配置するものとする。

なお、被保護者の数その他の状況により、他の職種と兼務するなど、地域の実情に応じた対応を行うことも可能とする。

(2) 就労支援のための職員の要件について

就労支援員は、キャリアコンサルタントや産業カウンセラー等の資格を有する者やハローワークOB等の就労支援業務に従事した経験のある者など、被保護者への就労支援を適切に行うことができる者であることが望ましい。

7 他の就労支援事業との関係

就労支援には、被保護者就労支援事業によるもののほかに、自治体とハローワークがチームとして支援する「生活保護受給者等就労自立促進事業」の利用、被保護者就労準備支援事業、生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)に基づく認定就労訓練事業による就労・訓練の場を活用した就労支援等がある。基本方針に基づく自立活動確認書の作成や本事業の支援の評価により、これらの支援を行うことが効果的であると考えられる場合には、以下の点に留意の上、関係機関と連携し活用を図ること。

(1) 自治体とハローワークがチームとして支援する「生活保護受給者等就労自立促進事業」との連携

就労に向けた準備が一定程度整っており、個別の支援により早期の就労が可能な者については、自治体とハローワークが一体的に行う「生活保護受給者等就労自立促進事業」を活用することが考えられる。この場合、就労支援員は、「生活保護受給者等就労自立促進事業の実施について」に基づき、当該事業の対象者の選定、ハローワークへの支援要請、支援期間中はハローワーク担当者とで構成される就労支援チームへの参加等、継続的な支援を行うこと。

(2) 就労訓練事業による就労・訓練の場を活用した就労支援

一般就労に就くに当たって、本人の状況に応じた柔軟な働き方をする必要がある者については、被保護者についても生活困窮者自立支援法に基づく認定就労訓練事業(いわゆる「中間的就労」)の利用が可能である。

被保護者が認定就労訓練事業を利用する場合には、当該被保護者が被保護者就労支援事業の対象となっていることを要件とし、認定就労訓練事業所利用についてのあっせんや、利用状況の把握等については、基本的には、就労支援員又はケースワーカーにおいて実施すること。

また、雇用契約を締結した上で支援付きの就労を行う形態(雇用型)の認定就労訓練事業の利用についてあっせんを行う行為は、職業安定法上の職業紹介に該当するため、職業安定法に基づく届出等を行う必要があることに留意すること。

8 生活困窮者自立支援制度との連携

就労等により生活保護から脱却した者に対しては、保護の実施機関は本人の意向を確認しつつ、必要に応じて自立相談支援事業の利用につなぐなど、本人への継続的な支援の観点から生活困窮者自立支援制度と一体的・連続的な支援が行えるよう配慮すること。

9 個人情報

本事業における支援に当たっては、被保護者の生活保護受給履歴など生活全般にわたる様々な個人情報を取扱うこととなるので、本事業における個人情報の取扱いについては、個人情報保護法の規定や、各地方自治体の「個人情報保護条例」に基づいて適切に対応するとともに、事業に関わる全ての職員に徹底すること。

10 事業実施に当たっての留意事項

(1) 本事業の実施に当たっては、自立支援プログラムに位置づけて実施すること。

(2) 本事業を委託する場合には、委託先との連携を図ること。ただし、本事業のうち、2(1)④及び3については、委託できないこと。また、就労支援員が支援を行うに当たっては、査察指導員やケースワーカー等と連携し、組織的な対応を行うこと。